(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】競技用車椅子用タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20220816BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B60C11/03 D
B60C11/12 B
(21)【出願番号】P 2019078874
(22)【出願日】2019-04-17
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100202636
【氏名又は名称】鈴木 麻菜美
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 耕平
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第209305249(CN,U)
【文献】中国特許出願公開第109334353(CN,A)
【文献】米国特許第7156407(US,B2)
【文献】特開2003-341307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
A61G 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド踏面の、タイヤ赤道を境とする両側の各領域に、
前記トレッド踏面の輪郭線よりタイヤの内側に凹となる形状にて、トレッド端側からタイヤ赤道に対して傾斜する向きに延びる凹条の複数を、平行に配列したグリップ域を、トレッドの全周に亘って備え、
前記グリップ域を始端とし、前記タイヤ赤道側へ、前記タイヤ赤道に対して傾斜する向きに延び、前記タイヤ赤道の手前で終端する、複数のサイプを有し、
前記グリップ域におけるネガティブ比率は、前記グリップ域よりも前記タイヤ赤道側におけるネガティブ比率より高いことを特徴とする、競技用車椅子用タイヤ。
【請求項2】
前記グリップ域は、タイヤ赤道に対して直交する向きに延びる凹条を配列した、請求項1に記載の競技用車椅子用タイヤ。
【請求項3】
前記複数のサイプは、隣接する一対のサイプが、タイヤ赤道に直交する線分を対称軸とする線対称の関係にある、線対称サイプの複数対を有し、
前記線対称サイプ対は、各サイプが前記タイヤ赤道から前記トレッド端に向かって、前記対称軸から離隔する向きに傾斜する、請求項1又は2に記載の競技用車椅子用タイヤ。
【請求項4】
前記線対称サイプ対は、前記各領域間で、タイヤ赤道に沿って位相差を持って配置された、請求項3に記載の競技用車椅子用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種競技に用いる車椅子に供するタイヤに関するものであり、特に、車椅子に乗った利用者の手に対するグリップ性及び排水性を備える競技用車椅子用タイヤを提案するものである。
【背景技術】
【0002】
車椅子の利用者が自力でタイヤの動作を制御する、自走式の車椅子においては、椅子部分の両側のタイヤの軸方向外側に、タイヤと同軸のハンドリムが設けられており、利用者は、このハンドリムを手で回転させることにより、車椅子を自走させている。
【0003】
特に、テニス等のスポーツ競技を、競技用車椅子に乗って行う場合は、競技者は試合展開に応じて素早く反応して挙動を変化させ、競技者本人の位置を迅速に変え、さらに位置を微妙に調整する必要があるため、車椅子の漕ぎ出し及び制動のタイミングでタイヤに直接手で触れて、車椅子の動作を制御する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、競技者の手がタイヤに直接触れたときに、タイヤに隆起した部分があると、隆起した部分の端縁等によって手が傷つくことがある。競技者の手が傷つくのを防止するため、例えば、特許文献1に記載された車椅子タイヤは、手が触れる領域の表面を、滑らかな凹凸のない性状にしている。
【0006】
しかしながら、競技用車椅子においては、漕ぎ出し時には、停止した状態から速いスピードになるようにタイヤを回転させ、制動時にもタイヤの回転を急停止させることが必要であり、競技者の手とタイヤとの間で、より高いグリップ性が求められる。このとき、特許文献1に記載される、全く凹凸のない表面性状を有する車椅子用タイヤでは、利用者の手に対するグリップ性が不十分である。
