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特許7123921サブチラーゼサイトトキシンBサブユニット変異体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】サブチラーゼサイトトキシンBサブユニット変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20220816BHJP
   C07K 14/245 20060101ALI20220816BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220816BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220816BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C12N15/31
C07K14/245
A61K38/16
A61P35/00
G01N33/574 B
G01N33/574 D
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2019524202
(86)(22)【出願日】2017-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 AU2017051230
(87)【国際公開番号】W WO2018085888
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-09
(31)【優先権主張番号】2016904572
(32)【優先日】2016-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】509075181
【氏名又は名称】グリフィス・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】GRIFFITH UNIVERSITY
(73)【特許権者】
【識別番号】504265042
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティー オブ アデレード
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェニングス,マイケル ポール
(72)【発明者】
【氏名】デイ,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】パトン,アドリエンヌ ウェブスター
(72)【発明者】
【氏名】パトン,ジェームス クリーランド
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-505064(JP,A)
【文献】特表2006-509727(JP,A)
【文献】Malykh, Y. N. et al.,"N-Glycolylneuraminic acid in human tumours",Biochimie,2001年,Vol. 83,pp. 623-634
【文献】Paton, A. W. et al.,"A new family of potent AB(5) cytotoxins produced by Shiga toxigenic Escherichia coli",J. Exp. Med.,2004年,Vol. 200,pp. 35-46
【文献】Byres, E. et al.,"Incorporation of a non-human glycan mediates human susceptibility to a bacterial toxin",Nature,2008年,Vol. 456,pp. 648-652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列TTSTE(配列番号3)を含む配列番号2のアミノ酸配列を含む、単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアントであって、前記単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアントのアミノ酸配列TTSTE(配列番号3)の1つ以上のアミノ酸残基が欠失しており、前記単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアントはα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸およびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができ、ならびに前記バリアントは配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含むものである、前記単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント。
【請求項2】
【化1】

(配列番号3)において下線が引かれている残基のうち少なくとも1つの欠失を含む、請求項1に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント。
【請求項3】
【化2】

(配列番号3)において下線が引かれている残基の欠失を含む、請求項2に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント。
【請求項4】
【化3】

(配列番号3)において下線が引かれている残基の欠失を含む、請求項1または2に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント。
【請求項5】
【化4】

(配列番号3)において下線が引かれている残基の欠失を含む、請求項3に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント。
【請求項6】
配列番号2のバリアントである請求項1に記載の単離されたタンパク質であって、
前記バリアントのアミノ酸配列が、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも90%同一であり;
前記バリアントが、
【化5】

(配列番号3)において下線が引かれている残基の欠失を含み;および
前記バリアントが、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸およびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができるものである、前記タンパク質。
【請求項7】
請求項6に記載されるバリアントの断片であって、
前記断片が、
【化6】

(配列番号3)において下線が引かれている残基の欠失を含み;および
前記断片が、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸およびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができるものである、前記断片
【請求項8】
列番号1で表されるアミノ酸配列を含む単離されたタンパク質またはそのバリアントであって、
前記バリアントは、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%同一のアミノ酸配列を含み;および
前記バリアントが、
【化7】

(配列番号3)において下線が引かれている残基の欠失を含み、
前記単離されたタンパク質またはそのバリアントが、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸およびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができるものである、前記単離されたタンパク質またはそのバリアント。
【請求項9】
配列番号2の断片である請求項1に記載の単離されたタンパク質であって、配列番号1のアミノ酸配列を含むものである、前記タンパク質。
【請求項10】
請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、ならびに
α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカン
を含む単離された分子複合体。
【請求項11】
前記α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンが、腫瘍細胞またはネコ科動物の血液細胞で発現される、請求項10に記載の単離された分子複合体。
【請求項12】
請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、を含む組成物。
【請求項13】
前記組成物が担体、希釈剤または賦形剤を含む医薬組成物である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が1つ以上の検出試薬を含む診断用組成物である、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を検出するインビトロの方法であって、
請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、または請求項12もしくは14に記載の組成物を試料と結合させて前記請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはバリアント、または請求項7に記載の断片、または請求項12もしくは14に記載の組成物、ならびに前記α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含む検出可能な複合体を形成する工程を含む、前記方法。
【請求項16】
前記α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸が、腫瘍細胞またはネコ科動物の血液細胞で発現される、請求項15に記載のインビトロの方法。
【請求項17】
前記α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸が、ヒト投与用の組み換えグリコシル化薬物、抗体および他の治療用生体分子を含む試料または調製物中の混入物である、請求項15に記載のインビトロの方法。
【請求項18】
α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンまたは前記グリカンを発現する細胞を検出するインビトロの方法であって、
前記方法は、
請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、または請求項12もしくは14に記載の組成物を試料と結合させて前記請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、または請求項12もしくは14に記載の組成物、ならびに前記α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンを含む複合体を形成する工程;ならびに
前記複合体を単離する工程を含む、前記方法。
【請求項19】
前記細胞が腫瘍細胞またはネコ科動物の血液細胞である、請求項18に記載のインビトロの方法。
【請求項20】
前記α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンが、ヒト投与用の組み換え薬物、抗体および他の治療用生体分子を含む調製物または製剤中の混入物である、請求項19に記載のインビトロの方法。
【請求項21】
対象のがんを治療するための、請求項12または13に記載の組成物であって、前記がんが、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現するがんである、前記組成物。
【請求項22】
前記請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、または請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物が細胞傷害剤と結び付いている、請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、または請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記治療が、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現するがん細胞を殺傷することを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項24】
前記対象がヒトである、請求項21または23に記載の組成物。
【請求項25】
α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現するがん細胞を検出するための、請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
