(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】レーザスライス装置、及びレーザスライス方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20220816BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20220816BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/03
H01L21/304 611B
(21)【出願番号】P 2018212024
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2018007511
(32)【優先日】2018-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】北村 嘉朗
(72)【発明者】
【氏名】住本 勝児
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-60860(JP,A)
【文献】特開2013-49161(JP,A)
【文献】特表2015-516672(JP,A)
【文献】特開2014-236034(JP,A)
【文献】特開2008-203434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/53
B23K 26/03
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて加工対象物を分離するレーザスライス装置であって、
前記加工対象物の第1表面側に存在する光遮蔽領域を検出する光遮蔽領域検出部と、
前記加工対象物の前記第1表面を一面に亘って走査するように、前記第1表面側から第1レーザ光を照射して、前記加工対象物の内部のスライス予定面に第1改質層を形成すると共に、
前記加工対象物の前記光遮蔽領域に対して、前記第1表面の裏面側の第2表面から第2レーザ光を照射して、前記スライス予定面において前記第1改質層と連続するように第2改質層を形成する制御部と、
を備えるレーザスライス装置。
【請求項2】
前記加工対象物から基板材を分離する
請求項1に記載のレーザスライス装置。
【請求項3】
前記加工対象物は、板状体である
請求項1又は2に記載のレーザスライス装置。
【請求項4】
前記加工対象物は、前記第1表面及び前記第2表面が所定の表面粗さ以下まで平坦化加工された板状の部材である
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーザスライス装置。
【請求項5】
前記光遮蔽領域は、前記加工対象物の前記第1表面側に存在する欠陥部である
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーザスライス装置。
【請求項6】
前記第1表面は、前記加工対象物の表裏面のうちの前記欠陥部が多く露出する側の表面である
請求項5に記載のレーザスライス装置。
【請求項7】
前記加工対象物は、半導体材料である
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のレーザスライス装置。
【請求項8】
前記加工対象物は、窒化ガリウムである
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のレーザスライス装置。
【請求項9】
前記加工対象物は、脆性材料である
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のレーザスライス装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1レーザ光の集光点を前記スライス予定面の高さ位置に設定して前記第1改質層を形成すると共に、前記第2レーザ光の集光点を前記スライス予定面の高さ位置に設定して前記第2改質層を形成する
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のレーザスライス装置。
【請求項11】
前記制御部は、レーザ発振器が出射するレーザ光のレーザ光路を切り替えて、前記第1レーザ光及び前記第2レーザ光を前記加工対象物に対して照射する
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のレーザスライス装置。
【請求項12】
前記光遮蔽領域検出部は、前記加工対象物の前記第1表面の表面状態を撮影するカメラからの情報に基づいて、前記光遮蔽領域を検出する
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のレーザスライス装置。
【請求項13】
レーザ光を用いて加工対象物を分離するレーザスライス方法であって、
前記加工対象物の第1表面側に存在する光遮蔽領域を検出し、
前記加工対象物の前記第1表面を一面に亘って走査するように、前記第1表面側から第1レーザ光を照射して、前記加工対象物の内部のスライス予定面に第1改質層を形成すると共に、
前記加工対象物の前記光遮蔽領域に対して、前記第1表面の裏面側の第2表面から第2レーザ光を照射して、前記スライス予定面において前記第1改質層と連続するように第2改質層を形成する、
レーザスライス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザスライス装置、及びレーザスライス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンウエハに代表される脆性材からなる基板(以下、「ウエハ」とも称する)が知られている。
【0003】
