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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法及び積層造形物
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20220816BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220816BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220816BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B33Y10/00
B33Y80/00
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018200279
(22)【出願日】2018-10-24
(65)【公開番号】P2020066027
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 瑛介
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-266174(JP,A)
【文献】国際公開第2017/163431(WO,A1)
【文献】特開平05-345359(JP,A)
【文献】特開2007-275945(JP,A)
【文献】特表2018-529903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B33Y 10/00 - 99/00
B23K 9/032
B23K 26/34
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させ、前記溶着ビードの形成方向に沿い且つ前記溶着ビードと平行に配置される開口部を有して前記溶着ビードに囲まれる内部空間が形成された積層体を造形する積層造形工程と、
前記溶着ビードによって前記開口部の縁部を連結して閉塞させる閉塞壁部を形成する閉塞工程と、
を含み、
前記積層造形工程において、前記開口部を、前記溶着ビードのビード幅よりも大きな幅寸法で形成し、
前記閉塞工程において、前記ビード幅よりも大きな幅寸法の前記閉塞壁部を前記溶着ビードで形成して前記開口部を閉塞し、
前記閉塞工程において、前記溶着ビードを形成するトーチを、前記開口部を形成する前記溶着ビードの形成方向と直交する方向に、前記開口部の一端側における一方の縁部から前記開口部の他端側における他方の縁部までウィービングさせて前記閉塞壁部を形成する
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記積層造形工程において、
ベース上に前記溶着ビードを積層させて互いに対向する側壁部を造形し、
前記側壁部の上端から側方へ前記溶着ビードを積層させて前記開口部を有する連結壁部を造形する
請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
異なる幅寸法の複数の前記溶着ビードを形成して前記連結壁部を造形する
請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記連結壁部における前記開口部の縁部を、他の部分を造形する前記溶着ビードよりも小さいビード幅の幅狭溶着ビードを積層して造形する
請求項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層してなり、前記溶着ビードの形成方向に沿い且つ前記溶着ビードと平行に配置される開口部を有して前記溶着ビードに囲まれる内部空間が形成された積層体と、
前記溶着ビードを形成するトーチを前記溶着ビードの形成方向と直交する方向に前記開口部の一端側における一方の縁部から前記開口部の他端側における他方の縁部までウィービングさせて前記開口部を閉塞する閉塞壁部と
を備え、
前記開口部は、前記溶着ビードのビード幅よりも大きな幅寸法を有し、
前記閉塞壁部は、前記溶着ビードから形成されて前記溶着ビードのビード幅よりも大きな幅寸法を有する
積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法及び積層造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
このような造形物を溶接で造形する技術として、溶接方向に対してトーチを左右に揺動させて溶接するウィービング溶接を行うことが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
また、造形物を造形する際に、サポート材によって造形物を支持することで、内部空間を有する造形物やオーバーハング形状を有する造形物を製造する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-10938号公報
【文献】特開2004-17088号公報
【文献】特開2017-193776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、サポート材で支持しながら造形物を造形する場合、造形物の造形後にサポート材を除去しなければならず、その除去作業に手間を要する。しかも、造形物の内部空間が閉空間であったり狭隘な空間であったりすると、サポート材を取り出す工具がサポート材に届かず、サポート材の除去が困難となる。なお、造形物の内部空間が狭隘な空間であっても、開空間であれば、流動性を有する粉末や樹脂をサポート材として用いることでサポート材の除去が可能である。しかし、流動性を有するサポート材は取り扱い性がよくないため、やはり除去作業に手間を要する。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、内部空間を有する造形物を容易に製造することが可能な積層造形物の製造方法及び積層造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記構成からなる。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させ、前記溶着ビードの形成方向に沿う開口部を有する内部空間が形成された積層体を造形する積層造形工程と、
