(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】導電性樹脂およびこれを用いた超電導コイル
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20220816BHJP
H01F 6/06 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
H01B1/22 Z
H01F6/06 140
(21)【出願番号】P 2018188269
(22)【出願日】2018-10-03
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】宇都 達郎
(72)【発明者】
【氏名】大谷 安見
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-065098(JP,A)
【文献】特表2016-516611(JP,A)
【文献】特開2006-049106(JP,A)
【文献】特開2017-103352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01F 6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分と、
粒状の複数の第1の導電体と、
柱状の複数の第2の導電体と、を具備し、
前記複数の第2の導電体は、
非導電性の柔軟性のある基体と、前記基体を被覆する導電性材料と、を有し、少なくとも一部が
螺旋形状である
導電性樹脂。
【請求項2】
前記第2の導電体の前記基体は繊維状のナイロン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂の何れかから成る
請求項1記載の導電性樹脂。
【請求項3】
前記第1、第2の導電体は、AgおよびCuの少なくとも一方を含む
請求項1または2に記載の導電性樹脂。
【請求項4】
前記複数の第2の導電体中の
螺旋形状の導電体の割合が、10%以上である
請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項5】
前記第1、第2の導電体の密度(g/cm
3)の比が、0.1以上10以下である
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項6】
前記第1の導電体が、1μm以上10μm以下の径を有し、
前記第2の導電体が、5μm以上、50μm以下の径の柱体を有する
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項7】
前記
螺旋形状の導電体が、50μm以上、300μm以下の大径を有する
請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項8】
硬化後の抵抗率が、1×10
-3Ωm以下である
請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の導電性樹脂。
【請求項9】
軸の周りに巻き回された超電導線材を有する巻き線部材と、
前記巻き線部材の前記軸の方向の第1、第2の側面の少なくとも一方に配置された請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の導電性樹脂の硬化層と、
を具備する超電導コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は,導電性樹脂およびこれを用いた超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、発熱せずに、大電流の通電が可能な電磁石(マグネット)であり、大きな磁場を必要とする種々の用途に用いられる。特に、高温超電導体(例えば、Y系酸化物)は、金属系の超電導体に比べ、転移温度が高いため、これを用いた高温超電導コイルは、より効率的な運用が可能となる(効率的な冷却、小型化、高磁場)。
【0003】
超電導コイルは、熱暴走やクエンチによって破損する可能性がある。すなわち、コイル(超電導線材)の冷却不足や内部欠陥(例えば、層間剥離)の発生によって、超電導線材内に常伝導部(領域)が発生することがある。この常伝導部は、電流によって発熱し、極めて短い時間(1秒未満)で数100K温度が上昇する(ホットスポット)。
