(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】育苗マット
(51)【国際特許分類】
A01G 24/46 20180101AFI20220816BHJP
【FI】
A01G24/46
(21)【出願番号】P 2019056586
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏典
(72)【発明者】
【氏名】石崎 創
(72)【発明者】
【氏名】竹山 智洋
(72)【発明者】
【氏名】早田 裕光
(72)【発明者】
【氏名】板垣内 貴保
(72)【発明者】
【氏名】大井戸 直幸
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-032105(JP,U)
【文献】実開昭62-102346(JP,U)
【文献】実開昭52-150520(JP,U)
【文献】特開平06-205619(JP,A)
【文献】米国特許第03467609(US,A)
【文献】特許第3360366(JP,B2)
【文献】特開2019-146537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00- 9/02
A01G 24/00-31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面を構成する上部層と、下面を構成する下部層と、前記上部層と前記下部層の間に配
置される中間層と、を備え、
前記中間層は、前記上部層よりも剛性が高く、
前記中間層は、種子を保持するために所定間隔で設けられる複数の播種穴を有し、
前記上部層は、繊維を成型したものであり、前記下部層は、土を成型したものであり、前記中間層は、コルクを成型したものである、育苗マット。
【請求項2】
前記中間層は平面視で長方形状をしており、
前記中間層は、隣り合う前記播種穴同士の間に長方形の短辺方向に延びるスリットを有する、
請求項1に記載の育苗マット。
【請求項3】
前記上部層は、前記中間層よりも厚い、請求項1又は2に記載の育苗マット。
【請求項4】
前記下部層は、前記中間層よりも厚い、請求項1~3の何れか1項に記載の育苗マット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物の苗を育苗するための育苗マットに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、繊維が主として厚み方向に配列された上部繊維質マットと、繊維が主として平面方向に配列された下部繊維質マットとを貼着させた育苗マットが開示されている。繊維が主として平面方向に配列された下部繊維質マットにより、マット平面方向の剛性を大きくし、田植機の苗載台に載せたときに育苗マットが苗載台の傾斜方向に圧縮されにくくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、野菜苗を上記の育苗マットで育苗する場合、水稲苗と異なり、野菜苗では根張りが悪いため、上部繊維質マットが自重により定まった位置に定着できず、移植機の植付爪(掻き取り爪)で苗を一株ずつ確実に掻き取ることができず、直接植え付けることが困難であった。
【0005】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、移植機を用いた移植作業を確実に行うことができる育苗マットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の育苗マットは、上面を構成する上部層と、下面を構成する下部層と、前記上部層と前記下部層の間に配置される中間層と、を備え、
前記中間層は、前記上部層よりも剛性が高く、
前記中間層は、種子を保持するために所定間隔で設けられる複数の播種穴を有するものである。
【0007】
本発明の育苗マットによれば、中間層を上部層よりも剛性が高くなるように構成しているため、移植機の苗載台に載せた場合でも育苗マットが苗載台の傾斜方向に圧縮されにくい。これにより、育苗マットの変形を抑制し、植付爪と苗の位置ずれを防止できる。また、上部層の剛性を低くすることで、植付爪で苗を掻き取る際、植付爪が上部層に刺さりやすい。さらに、上部層の剛性を低くすることで、上部層が植付爪からの衝撃を吸収することができるため、植付爪による苗の保持力を高めることができる。その結果、本発明の育苗マットによれば、移植作業を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る育苗マットを示す斜視図である。
【
図3】他の実施形態に係る育苗マットを示す断面図である。
【
図4】他の実施形態に係る育苗マットを示す断面図である。
【
図5】他の実施形態に係る育苗マットを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、育苗マット1を示している。
図2は、
図1の育苗マット1を長辺方向に切断した断面図である。
【0011】
