(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】解析装置、および解析システム
(51)【国際特許分類】
A63B 69/00 20060101AFI20220816BHJP
A63B 43/00 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
A63B69/00 505J
A63B43/00 E
A63B69/00 505B
(21)【出願番号】P 2018204326
(22)【出願日】2018-10-30
【審査請求日】2021-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2018089050
(32)【優先日】2018-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本機械学会シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2017にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 翔平
(72)【発明者】
【氏名】鳴尾 丈司
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 悠人
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 圭
【審査官】石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】特許第6186544(JP,B1)
【文献】特開2016-137085(JP,A)
【文献】特開2017-000438(JP,A)
【文献】特開2017-146129(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0282039(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057111(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
A63B 69/00-71/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールの回転軸を解析するための解析装置であって、
前記ボールに内蔵されたセンサ機器により時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける情報入力部と、
前記加速度データおよび前記地磁気データに基づいて、前記ボールの姿勢情報を算出する姿勢算出部と、
前記地磁気データに基づいて、被験者により放たれた前記ボールの回転数を算出する回転数算出部と、
前記姿勢情報と、前記回転数と、前記地磁気データと、前記地磁気データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、所定のフィルタを用いて所定方向に対する前記ボールの回転軸の角度を算出する回転軸算出部とを備える、解析装置。
【請求項2】
前記回転軸算出部は、前記ボールが放たれたタイミングの前後の所定期間における前記ボールの回転軸の角度を算出する、請求項1に記載の解析装置。
【請求項3】
前記回転軸算出部は、前記姿勢情報と、前記回転数と、前記地磁気データと、前記1階微分値と、前記2階微分値とに基づいて、前記地磁気データと前記1階微分値と前記2階微分値とを観測値とした観測方程式に対して前記所定のフィルタを適用して前記ボールの回転軸の角度を算出する、請求項1または2に記載の解析装置。
【請求項4】
前記加速度データに基づいて、前記所定のフィルタを用いて前記被験者から放たれた前記ボールの進行方向を算出する方向算出部をさらに備え、
前記所定方向は、前記方向算出部により算出された前記進行方向である、請求項1~3のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項5】
前記方向算出部は、前記進行方向を規定する回転行列を状態値とした状態方程式、および、前記ボールが放たれたタイミングの前後の所定期間における前記加速度データの最大値を観測値とした観測方程式、に対して前記所定のフィルタを適用して前記進行方向を規定する回転行列を算出する、請求項4に記載の解析装置。
【請求項6】
前記センサ機器は、低加速度を検出するための低加速度センサと、高加速度を検出するための高加速度センサとを含み、
前記加速度データは、前記低加速度センサにより検出された低加速度データと、前記高加速度センサにより検出された高加速度データとを含み、
前記姿勢算出部は、前記ボールの初期姿勢情報を算出する場合、前記加速度データとして前記低加速度データを採用する、請求項1~5のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項7】
前記所定のフィルタは、拡張カルマンフィルタである、請求項1~6のいずれか1項に記載の解析装置。
【請求項8】
ボールの回転軸を解析するための解析装置であって、
前記ボールに内蔵されたセンサ機器により時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける情報入力部と、
前記加速度データおよび前記地磁気データに基づいて、前記ボールの姿勢情報を算出する姿勢算出部と、
前記地磁気データに基づいて、被験者により放たれた前記ボールの回転数を算出する回転数算出部と、
前記姿勢情報と、前記回転数と、前記加速度データと、前記加速度データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、所定のフィルタを用いて所定方向に対する前記ボールの回転軸の角度を算出する回転軸算出部とを備える、解析装置。
【請求項9】
前記回転軸算出部は、前記姿勢情報と、前記回転数と、前記加速度データと、前記1階微分値と、前記2階微分値とに基づいて、前記加速度データと前記1階微分値と前記2階微分値とを観測値とした観測方程式に対して前記所定のフィルタを適用して前記ボールの回転軸の角度を算出する、請求項8に記載の解析装置。
【請求項10】
ボールの回転軸を解析するための解析装置と、
前記ボールに内蔵されたセンサ機器とを備え、
前記解析装置は、
前記センサ機器によりに時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける情報入力部と、
前記加速度データおよび前記地磁気データに基づいて、前記ボールの姿勢情報を算出する姿勢算出部と、
前記地磁気データに基づいて、被験者により放たれた前記ボールの回転数を算出する回転数算出部と、
前記姿勢情報と、前記回転数と、前記地磁気データと、前記地磁気データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、所定のフィルタを用いて所定方向に対する前記ボールの回転軸の角度を算出する回転軸算出部とを含む、解析システム。