このため、常伝導部の発生を検知することで、熱暴走やクエンチを阻止することは困難である。特に、高温超電導体は、金属系の超電導体に比べて比熱が大きいため、常電導部の拡大が遅く、その検知前に、超電導線材が焼損する可能性が高い。
【0004】
ここで、超電導コイルの巻線部材の側面に迂回路を形成することで、熱暴走またはクエンチを抑制する技術が公開されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、熱暴走またはクエンチを効果的に抑制するのは必ずしも容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、導電性の良好な導電性樹脂、この導電性樹脂を用いて、熱暴走やクエンチの抑制を図った超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様に係る導電性樹脂は、樹脂成分と、粒状の複数の第1の導電体と、柱状の複数の第2の導電体と、を有する。複数の第2の導電体は、非導電性の柔軟性のある基体と、前記基体を被覆する導電性材料と、を有し、少なくとも一部が螺旋形状である。
【0008】
また、一態様に係る超電導コイルは、軸の周りに巻き回された超電導線材を有する巻き線部材と、上記巻き線部材の上記軸の方向の第1、第2の側面の少なくとも一方に配置された上記導電性樹脂の硬化層と、を具備する。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、導電性樹脂層への効率的な導電性付与が可能となる導電性樹脂を提供することができる。
さらに本実施形態によれば、熱暴走やクエンチの抑制を図った超電導コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る超電導コイル10の一部分解斜視図である。
【
図4】実施形態に係る導電性樹脂層13の拡大断面図である。
【
図5】比較例に係る導電性樹脂層13xの拡大断面図である。
【
図6】超電導コイル10の製造工程の一例を表すフロー図である。
【
図7】柱状導電体33bの一例の電子顕微鏡写真の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,図面を参照して,超電導コイルの実施形態を詳細に説明する。
図1、
図2は、実施形態に係る超電導コイル10の一部分解斜視図および断面図である。
図1は、導電性樹脂層13,側板14を分離した状態の超電導コイル10を表す。
図2は、
図1の軸Cに沿って切断した超電導コイル10を表す。
【0012】
超電導コイル10は、巻枠11,巻線部材12,導電性樹脂層13,側板14を有する。
巻枠11は、中心軸(軸)Cを有する略円筒形状をなし、巻線部材12を保持する。
巻線部材12は、超電導線材20を巻線部材12上に軸Cを中心とする同心円状に巻き回して構成される。超電導線材20が周方向θに巻き回され、径方向rに積層される。すなわち、巻枠11上の径方向rに1~nターン目の超電導線材20が順に積層される。このとき、超電導線材20の異なるターン間は、絶縁層25(例えば、絶縁樹脂)で絶縁される。
【0013】
導電性樹脂層13は、後述の導電性樹脂の層であり、異なるターン間での超電導線材20同士を電気的に接続させる。すなわち、超電導コイル10の使用中に巻線部材12中に常伝導部が生じた場合、導電性樹脂層13が電流を径方向rに迂回させる。この結果、常伝導部に流れる電流が低減し、超電導コイル10の熱暴走やクエンチの抑制が図られる。後述のように、本実施形態に係る導電性樹脂層13は、高い導電性(例えば、1×10-3Ωm以下、より好ましくは、1×10-4Ωm以下の抵抗率)を有し、電流を効果的に迂回できる。
導電性樹脂層13は、巻線部材12の軸C方向の両側(または片側)側面に塗布、硬化して形成される。
【0014】
側板14は、導電性樹脂層13を外界から保護するものであり、例えば、絶縁体から構成できる。
【0015】
図3は、超電導線材20の一部分解斜視図である。
超電導線材20は、基体層21,超電導層22,保護層23,安定化層24を有する。
【0016】
基体層21は、例えば、ニッケル基合金、ステンレスまたは銅などの高強度の金属から構成される。
超電導層22は、基体層21上に形成され、例えば、酸化物超電導体(イットリウム系超電導体:YBa2Cu3O7、ビスマス系超電導体:Bi2Sr2Ca2Cu3O10、REBCO:REBa2Cu3Oy)等の超電導体で構成される。