がんを治療することを必要とする対象のがんを治療するための医薬品の製造における、請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、または請求項12または13に記載の組成物の使用であって、前記医薬品が、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現するがん細胞を選択的に標的化するものである、前記使用。
【請求項27】
請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離されたタンパク質またはその断片もしくはそのバリアント、または請求項7に記載の断片、をコードする単離された核酸。
【請求項28】
請求項27に記載の単離された核酸を含む遺伝子構築物。
【請求項29】
請求項1~6及び8~9のいずれか一項に記載の単離タンパク質またはその断片もしく
はそのバリアント、または請求項7に記載の断片、請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物、請求項27に記載の単離された核酸、および/または請求項28に記載の遺伝子構築物を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細菌の毒素タンパク質に関する。より具体的には、本発明は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する能力を保持しながらα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合する能力を有する変異体サブチラーゼサイトトキシンBサブユニットタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
AB5毒素は2段階の過程でその効果を発揮する:(i)五量体であるBサブユニットの標的細胞表面上の特定のグリカン受容体への結合;(ii)AB5毒素の内在化、続いて、Aサブユニットを媒介した宿主の必須機能の阻害または破壊、である。AB5毒素のBサブユニットは細胞表面グリカン受容体を認識し、ホロトキシンの内在化および細胞内輸送を指示する。これらのタンパク質-グリカン相互作用の特異性は、宿主の感受性および組織向性を決定するので、発症のために重要である。さらに、AB5毒素Bサブユニットとそれらの同族グリカンとの間の5価相互作用は非常に高い親和性の結合をもたらし、そのため、これらはグリカン検出の強力なリガンドであり、注目すべき例として、病理組織学的切片におけるガングリオシドGM1の検出および膜中の脂質ラフトの標識のためのコレラ毒素Bサブユニット使用がある。
【0003】
2004年に、Patonらにより、サブチラーゼサイトトキシン(SubAB)と呼ばれるプロトタイプの細菌性AB5毒素の新しいサブファミリーが発見され、最初の生物学的特徴付けが行われた。SubABの場合、Aサブユニット(SubA)は、必須となる小胞体シャペロンBiP/GRP78にかなり高い特異性を有するサブチラーゼファミリーのセリンプロテアーゼであることが発見された。構造研究により、大多数のサブチラーゼとは異なり、SubAは活性部位に異常に深い裂け目を有し、そのためにかなり高い基質特異性を有することが分かった。SubAは、多様な細胞プロセスにおけるBiPの役割を調べるための強力なツールであることが証明されており、がん治療薬としての潜在能力も有する6、7。重要なことに、グリカンアレイ分析によると、毒素のBサブユニット(SubB)が、ヒトが合成できないシアル酸である、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を末端に有するグリカンに対してかなり高い結合特異性を有することが分かった。アレイ上の全てのグリカンのうち、Neu5Gcα2-3Galβ1-4GlcNAcβ-に対して最良の結合が生じた。Neu5GcをNeu5Acに変更した場合、標識毒素のアレイへの結合は20倍減少し;Neu5Gc結合をα2-3からα2-6に変更した場合、30倍を超えて減少し;シアル酸を除去した場合は100倍減少した。アレイ上に表された全体的な構造結合パターンにより、SubBは、最後から2番目の部分についてはほとんど区別なく、末端のα2-3-結合Neu5Gcに対して高い親和性を有することを示した。SubB-Neu5Gc複合体の結晶構造により、この特異性の原理が明らかになった。Neu5GcをNeu5Acと区別する、N-アセチル部分のメチル基上にある付加的なヒドロキシルは、SubBのTyr78OHと相互作用し、Met10の主鎖と水素結合を形成する。これらの重要な相互作用はNeu5Acでは生じることが不可能であり、よって、Neu5Gcへの顕著な偏りにつながる。構造データを用いて、予測される結合ポケット内で重要な残基の変異を誘発すると、グリカン認識、細胞結合および毒性がなくなった。SubBアミノ酸S12およびY78は、安定化をもたらす重要な結合をNeu5Gcと形成する。S12A変異によりグリカン結合は完全に無効となり、Neu5GcをNeu5Acと区別するC11のOH基との相互作用を妨げるY78F変異はグリカン結合の90%の低減をもたらし、変異体SubBタンパク質がNeu5AcよりもNeu5Gcを優先することはなくなった
【0004】
ヒトのがんにおける最も顕著な形態の異常グリコシル化は、Neu5Gcで終わるグリカンの発現である。ヒトはCMAH遺伝子の不活性化変異のためにNeu5Gcを合成できないので13、Neu5Gcは正常な健康なヒト細胞上では有意なレベルで発現されない9-12。それにもかかわらず、がん患者におけるNeu5Gcの提示は、Neu5Gcの最も豊富な源である赤身肉および乳製品の食事摂取によるNeu5Gc吸収によって説明できることが研究により示唆されている14。Neu5Gcの存在は、その発現がしばしば侵襲性、転移および腫瘍の悪性度と相関するので、予後上重要である10。がん細胞上にNeu5Gcグリカンが優先的に観察されるのは、シアル酸のトランスポーターであるシアリンの発現を誘発し、その結果細胞表面上のNeu5Gcおよび他のシアル酸の増加につながる、低酸素性腫瘍環境によるものだと少なくとも部分的に説明され得る15。シアリル抱合体は接着を調節および細胞移動性を促進するため、そのような表面シアリル化の変化は腫瘍細胞のコロニー形成および転移能に影響を及ぼし得る16。乳がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がん、および肺がんでは、Neu5Gcなどの異常なシアル酸レベルの上昇が観察されている11、12。重要なことに、がん細胞へのNeu5Gcの取り込みは、細胞外空間および細胞内の両方に見られる可溶性糖タンパク質において最も顕著であり、Neu5Gcは、がん細胞から周囲組織へ分泌される糖タンパク質において主要なシアル酸である。がんにおけるNeu5Gcの発現は、Neu5Gcに対する異種自己抗体の生産を促進することも知られている17、18。これらの抗Neu5Gc抗体は、ヒト癌腫における新規診断薬、予後診断薬および治療薬のための潜在能力を決定するために調査されている17
【発明の概要】
【0005】
本発明は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸を有するグリカンおよびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を有するグリカンに結合することができる変異体サブチラーゼサイトトキシンBサブユニットタンパク質(SubB)に関する。したがって、変異体SubBタンパク質は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸を有するグリカンに結合する能力を失うことなく、α2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を有するグリカンに結合するこれまでに記載されていない能力を有する。これにより、以前可能であったよりも広い範囲でN-グリコリルノイラミン酸含有グリカンを検出および標的化するために使用することができる変異体SubBタンパク質が提供される。
【0006】
本発明の一態様は、アミノ酸配列TTSTE(配列番号3)の1つ以上のアミノ酸残基が修飾されているSubBのアミノ酸配列を含む単離されたタンパク質を提供し、単離されたタンパク質はα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸およびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができる。
【0007】
一実施形態では、1つ以上の修飾アミノ酸残基はアミノ酸配列TTSTE(配列番号3)で下線が引かれている。
【0008】
一実施形態では、下線を引いたアミノ酸の両方が欠失している。
【0009】
1つの特定の実施形態では、単離されたタンパク質は配列番号1のアミノ酸配列を含む。
【0010】
別の特定の実施形態では、単離されたタンパク質は、アミノ酸配列TTSTE(配列番号3)において下線が引かれている1つ以上のアミノ酸残基の欠失を含む。この実施形態の単離されたタンパク質は、適切に、Neu5Ac-α2-6-lacおよびNeu5Ac-α2-3-lacなどのNeu5Acグリカンに結合することができる。一実施形態では、下線を引いたアミノ酸の両方が欠失している。
【0011】
この態様では、単離されたタンパク質のバリアント、断片および誘導体も提供される。
【0012】
本発明の別の態様では、第1の態様の単離されたタンパク質と、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンとを含む単離された分子複合体が提供される。
【0013】
本発明のさらに別の態様では、第1の態様の単離されたタンパク質を含む組成物を提供する。
【0014】
一実施形態では、組成物は医薬組成物である。
【0015】
他の実施形態では、組成物は診断用組成物である。
【0016】
本発明のさらに別の態様では、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を検出する方法が提供され、前記方法は、第1の態様の単離されたタンパク質を試料と結合させて、第1の態様の単離されたタンパク質とα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸とを含む検出可能な複合体を形成する工程を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸は、腫瘍細胞またはネコ科動物の血液細胞によって発現され得る。
【0018】
別の実施形態では、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸は、ヒト投与用の組み換えグリコシル化薬物、抗体および他の治療用生体分子を含む試料または調製物中の混入物であり得る。
【0019】
本発明の別の態様では、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンまたはそのグリカンを発現する細胞を単離する方法が提供され、前記方法は、本明細書で開示される単離されたタンパク質を試料と結合させて、単離されたタンパク質とα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸とを含む複合体を形成する工程;ならびにそのタンパク質または細胞を単離する工程を含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、細胞は腫瘍細胞またはネコ科動物の血液細胞である。
【0021】
別の実施形態では、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸は、ヒト投与用の組み換えグリコシル化薬物、抗体および他の治療用生体分子を含む調製物または製剤中の混入物であり得る。
【0022】
本発明の別の態様では、対象のがんを治療する方法が提供され、前記方法は、第1の態様の単離されたタンパク質または前述の態様の組成物の対象への工程を含み、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現するがん細胞の選択的な標的化をもたらす。
【0023】
第1の態様の単離されたタンパク質は適切には細胞傷害剤と結び付いている。
【0024】
本発明のさらなる態様では、第1の態様の単離されたタンパク質をコードする単離された核酸を提供する。
【0025】
本発明のさらに別の態様では、第2の態様の単離された核酸を含む遺伝子構築物を提供する。
【0026】
本発明の別の態様では、上記態様の遺伝子構築物を含む宿主細胞を提供する。
【0027】
本発明のさらに別の態様は、上記態様の単離されたタンパク質に結合するまたは上記態様の単離されたタンパク質に対して生じる抗体または抗体断片を提供する。
【0028】
抗体または抗体断片は、適切には、アミノ酸配列TTSTE(配列番号3)において下線が引かれている1つ以上の修飾アミノ酸残基を含むエピトープに結合する。
【0029】