【請求項11】
ボールの回転軸を解析するための解析装置と、
前記ボールに内蔵されたセンサ機器とを備え、
前記解析装置は、
前記ボールに内蔵されたセンサ機器により時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける情報入力部と、
前記加速度データおよび前記地磁気データに基づいて、前記ボールの姿勢情報を算出する姿勢算出部と、
前記地磁気データに基づいて、被験者により放たれた前記ボールの回転数を算出する回転数算出部と、
前記姿勢情報と、前記回転数と、前記加速度データと、前記加速度データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、所定のフィルタを用いて所定方向に対する前記ボールの回転軸の角度を算出する回転軸算出部とを含む、解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールの回転軸を解析するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ボールに内蔵されたセンサからの情報を用いることで、投球時の野球ボールの移動軌跡、回転速度、回転軸の方向などの回転パラメータを計測する手法が知られている。例えば、特開2018-134153号公報(特許文献1)には、投球解析システムが開示されている。
【0003】
特許文献1に係る投球解析システムは、センサ部及び送信部が内蔵されたボールと、送信部から送信されたセンサ部の検出値を受信して解析する解析装置とを備える。センサ部は、基板と、基板に搭載された加速度センサ、地磁気センサ及びジャイロセンサとを含む。解析装置は、グローバル座標系における基板の初期方向を特定して記憶し、グローバル座標系における基板の逐次変化する方向を算出し、グローバル座標系におけるボールの逐次変化する加速度を算出し、グローバル座標系におけるボールの移動軌跡を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、ジャイロセンサを用いて回転軸の方向を算出することが開示されている。しかし、一般的に、ジャイロセンサはサイズが比較的大きく、ボールに内蔵できるような小型のジャイロセンサでは計測領域が限定される。そのため、野球のように投球時のボールが高速回転する場合には、ジャイロセンサを用いるとサチュレーションによりボールの回転軸の角度を精度よく求めることができない場合がある。
【0006】
本開示のある局面における目的は、ボールの回転軸の角度をより精度よく算出することが可能な解析装置、および解析システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ある実施の形態に従うと、ボールの回転軸を解析するための解析装置が提供される。解析装置は、ボールに内蔵されたセンサ機器により時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける情報入力部と、加速度データおよび地磁気データに基づいて、ボールの姿勢情報を算出する姿勢算出部と、地磁気データに基づいて、被験者により放たれたボールの回転数を算出する回転数算出部と、姿勢情報と、回転数と、地磁気データと、地磁気データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、所定のフィルタを用いて所定方向に対するボールの回転軸の角度を算出する回転軸算出部とを備える。
【0008】
好ましくは、回転軸算出部は、ボールが放たれたタイミングの前後の所定期間におけるボールの回転軸の角度を算出する。
【0009】
好ましくは、回転軸算出部は、姿勢情報と、回転数と、地磁気データと、1階微分値と、2階微分値とに基づいて、地磁気データと1階微分値と2階微分値とを観測値とした観測方程式に対して所定のフィルタを適用してボールの回転軸の角度を算出する。
【0010】
好ましくは、解析装置は、加速度データに基づいて、所定のフィルタを用いて被験者から放たれたボールの進行方向を算出する方向算出部をさらに備える。所定方向は、方向算出部により算出された進行方向である。
【0011】
好ましくは、方向算出部は、進行方向を規定する回転行列を状態値とした状態方程式、および、ボールが放たれたタイミングの前後の所定期間における加速度データの最大値を観測値とした観測方程式、に対して所定のフィルタを適用して進行方向を規定する回転行列を算出する。
【0012】
好ましくは、センサ機器は、低加速度を検出するための低加速度センサと、高加速度を検出するための高加速度センサとを含む。加速度データは、低加速度センサにより検出された低加速度データと、高加速度センサにより検出された高加速度データとを含む。姿勢算出部は、ボールの初期姿勢情報を算出する場合、加速度データとして低加速度データを採用する。
【0013】
好ましくは、所定のフィルタは、拡張カルマンフィルタである。
他の実施の形態に従うと、ボールの回転軸を解析するための解析装置が提供される。解析装置は、ボールに内蔵されたセンサ機器により時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける情報入力部と、加速度データおよび地磁気データに基づいて、ボールの姿勢情報を算出する姿勢算出部と、地磁気データに基づいて、被験者により放たれたボールの回転数を算出する回転数算出部と、姿勢情報と、回転数と、加速度データと、加速度データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、所定のフィルタを用いて所定方向に対するボールの回転軸の角度を算出する回転軸算出部とを備える。
【0014】
好ましくは、回転軸算出部は、姿勢情報と、回転数と、加速度データと、1階微分値と、2階微分値とに基づいて、加速度データと1階微分値と2階微分値とを観測値とした観測方程式に対して所定のフィルタを適用してボールの回転軸の角度を算出する。
【0015】
さらに他の実施の形態に従う解析システムは、ボールの回転軸を解析するための解析装置と、ボールに内蔵されたセンサ機器とを備える。解析装置は、センサ機器によりに時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける情報入力部と、加速度データおよび地磁気データに基づいて、ボールの姿勢情報を算出する姿勢算出部と、地磁気データに基づいて、被験者により放たれたボールの回転数を算出する回転数算出部と、地磁気データと、姿勢情報と、回転数と、地磁気データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、所定のフィルタを用いて所定方向に対するボールの回転軸の角度を算出する回転軸算出部とを含む。
【0016】
