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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】免疫細胞組成物及びそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20220816BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220816BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20220816BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/17 Z
A61P1/16
A61P3/10
A61P17/00
A61P19/02
A61P25/00
A61P25/28
A61P29/00 101
A61P37/06
A61P37/08
A61P21/04
C12N15/09 Z
【請求項の数】 65
(21)【出願番号】P 2018529954
(86)(22)【出願日】2016-12-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-13
(86)【国際出願番号】 US2016065578
(87)【国際公開番号】W WO2017100428
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-12-09
(31)【優先権主張番号】62/265,411
(32)【優先日】2015-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/265,246
(32)【優先日】2015-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】プラサド エス. アドゥスミッリ
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/184744(WO,A1)
【文献】Blood,2012年,Vol.119,p.5678-5687
【文献】Immunity,2000年,Vol.13,p.313-322
【文献】The journal of experimental medicine,2002年,Vol.196,p.237-245
【文献】JOURNAL OF THORACIC ONCOLOGY,2015年09月08日,VOL:10,PAGE(S):S794,Oral 28.03
【文献】Journal of neuroinflammation,2012年,9:112,p.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10
A61K 35/17
A61P 1/16
A61P 3/10
A61P 17/00
A61P 19/02
A61P 25/00
A61P 25/28
A61P 29/00
A61P 37/06
A61P 37/08
A61P 21/04
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫阻害性細胞である細胞であって、
(a)プログラムされた細胞死1(PD-1)のドミナントネガティブ形態と、
(b)免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合するキメラ抗原レセプター(CAR)
を組換えにより発現し、該PD-1のドミナントネガティブ形態が、(i)PD-1の細胞外ドメインの少なくとも一部であって、リガンド結合領域を含む該部分と、(ii)CD8膜貫通ドメインと、を含み、前記免疫阻害性細胞が調節性T細胞であり、前記調節性T細胞がヒトCD4 + CD25 + FoxP3 + T細胞である、前記細胞。
【請求項2】
前記調節性T細胞がヒトCD4+CD127lo/-CD25+ FoxP3 + T細胞である、請求項記載の細胞。
【請求項3】
前記PD-1のドミナントネガティブ形態が、シグナリングドメインの一部又は全部を欠く、請求項1または2記載の細胞。
【請求項4】
請求項1または2記載の免疫阻害性細胞の集団。
【請求項5】
請求項記載の免疫阻害性細胞の集団。
【請求項6】
前記PD-1のドミナントネガティブ形態が、共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含み、該共刺激性シグナリングドメインは該PD-1のドミナントネガティブ形態の膜貫通ドメインに対してカルボキシ末端側である、請求項1~及びのいずれか1項記載の
細胞又は集団。
【請求項7】
前記共刺激性シグナリングドメインが、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである、
請求項記載の細胞又は集団。
【請求項8】
前記CARが共刺激性シグナリングドメインを含む、請求項記載の細胞又は集団。
【請求項9】
前記PD-1のドミナントネガティブ形態の共刺激性シグナリングドメインが、前記CARの共刺激性シグナリングドメインと異なる、請求項記載の細胞又は集団。
【請求項10】
前記CARの共刺激性シグナリングドメインがCD28の細胞内シグナリングドメインである、請求項又は記載の細胞又は集団。
【請求項11】
前記PD-1のドミナントネガティブ形態の共刺激性シグナリングドメインが、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである、請求項10のいずれか1項記載の細胞又は集団。
【請求項12】
前記免疫介在性障害が、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、及びアレルギー性障害からなる群から選択される、請求項1~のいずれか1項記載の細胞又は集団。
【請求項13】
前記免疫介在性障害が器官移植拒絶である、請求項12記載の細胞又は集団。
【請求項14】
前記移植された器官が肺である、請求項13記載の細胞又は集団。
【請求項15】
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、コラーゲンタイプV、K α1チューブリン、及びMHCクラスI関連鎖A(MICA)からなる群から選択される、請求項14記載の細胞又は集団。
【請求項16】
前記移植された器官が腎臓である、請求項13記載の細胞又は集団。
【請求項17】
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、フィブロネクチン、コラーゲンタイプIV、コラーゲンタイプVI、ビメンチン、1型アンギオテンシンIIレセプター(AGTR1)、パールカン、及びアグリンからなる群から選択される、請求項16記載の細胞又は集団。
【請求項18】
前記移植された器官が肝臓である、請求項13記載の細胞又は集団。
【請求項19】
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、及びコラーゲンタイプVからなる群から選択される、請求項18記載の細胞又は集団。
【請求項20】
前記移植された器官が心臓である、請求項13記載の細胞又は集団。
【請求項21】
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、心筋ミオシン、ビメンチン、コラーゲンタイプV、Kα1チューブリン、及びMHCクラスI関連鎖A(MICA)からなる群から選択される、請求項20記載の細胞又は集団。
【請求項22】
前記移植された器官が膵臓である、請求項13記載の細胞又は集団。
【請求項23】
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、膵島細胞自己抗体(ICA)抗原、インスリン、及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)からなる群から選択される、請求項22記載の細胞又は集団。
【請求項24】
前記免疫介在性障害が自己免疫性障害である、請求項12記載の細胞又は集団。
【請求項25】
前記自己免疫性障害が多発性硬化症である、請求項24記載の細胞又は集団。
【請求項26】
前記抗原が、ミエリン、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、プロテオリピドタンパク質、アストロサイトタンパク質、グリア線維性タンパク質(GFAP)、及びS100betaからなる群から選択される、請求項25記載の細胞又は集団。
【請求項27】
前記自己免疫性障害が1型糖尿病である、請求項24記載の細胞又は集団。
【請求項28】
前記抗原が、β細胞抗原、インスリン、インスリンB鎖、プロインスリン、プレプロインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、膵島関連抗原2、膵島特異的グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質(IGRP)、亜鉛トランスポーター8(ZnT8)、膵島抗原2(IA-2)、ヒートショックタンパク質60(HSP60)、及びクロモグラニンAからなる群から選択される、請求項27記載の細胞又は集団。
【請求項29】
前記自己免疫性障害が関節リウマチである、請求項24記載の細胞又は集団。
【請求項30】
前記抗原が、dnaJ(ヒートショックタンパク質)、シトルリン化ビメンチン、及びヒト軟骨糖タンパク質39からなる群から選択される、請求項29記載の細胞又は集団。
【請求項31】
前記自己免疫性障害が原発性胆汁性肝硬変である、請求項24記載の細胞又は集団。
【請求項32】
前記抗原が、ミトコンドリア成分、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(ミトコンドリア性);ピルビン酸デヒドロゲナーゼのE2成分;分岐鎖2-オキソ酸デヒドロゲナーゼのE2成分;2-オキソ-グルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のE2成分;ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼのE3結合タンパク質;核成分;核タンパク質sp100、核膜孔複合体タンパク質gp120、及びセントロメアからなる群から選択される、請求項31記載の細胞又は集団。
【請求項33】
前記自己免疫性障害が重症筋無力症である、請求項24記載の細胞又は集団。
【請求項34】
前記抗原が、アセチルコリンレセプター(AChR)、アクアポリン4(AQP-4)、CTLA-4、ICAM、LFA-3、CD40/CD154、ICOS/ICOSL、CD52、活性化T細胞核内因子(NFAT)、ホスホリパーゼC(PLC)、CD25、ヤヌスキナーゼ、B細胞活性化因子(BAFF)、増殖誘導性リガンド(APRIL)、IL6R、IL17、IL12/IL23、インテグリン、及びスフィンゴシンレセプターからなる群から選択される、請求項33記載の細胞又は集団。
【請求項35】
前記自己免疫性障害が尋常性白斑である、請求項24記載の細胞又は集団。
【請求項36】
前記抗原がメラニン細胞抗原である、請求項35記載の細胞又は集団。
【請求項37】
前記自己免疫性障害が、ループスである、請求項24記載の細胞又は集団。
【請求項38】
前記抗原が、トール様レセプター、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR7、TLR8、TLR9、MyD88、及びIL-1R関連キナーゼ(IRAK)からなる群から選択される、請求項37記載の細胞又は集団。
【請求項39】
前記免疫介在性障害がアレルギー性障害である、請求項12記載の細胞又は集団。
【請求項40】
前記抗原が、前記アレルギー性障害に関連するアレルゲンである、請求項39記載の細胞又は集団。
【請求項41】
前記細胞又は集団が、さらに、自殺遺伝子を組換えにより発現する、請求項1~及び1240のいずれか1項記載の細胞又は集団。
【請求項42】
前記自殺遺伝子が、誘導性カスパーゼ9を含む、請求項41記載の細胞又は集団。
【請求項43】
治療的に有効な量の請求項1~及び1242のいずれか1項記載の細胞又は集団;及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物。
【請求項44】
治療的に有効な量の請求項11のいずれか1項記載の細胞又は集団;及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物。
【請求項45】
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項1~及び1242のいずれか1項記載の細胞又は集団を含む、前記医薬組成物。
【請求項46】
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療するための、請求項43記載の医薬組成物。
【請求項47】
前記免疫介在性障害が、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、及びアルツハイマー病からなる群から選択される、請求項45又は46記載の医薬組成物。
【請求項48】
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項11のいずれか1項記載の細胞又は集団を含む、前記医薬組成物。
【請求項49】
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療するための、請求項44記載の医薬組成物。
【請求項50】
前記免疫介在性障害が、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、及びアルツハイマー病からなる群から選択される、請求項48又は49記載の医薬組成物。
【請求項51】
器官移植拒絶のリスクの低減を必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項1~及び12
23のいずれか1項記載の細胞又は集団を含み、この細胞又は集団が、器官移植拒絶と関連する該器官移植の抗原に結合するCARを発現する、前記医薬組成物。
【請求項52】
治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項1~12及び2438のいずれか1項記載の細胞又は集団を含み、この細胞又は集団が、該自己免疫性障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する、前記医薬組成物。
【請求項53】
前記自己免疫性障害が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、及びループスからなる群から選択される、請求項52記載の医薬組成物。
【請求項54】
治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項1~12及び3940のいずれか1項記載の細胞又は集団を含み、この細胞又は集団が、該アレルギー性障害に関連するアレルゲンに結合するCARを発現する、前記医薬組成物。
【請求項55】
前記細胞が、前記患者において、特異的免疫療法の期間を低減すること、特異的免疫療法の有効性を増大すること、及び特異的免疫療法の効果を遷延することからなる群から選択される効果を有する、請求項54記載の医薬組成物。
【請求項56】
自己寛容性を促進する又は自己抗原に対する免疫学的寛容性を再確立することを必要とする患者における自己寛容性を促進する又は自己抗原に対する免疫学的寛容性を再確立するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項1~12及び2438のいずれか1項記載の細胞又は集団を含み、該細胞が、自己抗原に対して特異的な調節性T細胞である、又は該集団が、自己抗原に対して特異的な調節性T細胞を含む、前記医薬組成物。
【請求項57】
前記組成物が、胸膜内投与、静脈内投与、皮下投与、節内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、気管内投与、関節内投与、子宮内投与、眼内投与、鼻腔内投与、脊髄内投与、硬膜外投与、腱付着部での直接投与、又は胸腺への直接投与により投与するためのものである、請求項4547及び5156のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項58】
前記組成物が、静脈内投与により投与するためのものである、請求項57記載の医薬組成物。
【請求項59】
治療を必要とする患者における関節炎を治療するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項1~のいずれか1項記載の細胞又は集団を含み、ここで、該細胞又は集団が、関節内に、又は関節炎の関節の腱付着部で直接的に投与される、前記医薬組成物。
【請求項60】
前記医薬組成物が、前記患者、又はレシピエントの体重1kg当たり104~1010細胞の範囲の用量で投与される、請求項4547及び5159のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項61】
前記医薬組成物が、前記患者、又はレシピエントの体重1kg当たり1×105~1×108細胞の範囲の用量で投与するためのものである、請求項60記載の医薬組成物。
【請求項62】
前記患者、又はレシピエントが、ヒトである、請求項4547及び5161のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項63】
器官移植拒絶のリスクの低減を必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項11のいずれか1項記載の細胞又は集団を含み、前記CARが、器官移植拒絶と関連する該器官移植の抗原に結合する、前記医薬組成物。
【請求項64】
治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項11のいずれか1項記載の細胞又は集団を含み、前記CARが、該自己免疫性障害の自己免疫抗原に結合する、前記医薬組成物。
【請求項65】
治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療するための医薬組成物であって、治療的に有効な量の請求項11のいずれか1項記載の細胞又は集団を含み、前記CARが、該アレルギー性障害に関連するアレルゲンに結合する、前記医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1. 関連出願の相互参照
本出願は、それらの全体が参照により本明細書に取り込まれている、2015年12月9日に出願された米国仮出願第62/265,246号及び2015年12月9日に出願された米国仮出願第62/265,411号の恩典を主張する。
【0002】
電子的に提出された配列表の参照
本出願は、2016年12月6日に作成され、59,345バイトのサイズを有する、「13542-037-228_SL.txt」と題されたASCIIテキストファイルとして、本出願に伴う配列表を、参照により取り込む。
【0003】
2. 技術分野
本発明は、一般に、免疫介在性障害の治療、より具体的には免疫介在性障害を治療するための免疫療法に関する。
【背景技術】
【0004】
3. 背景
免疫系は、多様な微生物病原体を同定し、それらに対して防衛する一方で、同時に、自己反応性を回避する、難題を有する(Paulの文献、「基礎免疫学」(Fundamental Immunology)、第5版、Lippincott Williams & Wilkins, New York(2003))。免疫系は、微生物病原体に対して防衛する強力な能力を有する一方、免疫系は、宿主を宿主自身の免疫系による攻撃から保護するために、ある種の免疫応答を抑制するためのメカニズムをも有する。
【0005】
ある種の免疫応答を抑制するためのメカニズムの中で、調節性T細胞のような調節性細胞としても知られるサプレッサー細胞は、他の免疫細胞を阻害又は抑制する能力を有する(Paulの文献、前出、2003)。調節性T細胞は、かくして、病原体から宿主を保護するそれらの機能において、他の免疫細胞の活性を阻害又は抑制する能力を宿主に提供する。調節性T細胞は、自己抗原に対して無応答性でいること及び免疫寛容性のための免疫系の能力を維持することにおいて重要な役割を果たす(Sakaguchiらの文献、Cell 133:775-787).
【0006】
ある種の病理学的状況において、宿主免疫系は、自己抗原に対する攻撃を開始することができ、その場合、宿主は、自己免疫性障害を発症し得る。他の状況において、たとえば器官移植拒絶において、宿主細胞の免疫系は、移植された器官に対する攻撃を開始し、そのことが器官移植拒絶をもたらし得る。宿主細胞の免疫系が宿主において自己抗原又は移植された器官に対して病理学的免疫応答を開始するこれらの状況において、宿主の免疫系が、自己免疫性障害の場合においては自己抗原に対する、又は器官移植拒絶の場合においては移植された器官の抗原に対する、寛容性を生じることが望ましい。
【0007】
Foxp3発現は、ドナー特異的寛容性を呈する同種移植片内で特異的にアップレギュレートされており、それらの頻度はPD-L1遮断後に低減したことが見出されている(Tanakaらの文献、J. Immunol. 179:5204-5210(2007))。興味深いことに、PD-1 mRNAはCD4+CD25+ 調節性T細胞において高度に発現されており、PD-1がT細胞寛容性の調節に関与し得るいくつかの手段を示唆している(Tanakaらの文献、前出、2007)。別の研究は、PD-1:PD-L1相互作用は同種抗原の気管内送達による調節性細胞の誘導のために必須であることを実証した(Aramakiらの文献、Transplantation 77:6-12(2004))。
【0008】
調節性T細胞免疫療法による慢性同種移植片拒絶の長期防止は、宿主Foxp3を発現するT細胞に関与することが実証されている(Pasquetらの文献、Blood 121:4303-4310(2013))。CD8+ 調節性T細胞サプレッサー機能を増強する同様のアプローチは、固形器官移植における器官保存の増強のために記載されている(Guillonneauらの文献、Curr. Opin. Organ Transplant 15:751-756(2010))。
【0009】
自己免疫障害は、生体の免疫系が健常生体組織を攻撃及び破壊する場合に起こる。これは、免疫系が健常組織と抗原とを区別しない場合に起こり、生体内の細胞及び組織に対する病理学的免疫応答をもたらす。T細胞輸送の調節は、特異的パターンのケモカインの調和のとれた発現及びT細胞膜上の同族ケモカインレセプターの相互発現に関与し、ケモカインレセプター発現の特異的パターンは、自己免疫性疾患における疾患活性と相関し得る(Strazzaらの文献、Disc. Med. 19:117-125(2015))。
【0010】
尋常性白斑の患者においては、調節性T細胞のパーセンテージは低減しており、PD-1+調節性T細胞のパーセンテージは増大していた(Tembhreらの文献、Br. J. Immunol. 172:940-950(2015))。マウスのループスモデルにおいて、抗PD-1抗体を用いる治療は、CD4+調節性T細胞の生成を増強し、活性疾患の初期ステージ中、疾患の進行を遅延させた(Wongらの文献、J. Immunol. 190:5402-5410(2013))。
【0011】
CD4(+)CXCR5(+)Foxp3(+)濾胞性調節性T細胞(T(FR)細胞)は、CD4(+)CXCR5(+)Foxp3(-)濾胞性ヘルパーT細胞(T(FH)細胞)によって媒介される液性免疫を阻害することも見出されている(Sageらの文献、Nat. Immunol. 14:152-161(2013))。PD-1及びそのリガンドPD-L1の欠損したマウスは、リンパ節中のT(FR)細胞がより豊富になっており、それらのT(FR)細胞は、増強された抑制能力を有していた。T(FR)細胞の実質的な集団はマウス血液中に見出され、血中のT(FR)細胞は、リンパ節に帰り、T(FH)細胞を強力に阻害したことがインビボで実証された(Sageの文献、前出、2013)。血中のT(FR)細胞は、共刺激性レセプターCD28及びICOSを介したシグナリングを必要としたが、PD-1及びPD-L1により阻害された(Sageの文献、前出、2013)。
【0012】
多発性硬化症は、慢性炎症及び神経膠症(瘢痕)からもたらされる、脳、視神経及び脊髄に影響する炎症及び脱髄のエリアを特徴とする状態である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 2106-2113, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 2409-2418, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。
【0013】
1型糖尿病は、膵臓のβ細胞が自己免疫性攻撃によって次第に破壊され、インスリン分泌活性の喪失がもたらされる障害である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 1258-1277, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 2060-2081, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。ポリクローナル調節性T細胞は、1型糖尿病患者から単離され、エクスビボで拡大され、第1相臨床試験においてそれらの患者に投与された(Bluestoneらの文献、Sci. Transl. Med. 7(315)(doi: 10.1126/scitranslmed.aad4134)(2015))。
【0014】
関節リウマチは、主に可動関節及び頻繁に他の器官に影響する慢性全身性炎症疾患である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 1459-1466, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 1880-1888, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。
【0015】
原発性胆汁性肝硬変は、肝内胆管の進行性の破壊及び抗ミトコンドリア抗体の存在を特徴とする免疫介在性障害である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 791-792, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 1707-1709, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。
【0016】
重症筋無力症は、病原性自己抗体が運動終板でアセチルコリンレセプター(AChR)欠損を誘導する自己免疫性障害である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 2171-2173, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 2469-2472, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。
【0017】
尋常性白斑は、生体の開口部の周囲及び骨性突起物(膝、肘、手)上に対称に分布する無色素性斑が進行性に拡張する状態である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、p. 316, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 316-317, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。メラニン細胞は白斑の斑から欠如している。尋常性白斑の患者において、調節性T細胞のパーセンテージが低減し、PD-1+ 調節性T細胞のパーセンテージが増大することが観察された(Tembhreらの文献、Br. J. Immunol. 172:940-950(2015))。
【0018】
全身性エリテマトーデス(SLE)は、発熱、発疹、脱毛、関節炎、胸膜炎、心膜炎、腎炎、貧血、白血球減少症、血小板減少症、及び中枢神経系疾患の様々な組み合わせを生じ得る疾患である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 1475-1483, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 1874-1880, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。マウスのループスモデルにおいて、抗PD-1抗体を用いる治療は、CD4+調節性T細胞の生成を増強し、活性疾患の初期ステージ中、疾患進行を遅延させた(Wongらの文献、J. Immunol. 190:5402-5410(2013))。
【0019】
アレルギー性障害は、過敏症とも呼ばれ、免疫系がアレルゲンを同定し、免疫応答を開始する状態である。免疫系は、免疫グロブリンE(IgE)と呼ばれる抗体を産生する(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 1408-1417, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 1860-1869, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。アレルギー性障害は、しばしば特異的免疫療法(SIT)を用いて治療され、これはアレルゲンの用量を次第に増大させることからなる(Smarrらの文献、Crit. Rev. Immunol. 33:389-414(2013))。この手順は、その抗原に対する抗原特異的寛容性をもたらすことができる(Smarrらの文献、前出、2013)。
【0020】
母の免疫系による胎児の寛容性は、末梢で及び胎児母体間インターフェースで局所的に、異なる免疫細胞が関与する種々のメカニズムを通して調節される(Tripathiらの文献、Biomed. J. 38:25-31(2015);Erlebacher, Nat. Rev. 13:23-33(2013);Guerinらの文献、Hum. Reprod. Update 15:517-535(2009))。母系のTリンパ球は、父系の胎児抗原を認識し、動的T細胞ホメオスタシスの状態が子宮で妊娠期間中、維持され、そのことは、抗原特異的調節性T細胞増殖の増大、抗原特異的エフェクターT細胞のアポトーシスの増大、及び胎児に対する寛容性を確保するための着床成功後の過剰炎症の阻害を含む(Tripathiらの文献、前出、2015)。調節性T細胞は、妊娠期間中の寛容性の維持において重要は役割を果たす。女性において、調節性T細胞は、脱落膜に蓄積し、妊娠初期3か月間の初めから母系の血液中で上昇する(Guerinらの文献、前出、2009)。父系の抗原特異的調節性T細胞の枯渇及び養子移入の両方が、再吸収の変調をもたらした(Tripathiらの文献、前出、2015)。不適切な数の調節性T細胞又はその機能的欠損は、不妊症、流産及び子癇前症と関連している(Guerinらの文献、前出、2009)。PD-1/PD-L1経路は、胎児母体間インターフェースでの寛容性及び免疫の間の良好なバランスを維持することにおける調節性T細胞応答の調節において重要な役割を果たすことが示されている(Tripithiらの文献、前出、2015)。
【0021】
アルツハイマー病は、脳の領域におけるニューロン集団の進行性及び選択的変性によって引き起こされる(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 1992-1994, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 2348-2356, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。アルツハイマー病は、アミロイドプラークの形成と関連している(Huangらの文献、Cell 148:1204-1222(2012)。調節性T細胞及びPD-1+調節性T細胞の両方が、健常コントロールと比較して軽度認知障害及びアルツハイマー病の患者において増大する(Saresellaらの文献、J. Alzheimer's Dis. 21:927-938(2010))。最も強い抑制能力を与えられている調節性T細胞のサブ集団である、PD-1ネガティブ調節性T細胞は、軽度認知障害患者単独において有意に高められている(Saresellaらの文献、前出、2010)。これらの患者において、アミロイド-βで刺激されるT細胞増殖は低減し、調節性T細胞媒介性抑制は、アルツハイマー患者及び健常コントロールの両方と比較して、より効率的であった。
【0022】
関節炎は、関節痛、硬直、及び炎症又は腫脹を含む状態である。関節炎性障害は、リウマチ性関節炎以外では、たとえば変形性関節症及び乾癬性関節炎を含む。変形性関節症は、痛み及び機能的制限を特徴とする可動関節の障害である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 2171-2173, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 1935-1941, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。変形性関節症は、X線検査での骨棘及び関節腔狭窄、及び病理組織学での軟骨の完全性の変化により特徴付けられる。
【0023】
乾癬性関節炎は、乾癬を有する人々のあるパーセンテージに影響する慢性炎症性関節炎である(Bennettらの文献、「セシル医学教科書」(Cecil Textbook of Medicine)、第20版、pp. 1471-1472, W.B. Saunders, Philadelphia PA(1996);Fauciらの文献、「ハリソンの内科学の原理」(Harrison’s Principles of Internal Medicine)、第14版、pp. 1949-1950, McGraw-Hill, San Francisco CA(1998))。乾癬性関節炎の3つの主要なタイプは、非対称炎症性関節炎、対称性関節炎及び乾癬性脊椎炎である。
【0024】
自己免疫性障害、器官移植拒絶、及び他の障害のような、免疫介在性障害の改善された治療を提供するための療法の必要性が存在する。本発明の目的は、この必要性を満足することである。
【発明の概要】
【0025】
4. 発明の概要
本発明は、細胞の細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する、免疫阻害性細胞である細胞、及びこのような細胞を使用する方法に関する。
【0026】
ひとつの態様において、本明細書で提供されるのは、免疫阻害性細胞であり、この細胞は、細胞の細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する。ある種の実施態様において、この免疫阻害性細胞は、調節性T細胞である。具体的な実施態様において、この調節性T細胞は、ヒトCD4+CD25+T細胞である。別の具体的な実施態様において、この調節性T細胞は、ヒトCD4+CD127lo/-CD25+T細胞である。別の具体的な実施態様において、この免疫阻害性細胞は、濾胞性調節性T細胞である。別の具体的な実施態様において、この細胞はFoxP3+である。別の具体的な実施態様において、この免疫阻害性細胞は、調節性B細胞である。別の実施態様において、本明細書において提供されるのは、上記のとおりの免疫阻害性細胞の集団である。
【0027】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、CD4+CD25+であり、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する、ヒト調節性T細胞のポリクローナル集団である。具体的な実施態様において、この細胞のポリクローナル集団は、CD127lo/-であるヒト調節性T細胞を含む。
【0028】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する調節性T細胞である。ある種の実施態様において、この調節性T細胞は、ヒトCD4+CD25+T細胞である。特定の実施態様において、この調節性T細胞は、ヒトCD4+CD127lo/-CD25+T細胞である。ある種の実施態様において、この免疫阻害性細胞は、濾胞性調節性T細胞である。
【0029】
本発明の免疫阻害性細胞のある種の実施態様において、この細胞媒介性免疫応答の阻害剤は、免疫チェックポイント阻害剤である。ある種の実施態様において、この免疫チェックポイント阻害剤は、プログラムドデス1(PD-1)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)、Bリンパ球及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、T細胞免疫グロブリン ムチン3(TIM-3)、リンパ球活性化タンパク質3(LAG-3)、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫レセプター(TIGIT)、白血球関連免疫グロブリン様レセプター1(LAIR1)、ナチュラルキラー細胞レセプター2B4(2B4)、及びCD160からなる群から選択される。特定の実施態様において、この阻害剤は、好ましくはPD-1である。ある種の実施態様において、この阻害剤は、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)レセプターである。
【0030】
上記のとおりの本発明の免疫阻害性細胞のある種の実施態様において、細胞は、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原を認識し、それに感作される。上記のとおりの本発明の免疫阻害性細胞のある種の実施態様において、細胞は、キメラ抗原レセプター(CAR)をさらに発現し、ここで、CARは、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合する。
【0031】
上記のとおりの本発明の免疫阻害性細胞のある種の実施態様において、ドミナントネガティブ形態は、(a)免疫チェックポイント阻害剤の細胞外ドメインの少なくとも一部分であって、この部分は、リガンド結合領域を含む、及び(b)膜貫通ドメイン、を含むポリペプチドである。上記のとおりの本発明の免疫阻害性細胞のある種の実施態様において、ドミナントネガティブ形態は、共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含み、ここで、この共刺激性シグナリングドメインは、ドミナントネガティブ形態の膜貫通ドメインに対してカルボキシ末端側である。特定の実施態様において、ドミナントネガティブ形態の共刺激性シグナリングドメインは、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである。共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含むドミナントネガティブ形態を発現する免疫阻害性細胞のある種の実施態様において、細胞は、共刺激性シグナリングドメインを含むCARをさらに発現する。このような細胞のある種の実施態様において、ドミナントネガティブ形態の共刺激性シグナリングドメインは、CARの共刺激性シグナリングドメインとは異なる。特定の実施態様において、CARの共刺激性シグナリングドメインは、CD28の細胞内シグナリングドメインである。特定の実施態様において、ドミナントネガティブ形態の共刺激性シグナリングドメインは、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである。
【0032】
CARを発現する本発明の免疫阻害性細胞のある種の実施態様において、免疫介在性障害は、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、及びアレルギー性障害からなる群から選択される。特定の実施態様において、免疫介在性障害は器官移植拒絶である。特定の実施態様において、移植された器官は肺である。移植された器官が肺である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、コラーゲンタイプV、Kα1チューブリン、及びMHCクラスI関連鎖A(MICA)からなる群から選択される。特定の実施態様において、移植された器官は腎臓である。移植された器官が腎臓である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、フィブロネクチン、コラーゲンタイプ IV、コラーゲンタイプ VI、ビメンチン、1型アンギオテンシンIIレセプター(AGTR1)、パールカン、及びアグリンからなる群から選択される。
【0033】
特定の実施態様において、移植された器官は肝臓である。移植された器官が肝臓である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、コラーゲンタイプ I、コラーゲンタイプ II、コラーゲンタイプ III、及びコラーゲンタイプ Vからなる群から選択される。特定の実施態様において、移植された器官は心臓である。移植された器官が心臓である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、心筋ミオシン、ビメンチン、コラーゲンタイプ V、Kα1チューブリン、及びMHCクラスI関連鎖A(MICA)からなる群から選択される。特定の実施態様において、移植された器官は膵臓である。移植された器官が膵臓である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、膵島細胞自己抗体(ICA)抗原、インスリン、及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)からなる群から選択される。
