(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離回収システム及び方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20220816BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20220816BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20220816BHJP
B01D 53/83 20060101ALI20220816BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20220816BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20220816BHJP
【FI】
B01D53/14 100
B01D53/62 ZAB
B01D53/82
B01D53/83
B01D53/96
C01B32/50
(21)【出願番号】P 2018204311
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 経済産業省「CO2分離回収技術の研究開発事業/先進的二酸化炭素固体吸収材実用化研究開発事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 信
(72)【発明者】
【氏名】山田 秀尚
(72)【発明者】
【氏名】余語 克則
(72)【発明者】
【氏名】西部 祥平
(72)【発明者】
【氏名】田中 一雄
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 克浩
(72)【発明者】
【氏名】奥村 雄志
(72)【発明者】
【氏名】沼口 遼平
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-150464(JP,A)
【文献】特開2006-298707(JP,A)
【文献】特開2015-181964(JP,A)
【文献】特開2018-051554(JP,A)
【文献】国際公開第2011/013332(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/00-53/96
C01B 32/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の二酸化炭素吸着材が流入した吸着容器と、
前記吸着容器へ二酸化炭素を含む処理対象ガスを供給する処理対象ガス供給ラインと、
前記二酸化炭素吸着材と接触することによって二酸化炭素が吸着除去された前記処理対象ガスを前記吸着容器から排出する処理ガス排出ラインと、
前記吸着容器で二酸化炭素を吸着した前記二酸化炭素吸着材が流入した再生容器と、
前記再生容器へ過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ラインと、
前記二酸化炭素吸着材と接触した前記過熱蒸気と当該二酸化炭素吸着材から離脱した二酸化炭素とを含む回収ガスを前記再生容器から排出する二酸化炭素回収ラインと、
前記再生容器で二酸化炭素が離脱した前記二酸化炭素吸着材を前記吸着容器へ移送する移送装置とを備え、
前記再生容器内の前記過熱蒸気の圧力が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度での飽和水蒸気圧以下の所定圧力である、
二酸化炭素分離回収システム。
【請求項2】
粒子状の二酸化炭素吸着材が充填された処理容器と、
前記処理容器へ二酸化炭素を含む処理対象ガスを供給する処理対象ガス供給ラインと、
前記二酸化炭素吸着材と接触することによって二酸化炭素が吸着除去された前記処理対象ガスを前記処理容器から排出する処理ガス排出ラインと、
前記処理容器へ過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ラインと、
前記二酸化炭素吸着材と接触した前記過熱蒸気と当該二酸化炭素吸着材から離脱した二酸化炭素とを含む回収ガスを前記処理容器から排出する二酸化炭素回収ラインと、
