(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子、リチウムイオン二次電池負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20220816BHJP
【FI】
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2019038586
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2018045426
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】北川 知己
(72)【発明者】
【氏名】間所 靖
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第97/018160(WO,A1)
【文献】特開2016-225287(JP,A)
【文献】特開2017-117799(JP,A)
【文献】特開平08-180868(JP,A)
【文献】特許第4765109(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧して加圧黒鉛質粒子を得る加圧処理工程、
前記加圧処理工程で得られた加圧黒鉛質粒子と40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体とを混合する第一混合工程、
前記第一混合工程で得られた混合物と軟化点が200~330℃の炭素質前駆体とを混合する第二混合工程、および
前記第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する焼成工程
を備える、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法
であって、
前記球状および/または楕円体状の黒鉛粒子の合計100質量部に対して、前記40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体を炭素化して得られる炭素質が1.5~4質量部であり、前記軟化点が200~330℃の炭素質前駆体を炭素化して得られる炭素質が2~7質量部であり、かつ、前記40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体を炭素化して得られる炭素質および前記軟化点が200~330℃の炭素質前駆体を炭素化して得られる炭素質の合計が4~10質量部であり、
前記リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子が、球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧してなる加圧黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部が炭素質で被覆された炭素質被覆黒鉛質粒子であって、
以下の(a)~(d)に掲げる条件をすべて満足する、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子である、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法。
(a)前記炭素質の被覆量が、前記黒鉛粒子の合計100質量部に対して、4~10質量部である
(b)BET法によって測定した比表面積が1.5m
2
/g以下である
(c)水銀圧入法によって測定した細孔径1.1μm以下の細孔容積が0.028mL/g未満である
(d)元素分析法によって測定した酸素濃度が10ppm以下である
【請求項2】
前記焼成工程が、
前記第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する第一焼成工程、および
前記第一焼成工程で得られた焼成物を非酸化性雰囲気で焼成する第二焼成工程
を含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法。
【請求項3】
球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧して加圧黒鉛質粒子を得る加圧処理工程、
前記加圧処理工程で得られた加圧黒鉛質粒子と40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体とを混合する第一混合工程、
前記第一混合工程で得られた混合物と軟化点が200~330℃の炭素質前駆体とを混合する第二混合工程、および
前記第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する焼成工程
を備える、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法
であって、
前記焼成工程が、
前記第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する第一焼成工程、および
前記第一焼成工程で得られた焼成物を非酸化性雰囲気で焼成する第二焼成工程
を含み、
前記リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子が、球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧してなる加圧黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部が炭素質で被覆された炭素質被覆黒鉛質粒子であって、
以下の(a)~(d)に掲げる条件をすべて満足する、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子である、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法。
(a)前記炭素質の被覆量が、前記黒鉛粒子の合計100質量部に対して、4~10質量部である
(b)BET法によって測定した比表面積が1.5m
2
/g以下である
(c)水銀圧入法によって測定した細孔径1.1μm以下の細孔容積が0.028mL/g未満である
(d)元素分析法によって測定した酸素濃度が10ppm以下である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子、リチウムイオン二次電池負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は携帯電子機器に広く搭載されており、今後はハイブリッド自動車や電気自動車への利用も期待される。このような状況の中で、リチウムイオン二次電池にはいっそうの高容量、高速充放電特性、サイクル特性が要求されている。
リチウムイオン二次電池は、負極、正極、および非水電解質を主たる構成要素としており、リチウムイオンが放電過程および充電過程で負極と正極との間を移動することで二次電池として作用する。現在、上記負極材料には黒鉛が広く用いられている。黒鉛は天然黒鉛と人造黒鉛に大別される。天然黒鉛は結晶性が高く容量が高いという利点を有するが、鱗片形状ゆえ電極内で粒子が一方向に配向してしまい、高速充放電特性やサイクル特性に劣るという欠点があった。
これを補うために、鱗片形状の黒鉛を球状に加工し、さらに表面被覆処理を施した材料が多く提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、天然黒鉛をバインダーを用いて球状に造粒成形して得た黒鉛粒子にバインダーピッチを添加し、加熱混合した後、非酸化性雰囲気で800~1400℃で焼成することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法が開示されている。
また、特許文献2では、天然黒鉛を炭素質前駆体と混合し、酸化性雰囲気中で300~700℃で焼成した後、非酸化性雰囲気中で700~2000℃で焼成することを特徴とする炭素質黒鉛粒子の製造方法が開示されている。
また、特許文献3では、黒鉛性炭素質物と有機化合物とを混合する工程、得られた黒鉛性炭素質物と有機化合物との混合物を加熱処理して該有機化合物を炭素化する工程、得られた複合炭素質物に有機化合物を混合する第二次混合工程、第二次混合工程の混合物を加熱処理して該有機化合物を炭素化する第二次炭素化工程を含むことを特徴とする電極用炭素材料の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-031038号公報
【文献】特開2014-167906号公報
【文献】特開2004-063457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法では、炭素被覆量を増やすと粒子が融着し、解砕工程が必要となり、前記解砕面は電解液との反応活性が高く、その結果として充放電効率やサイクル特性の低下を招くという問題があった。また電極作製時のバインダーとしてポリフッ化ビニリデンを用いた場合に、電極の剥離強度が著しく低下するという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載された炭素質黒鉛粒子の製造方法では、酸化性雰囲気で処理することで電極剥離強度の改善は認められたが、酸素は電解液と反応することから充放電効率が低下するという問題があった。