【0034】
本発明の特定の実施態様において、免疫介在性障害は自己免疫性障害である。特定の実施態様において、この自己免疫性障害は多発性硬化症である。自己免疫性障害が多発性硬化症である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、ミエリン、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、プロテオリピドタンパク質、アストロサイトタンパク質、グリア線維性タンパク質(GFAP)、及びS100betaからなる群から選択される。特定の実施態様において、自己免疫性障害は1型糖尿病である。自己免疫性障害が1型糖尿病である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、β細胞抗原、インスリン、インスリンB鎖、プロインスリン、プレプロインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、膵島関連抗原2、膵島特異的グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質(IGRP)、亜鉛トランスポーター8(ZnT8)、膵島抗原2(IA-2)、ヒートショックタンパク質60(HSP60)、及びクロモグラニンAからなる群から選択される。
【0035】
特定の実施態様において、自己免疫性障害は関節リウマチである。自己免疫性障害が関節リウマチである特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、dnaJ(ヒートショックタンパク質)、シトルリン化ビメンチン、及びヒト軟骨糖タンパク質39からなる群から選択される。特定の実施態様において、自己免疫性疾患は原発性胆汁性肝硬変である。自己免疫性障害が原発性胆汁性肝硬変である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、ミトコンドリア成分、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(ミトコンドリアの);ピルビン酸デヒドロゲナーゼのE2成分;分岐鎖2-オキソ酸デヒドロゲナーゼのE2成分;2-オキソ-グルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のE2成分;ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼのE3結合タンパク質;核成分;核タンパク質sp100、核膜孔複合体gp120、及びセントロメアからなる群から選択される。特定の実施態様において、自己免疫性障害は重症筋無力症である。自己免疫性障害が重症筋無力症である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、アセチルコリンレセプター(AChR)、アクアポリン4(AQP-4)、CTLA-4、ICAM、LFA-3、CD40/CD154、ICOS/ICOSL、CD52、活性化T細胞核内因子(NFAT)、ホスホリパーゼC(PLC)、CD25、ヤヌスキナーゼ、B細胞活性化因子(BAFF)、増殖誘導性リガンド(APRIL)、IL6R、IL17、IL12/IL23、インテグリン、及びスフィンゴシンレセプターからなる群から選択される。
【0036】
特定の実施態様において、自己免疫性障害は尋常性白斑である。自己免疫性障害が尋常性白斑である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、メラニン細胞抗原である。特定の実施態様において、自己免疫性障害はループス、たとえば、全身性エリテマトーデスである。自己免疫性障害がループスである特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、トール様レセプター、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR7、TLR8、TLR9、MyD88、及びIL-1R関連キナーゼ(IRAK)である。
【0037】
ある種の実施態様において、免疫介在性障害は、アレルギー性障害である。特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される抗原、又はCARが結合する抗原は、アレルギー性障害に関連するアレルゲンである。
【0038】
本発明のある種の実施態様において、本発明の細胞は、さらに自殺遺伝子を組換えにより発現する。特定の実施態様において、自殺遺伝子は、誘導性カスパーゼ9を含む。本発明のある種の実施態様において、細胞はヒトから由来する。特定の実施態様において、細胞は胎盤から単離される。特定の実施態様において、細胞は、軽度認知障害を有するヒトから由来する。
【0039】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団;及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物である。
【0040】
別の実施態様において、本明細書において提供されるのは、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団であって、このドミナントネガティブ形態が共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含むもの;及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物である。
【0041】
さらに別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含む方法である。別の実施態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、本発明の医薬組成物をこの患者に投与することを含む方法である。ある種の実施態様において、免疫介在性障害は、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、及びアルツハイマー病からなる群から選択される。
【0042】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、ここで、このドミナントネガティブ形態は共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含む、方法である。別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含むドミナントネガティブ形態を発現するこのような細胞を含む医薬組成物を、この患者に投与することを含む方法である。ある種の実施態様において、免疫介在性障害は、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、及びアルツハイマー病からなる群から選択される。
【0043】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、それを必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこのレシピエントに投与することを含み、この細胞又は集団は、器官移植拒絶と関連する器官移植の抗原に結合するCARを発現する、方法である。さらに別の態様において、本明細書において提供されるのは、それを必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこのレシピエントに投与することを含み、この細胞又は集団は、このレシピエントから調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である、方法である。
【0044】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、この細胞又は集団は、この自己免疫性障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する、方法である。なおかつ別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、この細胞又は集団は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である、方法である。ある種の実施態様において、自己免疫性障害は、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、及びループスからなる群から選択される。
【0045】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、この細胞又は集団は、このアレルギー性障害に関連するアレルゲンに結合するCARを発現する、方法である。さらに別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、この細胞又は集団は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。ある種の実施態様において、この細胞を投与することは、その患者において、特異的免疫療法の期間の低減、特異的免疫療法の有効性の増大、及び特異的免疫療法の効果の遷延からなる群から選択される効果を有する。
【0046】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、それを必要とする妊婦における胎児母体間不耐性を低減する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの妊婦に投与することを含み、この細胞又は集団は、この妊婦の先妊娠からの胎盤から調節性T細胞を単離すること、及びこの調節性T細胞を、それらが調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現するように形質導入することを含むプロセスの生成物である、方法である。特定の実施態様において、この調節性T細胞は、胎児母体間不耐性について治療中の妊婦の胎盤から単離される。別の特定の実施態様において、この単離された調節性T細胞は父系の抗原に特異的である。
【0047】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、軽度認知障害を有する患者におけるアルツハイマー病への進行のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、この細胞又は集団は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である、方法である。
【0048】
別の態様において、本明細書において提供されるのは、それを必要とする患者における自己寛容性を促進する又は自己抗原に対する免疫学的寛容性を再確立する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、ここで、この細胞は、その自己抗原に対して特異的な(それを認識する)調節性T細胞である、又はこの集団は、その自己抗原に対して特異的な(それを認識する)調節性T細胞を含む、方法である。
【0049】
本発明の方法のある種の実施態様において、本発明の細胞の投与は、胸膜内投与、静脈内投与、皮下投与、節内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、気管内投与、関節内投与、子宮内投与、眼内投与、鼻腔内投与、脊髄内投与、硬膜外投与、腱付着部での直接投与、又は胸腺への直接投与によって行われる。好ましい実施態様において、この投与は、静脈内投与によって行われる。
【0050】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする患者における関節炎を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、ここで、この細胞又は集団は、関節炎の関節の腱付着部に直接に又は関節内に投与する、方法を提供する。
【0051】
本発明の方法のある種の実施態様において、細胞は、患者、レシピエント、又は妊婦の体重1kg当たり104~1010細胞の範囲の用量で投与する。ある種の実施態様において、細胞又は集団は、患者、レシピエント、又は妊婦の体重1kg当たり1×105~1×108細胞の範囲の用量で投与する。本発明の方法のある種の実施態様において、患者、レシピエント、又は妊婦はヒトである。
【0052】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、この患者から調節性T細胞を単離すること、この調節性T細胞を細胞培養においてインビトロで拡大すること、及びこの拡大された調節性T細胞をこの患者に治療的に有効な量で投与することを含み、ここで、この単離された調節性T細胞は、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を発現するように形質導入される、方法を提供する。
【0053】
別の態様において、本発明は、上記のとおりの本発明の方法であって、この方法は、キメラ抗原レセプター(CAR)及びスイッチレセプターを組換えにより発現する免疫阻害性細胞を投与することをさらに含み、ここで、このCARは、共刺激性シグナリングドメインを含み、及びここで、このスイッチレセプターは、アミノ末端からカルボキシ末端の順に:(i)免疫チェックポイント阻害剤の、少なくとも細胞外リガンド結合ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン、及び(iii)共刺激性シグナリングドメインを含む融合タンパク質である、方法を提供する。ひとつの実施態様において、スイッチレセプターの共刺激性シグナリングドメインは、スイッチレセプターも発現する細胞で発現されるCARの共刺激性シグナリングドメインとは異なる。特定の実施態様において、スイッチレセプターも発現する細胞で発現されるCARの共刺激性シグナリングドメインは、CD28の細胞内シグナリングドメインである。特定の実施態様において、スイッチレセプターの共刺激性シグナリングドメインは、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである。それを必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減する方法に向けられた具体的な実施態様において、スイッチレセプターも発現する細胞で発現されるCARは、器官移植拒絶と関連する器官移植の抗原に結合する。治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療する方法に向けられた具体的な実施態様において、スイッチレセプターも発現する細胞で発現されるCARは、自己免疫性障害の自己免疫抗原に結合する。治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療する方法に向けられた具体的な実施態様において、スイッチレセプターも発現する細胞で発現されるCARは、アレルギー性障害と関連するアレルゲンに結合する。
【0054】
別の態様において、本発明は、それを必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこのレシピエントに投与することを含み、ここで、この細胞はドミナントネガティブ形態及びCARを発現し、ここで、このドミナントネガティブ形態は共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含み、かつ、このCARは器官移植拒絶と関連する器官移植の抗原に結合する、方法を提供する。
【0055】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、ここで、この細胞はドミナントネガティブ形態及びCARを発現し、ここで、このドミナントネガティブ形態は共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含み、かつ、このCARは自己免疫性障害の自己免疫抗原に結合する、方法を提供する。
【0056】
別の態様において、本発明は、治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の上記のとおりの本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、ここで、この細胞はドミナントネガティブ形態及びCARを発現し、ここで、このドミナントネガティブ形態は共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含み、かつ、このCARはアレルギー性障害と関連するアレルゲンに結合する、方法を提供する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
免疫阻害性細胞である細胞であって、該細胞の細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する、前記細胞。
(項目2)
前記免疫阻害性細胞が調節性T細胞である、項目1記載の細胞。
(項目3)
前記調節性T細胞がヒトCD4 + CD25 + T細胞である、項目2記載の細胞。
(項目4)
前記調節性T細胞がヒトCD4 + CD127 lo/- CD25 + T細胞である、項目2記載の細胞。
(項目5)
前記免疫阻害性細胞が濾胞性調節性T細胞である、項目1記載の細胞。
(項目6)
前記細胞がFoxP3 + である、項目1~5のいずれか1項記載の細胞。
(項目7)
前記免疫阻害性細胞が調節性B細胞である、項目1記載の細胞。
(項目8)
項目1~7のいずれか1項記載の免疫阻害性細胞の集団。
(項目9)
CD4 + CD25 + であり、かつ、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する、ヒト調節性T細胞のポリクローナル集団。
(項目10)
前記ヒト調節性T細胞がCD127 lo/- である、項目9記載の細胞のポリクローナル集団。
(項目11)
調節性T細胞であって、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する、前記調節性T細胞。
(項目12)
前記調節性T細胞がヒトCD4 + CD25 + T細胞である、項目11記載の細胞。
(項目13)
前記調節性T細胞がヒトCD4 + CD127 lo/- CD25 + T細胞である、項目11記載の細胞。
(項目14)
前記免疫阻害性細胞が濾胞性調節性T細胞である、項目11記載の細胞。
(項目15)
前記阻害剤が免疫チェックポイント阻害剤である、項目1~14のいずれか1項記載の細胞又は集団。
(項目16)
前記免疫チェックポイント阻害剤が、プログラムドデス1(PD-1)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)、Bリンパ球及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、T細胞免疫グロブリンムチン3(TIM-3)、リンパ球活性化タンパク質3(LAG-3)、Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫レセプター(TIGIT)、白血球関連免疫グロブリン様レセプター1(LAIR1)、ナチュラルキラー細胞レセプター2B4(2B4)、及びCD160からなる群から選択される、項目15記載の細胞又は集団。
(項目17)
前記免疫チェックポイント阻害剤がPD-1である、項目16記載の細胞又は集団。
(項目18)
前記阻害剤がトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)レセプターである、項目1~14のいずれか1項記載の細胞又は集団。
(項目19)
前記細胞又は集団が、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原を認識し、その抗原に感作される、項目1~18のいずれか1項記載の細胞又は集団。
(項目20)
前記細胞又は集団が、キメラ抗原レセプター(CAR)をさらに発現し、該CARは免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合する、項目1~18のいずれか1項記載の細胞又は集団。
(項目21)
前記ドミナントネガティブ形態が、(a)免疫チェックポイント阻害剤の細胞外ドメインの少なくとも一部分であって、リガンド結合領域を含む該部分、及び(b)膜貫通ドメイン、を含むポリペプチドである、項目20記載の細胞又は集団。
(項目22)
前記ドミナントネガティブ形態が、共刺激性シグナリングドメインへの融合物をさらに含み、該共刺激性シグナリングドメインは該ドミナントネガティブ形態の膜貫通ドメインに対してカルボキシ末端側である、項目21記載の細胞又は集団。
(項目23)
前記共刺激性シグナリングドメインが、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである、項目22記載の細胞又は集団。
(項目24)
前記CARが共刺激性シグナリングドメインを含む、項目22記載の細胞又は集団。
(項目25)
前記ドミナントネガティブ形態の共刺激性シグナリングドメインが、前記CARの共刺激性シグナリングドメインと異なる、項目24記載の細胞又は集団。
(項目26)
前記CARの共刺激性シグナリングドメインがCD28の細胞内シグナリングドメインである、項目24又は25記載の細胞又は集団。
(項目27)
前記ドミナントネガティブ形態の共刺激性シグナリングドメインが、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである、項目24~26のいずれか1項記載の細胞又は集団。
(項目28)
前記免疫介在性障害が、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、及びアレルギー性障害からなる群から選択される、項目19又は20記載の細胞又は集団。
(項目29)
前記免疫介在性障害が器官移植拒絶である、項目28記載の細胞又は集団。
(項目30)
前記移植された器官が肺である、項目29記載の細胞又は集団。
(項目31)
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、コラーゲンタイプV、K α1チューブリン、及びMHCクラスI関連鎖A(MICA)からなる群から選択される、項目30記載の細胞又は集団。
(項目32)
前記移植された器官が腎臓である、項目29記載の細胞又は集団。
(項目33)
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、フィブロネクチン、コラーゲンタイプIV、コラーゲンタイプVI、ビメンチン、1型アンギオテンシンIIレセプター(AGTR1)、パールカン、及びアグリンからなる群から選択される、項目32記載の細胞又は集団。
(項目34)
前記移植された器官が肝臓である、項目29記載の細胞又は集団。
(項目35)
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、及びコラーゲンタイプVからなる群から選択される、項目34記載の細胞又は集団。
(項目36)
前記移植された器官が心臓である、項目29記載の細胞又は集団。
(項目37)
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、心筋ミオシン、ビメンチン、コラーゲンタイプV、Kα1チューブリン、及びMHCクラスI関連鎖A(MICA)からなる群から選択される、項目36記載の細胞又は集団。
(項目38)
前記移植された器官が膵臓である、項目29記載の細胞又は集団。
(項目39)
前記抗原が、MHCクラスI、MHCクラスII、膵島細胞自己抗体(ICA)抗原、インスリン、及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)からなる群から選択される、項目38記載の細胞又は集団。
(項目40)
前記免疫介在性障害が自己免疫性障害である、項目28記載の細胞又は集団。
(項目41)
前記自己免疫性障害が多発性硬化症である、項目40記載の細胞又は集団。
(項目42)
前記抗原が、ミエリン、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、プロテオリピドタンパク質、アストロサイトタンパク質、グリア線維性タンパク質(GFAP)、及びS100betaからなる群から選択される、項目41記載の細胞又は集団。
(項目43)
前記自己免疫性障害が1型糖尿病である、項目40記載の細胞又は集団。
(項目44)
前記抗原が、β細胞抗原、インスリン、インスリンB鎖、プロインスリン、プレプロインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、膵島関連抗原2、膵島特異的グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質(IGRP)、亜鉛トランスポーター8(ZnT8)、膵島抗原2(IA-2)、ヒートショックタンパク質60(HSP60)、及びクロモグラニンAからなる群から選択される、項目43記載の細胞又は集団。
(項目45)
前記自己免疫性障害が関節リウマチである、項目40記載の細胞又は集団。
(項目46)
前記抗原が、dnaJ(ヒートショックタンパク質)、シトルリン化ビメンチン、及びヒト軟骨糖タンパク質39からなる群から選択される、項目45記載の細胞又は集団。
(項目47)
前記自己免疫性障害が原発性胆汁性肝硬変である、項目40記載の細胞又は集団。
(項目48)
前記抗原が、ミトコンドリア成分、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(ミトコンドリア性);ピルビン酸デヒドロゲナーゼのE2成分;分岐鎖2-オキソ酸デヒドロゲナーゼのE2成分;2-オキソ-グルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のE2成分;ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼのE3結合タンパク質;核成分;核タンパク質sp100、核膜孔複合体タンパク質gp120、及びセントロメアからなる群から選択される、項目47記載の細胞又は集団。
(項目49)
前記自己免疫性障害が重症筋無力症である、項目40記載の細胞又は集団。
(項目50)
前記抗原が、アセチルコリンレセプター(AChR)、アクアポリン4(AQP-4)、CTLA-4、ICAM、LFA-3、CD40/CD154、ICOS/ICOSL、CD52、活性化T細胞核内因子(NFAT)、ホスホリパーゼC(PLC)、CD25、ヤヌスキナーゼ、B細胞活性化因子(BAFF)、増殖誘導性リガンド(APRIL)、IL6R、IL17、IL12/IL23、インテグリン、及びスフィンゴシンレセプターからなる群から選択される、項目49記載の細胞又は集団。
(項目51)
前記自己免疫性障害が尋常性白斑である、項目40記載の細胞又は集団。
(項目52)
前記抗原がメラニン細胞抗原である、項目51記載の細胞又は集団。
(項目53)
前記自己免疫性障害が、ループスである、項目40記載の細胞又は集団。
(項目54)
前記抗原が、トール様レセプター、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR7、TLR8、TLR9、MyD88、及びIL-1R関連キナーゼ(IRAK)からなる群から選択される、項目53記載の細胞又は集団。
(項目55)
前記免疫介在性障害がアレルギー性障害である、項目28記載の細胞又は集団。
(項目56)
前記抗原が、前記アレルギー性障害に関連するアレルゲンである、項目55記載の細胞又は集団。
(項目57)
前記細胞又は集団が、さらに、自殺遺伝子を組換えにより発現する、項目1~21及び28~56のいずれか1項記載の細胞又は集団。
(項目58)
前記自殺遺伝子が、誘導性カスパーゼ9を含む、項目57記載の細胞又は集団。
(項目59)
ヒトから由来する、項目1~21及び28~58のいずれか1項記載の細胞又は集団。
(項目60)
前記細胞が胎盤から単離される、項目11~14のいずれか1項記載の細胞。
(項目61)
前記細胞が、軽度認知障害を有するヒトから由来する、項目11~14のいずれか1項記載の細胞。
(項目62)
治療的に有効な量の項目1~21及び28~61のいずれか1項記載の細胞又は集団;及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物。
(項目63)
治療的に有効な量の項目22~27のいずれか1項記載の細胞又は集団;及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物。
(項目64)
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目1~21及び28~61のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含む、前記方法。
(項目65)
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、項目62記載の医薬組成物を、該患者に投与することを含む、前記方法。
(項目66)
前記免疫介在性障害が、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、及びアルツハイマー病からなる群から選択される、項目64又は65記載の方法。
(項目67)
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目22~27のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含む、前記方法。
(項目68)
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、項目63記載の医薬組成物を該患者に投与することを含む、前記方法。
(項目69)
前記免疫介在性障害が、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、及びアルツハイマー病からなる群から選択される、項目67又は68記載の方法。
(項目70)
それを必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の項目1~21、28~39及び57~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該レシピエントに投与することを含み、この細胞又は集団が、器官移植拒絶と関連する該器官移植の抗原に結合するCARを発現する、前記方法。
(項目71)
それを必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の項目1~19及び57~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該レシピエントに投与することを含み、この細胞又は集団が、該レシピエントから調節性T細胞を単離すること、及び該単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である、前記方法。
(項目72)
治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目1~21、28、40~54及び57~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、この細胞又は集団が、該自己免疫性障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する、前記方法。
(項目73)
治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目1~19及び57~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、この細胞又は集団が、該患者から調節性T細胞を単離すること、及び該単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である、前記方法。
(項目74)
前記自己免疫性障害が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、及びループスからなる群から選択される、項目72又は73記載の方法。
(項目75)
治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目1~21、28及び55~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、この細胞又は集団が、該アレルギー性障害に関連するアレルゲンに結合するCARを発現する、前記方法。
(項目76)
治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目1~19及び57~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、この細胞又は集団が、該患者から調節性T細胞を単離すること、及び該単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である、前記方法。
(項目77)
前記細胞を投与することが、前記患者において、特異的免疫療法の期間を低減すること、特異的免疫療法の有効性を増大すること、及び特異的免疫療法の効果を遷延することからなる群から選択される効果を有する、項目75又は76記載の方法。
(項目78)
それを必要とする妊婦における胎児母体間不耐性を低減する方法であって、治療的に有効な量の項目1~19及び57~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該妊婦に投与することを含み、この細胞又は集団が、該妊婦の先妊娠の胎盤から調節性T細胞を単離すること、及び該調節性T細胞を、それらが調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現するように、形質導入することを含むプロセスの生成物である、前記方法。
(項目79)
前記調節性T細胞が、胎児母体間不耐性のために治療されている妊婦の胎盤から単離される、項目78記載の方法。
(項目80)
前記調節性T細胞が、父系の抗原特異的である、項目79記載の方法。
(項目81)
軽度認知障害を有する患者におけるアルツハイマー病への進行のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の項目1~19、57~59及び61のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、この細胞又は集団が、この患者から調節性T細胞を単離すること、及び該単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である、前記方法。
(項目82)
それを必要とする患者における自己寛容性を促進する又は自己抗原に対する免疫学的寛容性を再確立する方法であって、治療的に有効な量の項目1~21、28、40~54及び57~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、該細胞が、自己抗原に対して特異的な調節性T細胞である、又は該集団が、自己抗原に対して特異的な調節性T細胞を含む、前記方法。
(項目83)
前記投与することが、胸膜内投与、静脈内投与、皮下投与、節内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、気管内投与、関節内投与、子宮内投与、眼内投与、鼻腔内投与、脊髄内投与、硬膜外投与、腱付着部での直接投与、又は胸腺への直接投与による、項目64~66及び70~82のいずれか1項記載の方法。
(項目84)
前記投与することが、静脈内投与によるものである、項目83記載の方法。
(項目85)
治療を必要とする患者における関節炎を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目1~18及び57~59のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、ここで、該細胞又は集団が、関節内に、又は関節炎の関節の腱付着部で直接的に投与される、前記方法。
(項目86)
前記細胞又は集団が、前記患者、レシピエント、又は妊婦の体重1kg当たり10 4 ~10 10 細胞の範囲の用量で投与される、項目64~66及び70~85のいずれか1項記載の方法。
(項目87)
前記細胞又は集団が、前記患者、レシピエント、又は妊婦の体重1kg当たり1×10 5 ~1×10 8 細胞の範囲の用量で投与される、項目86記載の方法。
(項目88)
前記患者、レシピエント、又は妊婦が、ヒトである、項目64~66及び70~87のいずれか1項記載の方法。
(項目89)
治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、該患者から調節性T細胞を単離すること、該調節性T細胞を細胞培養においてインビトロで拡大すること、及び該拡大された調節性T細胞を治療的に有効な量で該患者に投与することを含み、ここで該単離された調節性T細胞が、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を発現するように形質導入される、前記方法。
(項目90)
前記方法が、キメラ抗原レセプター(CAR)及びスイッチレセプターを組換えにより発現する免疫阻害性細胞を投与することをさらに含み、ここで、該CARは、共刺激性シグナリングドメインを含み、かつ、該スイッチレセプターは、アミノ末端からカルボキシ末端の順に:(i)免疫チェックポイント阻害剤の少なくとも細胞外リガンド結合ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン、及び(iii)共刺激性シグナリングドメインを含む融合タンパク質である、項目64~66及び70~88のいずれか1項記載の方法。
(項目91)
前記スイッチレセプターの共刺激性シグナリングドメインが、該スイッチレセプターをも発現する細胞において発現されるCARの共刺激性シグナリングドメインとは異なる、項目90記載の方法。
(項目92)
前記スイッチレセプターをも発現する細胞において発現されるCARの共刺激性シグナリングドメインが、CD28の細胞内シグナリングドメインである、項目90又は91記載の方法。
(項目93)
前記スイッチレセプターの共刺激性シグナリングドメインが、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである、項目90~92のいずれか1項記載の方法。
(項目94)
それを必要とする器官移植レシピエントにおける器官移植拒絶のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の項目22~27のいずれか1項記載の細胞又は集団を該レシピエントに投与することを含み、前記CARが、器官移植拒絶と関連する該器官移植の抗原に結合する、前記方法。
(項目95)
治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目22~27のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、前記CARが、該自己免疫性障害の自己免疫抗原に結合する、前記方法。
(項目96)
治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の項目22~27のいずれか1項記載の細胞又は集団を、該患者に投与することを含み、前記CARが、該アレルギー性障害に関連するアレルゲンに結合する、前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0057】
5. 図面の説明
図1図1A~1Eは、CD28又は4-1BB共刺激を有するキメラ抗原レセプター(CARs)が、初回抗原刺激に際してインビトロで同等のエフェクターサイトカイン分泌及び増殖を呈することを示す。図1A。第一世代及び第二世代CARs。図1B。メソセリン(MSLN)を標的とするCARsは、単独で(Mz、第一世代CAR)、又はCD28(M28z)もしくは4-1BB(MBBz)共刺激性ドメインとの組合わせで(第二世代CAR)、CD3ζエンドドメインを含有する。CD28共刺激(P28z)を有する前立腺特異的膜抗原(PSMA)指向性CAR、ならびにPSMAを発現する標的(PSMA+)は、陰性コントロールとして実験に含まれている。CYT、細胞質ドメイン;及びLS、リーダー配列;LTR、末端反復配列;SA、スプライスアクセプター;SD、スプライスドナー;TM、膜貫通。図1C~1E。CARを形質導入されたT細胞の抗原特異的エフェクター機能。図1C。クロム放出アッセイによって測定された、PSMA+標的では見られない、MSLNを発現する標的(MSLN+)の溶解。図1D。Luminex(ルミネックス)アッセイによって評価されるように、4-1BB及びCD28共刺激は、CAR T細胞とMSLN+細胞の共培養後、サイトカイン分泌を増強する。図1E。M28z及びMBBz CARsは、MSLN+細胞での刺激後、頑強なT細胞蓄積を容易にする。データは、3つの複製物の平均±SEM(図1C、1E)を表すか、又は個別の点としてプロットされている(図1D)。***、第一世代レセプター(Mz)を用いて共刺激されたCAR T細胞(M28z又はMBBz)と比較して、スチューデントのt検定により、P<0.001;有意性は、多重比較のためのボンフェローニ補正を使用して決定した。
