(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】3次元プリンタ用組成物及び、当該組成物を用いた大型積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220816BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20220816BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20220816BHJP
B29C 64/165 20170101ALI20220816BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220816BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220816BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20220816BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20220816BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/00
C08K5/00
B29C64/165
B33Y70/00
B33Y10/00
B22F3/105
B22F3/16
B28B1/30
(21)【出願番号】P 2018140488
(22)【出願日】2018-07-26
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】594050784
【氏名又は名称】第一セラモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 誠
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 詠大
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】林田 望
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】川北 晃司
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-204502(JP,A)
【文献】特開2000-303103(JP,A)
【文献】特開2006-213585(JP,A)
【文献】特開2015-086384(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129733(WO,A1)
【文献】特開2017-030346(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003901(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
B29C 64/165
B33Y 70/00
B33Y 10/00
B22F 3/105
B22F 3/16
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)無機粉末、(B)有機バインダー及び(C)有機化合物を含有する3次元プリンタ用組成物であって、
前記無機粉末(A)が、金属粉末、セラミックス粉末、及びサーメット粉末からなるグループより選ばれた焼結可能な粉末であり、
前記有機バインダー(B)が、(B1)
ポリオレフィン系重合体変性ポリアセタール、(B2)
エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体/ポリスチレン樹脂、及びポリプロピレン/アクリロニトリルスチレン樹脂からなるグループより選ばれた少なくとも1つの相溶化ポリマー、及び(B3)
アクリル樹脂を含有するB1及びB2以外の熱可塑性ポリマー、を含有すること、
前記有機化合物(C)が、分子量又は重量平均分子量が2000以下の有機化合物であ
って、且つ、ワックス類、滑剤、可塑剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、造核剤からなるグループより選ばれたものであること、及び
前記無機粉末(A)の、前記有機バインダー(B)と前記有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(A)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=100/5~100/30であり、前記
ポリオレフィン系重合体変性ポリアセタール(B1)の、前記有機バインダー(B)と前記有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(B1)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.05~0.25であり、前記
ポリオレフィン系重合体変性ポリアセタール(B1)と前記相溶化ポリマー(B2)の質量比率が、(B2)/(B1)=0.5~15.0であり、前記有機化合物(C)の、前記有機バインダー(B)と前記有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(C)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.1~0.5であること