【0007】
一方、接地面とのグリップ性を高めるには、トレッド踏面と接地面との接触領域を、凹凸のない表面性状とすることが効果的であることが知られている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、競技者の手を傷つけることなく、手に対するグリップ性及び接地面とのグリップ性を両立させた、競技用車椅子用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、前記課題を解決する手段について鋭意究明した。即ち、競技用車椅子用タイヤの接地面との接触領域及び手との接触領域について詳細に検討を行ったところ、接地面との接触領域並びに、手との接触領域のそれぞれの表面性状を工夫することによって、手とのグリップ性及び接地面とのグリップ性を両立させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)本発明の競技用車椅子用タイヤは、タイヤのトレッド踏面の、タイヤ赤道を境とする両側の各領域に、前記トレッド踏面の輪郭線よりタイヤの内側に凹となる形状にて、トレッド端側からタイヤ赤道に対して傾斜する向きに延びる凹条の複数を、平行に配列したグリップ域を、トレッドの全周に亘って備え、前記グリップ域を始端とし、前記タイヤ赤道側へ、前記タイヤ赤道に対して傾斜する向きに延び、前記タイヤ赤道の手前で終端する、複数のサイプを有し、前記グリップ域におけるネガティブ比率は、前記グリップ域よりも前記タイヤ赤道側におけるネガティブ比率より高いことを特徴とする。
ここで、「タイヤ赤道の手前で終端する」とは、グリップ域を始端として延びるサイプが、タイヤ赤道を境とする同領域内で、タイヤ赤道まで至らずに、タイヤ赤道から離隔した位置で終端していることを指す。
また、「トレッド端」とは、車椅子タイヤ毎の要求に応じて形成される、トレッドパターンの形成域の幅方向外側端である。また、「グリップ域におけるネガティブ比率」とは、トレッド踏面の展開視で、グリップ域の、凹条及びサイプ等の凹みが形成されていない場合の総面積に対する、凹みの面積の比率を指し、「グリップ域よりもタイヤ赤道側におけるネガティブ比率」とは、トレッド踏面の展開視で、グリップ域よりもタイヤ赤道側における領域において、凹みが形成されていない場合の総面積に対する、凹みの面積の比率を指している。
さらに、特段の記載がない限り、位置や寸法は、製品タイヤの状態におけるものを指す。
【0011】
(2)前記グリップ域は、タイヤ赤道に対して直交する向きに延びる凹条を配列した、上記(1)に記載の競技用車椅子用タイヤ。
【0012】
(3)前記複数のサイプは、隣接する一対のサイプが、タイヤ赤道に直交する線分を対称軸とする線対称の関係にある、線対称サイプの複数対を有し、前記線対称サイプ対は、各サイプが前記タイヤ赤道から前記トレッド端に向かって、前記対称軸から離隔する向きに傾斜する、上記(1)又は(2)に記載の競技用車椅子用タイヤ。
【0013】
(4)前記線対称サイプ対は、前記各領域間で、タイヤ赤道に沿って位相差を持って配置された、上記(3)に記載の競技用車椅子用タイヤ。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、手に対するグリップ性及び接地面とのグリップ性を両立させた、競技用車椅子用タイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a)本発明の第1実施形態に係るタイヤの一部を、トレッド幅方向へ展開して示した図である。(b)
図1(a)のII-II線に沿う概略断面図である。
【
図2A】
図1(a)のIII-III線に沿う断面図である。
【
図2B】
図1(a)のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4A】本発明に係るタイヤの凹条及びサイプの変形例を示す図である。
【
図4B】本発明に係るタイヤの凹条及びサイプの変形例を示す図である。
【
