(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】レーダシステム及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/36 20060101AFI20220816BHJP
G01S 13/22 20060101ALI20220816BHJP
G01S 13/24 20060101ALI20220816BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
G01S7/36
G01S13/22
G01S13/24
G01S13/28 210
(21)【出願番号】P 2018130230
(22)【出願日】2018-07-09
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中田 大平
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-105769(JP,A)
【文献】特開2015-161582(JP,A)
【文献】特開2009-244136(JP,A)
【文献】特開平06-066930(JP,A)
【文献】永野 隆文 ほか,高距離分解能レーダのための部分空間法に基づく合成帯域手法,電子情報通信学会技術研究報告,第118巻 第28号,日本,一般社団法人電子情報通信学会[online],2018年05月07日,Pages: 19-22,ISSN: 2432-6380
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスの間隔が一定の第1のパルス列と、パルスの間隔がパルスごとに異なる第2のパルス列との各パルスに対して複数のキャリア周波数からいずれかを選択し、選択されたキャリア周波数を用いた前記第1のパルス列と、選択されたキャリア周波数を用いた前記第2のパルス列とを合成した送信信号をアンテナから送信する送信部と、
アンテナで受信した受信信号に含まれる前記第1のパルス列のパルスごとの信号を、前記第1のパルス列に対して選択されたキャリア周波数間の周波数差に基づいて補正して合成する第1の合成部と、
前記第1の合成部による合成結果から得られるドップラ周波数を用いて、前記第2のパルス列を補正して参照信号を生成する参照信号補正部と、
前記受信信号に含まれる前記第2のパルス列の信号と前記参照信号との相関を前記第2のパルス列に対して選択されたキャリア周波数ごとに算出する相関算出部と、
前記相関算出部により算出されたキャリア周波数ごとの相関を合成する第2の合成部と、
前記第2の合成部により合成された相関を用いて、前記送信信号を反射した物体のレンジを抽出するレンジ抽出部と、
を備えるレーダシステム。
【請求項2】
前記送信部は、前記複数のキャリア周波数に基づいて定まる一つの高周波信号で、前記第1のパルス列と前記第2のパルス列とをそれぞれに対して選択されたキャリア周波数へ周波数変換する、
請求項1に記載のレーダシステム。
【請求項3】
前記第1の合成部は、前記第1のパルス列のパルスごとに選択されたキャリア周波数間の位相差を補正した後に、前記第1のパルス列のパルスごとの信号をコヒーレント積分して合成する、
請求項1又は請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項4】
前記第1の合成部は、前記第1のパルス列のパルスごとの信号を振幅積分して合成する、
請求項1又は請求項2に記載のレーダシステム。
【請求項5】
前記第2の合成部は、前記第2のパルス列のパルスごとに選択されたキャリア周波数間の位相差を補正した後に、前記相関算出部により算出されたキャリア周波数ごとの相関をコヒーレント積分して合成する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項6】
前記第2の合成部は、前記相関算出部により算出されたキャリア周波数ごとの相関を振幅積分して合成する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項7】
不要波の有無を判定する不要波検出部を更に備え、
前記送信部は、不要波があると判定された場合、前記第1のパルス列と前記第2のパルス列との各パルスに対して前記複数のキャリア周波数からいずれかを選択し、不要波がないと判定された場合、前記第1のパルス列と前記第2のパルス列とに各パルスに対して一つのキャリア周波数をそれぞれ選択する、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のレーダシステム。
【請求項8】
コンピュータが、
パルスの間隔が一定の第1のパルス列と、パルスの間隔がパルスごとに異なる第2のパルス列との各パルスに対して複数のキャリア周波数からいずれかを選択し、選択されたキャリア周波数を用いた前記第1のパルス列と、選択されたキャリア周波数を用いた前記第2のパルス列とを合成した送信信号をアンテナから送信する送信ステップと、
アンテナで受信した受信信号に含まれる前記第1のパルス列のパルスごとの信号を、前記第1のパルス列に対して選択されたキャリア周波数間の周波数差に基づいて補正して合成する第1の合成ステップと、
前記第1の合成ステップによる合成結果から得られるドップラ周波数を用いて、前記第2のパルス列を補正して参照信号を生成する参照信号補正ステップと、
前記受信信号に含まれる前記第2のパルス列の信号と前記参照信号との相関を前記第2のパルス列に対して選択されたキャリア周波数ごとに算出する相関算出ステップと、
前記相関算出ステップにより算出されたキャリア周波数ごとの相関を合成する第2の合成ステップと、
前記第2の合成ステップにより合成された相関を用いて、前記送信信号を反射した物体のレンジを抽出するレンジ抽出ステップと、
を
実行する信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーダシステム及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被探知性を低下させるLPI(Low Probability of Intercept)レーダとして、符号化を用いたレーダがある(非特許文献1)。このレーダは、パルス内をSS(Spectrum Spread)変調するもの(非特許文献2)や、パルスごとに符号化を行い、参照信号を用いてレンジ圧縮するものである。
【0003】