を特徴とする3次元プリンタ用組成物。
【請求項2】
前記無機粉末(A)が、イットリア安定化ジルコニア粉末、アルミナ粉末、タングステン粉末、タングステンカーバイド粉末、ステンレス粉末、鉄-ニッケル粉末及び、鉄-ケイ素粉末からなるグループより選ばれたものであ
ることを特徴とする請求項1に記載の3次元プリンタ用組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマー(B3)
として更に、ポリスチレン樹脂
、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂及びアモルファスポリオレフィンからなるグループより選ばれた
少なくとも1つを含み、前記有機化合物(C)が、ワックス類、滑剤、可塑剤及び酸化防止剤からなるグループより選ばれたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の3次元プリンタ用組成物。
【請求項4】
セラミックス、サーメット又は金属からなる大型積層造形物を製造する方法であって、当該方法が、以下の工程A~C:
工程A:請求項1~3のいずれか1項に記載の3次元プリンタ用組成物を用い、熱溶融積層方式の3次元プリンタによって、積層厚みが10mm以上である大型積層構造体を造形する工程、
工程B:前記の大型積層構造体を脱脂する工程、及び
工程C:前記工程Bで得られた脱脂後の大型積層構造体を焼結する工程
を含むことを特徴とする大型積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元(3D)プリンタでの使用に適した組成物、特に大型の積層造形物(造形物の積層厚みが10mm以上であるもの)を製造することが可能な3Dプリンタ用組成物及び、当該組成物を用いて大型積層造形物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元のデジタルデータに基づいて、立体造形物を積層造形する3Dプリンタは、様々な分野において実用化が期待されている。3Dプリンタで立体造形物を製造する方式としては、主に、光造形方式、粉末焼結積層方式、熱溶融積層方式、インクジェット方式が知られている。
【0003】
熱溶融積層法(FDM:Fused Deposition Modeling)では、原料として、PLA(ポリ乳酸)やABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)等の熱可塑性樹脂からなるフィラメントを用いて、溶融した樹脂を一層ずつ積層し、冷却固化することにより、熱可塑性樹脂からなる立体造形物を得ることが一般的である。
【0004】
熱可塑性樹脂からなる製品ではなく、金属あるいはセラミックス製品を3次元プリンタで製造したい場合は、高出力のレーザーで無機粉末を直接焼結する方式や、あるいは光硬化樹脂に無機粉末を分散する方式が一般的に採用されている。しかしながら、これらの方式では、装置が高価になるという問題や、積層速度が遅いという問題がある。
【0005】
これに対して、熱可塑性樹脂に、セラミックス又は金属粉末等を添加して作製したコンパウンドを使用して、3次元プリンタで造形物を製造し、その後、脱脂、焼結することによって金属あるいはセラミックス製品を製造する方法が提案されている(特許文献1)。
また、このようなコンパウンド(ペレット)を使用して造形物を製造できる3次元プリンタとして、押出装置を有する3次元プリンタが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-144205号公報
【文献】WO2015/129733
【0007】
前記特許文献1の方法によれば、無機粉末を含むコンパウンドを原料として、熱溶融積層方式(FDM方式)の3次元プリンタを用いて造形物を製造した後に、粉末射出成形(PIM:Powder Injection Molding)で一般的に行われている脱脂、焼結(焼成)を行うことによって金属あるいはセラミックス製品を得ることができるため、装置が高価であるという問題や積層速度が遅いという問題を解決することが可能である。
【0008】
しかしながら、バインダー成分としてポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリスチレンを用いたコンパウンドでは、FDM方式の3次元プリンタを用いて厚みが10mm以上である大型の造形物を製造した場合には、脱脂工程時において自重による変形が発生する、フクレや変形が生じやすいという問題があった。
一方、金属射出成形(MIM:Metal Injection Molding)等で変形対策で使用されるポリアセタールは、非結晶部と結晶部が混在しており、結晶性が高いと造形層間の密着性不良や冷却収縮が発生しやすいという問題があった。
【0009】