図4C】本発明に係るタイヤの凹条及びサイプの変形例を示す図である。
【
図4D】本発明に係るタイヤの凹条及びサイプの変形例を示す図である。
【
図4E】本発明に係るタイヤの凹条及びサイプの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の形態)
以下、図面を参照しながら本発明の競技用車椅子用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ともいう)を、その実施形態を例示して詳細に説明する。
【0017】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係るタイヤ1のトレッド踏面2の一部を、トレッド幅方向へ展開して示しており、
図1(b)は、
図1(a)のII-II線に沿う概略断面である。また、
図2Aは、
図1(a)のIII-III線に沿う断面を示している。なお、このタイヤ1の内部構造は限定されず、図示を省略するが、耐久性の観点からは、一対のビード部間に跨るカーカスを骨格として、該カーカスのタイヤ径方向外側にトレッドを有していることが好ましい。
【0018】
タイヤ1は、トレッド踏面2の、タイヤ赤道CLを境とする両側の領域A1及びA2に、グリップ域4a及び4bを備えている。グリップ域4a及び4bには、それぞれ、トレッド踏面2の輪郭線よりタイヤの内側に凹となる形状にて、トレッド端TE側から、タイヤ赤道CLに対して傾斜する向きに延びる凹条3a及び3bの複数が、平行に配列されている。以下、凹条3aを典型例として、凹条3a及び3bの形状について詳述する。
【0019】
図2Aに示すとおり、凹条3aは、トレッド踏面2の輪郭線O1、即ち、トレッド幅方向断面視において、凹となる部分を省いた場合の、トレッド踏面2の表面に沿う線よりも、タイヤの内側に凹となる形状である。凹となる形状については、特に限定されないが、図示例では、輪郭線O1から曲線状に凹む形状であり、複数の凹条3aが並列することによって波形をなしている。
【0020】
なお、凹条3aの断面形状としては、
図2Aに示した事例に限られず、例えば、
図2Bに示す、輪郭線O1から矩形状に開口する形態など、適宜の変形が可能である。
【0021】
競技用車椅子の漕ぎ出し時及び制動時等に、競技者がタイヤ1のグリップ域4aに直接手で触れると、グリップ域4aに配列された複数の凹条3aと手とが接触することになる。複数の凹条3aと手の表面とが接触すると、凹条3aと手との間に摩擦が発生し、グリップ性を発揮することができる。このとき、凹条3aは、トレッド踏面2の輪郭線O1よりも凹となる形状を有するため、トレッド踏面2の輪郭線O1から突出する成分によって手や指の表面が突き上げられて強く当接するようなことがなく、競技者の手を傷つけずに、グリップ性を高めることができる。
【0022】
なお、凹条3aの深さd1は特に限定されないが、0.5~2.0mmとすることが好ましい。深さd1を、0.5mm以上とすることによって、手とのグリップ性を十分に高め、2.0mm以下とすることによって、トレッド踏面2の剛性を維持することができる。
【0023】
さらに、凹条3aの開口幅w10は特に限定されないが、0.5~2.0mmとすることが好ましい。ここで、凹条3aの開口幅w10とは、輪郭線O1における、凹条3aの延在方向に直交する開口長さをいう。開口幅w10を0.5mm以上とすることによって、手とのグリップ性をより高めることができ、2.0mm以下とすることによって、トレッド踏面2の剛性を維持することができるとともに、凹条3aの内部に砂等の異物が入り込み、凹条3aの内部が損傷したり、入り込んだ異物によって競技者の手が傷つくのを防ぐことができる。
【0024】
ここで、グリップ域4aは、タイヤ赤道CLに対して傾斜する向きに延びる凹条3aを配列していることが肝要である。即ち、競技用車椅子用タイヤは、テニス等の球技においては、特に、前後方向に前進及び後退する動作が中心であり、手の入力方向も前後方向となる。そのため、前後方向を横切る向き、即ちタイヤ周方向に対して傾斜する向きに、凹条を形成することによって、タイヤ1と手との間のグリップ力を高めることができる。
【0025】
