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  • 特許-研磨パッド 図1
  • 特許-研磨パッド 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/22 20120101AFI20220816BHJP
   B24B 37/24 20120101ALI20220816BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B24B37/22
B24B37/24 E
H01L21/304 622F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018184750
(22)【出願日】2018-09-28
(65)【公開番号】P2020049639
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】柏田 太志
(72)【発明者】
【氏名】鳴島 さつき
(72)【発明者】
【氏名】高見沢 大和
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-045117(JP,A)
【文献】特開2004-311722(JP,A)
【文献】特開平09-268122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/22-37/24
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨層と基材層とが両面テープを介して積層されている研磨パッドであって、
前記基材層は樹脂を含浸してなる含浸不織布であり、
前記樹脂は添加剤として撥水剤を含み、顔料を含まない
ことを特徴とする研磨パッドであって、前記不織布はポリエチレン繊維からなる不織布であり、前記樹脂はポリウレタンであり、前記撥水剤は酢酸ジルコニウムである、研磨パッド
【請求項2】
前記顔料がカーボンブラックである、請求項に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記撥水剤の添加量が樹脂の重量を100重量%として0.5重量%以上である、請求項1~のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記不織布の密度が0.5g/cm以下であり、不織布の重量に対する付着させた樹脂の重量で表して樹脂の付着率が50%以上である、請求項1~のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記撥水剤の添加量が樹脂の重量を100重量%として0.7~1.5重量%であり、前記不織布の密度が0.5g/cm 以下であり、不織布の重量に対する付着させた樹脂の重量で表して樹脂の付着率が75~200%である、請求項1~4のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項6】
研磨層と基材層とが両面テープを介して積層されている研磨パッドの両面テープの剥離を防止する方法であって、請求項1~5のいずれかに記載の研磨パッドを提供する工程を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッドに関する。本発明の研磨パッドは、光学材料、半導体ウエハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板等の研磨に用いられ、特に半導体ウエハの上に酸化物層、金属層等が形成された半導体デバイスを研磨することに好適に用いられる。
【0002】
一般的に研磨パッドは、被研磨物と接触する研磨層と、研磨層を支持する基材層とを両面テープで貼り合わせた2層構造となっている。研磨工程では、研磨パッドの研磨面に研磨スラリーを供給し、被研磨物と研磨パッドとを相対移動させることで研磨を行うが、上記2層構造には、研磨スラリーが研磨パッドの外周側面から研磨層と基材層との間に浸透し、両面テープと基材層との間の剥離等の不良が起こるという欠点がある。この欠点を解決するために、特許文献1には下地層(基材層)の周側面に防水層を設けた研磨パッドが、特許文献2には下層(基材層)に撥水処理が施されている研磨パッドが、それぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-36097号公報
【文献】特開2004-311722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献記載の発明は、基材層に防水層を設ける工程や撥水処理を施す工程があるため、製造工程が増え製造コストが高くなってしまうという問題点があった。また、特許文献2の発明では、基材層表面に撥水処理を施すことにより、両面テープとの接着性が低下するという問題点があった。そこで、本発明は、製造工程を増やすことなく基材層への研磨スラリーの浸透を防ぐことが可能な研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、以下のものが提供される。
[1]
研磨層と基材層とが両面テープを介して積層されている研磨パッドであって、
前記基材層は樹脂を含浸してなる含浸不織布であり、
前記樹脂は添加剤として撥水剤を含み、顔料を含まない
ことを特徴とする研磨パッド。
[2]
前記撥水剤がジルコニウム化合物である、[1]に記載の研磨パッド。
[3]
前記撥水剤が酢酸ジルコニウムである、[1]に記載の研磨パッド。
[4]
前記顔料がカーボンブラックである、[1]~[3]のいずれかに記載の研磨パッド。
[5]
前記撥水剤の添加量が樹脂の重量を100重量%として0.5重量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の研磨パッド。
[6]
前記不織布の密度が0.5g/cm以下であり、樹脂の付着率が50%以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の研磨パッド。
