(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】結合構造、管継手、及び結合構造の形成方法
(51)【国際特許分類】
F16L 19/02 20060101AFI20220816BHJP
F16L 21/04 20060101ALI20220816BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20220816BHJP
F16J 15/06 20060101ALN20220816BHJP
【FI】
F16L19/02
F16L21/04
F16J15/10 L
F16J15/10 K
F16J15/06 L
(21)【出願番号】P 2020066443
(22)【出願日】2020-04-02
(62)【分割の表示】P 2018170430の分割
【原出願日】2018-09-12
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】594165734
【氏名又は名称】イハラサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】深谷 信二
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-193876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 19/02
F16L 21/04
F16J 15/10
F16J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管部材と、当該管部材の外周面に装着される円筒部材とを気密又は液密に結合する結合構造であって、
前記円筒部材の内周面には前記管部材の外周面に対向する環状突起が設けられており、且つ、前記環状突起が前記管部材の外周面に対して径方向内向きに食い込んで前記管部材及び前記円筒部材を離脱不能にする
ように構成されており、
前記円筒部材が、前記管部材の管端部に係止される係止部を有している、結合構造。
【請求項2】
請求項1記載の結合構造を有する、管継手。
【請求項3】
管部材の外周面と、当該管部材に装着される円筒部材の内周面とを気密又は液密に結合する結合構造の形成方法であって、
内周面に環状突起を有する
とともに前記管部材の管端部に係止される係止部を有する円筒部材を管部材に装着する第1ステップと、
前記円筒部材の軸方向所定幅を径方向内向きに押圧する第2ステップと、
前記径方向内向きの押圧により前記円筒部材の前記軸方向所定幅に形成された前記環状突起を前記管部材の外周面に食い込ませる第3ステップとを備えている、結合構造の形成方法。
【請求項4】
前記第2ステップにおいて径方向内向きに押圧する円筒部材の領域を、軸方向に沿ってシフトさせる第4ステップをさらに備えている、請求項3記載の結合構造の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管部材と、これに装着される円筒部材との結合構造に係り、特に前記管部材の外周面と円筒部材の内周面とがシール性を有し且つ離脱不能に結合されている結合構造、及び該結合構造の形成方法並びに該結合構造を有する管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
配管部材の継手構造としては、特許文献1に示すように、一対の配管部材を溶接して結合する方法がある。
【0003】
しかしながら、溶接による配管の結合は、その固有な問題として、種々の準備作業、溶接後のビード除去、管路の酸洗いを含む後処理があり、リードタイムが長く、コストの増大を招くといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、溶接を用いることなく、管部材及び管継手をこれまで以上に強固に結合できるようにすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図19は、本発明の原理を説明する模式図であって、管部材Pの外周面と、この外周面に装着される円筒部材Cとの結合構造に関する。具体的には、上方の図で示すように、円筒部材Cの内周面に環状突起tが形成されており、この円筒部材Cの外周面における軸方向所定幅dを径方向内向きに押圧する押圧手段Prが配設されている。
同
図19の下方では、前記押圧手段Prを破線でしめすように、右側へ移動させつつ、径方向内向きの力によって環状突起tを管部材Pの外周面へ徐々に食い込ませていることを示す。