前記処理容器に前記処理対象ガス供給ライン及び前記処理ガス排出ラインが接続された状態と、前記処理容器に前記過熱蒸気供給ライン及び二酸化炭素回収ラインが接続された状態とに切り替える切替装置とを備え、
前記処理容器内の前記過熱蒸気の圧力が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度での飽和水蒸気圧以下の所定圧力である、
二酸化炭素分離回収システム。
【請求項3】
前記二酸化炭素回収ラインが、前記回収ガス中の水分を凝縮する凝縮器を有する、
請求項1又は2に記載の二酸化炭素分離回収システム。
【請求項4】
前記二酸化炭素回収ラインが、前記回収ガスを圧縮する圧縮ポンプと、圧縮された前記回収ガスを貯留する二酸化炭素ホルダとを有し、前記圧縮ポンプが前記吸着容器内又は前記処理容器内を前記所定圧力となるように強制吸気する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離回収システム。
【請求項5】
前記過熱蒸気の温度が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度よりも高い、
請求項1~4のいずれか一項に記載の二酸化炭素分離回収システム。
【請求項6】
粒子状の二酸化炭素吸着材と二酸化炭素を含む処理対象ガスとを接触させて、前記処理対象ガスに含まれる二酸化炭素を前記二酸化炭素吸着材に吸着させるステップと、
二酸化炭素を吸着した前記二酸化炭素吸着材と過熱蒸気とを接触させて、前記二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を離脱させることにより当該前記二酸化炭素吸着材を再生するとともに、離脱した二酸化炭素を回収するステップとを含み、
前記二酸化炭素吸着材と接触させる前記過熱蒸気の飽和温度が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度以下であり、
再生した前記二酸化炭素吸着材を、乾燥工程を経ることなく再び二酸化炭素の吸着に利用する、
二酸化炭素分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸着材を用いて処理対象ガス中の二酸化炭素を分離及び回収する二酸化炭素分離回収技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二酸化炭素吸着材を用いて処理対象ガス中の二酸化炭素を分離及び回収する二酸化炭素分離回収システムが知られている。例えば、特許文献1には、この種の二酸化炭素分離回収システムが開示されている。
【0003】
特許文献1の二酸化炭素分離回収システムは、二酸化炭素吸着材が、吸着塔、再生塔、乾燥塔、及び冷却塔の順に連続的に移送される移動層方式のシステムである。吸着塔では、吸着材と二酸化炭素を含む処理対象ガスとが接触させられ、処理対象ガス中の二酸化炭素が吸着材に吸着される。再生塔では、二酸化炭素を吸着した吸着材と飽和蒸気とが接触させられ、吸着材から二酸化炭素が離脱する。離脱した二酸化炭素は、二酸化炭素ホルダに貯留される。乾燥塔では、再生塔で飽和蒸気の凝縮水が付着した吸着材が、加熱により乾燥される。冷却塔では、乾燥した吸着材が二酸化炭素吸着に適した温度まで冷却される。冷却された吸着材は、コンベヤによって吸着塔へ戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような二酸化炭素分離回収システムの処理対象ガスの一例として、二酸化炭素を含む産業排ガスが挙げられる。このような排ガスの処理に関しては、とりわけ、設備費用及び運転費用の削減、並びに、消費エネルギーの削減が要求される。このような観点で、上記特許文献1の二酸化端分離回収システムは改善の余地が残されている。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、二酸化炭素分離回収技術において、特許文献1に記載された従来のシステムと比較して、設備費用及び運転費用の削減を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1では、二酸化炭素吸着材の再生のために、再生容器(再生塔)には負圧の飽和蒸気が供給される。飽和蒸気は吸着材の表面で凝縮し、その際に凝縮熱を放出する。