(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】応力推定システム、応力推定装置、及び内視鏡システム
(51)【国際特許分類】
A61B 1/00 20060101AFI20220816BHJP
G02B 23/24 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
A61B1/00 554
A61B1/00 552
G02B23/24 A
(21)【出願番号】P 2020508805
(86)(22)【出願日】2018-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2018013671
(87)【国際公開番号】W WO2019187025
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】羽根 潤
【審査官】北島 拓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161374(JP,A)
【文献】特開2013-094337(JP,A)
【文献】国際公開第2016/189724(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/009905(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121106(WO,A1)
【文献】特開2007-185355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00 - 1/32
G02B 23/24 -23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有し、被検体の内部に挿入されて前記被検体の内面に力を加える可撓性部材と、
前記可撓性部材にかかる力に関する力情報を取得する力情報取得部と、
前記被検体と前記可撓性部材との接触が生じている領域である接触領域を推定し、前記接触領域を応力推定領域に設定する接触領域推定部と、
前記被検体の所定の領域である
前記応力推定領域についての被検体情報を取得する被検体情報取得部と、
前記力情報と前記被検体情報とに基づいて、前記応力推定領域に係る応力の情報を算出する応力推定部と、
を具備する、応力推定システム。
【請求項2】
前記被検体情報取得部は、前記応力推定領域の外周の長さと前記応力推定領域における前記被検体の厚みとを取得し、
前記応力推定部は、前記応力推定領域において前記被検体に加わる力の大きさ及び向きを算出し、算出した前記力の大きさ及び向きと、前記応力推定領域の外周の長さと、前記被検体の厚みとに基づいて、前記応力の情報を算出する、請求項1に記載の応力推定システム。
【請求項3】
前記接触領域推定部は、前記接触領域の外周の長さを推定
する、請求項1に記載の応力推定システム。
【請求項4】
前記被検体情報取得部は、前記被検体が前記被検体の外部の構造物に固定されている固定部の領域を前記応力推定領域とする、請求項2に記載の応力推定システム。
【請求項5】
前記応力推定部は、安全係数を用いて、前記応力の情報を算出する、請求項1に記載の応力推定システム。
【請求項6】
前記応力推定部は、前記被検体の内部又は表面から前記可撓性部材にかかる力が前記可撓性部材の先端部にかかる場合に、前記先端部の形状と前記先端部の向く方向と前記力のかかる方向とのなす角度とを用いて、前記応力の情報を算出する、請求項2に記載の応力推定システム。
【請求項7】
前記応力推定部は、前記可撓性部材にかかる力が前記可撓性部材の長手方向の中間部にかかる場合に、前記力がかかる位置周辺での前記可撓性部材の断面形状と前記可撓性部材の中心軸方向と前記かかる力の方向とのなす角度とを用いて、前記応力の情報を推定する、請求項2に記載の応力推定システム。
【請求項8】
前記被検体情報を推定する被検体情報推定部をさらに具備し、前記被検体情報取得部は、前記被検体情報推定部から前記被検体情報を取得する、請求項2に記載の応力推定システム。
【請求項9】
前記可撓性部材の形状及び配置に関する形状及び配置情報を検出する形状及び配置情報検出部をさらに具備し、前記被検体情報推定部は、検出した前記形状及び配置情報に基づいて前記被検体情報を推定する、請求項8に記載の応力推定システム。
【請求項10】
前記可撓性部材の長手方向の複数の位置における機械特性を表す機械特性情報を取得する機械特性取得部と、
前記可撓性部材にかかる力に関する力情報を算出する力情報算出部とをさらに具備し、
前記形状及び配置情報は、前記複数の位置における変形状態の情報を含み、
前記力情報算出部は、
前記複数の位置における、前記変形状態の情報と前記機械特性情報とに基づいて、前記可撓性部材の1つ以上の位置にかかる力に関する力情報を算出する、請求項9に記載の応力推定システム。
【請求項11】