【0007】
すなわち、この原理を適用した本発明に係る結合構造は、管部材の外周面と、当該管部材に装着される円筒部材の内周面とを気密又は液密に結合する結合構造であって、前記円筒部材の内周面に形成された環状突起を有し、前記管部材及び前記円筒部材を離脱不能にすることを特徴とするものである。
【0008】
このように筒状部材の内周面に環状突起が形成されているので、この環状突起を管部材の外周面に食い込ませることで、溶接を用いることなく、これまで以上に強固な結合構造を得ることができる。
【0009】
また、本発明に係る管継手は、前記管部材に結合するものであって、前記管部材とともに上述した結合構造を構成することを特徴とする。
このような管継手を用いれば、上述した結合構造を得ることができ、溶接を用いることなく管部材に強固に結合させることができる。
【0010】
管継手の具体的な実施態様としては、前記管部材を収容する収容空間が形成された第1部材と、前記管部材の外周面と前記収容空間を形成する前記第1部材の内周面(以下、収容面という)との間に介在する前記円筒部材と、前記円筒部材に軸方向の力を与える押込部材とを備えるものを挙げることができる。
【0011】
円筒部材の内周面に形成された環状突起を管部材の外周面に食い込ませるためには、前記押込部材による軸方向の力によって、前記円筒部材に径方向内向きの力を生じさせるように構成されていることが好ましい。
【0012】
ここで、管継手としての要点(第1部材たる継手本体、円筒部材、押込部材たるナット)を示した
図18の構成について検討する。
この管継手を用いる場合、まず、管部材に円筒部材を装着させた状態で、これらを継手本体に差し込み、円筒部材の後側から押込部材であるナットを継手本体に螺合させる。これにより、円筒部材を管部材の外周面と継手本体の内周面との間に押し込むことができる。
ここでは、継手本体の内周面や円筒部材の外周面を、管部材の挿入方向に向かって徐々に縮径するように傾斜させるとともに、円筒部材の内周面に複数の突起を設けてある。これにより、円筒部材を継手本体に向かって押し込むことで、円筒部材が径方向内側に押し潰されて、突起が管部材に食い込む。
【0013】
しかしながら、継手本体の内周面や円筒部材の外周面が傾斜していると、
図18に示すように、円筒部材を押し込む力を増加させると食い込みに関与する環状突起の数が急激に増加するので、押し込む力に抵抗する力も急激に増加する。換言すれば、管部材に食い込む複数の環状突起が同時に抵抗力として作用するので、押し込む力がそれだけ大きくなる。従って、ナットを継手本体に螺合させるに連れて必要な締め付けトルクが大きくなり、締め付けトルクが足らずに十分な圧着性が得られるまで円筒部材を潰せないと、管部材が管継手から抜けてしまう。
【0014】
上述した問題は、管部材の径寸法が大きい程、必要な締め付けトルクが大きくなるので、より顕著に現れる。
【0015】
そこで、上述した問題を解決するためには、前記第1部材には、前記径方向内向きの力を前記円筒部材の外周面の一部に集中させる力集中部が形成されていることが好ましい。
このような構成であれば、円筒部材に与えられた軸方向の力に起因して生じた径方向内向きの力を円筒部材の外周面の一部に集中させることができるので、円筒部材を押し込む際の抵抗を小さくすることができるうえ、
図19の模式図に示すように、円筒部材の内周面に形成された環状突起を例えば1つずつ管部材の外周面に食い込ませることができる。
これにより、円筒部材を押し込むために必要な力(例えばナットを用いた場合の締め付けトルク)を小さくすることができ、ひいては大径の管部材にも本発明に係る管継手を適用することが可能となる。
【0016】
前記力集中部が、前記収容面の一部であって径方向内向きに膨出する膨出面であることが好ましい。
これならば、簡単な構成で力を円筒部材の外周面に集中させることができる。
【0017】
前記円筒部材の軸方向に平行な断面において、前記環状突起が軸方向に沿って複数設けられており、前記円筒部材に生じる径方向内向きの力により、前記複数の環状突起が軸方向に沿って1つずつ前記管部材の外周面に食い込むように構成されていることが好ましい。
このような構成であれば、複数の環状突起を一挙に管部材の外周面に食い込ませる構成に比べて、円筒部材を押し潰すために必要な力が小さくなり、円筒部材を押し込むために必要な力のさらなる低減を図れる。
【0018】
前記複数の環状突起としては、連続して形成された螺旋状をなすもの、又は、非連続に形成された円環状をなすものが挙げられる。
