(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】手動搾乳器
(51)【国際特許分類】
A61M 1/06 20060101AFI20220816BHJP
【FI】
A61M1/06
(21)【出願番号】P 2018517085
(86)(22)【出願日】2017-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2017017947
(87)【国際公開番号】W WO2017195876
(87)【国際公開日】2017-11-16
【審査請求日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2016095498
(32)【優先日】2016-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000112288
【氏名又は名称】ピジョン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100096806
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【氏名又は名称】野口 和孝
(72)【発明者】
【氏名】落合 志文
【審査官】宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-089904(JP,A)
【文献】特開2012-223495(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0088495(US,A1)
【文献】米国特許第08187219(US,B1)
【文献】国際公開第03/013628(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02875835(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房にあてがわれるフードに囲まれた空間と連通する連通部を有する本体と、
変形することで前記連通部に負圧を発生させるダイヤフラムと、
前記本体に対して接近及び離間することで前記ダイヤフラムを変形させる操作用のハンドルと、
を備え、
前記ハンドルは、前記ダイヤフラムの上方に配置されて、前記ダイヤフラムを持ち上げるリフト部と、前記リフト部から曲折して前記本体の側面に対応して位置するレバー部とを有し、
前記レバー部が前記本体に接近すると、前記ハンドルが支軸部を中心に回動し、前記リフト部が前記ダイヤフラムを持ち上げる構成となっており、
少なくとも前記ハンドル/前記本体/前記ダイヤフラムのいずれかの領域には、前記レバー部が前記接近した際に、少なくとも前記ハンドルの前記レバー部と前記本体とが直接的に接触する前に衝突する衝突部が設けられており、
前記衝突部は、それが配置された前記領域と同じ材料で一体的に形成され、
前記衝突した際、その衝撃力を吸収又は伝搬を抑止するダンパー構造が前記衝突部又は被衝突部に形成され
、
前記本体は、前記ダイヤフラムに比べて硬度が高く、前記ダイヤフラムが接続されるベースとなるベース部を有し、
前記衝突部は、前記ダイヤフラム、及び/又は、前記ハンドルの操作の際に前記ハンドルの前記ダイヤフラムに接近する領域に設けられ、
前記衝突部が衝突した際の衝撃力は、前記ダイヤフラムの前記ベース部に接続された接続領域に作用する
ことを特徴とする手動搾乳器。
【請求項2】
前記
衝突部は、前記接続領域から突出することで、前記ハンドルと衝突可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の手動搾乳器。
【請求項3】
前記衝突部は、前記
突出した方向の根元又は途中に、切り欠き部又は凹部を有していることを特徴とする請求項2に記載の手動搾乳器。
【請求項4】
前記衝突部は、前記
ベース部を囲む前記接続領域の全周から突出していることを特徴とする
請求項2又は請求項3に記載の手動搾乳器。
【請求項5】
前記衝突部は、
前記ハンドルから突出した突出部であり、
前記被衝突部は、その少なくとも一部が前記ダイヤフラムの前記接続領域であり、
前記衝突部は、前記被衝突部の厚み方向の面に衝突するようになっている
ことを特徴とする請求項
1に記載の手動搾乳器。
【請求項6】
乳房にあてがわれるフードに囲まれた空間と連通する連通部を有する本体と、
変形することで前記連通部に負圧を発生させるダイヤフラムと、
前記本体に対して接近及び離間することで前記ダイヤフラムを変形させる操作用のハンドルと、
を備え、
前記ハンドルは、前記ダイヤフラムの上方に配置されて、前記ダイヤフラムを持ち上げるリフト部と、前記リフト部から曲折して前記本体の側面に対応して位置するレバー部とを有し、
前記レバー部が前記本体に接近すると、前記ハンドルが支軸部を中心に回動し、前記リフト部が前記ダイヤフラムを持ち上げる構成となっており、
少なくとも前記ハンドル/前記本体/前記ダイヤフラムのいずれかの領域には、前記レバー部が前記接近した際に、少なくとも前記ハンドルの前記レバー部と前記本体とが直接的に接触する前に衝突する衝突部が設けられており、
前記衝突部は、それが配置された前記領域と同じ材料で一体的に形成され、
前記衝突部は、前記衝突をした際、外部に露出しないように空隙を介して覆われた構造とされ、
前記衝突部は貫通孔を有し、この貫通孔よりも前記衝突する側が前記衝突した際に前記貫通孔側に変形可能とされている
ことを特徴とす
る手動搾乳器。
【請求項7】
前記ハンドルは、前記本体側に開口した空洞部を有し、
前記衝突部は、少なくとも前記衝突した際に、前記空洞部内に配置されている
ことを特徴とする
請求項6に記載の手動搾乳器。
【請求項8】
前記ハンドルは、前記本体の支軸部を中心に回動自在となっており、
前記衝突部は、前記本体の前記支軸部の周辺に配置されている
ことを特徴とする
請求項7に記載の手動搾乳器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母乳を手動で搾るための手動搾乳器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、使用者が手動で母乳を搾乳する手動搾乳器が知られている。特許文献1はその例であり、そのFIG.1に示されるように、使用者の乳房を覆うフード部材12と、フード部材12と連結したハウジング24と、ハウジング24に負圧を付与するためのポンプ14とを有し、ポンプ14で発生させた負圧状態により、ハウジング24を介してフード部材12にあてがわれた乳首から母乳を吸引している。
ポンプ14はダイヤフラムからなり、このダイヤフラムは接続されたレバー34の操作により変形して上述した負圧状態を発生させている。レバー34はハウジング24に対して接近・離間するように手動で回動操作される。
【0003】
ここで、使用者はレバー34とハウジング24を同時に片手で把持してレバー34を回動操作することから、レバー34とハウジング24の寸法は片手で把持できる寸法とされている。そのような中、大きな負圧を発生させて母乳をしっかり搾乳しようとすると、レバー34を可及的に大きく回動させることになる。そうすると、硬質プラスチックからなるレバー34とハウジング24とが衝突し、この硬質プラスチック同士の衝突音がノイズになって、使用者に不快感を与えることになる。
特許文献1では、このような事情を考慮して、ハウジング24のレバー34と衝突する位置に、エラストマーや天然ゴムなどからなる圧縮性材料40を設け、この圧縮性材料40で衝突音を減少させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、圧縮性材料40を硬質プラスチックからなるハウジング24に設ける構造であると、圧縮性材料40のハウジング24からの剥がれや脱落を防止するために、圧縮性材料40を大きな面積をもってハウジング24に接着し、或いは、ハウジング24に巻き付けたりする必要がある。特に、この圧縮性材料40にはレバー34が何度も繰り返して衝突するため、そのハウジング24への接着・巻き付け量は相当に大きくせざるを得ない。このため手動搾乳器は重くなって、却って使用者の疲労を招くことになる。
また、硬質プラスチックの他に、衝突音の防止用として圧縮性材料40を用いると、製造コストも嵩んでしまう。