グリップ域4aは、タイヤ赤道CLに対して直交する向きに延びる凹条3aを配列していることが特に好ましい。凹条3aを、前後方向に沿う入力に抗する向きである、タイヤ赤道CLに対して直交する向きとすることによって、特に手とのグリップ性を高め、漕ぎ出し時及び急停止時において制御し易くすることができる。
【0026】
なお、図示例では、グリップ域4aは、タイヤ赤道CLの対して単一の向きに傾斜した凹条をタイヤ全周にわたって配列しているが、タイヤ全周又は一部において、異なる向きに傾斜した凹条の複数を、同時に配列した、例えば格子状としてもよい。
【0027】
さらに、凹条3aは、トレッド端TE側から、即ち、トレッド端TEに隣接する領域から始端している。競技者がタイヤ1に直接手で触れる際には、トレッド端TEに隣接する領域に主に触れることになる。即ち、競技者は、競技用車椅子の漕ぎ出し時及び制動時に、競技者の体に近い側のトレッド端TEに隣接する領域に手で触れて、タイヤ1を回転させる動作を行うことになる。
【0028】
好適には、凹条3aは、トレッド端TEから、トレッド踏面2のペリフェリに沿う幅方向長さWDの7.0~33.0%の位置に始端を有することが好ましく、より好ましくは、トレッド端TEに始端が位置していることが好ましい。特に競技者の手の入力が強い領域が位置する傾向があるためである。
【0029】
また、トレッド踏面2のペリフェリに沿う、凹条3aが配列されたグリップ域4aのトレッド幅方向長さW1は、トレッド踏面2の幅方向長さWDに対して7.0~33.0%であることが好ましい。比W1/WDを7.0%以上とすることによって、競技者の手とのグリップ性を十分に高めることができ、33.0%以下とすることによって、トレッド踏面2の表面の剛性を維持することができる。
【0030】
さらに、タイヤ1は、転動中にタイヤ周方向のいずれの部分に競技者の手が接触しても、高いグリップ性が得られるように、凹条3aを配列したグリップ域4aを、タイヤ全周に亘って備えることが肝要である。
【0031】
また、グリップ域4a及び4bを、タイヤ赤道CLを境とする両側の領域A1及びA2に、それぞれ配置することによって、タイヤの装着方向に依存することなく、タイヤ1の手とのグリップ性を高めることができる。即ち、上述のとおり、競技者は、競技用車椅子の漕ぎ出し時及び制動時に、競技者の体に近い側のトレッド端TEに隣接する領域に手で触れて、タイヤ1を回転させる動作を行うことになる。競技者の体と近い側は、タイヤの装着方向によって定まるが、タイヤをいずれの向きに装着しても、手とのグリップ性を発揮させることができる。また、一般に、競技用車椅子用タイヤにおいては、車椅子全体の旋回動作を容易にするため、ネガティブキャンバーの態様で装着されるのが一般的である。このような装着態様では、領域A1及びA2のうちの一方側が主に接地面と接触し、接地面と接触する側の領域に優先摩耗が生じることになる。領域A1及びA2の一方側の領域において摩耗が進行した後は、タイヤ1の装着方向が逆になるように、付け替えられて使用されることが多い。従って、領域A1とA2の両方に、グリップ域4a又は4bをそれぞれ備えることによって、付け替えの前後のいずれにおいても、グリップ性を発揮することができる。
【0032】
また、グリップ域4aと4bにおいて、凹条3aと3bとは、いずれの装着方向でも同様に手とのグリップ性を発揮させるため、タイヤ赤道CLを対称軸として、タイヤ赤道CLに対して線対称となる向きに延びていることが好ましいが、タイヤ赤道CLに対してそれぞれ異なる傾斜角度で延びていてもよい。
【0033】
次に、タイヤ1は、領域A1及びA2に、グリップ域4a及び4bから、タイヤ赤道CL側へ延びる、複数のサイプ6a及び6b並びに6c及び6dを有している。
【0034】
以下、領域A1を典型例として、
図1及び
図3を参照しながら説明する。サイプ6a及び6bは、領域A1において、グリップ域4aを始端とし、タイヤ赤道CL側へ、タイヤ赤道CLに対して傾斜する向きに延び、タイヤ赤道CLの手前で終端している。なお、グリップ域4aを始端とするとは、図示するグリップ域4aのタイヤ赤道CL側の端から延びている形態に限られず、グリップ域4a上で延在する部分を含んでいてもよい。
【0035】