さらに他の実施の形態に従う解析システムは、ボールの回転軸を解析するための解析装置と、ボールに内蔵されたセンサ機器とを備える。解析装置は、ボールに内蔵されたセンサ機器により時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける情報入力部と、ボールが静止状態のときの加速度データおよび地磁気データに基づいて、ボールの姿勢情報を算出する姿勢算出部と、地磁気データに基づいて、被験者により放たれたボールの回転数を算出する回転数算出部と、姿勢情報と、回転数と、加速度データと、加速度データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、所定のフィルタを用いて所定方向に対するボールの回転軸の角度を算出する回転軸算出部とを含む。
【発明の効果】
【0017】
本開示によると、ボールの回転軸の角度をより精度よく算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態1に従う解析システムの全体構成を説明するための図である。
【
図2】実施の形態1に従うボールの概略構成を説明するための図である。
【
図3】実施の形態1に従う解析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】実施の形態1に従うセンサ機器のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】実施の形態1に従う解析装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】実施の形態1に従うボールの回転数の算出方式を説明するための図である。
【
図7】実施の形態1に従うボールの回転軸の角度の表示例を示す図である。
【
図8】実施の形態1に従う解析装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図9】実施の形態2に従う解析装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図10】実施の形態2に従う解析装置の機能構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
[実施の形態1]
<システムの全体構成>
図1は、実施の形態1に従う解析システム1000の全体構成を説明するための図である。
図1を参照して、解析システム1000は、投手である被験者5が投じた野球用のボールの回転軸を解析し、解析結果を表示するためのシステムである。解析システム1000は、解析装置10と、センサ機器20が内蔵されたボール2とを含む。なお、
図1では、センサ座標系における互いに直交する3つの軸をx軸、y軸、z軸で表わし、絶対座標系における互いに直交する3つの軸をX軸、Y軸、Z軸で表わしている。
【0020】
解析装置10は、スマートフォンで構成される。ただし、解析装置10は、種類を問わず任意の装置として実現できる。例えば、解析装置10は、ラップトップPC(personal Computer)、タブレット端末、デスクトップPC等であってもよい。
【0021】
解析装置10は、無線通信方式によりセンサ機器20と通信する。例えば、無線通信方式としては、BLE(Bluetooth(登録商標) low energy)が採用される。ただし、解析装置10は、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(local area network)等のその他の無線通信方式を採用してもよい。
【0022】
図2は、実施の形態1に従うボール2の概略構成を説明するための図である。
図2(a)は、ボール2の外観を示している。
図2(b)は、ボール2の内部の概略構成を示している。
【0023】
図2(a)を参照して、ボール2の外観は一般的な硬式球と同等である。ボール2は、革製の外皮を有し、縫い目を視認可能に構成されている。
図2(b)を参照して、ボール2は、その中心部にボール2の挙動を検出するためのセンサ機器20を内蔵している。センサ機器20は、ポリカーボネート製のカプセル62およびシリコーンゲル64で固定されており、優れた耐衝撃性を有する。
【0024】
再び、
図1を参照して、センサ機器20は、センサ座標系(すなわち、ローカル座標系)における加速度および磁場(磁束密度)を検出する。具体的には、センサ機器20は、低加速度用および高加速度用の2つの加速度センサと、地磁気センサとを含む。加速度センサは、互いに直交する3つの軸(x軸,y軸,z軸)方向の加速度を示す加速度データを検出する。地磁気センサは、互いに直交する3つの軸方向の磁場(磁束密度)を示す地磁気データを検出する。地磁気センサには、例えば、MR(Magnet resistive)素子、MI(Magnet impedance)素子、ホール素子等が用いられる。
【0025】
<ハードウェア構成>
(解析装置10)
図3は、実施の形態1に従う解析装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3を参照して、解析装置10は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ104と、タッチパネル106と、ボタン108と、ディスプレイ110と、無線通信部112と、通信アンテナ113と、メモリインターフェイス(I/F)114と、スピーカ116と、マイク118と、通信インターフェイス(I/F)120とを含む。また、記録媒体115は、外部の記憶媒体である。
【0026】
CPU102は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、解析装置10の各部の動作を制御する。より詳細にはCPU102は、当該プログラムを実行することによって、後述する解析装置10の処理(ステップ)の各々を実現する。
【0027】
メモリ104は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、フラッシュメモリなどによって実現される。メモリ104は、CPU102によって実行されるプログラム、またはCPU102によって用いられるデータなどを記憶する。
【0028】
タッチパネル106は、表示部としての機能を有するディスプレイ110上に設けられており、抵抗膜方式、静電容量方式などのいずれのタイプであってもよい。ボタン108は、解析装置10の表面に配置されており、ユーザからの指示を受け付けて、CPU102に当該指示を入力する。
【0029】
無線通信部112は、通信アンテナ113を介して移動体通信網に接続し無線通信のための信号を送受信する。これにより、解析装置10は、例えば、LTE(Long Term Evolution)などの移動体通信網を介して所定の外部装置との通信が可能となる。
【0030】
メモリインターフェイス(I/F)114は、外部の記録媒体115からデータを読み出す。CPU102は、メモリインターフェイス114を介して外部の記録媒体115に格納されているデータを読み出して、当該データをメモリ104に格納する。CPU102は、メモリ104からデータを読み出して、メモリインターフェイス114を介して当該データを外部の記録媒体115に格納する。