本発明は、ハンドルと本体との衝突音を軽減すると共に疲労も抑制し、安価な手動搾乳器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明によれば、乳房にあてがわれるフードに囲まれた空間と連通する連通部を有する本体と、変形することで前記連通部に負圧を発生させるダイヤフラムと、前記本体に対して接近及び離間することで前記ダイヤフラムを変形させる操作用のハンドルと、を備え、前記ハンドルは、前記ダイヤフラムの上方に配置されて、前記ダイヤフラムを持ち上げるリフト部と、前記リフト部から曲折して前記本体の側面に対応して位置するレバー部とを有し、前記レバー部が前記本体に接近すると、前記ハンドルが支軸部を中心に回動し、前記リフト部が前記ダイヤフラムを持ち上げる構成となっており、少なくとも前記ハンドル/前記本体/前記ダイヤフラムのいずれかの領域には、前記レバー部が前記接近した際に、少なくとも前記ハンドルの前記レバー部と前記本体とが直接的に接触する前に衝突する衝突部が設けられており、前記衝突部は、それが配置された前記領域と同じ材料で一体的に形成され、前記衝突した際、その衝撃力を吸収又は伝搬を抑止するダンパー構造が前記衝突部又は被衝突部に形成され、前記本体は、前記ダイヤフラムに比べて硬度が高く、前記ダイヤフラムが接続されるベースとなるベース部を有し、前記衝突部は、前記ダイヤフラム、及び/又は、前記ハンドルの操作の際に前記ハンドルの前記ダイヤフラムに接近する領域に設けられ、前記衝突部が衝突した際の衝撃力は、前記ダイヤフラムの前記ベース部に接続された接続領域に作用する手動搾乳器により解決される。
【0007】
上記構成によれば、フードに囲まれた空間と連通する連通部を有する本体と、変形することで連通部に負圧を発生させるダイヤフラムと、本体に対して接近・離間することでダイヤフラムを変形させる操作用のハンドルとを有している。このため、ダイヤフラムを変形させるためにハンドル操作をする際、ハンドルが本体に衝突することが多い。
しかし、ハンドルが本体に接近した際、少なくともハンドル又は本体或いはダイヤフラムのいずれかの領域には、少なくとも前記ハンドルと前記本体とが直接的に接触する前に衝突する衝突部が設けられている。従って、衝突部は、ハンドルと本体との間、及び/又はハンドルとダイヤフラムとの間に介在して、ハンドルと本体とが衝突する前に衝突し、これによりハンドルと本体との衝突を防止して、不快な衝突音の発生を防止できる。或いは、ハンドル操作によりハンドルと本体とが衝突したとしても、その前に衝突部が衝突しているので、ハンドルと本体との衝突による衝撃は緩和され、該衝突音の低減を図ることができる。
ここで、この衝突部については、それが配置されたハンドル/本体/ダイヤフラムの領域と同じ材料で一体的に形成されている。このため、衝突部は、繰り返し衝突したとしても、それが配置されたハンドル/本体/ダイヤフラムから外れてしまう事態を可及的に防止できるし、その分、衝突部を多量に接続する必要もない。従って、手動搾乳器の重量を抑えて、使用時における疲労を抑制することができ、また、安価な手動搾乳器を製造することができる。
そして、衝突部又はこの衝突部が衝突する被衝突部にダンパー構造が形成されている。このダンパー構造によれば、衝突部が衝突した際、その衝突力自体を弱めてその衝突音の発生を低減したり、衝突部(固体)中の伝搬音を低減したりすることができる。従って、ハンドルと本体とが接触する前に衝突部が衝突したとしても、静音性を向上することができる。
【0008】
また、前記本体は、少なくとも前記ダイヤフラムに比べて硬度が高く、前記ダイヤフラムが接続されるベースとなるベース部を有し、前記衝突部は、前記ダイヤフラム、及び/又は、前記ハンドルの操作の際に前記ハンドルの前記ダイヤフラムに接近する領域に設けられ、前記衝突部が衝突した際の衝撃力は、前記ダイヤフラムの前記ベース部に接続された接続領域に作用することを特徴とする。
そうすると、衝突部が衝突した際の衝撃力はベース部に接続された接続領域に加えられるが、この接続領域自体はダイヤフラムの本来の機能である負圧発生の機能とは略関係のないところである。従って、ダイヤフラムをダンパー構造として利用したとしても、搾乳
器の負圧発生の機能に悪影響を与えることを防止でき、適切なさく乳を実現できる。なお、この好ましい発明では、衝突部が衝突した際の衝撃力がダイヤフラムの接続領域だけではなく、ダイヤフラムの接続領域以外の部分にも作用する構成を除外するものではない。この接続領域以外の部分にも作用する際は、衝突部が衝突した際の衝撃力は、ダイヤフラムの接続領域に優先的に作用するのが好ましい。
【0009】
また、好ましくは、前記衝突部は、前記接続領域から突出することで、前記ハンドルと衝突可能とされていることを特徴とする。
そうすると、上述したように、衝突部は、それが配置された領域と同じ材料で一体的に形成されているので、ベース部に接続されたダイヤフラムの接続領域から突出して形成される衝突部もダイヤフラムと同様の変形力を発揮し、これにより、衝撃力を吸収して衝突音を低減することができる。特に、ダイヤフラムはシリコーンゴム製等の手動操作での変形容易性に特徴があることから、衝突部も同様に変形が容易となり、従って、衝撃の吸収性も相当に高く、高い静音性を実現できる。
しかも、衝突部は、硬質のベース部に嵌めこむなどして接続された接続領域から突出しているので、衝撃力がダイヤフラムの負圧を発生させる部分に悪影響を与えることも防止でき、適切なさく乳を実現できる。
さらに、この突出した衝突部を摘みにして、ベース部とダイヤフラムとの着脱も容易となる。
【0010】
また、好ましくは、前記衝突部は、前記突出した方向の根元又は途中に、切り欠き部又は凹部を有していることを特徴とする。
このため、衝突部が衝突して変形した時に発生する応力は切り欠き部又は凹部に集中して、ダイヤフラムの負圧を発生させる部分の衝撃による変形をより有効に防止でき、ダイヤフラムの本来のポンプ機能に与える悪影響を効果的に防止できる。
【0011】
また、好ましくは、前記衝突部は、前記ベース部を囲む前記接続領域の全周から突出していることを特徴とする。
そうすると、衝突部はベース部の全周を囲むように配置されることとなり、衝突部をベース部周りに回転させた場合、どの位置でもハンドルと衝突させることができる。
そして、このように衝突部を回転させると、衝突部と一体的に形成された連通部を覆うダイヤフラムの部分も回転することになる。従って、任意の時期にダイヤフラムを回すことで、ダイヤフラムの部分的に生じる劣化のムラを防止して、耐用年数を上げることができる。特に片側で軸支したハンドルを回動させることでダイヤフラムを変形させる場合、ダイヤフラムは不均等に変形して部分的にへたる恐れがあるが、ダイヤフラムを回転させることで部分的なへたりを防止することができる。
【0012】
また、好ましくは、前記衝突部は、前記ハンドルから突出した突出部であり、前記被衝突部は、その少なくとも一部が前記ダイヤフラムの前記接続領域であり、前記衝突部は、前記被衝突部の厚み方向の面に衝突するようになっていることを特徴とする。
そうすると、衝突部はハンドルから突出した突出部であるため、上述したシリコーンゴムなどで形成されるダイヤフラムから突出して形成した衝突部と比べて、衝突部を安価に製造することができる。
この点、上述したダイヤフラムから突出した衝突部であると、静音性には優れた効果を発揮するが、その一方で、衝突部の変形容易性から、ハンドルに衝突した後に折れ曲がって、使用者に違和感を与える恐れがある。しかし、この好ましい発明では、衝突部をダイヤフラムよりも硬質なハンドルから突出させて形成し、これを被衝突部(即ち、ダイヤフラムのベース部に接続された接続領域)の厚み方向の面に衝突させる構成であり、これにより、衝突部も被衝突部も折れ曲がり難くなる。従って、ハンドル操作が円滑になって、使用者に与える違和感を防止できる。
なお、この好ましい発明では、被衝突部の少なくとも一部がダイヤフラムのベース部に接続された接続領域であればよい(勿論、被衝突部の全てが接続領域であってもよい)。被衝突部の少なくとも一部が接続領域であれば、ハンドルを硬質なベース部よりも更に本体側に接近させることは不可能であるため、被衝突部は折れ曲がり難いし、ダイヤフラムの負圧発生の機能に与える悪影響も有効に防止できる。
【0014】
前記課題は、本発明によれば、乳房にあてがわれるフードに囲まれた空間と連通する連通部を有する本体と、変形することで前記連通部に負圧を発生させるダイヤフラムと、前記本体に対して接近及び離間することで前記ダイヤフラムを変形させる操作用のハンドルと、を備え、前記ハンドルは、前記ダイヤフラムの上方に配置されて、前記ダイヤフラムを持ち上げるリフト部と、前記リフト部から曲折して前記本体の側面に対応して位置するレバー部とを有し、前記レバー部が前記本体に接近すると、前記ハンドルが支軸部を中心に回動し、前記リフト部が前記ダイヤフラムを持ち上げる構成となっており、少なくとも前記ハンドル/前記本体/前記ダイヤフラムのいずれかの領域には、前記レバー部が前記接近した際に、少なくとも前記ハンドルの前記レバー部と前記本体とが直接的に接触する前に衝突する衝突部が設けられており、前記衝突部は、それが配置された前記領域と同じ材料で一体的に形成され、前記衝突部は、前記衝突をした際、外部に露出しないように空隙を介して覆われた構造とされ、前記衝突部は貫通孔を有し、この貫通孔よりも前記衝突する側が前記衝突した際に前記貫通孔側に変形可能とされていることを特徴とする手動搾乳器により解決される。