近年、レーダ波を受信する受信装置の性能が向上し、受信帯域も広帯域化しているため、パルス内又はパルス間でSS変調を行うだけでは十分なLPI性を確保できない場合が予想される。そのため、LPI性を向上させる手法が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】吉田、「改訂 レーダ技術」、電子情報通信学会、1996年、pp.278-280
【文献】丸林、中川、河野、「スペクトル拡散通信とその応用」、電子情報通信学会、1998年、pp.1-18
【文献】Merrill I. Skolnik, "Introduction to radar systems," McGRAW-HILL Inc., 1980, pp.428-430
【文献】西村、「ディジタル信号処理による通信システム設計」、CQ出版社、2006年、pp.222-226
【文献】吉田、「改訂 レーダ技術」、電子情報通信学会、1996年、pp.87-89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、LPI性を向上させることができるレーダシステム及び信号処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のレーダシステムは、送信部と、第1の合成部と、参照信号補正部と、相関算出部と、第2の合成部と、レンジ抽出部とを持つ。送信部は、パルスの間隔が一定の第1のパルス列と、パルスの間隔がパルスごとに異なる第2のパルス列との各パルスに対して複数のキャリア周波数からいずれかを選択し、選択されたキャリア周波数を用いた第1のパルス列と、選択されたキャリア周波数を用いた第2のパルス列とを合成した送信信号をアンテナから送信する。第1の合成部は、アンテナで受信した受信信号に含まれる第1のパルス列のパルスごとの信号を、第1のパルス列に対して選択されたキャリア周波数間の周波数差に基づいて補正して合成する。参照信号補正部は、第1の合成部による合成結果から得られるドップラ周波数を用いて、第2のパルス列を補正して参照信号を生成する。相関算出部は、受信信号に含まれる第2のパルス列の信号と参照信号との相関を第2のパルス列に対して選択されたキャリア周波数ごとに算出する。第2の合成部は、第相関算出部により算出されたキャリア周波数ごとの相関を合成する。レンジ抽出部は、第2の合成部により合成された相関を用いて、送信信号を反射した物体のレンジを抽出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態における送信装置の構成例を示すブロック図。
【
図2】送信装置が送信する変調信号に含まれる送信パルスの一例を示す図。
【
図3】第1の実施形態における受信装置の構成例を示すブロック図。
【
図4】ドップラ補正に用いるドップラ周波数を取得する処理例を示す図。
【
図5】レンジ抽出用パルス列から目標のレンジを取得する処理例を示す図。
【
図6】コヒーレント積分部により行われる合成処理を示す模式図。
【
図7】第2の実施形態における送信装置の構成例を示すブロック図。
【
図8】第2の実施形態における周波数変換器による周波数変換を示す模式図。
【
図9】第2の実施形態における送信装置において行われる処理を示す模式図。
【
図10】第3の実施形態における受信装置の構成例を示すブロック図。
【
図11】第4の実施形態におけるレーダシステムの構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態のレーダシステム及び信号処理方法を、図面を参照して説明する。以下の実施形態では、同一の符号を付した構成は同様の動作を行うものとして、重複する説明を適宜省略する。
【0009】
[第1の実施形態]
第1の実施形態によるレーダシステムは、送信装置と受信装置とを備える。送信装置と受信装置とは一つの装置として構成されてもよい。また、送信装置及び受信装置それぞれは、複数の装置として構成されてもよい。
【0010】
図1は、第1の実施形態における送信装置の構成例を示すブロック図である。送信装置(送信部)は、基準信号生成器1a、符号生成器5、変調器6、パルス制御部7、周波数変換器8、高出力増幅器9及びアンテナ10を備える。送信装置は、目標の検出に用いる送信信号を送信する。基準信号生成器1aは、送信パルスを生成し、生成した送信パルスを変調器6へ供給する。符号生成器5は、送信パルスに含まれるパルスそれぞれに対する符号系列を変調器6へ供給する。変調器6は、パルス制御部7からの指示に応じて、送信パルスに含まれるパルスそれぞれを符号系列により変調して変調信号を生成する。パルス制御部7は、基準信号生成器1aが生成する送信パルスのパルス幅、パルス間隔、パルス振幅を制御する。また、パルス制御部7は、符号生成器5が供給する符号系列の切り替えを制御する。
【0011】
周波数変換器8は、パルス制御部7の制御に応じたキャリア周波数で、変調器6により生成された変調信号の周波数を高周波数へ変換し、高周波数の変調信号を高出力増幅器9へ供給する。高出力増幅器9は、高周波数の変調信号を増幅し、増幅した変調信号を送信信号としてアンテナ10へ供給する。送信信号はアンテナ10から送出される。
【0012】
図2は、送信装置が送信する送信信号に含まれる送信パルスの一例を示す図である。基準信号生成器1aが生成する送信パルスは、ドップラ抽出用パルス列P1と、レンジ抽出用パルス列P2とを合成した合成パルス列である。
図2における、横軸はfast-time軸の時間を表し、縦軸はパルスの振幅を表す。fast-time軸は、後述する受信装置に備えられるAD(Analogue-Digital)変換器のサンプリングタイミングに応じた時間間隔で定められる時間軸である。基準信号生成器1aは、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とを合成せずに、それぞれを変調器6へ供給してもよい。ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とは、符号系列での変調後に合成されてもよい。
【0013】
ドップラ抽出用パルス列P1は、パルスの間隔が時間軸で等間隔のパルス列である。ドップラ抽出用パルス列P1に含まれるパルスに割り当てられるキャリア周波数は、パルス制御部7の制御に応じて、複数のキャリア周波数からランダムに選択される。
図2に示す例では、ドップラ抽出用パルス列P1の各パルスに割り当てられるキャリア周波数としてf1及びf2の2つのキャリア周波数が示されている。なお、パルス制御部7は、各パルスに割り当てるキャリア周波数を予め定められた3つ以上のキャリア周波数から選択し、選択に応じて周波数変換器8を制御してもよい。
【0014】
ドップラ抽出用パルス列P1は、目標を検出する際のドップラ周波数の抽出に用いられるため、パルス制御部7は、ドップラ抽出用パルス列P1に対する符号系列を一定にするように符号生成器5を制御する。