一般に、この種のウエハを製造する際には、石英るつぼ内に溶融されたシリコン融液から、シリコンを結晶成長させて凝固した円柱形のインゴットを生成する工程と、インゴットを適切な長さのブロックに切断する工程と、ブロックの周縁部を目標の直径になるよう研削する工程と、を行った後、ブロック化されたインゴットをワイヤソーによりスライスしてウエハ(基板)を製造している。
【0004】
しかしながら、この際に、ワイヤソーの太さ以上の切り代が必要となるので、厚さ0.1mm以下の薄いウエハを製造することが非常に困難であり、良品率も向上しないという問題がある。
【0005】
そこで、かかる問題点を解消し得る手法として、レーザスライス方法がある。レーザスライス方法は、集光レンズで、レーザ光の集光点を脆性材(例えば、ブロック化されたインゴット)の内部に合わせ、そのレーザ光で脆性材の内部を走査することにより、脆性材の内部に多光子吸収による面状の改質領域を形成し、この改質領域を剥離面として脆性材の一部をウエハとして剥離する、という手法である。この種のレーザスライス方法は、シリコン(Si)だけでなく、シリコンカーバイド(SiC)や窒化ガリウム(GaN)等、種々の材料に適用されている。
【0006】
しかしながら、例えば、窒化ガリウム(GaN)等にレーザスライス方法を適用する場合、インゴット内には、結晶成長時にピットと呼ばれる欠陥が生じており、かかる欠陥が問題となる場合がある。代表的な欠陥としては、結晶構造に起因して発生する六角錐状の穴であり、黒色を有するものが多く、結晶成長面のN面と呼ばれる極性面に多く存在する。
【0007】
図8A、
図8B、
図8Cは、一般的なレーザスライス方法における脆性材内の欠陥部(傷、ピット)の問題について説明する図である。
【0008】
図8Aがレーザ照射前の脆性材の状態を表し、
図8Bがレーザ照射による改質領域形成後の脆性材の状態を表す。そして、
図8Cは、レーザ光照射による改質領域の形成後であって、脆性材を分離しようとした際の脆性材の状態を表す。
【0009】
図8A、
図8B、
図8Cにおいて、脆性材1は、例えばGaNといった結晶材料からなる厚膜の基板である。レーザ光3は、レーザ発振器から照射されるビームであり、集光レンズを用いることで材料内部に集光照射することができる。改質層は、レーザ光3を集光レンズによって脆性材内部に集光照射した際に形成される改質領域である。集光点Qはレーザ光3の集光点である。欠陥部Pは、脆性材が持つ欠陥であり、例えばGaNであれば、ピットと呼ばれる欠陥である。
【0010】
未改質領域Rは、レーザ光3を集光レンズで集光照射した際、欠陥部Pの下部においてレーザ光3が欠陥部Pに遮られることで加工ができず、改質層が形成されなかった領域である。脆性材1の分離には全面が改質されていることが必要であり、未改質領域Rが存在する場合、改質層を挟んだ上下の脆性材1が未改質領域Rで繋がっているため、脆性材を改質層を起点に分離させる際、未改質領域Rを起点に脆性材1に割れやクラックが発生してしまう。
【0011】
尚、
図8A、
図8B、
図8Cには、未改質領域Rが存在する場合に、改質層を起点として、脆性材1を剥離しようとした際に割れWが発生した状態を示している。
【0012】
特許文献1には、上記したレーザ光を用いたレーザスライス方法において、脆性材1内に未改質領域が生じないように、円環状の強度プロファイルを持つレーザ光を用いる手法が記載されている。
【0013】
図9、
図10は、特許文献1の従来技術に係るレーザスライス方法を示す図である。
【0014】
図9において、脆性材101は、例えば、スライシング前の結晶材料からなる板状体である。改質層102は、例えばXYステージを用いて脆性材101に対してパルスレーザ光104の位置を相対的に移動させて改質領域を線上に伸ばして形成されたものである。当該改質層102内には、クラックや、溶融処理、又は屈折率変化等の少なくとも1つが混在する場合がある。光遮蔽領域103は、切断予定ラインに交差する方向に延びるように設けられたストライプ状の高密度欠陥領域である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1の従来技術では、光遮蔽領域103の下部を加工するためには、パルスレーザ光104が光遮蔽領域103よりも大きなビーム径を有する必要があり、それに比例して集光点でのエネルギー密度が大きくなる。
【0017】
従って、特許文献1の従来技術に係るレーザスライス方法では、欠陥部(傷やピット)のサイズが大きい場合には、パルスレーザ光104によるエネルギー密度が大きくなりすぎ、分離した後の基板の内部における割れ又はクラックの増加に繋がるおそれがある。
【0018】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、割れやクラックを生じさせることなく加工対象物を分離することを可能とするレーザスライス装置、及びレーザスライス方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
レーザ光を用いて加工対象物を分離するレーザスライス装置であって、
前記加工対象物の第1表面側に存在する光遮蔽領域を検出する光遮蔽領域検出部と、
前記加工対象物の前記第1表面を一面に亘って走査するように、前記第1表面側から第1レーザ光を照射して、前記加工対象物の内部のスライス予定面に第1改質層を形成すると共に、
前記加工対象物の前記光遮蔽領域に対して、前記第1表面の裏面側の第2表面から第2レーザ光を照射して、前記スライス予定面において前記第1改質層と連続するように第2改質層を形成する制御部と、
を備えるレーザスライス装置である。
【0020】
又、他の局面では、
レーザ光を用いて加工対象物を分離するレーザスライス方法であって、
前記加工対象物の第1表面側に存在する光遮蔽領域を検出し、
前記加工対象物の前記第1表面を一面に亘って走査するように、前記第1表面側から第1レーザ光を照射して、前記加工対象物の内部のスライス予定面に第1改質層を形成すると共に、