前記応力推定部によって算出された前記応力の情報が前記被検体に与える影響を判断する被検体影響判断部をさらに有する、請求項1に記載の応力推定システム。
【請求項12】
前記応力の情報に基づく呈示情報を示す情報呈示装置をさらに有する、請求項1に記載の応力推定システム。
【請求項13】
前記可撓性部材の形状及び位置の変化を動力により生じさせる駆動部と、
前記応力の情報に基づく駆動情報を前記駆動部にフィードバックする情報フィードバック部と、をさらに有する、請求項1に記載の応力推定システム。
【請求項14】
前記力情報が前記可撓性部材に与える影響を判断する可撓性部材影響判断部をさらに有する、請求項1に記載の応力推定システム。
【請求項15】
前記応力推定領域は、前記可撓性部材と前記被検体との接触が生じている領域である、請求項1に記載の応力推定システム。
【請求項16】
被検体の内面に力を加える可撓性部材にかかる力に関する力情報を取得する力情報取得部と、
前記被検体と前記可撓性部材との接触が生じている領域である接触領域を推定し、前記接触領域を応力推定領域に設定する接触領域推定部と、
前記応力推定領域についての被検体情報を取得する被検体情報取得部と、
前記力情報と前記被検体情報とに基づいて、前記応力推定領域に係る応力の情報を算出する応力推定部と、
を具備する、応力推定装置。
【請求項17】
可撓性を有し、被検体の内部に挿入されて前記被検体の内面に力を加える内視鏡挿入部と、
前記内視鏡挿入部にかかる力に関する力情報を取得する力情報取得部と、
前記被検体と前記内視鏡挿入部との接触が生じている領域である接触領域を推定し、前記接触領域を応力推定領域に設定する接触領域推定部と、
前記応力推定領域についての被検体情報を取得する被検体情報取得部と、
前記力情報と前記被検体情報とに基づいて、前記応力推定領域に係る応力の情報を算出する応力推定部と、
を具備する、内視鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力推定システム、応力推定装置、及び内視鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の挿入部、医療用又は工業用の細径マニピュレータのアームなどの可撓性部材を被検体に挿入する際、可撓性部材が被検体に接触して被検体を押圧することがある。このような押圧による被検体への影響を推定するために、可撓性部材に加わる外力の情報を算出することが知られている。
【0003】
例えば、日本国特表2009-522016号公報には、挿入部にひずみゲージを設け、挿入部が被検体の表面に接触した際に被検体から受ける力量を当該ひずみゲージで測定することが開示されている。日本国特開平6-154153号公報には、内視鏡の挿入部の先端に設けられた感圧センサで体腔内の臓器から受ける力量を検出する検出装置が開示されている。日本国特開2013-094337号公報には、挿入部に複数の湾曲センサを設け、これら湾曲センサの検出情報の組合せ演算により、挿入部に加わる外力に関する外力情報を含む操作支援情報を演算することが開示されている。
【発明の概要】
【0004】
可撓性部材と被検体の内部又は表面とが接触したときの被検体の負担を正確に評価するためには、可撓性部材からの力が作用したときに被検体に生じる応力を推定することが望ましい。上述の文献では、可撓性部材に加わる力を算出することは可能であるが、被検体に生じる応力を求めることはできない。それ故、被検体の負担を正確に評価することができない。
【0005】
そこで、本発明は、被検体に生じる応力を精度よく容易に推定することができる応力推定システム、応力推定装置及び内視鏡システムを提供することを目的とする。
【0006】
本発明の一実施形態は、可撓性を有し、被検体の内部に挿入されて前記被検体の内面に力を加える可撓性部材と、前記可撓性部材にかかる力に関する力情報を取得する力情報取得部と、前記被検体と前記可撓性部材との接触が生じている領域である接触領域を推定し、前記接触領域を応力推定領域に設定する接触領域推定部と、前記応力推定領域についての被検体情報を取得する被検体情報取得部と、前記力情報と前記被検体情報とに基づいて、前記応力推定領域に係る応力の情報を算出する応力推定部と、を具備する、応力推定システムである。また、本発明の一実施形態は、このような内視鏡システムである。
【0007】
本発明の一実施形態は、被検体の内面に力を加える可撓性部材にかかる力に関する力情報を取得する力情報取得部と、前記被検体と前記可撓性部材との接触が生じている領域である接触領域を推定し、前記接触領域を応力推定領域に設定する接触領域推定部と、前記被検体の所定の領域である応力推定領域についての被検体情報を取得する被検体情報取得部と、前記力情報と前記被検体情報とに基づいて、前記応力推定領域に係る応力の情報を算出する応力推定部と、を具備する、応力推定装置である。
【0008】