図2に示す例では、ドップラ抽出用パルス列P1に対する符号系列が「1」である。変調器6は、基準信号生成器1aにより生成されるドップラ抽出用パルス列P1を、符号生成器5により生成される符号系列で変調する。ドップラ抽出用パルス列P1を表す信号Sig1は、式(1)として表される。
【0015】
【数1】
式(1)において、A(tf)は時間tfにおける振幅を表す。tfはfast-time軸における時間を表す。MOD1(tf)は各パルスに対する符号系列を表す。なお、MOD1(tf)は、上述のように、一定である。fnは、複数のキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)から選択されるキャリア周波数を表す。
【0016】
レンジ抽出用パルス列P2は、パルス間隔が時間軸でパルスごとに異なるパルス列である。パルス制御部7は、レンジ抽出用パルス列P2におけるパルス間隔をパルスごとに変化させるように、基準信号生成器1aを制御する。
図2に示す例では、レンジ抽出用パルス列P2のパルス振幅及びパルス幅が一定であるが、パルスごとに異なっていてもよい。この場合、パルス制御部7は、レンジ抽出用パルス列P2におけるパルス振幅及びパルス幅をパルスごとに変化させるように基準信号生成器1aを制御する。
【0017】
図2に示す例では、レンジ抽出用パルス列P2の各パルスに割り当てるキャリア周波数としてf1及びf2の2つのキャリア周波数が示されている。ドップラ抽出用パルス列P1に割り当てるキャリア周波数と同様に、パルス制御部7は、レンジ抽出用パルス列P2に割り当てるキャリア周波数を、3つ以上のキャリア周波数からランダムに選択してもよい。また、
図2に示す例では、レンジ抽出用パルス列P2に対する符号系列は「0」と「1」とからランダムに選択されている。しかし、レンジ抽出用パルス列P2に対する符号系列として、M系列などのランダム符号(非特許文献3、4)が用いられてもよい。変調器6は、基準信号生成器1aにより生成されるレンジ抽出用パルス列P2を、符号生成器5により生成される符号系列で変調する。レンジ抽出用パルス列P2を表す信号Sig2は、式(2)として表される。
【0018】
【数2】
式(2)において、A(tf)は時間tfにおける振幅を表す。tfはfast-time軸における時間を表す。MOD2(tf)は各パルスに対する符号系列を表す。なお、MOD2(tf)は、上述のように、パルスごとに選択される。fnは、複数のキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)から選択されるキャリア周波数を表す。なお、レンジ抽出用パルス列P2の各パルスに割り当てられる複数のキャリア周波数と、ドップラ抽出用パルス列P1の各パルスに割り当てられる複数のキャリア周波数とは異なっていてもよい。
【0019】
ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とを合成して得られる信号は、キャリア周波数ごとの加算により式(3)で表される。
【0020】
【数3】
式(3)において、tfはfast-time軸における時間を表す。fnは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を表す。
【0021】
送信装置は、ドップラ抽出用パルス列P1及びレンジ抽出用パルス列P2それぞれを符号系列で変調し、ランダムに選択したキャリア周波数で高周波数の信号に変換した後、それらを合成して得られる送信信号を送信する。送信装置は、これらの信号処理を行うことにより、
図2に示す合成パルス列のように、送信信号においてパルスが現れるタイミング及びキャリア周波数を不規則にする。このような送信信号を用いることにより、電子支援対策(ESM:Electronic Support Measures)に用いられる装置による、パルス幅、パルス間隔及びパルス振幅を含むパルス諸元の特定を困難にし、パルス諸元に基づいてレーダが検知される可能性を低くすることができる。上述のドップラ抽出用パルス列P1及びレンジ抽出用パルス列P2を合成した信号を送信することにより、送信装置は、LPI性を向上させることができる。
【0022】
図3は、第1の実施形態における受信装置の構成例を示すブロック図である。受信装置は、送信装置により送信された高周波数の変調信号であって目標又は物体で反射された変調信号を含む信号をアンテナで受信する。受信装置は、受信した受信信号に対する信号処理を行って、目標にて変調信号が反射した際のドップラ周波数を検出し、目標までの距離(レンジ)を測る。受信装置は、アンテナ21、低雑音増幅器22、周波数変換器23、周波数フィルタ24、AD変換器25、ドップラ用パルス列抽出部26、FFT(Fast Fourier Transform)部27、コヒーレント積分部28a(第1の合成部)、ドップラ抽出部29、レンジ用パルス列抽出部30、参照信号補正部31、相関算出部32、コヒーレント積分部33a(第2の合成部)、レンジ抽出部34及び出力部35を備える。
【0023】
アンテナ21で受信された受信信号は、低雑音増幅器22で増幅され、周波数変換器23へ供給される。周波数変換器23は、低雑音増幅器22から供給される信号をベースバンドへ変換し、ベースバンドの信号を周波数フィルタ24へ供給する。周波数フィルタ24は、ベースバンドの信号から、符号系列により変調された送信パルスの周波数を含む周波数帯の信号をキャリア周波数ごとに抽出し、抽出した周波数信号をAD変換器25へ供給する。AD変換器25は、周波数信号それぞれをデジタル信号に変換する。
【0024】
受信信号に含まれる信号成分であって送信信号Sig(fn,tf)の反射波の信号成分Sr(fn,tf)は、キャリア周波数でミキシングすることを考慮して、式(4)で表される。
【0025】
【数4】
式(4)において、Sigt(・)はSig(fn,tf)に対して目標までの距離を含めた関数である。c、Rは、光速、目標までの距離である。fn、tfは、キャリア周波数、fast-time軸における時間である。
【0026】
小目標を検出する場合には高いSN比(Signal to Noise ratio)が必要であり、高いSN比を得るための積分処理には比較的長い観測時間が必要となる。レンジ抽出用パルス列P2に対する積分処理におけるロスを低減させるためには、レンジ抽出用パルス列P2に対するドップラ補正が必要となる。
【0027】
図4は、ドップラ補正に用いるドップラ周波数を取得する処理例を示す図である。