【0058】
図2図2は、Mz、M28z、及びMBBz CARsを発現させるためのヒトT細胞の効率的なレトロウイルス形質導入を示す。(上段) から示されているのは、遺伝子導入の4日後の代表的なFACS分析である。生/死染色により非生存細胞を除外した後、1染色を差し引いた蛍光を、陽性ゲートを設定するために使用した。すべての実験は、50%~70%のCAR形質導入効率を有するT細胞を使用した;T細胞群間の形質導入パーセンテージは、互いの5%以内であった。(下段) CD4+及びCD8+T細胞サブセットはいずれも効率的に形質導入された。CAR T細胞についてゲーティングした後のCD4+及びCD8+パーセンテージを示す。
【0059】
図3図3A~3Dは、CAR T細胞はインビボ抗原曝露に続いて消耗されるが、MBBz CAR T細胞はエフェクターサイトカイン分泌及び細胞傷害性を優先的に保持することを示す。図3A。CAR T細胞の胸膜内投与の6日後、M28z及びMBBz CAR T細胞を、腫瘍及び脾臓から単離し、エクスビボ抗原刺激に供した。図3B。エクスビボ刺激の際のクロム放出アッセイは、M28zは低減するが、持続性のMBBz 細胞溶解性機能(E:T比1:5)は低減しないことを実証する。図3C。サイトカイン分泌測定値は、CAR T細胞によるエフェクターサイトカイン分泌は低減するが、MBBz CAR T細胞はより良く分泌を保持することができることを実証する。図3D。収穫されたCAR T細胞によるGzB、IFN-γ、及びIL-2発現のRT-PCR測定値は、タンパク質レベルの測定値と良好に相関する。データは、インビトロでの無刺激のM28z CAR T細胞のmRNA発現に対する倍率変化を表す。データは、1条件当たり3個の個別のウェルの平均±SEMを表す。スチューデントのt検定を実施し、多重比較のためのボンフェローニ補正を使用して統計学的有意性を決定した(*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001)。結果は、2回の実験の各々について使用されたマウスの2つの別個のコホートにおいて再現される。図3B~3Dの各々において、棒グラフの各対は、左から右に、M28z、MBBZを示す。
【0060】
図4図4A~4Eは、CAR T細胞は反復的なインビトロ抗原刺激の際に消耗されるが、MBBz CAR T細胞はインビトロで、及びインビボの腫瘍再負荷の際に、エフェクターサイトカイン分泌及び細胞傷害性を優先的に保持することを示す。図4A。M28z及びMBBz CAR T細胞は、いずれも、反復的な抗原刺激の際にインビトロでの増殖能を保持する。T細胞は、クロム放出アッセイにより細胞傷害性について、及びLuminex アッセイによりサイトカイン分泌についても、試験された(図4B~4D)。図4B。CAR T細胞は、最初の刺激での等しい殺傷(左)及び反復的な抗原刺激に際しての細胞溶解性機能の喪失を実証するが、MBBz CAR T細胞は、クロム放出アッセイによって測定されるように、細胞溶解性機能をより良く保持することができる(円、MZ;三角、M28z;菱形、MBBz)。図4C。CD107a 発現によって測定されるように、細胞傷害性顆粒放出(3回目の刺激で示される)は、クロム放出アッセイと相関する(図4B)。データは、無刺激のCAR T細胞のCD107a MFI に対する倍率変化の平均±SD(3つ組)を表す(棒グラフの各対は、左から右に、M28z、MBBzを示す)。図4D。サイトカイン分泌の測定値は、反復的な抗原遭遇に際してCAR T細胞エフェクター機能の喪失を同様に実証する;ここでもまた、MBBz CAR T細胞は、それらの機能をより良く保存することができる(上記のシンボル「Stim 1」、「Stim 2」及び「Stim 3」の各セットは、左から右に、 Mz、M28z、MBBzである)。図4E。等しく持続性であるが、MBBz CAR T細胞は、優れた機能的持続性を実証する。(1e5 個のCAR T細胞の単一用量の後の)胸膜腫瘍根絶の28日後、1e6 個のMSLN+腫瘍細胞を胸膜腔中に注射した(腫瘍再負荷)。MBBz CAR T細胞は、すべてのマウスにおいて腫瘍成長を防止したが、一方、腫瘍成長及び死は、M28z CAR T細胞を用いて初回処理された4匹のマウスのうち2匹において観察された。スチューデントのt検定を実施し、ボンフェローニ補正を使用して統計学的有意性を決定した(*P<0.05;***P<0.001)。データは、3つの複製物の平均±SEMを表すか、又は個別の点としてプロットされている。
【0061】
図5図5は、MBBz CAR T細胞が、M28z CAR T細胞と比較して、消耗の少ない、より強力な表現型を発現することを示す。4-1BB及びCD28により共刺激されたT細胞を、反復的な抗原刺激を用いて拡大させ、3回目の刺激の20時間後にmRNAを抽出し、RT-PCR 分析に供した。データは、CD4+非形質導入T細胞のmRNA 発現に対する倍率変化で表す。MBBz CAR T細胞は、高レベルのEOMES(Eomesodermin)及びTBX21(T-bet)、及び低レベルのPDCD1(PD-1)及びFOXP3(Foxp3)を発現する。すべての比較は、P<0.001で有意とした。結果は、異なるドナーを使用した3回の別個の実験において、同様であった。棒グラフの各群は、左から右に、UT(コントロールとして使用した、非形質導入T細胞)、M28z、MBBzである。
【0062】
図6図6A~6Fは、PD-1レセプター及びそのリガンドが、インビボでアップレギュレートされることを示す(図6A~6D、収穫されたT細胞;図6E~6F、腫瘍細胞)。図6A。腫瘍浸潤性のM28z及びMBBz CAR T細胞は、それらの投与の6日後に阻害性レセプターを発現するが、MBBz CAR T細胞は、より低いレベルのPD-1を発現する。図6B。胸膜内投与の6日後の腫瘍浸潤性CAR T細胞(TIL)のPD-1レセプター発現の平均蛍光強度(MFI)。図6C。胸膜内投与の6日後の腫瘍浸潤性CAR T細胞のCD4及びCD8サブセットにおけるPD-1 mRNAの相対発現。データは、無刺激M28z T細胞のPD-1 mRNA 発現に対する倍率変化で表す(棒グラフの各対について、M28z、左、MBBz、右)。図6D。進行中の腫瘍から単離された腫瘍浸潤性のM28z CAR T細胞は、阻害性レセプター、PD-1、Tim-3、及びLag-3を発現する。図6E。M28z CAR T細胞を用いて処理されたマウスから収穫された単一細胞腫瘍懸濁液は、高レベルのPD-1結合リガンドを発現する。図6F。インビトロ培養された中皮腫腫瘍細胞は、PD-1レセプターのリガンド(PD-L1、PD-L2)を発現し、発現は、IFN-γ及びTNF-αとの24時間のインキュベーションの後に、さらにアップレギュレートされる。
【0063】
図7図7は、M28z及びMBBz CAR T細胞がPD-1を他の阻害性レセプターと共に共発現することを示す。腫瘍浸潤性のM28z及びMBBz CAR T細胞は、胸膜腫瘍を担持するマウスへの胸膜内投与の6日後に収穫した。細胞は、PD-1に対する抗体と、LAG-3(左)又はTIM-3(右)に対する抗体を用いて共染色し、フローサイトメトリーによって分析した。アイソタイプ染色コントロール(上段)は、陽性ゲートを確立するために使用した。
【0064】
図8図8A~8Dは、PD-L1がCAR T細胞エフェクター機能を阻害することを示す。図8A。3T3 線維芽細胞を、メソセリン単独を発現させるため(MSLN+、左)、又はPD-L1に加えてMSLNを共発現させるため(MSLN+ PD-L1+、右)、形質導入した。図8B~8D。M28z及びMBBz CAR T細胞エフェクター機能は、3T3 MSLN+又はMSLN+ PD-L1+標的を用いた刺激後に評価した。PD-L1は、反復的な抗原刺激に際してM28z及びMBBz CAR T細胞蓄積(図8B)、MSLN+ PD-L1+腫瘍細胞を用いた2回の刺激後に細胞溶解性機能(図8C)、及び最初の刺激の際にTh1 エフェクターサイトカイン分泌(図8D) を阻害した。データは、3つの複製物の平均±SEMを表すか、又は個別の点としてプロットされている。
【0065】
図9図9A~9Eは、PD-1ドミナントネガティブレセプター(PD-1 DNR)の共形質導入が、インビトロ及びインビボでM28z CAR T細胞をPD-1リガンド媒介性阻害からレスキューすることを示す。図9A。(左) 内在性PD-1レセプターを介するCD28で共刺激されたT細胞結合腫瘍リガンド(共阻害性シグナルを伝達する)、又は阻害性シグナリングドメインを欠く共形質導入されたPD-1 DNRの模式的表現。(右) インビトロ及びインビボ実験のために、M28z CAR T細胞を、空のベクター(EV;SFG-mCherry)、又はPD-1 DNR(SFG-2A-PD-1 DNR)を用いて共形質導入した。mCherry発現について選別されたCAR T細胞を、次に、IFN-γ及びTNF-αを用いて処理されていたMSLN+腫瘍細胞と共に24時間インキュベートし、PD-1リガンドをアップレギュレートした。M28z PD-1 DNR CAR T細胞は、反復的な抗原刺激に際して蓄積した小さいが統計学的に有意な増強(図9B;三角、M28z EV;四角、M28z PD-1 DNR)、MSLN+ PD-L1+腫瘍細胞を用いた3回目の刺激に際してクロム放出アッセイによって測定されたとおりの増強された細胞溶解性機能(図9C;三角、M28z EV;四角、M28z PD-1 DNR)、及び初回刺激に際してTh1上清サイトカインの増大した発現(図9D)を実証した。スチューデントのt検定を実施し、統計学的有意性を、多重比較のためのボンフェローニ補正を使用して決定した(*P<0.05;**P<0.01;***P<0.001)。データは、3つ組の平均±SEMを表すか、又は個別の点としてプロットされている。図9E。胸膜に投与された単一用量の5e4個の M28z EV(n=19)又はM28z PD-1 DNR(n=16)のインビボ有効性を比較する腫瘍BLI(左)及びカプラン-マイヤー生存分析(右)。示されているデータは、2回の独立した実験の組合わせである。
【化1】
シンボル は、死を示す。生存中央値は日数で示されている。生存曲線は、対数順位検定を使用して分析した(P=0.001)。独立した各実験についての対数順位検定は、P<0.05 レベルで有意であった;2回の実験は、説明のために一緒にしている。この実験におけるマウス(M28z PD-1 DNR)のコホートは、反復的な腫瘍再負荷にもかかわらず、450日を超えて生存し、PD-1 DNRを用いて形質導入されたCAR T細胞の「機能的持続性」を実証した。
【0066】
図10図10A~10Eは、PD-1レセプターを標的とするshRNAsの共形質導入が、インビトロでM28z CAR T細胞をPD-L1/PD-1媒介性阻害からレスキューすることを示す。図10A。(左) PD-1を標的とするshRNAの共発現の有り又は無しの、内在性PD-1レセプターを介して腫瘍発現PD-L1に結合するCD28で共刺激されたT細胞の模式的表現。(右) すべての実験は、2つのPD-1を標的とするshRNAs(dsREDレポーターを共発現するsh1又はsh2)の1つ、又は細菌配列を標的とするshRNA(KanR)を用いて共形質導入された、M28z CAR T細胞を含んでいた。図10B。KanRを形質導入された細胞と比較して、PD-1を標的とするshRNAsを用いて共形質導入されたM28z CAR T細胞は、フィトヘマグルチニンを用いた刺激に際してPD-1レセプタータンパク質発現の60%~70%のノックダウンを実証した(グラフは、左から右に、430、 722、 813及び1411に相当する)。PD-L1及びPD-L2をアップレギュレートするために、細胞を、PD-L1を過剰発現する3T3線維芽細胞(3T3 MSLN+ PD-L1+)、又はIFN-γ及びTNF-αを用いて処理されていた中皮腫腫瘍細胞のいずれかと共にインキュベートした。M28z PD1 shRNA CAR T細胞は、反復的な抗原刺激に際して増強された蓄積(図10C)、残存する生腫瘍細胞のルシフェラーゼ活性によって測定されるとおりの、低エフェクター対標的比での増強された細胞溶解性機能(図10D;棒グラフトの各群は、左から右に、Sh1、Sh2、ShK)、及び増大したTh1サイトカイン分泌(図10E;棒グラフトの各群は、左から右に、Sh1、Sh2、ShK)を実証する(**P<0.01;***P<0.001)。スチューデントのt検定を実施し、多重比較のためのボンフェローニ補正を使用して統計学的有意性を決定した。データは、3つの複製物の平均±SEMを表す。
【0067】
図11図11は、Fcドメインに融合されたPD-L1及びPD-L2組換えタンパク質へのPD-1 DNRの接着アッセイを示す。mCherryで標識され、PD-1 DNRを用いて形質導入されたT細胞を、Fcに融合されたPD-L1(「PD-L1 Fc」)、Fcに融合されたPD-L2(「PD-L2 Fc」)、又はコントロールアイソタイプ Fc(「Iso Fc」)でコーティングされたプレートに曝露した。プレートに結合したT細胞を、PD-1抗体の存在下(「+ PD-1 Ab」)又は不存在下で、絶対mcherry+ T細胞カウントとして測定した。棒グラフは、それぞれにコーティングされたプレートの各々についての結合を示し、左から右に、T細胞単独(「T細胞」)、PD-1抗体存在下のT細胞(「T細胞+ PD-1 ab」)、PD-1 DNRを用いて形質導入されたT細胞(「PD-1 DNR T細胞」)、及びPD-1抗体の存在下のPD-1 DNRを用いて形質導入されたT細胞(「PD-1 DNR T細胞+ PD-1 Ab」)である。
【0068】
図12図12A~12Dは、T細胞活性化のPD-L1又はPD-L2媒介性阻害を阻害するPD-1 DNRが、陽性共刺激性シグナルに変換され得ることを示す。図12Aは、CAR及びPD-1 DNRの共発現を説明する模式図を示す。図12Bは、4-1 BBとして例示された共刺激性ドメインをPD-1のリガンド結合ドメインに融合された膜貫通ドメインに融合することにより共刺激性構築物に変換されたCAR及びPD-1 DNRの共発現を説明する模式図を示す。図12Cは、M28z CAR、M28z CAR + PD-1 DNR、又はM28z CAR + PD-1 4-1BBのスイッチレセプター構築物を用いて形質導入されたT細胞における、第0日及び第7日の、CAR T細胞の蓄積を示す。棒は、左から右に、それぞれ:M28z CAR、M28z CAR + PD-1 DNR、及びM28z CAR + PD-1 4-1BBスイッチレセプター構築物、である。図12Dは、M28z CAR、M28z CAR + PD-1 DNR、又はM28z CAR + PD-1 4-1BBスイッチレセプター構築物を用いて形質導入されたT細胞における、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン2(IL-2)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)のサイトカイン分泌を示す。棒は、左から右に、それぞれ:M28z CAR、M28z CAR + PD-1 DNR、及びM28z CAR + PD-1 4-1BBスイッチレセプター構築物、である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
6. 発明の詳細な説明
本発明は、免疫介在性障害を治療するための組成物及び方法に関する。このような障害は、器官移植拒絶、自己免疫性障害、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、及びアルツハイマー病を含むが、これらに限定されない。本明細書において記載される場合、免疫阻害性細胞は、ドミナントネガティブ突然変異体である、免疫阻害性細胞の免疫抑制効果を限定する遮断を阻害するタンパク質を内因性に発現するように、遺伝子組換えされたものであることができる。この遮断を阻害することによって、遺伝子組換えされた免疫阻害性細胞は、免疫介在性障害における病理学的免疫応答に対してより効果的な免疫抑制活性を提供することが許容される。
【0070】
ひとつの態様において、 本明細書において提供されるのは、免疫阻害性細胞である細胞であって、この細胞は、細胞の細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する。別の態様において、本明細書において提供されるのは、CD4+CD25+であり、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する、ヒト調節性T細胞の集団(好ましくはポリクローナル集団)である。具体的な実施態様において、このポリクローナル集団は精製されている。具体的な実施態様において、このポリクローナル集団はエクスビボである。具体的な実施態様において、このポリクローナル集団は、このポリクローナル集団について富化された集団に存在する。別の態様において、本明細書において提供されるのは、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現する調節性T細胞である。別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療的に有効な量の本発明の細胞又は集団;及び医薬として許容し得る担体を含む医薬組成物である。
【0071】
さらに別の態様において、本明細書において提供されるのは、治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含む方法である。ある種の実施態様において、この免疫介在性障害は、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節炎、たとえば関節リウマチ又は他のタイプの関節炎、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性及びアルツハイマー病からなる群から選択される。別の態様において、本明細書において提供されるのは、それを必要とする患者における自己寛容性を促進する又は自己抗原に対する免疫学的寛容性を再確立する方法であって、治療的に有効な量の本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、ここで、この細胞は病的自己抗原特異的調節性T細胞であるか、又はこの集団は病的自己抗原特異的調節性T細胞を含む、方法である。別の態様において、本発明は、治療を必要とする患者における関節炎を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の細胞又は集団をこの患者に投与することを含み、ここで、この細胞又は集団は、関節炎の関節の腱付着部に直接に又は関節内に投与される、方法を提供する。別の態様において、本発明は、治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、この患者から調節性T細胞を単離すること、この調節性T細胞を細胞培養においてインビトロで拡大すること、及びこの拡大された調節性T細胞を治療的に有効な量でこの患者に投与することを含み、ここで、この単離された調節性T細胞は、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を発現するように形質転換されている、方法を提供する。
【0072】
6.1 細胞
本発明は、免疫阻害性細胞である細胞であって、好ましくはこの免疫阻害性細胞の、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態(本明細書において以下「DN形態」)を組換えにより発現する細胞を提供する。ひとつの実施態様において、この免疫阻害性細胞は、免疫介在性障害に関連する病的(又は望ましくない)免疫応答の標的である抗原を認識し、それに感作される。このような細胞は、たとえば、このような免疫介在性障害を有する患者、特にヒト患者から単離することができる。別の実施態様において、DN形態を発現するこの免疫阻害性細胞は、さらに、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合するCARを、組換えにより発現する。このような細胞は、たとえば、このような免疫介在性障害を有する患者、特にヒト患者から単離することができる。この組換え体の細胞は、免疫介在性障害を治療するために使用することができる。好ましくは、この細胞は、ヒトから由来する(組換え体にされる前にヒト起源である)(そして、ヒト由来細胞は、本発明の治療方法においてヒトへの投与について特に好ましい)。
【0073】
本発明の免疫阻害性細胞は、リンパ様系統の細胞であることができる。免疫阻害性細胞として使用することができるリンパ様系統の細胞の非限定的な例は、調節性T細胞、濾胞性調節性T細胞、調節性B細胞などを含む。本発明の免疫阻害性細胞は、細胞媒介性免疫応答の阻害剤、たとえば、免疫チェックポイント阻害剤経路レセプター、たとえばPD-1を発現する(メカニズムに拘束される意図はないが、細胞におけるDN形態の発現が細胞媒介性免疫応答の阻害剤を阻害し、細胞の持続的な活性化を促進することが報告されている)。
【0074】
免疫阻害性細胞は、商業的に入手可能な単離方法を含む、当該技術分野において周知の方法によって単離することができる(たとえば、Rowland-Jonesらの文献、「リンパ球:実際的アプローチ」(Lymphocytes: A Practical Approach)、Oxford University Press, New York(1999)を参照されたい)。その免疫阻害性細胞のための供給源は、末梢血、臍帯血、骨髄、又はリンパ様系統の細胞の他の供給源を含むが、これらに限定されない。細胞を分離して、所望の免疫阻害性細胞を単離又は富化するために、種々の技術を用いることができる。たとえば、ネガティブ選択法は、所望の免疫阻害性細胞ではない細胞を除去するために使用することができる。それに加えて、ポジティブ選択法は、所望の免疫阻害性細胞を単離又は富化するために使用することができ、又は、ポジティブ及びネガティブ選択法の組合わせを用いることができる。モノクローナル抗体(MAbs)は、特定の細胞系統及び/又は分化のステージと関連するマーカーを同定するために特に有用であり、ポジティブ及びネガティブ選択の両方のために試薬として使用することができる。特定のタイプの免疫阻害性細胞は、種々の細胞表面マーカー又はマーカーの組合わせ、又はマーカーの不存在に基づいて単離することができ、当該技術分野において周知のとおり、ポジティブ選択のためのCD4及び/又はCD8と組合わせたネガティブ選択のためのCD127を含むが、これに限定されない(Kearseの文献、 「T細胞プロトコール:発生及び活性化」(T Cell Protocols: Development and Activation), Humana Press, Totowa NJ(2000);De Liberoの文献、「T細胞プロトコール」(T Cell Protocols), Vol. 514、Methods in Molecular Biology, Humana Press, Totowa NJ(2009);Suらの文献、Methods Mol. Biol. 806:287-299(2012);Bluestoneらの文献、Sci. Transl. Med. 7(315)(doi: 10.1126/scitranslmed.aad4134)(2015);Miyaraらの文献、Nat. Rev. Rheumatol. 10:543-551(2014);Liuらの文献、J. Exp. Med. 203:1701-1711(2006);Seddikiらの文献、J. Exp. Med. 203:1693-1700(2006);Ukenaらの文献、Exp. Hematol. 39:1152-1160(2011);Chenらの文献、J. Immunol. 183:4094-4102(2009);Putnamらの文献、Diabetes 58:652-662(2009);Putnamらの文献、Am. J. Tranplant. 13:3010-3020(2013)を参照されたい)。具体的な実施態様において、CD4+CD25+ 調節性T細胞は、たとえばCD4+CD25+ 調節性T細胞単離キット(Dynal brand, Invitrogen, Carlsbad CA)を使用して単離される(Leeらの文献、Cancer Res. 71:2871-2881(2011)を参照されたい)。調節性T細胞(iTregs)のインビトロ生成も、記載されている(たとえば、Lanらの文献、J. Mol. Cell. Biol. 4:22-28(2012);Yamagiwaらの文献、J. Immunol. 166:7282-7289(2001);Zhengらの文献、J. Immunol. 169:4183-4189(2002)を参照されたい)。CARの組換え発現のために使用することができる免疫細胞を単離するための種々の方法は以前に記載されている(Sadelainらの文献、Nat. Rev. Cancer 3:35-45(2003);Morganらの文献、Science 314:126-129(2006);Panelliらの文献、J. Immunol. 164:495-504(2000);Panelliらの文献、.J Immunol. 164:4382-4392(2000);Dupontらの文献、Cancer Res. 65:5417-5427(2005);Papanicolaouらの文献、Blood 102:2498-2505(2003);MacDonaldらの文献、J. Clin. Invest. 126:1413-1424(2016)を参照されたい)。
【0075】
調節性T細胞を単離し拡大するための方法は、当該技術分野において周知である(たとえば、 Suらの文献、Methods Mol. Biol. 806:287-299(2012);Bluestoneらの文献、Sci. Transl. Med. 7(315)(doi: 10.1126/scitranslmed.aad4134)(2015);Miyaraらの文献、Nat. Rev. Rheumatol. 10:543-551(2014);Liuらの文献、J. Exp. Med. 203:1701-1711(2006);Seddikiらの文献、J. Exp. Med. 203:1693-1700(2006);Ukenaらの文献、Exp. Hematol. 39:1152-1160(2011);Chenらの文献、J. Immunol. 183:4094-4102(2009);Putnamらの文献、Diabetes 58:652-662(2009);Putnamらの文献、Am. J. Tranplant. 13:3010-3020(2013);Leeらの文献、Cancer Res. 71:2871-2881(2011);MacDonaldらの文献、J. Clin. Invest. 126:1413-1424(2016)を参照されたい)。調節性T細胞(iTregs)のインビトロ生成も、記載されている(たとえば、Lanらの文献、J. Mol. Cell. Biol. 4:22-28(2012);Yamagiwaらの文献、J. Immunol. 166:7282-7289(2001);Zhengらの文献、J. Immunol. 169:4183-4189(2002)を参照されたい)。一般的に、本発明の調節性T細胞は、CD4+、たとえば、CD4+CD25+、及び特にCD4+CD127lo/-CD25+である。このような調節性T細胞は、Foxp3(フォークヘッドボックスP3)を発現するが、これは、転写因子のフォークヘッド/ウィングドヘリックスファミリーに属する(Bluestoneらの文献、J. Clin. Invest. 125:2250-2260(2015);Rileyらの文献、Immunity 30:656-665(2009))。本発明の免疫阻害性細胞である調節性T細胞は、CD8+調節性T細胞であることもできる(Guillonneauらの文献、Curr. Opin. Organ Transplant. 15:751-756(2010))。調節性T細胞を単離し拡大するための方法は、商業的に利用可能でもある(たとえば、 BD Biosciences, San Jose, CA;STEMCELL Technologies Inc., Vancouver, Canada;eBioscience, San Diego, CA;Invitrogen, Carlsbad, CAを参照されたい)。本発明の免疫阻害性細胞は、濾胞性調節性T細胞(T(FR))であることもできる(Sageらの文献、Nat. Immunol. 14:152-161(2013))。特定の実施態様において、本発明の濾胞性調節性T細胞は、CD4+CXCR5+であり、Foxp3を発現する(Sageらの文献、前出、2013)。
【0076】
いくつかの実施態様において、本発明の免疫阻害性細胞は調節性B細胞である。調節性B細胞は、B細胞においてインターロイキン10(IL10)を産生する独特の能力を有する(たとえば、 Lykkenらの文献、International Immunol. 27:471-477(2015);Miyagakiらの文献、International Immunol. 27:495-504(2015)を参照されたい)。調節性B細胞を単離する方法は、記載されている(たとえば、Massonらの文献、「調節性B細胞:方法及びプロトコール」(Regulatory B Cells: Methods and Protocols)中、Vitale及びMion編、Chapter 4, pp. 45-52, Humana Press, New York(2014)を参照されたい)。このような方法は、CD24highCD38highのような細胞表面マーカーの発現、及びIL10の発現に基づいている(Massonらの文献、前出、2014)。調節性B細胞のための他のマーカーは、CD24hiCD27+を含む(Lykkenらの文献、前出、2015を参照されたい)。
【0077】
細胞の分離のための手順は、密度勾配遠心分離、細胞密度を改変する粒子へのカップリング、抗体でコーティングされた磁性ビーズを用いる磁性分離、アフィニティークロマトグラフィー;補体及びサイトトキシンを含むがそれらに限定されない、モノクローナル抗体(mAb)に接合された又はそれと共に使用される細胞傷害性剤、及び固体マトリックス、たとえばプレート又はチップに付着した抗体を用いるパニング、水簸、フローサイトメトリー、又は他の簡便な技術を含むが、これらに限定されない(たとえば、Recktenwaldらの文献、「細胞分離方法及び応用」(Cell Separation Methods and Applications), Marcel Dekker, Inc., New York(1998)を参照されたい)。本発明の方法において使用される免疫阻害性細胞は、実質的に純粋であることができ、又はポリクローナル集団であることができることは理解される(たとえば、 Bluestoneらの文献、Sci. Transl. Med. 7(315)(doi: 10.1126/scitranslmed.aad4134)(2015)を参照されたい)。いくつかの実施態様において、ポリクローナル集団は、所望の免疫阻害性細胞について富化されていることができる。このような富化は、所望により、DN形態、又はCAR及びDN形態を発現するように細胞を遺伝子組換えする前又は後に、行うことができる。
【0078】
免疫阻害性細胞は、本発明の治療方法においてそれらを投与する対象に対して、自家性又は非自家性であることができる。自家性細胞は、組換えによりDN形態、又はCAR及びDN形態を発現する操作された細胞を投与すべき対象から単離される。場合によっては、この細胞は、白血球除去療法によって得ることができ、ここで、白血球は引き出された血液から選択的に除去され、組換え体にされ、次いで、ドナー中に返血される。代替的に、対象ではない非自家性ドナーからの同種の細胞を使用することができる。非自家性ドナーの場合には、この細胞は、当該技術分野において周知のとおりに、タイプ分類され、ヒト白血球抗原(HLA)についてマッチングされ、適合性の適切なレベルを決定される。自家性及び非自家性の両方の細胞について、この細胞は、当該技術分野において周知の技術を使用して、遺伝子操作及び/又は対象への投与のために使用する準備ができるまで、場合によっては凍結保存することができる。
【0079】
ひとつの実施態様において、本発明は、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原を認識し、それに感作される調節性T細胞であって、また、調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態を組換えにより発現する調節性T細胞を提供する。このような調節性T細胞は、調節性T細胞がその抗原を標的とするようにこの細胞は既に抗原特異的であるため、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合するCARを発現することができるが、発現する必要はない。抗原を認識し、それに感作されるT細胞は、公知の方法によって得ることができ、たとえば、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答に曝露されたことがあり、それを開始している対象から入手される。対象から抗原特異的調節性T細胞を単離する方法は、当該技術分野において周知である(たとえば、 Noyanらの文献、Eur. J. Immunol. 44:2592-2602(2014);Bruskoらの文献、PLoS One 5(7) e11726(doi: 10.1371)(2010);Bacherらの文献、Mucosal Immunol. 7:916-928(2014);Koenenらの文献、J. Immunol. 174:7573-7583(2005)を参照されたい)。抗原特異的調節性T細胞は、免疫阻害性細胞を単離するための上記のとおりの周知の技術を使用して単離することができ、これは、フローサイトメトリー、磁性ビーズ、固相上でのパニングなどを含むが、これらに限定されない。
【0080】
具体的な実施態様において、単離された免疫阻害性細胞は、DN形態及びCARの組換え発現のためにエクスビボで遺伝子組換えされる。具体的な実施態様において、抗原特異的である単離された調節性T細胞は、DN形態の組換え発現のためにエクスビボで遺伝子組換えされる。細胞は、当該技術分野において周知である技術によって、組換え発現のために遺伝子組換えされることができる。感作された調節性T細胞がインビボ供給源から単離される実施態様において、既に感作された調節性T細胞の遺伝子組換えが起こることは自明であろう。
【0081】
免疫阻害性細胞は、免疫阻害性細胞の維持又は拡大に好都合な条件に供することができる(Kearseの文献、「T細胞プロトコール:発生及び活性化」(T Cell Protocols: Development and Activation), Humana Press, Totowa NJ(2000);De Liberoの文献、「T細胞プロトコール」(T Cell Protocols), Vol. 514 of Methods in Molecular Biology, Humana Press, Totowa NJ(2009);Parente-Pereiraらの文献、J. Biol. Methods 1(2) e7(doi 10.14440/jbm.2014.30)(2014);Movassaghらの文献、Hum. Gene Ther. 11:1189-1200(2000);Rettigらの文献、Mol. Ther. 8:29-41(2003);Agarwalらの文献、J. Virol. 72:3720-3728(1998);Pollokらの文献、Hum. Gene Ther. 10:2221-2236(1999);Quinnらの文献、Hum. Gene Ther. 9:1457-1467(1998);Suらの文献、Methods Mol. Biol. 806:287-299(2012);Bluestoneらの文献、Sci. Transl. Med. 7(315)(doi: 10.1126/scitranslmed.aad4134)(2015);Miyaraらの文献、Nat. Rev. Rheumatol. 10:543-551(2014);Liuらの文献、J. Exp. Med. 203:1701-1711(2006);Seddikiらの文献、J. Exp. Med. 203:1693-1700(2006);Ukenaらの文献、Exp. Hematol. 39:1152-1160(2011);Chenらの文献、J. Immunol. 183:4094-4102(2009);Putnamらの文献、Diabetes 58:652-662(2009);Putnamらの文献、Am. J. Tranplant. 13:3010-3020(2013);Leeらの文献、Cancer Res. 71:2871-2881(2011);MacDonaldらの文献、J. Clin. Invest. 126:1413-1424(2016)を参照されたい)。免疫阻害性細胞、又は抗原感作された調節性T細胞は、場合によっては、エクスビボ遺伝子組換えの前又は後に拡大することができる。細胞の拡大は、対象に投与するための細胞の数を増大するために、特に有用である。免疫阻害性細胞の拡大のためのこのような方法は、当該技術分野において周知である(Kaiserらの文献、Cancer Gene Therapy 22:72-78(2015);Wolflらの文献、Nat. Protocols 9:950-966(2014);Suらの文献、Methods Mol. Biol. 806:287-299(2012);Bluestoneらの文献、Sci. Transl. Med. 7(315)(doi: 10.1126/scitranslmed.aad4134)(2015);Miyaraらの文献、Nat. Rev. Rheumatol. 10:543-551(2014);Liuらの文献、J. Exp. Med. 203:1701-1711(2006);Seddikiらの文献、J. Exp. Med. 203:1693-1700(2006);Ukenaらの文献、Exp. Hematol. 39:1152-1160(2011);Chenらの文献、J. Immunol. 183:4094-4102(2009);Putnamらの文献、Diabetes 58:652-662(2009);Putnamらの文献、Am. J. Tranplant. 13:3010-3020(2013);Leeらの文献、Cancer Res. 71:2871-2881(2011)を参照されたい)。さらに、この細胞は、場合によっては、単離及び/又は遺伝子組換え、及び/又は遺伝子組換えされた細胞の拡大の後に、凍結保存することができる(Kaiserらの文献、前出、2015)を参照されたい)。細胞を凍結保存するための方法は、当該技術分野において周知である(たとえば、Freshneyの文献、「動物細胞の培養:基本技術のマニュアル」(Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Techniques)、第4版、Wiley-Liss, New York(2000);Harrison 及び Raeの文献、「細胞培養の一般的技術」(General Techniques of Cell Culture), Cambridge University Press(1997)を参照されたい)。
【0082】
DN形態、又はCAR及びDN形態を組換えにより発現する細胞を生成することに関して、DN形態、又はCAR及びDN形態をコードする1以上の核酸は、好適な発現ベクターを使用して免疫阻害性細胞中に導入する。免疫阻害性細胞(たとえば調節性T細胞又は調節性B細胞)は、好ましくは、DN形態、又はCAR及びDN形態をコードする1以上の核酸を用いて形質導入される。CAR及びDN形態の両方を発現させる場合、CAR及びDN形態をコードする核酸は、所望によって、別個のベクター上、又は同じベクター上にあることができる。たとえば、本発明のCAR又はDN形態をコードするポリヌクレオチドは、レトロウイルスベクターのような好適なベクター中にクローニングし、周知の分子生物学の技術を使用して免疫阻害性細胞中に導入することができる(Ausubelらの文献、「分子生物学の現在のプロトコール」(Current Protocols in Molecular Biology), John Wiley and Sons, Baltimore, MD(1999)を参照されたい)。本発明の細胞、特にヒト免疫阻害性細胞における発現のために好適な、任意のベクターを使用することができる。これらのベクターは、コードされる核酸の発現を免疫阻害性細胞において提供するプロモーターのような好適な発現エレメントを含有する。レトロウイルスベクターの場合には、細胞は、場合によっては、形質導入効率を増大させるために活性化させることができる(Parente-Pereiraらの文献、J. Biol. Methods 1(2) e7(doi 10.14440/jbm.2014.30)(2014);Movassaghらの文献、Hum. Gene Ther. 11:1189-1200(2000);Rettigらの文献、Mol. Ther. 8:29-41(2003);Agarwalらの文献、J. Virol. 72:3720-3728(1998);Pollokらの文献、Hum. Gene Ther. 10:2221-2236(1998);Quinnらの文献、Hum. Gene Ther. 9:1457-1467(1998)を参照されたい)。調節性T細胞においてCARのようなポリペプチドを発現させることに使用する方法は、たとえばLeeらの文献、Cancer Res. 71:2871-2881(2011)に記載されたもののように、当該技術分野において公知の任意のものであることができる。