【0007】
また、特許文献3に記載された炭素材料の製造方法では、電極剥離強度の改善は十分ではなく、放電容量や初回充放電効率も十分ではなかった。
【0008】
すなわち、リチウムイオン二次電池負極材料に用いた場合に、優れた剥離強度および電池特性(高い放電容量および高い初回充放電効率(初期効率))の両立を達成することができる負極材料は提供されていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、優れた電極剥離強度および電池特性を得ることができるリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子、リチウムイオン二次電池負極およびリチウムイオン二次電池を提供することを課題とする。
【0010】
なお、本発明において優れた電池特性とは、高い放電容量及び高い初回充放電効率をいう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧して加圧黒鉛質粒子を得る加圧処理工程、加圧処理工程で得られた加圧黒鉛質粒子と40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体とを混合する第一混合工程、第一混合工程で得られた混合物と軟化点が200~330℃の炭素質前駆体とを混合する第二混合工程、および第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する焼成工程を備える、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法によれば、優れた電極剥離強度および電池特性を得ることができるリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子を提供できることを知得し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、次の[1]~[6]である。
[1] 球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧して加圧黒鉛質粒子を得る加圧処理工程、
上記加圧処理工程で得られた加圧黒鉛質粒子と40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体とを混合する第一混合工程、
上記第一混合工程で得られた混合物と軟化点が200~330℃の炭素質前駆体とを混合する第二混合工程、および
上記第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する焼成工程
を備える、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法。
[2] 上記焼成工程が、
上記第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する第一焼成工程、および
上記第一焼成工程で得られた焼成物を非酸化性雰囲気で焼成する第二焼成工程
を含む、上記[1]に記載のリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法。
[3] 上記球状および/または楕円体状の黒鉛粒子の合計100質量部に対して、上記40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体を炭素化して得られる炭素質が1.5~4質量部であり、上記軟化点が200~330℃の炭素質前駆体を炭素化して得られる炭素質が2~7質量部であり、かつ、上記40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体を炭素化して得られる炭素質および上記軟化点が200~330℃の炭素質前駆体を炭素化して得られる炭素質の合計が4~10質量部である、上記[1]または[2]に記載のリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法。
[4] 球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧してなる加圧黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部が炭素質で被覆された炭素質被覆黒鉛質粒子であって、
以下の(a)~(d)に掲げる条件をすべて満足する、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子。
(a)上記炭素質の被覆量が、上記黒鉛粒子の合計100質量部に対して、4~10質量部である
(b)BET法によって測定した比表面積が1.5m2/g以下である
(c)水銀圧入法によって測定した細孔径1.1μm以下の細孔容積が0.028mL/g未満である
(d)元素分析法によって測定した酸素濃度が10ppm以下である
[5] 上記[4]に記載のリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子を含むリチウムイオン二次電池負極。
[6] 上記[5]に記載のリチウムイオン二次電池負極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた電極剥離強度および電池特性を得ることができるリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子、リチウムイオン二次電池負極およびリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施例および比較例において電池特性を評価するために作製した評価電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、範囲を「~」を用いて表示した場合、その範囲には「~」の両端を含むものとする。例えば、A~Bという範囲には、AおよびBを含む。
【0016】
[リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法]
本発明のリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」という場合がある。)は、球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧して加圧黒鉛質粒子を得る加圧処理工程、上記加圧処理工程で得られた加圧黒鉛質粒子と40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体とを混合する第一混合工程、上記第一混合工程で得られた混合物と軟化点が200~330℃の炭素質前駆体とを混合する第二混合工程、および上記第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する焼成工程を備える。
【0017】
本発明の製造方法は、加圧黒鉛質粒子と炭素質前駆体との混合を、加圧黒鉛質粒子と40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体(以下「炭素質前駆体(A)」という場合がある。)とを混合する第一混合工程と、上記第一混合工程で得られた混合物と軟化点が200~330℃の炭素質前駆体(以下「炭素質前駆体(B)」という場合がある。)とを混合する第二混合工程の2段階の混合工程を行う点に技術的特徴がある。
加圧黒鉛質粒子を炭素質前駆体(A)で被覆することで、加圧黒鉛質粒子の表面と炭素質前駆体(B)がなじみやすくなり、均一に被覆することができる。もし、炭素質前駆体(A)および炭素質前駆体(B)を混合した溶液を用いたり、加圧黒鉛粒子に炭素質前駆体(A)および炭素質前駆体(B)を同時に混合したりすると、炭素質前駆体(B)に炭素質前駆体(A)が吸われてしまい、加圧黒鉛粒子の表面を炭素質前駆体で均一に被覆することができなくなる。その結果、電極剥離強度が十分でなくなったり、放電容量および/または初回充放電効率が低下することとなる。
【0018】
ただし、本発明において、炭素質前駆体(A)と炭素質前駆体(B)とは、互いに異なる。例えば、炭素質前駆体(A)および炭素質前駆体(B)が、ともに、40℃での粘度が150cP以下、かつ、軟化点が200~330℃である炭素質前駆体(以下「炭素質前駆体(C)」という場合がある。)である場合も、炭素質前駆体(C)の範囲で、炭素質前駆体(A)と炭素質前駆体(B)とは互いに異なる。
40℃での粘度が150cP以下であれば、25℃において液体であり、軟化点が200~330℃であれば、25℃において固体である。
炭素質前駆体(A)が液体状態であれば、炭素質前駆体(B)が良く濡れ、均一に被覆されやすい。