保護層23は、超電導層22に含まれる酸素が超電導層22から拡散することを防止して、超電導層22の特性の変動を防止する。
安定化層24は、基体層21,超電導層22,保護層23を被覆し、超電導層22への過剰通電電流の迂回経路となって熱暴走を防止する。
【0017】
なお、基体層21と超電導層22の間に、配向層、中間層を配置する等適宜の構成を採用できる。中間層は、基体層21と超電導層22の熱収縮の起因する熱歪みを緩和する。配向層は、中間層を基体層21の表面に配向させる
【0018】
(導電性樹脂層13の詳細)
以下、導電性樹脂層13の詳細を説明する。
図4は、実施形態に係る導電性樹脂層13の拡大断面図である。
【0019】
導電性樹脂層13は、樹脂硬化層31、粒状導電体32(粒状の複数の第1の導電体)、柱状導電体33(柱状の複数の第2の導電体)を有する。
樹脂硬化層31は、樹脂主剤、硬化剤、カップリング剤、分散剤を含む樹脂混合物を塗布、硬化した層である。
樹脂主剤は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
硬化剤は、室温、あるいは低温で低粘度の液状材料であり、樹脂主剤の硬化を促進する。
カップリング剤は、有機材料と反応結合する官能基,および無機材料と反応結合する官能基の双方を有する化合物,例えば、有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)であり、樹脂主剤の接着性を向上する。
分散剤は、例えば、無機材料の粒子であり、樹脂混合物に混合され(充填材)、樹脂硬化物の強度の向上が図られる。
【0020】
粒状導電体32、柱状導電体33は、少なくとも一部が導電性材料からなり、導電性樹脂層13内に分散され、導電性樹脂層13に導電性を付与する。後述のように、形状の異なる粒状導電体32、柱状導電体33を併用することで、導電性樹脂層13の導電性を向上できる。
【0021】
導電性材料として、金、銀、銅、これらを含む合金(例えば、Ag-Pd、Cu-Cr、Ag-Cu-Ni)を選択できる。
粒状導電体32、柱状導電体33は、同一材料、別材料のいずれとしても良い。例えば、粒状導電体32、柱状導電体33の双方をCu,Agのいずれか、または粒状導電体32、柱状導電体33の一方をCu,他方をAgとすることができる。
【0022】
粒状導電体32、柱状導電体33は、単一材料、複合材料のいずれでもよい。すなわち、粒状導電体32、柱状導電体33は、その全体を導電性材料(単一材料)とする他、非導電性の基材を導電性材料で被覆した複合材料としてもよい。
無機の非導電性材料として、ガラス、金属酸化物(例えば、アルミナ)が挙げられる。有機の非導電性材料として、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂が挙げられる。
非導電性材料の粒状体(粒子など)、柱状体(繊維、ファイバなど)にメッキ等の手段で導電性材料を被覆することで、粒状導電体32、柱状導電体33を形成できる。
【0023】
粒状導電体32は、粒状、例えば、球形状(真球形状、回転楕円体形状等)とできる。
柱状導電体33は、柱状(例えば、円柱形状)を有する。
ここで、少なくとも一部の柱状導電体33が直線状ではなく、何らかの平面または立体的な空間を規定する(例えば、空間を囲む)ように曲がっている(少なくとも一部が曲線状である)ことが好ましい。なお、この曲線状は、例えば、円弧形状または螺旋形状である。
【0024】
ここでは、
図4に示すように、導電性樹脂層13内に、直線状の柱状導電体33aに加えて、螺旋(スパイラル)状(渦を巻いている形状)の柱状導電体33bが存在する。この柱状導電体33は、1より大きなスパイラル回数を有し、略円柱形状の立体空間を囲んでいる。
ここで、柱状導電体33は、螺旋状に限らず、何らかの平面または立体的な空間を規定するように曲がっていればよい(例えば、円弧形状)。柱状導電体33は、略円柱形状に換えて、球形状の空間を囲んでもよい。また、柱状導電体33は、立体的な形状ではなく、円形等の平面的な空間、またはその一部を規定してもよい。
【0025】
柱状導電体33が適宜の空間の外周に配置されることで、その空間(柱状導電体33の占有空間)内に導電体が存在しなくても、導電性樹脂層13への効率的な導電性付与が可能となる。一本の柱状導電体33の全体またはその表面が導電性を有すれば、この柱状導電体33間の任意の箇所間での導電性が確保され、これが囲む空間(占有空間)に実質的に導電性を付与することになる。このような複数の柱状導電体33が電気的に接続することで、導電性樹脂層13への効率的な導電性の付与が可能となる。