【0031】
なお、記録媒体115としては、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ、メモリカード、FD(Flexible Disk)、ハードディスクなどの不揮発的にプログラムを格納する媒体が挙げられる。
【0032】
スピーカ116は、CPU102からの命令に基づいて音声を出力する。マイク118は、解析装置10に対する発話を受け付ける。
【0033】
通信インターフェイス(I/F)120は、例えば、解析装置10とセンサ機器20との間でデータを送受信するための通信インターフェイスであり、アダプタやコネクタなどによって実現される。通信方式としては、例えば、BLE、無線LANなどによる無線通信である。
【0034】
(センサ機器20)
図4は、実施の形態1に従うセンサ機器20のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4を参照して、センサ機器20は、主たる構成要素として、各種処理を実行するためのCPU202と、CPU202によって実行されるプログラム、データなどを格納するためのメモリ204と、加速度センサ220と、互いに直交する3つの軸方向の磁場を検出する地磁気センサ208と、解析装置10と通信するための通信インターフェイス(I/F)210と、センサ機器20の各種構成要素に電力を供給する蓄電池212とを含む。
【0035】
加速度センサ220は、低加速度センサ205と、高加速度センサ206とを含む。低加速度センサ205は、低加速度範囲(例えば、24G未満)を検出するための加速度センサであり、互いに直交する3軸方向の加速度を検出する。高加速度センサ206は、低加速度センサで検出できない高加速度範囲(例えば、24G以上)を検出するための加速度センサであり、互いに直交する3軸方向の加速度を検出する。なお、高加速度センサ206は、低加速度範囲も検出可能であるが、低加速度範囲については高加速度センサ206よりも低加速度センサ205の方が検出精度が高い。
【0036】
<動作>
図5は、実施の形態1に従う解析装置10の動作を説明するためのフローチャートである。以下の各ステップは、典型的には、解析装置10のCPU102がメモリ104に格納されたプログラムを実行することによって実現される。
【0037】
解析装置10は、例えば、店舗の店員により操作される。なお、解析装置10は、被験者5自身によって操作される場合であってもよい。なお、解析装置10は、常時、低加速度センサ205ならびに高加速度センサ206の各々により検出された加速度データ、および地磁気センサ208により検出された地磁気データを取得しているものとする。
【0038】
図5を参照して、解析装置10は、地磁気センサ208のキャリブレーションを実行する(ステップS10)。具体的には、店員の指示により被験者5はボール2を回転させる(例えば、ボール2を投げる)。解析装置10は、地磁気センサ208により検出された3軸方向の磁場を順次プロットする。解析装置10は、プロットしたデータ(例えば、18点のデータ)を楕円の方程式を用いて近似し、その楕円の中心点および半径を算出する。次に、解析装置10は、近似した楕円が原点を中心にした真円になるように、地磁気データのキャリブレーションを行なう。これにより、地磁気センサのオフセット誤差と感度誤差が補正される。なお、解析装置10は、その他の公知の方法により地磁気センサ208のキャリブレーションを行なってもよい。
【0039】
解析装置10は、低加速度センサ205および高加速度センサ206のキャリブレーションを実行する(ステップS12)。具体的には、店員の指示により被験者5はボール2を静止状態にする(例えば、ボール2を地面の上に置く)。解析装置10は、ボール2が静止状態のときに低加速度センサ205および高加速度センサ206の各々によって検出された加速度データを取得する。
【0040】
解析装置10は、低加速度センサ205により検出された3軸方向の加速度の各々について、所定時間(例えば、1秒間)の平均加速度を算出する。解析装置10は、次の式(1)を用いて、x軸、y軸、z軸の平均加速度acx,acy,aczを合成した3軸の合成加速度Asを算出する。
【0041】
【0042】
解析装置10は、低加速度センサ205により検出された3軸方向の加速度から、合成加速度Asを1000で割った値を減算することにより低加速度センサ205のバイアス補正を行なう(すなわち、低加速度センサ205のキャリブレーションを行なう)。
【0043】
高加速度センサ206についても同様にキャリブレーションを行なう。具体的には、解析装置10は、高加速度センサ206により検出された3軸方向の加速度の各々について、所定時間(例えば、1秒間)の平均値を算出し、上記の式(1)を用いて、3軸の合成加速度を算出する。解析装置10は、高加速度センサ206により検出された3軸方向の加速度から、合成加速度を1000で割った値を減算することにより高加速度センサ206のオフセット補正を行なう(すなわち、高加速度センサ206のキャリブレーションを行なう)。
【0044】
解析装置10は、低加速度センサ205および高加速度センサ206のキャリブレーションが終了すると、被験者5に対して投球を促す情報を報知する(ステップS14)。解析装置10は、例えば、“ボールを投げて下さい”等の文言を音声を出力してもよいし、ディスプレイ110に当該文言を表示してもよい。被験者5は、当該報知に従って、ボール2を投げる。
【0045】
解析装置10は、低加速度センサ205により検出された加速度データが閾値J1未満か否かを判断する(ステップS16)。具体的には、解析装置10は、低加速度センサ205により検出された各軸方向の加速度について、当該軸方向の加速度が閾値J1未満か否かを判断する。
【0046】
当該軸方向の加速度が閾値J1未満である場合には(ステップS16においてYES)、解析装置10は、低加速度センサ205により検出された当該軸方向の加速度を後のステップで用いられる加速度として採用する(ステップS18)。当該軸方向の加速度が閾値J1以上である場合には(ステップS16においてNO)、解析装置10は、高加速度センサ206により検出された当該軸方向の加速度を後のステップで用いられる加速度として採用する(ステップS20)。
【0047】
ステップS16~S20の処理について、具体例を挙げて説明する。例えば、低加速度センサ205により検出されたx軸方向およびy軸方向の加速度が閾値J1未満であり、z軸方向の加速度が閾値J1以上であったとする。この場合、解析装置10は、ステップS20よりも後の処理に用いられるx軸方向およびy軸方向の加速度として、低加速度センサ205により検出された加速度を採用し、z軸方向の加速度として、高加速度センサ206により検出された加速度を採用する。このように、閾値J1未満の加速度については、低加速度範囲での検出精度が高い低加速度センサ205により検出された加速度が用いられる。