【0019】
以下では、原料である黒鉛粒子、加圧処理工程、第一混合工程、第二混合工程、および焼成工程について詳細に説明する。
【0020】
〈黒鉛粒子〉
原料である黒鉛粒子は、球状および/または楕円体状の黒鉛粒子である。
上記黒鉛粒子は、球状の黒鉛粒子、楕円体状の黒鉛粒子、およびこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種であり、好ましくは球状の黒鉛粒子である。上記黒鉛粒子として、球状の黒鉛粒子および楕円体状の黒鉛粒子の混合物を使用する場合、その混合比(質量比または体積比等)は特に限定されない。
【0021】
上記黒鉛粒子は、天然黒鉛粒子、人造黒鉛粒子またはこれらの混合物であってもよいが、結晶性が高いなどの理由から、好ましくは天然黒鉛粒子である。
【0022】
上記黒鉛粒子としては、市販品の球状および/または楕円体状に加工された天然黒鉛粒子を用いてもよい。また、球状および/または楕円体状以外の形状の天然黒鉛を造粒球状化して用いてもよい。例えば、天然の鱗片状黒鉛を、機械的外力で造粒球状化して球状黒鉛粒子として用いることができる。
【0023】
鱗片状黒鉛を球状および/または楕円体状に加工する方法は、例えば、接着剤や樹脂などの造粒助剤の共存下で複数の鱗片状黒鉛を混合する方法、複数の鱗片状の黒鉛に接着剤を用いずに機械的外力を加える方法、両者の併用などが挙げられ、造粒助剤を用いずに機械的外力を加えて球状に造粒する方法(例えばメカノケミカル法)が最も好ましい。
【0024】
ここで、機械的外力とは、機械的に粉砕および造粒することであり、鱗片状黒鉛を造粒して球状化することができる。鱗片状黒鉛の粉砕装置としては、例えば、加圧ニーダー、二本ロールなどの混練機、回転ボールミル、カウンタジェットミル(ホソカワミクロン(株)製)カレントジェット(日清エンジニアリング(株)製)などの粉砕装置が使用可能である。
上記粉砕品は、その表面が鋭角な部分を有しているが、粉砕品を造粒球状化して使用しても良い。粉砕品の造粒球状化装置としては、例えば、GRANUREX(フロイント産業(株)製)、ニューグラマシン((株)セイシン企業製)、アグロマスター(ホソカワミクロン(株)製)などの造粒機、ハイブリダイゼーション((株)奈良機械製作所製)、メカノマイクロス((株)奈良機械製作所製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン(株)製)などのせん断圧縮加工装置が使用可能である。
【0025】
(黒鉛粒子の平均粒子径)
上記黒鉛粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは1μm~50μmであり、より好ましくは3μm~30μmであり、いっそう好ましくは5μm~25μmである。
上記黒鉛粒子の平均粒子径がこの範囲内であると、剥離強度、初回充放電効率ともに高くなる。
なお、上記黒鉛粒子の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(例えばLMS2000e,(株)セイシン企業製)により測定した上記黒鉛粒子の粒度分布の累積度数が、体積百分率で50%となる粒子径(メジアン径、50%粒子径)である。
【0026】
〈加圧処理工程〉
加圧処理工程は、球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧して加圧黒鉛質粒子を得る工程である。
【0027】
(圧力)
加圧処理の際の圧力は、特に限定されないが、好ましくは10MPa~500MPaであり、より好ましくは50MPa~300MPaであり、さらに好ましくは100~300MPaであり、いっそう好ましくは200~300MPaである。
加圧処理の際の圧力がこの範囲内であると、最終的に得られる炭素質被覆黒鉛質粒子のBET比表面積および水銀圧入法によって測定した細孔径1.1μm以下の細孔容積がより小さくなり、電極の剥離強度がより良好なものとなる。
【0028】
(方向性)
加圧処理の際の方向性は、特に限定されず、異方的または等方的に行うことができる。
異方的な加圧処理とは、黒鉛粒子を所定の容器に入れるなどして、圧力を特定の方向に掛けることをいう。圧力を掛ける方向は、特に限定されないが、好ましくは一方向または二方向からの加圧である。異方的な加圧処理の方法は特に限定されず、例えば、金型プレス、ロールプレスなどが挙げられる。
等方的な加圧処理とは、例えば、ガス、液体などの加圧媒体を用いて等方的に圧力をかけることをいう。等方的な加圧処理の方法は特に限定されず、例えば、冷間等方圧プレス(CIP:Cold Isostatic Press)などが挙げられる。
【0029】
(温度)
加圧処理の際の温度は、特に限定されないが、好ましくは常温(15℃~35℃)である。
【0030】
(加圧黒鉛質粒子)
加圧処理工程において、球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧することによって得られる加圧黒鉛質粒子(以下、単に「加圧黒鉛質粒子」という場合がある。)の粒子内細孔分布は特に限定されないが、水銀圧入法で測定した500nm以下の大きさの細孔容積が0.1mL/g以下であること、または、水銀圧入法で測定した100nm~200nmの大きさの細孔容積が0.02mL/g以下であること、が好ましい。
さらに、水銀圧入法で測定した500nm以下の大きさの細孔容積が0.1mL/g以下であり、かつ、100nm~200nmの大きさの細孔容積が0.02mL/g以下であることがより好ましい。
加圧黒鉛質粒子の細孔容積がこの範囲内であると、負極を作製する際の結着材が細孔に浸透しにくく、電極の剥離強度を向上させることができる。
【0031】
〈解砕処理工程〉
加圧処理工程において、加圧黒鉛質粒子が固着を生じた場合などは、必要に応じて、上述した加圧処理工程の後、かつ、後述する第一混合工程の前に、加圧黒鉛質粒子が固着した塊などを粉砕する解砕工程を備えていてもよい。
【0032】
〈第一混合工程〉
第一混合工程は、上記加圧処理工程で得られた加圧黒鉛質粒子と、40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体(以下「炭素質前駆体(A)」という場合がある。)とを混合する工程である。
本工程により、上記加圧処理工程で得られた加圧黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部が炭素質前駆体(A)で被覆された混合物(以下「炭素質前駆体(A)被覆黒鉛質粒子」という場合がある。)を得る。
【0033】
(炭素質前駆体(A))
上記炭素質前駆体(A)としては、黒鉛に比べて結晶性が低く、黒鉛化するために必要とされる高温処理をしても黒鉛結晶とはなりえない炭素材料であるタールピッチ類であって、40℃で粘度が150cP以下であるものが例示される。40℃での粘度は、100cP以下が好ましく、75cP以下がより好ましく、50cP以下がさらに好ましい。
上記タールピッチ類としては、具体的には、重質油、特にはタールピッチ類としては、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油などが例示される。
【0034】
ここで、40℃での粘度は、JIS Z 8803:2011に従って、40℃で、ずり速度の方向に垂直な面において、速度の方向の単位面積にあたりに生じる応力を測定することで求めた数値である。
【0035】
上記40℃での粘度が150cP超であると、最終的に得られる炭素質被覆黒鉛質粒子である負極材料のBET比表面積および細孔容積が大きくなり、その結果として、電極剥離強度が低いものとなる。
【0036】
(残炭率)
上記炭素質前駆体(A)の残炭率は、特に限定されないが、好ましくは20質量%~60質量%であり、より好ましくは25質量%~88質量%であり、さらに好ましくは30質量%~50質量%である。
【0037】
(混合の方法)
上記加圧黒鉛質粒子と上記炭素質前駆体(A)を混合する方法は、特に限定されず、公知の混合方法を用いることができる。例えば、ヒーターや熱媒などの加熱機構を有する二軸式のニーダーなどを用いて加熱混合する方法が挙げられる。
上記加圧黒鉛質粒子と上記炭素質前駆体(A)を混合する際の雰囲気は、特に限定されないが、好ましくは空気中である。
上記加圧黒鉛質粒子と上記炭素質前駆体(A)を混合する際の温度は、特に限定されないが、好ましくは5℃~150℃であり、より好ましくは10℃~100℃であり、さらに好ましくは25℃~60℃である。
上記加圧黒鉛質粒子と上記炭素質前駆体(A)の混合処理の際、炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素質前駆体材料、有機材料、無機材料、金属材料を加えてもよい。
【0038】
(炭素質前駆体(A)の混合量)
本発明の製造方法における上記第一混合工程での上記炭素質前駆体(A)の混合量は、特に限定されないが、原料である上記球状および/または楕円体状の黒鉛粒子100質量部、すなわち上記加圧黒鉛質粒子100質量部に対する、炭素質前駆体(A)の焼成後の炭素質量として、好ましくは1.5質量部~4質量部であり、より好ましくは2質量部~4質量部であり、さらに好ましくは3質量部~4質量部である。