前記加工対象物の前記光遮蔽領域に対して、前記第1表面の裏面側の第2表面から第2レーザ光を照射して、前記スライス予定面において前記第1改質層と連続するように第2改質層を形成する、
レーザスライス方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るレーザスライス装置によれば、脆性材内に欠陥部が存在する場合であっても、割れやクラックを生じさせることなく加工対象物を分離することを可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1の実施形態に係るレーザスライス装置の構成の概略図
【
図2】第1の実施形態に係るレーザスライス装置のレーザ照射の走査方法を示す概略図
【
図3A】一般的なレーザスライス装置による脆性材に対する加工の流れの概要を示す図
【
図3B】一般的なレーザスライス装置による脆性材に対する加工の流れの概要を示す図
【
図3C】一般的なレーザスライス装置による脆性材に対する加工の流れの概要を示す図
【
図3D】一般的なレーザスライス装置による脆性材に対する加工の流れの概要を示す図
【
図4A】第1の実施形態に係るレーザスライス方法を説明する図
【
図4B】第1の実施形態に係るレーザスライス方法を説明する図
【
図5】第2の実施形態に係るレーザスライス装置の装置概略図
【
図6A】第2の実施形態に係るレーザスライス装置の走査方法を示す概略図
【
図6B】第2の実施形態に係るレーザスライス装置の走査方法を示す概略図
【
図6C】第2の実施形態に係るレーザスライス装置の走査方法を示す概略図
【
図7A】第2の実施形態に係るレーザスライス方法を説明する図
【
図7B】第2の実施形態に係るレーザスライス方法を説明する図
【
図8A】一般的なレーザスライス方法における脆性材内の欠陥部(傷、ピット)の問題について説明する図
【
図8B】一般的なレーザスライス方法における脆性材内の欠陥部(傷、ピット)の問題について説明する図
【
図8C】一般的なレーザスライス方法における脆性材内の欠陥部(傷、ピット)の問題について説明する図
【
図9】特許文献1の従来技術に係るレーザスライス方法を示す図
【
図10】特許文献1の従来技術に係るレーザスライス方法を示す図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
(第1の実施形態)
[レーザスライス装置の構成]
図1は、第1の実施形態に係るレーザスライス装置Uの構成の概略図である。
【0025】
本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、レーザ発振器2、ミラー4、集光レンズ5、Zステージ6、XYステージ7、固定治具9、制御用コンピュータ10、位相変調素子11、固定治具12、レーザ光路切り替え装置13、及びカメラ14を備えている。
【0026】
本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、固定治具9に固定された脆性材1(本発明の「加工対象物」に相当)から基板1Sを分離する。
【0027】
脆性材1は、典型的には、板状にされた半導体材料(例えば、Si、SiC、又はGaN等)である。脆性材1としては、例えば、直径2インチのインゴットのGaN等が用いられる。但し、脆性材1としては、半導体材料以外のその他の脆性材料が用いられてもよい。
【0028】
脆性材1は、レーザ光3を照射した際に表面及び裏面での反射を抑制するため、あらかじめ表面及び裏面が所定の表面粗さ(例えば、rms値が数μm)以下まで平坦化加工されたものが準備される。
【0029】
脆性材1の厚みや直径は、特に限定されるものではないが、好適には、厚み50μm以上10mm以下、直径10インチ以下とする。
【0030】
レーザ発振器2は、レーザ光3を出射する装置である。レーザ発振器2の出射するレーザ光3の波長は、脆性材1の内部に多光子吸収による改質層を形成し得るものが選択される。尚、レーザ発振器2が出射するレーザ光3の波長は、加工する材料に対する透過率も考慮して選択されることが望ましい。これにより、効率の良い加工が可能となる。
【0031】
レーザ発振器2の出射するレーザ光3は、例えば、ビーム径が6mmの平行光であるが、集光レンズ5に入射するビーム径を有するレーザ光であれば任意である。
【0032】
レーザ発振器2の出射するレーザ光3は、好適には、波長が100nm以上10000nm以下の範囲で、脆性材1に対して30%以上が透過する波長を用いる。尚、レーザ光3の波長は、短い方が集光時にスポット径を小さくすることができ、脆性材1に対する熱影響を低減できるため望ましい。レーザ発振器2から出射するレーザ光3のパルス幅は50ps以下の範囲であれば、多光子吸収による内部加工が可能であれば制限されるものではない。繰り返し周波数は、生産性を考えると高い方がよいが、熱の影響が出るので、1Hz以上10MHz以下の範囲でバランスのよいものを適用する。
【0033】
レーザ発振器2の出射するレーザ光3は、典型的には、波長が532nm以下、パルス幅が50ps以下、周波数が10MHz以下、開口数(NA)が0.95以下、パルス間ピッチ及びライン間ピッチは集光スポット径以下とする。これにより、脆性材1に割れなく改質層を形成することができる。
【0034】
ミラー4は、レーザ発振器2から出射されたレーザ光3を脆性材1の載置された位置に向けて反射する。ミラー4は、例えば、レーザ光3の波長に対し、90%以上の反射率を持つ。
【0035】
集光レンズ5は、ミラー4で反射されたレーザ光3を集光するレンズである。集光レンズ5は、例えば、開口数(NA)が0.95のものが選択される。尚、集光レンズ5は、レーザ光3の波長に対して、開口数(NA)が、0.1以上0.95以下であれば適用可能である。
【0036】