また、3次元プリンタを用いて、立体造形物を製造し、その後、脱脂、焼結を行って金属あるいはセラミックス製品を得る方法において、従来のPIMと同様のコンパウンドを使用すると、糸曳きが発生しやすいという問題があった。より具体的に説明すると、FDM方式の3次元プリンタによって、ノズルから溶融樹脂を吐出しながら所望の3次元構造体を積層造形した後、次の積層位置にノズルを移動させる際、造形後の3次元構造体と、移動中のノズル先端部の間に糸曳きが発生し、3次元構造体にヒゲ状のバリが付着して外観が悪くなるという問題があった。また、この糸曳きを改善しようとすると、脱脂時に不具合が生じやすくなるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それゆえ、本発明は、無機粉末を含む組成物を原料として、FDM方式の3次元プリンタを用い、積層厚みが10mm以上である大型積層造形物を製造する際に、糸曳きを低減して外観の良い造形物を得ることができ、且つ、前記造形物から有機バインダーを除去(脱脂)する際に変形が生じにくい組成を有した3次元プリンタ用組成物を提供することを課題とする。
また、本発明の課題は、上記の3次元プリンタ用組成物を用いて、セラミックス、サーメット、あるいは金属からなる大型積層造形物を製造することが可能な方法を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するために検討を繰り返した結果、無機粉末に、特定の有機バインダーを特定の割合で混合することによって、3次元プリンタで使用した際も糸曳き性(曳糸性)が少なく、且つ、脱脂時に不具合(変形、クラックなど)が生じにくく、積層厚みが10mm以上である大型積層造形物を製造するのに適した特性を有する組成物を得ることに成功した。
【0012】
前記課題を解決可能な、本発明の3次元プリンタ用組成物(コンパウンド)は、
(A)無機粉末、(B)有機バインダー及び(C)有機化合物を含有する3次元プリンタ用組成物であって、
前記有機バインダー(B)が、(B1)非結晶部と結晶部が混在した熱可塑性樹脂、(B2)2種類のモノマー構成単位から成る2成分コポリマーである相溶化ポリマー、及び(B3)B1及びB2以外の熱可塑性ポリマーを含有すること、
前記有機化合物(C)が、分子量又は重量平均分子量が2000以下の有機化合物であること、及び
前記無機粉末(A)の、前記有機バインダー(B)と前記有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(A)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=100/5~100/30であり、前記熱可塑性樹脂(B1)の、前記有機バインダー(B)と前記有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(B1)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.05~0.25であり、前記熱可塑性樹脂(B1)と前記相溶化ポリマー(B2)の質量比率が、(B2)/(B1)=0.5~15.0であり、前記有機化合物(C)の、前記有機バインダー(B)と前記有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(C)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.1~0.5であること
を特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の特徴を有した3次元プリンタ用組成物において、前記無機粉末(A)が、イットリア安定化ジルコニア粉末、アルミナ粉末、タングステン粉末、タングステンカーバイド粉末、ステンレス粉末、鉄-ニッケル粉末及び、鉄-ケイ素粉末からなるグループより選ばれたものであり、前記熱可塑性樹脂(B1)が、ポリオレフィン系重合体変性ポリアセタールであり、前記相溶化ポリマー(B2)が、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、無水マレイン酸変性ポリポロピレン樹脂、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体/ポリスチレン樹脂、及びポリプロピレン/アクリロニトリルスチレン樹脂からなるグループより選ばれたものであることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明は、上記の特徴を有した3次元プリンタ用組成物において、前記熱可塑性ポリマー(B3)が、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂及びアモルファスポリオレフィンからなるグループより選ばれたものであり、前記有機化合物(C)が、ワックス類、滑剤、可塑剤及び酸化防止剤からなるグループより選ばれたものであることを特徴とするものでもある。
【0015】
更に本発明は、セラミックス、サーメット又は金属からなる大型積層造形物を製造する方法であって、当該方法は、以下の工程A~C:
工程A:前記3次元プリンタ用組成物を用い、熱溶融積層方式の3次元プリンタによって、積層厚みが10mm以上である大型積層構造体を造形する工程、
工程B:前記の大型積層構造体を脱脂する工程、及び
工程C:前記工程Bで得られた脱脂後の大型積層構造体を焼結する工程
を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の3次元プリンタ用組成物は糸曳き性が低く、FDM方式の3次元プリンタによって大型の積層構造体を造形する工程において、ヒゲ状のバリが発生しにくく、外観に優れた積層構造体を得ることができる。