上記炭素質前駆体(A)の混合量が上記範囲内であると、最終的に得られる炭素質被覆黒鉛質粒子である負極材料のBET比表面積および細孔容積が小さくなり、その結果として、電極剥離強度がより良好なものとなる。
【0039】
〈第二混合工程〉
第二混合工程は、上記第一混合工程で得られた混合物である炭素質前駆体(A)被覆黒鉛質粒子と、軟化点が200~330℃の炭素質前駆体(以下、「炭素質前駆体(B)」という場合がある。)とを混合する工程である。
本工程により、上記第一混合工程で得られた混合物である炭素質前駆体(A)被覆黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部が炭素質前駆体(B)で被覆された混合物(以下「炭素質前駆体(B)被覆黒鉛質粒子)」という場合がある。)を得る。
第二混合工程は、加圧黒鉛粒子と炭素質前駆体(A)との第一混合工程に続けて(乾燥や焼成を行わず)、行う。
【0040】
(炭素質前駆体(B))
上記炭素質前駆体(B)としては、黒鉛に比べて結晶性が低く、黒鉛化するために必要とされる高温処理をしても黒鉛結晶とはなりえない炭素材料および樹脂類が例示される。 炭素材料としては、タールピッチ類であって、軟化点が200~330℃であるものが例示される。
上記タールピッチ類としては、コールタール、タール重油、コールタールピッチ、ピッチ油、メソフェーズピッチ、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなどが挙げられる。
樹脂類としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が例示される。
【0041】
ここで、軟化点は、JIS K 6863:1994に従って、規定の環に試料を充填し、熱媒体欲中に水平に維持し、試料の中央に規定質表の球を置き、浴温を規定の速さで上昇させたときに、試料または球が環台の底板に触れたときの温度を測定することで求まる数値である。
【0042】
上記軟化点が200℃未満または330℃超であると、最終的に得られる炭素質被覆黒鉛質粒子である負極材料のBET比表面積および細孔容積が大きくなり、その結果として、電極剥離強度が低いものとなる。
【0043】
上記軟化点は、好ましくは220~310℃であり、より好ましくは240~300℃である。
上記軟化点がこの範囲内であると、電極剥離強度がより良好なものとなる。
【0044】
(残炭率)
上記炭素質前駆体(B)の残炭率は、特に限定されないが、好ましくは60質量%~90質量%であり、より好ましくは60質量%~88質量%であり、さらに好ましくは70質量%~85質量%である。
【0045】
(混合の方法)
上記炭素質前駆体(A)被覆黒鉛質粒子と上記炭素質前駆体(B)を混合する方法は、特に限定されず、公知の混合方法を用いることができる。例えば、ヒーターや熱媒などの加熱機構を有する二軸式のニーダーなどを用いて加熱混合する方法が挙げられる。
上記炭素質前駆体(A)被覆黒鉛質粒子と上記炭素質前駆体(B)を混合する際の雰囲気は、特に限定されないが、好ましくは空気中である。
上記炭素質前駆体(A)被覆黒鉛質粒子と上記炭素質前駆体(B)を混合する際の温度は、特に限定されないが、好ましくは5℃~150℃であり、より好ましくは10℃~100℃であり、さらに好ましくは25℃~60℃である。
上記炭素質前駆体(A)被覆黒鉛質粒子と上記炭素質前駆体(B)の混合処理の際、炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素質前駆体材料、有機材料、無機材料、金属材料を加えてもよい。
【0046】
(炭素質前駆体(B)の混合量)
本発明の製造方法における上記第二混合工程での上記炭素質前駆体(B)の混合量は、特に限定されないが、上記球状および/または楕円体状の黒鉛粒子100質量部、すなわち上記加圧黒鉛質粒子100質量部に対する、炭素質前駆体(B)の焼成後の炭素質量として、好ましくは2質量部~7質量部であり、より好ましくは3質量部~6質量部であり、さらに好ましくは4質量部~5質量部である。
炭素質前駆体(B)の混合量が上記範囲内であると、最終的に得られる炭素質被覆黒鉛質粒子である負極材料のBET比表面積および細孔容積が小さくなり、その結果として、電極剥離強度がより良好なものとなる。
【0047】
(炭素質前駆体(A)および炭素質前駆体(B)の合計混合量)
さらに、上記第一混合工程における炭素質前駆体(A)の混合量と、上記第二混合工程における炭素質前駆体(B)の混合量との合計〔炭素質前駆体(A)および炭素質前駆体(B)の合計混合量〕は、好ましくは4~10質量部であり、より好ましくは5~9質量部であり、さらに好ましくは7~9質量部である。
【0048】
〈焼成工程〉
焼成工程は、第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する工程である。
【0049】
第二混合工程でられた混合物を非酸化性雰囲気で焼成することにより、炭素質被覆黒鉛質粒子を得ることができる。この炭素質被覆黒鉛質粒子は、リチウムイオン二次電池負極材料用として好適に用いることができる。
【0050】
(非酸化性雰囲気)
上記焼成工程において、焼成の際の雰囲気は、非酸化性雰囲気であり、実質的に酸素等の酸化性ガスを含まない雰囲気であれば特に限定されないが、アルゴン、ヘリウムまたは窒素等の不活性ガスのみからなる雰囲気を例示することができる。ここで、実質的に酸素等の酸化性ガスを含まないとは、酸素等の酸化性ガスを0.5体積%未満しか含まないこと、好ましくは検出しないことをいう。
【0051】
非酸化性雰囲気は、例えば、窒素を、好ましくは1L/分~10L/分で、より好ましくは1L/分~6L/分で、さらに好ましくは1L/分~3L/分で流通させることにより達成することができる。
【0052】
(焼成温度)
上記焼成工程において、焼成の際の温度は、特に限定されないが、好ましくは700℃~2000℃であり、より好ましくは900℃~1500℃であり、さらに好ましくは1000℃~1400℃である。
焼成の際の温度がこの範囲内であると、炭素質前駆体を均一に炭素化することができる。
【0053】
また、昇温時および焼成時の温度プロファイルとしては、直線的な昇温、一定間隔で温度をホールドする段階的な昇温などの様々な形態をとることが可能である。
【0054】
(焼成前の処理)
焼成の前に、異種の黒鉛材料同士を、付着、埋設、複合して用いても良い。炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素質前駆体材料、有機材料、無機材料を芯材の黒鉛粒子に付着、埋設、複合してから用いてもよい。
【0055】
(焼成工程後の処理)
本発明の製造方法は、焼成工程の後に粉砕工程を含まないことが好ましい。粉砕工程を省略することによって、炭素質被覆黒鉛質粒子の生産性をより高めることができる。
【0056】
本発明の製造方法においては、上記焼成工程は、第二混合工程で得られた混合物を非酸化性雰囲気で焼成する第一焼成工程、および第一焼成工程で得られた焼成物を非酸化性雰囲気で焼成する第二焼成工程を含んでもよい。
【0057】
《第一焼成工程》
第一焼成工程は、上記第二混合工程で得られた混合物を、非酸化性雰囲気で焼成する工程である。
【0058】
(非酸化性雰囲気)
上記第一焼成工程において、焼成の際の雰囲気は、非酸化性雰囲気であり、実質的に酸素等の酸化性ガスを含まない雰囲気であれば特に限定されないが、アルゴン、ヘリウムまたは窒素等の不活性ガスのみからなる雰囲気を例示することができる。ここで、実質的に酸素等の酸化性ガスを含まないとは、酸素等の酸化性ガスを0.5体積%未満しか含まないこと、好ましくは検出しないことをいう。
非酸化性雰囲気は、例えば、窒素を、好ましくは1L/分~10L/分で、より好ましくは1L/分~6L/分で、さらに好ましくは1L/分~3L/分で流通させることにより達成することができる。
【0059】
(焼成温度)
上記第一焼成工程において、焼成の際の温度は、特に限定されないが、好ましくは300℃以上700℃未満であり、より好ましくは300℃~500℃であり、さらに好ましくは300℃~450℃である。焼成温度がこの範囲内であると、炭素質前駆体を加圧黒鉛質粒子の表面に均一に被覆することができる。
【0060】
(焼成前の処理)
第一焼成工程における焼成の前に、異種の黒鉛材料同士を、付着、埋設、複合して用いても良い。炭素質または黒鉛質の繊維、非晶質ハードカーボンなどの炭素質前駆体材料、有機材料、無機材料を芯材の黒鉛粒子に付着、埋設、複合してから用いてもよい。
【0061】
《第二焼成工程》
第二焼成工程は、上記第一焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性雰囲気で焼成する工程である。
【0062】