【0083】
ひとつの実施態様において、ベクターは、レトロウイルスベクター、たとえばガンマレトロウイルス又はレンチウイルスベクターであり、免疫阻害性細胞中へのCAR又はDN形態の導入のために使用される。CAR及び/又はDN形態を発現させるための細胞の遺伝子改変について、レトロウイルスベクターは、形質導入のために一般に使用される。しかし、任意の好適なウイルスベクター又は非ウイルス性送達システムを使用し得ることは理解される。レトロウイルスベクター及び適切なパッケージングラインの組合わせも適しており、ここで、カプシドタンパク質はヒト細胞に感染するために機能的であることになる。種々の広宿主性のウイルス産生細胞株は公知であり、PA12(Millerらの文献、Mol. Cell. Biol. 5:431-437(1985));PA317(Millerらの文献、Mol. Cell. Biol. 6:2895-2902(1986));及びCRIP(Danosらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:6460-6464(1988))が含まれるが、これらに限定されない。非広宿主性の粒子もまた適しており、たとえば、VSVG、RD114、又はGALVエンベロープを用いてシュードタイプ化した粒子及び当該技術分野において公知の他の任意のものがある(Relanderらの文献、Mol. Therap. 11:452-459(2005))。可能な形質導入の方法は、プロデューサー細胞との細胞の直接共培養(たとえば、 Bregniらの文献、Blood 80:1418-1422(1992))、又は適切な成長因子及びポリカチオン有り又は無しでのウイルス上清単独又は濃縮されたベクターストックを用いる培養(たとえば、 Xuらの文献、Exp. Hemat. 22:223-230(1994);Hughesらの文献、 J. Clin. Invest. 89:1817-1824(1992)を参照されたい)をも含む。
【0084】
一般的に、選んだベクターは、高効率の感染、及び安定な組込み及び発現を呈する(たとえば、Cayouetteらの文献、Human Gene Therapy 8:423-430(1997);Kidoらの文献、Current Eye Research 15:833-844(1996);Bloomerらの文献、J. Virol. 71:6641-6649(1997);Naldiniらの文献、Science 272:263 267(1996);及びMiyoshiらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94:10319-10323(1997)を参照されたい)。使用することができる他のウイルスベクターは、たとえば、アデノウイルスの、レンチウイルスの、及びアデノ随伴のウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ウシパピローマウイルス由来ベクター、又はエプスタイン・バーウイルスのようなヘルペスウイルスを含む(たとえば、Millerの文献、 Hum. Gene Ther. 1(1):5-14(1990);Friedmanの文献、Science 244:1275-1281(1989);Eglitisらの文献、BioTechniques 6:608-614(1988);Tolstoshevらの文献、Current Opin. Biotechnol. 1:55-61(1990);Sharpの文献、 Lancet 337:1277-1278(1991);Cornettaらの文献、Prog. Nucleic Acid Res. Mol. Biol. 36:311-322(1989);Anderson, Science 226:401-409(1984);Moenの文献、 Blood Cells 17:407-416(1991);Millerらの文献、Biotechnology 7:980-990(1989);Le Gal La Salleらの文献、Science 259:988-990(1993);及び Johnsonの文献、 Chest 107:77S-83S(1995)を参照されたい)。レトロウイルスベクターは、特によく開発されており、臨床的な場面で使用されている(Rosenbergらの文献、N. Engl. J. Med. 323:370(1990);Andersonらの文献、U.S. Pat. No.米国特許第 5,399,346号)。
【0085】
本発明のCAR及び/又はDN形態を発現するための特に有用なベクターは、ヒト遺伝子療法において使用されてきたベクターを含む。ひとつの非限定的な実施態様において、ベクターは、レトロウイルスベクターである。操作されたCAR T細胞を含め、T細胞又は他の免疫細胞における発現のためのレトロウイルスベクターの使用は、記載されてきた(Schollerらの文献、Sci. Transl. Med. 4:132-153(2012;Parente-Pereiraらの文献、J. Biol. Methods 1(2):e7(1-9)(2014);Lamersらの文献、Blood 117(1):72-82(2011);Reviereらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:6733-6737(1995)を参照されたい)。ひとつの実施態様において、このベクターは、SGF γ-レトロウイルスベクターのような、SGFレトロウイルスベクターであり、これはモロニーマウス白血病ウイルスベースのレトロウイルスベクターである。SGFベクターは、以前に記載されてきた(たとえば、 Wangらの文献、Gene Therapy 15:1454-1459(2008)を参照されたい)。
【0086】
本発明のベクターは、特定の宿主細胞における発現のために好適なプロモーターを使用する。プロモーターは、誘導性のプロモーター、又は構成的プロモーターであることができる。特定の実施態様において、発現ベクターのプロモーターは、調節性T細胞又は調節性B細胞のような免疫阻害性細胞において発現を提供する。非ウイルスベクターも、そのベクターが免疫阻害性細胞における発現のための好適な発現エレメントを含む限り、同様に使用することができる。レトロウイルスベクターのようないくつかのベクターは、宿主ゲノム中に組み込まれることができる。所望の場合、標的組込みは、ヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALENs)、Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFNs)、及び/又はクラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPRs)などのような技術を使用して相同組換えなどにより履行することができる(Gersbachらの文献、Nucl. Acids Res. 39:7868-7878(2011);Vasilevaらの文献、 Cell Death Dis. 6:e1831.(Jul 23 2015);Sontheimer, Hum. Gene Ther. 26(7):413-424(2015))。
【0087】
ベクター及び構築物は、場合によっては、レポーターを含むように設計することができる。たとえば、ベクターは、宿主染色体に組込まれている核酸のような、ベクター又はベクター上に提供される核酸を含む細胞を同定するために有用であることができる、レポータータンパク質を発現するように設計することができる。ひとつの実施態様において、レポーターは、CAR又はDN形態を有するバイシストロン性又は多シストロン性の発現構築物として発現させることができる。例示的なレポータータンパク質は、mCherry、緑色蛍光タンパク質(GFP)、青色蛍光タンパク質、たとえばEBFP、EBFP2、Azurite、及びmKalama1、シアン蛍光タンパク質、たとえば、ECFP、Cerulean、及びCyPet、及び黄色蛍光タンパク質、たとえば、YFP、Citrine、Venus、及びYPet、のような蛍光タンパク質を含むが、これらに限定されない。さらなる実施態様において、ベクター構築物は、レポーター分子の随意の共発現を提供するP2A配列を含むことができる。P2Aは、タンパク質配列のバイシストロン性又は多シストロン性発現のために使用することができる自己切断性ペプチド配列である(Szymczakらの文献、Expert Opin. Biol. Therapy 5(5):627-638(2005)を参照されたい)。
【0088】
アッセイは、ルーチンの分子生物学技術を使用してCAR及び/又はDN形態の形質導入効率を決定するために使用することができる。蛍光タンパク質のようなマーカーが構築物に含有されている場合、遺伝子導入効率は、形質導入された(たとえば、GFP+)調節性T細胞又は調節性B細胞のような免疫阻害性細胞の画分を定量するためのFACS分析によって、及び/又は定量的PCRによって、モニタリングすることができる。
【0089】
所望の場合、DN形態又はCARのような、本発明の細胞の遺伝子組換えのためのポリペプチドをコードする核酸は、免疫阻害性細胞における発現の効率を増大するためにコドン最適化することができる。コドン最適化は、所定の細胞におけるより高いレベルの発現を達成するために使用することができる。タンパク質発現の異なるステージに関与する因子は、コドン適応性、mRNA構造、及び転写及び翻訳における種々のシスエレメントを含む。当業者に公知の任意の好適なコドン最適化方法又は技術を、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを改変するために使用することができる。このようなコドン最適化方法は周知であり、商業的なコドン最適化サービス、たとえば、OptimumGene(商標)(GenScript;Piscataway, NJ)、Encor 最適化(EnCor Biotechnology;Gainseville FL)、Blue Heron(Blue Heron Biotech;Bothell, WA)などを含む。場合によっては、複数のコドン最適化を、異なるアルゴリズムに基づいて実施することができ、最適化の結果は、ポリペプチドをコードするコドン最適化された核酸を生成するためにブレンドされる。
【0090】
さらなる改変を、本発明の免疫阻害性細胞に導入することができる。たとえば、細胞は、免疫学的合併症及び/又はCARによる同じ標的抗原を発現する非標的組織の標的化に取り組むために改変することができる。たとえば、自殺遺伝子を細胞に導入し、所望の場合に細胞の枯渇を提供することができる。好適な自殺遺伝子は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(hsv-tk)、誘導性カスパーゼ9自殺遺伝子(iCasp-9)、及び切断型ヒト上皮成長因子レセプター(EGFRt)ポリペプチドを含むが、これらに限定されない。細胞死をプロモートするために、自殺遺伝子を含む細胞が投与されている対象に薬剤が投与され、これらは、hsv-tkのためのガンシロビル(gancilovir)(GCV)(Grecoらの文献、Frontiers Pharmacol,6:95(2015);Bareseらの文献、Mol. Therapy 20:1932-1943(2012))、iCasp-9のためのAP1903(Di Stasiらの文献、N. Engl. J. Med. 365:1673-1683(2011)、及びEGFRtのためのセツキシマブ(米国特許第8,802,374号)を含むがそれらに限定されない。ひとつの実施態様において、自殺遺伝子を活性化するために設計されたプロドラッグ、たとえば、iCasp-9を活性化することができるAP1903のようなプロドラッグの投与は、自殺遺伝子が活性化された細胞においてアポトーシスのトリガーとなる。ひとつの実施態様において、iCasp9は、F36V突然変異を有するヒトFK506結合タンパク質(FKBP12;GenBank番号、AH002818(AH002818.1, M92422.1, GI:182645;AH002818.2, GI:1036032368))が、Ser-Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号28)リンカーを通じて、ヒトカスパーゼ9(CASP9;GenBank番号, NM001229(NM_001229.4, GI:493798577))をコードする遺伝子であって、その内在性カスパーゼ活性化及び動員ドメインを欠失させてあるものに接続されている配列からなる。FKBP12-F36Vは、その他の点では生体不活性の低分子二量体化剤であるAP1903に、高アフィニティで結合する。AP1903の存在下において、iCasp9プロ分子は二量体化して内因性アポトーシス経路を活性化し、細胞死をもたらす(Di Stasiらの文献、N. Engl. J. Med. 365:1673-1683(2011))。別の実施態様において、自殺遺伝子は、EGFRtポリペプチドである。EGFRtポリペプチドは、抗EGFRモノクローナル抗体、たとえばセツキシマブを投与することにより、細胞排除を提供することができる。自殺遺伝子は、別個のベクター上で発現でき、又は場合によっては、CAR又はDN形態をコードするベクター内で発現でき、CAR又はDN形態をコードする核酸に接合されたバイシストロン性又は多シストロン性構築物であることができる。
【0091】
6.2 キメラ抗原レセプター(CARs)
本発明の細胞によって組換えにより発現されるCARは、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合する抗原結合ドメインを有する。具体的な実施態様において、CARは、「第一世代」、「第二世代」、又は「第三世代」CARであることができる(たとえば、Sadelainらの文献、Cancer Discov. 3(4):388-398(2013);Jensenらの文献、Immunol. Rev. 257:127-133(2014);Sharpeらの文献、Dis. Model Mech. 8(4):337-350(2015);Brentjensらの文献、Clin. Cancer Res. 13:5426-5435(2007);Gadeらの文献、Cancer Res. 65:9080-9088(2005);Maherらの文献、Nat. Biotechnol. 20:70-75(2002);Kershawらの文献、J. Immunol. 173:2143-2150(2004);Sadelainらの文献、Curr. Opin. Immunol. 21(2):215-223(2009);Hollymanらの文献、J. Immunother. 32:169-180(2009)を参照されたい)。
【0092】
「第一世代」CARsは、典型的には、細胞外抗原結合ドメイン、たとえば、単鎖可変フラグメント(scFv)が、T細胞レセプター鎖の細胞質/細胞内ドメインに融合されている膜貫通ドメインに融合されているものから構成される。「第一世代」CARsは、典型的には、内在性T細胞レセプター(TCRs)からのシグナルの一次伝達物質であるCD3ζ鎖からの細胞内ドメインを有する(図1Aの例示的な第一世代CARを参照されたい)。「第一世代」CARsは、デノボ抗原認識を提供し、単一融合分子のCD3ζ鎖シグナリングドメインを通じて、HLA媒介性抗原提示とは独立に、T細胞の活性化を引き起こすことができる。本発明における使用のための「第二世代」CARsは、免疫阻害性細胞を活性化する能力を有する細胞内シグナリングドメインに融合された抗原結合ドメイン、及びT細胞のような免疫細胞、強度及び持続性を高めるように設計された共刺激性ドメインを含む(Sadelainらの文献、Cancer Discov. 3:388-398(2013))。CAR設計は、したがって、2つの別個の複合体、TCRヘテロ二量体及びCD3複合体が生理学的に担っている2つの機能である、抗原認識とシグナル伝達とを組合わせることができる。「第二世代」CARsは、たとえばCD28、4-1BB、ICOS、OX40などの、種々の共刺激性分子からの細胞内ドメインを、CARの細胞質テールに含有しており、付加的なシグナルを細胞に提供する(図1Aの例示的な第二世代CARを参照されたい)。「第二世代」CARsは、たとえばCD28又は4-1BBドメインによる、共刺激と、たとえばCD3ζシグナリングドメインによる、活性化との両方を提供する。「第三世代」CARsは、たとえばCD28及び4-1BBドメインの両方を含むことによる、複数の共刺激と、たとえばCD3ζ活性化ドメインを含むことによる、活性化とを提供する。
【0093】
本明細書で開示される実施態様において、CARsは、一般に、上記のとおりの、細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを含み、ここで、この細胞外抗原結合ドメインは、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合する。特定の非限定的な実施態様において、細胞外抗原結合ドメインはscFvである。
【0094】
本明細書において開示されるように、本発明の方法は、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態(「DN形態」)を発現するように、又は阻害剤のDN形態と免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合するCARとを共発現するように操作されている細胞を投与することを包含する。CARの細胞外抗原結合ドメインは、通常、モノクローナル抗体(mAb)から、又はレセプター又はそれらのリガンドから由来する。
【0095】
CARsの設計は当該技術分野で周知である(たとえば、Sadelainらによる総説、Cancer Discov. 3(4):388-398(2013);Jensenらの文献、Immunol. Rev. 257:127-133(2014);Sharpeらの文献、Dis. Model Mech. 8(4):337-350(2015)、及びそれらに引用されている参考文献を参照されたい)。所望の抗原に向けられたCARは、本明細書において記載されているものを含め、CARを設計するための周知の方法を使用して生成することができる。CARは、第一、第二、又は第三世代のいずれのCARであろうと、抗原結合活性、たとえばその抗原に向けられたscFv抗体を、T細胞レセプター細胞質/細胞内ドメインのような免疫細胞シグナリングドメインに融合させることによって容易に設計することができる。上記で記載されているように、CARは、一般に、免疫阻害性細胞において細胞シグナリング活性を有する細胞内ドメインに融合されている膜貫通ドメインに融合された細胞外ドメインの少なくとも一部として、scFvのような抗原結合活性を有する細胞表面レセプターの構造を有する。CARは、本明細書において記載されているように、共刺激性分子を含むことができる。当業者は、本発明の免疫阻害性細胞において所望のシグナリング能を提供するために、本明細書において記載されているような、及び当該技術分野で公知の、適切な膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを容易に選択することができる。
【0096】
本発明における使用のためのCARは、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合する抗原結合ドメインを含有する細胞外ドメインを含む。このような抗原結合ドメインは、一般に、抗体から由来する。ひとつの実施態様において、抗原結合ドメインは、scFv又はFab、あるいは抗体の任意の好適な抗原結合フラグメントであることができる(Sadelainらの文献、Cancer Discov. 3:388-398(2013)を参照されたい)。所望の抗原に結合する抗体又は抗体から由来する抗原結合ドメインの多くは、当該技術分野において公知である。代替的に、このような抗体又は抗原結合ドメインは、ルーチンの方法によって製造することができる。抗体を生成する方法は、当該技術分野において公知であり、モノクローナル抗体の製造方法、又はヒトFabライブラリーのスクリーニングを含む抗原結合ポリペプチドを得るためのライブラリーのスクリーニングを含む(Winter及びHarrisの文献, Immunol. Today 14:243-246(1993);Wardらの文献、Nature 341:544-546(1989);Harlow及びLaneの文献、「抗体:実験室マニュアル」(Antibodies: A Laboratory Manual), Cold Spring Harbor Laboratory Press(1988);Hilyardらの文献、「タンパク質工学:実際的アプローチ」(Protein Engineering: A practical approach)(IRL Press 1992);Borrabeckの文献、「抗体工学」(Antibody Engineering)、第2版(Oxford University Press 1995);Huseらの文献、Science 246:1275-1281(1989))。CARについて、抗体から由来する抗原結合ドメインは、所望により、ヒト、ヒト化、キメラ、CDR移植などであることができる。たとえば、マウスモノクローナル抗体がCARの抗原結合ドメインを生成するための供給源抗体である場合、このような抗体は、ヒトフレームワーク上にマウス抗体のCDRsを移植することによってヒト化することができ(Borrabeckの文献、前出、1995を参照されたい)、これは、このCARをヒト対象に投与するために有益であり得る。好ましい実施態様において、抗原結合ドメインはscFvである。scFvsの生成は、当該技術分野において周知である(たとえば、Huston,らの文献、Proc. Nat. Acad. Sci. USA 85:5879-5883(1988);Ahmadらの文献、Clin. Dev. Immunol. 2012: ID980250(2012);米国特許第5,091,513号、第5,132,405号及び第4,956,778号;及び米国特許公開第20050196754号及び第20050196754号を参照されたい)。
【0097】
抗原結合活性を得ることに関して、当業者は、本明細書において開示されるように、CARにおいて特に有用である、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合するscFvの生成を含む、所望の抗原に結合する抗体を生成しそれについてスクリーニングする任意の周知の方法を使用して、抗体のような好適な抗原結合活性を容易に得ることができる。それに加えて、多数の抗体、特に表1に列挙される標的抗原に向けられたモノクローナル抗体は、商業的に入手可能であり、CARを生成するために、scFvのような抗原結合活性の供給源として使用することもできる。
【0098】
抗体から由来する抗原結合ドメインを使用する代わりに、CAR細胞外ドメインは、レセプターのリガンド又は細胞外リガンド結合ドメインを含むことができる(Sadelainらの文献、Cancer Discov. 3:388-398(2013);Sharpeらの文献、Dis. Model Mech. 8:337-350(2015)を参照されたい)。この場合、レセプターのリガンド又は細胞外リガンド結合ドメインは、CARに、相当するレセプター又はリガンドに対してCARを発現する細胞を標的化する能力を提供する。このリガンド又は細胞外リガンド結合ドメインは、CARを発現する細胞が、標的組織のような所望の作用部位に標的化されるように選択される(Sadelainらの文献、Cancer Discov. 3:388-398(2013);Sharpeらの文献、Dis. Model Mech. 8:337-350(2015)、及びそれらに引用されている参考文献を参照されたい)。本発明の実施態様において、リガンド又は細胞外リガンド結合ドメインは、相当するレセプター又はリガンドである抗原に結合するように選択される(Sadelainらの文献、Cancer Discov. 3:388-398(2013)を参照されたい)。
【0099】
抗原に向けられたCARについて、CARの抗原結合ドメインは、標的細胞で発現される抗原に、又は免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の部位で、結合するように選択される。このような抗原は、標的細胞上に特有に発現されることができ、又は抗原は、非標的細胞又は組織に対して標的細胞において過剰発現されていることができる。CARによって結合されるべき標的抗原は、非標的細胞又は組織よりもCARを発現する細胞の標的化を提供するように選択される。障害を治療するための本発明の方法のひとつの実施態様において、免疫阻害性細胞は、本明細書において記載されているように、好適な抗原に結合して患者内の所望の部位を標的化するCARを、DN形態とともに、細胞において発現することによって患者を治療するように設計される。
【0100】
任意の好適な標的抗原を、治療すべき障害のタイプに基づいて選ぶことができる。選択された標的抗原は、その抗原がCARによる結合のために接近可能であるように発現されることが理解される。一般的に、CARを発現する細胞によって標的化されるべき抗原は、標的細胞の細胞表面上で発現されるか、又は免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の部位で細胞溶解のために利用可能になる細胞内抗原である。CARへの結合について接近可能である任意の標的抗原は、CARを発現する細胞を、標的細胞又は標的部位に標的化するために好適であることは理解される。免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である例示的な抗原、及び例示的な障害は、以下の表1において与えられる。
表1. 免疫介在性障害、及び免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原
【表1】
1. Angaswamyらの文献、Hum. Immunol., 74(11): 1478-1485(2013)
2. Kuoらの文献、Immunol. Res., 32(1-3): 179-185(2005)
3. Bluestoneらの文献、J. Clin. Invest., 125(6): 2250-2260(2015)
4. Dalakasの文献、Ther. Adv. Neurol. Disord., 8(6): 316-327(2015)
5. Gomez-Tourinoらの文献、J. Autoimmun.,(Sep 3. pii: S0896-8411(15)30030-5. doi: 10.1016/j.jaut.2015.08.012): 1-10(2015)
6. Husebyらの文献、Front. Cell. Neurosci., 9(295): 1-7(2015)
7. Webbらの文献、J. Autoimmun., 64: 42-52(2015)
8. Odegardらの文献、Clin. Immunol., 161(1): 44-50(2015)
9. MacLeodらの文献、Curr. Opin. Pharmacol., 23: 11-16(2015)
10. Dwivediらの文献、Autimmun. Rev. 14:49-56(2015)
11. Wuらの文献、Acta Pharmacologica Sinica 36:1395-1407(2015)
【0101】
好適な抗原は、表1に記載されているもの又は当該技術分野において公知のものを含むが、これらに限定されない(表1の参考文献1-11及び、たとえば、Snirらの文献、Arthritis Rheum. 63:2873-2883(2011);Yamagiwaらの文献、World J. Gastroenterol. 20:2606-2612(2014);Malloneらの文献、Clin. Develop. Immunol. 2011:513210(doi: 10.1155/2011/513210)(2011);Pihokerらの文献、Diabetes 54:Suppl 2:S52-61(2005)を参照されたい)。免疫介在性障害に関連する病的免疫応答を標的とするこれらの又は他の抗原は、CARを用いて抗原を標的化するために利用することができることは理解される。
【0102】
上記で記載されているように、CARは、そのCARを発現する免疫阻害性細胞において機能するシグナリングドメインをも含有する。このようなシグナリングドメインは、たとえばCDζ又はFcレセプターγから由来する(Sadelainらの文献、Cancer Discov. 3:388-398(2013)を参照されたい)。一般に、シグナリングドメインは、形質導入された本発明の免疫阻害性細胞において持続性、輸送、及び/又はエフェクター機能を誘導することになる(Sharpeらの文献、Dis. Model Mech. 8:337-350(2015);Finneyらの文献、J. Immunol. 161:2791-2797(1998);Krauseらの文献、J. Exp. Med. 188:619-626(1998))。CDζ又はFcレセプターγの場合、シグナリングドメインは、それぞれのポリペプチドの細胞内ドメイン、又はシグナリングに十分である細胞内ドメインのフラグメントに相当する。例示的なシグナリングドメインは、以下においてさらに詳細に記載される。
【0103】
例示的なポリペプチドは、本明細書においてGenBank番号、GI番号及び/又は配列番号を参照して記載される。当業者は、GenBank(ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)及びEMBL(embl.org/)を含むがそれらに限定されない配列供給源を参照することにより、相同配列を容易に同定することができることは理解される。
【0104】
CD3ζ。非限定的な実施態様において、CARは、CD3ζポリペプチドから由来するシグナリングドメイン、たとえば、CD3ζの細胞内ドメインから由来するシグナリングドメインを含むことができ、これは本発明の免疫阻害性細胞を活性化又は刺激することができる。CD3ζは、3つの免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAMs)を含み、抗原が結合した後、細胞、たとえばT細胞のようなリンパ様系統の細胞に、活性化シグナルを伝達する。CD3ζポリペプチドは、GenBank番号NP_932170を有する配列に相当するアミノ酸配列(NP_932170.1, GI:37595565;下記を参照されたい)、又はそのフラグメントを有することができる。ひとつの実施態様において、CD3ζポリペプチドは、以下に与えられるCD3ζポリペプチド配列のアミノ酸52~164のアミノ酸配列、又はシグナリング活性に十分であるそのフラグメントを有する。例示的なCARはMzであり、これは以下に与えられるCD3ζポリペプチド配列のアミノ酸52~164を含むCD3ζポリペプチドを含む細胞内ドメインを有する。別の例示的なCARはM28zであり、これは以下に与えられるCD3ζポリペプチドのアミノ酸52~164を含むCD3ζポリペプチドを含む細胞内ドメインを有する。なおかつ別の例示的なCARはMBBzであり、これは以下に与えられるCD3ζポリペプチドのアミノ酸52~164を含むCD3ζポリペプチドを含む細胞内ドメインを有する。さらに別の例示的なCARはP28zであり、これはCD3ζポリペプチドから由来する細胞内ドメインを有する。CD3ζ内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~21;細胞外ドメイン、アミノ酸22~30;膜貫通ドメイン、アミノ酸31~51;細胞内ドメイン、アミノ酸52~164の参照については、GenBank NP_932170を参照されたい。
【化2】
【0105】
「CD3ζ核酸分子」は、CD3ζポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。ひとつの実施態様において、例示的なCARsであるMz、M28z、又はMBBzを含め、CARの細胞内ドメインに含まれるCD3ζポリペプチドをコードするCD3ζ核酸分子は、以下に規定するとおりのヌクレオチド配列を含む。
【化3】
【0106】
ある種の非限定的な実施態様において、CARの細胞内ドメインは、少なくとも1つの共刺激性シグナリングドメインをさらに含むことができる。このような共刺激性シグナリングドメインは、免疫阻害性細胞の増大した活性化を提供することができる。共刺激性シグナリングドメインは、CD28ポリペプチド、4-1BBポリペプチド、OX40ポリペプチド、ICOSポリペプチド、DAP10ポリペプチド、2B4ポリペプチドなどから由来することができる。4-1BB、ICOS又はDAP-10を含む共刺激性シグナリング領域を含む細胞内ドメインを含むCARsは、以前に記載されている(米国第7,446,190号を参照されたい、これは参照により本明細書に取り込まれ、また、4-1BB、ICOS及びDAP-10についての代表的な配列も記載する)。いくつかの実施態様において、CARの細胞内ドメインは、本明細書において開示されるように、CD28及び4-1BB(Sadelainらの文献、Cancer Discov. 3(4):388-398(2013)を参照されたい)、又はCD28及びOX40、又は共刺激性リガンドの他の組合わせのような、2つの共刺激性分子を含む共刺激性シグナリング領域を含むことができる。
【0107】
CD28。表面抗原分類28(CD28)は、T細胞活性化及び生存のための共刺激性シグナルを提供するT細胞上で発現されるタンパク質である。CD28は、CD80(B7.1)及びCD86(B7.2)タンパク質のレセプターである。ひとつの実施態様において、CARは、CD28から由来する共刺激性シグナリングドメインを含むことができる。たとえば、本明細書において開示されるように、CARは、CD28の細胞内/細胞質ドメイン、たとえば共刺激性シグナリングドメインとして機能することができる細胞内/細胞質ドメインの少なくとも一部分を含むことができる(図1Bを参照されたい)。CD28ポリペプチドは、以下に提供されるとおりの、GenBank番号P10747(P10747.1, GI:115973)又はNP_006130(NP_006130.1, GI:5453611)を有する配列に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。所望の場合、細胞内ドメインに加えたCD28配列を、本発明のCARに含ませることができる。たとえば、CARは、CD28ポリペプチドの膜貫通を含むことができる。ひとつの実施態様において、CARは、CD28のアミノ酸180~220に相当するCD28の細胞内ドメインを含むアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。別の実施態様において、CARは、アミノ酸153~179に相当するCD28の膜貫通ドメインを含むアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。M28zは、例示的なCARであり、CD28の細胞内ドメインに相当する共刺激性シグナリングドメインを含む(図1Bを参照されたい)。M28zは、CD28から由来する膜貫通ドメインをも含む(図1Bを参照されたい)。かくして、M28zは、CD28からの2つのドメインである、共刺激性シグナリングドメイン及び膜貫通ドメインを含むCARを例示する。ひとつの実施態様において、CARは、CD28の膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを含むアミノ酸配列を有し、CD28のアミノ酸153~220を含む。別の実施態様において、CARは、M28z CARによって例示され、CD28のアミノ酸117~220を含む。CD28の膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインを有する別の例示的なCARは、P28zである(図1Bを参照されたい)。ひとつの実施態様において、CARは、以下に与えられるCD28ポリペプチドのアミノ酸153~179を含むCD28ポリペプチドから由来する膜貫通ドメインを含むことができる。CD28内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~18;細胞外ドメイン、アミノ酸19~152;膜貫通ドメイン、アミノ酸153~179;細胞内ドメイン、アミノ酸180~220の参照については、GenBank NP_006130を参照されたい。具体的な描写されたドメインより短い又は長いCD28の配列は、所望の場合、CARに含まれることができることは理解される。
【化4】
【0108】
「CD28核酸分子」は、CD28ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。ひとつの実施態様において、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメイン、たとえば共刺激性シグナリング領域を含むM28zのCD28ポリペプチドをコードするCD28核酸分子は、以下に規定するとおりのヌクレオチド配列を含む。
【化5】
【0109】
4-1BB。4-1BBは、腫瘍壊死因子レセプタースーパーファミリーメンバー9とも呼ばれ、腫瘍壊死因子(TNF)リガンドとして作用し、刺激活性を有することができる。ひとつの実施態様において、CARは、4-1BBから由来する共刺激性シグナリングドメインを含むことができる。4-1BBポリペプチドは、GenBank番号P41273(P41273.1, GI:728739)又はNP_001552(NP_001552.2, GI:5730095)を有する配列に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。ひとつの実施態様において、CARは、アミノ酸214~255に相当する4-1BBの細胞内ドメインを含む共刺激性ドメイン、又はそのフラグメントを有することができる。別の実施態様において、CARは、アミノ酸187~213に相当する4-1BBの膜貫通ドメイン、又はそのフラグメントを有することができる。例示的なCARはMBBzであり、これは4-1BBポリペプチドを含む細胞内ドメインを有する(たとえば、NP_001552のアミノ酸214~255、配列番号5)(図1Bを参照されたい)。4-1BB内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~17;細胞外ドメイン、アミノ酸18~186;膜貫通ドメイン、アミノ酸187~213;細胞内ドメイン、アミノ酸214~255の参照については、GenBank NP_001552を参照されたい。具体的な描写されたドメインより短い又は長い4-1BBの配列は、所望の場合、CARに含まれることができることは理解される。また、「4-1BB核酸分子」は4-1BBポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化6】
【0110】
OX40。OX40は、腫瘍壊死因子レセプタースーパーファミリーメンバー4前駆体、又はCD134とも呼ばれ、レセプターのTNFR-スーパーファミリーのメンバーである。ひとつの実施態様において、CARは、OX40から由来する共刺激性シグナリングドメインを含むことができる。OX40ポリペプチドは、以下に与えられる、GenBank番号P43489(P43489.1, GI:1171933)又はNP_003318(NP_003318.1, GI:4507579)を有する配列に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。ひとつの実施態様において、CARは、アミノ酸236~277に相当するOX40の細胞内ドメインを含む共刺激性ドメイン、又はそのフラグメントを有することができる。別の実施態様において、CARは、OX40のアミノ酸215~235に相当するOX40の膜貫通ドメインを含むアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。OX40内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~28;細胞外ドメイン、アミノ酸29~214;膜貫通ドメイン、アミノ酸215~235;細胞内ドメイン、アミノ酸236~277の参照については、GenBank NP_003318を参照されたい。具体的な描写されたドメインよりも短い又は長いOX40の配列は、所望の場合、CARに含まれることができることは理解される。また、「OX40核酸分子」はOX40ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化7】
【0111】
ICOS。誘導性T細胞共刺激分子前駆体(ICOS)は、CD278とも呼ばれ、活性化T細胞上で発現されるCD28スーパーファミリー共刺激性分子である。ひとつの実施態様において、CARは、ICOSから由来する共刺激性シグナリングドメインを含むことができる。ICOSポリペプチドは、以下に与えられるGenBank番号NP_036224(NP_036224.1, GI:15029518)を有する配列に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。ひとつの実施態様において、CARは、ICOSのアミノ酸162~199に相当するICOSの細胞内ドメインを含む共刺激性ドメインを有することができる。別の実施態様において、CARは、ICOSのアミノ酸141~161に相当するICOSの膜貫通ドメインを含むアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。ICOS内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~20;細胞外ドメイン、アミノ酸21~140;膜貫通ドメイン、アミノ酸141~161;細胞内ドメイン、アミノ酸162~199の参照については、GenBank NP_036224を参照されたい。具体的な描写されたドメインよりも短い又は長いICOSの配列は、所望の場合、CARに含まれることができることは理解される。また、「ICOS核酸分子」はICOSポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化8】