【発明の効果】
【0006】
本発明の研磨パッドは、基材層の撥水性に優れ、基材層へのスラリー浸透を抑えることにより、両面テープと基材層間の剥離を防止することができる。本発明によれば、撥水処理のために製造工程を増やすことなく基材層への研磨スラリーの浸透を防ぐことが可能な研磨パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】研磨パッドへの水の染み込み試験に使用した装置と試験サンプル構成を示す図である。
図2】実施例及び比較例のサンプルの吸水率を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(作用)
本発明の特徴は、研磨層と基材層とが両面テープを介して積層されている研磨パッドにおいて、前記基材層は樹脂を含浸してなる含浸不織布で構成し、前記樹脂は添加剤として撥水剤を含むが顔料を含まないようにしたことである。従来、研磨パッドの基材層としては樹脂を含浸してなる含浸不織布が用いられており、含浸する樹脂には通常、着色や強度・耐候性上昇の目的でカーボンブラック等の顔料が添加されている。また、撥水性を付与するために撥水剤を添加する場合もあった。しかしながら、本発明者らは、樹脂に撥水剤を添加しているにもかかわらず研磨パッドの外周部から水が浸入する問題が起こる点に着目し、樹脂の添加剤の中に水の浸入を促進するもの(撥水剤の撥水性を阻害するもの)があると考えた。この考えに基づき、樹脂の添加剤を変更して研磨パッドの性能を検討したところ、撥水剤と顔料の組み合わせが外周部から水の浸入を促進している(撥水剤の撥水性を阻害している)ことを見出した。
【0009】
(撥水剤)
本発明において、撥水剤とは、樹脂に含有させることにより樹脂を含浸してなる含浸不織布表面の撥水性を向上させる効果を有するものをいい、例えば、フッ素系撥水剤、シリコン系撥水剤、炭化水素系撥水剤及び金属化合物系撥水剤などが挙げられる。これらの中でも、耐薬品性や樹脂との攪拌均一性等の観点から金属化合物系撥水剤が好ましく、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウムなどのジルコニウム化合物がより好ましく、酢酸ジルコニウムがさらに好ましい。撥水剤は1種を単独で用いてもよく、又2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0010】
前記撥水剤は、基材中に均一に存在することが望ましく、添加量としては、基材に含浸する樹脂の重量を100重量%として、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは0.7~1.5重量%である。樹脂の量に対して撥水剤が多すぎると両面テープとの剥離強度が落ちる傾向があり、少なすぎると所望の撥水性能を示さない傾向がある。
【0011】
(顔料)
本発明において、顔料とは着色や強度・耐侯性向上の目的で樹脂に添加するものをいい、具体的には、二酸化チタンや炭酸カルシウム、カーボンブラック等無機顔料やアゾ顔料や多環顔料等の有機顔料などが挙げられる。後述の通り、顔料と撥水剤を併用した場合に、顔料が撥水剤の撥水効果を抑制することを見出したため、本発明の研磨パッドの基材層には顔料を含まないことが特徴である。
【0012】
(基材)
本発明で使用する基材は、樹脂を含浸してなる含浸不織布で構成する。本実施形態における不織布は、特に限定されるものではなく、種々公知のものを採用できる。上記不織布の例としては、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系等の不織布を挙げることができる。また、不織布を得る際に繊維を交絡させる方法としても特に限定されず、例えば、ニードルパンチであってもよく、水流交絡であってもよい。不織布は上述した中から1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。不織布は本来繊維の間の隙間が多く吸水性に富むが、樹脂を含浸させることにより隙間が樹脂で満たされ吸水性が低下する。
【0013】
樹脂としては、好ましくは、ポリウレタン、ポリウレタンポリウレア等のポリウレタン系、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のアクリル系、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のビニル系、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のポリサルホン系、アセチル化セルロース、ブチリル化セルロース等のアシル化セルロース系、ポリアミド系及びポリスチレン系などが挙げられるが、本発明ではさらに樹脂に撥水剤を添加してこれらの樹脂の撥水性を高めている。前記不織布の密度は、樹脂含浸前の状態(ウェッブの状態)で、好ましくは0.3g/cm以下であり、より好ましくは0.1~0.2g/cmである。また、樹脂含浸後の不織布の密度は、好ましくは0.5g/cm以下であり、より好ましくは0.3~0.4g/cmである。不織布の密度が高すぎると加工精度が悪化する傾向があり、低すぎると比較的吸水しやすくなる傾向がある。不織布に対する樹脂の付着率は、不織布の重量に対する付着させた樹脂の重量で表され、好ましくは50%以上であり、より好ましくは75~200%である。樹脂の付着量が多すぎると基材としての所望のクッション性を示さなくなる傾向があり、少なすぎると研磨パッドが吸水してしまい本発明の効果が得られない。
【0014】
(研磨パッド)
本発明の研磨パッドは、発泡ポリウレタン樹脂からなる研磨層と基材層とが両面テープを介して積層されてなる。研磨層は被研磨材料に直接接する位置に配置され、基材層は樹脂を含浸してなる含浸不織布からなる。
【0015】
本発明の研磨パッドは、一般的な研磨パッドと同様に使用することができ、例えば、研磨パッドを回転させながら研磨層を被研磨材料に押し当てて研磨することもできるし、被研磨材料を回転させながら研磨層に押し当てて研磨することもできる。