上述のとおり、テニス等の球技においては、特に、前後方向に前進及び後退する動作が中心であり、手の入力方向も前後方向となる。そのため、前後方向を横切る向き、即ちタイヤ赤道CLに対して傾斜する向きにサイプ6a及び6bが延びることによって、サイプ6a又は6bに手が触れた際に、サイプのエッジ成分によって、トレッド踏面2と手とをグリップさせることができる。なお、サイプ6a及び6bについても、凹条3aと同様に、トレッド踏面2の輪郭線O1よりも凹となる形状を有するため、トレッド踏面2の輪郭線O1から突出する成分によって手や指の表面が突き上げられて強く当接するようなことがなく、競技者の手を傷つけずに、グリップ性を高めることができる。
【0036】
また、上記構成によれば、競技者が、試合中等に汗をかいたときに、手がトレッド踏面2に対して滑るのを防ぐことができる。即ち、競技者が試合中等に汗をかいたときに、指や掌とトレッド踏面との間に汗の水膜が存在すると、手とトレッド踏面とのグリップが妨げられ、トレッド踏面に対して手が滑ることになる。そこで、サイプ6a及び6bに、競技者の濡れた手が接触したときに、汗の水分が、サイプ6a及び6bに取り込まれ、タイヤの回転に伴って、サイプ6a及び6bの延びる、タイヤ赤道CLに対して傾斜する向きに沿って排出される。
【0037】
ここで、グリップ域4aにおけるネガティブ比率は、グリップ域4aよりもタイヤ赤道CL側におけるネガティブ比率より高いことが肝要である。即ち、タイヤの前後方向の動作においては、トレッド踏面2のトレッド端TE側よりも、タイヤ赤道CL側の接地圧が高まる傾向があり、グリップ域4aよりもタイヤ赤道CL側で、ネガティブ比率を低くして、接地面との接地面積を大きくすることによって、接地面との高いグリップ性を発揮させることができる。
【0038】
なお、グリップ域4aよりもタイヤ赤道CL側におけるネガティブ比率の値は特に限定されないが、2~10%とすることが好ましい。グリップ域4aよりもタイヤ赤道CL側におけるネガティブ比率を、2~10%とすることによって、接地面との接地面積を十分に確保し、接地面とのより高いグリップ性を発揮させることができる。また、グリップ域4aにおけるネガティブ比率は、凹条3aによる十分な手とのグリップ性を実現するため、グリップ域4aよりもタイヤ赤道CL側におけるネガティブ比率よりも大きくすることが好ましい。
【0039】
また、サイプ6a及び6bは、タイヤ赤道CLよりも手前で終端しているため、タイヤ赤道CL及びタイヤ赤道CLの隣接領域において、凹凸を有しない表面性状とすることができるため、接地面との高いグリップ性を発揮させることができる。
【0040】
なお、サイプ6a及び6bは、トレッド踏面2における、手と接地面との両方が接触する領域に配置されることが好ましい。即ち、タイヤ1の回転に伴い、タイヤ1のトレッド踏面2は、競技者の手と接触して、接地面に向かい、接地面と接触する動作を繰り返す。よって、トレッド踏面2には、競技者の手との接触領域及び接地面との接触領域の両方が存在している。手との接触領域及び接地面との接触領域は、装着時のキャンバー角度や荷重等によって変化するが、競技者の体に近い側のトレッド端TEに隣接する領域で手と接触し、直進及び後退動作が中心となるテニス競技においては、タイヤ赤道CL及びタイヤ赤道CLに隣接する領域で接地面と接触するのが通例である。また、手との接触領域と、接地面との接触領域とは、手との接触領域におけるタイヤ赤道CL側の部分と、接地面との接触領域におけるトレッド端TE側の部分において重複する場合がある。このような重複領域にサイプを配置することによって、手とのグリップ性と接地面とのグリップ性を効率的に高めることができる。
【0041】
好適には、サイプ6a及び6bの終端は、タイヤ赤道CLから、トレッド踏面2のペリフェリに沿う幅方向長さWDの17%~35%に位置している。即ち、タイヤ赤道CLからサイプ6a及び6bまでの距離を、トレッド踏面2の幅方向長さWDの17%以上として、タイヤ赤道CL及びタイヤ赤道CLの隣接領域を凹凸を有しない表面性状とすることができ、接地面とのグリップ性をより向上させて、35%以下とすることによって、手とのグリップ性を十分に確保することができる。
【0042】