【0048】
次に、解析装置10は、ボール2が静止状態のときのボール2の姿勢(すなわち、ボール2の初期姿勢)を算出する(ステップS22)。具体的には、解析装置10は、センサ機器20により検出された加速度データに基づいて、x軸まわりの回転角度を示すロール角φ、y軸まわりの回転角度を示すピッチ角θを算出する。ロール角φは、ボール2が静止状態のときの平均加速度acy,aczを用いて以下の式(2)のように表される。
【0049】
【0050】
ピッチ角θは、ボール2が静止状態のときの平均加速度acx,acy,aczを用いて以下の式(3)のように表される。
【0051】
【0052】
なお、このとき、ボール2は静止状態であるため、低加速度センサ205により検出された加速度データが、ロール角φおよびピッチ角θを算出するために用いられる。
【0053】
また、解析装置10は、センサ機器20(地磁気センサ208)により検出された地磁気データと、式(2)を用いて算出されたロール角φと、式(3)を用いて算出されたピッチ角θとに基づいて、z軸まわりの回転角度を示すヨー角Ψを算出する。
【0054】
具体的には、解析装置10は、ロール角φおよびピッチ角θにより構築される回転行列を用いて、地磁気センサ208の地磁気データの傾斜誤差を補正する。補正後のx軸、y軸、z軸方向の磁場をそれぞれMxi,Myi,Mziとすると、これらは、補正前のx軸、y軸、z軸方向の磁場をそれぞれ示すMx,My,Mzと、当該回転行列とを用いて、以下の式(4)のように表わされる。
【0055】
【0056】
そして、傾斜誤差を補正した磁場Mxi,Myi,Mziを用いて、ヨー角Ψは以下の式(5)のように表わされる。
【0057】
【0058】
上記のように、ボール2の静止状態における初期姿勢を示す情報(すなわち、ロール角φ、ピッチ角θおよびヨー角Ψ)が算出される。
【0059】
解析装置10は、ロール角φ、ピッチ角θおよびヨー角Ψを用いて、センサ座標系から絶対座標系への回転行列を算出する(ステップS24)。具体的には、解析装置10は、以下の式(6)を用いて、ボール2が静止状態である場合における、センサ座標系から絶対座標系への回転行列0Riを算出する。
【0060】
【0061】
次に、解析装置10は、被験者5がボール2をリリースした(すなわち、ボール2を手から離した)タイミングを検出する(ステップS26)。具体的には、解析装置10は、地磁気データの不完全微分値Dを以下の式(7)を用いて算出する。なお、sはラプラス演算子、nは微分係数を表わしている。不完全微分値Dは、3軸方向の磁場の各々について算出される。
【0062】
【0063】
解析装置10は、不完全微分値Dが0になる時点をリリースタイミングとして検出する。例えば、解析装置10は、3軸方向の磁場にそれぞれ対応する3つの不完全微分値Dのいずれか1つが0になった時点をリリースタイミングとして検出する。
【0064】
なお、解析装置10は、加速度データを用いてリリースタイミングを検出してもよい。この場合、解析装置10は、高加速度センサ206により検出された加速度データの微分値が閾値J2を越えた時点をリリースタイミングとして検出する。例えば、解析装置10は、3軸方向の加速度にそれぞれ対応する3つの微分値のいずれか1つが閾値J2を越えた時点をリリースタイミングとして検出する。
【0065】
次に、解析装置10は、ボール2の回転軸を解析する対象期間(以下、「解析期間」とも称する。)を設定する(ステップS28)。具体的には、解析装置10は、ボール2がリリースされたタイミングの前後の一定期間をボール2の回転軸の解析期間に設定する。詳細には、解析装置10は、リリースタイミングから規定時間(例えば、100ms)前を、解析開始タイミング(すなわち、解析期間の開始時点)に設定し、リリースタイミングから一定時間(例えば、60ms)経過後を解析終了タイミング(すなわち、解析期間の終了時点)に設定する。
【0066】
解析装置10は、高加速度センサ206により検出された加速度データに拡張カルマンフィルタを適用して、解析期間におけるボール2の進行方向を推定する(ステップS30)。具体的には、解析装置10は、以下のような演算を実行する。
【0067】
解析装置10は、高加速度センサ206により検出された解析期間内におけるx軸、y軸、z軸方向の加速度(センサ座標系)の最大値を入力として、以下の非線形状態方程式を示す式(8)および非線形観測方程式を示す式(9)を解くことにより、x軸、y軸、z軸まわりの回転行列を算出する。
【0068】
【0069】
tは離散的な時間であるステップを表わしている。式(8)中のxt、F(xt)、wtは、それぞれステップt(時刻t)における状態値、システムの時間遷移に関する線形モデル、システム雑音を表わしている。式(9)中のyt、H(xt)、vtは、それぞれ時刻tにおける観測値、状態空間を観測空間に線形写像する観測モデル、観測雑音を表わしている。式(8)中のxt、F(xt)、yt、H(xt)は、それぞれ式(10)、(11)、(12)、(13)のように表わされる。
【0070】
【0071】
式(10)および式(11)中のXrot,Yrot,Zrotは、それぞれx軸,y軸,z軸まわりの回転行列を示している。式(8)、式(10)、式(11)より、ステップ(t+1)における回転行列Xrot,Yrot,Zrotは、ステップtにおける回転行列Xrot,Yrot,Zrotにシステム雑音を加えたものとなる。ここで、ボール2の加速度は、リリース前後において最大(すなわち、解析期間において加速度が最大)となり、加速度が最大となるときの回転行列で規定される方向が概ねボール2の進行方向を示す。したがって、各軸方向の加速度の最大値を入力として求められる回転行列Xrot,Yrot,Zrotにより規定される方向がボール2の進行方向となる。
【0072】
式(12)中のAxmax,Aymax,Azmaxは、それぞれx軸、y軸、z軸方向の加速度(センサ座標系)の最大値を示している。式(13)中のAtは、高加速度センサ206により検出された解析期間内の時刻tにおけるx軸、y軸、z軸方向の加速度Axt,Ayt,Azt(センサ座標系)の合成加速度を示している。合成加速度Atは、加速度Axt,Ayt,Aztの各成分の2乗和の平方根である。
【0073】
ここで、F(xt)をxtで偏微分したf(xt)を式(14)のように定義し、H(xt)をxtで偏微分したh(xt)を式(15)のように定義する。
【0074】
【0075】
Iは単位行列を示している。このように定義されたf(xt)およびh(xt)を用いた拡張カルマンフィルタアルゴリズムは以下に示す式(16),(17),(18),(19)で与えられる。
【0076】
【0077】