前記溶着ビードによって前記開口部の縁部を連結して閉塞させる閉塞壁部を形成する閉塞工程と、
を含み、
前記積層造形工程において、前記開口部を、前記溶着ビードよりも大きな幅寸法で形成し、
前記閉塞工程において、前記溶着ビードの幅寸法よりも大きな幅寸法の前記閉塞壁部を前記溶着ビードで形成して前記開口部を閉塞する
積層造形物の製造方法。
(2) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層してなり、前記溶着ビードの形成方向に沿う開口部を有する内部空間が形成された積層体と、
前記開口部を閉塞する閉塞壁部と
を備え、
前記開口部は、前記溶着ビードよりも大きな幅寸法を有し、
前記閉塞壁部は、前記溶着ビードから形成されて前記溶着ビードの幅寸法よりも大きな幅寸法を有する
積層造形物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部空間を有する造形物を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】積層造形物の製造に用いる製造装置の構成図である。
図2A】積層造形物の構造を示す積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図2B】積層造形物の構造を示す積層造形物の概略平面図である。
図3】積層造形物の製造方法における積層造形工程を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図4】積層造形物の製造方法における積層造形工程を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図5】積層造形物の製造方法における閉塞工程を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図6A】積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図6B】積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図6C】積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図7A】積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の概略平面図である。
図7B】積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の概略平面図である。
図7C】積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の概略平面図である。
図8】積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の概略平面図である。
図9】閉塞工程の参考例を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図10】閉塞工程の参考例を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図11】他の構造の積層造形物を示す積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
図12】変形例に係る積層造形物の製造方法を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物の製造方法が適用される製造システムの模式的な概略構成図である。
【0012】
本構成の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ15と、を備える。
【0013】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17を有する溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。トーチ17は、溶加材Mを先端から突出した状態に保持する。
【0014】
コントローラ15は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、これらが接続される制御部37と、を有する。
【0015】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ17は、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0016】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。本構成で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物Wに応じて適宜選定される。
【0017】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビード25が形成される。
【0018】
なお、溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。
【0019】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層造形物Wの形状データを作成した後、複数の層に分割して各層の形状を表す層形状データを生成する。軌道演算部33は、生成された層形状データに基づいてトーチ17の移動軌跡を求める。記憶部35は、生成された層形状データやトーチ17の移動軌跡等のデータを記憶する。
【0020】
制御部37は、記憶部35に記憶された層形状データやトーチ17の移動軌跡に基づく駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ15からの指令により、軌道演算部33で生成したトーチ17の移動軌跡に基づき、溶加材Mをアークで溶融させながらトーチ17を移動する。
【0021】
上記構成の製造システム100は、設定された層形状データから生成されるトーチ17の移動軌跡に沿って、トーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら、溶加材Mを溶融させ、溶融した溶加材Mをベース20上に供給する。これにより、ベース20の上面に複数の線状の溶着ビード25を積層させた積層造形物Wが造形される。