集光レンズ5としては、収差補正機能を有するものが望ましい。これによって、脆性材1の内部の所定の厚さ位置に対して、表面側からレーザ光3を照射する場合及び裏面側からレーザ光3を照射する場合のいずれの場合でも、容易に集光することが可能となる。換言すると、これによって、表面側からレーザ光3を照射する場合及び裏面側からレーザ光3を照射する場合のいずれの場合でも、レンズの球面収差に起因した集光点のレーザ光3の入射方向への伸びを抑制することができるため、集光点でのレーザ光3のエネルギー密度を高くすることができる。
【0037】
但し、収差を補正する方法としては、集光レンズ5を用いる方法の他に、位相変調素子11を用いた方法でも良い。
【0038】
Zステージ6は、脆性材1を載置した固定治具9をZ方向(脆性材1の厚さ方向を表す。以下同じ)に移動させる移動手段である。Zステージ6としては、例えば、移動精度が少なくとも1μmピッチ以内で、且つ、ストローク可能量が10mm以上のものが用いられる。
【0039】
XYステージ7は、脆性材1を載置した固定治具9をXY方向(脆性材1の基板面に平行な直交する二方向を表す。以下同じ)に移動させる移動手段である。XYステージ7は、例えば、Zステージの上に配置される。XYステージ7としては、例えば、移動精度が少なくとも1μmピッチ以内で、且つ、ストローク可能量がXY方向ともに200mm以上のものが用いられる。又、XYステージ7としては、例えば、走査速度が0.1mm/s以上で3mm/s以下の範囲において可変なものが用いられる。
【0040】
固定治具9は、脆性材1を固定する治具である。固定治具9は、Zステージ6及びXYステージ7を用いて、脆性材1の位置を移動可能な状態で、脆性材1を固定する。本実施形態に係る固定治具9は、例えば、固定治具12を介してXYステージ7に接続され、当該XYステージ7により、脆性材1の位置をXY方向に移動可能に構成されている。又、本実施形態に係る固定治具9は、例えば、固定治具12及びXYステージ7を介してZステージ6に接続され、当該Zステージ6により、脆性材1の位置をZ方向に移動可能に構成されている。
【0041】
固定治具9は、脆性材1の表面及び裏面に対して、レーザ光3を照射できるように構成されている。固定治具9としては、例えば、脆性材1を載置する底面部分がレーザ光3に対して透明な材料で構成されるか、又は、脆性材1の表裏面が露出するように脆性材1の側面部分を挟んで固定するような構成であれば良い。尚、レーザ光3に対して透明な材料は、例えば、ガラスなど、レーザ光3を入射することが可能であり透過率が90%以上あるものであれば良い。
【0042】
位相変調素子11は、レーザ光3を複数のビームに分岐する。位相変調素子11としては、特に限定されるものではないが、例えば、回折格子(DOE)等が用いられる。
【0043】
固定治具12は、脆性材1を固定する固定治具9とXYステージ7とを連結する治具である。
【0044】
レーザ光路切り替え装置13は、レーザ発振器2が出射するレーザ光3の光路を変更させる装置である。レーザ光路切り替え装置13は、好適には、制御用コンピュータ10の制御のもと、脆性材1の裏面側の適宜な位置に、レーザ光3を照射し得るように構成される。
【0045】
レーザ光路切り替え装置13としては、例えば、ハーフシャッターやミラー、電気光学変調器、又は、音響光学素子等が用いられる。但し、レーザ光路切り替え装置13は、レーザ光3の周波数が高いため、高速で切り替えることが可能な電気光学変調器や音響光学素子を用いた装置であることが好ましい。レーザ光路切り替え装置13は、例えば、音響光学素子を用いた装置を用いて、レーザ光3の光路を瞬時に変更する。
【0046】
カメラ14は、脆性材1の表面状態を撮影する。カメラ14は、例えば、レーザ光3によって脆性材1の内部に改質層を形成する前に、脆性材1の表面状態を確認することで、脆性材1の表面の欠陥部Pを検出し、当該脆性材1における欠陥部Pの位置に係る情報を制御用コンピュータ10に対して伝達する。
【0047】
尚、カメラ14としては、一般的な可視光カメラを用いてもよいし、赤外線カメラ、又は超音波等を利用した撮像装置を用いてもよい。又、カメラ14は、脆性材1の表面状態に代えて、脆性材1の内部状態を撮像してもよい。
【0048】
制御用コンピュータ10は、レーザスライス装置Uの各部を統括制御する制御装置である。制御用コンピュータ10は、例えば、レーザ発振器2、レーザ光路切り替え装置13、Zステージ6、XYステージ7、及び、カメラ14とデータ通信して、脆性材1から半導体ウエアを分離する処理(詳細は後述する)を統括制御する。
【0049】
制御用コンピュータ10は、制御部10a、及び光遮蔽領域検出部10bを備えている。
【0050】
制御部10aは、脆性材1の一方側の表面(以下、「第1表面」とも称する)を一面に亘って走査するように、第1表面側からレーザ光3(以下、「第1レーザ光」とも称する)を照射して、脆性材1の内部のスライス予定面に改質層(以下、「第1改質層」とも称する)を形成する。
【0051】
加えて、制御部10aは、脆性材1の光遮蔽領域(後述)に対して、脆性材1の裏面(以下、「第2表面」とも称する)からレーザ光3(以下、「第2レーザ光」とも称する)を照射して、スライス予定面において第1改質層と連続するように第2改質層(以下、「第2改質層」とも称する)を形成する。尚、制御部10aは、光遮蔽領域検出部10bの検出結果に基づいて、当該光遮蔽領域を検出する。
【0052】
尚、制御部10aは、レーザ発振器2、レーザ光路切り替え装置13、Zステージ6、及びXYステージ7等を制御して、かかる機能を実現する。
【0053】
「スライス予定面」とは、最終的に、脆性材1を分離する境界面であって、脆性材1の内部の厚み方向(±Z方向)の所定の高さ位置の一面である。制御部10aは、典型的には、当該スライス予定面の一面に隙間なく第1改質層を形成する。但し、制御部10aは、スライス予定面の一面のうちの一部(例えば、スライス予定面のうち欠陥部Pが存在する領域)については、第1改質層を形成しない構成としてもよい。
【0054】