本発明によれば、被検体に生じる応力を精度よく容易に推定することができる応力推定システム、応力推定装置、及び内視鏡システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る力覚評価システムの主要な構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、内視鏡システムの構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、内視鏡の挿入部の操作方向の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、挿入部に組み込まれた位置センサの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、挿入部に組み込まれた位置センサ及び形状センサの一例を示す図である。
【
図6】
図6は、磁気式の位置センサの構成の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、挿入部のセグメント分けの概念を説明するための図である。
【
図8】
図8は、1つのセグメントの湾曲形状の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、被検体から挿入部に加わる押圧力Fと、セグメントSG
i中心から押圧力Fの加わった位置までのベクトルd
iとを示す図である。
【
図10】
図10は、挿入部が腸管及び臓器を押し上げている状態の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、挿入部が腸管を押す際に被検体に生じる力の一例を示す図である。
【
図12A】
図12Aは、挿入部が腸管を押している接触状態において働く力の一例を示す図である。
【
図12B】
図12Bは、挿入部が腸管を押している接触状態を挿入部先端の上から見た断面の一例を示す図である。
【
図12C】
図12Cは、挿入部が腸管を押している接触状態を挿入部の軸方向から見た断面の一例を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、腸管において応力が集中する領域の一例を示す断面図である。
【
図14B】
図14Bは、肛門付近にある腸管固定部の手前の部分に働く応力の分布の一例を示す図である。
【
図14C】
図14Cは、肛門付近にある腸管固定部の手前の部分に働く応力の分布の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、挿入部先端がS状湾曲部にかける力を説明するための図である。
【
図16】
図16は、挿入部先端がS状湾曲部にかける力を説明するための図である。
【
図17】
図17は、挿入部の中間部がS状湾曲部にかける力を説明するための図である。
【
図18A】
図18Aは、挿入部の中間部がS状湾曲部にかける力を説明するための図である。
【
図19】
図19は、挿入部先端が腸管に接触している状態を内視鏡上方から見た一例を示す図である。
【
図20】
図20は、挿入部の中間部が腸管に接触している状態を内視鏡上方から見た一例を示す図である。
【
図21】
図21は、第1の実施形態に係る力覚評価システムの主要な構成の他の例を概略的に示す図である。
【
図22】
図22は、第1の実施形態に係る力覚評価システムによる処理の一例を示す図である。
【
図23】
図23は、第1の実施形態の変形例に係る力覚評価システムの主要な構成の一例を概略的に示す図である。
【
図24】
図24は、第1の実施形態の変形例に係る力覚評価システムの主要な構成の他の例を概略的に示す図である。
【
図25】
図25は、第2の実施形態に係る力覚評価システムにおける作業用システムの構成の一例を概略的に示す図である。
【
図26】
図26は、第2の実施形態に係る力覚評価システムの主要な構成の一例を概略的に示す図である。
【
図27】
図27は、第2の実施形態に係る力覚評価システムの主要な構成の他の例を概略的に示す図である。
【
図28】
図28は、第2の実施形態に係る力覚評価システムによる処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態に係る力覚評価システムについて説明する。力覚評価システムは、可撓性部材を含む挿入機器、例えば医療用内視鏡、に汎用的に適用される。力覚評価システムは、上部消化管内視鏡、大腸内視鏡、超音波内視鏡、膀胱鏡、腎盂鏡等の医療用内視鏡以外にも、カテーテル、医療用マニピュレータなどにも適用可能である。
【0011】
操作者が可撓性部材を被検体に挿入して観察、診断、治療、処置などの作業を行う際、可撓性部材が被検体に接触して力を加えることで、被検体、例えば管空、に力又は応力が生じる。ここで、応力とは、単位面積当たりにかかる力である。可撓性部材から被検体に力が加わったとき、被検体にはその内部の構造等に応じてさまざまな力又は応力が生じる。力覚評価システムは、被検体に生じるこのような力又は応力を推定する。なお、被検体に生じる力の合力は、可撓性部材から被検体に加えられた力とつり合う。すなわち、当該合力は、被検体に加えられた力の反力である。