また、サイプ6a及び6bは、グリップ域4aのタイヤ赤道CL側の端から、トレッド踏面2のペリフェリに沿う幅方向長さWDの12~65%のトレッド幅方向長さm1を有していることが好ましい。サイプ6a及び6bのトレッド幅方向長さm1を、トレッド踏面2の幅方向長さWDに対して12%以上とすることによって、手とのグリップ性を十分に高めることができ、65%以下とすることによって、タイヤ赤道CL側における接地面との接地面積を十分に高めることができる。
【0043】
サイプ6a及び6bのタイヤ赤道CLに対する傾斜角度は特に限定されないが、サイプ6aがタイヤ赤道CLに対してなす角度θ1及びサイプ6bがタイヤ赤道CLに対してなす角度θ2が、それぞれ、30~90°であることが好ましい。角度θ1及びθ2をそれぞれ30~90°とすることによって、前後方向の動作を行う手に対してより高いグリップ性を発揮することができる。
【0044】
さらに、複数のサイプ6a及び6bは、隣接する一対のサイプ6a及び6bが、タイヤ赤道CLに直交する線分、即ちトレッド幅方向に沿う線分を対称軸s1として、線対称の関係にある、線対称サイプ対60Aの複数対を有していることが好ましい。図示例では、タイヤの全周に亘って線対称サイプ対60Aが形成されている。また、線対称サイプ対60Aは、各サイプ6a及び6bが、タイヤ赤道CLからトレッド端TEに向かって、対称軸s1から離隔する向きに傾斜することが好ましい。上記構成によれば、サイプ6a及び6bが、タイヤ赤道CLに対して異なる向きに傾斜しているため、競技用車椅子の直進動作のみならず、旋回動作等において、多様な向きから手による入力を付与した場合であっても、手とトレッド踏面2との高いグリップ性を発揮させることができる。また、上記構成によれば、タイヤ赤道CL側からトレッド端TE側に向かって、汗をより効率的に排水させることができる。
【0045】
各サイプ6aと6bとがなす、トレッド端TE側に開口する角度θ3は、10°~135°であることが好適である。上記構成によれば、タイヤ赤道CL側からトレッド端TE側に、汗をより効率的に排水することができる。
【0046】
なお、サイプ6a及び6bの延在方向に直交する開口幅w3は、2.0~20.0mmであることが好ましい。サイプ6a及び6bの開口幅w3を2.0mm以上とすることによって、手の入力に対するエッジ効果を高めることができるとともに、十分な排水機能を付与することができ、20.0mm以下とすることによって、接地面とのグリップ性を高めることができる。
【0047】
また、サイプ6a及び6bの最大深さd4は、0.5~2.0mmであることが好ましい。サイプ6a及び6bの最大深さd4を0.5mm以上とすることによって、サイプ6a及び6bに十分な排水機能を付与することができ、2.0mm以下とすることによって、トレッド踏面2の剛性を維持することができる。
【0048】
また、グリップ域40aに形成された線対称サイプ対60Aと、グリップ域40bに形成された線対称サイプ対60Bとは、ユニフォーミティ及びトレッド幅方向における摩耗の均一化の観点より、領域A1とA2との間で、タイヤ赤道CLに沿って位相差をもって配置されていることが好ましい。
【0049】
なお、凹条及びサイプの形状としては、
図1に示した事例に限られず、
図4A、4B、4C、4D及び4Eに示す形態など、適宜の変形が可能である。以下、領域A1を典型例として説明する。
【0050】
図4Aにおいて、グリップ域40a及び40bは、凹条が複数の向きに延び、交差して、トレッド踏面2に格子状の模様を形成している。また、サイプ61aが、トレッド端TEから延び、グリップ域40aを湾曲形状で横断して、タイヤ赤道CLの手前まで、直線状に延びている。サイプ61bは、グリップ域40aのタイヤ赤道CL側の端から延び、タイヤ赤道CLの手前まで直線状に延びている。サイプ61a及び61bと、サイプ61c及び61dとは、領域A1とA2との間で、タイヤ赤道CLに沿って位相差をもって配置されている。
【0051】
また、
図4Bにおいて、グリップ域40a及び40bは、
図4Aと同様に、トレッド踏面2に格子状の模様を形成している。また、サイプ62aは、トレッド端TEから延び、グリップ域40aを直線状に横断して、タイヤ赤道CLの手前まで、湾曲形状にて延びている。サイプ62bは、グリップ域40aのタイヤ赤道CL側の端から延び、タイヤ赤道CLの手前まで、湾曲形状にて延びている。サイプ62a及び62bと、サイプ62c及び62dとは、領域A1とA2との間で、タイヤ赤道CLに沿って位相差をもって配置されている。