【0015】
上記構成によれば、ハンドルが本体に接近した際、少なくともハンドル或いは本体或いはダイヤフラムのいずれかの領域には、少なくともハンドルと本体とが直接的に接触する前に衝突する衝突部が設けられているので、上述した発明と同様、ハンドルと本体とが衝突する前に衝突部が衝突して、ハンドルと本体との衝突を防止し、或いは、ハンドルと本体との衝突による衝撃を緩和し、該衝突音の低減を図ることができる。
また、衝突部は、それが配置されたハンドル又は本体或いはダイヤフラムの領域と同じ材料で一体的に形成されているため、上述のように、脱落予防のためにハンドル/本体/ダイヤフラムに衝突部を多量に接続する必要もない。従って、手動搾乳器の重量を抑えて、使用時における疲労を抑制でき、また、安価な手動搾乳器を製造できる。
そして、この衝突部は、衝突をした際、外部に露出しないように空隙を介して覆われたカバー構造とされている。従って、衝突した際に生じる衝突音は、該覆った内側に閉じ込められて、使用者に伝搬し難くすることができる。なお、この衝突部とそれを覆う部材との間に空隙がないと、衝突音が直ぐに外部に漏れてしまうが、本発明では空隙があるため、外部への露出を有効に防止できる。
また、衝突部には貫通孔が形成されているので、衝撃による応力はこの貫通孔周辺に集中し易く、衝突部以外の領域に伝搬することを抑制できる。従って、衝突部が本体やハンドルと一体的に形成されていても、衝突音を低減することができる。
しかも、この貫通孔よりも衝突する側が衝突した際に貫通孔側に変形可能とされているため、衝突部が比較的硬度の高い材料から形成されていても、衝突部の変形量を大きくして、衝撃力を効果的に吸収することができる。
【0016】
また、好ましくは、前記ハンドルは、前記本体側に開口した空洞部を有し、前記衝突部は、少なくとも前記衝突した際に、前記空洞部内に配置されていることを特徴とする。
従って、ハンドルが本体に衝突した際、衝突した衝突部は空洞部内にあり、このため、衝突音を空洞部内に有効に閉じ込めて、外部にいる使用者に届かないようにすることができる。なお、衝突部は、衝突時に空洞部内に配置可能であれば、本体側に設けられていても、或いはハンドル側に設けられていてもよい。
【0017】
また、好ましくは、上述のように、衝突時の衝突部がハンドルの空洞部内に配置されている場合において、前記ハンドルは、前記本体の支軸部を中心に回動自在となっており、前記衝突部は、前記本体の前記支軸部の周辺に配置されていることを特徴とする。
このため、衝突部を隠す空洞部を作るためにハンドルの軸支側と反対側にある端部を大きくする必要性がない。従って、該端部を従来通りの大きさとして、回動したハンドルが直ぐに本体に接触してしまう恐れもなく、ハンドルの移動量を従来と同様に確保して、ダイヤフラムの確実な変形を可能とする。また、ハンドルの端部が重くなることもなく、ハンドル操作に余計な重みを感じることもない。
【発明の効果】
【0019】
以上、本発明によれば、ハンドルと本体との衝突音を軽減すると共に疲労も抑制し、安価な手動搾乳器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る手動搾乳器の分解斜視図。
【
図2】
図1の部品を組み合わせた手動搾乳器の概略中央縦断面図。
【
図3】
図2のハンドルを操作して変形させたダイヤフラム付近の中央縦断面図(一点鎖線で囲った図は衝突部付近の拡大図)。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る手動搾乳器のフードとハンドルを外して、ダイヤフラム及び支軸部付近を上側から視認した部分斜視図。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る手動搾乳器のハンドルを回動させた使用状態図。
【
図6】本発明の第1実施形態の第1変形例であって、変形したダイヤフラム付近を上側から視認した部分斜視図。
【
図8】本発明の第1実施形態の第2変形例に係る手動搾乳器の概略斜視図。
【
図9】
図8のハンドルを本体に最接近させた状態の手動搾乳器の概略正面図。
【
図10】
図9の手動搾乳器を衝突部付近で縦に切断した場合の概略縦断面図。
【
図11】本発明の第2実施形態に係る手動搾乳器の正面図。
【
図13】本発明の第3実施形態に係る手動搾乳器の正面図。
【
図15】本発明の第4実施形態に係る手動搾乳器の正面図。
【
図17】騒音測定に関する実験に用いた手動搾乳器の種類の概要図。
【
図19】従来品と第1実施形態に係る手動搾乳器の騒音を1/3オクターブ分析した比較図。
【
図20】従来品と第2及び第3実施形態に係る手動搾乳器の騒音を1/3オクターブ分析した比較図。
【
図21】従来品と第4実施形態に係る手動搾乳器の騒音を1/3オクターブ分析した比較図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の好適な実施形態を添付図面を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図において付した同じ符号は同様の構成を有している。
【0022】
〔第1実施形態〕
手動搾乳器は、乳児に直接母乳を与えることが困難な場合、乳頭が傷ついている場合、乳腺炎を予防する場合などに用いられ、使用者が手動で操作をして搾乳できる器具である。この手動搾乳器は、自らが操作をするため、軽量であって、かつ、片手での操作を可能とし、疲労を軽減できるものが好ましい。
図1及び
図2は、このような手動搾乳器(以下、「搾乳器」と略称する。)の第1実施形態であり、
図1はその分解斜視図、
図2は概略中央縦断面図である。なお、
図1の一点鎖線で囲った図は、衝突部40付近を拡大した図である。また、
図2では後述するボトル11を省略して図示している。
これらの図において、搾乳器20は、乳房にあてがわれる「フード16」、このフード16で囲まれた空間S1と連通した空間である連通部S4を有する「本体21」、この本体21の連通部S4に負圧を発生させる負圧発生部材である「ダイヤフラム30」、このダイヤフラム30を変形させる操作部である「ハンドル61」、搾乳した母乳を貯留するための収容容器としての「ボトル11」を備えている。
本実施形態のフード16、ダイヤフラム30、ハンドル61、及びボトル11は、好ましい態様として、本体21に対して着脱可能となっているが、本発明はこれに限られず、本体21に対して固定されていてもよい。
【0023】
〔フードについて〕
フード16は、乳房の形状に対応するラッパ状又は略ドーム状であり、最も径の小さい縮径部16Aが本体21の上部に接続される。このフード16に囲まれた空間S1に乳房を入れて使用され、フード16に乳房を入れると、該空間S1は、乳首を密封するように収容する収容空間S2を有し、この収容空間S2内を負圧にすることで搾乳する構造となっている。
【0024】
〔本体について〕
本体21は、全体が、比較的軽く、かつ、硬質な合成樹脂材料により成形されており、例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニルサルフォン等により形成されている。
本体21のフード16が装着される装着部17は筒状であって、通気及び搾乳した母乳の通路とされる通気路23を有している。通気路23は第1の通気路23であり、
図2に示すように、本体21内の略中央部に形成された内部空間S3、及び第2の通気路27を
介して、連通部S4と空間的に繋がっている。
【0025】
連通部S4は負圧が付与される領域であり、ダイヤフラム30が着脱可能に接続されるベースとなるベース部41を有している。本実施形態のベース部41は全体がフランジ状ないし鍔状であり、そこに伸ばしたダイヤフラム30を引っ掛けて接続するようになっている。具体的には、