【0022】
次に、本例で製造する積層造形物Wについて説明する。
図2Aは積層造形物の構造を示す積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。図2Bは積層造形物の構造を示す積層造形物の概略平面図である。
【0023】
図2A及び図2Bに示すように、積層造形物Wは、ベース20上に溶着ビード25を積層することで造形される。
【0024】
積層造形物Wは、ベース20と、側壁部W1と、連結壁部W2と、閉塞壁部W3とを有している。側壁部W1は、互いに対向するようにベース20上に立設されている。連結壁部W2は、それぞれの側壁部W1の上端から互いに近接する側方へ延在されている。連結壁部W2は、開口部Oを有しており、この開口部Oは、閉塞壁部W3によって閉塞されている。これにより、積層造形物Wは、ベース20と、側壁部W1と、連結壁部W2と、閉塞壁部W3と、で囲われた内部空間Sを有している。
【0025】
次に、本構成の製造システム100により積層造形物Wを造形する手順について詳述する。
図3及び図4は積層造形物の製造方法における積層造形工程を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。図5は積層造形物の製造方法における閉塞工程を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。図6A図6Cは積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。図7A図7C及び図8は積層造形物の製造方法における閉塞工程の手順を説明する積層造形物の概略平面図である。
【0026】
(積層造形工程)
まず、図3に示すように、トーチ17によってベース20上に形成方向A(図2参照)に沿って溶着ビード25を形成して積層させ、互いに対向する側壁部W1を造形する。
【0027】
次に、図4に示すように、側壁部W1の上端から側方へ溶着ビード25を積層させる。そして、側壁部W1の上部に、溶着ビード25の形成方向Aに沿う開口部Oを有する連結壁部W2を造形する。これにより、開口部Oを有する内部空間Sが形成された積層体を造形する。このとき、図2A及び図2Bに示すように、開口部Oは、その形成方向Aと直交する方向の幅寸法HAを、溶着ビード25の幅寸法HBよりも大きくする。
【0028】
(閉塞工程)
次に、連結壁部W2に形成した開口部Oに閉塞壁部W3を形成し、この閉塞壁部WS3によって開口部Oを閉塞する。この開口部Oの閉塞工程では、図5に示すように、トーチ17を開口部Oの幅方向(図5中矢印B方向)へウィービングさせて溶着ビード25を形成し、閉塞壁部W3を造形する。
【0029】
具体的には、まず、図6A及び図7Aに示すように、開口部Oの一端O1側における一方の縁部Oaを開始端とする。そして、図6B及び図7Bに示すように、この開始端にトーチ17を配置させ、この開始端からトーチ17によって溶着ビード25の形成を開始する。その後、トーチ17を開口部Oの他方の縁部Obへ向かって移動させ、溶着ビード25を他方の縁部Obへ向かって形成する。図6C及び図7Cに示すように、トーチ17を開口部Oの他方の縁部Obに移動させ、溶着ビード25を開口部Oの他方の縁部Obに到達させたら、図8に示すように、トーチ17を開口部Oの他端O2側へ変位させ、開口部Oの一方の縁部Oaへ向かって移動させる。これにより、溶着ビード25を開口部Oの形成方向Aに重なるように形成する。その後、トーチ17のウィービングによる溶着ビード25の形成を開口部Oの他端O2まで繰り返す。これにより、トーチ17をウィービングすることで形成した溶着ビード25からなる閉塞壁部W3を開口部Oに造形し、この閉塞壁部W3によって開口部Oを閉塞させる。
【0030】
上記の積層造形工程及び閉塞工程によって、ベース20上に側壁部W1が立設され、これらの側壁部W1の上部が連結壁部W2及び閉塞壁部W3で閉ざされた内部空間Sを有する積層造形物Wが造形される。
【0031】
以上、説明したように、本発明の積層造形物の製造方法によれば、ベース20と、ベース20上に造形した互いに対向する側壁部W1と、これらの側壁部W1の上端を連結する連結壁部W2と、連結壁部W2の開口部Oを閉塞する閉塞壁部W3とで囲われた内部空間Sを有する積層造形物Wを製造することができる。これにより、サポート材を用いて内部空間を形成する場合と比較し、手間を要するサポート材の除去作業を行うことなく、内部空間Sを有する積層造形物Wを容易に製造することができる。
【0032】
ここで、図9に示すように、開口部Oが溶着ビード25の幅寸法HBより狭いと、この開口部Oに形成した溶着ビード25が開口部Oの下端まで到達せず、開口部Oの閉塞が不十分となって内面形状が悪化して開口部Oの縁部Oa,Ob同士の接合強度が低下するおそれがある。また、図10に示すように、開口部Oの幅寸法HAを広げて、単に形成方向Aへ溶着ビード25を形成した場合、溶着ビード25の溶融金属が突き抜けて溶け落ちてしまうおそれがある。
【0033】
これに対して、本発明の積層造形物の製造方法によれば、開口部Oを、溶着ビード25よりも大きな幅寸法HAで形成し、溶着ビード25の幅寸法HBよりも大きな幅寸法の閉塞壁部W3を溶着ビード25で形成して開口部Oを閉塞することで、開口部Oを閉塞壁部W3で厚さ方向に埋めて閉塞することができ、しかも、開口部Oにおける溶融金属が突き抜けて溶け落ちてしまうような不具合を抑制できる。つまり、開口部Oを溶着ビード25からなる閉塞壁部W3で良好に閉塞し、内部空間Sを有する高強度な積層造形物Wを製造することができる。
【0034】
特に、トーチ17をウィービングさせることで溶着ビード25からなる幅広の閉塞壁部W3を形成するので、溶着ビード25よりも広い幅寸法HAの開口部Oを良好に閉塞し、内部空間Sを有する高強度な積層造形物Wを製造することができる。
【0035】
なお、上記の構成例では、閉塞壁部W3を形成して閉塞する開口部Oを連結壁部W2の幅方向の中央位置に形成したが、図11に示すように、一方の側壁部W1の上端と、他方の側壁部W1の上端から積層させた連結壁部W2の縁部との間に開口部Oを形成し、この開口部Oを閉塞壁部W3で閉塞してもよい。