本工程により、上記加圧黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部が炭素質で被覆された炭素質被覆黒鉛質粒子を得ることができる。
【0063】
(非酸化性雰囲気)
上記第二焼成工程において、焼成の際の雰囲気は、非酸化性雰囲気であり、実質的に酸素等の酸化性ガスを含まない雰囲気であれば特に限定されないが、アルゴン、ヘリウムまたは窒素等の不活性ガスのみからなる雰囲気を例示することができる。ここで、実質的に酸素等の酸化性ガスを含まないとは、酸素等の酸化性ガスを0.5体積%未満しか含まないこと、好ましくは検出しないことをいう。
非酸化性雰囲気は、例えば、窒素を、好ましくは1L/分~10L/分で、より好ましくは1L/分~6L/分で、さらに好ましくは1L/分~3L/分で流通させることにより達成することができる。
【0064】
(焼成温度)
上記第二焼成工程において、焼成の際の温度は、特に限定されないが、好ましくは700℃~2000℃であり、より好ましくは900℃~1500℃であり、さらに好ましくは1000℃~1400℃である。焼成温度がこの範囲内であると、炭素質前駆体を均一に炭素化することができる。
【0065】
また、昇温時および焼成時の温度プロファイルとしては、直線的な昇温、一定間隔で温度をホールドする段階的な昇温などの様々な形態をとることが可能である。
【0066】
(第二焼成工程後の処理)
本発明の製造方法は、第二焼成工程の後に粉砕工程を含まないことが好ましい。粉砕工程を省略することによって、炭素質被覆黒鉛質粒子の生産性をより高めることができる。
【0067】
[炭素質被覆黒鉛質粒子]
本発明の炭素質被覆黒鉛質粒子は、上述した本発明の製造方法によって製造された炭素質被覆黒鉛粒子である。
【0068】
本発明の炭素質被覆黒鉛質粒子は、好ましくは、球状および/または楕円体状の黒鉛粒子を加圧してなる加圧黒鉛質粒子の表面の少なくとも一部が炭素質で被覆された炭素質被覆黒鉛質粒子であって、
以下の(a)~(d)に掲げる条件をすべて満足する、リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子である。
(a)前記炭素質の被覆量が、前記黒鉛粒子の合計100質量部に対して、4~10質量部である
(b)BET法によって測定した比表面積が1.5m2/g以下である
(c)水銀圧入法によって測定した細孔径1.1μm以下の細孔容積が0.028mL/g未満である
(d)元素分析法によって測定した酸素濃度が10ppm以下である
【0069】
〈球状および/または楕円体状の黒鉛粒子、加圧黒鉛質粒子、炭素質〉
本発明の炭素質黒鉛質粒子の製造方法において説明したとおりである。
【0070】
〈炭素質の被覆量〉
本発明の炭素質被覆黒鉛質粒子の炭素質の被覆量、すなわち、炭素質前駆体(A)および炭素質前駆体(B)を炭素化して得られる炭素質の含有量の合計は、特に限定されないが、球状および/または楕円体状黒鉛粒子の合計100質量部に対して、炭素質前駆体の焼成後の炭素質量として、好ましくは4質量部~10質量部であり、より好ましくは5質量部~9質量部であり、さらに好ましくは6質量部~9質量部である。
なお、炭素質の含有量は、炭素質被覆黒鉛質粒子全体の平均として上記範囲内にあればよい。個々の粒子全てが上記範囲内にある必要はなく、上記範囲以外の粒子を一部含んでいてもよい。
【0071】
炭素質の合計量がこの範囲内であると、活性な黒鉛エッヂ面を完全に被覆することが良い隣、初回充放電効率がより良好なものとなる。さらに、相対的に放電容量の高い黒鉛質の割合が多くなり、放電容量がより良好なものとなる。
また、混合工程およびその後の焼成工程において、粒子が融着しにくく、最終的に得られる炭素質被覆黒鉛質粒子の炭素質層の欠陥が少ないものとなり、割れや剥離を生じにくいことから、初回充放電効率がより良好なものとなる。
【0072】
〈BET法によって測定した比表面積〉
本発明の炭素質被覆黒鉛質粒子のBET法(JIS Z 8830:2013 ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)によって測定した窒素ガス吸着による比表面積は、1.5m2/g以下であり、好ましくは1.2m2/g以下であり、より好ましくは1.0m2/g以下である。
BET比表面積が小さいほどロスを減少することができ、充放電容量および初回充放電効率を向上させることができる。
【0073】
〈水銀圧入法によって測定した細孔径1.1μm以下の細孔容積〉
本発明の炭素質被覆黒鉛質粒子の水銀圧入法によって測定した細孔径1.1μm以下の細孔容積は、0.028mL/g未満であり、好ましくは0.027mL/g以下であり、より好ましくは0.026mL/g以下であり、さらに好ましくは0.025mL/g以下である。
細孔容積が小さいほどバインダーが粒子内に吸収される量が減少するため、剥離強度を改善することができる。PC(プロピレンカーボネート)を電解液に含む場合、細孔容積が小さいほど、電解液との反応性が低下するため、初回充放電効率を改善することができる。
【0074】
〈元素分析法によって測定した酸素濃度〉
本発明の炭素質被覆黒鉛質粒子の元素分析法によって測定した酸素濃度は、10ppm以下であり、好ましくは5ppm以下であり、より好ましくは1ppm以下である。
酸素を含む官能基は電解液と反応するため、少ないほどロス増を抑制することができる。
【0075】
〈その他の特性〉
《平均粒子径》
本発明の炭素質被覆黒鉛質粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは1μm~50μmであり、より好ましくは5μm~30μmである。なお、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計(LMS2000e,(株)セイシン企業製)により測定した粒度分布の累積度数が、体積百分率で50%となる粒子径である。
【0076】
[リチウムイオン二次電池負極]
本発明のリチウムイオン二次電池負極は、上記リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子(以下、単に「本発明の負極材料」という場合がある。)を含むリチウムイオン二次電池負極(以下、単に「本発明のリチウムイオン二次電池負極」という場合がある。)である。
【0077】
本発明のリチウムイオン二次電池負極は、通常の負極の製造方法に準じて製造されるが、化学的、電気化学的に安定な負極を得ることができる方法であれば何ら制限されない。負極の製造時には、本発明の負極材料に結合剤を加えて、予め調製した負極合剤を用いることが好ましい。結合剤としては、電解質に対して、化学的および電気化学的に安定性を示すものが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂粉末、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末、カルボキシメチルセルロースなどが用いられる。これらを併用することもできる。結合剤は、通常、負極合剤の全量中の1質量%~20質量%程度の割合で用いられる。また、黒鉛化物、カーボンブラックなどの公知の導電剤を添加してもよい。
【0078】
より具体的には、まず、本発明の負極材料を分級などにより所望の粒度に調整し、結合剤と混合して得た混合物を溶剤に分散させ、ペースト状にして負極合剤を調製する。すなわち、本発明の負極材料と、結合剤を、水、イソピロピルアルコール、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの溶剤と混合して得たスラリーを、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて攪拌混合して、ペーストを調製する。ペーストを、集電材の片面または両面に塗布し、乾燥すれば、負極合剤層が均一かつ強固に接着した負極が得られる。負極合剤層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは10μm~200μmであり、より好ましくは20μm~100μmである。
【0079】
また、本発明のリチウムイオン二次電池負極は、本発明の負極材料と、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末を乾式混合し、金型内でホットプレス成型して製造することもできる。
【0080】
負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行うと、負極合剤層と集電体との接着強度をより高めることができる。
【0081】
負極の作製に用いる集電体の形状としては、特に限定されることはないが、箔状、メッシュ、エキスパンドメタルなどの網状などである。集電体の材質としては、銅、ステンレス、ニッケルなどが好ましい。集電体の厚みは、箔状の場合で5μm~20μm程度であるのが好ましい。
【0082】
なお、本発明の負極は、本発明の目的を損なわない範囲で、異種の黒鉛質材料、非晶質ハードカーボンなどの炭素質材料、有機物、金属、金属化合物などを混合してもよい。