育苗マット1は、一般的な水稲用の育苗箱Bに敷き詰められるようになっている。育苗マット1は、全体として矩形板状であり、例えば、横が280mm、縦が580mm、高さが35mmとなっている。
【0012】
育苗マット1は、少なくとも3層で構成されており、上面を構成する上部層2と、下面を構成する下部層3と、上部層2と下部層3との間に配置される中間層4と、を備える。
【0013】
上部層2は、植付爪による苗の掻き取りの際の衝撃を吸収する機能を有する。上部層2は、生分解性の繊維を所定の厚さの矩形板状に成型したものである。上部層2は、繊維に天然ゴムを添加し、加熱乾燥させて成型される。天然ゴムは、原料天然ゴム(液状)を5倍に希釈して添加される。天然ゴムは、ゴム原液であれば繊維1Lに対し50~100g添加され、希釈ゴム液であれば繊維1Lに対し250~500g添加される。なお、天然ゴムは、生分解性のため、田畑に悪影響はない。
【0014】
上部層2に用いられる生分解性の繊維としては、特に限定されないが、ココナッツピート、ヤシガラピート、ピートモス等の植物繊維が好ましく、特にココナッツピートが好ましい。繊維の長さは、8cm以下が好ましく、1cm以下が特に好ましい。繊維の長さは、繊維を裁断してふるいにかけて調整される。また、上部層2は、不織布、パルプ、ロックウール、土(養土)等を所定の厚さの矩形板状に成型したものでもよい。
【0015】
下部層3は、根が伸長するための空間として機能する。下部層3は、土(養土)を所定の厚さの矩形板状に成型したものである。下部層3は、土に天然ゴムを添加し、加熱乾燥させて成型される。天然ゴムは、原料天然ゴム(液状)を5倍に希釈して添加される。天然ゴムは、ゴム原液であれば繊維1Lに対し50~100g添加され、希釈ゴム液であれば繊維1Lに対し250~500g添加される。
【0016】
下部層3は、ロックウールや前述の生分解性の繊維等を所定の厚さの矩形板状に成型したものでもよい。なお、下部層3は、肥料成分を含有するのが好ましい。下部層3が肥料成分を含有するため、安定して種子を発芽及び育成できる。また、下部層3は、その他の育苗資材を含有していてもよい。育苗資材としては、例えばバーミキュライト、ゼオライト等が挙げられる。
【0017】
中間層4は、コルクを薄い矩形板状に圧縮成型したものである。中間層4は、上部層2よりも剛性が高くなっている。中間層4の剛性を高くすることで、移植機の苗載台に載せた場合でも育苗マット1の変形を抑制することができる。一方、中間層4で育苗マット1の剛性を保つことができるため、上部層2の剛性を低くすることができる。上部層2の剛性を低くすることで、苗を掻き取る際、植付爪が上部層2に刺さりやすくなり、また、上部層2が植付爪からの衝撃を吸収することができる。中間層4は、上部層2による衝撃吸収をサポートする。
【0018】
本実施形態における剛性は、弾性率で定義される。対象となる層を30mm×30mmにカットした試験片を2片用意し、試験片の表面に対して法線方向より一定速度で荷重を加えて圧縮試験を実施し、応力とひずみを計測し、弾性率(=応力/ひずみ)を算出した。試験片を圧縮する圧縮冶具は試験片よりも表面積が大きく、荷重が40,000gに達するまで、0.50mm/sの速度で試験片を圧縮した。2片の試験片での結果を平均した弾性率(kgf/cm2)は、上部層2が0.071、中間層4が2.458であった。なお、下部層3の弾性率は、0.822であり、育苗マット1全体の弾性率は、0.071であった。
【0019】
下部層3は、中間層4よりも剛性が低くなっている。移植機を用いて移植する際、育苗マット1は、苗載台に設けられた搬送ベルトにより下方へ搬送される。育苗マット1の下面、すなわち下部層3の剛性を低くすることで、搬送ベルトに形成されたスパイクが下部層3に食い込みやすくなり、育苗マット1を適切に搬送することができる。
【0020】
また、下部層3は、上部層2よりも剛性が高くなっている。これにより、下部層3は、上部層2による衝撃吸収をサポートすることができる。
【0021】
中間層4は、種子Sを保持するために所定間隔で設けられる複数の播種穴41を有する。播種穴41は、中間層4を上下方向に貫通する貫通孔であり、種子Sは播種穴41を介して下部層3の上面に播種される。種子Sは、播種穴41により位置決めされて保持される。本実施形態の播種穴41は、孔径が7~10mmの円形の貫通孔である。
【0022】
上部層2には、中間層4の播種穴41に対向する位置に貫通孔21が形成されている。貫通孔21は、播種穴41と同様、孔径が7~10mmの円形の貫通孔である。種子Sは、上部層2の貫通孔21を介して播種穴41に播かれる。播種後には、貫通孔21に覆土(バーミキュライト等)が挿入される。
【0023】
播種穴41は、例えば、短辺方向に10個(隣り合う播種穴41同士の中心間距離は28mm)、長辺方向に20個(隣り合う播種穴41同士の中心間距離は29mm)設けられる。
【0024】
中間層4には、隣り合う播種穴41同士の間に長方形の短辺方向に延びるスリット42が形成されている。スリット42は、中間層4の短辺方向の両端に達している。スリット42を設けることで、移植機の植付爪による苗の掻き取りをスムーズに行うことができ、移植作業を確実に行うことができる。
【0025】