【0016】
(研磨パッドの製造方法)
本発明の研磨パッドにおいて、研磨層は、一般に知られたモールド成形、スラブ成形等の製造法より作成できる。まずは、それら製造法によりポリウレタンのブロックを形成し、ブロックをスライス等によりシート状とし、ポリウレタン樹脂から形成される研磨層を成形し、基材に貼り合わせることによって製造される。
【0017】
より具体的には、研磨層は、研磨層の研磨面とは反対の面側に両面テープが貼り付けられ、所定形状にカットされて、本発明の研磨パッドとなる。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。
【0018】
研磨層は、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物を含むポリウレタン樹脂硬化性組成物を調製し、前記ポリウレタン樹脂硬化性組成物を硬化させることによって成形される。
【0019】
研磨層は発泡ポリウレタン樹脂から構成されるが、発泡は微小中空球体を含む発泡剤をポリウレタン樹脂中に分散させて行うことができ、この場合、ポリイソシアネート化合物、ポリオール化合物、及び発泡剤を含むポリウレタン樹脂発泡硬化性組成物を調製し、ポリウレタン樹脂発泡硬化性組成物を発泡硬化させることによって成形される。
【0020】
ポリウレタン樹脂硬化性組成物は、例えば、ポリイソシアネート化合物を含むA液と、それ以外の成分を含むB液とを混合して調製する2液型の組成物とすることもできる。それ以外の成分を含むB液はさらに複数の液に分割して3液以上の液を混合して構成される組成物とすることができる。
【0021】
ポリイソシアネート化合物が、当業界でよく用いられるような、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物との反応により調製されるプレポリマーを含んでもよい。プレポリマーは未反応のイソシアネート基を含む当業界で一般に使用されているものが本発明においても使用できる。
【0022】
(イソシアネート成分)
イソシアネート成分としては、例えば、
m-フェニレンジイソシアネート、
p-フェニレンジイソシアネート、
2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、
2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、
ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、
ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、
4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、
3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、
3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、
キシリレン-1,4-ジイソシアネート、
4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、
トリメチレンジイソシアネート、
ヘキサメチレンジイソシアネート、
プロピレン-1,2-ジイソシアネート、
ブチレン-1,2-ジイソシアネート、
シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、
シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、
p-フェニレンジイソチオシアネート、
キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、
エチリジンジイソチオシアネート
等が挙げられる。
【0023】
(ポリオール成分)
ポリオール成分としては、例えば、
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;
ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリエーテルポリオール;
エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール;
ポリカーボネートポリオール;
ポリカプロラクトンポリオール;
等が挙げられる。
【0024】
(硬化剤)
アミン系硬化剤:
本発明では、例えば、以下に説明するアミン系硬化剤を例示できる。
ポリアミンとしては、例えば、ジアミンが挙げられ、これには、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキレンジアミン;イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミンなどの脂肪族環を有するジアミン;3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(別名:メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)などの芳香族環を有するジアミン;2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するジアミン、特にヒドロキシアルキルアルキレンジアミン;等が挙げられる。また、3官能のトリアミン化合物、4官能以上のポリアミン化合物も使用可能である。
【0025】
その他の硬化剤:
アミン系硬化剤以外に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの低分子量ジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの高分子量のポリオール化合物などのポリオール硬化剤が挙げられる。
【0026】
(硬化剤の使用量)