このとき、粒状導電体32は、柱状導電体33間に介在し、柱状導電体33間の電気的接続をより確実にする。
以上のように、粒状導電体32と曲がった柱状導電体33の組み合わせによって、導電性樹脂層13への効率的な導電性付与が可能となる。
【0026】
ここで、柱状導電体33は、その一部が曲がっていれば足り、全ての柱状導電体33が曲がっている必要はない。
但し、後述のように、粒状導電体32と併用した場合でも、直線状の柱状導電体33aのみの場合(
図5参照)、導電性樹脂層13への十分な導電性の付与は、容易ではなかった。
【0027】
曲がった(曲線状の)柱状導電体33を効果ならしめるため、柱状導電体33全体に対する曲がった柱状導電体33の比率(本数の割合)は、好ましくは、10%以上、(より好ましくは、30%以上)である。ここでは、1ターン以上の柱状導電体33を曲がった柱状導電体33とすることにする。
【0028】
また、主として、硬化前の樹脂混合物の流動性の確保と硬化後の導電性樹脂層13の導電性の確保を両立する観点から、粒状導電体32、柱状導電体33の形状、数量は以下が好ましい。
粒状導電体32の径は、好ましくは1~10μm(より好ましくは、2~3μm)である。
柱状導電体33の径は、好ましくは5~50μm(より好ましくは10~20μm)である。
【0029】
ここで、粒状導電体32の径r1は、柱状導電体33の径r2(円柱状でない場合は、断面積を円周率で除して1/2乗の値とする)より小さいことが好ましい。複数の柱状導電体33の間に粒状導電体32が配置されて、複数の柱状導電体33間の導通を確保することを容易とするためである。具体的には、径r1とr2の比(=r2/r1)は、好ましくは2~30(さらに好ましくは5~15)である。
【0030】
柱状導電体33の長さは、好ましくは、100~1000μm(より好ましくは、200~500μm)である。
【0031】
螺旋形状の柱状導電体33の渦巻きの径(大径)Rは、好ましくは、50~300μm(より好ましくは、70~150μm)である。
【0032】
導電性樹脂層13に占める導電体全体(粒状導電体32と柱状導電体33)の重量は、好ましくは30~75重量%(より好ましくは45~60重量%)である。
このうち、導電性樹脂層13に占める粒状導電体32の重量は、好ましくは35~50重量%(より好ましくは25~40重量%)である。
導電性樹脂層13に占める柱状導電体33の重量は、好ましくは10~40重量%(より好ましくは15~30重量%)である。
【0033】
粒状導電体32と柱状導電体33を導電性樹脂層13中に均一に分散するために、これらの密度(g/cm3:単位体積当たりの質量)を適宜の値とすることが好ましい。硬化前、粒状導電体32と柱状導電体33は、液状の樹脂混合物中に浮いた状態で存在する。このため、粒状導電体32と柱状導電体33の密度が大きく異なると、個別の層を形成し、均一な分散が阻害される。
すなわち、粒状導電体32の密度d1と柱状導電体33の密度d2は、近いことが好ましい。これらの密度の比K(=d1/d2)は、好ましくは0.1~10(より好ましくは、0.25~4、さらに好ましくは、0.5~2)である。
【0034】
また、粒状導電体32の密度d1と柱状導電体33の密度d2は、液状の樹脂混合物の平均密度(g/cm3:単位体積当たりの平均質量)とある程度近く、好ましくは7g/cm3以下(より好ましくは、5g/cm3以下)である。
【0035】
以上の、粒状導電体32および柱状導電体33の形状、寸法、分量等は、例えば、電子顕微鏡での観察によって、測定可能である。
【0036】
(比較例)
図5は、比較例に係る導電性樹脂層13xの拡大断面図である。
導電性樹脂層13xは、粒状導電体32および柱状導電体33を含む。柱状導電体33は直線形状の柱状導電体33aのみであり、曲がった柱状導電体33(例えば、螺旋状の柱状導電体33b)を含まない。
後述の実施例に示すように、粒状導電体32を併用していても、直線形状の柱状導電体33aのみでは、導電性樹脂層13xに十分な導電性を付与することは困難であった。
【0037】
(超電導コイル10の製造方法)
以下、超電導コイル10の製造方法を説明する。
図6は、超電導コイル10の製造工程の一例を表すフロー図である。超電導コイル10は、次のようにして作成できる。
【0038】
(1)巻線部材12の作成(ステップS11)