このようなものであれば、管部材と管継手との圧着性やこれらの間のシール性を向上させることができる。
【0019】
前記押込部材の具体的な構成の一例としては、前記第1部材に螺合するナットと、前記ナットから軸方向の力を受けて前記円筒部材を前記第1部材に向かって押圧する円筒要素とを有する構成が挙げられる。
【0020】
また、本発明に係る結合構造の形成方法は、管部材の外周面と、当該管部材に装着される円筒部材の内周面とを気密又は液密に結合する結合構造の形成方法であって、内周面に環状突起を有する円筒部材を管部材に装着する第1ステップと、前記円筒部材の軸方向所定幅を径方向内向きに押圧する第2ステップと、前記径方向内向きの押圧により前記円筒部材の前記軸方向所定幅に形成された前記環状突起を前記管部材の外周面に食い込ませる第3ステップとを備えていることを特徴とする方法である。
このように結合構造を形成すれば、円筒部材の内周面に形成された環状突起を管部材の外周面に食い込ませるので、溶接を用いることなく、これまで以上に強固な結合構造を得ることができる。
【0021】
前記第2ステップにおいて径方向内向きに押圧する円筒部材の領域を、軸方向に沿ってシフトさせる第4ステップをさらに備えていることが好ましい。
これならば、円筒部材の内周面に形成された環状突起を徐々に管部材の外周面に食い込ませることができ、円筒部材を押し込むために必要な力の低減を図れる。
【発明の効果】
【0022】
上述した本発明によれば、管部材及び管継手を、溶接を用いることなく、これまで以上に強固に結合させることができ、しかも、円筒部材を押し込むために必要な力を小さくすることで、大径の管部材の連結にも使用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態における管継手の構成を示す分解断面図。
【
図2】同実施形態における円筒部材の内周面の部分拡大図。
【
図3】同実施形態における管継手と管部材との連結前の状態を示す断面図。
【
図4a】同実施形態における応力集中部の機能を説明するための模式図。
【
図4b】同実施形態における円筒部材に加わる力を解析した結果(円筒部材への圧入開始直後の位置)。
【
図4c】同実施形態における円筒部材に加わる力を解析した結果(円筒部材への圧入の途中位置)。
【
図5】同実施形態における管継手と管部材との連結後の状態を示す断面図。
【
図6】同実施形態における管継手の密着性及びシール性の実験に用いた管部材の写真。
【
図7】他の実施形態における第1部材の構成を示す断面図。
【
図8】他の実施形態における管継手と管部材との連結後の状態を示す断面図。
【
図9】他の実施形態における円筒部材の構成を示す断面図。
【
図10】他の実施形態における管継手と管部材との連結前の状態を示す断面図。
【
図11】他の実施形態における管継手と管部材との連結後の状態を示す断面図。
【
図12】他の実施形態における押込部材の構成を示す断面図。
【
図13a】他の実施形態における環状突起の構成を示す断面図。
【
図13b】他の実施形態における環状突起の構成を示す断面図。
【
図14】他の実施形態における環状突起の構成を示す断面図。
【
図15】他の実施形態における継手本体の構成を示す断面図。
【
図16】他の実施形態における管部材と円筒部材との結合構造を示す断面図。
【
図17】他の実施形態における管継手の使用方法を説明する模式図。
【
図18】従来の管継手を用いた場合に円筒部材に働く力を説明する模式図。
【
図19】本発明の管継手を用いた場合に円筒部材に働く力を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0025】
本実施形態の管継手100は、管部材Pが連結されるものであり、具体的には
図1に示すように、管部材Pの一部(ここでは管端部Pa)が差し込まれる差込口Hが形成された第1部材たる継手本体10と、管端部Paに装着される円筒部材20と、円筒部材20を継手本体10側に押し込む押込部材30とを具備している。ここでの管継手100は、互いの管端部Paを対向させた一対の管部材Pを連結するものであり、それぞれの管部材Pに対して用いられる円筒部材20及び押込部材30を具備している。
なお、
図1に示す構成は、一方(左側)の管部材Pが管継手100にすでに連結されており、他方(右側)の管部材Pが管継手100に連結されていない状態を示している。
【0026】
継手本体10は、管部材Pとの間で流体を流通可能にしつつ、当該管部材Pが連結するものであり、