本発明の関連した態様では、単離されたタンパク質、単離された核酸、組成物、遺伝子構築物および/または抗体を含むキットを提供し、たとえばα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸の検出、または、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現する腫瘍細胞の治療的標的化における使用のためであるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書を通して、特に明記しない限り、「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprising)」は、排他的ではなく包括的に使用されるので、表示される整数または整数群は、1つ以上の他の非表示の整数または整数群を含み得る。
【0031】
「から本質的になる」とは、本文脈では、単離されたタンパク質または免疫原性断片が、引用されるアミノ酸配列に加えて1、2または3以下のアミノ酸残基を有することを意味する。追加のアミノ酸残基は、引用されるアミノ酸配列のN末端および/またはC末端に存在し得るが、それらに限定されない。
【0032】
不定冠詞「a」および「an」は、単数形として解釈されるべきではなく、または、1より上の数または不定冠詞が指す対象が1より多い場合を除外すると解釈されるべきではないことも理解される。たとえば、「a」タンパク質は、1つのタンパク質、1つ以上のタンパク質または複数のタンパク質を含む。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1-1】図1は、(A)Neu5Gcα2-3Galβ1-3GlcNAc(X線結晶構造から決定(Byresら、2008))および(B)Neu5Gcα2-6Galβ1-3Glc(X線結晶構造でモデル化)との複合体におけるSubBの表面図を示す。三糖類は緑色またはシアン色の棒として示されており、赤色および青色の残基はそれぞれ酸素および窒素を表す。
図1-2】図1-1の続き。
図2-1】Neu5Gcα2-6Galβ1-3Glc(シアンの棒として示される)とモデル化した野生型およびSubB変異体の表面図を示す。変異したSubB残基は灰色の棒で示され、赤色および青色の残基はそれぞれ酸素および窒素を表す。
図2-2】図2-1の続き。
図3】FITCで標識したヒトおよびウシ血清に対する操作されたSubBのELISAである。ELISAプレート上にコーティングしたSubB(A)およびSubBΔS106/ΔT107(B)は、FITCで標識したヒトおよびウシ血清タンパク質を捕捉することができた。エラーバーは、二重反復アッセイの平均から+1SDを示す。
図4】レクチンオーバーレイアッセイである。ニトロセルロース上に滴下した(1スポットあたりのタンパク質の総量が示されている)ヒトまたはウシAGPの段階希釈物に対するSubBΔS106/ΔT107の結合である。
図5-1】ヒトおよびウシのアルファ-1-酸性糖タンパク質トリプシン消化物由来のNeuAcおよびNeuGcオキソニウムイオンである。(A)ウシアルファ-1-酸性糖タンパク質由来のペプチドTFMLAASWN[Hex2HexNAc2NeuAc1NeuGc1+Man3GlcNAc2]GTKに対応するm/zが1183.163+のグリコペプチドイオンおよび(B)ヒトアルファ-1-酸性糖タンパク質由来のペプチドQDQCIYN[Hex3HexNAc3NeuAc2+Man3GlcNAc2]TTYLNVQRに対応するm/zが1122.284+のグリコペプチドイオンのMS/MSスペクトルの低質量領域であり、NeuAcに特異的である274.1および292.1ならびにNeuGcに特異的である290.1および308.1といった、十分に存在するオキソニウムイオンを示す。(C)ヒトおよびウシのアルファ-1-酸性糖タンパク質トリプシン消化物のLC-MS/MS分析から得た全MS/MSスペクトルの合計イオン強度の割合としてのNeuAcに特異的およびNeuGcに特異的なオキソニウムイオンの強度を示す。(D)MS、ELISA、Biacoreおよびドットブロットで使用したヒトおよびウシAGPのタンパク質ゲルである。
図5-2】図5-1の続き。
図6】Z-バイオテクのアレイのSubB野生型(WT)およびSubBΔS106/ΔT107欠失変異体(2M)の未加工の画像である。領域A(各サブアレイの上部および右下の3つのスポット)Neu5Gcグリカン。領域B(各サブアレイの底部)Neu5Acグリカン。領域C(各サブアレイの右側)対称スポット。
図7】SubB WTとZ-バイオテクのNeu5Ac/Gcグリカンアレイとの相互作用である。Neu5Gcグリカンは青色で示され、Neu5Acは赤色で示されている。
図8】SubBΔS106/ΔT107欠失変異体(Sub2M)とZ-バイオテクのNeu5Ac/Gcグリカンアレイとの相互作用である。Neu5Gcグリカンは青色で示され、Neu5Acは赤色で示されている。
図9-1】Z-バイオテクのアレイ上のグリカンである。
図9-2】図9-1の続き。
図10】ウシAGPと一緒にSubB WTを1%正常ヒト血清に加えた。
図11】ウシAGPと一緒にSubB2M(ΔS106/ΔT107欠失変異体)を1%正常ヒト血清に加えた。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、アミノ酸配列TTSTEに1つ以上の修飾アミノ酸残基を有し、α2-3-結合またはα2-6-結合Neu5Gcのいずれかで終わるグリカンに結合することができる、操作された変異体サブチラーゼサイトトキシンBサブユニット(SubB)タンパク質に関する。単離されたタンパク質は、特定の腫瘍細胞によって発現され、またネコ科動物のA型血液細胞によっても発現されるような、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンを検出する方法において使用され得る。そのようなグリカンはまた、薬物および他の生体分子調製物中の混入物であり得る。したがって、本発明の他の態様は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカン、または、これらのグリカンを発現する細胞を精製、除去または枯渇させることに関する。本発明のさらなる態様は、特定の腫瘍細胞への抗がん剤の標的化送達のために単離されたタンパク質を治療的に使用することに関する。
【0035】
本発明の目的において、「単離された」とは、その自然の状態から取り除かれている、または、人間の操作を受けている材料を意味する。単離された材料は、自然の状態で通常付随する成分を部分的、実質的または本質的に含まないまたは枯渇させた状態であり得る。単離された材料は、天然の形態、化学合成の形態または組み換え形態であり得る。いく
つかの実施形態において、単離された材料は、濃縮形態、部分的に精製された形態、または精製された形態であり得る。
【0036】
本明細書中で使用される場合、「試料」は、より大きな実体を表す任意の画分、一片、部分または一部であり得る。試料は、医薬、薬物、抗体または他の治療用製剤もしくは調製物、または、ヒト、動物もしくは他の生物学的供給源から得られるような生物学的試料であり得る。いくつかの実施形態では、生物学的試料は、限定はされないが、生検、塗抹標本、組織切片または細胞ペレットなどの細胞もしくは組織試料または尿、血清、血漿、脳脊髄液または唾液を含む液体試料であり得る。
【0037】
一般に本明細書で使用される「組成物」は、単離されたタンパク質、核酸、遺伝子構築物、抗体または他の分子を、限定されないが、水または他の溶媒、塩、緩衝剤および/または安定剤などの1つ以上の他の成分と共に含む。ある特定の実施形態では、「診断用」組成物は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むタンパク質の検出を容易にする1つ以上の他の分子成分を含み得る。そのような成分は、以下により詳細に記載されるように、酵素基質、2次抗体、発色試薬、標識および触媒(たとえば、「検出試薬」)を含み得る。他の特定の実施形態において、「医薬」組成物は、以下により詳細に記載されるように、本明細書に開示される単離されたタンパク質の治療的投与を容易にする1つ以上の他の分子成分(たとえば、担体、希釈剤または賦形剤)を含み得る。
【0038】
「タンパク質」とは、アミノ酸ポリマーを意味する。アミノ酸は、当技術分野でよく理解されているように、天然または非天然アミノ酸、D-またはL-アミノ酸であり得る。「タンパク質」という用語は、典型的には50個以下のアミノ酸を有するタンパク質を記述するのに使用される「ペプチド」および50個を超えるアミノ酸を有するタンパク質を記述するのに使用される「ポリペプチド」を含み、包含する。
【0039】
本明細書で一般的に使用される「グリカン」は、糖タンパク質、糖脂質または他の炭水化物含有高分子であり、そしてペプチドグリカン、糖タンパク質、糖ペプチド、および糖リポタンパク質などと呼ばれ得る分子を含む。特定のグリカンは、N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を含む。グリカンは、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含み得る。α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸およびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸は適切には末端シアル酸である。例として、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸は、Neu5Gcα2-3Galβ1-4GlcNAcβ-におけるような末端シアル酸であり;α2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸は、Neu5Gcα2-6Galβ1-3Glc-における末端シアル酸である。
【0040】
上記から理解されるように、本発明の好ましい態様では、アミノ酸配列TTSTEに1つ以上の修飾アミノ酸残基を有するSubBタンパク質のアミノ酸配列を含む単離されたタンパク質を提供し、単離されたタンパク質はα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンおよびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンに結合することができる。本発明の関連した態様では、第1の態様の単離されたタンパク質と、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンとを含む単離された分子複合体が提供される。
【0041】
本文脈において、「α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸およびα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸に結合することができる」とは、単離されたタンパク質がα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンに野生型SubBタンパク質よりも実質的に高い親和性で結合し、一方で、野生型SubBタンパク質に匹敵する親和性でα2
-3-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンにも結合することを意味する。特定の実施形態では、単離されたタンパク質は、約5~15nM、約7~12nMまたは約8~10nMの親和性で、α2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンに結合する。特定の実施形態では、単離されたタンパク質は、約8~20nM、10~18nMまたは約14~16nMの親和性で、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンに結合する。
【0042】
アミノ酸配列TTSTEは通常野生型SubBタンパク質中に存在する。野生型SubBタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含み得る:
【化1】
【0043】
下線を引いた残基は、成熟なSubBには存在しないN末端領域である。したがって、本明細書で使用される番号付けは、グルタミン酸残基24から始まる(すなわち、Glu24=残基1)。この番号付けを使用して、太字の残基TTSTE(配列番号3)は「T104-E108ループ」に対応する。α2-6構造の3級糖はSubBタンパク質表面に折り返され、SubB残基T104-E108を含むループと密接に接触することが提案されている。このループは、C103とC109の間のジスルフィド結合によって安定化される。結果として生じる立体障害は、末端Neu5Gcの結合ポケットへのドッキングを歪め、SubBの最初のグリカンアレイ分析で観察されたα2-6-結合Neu5Gc構造の結合の著しい低下の理由となる。ループ中の1つ以上の残基の修飾は、α2-3構造への結合も可能にしながら、α2-6構造への変異体SubBタンパク質の結合を増強する。一般に、ループの「高さ」を減少または低下させるアミノ酸の欠失または置換は、α2-6-結合Neu5Gc構造への結合を改善するのに有利であり得る。本文脈において、「高さ」は、アミノ酸R基が3D空間内でペプチド骨格から突き出るまたは伸びる距離の関数であり得る(たとえば、バリンはロイシンよりも大きい高さを有する)。したがって、一実施形態では、ループのTTSTE(配列番号3)残基の1つ以上の欠失が好ましい(本明細書では「欠失変異体」と呼ぶ)。好ましくは、これらはTTSTE(配列番号3)において下線が引かれている。配列番号2における成熟なSubBアミノ酸配列の番号付けに基づいて、残基S106および/またはT107が欠失されている。特に好ましい実施形態では、残基S106およびT107が欠失している。