【0083】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池負極を有するリチウムイオン二次電池である。
【0084】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極に加え、さらに、好ましくは、正極、非水電解質、セパレータなどを有してもよい。
【0085】
〈正極〉
本発明のリチウムイオン二次電池に用いる正極は、例えば、正極材料、結合剤および導電剤よりなる正極合剤を集電体の表面に塗布することにより形成される。正極の材料(正極活物質)は、充分量のリチウムを吸蔵/離脱し得るものを選択するのが好ましく、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物およびそのリチウム化合物などのリチウム含有化合物、一般式MXMo6S8-Y(式中Mは少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で表されるシェブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維などである。バナジウム酸化物は、V2O5、V6O13、V2O4、V3O8で示されるものである。
【0086】
リチウム含有遷移金属酸化物は、リチウムと遷移金属との複合酸化物であり、リチウムと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。複合酸化物は単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM1
1-X M2
XO2(式中M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦1の範囲の数値である)、またはLiM1
1-YM2
YO4(式中M1、M2は少なくとも一種の遷移金属元素であり、Yは0≦Y≦1の範囲の数値である)で示される。
M1、M2で示される遷移金属元素は、Co、Ni、Mn、Ti、Cr、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどであり、好ましいのはCo、Fe、Mn、Ti、Cr、V、Alなどである。好ましい具体例は、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi0.9Co0.1O2、LiNi0.5Co0.5O2などである。
【0087】
リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、リチウム、遷移金属の酸化物、水酸化物、塩類等を出発原料とし、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下600℃~1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。
正極活物質は、上記化合物を単独で使用しても2種類以上併用してもよい。例えば、正極中に炭酸リチウム等の炭素塩を添加することができる。また、正極を形成するに際しては、従来公知の導電剤や結着剤などの各種添加剤を適宜に使用することができる。
【0088】
《正極の製造方法》
正極は、上記正極材料、結合剤、および正極に導電性を付与するための導電剤よりなる正極合剤を、集電体の両面に塗布して正極合剤層を形成して作製される。結合剤としては、負極の作製に使用されるものと同じものが使用可能である。導電剤としては、黒鉛化物、カーボンブラックなど公知のものが使用される。
【0089】
集電体の形状は特に限定されないが、箔状またはメッシュ、エキスパンドメタル等の網状等のものが用いられる。集電体の材質は、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等である。その厚さは8μm~40μmのものが好適である。
【0090】
正極も負極と同様に、正極合剤を溶剤中に分散させペースト状にし、このペースト状の正極合剤を集電体に塗布、乾燥して正極合剤層を形成してもよく、正極合剤層を形成した後、さらにプレス加圧等の圧着を行ってもよい。これにより正極合剤層が均一且つ強固に集電材に接着される。
【0091】
〈非水電解質〉
本発明のリチウムイオン二次電池に用いられる非水電解質としては、通常の非水電解液に使用される電解質塩である、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C6H5)、LiCl、LiBr、LiCF3SO3、LiCH3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3CH2OSO2)2、LiN(CF3CF2OSO2)2、LiN(HCF2CF2CH2OSO2)2、LiN((CF3)2CHOSO2)2、LiB[{C6H3(CF3)2}]4、LiAlCl4、LiSiF6などのリチウム塩を用いることができる。酸化安定性の点からは、特に、LiPF6、LiBF4が好ましい。
【0092】
上記非水電解液中の電解質塩濃度は0.1mol/L~5.0mol/Lが好ましく、0.5mol/L~3.0mol/Lがより好ましい。
【0093】
非水電解質は液状の非水電解質としてもよく、固体電解質またはゲル電解質などの高分子電解質としてもよい。前者の場合、非水電解質電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池として構成され、後者の場合は、非水電解質電池は高分子固体電解質、高分子ゲル電解質電池などの高分子電解質電池として構成される。
【0094】
非水電解質液を調製するための溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート、1、1-または1、2-ジメトキシエタン、1、2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、1、3-ジオキソラン、4-メチル-1、3-ジオキソラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル、スルホラン、メチルスルホランなどのチオエーテル、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3-メチル-2-オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒などを用いることができる。
【0095】
非水電解質を高分子固体電解質または高分子ゲル電解質などの高分子電解質とする場合には、マトリックスとして可塑剤(非水電解液)でゲル化された高分子を用いることが好ましい。上記マトリックスを構成する高分子としては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物などを用いることが特に好ましい。
【0096】
上記高分子固体電解質または高分子ゲル電解質には、可塑剤が配合されるが、可塑剤としては、上記の電解質塩や非水溶媒が使用可能である。高分子ゲル電解質の場合、可塑剤である非水電解液中の電解質塩濃度は0.1mol/L~5.0mol/Lが好ましく、0.5mol/L~2.0mol/Lがより好ましい。
【0097】
高分子固体電解質の作製方法は特に限定されないが、例えば、マトリックスを構成する高分子化合物、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、加熱して高分子化合物を溶融する方法、有機溶剤に高分子化合物、リチウム塩、および非水溶媒(可塑剤)を溶解させた後、混合用有機溶剤を蒸発させる方法、重合性モノマー、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、混合物に紫外線、電子線または分子線などを照射して、重合性モノマーを重合させ、ポリマーを得る方法などを挙げることができる。
【0098】
ここで、上記固体電解質中の非水溶媒(可塑剤)の割合は10質量%~90質量%が好ましく、30質量%~80質量%がより好ましい。10質量%未満であると導電率が低くなり、90質量%を超えると機械的強度が弱くなり、成膜しにくくなる。
【0099】
〈セパレータ〉
本発明のリチウムイオン二次電池においては、セパレータを使用することもできる。
セパレータの材質は特に限定されるものではないが、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などを用いることができる。上記セパレータの材質としては、合成樹脂製微多孔膜が好適であるが、なかでもポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗の面で好適である。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜等が好適である。
【0100】
〈リチウムイオン二次電池の製造方法〉