この凝縮熱は、吸着材から二酸化炭素が離脱するためのエネルギーとして利用される。しかし、このような二酸化炭素吸着材の再生方法では、吸着材の表面に凝縮水が付着することから、再生容器の下流側に吸着材を乾燥させる乾燥塔が必要となる。乾燥塔では、処理容器やその付帯設備(例えば、送風機及び加熱装置など)の設置のために設備費用が嵩むうえ、大きな消費エネルギーのために運転費用が嵩む。なお、従来のシステムにおいて、吸収塔や再生塔と比較して乾燥塔のサイズが大きいことから、乾燥塔はシステム全体のサイズに与える影響が大きい。更に、乾燥塔で乾燥された吸着材は、二酸化炭素吸着反応に適した温度より高温となるため、乾燥塔の下流側には吸着材を冷却する冷却塔が必要となる。従って、二酸化炭素分離回収システムの設備費用及び運転費用の削減を実現するためには、従来のシステムが備える乾燥塔及び冷却塔を省略又は小型化することが効果的である。
【0008】
そこで、本願の発明者らは、特許文献1の二酸化炭素分離回収システムとは異なる二酸化炭素吸着材の再生方法を採用することにより、吸着材の表面に付着する凝縮水を低減して、従来のシステムが備える乾燥塔及び冷却塔を省略又は小型化することに想到した。
【0009】
本発明の一態様に係る二酸化炭素分離回収システムは、
粒子状の二酸化炭素吸着材が流入した吸着容器と、
前記吸着容器へ二酸化炭素を含む処理対象ガスを供給する処理対象ガス供給ラインと、
前記二酸化炭素吸着材と接触することによって二酸化炭素が吸着除去された前記処理対象ガスを前記吸着容器から排出する処理ガス排出ラインと、
前記吸着容器で二酸化炭素を吸着した前記二酸化炭素吸着材が流入した再生容器と、
前記再生容器へ過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ラインと、
前記二酸化炭素吸着材と接触した前記過熱蒸気と当該二酸化炭素吸着材から離脱した二酸化炭素とを含む回収ガスを前記再生容器から排出する二酸化炭素回収ラインと、
前記再生容器で二酸化炭素が離脱した前記二酸化炭素吸着材を前記吸着容器へ移送する移送装置とを備え、
前記再生容器内の前記過熱蒸気の圧力が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度での飽和水蒸気圧以下の所定圧力であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の別の一態様に係る二酸化炭素分離回収システムは、
粒子状の二酸化炭素吸着材が充填された処理容器と、
前記処理容器へ二酸化炭素を含む処理対象ガスを供給する処理対象ガス供給ラインと、
前記二酸化炭素吸着材と接触することによって二酸化炭素が吸着除去された前記処理対象ガスを前記処理容器から排出する処理ガス排出ラインと、
前記処理容器へ過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ラインと、
前記二酸化炭素吸着材と接触した前記過熱蒸気と当該二酸化炭素吸着材から離脱した二酸化炭素とを含む回収ガスを前記処理容器から排出する二酸化炭素回収ラインと、
前記処理容器に前記処理対象ガス供給ライン及び前記処理ガス排出ラインが接続された状態と、前記処理容器に前記過熱蒸気供給ライン及び二酸化炭素回収ラインが接続された状態とに切り替える切替装置とを備え、
前記処理容器内の前記過熱蒸気の圧力が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度での飽和水蒸気圧以下の所定圧力であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る二酸化炭素分離回収方法は、
粒子状の二酸化炭素吸着材と二酸化炭素を含む処理対象ガスとを接触させて、前記処理対象ガスに含まれる二酸化炭素を前記二酸化炭素吸着材に吸着させるステップと、
二酸化炭素を吸着した前記二酸化炭素吸着材と過熱蒸気とを接触させて、前記二酸化炭素吸着材から二酸化炭素を離脱させることにより当該前記二酸化炭素吸着材を再生するとともに、離脱した二酸化炭素を回収するステップとを含み、
前記二酸化炭素吸着材と接触させる前記過熱蒸気の飽和温度が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度以下であり、