光遮蔽領域検出部10bは、カメラ14から取得する脆性材1の表面の表面状態に基づいて、脆性材1の表面側に存在する光遮蔽領域(脆性材1の表面側からレーザ光3を照射した際に、当該レーザ光3がスライス予定面に到達することを遮蔽する領域を表す。以下同じ)を検出する。
【0055】
脆性材1の光遮蔽領域は、典型的には、脆性材1の表面側に存在する欠陥部Pの位置である。第1改質層17が存在する部分は色が変化し、未改質領域(即ち、光遮蔽領域)は脆性材1本来の色をしているため、カメラ14にて、容易に場所を特定することができる。但し、光遮蔽領域検出部10bは、光遮蔽領域について、脆性材1の欠陥部Pに起因するか、その他の付着物に起因するかについては、必ずしも識別する必要はない。
【0056】
光遮蔽領域検出部10bによる欠陥部Pの検出タイミングとしては、制御部10aの処理を実行する前のタイミングであってもよいし、制御部10aの処理を実行しつつ、レーザ光3の走査位置毎であってもよい。又、脆性材1の表面側の一面に亘ってレーザ光3の照射を行った後のタイミングであってもよい。
【0057】
尚、上記した制御用コンピュータ10としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、及び、出力ポート等を含んで構成されるマイコン等が用いられる。制御用コンピュータ10が有する制御部10a及び光遮蔽領域検出部10bの機能は、例えば、CPUがROMやRAMに格納された制御プログラムや各種データを参照することによって実現される。但し、当該機能は、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア回路、又はこれらの組み合わせによっても実現できることは勿論である。又、制御用コンピュータ10は、複数のコンピュータによって実現されてもよいのは勿論である。
【0058】
[レーザスライス装置の動作]
図2は、本実施形態に係るレーザスライス装置Uのレーザ照射の走査方法を示す概略図である。
【0059】
図2は、典型的な一例として、レーザ光3を直線的に走査するレーザ照射の走査方法を示している。本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、脆性材1を載置したXYステージ7を移動させて、レーザ光3に対する脆性材1の相対的な位置を移動することで、脆性材1の表面側の全領域に対してレーザ光3を照射する。
【0060】
本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、開始点SからXYステージ7をY方向にライン状に移動させて、脆性材1の表面の一端側から他端側まで到達させる。そして、本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、XYステージ7をX方向に幅D(即ち、ピッチ幅)だけ移動させた後、同様に、脆性材1の表面の他端側から一端側までライン状に移動させる。本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、かかる走査を繰り返し、脆性材1の表面の全領域を順次走査し、
図2の終点Eまで走査する。終点Eは、レーザ光3の照射終了位置である。尚、ピッチ幅Dは、脆性材1の表面におけるレーザ光3のビーム径に応じたピッチが設定される。
【0061】
このようにして、脆性材1の内部のスライス予定面の一面に亘って、第1改質層17を形成する。尚、「改質層」とは、集光レンズ5で集光させたレーザ光3が脆性材1の内部に照射された際に、脆性材1の化合物が分解し形成される層である。改質層においては、例えば、脆性材1の材料がGaNであれば、2GaN→2Ga+N2と分解される。
【0062】
但し、レーザ走査においては、脆性材1が改質される際に発生するガス(例えば材料がGaNであればN2ガス)を抜く必要があるため、脆性材1の一端側から他端側まで、連続的に第1改質層17を形成するのが望ましい。
【0063】
尚、第1改質層17の形成量(典型的には、第1改質層17の高さ方向の幅)は、レーザ走査時における走査速度、レーザ光3の周波数(若しくはレーザ光3のパルス間の間隔)、又は、ピッチ幅D等によって、変化させることができる。
【0064】
脆性材1の内部のスライス予定面の深さは、スライス後に、基板1Sがスライス面を研削・研磨されても求めるウエハ厚みを確保できるような値に設定される。
【0065】
【0066】
図3Aは、脆性材1の内部に第1改質層17を形成している途中の状態を示す。
図3Bは、脆性材1の内部のスライス予定面に第1改質層17を形成し終わった状態を示す。
図3Cは、脆性材1の内部のスライス予定面を境界面として脆性材1から基板材(半導体ウエハ)1Sを分離した状態を示す。
図3Dは、脆性材1から生成した半導体ウエハを示す。
【0067】
図3A、
図3B、
図3C、
図3Dにおいて、19は脆性材1の表面、20は脆性材1の裏面、17は脆性材1の内部に形成された第1改質層、Qはレーザ光3の集光点を表している。尚、集光点(加工点)Qは、集光レンズ5によってレーザ光3が脆性材1の内部で集光される点であり、実際に加工される点である。
【0068】
本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、Zステージ6を用いて脆性材1の表面から指定した深さのところに集光点Qができるよう脆性材1と集光レンズ5の高さ方向の相対的な位置関係を調整する。そして、レーザスライス装置Uは、レーザ発振器2からレーザ光3を出射し、ミラー4によって反射し、集光レンズ5を透過させて脆性材1の基板面に対して垂直にレーザ光3を照射し、脆性材1の内部に集光点Qを形成する。これにより、脆性材1の内部の集光点Qにおいて、多光子吸収によって脆性材1が改質される(
図3A)。
【0069】
レーザスライス装置Uは、XYステージ7を用いて、レーザ光3を上記したように走査することによって、脆性材1の内部のスライス予定面の全領域に、第1改質層17を形成する(