図1に示すように、差込口Hを介して差し込まれた管端部Paを収容する収容空間Sが形成されている。ここでの継手本体10は、一対の管部材Pを連結するものであり、各管部材Pの管端部Paそれぞれに対応する一対の収容空間Sと、これらの収容空間Sを連通する連通路Lとが形成されている。
【0027】
より具体的に説明すると、継手本体10は、略回転体形状をなすものであり、内周面のうちの収容空間Sを形成する部分11(以下、収容面11ともいう)の径寸法が、連通路Lを形成する部分の径寸法よりも大きい。収容空間Sと連通路Lとの間には、段部が形成されており、この段部によって収容空間に差し込まれた管部材Pを係止させることができる。
【0028】
円筒部材20は、
図1に示すように、上述した収容空間Sに管端部Paが収容された状態において、収容面11と管端部Paの外周面との間に介在して、これらの面の密着性やこれらの間のシール性を確保するためのものである。ここでの円筒部材20は、収容面11と管端部Paの外周面との間に形成される環状空間に圧入されるように設計されており、具体的には圧入される前の状態において、外径(外周面21の径寸法)が収容面11の径寸法よりも若干大きく、内径(内周面22の径寸法)が管部材Pの径寸法よりも若干大きい。
【0029】
より具体的に説明すると、円筒部材20は、概略円筒状のものであり、差し込まれた管端部Paの先端面に係止する係止部23と、後述する押込部材30に押圧される被押圧面24とを有している。そして、係止部23に管部材Pの端面が当てられた状態で、被押圧面24が押圧されることにより、管部材Pとともに円筒部材20が収容空間Sに差し込まれる(圧入される)ように構成されている。なお、ここでの被押圧面24は軸方向に対して傾斜した傾斜面であるが、必ずしも傾斜させる必要はない。
【0030】
さらに、円筒部材20は、先端(継手本体10側)に向かって外径が徐々に縮径するテーパ部25が設けられている。そして、このテーパ部25よりも先端側の外径を上述した収容面11の径寸法よりも小さくすることで、円筒部材20の先端部を収容空間Sに容易に差し込むことができるようにしてある。一方、円筒部材20のテーパ部25よりも後側の外周面21は、軸方向に対して傾斜することなく、軸方向に沿って延びている。
【0031】
また、円筒部材20の内周面22には、
図2に示すように、径方向内向きに突出する環状突起26が設けられている。この環状突起26は、円筒部材20が収容面11と管端部Paの外周面との間に圧入されて径方向に潰されることで、管端部Paの外周面に食い込む。環状突起26の突出方向は、ここでは径方向から若干先端側に傾いた方向としてあるが、これに限らず例えば径方向に突出させても良い。本実施形態では、軸方向に沿った断面において複数の環状突起26が設けられており、これらの環状突起26は全体として螺旋状に形成されている。なお、環状突起26としては、軸方向に沿った断面において非連続に形成された円環状のものであっても良い。また、環状突起26は、円筒部材20の内周面22におけるテーパ部25よりも後側に設けられており、テーパ部25には設けられていない。
【0032】
押込部材30は、
図1に示すように、円筒部材20を継手本体10に向かって押し込むものであり、円筒部材20の被押圧面24を押圧する押圧面31を有している。本実施形態の押込部材30は、管部材Pが挿通するとともに、継手本体10の外周面に形成されたネジ部に螺合するナットである。なお、押圧面31は、被押圧面24と対応させて、軸方向に対して傾斜した傾斜面であるが、必ずしも傾斜させる必要はない。
このように、押込部材30の機能は、円筒部材20に着目すれば、円筒部材20を継手本体10に対して相対的に押し込むものとして説明できるが、継手本体10に着目すれば、継手本体10を円筒部材に対して相対的に引き込むものとして説明することができる。つまり、押込部材30は、継手本体10との距離を縮めながら継手本体10を円筒部材20に引き込むものでありながら、継手本体10との距離を縮めながら円筒部材20を継手本体10に押し込むものである。この明細書における「押し込む」とは、上述した双方(押し込む及び引き込む)の機能を含めた概念である。
【0033】
ここで、本実施形態の管継手100に管部材Pを連結させる方法について説明する。
【0034】
まず、
図3に示すように、管継手100に連結させる管部材P(
図3における右側の管部材P)に押込部材30たるナットを通し、管端部Paに円筒部材20を装着(外嵌)させた状態で、管端部Paを継手本体10に押し当てるようにして、円筒部材20の先端部(具体的にはテーパ部25)を継手本体10の差込口Hに押し当てる。
【0035】