再生した前記二酸化炭素吸着材を、乾燥工程を経ることなく再び二酸化炭素の吸着に利用することを特徴とする。
【0012】
上記二酸化炭素分離回収システム及び方法では、二酸化炭素吸着材を再生するために、二酸化炭素吸着材と過熱蒸気とを接触させる。ここで、過熱蒸気の二酸化炭素分圧(二酸化炭素濃度)は、二酸化炭素吸着材の表面の二酸化炭素分圧(二酸化炭素濃度)と比較して著しく低い。この二酸化炭素分圧の差が駆動力となって、二酸化炭素吸着材に吸着されている二酸化炭素は過熱蒸気中に拡散する。これにより、二酸化炭素吸着材から二酸化炭素が離脱し、二酸化炭素吸着材が再生される。
【0013】
上記において、二酸化炭素吸着材と接触した過熱蒸気の飽和温度が二酸化炭素の吸着材の温度以下であることから、二酸化炭素吸着材の表面で蒸気の凝縮が生じない、又は、蒸気の凝縮が生じたとしても凝縮量が抑制される。よって、二酸化炭素吸着材の表面に付着する凝縮水量を抑えることができる。加えて、凝縮熱による二酸化炭素吸着材の昇温を抑えることができる。更に、過熱蒸気は飽和蒸気と比較して相対湿度が低いことから、二酸化炭素吸着材の表面に付着する凝縮水は更に効果的に低減される。
【0014】
上記のように、再生後の二酸化炭素吸着材の表面に付着している凝縮水量を抑えることができるので、二酸化炭素吸着材の乾燥のために従来のシステムが備えていた乾燥塔(及び冷却塔)を省略、又は、小型化することができる。つまり、従来のシステムで大きな割合を占めていた乾燥塔(及び冷却塔)に係る設備費用及び運転費用を抑えることができる。これにより、二酸化炭素分離回収システムの設備費用及び運転費用の削減を実現することができる。
【0015】
上記二酸化炭素分離回収システムにおいて、前記二酸化炭素回収ラインが、前記回収ガス中の水分を凝縮する凝縮器を有していてよい。
【0016】
上記二酸化炭素分離回収システムでは、過熱蒸気供給ラインを通じて再生容器へ供給された水分は、二酸化炭素吸着材の表面で凝縮せずに、その殆どが二酸化炭素回収ラインに流出する。そのため、二酸化炭素回収ラインに流入する回収ガスには多くの水分が含まれる。この水分の一部又は全部は、凝縮器によって凝縮されて回収ガスから除去されるので、回収ガスの二酸化炭素濃度を高めることができる。
【0017】
上記二酸化炭素分離回収システムにおいて、前記二酸化炭素回収ラインが、前記回収ガスを圧縮する圧縮ポンプと、圧縮された前記回収ガスを貯留する二酸化炭素ホルダとを有し、前記圧縮ポンプが前記処理容器内を前記所定圧力となるように強制吸気してよい。
【0018】
これにより、回収ガスに含まれる二酸化炭素を高濃度で二酸化炭素ホルダに回収できるうえに、二酸化炭素吸着材と接触する過熱蒸気の圧力を所定圧力に調整することができる。
【0019】
上記二酸化炭素分離回収システムにおいて、前記過熱蒸気の温度が、当該過熱蒸気と接触する前記二酸化炭素吸着材の温度よりも高くてよい。
【0020】
これにより、供給する蒸気量が一定であれば、過熱蒸気の絶対温度が高くなるに従って、過熱蒸気の湿度が低くなることから、二酸化炭素吸着材の表面での蒸気の凝縮量を抑えることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、二酸化炭素分離回収技術において、従来のシステムが備える乾燥塔及び冷却塔の削減又は小型化により、設備費用及び運転費用の削減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る二酸化炭素分離回収システムの全体的な構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態に係る二酸化炭素分離回収システムの全体的な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る二酸化炭素分離回収システムでは、粒子状の二酸化炭素吸着材(以下、単に「吸着材」と称する)と二酸化炭素を含む処理対象ガスとを接触させることにより、二酸化炭素を吸着材に吸着させる処理と、二酸化炭素を吸着した吸着材と過熱蒸気とを接触させることにより、吸着材から二酸化炭素を離脱(脱着)させて吸着材を再生する処理とが行われる。吸着材から離脱した二酸化炭素は回収される。
【0024】