図2に示すように、ベース部41には、外向きの二重となった円周状のフランジが形成されており、外方に突出した第1のフランジ44と、第1のフランジ44の下方であって、第1のフランジ44よりも大きな外径を備えた位置決め手段である第2のフランジ45を備え、第1のフランジ44と第2のフランジ45との間が縮径されることで内側に入り込んだ円周状の溝部である外に開口した外溝46が形成されている。なお、本発明のベース部41は連通部S4を覆って封止するようにダイヤフラム30を接続できる構成であれば、本実施形態のようなフランジ状ないし鍔状に限られるものではなく、例えば、連通部S4の負圧が付与される空間の周囲を囲むように十分な高さのある壁部を有する円筒状又はカップ状等であってもよい。
このように連通部S4を覆うようにベース部41にダイヤフラム30を接続し、このダイヤフラム30の変形により連通部S4を負圧状態にすると、第2の通気路27と内部空間S3と第1の通気路23を介して、フード16で囲まれた空間S1を負圧にすることができる。
【0026】
本体21の内部空間S3の下側はボトル11に向かって開口しており、この開口した部分に弁26が設けられている。弁26はシリコーンゴムやエラストマー、天然ゴム等の弾性体で形成された中空状のキャップ状の形態であり、先端にスリット26aを有している。スリット26aは、連通部S4を負圧状態にすると閉じ、負圧状態から解放すると開くようになっている。これにより、連通部S4を負圧状態にすると母乳を内部空間S3に引き込み、該負圧状態を解放するとスリット26aが開いて、内部空間S3にある母乳をボトル11に落とすことができる。
【0027】
また、本体21は、ボトル11と着脱する着脱部25を備えている。
図2に示す着脱部25は、その内側に、弁26のスリット26aが開いた際に内部空間S3と連通する空間S6を有するドーム状ないし筒状とされている。そして、着脱部25には、内側に雌ネジ部25a(
図1では不図示)を備え、
図1のボトル11の瓶口の周囲に形成された雄ネジ部(不図示)と螺合されるようになっている。尚、ボトル11は、搾乳器20の専用品でもよいし、着脱部25に適合した哺乳瓶等を利用してもよく、また、成形された容器ではなく、袋状とされていてもよい。本実施形態の場合、搾乳器20の専用品だけではなく、所定の哺乳瓶を着脱できる構成にするため、着脱部25は該哺乳瓶の瓶口に対応した開口部28とされている。
【0028】
また、本体21の上部において、フード16と反対の位置には、ダイヤフラム30が接続されるベース部41よりも上側となるようにアーム48が延びている。好ましくは、アーム48は、ダイヤフラム30に隣接した位置で、該ダイヤフラム30の上端を超える箇所に位置しているとよい。そして、このアーム48の上端部には、ハンドル61を取り付けるための支軸部49が形成されている。
図4はこの支軸部49及びダイヤフラム30付近を上側から視認した部分斜視図であり、この
図4と
図1に示すように、支軸部49は、ハンドル61の幅方向Xに沿ってアーム48から延伸しており、その両端部49a,49bがハンドル61の内側の幅方向Xの一対の軸受部64,64に着脱可能に接続される。これにより、ハンドル61は、本体21の支軸部49を中心に支軸部49回り(
図2のY方向)に回動自在となっている。なお、本発明はこのような態様に限られず、軸受部64を円形状の貫通孔にし、支軸部49を該貫通孔に通して、軸受部64と支軸部49を着脱不可能にしてもよい。
【0029】
このような本体21は、使用者が片手で握れる大きさを有し、
図2に示すように、親指TBを容易に密着できるようにした湾曲状の窪み部19を、フード16側の外周側面に有している。そして、使用者は、親指TBを窪み部19に置いた状態で、親指以外の任意の指FGをハンドル61のレバー部61Bに当接して、本体21とレバー部61Bを同時に片手で把持し、その手を握ったり緩めたりすることで、支軸部49を中心にハンドル61の回動操作を可能としている。
【0030】
〔ダイヤフラムについて〕
ダイヤフラム30は負圧を発生させるための負圧発生部材であり、本実施形態では連通部S4に被せるようにして本体21のベース部41に接続して用いられる。
図2及び
図4に示すように、ダイヤフラム30はシート状のものが複雑に屈曲して、全体として比較的扁平な有底の円筒体に近い形態とされている。具体的には、ダイヤフラム30は、外側で起立して、その外径を保持する程度の剛性を備える第1の壁部31と、その上端部が一体に内側に折り返され、該折り返しより先の部分を第1の壁部31よりも肉薄に形成した内側壁部としての第2の壁部32とを有している。この第2の壁部32は変形部であり、その下端は円筒形状の下部を塞ぐように一体に延長して設けた比較的広い内側底部である底面部33とされている。
すなわち、第1の壁部31も第2の壁部32も同じ材料で形成されているが、その材料の厚みを異ならせることにより異なる剛性が付与されている。このため、ハンドル操作による外力が作用した時に、第1の壁部31は変形しないレベルの外力でも、第2の壁部32は変形できるようにされている。
【0031】
かくして、
図3に示すように、ダイヤフラム30は、ハンドル61の操作の作用を受けて、変形部である第2の壁部32が変形し、その底面部33とベース部41との間に形成されている連通部S4の空間の容積を変更することで、一定量の負圧を付与するようになっている。そして、連通部S4が負圧空間になると、
図2に示す第2の通気路27および内部空間S3を介して、第1の通気路23内の空気を吸引し、母乳を吸引することができる。この際、第1の壁部31は殆ど変形せず、ベース部41に対する接続状態を保持できるようになっている。
なお、本実施形態の場合、
図2に示すようにベース部41の高さが左程なくても、ダイヤフラム30は起立した第1の壁部31を有するため、ベース部41よりも上方で十分に変形して、連通部S4での所要の負圧発生を可能としているが、本発明はこのような形態に限られない。例えば、ベース部41が連通部S4の周囲を囲むように十分な高さのある壁部を有する円筒状又はカップ状である場合、ダイヤフラムを該円筒状又はカップ状の上側の開口部を覆うように接続すると共に、該円筒状又はカップ状の内側に向かって窪んだ形状にし、これによりダイヤフラムが円筒状又はカップ状の内側において変形可能な構成にしてもよい。また、本発明のダイヤフラム30は着脱式に限られず、ベース部41に固定されてもよい。
【0032】
本実施形態の場合、ダイヤフラム30には、ハンドル61と連結し、第2の壁部32を変形するための結合部70が設けられている。結合部70は、変形部である第2の壁部32に比べて硬い硬質材料で形成され、例えば、全体がポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルサルフォン等の合成樹脂で形成されている。
この結合部70は、基端部が広く拡径された低く平たい円盤状の基部77を有し、この基部77は底面部33の下側(連通部S4側)に配置されている。
また、結合部70は、基部77から上方に突出して軸状に延び、ハンドル61と連結するための連結部75を有している。連結部75は、底面部33の中央部に形成された通し孔(基部77よりも小径な孔)34に挿通されて、底面部33の上側に露出することで、ハンドル61と連結可能とされる。かくして、この連結部75をハンドル61が引き上げることで、基部77が底面部33を押し上げて、第2の壁部32が連通部S4の空間を大きく変形するようになっている。なお、本実施形態の基部77は底面部33の下側に、底面部33とは接続せずに配置されているが、本発明はこれに限られず、例えば底面部33の上側に固定されてもよい。
【0033】
また、連結部75には、その延伸方向(図の略上下方向)Zに複数となる係合部71,72が形成され、これにより、ハンドル61と連結部75との延伸方向Zにおける連結位置を変えることができる。従って、ハンドル61で連結部75を引き上げる距離を変えて、ダイヤフラム30の変形量を変更することができる。係合部71,72は、ハンドル61と位置を変えて係合できれば、その構成はどのような構成でも構わないが、本実施形態の場合、延伸方向Zに段階的に形成された複数の溝状部とされ、この溝状部とハンドル61とを係合することで、ハンドル61は連結部75を引き上げる距離を段階的に変えられるようになっている。
【0034】
このようなダイヤフラム30は、全体が比較的弾性に富んだ柔軟な変形材料、すなわち、JIS-K6253(ISO7619)におけるA型デュロメータによる硬度がHS30~70程度の合成樹脂、例えばシリコーンゴムやイソプレンゴム、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン)等のエラストマー等により一体に形成されている。