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述した構成の負極、正極および非水電解質を、例えば、負極、非水電解質、正極の順で積層し、電池の外装材内に収容することで構成される。さらに、負極と正極の外側に非水電解質を配するようにしてもよい。
また、本発明のリチウムイオン二次電池の構造は特に限定されず、その形状、形態についても特に限定されるものではなく、用途、搭載機器、要求される充放電容量などに応じて、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択することができる。より安全性の高い密閉型非水電解液電池を得るためには、過充電などの異常時に電池内圧上昇を感知して電流を遮断させる手段を備えたものを用いることが好ましい。
リチウムイオン二次電池が高分子固体電解質電池や高分子ゲル電解質電池の場合には、ラミネートフィルムに封入した構造とすることもできる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、40℃での粘度が150cP以下である炭素質前駆体〔炭素質前駆体(A)〕と軟化点が200~330℃の炭素質前駆体〔炭素質前駆体(B)〕とは互いに別異のものであった。
【0102】
[実施例1]
〈リチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子の製造〉
以下の手順によりリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子(以下単に「負極材料」という場合がある。)を製造した。
【0103】
1.加圧処理工程
平均粒子径20μmの球状に加工された天然黒鉛粒子を、金型プレスを用いて加圧し、加圧黒鉛質粒子を得た。
【0104】
2.第一混合工程
加圧処理工程により得られた加圧黒鉛質粒子に対して、タール中油(40℃での粘度40cP;以下「炭素質前駆体A1」という場合がある。)を、製造される負極材料中の、炭素質前駆体A1を炭素化して得られる炭素質の量が、加圧黒鉛質粒子100質量部に対して3質量部となるように添加し、40℃に加熱して30分間混合した。
【0105】
3.第二混合工程
第一混合工程で得られた混合物に、コールタールピッチ(軟化点260℃;以下「炭素質前駆体B1」という場合がある。)を、製造される負極材料中の、炭素質前駆体B1を炭素化して得られる炭素質の量が、加圧黒鉛質粒子100質量部に対して5質量部となるように添加し、二軸ニーダーを用いて50℃に加熱して30分間混合した。
【0106】
4.焼成工程
(第一焼成工程)
第二混合工程により得られた混合物に対して、ロータリーキルンを用いて、窒素5L/min流通下(非酸化性雰囲中)、400℃で4時間の焼成(第一焼成)を行った。
【0107】
(第二焼成工程)
第一焼成工程により得られた焼成物を、管状炉を用いて、窒素2L/min流通下(非酸化性雰囲気中)、1300℃で5時間の焼成(第二焼成)を行い、負極材料である炭素質被覆黒鉛質粒子(以下「負極材料」という場合がある。)を製造した。
【0108】
〈作用電極(負極)の作製〉
1.負極合剤ペーストの調製
製造した負極材料95質量部およびポリフッ化ビニリデン5質量部を、N-メチルピロリドン72質量部に添加し、ホモミキサーを用いて、2000rpmで、30分間撹拌混合して、負極合剤ペーストを調製した。
【0109】
2.電極の製造
調製した負極合剤ペーストを銅箔に均一な厚さで塗布し、真空中、90℃で、負極合剤ペースト中の分散媒(N-メチルピロリドン)を蒸発させ、銅箔上に負極合剤層を形成した。
ハンドプレスによって、負極合剤層を銅箔ごと直径15.5mmの円形状に打ち抜いて、集電体(銅箔)およびこれに密着した負極合剤層からなる作用電極(負極)を製造した。
【0110】
〈対極(正極)の製造〉
リチウム金属箔(厚み0.5mm)をニッケルネットに押し付けた。
ハンドプレスによって、リチウム金属箔をニッケルネットごと直径15.5mmの円形状に打ち抜いて、集電体(ニッケルネット)およびこれに密着したリチウム金属箔からなる対極(正極)を製造した。
【0111】
〈電解液の調製〉
エチレンカーボネート50質量%-プロピレンカーボネート50質量%の混合溶剤に、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/kgとなる濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0112】
〈セパレータの製造〉
得られた非水電解液をポリプロピレン多孔質体(厚み20μm)に含浸させ、電解液が含浸したセパレータを製造した。
【0113】
〈評価電池の製造〉
評価電池として
図1に示すボタン型二次電池を作製した。以下、
図1を参照しながら、評価電池の製造方法を説明する。
評価電池は、電解液を含浸させたセパレータ5を、集電体7bと、集電体7aに密着した対極4との間に挟んで積層した後、集電体7bを外装カップ1内に、対極4を外装缶3内に収容して、外装カップ1と外装缶3とを合わせ、さらに、外装カップ1と外装缶3との周縁部に絶縁ガスケット6を介在させ、両周縁部をかしめて密閉して製造した。
製造した評価電池は、外装缶3の内面から順に、ニッケルネットからなる集電体7a、リチウム箔よりなる円筒状の対極(正極)4、電解液が含浸されたセパレータ5、負極材料2が付着した銅箔からなる集電体7bが積層された電池系である。
【0114】
〈粉体特性の評価〉
以下に記載した方法により、製造した炭素質被覆黒鉛質粒子の炭素質量、BET比表面積、細孔容積および酸素濃度を求めた。結果を、表1および表2の「粉体特性」の該当欄に示した。
【0115】
《炭素質量》
炭素質前駆体の原料(複数種の場合を含む)単体に炭素質被覆黒鉛質粒子と同一の熱履歴を付与して、炭素質単体の炭化物を調製し、原料の残炭率を求めた。得られた残炭率から換算して炭素質被覆黒鉛質粒子中の、球状および/または楕円体状黒鉛粒子の合計100質量部(加圧黒鉛質粒子100質量部)に対する炭素質の割合(質量部)を算出した。
【0116】
《BET比表面積》
窒素ガス吸着法(JIS Z 8830:2013 ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に従って、BET比表面積(単位:m2/g)を求めた。
【0117】
《細孔容積》
細孔容積は水銀圧入法によって測定した。水銀ポロシメーター((株)島津製作所製)を用いて、横軸に細孔径、縦軸に細孔容積(累積体積)をプロットして1.1μm以下の細孔容積(単位・mL/g)を求めた。
【0118】
《酸素濃度》
酸素濃度は元素分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製,Flash2000)によって測定した。試料は100℃で2時間予備乾燥したものを使用し、装置内で約1060℃で加熱し、熱分解して生じるCO(一酸化炭素)の量を測定することで酸素濃度(単位:ppm)を求めた。
【0119】
〈電極特性の評価〉
製造した負極電極を用いて、真空乾燥後にはプレス等による成形圧力印加はせず、JIS K 6854-2:1999に示された180°剥離強度測定法に従って、オートグラフを用いて荷重を測定し、剥離強度(単位:N/m)を算出した。結果を、表1および表2の「電極特性」の該当欄に示した。
【0120】
〈電池特性の評価〉
以下に記載した方法により、製造した評価電池の電容量(単位:mAh/g)および初回充放電効率(単位:%)を求めた。結果を、表1および表2の「電池特性」の該当欄に示した。
【0121】
《放電容量》
回路電圧が1mVに達するまで0.9mAの定電流充電を行った後、回路電圧が1mVに達した時点で定電圧充電に切替え、さらに電流値が20μAになるその間の通電量から充電容量(単位:mAh/g)を求めた。その後、10分間休止した。次に0.9mAの電流値で、回路電圧が1.5Vに達するまで定電流放電を行い、この間の通電量から放電容量(単位:mAh/g)を求めた。これを第1サイクルとした。
【0122】
《初回充放電効率》
初回充放電効率は次式(1)から計算した。
初回充放電効率(%)=100×{(第1サイクルの充電容量-第1サイクルの放電容量)/第1サイクルの放電容量}・・・(1)
【0123】
[実施例2]
第一混合工程において、40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体として、タール中油(40℃での粘度40cP;炭素質前駆体A1)を、黒鉛粒子100質量部に対して、焼成後の炭素質量として4質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0124】
[実施例3]
第二混合工程において、軟化点が260℃のコールタールピッチ(炭素質前駆体B1)に代えて、軟化点が300℃のコールタールピッチ(炭素質前駆体B2)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0125】
[実施例4]