図4に示す処理は、ドップラ用パルス列抽出部26、FFT部27、コヒーレント積分部28a及びドップラ抽出部29によって行われる。ドップラ用パルス列抽出部26は、AD変換器25から出力される各デジタル信号に含まれる受信パルス列から、既知のパルス間隔を有するドップラ抽出用パルス列P1を抽出する。ドップラ用パルス列抽出部26は、ドップラ抽出用パルス列P1のPRI(Pulse Repetition Interval)でデジタル信号を分割するごとにより、ドップラ抽出用パルス列P1の各パルスを抽出する。デジタル信号の分割は、キャリア周波数ごとに行われる。抽出されるドップラ抽出用パルス列P1の信号Sr1は、式(5)で表される。
【0028】
【数5】
式(5)において、DIV[・]はドップラ抽出用パルス列P1の抽出処理を表す。tsはslow-time軸の時間を表し、tfはfast-time軸の時間を表す。slow-time軸は、ドップラ抽出用パルス列P1におけるパルス間隔(パルス周波数)に応じた時間間隔で定められる時間軸である。
【0029】
FFT部27は、分割されたデジタル信号に対してslow-time軸のFFTを行う。分割されたデジタル信号の期間において、ドップラ抽出用パルス列P1のパルスが現れる時刻はほぼ一定である。これに対して、レンジ抽出用パルス列P2のパルスが現れる時刻は一定ではない。そのため、受信パルス列に含まれるレンジ抽出用パルス列P2は、slow-time軸のFFTにより抑圧される。
図4における受信パルス列に対する抽出結果は、簡略のために、レンジ抽出用パルス列P2を省いた記載としている。
【0030】
FFT部27は、ドップラ周波数を抽出するために、
図4に示すようにfast-time軸のレンジセルに対してslow-time軸のFFTを行う。FFTの結果Sr1outは、式(6)により表される。FFT部27は、式(6)で表される演算をキャリア周波数(fn)ごとに行い、キャリア周波数それぞれの演算結果をコヒーレント積分部28aへ供給する。
【0031】
【数6】
式(6)において、FFT[・]はslow-time軸のFFT演算を表す。ωsはfast-time軸のレンジセルごとのドップラ周波数を表す。
【0032】
コヒーレント積分部28aは、キャリア周波数ごとに得られた演算結果Sr1outを合成する。キャリア周波数の中心周波数(波長)に応じて、ドップラ周波数fdは、式(7)に表されるように異なる。レンジ-ドップラ軸で演算結果を積分する際には、コヒーレント積分部28aは各キャリア周波数のドップラ周波数のずれを補正した上で合成を行う。
【0033】
【数7】
式(7)において、Vは目標との相対速度を表す。λは波長(c/fn)を表す。
【0034】
ドップラ周波数は、式(7)に示すように、波長に反比例し周波数に比例するので、コヒーレント積分部28aは、レンジ-ドップラ軸上のデータをドップラ周波数ごとに補正する。例えば、コヒーレント積分部28aは、キャリア周波数f1のデータに他のキャリア周波数のデータを揃えるように補正する。
【0035】
更に、キャリア周波数ごとのFFTの結果Sr1out(fn,ωs,tf)には、未知の目標までの距離とキャリア周波数とによる初期位相差がある。結果Sr1out(fn,ωs,tf)の合成におけるロスを低減させるために、位相差を揃える補正が必要になる。初期位相差は未知であるため、コヒーレント積分部28aは、位相の探索法を適用して位相差を推定する。コヒーレント積分部28aは、0から360度における所定のステップで結果Sr1out(fn,ωs,tf)に位相差を与えて合成し、合成結果が最大値となる位相差を探索する。位相差を探索する際に、コヒーレント積分部28aは、予め定められたスレショルド以上の信号を対象として探索法を適用することにより、振幅の小さいノイズなどを抑圧してもよい。
【0036】
コヒーレント積分部28aは、探索法により得られた合成結果の最大値Sr1max(ωs,tf)をドップラ抽出部29へ供給する。最大値Sr1max(ωs,tf)は、式(8)で表される。最大値Sr1max(ωs,tf)は、キャリア周波数ごとに得られた結果Sr1out(fn,ωs,tf)の位相を揃えた合成結果となる。
【0037】
【数8】
式(8)において、SRC[・]は位相探索法を表す。fnは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を表す。Φpは、0から360度(2π)の所定ステップ間隔の位相(p=1,2,…,P)を表す。
【0038】
送信装置が送信パルスの送信にNf個のキャリア周波数を用いる場合、コヒーレント積分部28aは、各キャリア周波数に対して与える位相の組み合わせ数(P×(Nf-1))の合成を行い、合成結果の最大値Sr1max(ωs,tf)を探索する。あるいは、コヒーレント積分部28aは、複数のキャリア周波数から2つを選択し、選択した2つのキャリア周波数間で合成結果が最大となる位相を式(8)にて探索し、その結果と選択していないキャリア周波数のSr1out(fn,ωs,tf)とに対して式(8)を適用することを繰り返し行ってもよい。この手法により、組み合わせ数(P×(Nf-1))の合成を行う場合に比べ、合成回数を削減できる可能性がある。
【0039】
ドップラ抽出部29は、コヒーレント積分部28aから供給される最大値Sr1max(ωs,tf)に対するCFAR処理(非特許文献5)により目標を検出し、検出した目標のドップラ周波数fd(ωs=2π・fd)を抽出する。抽出したドップラ周波数fdと式(9)とから目標の相対速度vtが得られる。ドップラ抽出部29は、ドップラ周波数fdと目標の相対速度vtとを、参照信号補正部31と出力部35とへ供給する。
【0040】
【数9】
式(9)において、fdはドップラ周波数であり、λは波長である。
【0041】
ドップラ抽出用パルス列P1に対して複数のキャリア周波数が用いられる場合について説明した。しかし、送信装置がドップラ抽出用パルス列P1に対して一つのキャリア周波数を用いる場合には、キャリア周波数間のドップラ周波数の補正と、初期位相差の探索を含む合成とは不要である。
【0042】
次に、受信装置における、レンジ抽出用パルス列P2に基づいた測距について説明する。
図5は、レンジ抽出用パルス列P2から目標のレンジを取得する処理例を示す図である。
図5に示す処理は、レンジ用パルス列抽出部30、参照信号補正部31、相関算出部32、コヒーレント積分部33a及びレンジ抽出部34によって行われる。レンジ抽出用パルス列P2から目標のレンジを取得する処理では、
図5に示すように、受信信号に含まれる受信パルス列からレンジ抽出用パルス列P2が抽出され、キャリア周波数ごとの相関出力を合成してレンジの抽出が行われる。