図3B)。レーザスライス装置Uは、その後、第1改質層17の上面(スライス予定面)を起点にして、脆性材1を上層側と下層側に分離する(
図3C、
図3D)。この際、脆性材1の内部のスライス予定面の全領域に第1改質層17が形成されていれば、脆性材1は、当該脆性材1のスライス予定面を起点にして、ほとんど力を加えることなく剥離するように、上層側と下層側に分離することになる。
【0070】
尚、分離された基板1Sは、例えば、後工程である研磨工程を経て、完成品(例えば、半導体ウエハ)となる。
【0071】
しかしながら、
図3Aのように、表面19側からのみ、改質層を形成した場合、脆性材1内に存在する欠陥部(例えば、ピットや傷)が、脆性材1の内部へのレーザ光3の入射を妨げ、当該欠陥部の下部領域が、未改質領域となる。その結果、当該未改質領域に起因して、
図3Cの剥離工程において、分離された基板1S(半導体ウエハ)に、割れやクラックが発生してしまう。
【0072】
図4A、
図4Bは、本実施形態に係るレーザスライス方法を説明する図である。
図4A、
図4Bは、レーザ照射方向に対して垂直な方向から見た脆性材1の側面断面図である。
【0073】
本実施形態に係るレーザスライス方法は、脆性材1の表面19側からレーザ光3を照射する第1の照射工程と、脆性材1の裏面20側からレーザ光3を照射する第2の照射工程の二工程を含む。
図4Aは、本実施形態に係るレーザスライス方法の第1の照射工程を示し、
図4Bは、本実施形態に係るレーザスライス方法の第2の照射工程を示している。
【0074】
図4A、
図4Bにおいて、欠陥部Pは、脆性材1内に存在する欠陥である。例えばGaNの場合、ピットと呼ばれており、形状は様々であるが、代表的な形状では六角錐状に穴が空いており、黒色を有するものが多い。また、欠陥部Pの大きさとしては、数μmから数mmのものまで存在する。欠陥部Pにおいては、他の領域との形状や屈折率の違いなどにより、うまく集光することができずに未改質領域が形成される。
【0075】
ここで、脆性材1は、例えばGaNであれば、N面側が表面19側となるように、換言すると、Ga面側が裏面20側となるように配置されている。以下で説明するレーザスライス方法では、N面側が表面19側となるように配置した状態で説明を行う。ただし、Ga面側が表面19側となるように、換言すると、N面側が裏面20側となるように配置しても良い。このような場合とは、ピットがGa面側に形成されている場合などである。
【0076】
本実施形態に係るレーザスライス方法では、第1の照射工程において(
図4A)、脆性材1の一方側の表面19から、上記
図2のように、脆性材1の内部のスライス予定面の一面に亘って第1改質層17を形成する。そして、第2の照射工程において(
図4B)、脆性材1の他方側の表面20から、欠陥部Pが存在する領域のみに、スライス予定面において第1改質層17と連続するように、第2改質層18を形成する。
【0077】
本実施形態に係るレーザスライス方法においては、例えば、走査位置毎に、第1改質層17を形成し、欠陥部Pの位置に関しては、レーザ光路切り替え装置13により第2表面20側からレーザ光3が入射し、第2改質層18を形成する。
【0078】
但し、第1の照射工程(
図4A)と第2の照射工程(
図4B)とは、走査位置毎に行ってもよいし、第1の照射工程(
図4A)にて表面側の一面に亘って走査した後に第2の照射工程(
図4B)を行ってもよい。逆に、第2の照射工程(
図4B)で欠陥部Pが存在する領域のみを改質した後に、第1の照射工程(
図4A)にて表面側の一面に亘って走査してもよい。
【0079】
図4Aにおいて、第1改質層上面Aは、第1改質層17の上面であり、脆性材1を剥離する際に起点となる剥離面、即ちスライス予定面を表す。第1改質層上面Aは、レーザ光3の集光点Qの走査により形成される。
【0080】
第1改質層中面Bは、第1改質層17の第1改質層上面Aから改質領域が形成され、確実に改質部が存在する領域の下面である。厚み方向のA-Bの幅(即ち、第1改質層上面Aから第1改質層中面Bまでの距離)は、改質条件に応じて変化させることができ、1μmから300μmの厚みを持たせることができるが、この幅が大きいと材料ロスも大きくなるため、極力小さくすることが好ましい。
【0081】
第1改質層下面Cは、内部の集光照射により形成された第1改質層17において、最も深い位置に対応する面であり、厚み方向のA-Cの幅(即ち、第1改質層上面Aから第1改質層下面Cまでの距離)が表面の粗さの指標となる。尚、この幅が大きいと材料ロスや研磨工程に時間を要するため、極力小さくすることが望ましい。
【0082】
未改質領域Rは、レーザ光3を集光レンズ5で集光照射した際、欠陥部Pの下部においてレーザ光3が欠陥部Pに遮られることで加工ができず、改質層が形成されなかった領域である。この未改質領域Rが大きい場合、GaNを改質層を起点に分離させる際、未改質領域Rを起点にGaN基板1Sに割れが発生してしまう。
【0083】
図4Bにおいて、第2改質層18は、第1表面19の裏面である第2表面20の方向からレーザ光3を集光レンズ5によって脆性材1の内部に集光照射した際に形成される改質領域を表す。欠陥部Pが存在する位置において、レーザ光路切り替え装置13を用いて光路を変更し、第2改質層18を形成する。
【0084】
第2改質層上面Fは、第2改質層18の上面であり、当該第2改質層上面Fがレーザ光3の集光点Qの高さ位置に相当する。換言すると、第2改質層上面Fが、脆性材1を剥離する際に起点となる剥離面である。
【0085】
第2改質層中面Gは、第2改質層18の第2改質層上面Fから改質領域が形成され、確実に改質部存在する領域の下面である。厚み方向のF-Gの幅(即ち、第2改質層上面Fと第2改質層中面Gの幅)は、改質条件に応じて変化させることができ、1μmから300μmの厚みを持たせることができる。
【0086】