【0052】
図4Cにおいて、グリップ域40a及び40bは、
図4Aと同様に、トレッド踏面2に格子状の模様を形成している。また、サイプ63aは、トレッド端TEから延び、グリップ域40aのタイヤ赤道CL側の端まで直線状に延びている。サイプ63bは、サイプ63aからタイヤ赤道CL側へ、サイプ63aの延在する向きとは異なる向きに、直線状に延び、タイヤ赤道CLの手前で終端している。サイプ63cは、グリップ域40a内における、グリップ域40aのタイヤ赤道CL側の端部近傍から直線状に延び、タイヤ赤道CLの手前で終端している。サイプ63a、63b及び63cと、サイプ63d、63e及び63fとは、領域A1とA2との間で、タイヤ赤道CLに沿って位相差をもって配置されている。
【0053】
図4Dにおいて、グリップ域41a及び41bは、タイヤ赤道CLに対して直交する向きに延びる凹条を配列している。また、サイプ64a及び64cは、トレッド端TEから延び、グリップ域41aのタイヤ赤道CL側の端まで直線状に延びている。サイプ64bは、サイプ64aからタイヤ赤道CL側へ、サイプ64aの延在する向きとは異なる向きに、直線状に延び、タイヤ赤道CLの手前で終端している。サイプ64dは、サイプ64cからタイヤ赤道CL側へ、サイプ64cの延在する向きとは異なる向きに、直線状に延び、タイヤ赤道CLの手前で屈曲して、タイヤ赤道CLに沿う方向に延び、再び屈曲を介して、グリップ域41aまで延びている。また、サイプ64eは、グリップ域41a内における、グリップ域41aのタイヤ赤道CL側の端部近傍から直線状に延び、タイヤ赤道CLの手前で終端している。サイプ64a、64b、64c、64d及び64eと、サイプ64f、64g、64h、64i及び64jとは、領域A1とA2との間で、それぞれ、タイヤ赤道CLに沿って位相差をもって配置されている。
【0054】
図4Eにおいて、グリップ域41a及び41bは、タイヤ赤道CLに対して直交する向きに延びる凹条を配列している。グリップ域41aのペリフェリに沿うトレッド幅方向長さは、グリップ域41bよりも狭くなっている。サイプ65aは、トレッド端TEから、グリップ域41aを横断して延び、グリップ域41aよりもタイヤ赤道CL側において、屈曲を介して延び、さらにタイヤ赤道CL側で屈曲して、タイヤ赤道CLに沿う方向に延びたのち、屈曲を介して、グリップ域41a側へ延びている。サイプ65bは、トレッド端TEから、グリップ域41bを横断して延び、グリップ域41bのタイヤ赤道CL側の端において屈曲して延び、さらに、タイヤ赤道CL側で屈曲して、タイヤ赤道CLに沿う方向に延びたのち、屈曲を介して、グリップ域41bまで延びている。
【0055】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれだけに限定されるものではない。
比較例タイヤ及び発明例タイヤ(ともに、タイヤサイズは23-590(ETRTO:The European Tyre and Rim Technical Organisation))を表1に示す仕様のもと試作し、競技者の手とのグリップ性及び接地面とのグリップ性を評価した。
[グリップ性(手)]
競技用車椅子に装着した。競技者のフィーリングで手とのグリップの程度を、比較例タイヤ対比で評価した。
[グリップ性(接地面)]
競技用車椅子に装着した。競技者のフィーリングでグリップの程度を、比較例タイヤ対比で評価した。
【0056】
【符号の説明】
【0057】
1:タイヤ、 2、20:トレッド踏面、 3a、3b:凹条、 4a、4b、40a、40b、41a、41b:グリップ域、 6a、6b、6c、6d:サイプ、 60A、60B:線対称サイプ対、 61a、61b、61c、61d:サイプ、 62a、62b、62c、62d:サイプ、 63a、63b、63c、63d、63e、63f:サイプ、 64a、64b、64c、64d、64e、64f、64g、64h、64i、64j:サイプ、 65a、65b:サイプ、 CL:タイヤ赤道、 TE:トレッド端、 A1、A2:領域、 O1:輪郭線、 s1:対称軸