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  • 特許-車軸ケース構造 図1
  • 特許-車軸ケース構造 図2
  • 特許-車軸ケース構造 図3
  • 特許-車軸ケース構造 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】車軸ケース構造
(51)【国際特許分類】
   B60B 35/16 20060101AFI20220816BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20220816BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B60B35/16 D
B23K9/00 501C
B23K9/02 D
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018200469
(22)【出願日】2018-10-25
(65)【公開番号】P2020066341
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390001579
【氏名又は名称】プレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘幸
【審査官】岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-143352(JP,A)
【文献】実開平03-126292(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/16
B23K 9/00
B23K 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向の中央において上下方向に膨出された膨出部、及び該膨出部の後側に設けられた開口を有する車軸ケースと、該開口を覆って該車軸ケースに溶接されたカバーと、を備える車軸ケース構造であって、
前記カバーは、半球殻状のカバー本体と、該カバー本体の外周に一体形成されたフランジ部と、該フランジ部の外縁に一体形成され前記車軸ケースから離間するように曲げられたリップ部とを有するものであって、前記フランジ部が前記車軸ケースに接触した状態で、該リップ部が該車軸ケースにフレア溶接された車軸ケース構造において、
前記リップ部は、該リップ部の端面であって、前記フランジ部が前記車軸ケースに接触する面と略平行に延在する頂面を有し、前記カバー本体の板厚をT、前記フランジ部が前記車軸ケースに接触する面から前記頂面に至る前記リップ部の高さをHとするとき、T≦H≦2×Tの関係を満たし、
フレア溶接の溶接ビードが、前記頂面の少なくとも一部を覆う形状であることを特徴とする車軸ケース構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸ケースとカバーとを溶接によって接合した、車軸ケース構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トラック駆動軸等を収容するものとして、車幅方向の中央において上下方向に膨出された膨出部を有するとともに、膨出部の後側に設けられた開口を有する車軸ケースと、この開口を覆って車軸ケースに溶接されたカバーと、を備える車軸ケース構造が知られている(例えば特許文献1、2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-261833号公報
【文献】特開2000-247104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような車軸ケースを例えば大型トラックに搭載した場合、走行時における車両の加減速や方向転換の他、路面から受ける反力などによって車軸ケースとカバーとの溶接部に大きな負荷がかかると、溶接部における最も強度の低い部分に応力が集中し、その部分に亀裂が発生するおそれがある。またその亀裂が進展すると、車軸ケース内の潤滑油が漏れるおそれもある。
【0005】
このような溶接部での亀裂を防止する方法として、一般に、カバーの板厚を厚くすることによって溶接部の「のど厚」を大きくし、これによって溶接部の強度を高めることが考えられる。図4は従来の車軸ケース構造について例示したものであって、車軸ケース20に対してカバー21のフランジ部22を、隅肉溶接によって取り付けている。ここで、本図において二点鎖線で示すように、カバー21の板厚を厚くすることによって隅肉溶接の溶接ビード23を大きくすれば、「のど厚」を増大させることは可能である。しかし、カバー21の板厚を厚くすることによって重量が増すため、近年求められている軽量化のニーズに反することになる。