第2改質層下面Hは、内部の集光照射による第2改質層18に対し、最も深い位置に改質層が形成されている面であり、厚み方向のA-Cの幅が表面の粗さの指標となる。
【0087】
本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、第1改質層17を形成する際、及び、第2改質層18を形成する際のいずれにおいても、脆性材1の内部におけるレーザ光3の集光点がスライス予定面の高さ位置となるように制御する。典型的には、第2表面20側から入射したレーザ光3の集光レンズ5により集光された集光点Qにより形成された第2改質層上面Fは、第1改質層上面Aと略同一面であることが好ましい。
【0088】
このように、第1の照射工程(
図4A)と第2の照射工程(
図4B)とを行って、脆性材1の内部のスライス予定面の一面に亘って、第1改質層17及び第2改質層18を形成することで、脆性材1は、当該スライス予定面を起点として、分離することになる。
【0089】
尚、このようにして分離した脆性材1は、典型的には、表面19側が半導体ウエハ1Sとして用いられる。但し、脆性材1に対して、予め平坦化加工を行って2枚分程度の厚さにしておくことで、表面19側に加えて裏面20側も半導体ウエハ1Sとして用いることもできる。
【0090】
又、第1改質層上面Aを起点として脆性材1を剥離させる際、未改質領域Rが無いことが好ましい。そのため、第2改質層18は、第1改質層17と連続している必要がある。即ち、第2表面20側から入射したレーザ光3の集光レンズ5により集光された集光点Qにより形成された第2改質層上面Fは、第1改質層上面Aと略同一面であることが好ましい。
【0091】
又、第1改質層17と第2改質層18とで集光点Qの高さ位置を合わせる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、あらかじめ脆性材1の厚みを測定しておき、脆性材1の屈折率に応じて集光位置を変える方法を用いてもよいし、又は、脆性材1の内部に改質層を形成した際の色の変化から、改質位置を検知し、焦点位置を合わせる方法を用いてもよい。
【0092】
但し、焦点Qを合わせることが困難であれば、第2改質層上面Fが、第1改質層17の上面Aと中面Bの間の範囲内に形成されるように加工を行ってもよい。かかる構成によっても、未改質領域Rが無い状態で脆性材1を剥離させることができるため、割れを防止することができる。
【0093】
尚、欠陥部Pの下部に形成される第2改質層18は、少なくとも第1改質層17の中面Bより第1表面19側に形成されることになるが、欠陥部Pが存在する部分はデバイスとして使用できない部分なので、特に問題とはならない。
【0094】
但し、脆性材1の表面19及び裏面20のうち、第1の照射工程(
図4A)の対象とする表面は、欠陥部Pが多く露出する側の表面とするのが望ましい。
【0095】
例えば、脆性材1としてGaNを用いる場合、N面側の表面を第1の照射工程(
図4A)の対象とするのが望ましい。一般的に機能面と呼ばれるのは、GaN結晶のGa極性面側であり、当該GaNは、作製したGaN基板のGa面にエピタキシャル成長を行うことでLEDやデバイスとして使用される。そのため、Ga面側には、その改質領域や改質領域周辺の熱影響を受ける領域は極力小さくすることが望ましい。また、レーザ光3を照射した際、集光点Qを起点に改質領域がレーザ入射方向に向かって伸張するため、レーザ光3の入射側が改質や熱の影響をうけやすく、改質面が粗くなる。即ち、GaN内部に対してはN面側の表面を第1の照射工程(
図4A)の対象とすることによって、機能面であるGa面への改質や熱の影響を低減でき、且つ、研磨工程を短縮することができる。これにより、基板コストや材料ロスを低減することができる。
【0096】
又、第1の照射工程では、脆性材1の第1表面19における欠陥部Pの径がレーザ光3のビーム径よりも大きい場合には、レーザ光3を欠陥部Pに照射しないことが望ましい。これにより、レーザ光3の条件を変えることなく、第1の照射工程における全面加工が可能となる。
【0097】
[効果]
以上のように、本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、脆性材1の第1表面側に存在する光遮蔽領域を検出する光遮蔽領域検出部10bと、脆性材1の第1表面を一面に亘って走査するように、第1表面側から第1レーザ光3を照射して、脆性材1の内部のスライス予定面に第1改質層17を形成すると共に、脆性材1の光遮蔽領域に対して、第2表面から第2レーザ光を照射して、スライス予定面において第1改質層17と連続するように第2改質層18を形成する制御部10aと、を備えている。
【0098】
従って、このレーザスライス装置Uによれば、脆性材1内に欠陥部Pが存在する場合でも、脆性材1の内部のスライス予定面の一面に亘って改質することができる。これによって、改質層(第1改質層17及び第2改質層18)形成後、脆性材1から基板1S(例えば、半導体ウエハ)を剥離させる際に、脆性材1の内部の未改質領域に起因して、基板1Sに割れ又はクラックが発生することを抑制することができる。換言すると、これによって、割れ又はクラックによる基板1Sの不良率の低下、即ち歩留まり向上を図ることができる。
【0099】
(第2の実施形態)
次に、
図5~
図8を参照して、第2の実施形態に係るレーザスライス装置Uについて説明する。本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、レーザ照射の走査方法、及び、脆性材1の裏面20側に対するレーザ光3の照射方法の点で、第1の実施形態に係るレーザスライス装置Uと相違する。尚、第1の実施形態と共通する構成については、説明を省略する。
【0100】
図5は、本実施形態に係るレーザスライス装置Uの装置概略図である。
【0101】