【0112】
DAP10。DAP10は、造血細胞シグナルトランスデューサーとも呼ばれ、造血細胞におけるレセプターの大きいファミリーに関連するシグナリングサブユニットである。ひとつの実施態様において、CAR は、DAP10から由来する共刺激性ドメインを含むことができる。DAP10ポリペプチドは、以下に与えられるGenBank番号NP_055081.1(GI:15826850)を有する配列に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。ひとつの実施態様において、CARは、アミノ酸70~93に相当するDAP10の細胞内ドメインを含む共刺激性ドメイン、又はそのフラグメントを有することができる。別の実施態様において、CARは、アミノ酸49~69に相当するDAP10の膜貫通ドメイン、又はそのフラグメントを有することができる。DAP10内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~19;細胞外ドメイン、アミノ酸20~48;膜貫通ドメイン、アミノ酸49~69;細胞内ドメイン、アミノ酸70~93の参照については、GenBank NP_055081.1を参照されたい。具体的な描写されたドメインよりも短い又は長いDAP10の配列は、所望の場合、CARに含まれることができることは理解される。また、「DAP10核酸分子」はDAP10ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化9】
【0113】
CARの細胞外ドメインは、新生タンパク質を小胞体内に向かわせ、その後の細胞表面への転位置を指示するリーダー又はシグナルペプチドに融合されていることができる。シグナルペプチドを含有するポリペプチドがいったん細胞表面で発現されると、シグナルペプチドは、一般的に小胞体におけるポリペプチドのプロセシング及び細胞表面への転位置の間にタンパク分解的に除去されることは理解される。かくして、CARのようなポリペプチドは、一般的に、シグナルペプチドを欠いた成熟タンパク質として細胞表面で発現され、一方、そのポリペプチドの前駆体形態は、シグナルペプチドを含有する。シグナルペプチド又はリーダーは、CARがグリコシル化される及び/又は細胞膜に係留されるべきである場合、必須でありうる。シグナル配列又はリーダーは、一般的に新たに合成されたタンパク質のN末端に存在し、それが分泌経路へ進入することを指示するペプチド配列である。シグナルペプチドは、融合タンパク質としてCARの細胞外抗原結合ドメインのN末端に共有結合的に接合される。ひとつの実施態様において、シグナルペプチドは、アミノ酸
【化10】
を含むCD8ポリペプチドを含む。CD8シグナルペプチドの使用は、例示的であることは理解される。当該技術分野において周知であるとおりの、任意の好適なシグナルペプチドを、免疫阻害性細胞における細胞表面発現を提供するために、CARに適用することができる(Gieraschの文献、 Biochem. 28:923-930(1989);von Heijneの文献、 J. Mol. Biol. 184(1):99-105(1985)を参照されたい)。特に有用なシグナルペプチドは、免疫阻害性細胞において天然に発現されている細胞表面タンパク質から由来することができ、本明細書において開示されるポリペプチドの任意のシグナルペプチドを含む。かくして、任意の好適なシグナルペプチドを、CARが免疫阻害性細胞の細胞表面で発現されるように指示するために利用することができる。
【0114】
ある種の非限定的な実施態様において、CARの細胞外抗原結合ドメインは、細胞外抗原結合ドメインの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を接続するリンカー配列又はペプチドリンカーを含むことができる。ひとつの非限定的な例において、リンカーは、
【化11】
に規定される配列を有するアミノ酸を含むことができる。
【0115】
ある種の非限定的な実施態様において、CARは、CARのドメインを互いに連結するスペーサー領域又は配列をも含むことができる。たとえば、スペーサーは、シグナルペプチド及び抗原結合ドメインの間、抗原結合ドメイン及び膜貫通ドメインの間、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインの間、及び/又は細胞内ドメイン内のドメイン間に、たとえば、刺激性ドメイン及び共刺激性ドメインの間に、含有させることができる。スペーサー領域は、他のポリペプチドとの種々のドメインの相互作用を可能にするように、たとえば、抗原認識を容易にするために抗原結合ドメインが方向性について柔軟性を有することを可能にするように、十分に柔軟であることができる。スペーサー領域は、IgGからのヒンジ領域、免疫グロブリンのCH2CH3(定常)領域、及び/又はCD3(表面抗原分類3)の部分、又はスペーサーとして好適な何らかの他の配列であることができる。
【0116】
CARの膜貫通ドメインは、一般的に、膜の少なくとも一部分にわたる疎水性αヘリックスを含む。異なる膜貫通ドメインは、異なるレセプター安定性をもたらす。抗原認識後、レセプターはクラスター化し、シグナルが細胞に伝達される。ある実施態様において、CARの膜貫通ドメインは、免疫阻害性細胞において天然に発現される別のポリペプチドから由来することができる。ひとつの実施態様において、CARは、CD8、CD28、CD3ζ、CD4、4-1BB、OX40、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、2B4、BTLA、又は本明細書において開示されるような他のものを含む、膜貫通ドメインを有する免疫阻害性細胞において発現される他のポリペプチドから由来する、膜貫通ドメインを有することができる。場合によっては、膜貫通ドメインは、その膜貫通ドメインが、CARに結合した抗原からのシグナルを細胞内シグナリング及び/又は共刺激性ドメインへ伝達することにおいて機能することができる限りにおいて、免疫阻害性細胞において天然に発現されないポリペプチドから由来することができる。ポリペプチドの膜貫通ドメインを含むポリペプチドの部分が、そのポリペプチドからの付加的な配列、たとえば、膜貫通ドメインのN末端又はC末端に隣接する付加的な配列、又はそのポリペプチドの他の領域を所望により含むことができることは理解される。
【0117】
CD8。表面抗原分類8(CD8)は、T細胞レセプター(TCR)についての共レセプターとして役立つ膜貫通糖タンパク質である。CD8は、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合し、クラスI MHCタンパク質に特異的である。ひとつの実施態様において、CARは、CD8から由来する膜貫通ドメインを含むことができる。CD8ポリペプチドは、以下に提供されるとおりのGenBank番号NP_001139345.1(GI:225007536)を有する配列に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。ひとつの実施態様において、CARは、アミノ酸183~203に相当するCD8の膜貫通ドメインを含むアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。ひとつの実施態様において、例示的なCARはMzであり、これは、CD8ポリペプチドから由来する膜貫通ドメインを有する(図1Bを参照されたい)。別の実施態様において、例示的なCARはMBBzであり、これは、CD8ポリペプチドに由来する膜貫通ドメインを有する(図1Bを参照されたい)。ひとつの非限定的な実施態様において、CARは、アミノ酸183~203を含むCD8ポリペプチドから由来する膜貫通ドメインを含むことができる。それに加えて、CARは、以下に与えられるCD8ポリペプチドのアミノ酸137~182を含むヒンジドメインを含むことができる。別の実施態様において、CARは、以下に与えられるCD8ポリペプチドのアミノ酸137~203を含むことができる。さらに別の実施態様において、CARは、以下に与えられるCD8ポリペプチドのアミノ酸137~209を含むことができる。CD8内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~21;細胞外ドメイン、アミノ酸22~182;膜貫通ドメインアミノ酸、183~203;細胞内ドメイン、アミノ酸204~235の参照については、GenBank NP_001139345.1を参照されたい。アミノ酸183~203の膜貫通ドメインを超えたCD8の付加的な配列は、所望の場合、CARに含まれることができることは、理解される。さらに、具体的な描写されたドメインより短い又は長いCD8の配列は、所望の場合、CARに含まれることができることは理解される。また、「CD8核酸分子」はCD8ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化12】
【0118】
CD4。表面抗原分類4(CD4)は、T細胞表面糖タンパク質CD4とも呼ばれ、Tヘルパー細胞、単球、マクロファージ、及び樹状細胞のような免疫細胞の表面上に見出される糖タンパク質である。ひとつの実施態様において、CARは、CD4から由来する膜貫通ドメインを含むことができる。CD4は、種々のアイソフォームで存在する。所望の機能を達成するために、任意のアイソフォームを選択することができることは理解される。例示的なアイソフォームは、アイソフォーム1(NP_000607.1, GI:10835167)、アイソフォーム2(NP_001181943.1, GI:303522479)、アイソフォーム3(NP_001181944.1, GI:303522485;又はNP_001181945.1, GI:303522491;又はNP_001181946.1, GI:303522569)などを含む。ひとつの例示的なアイソフォーム配列であるアイソフォーム1は、以下に与えられる。ひとつの実施態様において、CARは、アミノ酸397~418に相当するCD4の膜貫通ドメインを含むアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。CD4内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~25;細胞外ドメイン、アミノ酸26~396;膜貫通ドメインアミノ酸、397~418;細胞内ドメイン、アミノ酸419~458の参照については、GenBank NP_000607.1を参照されたい。所望の場合、アミノ酸397~418の膜貫通ドメインを超えたCD4の付加的な配列がCARに含まれることができることは理解される。さらに、具体的な描写されたドメインより短い又は長いCD4の配列は、所望の場合、CARに含まれることができることは理解される。また、「CD4核酸分子」はCD4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化13】
【0119】
本明細書において開示されるように、メソセリンCARsは、抗原を標的化することができるCARsを例示し、及び他の抗原に向けられたCARsは、同様の方法及び当該技術分野において周知の他のものを使用して、上記のとおりに、生成することができる。本明細書において記載されたポリペプチドのドメインは、シグナルペプチド、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内シグナリングドメイン及び/又は共刺激性ドメインのような所望の機能を提供するために有用であるので、CARにおいて使用することができることは理解される。たとえば、シグナルペプチド、膜貫通ドメイン、細胞内シグナリングドメイン、又は他のドメインのようなドメインは、本発明のCARに特定の機能を提供するために、所望により選択することができる。可能な望ましい機能は、シグナルペプチド及び/又は膜貫通ドメインを提供することを含むが、これらに限定されない。
【0120】
6.3. 細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態
本発明によれば、免疫阻害性細胞は、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態(DN形態)を発現するように操作される。PD-1活性化は調節性T細胞のサプレッサー機能を阻害することが示されている(Amaranthらの文献、Sci. Transl. Med. 3(111)(111ra120. doi: 10.1126/scitranslmed.3003130)(2011))。PD-1又は本明細書において開示される別の阻害剤のような、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態は、本明細書において開示されるように、抗原特異的又は非特異的免疫阻害性応答を強化するために、調節性T細胞又は他の免疫阻害性細胞のような免疫阻害性細胞に形質導入することができる。PD-1のような細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態を用いて形質導入された細胞は、本明細書において記載されているように、多数の免疫介在性障害を有する患者に有益となり得る増強された免疫抑制効果を有することができる。このような免疫介在性障害は、本明細書において記載されており、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ又は他の形態の関節炎を含む関節炎、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、及びアルツハイマー病を含むが、これらに限定されない。細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態を発現する本発明の免疫阻害性細胞は、容易に診療所に移行することができる。特定のメカニズム又は説に縛られることなく、本発明の免疫阻害性細胞は、免疫介在性障害を有する患者に、毒性を加えずに投与することができるが、これは、このDN形態は阻害剤分子に相当するリガンド(たとえば、PD-1の場合のPD-L1)によって誘導されるネガティブシグナルに単に結合(消費)し、下流のシグナリングを回避するためである。
【0121】
免疫阻害性細胞の細胞媒介性免疫応答の阻害剤は、免疫阻害性細胞によって成し遂げられる免疫応答を阻害又は抑制するように作用する分子を指す。ひとつの実施態様において、細胞媒介性免疫応答の阻害剤は、免疫チェックポイント阻害剤であり、チェックポイント遮断とも呼ばれる。
【0122】
ひとつの実施態様において、本発明は、CAR、及び免疫阻害性細胞の細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態、たとえば、免疫チェックポイント阻害剤経路において機能するレセプター、を共発現する免疫阻害性細胞を提供する。免疫チェックポイント経路は、免疫阻害性細胞の免疫応答を抑制する阻害性経路である。この経路は、負のシグナルを免疫阻害性細胞に送達し、TCR媒介性シグナルを弱めて、低減した細胞増殖、サイトカイン産生及び細胞周期進行をもたらす(Pardoll, Nat. Rev. 12:252-264(2012);Wuらの文献、Int. J. Biol. Sci. 8:1420-1430(2012)を参照されたい)。免疫チェックポイント阻害剤経路は、一般にリガンド-レセプター対を包含する。例示的な免疫チェックポイント阻害剤経路レセプターは、たとえば、PD-1、CTLA-4、BTLA、TIM-3、LAG-3、CD160、TIGIT、LAIR1、2B4などを含む(Chenらの文献、Nat. Rev. Immunol. 13(4):227-242(2013)を参照されたい)。これらのレセプターに相当するリガンドは、たとえば、PD-L1(PD-1について);PD-L2(PD-1について);CD80、CD86(CTLA-4について);HVEM(BTLAについて);ガレクチン-9、HMGB1(TIM-3について);MHC II(LAG-3について);HVEM(CD160について);CD155、CD112、CD113(TIGITについて);C1q、コラーゲン(LAIR1について);CD48(2B4について)、などを含む(Chenらの文献、前出、2013)。免疫阻害性細胞におけるDN形態の発現は、細胞に対して内因性であるチェックポイント阻害剤経路の阻害を提供する。
【0123】
免疫チェックポイント阻害剤経路レセプターのような細胞表面レセプターである、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態は、細胞内シグナリングを防止するためのレセプターのいくらかの部分を欠失させることによって生成することができ、それによって、免疫チェックポイント経路を抑制し、免疫阻害性細胞の活性化を持続させる。具体的な実施態様において、本発明のDN形態は、(a)免疫チェックポイント阻害剤の細胞外ドメインの少なくとも一部分、ここで、この部分はリガンド結合領域を含む、及び(b)膜貫通ドメイン、ここで、このポリペプチドはこの免疫チェックポイント阻害剤のドミナントネガティブ形態である、を含むポリペプチドである。一般的に、免疫チェックポイント阻害剤経路レセプターの阻害剤のDN形態は、細胞外ドメインがそのそれぞれのリガンドに結合するための十分なタンパク質相互作用活性を保持するように、レセプターの細胞外ドメインのほとんど又はすべてを保持する。かくして、具体的な実施態様において、DN形態をコードするポリペプチドは、免疫チェックポイント阻害剤の細胞外ドメインの実質的にすべてを含む。細胞外ドメインの「実質的にすべて」を含むポリペプチドは、細胞外ドメイン全体、又は、細胞外ドメインの残りの部分がそのそれぞれのリガンドに結合するための十分なタンパク質相互作用活性を保持する限りにおいて、その細胞外ドメインのN末端及び/又はC末端から1~数個のアミノ酸が欠失している、たとえばN末端及び/又はC末端からの1、2、3、4、又は5アミノ酸の欠失がある、細胞外ドメインの部分、を含むポリペプチドを含むことは理解される。本発明のDN形態は、一般的に、DN形態が低減された活性を有する、又は免疫チェックポイント経路におけるシグナリングについて不活性であるように、細胞内/細胞質ドメインのようなシグナリングドメインのいくらかの部分又はすべてをも欠いている。特定のメカニズム又は説に縛られることなく、DN形態へのリガンドの結合は、インタクトな内在性レセプターへのリガンドの結合、及び/又は内在性レセプターを含むシグナリング分子とのDN形態複合体を低減し、免疫チェックポイント経路の低減されたシグナリングをもたらす。
【0124】
本発明のDN形態は、一般的に、免疫阻害性細胞の細胞表面で発現される能力、そのそれぞれのリガンドに結合する能力、及び免疫チェックポイント経路の細胞内シグナルを伝播する低減された能力又は不能を含むが、これらに限定されない、ある種の機能的特徴を有する。当業者は、このような機能的特徴を有するように阻害剤を操作することによって、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態を、容易に生成することができる。ひとつの実施態様において、DN形態は、細胞媒介性免疫応答の阻害剤の細胞外ドメイン、又はリガンド結合活性を保持するのに少なくとも十分な細胞外ドメインの部分を保持するように構築される。例示的な実施態様において、DN形態は、本明細書において開示されるように、PD-1、CTLA-4、BTLA、TIM-3、LAG-3、CD160、TIGIT、LAIR1、2B4の細胞外ドメインを含むが、これらに限定されない、細胞媒介性免疫応答の阻害剤の細胞外ドメインを使用して構築することができる。当業者は、細胞媒介性免疫応答の阻害剤の細胞外ドメイン全体を保持することは必要ではないこと、及びリガンド結合活性が保持される限りにおいて細胞外ドメインのN末端及び/又はC末端からの欠失を導入し得ることを、容易に理解するであろう。当業者は、リガンド結合活性を提供することが公知のタンパク質モチーフを同定するためのレセプター配列の分析に基づいて、このようなN末端及び/又はC末端欠失の妥当性を容易に決定することができる(たとえば、ExPASy(expasy.org)、特にPROSITE(prosite.expasy.org)を参照されたい)。それに加えて又はその代わりに、好適なN末端及び/又はC末端欠失は、ポリペプチドに欠失を導入し、それぞれのリガンドについての結合活性を測定することにより、経験的に決定することができる。かくして、当業者は、本発明のDN形態へリガンド結合活性を提供するための細胞媒介性免疫応答の阻害剤の適切な配列を容易に決定することができる。
【0125】
DN形態において、レセプターの細胞外ドメイン全体又は細胞外ドメインの一部分が使用されるか否かにかかわらず、付加的な配列をDN形態の細胞外ドメインに場合により含有することができることは理解される。このような付加的な配列は、DN形態の親ポリペプチドから由来することができ、又は、付加的な配列は、異なるポリペプチドから由来することができる。親ポリペプチド及び異なるポリペプチドからの配列を含むこのようなポリペプチドは、非天然の、キメラポリペプチドである。たとえば、シグナルペプチド又はリーダーペプチドは、DN形態が免疫阻害性細胞の細胞表面で発現されることになるように、一般的に含有される。シグナルペプチドを含有するポリペプチドがいったん細胞表面で発現されると、このシグナルペプチドは一般的に小胞体におけるポリペプチドのプロセッシング及び細胞表面への転位置の間にタンパク分解的に除去されることは理解される。かくして、DN形態のようなポリペプチドは、一般的に細胞表面でシグナルペプチドを欠いた成熟タンパク質として発現され、一方、そのポリペプチドの前駆体形態はシグナルペプチドを含有する。このシグナルペプチドは、レセプターの天然シグナルペプチドであることができ、あるいは代替的に、異なるタンパク質から由来することができる。例示的なシグナルペプチドは、本明細書において記載されており、CARについて好適であるとして本明細書において記載されているものを含む。細胞表面で発現を付加的に提供するために、このDN形態は、一般的に、細胞表面でのDN形態の保持を提供する膜貫通ドメインを含有するであろう。膜貫通ドメインは、レセプターの天然膜貫通であることができ、あるいは代替的に、異なるタンパク質から由来することができる。特定の実施態様において、別のタンパク質から由来する膜貫通ドメインは、免疫阻害性細胞の細胞表面上で発現される別のレセプターから由来する。例示的な膜貫通ドメインは、本明細書において記載されており、CARについて好適であるとして本明細書において記載されているものを含む。
【0126】
免疫チェックポイント経路レセプターの場合において、一般的に、シグナリングドメインは、細胞内/細胞質ドメイン内に存する。免疫チェックポイント経路レセプターのシグナリング活性は、一般的に、細胞表面レセプター及び/又は細胞内シグナリング分子とのタンパク質-タンパク質相互作用によって媒介される。ひとつの実施態様において、DN形態は、免疫チェックポイント経路のシグナルを伝播することにおいて機能する、細胞内ドメイン全体、又はその部分を欠いている。DN形態からのシグナリングを阻害又は低減するために細胞内シグナリングドメインの十分な部分が欠失している限りにおいて、レセプターの細胞内ドメイン全体を欠失させることは必要ではないことは理解される。それに加えて又はその代わりに、突然変異を、DN形態からのシグナリングを阻害又は低減するために細胞内シグナリングドメイン中に導入することができる。それに加えて又はその代わりに、シグナリング活性を有さない異種性配列を、レセプターの細胞内シグナリングドメインと置き換えてDN形態を生成することができる。当業者は、本発明のDN形態を生成するために、これらの及び他の周知の方法を利用することができることを容易に理解するであろう。
【0127】
免疫チェックポイント阻害剤のドミナントネガティブ形態のひとつの例示的な実施態様は、PD-1のドミナントネガティブ形態である。PD-1のドミナントネガティブ形態は、免疫チェックポイント阻害剤を含め、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態の例示的なものである。本明細書において開示されるように、PD-1 DN形態は、例示的なものであることは理解される。
【0128】
本明細書において記載されるように、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態は、低減された又は阻害された細胞内シグナリングを有するように設計される。本発明のDN形態は、一般的に免疫チェックポイント経路のレセプターを阻害することに基づいており、これは、免疫阻害性細胞の活性化、たとえば、細胞増殖、サイトカイン産生及び/又は細胞周期進行、特に本発明の免疫阻害性細胞の免疫抑制機能、を阻害するように機能する。本発明のDN形態は、レセプターのシグナリング能力が低減される又は阻害されるように、細胞内シグナリングドメイン又はその部分を除去するように設計される。このDN形態は、内在性レセプターのシグナリングを阻害するためにも機能する。特定の実施態様において、低減された又は阻害されたシグナリングは、チェックポイント遮断を克服し、持続的なシグナリング及び免疫阻害性細胞の活性化をもたらす。DN形態のシグナリング活性は、完全にノックアウトされることができ、又は、活性の部分的な低減がDN形態の不存在と比較して増強された免疫阻害性細胞の活性化を提供する効果について十分である限りにおいて部分的にノックアウトされることができることは理解される。また、DN形態は、内在性レセプターからのシグナリングの完全な不活性化をもたらす必要はないが、チェックポイント遮断を克服するのに十分な内在性レセプターの活性化を低減することができ、免疫阻害性細胞の活性化を可能にする。当業者は、動物モデルのようなインビボモデルを使用するアッセイを含む当該技術分野で周知のアッセイ法を使用して、親レセプターの活性に対するDN形態の効果を容易に決定し、CAR発現細胞の有効性に対するDN形態の効果を評価することができる。
【0129】
本発明における使用についてのCARに関して、特に、異種性配列を融合する場合、随意のリンカー又はスペーサー配列、たとえば、シグナルペプチド及び細胞外リガンド結合ドメイン間のリンカー又はスペーサーを、DN形態に含有させることができる。リンカー又はスペーサーは、場合によっては細胞外リガンド結合ドメイン及び膜貫通ドメイン間にも含有させることができる。同様に、リンカー又はスペーサーは、場合によっては膜貫通ドメイン及び任意の残りの細胞内ドメイン間に含有させることができる。このような随意のリンカー又はスペーサーは、本明細書において記載される。それに加えて、このようなリンカー又はスペーサーは、異種性配列から由来することができる。たとえば、上記のとおりの、異種性ポリペプチドから由来する膜貫通ドメインは、場合によっては異種性ポリペプチドから由来するN末端及び/又はC末端の付加的配列を含有させることができる。このような付加的な配列は、リンカー又はスペーサーとして機能することができる。
【0130】
ひとつの実施態様において、本発明のドミナントネガティブ形態は、場合によっては、共刺激性シグナリングドメインへの融合をさらに含むことができ、ここで、この共刺激性シグナリングドメインは、ドミナントネガティブ形態の膜貫通ドメインに対してカルボキシ末端側である。このようなDN形態は、本明細書において「スイッチレセプター」とも呼ばれる。このようなDN形態、又はスイッチレセプターは、少なくとも、免疫チェックポイント阻害剤のような細胞の細胞媒介性免疫応答の阻害剤の細胞外領域のリガンド結合ドメインを含み、それが膜貫通ドメインに融合され、それが免疫刺激性分子の共刺激性ドメイン(すなわち、細胞質/シグナリングドメイン)に融合されており、それによって、リガンド結合に際してその活性を、細胞免疫活性の阻害性から、細胞免疫活性の刺激性へ切り換える(たとえば、Liuらの文献、Cancer Res. 76:1578-1590(2016)を参照されたい)。共刺激性ドメインへの融合をさらに含むDN形態(すなわち、スイッチレセプター)は、免疫チェックポイント阻害剤のシグナリングドメインが欠失しているので、このような構築物においてドミナントネガティブ形態としても機能する。ひとつの実施態様において、共刺激性シグナリングドメインへの融合をさらに含むDN形態は、免疫阻害性細胞において発現される。別の実施態様において、共刺激性シグナリングドメインへの融合をさらに含むDN形態は、免疫阻害性細胞においてCARと共に共発現される。
【0131】
DN形態融合ポリペプチドにおける共刺激性シグナリングドメインは、たとえば、CARにおける使用について本明細書において記載されている共刺激性分子のようなレセプターの細胞質/シグナリングドメインから由来することができ、これらは4-1BBポリペプチド、CD28ポリペプチド、OX40ポリペプチド、ICOSポリペプチド、DAP10ポリペプチド、及び2B4ポリペプチドを含むが、それらに限定されない。共刺激性シグナリングドメインへの融合を含むDN形態において、膜貫通ドメインは、共刺激性ドメインが由来した元のポリペプチドから、DN形態の細胞外リガンド結合ドメインが由来した元のポリペプチドから、由来することができ、又は、それは、CAR又はDN形態を生成するために利用することができる膜貫通ドメインの本明細書における記載と同様に、別のポリペプチドからの膜貫通ドメインであることができる。
【0132】
ひとつの実施態様において、本発明は、DN形態を組換えにより発現する免疫阻害性細胞であって、このDN形態は、共刺激性シグナリングドメインへの融合をさらに含み、この共刺激性シグナリングドメインは、このDN形態の膜貫通ドメインに対してカルボキシ末端側に融合されている、細胞を提供する。本発明のある種の実施態様において、本発明の細胞又は集団は、細胞の細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現し、ここで、このドミナントネガティブ形態は、共刺激性シグナリングドメインをさらに含み、ここで、この共刺激性シグナリングドメインは、ドミナントネガティブ形態の膜貫通ドメインに融合されている(それは、次にドミナントネガティブ形態のリガンド結合領域を含有する免疫チェックポイント阻害剤の細胞外ドメインの少なくとも部分に融合されている)。このような細胞は、本明細書において開示されるように、免疫介在性障害を治療するために使用することができる。本発明は、免疫阻害性細胞によるスイッチレセプター(すなわち、共刺激性シグナリングドメインをさらに含むDN形態)の組換え発現を提供し、このスイッチレセプターは、(i)免疫チェックポイント阻害剤の少なくとも細胞外リガンド結合ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン、及び(iii)共刺激性シグナリングドメインを含む。本発明は、免疫阻害性細胞による、CAR、及び共刺激性シグナリングドメインへの融合をさらに含むDN形態(スイッチレセプター)の組換え発現をも提供し、これは、(i)免疫チェックポイント阻害剤の少なくとも細胞外リガンド結合ドメイン、(ii)膜貫通ドメイン、及び(iii)共刺激性シグナリングドメインを含む。このようなCARと共刺激性シグナリングドメインへの融合をさらに含むDN形態(スイッチレセプター)とを共発現する免疫阻害性細胞において、CARは、治療されるものと同じ疾患又は障害の抗原に結合することは理解される。CAR及び共刺激性シグナリングドメインへの融合を含むDN形態を共発現する細胞のひとつの実施態様において、DN形態の共刺激性シグナリングドメインは、CARの共刺激性シグナリングドメインとは異なる。特定の実施態様において、DN形態の共刺激性シグナリングドメインは、4-1BBの細胞内シグナリングドメインである。別の特定の実施態様において、CAR及び共刺激性シグナリングドメインへの融合をさらに含むDN形態を共発現する免疫阻害性細胞において、CARの共刺激性シグナリングドメインは、CD28の細胞内シグナリングドメインである。別の特定の実施態様において、本発明は、CAR及び共刺激性シグナリングドメインへの融合をさらに含むDN形態及びCARを共発現する免疫阻害性細胞であって、このDN形態の共刺激性シグナリングドメインは、4-1BBの細胞内シグナリングドメインであり、かつ、このCARの共刺激性シグナリングドメインは、CD28の細胞内シグナリングドメインである、細胞を提供する。
【0133】
免疫チェックポイント阻害剤の例示的なDN形態は、以下においてより詳細に記載される。本質的に記載された配列からなるDN形態もまた、想起することができる。
【0134】
PD-1。プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)は、その相当するリガンド、PD-L1及びPD-L2との会合に際し、内在性マクロファージ及び樹状細胞上に発現される、活性化T細胞のネガティブ免疫レギュレーターである。PD-lは、268アミノ酸のI型膜タンパク質である。PD-1は、2つのリガンド、PD-L1及びPD-L2を有し、これらはB7ファミリーのメンバーである。このタンパク質の構造は、細胞外IgVドメインと、それに続く膜貫通領域及び細胞内テールを含む。この細胞内デールは、免疫レセプターチロシンベースの阻害性モチーフ及び免疫レセプターチロシンべースのスイッチモチーフに位置する2つのリン酸化部位を含有する。PD-1は、TCRシグナルを負に調節する。SHP-1及びSHP-2ホスファターゼは、リガンド結合に際し、PD-1の細胞質テールに結合する。PD-L1のアップレギュレーションは、腫瘍細胞が宿主免疫系を逃れるために使用するひとつのメカニズムである。前臨床及び臨床治験において、アンタゴニスト性抗体によるPD-1遮断は、宿主内在性免疫系を通じて媒介される抗腫瘍応答を誘導した。
【0135】
PD-1ポリペプチドは、以下に提供されるとおりの、GenBank番号NP_005009.2(GI:167857792)に相当するアミノ酸、又はそのフラグメントを有することができる。PD-1内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~20;細胞外ドメイン、アミノ酸21~170;膜貫通ドメイン、アミノ酸171~191;細胞内ドメイン、アミノ酸192~288の参照については、GenBank NP_005009.2を参照されたい。「PD-1核酸分子」は、PD-1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化14】
【0136】
ひとつの実施態様において、本発明は、PD-1ドミナントネガティブ形態(DN形態)である細胞媒介性免疫応答の阻害剤を提供する。ひとつの実施態様において、PD-1 DN形態は、PD-1の細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、PD-1 DN形態は、PD-1の細胞外リガンド結合ドメイン及び膜貫通ドメインを含む(たとえば、成熟形態)。別の実施態様において、PD-1 DN形態は、PD-1の細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば、前駆体形態)。本発明は、本発明のPD-1 DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、PD-1細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されている、つまり、PD-1 DN形態はキメラ配列である。たとえば、PD-1細胞外リガンド結合ドメインは、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドであるシグナルペプチドに、そのN末端で融合されることができる。それに加えて、PD-1 DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、場合によっては異種性膜貫通ドメインである、膜貫通ドメインを含むことができる。本明細書において実施例に例示されているPD-1 DN形態は、PD-1の細胞外ドメインに融合された異種性配列を含むが、PD-1 DN形態はPD-1配列のみを含むことができることは理解される。
【0137】
ひとつの実施態様において、本発明は、PD-1の細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、PD-1の細胞外ドメインに相当するアミノ酸21~170(GenBank NP_005009.2;配列番号13)を含むPD-1 DN形態を提供する。このようなPD-1 DN形態を発現する細胞は、PD-1免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減した能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、PD-1 DN形態は、PD-1によって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、細胞内ドメイン、たとえば、PD-1のアミノ酸192~288(GenBank NP_005009.2;配列番号13)、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である。PD-1のDN形態のさらなる実施態様は、以下に記載される。
【0138】
ひとつの実施態様において、PD-1 DN形態は、CD8の膜貫通ドメイン及びヒンジドメインに融合されたPD-1の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列を含む。ひとつの実施態様において、PD-1 DN形態は、PD-1配列(NP_005009.2;配列番号13)のアミノ酸21~165を含む。このようなPD-1 DN形態は、PD-1の細胞外ドメインを含む。別の実施態様において、本発明は、PD-1配列(NP_005009.2;配列番号13)のアミノ酸1~165(前駆体形態)又はアミノ酸21~165(成熟形態)を含むPD-1 DN形態を提供する。このようなDN形態は、PD-1のシグナルペプチド、アミノ酸1~20、及び細胞外ドメイン、アミノ酸21~165を含み、一方、その成熟形態はシグナルペプチドを欠いている。ひとつの実施態様において、PD-1 DN形態は、PD-1配列(NP_005009.2;配列番号13)のアミノ酸21~151を含む。別の実施態様において、本発明は、PD-1配列(NP_005009.2;配列番号13)のアミノ酸1~151(前駆体形態)又はアミノ酸21~151(成熟形態)を含むPD-1 DN形態を提供する。場合によっては、PD-1 DN形態は、PD-1配列(NP_005009.2;配列番号13)のアミノ酸21から始まってアミノ酸151~165の間のあるアミノ酸までの細胞外リガンド結合ドメインを含む。別の実施態様において、PD-1 DN形態は、CD8の膜貫通ドメイン、CD8配列(NP_001139345.1;配列番号11)のアミノ酸183~203を含む。このような実施態様は、異なる(異種性)ポリペプチドからの膜貫通ドメインを含むキメラDN形態の代表的なものである。上記で記載されているように、膜貫通ドメインのような異種性ドメインを含むDN形態は、場合によってはその異種性ポリペプチドからの付加的な配列を含有することができる。ひとつのこのような実施態様において、膜貫通ドメインの異種性ポリペプチドN末端からの付加的な配列を含むDN形態が提供される。ひとつの実施態様において、このDN形態は、CD8のヒンジドメインを含む。特定の実施態様において、この異種性配列は、CD8配列(NP_001139345.1;配列番号11)の、アミノ酸137~182、又は場合によってはアミノ酸138又は139から始まる、付加的なN末端配列を含む。別の実施態様において、膜貫通ドメインの異種性ポリペプチドC末端からの付加的な配列を含むDN形態が提供される。特定の実施態様において、この異種性配列は、CD8配列(NP_001139345.1;配列番号11)のアミノ酸204~209からの付加的なC末端配列を含む。ひとつの実施態様において、PD-1 DN形態は、CD8の膜貫通ドメイン、アミノ酸183~203、場合によってはアミノ酸137~182(又は場合によってはアミノ酸138又は139から始まる)を含むヒンジドメイン、及び/又はアミノ酸204~209を含む付加的なC末端配列を含む。本発明の特定の実施態様において、PD-1配列(NP_005009.2;配列番号13)のアミノ酸1~165、及びCD8配列(NP_001139345.1;配列番号11)の、場合によってはアミノ酸138又は139から始まる、アミノ酸137~209を含むPD-1 DN形態が提供される。
【0139】
さらなる特定の実施態様において、本発明は、以下に与えられる配列を含むPD-1 DN形態を提供し、ここで、下線を付した配列はPD-1から由来し、イタリック体の配列はCD8から由来する。
【化15】
【0140】
追加的な実施態様において、本発明のDN形態は、場合によってはP2A配列を含み、これはレポーター分子の随意の共発現を提供する。P2Aは、自己切断性ペプチド配列であり、これはタンパク質配列のバイシストロン性又は多シストロン性発現のために使用することができる(Szymczakらの文献、Expert Opin. Biol. Therapy 5(5):627-638(2005)を参照されたい)。例示的なP2A配列は、
【化16】