【0044】
よって、変異体SubBタンパク質の1つの特定の実施形態は、配列番号1のアミノ酸配列を含む:
【化2】
【0045】
別の実施形態では、単離されたタンパク質は、アミノ酸配列TTSTE(配列番号3)において下線が引かれているアミノ酸残基の欠失を含む。
【0046】
配列番号2における成熟なSubBアミノ酸配列の番号付けに基づいて、残基T107およびE108が欠失されている。表1からも明らかとなるように、T107およびE108を欠く単離されたタンパク質「欠失変異体」は、α2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンに野生型SubBタンパク質よりも実質的に高い親和性で結合し、一方で、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンにも結合する。しかしながら、
S106およびT107欠失変異体(たとえば、配列番号1)とは対照的に、T107およびE108欠失変異体は、Neu5Ac-α2-6-lacおよびNeu5Ac-α2-3-lacなどのNeu5Acグリカンを含むグリカンに広く結合することができる(たとえば表1を参照)。WT SubBはNeu5Ac-α2-6-lacに検出可能な程度に結合しないことも留意される。したがって、T107およびE108欠失変異体タンパク質は、α2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンおよびα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンなどのNeu5GcグリカンならびにNeu5Ac-α2-6-lacおよびNeu5Ac-α2-3-lacなどのNeu5Acグリカンを結合または検出するために有用なタンパク質であり得る。
【0047】
本明細書に開示される単離されたタンパク質のバリアント、断片および誘導体も提供される。単離されたタンパク質のバリアント、断片および誘導体は、適切には、α2-3-結合およびα2-6-結合Neu5Gcで終わるグリカンに結合する能力を保持している。特定の実施形態では、これは、本明細書に開示される単離されたタンパク質の、単離されたタンパク質がα2-3-結合およびα2-6-結合Neu5Gcで終わるグリカンに結合する能力の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%である。
【0048】
本明細書で使用されるとき、ペプチド「バリアント」は、本明細書に開示される単離されたタンパク質のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%である。本明細書に開示されるペプチド「バリアント」は、異なるアミノ酸が欠失または置換された1つ以上のアミノ酸を有してもよい。当技術分野では、ペプチドの生物学的活性を変化させることなくいくつかのアミノ酸を置換または欠失させることができることがよく理解されている(保存的置換)。
【0049】
それぞれのタンパク質と核酸との間の配列関係を説明するために本明細書で一般的に使用される用語には、「比較ウィンドウ」、「配列同一性」、「配列同一性のパーセンテージ」および「実質的同一性」が含まれる。それぞれの核酸/タンパク質は、それぞれ、(1)完全な核酸/タンパク質配列のうち核酸/タンパク質が共有する1つ以上の部分のみ、および(2)核酸/タンパク質間で分岐している1つ以上の部分を含み得るため、配列比較は、典型的に「比較ウィンドウ」に対して配列を比較し、配列類似性の局所領域を同定および比較することによって行われる。「比較ウィンドウ」とは、参照配列と比較される、典型的に6、9または12個の隣接した残基の概念的セグメントを指す。比較ウィンドウは、それぞれの配列の最適なアラインメントに対し、参照配列と比較して約20%以下の付加または欠失(すなわちギャップ)を含み得る。比較ウィンドウをアラインさせるための配列の最適なアラインメントは、コンピュータ化されたアルゴリズムの実行(参照により本明細書に組み入れられる、Geneworksプログラム、インテリジェネティックス社;ウィスコンシンジェネティクスソフトウェアパッケージリリース7.0のGAP、BESTFIT、FASTAおよびTFASTA、ジェネティックスコンピューターグループ、USA、ウィスコンシン州マディソン575サイエンスドライブ)または選択された様々な方法のいずれかによってなされた検査および最良のアラインメント(すなわち、比較ウィンドウに対して最も高い割合の相同性をもたらす)によって実行され得る。
【0050】
配列の類似性および同一性は、一般に、アルゴリズムGAP(ウィスコンシンパッケージ、アクセルリス社、USA、サンディエゴ)を参照して定義される。GAPは、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して、一致数を最大化し、ギャップ数を
最小化する2つの完全なシーケンスのアラインメントを行う。一般に、デフォルトパラメータが使用され、ギャップ生成ペナルティ=12およびギャップ拡張ペナルティ=4である。
【0051】
Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:405-410)の方法を使用するBLASTファミリーのアルゴリズム、psi-Blastアルゴリズム(Nucl.Acids.Res.(1997) 25 3389-3402)、FASTA(PearsonおよびLipman(1988)PNAS USA 85: 2444-2448の方法を使用)、Smith-Watermanアルゴリズム(SmithおよびWaterman(1981)J.Mol.Biol.147:195-197)、またはTBLASTNプログラム(Altschulら(1990)前出)も参照され、一般にデフォルトパラメータを用いる。
【0052】
配列分析の詳細な議論は、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Ausubelら編、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley&Sons Inc)、NY、1995-2015)のユニット19.3に記載されている。
【0053】
本明細書に記載の関連配列の全長にわたって配列比較を行うことができる。
【0054】
「配列同一性」という用語は、標準的なアルゴリズムを使用して適切なアラインメントを考慮し、比較ウィンドウに対して配列が同一である度合いを考慮する正確なヌクレオチドまたはアミノ酸の一致の数を含むよう、その最も広い意味で使用される。したがって、「配列同一性のパーセンテージ」は次のように計算される:比較ウィンドウに対して最適にアラインメントされた2つの配列を比較する、同一の核酸塩基(たとえば、A、T、C、G、I)が両者の配列で生じる位置の数を決定して一致した位置の数を求める、一致した位置の数を比較ウィンドウ内の位置の総数(すなわちウィンドウサイズ)で割る、そしてその結果に100を掛けて配列同一性のパーセンテージを得る。たとえば、「配列同一性」は、DNASISコンピュータプログラム(ウィンドウズ用バージョン2.5;USA、カリフォルニア州サウスサンフランシスコ、日立ソフトウェアエンジニアリング社から入手可能)によって計算された「一致率」を意味すると理解されてもよい。
【0055】
本発明はまた、本明細書に開示される単離されたペプチドの断片を提供する。いくつかの実施形態では、断片は、本明細書中に開示される単離されたタンパク質のうち10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115個の連続アミノ酸を含んでもよい、または、それらから本質的になり得る、または、それらからなり得る。
【0056】
本明細書に開示される単離されたペプチドの誘導体も提供される。
【0057】
本明細書中で使用される場合、「誘導体」タンパク質またはペプチドは、当該分野で理解されるように、たとえば翻訳後修飾(たとえばリン酸化、ユビキチン化、グリコシル化)、化学修飾(たとえば架橋、アセチル化、ビオチン化、酸化還元など)による他の化学部分との抱合または複合体化によって、または、標識(たとえば、蛍光体、酵素、放射性同位体)との抱合、および/または、追加のアミノ酸配列の包含によって、改変されたものである。
【0058】
これに関して、タンパク質の化学修飾に関するより広範な方法論について、当業者は、「CURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE」(Coliganら編(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ、NY、1995-2015)の
第15章を参照する。
【0059】
追加のアミノ酸配列は、融合タンパク質を作製する融合パートナーのアミノ酸配列を含み得る。例として、融合パートナーのアミノ酸配列は、単離された融合タンパク質の検出および/または精製に役立ち得る。非限定的な例として、金属結合(たとえばポリヒスチジン)融合パートナー、マルトース結合タンパク質(MBP)、プロテインA、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、蛍光タンパク質配列(たとえばGFP)、myc、FLAGおよびヘマグルチニンタグなどのエピトープタグが挙げられる。
【0060】
本発明の単離されたペプチド、バリアントおよび/または誘導体は、限定されないが、化学合成および組み換えDNA技術などの当技術分野において公知の任意の方法によって製造することができる。
【0061】
化学合成は固相および液相合成を含む。そのような方法は当技術分野において周知であり、「SYNTHETIC VACCINES」(Nicholson編(ブラックウェルサイエンスパブリケーションズ(Blackwell Scientific Publications))の第9章および「CURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE」(Coliganら編(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ、USA、NY、1995-2014)の第15章に記載されているような化学合成技術の例が参照される。これに関して、国際公開WO99/02550号および国際公開WO97/45444号も参照される。
【0062】
組み換えタンパク質は、たとえばSambrookら、MOLECULAR CLONING.A Laboratory Manual(コールド・スプリング・ハーバー・プレス(Cold Spring Harbor Press)、1989)、特にセクション16および17;CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Ausubelら編(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ、USA、NY、1995-2014)特に第10章および第16章;ならびにCURRENT PROTOCOLS IN PROTEIN SCIENCE(Coliganら編(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ、USA、NY、1995-2014)、特に第1、5および6章に記載されているような標準的なプロトコルを用いて当業者により都合がいいように調製され得る。
【0063】
検出、精製および/または治療方法に有用であり得る単離されたタンパク質の「誘導体」の特定の実施形態を、以下に記載する。
【0064】
本発明の一態様は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を検出する方法を提供し、前記方法は、本明細書に開示される単離されたタンパク質を試料と結合させて第1の態様の単離されたタンパク質と、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸とを含む検出可能な複合体を形成する工程を含む。
【0065】
α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸は、腫瘍細胞およびネコ科動物の血液細胞といった特定の血液細胞によって発現されるグリカンの成分であり得る。特定の実施形態において、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンは、ヒトのがんによって発現され得、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がんおよび肺がんにおいて発現の上昇が検出される。他の特定の実施形態では、N-グリコリルノイラミン酸はネコ科動物の血液型「A」を定義し、N-アセチルノイラミン酸はネコ科動物の血液型「B」を定義する。