本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、回転ステージ8を有している。回転ステージ8は、XYステージ7の上に配置されている。又、回転ステージ8は、例えば回転速度が0.1rpm以上2000rpm以下の範囲において可変である。本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、Zステージ6、XYステージ7、または回転ステージ8を制御用コンピュータ10で制御を行い走査しながら、脆性材1の内部に集光照射させる。
【0102】
他方、本実施形態に係るレーザスライス装置Uは、脆性材1の裏面20からレーザ光3を照射する際には、脆性材1をXYステージ7上で裏返す構成としているため、レーザ光路切り替え装置13を有していない。
【0103】
図6A、
図6B、
図6Cは、本実施形態に係るレーザスライス装置Uの走査方法を示す概略図である。
【0104】
図6A、
図6B、
図6Cは、それぞれ、本実施形態に係るレーザスライス装置Uを用いた三種類の走査方法を示している。
【0105】
図6Aは、
図2に示した第1の実施形態に係るレーザスライス装置Uの走査方法と同様に、レーザ光3を直線的に走査するレーザ照射の走査方法である。この際には、回転ステージ8を移動させないため、走査方法としては、第1の実施形態に係るレーザスライス装置Uの走査方法と同様になる。
【0106】
図6Bは、一枚の脆性材1に対して円周状に加工を行う際のレーザ照射の走査方法である。この際には、回転ステージ8を回転させつつ、レーザ光3が回転ステージ8の径方向の外側領域の開始点Sから回転中心の終点Eに向けて走査するように、XYステージ7を移動させる。この時、集光点Qでの回転ステージ8の回転数を考慮し、レーザ光3のXYステージ7の走査速度を制御用コンピュータ10で制御を行うことで、レーザ光3のパルス14が等間隔に照射されるように制御する。
【0107】
図6Cは、複数枚の脆性材1に対して、円周状に加工を行う際のレーザ照射の走査方法である。
図6Bの走査方法では、レーザ光3を中心方向に走査していく際に、中心部に向かうほど角速度が低下するため、終点E近傍での過度なレーザ光3の照射が生じるおそれがある。
図6Cでは、複数枚の脆性材1を配置し、中心部近傍での照射を避けることで、過度なレーザ光3の照射を防ぐことができる。
【0108】
尚、
図6Cの走査方法は、
図6Bと同様に、回転ステージ8を回転させ、開始点Sから終点Eに向けて、レーザ光3を脆性材1の外縁部から、回転ステージ8の中心方向に向けて照射を行う。この時、集光点Qでの回転ステージ8の回転数を考慮し、レーザ光3のXYステージ7の走査速度を制御用コンピュータ10で制御を行うことで、レーザ光3のパルスが等間隔に照射されるように制御する。
【0109】
図7A、
図7Bは、本実施形態に係るレーザスライス方法を説明する図である。
図7A、
図7Bは、レーザ照射方向に対して垂直な方向から見た脆性材1の側面断面図である。
【0110】
本実施形態に係るレーザスライス方法は、第1の実施形態に係るレーザスライス方法と同様に、第1の照射工程と第2の照射工程の二工程を含む。
図7Aは、本実施形態に係るレーザスライス方法の第1の照射工程を示し、
図7Bは、本実施形態に係るレーザスライス方法の第2の照射工程を示している。
【0111】
本実施形態に係る第1の照射工程(
図7A)では、Zステージ6を用いて脆性材1の表面から指定した深さのところに集光点Qができるよう脆性材1と集光レンズ5の高さ方向の相対的な位置関係を調整する。そして、XYステージ7を用いて、脆性材1の外縁部に照射するための開始点Sに移動を行い、レーザ発振器2からレーザ光3を発振し、ミラー4によって反射し、集光レンズ5を透過させて脆性材1に垂直に照射し、脆性材1の内部に集光点Qを形成し、多光子吸収によって脆性材1を改質して、第1改質層17を形成する。そして、終点Eまで加工を行う。
【0112】
本実施形態に係る第2の照射工程(
図7B)では、第1の照射工程(
図7A)の後、脆性材1を取り出し、第1表面19の裏面である第2表面20からレーザ光3が入射できるよう裏返し、欠陥部Pの位置を第2表面20からレーザ光3を集光レンズ5で集光させて照射する。
【0113】
この際、先にカメラ14で欠陥部Pの位置を取得し、脆性材1を裏返した後に加工する態様や、第1改質層17を形成後、カメラ14を用いて未改質領域Rを検出した後に加工する方法でも良い。
【0114】
尚、後者であれば、脆性材1の第1表面19の汚れや異物などで加工することができなかった位置も検出することができる。この際、欠陥部Pには第1表面19からレーザ光3を照射しないことが望ましい。熱影響を最小限に抑えるためである。
【0115】
以上のように、本実施形態に係るレーザスライス装置Uによっても、第1の実施形態に係るレーザスライス装置Uと同様に、改質層(第1改質層17及び第2改質層18)形成後、脆性材1から基板1S(例えば、半導体ウエハ)を剥離させる際に、脆性材1の内部の未改質領域に起因して、基板1Sに割れ又はクラックが発生することを抑制することができる。
【0116】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係るレーザスライス装置によれば、脆性材内に欠陥部が存在する場合であっても、割れやクラックを生じさせることなく加工対象物を分離することを可能である。
【符号の説明】
【0118】
1:脆性材
2:レーザ発振器
3:レーザ光
4:ミラー
5:集光レンズ
6:Zステージ
7:XYステージ
8:回転ステージ
9:固定治具
10:制御用コンピュータ
11:位相変調素子
12:固定治具
13:レーザ光路切り替え装置
14:カメラ
17:第1改質層
18:第2改質層
19:第1表面
20:第2表面
A:第1改質層上面
B:第1改質層中面
C:第1改質層下面
D:幅
F:第2改質層上面
G:第2改質層中面
H:第2改質層下面
S:開始点
E:終点
R:未改質領域
P:欠陥部
Q:集光点