である。さらなる実施態様において、本発明のDN形態は、レポータータンパク質と共に共発現される。特定の実施態様において、このレポータータンパク質は、mCherry蛍光タンパク質である。特定の実施態様において、このmCherryポリペプチド配列は、以下に提供されるとおりのものである。mCherryは単に例示的なものであり、本明細書において記載されているように、蛍光タンパク質のような任意の所望のレポーター分子をレポーターとして含有することができることは理解される。
【化17】
【0141】
さらなる特定の実施態様において、PD-1 DN形態は、以下に提供されるとおりのポリペプチド構築物として発現され、ここで、下線を付した配列はPD-1から由来し、イタリック体の配列はCD8から由来し、P2A配列は二重下線を付し、及びmCherry配列は下線を付したイタリック体である。
【化18】
【0142】
特定の実施態様において、PD-1 DNR形態構築物をコードする核酸は以下に与えられ、ここで、下線を付した配列はPD-1 DNから由来するアミノ酸をコードし、イタリック体の配列はCD8から由来するアミノ酸をコードし、P2Aをコードする配列は二重下線を付し、mCherryをコードする配列は下線を付したイタリック体であり、Kozak配列は破線の下線を付した太字であり、及び制限部位Age I及びXho Iはそれぞれ5´及び3´末端に点線で下線を付している。
【化19】
【0143】
CTLA-4。細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)は、活性化T細胞によって発現される阻害性レセプターであり、これは、その相当するリガンド(CD80及びCD86;それぞれB7-l及びB7-2)によって会合した場合、活性化T細胞阻害又はアネルギーを媒介する。前臨床及び臨床の両方の研究において、全身的抗体注入によるCTLA-4遮断は、臨床的な場面において有意の未知の毒性を有するものの、内在性抗腫瘍応答を増強した。CTLA-4は、細胞外Vドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞質テールを含有する。異なるアイソフォームをコードする選択的スプライシングバリアントが特徴付けされている。膜結合アイソフォームは、ジスルフィド結合によって相互接続されたホモ二量体として機能し、一方、可溶性アイソフォームは、単量体として機能する。細胞内ドメインは、内因性触媒活性を有さないこと、及びPI3K、PP2A及びSHP-2に結合することができる1個の
【化20】
モチーフと、SH3含有タンパク質に結合することができる1個のプロリンリッチモチーフとを含有することにおいて、CD28のそれと同様である。T細胞応答を阻害することにおけるCTLA-4のひとつの役割は、直接的にSHP-2及びPP2Aを介した、CD3及びLATのようなTCR近位シグナリングタンパク質の脱リン酸化であるように見える。CTLA-4は、CD80/86結合についてCD28と競合することを介して間接的にシグナリングに影響することができる。CTLA-4は、PI3K、CD80、AP2M1、及びPPP2R5Aと結合及び/又は相互作用することも示されている。
【0144】
CTLA-4ポリペプチドは、以下に提供される配列、GenBank番号AAH69566.1(GI:46854814)又はNP_005205.2(GI:21361212)に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。CTLA-4内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~35;細胞外ドメイン、アミノ酸36~161;膜貫通ドメイン、アミノ酸162~182;細胞内ドメイン、アミノ酸183~223の参照については、GenBank NP_005205.2を参照されたい。「CTLA-4核酸分子」はCTLA-4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化21】
【0145】
ひとつの実施態様において、本発明は、CTLA-4 DN形態を提供する。ひとつの実施態様において、CTLA-4 DN形態は、CTLA-4の細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、CTLA-4 DN形態は、CTLA-4の細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば、成熟形態)。別の実施態様において、CTLA-4 DN形態は、CTLA-4細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば前駆体形態)。本発明は、本発明のCTLA-4 DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、CTLA-4細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、CTLA-4 DN形態はキメラである。たとえば、CTLA-4細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、CTLA-4 DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、場合によっては異種性膜貫通ドメインである、膜貫通ドメインを含むことができる。
【0146】
本発明の実施態様において、CTLA-4 DN形態は、CTLA-4の細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、CTLA-4の細胞外ドメインに相当するアミノ酸36~161(GenBank NP_005205.2;配列番号19)を含むことができる。このようなCTLA-4 DN形態を発現する細胞は、CTLA-4免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減した能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、CTLA-4 DN形態は、CTLA-4によって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、細胞内ドメイン、たとえば、CTLA-4(GenBank NP_005205.2;配列番号19)のアミノ酸183~223、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である。
【0147】
BTLA。B及びTリンパ球アテニュエーター(BTLA)発現は、T細胞の活性化の間に誘導され、BTLAは、Th2細胞ではなくTh1細胞で発現され続ける。BTLAは、B7ホモログ、B7H4と相互作用する。BTLAは、細胞表面レセプターのB7ファミリーばかりでなく、腫瘍壊死ファミリーレセプター(TNF-R)との相互作用を介して、T細胞阻害を呈する。BTLAは、ヘルペスウイルスエントリーメディエーター(HVEM)としても知られる腫瘍壊死因子(レセプター)スーパーファミリー、メンバー14(TNFRSF14)のためのリガンドである。BTLA-HVEM複合体は、T細胞免疫応答を負に調節する。BTLA活性化は、ヒトCD8+がん特異的T細胞の機能を阻害することが示されている。BTLAは、CD272(表面抗原分類272)とも名付けられている。
【0148】
BTLAポリペプチドは、以下に提供される配列、GenBank番号AAP44003.1(GI:31880027)又はNP_861445.3(GI:145580621)のホモログに相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。BTLA内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~30;細胞外ドメイン、アミノ酸31~157;膜貫通ドメイン、アミノ酸158~178;細胞内ドメイン、アミノ酸179~289の参照については、GenBank NP_861445.3を参照されたい。「BTLA核酸分子」は、BTLAポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化22】
【0149】
ひとつの実施態様において、本発明は、BTLA DN形態を提供する。ひとつの実施態様において、BTLA DN形態は、BTLAの細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、BTLA DN形態は、BTLAの細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば成熟形態)。別の実施態様において、BTLA DN形態は、BTLAの細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば前駆体形態)。本発明は、本発明のBTLA DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、BTLA細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、BTLA DN形態はキメラである。たとえば、BTLA細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、BTLA DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、場合によっては異種性膜貫通ドメインである、膜貫通ドメインを含むことができる。
【0150】
本発明の実施態様において、BTLA DN形態は、BTLAの細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、BTLA(GenBank NP_861445.3;配列番号20)の細胞外ドメインに相当するアミノ酸31~157を含むことができる。このようなBTLA DN形態を発現する細胞は、BTLA免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減した能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、BTLA DN形態は、BTLAによって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、細胞内ドメイン、たとえば、BTLA(GenBank NP_861445.3;配列番号20)のアミノ酸179~289、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である。
【0151】
TIM-3。T細胞免疫グロブリンムチン3(TIM-3)は、A型肝炎ウイルス細胞レセプター2前駆体とも呼ばれ、マクロファージ活性化を調節するTh1特異的細胞表面タンパク質である。Tim-3は、当初、IFN-γ産生CD4+Tヘルパー1(Th1)及びCD8+T細胞傷害性1(Tc1)T細胞上で選択的に発現される分子として同定された。TIM-3は、VタイプのN末端Igドメインと、それに続くムチンドメインを所有する。
【0152】
TIM-3ポリペプチドは、以下に提供される配列、GenBank番号NP_116171.3(GI:49574534)に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。TIM-3内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~21;細胞外ドメイン、アミノ酸22~202;膜貫通ドメイン、アミノ酸203~223;細胞内ドメイン、アミノ酸224~301の参照については、GenBank NP_116171.3を参照されたい。「TIM-3核酸分子」はTIM-3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化23】
【0153】
ひとつの実施態様において、本発明は、TIM-3 DN形態を提供する。ひとつの実施態様において、TIM-3 DN形態は、TIM-3の細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、TIM-3 DN形態は、TIM-3の細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば成熟形態)。別の実施態様において、TIM-3 DN形態は、TIM-3の細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば前駆体形態)。本発明は、本発明のTIM-3 DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、TIM-3細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、TIM-3 DN形態はキメラである。たとえば、TIM-3細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、TIM-3 DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、場合によっては異種性膜貫通ドメインである、膜貫通ドメインを含むことができる。
【0154】
本発明の実施態様において、TIM-3 DN形態は、TIM-3の細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、TIM-3(GenBank NP_116171.3;配列番号21)の細胞外ドメインに相当するアミノ酸22~202を含むことができる。このようなTIM-3 DN形態を発現する細胞は、TIM-3免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減した能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、TIM-3 DN形態は、TIM-3によって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、細胞内ドメイン、たとえば、TIM-3(GenBank NP_116171.3;配列番号21)のアミノ酸224~301、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である。
【0155】
LAG-3。リンパ球活性化タンパク質3(LAG-3)は、免疫細胞のネガティブ免疫レギュレーターである。LAG-3は、免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーに属し、4つの細胞外Ig様ドメインを含有する。LAG3遺伝子は8つのエクソンを含有する。配列データ、エクソン/イントロン編成、及び染色体の局在は、すべてLAG-3のCD4との密接な関係を示す。LAG-3は、CD223(表面抗原分類223)とも名付けられている。
【0156】
LAG-3ポリペプチドは、以下に提供される配列、GenBank番号CAA36243.3(GI:15617341)又はNP_002277.4(GI:167614500)に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。LAG-3内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~22;細胞外ドメイン、アミノ酸23~450;膜貫通ドメイン、アミノ酸451~471;細胞内ドメイン、アミノ酸472~525の参照については、GenBank NP_002277.4を参照されたい。「LAG-3核酸分子」はLAG-3ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化24】
【0157】
ひとつの実施態様において、本発明は、LAG-3 DN形態を提供する。ひとつの実施態様において、LAG-3 DN形態は、LAG-3の細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、LAG-3 DN形態は、LAG-3の細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば成熟形態)。別の実施態様において、LAG-3 DN形態は、LAG-3の細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば前駆体形態)。本発明は、本発明のLAG-3 DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、LAG-3細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、LAG-3 DN形態はキメラである。たとえば、LAG-3細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、LAG-3 DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、場合によっては異種性膜貫通ドメインである、膜貫通ドメインを含むことができる。
【0158】
本発明の実施態様において、LAG-3 DN形態は、LAG-3の細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、LAG-3の細胞外ドメインに相当するアミノ酸23~450(GenBank NP_002277.4;配列番号22)を含むことができる。このようなLAG-3 DN形態を発現する細胞は、LAG-3免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減した能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、LAG-3 DN形態は、LAG-3によって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、細胞内ドメイン、たとえばLAG-3(GenBank NP_002277.4;配列番号22)のアミノ酸472~525、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である。
【0159】
TIGIT。Ig及びITIMドメインを有するT細胞免疫レセプター(TIGIT)は、T細胞活性化を抑制する細胞表面タンパク質である。それは、それらのN末端Igドメイン中に3つの保存された配列モチーフを共有する免疫グロブリン(Ig)タンパク質のポリオウイルスレセプター(PVR)ファミリーに属する。TIGITポリペプチドは、以下に提供される配列、GenBank番号NP_776160.2(GI:256600228)に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。TIGIT内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~21;細胞外ドメイン、アミノ酸22~141;膜貫通ドメイン、アミノ酸142~162;細胞内ドメイン、アミノ酸163~244の参照については、GenBank NP_776160.2を参照されたい。「TIGIT核酸分子」は、TIGITポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化25】
【0160】
ひとつの実施態様において、本発明は、TIGIT DN形態を提供する。ひとつの実施態様において、TIGIT DN形態は、TIGITの細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、TIGIT DN形態は、TIGITの細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば成熟形態)。別の実施態様において、TIGIT DN形態は、TIGITの細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば前駆体形態)。本発明は、本発明のTIGIT DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、TIGIT細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、TIGIT DN形態はキメラである。たとえば、TIGIT細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、TIGIT DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、場合によっては異種性膜貫通ドメインである、膜貫通ドメインを含むことができる。
【0161】
本発明の実施態様において、TIGIT DN形態は、TIGITの細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、TIGIT(GenBank NP_776160.2;配列番号23)の細胞外ドメインに相当するアミノ酸22~141を含むことができる。このようなTIGIT DN形態を発現する細胞は、TIGIT免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減した能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、TIGIT DN形態は、TIGITによって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、TIGIT(GenBank NP_776160.2;配列番号23)の細胞内ドメイン、たとえば、アミノ酸163~244、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である。
【0162】
LAIR1。白血球関連免疫グロブリン様レセプター1(LAIR1)は、ナチュラルキラー(NK)細胞、B細胞及びT細胞の細胞溶解性機能に対して構成的な負の調節の役割を果たす阻害性レセプターである。LAIRは、種々のアイソフォームで存在する。任意のアイソフォームを、所望の機能を達成するために選択することができることは理解される。例示的なアイソフォームは、アイソフォームa(NP_002278.2, GI:612407859)、アイソフォームb(NP_068352.2, GI:612407861)、アイソフォームc(NP_001275952.2, GI:612407867)、アイソフォームe(NP_001275954.2, GI:612407869)、アイソフォームf(NP_001275955.2, GI:612407863)、アイソフォームg(NP_001275956.2, GI:612407865)などを含む。ひとつの例示的なアイソフォーム配列、アイソフォームaは、以下に提供される。ひとつの実施態様において、LAIR1ポリペプチドは、以下に提供される配列、NP_002278.2に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。LAIR1内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~21;細胞外ドメイン、アミノ酸22~165;膜貫通ドメイン、アミノ酸166~186;細胞内ドメイン、アミノ酸187~287の参照については、GenBank NP_002278.2を参照されたい。「LAIR1核酸分子」は、LAIR1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化26】
【0163】
ひとつの実施態様において、本発明は、LAIR1 DN形態を提供する。ひとつの実施態様において、LAIR1 DN形態は、LAIR1の細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、LAIR1 DN形態は、LAIR1の細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば成熟形態)。別の実施態様において、LAIR1 DN形態は、LAIR1の細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば前駆体形態)。本発明は、本発明のLAIR1 DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、LAIR1細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、LAIR1 DN形態はキメラである。たとえば、LAIR1細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、LAIR1 DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、場合によっては異種性膜貫通ドメインである、膜貫通ドメインを含むことができる。
【0164】
本発明の実施態様において、LAIR1 DN形態は、LAIR1の細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、LAIR1(GenBank NP_002278.2;配列番号24)の細胞外ドメインに相当するアミノ酸22~165を含むことができる。このようなLAIR1 DN形態を発現する細胞は、LAIR1 免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減された能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、LAIR1 DN形態は、LAIR1によって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、細胞内ドメイン、たとえば、LAIR1(GenBank NP_002278.2;配列番号24)のアミノ酸187~287、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である。
【0165】
2B4。ナチュラルキラー細胞レセプター2B4(2B4)は、NK細胞及びT細胞のサブセットに対する非MHC制限細胞の殺傷を媒介する。2B4-Sアイソフォームは、活性化レセプターであると考えられており、2B4-Lアイソフォームは、免疫細胞のネガティブ免疫レギュレーターであると考えられている。2B4は、その高アフィニティリガンド、CD48との結合に際し、会合されるようになる。2B4は、チロシンベースのスイッチモチーフ、タンパク質が種々のホスファターゼと関連することを可能にする分子スイッチを含有する。2B4はCD244(表面抗原分類244)とも名付けられている。
【0166】
2B4ポリペプチドは、以下に提供される配列、GenBank番号NP_001160135.1(GI:262263435)に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。2B4内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~18;細胞外ドメイン、アミノ酸19~229;膜貫通ドメイン、アミノ酸230~250;細胞内ドメイン、アミノ酸251~370の参照については、GenBank NP_001160135.1を参照されたい。「2B4核酸分子」は2B4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化27】
【0167】
ひとつの実施態様において、本発明は、2B4 DN形態を提供する。ひとつの実施態様において、2B4 DN形態は、2B4の細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、2B4 DN形態は、2B4の細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば成熟形態)。別の実施態様において、2B4 DN形態は、2B4の細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば、前駆体形態)。本発明は、本発明の2B4 DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、2B4細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、2B4 DN形態はキメラである。たとえば、2B4細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、2B4 DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、場合によっては異種性膜貫通ドメインである、膜貫通ドメインを含むことができる。
【0168】
本発明の実施態様において、2B4 DN形態は、2B4の細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば2B4(GenBank NP_001160135.1;配列番号25)の細胞外ドメインに相当するアミノ酸19~229を含むことができる。このような2B4 DN形態を発現する細胞は、2B4 免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減された能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、2B4 DN形態は、2B4によって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、細胞内ドメイン、たとえば、2B4のアミノ酸251~370(GenBank NP_001160135.1;配列番号25)、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である。
【0169】
CD160。CD160は、HVEMに結合する単一のIgV様ドメインを含有するグリコシルホスファチジルイノシトール係留分子であり、T細胞上で共阻害性レセプターとして機能する。CD160ポリペプチドは、以下に提供される配列、GenBank NP_008984.1(GI:5901910)に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。CD160内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~26;細胞外ドメイン、アミノ酸27~159の参照については、GenBank NP_008984.1を参照されたい。「CD160核酸分子」は、CD160ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化28】
【0170】
ひとつの実施態様において、本発明は、CD160 DN形態を提供する。ひとつの実施態様において、CD160 DN形態は、CD160の細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、CD160 DN形態は、CD160の細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば成熟形態)。別の実施態様において、CD160 DN形態は、CD160の細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば前駆体形態)。本発明は、本発明のCD160 DN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、CD160細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、CD160 DN形態はキメラである。たとえば、CD160細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、CD160 DN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、異種性膜貫通ドメインである膜貫通ドメインを含むことができる。
【0171】
本発明の実施態様において、CD160 DN形態は、CD160の細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、CD160(GenBank NP_008984.1;配列番号26)の細胞外ドメインに相当するアミノ酸27~159を含むことができる。このようなCD160 DN形態を発現する細胞は、免疫チェックポイント経路においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減された能力を有するべきである。ひとつの実施態様において、CD160 DN形態は、CD160の細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、及び本明細書において記載される膜貫通ドメインの一つを含むがそれらに限定されない、異種性ポリペプチドから由来する膜貫通ドメインを含む。ひとつの非限定的な実施態様において、CD160 DN形態は、CD8の膜貫通ドメインを含む。CD160 DN形態を発現する細胞において、CD160によって媒介される免疫チェックポイント経路の細胞内シグナリングは低減又は阻害されるべきである。
【0172】
2型TGF-βレセプター。2型TGF-βレセプターは、TGF-β、及びI型レセプター二量体に結合し、リガンドと共にヘテロ四量体複合体を形成する。2型TGF-βレセプターポリペプチドは、以下に提供される配列、GenBank番号NP_001020018.1(GI:67782326)に相当するアミノ酸配列、又はそのフラグメントを有することができる。2型TGF-βレセプター内のドメイン、たとえば、シグナルペプチド、アミノ酸1~22;細胞外ドメイン、アミノ酸23~191;膜貫通ドメイン、アミノ酸192~212;細胞内ドメイン、アミノ酸213~592の参照については、GenBank NP_001020018.1を参照されたい(UniProtKB - P37173の注釈も参照されたい)。「2型TGF-βレセプター核酸分子」は、2型TGF-βレセプターポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを指すことは理解される。
【化29】
【0173】
ひとつの実施態様において、本発明は、TGFβレセプターDN形態を提供する。ひとつの実施態様において、TGFβレセプターDN形態は、TGFβレセプターの細胞外リガンド結合ドメインを含む。ひとつの実施態様において、TGFβレセプターDN形態は、TGFβレセプターの細胞外リガンド結合ドメイン、及び膜貫通ドメインを含む(たとえば成熟形態)。別の実施態様において、TGFβレセプターDN形態は、TGFβレセプターの細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びシグナルペプチドを含む(たとえば前駆体形態)。本発明は、本発明のTGF-βレセプターDN形態の核酸及びコードするポリペプチドをも提供する。特定の実施態様において、TGFβレセプター細胞外リガンド結合ドメインは、1以上の異種性ポリペプチド配列に融合されており、つまり、TGFβレセプターDN形態はキメラである。たとえば、TGFβレセプター細胞外リガンド結合ドメインは、そのN末端で、本明細書において記載される種々のシグナルペプチドを含む、場合によっては異種性シグナルペプチドである、シグナルペプチドに融合されていることができる。それに加えて、TGFβレセプターDN形態は、本明細書において記載される種々の任意の膜貫通ドメインを含む、異種性膜貫通ドメインである膜貫通ドメインを含むことができる。
【0174】
TGFβレセプターDN形態は、以前に記載されている(たとえば、Bottingerらの文献、EMBO J. 16:2621-2633(1997)、TGFβレセプター細胞外ドメイン及び膜貫通ドメインを含むDN形態が記載されている;Fosterらの文献、J. Immunother. 31:500-505(2008);Bollardらの文献、Blood 99:3179-3187(2002);Wieserらの文献、Mol. Cell. Biol. 13:7239-7247(1993)を参照されたい)。本発明の実施態様において、TGFβレセプターDN形態は、TGFβレセプターの細胞外ドメイン、又はそのリガンド結合部分、たとえば、TGFβレセプター(GenBank NP_001020018.1、配列番号27)の細胞外ドメインに相当するアミノ酸23~191を含むことができる。このようなTGFβレセプターDN形態を発現する細胞は、細胞においてシグナルを送る能力を欠いているか、又は低減した能力を有する。ひとつの実施態様において、TGFβレセプターDN形態は、TGFβレセプターによって媒介される細胞内シグナリングが低減又は阻害されるように、細胞内ドメイン、たとえばTGFβレセプター(GenBank NP_001020018.1、配列番号27)のアミノ酸213~592、又はその部分の欠失を有する、欠失突然変異体である(Bottingerらの文献、EMBO J. 16:2621-2633(1997);Fosterらの文献、J. Immunother. 31:500-505(2008);Bollardらの文献、Blood 99:3179-3187(2002);Wieserらの文献、Mol. Cell. Biol. 13:7239-7247(1993)も参照されたい)。
【0175】
場合によっては、免疫チェックポイント阻害剤のような、細胞媒介性免疫応答の阻害剤の第二のDN形態を、本発明の細胞において発現させることができることは理解される。この場合において、同じ細胞における2以上の細胞媒介性免疫応答を阻害することが望ましいことがある。かくして、細胞は、上記で記載されているものを含む、各々が異なる細胞媒介性免疫応答の阻害剤に向けられた2以上のDN形態を発現することができる。たとえば、PD-1のDN形態は、細胞においてTGF-βレセプターのDN形態と共に共発現させることができ、PD-1のDN形態は、CTLA-4のDN形態と共に共発現させることができ、CTLA-4 DN形態は、TGF-βのDN形態と共に共発現させることができ、同様に所望により、任意のDN形態の組合わせを含むことができる。
【0176】
6.4.治療の方法
本発明は、本発明の免疫阻害性細胞を使用して、免疫介在性障害のような障害を治療する方法にも関する。これらの方法は、免疫介在性障害を有する患者を治療するために使用される。本発明の方法は、本発明の免疫阻害性細胞を使用して、病的免疫応答を抑制することに関する。このような病的免疫応答は、器官移植拒絶、自己免疫性障害、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、アルツハイマー病、関節炎などを含むが、これらに限定されない。病的免疫応答は、障害、疾患、又は状態の第一次原因である必要はないことは理解される。免疫介在性障害は、病的免疫応答に関連する障害、疾患又は状態を指す。下記においてより詳細に議論されるように、例示的な、免疫介在性障害は、器官移植拒絶、自己免疫性障害、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性、アルツハイマー病、などを含むがそれらに限定されない。
【0177】
ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞の集団、又はそのような細胞又は複数細胞を含む医薬組成物をその患者に投与することを含む方法を提供する。特定の実施態様において、免疫介在性障害は、器官移植拒絶、自己免疫性障害、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、ループス、アレルギー性障害、胎児母体間不耐性及びアルツハイマー病からなる群から選択される。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に対して特異的である(感作されている、又はそれを認識する)。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、キメラ抗原レセプター(CAR)を発現し、ここで、このCARは、免疫介在性障害に関連する病的免疫応答の標的である抗原に結合する。
【0178】
器官移植拒絶。外来器官移植に応答して、宿主免疫系は、通常、移植された器官に対して免疫攻撃を発動し、それは、その器官の最終的な拒絶をもたらし得る。同種抗原のT細胞認識は、器官移植拒絶において中心的かつ一次的な事象であり、それは、最終的に移植片拒絶に導く(Briscoeらの文献、Nat. Med. 8:220-222(2002))。固形器官拒絶(肝臓、肺、腎臓、膵臓、小腸、その他)を防止するために、一生にわたって免疫抑制剤が標準治療として使用され、移植された器官に対する宿主エフェクター免疫応答が抑制される。器官拒絶の原因となる抗原特異的応は同定されている(たとえば、表1を参照されたい)。
【0179】
細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態(DN形態)、たとえば、PD-1を用いる、調節性T細胞のような免疫阻害性細胞の形質導入は、移植された器官内での免疫抑制を促進し、器官移植拒絶を低減させるために使用することができる。さらに、調節性T細胞のような、移植された器官特異的抗原応答性の免疫阻害性細胞は、抗原応答性細胞として単離し、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態を用いて形質導入して、エクスビボで培養することができ、又は免疫阻害性細胞は、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態及び器官移植の抗原を標的とするCARを用いて共形質導入し、調節性T細胞のような免疫阻害性細胞を抗原特異的にすることができる。調節性T細胞のような、形質導入された免疫阻害性細胞は、移植された器官特異的免疫抑制を提供することができ、それによって、従来の免疫抑制方法の代わりに、免疫寛容性についての生得的能力を増強することができる。