また、本発明の組成物を用いた場合、加熱脱脂工程において変形、クラック、フクレ等が生じにくいため、PIMと同様の脱脂・焼結工程を使用して、大型のセラミックス製品等を造形することができる。このため、3次元CADデータなどに基づいて、難加工材であるセラミックス等からなる複雑な形状を有する製品を製造することも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の3次元プリンタ用組成物で使用できる無機粉末(A)の例としては、金属粉末、セラミックス粉末、サーメット粉末等の焼結可能な粉末が挙げられる。
具体的には、金属粉末としては、例えば純鉄、鉄-ニッケル、鉄-コバルト、鉄-シリコン、ステンレススチールなどの鉄系合金、タングステン、炭化タングステン(WC)、超硬合金(WC-Co系合金など)、アルミニウム合金、銅、銅合金などの粉末が挙げられる。また、セラミックス粉末としては、Al2O3、BeO、ZrO2などの酸化物、TiC、ZrC、B4Cなどの炭化物、CrB、ZrB2などのホウ化物、TiN、ZrNなどの窒化物などが挙げられる。また、サーメット粉末としては、Al2O3-Fe系、TiC-Ni系、TiC-Co系、B4C-Fe系などが挙げられる。
本発明で使用する無機粉末(A)の特に好ましい例として、アルミナ(Al2O3)、ジルコニア(ZrO2)などの金属酸化物が挙げられる。前記ジルコニアは、イットリア部分安定化ジルコニアであってもよい。特に、平均粒子径(D50)が0.1~1.0μm、より好ましくは0.1~0.8μmである金属酸化物の粉末が好ましい。
【0018】
本発明で使用される有機バインダー(B)は、非結晶部と結晶部が混在した熱可塑性樹脂(B1)と、2種類のモノマー構成単位から成る2成分コポリマーである相溶化ポリマー(B2)と、上記B1及びB2以外の熱可塑性ポリマー(B3)を含む。
本発明では、上記(B1)、(B2)、(B3)を併用することによって、大型の造形物を製造する場合においても自重による変形が生じにくく、また、脱脂工程時においても脱脂が一度に進行せず、有機バインダーの除去が段階的に進行するため、脱脂時の変形を抑制することができる。
【0019】
非結晶部と結晶部が混在した前記熱可塑性樹脂(B1)の例としては、ポリオレフィン系重合体変性ポリアセタールが挙げられ、このようなポリアセタール(POM)コポリマーとして特に好ましいものは、-(CH2O)n-(CH2CH2O)m-の化学構造を有したポリオキシエチレン構造部分を含むポリアセタールコポリマーである。
上記のポリアセタールコポリマーは、結晶性と非結晶性を持ち、後述する相溶化ポリマー(B2)と併含させることにより、積層間の密着性を向上させる。また脱バインダー時に造形物の強度を保持することにより、大型の造形物の場合に生じやすい変形を抑制し、造形物の形状を保持する作用を示す。
前記熱可塑性樹脂(B1)の重量平均分子量は1万~50万が好ましく、2万~20万がより好ましく、本発明において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて求めることができる。
【0020】
前記2種類のモノマー構成単位から成る2成分コポリマーである相溶化ポリマー(B2)は、分子中に極性のセグメントと非極性のセグメントを有しており、熱可塑性樹脂(B1)と、B1及びB2以外の熱可塑性ポリマー(B3)を相溶化させる作用を示し、ランダムコポリマーであってもブロックコポリマーであってもグラフトコポリマーであってもよい。
上記相溶化ポリマー(B2)の例としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、無水マレイン酸変性ポリポロピレン樹脂、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体/ポリスチレン(EGMA/PS)樹脂、ポリプロピレン/アクリロニトリルスチレン(PP/AS)樹脂等が挙げられ、これらの相溶化ポリマーは、本発明の3次元プリンタ用組成物中に2種以上が配合されてもよい。
上記の無水マレイン酸変性ポリポロピレン樹脂としては、例えば三洋化成工業株式会社製のユーメックス(商標)が利用でき、上記のEGMA/PS樹脂としては、例えば日油株式会社製のモディパー(登録商標)Aシリーズが利用できる。
本発明において、前記相溶化ポリマー(B2)の重量平均分子量は1万~50万が好ましく、2万~20万がより好ましい。
【0021】
前記熱可塑性ポリマー(B3)の例としては、ポリスチレン(PS)樹脂、アクリル(PMMA)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、アクリロニトリルスチレン(AS)樹脂及びアモルファスポリオレフィンが挙げられる。
この熱可塑性ポリマー(B3)の融点は、170℃以下であることが好ましく、より好ましい樹脂の例としては、PS、アクリル樹脂、ABS、PPが挙げられる。糸曳き性を低減する観点からは、アクリル樹脂を使用することが好ましい。
【0022】
前記熱可塑性ポリマー(B3)は、1種類を使用しても、複数種類を使用してもよいが、熱分解挙動が異なる複数の樹脂を併用することがより好ましい。熱分解挙動の異なる2種類以上の熱可塑性樹脂を併用することにより、脱脂時の不具合(特にクラック・フクレ)を十分に抑制することができる。
【0023】
複数の熱可塑性ポリマー(B3)を使用する場合の特に好ましい例として、アクリル樹脂又は、アクリル樹脂とPSの組み合わせが挙げられる。