【0066】
したがって、単離されたタンパク質は、生検、体液試料、塗抹標本などの患者試料中のα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現する腫瘍細胞の存在を検出するために使用され得る。別の実施形態では、単離されたタンパク質は、ネコ科動物の血液試料中のα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸などを含むN-グリコリルノイラミン酸グリカンを発現する血液細胞を検出することによってネコ科動物の血液型分類に使用され得る。
【0067】
他の実施形態では、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンは、ヒト投与用の薬物、抗体または他の治療用生体分子を含む調製物または製剤中に存在し得る。
【0068】
ヒト投与のための組み換えグリコシル化薬物、抗体および他の治療用生体分子は、非ヒトシアル酸N-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)を合成および/または代謝的に組み込むことができる非ヒト哺乳動物細胞株で生産されることが多い。高レベルの循環抗Neu5Gc抗体を有するヒトも存在する。例として、臨床的に有効な抗EGFR mAbセツキシマブがNeu5Gcに共有結合したかもしれない。正常ヒト由来の抗Neu5Gc抗体は、Neu5Gcに特異的な方法でセツキシマブと相互作用し、インビトロで免疫複合体を生成する。これらの抗体はインビボでセツキシマブ(または他の治療用抗体)のクリアランスを増強し得る。したがって、薬物、抗体および他の治療用生体分子のNeu5Gc汚染は、そのような薬物が投与された患者において半減期、有効性および免疫反応に悪影響を及ぼす可能性がある。Neu5Gc欠損細胞および培地を使用することによってNeu5Gc汚染を回避することは可能であり得るが、これは全ての場合において最適な解決策ではない可能性もある。したがって、本発明の特定の実施形態は、ヒト投与用の薬物、抗体または他の治療用生体分子中のα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸の検出を提供する。本発明の他の実施形態は、ヒト投与用の薬物、抗体または他の治療用生体分子からのα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸含有混入物の単離、枯渇または除去を提供する。
【0069】
したがって、単離されたタンパク質(たとえば、配列番号1のアミノ酸配列を含むなどの本明細書に開示される単離されたタンパク質)またはその断片もしくはバリアントを、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸の検出を容易にする薬剤と結び付ける、結合する、固定するまたは連結することが有利であり得る。好ましい形態では、単離されたタンパク質は標識と共有結合で結び付いている。
【0070】
他の実施形態では、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンに結合したときに、抗体または抗体断片などの標識2次結合剤を用いて単離されたタンパク質を検出し得る。
【0071】
上記の実施形態のいずれかに従って、標識は、色素原、触媒、ビオチン、アビジン、ジゴキシゲニン、酵素、蛍光色素、化学発光分子または放射性同位元素を含む群から選択され得るが、これらに限定されない。
【0072】
蛍光色素分子は、たとえば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、Alexa染料、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITL)、アロフィコシアニン(APC)、テキサスレッド、FAM、ROX、Cy5、Cy3、またはR-フィコエリスリン(RPE)であり得るがこれらに限定されない。
【0073】
酵素は、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)、β-ガラクトシダーゼまたはグルコースオキシダーゼであり得るが、これらに限定されない。適切な基質には、ジアミノバニジン(DAB)、パーマネントレッド、3-エチルベンズチアゾリンスルホン酸(ABTS)、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート(BCIP)、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TNB)および4-クロロ-1-ナフトール(4-CN)が挙げられるが、これらに限定されない。化学発光基質の非限定的な例としては、HRPおよび過酸化水素の存在下で酸化されて励起状態の生成物(3-アミノフタレート)を形成するLuminol(商標)が挙げられる。
【0074】
放射性同位体標識は、125I、131I、51Crおよび99Tcが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
直接的な目視標識の場合には、コロイド状金属または非金属粒子、染料粒子、有機ポリマー、ラテックス粒子、リポソーム、ミニセルまたは信号発生物質を含有する他の小胞などを使用してもよい。
【0076】
標識された単離されたタンパク質は、組織化学、フローサイトメトリー、蛍光顕微鏡法およびELISA、身体画像化(たとえばPETスキャン)および核医学などの検出システムにおいて使用され得るが、それらに限定されない。
【0077】
さらなる態様において、本発明は、グリカンまたはグリカンを発現する細胞を単離する方法を提供し、グリカンは、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含み、前記方法は、本明細書で開示される単離されたタンパク質を試料と結合させて、単離されたタンパク質とα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸とを含む複合体を形成する工程;ならびにそのグリカンまたは細胞を単離する工程を含む。
【0078】
本文脈において、「単離する」という用語は、好ましくは、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカン、またはそのグリカンを発現する細胞を精製、濃縮または枯渇もしくは除去することを指す。
【0079】
いくつかの実施形態において、単離されたタンパク質(たとえば、配列番号1のアミノ酸配列を含む)またはその断片もしくはバリアントは、上記の通り標識と結び付いており、これにより、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンまたはそのグリカンを発現する細胞の検出が容易になる。非限定的な例としては、腫瘍細胞またはネコ科動物の血液細胞のフローサイトメトリー選別を容易にする蛍光標識(上記のようなもの)が挙げられる。
【0080】
別の実施形態では、本明細書に開示される単離されたタンパク質またはその断片もしくはバリアントは、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンまたはそのグリカンを発現する細胞の単離、濃縮、精製、枯渇または除去を容易にする基質に結び付いていてもよく、または、結合、固定、連結していてもよい。
【0081】
本明細書に開示される単離されたタンパク質またはその断片もしくはバリアントは、ビーズ、マトリックス、架橋ポリマー、ゲル、粒子、表面または他の固体もしくは半固体であり得る基質に結び付いていてもよく、または、結合、固定、連結していてもよい。特定
の実施形態では基質は、セファロース、アガロース、プロテインA、プロテインG、磁気ビーズ、常磁性粒子、またはセンサーチップ表面(たとえば、BIACoreまたは表面プラズモン共鳴用)であってよく、または、それらを含んでよい。適切には、試料は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含み得るもしくは含むと疑われ得る分子の混合物またはその分子を発現する細胞を含み得る。
【0082】
特定の実施形態では、基質に結び付ついた、結合した、固定されたまたは連結された本明細書に開示される単離されたタンパク質またはその断片もしくはバリアントは、クロマトグラフィー(たとえばアフィニティークロマトグラフィー)、磁気ビーズ除去またはα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンまたはそのグリカンを発現する細胞の単離、濃縮、精製、枯渇または除去を容易にする他の技術に適し得る。
【0083】
特定の実施形態では、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸は、試料中の混入物として存在し得、それによって、単離されたタンパク質とα2-3-結合N-グリコシルノイミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸との間で形成される複合体は、試料から混入物を除去する。特定の例は、前述のように、ヒト投与用の組み換えグリコシル化薬物、抗体および他の治療用生体分子を含む調製物または製剤である。
【0084】
たとえば配列番号1のアミノ酸配列を含む本明細書に開示される単離されたタンパク質またはその断片、バリアントもしくは誘導体は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンを発現する腫瘍細胞への抗がん化合物の標的化送達に適し得る。α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸の両方に結合する能力は、本発明が野生型SubBタンパク質を用いて提供され得るよりはるかに有効な標的化送達システムを提供することを意味する。
【0085】
したがって、本発明のさらなる態様では、対象のがんを治療する方法が提供され、前記方法は、本明細書に記載の単離されたタンパク質または組成物の対象へ投与し、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現するがん細胞を選択的に標的化する工程を含む。
【0086】
上記のように、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンを発現する腫瘍細胞もいくつか存在するが、正常な細胞は通常これらの糖を発現しない。特定の実施形態において、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を含むグリカンは、ヒト癌腫によって発現され得、限定はされないが、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がんおよび肺がんにおいて発現の上昇が検出される。
【0087】
一実施形態では、単離されたタンパク質は、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現する腫瘍細胞への結合および殺傷または無力化を促進する細胞傷害剤に結び付いていてよく、または、結合、固定、連結していてよい。
【0088】
細胞傷害剤は、放射性核種、化学療法剤、突然変異誘発物質、毒素、有糸分裂阻害剤または他の抗増殖剤、アポトーシス促進剤、DNA挿入剤または腫瘍細胞の殺傷または無力化を助長または引き起こす他の任意の薬剤であり得る。
【0089】
放射性核種の非限定的な例としては211At、212B1、213Bi、125I、111In、90Yt、193Pt、177Lu、134Euおよび67Gaが挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
化学療法剤、突然変異誘発物質、毒素、有糸分裂阻害剤、アポトーシス促進剤およびDNA挿入剤は、ドキソルビシン、N-アセチル-γ-カリケアマイシン、メイタンシノイド、タキソイド、アウリスタチンおよびデュオカルマイシンを含み得るが、これらに限定されない。化学療法薬、突然変異誘発物質、毒素、有糸分裂阻害剤、アポトーシス促進剤およびDNA挿入剤は、切断可能なまたは切断不可能なリンカーによって単離されたタンパク質と結び付き、切断可能な抱合体を形成してもよい。典型的には、切断可能な抱合体は、腫瘍細胞によって内在化され、切断可能なリンカーが切断されて薬物を細胞内に放出する。切断不可能なリンカーの場合は、薬物が完全に標的腫瘍細胞に局在し、標的腫瘍細胞から隣接する細胞、組織または体液への薬物の「漏出」がないことが必須である場合に好まれ得る。いくつかの実施形態では、化学療法薬、突然変異誘発物質、毒素、有糸分裂阻害剤、アポトーシス促進剤およびDNA挿入剤は、標的腫瘍細胞内の内在化時に活性化されるプロドラッグの形態であり得る。
【0091】