【0006】
一方、特許文献1の図1には、カバー部材32のフランジ部32aを段差状に折り曲げることによって段差部3を設け、これによって溶接ビード5の盛りしろを大きくして、接合部6の有効高さを高くした溶接部構造が示されている。このような溶接部構造によれば、カバー部材32の板厚を厚くすることなく接合部6の「のど厚」を増すことができる。しかし、同文献の図1に示されているようにカバー部材32の内側では、車軸ケースを構成する上部材30及び下部材31とフランジ部32aとの間に隙間が形成されている。すなわち、カバー部材32を上部材30及び下部材31に隅肉溶接する際、溶接条件の変動や部材の位置ずれ等によって溶接ビード5がこの隙間にまで至ると溶け落ちが生じ、溶接欠陥につながるおそれがある。このため、このような溶接部構造においては、溶接条件の変動や部材の位置ずれ等が許容範囲を超えないように、厳密に管理する必要がある。
【0007】
また特許文献2の図4には、アクスルケース10に溶接されるギアカバー30について、底部32の厚さに対して側壁部34の厚さを厚くしたものが示されている。しかし、側壁部34の厚さが厚くなることから重量の増大が免れない。
【0008】
本発明はこのような問題点を解決することを課題とするものであり、カバーの板厚を厚くすることなく溶接部における亀裂を抑制することができ、また、車軸ケースにカバーを溶接する際の溶接欠陥の発生を抑制することができる車軸ケース構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、車幅方向の中央において上下方向に膨出された膨出部、及び該膨出部の後側に設けられた開口を有する車軸ケースと、該開口を覆って該車軸ケースに溶接されたカバーと、を備える車軸ケース構造であって、前記カバーは、半球殻状のカバー本体と、該カバー本体の外周に一体形成されたフランジ部と、該フランジ部の外縁に一体形成され前記車軸ケースから離間するように曲げられたリップ部とを有するものであって、前記フランジ部が前記車軸ケースに接触した状態で、該リップ部が該車軸ケースにフレア溶接された車軸ケース構造において、前記リップ部は、該リップ部の端面であって、前記フランジ部が前記車軸ケースに接触する面と略平行に延在する頂面を有し、前記カバー本体の板厚をT、前記フランジ部が前記車軸ケースに接触する面から前記頂面に至る前記リップ部の高さをHとするとき、T≦H≦2×Tの関係を満たし、フレア溶接の溶接ビードが、前記頂面の少なくとも一部を覆う形状であることを特徴とする車軸ケース構造である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車軸ケース構造においては、カバーに設けたリップ部によって、カバーの剛性を向上させることができる。これにより、そのカバーを溶接してなる車軸ケース構造の全体の剛性も高まるため、走行時における溶接部に生じる変形量も小さくなって亀裂発生のおそれを低減することができる。またリップ部は、フランジ部の外縁において車軸ケースから離間するように曲げられて形成されていて、車軸ケースとカバーとはフレア溶接で接合されるため、溶接ビードの余盛りが増えて溶接部周辺の剛性を更に高めることができる。従って、亀裂発生のおそれを一層低減することができる。加えて、車軸ケースとカバーとは、フランジ部が車軸ケースに接触した状態で溶接されるため、フランジ部と車軸ケースとの間に隙間を設けていた従来の構造に比して、溶接条件の変動や部材の位置ずれ等をそれ程厳密に管理しなくても、溶接欠陥に陥る事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に従う車軸ケース構造の一実施形態につき、その分解状態を示す斜視図である。
図2図1の実施形態における車軸ケースとカバーとの溶接部周辺を示した部分拡大図である。
図3図2の実施形態に対し、更にカバーの裏側に溶接を追加した例を示した部分拡大図である。
図4】従来の車軸ケースとカバーとの溶接部周辺を示した部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明に従う車軸ケース構造の一実施形態について説明する。図1に示すように本実施形態の車軸ケース構造は、車軸ケース1、リング2、及びカバー3で構成されている。
【0015】
本実施形態の車軸ケース1は、平板状の板金をプレス加工によって所定の形状にした上側ケース4と下側ケース5を溶接によって接合した、板金溶接組立構造となるものである。ここで上側ケース4は、断面形状が下方を開放した溝形になるものであって、車幅方向の中央には上側膨出部6を有し、上側膨出部6の前方及び後方には、上方に向けて凹状になる前方上側凹部7と後方上側凹部8を有している。また下側ケース5は、断面形状が上方を開放した溝形になるものであって、車幅方向の中央には下側膨出部9を有し、下側膨出部9の前方及び後方には、下方に向けて凹状になる前方下側凹部10と後方下側凹部11を有している。そして上側ケース4と下側ケース5を向き合わせて溶接(突合わせ溶接)し、車軸ケース1としている。