上記のアルゴリズムは、次ステップの推定値を予測する部分と、得られた観測値を用いて推定値を更新する部分との2つから構成されている。式(16)が前者に当たり、式(17)~(19)が後者に当たる。ある瞬間の値(ここでは、各軸方向の加速度の最大値)を用いて上記のように与えられた式(16)~(19)を繰り返し計算することで、状態値xtが最適値に収束する。すなわち、式(14)で表されるf(xt)および式(15)で表わされるh(xt)に拡張カルマンフィルタを適用することで、時刻tにおける状態値xtの最も確からしい推定値(ここでは、各軸まわりの回転行列で規定されるボール2の進行方向)を算出することができる。
【0078】
次に、解析装置10は、地磁気センサ208により検出された解析期間内における地磁気データに基づいて、ボール2の回転数を算出する(ステップS32)。
【0079】
図6は、実施の形態1に従うボール2の回転数の算出方式を説明するための図である。
図6を参照して、グラフ602は地磁気データの出力値を示している。例えば、出力値は、x軸方向の磁場である。グラフ604は地磁気データの出力値の差分値を示している。例えば、差分値は、今回の出力値と前回の出力値との差分を示す値である。
【0080】
解析装置10は、差分値が0と交差する点(ゼロクロス点)をカウントし、所定カウント分(例えば、3カウント分)を1回転として算出する。グラフ604を参照すると、時刻p1,p2,p3でそれぞれ1回目,2回目,3回目のゼロクロス点がカウントされる。解析装置10は、単位期間(例えば、0.5秒)内にカウントされたゼロクロス点の数から、ボール2の回転数(rpm)を算出する。
【0081】
再び、
図5を参照して、解析装置10は、地磁気センサ208により検出された解析期間内における地磁気データに拡張カルマンフィルタを適用して、ボール2の回転軸の角度を算出する(ステップS34)。具体的には、解析装置10は、以下のような演算を実行する。
【0082】
解析装置10は、地磁気センサ208により検出された解析期間内におけるx軸、y軸、z軸方向の各磁場成分(センサ座標系)と、各磁場成分の1階微分値と、各磁場成分の2階微分値とを入力として、上記の非線形状態方程式(8)および非線形観測方程式(9)を解くことにより、ボール2の回転軸の角度を算出する。ここでは、式(8)中のxt、F(xt)は以下の式(20)、(21)のように表わされる。
【0083】
【0084】
ωはボール2の回転数を示しており、ステップS32で算出された回転数に対応する。φa,θaは、それぞれ時刻tにおける絶対座標系でのロール角、ピッチ角である。φs,θs,Ψsは、それぞれ時刻tにおけるセンサ座標系でのロール角、ピッチ角,ヨー角である。また、式(9)中のyt、H(xt)は、それぞれ式(22)、(23)のように表わされる。
【0085】
【0086】
センサ座標系から絶対座標系への回転行列を示す0Rsは以下の式(24)のように表わされる。なお、回転行列0Rsの初期値は、ボール2が静止状態である場合における、センサ座標系から絶対座標系への回転行列を示すiRsと一致する。すなわち、センサ座標系でのロール角φs、ピッチ角θs、ヨー角Ψsの初期値は、ボール2が静止状態のときのロール角φ、ピッチ角θ、ヨー角Ψと一致する。
【0087】
【0088】
また、回転軸座標系からセンサ座標系への回転行列を示すSRaは以下の式(25)のように表わされる。
【0089】
【0090】
ステップS30での進行方向の算出と同様に、式(20)~(23)で表されるxt,F(xt),yt,H(xt)を用いて、式(14)~(19)を繰り返し計算することで、解析期間内の時刻tにおける状態値xtの最も確からしい推定値を算出することができる。すなわち、絶対座標系でのボール2の回転軸のロール角φa、ピッチ角θa、センサ座標系でのボールの回転軸のロール角φs、ピッチ角θs、ヨー角Ψsが推定される。なお、式(20)では回転数ωも推定値に含まれているが、上述のように回転数ωはステップS32で算出された回転数を用いればよい。そのため、回転数ωを推定値として採用しない構成であってもよい。
【0091】
そして、解析装置10は、推定されたロール角φa、ピッチ角θaを用いて水平面(重力方向に垂直な平面)に対するボール2の回転軸の角度θhを算出する。具体的には、解析装置10は、回転軸座標系から絶対座標系への回転行列を示す0Raを以下の式(26)を用いて算出する。
【0092】
【0093】
次に、ボール2の回転軸方向を示すベクトルを(px,py,pz)と定義すると、式(27)が成立する。なお、pは定数であり、0Ra
Tはの0Raの転置行列である。
【0094】
【0095】
式(27)で求められたベクトル(px,py,pz)を用いて、角度θhは式(28)のように表わされる。
【0096】
【0097】
解析装置10は、ステップS36で算出されたボール2の回転軸の角度θhをディスプレイ110に表示する(ステップS36)。
【0098】
図7は、実施の形態1に従うボール2の回転軸の角度の表示例を示す図である。
図7を参照して、解析装置10は、回転軸の角度を示す画面502をディスプレイ110に表示する。例えば、画面502には、ボール2の回転軸の角度が23度であることが示されており、ボール2の回転数が1673.4rpmであることが示されている。なお、この23度は、解析期間において算出されたθ
hの平均値である。
【0099】
また、解析装置10は、ステップS30で算出されたボール2の進行方向(すなわち、各軸方向の回転行列)と、式(26)に示される回転軸座標系から絶対座標系への回転行列0Raとを用いて、進行方向に対する回転軸の角度Ψhを算出することもできる。まず、ボール2の進行方向を規定する回転行列Xrot,Yrot,Zrotを用いると、進行方向座標系から絶対座標系への回転行列0Rtrは、以下の式(29)のように表わされる。
【0100】
【0101】
次に、回転軸座標系から進行方向座標系への回転行列trRaは、回転行列0Rtrの転置行列0Rtr
Tと、回転行列0Raとを用いて以下の式(30)のように表わされる。
【0102】
【0103】
式(30)で求められた回転行列trRaの成分を用いて、進行方向座標系から見た回転軸の方位角である角度Ψhは式(31)のように表わされる。
【0104】
【0105】
解析装置10は、ボール2の回転軸の角度Ψhをディスプレイ110に表示してもよい。
【0106】
<機能構成>
図8は、実施の形態1に従う解析装置10の機能構成例を示すブロック図である。
図8を参照して、解析装置10は、情報入力部302と、姿勢算出部304と、解析期間設定部306と、方向算出部308と、回転数算出部310と、回転軸算出部312と、表示制御部314とを含む。これらの機能構成は、基本的には、解析装置10のCPU102がメモリ104に格納されたプログラムを実行し、解析装置10の構成要素へ指令を与えることなどによって実現される。
【0107】
情報入力部302は、センサ機器20により時系列で検出された加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける。本実施の形態では、センサ機器20がボール2の中心部に内蔵されている。そのため、情報入力部302は、ボール2の加速度データおよび地磁気データの入力を受け付ける。典型的には、情報入力部302は、通信インターフェイス120を介して、センサ機器20から送信される加速度データおよび地磁気データを受信する。