本実施形態のダイヤフラム30にはシリコーンゴムが利用され、好ましくは、第1の壁部31の部分を構成する材料の厚みが1.5mm~3.0mmとされるのがよい。第1の壁部31の厚みが1.5mmより小さいと、負圧形成に際して、該壁部が座屈してしまい、第1の壁部31の厚みが3.0mmを超えると、本体21のベース部41への装着の際に該壁部があまり変形してくれないので、装着しにくくなるからである。
具体的には、ダイヤフラム30の第1の壁部31は下方に延長され、その下端部30aが内側に曲折しており、この曲折した下端部30aの厚みD1も1.5mm~3.0mmとされている。そして、ダイヤフラム30をベース部41に接続する場合は、第1の壁部31を少し引き伸ばす等してダイヤフラム30を変形させながら、下端部30aを第1のフランジ44を乗り越えさせて外溝46に収めるようになっている。
【0035】
〔ハンドルについて〕
ハンドル61は、上述した
図1、
図2、及び
図5を用いて説明する。
図5は搾乳器20のハンドル61を本体21に接近させた状態図である。
これらの図に示されるように、ハンドル61は長尺の形状であり、全体として、比較的硬質であって、軽量な合成樹脂により一体に成形されており、例えば、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルサルフォン等で成形された成形品である。
ハンドル61は、ダイヤフラム30の上方に配置されて、ダイヤフラム30を持ち上げるリフト部61Aと、このリフト部61Aから曲折して本体21の側面に対応して位置するレバー部61Bとを有する。
【0036】
リフト部61Aには連結部75と連結される被連結部12が設けられている。図の被連結部12は、連結部75との連結位置を保持するための保持開口部14と、この保持開口部14と繋がった孔であり、連結部75を入れるための挿入開口部15を有している。保持開口部14は、係合部71,72の外周よりも僅かに大きいが、連結部75の係合部71,72に隣接する部分73の外径よりも小さな開口面積とされている。これに対して、挿入開口部15は、該隣接する部分73の外径よりも大きな開口面積を有している。これにより、連結部75を挿入開口部15に挿入した後、スライドさせて係合部71,72を保持開口部14に入れて、ハンドル61と連結部75とを位置決めして接続できる。
【0037】
レバー部61Bはレバー状であり、取手の役割を果たし、上述したように、その外側表面に使用者が親指以外の指FGを置く部分である。この指FGを置く外側表面と親指TBを置く窪み部19との距離W1は、その間に本体21を挟んで把持できる距離である。そして、この把持した手を握ることで、レバー部61Bは
図2や
図5のA1方向に押されて本体21に接近し、ハンドル61が支軸部49を中心に回動することで、
図3に示すようにリフト部61Aが結合部70を介してダイヤフラム30を上に持ち上げ、これにより連通部S4の空間が大きくなって負圧状態となり、母乳が吸われる。これに対し、手を開いたり握る力を弱めたりすると、ダイヤフラム30の弾性力が発揮して、ダイヤフラム30は外力が加えられない
図2の元の状態に復帰すると共に、レバー部61Bも本体21から離間して元の位置に戻り、そうすると、連通部S4の負圧状態が解消されると共に弁26が開いて、吸った母乳はボトルに落ちる。このように、レバー部61Bが本体21に対して接近・離間するようにハンドル61が回動することでダイヤフラム30は変形することになる。
【0038】
また、レバー部61Bは、指FGを置く領域から下側に向かうに従って、除々に外側に向かうように湾曲している。これにより下端部63はやや外側に跳ねるような外観を呈し、レバー部61Bを本体21に接近させた際も指FGが下側にずれ難くなっている。
また、このような搾乳を手動で行うための操作用のハンドル61は、湾曲することで本体21側に開口した空洞部S7を有している。本実施形態の空洞部S7は、支軸部49などの本体21とハンドル61との接続機構部やリブ39を隠して、好ましいデザインを得るためのものである。
【0039】
〔静音機構(衝突部)について〕
本実施形態の搾乳器20は以上の特徴を有しており、さらに、静音機構を有している。以下、この特徴的な静音機構について説明する。
本発明は、少なくともハンドル61、又は本体21、或いはダイヤフラム30のいずれかの領域に、レバー部61Bが本体21に接近した際に、少なくともレバー部61Bと本体21とが直接的に接触する前に衝突する衝突部40(本実施形態の場合、ハンドル61と本体21とが直接的に接触しないように衝突する衝突部40)が設けられている。即ち、衝突部40は、ハンドル61と本体21との間、及び/又はハンドル61とダイヤフラム30との間に介在して、ハンドル操作の際に衝突することになる。
【0040】
本実施形態の場合、ダイヤフラム30の領域に衝突部40が設けられており、これにより、
図2に示すようにレバー部61Bが本体21に最接近した一点鎖線の状態でも、ハンドル61と本体21との間にスペースSを生じさせ、硬質な合成樹脂からなるハンドル61と本体21とが衝突することを積極的に防止して、該衝突から発生する衝突音をなくしている。
そして、衝突部40は、それが配置された領域と同じ材料で一体的に形成されており、衝突した際、その衝撃力を吸収又は伝搬を抑止するダンパー構造とされている。図の衝突部40はダイヤフラム30の領域に配置されているため、ダイヤフラム30と同じ比較的弾性に富んだ柔軟な変形材料(例えばシリコーンゴム、イソプレンゴム、エラストマーであり、本実施形態ではシリコーンゴム)とされている。従って、レバー部61Bが本体21に接近して衝突部40に衝突すると、衝突部40は、その変形容易性からダンパー構造としての優れた機能を発揮し、効果的に衝撃力を吸収したり伝搬を抑止したりできる。しかも、衝突部40は、ダイヤフラム30と一体的に形成されているため、ハンドル61と繰り返し衝突したとしても、ダイヤフラム30から外れてしまう事態を可及的に防止できる。
【0041】
この点、ダイヤフラム30は変形によって負圧を付与するポンプであって、このダイヤフラム30から突出して形成された衝突部40が、そのポンプ機能に悪影響を与えることには注意を払う必要があり、それがダイヤフラム30と衝突部40とを一体的に形成した際の課題となる。そこで、該課題を解決するため、本実施形態では、以下の種々の構成を有している。
先ず、
図3~
図5に示すように、衝突部40は、ダイヤフラム30のベース部41に接続された接続領域37から突出することで、ハンドル61と衝突可能とされている。これにより、衝突部40が衝突した際の衝撃力が伝達する方向には、ダイヤフラム30のベース部41に接続された接続領域37が存在し、該衝撃力は衝突部40を介して接続領域37に作用する(接続領域37に向って伝達する)ようになっている。この接続領域37に衝撃力が加わっても、ダイヤフラム30の第1及び第2の壁部31,32(特に、変形部である第2の壁部32)には略影響がないため、ダイヤフラム30の負圧発生の機能に悪影響を与えることを可及的に防止できる。なお、この突出した衝突部40は、ベース部41とダイヤフラム30とを着脱する際の摘みにもなる。
【0042】
次に、衝突部40は、突出した方向Y1の根元(ベース部41側)又は途中に、脆弱部43を有している。本実施形態の脆弱部43は切り欠き部であり、ベース部41の外周に沿って厚み方向に切り欠かれ、相対的に先端側の厚みD3に比べて根元側の厚みD2が小さくなっている(図のD2は約2mmであり、D3の約5mmに対して半分以下の厚み)。従って、ハンドル61が衝突した際に発生した応力は脆弱部43に集中するため、ダイヤフラム30の負圧を発生させる部分に悪影響を及ぼすことを効果的に防止できる。
この切り欠き部である脆弱部43は、
図1及び
図3に示すように下側から切り欠かれている。このように下側から切り欠いたのは、もし、上側から切り欠いた脆弱部43であると、ハンドル61が衝突した際、脆弱部43を基点にして衝突部40が上側に曲がり(
図3のベース部41の下面に係止された下端部30aが該係止を解除するA3方向に曲がり)、ダイヤフラム30がベース部41から外れる原因を作ってしまうからである。
また、上述のようにダイヤフラム30を外すための摘み機能も発揮する衝突部40を摘み易くするため、脆弱部43はベース部41側に形成されている。
更に、本実施形態の脆弱部43は、その切り欠かれた内面に、ベース部41(図の場合はベース部41の部分である第2のフランジ45)と対向する凸部95が部分的に形成されている。凸部95の先端面とベース部41との間にはスペースS8が設けられている。これにより、ある程度の大きさを有する脆弱部43を形成しつつも、衝突部40が下側(