【0016】
このような車軸ケース1には、上側膨出部6と下側膨出部9が組み合わさることによって、車幅方向の中央において上下方向に膨出する膨出部12が形成される。なお膨出部12には、不図示のディファレンシャルギヤ機構が収容される。また車軸ケース1の中央前方には、前方上側凹部7と前方下側凹部10が組み合わさることによって前方開口部13が形成され、中央後方には、後方上側凹部8と後方下側凹部11が組み合わさることによって後方開口部14が形成される。
【0017】
上述したリング2は、車軸ケース1にディファレンシャルギヤ機構のギヤケースを取り付けるにあたって補強部材として機能するものであって、前方開口部13の周囲に溶接して車軸ケース1に接合される。またカバー3は、ディファレンシャルギヤ機構の潤滑油等が収容される車軸ケース1を密閉するべく、後方開口部14の周囲に溶接される。
【0018】
ここでカバー3は、図1図2に示すように、半球殻状のカバー本体15と、カバー本体15の外周に一体形成された平坦円環状のフランジ部16と、フランジ部16の外縁に一体形成され、車軸ケース1から離間するように曲げられて曲げ部17が設けられたリップ部18と、を有するものである。そして、フランジ部16を車軸ケース1に全面的に接触させた状態で、後方開口部14を囲繞するように曲げ部17と車軸ケース1とをフレア溶接することにより、車軸ケース1とカバー3とを接合している。本実施形態においては、図2に示すように溶接ビード19が、リップ部18における頂面20の一部を覆うようにフレア溶接されている。
【0019】
このような構成になる本実施形態の車軸ケース構造によれば、カバー3にリップ部18を設けているため、従来のカバーに比して剛性を向上させることができ、それに伴い、このカバー3を溶接してなる車軸ケース構造の全体の剛性も高めることができる。加えて、後方開口部14を囲繞するように延在するリング状の溶接ビード19が補強部材のように機能するため、車軸ケース構造の剛性をより高めることができる。これにより、車両走行時に車軸ケース1とカバー3との溶接部に生じる変形量を小さくすることができるため、溶接部に亀裂が発生するおそれを低減することができる。そして、車軸ケース1とカバー3とはフレア溶接により接合されていて、従来の隅肉溶接に比して溶接ビード19の余盛りが増えるため、溶接部周辺の剛性を更に高めることができ、亀裂発生のおそれを一層低減することができる。特に本実施形態においては、溶接ビード19がリップ部18の頂面20の一部を覆うようにフレア溶接されていて、従来に比して溶接ビード19の余盛りが確実に増えることになるため、溶接ビード19による補強部材としての機能をより高めることができる。
【0020】
なおカバー3において、リップ部18の高さがカバー本体15の板厚よりも小さい場合は、カバー3の剛性を十分に高めることができないうえ、溶接ビード19の余盛りをそれ程増やすことができないことから、溶接ビード19による補強部材としての機能が十分に発揮されるとはいえない。また、リップ部18の高さがカバー本体15の板厚の2倍を超えると、カバー3の重量増加が顕著になり、軽量化の要請を満足することができない。このためカバー3の剛性を十分に高めるとともに重量増加を最小限に抑えるには、図2に示すように、カバー本体15の板厚をT、リップ部18の高さをHとするとき、T<H≦2×Tの関係を満たすことが好ましい。
【0021】
更に車軸ケース1とカバー3は、図3に示すように後方開口部14付近において隅肉溶接による裏溶接部21で接合されていてもよい。これによりカバー3は、前述のフレア溶接によって外縁が接合されるとともに、この隅肉溶接によって内縁も接合されることになるため、亀裂発生のおそれが一段と低減できる。
【0022】
以上、本発明に従う車軸ケース構造の一実施形態について説明したが、本実施形態は一例に過ぎず、本発明には特許請求の範囲に従う範疇で種々の変更を加えたものも含まれる。例えば本実施形態の車軸ケース1は、上側ケース4と下側ケース5を溶接によって接合した板金溶接組立構造となるものであったが、例えば鋳造によって当初から一体的に形成してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1:車軸ケース
3:カバー
12:膨出部
14:後方開口部(開口)
15:カバー本体
16:フランジ部
17:曲げ部
18:リップ部
19:溶接ビード
20:頂面
図1
図2
図3
図4