アクリル樹脂とPSの質量比は、アクリル樹脂100に対して、PSが50~130であることが好ましく、60~110であることがより好ましい。
【0024】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸の炭素数1~8のアルコールのエステルである、(メタ)アクリル酸エステルの重合体を使用することができる。このような(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、たとえば、アルキル基の炭素数が1~8のn-アルキル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのうちでは特にn-ブチル(メタ)アクリレートのようなアルキル基の炭素数が1~4のn-アルキル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレートが好ましく、これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0025】
PSとしては、重量平均分子量が10~30万程度のものを用いることが好ましく、15~25万程度のものを用いることがより好ましい。
アモルファスポリオレフィンとしては、重量平均分子量が1000~8000、より好ましくは2000~4000程度のものを使用することができる。
【0026】
重量平均分子量又は分子量が2000以下である有機化合物(C)としては、無機粉末との混合物に良好な流動性を与え、かつ熱分解性に優れるという点で、ワックス類、滑剤、可塑剤等が好ましいが、これらに限定されるものではなく、酸化防止剤等の他の添加剤も使用できる。
前記有機化合物(C)の分子量(又は重量平均分子量)は、1,500以下が好ましく、1,000以下が特に好ましい。
【0027】
ワックス類としては、合成系、天然系のいずれも使用でき、その具体例としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ミツロウ、カルナバワックス、モンタンワックス、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
また、滑剤の具体例としては、例えば脂肪酸並びにエステル、アミド、金属塩等の脂肪酸の誘導体などが挙げられ、好ましくはステアリン酸などの高級脂肪酸が挙げられる。
また、可塑剤の具体例としては、例えば、フタル酸エステル(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル等)、リン酸エステル、脂肪酸エステル(モノステアリン酸ソルビタンエステル等)が挙げられる。
【0028】
また、酸化防止剤の具体例としては、例えばフェノール系酸化防止剤が挙げられる。その具体例としては、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、4,4'-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルプロピオン酸](2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン-3,9-ジイル)ビス(2,2-ジメチル-2,1-エタンジイル)、ペンタエリトリトール=テトラキス[3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]などが挙げられる。
【0029】
また、ワックス類、滑剤、可塑剤、酸化防止剤以外の、(C)に該当する有機化合物の例として、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、造核剤等の添加剤が挙げられる。
【0030】
また、前記有機化合物(C)として、加熱減量の開始点が150℃以下のものを用いることが好ましい。加熱減量の開始点は、JIS K7120に規定されている熱重量測定法によって求めることができる。150℃以下で加熱減量が始まる有機化合物(C)を配合することによって、150℃以下でのバインダー含有量を減少させ、成形体の可塑性を小さくして変形を防止することができる。
【0031】
本発明の3次元プリンタ用組成物において、無機粉末(A)と有機バインダー(B)と有機化合物(C)の質量比率は、(A)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=100/5~100/30の範囲であることが適切である。(A)の質量100に対して、(B1)+(B2)+(B3)+(C)の質量が5未満であると、流れ値が低くなり、造形が困難になる。他方、(A)の質量100に対して、(B1)+(B2)+(B3)+(C)の質量が30を超えると、糸曳き性が大きくなり、且つ、脱脂時に変形などの不具合が生じやすくなる。
無機粉末(A)がセラミックス粉末(例えば、アルミナやジルコニア等の金属酸化物粉末)である場合、より好ましい質量比率は、(A)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=100/10~100/30であり、特に100/15~100/25が好ましい。
無機粉末(A)が金属粉末(例えば、ステンレススチール等)である場合、より好ましい質量比率は、(A)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=100/5~100/15であり、特に100/5~100/10が好ましい。
【0032】