この状態において、押込部材30たるナットを継手本体10に螺合させていく。これにより、押込部材30の押圧面31が円筒部材20の被押圧面24を押圧して、押込部材30から円筒部材20に軸方向の力が加わり、円筒部材20が、管端部Paの外周面と収容面11との間で潰されながら、管端部Paとともに収容空間Sに圧入される。
【0036】
然して、本実施形態の管継手100は、
図4a、
図4b、及び
図4cに示すように、円筒部材20に与えられた軸方向の力を径方向内向きの力に変換して、その径方向内向きの力を円筒部材20の外周面21の一部に集中させるように構成されている。
【0037】
より具体的に説明すると、特に
図4aに示すように、継手本体10の収容面11には、円筒部材20に与えられた軸方向の力を径方向内向きの力に変換して、その径方向内向きの力を円筒部材20の外周面21の一部に集中させる力集中部Xが設けられている。なお、同
図4aでは、あたかも継手本体10の収容面11が動くことなく、その収容面11に対して円筒部材20が押し込まれているように見受けられるが、実際には、上述したように継手本体10が円筒部材20に引き込まれている状態でもある。
【0038】
図4b及び
図4cは、この構成において、円筒部材20の外周面21に加わる力をFEM解析した結果を示したものである。この解析結果から、力集中部Xにより円筒部材20の外周面21の一部に力が集中していることが分かる。なお、
図4b及び
図4cにおける矢印の長さが、円筒部材20の外周面に加わる力の大きさを示している。図示の例の最長矢視では700MPaに相当している。
【0039】
力集中部Xは、例えば収容面11から径方向内向きに膨出する膨出面であり、
図3の状態において、円筒部材20の先端部(テーパ部25)を受ける面となる。なお、ここでの力集中部Xは、収容面11における差込口Hの近傍に設けられており、収容面11における力集中部Xが設けられていない部分は、軸方向に対して傾斜することなく、軸方向に沿って延びている。
【0040】
円筒部材20に与えられた軸方向の力が、力集中部Xによって径方向内向きの力に変換されて円筒部材20の外周面21の一部に集中すると、
図4aに示すように、その力が集中した箇所において円筒部材20が潰されて変形し、円筒部材20の内周面22に形成された環状突起26が管部材Pの外周面に食い込む。
【0041】
本実施形態の力集中部Xは、
図4a、
図4b、及び
図4cに示すように、径方向内向きの力を円筒部材20の外周面21の一部に集中させることで、円筒部材20の内周面22に形成された複数の環状突起26が軸方向に沿って徐々に(例えば1つずつ)管部材Pの外周面に食い込むように構成されている。
【0042】
このように、押込部材30であるナットを継手本体10に螺合させながら、
図5に示す状態まで円筒部材20を継手本体10に向かって押し込むことで、円筒部材20が収容面11と管端部Paの外周面との間に形成された環状空間に圧入されるとともに、円筒部材20の内周面22に形成された環状突起26が管端部Paの外周面に食い込んで、管部材Pと管継手100とが強固に結合され連結される。これにより、管端部Paの外周面と円筒部材20の内周面22との間には、円筒部材20の内周面22に形成された環状突起26を用いてなる結合構造であって、シール性(気密性或るいは液密性)を有し且つ離脱不能な結合構造が形成される。
【0043】
このように構成された管継手100であれば、円筒部材20の内周面22に形成された環状突起26を軸方向に沿って1つずつ管部材Pの外周面に食い込ませるように力集中部Xが設けられているので、複数の環状突起26を一挙に食い込ませる構成に比べて、円筒部材20を押し込むために必要な力(押込部材30たるナットの締め付けトルク)を小さくすることができ、例えば外径30mm程度の大径の管部材Pにも適用することが可能となる。
【0044】
さらに、円筒部材20が収容面11と管端部Paの外周面との間に形成された環状空間に圧入されるとともに、円筒部材20の内周面22に形成された環状突起26が管端部Paの外周面に食い込むので、収容面11と管部材Pの外周面との間には、非常に良好な密着性及びシール性が得られる。
図6に示す写真がその証左であり、本実施形態の管継手100に連結された管部材Pを密閉状態にして圧油を供給し続けた結果である。すなわち、管部材Pを密閉状態にして圧油を供給し続けた場合、収容面11と管部材Pの外周面との間の密着性が不十分であると、管継手100から管部材Pが抜けてしまうし、シール性が不十分であると圧油が漏れ続けるが、実際には管部材Pが破裂した(写真の破線で囲まれた部分)。このことは、収容面11と管部材Pの外周面との間に、非常に高い密着性やシール性が得られていることの証左である。なお、ここで用いた管部材Pは、外径34mm、肉厚6.4mmの炭素鋼からなるものであり、引っ張り強さ500N/mm