【0036】
次に、変形例について説明する。
図12は変形例に係る積層造形物の製造方法を説明する積層造形物の形成方向に直交する方向の概略断面図である。
【0037】
図12に示すように、変形例では、連結壁部W2を、溶着ビード25と、この溶着ビード25に対して異なる幅寸法の幅狭溶着ビード25Aとで造形する。具体的には、連結壁部W2における開口部Oの縁部Oa,Obを、他の部分を造形する溶着ビード25よりも小さい幅寸法の幅狭溶着ビード25Aを積層することで造形する。なお、この幅狭溶着ビード25Aは、他の部分を造形する溶着ビード25よりも幅寸法を小さくすることで、厚みも小さくされる。
【0038】
そして、この連結壁部W2に形成した開口部Oに、トーチ17をウィービングさせて溶着ビード25を形成して閉塞壁部W3を造形し、開口部Oを閉塞させる。
【0039】
この変形例によれば、異なる幅寸法の複数の溶着ビード25、幅狭溶着ビード25Aを形成して連結壁部W2を造形することで、閉塞壁部W3で閉塞させる開口部Oの幅寸法HAを閉塞壁部W3による閉塞に適した幅寸法に容易に調整することができる。特に、開口部Oの縁部Oa,Obを、幅寸法の小さい幅狭溶着ビード25Aを積層して造形すれば、閉塞壁部W3で閉塞させる開口部Oの幅寸法HAを微調整することができ、開口部Oの幅寸法HAを閉塞壁部W3による閉塞により適した幅寸法にできる。
【0040】
なお、上記構成例では、内部空間Sの両端が開放した積層造形物Wを造形したが、積層造形工程において、側壁部W1の両端部分に溶着ビード25を積層して積層造形物Wの両端を塞ぐ壁部を造形すれば、内部空間Sが閉空間とされた積層造形物Wを容易に造形することができる。
【0041】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0042】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させ、前記溶着ビードの形成方向に沿う開口部を有する内部空間が形成された積層体を造形する積層造形工程と、
前記溶着ビードによって前記開口部の縁部を連結して閉塞させる閉塞壁部を形成する閉塞工程と、
を含み、
前記積層造形工程において、前記開口部を、前記溶着ビードよりも大きな幅寸法で形成し、
前記閉塞工程において、前記溶着ビードの幅寸法よりも大きな幅寸法の前記閉塞壁部を前記溶着ビードで形成して前記開口部を閉塞する
積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、溶着ビードを積層させて造形した積層体の開口部に、溶着ビードによって閉塞壁部を形成して閉塞することで、内部空間を有する積層造形物を製造する。これにより、サポート材を用いて内部空間を形成する場合と比較し、手間を要するサポート材の除去作業を行うことなく、容易に製造することができる。
しかも、開口部を、溶着ビードよりも大きな幅寸法で形成し、溶着ビードの幅寸法よりも大きな幅寸法の閉塞壁部を溶着ビードで形成して開口部を閉塞することで、開口部を閉塞壁部で厚さ方向に埋めて閉塞することができ、しかも、開口部における溶融金属が突き抜けて溶け落ちてしまうような不具合を抑制できる。これにより、開口部を溶着ビードからなる閉塞壁部で良好に閉塞し、内部空間を有する高強度な積層造形物を製造することができる。
【0043】
(2) 前記閉塞工程において、前記溶着ビードを形成するトーチをウィービングさせて前記閉塞壁部を形成する
(1)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、トーチをウィービングさせて閉塞壁部を形成することで、溶着ビードよりも広い幅寸法の開口部を良好に閉塞し、内部空間を有する高強度な積層造形物を製造することができる。
【0044】
(3) 前記積層造形工程において、
ベース上に前記溶着ビードを積層させて互いに対向する側壁部を造形し、
前記側壁部の上端から側方へ前記溶着ビードを積層させて前記開口部を有する連結壁部を造形する
(1)または(2)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、ベースと、ベース上に造形した互いに対向する側壁部と、これらの側壁部の上端を連結する連結壁部と、連結壁部の開口部を閉塞する閉塞壁部とで囲われた内部空間を有する高強度な積層造形物を容易に製造することができる。
【0045】
(4) 異なる幅寸法の複数の前記溶着ビードを形成して前記連結壁部を造形する
(3)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、異なる幅寸法の複数の溶着ビードを形成して連結壁部を造形することで、閉塞壁部で閉塞させる開口部の幅寸法を閉塞壁部による閉塞に適した幅寸法に容易に調整することができる。
【0046】
(5) 前記連結壁部における前記開口部の縁部を、他の部分を造形する前記溶着ビードよりも小さい幅寸法の幅狭溶着ビードを積層して造形する
(4)に記載の積層造形物の製造方法。
この積層造形物の製造方法によれば、開口部の縁部を幅寸法の小さい幅狭溶着ビードを積層して造形することで、閉塞壁部で閉塞させる開口部の幅寸法を微調整することができ、開口部の幅寸法を閉塞壁部による閉塞により適した幅寸法にできる。
【0047】
(6) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層してなり、前記溶着ビードの形成方向に沿う開口部を有する内部空間が形成された積層体と、
前記開口部を閉塞する閉塞壁部と
を備え、
前記開口部は、前記溶着ビードよりも大きな幅寸法を有し、
前記閉塞壁部は、前記溶着ビードから形成されて前記溶着ビードの幅寸法よりも大きな幅寸法を有する
積層造形物。
この積層造形物によれば、溶着ビードを積層してなる積層体の開口部が溶着ビードからなる閉塞壁部によって閉塞されて内部空間が形成された積層造形物を提供できる。
【符号の説明】
【0048】
20 ベース
25 溶着ビード
25A 幅狭溶着ビード
A 形成方向
HA 幅寸法
HB 幅寸法
M 溶加材
O 開口部
Oa,Ob 縁部
S 内部空間
W 積層造形物
W1 側壁部
W2 連結壁部
W3 閉塞壁部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12