処理対象ガスは、例えば、燃焼排ガスである。吸着材は、例えば、アミン化合物を担持する多孔性物質である。多孔性物質としては、活性炭、活性アルミナなどを用いることができる。以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態及び第2実施形態を説明する。
【0025】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る二酸化炭素分離回収システム1Aの全体的な構成を示すブロック図である。
図1に示す二酸化炭素分離回収システム1Aは、移動層方式の複数の処理容器(吸着容器3及び再生容器4)を備えたシステムである。
【0026】
二酸化炭素分離回収システム1Aは、吸着容器3と、再生容器4と、処理対象ガス供給ライン5と、処理ガス排出ライン6と、過熱蒸気供給ライン7と、二酸化炭素回収ライン8と、移送装置9とを備える。
【0027】
吸着容器3には、移送装置9によって搬送されてくる吸着材10が、上部入口から所定の供給速度で供給される。吸着容器3の上方に吸着材10を一時的に収容するホッパ(図示せず)を設け、このホッパを介して吸着容器3へ吸着材10が供給されてもよい。吸着容器3では、吸着材10が上部入口から供給されるとともに下部出口から排出されることによって、吸着材10が上から下へ向かって所定の速度で移動する。
【0028】
吸着容器3の下部には、処理対象ガス供給ライン5が接続されている。処理対象ガス供給ライン5は、処理対象ガス源51から吸着容器3へ送給される処理対象ガスが流れる流路50と、この流路50に設けられた送風機52及び減温塔53とを含む。二酸化炭素を含む処理対象ガスは、処理対象ガス源51から送風機52によって吸着容器3へ送られる。減温塔53では、処理対象ガスが二酸化炭素吸着反応に適切な温度まで冷却される。
【0029】
吸着容器3には、上向きに流れる処理対象ガスと下向きに移動する吸着材10とが連続的に接触する向流式の移動層が形成される。処理対象ガスと吸着材10とが接触すると、吸着材10が処理対象ガス中の二酸化炭素を選択的に吸着する。その際の吸着材10の温度は、例えば、40℃である。
【0030】
吸着容器3の上部には、処理ガス排出ライン6が接続されている。処理ガス排出ライン6は、吸着容器3から排出された処理ガスが流れる流路60と、この流路60に設けられた加温器61及びフィルタ62とを含む。吸着材10と接触することによって二酸化炭素が吸着除去された処理対象ガス(即ち、処理ガス)は、処理ガス排出ライン6へ流れ出て、加温器61で白煙抑制の為に加温され、フィルタ62で粉塵が除去されたのち、大気へ放出される。
【0031】
吸着容器3の下方には、再生容器4が配置されており、吸着容器3の下部出口と再生容器4の上部入口との間は、ロックホッパ等の圧力切替装置(図示略)を介して接続されている。再生容器4には、吸着容器3から排出された吸着材10が上部入口から自重によって流入する。再生容器4では、二酸化炭素を吸着した吸着材10が上から下へ向かって所定の速度で移動する。
【0032】
再生容器4の下部には、過熱蒸気供給ライン7が接続されている。過熱蒸気供給ライン7は、過熱蒸気発生装置71と、過熱蒸気発生装置71から再生容器4へ過熱蒸気を送る流路70とを含む。過熱蒸気発生装置71で生成された過熱蒸気は、再生容器4の下部へ供給される。再生容器4には、上向きに流れる過熱蒸気と下向きに移動する吸着材10とが連続的に接触する向流式の移動層が形成される。
【0033】
再生容器4において、吸着材10と接触する過熱蒸気の二酸化炭素分圧(二酸化炭素濃度)は、吸着材10の表面の二酸化炭素分圧(二酸化炭素濃度)と比較して著しく低い。この二酸化炭素分圧の差が駆動力となって、吸着材10に吸着されている二酸化炭素は過熱蒸気中に拡散する。このように、過熱蒸気の二酸化炭素分圧と吸着材10の表面の二酸化炭素分圧との差を駆動力として吸着材10から二酸化炭素が離脱し、吸着材10が再生される。
【0034】