治療的使用に関する実施形態において、単離されたタンパク質(たとえば、配列番号1のアミノ酸配列を含む)またはその断片もしくはバリアントは医薬組成物として投与され得る。
【0092】
適切には、医薬組成物は薬剤的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む。
【0093】
「薬剤的に許容される担体、希釈剤または賦形剤」とは、全身投与に安全に使用することができる固体または液体の充填剤、希釈剤またはカプセル化物質を意味する。特定の投与経路に応じて、当技術分野において周知の様々な担体を使用することができる。これらの担体は、糖、デンプン、セルロースおよびその誘導体、麦芽、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、リポソームおよび他の脂質系担体、植物油、合成油、ポリオール、アルギン酸、リン酸緩衝液、乳化剤、等張食塩水および塩酸塩、臭化物塩および硫酸塩を含む鉱酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩およびマロン酸塩を含む有機酸といった塩ならびに発熱物質を含まない水を含む群から選択され得る。
【0094】
薬剤的に許容される担体、希釈剤および賦形剤を記載する有用な参考文献としてRemington’s Pharmaceutical Sciences(マックパブリッシング(Mack Publishing Co.)、USA、N.J.、1991)があり、参照により本明細書に組み込まれる。
【0095】
本発明の組成物を患者に提供するために任意の安全な投与経路を使用され得る。たとえば、経口、直腸、非経口、舌下、口腔内、静脈内、関節内、筋肉内、皮内、皮下、吸入、眼内、腹腔内、脳室内、経皮などが使用され得る。筋肉内および皮下注射は、たとえば、免疫療法用組成物、タンパク性ワクチンおよび核酸ワクチンの投与に適している。
【0096】
剤形としては、タブレット、分散剤、懸濁剤、注射剤、溶液、シロップ、トローチ、カプセル、坐剤、エアロゾル、経皮パッチなどが挙げられる。これらの剤形はまた、この目的のために特別に設計された徐放性デバイスの注射もしくは移植、または、この様式でさらに作用するように改変された他の移植形態を含み得る。治療薬の徐放は、たとえば、アクリル樹脂、ワックス、高級脂肪族アルコール、ポリ乳酸およびポリグリコール酸ならびにヒドロキシプロピルメチルセルロースのような特定のセルロース誘導体を含む疎水性ポリマーで治療薬をコーティングすることによって達成することができる。さらに、徐放は、他のポリマーマトリックス、リポソームおよび/またはマイクロスフェアを使用するこ
とによってもたらされ得る。
【0097】
経口または非経口投与に適した本発明の組成物は、粉末もしくは顆粒または溶液もしくは水性液体、非水性液体、水中油型エマルジョンまたは油中水型液体エマルジョン中の懸濁液としてそれぞれ所定量の本発明の1つ以上の治療薬を含有するカプセル剤、小袋またはタブレットなどの個別の単位として提供され得る。そのような組成物は、任意の製薬方法によって調製することができるが、すべての方法は、1つ以上の必要な成分を構成する担体と1つ以上の上記薬剤を組み合わせる工程を含む。一般に、組成物は、本発明の薬剤を液体担体もしくは微粉化した固体担体または両方と均一かつ密接に混合し、次いで必要ならば生成物を所望の形状に成形することにより製造される。
【0098】
上記組成物は、投与製剤に適合する方法で、薬剤的に有効である量で投与され得る。本発明の文脈において、患者に投与される用量は、適切な期間にわたって患者に有益な反応をもたらすのに十分であるべきである。投与されるべき薬剤の量は、年齢、性別、体重および一般的な健康状態、施術者の判断に左右される要因といった、治療されるべき対象によって変わり得る。
【0099】
本発明の別の態様は、本明細書に開示される単離されたタンパク質に結合する抗体または抗体断片を提供する。適切には、抗体または抗体断片は、野生型SubBタンパク質(配列番号2のアミノ酸配列を含むなど)に結合しない、または、本明細書に開示される単離されたタンパク質(たとえば、配列番号1のアミノ酸配列を含む)に結合する親和性よりも少なくとも5または10倍低い親和性で結合する。適切には、抗体または抗体断片は、アミノ酸配列TTSTEに1つ以上の修飾アミノ酸残基を含む配列番号1のエピトープに結合する。
【0100】
本明細書中で使用される「抗体」は免疫グロブリンである、または、免疫グロブリンを含む。「免疫グロブリン」という用語は、免疫グロブリンアイソタイプIgA、IgD、IgM、IgGおよびIgEならびにそれらの抗原結合断片といった、哺乳動物免疫グロブリン遺伝子複合体の任意の抗原結合タンパク質生成物を含む。「免疫グロブリン」という用語には、天然に存在するか人間の介入で(たとえば組み換えDNA技術によって)生産されるかにかかわらず、キメラもしくはヒト化した免疫グロブリンまたは改変またはバリアントアミノ酸残基、配列および/またはグリコシル化を含む免疫グロブリンが含まれる。
【0101】
抗体断片には、限定はされないが、FabおよびFab’2断片、二特異性抗体および単鎖抗体断片(たとえばscV)が含まれる。典型的には、抗体は、それぞれCDR1、2および3のアミノ酸配列をそれぞれ含む各軽鎖および重鎖可変領域を含む。抗体または抗体断片は、CDR1、2および/または3のアミノ酸配列の少なくとも一部を含み得る。好ましい抗体断片は、少なくとも1つの全軽鎖可変領域CDRおよび/または少なくとも1つの全重鎖可変領域CDRを含む。
【0102】
抗体および抗体断片は、ポリクローナルまたは好ましくはモノクローナルであり得る。モノクローナル抗体は、たとえば、Kohler&Milstein、1975、Nature 256、495の論文に記載されているような標準的な方法、または、たとえばColiganら、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY第2章に記載されているようなより最近の改変が加わった方法により、単離されたタンパク質(たとえば、配列番号1のアミノ酸配列を含む)またはその断片もしくはバリアントを接種した生産種由来の脾臓または他の抗体産生細胞を不死化することによって生産され得る。また、抗体は、抗体または抗体断片をコードする核酸を適切な宿主細胞中で発現させることによって、組み換え合成抗体または抗体断片として生産され得ることもまた理解
される。組み換え合成抗体または抗体断片の重鎖および軽鎖は、同じ宿主細胞中で異なる発現ベクターから同時発現されてもよく、または、宿主細胞中で単鎖抗体として発現されてもよい。組み換え抗体の発現および選択技術の非限定的な例が、Coliganら、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY(前出)およびZuberbuhlerら、2009、Protein Engineering, Design&Selection 22 169に提供されている。
【0103】
抗体および抗体断片は、「外来」抗体に対する有害な免疫応答を誘発することなく、1つの種に他の種で生産されたまたは他の種に由来する抗体および抗体断片が投与可能であるように改変され得る。ヒトに関しては、これは他の種で生産された、または、他の種に由来する抗体の「ヒト化」である。そのような方法は当技術分野において周知であり、一般に、ヒト抗体のスキャフォールドまたは骨格上への非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)の組み換え「移植」を含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、抗体または抗体断片は標識が付けられている。標識は上記の通りであり得る。
【0105】
本発明はまた、本明細書に開示される単離されたタンパク質またはその断片もしくはバリアントをコードする単離された核酸も提供する。一実施形態では、単離された核酸は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む単離されたタンパク質、またはその断片もしくはバリアントをコードする。
【0106】
本明細書で使用される「核酸」という用語は、1本鎖または2本鎖のDNAおよびRNAを指す。DNAはゲノムDNAおよびcDNAを含む。RNAは、mRNA、RNA、RNAi、siRNA、cRNAおよび自己触媒性RNAを含む。核酸はDNA-RNAハイブリッドでもあり得る。核酸は、典型的にはA、G、C、TまたはU塩基を含むヌクレオチドを含むヌクレオチド配列を含む。しかしながら、ヌクレオチド配列は、イノシン、メチルシトシン、メチルイノシン、メチルアデノシンおよび/またはチオウリジンのような他の塩基を含み得るが、それらに限定されない。
【0107】
単離された核酸のバリアントも企図される。
【0108】
一実施形態では、核酸バリアントは、配列番号1をコードするヌクレオチド配列と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のヌクレオチド配列同一性を有し得る。
【0109】
別の実施形態では、核酸バリアントは、高ストリンジェントな条件下で配列番号1をコードするヌクレオチド配列にハイブリダイズし得る。
【0110】
高ストリンジェントな条件は、Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(ジョン・ワイリー・アンド・サンズ、NY、1995-2015)の第2.9章および第2.10章、特に2.9.1から2.9.20ページに記載されているような、当該分野で周知である。
【0111】
一般に、ストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーションおよび/または洗浄中の1つ以上の因子の濃度に依存する。そのような因子としては、当技術分野でよく理解されているように、イオン強度、洗剤の種類および/または濃度、温度、時間、変性剤の種類および/または濃度が挙げられる。
高ストリンジェントな条件の具体的および非限定的な例には、以下のものが含まれる:
(i)42℃でのハイブリダイゼーションにおいては少なくとも約31%v/vから少
なくとも約50%v/vのホルムアミドおよび少なくとも約0.01Mから少なくとも約0.15Mの塩、ならびに、42℃での洗浄に対して少なくとも約0.01Mから少なくとも約0.15Mの塩;
(ii)65℃でのハイブリダイゼーションにおいては1%BSA、1mMのEDTA、0.5MのNaHPO(pH7.2)、7%SDS、および、65℃を超える温度で約1時間の洗浄に対して(a)0.1×SSC、0.1%SDS;または(b)0.5%BSA、1mMのEDTA、40mMのNaHPO(pH7.2)、1%SDS;ならびに、
(iii)68℃以上で約20分間の洗浄においては0.2×SSC、0.1%SDS。
【0112】
一般に、洗浄はT=69.3+0.41(G+C)%-12℃で行われる。一般に、2本鎖DNAのTは、ミスマッチ塩基数が1%増加するごとに約1℃低下する。
【0113】
一態様では、単離された核酸は、1つ以上の他の遺伝的構成要素に機能的に連結または結合された単離された核酸を含む遺伝子構築物中にある。遺伝子構築物は、単離された核酸の治療的送達または宿主細胞における組み換えタンパク質産生に適し得る。
【0114】
おおまかに言えば、遺伝子構築物は、当技術分野においてよく理解されているように、プラスミド、バクテリオファージ、コスミド、酵母または細菌人工染色体の形態であるか、またはそれらの遺伝成分を含む。遺伝子構築物は、組み換えDNA技術による操作および/または本発明の核酸もしくはコードされたタンパク質の発現のために、細菌または他の宿主細胞に単離された核酸を維持および増殖させるのに適し得る。
【0115】
宿主細胞発現を目的とし、遺伝子構築物は発現構築物である。適切には、発現構築物は、発現ベクター中の1つ以上の追加配列に機能的に連結された本発明の核酸を含む。「発現ベクター」は、プラスミドのような自己複製染色体外ベクターまたは宿主ゲノムに組み込まれるベクターのいずれかであり得る。
【0116】
「機能的に連結」とは、前記追加ヌクレオチド配列が、好ましくは転写を開始、制御または調節するよう本発明の核酸に対して位置付けられることを意味する。
【0117】
制御ヌクレオチド配列は一般に発現に使用される宿主細胞に適切となる。様々な宿主細胞について、多数の種類の適切な発現ベクターおよび適切な制御配列が当技術分野において公知である。
【0118】
典型的には、前記1つ以上の制御ヌクレオチド配列は、プロモーター配列、リーダーまたはシグナル配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、転写開始および終結配列、翻訳開始および終結配列、ならびにエンハンサーまたはアクチベーター配列を含み得るがこれらに限定されない。
【0119】
当技術分野において公知の構成的プロモーター、抑制性プロモーターまたは誘導性プロモーターが本発明によって企図される。
【0120】
発現構築物はまた、上記のように、組み換えタンパク質が融合タンパク質として発現されるように、融合パートナーをコードする追加ヌクレオチド配列(典型的には発現ベクターによって提供される)を含み得る。
【0121】