【0043】
レンジ抽出用パルス列P2に対する変調に用いられる符号系列はパルスごとに異なるため、送信されたレンジ抽出用パルス列P2に対応する参照信号を用いた相関処理が行われる。レンジ用パルス列抽出部30は、AD変換器25から出力されるデジタル信号からレンジ抽出用パルス列P2を抽出する。レンジ抽出用パルス列P2を抽出するために、レンジ用パルス列抽出部30は、各キャリア周波数に対応するデジタル信号に対して、fast-time軸でFFTを行う。FFTにより得られる周波数領域の信号Sr_fft(fn,ωf)は、式(10)で表される。レンジ用パルス列抽出部30は、信号Sr_fft(fn,ωf)を相関算出部32へ供給する。
【0044】
【数10】
式(10)において、FFT[・]はfast-time軸のFFT演算を表す。Sr(fn,tf)は受信信号に含まれる送信信号Sig(fn,tf)の反射波の信号である。tfは、fast-time軸における時間を表す。ωfは、fast-time軸に対応する周波数を表す。fnは、キャリア周波数(f1,2,…,fNf)を表す。
【0045】
参照信号補正部31は、相関処理に用いる参照信号を、送信装置において用いられたレンジ抽出用パルス列P2とそれに対する符号系列及びキャリア周波数に基づいて生成する。参照信号補正部31は、ドップラ抽出部29により得られた目標の相対速度vtに基づいて、レンジ抽出用パルス列P2の各パルスに割り当てられたキャリア周波数(fn)ごとのドップラ周波数を算出する。参照信号補正部31は、算出したドップラ周波数で、送信装置から送信されたレンジ抽出用パルス列P2を補正する。このとき、参照信号補正部31は、信号Sr(fn,tf)のデータ長と、参照信号の信号長とを揃えるため、ゼロ埋め(zero padding)を行う。参照信号ref(fn,tf)は、式(11)で表される。
【0046】
【数11】
式(11)において、[・,・]はデータの連結を表す。zero(・)は与えられたパラメータで示される数(Nall-N)のゼロ埋めを表す。Nallは信号Sr(fn,tf)のデータ長を表し、Nはレンジ抽出用パルス列P2に基づくデータ長を表す。tfは、fast-time軸における時間を表す。fdは、相対速度vtから算出されるキャリア周波数(fn)のドップラ周波数を表す。A(tf)は、時間tfにおける振幅を表す。MOD2(fn,tf)は、変調されたレンジ抽出用パルス列P2を表す。fnは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を表す。
【0047】
参照信号補正部31は、参照信号ref(fn,tf)に対してFFTを行い、周波数領域の信号Ref(fn,ωf)を算出する。参照信号補正部31は、式(12)で表される信号Ref(fn,ωf)を相関算出部32へ供給する。
【数12】
式(12)において、FFT[・]はfast-time軸のFFT演算を表す。ωfは、fast-time軸に対応する周波数を表す。
【0048】
相関算出部32は、レンジ用パルス列抽出部30から供給される信号Sr_fft(fn,ωf)(式(10))と、参照信号補正部31から供給される信号Ref(fn,ωf)(式(12))とに対する相関演算を行う。相関算出部32は、式(13)で示される演算により、相関出力Sr2(fn,tf)をキャリア周波数ごとに算出する。
【0049】
【数13】
式(13)において、IFFT[・]はfast-time軸のIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)演算を表す。*(アスタリスク)は共役演算を表す。
【0050】
相関算出部32は、式(13)により、キャリア周波数ごとのレンジ(fast-time)軸で相関出力Sr2(fn,tf)を取得する。相関算出部32は、キャリア周波数ごとの相関出力Sr2(fn,tf)をコヒーレント積分部33aへ供給する。
【0051】
キャリア周波数ごとの相関出力Sr2(fn,tf)をコヒーレント合成するには、初期位相を補正する必要がある。初期位相差が未知であるため、コヒーレント積分部33aは、位相探索法を適用して初期位相差を推定する。コヒーレント積分部33aは、0から360度における所定のステップで相関出力Sr2(fn,tf)に位相差を与えて合成し、合成結果が最大値となる位相差を探索する。コヒーレント積分部33aは、位相探索法により得られた合成結果の最大値Sr2max(tf)をレンジ抽出部34へ供給する。最大値Sr2max(tf)は、式(14)により表される。
【0052】
【数14】
式(14)において、SRC[・]は、位相探索法を表す。fnは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を表す。Φpは、0から360度の所定ステップ間隔の位相(p=1,2,…,P)を表す。
【0053】
図6は、コヒーレント積分部33aにより行われる合成処理を示す模式図である。コヒーレント積分部33aは、キャリア周波数(f1,f2,…,fNf)ごとに得られるレンジ-ドップラ軸上のデータに対して、ドップラ周波数の補正、初期位相補正及びコヒーレント積分の処理を順に行う。コヒーレント積分部33aは、これらの処理によってレンジ-ドップラ軸上のデータを合成する。
図6に示す合成処理では、キャリア周波数f1のドップラ周波数に他のキャリア周波数のドップラ周波数を合わせる補正する場合が示されている。
【0054】
コヒーレント積分部28aが合成結果の最大値Sr1max(ωs,tf)を探索する場合と同様に、コヒーレント積分部33aは、複数のキャリア周波数から2つを選択し、選択した2つのキャリア周波数間で合成結果が最大となる位相を式(14)にて探索し、その結果と選択していないキャリア周波数のSr2(fn,tf)とに対して式(14)を適用することを繰り返し行ってもよい。
【0055】
レンジ抽出部34は、各キャリア周波数の相関出力Sr2(fn,tf)を合成した最大値Sr2max(tf)に対するCFAR処理等により、目標のレンジを抽出する。レンジ抽出部34は、目標のレンジを出力部35へ供給する。出力部35は、ドップラ抽出部29により抽出された目標のドップラ周波数fd及び相対速度vtと、レンジ抽出部により抽出された目標のレンジとを組み合わせた目標に関する情報を出力する。
【0056】
以上説明した、ドップラ抽出用パルス列P1を用いたドップラ周波数の抽出と、レンジ抽出用パルス列P2に基づいた測距とにより、受信装置は、送信装置においてLPI性が高められた送信信号の反射波から目標のレンジ及び相対速度を観測できる。第1の実施形態における送信装置及び受信装置を組み合わせたレーダシステムは、LPI性を向上させつつ、目標のレンジ及び相対速度を観測できる。