再生容器4の上部には、二酸化炭素回収ライン8が接続されている。二酸化炭素回収ライン8は、二酸化炭素ホルダ83と、再生容器4から二酸化炭素ホルダ83へ送られる回収ガスが流れる流路80と、流路80に設けられた凝縮器81及び圧縮ポンプ82とを含む。回収ガスは、吸着材10から離脱した二酸化炭素と過熱蒸気とを含むガスである。回収ガスは、圧縮ポンプ82による強制吸気によって、再生容器4から二酸化炭素回収ライン8へ流出する。回収ガスに含まれる水分は凝縮器81で凝縮除去される。水分が除去された回収ガスは、圧縮ポンプ82で圧縮されることによって、高濃度の二酸化炭素となって、二酸化炭素ホルダ83に回収される。
【0035】
なお、再生容器4内の圧力は、再生容器4に設けられた圧力計85で検出される。検出された圧力が後述する所定圧力となるように、圧縮ポンプ82によって再生容器4内が強制吸気される。つまり、吸着材10と接触する過熱蒸気の圧力は、圧縮ポンプ82の稼働によって所定圧力に調整される。圧縮ポンプ82の回転数は、手動で調整されてもよいし、図示されない制御装置によって、圧力計85で検出された圧力値が所定圧力となるように制御されてもよい。
【0036】
再生された吸着材10は、再生容器4の下部出口から排出され、移送装置9によって吸着容器3の入口へ戻される。移送装置9は、例えば、コンベヤであってよい。移送装置9による移送中に、吸着材10の温度は放熱により低下し、吸着容器3における二酸化炭素の吸着温度である約40℃まで低下する。但し、移送装置9の搬送中に吸着材10が吸着温度まで低下しない場合には、移送装置9の途中に冷却槽(図示せず)が設けられてもよい。
【0037】
以上の通り、二酸化炭素分離回収システム1Aは、粒子状の吸着材10が流入した吸着容器3と、吸着容器3へ二酸化炭素を含む処理対象ガスを供給する処理対象ガス供給ライン5と、吸着材10と接触することによって二酸化炭素が吸着除去された処理対象ガスを吸着容器3から排出する処理ガス排出ライン6と、吸着容器3で二酸化炭素を吸着した吸着材10が流入した再生容器4と、再生容器4へ過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ライン7と、吸着材10と接触することによって当該吸着材10から離脱した二酸化炭素を含んだ過熱蒸気を再生容器4から排出する二酸化炭素回収ライン8と、再生容器4で二酸化炭素が離脱した吸着材10を吸着容器3へ移送する移送装置9とを備える。
【0038】
また、上記構成の二酸化炭素分離回収システム1Aで実施される二酸化炭素分離回収方法は、粒子状の吸着材10と二酸化炭素を含む処理対象ガスとを接触させて、処理対象ガスに含まれる二酸化炭素を吸着材10に吸着させるステップと、二酸化炭素を吸着した吸着材10と過熱蒸気とを接触させて、吸着材10から二酸化炭素を離脱させることにより当該吸着材10を再生するとともに、離脱した二酸化炭素を回収するステップとを含み、再生した吸着材10を、乾燥工程を経ることなく再び二酸化炭素の吸着に利用する。
【0039】
そして、二酸化炭素分離回収システム1Aは、再生容器4内の過熱蒸気の圧力は、過熱蒸気と接触する吸着材10の温度での飽和水蒸気圧以下の所定圧力であることを特徴としている。同様に、二酸化炭素分離回収システムは、吸着材10と接触させる過熱蒸気の飽和温度が、当該過熱蒸気と接触する吸着材10の温度以下であることを特徴としている。なお、「過熱蒸気と接触する吸着材10の温度」は、再生容器4内の吸着材10の平均温度、再生容器4の上部入口の吸着材10の温度、又は、再生容器4の上下中間位置の吸着材10の温度であってよい。また、過熱蒸気の飽和温度の下限値は、特に限定されるわけではないが、吸着材10の乾燥効率を考慮して、過熱蒸気と接触する吸着材10の温度よりも15℃程度低い温度に設定されてよい。
【0040】
例えば、再生容器4内の吸着材10の温度が約60℃である場合に、飽和温度が約50℃であって約70℃の過熱蒸気を吸着材10と接触させる。そのために、再生容器4内を絶対圧力で約12KPaとなるように圧縮ポンプ82で減圧するとともに、過熱蒸気発生装置71で乾き飽和蒸気を更に熱して約70℃の過熱蒸気を発生させる。なお、過熱蒸気の温度は、再生容器4に供給される過熱蒸気の温度であってよい。
【0041】
また、例えば、再生容器4内の吸着材10の温度が約60℃である場合に、飽和温度が約60℃であって約70℃の過熱蒸気を吸着材10と接触させる。そのために、再生容器4内を絶対圧力で約20KPaとなるように圧縮ポンプ82で減圧するとともに、過熱蒸気発生装置71で乾き飽和蒸気を更に熱して約70℃の過熱蒸気を発生させる。