巻枠11に超電導線材20を巻いて巻線部材12を作成する。
巻線部材12は、一般的に、巻枠11への巻回によって成形された後に、巻枠11ごとエポキシ樹脂などの絶縁材に含浸される(絶縁層25の形成)。
巻枠11に巻回されて隣接する複数の超電導線材20同士の間隙(線材間隙)に絶縁材が充填されるとともに、巻線部材12が絶縁材でコーティングされる。
【0039】
(2)導電性樹脂混合物の作成(ステップS12)
樹脂主剤、硬化剤、粒状導電体32、柱状導電体33を混合して、導電性樹脂混合物を作成する。このとき、柱状導電体33は略直線形状でもよい。次のように、混合後の攪拌によって、柱状導電体33を螺旋形状へと変形できる。
【0040】
例えば、自転・公転式の混合機を用いて、導電性樹脂混合物を攪拌する。すなわち、導電性樹脂混合物を容器に入れ、この容器内の軸Aを中心として回転しながら、この軸Aを他の軸Bを中心として回転させる。この結果、導電性樹脂混合物に容器内の軸Aを中心とする自転力、この軸Aが他の軸Bを中心に回転する公転力の2つの回転力が作用する。
この2つの回転力によって、直線状の柱状導電体33が変形し、
図7の電子顕微鏡写真に示すような曲線状(例えば、螺旋状)の柱状導電体33bを形成することができる。
【0041】
以上では、導電性樹脂混合物に2方向の回転力を同時に印加することで、その中の直線状の柱状導電体33aを曲線状の柱状導電体33bに変形している。
これに対して、予め曲線状の柱状導電体33を作成しておき、これを混合して導電性樹脂混合物としてもよい。例えば、曲線状の非導電性の柱体を作成し、この柱体に導電性物質を被覆することで、曲線状の柱状導電体33bを形成できる。
【0042】
(3)導電性樹脂層13の作成、側板14の取り付け(ステップS13,S14)
巻線部材12の側面に、混合、攪拌した導電性樹脂混合物を塗布し、側板14を取り付ける。
【0043】
(4)導電性樹脂層13の硬化(ステップS15)
その後、導電性樹脂層13を硬化させることで、超電導コイル10が作成される。このとき、必要に応じて、導電性樹脂層13を加熱してもよい。
【実施例】
【0044】
(実施例1、比較例1)
実施例1および比較例1につき説明する。
原料としてエポキシ樹脂、カップリング剤、分散剤、硬化剤、および導電性物質を使用した。導電性物質としては、球体(銅粉)の粒状導電体32と柱体(銀線材)の柱状導電体33を用いた。
【0045】
これらを所定の比率で秤量した。ここでは、エポキシ樹脂:カップリング剤:分散剤:硬化剤:粒状導電体32:柱状導電体33の体積比を40:20:1:1:19:19とした。
ここで、比較例1では、薬匙を使用して人力で1分間攪拌し、実施例1では自転・公転式の混合機で1分間攪拌した。すなわち、実施例1,比較例1は、攪拌の手段のみが異なる。
【0046】
これらを幅5mm、長さ50mmの型(溝)に塗布して硬化した。硬化後の導電性樹脂は、球体(銅粉)、柱体(銀線材)をそれぞれ、20.7重量%、35.1重量%含む。
【0047】
その後、硬化した樹脂混合物の体積抵抗率を四端子法で測定した。
比較例1では導通が確保できず、抵抗率を測定出来なかった。これに対し、実施例1では3.1×10-4Ωmの抵抗率が得られた。
【0048】
抵抗率測定後の断面を観察した。
比較例1では、柱状導電体33は、
図5に示すように、ほとんどが直線状の柱状導電体33aであった。これに対し、実施例1では、
図4に示すように、曲線状の柱状導電体33bが存在した。
【0049】
図7は、柱状導電体33bの一例の電子顕微鏡写真である。この柱状導電体33bは螺旋状に巻かれている。具体的には、直径が約14μm、螺旋の径(大径)Rが約210μm、長さが400μm、スパイラル回数2程度の螺旋状の柱状導電体33bを作成できた。
【0050】
以上の様に、導電性樹脂の抵抗率測定結果と観察結果から、曲線状の柱状導電体33bにより抵抗率(導電性)を改善できることが確認できた。
【0051】
(実施例2)
実施例1の粒状導電体32、柱状導電体33は、銅粉や銀線の単一材料から構成していたが、複合材料から構成してもよい。
実施例2では、アルミナ粉(粒子)の基材にCuを蒸着して球状の粒状導電体32を作成した。また、ナイロン繊維の基材にAgを電解メッキして柱状導電体33を作成した。
その他は、実施例1と同様に材料を混合し、自転・公転式の混合機で1分間攪拌した。
【0052】
硬化後の導電性樹脂層13の断面は
図4のようになっていた。導電性樹脂層13の抵抗率は2.9×10