本発明の3次元プリンタ用組成物において、熱可塑性樹脂(B1)の、有機バインダー(B)と有機化合物(C)の合計量に対する質量比率は、(B1)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.05~0.25であることが適切である。(B1)+(B2)+(B3)+(C)の質量に対する、(B1)の質量比率が0.05未満であると、造形物の強度が低下し、形状保持性が低下し、脱バインダー(脱脂)時に変形が生じやすくなる。他方、(B1)+(B2)+(B3)+(C)の質量に対する、(B1)の質量比率が0.25を超えると、造形物の強度が増加し、脱脂時の変形やクラック等は抑制できるが、造形層間の密着性不良や冷却収縮が発生し易くなる。
【0033】
無機粉末(A)がセラミックス粉末(例えば、アルミナやジルコニア等の金属酸化物粉末)である場合、より好ましい有機バインダー(B)と有機化合物(C)の合計量に対する熱可塑性樹脂(B1)の質量比率は、(B1)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.05~0.25であり、特に0.05~0.20が好ましい。
無機粉末(A)が金属粉末(例えば、ステンレススチール等)である場合、より好ましい有機バインダー(B)と有機化合物(C)の合計量に対する熱可塑性樹脂(B1)の質量比率は、(B1)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.05~0.25であり、特に0.10~0.20が好ましい。
【0034】
本発明の3次元プリンタ用組成物において、熱可塑性樹脂(B1)と相溶化ポリマー(B2)の質量比率は、(B2)/(B1)=0.5~15.0であることが適切である。(B2)/(B1)の値が0.5未満であると、熱可塑性樹脂(B1)と熱可塑性ポリマー(B3)の相溶性が低下して造形層間の密着性が低下し、逆に、(B2)/(B1)の値が15.0を超えると、糸曳き性が悪くなる。
【0035】
本発明の3次元プリンタ用組成物において、有機バインダー(B)と有機化合物(C)の合計量に対する有機化合物(C)の質量比率は、(C)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.1~0.5であることが適切である。(C)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕の値が0.1未満であると、組成物の流動性が低下して造形性が悪くなり、逆に、(C)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕の値が0.5を超えると、造形層間の密着性が低下し、脱脂時に変形が生じやすく、クラックの発生も充分に抑制できなくなる。
【0036】
本発明の3次元プリンタ用組成物は、(A)無機粉末と、(B)有機バインダーと、(C)有機化合物を溶融混練することにより調製される。この溶融混練に使用される混練機の種類は特に限定されないが、好ましい形態の一例として、加圧型ニーダーが挙げられる。双腕ニーダー式混練機、バンバリー型混練機などのバッチ式や、1軸または2軸混練押出機などの連続式などの各種混練機を用いることが出来る。
【0037】
本発明の3次元プリンタ用組成物の形状は特に限定されないが、好ましい形態の一例として、PIMで使用されているようなペレット状の形態を挙げることができる。特に限定されないが、好ましい形態の一例として、混練後の押し出されてきた溶融物をロータリーカッターにて空気中でペレット状にカットするホットカット式ペレタイザーでペレット化されたものが挙げられる。
【0038】
また、本発明は、前記3次元プリンタ用組成物(無機粉末を高充填した組成物)を用いて、FDM方式の3次元プリンタにより大型の積層構造体を造形し、脱脂、焼結を行い、セラミックス、サーメット又は金属からなる大型積層造形物を製造する方法を提供し、この製造方法は、以下の工程A~C:
工程A:前記3次元プリンタ用組成物を用い、熱溶融積層方式の3次元プリンタによって、積層厚みが10mm以上である大型積層構造体を造形する工程、
工程B:前記の大型積層構造体を脱脂する工程、及び
工程C:前記工程Bで得られた脱脂後の大型積層構造体を焼結する工程
を含む。
上記の工程A~Cを含む本発明の製造方法では、熱変形に強いポリマー組成を有した3次元プリンタ用組成物を用いて大型の積層構造体を造形することができ、造形体の環境温度を一定(例えば、ワーク環境温度を25~80℃)に保つことによって、造形層間の密着性を保持し、冷却収縮による反りを抑制することが可能である。
【0039】
本発明における前記工程Aでは、3Dプリンタの特長として、大型の造形物を造形する場合でも組成物の充填率を容易に制御でき、脱バインダーの際の変形を抑制するのに効果的な表面積(空隙率)を確保することができる。
本発明において「大型積層造形物」とは、積層厚みが10mm以上(例えば、30mm以上、50mm以上、80mm以上又は100mm以上)のものを指す。
そして、本発明では、組成物の充填率を制御することによって脱脂時間を短縮することができ、変形を抑制する効果も得られる。尚、組成物の充填率が20%未満である場合には充分な造形体の強度が得られなくなり、脱脂時に変形が生じやすくなるので好ましくない。
【0040】