第二混合工程において、軟化点が260℃のコールタールピッチ(炭素質前駆体B1)の使用量を、黒鉛粒子100質量部に対する炭素質前駆体の焼成後の炭素質量を5質量部から4質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0126】
[実施例5]
第一焼成工程の焼成温度を300℃とした以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0127】
[実施例6]
第二焼成工程の焼成温度を1100℃とした以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0128】
[実施例7]
加圧処理工程において、金型プレスの代わりに冷間等方圧加圧(CIP:Cold Isostatic Pressing)装置を用いて加圧処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0129】
[実施例8]
第二混合工程の後、焼成工程において、第一焼成工程による仮焼成を行わずに第二焼成工程による本焼成を行ったこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0130】
[実施例9]
第一混合工程において、40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体として、タール中油(40℃での粘度40cP;炭素質前駆体A1)を、黒鉛粒子100質量部に対して、焼成後の炭素質量として4質量部を使用したこと、および第二混合工程の後、焼成工程において、第一焼成工程による仮焼成を行わずに第二焼成工程による本焼成を行ったこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0131】
[実施例10]
第二混合工程の後、焼成工程において、第一焼成工程による仮焼成を行わずに第二焼成工程による本焼成を行い、かつ第二焼成工程による本焼成の温度を1100℃としたこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0132】
[比較例1]
第一混合工程において、40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体として、タール中油(40℃での粘度40cP;炭素質前駆体A1)を、黒鉛粒子100質量部に対して、焼成後の炭素質量として8質量部を使用したこと、および、第二混合工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0133】
[比較例2]
第一混合工程において、40℃での粘度が150cP以下の炭素質前駆体としてのタール中油(40℃での粘度40cP;炭素質前駆体A1)を、黒鉛粒子100質量部に対して、焼成後の炭素質量として3質量部となる量と、軟化点が200~330℃の炭素質前駆体としてのコールタールピッチ(軟化点260℃;炭素質前駆体B1)を、鉛粒子100質量部に対して、焼成後の炭素質量として5質量部となる量とを予め混合して混合溶液を調製し、この混合溶液と加圧黒鉛粒子とを混合したこと、および、第一混合工程で得られた混合物と軟化点が200~330℃の炭素質前駆体とを混合する第二混合工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0134】
[比較例3]
第一混合工程を行わなかったこと、および、第二混合工程において、炭素質前駆体B1を、黒鉛粒子100質量部に対して、焼成後の炭素質量として8質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0135】
[比較例4]
第一焼成工程において、酸化性雰囲気中で焼成したこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0136】
[比較例5]
第二混合工程において、コールタールピッチ(軟化点260℃;炭素質前駆体B1)に代えて、コールタールピッチ(軟化点150℃;炭素質前駆体B2)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0137】
[比較例6]
第二混合工程において、コールタールピッチ(軟化点260℃;炭素質前駆体B1)に代えて、コールタールピッチ(軟化点350℃;炭素質前駆体B3)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0138】
[比較例7]
第一混合工程において、タール中油(40℃での粘度40cP;炭素質前駆体A1)に代えて、コールタールピッチ(40℃での粘度220cP;炭素質前駆体A2)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0139】
[比較例8]
第一混合工程において、タール中油(40℃での粘度40cP;炭素質前駆体A1)に代えて、コールタールピッチ(40℃での粘度220cP;炭素質前駆体A2)を使用したこと、および第二混合工程の後、焼成工程において、第一焼成工程による仮焼成を行わずに第二焼成工程による本焼成を行ったこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
【0140】
[比較例9]
第一混合工程により得られた混合物に対して、ロータリーキルンを用いて、窒素5L/min流通下(非酸化性雰囲中)、400℃で4時間の焼成を行ったこと、および第二混合工程の後、焼成工程において、第一焼成工程による仮焼成を行わずに第二焼成工程による本焼成を行ったこと以外は、実施例1と同様にして負極材料を製造した。
さらに、実施例1と同様にして、粉体特性の評価、電極特性の評価および電池特性の評価を行った。
なお、比較例9のプロセスは、特許文献3に記載されたプロセスに該当する。
【0141】
【0142】
【0143】
[結果の説明]
〈粉体特性〉
実施例1~10の炭素質被覆黒鉛質粒子(負極材料)は、以下の(a)~(d)に掲げる条件をすべて満足することができた。
(a)前記炭素質の被覆量が、前記黒鉛粒子の合計100質量部に対して、4~10質量部である
(b)BET法によって測定した比表面積が1.5m2/g以下である
(C)水銀圧入法によって測定した細孔径1.1μm以下の細孔容積が0.028mL/g未満である
(d)元素分析法によって測定した酸素濃度が10ppm以下である
【0144】
〈電極特性〉
実施例1~10の炭素質被覆黒鉛質粒子を負極材料として用いて電極(負極)を製造したところ、いずれの実施例においても、優れた剥離強度を有する電極(負極)を製造することができた。
これに対して、比較例1~3および5~8の炭素質被覆黒鉛質粒子を負極材料として用いて電極(負極)を製造したところ、いずれの比較例においても、製造された電極(負極)の剥離強度が低かった。これは、比較例1~3および5~8の炭素質被覆黒鉛質粒子のBET比表面積が1.5m2/g超と大きく、細孔容積が0.028mL/g以上と大きかったことによると考えられる。
また、比較例4および9の炭素質被覆黒鉛質粒子を負極材料として用いて電極(負極)を製造したところ、高い剥離強度を有する電極(負極)を製造することができた。これは、細孔容積がそれぞれ0.029mL/g(比較例4)および0.028mL/g(比較例9)と比較的小さく、かつ、比較例4は、負極材料中の酸素濃度が高かったことから、バインダーとの相互作用により剥離強度が大きくなったものと考えられる。
【0145】
〈電池特性〉
実施例1~10の炭素質被覆黒鉛質粒子を負極材料として用いて評価電池を製造したところ、いずれの実施例においても、優れた放電容量および初回充放電効率を有するリチウムイオン二次電池を製造することができた。
これに対して、比較例1~9の炭素質被覆黒鉛質粒子を負極材料として用いて評価電池を製造したところ、いずれの比較例においても、製造されたリチウムイオン二次電池の初回充放電効率が低かった。
また、比較例4の炭素質被覆黒鉛質粒子を負極材料として用いたリチウムイオン二次電池では、実施例1~10に比べて放電容量が劣っていた。これは、比較例4の負極材料を用いた評価電池では、負極材料のBET比表面積が大きいため、放電容量も劣っていたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明のリチウムイオン二次電池負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子は、リチウムイオン二次電池用負極材料に用いた場合に、優れた剥離強度、優れた電池特性(高い放電容量および高い初回充放電効率)を得ることができる。そのため、本発明のリチウムイオン二次電池用負極材料用炭素質被覆黒鉛質粒子を負極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、近年の電池の高エネルギー密度化に対する要望を満たし、搭載する機器の小型化および高性能化に有用である。
【符号の説明】
【0147】
1 外装カップ
2 負極合剤
3 外装缶
4 対極(正極)
5 パレータ
6 絶縁ガスケット
7a 集電体
7b 集電体(負極)