研磨パッドの親水性は、硬化剤の化学構造と使用量によっても調節できる。硬化剤の量は、プレポリマーの末端に存在するイソシアネート基に対して、硬化剤に存在する活性水素基(アミノ基又は水酸基)が当量比で0.60~1.40とすることが好ましく、0.70~1.20がより好ましく、0.80~1.10がさらに好ましい。
【0027】
(気泡)
研磨層には、研磨特性を改善するための気泡等が形成されていてもよい。気泡は中空微粒子を用いた発泡、化学的発泡又は機械的発泡等を利用して形成することができ、湿式成膜法によって涙型気泡を形成してもよい。
【実施例
【0028】
本発明を以下の例により実験的に説明するが、以下の説明は、本発明の範囲が以下の例に限定して解釈されることを意図するものではない。
(材料)
以下の例で使用した材料を列挙する。
基材(樹脂を含浸した不織布):ポリエチレン繊維からなる不織布に、ポリウレタン樹脂を含浸させた後湿式凝固させ、洗浄・乾燥後、所定の厚みとなるようにバフィング処理を行ってクッション層とした。
樹脂:ウレタン樹脂(DIC社製、商品名「C1367」)
撥水剤:撥水剤を用いる場合は酢酸ジルコニウムを基材に含浸する樹脂に所定量混合した。
顔料:顔料を用いる場合はカーボンブラックを基材に含浸する樹脂に所定量混合した。
【0029】
<実施例1>
上述の樹脂100重量部に撥水剤として酢酸ジルコニウムを0.8重量部(即ち、樹脂の重量を100重量%として0.8重量%)添加し、顔料を添加しない含浸樹脂溶液に、密度0.150g/cmのポリエチレン繊維よりなる不織布を浸漬した。浸漬後、1対のローラ間を加圧可能なマングルローラを用いて樹脂溶液を絞り落として、不織布に樹脂溶液を略均一に含浸させた。次いで、室温の水からなる凝固液中に浸漬することにより、含浸樹脂を凝固再生させて樹脂含浸不織布を得た。その後、樹脂含浸不織布を凝固液から取り出し、さらに水からなる洗浄液に浸漬して、樹脂中のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を除去した後、乾燥させた。乾燥後、バフィング処理により表面のスキン層が除去された基材となる含浸不織布を得た。得られた基材となる含浸不織布の厚みは1.2mm、密度は0.31g/cmであった。また、樹脂の付着率は100%であった。
【0030】
<実施例2>
実施例1で用いた含浸樹脂溶液に、密度0.125g/cmのポリエチレン繊維よりなる不織布を浸漬し、マングルローラの圧力を調整し付着させる樹脂量を増やした以外は、実施例1と同様の方法で作製し、基材となる含浸不織布を得た。得られた基材となる含浸不織布の厚みは1.2mm、密度は0.34g/cmであった。また、樹脂の付着率は172%であった。
【0031】
<比較例1>
上述の樹脂100重量部に撥水剤及び顔料を添加しない含浸樹脂溶液とした以外は、実施例1と同様の方法で作製し、基材となる含浸不織布を得た。得られた基材となる含浸不織布の厚みは1.2mm、密度は0.31g/cmであった。また、樹脂の付着率は100%であった。
【0032】
<比較例2>
上述の樹脂100重量部に撥水剤を添加せず、顔料としてカーボンブラックを0.3重量部添加し、含浸樹脂溶液とした以外は、実施例1と同様の方法で作製し、基材となる含浸不織布を得た。得られた基材となる含浸不織布の厚みは1.2mm、密度は0.31g/cmであった。また、樹脂の付着率は100%であった。
【0033】
<比較例3>
上述の樹脂100重量部に撥水剤として酢酸ジルコニウムを0.8重量部添加し、顔料としてカーボンブラックを0.3重量部添加し、含浸樹脂溶液とした以外は、実施例1と同様の方法で作製し、基材となる含浸不織布を得た。得られた基材となる含浸不織布の厚みは1.2mm、密度は0.31g/cmであった。また、樹脂の付着率は100%であった。
【0034】
<比較例4>
ニッタ・ハース社製「SUBA400」基材を準備した。厚みは1.3mm、密度は0.38g/cmであった。
【0035】
(水の染み込み試験1)
各実施例・比較例の基材層となる樹脂含浸不織布について、水の染み込み試験を行った。
図1に示す簡易な試験機を用いて、基材層となる樹脂含浸不織布の上下に両面テープを貼り合わせ、研磨パッドに模した試験サンプルを作成し、外周部からの浸水を再現したテストを実施した。図1においてPETはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、両面テープの基材である。
図1に示す試験サンプルを回転定盤に貼り付け、浸漬させた状態で荷重による負荷を与え、研磨時の浸み込み具合を再現した。評価方法は外観と吸水率(重量)で行った。吸水率は、
式:[(湿潤時の重量(g))-(乾燥時の重量(g))]/(乾燥時の重量(g))
から求め、百分率で表示した。
・試験に用いた液体は酸性スラリーに中性洗剤を数滴入れたものを使用した。
【0036】
(試験結果1)
試験結果を表1及び図1に示す。
【表1】
【0037】
実施例と比較例1及び比較例2とを比べると、研磨パッド基材に撥水剤が存在しないと研磨パッドの吸水率が50%を超え極めて高くなることがわかる。さらに、実施例と比較例3とを比べると、研磨パッド基材に撥水剤が存在しても顔料が存在すると吸水率が有意に高くなる(28.5%)ことがわかる。さらに、比較例1と比較例2とを比べると、顔料が存在する場合(57.8%)は顔料が存在しない場合(65.6%)よりも吸水率が低くなっており、顔料が存在すると常に吸水率が高いとは限らず、撥水剤の有無によって顔料が吸水率に与える影響が変わることがわかる。市販の研磨パッド基材(比較例4)の吸水率は66.5%と非常に高く、当業界では、本発明のように撥水剤を含むが顔料を含まない研磨パッドが検討されていなかったことがわかる。以上の結果は各サンプルの外観にも示されている。即ち、実施例は吸水による表面の色の変化が無いが、比較例1及び他社品では吸水により周辺部から中心に向かって赤みがかった色の変化が観察された。このような色の変化はカーボンブラックを顔料として含む比較例2及び比較例3では、黒色の色の変化として明瞭に観察された。また、実施例1と実施例2を比較すると、不織布密度を下げ、樹脂含有量を上げた実施例2は実施例1よりもさらに吸水率を抑えられることが分かった。
図1
図2