前記工程Aにて使用されるFDM方式の3次元プリンタとしては、例えば、特許文献2(WO2015/129733)に開示されているような、シリンダーと、スクリューと、ギヤポンプと、ノズルを有する押出装置と、前記押出装置のノズルに対向して位置するテーブル装置と、前記押出装置における前記ノズルからの樹脂の吐出を制御し、かつ、前記押出装置及び/又は前記テーブル装置の、基準面に対するX軸,Y軸,Z軸方向への移動を制御する制御装置を備えた3次元プリンタを使用することができる。
【0041】
前記工程B及び工程Cの脱脂・焼結の条件は、PIMの脱脂・焼結と同様でよく、組成物に含まれている無機粉末の種類等に応じて、適宜設定することができる。例えば、無機粉末がジルコニア(イットリア安定化ジルコニア等)やアルミナの場合は、昇温速度10~20℃/hで450~550℃前後まで昇温して脱脂を行い、その後昇温速度40~60℃/hで1300~1600℃まで昇温して焼結を行うことができる。無機粉末が金属の場合、不活性ガス雰囲気で昇温速度10~20℃/hで450~550℃前後まで昇温して脱脂を行い、その後昇温速度40~60℃/hで温度1300~1400℃まで昇温して焼結を行うことができる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
[原料]
(A)無機粉末、(B1)熱可塑性樹脂、(B2)相溶化ポリマー、(B3)B1及びB2以外の熱可塑性ポリマー、及び(C)有機化合物として、以下の物質を使用した。
なお、流れ値は、株式会社島津製作所製のフローテスター「CFD-500D」を用いて、直径1mm×長さ1mmのダイスをセットし、0.98MPa荷重をかけ、180℃の単位時間当たりの流れ量(ml/sec)を測定することによって求めた。この際、180℃では流動性が高すぎて正確な値を測定できないものについては、設定温度を140℃に変更して、流れ値を求めた。
【0043】
(A)無機粉末
・Y2O3を3モル%含むイットリア部分安定化ジルコニア粉末(BET比表面積は15m2/g;平均粒子径D50は0.15μm)
・Y2O3を3モル%含むイットリア部分安定化カラージルコニア粉末:黒(BET比表面積は8m2/g;平均粒子径D50は0.3μm)
・アルミナ粉末(BET比表面積は6m2/g;平均粒子径D50は0.52μm)
・ステンレス粉末(SUS316L)(平均粒子径D50は7.05μm、タップ密度4.6g/cm3)
・WC-Co粉末(平均粒子径D50は1.4μm)
【0044】
(B1)熱可塑性樹脂
・POMコポリマー(180℃流れ値0.051ml/sec、融点163℃)
(B2)相溶化ポリマー
・EVA(重量平均分子量19万、180℃流れ値0.064ml/sec、荷重たわみ温度70℃)
・無水マレイン酸変性PP(重量平均分子量5万、融点123℃)
・エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体/ポリスチレン(EGMAを主鎖、PSを側鎖とするグラフトコポリマー、組成比(重量%)70/30、重量平均分子量10万)
(B3)B1及びB2以外の熱可塑性ポリマー
・PS(重量平均分子量19万、180℃流れ値0.064ml/sec、荷重たわみ温度70℃)
・アクリル樹脂(メタクリル酸n-ブチルとメタクリル酸メチルの共重合物、重量平均分子量5万、180℃流れ値0.110ml/sec)
・PP(重量平均分子量24万、180℃流れ値0.051ml/sec、融点163℃)
・アモルファスポリオレフィン(重量平均分子量3000、140℃流れ値0.32ml/sec、軟化点145℃)
【0045】
(C)有機化合物
・パラフィンワックス(分子量472、融点70℃)
・マイクロクリスタリンワックス(分子量500~800、融点52℃)
・ステアリン酸(分子量284)
・フタル酸ジオクチル(DOP)(分子量391)
・モノステアリン酸ソルビタンエステル(分子量430、融点55℃)
・4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル)(分子量394)
・1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(分子量428)
・フェノール系酸化防止剤(1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン)(分子量545、融点183~185℃)
【0046】
[3次元プリンタ用組成物の製造]
上記(A)と、(B1)、(B2)、(B3)及び(C)を、表に示す割合で配合し、日本スピンドル製造株式会社(旧株式会社森山製作所)製加圧型ニーダーを用いて170℃で溶融混練を行った。得られた溶融物は株式会社トーシン製ペレタイザー型プランジャー押出機を使用して、直径3mm×長さ3mmのペレットを製造した。
【0047】
[糸曳き性の評価]
大型の積層構造体を製造する前に、以下の方法により組成物の糸曳き性を評価した。
上記で製造した各ペレットを原料にして、ペレット投入口を有する押出装置を備えたFDM方式の3次元プリンタ(エス.ラボ株式会社製CERA_P3 造形範囲 X150mm×Y150mm×Z150mm、スクリュー径φ20mm)を使用し、直径30mm×高さ100mmの円柱形状の積層構造体(造形物)を、各造形物間の距離が50mmとなるようにして5個製造した。この際、成形温度は140~180℃とし、ノズル径は1.0mmとし、充填率は99~99.5%とした。
糸曳き性の評価においては、一つの造形物を造形した後、次の造形位置にノズルを移動した際に糸曳きが見られる場合は、造形物の縁から糸先端までの長さを測定し、糸曳き長さとした。