図1のA2方向)に曲がり過ぎることを防止でき、従って、使用者が衝突部40を無駄に(即ち、ダイヤフラム30の変形は十分なのにそれ以上)押し込んでしまうハンドル操作を防止して、使用者の労力を軽減することができる。
なお、本発明の脆弱部43は切り欠き部に限られず、凹部であっても構わない。また、ここでは、好ましい形態として、ベース部41の外周に沿って下側から切り欠かれた脆弱部43を説明したが、例えば、
図4の一点鎖線で囲った図に示されるように、突出した途中の側面に切り欠き部43-1を形成しても構わない。
【0043】
次に、
図3に示すように、衝突部40は、ベース部41の先端面(第1のフランジ44の先端面)41aに対応した位置からベース部41が延びる方向Y1に略沿って突出し、そして、衝突部40の先端面40aに対して、ベース部41が延びる方向Y1に略沿ってハンドル61が衝突するようになっている。従って、ハンドル61に衝突された衝突部40は、ベース部41の先端面41aに向かって縮むため、ダイヤフラム30の変形機能に影響を与えることは殆どない。なお、ハンドル61が衝突部40に衝突する際、ベース部41の先端面41aと、衝突部40の先端面40aと、ハンドル61の該衝突する端面67とは、略平行とされるのが好ましい。
【0044】
このような衝突部40は、
図4及び
図5に示すように一対の衝突部40,40とされ、本体21から延びるアーム48を避けるようにして、アーム48の両脇に向かって舌片状に突出している(図の場合は略水平に突出している)。そして、一対の衝突部40,40は、
図1に示すハンドル61の湾曲したレバー部61Bの内、本体21に近い幅方向Xの両端部67,67と衝突可能とされている。尚、ハンドル61が
図2に示す複数の係合部71,72のいずれに係合されたとしても、衝突部40はハンドル61との衝突が可能である。また、一対の衝突部40,40どうしは同様の構成である。
【0045】
〔第1の実施形態の第1変形例〕
図6及び
図7は本発明の第1実施形態の第1変形例に係る搾乳器100であって、
図6はダイヤフラム30付近を上側から視認した部分斜視図、
図7は
図6のA-A断面図である。なお、
図6は使用者が手を握ってハンドル61でダイヤフラム30を引き上げた状態を示している。また、
図6ではハンドル61を透明にして図示している。
これらの図において、
図1ないし
図5の搾乳器20と同一の符号を付した箇所は同様の構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0046】
本変形例に係る搾乳器100が上述した実施形態と異なるのは、衝突部50の構成のみである。
即ち、本変形例の衝突部50は、ベース部41を囲む接続領域37の全周から突出している。具体的には、ベース部41は、上述した第1実施形態と同様、全体的にフランジ状であり、ダイヤフラム30は、このフランジ状部の全周を覆うように接続されたリング状の接続領域37を有している。そして、この接続領域37の全周から衝突部50は突出してリング状とされている。
【0047】
フランジ状のベース部41とリング状の接続領域37とリング状の衝突部50とは、平面視において連結部75の中心軸CLを中心とする同心円状であるのが好ましく、衝突部50の突出した出幅W2はいずれの位置も同様とされている。なお、本発明の衝突部50は、以上のような態様に限られず、位置によって出幅W2を変えても構わない。
【0048】
本発明の第1実施形態の第1変形例は以上のように構成されており、従って、ダイヤフラム30の耐用年数を上げることができる。即ち、
図7に示すように、ハンドル61を軸支する支軸部49はダイヤフラム30の中心軸(連結部75の中心軸と同じ)CLとは異なる位置にあり、ハンドル61は片側で軸支されているため、ハンドル61を回動させると、ダイヤフラム30は、支軸部49側に比べてその反対側の部分30bの方が大きく持ち上げられる。このため、この部分30bが最初に劣化し易い。そこで、衝突部50を含むダイヤフラム30を任意の時期に回転させることで、この大きく持ち上げられる部分を変えることができ、もって、ダイヤフラム30の耐用年数を上げることができる。そして、このように衝突部50を含むダイヤフラム30を回転させても、衝突部50はベース部41の全周を囲むように配置されるため、衝突部50とハンドル61とを衝突させることもできる。
【0049】
〔第1実施形態の第2変形例〕
図8~
図10は本発明の第1実施形態の第2変形例に係る搾乳器140であり、
図8はその概略斜視図、
図9はハンドル61を本体21に最接近させた状態の概略正面図、
図10は
図9の搾乳器140を衝突部90付近で縦に切断した場合の概略縦断面図である。なお、
図8の一点鎖線で囲った図は、衝突部90付近のハンドル61の内面を拡大した拡大図である。また、
図10はフードを省略して図示している。
これらの図において、
図1ないし
図7の搾乳器20と同一の符号を付した箇所は同様の構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0050】
第2変形例では、上記第1の実施形態と同様、ダイヤフラム30の変形容易性(衝撃吸収力)を利用したダンパー構造を静音機構としているが、このダンパー構造は、衝突部90ではなく被衝突部の方に形成されている。
即ち、ハンドル61と本体21とが直接的に接触する前に衝突する衝突部90は、レバー部61Bを本体21に接近するように操作した際、レバー部61Bのダイヤフラム30に接近する領域(好ましくは最も隣接する領域)に設けられている。この場合、衝突部90が衝突するダイヤフラム30の領域が被衝突部となる。
【0051】
具体的には、本第2変形例のダイヤフラム30については、
図4に示すような接続領域37から突出した形状は有さず、従来のものと同様とされている。
図10に示すように、ダイヤフラム30は、全体として比較的扁平な有底の円筒体に近い形態であり、本体21のベース部41に接続された接続領域37と、この接続領域37から起立して、その外径を保持する程度の剛性を備える第1の壁部31とを備えている。
そして、ハンドル61に設けられた衝突部90は、ダイヤフラム30のベース部41に接続された接続領域37に衝突するようになっている。従って、衝突部90がハンドル61と同じ材料で一体的に形成されて比較的硬質であっても、接続領域37の方で衝撃力を吸収して、静音が可能となる。また、衝突部90が衝突した際の衝撃力はダイヤフラム30のベース部41に接続された接続領域37に作用して、ダイヤフラム31の負圧発生機能に悪影響を及ぼすようなダイヤフラム31への作用を出来るだけ防止している。
【0052】
なお、衝突部90が衝突する被衝突部の全てがダイヤフラム30の接続領域37であるのが好ましい形態ではあるが、本発明はこれに限られず、少なくとも被衝突部の一部がダイヤフラム30の接続領域37であればよい。即ち、
図10に示すように、衝突部90が接続領域37に当たれば、ダイヤフラム30の接続領域37以外の部分に当たっても構わない。これにより、衝突部90の一部が接続領域37に当たって、少なくともそれ以上、衝突部90をベース部41側に大きく進ませることはできない。従って、衝突部90が接続領域37以外のダイヤフラム30に当たっても、ダイヤフラム30の負圧を発生させる機能に与える影響は小さい。
本実施形態の場合、衝突部90は接続領域37と第1の壁部31に略同時に衝突するように形成されている。第1の壁部31は、上述のように、その外形を保持する程度の剛性を備えているため、その意味でもダイヤフラム30の負圧を発生させる機能に与える影響は小さい。
【0053】
ここで、衝突部90は、被衝突部である接続領域37の厚み方向(
図10のX2方向)の面(即ち、接続領域37の広がる面)37aに衝突するようになっており、このため、衝突部90が衝突しても被衝突部は折れ曲がり難い。即ち、例えば
図4に示す衝突部40は接続領域37から舌片状に突出しており、その端面にハンドル61を衝突させて、更にハンドル61を深く握ると、折れ曲がって違和感のあるハンドル操作になる恐れがある。しかし、
図10のように、衝突部90が接続領域37の厚み方向の面37aに衝突すれば、被衝突部は折れ曲がるようなことはなく、このため、ハンドル61を円滑に本体21に接近させることができる。従って、使用者のストレスを防止して、搾乳が容易となる。
【0054】
衝突部90は、ハンドル61の内面61Cに設けられ、ハンドル61が接続領域37に接近・離間する方向に突出している。衝突部90はハンドル61と同じ硬質材料で一体的に形成されている。図に示す衝突部90は、切り欠き状の軸受部64(本体21から延伸した支軸部49と接続される部分)を形成するために用いられる軸受け部材65のうち、ダイヤフラム30の接続領域37に隣接する領域(軸受部64より下側の領域)が延伸して形成されている。この延伸する方向は、回動したレバー部61Bがダイヤフラム30に接近する方向である。なお、