【0180】
ひとつの実施態様において、本発明は、それを必要とする器官移植レシピエントにおいて器官移植拒絶のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞集団を、このレシピエントに投与することを含む方法を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、器官移植拒絶と関連する器官移植の抗原に結合するCARを発現する。別の特定の実施態様において、この方法において使用される免疫阻害性細胞は、レシピエントから調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。例示的な器官移植標的抗原は、表1に記載されている。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、移植された器官から、又は移植された器官の周囲のエリアから、単離される。たとえば、肝臓移植の間に、調節性T細胞を、たとえば移植された肝臓から収穫し、細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を用いて形質導入し、及び患者、器官レシピエントに投与して、移植された肝臓の拒絶を低減又は防止することができる。
【0181】
特定の実施態様において、移植される器官は肺である。移植される器官が肺である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、コラーゲンタイプV、K α1チューブリン、及びMHCクラスI関連鎖A(MICA)からなる群から選択される。特定の実施態様において、移植される器官は腎臓である。移植される器官が腎臓である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、フィブロネクチン、コラーゲンタイプIV、コラーゲンタイプVI、ビメンチン、1型アンギオテンシンIIレセプター(AGTR1)、パールカン、及びアグリンからなる群から選択される。
【0182】
特定の実施態様において、移植される器官は肝臓である。移植される器官が肝臓である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、コラーゲンタイプI、コラーゲンタイプII、コラーゲンタイプIII、及びコラーゲンタイプVからなる群から選択される。特定の実施態様において、移植される器官は心臓である。移植される器官が心臓である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、心筋ミオシン、ビメンチン、コラーゲンタイプV、K α1チューブリン、及びMHCクラスI関連鎖A(MICA)からなる群から選択される。特定の実施態様において、移植される器官は膵臓である。移植される器官が膵臓である特定の実施態様において、細胞が認識し、感作される、又はCARが結合する抗原は、MHCクラスI、MHCクラスII、膵島細胞自己抗体(ICA)抗原、インスリン、及びグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)からなる群から選択される。
【0183】
自己免疫障害。調節性T細胞のような免疫阻害性細胞における、PD-1のような細胞媒介性免疫応答のDN形態の形質導入は、自己免疫性障害を治療するために使用することができる。具体的な実施態様において、PD-1のような細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態は、濾胞性調節性T細胞である免疫阻害性細胞に、それらの抑制能力を促進するために形質導入することができる。このような細胞は、自己免疫性障害を有する患者において、免疫系の他のアームをインタクトのままにしながら、自己抗体産生を抑制するために使用することができる。
【0184】
ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における自己免疫性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞をその患者に投与することを含む方法を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、自己免疫性障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。特定の実施態様において、自己免疫性障害は、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、原発性胆汁性肝硬変、重症筋無力症、尋常性白斑、及びループス、たとえば、全身性エリテマトーデスからなる群から選択される。
【0185】
ひとつの実施態様において、本発明は、それを必要とする患者における自己寛容性を促進する又は自己抗原に対する免疫学的寛容性を再確立する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞をその患者に投与することを含み、前記細胞が、病的自己抗原特異的調節性T細胞である、又は前記細胞集団が、病的自己抗原特異的調節性T細胞を含む、方法を提供する。このような方法は、自己免疫性障害の病理学的効果を緩和するために使用することができる。
【0186】
多発性硬化症。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における多発性硬化症である免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞の集団をその患者に投与することを含む方法、又はそのような細胞又は複数細胞を含む医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、自己免疫障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する。さらに別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞が認識し、それに対して感作される、又はCARが結合する、抗原は、ミエリン、ミエリン塩基性タンパク質、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質、プロテオリピドタンパク質、アストロサイトタンパク質、グリア線維性タンパク質(GFAP)、及びS100betaからなる群から選択される。
【0187】
1型糖尿病。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における1型糖尿病である免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞の集団をその患者に投与することを含む方法、又はそのような細胞又は複数細胞を含む医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、自己免疫障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する。さらに別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞が認識し、それに対して感作される、又はCARが結合する、抗原は、β細胞抗原、インスリン、インスリンB鎖、プロインスリン、プレプロインスリン、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65(GAD65)、膵島関連抗原2、膵島特異的グルコース-6-ホスファターゼ触媒サブユニット関連タンパク質(IGRP)、亜鉛トランスポーター8(ZnT8)、膵島抗原2(IA-2)、ヒートショックタンパク質60(HSP60)、及びクロモグラニンAからなる群から選択される。
【0188】
関節リウマチ。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における関節リウマチである免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞の集団をその患者に投与することを含む方法、又はそのような細胞又は複数細胞を含む医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、自己免疫障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する。さらに別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞が認識してそれに対して感作される、又はCARが結合する、抗原は、dnaJ(ヒートショックタンパク質)、シトルリン化ビメンチン、及びヒト軟骨糖タンパク質39からなる群から選択される。
【0189】
原発性胆汁性肝硬変。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における原発性胆汁性肝硬変である免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞の集団をその患者に投与することを含む方法、又はそのような細胞又は複数細胞を含む医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、自己免疫障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する。さらに別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞が認識して、それに対して感作される、又はCARが結合する、抗原は、ミトコンドリア成分、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(ミトコンドリア性);ピルビン酸デヒドロゲナーゼのE2成分;分岐鎖2-オキソ酸デヒドロゲナーゼのE2成分;2-オキソ-グルタル酸デヒドロゲナーゼ複合体のE2成分;ジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼのE3結合タンパク質;核成分;核タンパク質sp100、核膜孔複合体タンパク質gp120、及びセントロメアからなる群から選択される。
【0190】
重症筋無力症。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における重症筋無力症である免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞の集団をその患者に投与することを含む方法、又はそのような細胞又は複数細胞を含む医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞はこの患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、自己免疫障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する。さらに別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞が認識し、それに対して感作される、又はCARが結合する、抗原は、アセチルコリンレセプター(AChR)、アクアポリン4(AQP-4)、CTLA-4、ICAM、LFA-3、CD40/CD154、ICOS/ICOSL、CD52、活性化T細胞核内因子(NFAT)、ホスホリパーゼC(PLC)、CD25、ヤヌスキナーゼ、B細胞活性化因子(BAFF)、増殖誘導性リガンド(APRIL)、IL6R、IL17、IL12/IL23、インテグリン、及びスフィンゴシンレセプターからなる群から選択される。調節性T細胞は、天然には胸腺に蓄積する。特定の実施態様において、調節性T細胞のような免疫阻害性細胞は、胸腺に蓄積し、重症筋無力症の治療を容易にすることができる。
【0191】
尋常性白斑。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における尋常性白斑である免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞の集団をその患者に投与することを含む方法、又はそのような細胞又は複数細胞を含む医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、このレシピエントから調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、自己免疫障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する。さらに別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞が認識し、それに対して感作される、又はCARが結合する、抗原は、メラニン細胞抗原である。
【0192】
全身性エリテマトーデス。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者におけるループス、特に全身性エリテマトーデスである免疫介在性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞の集団をその患者に投与することを含む方法、又はこのような細胞を含む医薬組成物を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、自己免疫障害の自己免疫抗原に結合するCARを発現する。さらに別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞が認識し、それに対して感作される、又はCARが結合する、抗原は、トール様レセプター、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR7、TLR8、TLR9、MyD88、及びIL-1R関連キナーゼ(IRAK)からなる群から選択される。
【0193】
アレルギー性障害。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者におけるアレルギー性障害を治療する方法であって、治療的に有効な量の免疫阻害性細胞又はそのような細胞の集団をその患者に投与することを含む方法を提供する。特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である。別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞は、そのアレルギー性障害に関連するアレルゲンに結合するCARを発現する。さらに別の特定の実施態様において、免疫阻害性細胞が認識し、それに対して感作される、又はCARが結合する、抗原は、そのアレルギー性障害に関連するアレルゲンである。
【0194】
具体的な実施態様において、少量であるが次第に増大する用量のアレルゲンペプチドの皮下注射を用いて、特異的免疫療法(SIT)を受けている患者において、そのアレルゲンである抗原を認識し、それに対して感作される、又はそのアレルゲンに結合するCARを発現する免疫阻害性細胞は、そのアレルゲンペプチドと共に共注射することができる。具体的な実施態様において、これは、特異的免疫療法の期間を低減する、特異的免疫療法の有効性を増大する、及び/又は特異的免疫療法の効果を遷延する効果を、患者にもたらすことができ、たとえば、特異的抗原としてアレルゲンを使用して、何年にもわたって遷延することができる臨床的改善を提供する。たとえば、患者は、ハチ毒又は単一剤(monoagent)アレルギー(たとえば、チリダニ)についてSITを受けていることができる。特定の実施態様において、本発明の免疫阻害性細胞の投与は、患者においてSITの期間の低減、SITの有効性の増大、及び/又はSITの効果の遷延からなる群から選択される効果を有する。かくして、本発明の免疫阻害性細胞を利用する本発明の方法は、アレルゲンを用いる特異的免疫療法(SIT)の有効性を改善するために使用することができる。
【0195】
胎児母系の不寛容性。父系の抗原に対して特異的な(感作されている)調節性T細胞は、喪失された妊娠の胎盤から収穫することができる。父系の抗原に対して特異的なこれらの調節性T細胞は、PD-1のような細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態を用いて形質導入され、培養され、及び後の妊娠で再注入されて、胚子着床(fetal implantation)の増大及び胎児喪失(fetal loss)の低減をもたらす。
【0196】
ひとつの実施態様において、本発明は、それを必要とする妊婦における胎児母体間不耐性を低減する方法であって、治療的に有効な量の免疫阻害性細胞又は細胞集団をその妊婦に投与することを含み、この細胞又は細胞集団は、その妊婦の先妊娠からの胎盤から調節性T細胞を単離すること、及びこの調節性T細胞を、それらが調節性T細胞媒介性免疫応答の阻害剤のドミナントネガティブ形態を組換えにより発現するように形質導入することを含むプロセスの生成物である、方法を提供する。特定の実施態様において、調節性T細胞は、胎児母体間不耐性について治療されている妊婦の胎盤から単離される。さらなる実施態様において、単離された調節性T細胞は、父系の抗原に特異的である。この方法は、胚子着床の可能性を増大し、胎児喪失の可能性を低減するために使用することができる。
【0197】
アルツハイマー病。PD-1ネガティブ調節性T細胞が軽度認知障害患者において増大するという観察は、アルツハイマー病の炎症性起源を補強し、末期の(full-blown)アルツハイマー病の患者において失われている軽度認知障害のPD-1ネガティブ調節性T細胞の有益な役割を支持する。
【0198】
具体的な実施態様において、調節性T細胞は、軽度認知障害の患者から収穫し、この細胞を、PD-1のような細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態を用いて形質導入する。細胞は、アルツハイマー病の進行を防止又は遅延させるために、患者に再注入する。
【0199】
軽度認知障害を診断するための判断基準は、記載されている(Saresellaらの文献、J. Alzheimer's Disease 21:927-938(2010);Petersenの文献、J. Int. Med. 256:183-194(2004);Winbladらの文献、J. Int. Med. 256:240-246(2004))。例示的な判断基準は、報告された認知低下、認知機能の不良、本質的に正常な機能的活動、及び認知症の排除を含む。
【0200】
ひとつの実施態様において、本発明は、軽度認知障害を有する患者におけるアルツハイマー病への進行のリスクを低減する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞又は細胞又は細胞集団をその患者に投与することを含み、ここで、この免疫阻害性細胞は、この患者から調節性T細胞を単離すること、及びこの単離された調節性T細胞を細胞培養において拡大することを含むプロセスの生成物である、方法を提供する。特定の実施態様において、調節性T細胞は、軽度認知障害を有する患者から単離される。
【0201】
関節炎。現在、関節炎及び重度の痛みを有する患者において、ステロイド注射が局所的に投与されており、これは、炎症性応答を緩和し、痛みを鎮める。炎症性細胞を殺すステロイドとは違って、調節性T細胞は、抑制によって炎症に対抗し、PD-1 DNRは抑制を増大する。ひとつの実施態様において、本発明は、治療を必要とする患者における関節炎を治療する方法であって、治療的に有効な量の本発明の免疫阻害性細胞をその患者に投与することを含む方法を提供する。具体的な実施態様において、細胞は、領域的に関節炎の関節へ、たとえば、関節内又は関節炎の関節の腱付着部で直接、投与される。具体的な実施態様において、治療される関節炎は、変形性関節症である。別の具体的な実施態様において、治療される関節炎は、乾癬性関節炎であり、これは、非対称炎症性関節炎、対称性関節炎、及び乾癬性脊椎炎であることができるが、これらに限定されない。ひとつの実施態様において、非抗原特異的調節性T細胞、又は特定の抗原について特異的に選択されない調節性T細胞が投与される。
【0202】
投薬量及び投与。本発明の方法において、本発明の免疫阻害性細胞は、治療を必要とする対象又は患者に投与される。この対象又は患者は、哺乳動物、特にヒトであることができる。好ましくは、対象又は患者はヒトである。ヒトは、子供又は成人であることができる。
【0203】
治療について、投与される量は、所望の効果を生じるために有効な量である。有効な量又は治療的に有効な量は、治療に際して有益な又は所望の臨床的結果を提供する量である。有効な量は、単一投与で又は一連の投与で(1以上の用量)提供することができる。有効な量は、ボーラスで、又は連続的灌流によって提供することができる。治療に関しては、有効な量は、疾患の進行を和らげ、寛解させ、安定化し、逆転させ、又は遅らせるか、あるいはその他の点で疾患の病理学的帰結を低減させるのに十分な量である。この有効な量は、特定の対象について医師が決定することができる。有効な量を達成するために適切な投薬量を決定する場合に、いくつかの要因が、典型的に考慮に入れられる。これらの要因は、その対象の年齢、性別、及び体重、治療されている状態、その状態の重症度、及び投与される本発明の細胞の形態及び効果的な濃度を含む。
【0204】
本発明の細胞は、一般的に、細胞が投与される対象の体重の1kg当たりの細胞(細胞/kg)に基づいた用量として投与される。一般に、この細胞用量は、投与のモード及び位置により、約104~約1010細胞/体重kgの範囲、たとえば、約105~約109、約105~約108、約105~約107、or約105~106細胞/kgである。一般に、全身投与の場合、本発明の免疫阻害性細胞が病的免疫応答の領域に投与される領域的投与におけるよりも、高い用量が使用される。例示的な用量の範囲は、1×104~1×108、2×104~1×108、3×104~1×108、4×104~1×108、5×104~1×108、6×104~1×108、7×104~1×108、8×104~1×108、9×104~1×108、1×105~1×108、たとえば、1×105~9×107、1×105~8×107、1×105~7×107、1×105~6×107、1×105~5×107、1×105~4×107、1×105~3×107、1×105~2×107、1×105~1×107、1×105~9×106、1×105~8×106、1×105~7×106、1×105~6×106、1×105~5×106、1×105~4×106、1×105~3×106、1×105~2×106、1×105~1×106、2×105~9×107、2×105~8×107、2×105~7×107、2×105~6×107、2×105~5×107、2×105~4×107、2×105~3×107、2×105~2×107、2×105~1×107、2×105~9×106、2×105~8×106、2×105~7×106、2×105~6×106、2×105~5×106、2×105~4×106、3×105~3×106細胞/kgなどを含むが、これらに限定されない。このような用量範囲は、領域的投与について特に有用であり得る。特定の実施態様において、細胞は、領域的投与について、1×105~1×108、たとえば1×105~1×107、1×105~1×106、1×106~1×108、1×106~1×107、1×107~1×108、1×105~5×106、1×105~3×106、又は3×105~3×106細胞/kgの用量で提供される。例示的な用量範囲は、5×105~1×108、たとえば、6×105~1×108、7×105~1×108、8×105~1×108、9×105~1×108、1×106~1×108、1×106~9×107、1×106~8×107、1×106~7×107、1×106~6×107、1×106~5×107、1×106~4×107、1×106~3×107細胞/kgなどを含むことができるが、これらに限定されない。このような用量は、全身投与について特に有用であることができる。特定の実施態様において、細胞は、全身投与について、1×106~3×107細胞/kgの用量で提供される。例示的な細胞用量は、1×104、2×104、3×104、4×104、5×104、6×104、7×104、8×104、9×104、1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、1×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、7×106、8×106、9×106、1×107、2×107、3×107、4×107、5×107、6×107、7×107、8×107、9×107、1×108、2×108、3×108、4×108、5×108、6×108、7×108、8×108、9×108、1×109、及び約104~約1010細胞/kgの範囲の類似の用量を含むが、これらに限定されない。それに加えて、この用量は、単一用量が投与されるか、又は複数の用量が投与されるかを考慮して調整することもできる。効果的な用量と考えられるであろうものの正確な決定は、上記のとおり、特定の対象の大きさ、年齢、性別、体重、及び状態を含む、各々の対象に個別の要因に基づくことができる。投薬量は、当業者が、本明細書における開示及び当該技術分野の知見に基づいて容易に決定することができる。
【0205】
具体的な実施態様において、ヒト投与について投薬量は、そのヒトの体重1kg当たり1×105~1×108細胞の範囲内である。
【0206】
本発明の細胞は、当該技術分野において公知の任意の方法によって投与することができ、それらは胸膜投与、静脈内投与、皮下投与、節内投与、髄腔内投与、胸膜内投与、腹腔内投与、頭蓋内投与、気管内投与、関節内投与、子宮内投与、眼内投与、鼻腔内投与、脊髄内投与、硬膜外投与、腱付着部での直接投与、及び胸腺への直接投与を含むが、それらに限定されない。ひとつの実施態様において、本発明の細胞が、器官移植の部位、又は免疫介在性障害における病的免疫応答の部位のような領域に送達されるように、本発明の細胞は、領域的に所望の部位へ周知の方法を使用して送達することができ、それらは、肝臓又は大動脈ポンプ;肢、肺又は肝灌流;門脈内;静脈シャント経由;所望の部位の近傍にある腔又は静脈内、などを含むが、それらに限定されない。たとえば、関節炎のような状態の場合には、本発明の細胞は、腱付着部での直接投与の関節内投与を使用して関節に投与することができる。別の実施態様において、本発明の細胞は、全身的に投与することができる。好ましい実施態様において、これらの細胞は、所望の部位に領域的に投与される。当業者は、治療すべき免疫介在性障害のタイプに基づいて好適な投与モードを選択することができる。細胞は、注射又はカテーテルによって導入することができる。ひとつの実施態様において、細胞は、静脈内注入によって投与される。場合によっては、インビボで本発明の細胞の産生を増大するために、拡大及び/又は分化剤を、細胞の投与前、中、又は後に、対象に投与することができる。
【0207】
本発明の細胞の増殖は、一般的に対象への投与前にエクスビボで行われ、対象への投与後にインビボで望ましいことがある(Kaiserらの文献、Cancer Gene Therapy 22:72-78(2015)を参照されたい)。細胞増殖は、細胞拡大及び持続を可能にするために細胞生存を伴うべきである。細胞単離及び/又は拡大は、たとえばLeeらの文献、Cancer Res. 71:2871-2881(2011)に記載されているもののような、当該技術分野で公知の任意の方法を使用して実行することができる。
【0208】
本発明の方法は、本発明の細胞を用いる治療前、治療中、又は治療後に、それと組合わせて、アジュバント療法をさらに含むことができる。かくして、本発明の細胞療法の方法は、本発明の細胞の投与と適合する、特定の障害の治療のための他の標準治療及び/又は療法と共に使用することができる。
【0209】
場合によっては、本発明の細胞を投与する方法は、投与された本発明の細胞の有効性を推進するための宿主の免疫調節を含む組合わせ療法を、付加的に含むことができる。本発明の実施態様において、本発明の方法は、少なくとも1つの免疫調節剤を投与することを、さらに含むことができる。免疫調節剤の非限定的な例は、免疫阻害剤を含む。
【0210】
ひとつの実施態様において、DN形態を発現する本発明の免疫阻害性細胞は、CAR及びスイッチレセプターを共発現する免疫阻害性細胞と共に共投与することができる。共刺激性ドメインを含有しない(すなわち、スイッチレセプターではない)DN形態を発現する免疫阻害性細胞と共に共投与されるべき、このようなCAR及びスイッチレセプターを共発現する免疫阻害性細胞において、そのCARは、治療されるものと同じ疾患又は障害の抗原に結合する。別の実施態様において、スイッチレセプターは、その細胞が3種すべての構築物を組換えにより発現するように、CAR及びDN形態が形質導入される同じ細胞へ形質導入されることができる。その代わりに、及び好ましくは、このスイッチレセプターは、CARが形質導入されているがDN形態は形質導入されていない細胞に形質導入され、スイッチレセプター及びCARの両方を発現する細胞が作製されるようにし、これを、組合わせ療法においてDN形態、又はCAR及びDN形態の両方を発現するがスイッチレセプターを発現しない細胞と共に、使用することができる。この場合、2つのタイプの細胞、DN形態を発現する細胞とCAR及びスイッチレセプターを発現する細胞、又はCAR及びDN形態を発現する細胞とCAR及びスイッチレセプターを発現する細胞が、対象に投与される。一般的に、この2つのタイプの細胞は同時に投与されるが、所望により、逐次的に、互いに、たとえば、1又は2時間以内、又は1又は2日以内、又は同日に、投与することもできる。特定の実施態様において、CARの共刺激性シグナリングドメインは、同じ細胞において発現されるスイッチレセプターの共刺激性シグナリングドメインとは異なる。これは、同じ細胞内の2種の共刺激性シグナリングドメイン、及び免疫細胞療法のための細胞の増強された有効性をもたらすはずである。投与された免疫阻害性細胞が、細胞の付加的な用量を投与する必要がないように、治療されている対象において十分に増殖するであろうと考えられる場合において、免疫細胞療法の開始時に本発明の免疫阻害性細胞を投与することが好適であり得る。場合によっては、スイッチレセプターを発現する免疫阻害性細胞を場合により含む、本発明の免疫阻害性細胞は、必要に応じて2回以上投与することができる。
【0211】
免疫調節剤、又はCAR及びスイッチレセプターを発現する細胞を、DN形態を発現する本発明の免疫阻害性細胞との組合わせ療法において投与することは、本発明の免疫阻害性細胞の投与と同時に、たとえば免疫細胞療法の開始時に、行うことができ、又は所望により免疫細胞療法中の任意の時に逐次的に行うことができる。当業者は、治療される対象の要求に基づいて、組合わせ療法において使用されるべき免疫調節剤のタイミング及び投薬を含め、本発明の細胞及び免疫調節剤、又はCAR及びスイッチレセプターを発現する細胞を組合わせ療法において投与するための適切なレジメンを、容易に決定することができる。
【0212】
6.5. 医薬組成物
本発明は、付加的に、本発明の細胞を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、有効な量の本発明の細胞、及び医薬として許容し得る担体を含む。本発明の細胞及びこの細胞を含む組成物は、たとえば、典型的には細胞懸濁液を用いる等張性水性溶液、又は場合によっては乳濁液、分散液などとして、無菌的液体調製物で好都合に提供することができ、これらは典型的には選択されたpHに緩衝化される。組成物は、たとえば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などの、細胞の完全性及び生存能、及び細胞組成物の投与のために好適な担体を含むことができる。
【0213】
無菌的注射可能溶液は、所望により種々の量の他の含有成分を含む、好適な量の適切な溶剤に本発明の細胞を取り込むことにより、調製することができる。このような組成物は、医薬として許容し得る担体、希釈剤、又は細胞組成物との使用及びヒトのような対象への投与のために好適な、無菌的水、生理学的生理食塩水、グルコース、デキストロースなどのような賦形剤、を含むことができる。細胞組成物を提供するための好適な緩衝液は当該技術分野において周知である。使用される任意のベヒクル、希釈剤、又は添加剤は、本発明の細胞の完全性及び生存能を保存することと適合する。
【0214】
組成物は、一般的に等張性になり、つまり、それらは血液及び涙液と同じ浸透圧を有する。本発明の細胞組成物の所望の等張性は、塩化ナトリウム、あるいはデキストロース、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、又は他の無機もしくは有機溶質のような、医薬として許容し得る他の剤を使用して達成することができる。塩化ナトリウムは、ナトリウムイオンを含有する緩衝液について、特に好ましい。ひとつの特に有用な緩衝液は、生理食塩水、たとえば、通常生理食塩水である。当業者は、組成物の成分は化学的に不活性で、本発明の細胞の生存能又は有効性に影響せず、ヒトのような対象への投与について適合性であるように選択されるべきであることを認識するであろう。当業者は、本発明の方法において投与されるべき組成物における、細胞の量、及び随意の添加剤、ベヒクル、及び/又は担体を、容易に決定することができる。
【0215】
本発明の細胞は、任意の生理学的に許容し得るベヒクル中で投与することができる。投与のための好適な用量は本明細書において記載される。本発明の細胞を含む細胞集団は、精製された細胞の集団を含むことができる。当業者は、本明細書において記載されているように、種々の周知の方法を使用して、細胞集団中の細胞のパーセンテージを容易に決定することができる。遺伝子改変された本発明の細胞を含む細胞集団における純度の範囲は、約50%から約55%まで、約55%から約60%まで、約65%から約70%まで、約70%から約75%まで、約75%から約80%まで、約80%から約85%まで;約85%から約90%まで、約90%から約95%まで、又は約95から約100%までであることができる。投薬量は、当業者が容易に調整することができる;たとえば、純度の低減は投薬量の増大を必要とする可能性がある。
【0216】
本発明は、本発明の細胞の調製のためのキットをも提供する。ひとつの実施態様において、このキットは、DN形態を発現する、又はCAR及び細胞媒介性免疫応答の阻害剤のDN形態を共発現する、調節性T細胞のような遺伝子組換えされた免疫阻害性細胞を作製するための1以上のベクターを含む。キットは、対象から由来する自家性細胞から、又は適合性の対象に投与されるべき非自家性細胞から、遺伝子組換えされた免疫阻害性細胞を作製するために使用することができる。別の実施態様において、キットは、本発明の細胞、たとえば、対象への投与のための自家性又は非自家性細胞を含むことができる。具体的な実施態様において、キットは、1以上の容器中の本発明の免疫阻害性細胞を含む。
【0217】
本発明の種々の実施態様の活性に実質的に影響しない改変もまた、本明細書において提供される本発明の定義内で提供されることは、理解される。したがって、以下の例は、本発明を説明することを意図するものであって、限定することを意図していない。
【実施例
【0218】
7. 実施例
この例は、CARs及びドミナントネガティブPD-1突然変異体を発現するT細胞の構築及び使用を記載する。この例は、免疫抑制を提供するための調節性T細胞の代わりに、免疫応答を増強するための調節性T細胞ではないCD4+T細胞及びCD8+T細胞の使用に関するものであるが、本発明において適用され得る方法論を記載する。さらに、以下に記載される結果は、CD4+T細胞及びCD8+T細胞を用いるものではあるが、PD-1のドミナントネガティブ形態が、ドミナントネガティブとして機能することができ、PD-1のドミナントネガティブ形態を発現するT細胞の活性を持続させることができることを示す。
【0219】
7.1. 方法及び手順
実験手順は、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)の施設内動物取扱い及び使用委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。各々の実験は、異なるドナーT細胞を使用して複数回実施された。形質導入効率による差異、ドナー関連のばらつき、及びE:T比のような混乱させる変数を回避するために、3を超えるサンプルの複製を有する代表的な実験を使用してデータが提示される。
【0220】
細胞株。MSTO-211Hヒト胸膜中皮腫細胞(ATCC、Manassas、VA)を、GFP及びホタルルシフェラーゼ融合タンパク質(MSTO GFP-ffLuc+)を発現するように、レトロウイルスにより形質導入した。これらの細胞は、次にSFGレトロウイルスベクター中にサブクローニングされたヒトMSLN変異体1を用いて形質導入し、MSTO MSLN+GFP-ffLuc+を生成させた。同様に、A549細胞及び3T3マウス線維芽細胞を、ヒトMSLN変異体1単独を用いて形質導入し、A549 MSLN+及び3T3 MSLN+細胞株を生成させた。3T3細胞は、また、PD-L1を用いて共形質導入し、3T3 MSLN+PDL1+細胞を生成させた。
【0221】
γ-レトロウイルスベクター構築及びウイルス産生。MSLN特異的CARsを生成するために、MSLNに対して特異的な完全にヒトのscFv m912をコードするcDNA(D. Dimitrov, National Cancer Institute at Frederickによって提供された)(Fengらの文献、Mol. Cancer Ther. 8(5):1113-1118(2009))であって、ヒトCD8リーダードメイン及びCD8/CD3ζ、CD28/CD3ζ、又はCD8/4-1BB/CD3ζドメインに連結されたものを、以前に記載されているように操作した(Zhongらの文献、Mol. Ther. 18(2):413-420(2010))。コントロールのPSMA特異的CARは、以前に特徴付けされたPSMA標的化scFv(Gadeらの文献、Cancer Res. 65(19):9080-9088(2005))を使用して、同様に生成した。PD-1 DNRの構築については、商業的な遺伝子合成を使用して、CD8膜貫通及びヒンジドメインに融合したPD-1レセプターの細胞外部分(アミノ酸1~151)をコードさせた。CAR配列を、SFG γ-レトロウイルスベクター(Riviere, MSKCCによって提供された)中に挿入し、P2A配列に連結して、LNGFRレポーター(切断型低アフィニティ神経成長因子レセプター)、又は、PD-1 DNRの場合にはmCherry蛍光タンパク質レポーター(Markleyらの文献、Blood 115(17):3508-3519(2010);Papapetrouらの文献、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106(31):12759-12764(2009))の共発現を誘導した。CAR及びPD-1 DNR をコードするプラスミドを、次に、293T H29パッケージング細胞株にトランスフェクトし、以前に記載されているように、レトロウイルスを作製した(Hollymanらの文献、J. Immunother. 32(2):169-180(2009))。
【0222】
T細胞単離、遺伝子導入、及びCD4/CD8単離。末梢血白血球は、施設内倫理委員会が承認したプロトコールの下で健常志願者ドナーの血液から単離した。末梢血単核球(PBMCs)は、Lymphoprep(Stem Cell Technology, Vancouver, Canada)で低密度遠心分離によって単離し、フィトヘマグルチニン(2μg/mL;Remel, Lenexa, KS)を用いて活性化した。単離の2日後、PBMCsは、293T RD114に産生されたCARs及びPD-1 DNRをコードするレトロウイルス粒子を用いて形質導入し、レトロネクチン(retronectin)でコーティングされたプレート上で(15 μg/mL;r-フィブロネクチン, Takara, Tokyo, Japan)、3000 rpmで1時間、スピノキュレートした(spinoculated)。1日後、形質導入されたPBMCsをIL-2(20 UI/mL;Novartis, Basel, Switzerland)中で維持した。形質導入効率は、フローサイトメトリー分析によって決定した。CD4+及びCD8+CAR+T細胞、又はmCherry陽性PD-1 DNR発現及びmCherry陽性EV発現CAR+T細胞の純粋な集団は、フローサイトメトリーベースのソーティングによって得た(BD Aria Sorter;BD Biosciences, San Jose, CA)。
【0223】
フローサイトメトリー。ヒトMSLN発現は、フィコエリトリン又はアロフィコシアニンとコンジュゲート化した抗ヒトMSLNラットIgG2a(R&D Systems, Minneapolis, MN)を使用して検出した。腫瘍細胞上での共刺激又は阻害性タンパク質の発現は、以下の抗体: 4-1BBL(PE,クローン5F4;BioLegend, San Diego, CA)、MHC HLA-DR(PE, クローンL203;R&D Systems)、PD-L1(APC, クローン MIH1;eBioscience, San Diego, CA)、PD-L2(APC, クローン MIH18;eBioscience)、及びガレクチン-9(APC, クローン9M13;BioLegend)を使用して分析した。T細胞表現型及び形質導入効率は、CD3、CD4、CD8及びCD69m LNGFRについてのモノクローナル抗体を用いて決定した。T細胞阻害性レセプターの発現は、PD1(APC、eBioJIU5;eBioscience)、TIM-3(PE, クローン344823;R&D Systems)、及びLag-3(PE,クローンC9B7W;BioLegend)を使用して分析した。細胞染色は、BD LSRII フローサイトメーター(BD, Franklin Lakes, NJ)及びFlowJo分析ソフトウェア(FlowJo, Ashland, OR)を使用して分析した。