【0057】
[第2の実施形態]
第1の実施形態では、送信装置において、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2との各パルスに対して割り当てるキャリア周波数を周波数変換器8がパルス制御部7の制御に応じて切り替える方式について説明した。第2の実施形態では、周波数変換器8において高周波数への周波数変換においてミキシングする信号の周波数を一定にしつつ、各パルスに割り当てるキャリア周波数をランダムに変化させる方式について説明する。
【0058】
図7は、第2の実施形態における送信装置の構成例を示すブロック図である。送信装置は、広帯域信号生成器1、FFT部2、周波数選択部3、IFFT部4、符号生成器5、変調器6、パルス制御部7、周波数変換器8、高出力増幅器9及びアンテナ10を備える。第2の実施形態における送信装置は、基準信号生成器1aに代えて、広帯域信号生成器1、FFT部2、周波数選択部3及びIFFT部4を備える構成が、第1の実施形態における送信装置と異なる。
【0059】
第2の実施形態における周波数変換器8では、周波数変換においてミキシングする高周波信号を周波数Fの一波として、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2との各パルスに対するキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)を得る。
図8は、第2の実施形態における周波数変換器8による周波数変換を示す模式図である。
図8には、パルスに割り当てるキャリア周波数(f1,f2)が示されている。第2の実施形態では、選択するキャリア周波数(f1,f2)が、ドップラ抽出用パルス列P1及びレンジ抽出用パルス列P2それぞれの変調信号と、周波数Fの高周波信号とのミキシングにより送信帯域において得られるように、キャリア周波数に対応する周波数にパワーを有する変調信号が生成される。高周波信号の周波数Fは、各パルスに割り当てられる複数のキャリア周波数に基づいて定められる。例えば、送信帯域の中心周波数が高周波信号の周波数Fに定められる。
【0060】
図9は、第2の実施形態における送信装置において行われる処理を示す模式図である。広帯域信号生成器1は、広帯域信号を生成し、生成した広帯域信号をFFT部2へ供給する。広帯域信号は、
図9に示すように、高周波数の送信信号の送信帯域Wと同じ帯域を有し、この帯域において所定の振幅を有する。FFT部2は、広帯域信号に対してFFTを行う。広帯域信号に対して行われるFFTは、受信装置に備えられるAD変換器25のサンプリングタイミングに相当するfast-time軸で行われる。FFTにより得られた周波数領域の信号は、周波数選択部3へ供給される。
【0061】
周波数選択部3は、供給される周波数領域の信号をキャリア周波数に対応する帯域ごとに分割する。この信号分割によって
図9に示すように、Nf個のキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)それぞれに対応するNf個の分割帯域が得られる。周波数選択部3は、パルス制御部7がドップラ抽出用パルス列P1のパルスとレンジ抽出用パルス列P2のパルスとに対して割り当てたキャリア周波数に対応する分割帯域の信号を選択する。周波数選択部3は、選択した分割帯域の信号を合成してIFFT部4へ供給する。IFFT部4は、合成された分割帯域の信号に対して、fast-time軸へのIFFTを行う。IFFT部4は、IFFTにより得られた時間領域の信号を変調器6へ供給する。なお、
図9では、2つのキャリア周波数に対応する分割帯域を選択する処理例を示しているが、パルスに対して割り当てるキャリア周波数の数に応じた数の分割帯域が選択されてもよい。
【0062】
符号生成器5は、パルス制御部7の制御に応じて、ドップラ抽出用パルス列P1のパルスとレンジ抽出用パルス列P2のパルスとに対する符号系列を生成し、生成した符号系列を変調器6へ供給する。変調器6は、IFFT部4から供給される信号(パルス)を、符号生成器5で生成された符号系列で変調した変調信号を生成し、変調信号を周波数変換器8へ供給する。周波数変換器8は、送信帯域に応じて定められた周波数Fの高周波信号で変調信号を高周波数に変換し、高周波数の変調信号を高出力増幅器9へ供給する。高出力増幅器9は、高周波数の変調信号を増幅し、増幅した変調信号を送信信号としてアンテナ10より送信する。
【0063】
第2の実施形態におけるレーダシステムが備える受信装置は、第1の実施形態における受信装置と同じ構成を有し、同様に動作する。
【0064】
第2の実施形態の送信装置では、周波数変換器8において高周波数の変調信号を得るためにミキシングする高周波信号が一つであるため、複数の高周波信号から選択された信号を用いて所望のキャリア周波数を得る場合に比べて各パルスに対するキャリア周波数に生じるばらつきを抑えることができ、キャリア周波数の精度を向上できる。また、送信装置では、精度の維持が必要となる高周波信号を減らすことができるため、メンテナンス性も向上する。第2の実施形態における送信装置と受信装置とを備えるレーダシステムは、送信信号のキャリア周波数ばらつきを抑え、キャリア周波数の精度を向上させることで、受信装置におけるドップラ周波数を精度よく推定できる。レーダシステムは、ドップラ周波数を推定する精度の向上により、レンジ抽出用パルス列P2に対するコヒーレント積分におけるロスを低減でき、目標のレンジ及び相対速度の観測精度を改善できる。
【0065】
[第3の実施形態]
第1の実施形態では、送信装置が、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とに割り当てるキャリア周波数(f1,f2,…,fNf)をパルスごとにランダムに切り替える。そして、受信装置は、キャリア周波数差により生じるドップラ周波数差を補正するだけでなく、目標との距離に応じて生じるキャリア周波数間の初期位相差を補正する。受信装置における初期位相差の補正に要する処理は複雑であり、その処理に時間を要する場合がある。そこで、第3の実施形態では、受信装置における処理時間を短縮する構成について説明する。
【0066】