【0042】
上記のように、吸着材10と接触した過熱蒸気の飽和温度が吸着材10の温度以下であることから、吸着材10の表面で蒸気の凝縮が生じない、又は、凝縮が生じたとしても凝縮量が抑制される。よって、吸着材10の表面に付着する凝縮水量を抑えることができる。加えて、凝縮熱による吸着材10の昇温を抑えることができる。
【0043】
なお、過熱蒸気の温度は、当該過熱蒸気と接触する吸着材10よりも高いことが望ましい。過熱蒸気の温度の上限値は、特に限定されるわけではないが、過熱蒸気の生成エネルギーや圧縮ポンプ82の稼働エネルギー、及び、再生後の吸着材10の温度を考慮して、過熱蒸気と接触する吸着材10の温度よりも20~30℃程度高い温度に設定されてよい。
【0044】
また、過熱蒸気は飽和蒸気と比較して相対湿度が低いことから、吸着材10の表面に付着する凝縮水は効果的に低減される。供給する蒸気量が一定であれば、過熱蒸気の絶対温度が高くなるに従って過熱蒸気の湿度が低くなることから、上記のように過熱蒸気の温度を当該過熱蒸気と接触する吸着材10よりも高くすることによって、二酸化炭素吸着材の表面での蒸気の凝縮量を更に効果的に抑えることができる。
【0045】
このように、再生後の吸着材10の表面に付着している凝縮水量を抑えることができるので、吸着材10の乾燥のために従来のシステムが備えていた乾燥塔(及び冷却塔)を省略、又は、小型化することができる。つまり、従来のシステムで大きな割合を占めていた乾燥塔(及び冷却塔)に係る設備費用及び運転費用を抑えることができる。これにより、二酸化炭素分離回収システム1Aの設備費用及び運転費用の削減を実現することができる。
【0046】
なお、上記二酸化炭素分離回収システム1Aでは、過熱蒸気供給ライン7を通じて再生容器4に供給された水分は、吸着材10の表面で凝縮せずに、その殆どが二酸化炭素回収ライン8に流出する。そのため、二酸化炭素回収ライン8に流入する回収ガスには多くの水蒸気が含まれる。そこで、二酸化炭素回収ライン8が、回収ガス中の水分を凝縮する凝縮器81を有している。この凝縮器81によって、二酸化炭素回収ライン8に流入する回収ガスの水分の一部又は全部が除去される。その結果、二酸化炭素ホルダ83に回収される回収ガスの二酸化炭素濃度を高めることができる。更に、水分が低減された回収ガスが圧縮ポンプ82へ流入するので、圧縮ポンプ82の負荷変動を抑え、安定した運転を行うことができる。
【0047】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図2は、本発明の第2実施形態に係る二酸化炭素分離回収システム1Bの全体的な構成を示すブロック図である。なお、第2実施形態の説明においては、前述の第1実施形態と同一又は類似の部材には、図面に同一の符号を付すことによって詳細な説明を省略する。
【0048】
図2に示す二酸化炭素分離回収システム1Bは、固定層方式の処理容器30を備えたシステムである。二酸化炭素分離回収システム1Bでは、単一の処理容器30で、二酸化炭素を吸着材10に吸着させる処理と、吸着材10から二酸化炭素を離脱させて吸着材10を再生する処理とが行われる。
【0049】
二酸化炭素分離回収システム1Bは、粒子状の吸着材10が充填された処理容器30と、処理容器30へ二酸化炭素を含む処理対象ガスを供給する処理対象ガス供給ライン5と、吸着材10と接触することによって二酸化炭素が吸着除去された処理対象ガスを処理容器30から排出する処理ガス排出ライン6と、処理容器30へ過熱蒸気を供給する過熱蒸気供給ライン7と、吸着材10と接触した過熱蒸気と当該吸着材10から離脱した二酸化炭素とを含む回収ガスを処理容器30から排出する二酸化炭素回収ライン8とを備える。
【0050】
処理対象ガス供給ライン5及び過熱蒸気供給ライン7は、処理容器30の下部と選択的に接続される。また、処理ガス排出ライン6及び二酸化炭素回収ライン8は、処理容器30の上部と選択的に接続される。
【0051】
二酸化炭素分離回収システム1Bは、処理容器30に処理対象ガス供給ライン5及び処理ガス排出ライン6が接続された状態と、処理容器30に過熱蒸気供給ライン7及び二酸化炭素回収ライン8が接続された状態とに切り替える切替装置90を、更に備える。
【0052】