2である。なお、破壊圧力は230MPaであった。
【0045】
また、
図4cに示すように、収容面11における力集中部X以外の部分や、円筒部材20のテーパ部25よりも後側の外周面21が、軸方向に対して傾斜することなく、軸方向に沿って延びているので、円筒部材20における力集中部Xを通過した後の部分には、円筒部材20に径方向内向きの力が作用せず、円筒部材20の変形が抑えられ、円筒部材20の押し込みが妨げられない。その結果、円筒部材20を押し込むために必要な力をより小さくすることができる。
【0046】
そのうえ、円筒部材20の内周面22に形成された環状突起26が全体として螺旋形状であるので、この環状突起26を管部材Pの外周面に食い込ませることで、シール性をより向上させることができる。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0048】
例えば、
図7に示すように、管端部Paが差し込まれる第1部材40は、継手本体10とは別部材であっても良い。具体的にこの第1部材40は、前記実施形態と同様に、管端部Paが収容される収容空間Sが形成されており、この収容空間Sを形成する収容面41と管端部Paの外周面との間に円筒部材20が圧入されるように構成されている。なお、収容空間Sに連通する連通路Lは、ここでは第1部材40と継手本体10とに亘って形成されている。
【0049】
そして、ここでの管継手100は、
図8に示すように、継手本体10の端面12と第1部材40の端面42とが互いに対向するとともに、これらの端面12、42がOリング等のシール部材Zを介して密接するように構成されている。具体的には、前記実施形態と同様に、押込部材30が円筒部材20を第1部材40に向かって押し込むことで、第1部材40が継手本体10に向かって押し込まれる。これにより、継手本体10の端面12と第1部材40の端面42とがOリング等のシール部材Zを介して密接する。
【0050】
このような構成であれば、第1部材40を継手本体10とは別部材にしてあるので、押込部材30たるナットを継手本体10から外すことで、第1部材40を継手本体10から離すことが可能である。換言すれば、継手本体10を径方向に移動させることができ、管部材Pと着脱可能な管継手100を提供することができ、例えば狭小なスペース等での作業性を向上させることができる。
【0051】
押込部材30としては、
図9~
図11に示すものであっても良い。
具体的にこの押込部材30は、前記実施形態におけるナット30aの他に、ナット30aから軸方向の力を受けて円筒部材20を継手本体10に向かって押圧する円筒移動体30bをさらに備えている。
この円筒移動体30bは、円筒部材20の外径よりも小さい内径を有するものであり、内周面には、径方向内側に突出して円筒部材20の端部を受け止める段部32が形成されている。
【0052】
この管継手100を用いる場合、
図10に示すように、まず管部材Pにナット30aを通し、その後、円筒移動体30bを装着させる。そして、管部材Pに円筒部材20を装着させる。その状態で、管部材Pを収容空間Sに差し込む。そして、ナット30aによって円筒移動体30bを継手本体10に向かって押し込むことにより、円筒移動体30bが、管端部Paの外周面に配置されている円筒部材20と継手本体10の収容面11との間に圧入される。
【0053】
このような構成であれば、押込部材30によって円筒移動体30bを押し込む際に、管部材Pの軸方向位置が制約されない。さらに、
図11に示すように、左方の管部材の内径が右方の管部材の外径より大きい場合、右方の管部材の軸方向取り付け位置は何ら制約されず、いわゆる二重管構造を構成している。
【0054】
押込部材30としては、前記実施形態のナットに限らず、
図12に示すように、一対の管部材Pそれぞれの管端部Paに設けられたフランジ部Fと、フランジ部Fを連結するネジ等の連結部Bとから構成しても良い。
具体的には、一対の管部材Pそれぞれに円筒部材20を外嵌して、それぞれの管端部Paを収容空間Sに差し込む。この状態において、それぞれのフランジ部Fに形成された複数のネジ孔にネジ等の連結部Bを挿通して締めることで、フランジ部Fの離間距離を縮めながら円筒部材20を押し込むことができる。
なお、