図8及び
図10に示すように衝突部90は板状であり、衝突した際の撓みを防止するため、軸受け部材65が上記延伸する方向と直交する方向に沿って、衝突部90とハンドル61の内面61Cとを繋ぐ補強材92が設けられている。このように、衝突部90についても、ハンドル操作をした際の撓みを防止することで、ハンドル61を円滑に本体21に接近させることができる。
【0055】
ところで、衝突部90とダイヤフラム30の接続領域37(被衝突部)とは、本発明では、少なくともハンドル61と本体21とが直接的に接触する前に衝突すればよく、これにより、少なくともハンドル61と本体21との衝突を和らげて、静音が可能となる。
本変形例の場合、
図8に示すレバー部61Bは、
図1~7に比べて細く形成されることで、本体21に接近する方向A1に若干の弾性力が発揮される(内面61Cのリブ形状を工夫することで弾性力を発揮させてもよい)。また、
図9に示すように、本体21は、ハンドル61側の面21Aがレバー部61Bの内面形状に対応して湾曲している。これにより、レバー部61Bを本体21に近づけると、先ず衝突部90とダイヤフラム30(図の場合、接続領域37と第1の壁部31)とが衝突して衝突力を弱め、その後更に使用者が強く握ると、レバー部61Bは弾性力を発揮して本体21に接触可能となる。従って、使用者は、レバー部61Bを強く握って本体21に接触させ、レバー部61Bを最後まで握り切ったという充実感を得ることができる。なお、レバー部61Bは全体が本体21に接触しなくてもよく、一部が接触するようにしてもよい。また、レバー部61Bが本体21の上部に当たった後に下部に当たっても、或いは、下部に当たった後に上部に当たってもよい。
【0056】
更に、本変形例では、ハンドル61と本体21との衝突の際の衝撃を和らげるため、ハンドル61自体の可動速度(ハンドル61の本体21に接近する速度)を弱める構造にしている。即ち、
図10に示すように、ダイヤフラム30に覆われる空間である連通部S4とフードに囲まれた空間とをつなぐ複数の通気路(第1及び第2の通気路)23,27のうち、連通部S4に近い第2の通気路27が、ハンドル61の接近する方向の速度を弱めるための内径L2とされている。即ち、第2の通気路27は、母乳を引くための通路であり、ハンドル61の操作速度を調整するための速度調整用通路でもある。従って、ハンドル61と本体21とが当たってもソフトな当りであって、上述したダンパー構造及びレバー部61Bの弾性力と相まって、優れた静音機能を実現させている。
なお、
図10の第2の通気路27の内径L2は高さ方向のいずれの部位も同様であるが、本発明はこのような態様に限られず、高さ方向の一部の内径がその他の部分の内径に比べて小さくなった狭窄部を形成するようにしてもよい。
【0057】
〔第2の実施形態〕
図11及び
図12は本発明の第2実施形態に係る搾乳器110であり、
図11はその正面図、
図12は
図11の衝突部80付近におけるB-B端面図である。なお、
図11はレバー部61Bを本体21に最接近させた状態であり、また、ハンドル61の一部を切り欠いて、空洞部S7内を視認している。また、
図11の一点鎖線で囲った図は、第2実施形態の変形例に係る衝突部80-1付近の図である。
これらの図において、
図1ないし
図7の搾乳器20,100と同一の符号を付した箇所は同様の構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0058】
第2実施形態の搾乳器110が上述した実施形態と異なるのは、ダンパー構造ではなくカバー構造を静音機構として利用している点である。
即ち、ハンドル61と本体21とが接触する前に衝突する衝突部80は、少なくともレバー部61Bが本体21に最接近した際に、外部に露出しないように空隙を介して覆われた構造(以下、「カバー構造」という)とされることで、衝突音が外部に漏れることを抑制して、静音性の向上を図っている。
具体的には、第1実施形態で説明したように、ハンドル61は、本体21側に開口した空洞部S7を有しており、衝突部80は、少なくともハンドル61と衝突した際に、この空洞部S7内に配置されている。従って、ハンドル61と衝突部80との衝撃音が空気伝搬しても、その音が外部に漏れることを抑制できる。なお、衝突部80は空隙(本実施形態の場合は空洞部S7)を介して覆われないと、衝突した音が直ぐに外部に漏れるので該空隙があるのが好ましい。
【0059】
図11の場合、衝突部80は本体21の支軸部49の周辺に配置され、この支軸部49に対応した空洞部S7の空間容積を最も大きくして、より音が外部に漏れないようにしている。
また、衝突部80は、支軸部49を形成するために本体21から延伸したアーム48の上部から中央部にかけて、相当の長さL1を有してハンドル61側に設けられている。この長さL1はハンドル61の長さ(長手方向の寸法)に対して約15~30%程度である。そして、衝突部80は、相当の長さL1を有していても、ハンドル61側の面80aがハンドル61の内面61cと密着するように対応した形状とされ、図の場合は内面61cと同じ湾曲状とされている。さらに、衝突部80は、ハンドル61の幅方向(搾乳器110の厚み方向)Xに対応する内面61cの形状に対応するように延伸することで、衝突部80部分の厚みD4がアーム48の中央部48aの厚みD5に比べて大きくされている。このように衝突部80は、内面61cの形状と一致させたり延伸したりすることで、衝突音が空洞部S7から漏れ難い範囲内において、ハンドル61の内面61cと可及的に面状に衝突し、ハンドル61との接触面積が大きくされている。
また、衝突位置については、衝突部80はハンドル61の幅方向X及び/又は長さ方向の略中央部に衝突するように配置されている。
【0060】
本第2実施形態は以上のように構成されているが、本発明の「カバー構造」ついては、上述した実施形態に限られるものではなく、例えば、
図11の一点鎖線で囲った図に示すように、衝突部80-1をハンドル61の領域に配置してもよい。即ち、図の衝突部80-1は、ハンドル61の内面から突出しており、レバー部61Bが本体21に最接近した際、本体21のアーム48と衝突するようになっている。この点、第2実施形態の変形例である衝突部80-1に比べて第2実施形態の衝突部80の方が、ハンドル61の空洞部S7のより奥で衝突することから、衝突音がより外部に漏れ難い態様であり、静音性の観点から好ましい。
【0061】
〔第3実施形態〕
図13及び
図14は本発明の第3実施形態に係る搾乳器120であり、
図13はその正面図、
図14は
図13の衝突部82付近におけるC-C端面図である。なお、
図13はレバー部61Bを本体21に最接近させた状態であり、また、ハンドル61の一部を切り欠いて、空洞部S7内を視認している。
これらの図において、
図1ないし
図12の搾乳器20,100,110と同一の符号を付した箇所は同様の構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0062】
第3実施形態の搾乳器120が上述した実施形態と異なるのは、衝突部82の構成のみである。
即ち、
図13の衝突部82は、
図11と同様、外部に露出しないように空隙を介して覆われるというカバー構造とされているが、これに加え、ハンドル61に衝突した際の衝撃力を吸収したり伝搬を抑止したりするダンパー構造ともされている。
【0063】
具体的には、少なくとも衝突する際に空洞部S7内にある衝突部82は貫通孔79を有している。このため、衝突部82に衝突した際の応力(衝撃力)は貫通孔79の周辺に集中し易く、衝突音が衝突部82以外の領域に伝搬することを抑制でき、しかも、空洞部S7よりも外側の部分に衝突音が伝搬するのを抑制するため、カバー構造の効果をより効果的に発揮させることができる。従って、図のように、衝突部82が本体21のアーム48と一体的に形成されていても、衝突音を低減することができる。なお、貫通孔79は出来るだけ空洞部S7の奥側(開口部とは反対側)に配置されるのが好ましく、これにより、衝突音を空洞部S7内に可及的に閉じ込めて、外部への音漏れを有効に防止できる。
【0064】
しかも、衝突部82は貫通孔79よりも衝突する側の部分83を有し、この衝突する側の部分83は衝突した際に貫通孔79側に変形可能な形状とされ、図の場合、該変形を容易にするため、衝突する方向に薄い板バネ状とされている。従って、衝突部82がアーム48と同様の硬度の高い材料から形成されていても、衝突部82の変形量を大きくして、衝撃力を効果的に吸収することができる。