-4Ωmと実施例1とほぼ同等であった(若干減少)。
これは、粒状導電体32、柱状導電体33による電気の導通が、基本的にその表面近傍で行われることによるものと考えられる。すなわち、粒状導電体32、柱状導電体33内の非導電性の基体が抵抗率に与える影響はそれほど大きくない。
【0053】
むしろ、柱状導電体33の基体に柔軟性のあるナイロンを用いたことで、柱状導電体33での接触抵抗が低減した可能性もある。
また、粒状導電体32、柱状導電体33を複合材料としたことで、Ag(貴金属)の使用を抑制でき、コストを低減できる。
【0054】
以上のように、粒状導電体32、柱状導電体33は、単一物質(純物質)である必要はなく、複合材料(酸化物や有機物の表面を導電性物質で被覆)でもほぼ同様の効果が得られた。
【0055】
実施例1、2では、粒状導電体32、柱状導電体33を構成する導電性材料に単一の金属(銅、銀)を用いたが、AgやCuを含む合金(例えば、Ag-Pd、Cu-Cr、Ag-Cu-Ni)を用いてもよい。
【0056】
(実施例3)
実施例3では、球状のガラス基材と繊維状のアクリル系樹脂基材の表面をそれぞれAgで被覆して、粒状導電体32および柱状導電体33を作成した。このとき、基材表面のAg量を調整して、粒状導電体32、柱状導電体33それぞれの密度d1,d2を3.0±0.3g/cm3および2.0±0.2g/cm3とした。
その他は、実施例1と同様に材料を混合し、自転・公転式の混合機で1分間攪拌した。
【0057】
硬化後の導電性樹脂層13の抵抗率は5.0×10-5Ωmと実施例1、2と比べて大きく減少した。
実施例3の導電性樹脂層13の断面を観察したところ、実施例2と異なることが判った。すなわち、実施例2では、粒状導電体32が柱状導電体33の下方に存在する傾向にあったのに対し、実施例3では粒状導電体32と柱状導電体33がより均一に分散していた。この均一性が抵抗率の低減に寄与したと考えられる。
【0058】
この均一性の相違は、粒状導電体32、柱状導電体33の密度d1,d2の相違によると考えられる。すなわち、実施例2では粒状導電体32、柱状導電体33それぞれの密度d1,d2は4.0g/cm3および1.6g/cm3であり、その比K(=d1/d2)は、2.5であった。これに対して、実施例3では密度の比Kは、1.5(=3.0/2.0)と、密度d1,d2は比較的近接している。
以上のように、密度の比Kが粒状導電体32と柱状導電体33の分散に影響を与えている。
【0059】
(超電導コイル10での試験)
実施例1~3の導電性樹脂を用いて超電導コイル10を作成、試験した。
ここでは、巻線部材12の側面の一方に導電性樹脂混合物を塗布、硬化して、導電性樹脂層13を有する超電導コイル10を作成した。その後、液体窒素雰囲気で超電導コイル10の過電流試験を実施した。この結果、超電導コイル10の導電性樹脂層13で電流の迂回が観察され、実施形態1~3の導電性樹脂の有効性を確認できた。
【0060】
以上のように、導電性樹脂の導電性物質を粒状(粒状導電体32)と柱体(柱状導電体33)で構成することにより、低抵抗率(高導電率)を有する導電性樹脂が得られる。またこの導電性樹脂を超電導コイルに使用することで、熱暴走やクエンチを抑制できる。
ここでは、導電性樹脂を超電導コイル10の電流迂回に用いている。しかし、本実施形態に係る導電性樹脂は、広範な用途を有し、超電導とは異なる他分野、例えば、半導体装置に用いることができる。
【0061】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが,これらの実施形態は,例として提示したものであり,発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は,その他の様々な形態で実施されることが可能であり,発明の要旨を逸脱しない範囲で,種々の省略,置き換え,変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は,発明の範囲や要旨に含まれるとともに,特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
10: 超電導コイル、11: 巻枠、12: 巻線部材、13: 導電性樹脂層、14: 側板、20: 超電導線材、21: 基体層、22: 超電導層、23: 保護層、24: 安定化層、25: 絶縁層、31: 樹脂硬化層、32: 粒状導電体、33(33a、33b): 柱状導電体