糸曳き長さが、3mm未満の場合を○、3mm以上10mm未満の場合を△、10mm以上を×と判定した。
【0048】
[造形性の判定]
造形性については、造形物間をノズルが移動した際の糸曳きの発生の有無、得られた造形物の層間の隙間の有無、造形物の傾き(造形時の層間密着不良によって造形物が傾く)の有無、造形中のノズルへの付着による造形の継続性で判断し、不具合がない場合は〇とし、不具合がある場合は×と評価した。
【0049】
[脱脂・焼結性の判定]
上記で得られた積層構造体を試験片とした。得られた試験片をアルミナセッターに載せ、ジルコニア、アルミナは、大気中で昇温速度10℃/hで500℃まで脱脂したときの変形度合い(変形、クラック、フクレ)を確認した。
試験片各5個のうち、脱脂後に変形、又はクラック・フクレが確認されたものが1個以下の場合は〇とし、2~3個の場合は△とし、4個以上の場合は×と評価した。
脱脂後、大気中で昇温速度50℃/hでジルコニアは1450℃まで、アルミナは1600℃まで昇温して焼結を行い、焼結体を得た。
ステンレスは窒素ガス雰囲気で昇温速度10℃/hで500℃前後まで昇温して脱脂を行い、上記と同様に変形、又はクラック・フクレを確認した。その後昇温速度50℃/hで温度1350℃まで昇温して焼結体を得た。
WC-Coもステンレスと同様に、窒素ガス雰囲気で昇温速度10℃/hで500℃前後まで昇温して脱脂を行い、上記と同様に変形、又はクラック・フクレを確認した。その後昇温速度50℃/hで温度1390℃まで昇温して焼結体を得た。
焼結体の相対密度はアルキメデス法で測定した。
【0050】
3次元プリンタ用組成物(ペレット)の組成と試験結果が、以下の表1~表4に要約されている。尚、表1~表4中の各成分の数値は質量%を示している。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
表1~表2に示されるように、無機粉末(A)の、有機バインダー(B)と有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(A)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=100/5~100/30で、熱可塑性樹脂(B1)の、有機バインダー(B)と有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(B1)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.05~0.25で、熱可塑性樹脂(B1)と相溶化ポリマー(B2)の質量比率が、(B2)/(B1)=0.5~15.0で、有機化合物(C)の、有機バインダー(B)と有機化合物(C)の合計量に対する質量比率が、(C)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕=0.1~0.5の範囲にある実施例1~7(無機粉末としてジルコニア粉末使用)、実施例8(無機粉末としてアルミナ粉末使用)、実施例9(無機粉末としてステンレス粉末使用)及び実施例10(無機粉末としてWC-Co粉末使用)のペレットを用いた場合には、糸曳き性が少なく、造形性に優れた大型の積層構造体を製造することができ、且つ、造形体を加熱脱脂した際に、変形やクラック・フクレの発生がほとんど観察されず、相対密度の高い(97%以上)焼結体を得ることができた。
【0056】
これに対して、表3~表4に示されるように、無機粉末(A)の質量を100とした場合の、有機バインダー(B)と有機化合物(C)〕の合計質量が5未満である場合(比較例1)は、流動性が悪く造形を行うことができず、30を超える場合(比較例2)は、糸曳き性が良くなく、且つ脱脂時に変形、クラック等の不具合が生じた。
また、熱可塑性樹脂(B1)を含有しない場合、即ち、(B1)、(B2)、(B3)を合わせた有機バインダー(B)と有機化合物(C)の合計量に対する熱可塑性樹脂(B1)の質量比率が0.05未満である場合(比較例3)には、脱脂時に変形が生じ易くなり、クラックやフクレの発生も少し観察され、(B1)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕の値が0.25を超える場合(比較例4)には、造形層間の密着性不良や冷却収縮が発生し易くなった。
さらに、熱可塑性樹脂(B1)に対する相溶化ポリマー(B2)の質量比率((B2)/(B1))が0.5未満である場合(比較例5)には、脱脂時の不具合が生じなかったが、造形層間の充分な密着性が得られず、(B2)/(B1)の値が15を超える場合(比較例6)には、糸曳き性が良くなかった。
また、有機化合物(C)を含有しない場合、即ち、(C)/〔(B1)+(B2)+(B3)+(C)〕の値が0.1未満である場合(比較例7)には、組成物の流動性が低下して造形を行うことができず、逆に、上記の値が0.5を超える場合(比較例8)には、造形層間の充分な密着性が得られず、脱脂時に変形が生じ、クラックが生じやすくなった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の組成物及び方法によれば、FDM方式の3次元プリンタを用いて大型積層造形物を製造することができ、造形時の自重による変形や、加熱脱脂時に生じる変形や不具合を効果的に抑制することが可能である。