本実施形態に係る切替装置90は、処理容器30と処理対象ガス供給ライン5、処理ガス排出ライン6、過熱蒸気供給ライン7、及び二酸化炭素回収ライン8の各ラインとの接続部に設けられた切替弁91,92,93,94と、この切替弁91,92,93,94を開閉動作させる切替制御装置95とを含む。但し、切替装置90の態様は、本実施形態に限定されない。例えば、切替弁91,92,93,94に代えて、手動切替弁が設けられてもよい。
【0053】
上記構成の二酸化炭素分離回収システム1Bでは、処理容器30に処理対象ガス供給ライン5及び処理ガス排出ライン6が接続された状態として、処理容器30内で吸着材10と処理対象ガスとを接触させることにより、処理対象ガス中の二酸化炭素を吸着材10に吸着させる処理が行われる。二酸化炭素が吸着除去された処理対象ガス(即ち、処理ガス)は、処理ガス排出ライン6を通じて系外へ排出される。
【0054】
そして、処理容器30に過熱蒸気供給ライン7及び二酸化炭素回収ライン8が接続された状態に切り替えて、二酸化炭素を吸着した吸着材10と過熱蒸気とを接触させることにより、吸着材10から二酸化炭素を離脱させて吸着材10を再生する処理が行われる。吸着材から離脱した二酸化炭素を含む回収ガスは、処理容器30から二酸化炭素回収ライン8へ排出され、凝縮器81で含まれる水分が凝縮除去され、圧縮ポンプ82で圧縮されて高濃度の二酸化炭素とされて、二酸化炭素ホルダ83に回収される。
【0055】
この第2実施形態に係る二酸化炭素分離回収システム1Bにおいても、第1実施形態に係る二酸化炭素分離回収システム1Aと同様に、処理容器30内の過熱蒸気の圧力は、過熱蒸気と接触する吸着材10の温度での飽和水蒸気圧以下の所定圧力であり、同様に、吸着材10と接触させる過熱蒸気の飽和温度は、当該過熱蒸気と接触する吸着材10の温度以下である。処理容器30内の圧力は、処理容器30に設けられた圧力計85で検出され、検出された圧力が所定圧力となるように圧縮ポンプ82によって処理容器30内が強制吸気される。なお、「過熱蒸気と接触する吸着材10の温度」は、処理容器30内の吸着材10の平均温度、処理容器30の上部入口の吸着材10の温度、又は、処理容器30の上下中間位置の吸着材10の温度であってよい。また、過熱蒸気の飽和温度の下限値は、特に限定されるわけではないが、吸着材10の乾燥効率を考慮して、過熱蒸気と接触する吸着材10の温度よりも15℃程度低い温度に設定されてよい。
【0056】
上記のように、吸着材10と接触した過熱蒸気の飽和温度が吸着材10の温度以下であることから、吸着材10の表面で蒸気の凝縮が生じない、又は、凝縮が生じたとしても凝縮量が抑制される。よって、吸着材10の表面に付着する凝縮水量を抑えることができる。加えて、凝縮熱による吸着材10の昇温を抑えることができる。
【0057】
更に、過熱蒸気は飽和蒸気と比較して相対湿度が低いことから、吸着材10の表面に付着する凝縮水は効果的に低減される。
【0058】
このように、再生後の吸着材10の表面に付着している凝縮水量を抑えることができるので、再生後の吸着材10を乾燥させるための乾燥ラインを省略、又は、小型化することができる。なお、従来の乾燥ラインは、例えば、乾燥用空気発生装置と、乾燥用空気を吸着材10へ送る送風機から成る。このように、再生後の吸着材10を乾燥させるための設備費用及び運転費用を抑えることができる。これにより、二酸化炭素分離回収システム1Bの設備費用及び運転費用の削減を実現することができる。
【0059】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、本発明の思想を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。
【符号の説明】
【0060】
1A,1B :二酸化炭素分離回収システム
3 :吸着容器
4 :再生容器
5 :処理対象ガス供給ライン
6 :処理ガス排出ライン
7 :過熱蒸気供給ライン
8 :二酸化炭素回収ライン
9 :移送装置
10 :吸着材
30 :処理容器
51 :処理対象ガス源
52 :送風機
53 :減温塔
61 :加温器
62 :フィルタ
71 :過熱蒸気発生装置
81 :凝縮器
82 :圧縮ポンプ
83 :二酸化炭素ホルダ
85 :圧力計
90 :切替装置
91~94 :切替弁
95 :切替制御装置