図10は、第3の実施形態における受信装置の構成例を示すブロック図である。受信装置は、アンテナ21、低雑音増幅器22、周波数変換器23、周波数フィルタ24、AD変換器25、ドップラ用パルス列抽出部26、FFT部27、振幅積分部28b(第1の合成部)、ドップラ抽出部29、レンジ用パルス列抽出部30、参照信号補正部31、相関算出部32、振幅積分部33b(第2の合成部)、レンジ抽出部34及び出力部35を備える。第3の実施形態における受信装置は、コヒーレント積分部28a及びコヒーレント積分部33aに代えて、振幅積分部28b及び振幅積分部33bを備える構成が第1の実施形態における受信装置と異なる。第3の実施形態における受信装置では、振幅積分部28bが式(6)で得られる演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)を振幅積分して合成結果を取得し、振幅積分部33bが式(13)で得られる相関出力Sr2(fn,tf)を振幅積分して合成結果を取得する。
【0067】
第3の実施形態における受信装置においても、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)及び相関出力Sr2(fn,tf)を合成する際に、キャリア周波数間において生じるドップラ周波数差に対する補正は必要である。しかし、振幅積分では振幅のみの積分が行われるため、目標までの距離に応じて生じる初期位相に関してキャリア周波数間の位相差の補正が不要となる。すなわち、キャリア周波数間の位相差を補正するために位相探索法が不要となり、受信装置における信号処理が簡易化される。第3の実施形態における受信装置では、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)及び相関出力Sr2(fn,tf)の合成が簡易な演算にて行われるため、処理時間が短縮できる。なお、振幅積分では位相差によるロスが少なからず生じるため、第3の実施形態の受信装置は、レーダシステムの利得に余裕があるときに用いてもよい。例えば、受信信号におけるドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とのSN比が一定以上の場合に、第3の実施形態の受信装置を用いてもよい。
【0068】
図10に示した受信装置は、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)の合成と、相関出力Sr2(fn,tf)の合成との両方に振幅積分を用いる構成を有する。しかし、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)の合成と、相関出力Sr2(fn,tf)の合成とのいずれか一つに振幅積分を用いる構成としてもよい。例えば、受信装置は、演算結果Sr1out(fn,ωs,tf)を振幅積分で合成してドップラ周波数を取得し、相関出力Sr2(fn,tf)をコヒーレント積分で合成して目標のレンジを取得してもよい。振幅積分とコヒーレント積分とを組み合わせて用いることにより、受信装置の処理を簡易にしつつ、目標のレンジの精度を維持できる。
【0069】
第3の実施形態におけるレーダシステムが備える送信装置は、第1の実施形態及び第2の実施形態における送信装置のいずれかと同じ構成を有し、同様に動作する。例えば、第3の実施形態における送信装置が第2の実施形態における送信装置と同じである場合、キャリア周波数に生じるばらつきを抑えてドップラ周波数の推定精度を向上させつつ、受信装置における処理を簡易にすることができる。
【0070】
[第4の実施形態]
図11は、第4の実施形態におけるレーダシステムの構成例を示すブロック図である。第4の実施形態におけるレーダシステムは、送信装置、受信装置及び不要波検知装置を備える。第4の実施形態におけるレーダシステムは、不要波検知装置を備える構成が第1、第2及び第3の実施形態におけるレーダシステムと異なる。第4の実施形態におけるレーダシステムでは、レーダシステムの目標検出に影響を及ぼす不要波が受信信号に含まれているか否かを不要波検知装置が判定する。送信装置及び受信装置は、不要波検知装置による判定結果に応じて、動作を切り替える。
【0071】
第4の実施形態における不要波検知装置は、アンテナ41、低雑音増幅器42、周波数変換器43、AD変換器44及び不要波検出部45を備える。アンテナ41で受信された受信信号は、低雑音増幅器42で増幅され、周波数変換器43へ供給される。周波数変換器23は、低雑音増幅器22から供給される信号をベースバンドへ変換し、ベースバンドの信号をAD変換器25へ供給する。AD変換器25は、ベースバンド信号をデジタル信号に変換する。不要波検出部45は、予め定められたスレショルドより大きい振幅がデジタル信号にあるか否かを判定する。
【0072】
デジタル信号にスレショルドより大きい振幅がある場合、不要波検出部45は、不要波があると判定する。デジタル信号にスレショルドより大きい振幅がない場合、不要波検出部45は、不要波がないと判定する。不要波検出部45は、判定結果を送信装置と受信装置とへ出力する。不要波検出部45は、予め定められた周波数範囲において所定の帯域ごとに不要波の有無を判定してもよい。この場合、不要波検出部は、帯域ごとに異なるスレショルドを用いてもよい。
【0073】
第4の実施形態における送信装置は、広帯域信号生成器1、FFT部2、周波数選択部3c、IFFT部4、符号生成器5、変調器6、パルス制御部7、周波数変換器8、高出力増幅器9及びアンテナ10を備える。第4の実施形態における送信装置は、周波数選択部3に代えて、周波数選択部3cを備える構成が、第2の実施形態における送信装置と異なる。
【0074】
周波数選択部3cは、不要波検知装置から出力される判定結果に応じて、ドップラ抽出用パルス列P1及びレンジ抽出用パルス列P2のそれぞれに割り当てるキャリア周波数を一つにするか、複数のキャリア周波数から選択するかを切り替える。不要波がないと判定される場合、周波数選択部3cは、ドップラ抽出用パルス列P1とレンジ抽出用パルス列P2とに割り当てるキャリア周波数を一つにする。不要波があると判定される場合、周波数選択部3cは、第1及び第2の実施形態と同様に、各パルスに割り当てるキャリア周波数を複数のキャリア周波数からランダムに選択する。
【0075】
第4の実施形態における受信装置は、アンテナ21、低雑音増幅器22、周波数変換器23、周波数フィルタ24c、AD変換器25、ドップラ用パルス列抽出部26、FFT部27、積分部28c(第1の合成部)、ドップラ抽出部29、レンジ用パルス列抽出部30、参照信号補正部31、相関算出部32、積分部33c(第2の合成部)、レンジ抽出部34及び出力部35を備える。第4の実施形態における受信装置は、周波数フィルタ24、コヒーレント積分部28a及びコヒーレント積分部33aに代えて、周波数フィルタ24c、積分部28c及び積分部33cを備える構成が、第1及び第2の実施形態における受信装置と異なる。
【0076】