発現構築物はまた、amp、neoまたはkanのような選択マーカーをコードする追加ヌクレオチド配列を含み得るが、これらに限定されない。
【0122】
創傷または対象への単離された核酸の送達に関する特定の実施形態では、発現構築物は、プラスミドDNAの形態であり得、適切には動物細胞中で作動可能なプロモーター(たとえばCMV、αAクリスタリンまたはSV40プロモーター)を含む。他の実施形態において、核酸は、アデノウイルス、ワクシニア、レンチウイルスまたはアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルス構築物の形態であり得る。
【0123】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載の核酸分子または遺伝子構築物で形質転換した宿主細胞を提供する。
【0124】
発現に適した宿主細胞は原核生物または真核生物であり得る。たとえば、適切な宿主細胞としては、限定されないが哺乳動物細胞(たとえば、HeLa、Cos、NIH-3T3、HEK293T、Jurkat細胞)、酵母細胞(たとえば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))、バキュロウイルス発現システムと一緒にもしくはバキュロウイルス発現システムなしで使用される昆虫細胞(たとえば、Sf9、Trichoplusia ni)、植物細胞(たとえば、クラミドモナス・レインハルディ(Chlamydomonas reinhardtii)、フェオダクチラム トリコルナータム(Phaeodactylum tricornutum))または大腸菌などの細菌細胞が挙げられる。遺伝子構築物の宿主細胞への導入(原核生物であろうと真核生物であろうと)は、たとえば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(Ausubelら編、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ.1995-2015)、特に第9章および第16章に記載されている。
【0125】
本発明の関連した態様では、単離されたタンパク質、単離された核酸、遺伝子構築物および/または抗体を含むキットを提供し、たとえば、単離されたタンパク質の発現、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸の検出、または、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を発現する腫瘍細胞の治療的標的化における使用のためであるが、これに限定されない。
【0126】
例として、α2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸および/またはα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸を検出するためのキットは、標識されていてもされていなくてもよい単離されたタンパク質、任意で、単離されたタンパク質に結合する抗体といった標識2次結合剤、任意でAPまたはHRPのような酵素のための1つ以上の基質、ならびに、使用説明書を含み得る。
【0127】
別の例では、単離されたタンパク質の発現用キットは、単離されたタンパク質をコードする遺伝子構築物、単離されたタンパク質のトランスフェクションおよび発現に適した宿主細胞、ならびに使用説明書を含み得る。
【0128】
本発明が容易に理解されそして実用的な効果がもたらされるように、以下の非限定的な実施例を参照する。
【実施例
【0129】
序論
すでに公知のがんへの関与および通常の非がん性ヒト組織における低レベルを踏まえ、血清中および組織中に多量のNeu5Gcが検出される場合は異常と考えられ、腫瘍の存在の指標となるであろう。これにより、Neu5Gcに対するSubBの特異性を利用して、一連のがんに対するハイスループット診断スクリーニング試験を開発する可能性が生
まれる。しかしながら、α2-6-結合Neu5Gcに対する親和性が乏しいことは、そのような試験の感度に影響を及ぼし得る。本研究では、両方のタイプの構造を高い親和性で認識する能力を有するSubB変異体を設計することを目的に、SubBと、α2-3-結合またはα2-6-結合の、Neu5Gcで終わるグリカンとの相互作用を検討した。
【0130】
結果
SubBのグリカン結合部位の構造誘導変異
α2-3-結合構造に対する偏りの分子的基礎を理解するために、我々はSubBとNeu5Gcα2-3Galβ1-3GlcNAc(X線結晶解析により決定)とNeu5Gcα2-6Galβ1-3Glcとの相互作用を比較した(図1)。前に報告されたように、前者のグリカンのサブ末端糖が溶媒中に自由に広がるのに対して、α2-6構造の3級糖はSubB表面に折り返され、SubB残基T104-E108を含むループと密接に接触する。このループは、C103とC109の間のジスルフィド結合によって安定化される。結果として生じる立体障害は、末端Neu5Gcの結合ポケットへのドッキングを歪め、最初のグリカンアレイ分析で観察されたα2-6-結合Neu5Gc構造の結合の著しい低下の理由となる。
【0131】
α2-6-結合シアル酸は結腸がんの一般的なマーカーであり19、20、一連のがんの予後に関連するので21、本発明者らは分子工学を用いてT104-E108ループの高さを減少させるための一連の置換または欠失変異体を設計することによりSubBへのα2-6-結合Neu5Gc構造の結合を改善した。図2に示すように、これらのSubB変異体とNeu5Gcα2-6Galβ1-3Glcとの相互作用をモデル化し、α2-3-結合Neu5Gc結合に有意な影響を与えずにα2-6-結合Neu5Gcの認識が向上すると予測した。次に、組み換えsubB遺伝子を構築し、C末端がHisでタグ付けされた融合タンパク質として様々なタンパク質を組み換え大腸菌から発現および精製した(方法参照)。単一または二重アミノ酸置換を有するSubBタンパク質(T107AおよびS106A/T107A)、二重欠失変異体(ΔS106/ΔT107)および三重変異体(ΔS106/ΔT107/E108D)の精製に成功した。
【0132】
操作されたSubB変異体の表面プラズモン共鳴
次いで、精製したSubBおよび種々の変異誘導体をBiacoreチップ上に固定化し、そして一連のNeu5AcまたはNeu5Gc末端構造(遊離シアル酸、シアル酸-α2-3-ラクトースおよびシアル酸-α2-6-ラクトース)に対する結合親和性ならびにヒトおよびウシのα1-酸性糖タンパク質(AGP)に対する結合親和性について表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて試験した(表1)。ヒトAGPグリカンはNeu5Acを含み22、23、ウシAGPグリカンはNeu5AcとNeu5Gcの両方を含む23。MS糖タンパク質分析(図5)を行い、SPR研究に使用されたヒトおよびウシのAGPにおけるNeu5AcおよびNeu5Gc分布を確認した。グリカンアレイの結果から予測されるように、野生型SubBは、α2-3-結合Neu5Gc-ラクトースおよび遊離Neu5Gcに対して高い親和性を有することが見出され、ナノモルレベルの結合親和性が観察された。α2-6-結合Neu5Gc-ラクトースでは結合は観察されず(最大濃度25μMまで試験)、α2-3-結合Neu5Acでは2.2μMの親和性が観察され、これは、同等のNeu5Gc構造と比較して300倍超の結合の減少である。野生型SubBはまた、ウシAGPと比較してヒトAGPに対し、結合親和性が13倍減少した。SubBT107Aにおける変異は、野生型タンパク質と比較して、試験した構造のいずれへの結合にも有意な影響を及ぼさなかった。SubBS106A/T107Aはα2-6-結合構造への結合を改善したが、この改善はNeu5AcとNeu5Gcの両方で見られた。試験した全ての結合した糖について観察されたナノモル範囲の親和性は、SubBS106A/T107Aが優れた万能のシアル酸認識レクチンであることを明
らかにしている。SubBΔS106/ΔT107/E108D変異体は、α2-6-結合型Neu5Ac構造への結合を変えることなくα2-6-結合型Neu5Gcの認識を改善した。しかしながら、α2-3-結合Neu5Acとα2-3-結合Neu5Gcとの間の親和性の差は、野生型について観察された300倍と比較すると50倍まで減少した。SubBΔS106/ΔT107変異体は、野生型タンパク質と比較してNeu5Gc対Neu5Ac識別が有意に改善され、2つの構造間で結合親和性の有意差なくα2-3-結合Neu5Gcおよびα2-6-結合Neu5Gcに結合する能力を有していた(それぞれ15.3nM対8.5nM;P=0.12)。このように、SubBΔS106/ΔT107は、Neu5Gc対Neu5Ac識別の増強ならびにα2-3-およびα2-6-結合Neu5Gc構造の両方を認識する能力という最適な組み合わせを示した。SubBΔT107/ΔE108欠失変異体は、野生型SubBタンパク質よりも実質的に高い親和性でα2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンに結合し、同時にα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンにも結合した。しかしながら、SubBΔS106/ΔT107とは対照的に、SubBΔT107/ΔE108は、野生型SubBまたはSubBΔS106/ΔT107のいずれも検出可能には結合しないNeu5Ac-α2-6-lacなどのNeu5Acグリカンに広く結合できる。
【0133】
ニワトリで産生された抗Neu5Gc抗体を対照として使用し、試験したいずれのSubBタンパク質よりもNeu5Gc含有グリカンに対してより低い選択性およびより低い親和性を示した。
【0134】
野生型SubB、SubBS106A/T107AおよびSubBΔS106/ΔT107のグリカンアレイ分析
好ましいNeu5Gcに特異的なSubBΔS106/ΔT107変異が非シアル化構造に対する特異性をもたらしたかどうかを評価するため(SPR分析ではカバーされていない)、SubB野生型、SubBΔS106/ΔT107およびSubBS106A/T107A変異体についてグリカンアレイ分析を実施した(表4)。野生型SubBは、グリカンアレイ上の402個の構造のうち4個のみに有意な結合を示した;Neu5Gcα2-3Gal、Neu5Gcα2-3Galβ1-4GlcNAc、および2つのNeu5Acα2-3Galβ1-4GlcNAc末端構造。これは、以前に公表されたSubB8のグリカンアレイ分析と一致している(www.functionalglycomics.org/glycomics/HServlet?operation=view&sideMenu=no&psId=primscreen_1579#)。SubBΔS106/ΔT107のみがアレイ上の4つの構造に対して有意な結合を示した。これらはNeu5Gcα2-3GalまたはNeu5Gcα2-6Galで終わる構造に限られていた。SubBS106A/T107Aは、Neu5GcおよびNeu5Acを含む構造を有するアレイ上で合計18個のグリカンに結合した。グリコサミノグリカンを含む硫酸化構造(ヘパリンおよびコンドロイチン-6-サルフェート)および硫酸化ラクトサミン構造も認識した(表4)。SubBS106A/T107Aはまた、アレイ上の負に荷電している単糖範囲(Neu5Ac、Neu5Gc、9-NAc-Neu5Ac、3-O-Su-GlcNAc)も認識した。
【0135】
ヒトおよびウシタンパク質/血清に対する操作されたSubBのELISA
生物学的試料中のNeu5Gcの存在を検出する操作された変異体の能力を評価するために、ELISAアッセイを実施した。SubBの段階希釈物でコーティングした皿を用いて、ヒトおよびウシ由来の標識血清タンパク質を試験した。ウシ由来のNeu5Gc含有血清タンパク質の分別認識において、SubBΔS106/ΔT107で2倍の改善が同定された(図3)。
【0136】
ヒト対ウシAGPの検出
ヒトとウシのAGPを区別する能力(ウシのAGPのみが有意なレベルのNeu5Gc末端グリカンを示す)を独立して検証するために、段階希釈糖タンパク質をニトロセルロースフィルター上に滴下し、洗浄およびブロッキング後、フィルターを精製ビオチン化SubBΔS106/ΔT107で覆った。次いで、結合レクチンをストレプトアビジン-APを用いて洗浄したフィルター上で検出した(図4)。ウシAGPへのSubBΔS106/ΔT107の結合は、約200ng/スポットまで検出可能であったが、ヒトAGPへの有意な結合は、最大試験量(12.5μg/スポット)でも検出できなかった。この区別能力は、上記のSPRデータと一致している。
【0137】
追加グリカンアレイ