なお、衝突する側の部分83のハンドル61側の面83aは、衝突するハンドル61の内面61cと密着するように合致した湾曲状とされ、貫通孔82も衝突する内面61cに略沿った形状とされるのが好ましい。
【0065】
本第3実施形態は以上のように構成されているが、本発明の「カバー構造」と「ダンパー構造」の組み合わせについては、上述した実施態様に限られるものではなく、例えば、
図11の一点鎖線で囲った図に示すハンドル61の領域に配置された衝突部80-1に貫通孔を形成してダンパー構造としても構わない。
【0066】
〔第4実施形態〕
図15及び
図16は本発明の第4実施形態に係る搾乳器130であり、
図15はその正面図、
図16は
図15の衝突部84付近におけるD-D端面図である。
これらの図において、
図1ないし
図14の搾乳器20,100,110,120と同一の符号を付した箇所は同様の構成であるから、重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
【0067】
第4実施形態の搾乳器130が上述した実施形態と異なるのは、衝突部84の構成のみである。
即ち、
図15の衝突部84は、
図13と同様のダンパー構造とされているが、この衝突部84が配置されているのはハンドル61の外部に露出した領域であって、カバー構造を有していない。
具体的には、衝突部84は、ハンドル61のレバー部61Bの両端面67,67であって、ボトルの着脱部25に対応した位置から該着脱部25側に向かって突出して形成されている。そして、この突出した途中に貫通孔86を有し、貫通孔86より衝突する側の部分87は、衝突した際に貫通孔86側に変形可能であり、衝突する方向に薄い板バネ状とされている。
なお、衝突する側の部分87の先端面87aは着脱部25の形状に合致し、着脱部25に面状に衝突するようになっている。また、図の衝突部84は、着脱部25側に向かうに従って幅寸法(突出する方向X1と直交する方向Y1の寸法)が除々に小さくなっており、上下に傾斜面84a,84bを有している。
【0068】
本第4実施形態は以上のように構成されているため、第3実施形態のようにカバー構造は有していないが、第3実施形態と同様のダンパー構造を有している。従って、衝突部84に衝突した際の応力(衝撃力)を貫通孔86の周辺に集中し易くして、衝突音が衝突部84以外の領域(固体内)に伝搬することを抑制できる。また、衝突する側の部分87は衝突した際に貫通孔86側に変形する板バネ状であるため、衝突部84の変形量を大きくして、衝撃力を効果的に吸収することができる。
【0069】
〔実験〕
A.実験条件
図17は騒音測定の実験を行った際に用いた搾乳器の種類であり、1番は従来の搾乳器である。2番も従来品と同様であるが、本体とハンドルについては3Dプリンタにより成形している。3番は第2実施形態の搾乳器110(
図11参照)であり、本体(そこに配置された衝突部を含む)とハンドルを3Dプリンタにより成形し、ダイヤフラムをシリコーンゴムで形成している。4番は第3実施形態の搾乳器120(
図13参照)であり、本体(そこに配置された衝突部を含む)とハンドルを3Dプリンタにより成形し、ダイヤフラムをシリコーンゴムで形成している。5番は第4実施形態の搾乳器130(
図15参照)であり、本体とハンドル(そこに配置された衝突部を含む)を3Dプリンタにより成形し、ダイヤフラムをシリコーンゴムで形成している。6番と7番は第1実施形態の搾乳器20(
図1~
図5参照)であるが、6番は本体とハンドルを3Dプリンタにより成形し、7番ではそれを従来の成形品を用いている。なお、上記3Dプリンタでは紫外線硬化型樹脂を利用して成形している。
その他、以下の条件下で実験を行った。
・測定環境:東京都立産業技術研究センター防音シールド室
・測定機器:リオン株式会社製SA-A1等
・測定位置:搾乳器直上、距離20cmにマイクを設置
・測定方法:1秒に1回の頻度でハンドルを握る動作を10秒間繰り返し、その間の最大音圧レベルを記録した。
【0070】
B.実験結果
図18は
図17の各搾乳器を用いて行った実験結果であり、暗騒音を差し引いた騒音レベルの比較図である。また、
図19は従来品と第1実施形態に係る搾乳器の騒音を1/3オクターブ分析した比較図、
図20は従来品と第2及び第3実施形態に係る搾乳器の騒音を1/3オクターブ分析した比較図、
図21は従来品と第4実施形態に係る搾乳器の騒音を1/3オクターブ分析した比較図である。なお、
図18~
図21に示される1~7番は
図17の1~7番の搾乳器と対応をしている。
【0071】
図18に示されるように、実験の結果、従来の搾乳器の騒音レベル44dB前後に比べて、第1実施形態の搾乳器(
図18の6番と7番)の騒音レベルは23dB前後であり、騒音が約50%減少した。このことから、第1実施形態で用いた衝突部(ダイヤフラムから突出した衝突部)が最も効果のあることが分かった。
また、
図19に示されるように、使用者に耳障りとなる高周波数の音についても、第1実施形態で用いた衝突部(ダイヤフラムから突出した衝突部)の効果が最も高かった。
【0072】
次に効果を発揮したのは、
図18に示されるように、第2及び第3実施形態の搾乳器(
図18の3番と4番)であり、従来の搾乳器に比べて騒音が約23%減少した。
この点、
図13に示すように、第3実施形態の衝突部82は、第2実施形態の衝突部80の「カバー構造」に加えて「ダンパー構造」を有するにも拘らず、第2実施形態の騒音レベル31.9dBに比べて、僅か0.1dB低い31.8dBであった。
また、
図20に示されるように、使用者に耳障りとなる高周波数の音についても、第2実施形態と第3実施形態とでは差が少なく、むしろ、衝突部が「カバー構造(
図13に示すような貫通孔を形成せずに、衝突した際にハンドルの空洞部内に配置される構成)」のみである第2実施形態の搾乳器110(
図11参照)の方が、高周波数の音を低減している帯域があることが分かった。恐らく、
図13に示す第3実施形態の衝突部82は、変形可能とするために厚みが薄い部分83を有するため、その分、高い音が発生し易くなるためだと思われる。
【0073】
次に効果を発揮したのは、
図18に示されるように第4実施形態の搾乳器(
図18の5番)であり、これにより、ハンドルの外部に露出した面にバネ状の衝突部を設けても、静音性にある程度の効果があることは分かった。また、
図21に示されるように、使用者に耳障りとなる高周波数の音についても、第4実施形態で、ある程度の効果があることは分かった。
【0074】
本発明は上述の各実施形態に限定されない。
例えば、第1実施形態の搾乳器20では、
図5に示すように、ダイヤフラム30の接続領域37から突出した衝突部40をハンドル61の端面67に衝突させているが、本発明はこれに限られず、衝突部40をハンドル61の内面(空洞部S7内の面)に衝突させるようにハンドル61及び/又は衝突部40の形状を変えてもよい。これにより、第1実施形態のダンパー構造に加えてカバー構造による騒音低減効果も発揮し、より静音性の高い搾乳器を提供することができる。この際、
図2に示すように、ハンドル61の内面61cに、衝突時に衝突部40に向って突出するリブ93(仮想線の部分)を形成し(該リブ93全体は空洞部S7内に配置)、このリブ93の端面と衝突部40の端面とを衝突可能とさせるのが好ましい(換言すれば、ダイヤフラム30の変形容易性を利用してダンパー構造とする場合、衝突部はダイヤフラム30とハンドル61の双方から突出してもよい)。これにより、
図2の場合、衝突部40の突出幅を抑えて、ダイヤフラム30の負圧発生手段としての本来的な機能に悪影響を与える恐れをより防止できる。
【0075】
また、ダイヤフラム30を利用したダンパー構造にする際、
図10では、被衝突部の少なくとも一部がダイヤフラム30の接続領域37とされているが、本発明はこれ限られず、被衝突部の全てが接続領域37以外のダイヤフラム30の部分であっても構わない。例えば、第1の壁部31の厚みを従来よりも大きく、これにより、衝突部90がダイヤフラム30の第1の壁部31にのみ衝突したとしても、ダイヤフラム30の負圧発生機能に与える悪影響を抑制しつつ、静音機能も有効に発揮させることができる。
【符号の説明】
【0076】
11・・・ボトル、16・・・フード、20,100,110,120,130,140・・・搾乳器、21・・・本体、30・・・ダイヤフラム、37・・・接続領域、40,50,80,82,84,90・・・衝突部、41・・・ベース部、49・・・支軸部、61・・・ハンドル、79,86・・・貫通孔、S4・・・連通部、S7・・・空洞部