周波数フィルタ24c、積分部28c及び積分部33cは、不要波検知装置から出力される判定結果に応じて動作を切り替える。不要波がないと判定される場合、周波数フィルタ24cは、周波数選択部3cにおいて選択される一つのキャリア周波数に対応する周波数帯の信号を抽出し、抽出した周波数信号をAD変換器25へ供給する。不要波があると判定される場合、周波数フィルタ24cは、各パルスに対して割り当てられる複数のキャリア周波数に対応する周波数帯それぞれの信号を抽出し、抽出した周波数信号をAD変換器25へ供給する。
【0077】
不要波がないと判定される場合、ドップラ抽出用パルス列P1に割り当てられるキャリア周波数が一波になるため、複数のキャリア周波数間の周波数差により生じるドップラ周波数差の補正が不要になる。この場合、積分部28cは、ドップラ周波数の補正と、初期位相差の探索との処理を省いて、結果Sr1out(fn,ωs,tf)をコヒーレント積分する。積分部28cは、コヒーレント積分により得られた合成結果をドップラ抽出部29へ供給する。あるいは、積分部28cは、不要波がないと判定される場合、積分部28cは、コヒーレント積分に代えて、振幅積分を用いて結果Sr1out(fn,ωs,tf)を合成してもよい。
【0078】
不要波があると判定される場合、積分部28cは、コヒーレント積分部28aと同様の動作を行う。すなわち、積分部28cは、ドップラ周波数の補正と初期位相差の探索との処理を行って合成結果をドップラ抽出部29へ供給する。
【0079】
また、不要波がないと判定される場合、レンジ抽出用パルス列P2に割り当てられるキャリア周波数も一波になるため、複数のキャリア周波数間における初期位相差の探索が不要になる。この場合、積分部33cは、初期位相差の探索を省いて、相関算出部32から供給される相関出力Sr2(fn,tf)をコヒーレント積分する。積分部33cは、コヒーレント積分により得られた合成結果をレンジ抽出部34へ供給する。あるいは、不要波がないと判定される場合、積分部33cは、コヒーレント積分に代えて、振幅積分を用いて相関出力Sr2(fn,tf)を合成してもよい。
【0080】
不要波があると判定される場合、積分部33cは、コヒーレント積分部33aと同様の動作を行う。すなわち、積分部33cは、位相探索法により得られた合成結果の最大値Sr2max(tf)をレンジ抽出部34へ供給する。
【0081】
第4の実施形態のレーダシステムでは、不要波がないと判定される場合、送信装置が各パルスに割り当てるキャリア周波数を一波にするので、受信装置においてキャリア周波数間の周波数差及び初期位相差に起因する積分(合成)時のロスが低減される。このように、不要波の有無に応じて、送信装置及び受信装置の動作を切り替えることにより、不要波がない場合にはLPI性よりも受信装置における処理負荷及び積分時のロスを低減させることを優先して、目標検知において高い利得を確保して測距及び測速を行うことができる。レーダシステムは、不要波がある場合には、各パルスに割り当てるキャリア周波数をランダムに選択してLPI性を向上させつつ、目標のレンジ及び相対速度を観測できる。
【0082】
なお、不要波がある場合にキャリア周波数を一波にする動作を説明した。しかし、不要波がある場合の送信装置及び受信装置の動作と、不要波がない場合の送信装置及び受信装置の動作とを入れ替えてもよい。不要波がある場合にキャリア周波数を一波にすることにより、レーダシステムは、積分(合成)時のロスを低減して、不要波に対して堅牢な目標検知をLPI性よりも優先する動作が可能になる。
【0083】
図11では、レーダシステムが不要波検知装置と受信装置とを異なる装置として備える構成例を示した。しかし、不要波検知装置と受信装置とを一つの装置として構成してもよい。この場合、周波数変換器23がベースバンド信号をAD変換器44へ供給して、目標のレンジ及び相対速度の観測と不要波検知とにおいて、アンテナ、低雑音増幅器及び周波数変換器を共用してもよい。
【0084】
第4の実施形態では、第2の実施形態における送信装置に対して変更を加えた送信装置をレーダシステムが備える構成例を示した。しかし、第1の実施形態における送信装置に同様の変更を加えた送信装置をレーダシステムが備えてもよい。また、第1の実施形態における受信装置に対して変更を加えた受信装置をレーダシステムが備える構成例を示した。しかし、第2の実施形態における受信装置をレーダシステムが備えてもよい。
【0085】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、ドップラ抽出用パルス列P1(第1のパルス列)とレンジ抽出用パルス列P2(第2のパルス列)との各パルスに対してキャリア周波数を選択し、選択したキャリア周波数を用いたドップラ抽出用パルス列P1と、選択したキャリア周波数を用いたレンジ抽出用パルス列P2とを合成した送信信号を送信する送信装置(送信部)を持つことにより、送信信号におけるパルス間隔が不均一になり、パルスを送信する周波数が分散され、LPI性を向上させることができる。
【0086】
上記の実施形態における送信装置、受信装置及び不要波検知装置は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、CPUがプログラムを実行することにより、デジタル信号に対する信号処理を行ってもよい。CPUは、補助記憶装置に記憶されたプログラムを実行することにより、送信装置における一部又はすべての動作と、受信装置における一部又はすべての動作と、不要波検知装置における一部又はすべての動作とを行ってもよい。また、送信装置、受信装置及び不要波検知装置における動作のすべて又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置などの非一時的な記憶媒体である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
1…広帯域信号生成器、1a…基準信号生成器、2…FFT部、3,3c…周波数選択部、4…IFFT部、5…符号生成器、6…変調器、7…パルス制御部、8…周波数変換器、9…高出力増幅器、10,21…アンテナ、22…低雑音増幅器、23…周波数変換器、24…周波数フィルタ、25…AD変換器、26…ドップラ用パルス列抽出部、27…FFT部、28a…コヒーレント積分部、28b…振幅積分部、28c…積分部、29…ドップラ抽出部、30…レンジ用パルス列抽出部、31…参照信号補正部、32…相関算出部、33a…コヒーレント積分部、33b…振幅積分部、33c…積分部、34…レンジ抽出部、35…出力部、41…アンテナ、42…低雑音増幅器、43…周波数変換器、44…AD変換器、45…不要波検出部