Zバイオテックのグリカンアレイで分析した種々のNeu5AcおよびNeu5Gcグリカン構造を図9に示し、アレイの一例を図6に示す。表3は、図9のグリカンを図7および図8のアレイデータにリンクさせるコードを提供する。図7に要約されたアレイデータによると、Neu5Gc構造への結合は野生型SubBが偏りをより示すが、バックグラウンドを超えて5000超の蛍光単位で結合するNeu5Acグリカンは4/40であり、5000未満の結合を有するNeu5Gc構造は14/41である。全てのNeu5Ac構造が、バックグラウンドを超えて多少の結合を記録する。図8でも明らかなように、Neu5Gc構造への結合は、SubB2Mが一番強かった。バックグラウンドを超えて5000超の蛍光単位で結合するNeu5Acグリカンは観察されず、5/41のみのNeu5Gc構造が5000未満の結合を有する。7/14のみのNeu5Acグリカンがバックグラウンドを超える結合を有する。この結果は、Neu5Gcに対する特異性の面でWT SubBを用いて得られた結果よりも決定的な改善を示し、Neu5Gc含有グリカンの異なる結合の認識および提示の改善された認識を示す。
【0138】
SubB2Mを用いた血清中のNeu5Gc含有タンパク質のオンチップスクリーニングのさらなる開発
図10および11を参照しながら、すべてのアッセイは、シグマアルドリッチから入手した1%正常ヒト血清のバックグラウンドで行われた。Neu5Gc含有タンパク質を添加した場合、血清のみの対照を下回る値で存在する血清に起因する結合が観察されたため、野生型SubBを分析することはできなかった。これは、SubB WTが血清よりもNeu5Gcタンパク質への偏りを示したが、タンパク質の非存在下では高レベルで血清に結合したことを示している(図10)。図11に示すように、SubB2Mは、31.25nMから62.5nMの間の濃度で、血清バックグラウンドを超える応答を有し、はるかに良好であった。これは約2μg/mLのタンパク質濃度である。
【0139】
考察
Neu5Gcはヒト癌腫における重要な診断上および予後上のマーカーであり、Neu5Gc発現の上昇が乳がん、卵巣がん、前立腺がん、結腸がんおよび肺がんにおいて検出されている11、12。野生型SubBは、Neu5Gcで終わるグリカンに対して前例のない特異性を有していたが、α2-6-結合Neu5Gcとの結合性は低く、弱いながらもα2-3-結合Neu5Ac構造を依然として認識した。α2-6-結合Neu5Gcに対するSubBの認識を改善し、Neu5Gcへの特異性を高めるために、我々は、T104-E108ループに特に焦点を当てて、構造補助修飾を用いてSubBを設計した。
【0140】
このループの操作は、2つの同じアミノ酸の修飾を通して2つの具体的な結果をもたらした。まず、S106およびT107のアラニン置換(S106A/T107A)はNeu5Gcに対する特異性の喪失をもたらし、結合(α2-3およびα2-6)またはシアル酸型(Neu5AcまたはNeu5Gc)にかかわらず、試験したすべての末端シアル化グリカンに結合することができるレクチンの生産につながった。次に、同じ2つのアミ
ノ酸の欠失(ΔS106/ΔT107)により、連鎖(α2-3およびα2-6)にかかわらずNeu5Gcに対してかなり高い特異性を有するレクチンの生産につながった。SubBΔS106/ΔT107変異体は、野生型SubBと比較してNeu5Gc含有構造の認識が有意に改善された。SubBΔS106/ΔT107もまた、α2-3-結合Neu5Gcまたはα2-6-結合Neu5Gc構造に結合するその能力に差がなく、野生型タンパク質よりも有意な改善となった。S106およびT107アミノ酸以外のSubBタンパク質のさらなる修飾は、特異性において有意な改善をもたらさなかった。SubBΔS106/ΔT107タンパク質にE108D変異も加えたSubBΔS106/ΔT107/E108D変異タンパク質は、SubBΔS106/ΔT107よりもα2-3-結合Neu5Gcとα2-3-結合Neu5Acの区別能力が低く、SubBΔS106/ΔT107変異体よりもヒトα1-酸性糖タンパク質に強い結合性を示した(SubBΔS106/ΔT107よりもSubBΔS106/ΔT107/E108Dに結合されるタンパク質は24倍多かった)。対照的に、SubBΔT107/ΔE108欠失変異体は、α2-6-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンおよびα2-3-結合N-グリコリルノイラミン酸グリカンだけでなく、SubBΔS106/ΔT107が検出可能には結合しないNeu5Ac-α2-6-lacおよびNeu5Ac-α2-3-lacなどのNeu5Acグリカンにも結合した。
【0141】
これら改良されたSubB変異体は、生物学的試料、特にがんを有するまたはがんを有すると疑われる個体の血清および他の体液を試験するための新しいツールを提供する。
【0142】
方法
SubBの構造モデリング
SubB変異体の3次元構造は、Phyre2を用いてモデル化した24。Neu5GCα2-6Galβ1-3Glcは、PDB ID:4EN8から得25、Cootを用いて手動でSubBおよびSubB変異体構造にモデル化した26
【0143】
SubB変異体の構築および発現
表2に記載されているフォワードプライマーpETSubBFとそれぞれの変異体特異的リバースプライマーを使用したハイフィデリティーPCRを直接行うことにより、subBコード配列に変異を導入した(3’末端近く)。PCR産物をpET-23(+)(ノバジェン(Novagen))のBamHIおよびXhoI部位にクローニングし、そして大腸菌BL21(DE3)に形質転換した。SubB誘導体は、以前に記載されているように、Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーにより、Hisでタグ付けした融合タンパク質として発現および精製した。タンパク質は、SDS-PAGEおよびクマシーブルー染色によって評価したところ純度>95%であった。
【0144】
SubBおよび操作されたSubB変異体の表面プラズモン共鳴
表面プラズモン共鳴(SPR)は、Biacore T100システム(GE)を用いて以前記載されたように行った27。簡単に説明すると、SubB、SubB変異体および抗Neu5Gc IgY(シアマブ(SiaMab)、旧シアリックス/GC-フリー(Sialix/GC-Free Inc.);USA、カリフォルニア州サンディエゴ)を、NHSキャプチャーキットを用いてシリーズSセンサーチップCM5(GE)のフローセル2-4上に固定し、フローセル1をブランクの固定として実行した。ヒトおよびウシ由来の単糖、二糖、オリゴ糖およびα1-酸性糖タンパク質(シグマアルドリッチ;表1参照)を最初の範囲測定実験で0.01~100μMで流した。濃度を調整し、全てのデータを、Biacore T100評価ソフトウェアを用いた単一サイクル動態を用いて分析した。
【0145】
α1-酸性糖タンパク質の質量分析
ヒト血漿(シグマアルドリッチ、G9885)およびウシ血漿(シグマアルドリッチ、G3643)由来のAGP(6M塩化グアニジニウム、pH8の50mMのTris-HCl中に1mg)を還元し、それぞれ10mMジチオトレイトールおよび25mMアクリルアミドでアルキル化した。次いで、タンパク質を1:1のメタノール:アセトンを4体積分添加することにより沈殿させ、-20℃で16時間インキュベートし、次いで遠心分離後(18,000rcf、10分)、ペレットを回収した。沈殿したタンパク質をpH8の50mM Tris-HCl50μLに再懸濁し、1μgのトリプシン(Trypsin Gold、プロメガ(Promega))で消化した(37℃、16時間)。次いで消化したペプチドをC18ZipTips(ミリポア(Millipore))で脱塩した。
【0146】
SubBおよび操作されたSubBΔS106/ΔT107変異体のELISA分析
黒色96ウェルNUNCマキシソーププレートのウェルを、100mM重炭酸塩/炭酸塩コーティング緩衝液(pH9.6)で、1.25μgから始めて2倍に段階希釈したSubBまたはSubBΔS106/ΔT107タンパク質で、4℃で一晩かけてコーティングした。ウェルをリン酸緩衝食塩水、0.05%Tween-20(PBS-T)で3回洗浄し、ブロッキング溶液(3%BSA)を室温で1時間添加した。正常ヒト血清およびウシ血清中のタンパク質を、生の血清を100μMのFITC色素(Peirce)と混合することによって、氷上で1時間インキュベートすることによって蛍光標識した。1kDaサイズ排除スピンカラムを用いて過剰の色素を除去した。100μlのFITC標識正常ヒト血清またはウシ血清を、SubBまたはSubBΔS106/ΔT107でコーティングしたウェルに添加し、そしてウェルを室温で1時間インキュベートした。ウェルをPBS-Tで3回洗浄した。100μlのPBSを各ウェルに添加し、蛍光を485/535nmで測定した。蛍光単位値は、二重反復試験の平均±SDとして示され、SubBタンパク質を除く全ての試薬を含有するウェルについて得られた平均蛍光単位が差し引かれている。負の値は0と見なした。
【0147】
SubBオーバーレイ実験
EZ-Link(登録商標)Sulfo-NHS-ビオチン化キット(サーモサイエンティフィック(Thermo Scientific))を製造元の指示に従って使用して、精製したSubBΔS106/ΔT107をビオチンで標識した。精製されたヒトおよびウシα-1酸性糖タンパク質(シグマ、カタログ番号G9885およびG3643)を5mg/mlで水に溶解し、5μl容量の段階2倍希釈液をニトロセルロースフィルター上に滴下し、37℃で一晩風乾した。次いで、フィルターを、0.05%Tween20を含むトリス緩衝食塩水(TTBS)中の5%スキムミルクで2時間ブロックした。TTBSで3回洗浄した後、フィルターをTTBS中1μg/mlのビオチン-SubBΔS106/ΔT107で覆い、4℃で一晩インキュベートした。フィルターをTTBSで3回洗浄し、ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼコンジュゲート(ロシュ(Roche))を用いて結合ビオチン-SubBΔS106/ΔT107を検出した。発色性ニトロブルーテトラゾリウム/X-ホスフェート基質システム(ロシュ)を用いてフィルターを開発した。
【0148】
SubBおよび操作されたSubB変異体のグリカンアレイ分析
表3に示されるデータについて、グリカンアレイスライドを、以前に記載されているように28、Arrayit Spotbot Extremeコンタクトプリンターを使用してSuperEpoxy3(アレイット(Arrayit))活性化基質上に印刷した。各サブアレイについて、2μgのSubBタンパク質を、抗Hisタグ抗体(セルシグナリング(Cell signaling))ならびにAlexa 555の2次抗体および3次抗体(ウサギ抗マウス;ヤギ抗ウサギ)と2:1:0.5:0.25の比かつ500μLの最終容量で予め複合体化させた。この500μLの抗体-タンパク質複合体
を、カバーガラスなしで65μLの遺伝子フレーム(サーモサイエンティフィック)に添加した。洗浄および分析は、以前に記載されているように実施した27
【0149】
Neu5Ac/Neu5Gcグリカンアレイ
図6~9に示すデータについては、Neu5Ac/Neu5Gcグリカンアレイは、Z-バイオテク(http://www.zbiotech.com/neu5gc-enoantigen-microarray.html)から入手した。製造業者の説明書に従って、各サブアレイ領域に合計2μgのタンパク質を適用してアレイを作製した。検出は、マウス抗His IgG(タンパク質と1:1のモル比)、ウサギ抗マウスAlexa 555 IgG(0.5モル量のマウスIgG)およびヤギ抗ウサギAlexa 555 IgG(0.5モル量のウサギIgG)を用いて行われた。タンパク質を1時間インキュベートし、1×PBS中で3回洗浄した。スライドを488、532および647レーザーを用いてInnoscan 1100ALでスキャンした。アレイをMapixソフトウェアで分析した。全てのデータは532レーザーチャンネルから得られ、バックグラウンドを差し引いた蛍光を分析に使用した。
【0150】
本明細書を通して、本発明をいずれか1つの実施形態または特定の特徴の集まりに限定することなく、本発明の好ましい実施形態を説明することが目的である。したがって、本開示に照らして、例示された特定の実施形態において本発明の範囲から逸脱することなく様々な修正および変更を行うことができることを当業者は理解するであろう。
【0151】
本明細書で言及されるすべてのコンピュータプログラム、アルゴリズム、特許および科学文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0152】
参考文献
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【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
【表3】
【0156】
【表4-1】

【0157】
【表4-2】
【0158】
【表4-3】
【0159】
【表4-4】
【0160】
【表4-5】
【0161】
【表4-6】
【0162】
【表4-7】
【0163】
【表4-8】
【0164】
【表4-9】
【0165】
【表4-10】
【0166】
【表4-11】
【0167】
【表4-12】
【0168】
【表4-13】
【0169】
【表4-14】
【0170】
【表4-15】
【0171】
【表4-16】
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11