【0224】
T細胞機能的アッセイ。CAR又はベクターコントロールを用いて形質導入されたT細胞の細胞傷害性は、標準51Cr放出アッセイによって、以前に記載されているように決定した(McCoyらの文献、National Cancer Institute Monograph 37:59-67(1973))。ルシフェラーゼ-活性アッセイを実施するために、MSLN及びホタルルシフェラーゼを発現するCAR+T細胞及びMSTO-211H細胞を、異なるE:T比で18時間インキュベートした。腫瘍細胞量は、1ウェル当たり100 μLのD-ルシフェリン(15 mg/mL)の添加後、IVIS 100/lumina IIを使用してBLIによって決定し、腫瘍細胞単独によって発光されたシグナルと比較した。CD107a及び細胞内染色は、エフェクター細胞及び照射されたMSTO-211H MSLN腫瘍細胞の24ウェルプレート中で18時間、5:1の比でのインキュベーション後に実施した。CD107aアッセイについては、5μLのCD107a-PeCy7抗体(BD Biosciences, San Jose, CA)及びGolgi STOP(4 μL/6 mL;BD Biosciences)を刺激時に添加した。細胞内染色については、Golgi Plug(1 μL/1 mL;BD Biosciences)を刺激時に添加した。インキュベーション後、エフェクター細胞を、CD4、CD8、LNGFR、及びCD3マーカーについて染色し、次いで、製造業者の指示書に従って固定及び透過処理した(Cytofix/Cytopermキット;BD Biosciences)。細胞内サイトカインについての染色は、グランザイム B-APC、パーフォリン-PE、及びIFN-γ-FITC抗体(BD Biosciences)を使用して実施した。
【0225】
サイトカイン放出アッセイは、3×104~5×103個のT細胞を標的細胞と共に1:1~5:1の比で、200 μLの培地中、96ウェル丸底プレートで、3つ組として共培養することにより実施した。6~24時間の共培養の後、上清を集めた。サイトカインレベルは、multiplex beadヒトサイトカイン検出キット(Millipore, Darmstadt, Germany)を、製造業者の指示書に従って使用して決定した。
【0226】
T細胞の増殖能力を分析するために、1×106個のCAR+T細胞を、照射されたMSTO-211H又は3T3細胞の上で、MSLN発現有り又は無しで(及び、3T3の場合には、PD-L1有り又は無しで)、刺激した。増殖アッセイは、外来性IL-2の不存在下で実施した。細胞は、7日ごとにカウントし、その後、反復刺激のために、照射された標的細胞上に重層した。時間に対してCAR+T細胞数を、各々の細胞群についてプロットした。
【0227】
同所性胸膜中皮腫動物モデル及びエクスビボ実験。胸膜中皮腫の同所性マウスモデルを開発するために、4~6週齢の雌NOD/SCIDγマウス(The Jackson Laboratory, Bar Harbor, Maine)を使用した。すべての手順は、承認された施設内動物取扱い及び使用委員会プロトコールの下で実施した。マウスは、ブピバカインを鎮痛のために投与し、吸入イソフルラン及び酸素を用いて麻酔した。以前に記載されているように、200 μLの無血清培地中の1×105~1×106個の腫瘍細胞の直接胸膜内注射を、右胸郭切開を介して実施し、同所性MPM腫瘍を確立した(Adusumilliらの文献、Science Translational Medicine 6(261):261ra151(2014);Servaisらの文献、Clin. Cancer Res. 18(9):2478-2489(2012);Servaisらの文献、「薬理学における最新のプロトコール」(Current Protocols in Pharmacology), Enna編, 14章(ユニット14 21), John Wiley & Sons(2011))。全部で、3×104~1×105個の形質導入されたT細胞(200 μLの無血清培地中)を、直接胸膜内注射によって胸郭腔に、又は尾静脈注射によって全身的に、腫瘍担持マウスに養子移入した。腫瘍の成長は、単一腹腔内用量のD-ルシフェリン(150 mg/kg;Perkin Elmer, Waltham, MA)の20分後に実施するBLIによって、インビボでモニタリングし、定量した。BLIデータは、Living Imageソフトウェア(バージョン2.60;Perkin Elmer)を使用して分析した;BLIシグナルは、総フラックス(1秒当たりのフォトン)として報告され、これは、腹側及び背側のフラックスの平均を表す。CAR T細胞の機能的能力をエクスビボで分析するために、腫瘍組織及びマウス脾臓を、以下のように処理した:組織を計量し、氷冷RPMI 1640中に収穫した。これらの組織を、メスを用いて手作業で小さく分割した後、40~100μmのフィルターを通して機械的に脱凝集させた。次に、サンプルを、表現型決定のためにFACS(蛍光活性化細胞ソーティング)によって分析し、又は、CAR+CD4+又はCD8+T細胞を、FACS Aria ソーターを使用してソーティングし、次に、IL-2を含むRPMI中で(60 UI/mL)24時間休ませて、51Cr放出アッセイ及びサイトカイン放出アッセイを、上記のとおりに実施した。
【0228】
組織学的分析及び免疫染色。腫瘍の病理組織学的評価は、パラフィン包埋、4%パラホルムアルデヒド固定組織サンプルのヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色後に実施した。ヒトMSLNについての免疫組織化学分析は、以前に記載されているように、マウス抗ヒトMSLN免疫グロブリンGを用いて実施した(Kachalaらの文献、Clin. Cancer Res. 20(4):1020-1028(2014);Rizkらの文献、Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 21(3):482-486(2012);Tozbikianらの文献、PLoS One 9(12):e114900(2014))。
【0229】
定量的リアルタイムPCR。CD4+LNGFR+又はCD8+LNGFR+選別T細胞からのmRNAを抽出し、μMACS One-Step cDNAキット(MACS molecular, Miltenyi Biotech Inc, Auburn, USA)を使用してcDNAに逆転写した。定量的リアルタイムPCR(RT-PCR)は、Applied Biosystems(登録商標)7500システム(Foster, CA, USA)、Taqman(登録商標)Universal PCR Mastermix、及び6-カルボキシフルオセイン(FAM-MBG)で標識され、Life Technologies(Carlsbad, CA)によって設計されたTaqman(登録商標)プローブ:Tbet(Hs00203436_m1);Eomes(Hs00172872_m1);Granzyme B(Hs01554355_m1);IFN-γ(Hs00989291_m1);IL-2(Hs00174114_m1);PD-1(Hs01550088_m1)を使用して、Taqman(登録商標)法を用いて実施した。目的の遺伝子の比較閾値サイクル(CT)を使用し、β2mハウスキーピング遺伝子に対して、以下の式:ΔCt(サンプル) = Ct(目的の遺伝子)-Ct(β2m)を使用して規準化した。次に、2-ΔΔCt法を使用して、コントロール条件と比較して相対倍率変化発現を分析し、以下の2-ΔΔCt = 2^-( ΔCt(サンプル)- ΔCt(コントロール))のように計算した。
【0230】
統計学的方法。データは、Prism(バージョン6.0;GraphPad Software, La Jolla, CA)ソフトウェアを使用して分析し、図面の凡例において述べているように、平均±SEMとして提示した。結果は、独立スチューデントのt検定(両側)を使用し、適用される場合には多重比較のためのボンフェローニ補正を使用して分析した。生存曲線は、対数順位検定を使用して分析した。統計学的有意性は、P<0.05として定義した。すべての統計学的分析は、Prismソフトウェアを用いて実施した。
【0231】
7.2. CD28又は4-1BB共刺激を有するCARsは、初回抗原刺激に際して同等のエフェクターサイトカイン分泌及びインビトロ増殖を提示する
ヒトMSLN特異的scFv(Fengらの文献、Mol. Cancer Ther. 8(5):1113-1118(2009))、及びCD3ζ、CD28/CD3ζ又は4-1BB/CD3ζシグナリングドメイン(Mz, M28z, MBBz)のいずれかを取り込んだ3種のCARsを構築した(図1A及び1B)。前立腺特異的膜抗原(PSMA)に対して特異的なP28z CARは、アロ反応性及び異種反応性についてコントロールするための負のエフェクターとして役立った。CD4+及びCD8+ヒト末梢血Tリンパ球の両方は、SFG-レトロウイルスベクターを使用して効果的に形質導入された(50%~70%形質導入)(図2)。MSLNを形質導入されたMSTO-211H細胞(MSLN+)及びPSMAを形質導入されたEL-4マウスリンパ腫細胞(MSLN-)を、MSLN陽性及び陰性標的としてこれらのインビトロ実験において役立てた。Mz-、M28z-及びMBBzを形質導入されたT細胞は、同様のインビトロでのMSLN特異的溶解を実証した(図1C)。P28z CAR T細胞は、MSTO MSLN+細胞を溶解せず、及びMSLN標的化CARsは、EL4 PSMA+細胞を溶解しなかったことから、溶解は抗原特異的であることが実証された。共刺激性シグナリングの機能性を検証して(Brentjensらの文献、Clin. Cancer Res. 13(18 Pt 1):5426-5435(2007))、M28z及びMBBz CAR T細胞は、2~15倍高いレベルのTh1サイトカインを分泌し(図1D)、外来性IL-2の不存在下のMzと比較した場合、MSLN+細胞に対する反復的な曝露に際して14倍のより大きいT細胞蓄積を達成した(図1E)。抗原特異性を確立し、共刺激性シグナリングドメインの機能性を検証したので、確立された胸膜腫瘍を担持するマウスにおけるMSLN標的化CAR T細胞の治療ポテンシャルの評価を実施した。
【0232】
これらの結果は、CD28又は4-1BB共刺激を有するCARsが、初回抗原刺激に際してインビトロで同等のエフェクターサイトカイン分泌及び増殖を呈することを実証する。
【0233】
7.3. メソセリンCAR T細胞はインビボ抗原曝露の後に消耗される
進行中のCAR T細胞の免疫阻害があるか否かを評価するために、及び腫瘍媒介性免疫阻害を克服するためのM28z及びMBBz CAR T細胞の相対的能力を比較するために、1×106個のCAR T細胞を、MSTO MSLN+腫瘍担持マウスの胸膜腔に注射し、反復的な抗原遭遇及びT細胞活性化に十分な時間を与え(活性化マーカー、CD69の前方及び側方散乱及びアップレギュレーションによって確認した)、次に、収穫されたCD4又はCD8 CAR腫瘍浸潤性の又は脾臓のT細胞のMSLN+標的でのエクスビボ刺激を実施した(模式図を図3Aに示す)。注射を受けていないインビトロの休止T細胞(「注入前細胞」)を使用して、ベースラインレベル(抗原曝露前)の機能を確立した。休止M28z CD8+CAR T細胞と比較して、インビボでMSLN抗原に曝露されたT細胞は、より低いレベルの細胞溶解性機能を有していた(図3A)(注入前細胞溶解、20.5%;腫瘍浸潤性のT細胞溶解、13.1%;脾臓のT細胞溶解、8.7%)。これに対し、MBBz CAR T細胞は、細胞溶解性機能を保持していた(注入前細胞溶解、18.3%;腫瘍浸潤性のT細胞溶解、37.2%;脾臓のT細胞溶解、22.2%)。選別されたCD4+CAR T細胞は、同様のパターンの結果を実証した。
【0234】
サイトカインレベルも、腫瘍浸潤性及び脾臓のCAR T細胞のエクスビボ刺激に際して測定し、インビボでMSLN+抗原に曝露されたCD4+M28z CAR T細胞についてTh1サイトカイン分泌の低減が観察された。CD4+MBBz CAR T細胞も、Th1サイトカイン分泌の低減を実証したが、これらの細胞は、M28z CAR T細胞と比較した場合、サイトカイン分泌をよりよく保持することができた(図3B)。CD8+T細胞上清は、CD4+T細胞上清と比較して有意に低いレベルのサイトカインを含有していた(以前に観察された知見、Adusumilliらの文献、Science Translational Medicine 6(261):261ra151(2014))。CD8+T細胞も、インビボ抗原曝露に際してサイトカインを分泌する低減した能力を有していた;CD8+MBBz CAR T細胞は、IFN-γを分泌する能力を優先的に保持した。投与後第3日に腫瘍及び脾臓から収穫されたT細胞のmRNAレベルを評価して、GzB、IL-2、及びIFN-γのインビボ発現レベルが、CD4+及びCD8+MBBz CAR T細胞についてはCD8+サブセットにおけるIL-2発現を例外として、ほとんどM28z CAR T細胞についてよりも大きいことが見出された(図3C)。
【0235】
これらの結果は、インビボ抗原曝露の後にメソセリン CAR T細胞が消耗されることを実証する。
【0236】
7.4. MBBz CAR T細胞はインビボで遅延した消耗を示す
インビボで抗原に曝露された、共刺激されたCAR T細胞における細胞溶解性機能及びエフェクターサイトカイン分泌の両方の阻害が実証されたので、反復的な抗原刺激は、慢性感染のモデルと同様に、T細胞阻害において役割を果たし得ること、及び反復的な抗原遭遇に際して機能を保持する異なる能力が、MBBz CAR T細胞の増強された有効性を説明する可能性があること、が推論された。したがって、Mz、M28z、及びMBBz CAR T細胞を、インビトロモデルシステムにおける反復的な抗原遭遇に逆らう能力について試験し、ここで、細胞は、MSLN+抗原刺激に際しての増殖、細胞溶解性機能、及びサイトカイン分泌について7日ごとに評価した。M28z及びMBBz CAR T細胞は、一連のMSLN+刺激に際して拡大する同様の能力を有しており、Mz CAR T細胞の場合の14倍大きいレベルまで拡大した;それらは、第3回目の刺激の後に、拡大する能力を喪失した(図4A)。MBBz及びM28z CAR T細胞の両方が、反復的な抗原刺激に際して細胞溶解性機能を喪失したが、MBBz CAR T細胞は、溶解機能をよりよく保持することができた。溶解は、第1回目の刺激ではこの3つのT細胞群間で等しかった一方、第3回目の刺激によって、M28z溶解機能は、MBBz CAR T細胞が複数のE:T比で増強された腫瘍溶解を有したように、より著しいレベルに阻害された(図4B、右)。第3回目の刺激での溶解機能(CD107a発現を測定する脱顆粒アッセイによって評価したもの)は、クロム放出アッセイの結果と相関した(図4C)。
【0237】
次に、Th1サイトカイン分泌を測定した。M28z及びMBBz CAR T細胞間で同様のレベルが第1回目の刺激で記され、同様に、各々の刺激と共に連続的な低減が記された。細胞傷害性と同じように、MBBz CAR T細胞は、サイトカイン分泌を優先的に保持した;サイトカイン濃度は、第1回目及び第2回目の刺激を比較した場合、M28zについては>30倍も低減し、MBBz CAR T細胞についてはおよそ2倍のみであった(図4D)。サイトカイン産生における差異は、第2回目の刺激でのサイトカインの細胞内レベルを測定することによって確認された。抗原刺激時のCAR T細胞の逆転写酵素PCR分析は、MBBz CAR T細胞が、M28z CAR T細胞と比較して、消耗及び阻害のより低いレベルと相関するマーカーを発現したことを解明した;MBBz CAR T細胞は、より高いレベルのTbet及びEomesodermin、及びより低いレベルのPD1及びFoxP3を発現した(図5)。腫瘍抗原に既に曝露された持続しているCAR T細胞のインビボ機能を試験した。定量的持続性は、M28z及びMBBz CAR T細胞間で等しいが、MBBz CAR T細胞は腫瘍再負荷に際して増強された機能を実証するだろうと考えられた。確立されたMSLN+胸膜腫瘍を有するマウスに、胸膜内で、M28z又はMBBz CAR T細胞(用量は1×105、E:T比1:3000)を投与し、胸膜腫瘍を根絶した(図4E)。初回T細胞注射の20日後に、生存者の胸膜腔にMSLN+腫瘍細胞(1×106)を注射することにより、腫瘍再負荷を実施した;腫瘍負担は、BLIを使用してモニタリングした。持続しているMBBz CAR T細胞は、腫瘍負担をよりよくコントロールすることができた(4匹中4匹のMBBz処理マウスが、ベースラインレベルでBLIシグナルを有していたのに対し、M28z処理マウスは4匹中2匹)(図4E)。
【0238】
これらの結果は、MBBz CAR T細胞がインビボで遅延した消耗を示すことを実証する。
【0239】
7.5. 腫瘍細胞PD-L1は、メソセリンCAR T細胞エフェクター機能を阻害する
CAR T細胞はインビボで腫瘍環境によって阻害されること、及びMBBz CAR T細胞は、少なくとも部分的にそれらの、反復的な抗原遭遇に際して機能を保持する能力により(上記を参照されたい)、この阻害をよりよく克服することができることが確立されたことから、このモデルにおいて阻害性レセプター及びリガンド経路が果たす役割を評価することを、次に探索した。腫瘍浸潤性のT細胞を、M28zで処理した腫瘍進行を有するマウスにおいて、周知の阻害経路の発現について染色した。PD-1、Tim-3、及びLAG-3の高レベルの発現が見出された(図6A)。投与6日後に収穫された腫瘍浸潤性のMBBz CAR T細胞は、阻害性レセプターのアップレギュレーションも同様に実証したが、それらは、タンパク質レベル及びmRNAレベルの両方で有意に低いレベルのPD-1レセプターを発現した(図6B~D)。CD4+T細胞は、CD8+T細胞と比較して、より高いレベルのPD-1を発現した。M28z及びMBBz CAR T細胞の両方の有意な画分が、PD-1及びLAG-3又はPD-1及びTim-3を共発現することも観察され、複数の阻害性経路が同時に機能している可能性があることが示唆された(図7)。次に、腫瘍に発現されるリガンド:PD-L1及びPD-L2(PD-1のためのリガンド)、ガレクチン-9(Tim-3のためのリガンド)、及びMHCクラスII(LAG-3のためのリガンド)を評価した。PD-1リガンドのみが、M28z CAR T細胞の胸膜内投与後に収穫された胸膜腫瘍細胞上で発現された(図6E)。他で報告されているように(McGrayらの文献、Mol. Ther. 22(1):206-218(2014);Sprangerらの文献、Science Translational Medicine 5(200):200ra116(2013))、(図1及び4におけるT細胞によって分泌されるものと同様の濃度で)IFN-γ及びTNF-αを用いる腫瘍細胞の共培養は、同様のレベルの、腫瘍細胞上でのPD-L1及びPD-L2発現のアップレギュレーションをもたらし(図6F)、免疫攻撃に抵抗するための腫瘍細胞の適応を反映する(「適応免疫抵抗性」)。インビボでのPD-1レセプター及びリガンドの両方の発現の特有の存在は、この経路が、有意な阻害性の役割を果たす可能邸があることを示唆する。
【0240】
いくつかの研究が、共刺激は、PD-1によって阻害を克服するのに十分であり得ることを示唆してきたように(Carterらの文献、Eur. J. Immunol. 32(3):634-643(2002);Freemanらの文献、J. Exp. Med. 192(7):1027-1034(2000);Koehlerらの文献、Cancer Res. 67(5):2265-2273(2007))、過剰発現されたPD-L1はPD-L1媒介性免疫阻害のインビトロモデルにおいてCAR T細胞機能を阻害することができるか否か(MSLN単独(MSLN+)、又はMSLN及びPD-L1の両方(MSLN+PD-L1+)を用いて形質導入された3T3マウス線維芽細胞を使用した)を、次に評価した(図8A)。M28z及びMBBz CAR T細胞の両方において、PD-L1過剰発現は、連続する刺激(図8B)及びTh1エフェクターサイトカイン分泌(図8D)に際して低減した蓄積をもたらした。腫瘍細胞溶解は、初回刺激に際して阻害されなかったものの、MSTO MSLN+腫瘍細胞に対して、2回の刺激の後に標的として3T3sを使用して実施したアッセイクロム放出アッセイは、M28z及びMBBz CAR T細胞の両方において低減した溶解機能、M28z CAR T細胞におけるより高い程度の低減を実証する(図8C)。この結果は、MSTO MSLN+腫瘍細胞に対する曝露の後にM28z及びMBBz CAR T細胞上でのPD-1の差次的アップレギュレーションによるものである可能性がある。
【0241】
これらの結果は、腫瘍細胞PD-L1がメソセリンCAR T細胞エフェクター機能を阻害することを実証する。
【0242】
7.6. 細胞内因性PD-1抵抗性はインビボでM28z CAR T細胞機能をレスキューする
上記の結果は、PD-1経路が、腫瘍媒介性免疫阻害の機能しているメカニズムであること、及び反復的な抗原刺激後のPD-1アップレギュレーションが、CAR T細胞有効性を低減させることを示す。したがって、チェックポイント遮断は、CD28共刺激性シグナリングと組合わされた。ゴールは、全身的に投与される抗体の反復的な投薬に頼らないCAR T細胞特異的チェックポイント遮断を提供することであったので、本研究は、免疫阻害を克服する遺伝子組換え方法に焦点を合わせた。CD8膜貫通ドメインに融合されたレセプターの細胞外リガンド結合ドメインを含むPD-1ドミナントネガティブレセプター(DNR)を構築した。PD-1 DNRはいかなるシグナリングドメインも欠いているので、十分に過剰発現されたレセプターは、PD-1リガンドを飽和させ、それによって内在性PD-1レセプターを通じてのシグナリングを遮断することによって、T細胞有効性を増強するだろうと考えられた。M28z CAR T細胞を、P2AエレメントによってmCherryレポーターに連結されたPD-1 DNR(PD-1 DNR)、又はこのレポーターのみを含有する空のベクター(EV)のいずれかを用いて共形質導入した(図9A)。PD-1 DNRを用いて共形質導入されたM28z CAR T細胞は、わずかであるが統計的に有意な増殖能力の利点(図9B)、複数のE:T比で増強された細胞傷害性(図9C)、ならびに増加したレベルのIL-2及びIFN-γ分泌(図9D)を有していた。
【0243】
次に、遺伝子組換えされたPD-1抵抗性を有する共形質導入されたM28z CAR T細胞の胸膜内投与が、インビボで利点を提供するであろうか否かを評価した。確立された胸膜のMSLN+を発現する腫瘍を有するマウスに、単回の胸膜内用量の5×104個の CAR+ M28z EV又はM28z PD-1 DNR T細胞を投与し、治療応答を、腫瘍負担測定(一連のBLIを使用するもの)及び生存中央値によってモニタリングした。M28z PD-1 DNR T細胞で処理されたマウスは、有意に増強された腫瘍負担コントロール、及び遷延された生存中央値を有していた(図9E);しかし、数匹のマウス(7/16、44%)のみが、長期間、無腫瘍で生存し、克服しなければならない免疫阻害の重複性のメカニズムがあることが示唆された。この実験におけるマウス(M28z PD-1 DNR)のコホートは、反復的な腫瘍再負荷にもかかわらず、450日を超えて生存し、PD-1 DNRを形質導入されたCAR T細胞の「機能的持続性」が実証された。これらの結果は、50,000個のCAR T細胞の注射を用いて、大量の腫瘍負担が根絶されたのみでなく、15か月を超えての複数回の腫瘍再負荷にもかかわらず腫瘍再発が防止されたことを実証する。
【0244】
PD-1媒介性免疫阻害を克服するための代替的な遺伝学的戦略を調べるために、M28z CAR T細胞を、PD-1を標的とするshRNAsを発現するベクター(図10A)であって、タンパク質レベルで>60%のPD-1レセプターのノックダウンを生成するベクター(図10B)を用いて共形質導入した。M28z CAR T細胞において、PD-1 shRNAsを用いた共形質導入は、非哺乳類遺伝子(M28z KanR)を標的化するshRNAを用いた共形質導入と比較して、MSLN+抗原刺激の際の増殖機能を増強し(図10C)、細胞傷害性を増加させ(図10D)、及び中皮腫細胞又はMSLN+PDL1+3T3マウス線維芽細胞を用いた刺激に際してのサイトカイン分泌を増強した(図10E)。M28z PD-1 shRNAで形質導入されたT細胞は、M28z KanR T細胞よりも大きいインビボ腫瘍拒絶有効性を達成しなかったが、ノックダウンのレベルがインビトロよりインビボで有意に低かったことは注目に値する。かくして、PD1 DNRは、RNA干渉アプローチよりもインビボで効果的な戦略であることが証明された。
【0245】
これらの結果は、細胞内因性のPD-1抵抗性がインビボでM28z CAR T細胞機能をレスキューすることを実証する。
【0246】
7.7 PD-1 DNRはPD-L1及びPD-L2の両方に効率的に結合する
PD-1 DNRの、そのリガンドであるPD-L1及びPD-L2への結合を試験するために、mCherryで標識され、PD-1 DNRを用いて形質導入されたT細胞を、Fcに融合されたPD-L1(「PD-L1 Fc」)、Fcに融合されたPD-L2(「PD-L2 Fc」)、又はコントロールのアイソタイプFc(「iso Fc」)でコーティングされたプレートに曝露した。ヒトT細胞は、本質的に7.6の章において記載されているように、mCherry構築物を用いて形質導入し、T細胞をmCherryで標識した。PD-L1 Fc融合物、PD-L2 Fc融合物、及びコントロールFcは、市販のものを購入した。
【0247】
PD-L1 Fc融合タンパク質、PD-L2 Fcタンパク質、又はコントロールのアイソタイプFcでコーティングされたプレートを、mCherry標識T細胞単独、PD-1抗体の存在下のmCherry標識T細胞、PD-1 DNRで形質導入されたmCherry標識T細胞、及びPD-1抗体の存在下のPD-1 DNRで形質導入されたmCherry標識T細胞に曝露した。
【0248】
図11に示すように、mCherryを有し、PD-1 DNR形質導入されていないコントロールT細胞と比較して、PD-1 DNRで形質導入されたT細胞は、PD-L1及びPD-L2の両方に効率的に結合した。これらの結果は、PD-1 DNRがPD-L1及びPD-L2の両方に結合することを実証する。いくらかの腫瘍細胞はPD-L1又はPD-L2のいずれかを発現するので、及びいくらかの免疫細胞(T細胞及びマクロファージのような非T細胞など)はPD-L1又はPD-L2のいずれかを発現するので、PD-1 DNRがPD-L1及びPD-L2の両方に結合することは重要である。かくして、PD-1 DNRで形質導入されたT細胞は、PD-L1及びPD-L2の両方を中和することができる。
【0249】
7.8 PD-1 DNRへの細胞内4-1BBシグナリングの追加はCAR T細胞効率を改善する
T細胞活性化のPD-L1又はPD-L2媒介性阻害を阻害するPD-1 DNRは、陽性共刺激性シグナルに変換されることができる。ヒトT細胞を、CD28及びCD3zetaドメイン(M28z)を有するメソセリン特異的(MSLN特異的)CARを用いて形質導入した(上記の7.2の章のm28zの記載も参照されたい)。PD-1/PD-L1阻害に対抗するために、細胞内因性遺伝子組換え戦略は、スイッチレセプターとも呼ばれる、4-1BB細胞内シグナリングドメインに融合された膜貫通ドメインに融合された、PD-1ドミナントネガティブレセプター(PD-1 DNR)を用いてM28z CAR T細胞を共形質導入することにより、評価した。
【0250】
図12Aは、CAR及びPD-1 DNRの共発現を説明する模式図である。図12Aの下部は、標的細胞上で抗原に結合するCARを発現するT細胞を表し、腫瘍細胞抗原メソセリン(MSLN)を発現する腫瘍細胞として図12Aに例示されている。腫瘍細胞抗原特異的CARを発現するT細胞の、腫瘍細胞抗原を発現する腫瘍細胞への結合は、T細胞の活性化をもたらす。PD-1 DNRの共発現は、野生型PD-1へのPD-L1又はPD-L2の結合によって媒介される免疫チェックポイント阻害剤経路を阻害する。図12Bは、CAR及びPD-1 DNRの共発現を説明する模式図を示し、ここで、PD-1 DNRは、4-1 BBとして例示される共刺激性分子を、PD-1のリガンド結合ドメインに融合された膜貫通ドメイに融合することによって、共刺激性構築物に変換されている。このような構築物は、本明細書においてスイッチレセプター(Liuらの文献、Cancer Res. 76:1578-1590(2016)を参照されたい)と呼ばれる構築物の例である。4-1BBドメインは、T細胞活性化のための第二の共刺激性シグナルとして作用する。
【0251】
ヒトT細胞は、M28z CAR、M28z CAR及びPD-1 DNRの両方、又はM28z CAR及びPD-1/4-1BBスイッチレセプター構築物の両方を用いて形質導入した。形質導入細胞を抗原刺激し、培養におけるT細胞蓄積について分析した。図12Cに示すように、M28z CAR T細胞の蓄積は、第7日に増大し、この蓄積は、M28z CARを発現するT細胞がPD-1 DNR又はPD-1/4-1BBスイッチレセプター構築物を用いて共形質導入されている場合に増強された。
【0252】
図12Dは、M28z CAR、M28z CAR及びPD-1 DNRの両方、又はM28z CAR及びPD-1/4-1BBスイッチレセプター構築物の両方を用いて形質導入されたヒトT細胞における、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン2(IL-2)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)及び顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)のサイトカイン分泌を示す。サイトカイン分泌アッセイは、本質的に7.1の章で記載のとおりに実施した。図12Dに示すように、IFN-γ、IL-2、TNF-α及びGM-CSFの分泌は、M28z CARを発現する細胞、又はM28z CAR及びPD-1 DNRを共発現する細胞において観察されたサイトカイン分泌に対して、M28z CAR及びPD-1/4-1BBスイッチレセプター構築物を発現する細胞において増強された。これらの結果は、PD-L1(又はPD-L2)阻害が、T細胞に、PD-1/4-1BBスイッチレセプター構築物をM28z CARと共に共形質導入することによって、陽性共刺激性シグナルに変換され、増強されたサイトカイン分泌及びT細胞蓄積をもたらすことができることを実証する。
【0253】
7.9. 実験結果の概観及び考察
上記で記載されているように、CAR T細胞療法及びPD-1チェックポイント遮断は、固形腫瘍モデルにおいて合理的な組合わせであることが実証されてきた。インビトロ及びエクスビボ刺激アッセイは、メソセリンCAR T細胞機能に対するPD-1/PD-L1阻害のインパクトを評価するために実施した。PD-1媒介性阻害に直接対抗するために、レトロウイルスベクターを使用して、CAR媒介性共刺激をPD-1 DNRと組み合わせた。この組み合わせの戦略(共刺激及びチェックポイント遮断)によって提供される最適なシグナリングは、腫瘍にコードされたPD-L1発現の存在下でT細胞機能を増強し、単回の低用量のCAR T細胞の後に長期間の無腫瘍の生存をもたらす。これらの研究は、養子T細胞療法の臨床的実務に適切であり、以下の理由のために直ちに移行可能である:(1)試験された共刺激性シグナリングドメイン、CD28及び4-1BBは、進行中の臨床治験において使用された2つの共刺激性ドメインである(NCT02414269、 NCT02159716、 NCT01583686)、(2)胸膜中皮腫のモデルは、ヒト疾患を再現しており、大きい、臨床的に関連のある、T細胞消耗の関連性を解明する腫瘍負担を使用する(Adusumilliらの文献、Science Translational Medicine 6(261):261ra151(2014);Servaisらの文献、Clin. Cancer Res. 18(9):2478-2489(2012);Servaisらの文献、「薬理学の最近のプロトコール」(Current Protocols in Pharmacology), Enna編, 14章(ユニット14 21), John Wiley & Sons(2011);Servaisらの文献、PLoS One 6(10):e26722(2011))、及び(3)遺伝的にコードされたチェックポイント遮断によってCAR T細胞を強化する戦略は、診療所において容易に適用することができるヒト配列を使用する(Adusumilliらの文献、Science Translational Medicine 6(261):261ra151(2014);Fengらの文献、Mol. Cancer Ther. 8(5):1113-1118(2009))。
【0254】
M28z CAR T細胞におけるPD-1の比較的高い発現は、CD28刺激CAR T細胞に焦点を合わせることにつながった。この分析に基づいて、遺伝的戦略を、PD-1ドミナントネガティブレセプター(PD-1 DNR)、及びPD-1を標的化するshRNAsの作製のように、PD-1阻害性シグナリングに対抗するために遂行した。十分なレベルで発現された場合、PD-1 DNRは、PD-1リガンド(PD-L1及びPD-L2)との結合について内在性PD-1レセプターと競合する。PD-1 DNRと共形質導入されCD28で共刺激されたT細胞は、増強されたインビトロT細胞機能及びインビボT細胞有効性を実証し、腫瘍モデルにおいて腫瘍細胞がCAR T細胞を避ける有意なメカニズムとしてPD-1シグナリングを示唆した。PD-1を標的化するshRNAsについて、インビトロ有効性のみが実証されたが、インビボ有効性の不存在は、複数回のインビボ抗原遭遇後に誘導された高ボリュームのPD-1転写物によるshRNAの仕組みの飽和に関連する可能性が高く、これは、PD-1ノックダウンはインビトロよりもインビボで有意に低かったという知見によって支持される結論である。上記で記載した知見は、腫瘍媒介性免疫阻害に抵抗するように遺伝子組換えされた、養子移入されたT細胞の治療的有用性を指す。TGF-βを標的とするDNRは、前臨床モデルにおいて検証されており、現在、臨床治験において試験されている(Fosterらの文献、J. Immunother. 31(5):500-505(2008);Bollardらの文献、Blood 99(9):3179-3187(2002))。
【0255】
他者はT細胞療法をPD-1ブロッキング抗体とインビボ又はインビトロで組み合わせてきたが、上記の実験において記載された共阻害性遮断についての遺伝的戦略の追加は、(1)抗体の反復的な投与に対する依存性、及び(2)免疫関連有害事象の発生を含む、抗体療法を限定するいくつかの主要な障壁を克服する。その場合、T細胞療法が、抗体療法に対して利点を有するのは、それが、阻害に対する抵抗性についてプログラムされたT細胞の長期的生着を単一用量の後に確立することができるため、及びそれが、腫瘍標的化T細胞レパートリーに限定された阻害性経路の遮断を提供し、そのことがより広く適用される抗体チェックポイント遮断からもたらされる自己免疫性を限定し得るためである。さらに、PD-L1ブロッキング抗体はおそらくM28z及びM28z PD-1 DNR CAR T細胞の有効性をさらに遷延し得ることが可能である。
【0256】
上記で記載された研究は、CAR T細胞の原因となる阻害性メカニズムのひとつを同定し、免疫阻害に逆らうための共刺激性戦略の能力における差異を強調した。他の阻害性経路も、T細胞機能を潜在的に限定するように機能し得る。PD-1 DNRが共形質導入されたM28z CAR T細胞を用いて治療されたマウスのある比率が腫瘍進行により死亡したことは、他の阻害性メカニズムの作用を示唆する。さらに、慢性感染に関する文献は、細胞に内因性及び細胞に外因性の両方の、阻害の他のメカニズムの存在を示唆し、それらは腫瘍標的化T細胞療法において評価されている(Moonらの文献、Clin. Cancer Res. 20(16):4262-4273(2014);Rieseらの文献、Cancer Res. 73(12):3566-3577(2013))。阻害性シグナリングに関するさらなる研究は、腫瘍免疫逃避において重要な役割を果たすことが示されている、ミエロイド由来サプレッサー細胞及び内在性T細胞のようなエレメントを含む免疫適格性モデルを使用することができる。
【0257】
上記で記載された結果は、CAR T細胞エフェクター機能の腫瘍媒介性阻害の重要性を確立した。T細胞エフェクター機能の包括的な分析を実施することによって、共刺激されたCAR T細胞は、増強された持続性を実証するものの、反復的な抗原遭遇に際して、インビトロ及び腫瘍微小環境内の両方で阻害の対象となることが確立された。記載された結果は、CAR T細胞療法が、阻害性シグナリングに対抗するために使用でき、最適な共刺激を提供し、及びPD-1のような阻害性シグナルに直接対抗するシグナリングドメインを操作するための柔軟性を提供することを実証する。さらに、進行中のCAR T細胞療法臨床治験において、T細胞浸潤を示すが限定的な臨床的応答を示す患者において、CAR T細胞療法の後にPD-1/PD-L1遮断を組合わせることは、CAR T細胞療法の有効性を改善するために利用することができる。臨床治験から獲得された知見及び本明細書において提示される戦略は、CAR T細胞を使用する免疫療法の方法を改善するために非常に価値があり、これは、特に固形腫瘍の療法のために使用される。かくして、上記で記載された結果は、CAR T細胞療法の有効性を改善するために臨床的場面で適用することができる方法を例示する。
【0258】
上記で記載されているように、低レベル腫瘍浸潤がモデル化されて、CAR T細胞は腫瘍細胞媒介性免疫阻害の影響を受けられ、損なわれたT細胞機能及び減少した腫瘍拒絶をもたらすことができることが見出された。PD-1シグナリングに抵抗するように操作されたT細胞は、増強された抗腫瘍強度を呈した。進行腫瘍の単一の低用量CAR T細胞療法の後、CAR T細胞に分泌されたサイトカインに応答して、腫瘍細胞が、CAR T細胞阻害及び腫瘍再発をもたらすPD-L1をアップレギュレートすることが観察された。PD-L1媒介性免疫抑制を直接克服するために、細胞内阻害性シグナリングドメインを欠いたPD-1ドミナントネガティブレセプター(PD-1 DNR)を設計した。PD-1 DNRとCARとの共形質導入は、CAR T細胞機能を増強し、単一の低用量のCAR T細胞の後に、長期間の無がんでの生存をもたらした。免疫チェックポイント経路レセプターDNRとCARとの共発現は、DNRはCAR機能の阻害又は毒性の付加なしに任意のCARに付加することができるので、直ちに診療所に移行することができる。特定の理論に拘束されることなしに、DNRは、単に、その相当するリガンド(たとえば、PD-1の場合のPD-L1)によって誘導されたネガティブシグナルに結合し(消費し)、下流へのシグナリングを回避すると考えられている。
【0259】
CAR及び免疫チェックポイント阻害剤のドミナントネガティブ形態を発現する免疫細胞の有効性は、細胞内共刺激性シグナリングドメインが、PD-1のような免疫チェックポイント阻害剤の細胞外リガンド結合ドメインに融合された膜貫通ドメインに融合されている、スイッチレセプターの発現によっても増強させることができる。上記で記載された結果は、4-1BBの細胞質ドメインに融合された膜貫通ドメインに融合されたPD-1細胞外ドメインの発現が、サイトカイン産生を増大し、CAR T細胞の蓄積を増大したことを示す。CARを発現する免疫細胞におけるスイッチレセプターの発現は、免疫療法のための免疫細胞の有効性を改善することができる。代替的に、スイッチレセプターは、CARなしで細胞において発現させることができ、この場合、このスイッチレセプターは、ドミナントネガティブとして機能する。CAR及びスイッチレセプターを発現する免疫細胞は、このような免疫細胞を使用する免疫療法の有効性を増強するために、免疫チェックポイント阻害剤のドミナントネガティブ形態(共刺激性シグナリングドメインを含有せず、そのためスイッチレセプターではないもの)を発現する免疫細胞と共に、又はCAR及び免疫チェックポイント阻害剤のドミナントネガティブ形態(共刺激性シグナリングドメインを含有せず、そのためスイッチレセプターではないもの)を共発現する細胞と共に、同時に又は連続的に、投与することができる。
【0260】
8. 引用した参考文献
本明細書において引用されたすべての参考文献は、各々の個別の刊行物又は特許又は特許出願が参照によりその全体がすべての目的のために取り込まれると具体的に及び個別に示されていたのと同じ程度に、それらの全体がすべての目的のために参照により本明細書に取り込まれる。
【0261】
当業者には明らかであるように、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の多くの改変及び変形を行うことができる。本明細書において記載される具体的な実施態様は、例示としてのみ提案されており、本発明は、添付の特許請求の範囲と、そのような特許請求の範囲に与えられている等価物の全範囲とによってのみ、限定されるものとする。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B-C】
図9D
図9E
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
【配列表】
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