【0108】
姿勢算出部304は、加速度データおよび地磁気データに基づいて、ボール2の姿勢情報を算出する。典型的には、姿勢算出部304は、ボール2が静止状態である場合におけるセンサ座標系から絶対座標系への回転行列0Rsを、ボール2の初期姿勢情報として算出する。この場合、姿勢算出部304は、ボール2の初期姿勢情報を算出する場合、低加速度センサ205により検出された加速度データを、処理に用いる加速度データとして採用する。
【0109】
具体的には、姿勢算出部304は、ボール2が静止状態のときの加速度データを用いて、センサ座標系におけるロール角φ、ピッチ角θを算出する。姿勢算出部304は、算出されたロール角φ、ピッチ角θと、ボール2が静止状態のときの地磁気データとを用いて、ヨー角Ψ(センサ座標系)を算出する。姿勢算出部304は、算出されたロール角φ、ピッチ角θおよびヨー角Ψと式(6)とを用いて、センサ座標系から絶対座標系への回転行列0Rsを算出する。
【0110】
解析期間設定部306は、ボールが放たれたタイミングの前後の所定期間を解析期間に設定する。具体的には、解析期間設定部306は、地磁気データの変化量または加速度データの変化量に基づいて、被験者5からボール2が放たれたタイミング(リリースタイミング)を検出する。例えば、解析期間設定部306は、式(7)を用いて地磁気データの変化量を示す不完全微分値Dが0になった時点をリリースタイミングとして検出する。または、解析期間設定部306は、高加速度センサ206により検出された加速度データの微分値が閾値J2を越えた時点をリリースタイミングとして検出する。
【0111】
そして、解析期間設定部306は、リリースタイミングから規定時間(例えば、100ms)前を、解析開始タイミング(すなわち、解析期間の開始時点)に設定し、リリースタイミングから一定時間(例えば、60ms)経過後を解析終了タイミング(すなわち、解析期間の終了時点)に設定する。
【0112】
方向算出部308は、加速度データに基づいて、拡張カルマンフィルタを用いて被験者5から放たれたボール2の進行方向を算出する。具体的には、方向算出部308は、ボール2の進行方向を規定する回転行列を状態値とした状態方程式、および、解析期間内における加速度データの最大値を観測値とした観測方程式、に対して拡張カルマンフィルタを適用してボール2の進行方向を規定する回転行列を算出する。より詳細には、方向算出部308は、上述の式(8)~(19)を用いた演算を実行することで、ボール2の進行方向を規定する各軸まわりの回転行列Xrot,Yrot,Zrotを算出する。
【0113】
回転数算出部310は、解析期間内における地磁気データに基づいて、ボール2の回転数を算出する。具体的には、回転数算出部310は、
図6で説明したように、地磁気データの出力値の差分値がゼロになる数(ゼロクロス点の数)をカウントし、単位期間内におけるゼロクロス点のカウント数からボール2の回転数を算出する。
【0114】
回転軸算出部312は、姿勢算出部304により算出された姿勢情報と、回転数算出部310により算出されたボール2の回転数と、地磁気センサ208により検出された解析期間内における地磁気データ(すなわち、x軸、y軸、z軸方向の磁場)と、地磁気データの1階微分値と、地磁気データの2階微分値とに基づいて、拡張カルマンフィルタを用いて、所定方向に対するボール2の回転軸の角度を算出(推定)する。
【0115】
具体的には、回転軸算出部312は、姿勢情報と、回転数と、地磁気データと、地磁気データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、ボール2の回転軸の角度(例えば、ロールφa,ピッチ角θa)を状態値とした状態方程式、および、地磁気データと、地磁気データの1階微分値および2階微分値とを観測値とした観測方程式、に対して拡張カルマンフィルタを適用して水平面に対するボール2の回転軸の角度θhを算出する。より詳細には、回転軸算出部312は、上述の式(8),(9),(14)~(28)を用いた演算を実行することで角度θhを算出する。
【0116】
他の局面では、回転軸算出部312は、各軸まわりの回転行列Xrot,Yrot,Zrotと、回転軸座標系から絶対座標系への回転行列0Raとに基づいて、進行方向に対するボール2の回転軸の角度Ψhを算出する。より詳細には、回転軸算出部312は、上述の式(8),(9),(14)~(26),(29)~(31)を用いた演算を実行することで、進行方向に対するボール2の回転軸の方位角を示す角度Ψhを算出する。
【0117】
表示制御部314は、回転軸算出部312により算出されたボール2の回転軸の角度(例えば、角度θ
h,Ψ
h)をディスプレイ110に表示する。表示制御部314は、回転数算出部310により算出されたボール2の回転数をディスプレイ110に表示してもよい。例えば、表示制御部314は、
図7に示すような画面502を表示する。
【0118】
<利点>
実施の形態1によると、加速度データおよび地磁気データを用いてボールの回転軸の角度を算出することができる。そのため、ジャイロセンサのようにサチュレーションすることがなく、ボールの回転軸の角度をより精度よく算出することができる。
【0119】
なお、センサ機器および端末装置(例えば、スマートフォン等)の両方に地磁気センサを内蔵して計測する構成も知られている。一般的に、地磁気センサの性能には個体差が存在するため、キャリブレーション等を実施する必要がある。ここで、端末装置に内蔵された地磁気センサとボールに内蔵された地磁気センサとを併用した場合、各地磁気センサの感度が異なるためパフォーマンスが低下する。例えば、感度が低い地磁気センサと、感度が高い地磁気センサとを組み合わせると低い方の性能に依存する。また、使用場所が異なる(例えば、近距離であったとしても同一場所でない)場合には,検出する誤差要素(例えば、伏角、感度等の絶対座標系の磁場)が異なるため、精度が低下する。
【0120】
したがって、ボールに内蔵された地磁気センサのパフォーマンスを最大限に発揮するためには、本実施の形態のように、キャリブレーションを行なった後に、絶対座標系における磁場情報をボールに内蔵された地磁気センサのみを用いて回転軸を算出することが好ましい。
[実施の形態2]
実施の形態1では、地磁気データを用いて回転軸の角度を算出する構成について説明した。実施の形態2では、加速度データを用いて回転軸の角度を算出する構成について説明する。実施の形態2の<全体構成>および<ハードウェア構成>については、実施の形態1のそれと同様であるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0121】
<動作>
図9は、実施の形態2に従う解析装置10の動作を説明するためのフローチャートである。以下の各ステップは、典型的には、実施の形態2に従う解析装置10のCPU102がメモリ104に格納されたプログラムを実行することによって実現される。