図12の構成における第1部材10は、前記実施形態の継手本体を、一方の収容空間Sが形成された第1要素10aと、他方の収容空間Sが形成された第2要素10bとに分割したものであり、第1要素10a及び第2要素10bにおける対向面は、Oリング等のシール部材Zを介して密接している。
【0055】
力集中部Xとしては、
図13aに示すように収容面11の複数箇所に設けられていても良い。
また、力集中部Xは、
図13bに示すように、収容面11における差込口Hの近傍に限らず、差込口Hから連通路L側に離れた位置に設けられていても良い。
【0056】
前記実施形態の円筒部材20の内周面22には複数の環状突起26が設けられていたが、
図14に示すように、円筒部材20の内周面22に1つの環状突起26が設けられていても良い。
【0057】
前記実施形態の管継手100は、互いの管端部Paを対向させた一対の管部材Pを連結するためのものであったが、
図15に示すように、連結空間がL字状をなし、互いの管端部Paの向きを例えば直交させた状態で一対の管部材Pを連結するものであっても良い。
さらには、前記実施形態の管継手100は、一対の管部材Pを連結するものであったが、片側は管部材でなくても良く、例えば流体機器等のポートと管部材Pとを連結するために管継手100を用いても良い。
【0058】
また、管継手100としては、
図16に示すように、少なくとも円筒部材20を用いて構成されていれば良く、前記実施形態における継手本体10や押込部材30は必ずしも必要としない。
【0059】
そのうえ、
図17に示すように、円筒部材20の内周面22に形成された環状突起26を、予め管部材Pの外周面に食い込ませておけば、管継手100としては、押込部材30を備えたものでなくても良い。
【0060】
より具体的に説明すると、
図17に示すように、まず円筒部材20を外嵌させた管部材Pをストッパ50に固定する。この際、管端部Pa及び円筒部材20は継手本体10に相当する継手本体相当部材60の収容空間S1に収容される。この状態において、管継手100とは別に用意した押込部材30を例えば油圧シリンダ70によって円筒部材20の外周面21と収容空間S1を形成する収容面61との間の環状空間に押し込む。この場合においても、油圧シリンダ70により円筒部材20に加わる軸方向の力は、押込部材30の内周面に設けられた力集中部Xによって、径方向内向きの力に変換されて円筒部材20の外周面21に集中する。その結果、環状突起26が管部材Pの外周面に食い込む。
このように、予め環状突起26を管部材Pの外周面に食い込ませておけば、この管部材Pを継手本体10の収容空間Sの奥まで差し込むことができるので、ナットを継手本体10に螺合させる際に必要な締め付けトルクを非常に小さくすることができる。
上記
図17に示す例は、押込部材30を収容空間S1の奥まで軸方向に押し込んだ(圧入した)後、シリンダ70の先端部から分離することにより、継手本体相当部材60と一体に固着されることを示す。また、参照符号60aは結合用のねじ部である。なお、この場合、収容空間S1の継手本体相当部材60がなくても良い。また、押込部材30をシリンダ先端に固定したまま引く抜くことも可能である。押込部材30を引き抜く場合は、例えば押込部材30を油圧により径方向に拡径することで引き抜き抵抗を減らすことができる。
【0061】
上述した
図1~
図17では、円筒部材を径方向内向きに押圧する押圧手段Pr(
図19参照)として、主に圧入操作を採用した例を示したが、本発明の押圧手段はこうした圧入操作方式に限定されない。すなわち、圧入操作方式は、前述したように、ナット等の押込部材の軸方向に沿った移動に伴って同時的に径方向内向きの押圧力を生じさせるものであるが、
図19に示すように、径方向内向きの押圧力の発生と、押圧手段Prの軸方向の移動を別々のタイミングで行うようにしても良い。こうした例としては、公知の転造ローラを利用する方式(例えば特開平11-290980号公報)や、割り金型を利用して径方向に縮径するかしめ方式などを挙げることができる。
【0062】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0063】
100・・・管継手
P ・・・管部材
Pa ・・・管端部
10 ・・・継手本体(第1部材)
H ・・・差込口
S ・・・収容空間
L ・・・連通路
11 ・・・収容面
20 ・・・円筒部材
21 ・・・外周面
22 ・・・内周面
23 ・・・ストッパ面
24 ・・・被押圧面
25 ・・・テーパ部
26 ・・・環状突起
30 ・・・押込部材
31 ・・・押圧面
X ・・・力集中部