スリット42は、中間層4の上面から厚み方向の中間部まで形成されている。スリット42の深さは、中間層4の厚みの半分程度となっており、本実施形態では、厚みが5mmの中間層4に対して、深さが2mmのスリット42を形成している。隣り合うスリット42同士の間隔は、種子Sの大きさや生長後の苗の大きさ等を考慮して適宜決定される。
【0026】
上部層2には、中間層4のスリット42に対向する位置に上部スリット22が形成されている。上部スリット22を設けることで、移植機の植付爪による苗の掻き取りをより一層スムーズに行うことができる。
【0027】
上部層2は、中間層4よりも厚くなっている。上部層2を厚くすることで、衝撃吸収性を高めることができる。また、上部層2を厚くすることで、植付爪による苗の保持力を高めることができる。本実施形態では、上部層2の厚みw2は、10~15mmである。中間層4の厚みw4は、3~8mmである。
【0028】
下部層3は、中間層4よりも厚くなっている。すなわち、中間層4は、すべての層の中で最薄となっている。中間層4を厚くし過ぎると、育苗マット1の剛性が高くなり過ぎて植付爪により苗を適切に掻き取れないおそれがある。
【0029】
また、下部層3は、上部層2よりも厚くなっている。すなわち、下部層3は、すべての層の中で最厚となっている。下部層3を厚くすることで根張りが良好となる。本実施形態では、下部層3の厚みw3は、15~20mmである。なお、下部層3の厚みw3は、上部層2の厚みw2と同じであっても構わない。
【0030】
以上のように、本実施形態の育苗マット1は、上面を構成する上部層2と、下面を構成する下部層3と、上部層2と下部層3の間に配置される中間層4と、を備え、中間層4は、上部層2よりも剛性が高く、中間層4は、種子Sを保持するために所定間隔で設けられる複数の播種穴41を有する。
【0031】
中間層4を上部層2よりも剛性が高くなるように構成しているため、移植機の苗載台に載せた場合でも育苗マット1が苗載台の傾斜方向に圧縮されにくい。これにより、育苗マット1の変形を抑制し、植付爪と苗の位置ずれを防止できる。また、上部層2の剛性を低くすることで、植付爪で苗を掻き取る際、植付爪が上部層2に刺さりやすい。さらに、上部層2の剛性を低くすることで、上部層2が植付爪からの衝撃を吸収することができるため、植付爪による苗の保持力を高めることができる。その結果、本実施形態の育苗マット1によれば、移植作業を確実に行うことができる。
【0032】
本実施形態では、中間層4は平面視で長方形状をしており、中間層4は、隣り合う播種穴41同士の間に長方形の短辺方向に延びるスリット42を有する。
【0033】
スリット42を設けることで、移植機の植付爪による苗の掻き取りをスムーズに行うことができ、移植作業を確実に行うことができる。
【0034】
本実施形態では、上部層2は、中間層4よりも厚い。上部層2を厚くすることで、衝撃吸収性を高めることができ、かつ植付爪による苗の保持力を高めることができる。
【0035】
本実施形態では、下部層3は、中間層4よりも厚い。下部層3を厚くすることで根張りが良好となる。
【0036】
[他の実施形態]
(1)前述の実施形態では、上部層2に上部スリット22を設けているが、上部層2の剛性によっては、上部スリット22を形成しなくとも植付爪による苗の掻き取りは可能であり、上部スリット22は必ずしも必要ではない。
【0037】
(2)前述の実施形態では、スリット42は、中間層4の上面から厚み方向の中間部まで形成されているが、これに限定されない。スリット42は、中間層4の上面から下面まで形成されてもよい。この場合、スリット42によって中間層4が完全に分断されないように、スリット42を短辺方向に沿って間欠的に形成してもよい。
【0038】
(3)また、スリット42は、
図3に示すように、中間層4の下面から厚み方向の中間部まで形成されてもよい。この実施形態では、厚みが5mmの中間層4に対して、深さが2mmのスリット42を形成している。
【0039】
(4)前述の実施形態では、播種穴41が、中間層4の上面から下面まで延びる貫通孔となっているが、これに限定されない。例えば、播種穴41は、
図4に示すように、中間層4の上面に形成された窪みであってもよい。播種穴41が窪みであっても、中間層4の物性によっては種子Sから延びる根が中間層4を貫通して下部層3に達することができる。
【0040】
(5)
図2に示す貫通孔21は、上下方向に径が一定の円柱状であるが、貫通孔21は、
図5に示すような下方へ向かって先細るテーパ状でもよい。また、播種穴41も、貫通孔21と連続して先細るテーパ状としてもよい。これにより、種子Sを貫通孔21を介して播種穴41に播きやすくなる。
【0041】
(6)前述の実施形態では、育苗マット1は、上部層2、下部層3、及び中間層4の3層で構成されているが、これに限定されず、上部層2と下部層3の間に中間層4以外の層も配置された4層以上で構成されてもよい。
【0042】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1 育苗マット
2 上部層
3 下部層
4 中間層
41 播種穴
42 スリット
S 種子