【0122】
図9を参照して、ステップS12~ステップS32の処理は、
図5において説明した通りである。ここで、
図9では、
図5中のステップS10が省略されている。これは、実施の形態2では、加速度データを用いて回転軸の角度を算出するため、地磁気センサ208のキャリブレーションを実行しなくても、回転軸の角度の精度に対して大きな影響を与えないと考えられるためである。ただし、実施の形態2でも、実施の形態1と同様に、地磁気センサ208のキャリブレーションを実行してもよい。
【0123】
実施の形態2に従う解析装置10は、加速度センサ220により検出された解析期間内における加速度データに拡張カルマンフィルタを適用して、ボール2の回転軸の角度を算出する(ステップS52)。具体的には、解析装置10は、以下のような演算を実行する。
【0124】
解析装置10は、高加速度センサ206により検出された解析期間内におけるx軸、y軸、z軸方向の各加速度成分と、各加速度成分の1階微分値と、各加速度成分の2階微分値とを入力として、上記の非線形状態方程式(8)および非線形観測方程式(9)を解くことにより、ボール2の回転軸の角度を算出する。ここでは、式(8)中のxt、F(xt)は上記の式(20)、(21)のように表わされる。また、式(9)中のyt、H(xt)は、以下の式(32)、(33)のように表わされる。
【0125】
【0126】
なお、センサ座標系から絶対座標系への回転行列を示す0Rsは上記の式(24)のように表わされ、回転軸座標系からセンサ座標系への回転行列を示すSRaは上記の式(25)のように表わされる。
【0127】
ステップS30での進行方向の算出と同様に、式(20),(21)で表されるxt,F(xt)および式(32),(33)で表わされるyt,H(xt)を用いて、式(14)~(19)を繰り返し計算することで、時刻tにおける状態値xtの最も確からしい推定値を算出することができる。すなわち、絶対座標系でのボール2の回転軸のロール角φa、ピッチ角θaと、センサ座標系でのボールの回転軸のロール角φs、ピッチ角θs、ヨー角Ψsとが推定される。
【0128】
そして、解析装置10は、推定されたロール角φa、ピッチ角θaを用いて水平面(重力方向に垂直な平面)に対するボール2の回転軸の角度θhを算出する。具体的には、解析装置10は、上述の式(26)~(28)を用いた演算を実行する。また、解析装置10は、ステップS30で算出されたボール2の進行方向(すなわち、各軸方向の回転行列)と、式(26)に示される回転軸座標系から絶対座標系への回転行列0Raとを用いて、進行方向に対する回転軸の角度Ψhを算出することもできる。この場合、解析装置10は、上述の式(29)~(31)を用いた演算を実行する。
【0129】
解析装置10は、ステップS52で算出されたボール2の回転軸の角度(例えば、角度θh,Ψh)をディスプレイ110に表示して(ステップS54)、処理を終了する。
【0130】
<機能構成>
図10は、実施の形態2に従う解析装置10Aの機能構成例を示すブロック図である。
図10を参照して、解析装置10Aは、
図8中の解析装置10における回転軸算出部312を、回転軸算出部312Aに置き換えたものである。その他の機能構成については、解析装置10と同様であるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0131】
回転軸算出部312Aは、姿勢算出部304により算出された姿勢情報と、回転数算出部310により算出されたボール2の回転数と、加速度センサ220により検出された解析期間内におけるx軸、y軸、z軸方向の加速度(センサ座標系)と、加速度の1階微分値と、加速度の2階微分値とに基づいて、拡張カルマンフィルタを用いて、所定方向に対するボール2の回転軸の角度を算出(推定)する。
【0132】
具体的には、回転軸算出部312Aは、姿勢情報と、回転数と、加速度データと、加速度データの1階微分値および2階微分値とに基づいて、ボール2の回転軸の角度(例えば、ロールφa,ピッチ角θa)を状態値とした状態方程式、および、加速度データと、加速度データの1階微分値および2階微分値とを観測値とした観測方程式、に対して拡張カルマンフィルタを適用して、水平面に対するボール2の回転軸の角度θhおよび進行方向に対する回転軸の角度Ψhを算出する。より詳細には、回転軸算出部312Aは、上述の式(8),(9),(14)~(21),(24)~(33)を用いた演算を実行することで、角度θhおよび角度Ψhを算出する。
【0133】
<利点>
実施の形態2によると、地磁気データを用いずに加速度データを用いてボール2の回転軸の角度を算出する。そのため、磁場の影響を受け易い場所であっても、精度よくボール2の回転軸の角度を算出することができる。
【0134】
<その他の実施の形態>
(1)上述した実施の形態に係る解析システム1000では、ボール2が野球用のボールである構成を例に挙げて説明したが、当該構成に限られない。例えば、ソフトボール用のボールであっても同様に適用可能である。
【0135】
(2)上述した実施の形態において、コンピュータを機能させて、上述のフローチャートで説明したような制御を実行させるプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどの一時的でないコンピュータ読取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0136】
プログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本実施の形態にかかるプログラムに含まれ得る。
【0137】
また、本実施の形態にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本実施の形態にかかるプログラムに含まれ得る。
【0138】
(3)上述の実施の形態として例示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。
【0139】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0140】
2 ボール、5 被験者、10,10A 解析装置、20 センサ機器、62 カプセル、64 シリコーンゲル、102,202 CPU、104,204 メモリ、106 タッチパネル、108 ボタン、110 ディスプレイ、112 無線通信部、113 通信アンテナ、114 メモリインターフェイス、115 記録媒体、116 スピーカ、118 マイク、120 通信インターフェイス、205 低加速度センサ、206 高加速度センサ、208 地磁気センサ、212 蓄電池、220 加速度センサ、302 情報入力部、304 回転行列生成部、306 解析期間設定部、308 方向算出部、310 回転数算出部、312,312A 回転軸算出部、314 表示制御部、1000 解析システム。