【0012】
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る力覚評価システム1、すなわち応力推定システムの主要な構成の一例を概略的に示す図である。力覚評価システム1は、被検体200の内部に挿入されて被検体200の内面に力を加える可撓性部材12によって被検体200に生じる応力を推定することができる応力推定システムである。第1の実施形態に係る力覚評価システム1は、被検体200の管空に可撓性部材12が挿入されて診断、治療などの作業が行われることを想定している。
【0013】
本実施形態における力覚評価システム1は、被検体200に対して動作する可撓性部材12の形状情報及び被検体200に対する配置情報を含む形状及び配置情報を演算する。被検体200に対する動作は、例えば、被検体200への挿入、表面走査、観察、修理、診断、治療等である。力覚評価システム1は、形状及び配置情報に基づいて、可撓性部材12にかかる力に関する第1の力覚情報、すなわち力情報を算出する。力覚評価システム1は、形状及び配置情報と第1の力覚情報と被検体200に関する被検体情報とに基づいて、被検体200に生じる力又は応力に関する第2の力覚情報を算出する。ここで、力覚情報とは、力の位置、向き及び大きさの少なくとも1つを含む情報である。第2の力覚情報は、被検体200の内部又は表面で起こっている力、すなわち、被検体200の内部又は表面に生じる力又は応力に関する情報である。
【0014】
特に、本実施形態における力覚評価システム1は、応力推定システムとして、可撓性部材12にかかる力に関する力情報を取得して、応力を推定する対象領域である被検体200における所定の応力推定領域の外周の長さと応力推定領域における被検体200の厚みとを含む被検体情報を取得して、前記力情報に基づいて、応力推定領域において被検体200に加わる力の大きさ及び向きを算出し、算出した力の大きさ及び向きと、応力推定領域の外周の長さと、被検体200の厚みとに基づいて、応力推定領域の外周における応力の情報を算出する。
【0015】
図1に示される力覚評価システム1は、内視鏡システム2と、制御装置100とを含む。内視鏡システム2は、内視鏡10を含む。内視鏡10は、可撓性部材12として挿入部14を有している。挿入部14は、被検体200の管空内に挿入される。
【0016】
(被検体と管空)
本実施形態では、被検体200は、主に、診断又は治療をされる患者又は患者の臓器を想定している。なお、被検体200は、患者又は臓器の代わりに、シミュレーション用の患者モデル又は臓器モデルでもよい。あるいは、被検体200は、哺乳類、爬虫類、鳥類等の動物でもよい。また、医療に特化せずとも、被検体200は、内部に管空又は空間を有する機器、ワーク等でもよい。
【0017】
本実施形態に係る力覚評価システム1の対象である被検体200の管空は、主に、消化器、気管支、泌尿器等である。管空以外にも、手術等で開腹した臓器なども対象としてよい。以下の説明では、被検体200の管空として大腸を例に挙げる。大腸は、人によって形状、配置などが異なり、時間の経過、機器の挿入等によって形状が特に変化しうる臓器である。例えば、大腸には可動腸管と固定腸管とがあり、直腸、下行結腸及び上行結腸は自由に動きうる可動腸管、S状結腸、横行結腸及び盲腸は固定腸管である。
【0018】
(内視鏡システム)
図2を参照して、内視鏡システム2について説明する。
内視鏡システム2は、内視鏡10と、画像処理装置18、すなわちビデオプロセッサと、表示装置20と、光源装置22と、光出射検出装置24と、内視鏡制御装置26とを有している。内視鏡10は、上述したように、可撓性部材12として挿入部14を有している。内視鏡10は、挿入部14に内蔵された不図示の撮像素子で観察対象物を撮像する。観察対象物は、被検体200内における患部、病変部等であってよい。画像処理装置18は、内視鏡10の撮像素子で観察対象物からの光を変換した電気信号を画像処理する。表示装置20は、画像処理装置18で画像処理された観察画像を表示する。光源装置22は、照明光を出射し、内視鏡10の不図示のライトガイドに照明光を供給する。光出射検出装置24は、照明光とは異なる、後述するセンサ46、ここではファイバセンサである形状センサ50、の検出用の光を出射し、センサ46を経由した光を検出する。内視鏡制御装置26は、内視鏡システム2全体の動作を制御する。これら装置18、20、22、24、26は、ラック76に搭載されてよい。
【0019】
内視鏡10は、可撓性部材12としての細長い管状の挿入部14と、挿入部14の基端部と連結された操作部16とを有している。挿入部14は、挿入部14の先端から基端へと順に、先端硬質部30と、湾曲部32と、可撓管部34とを有している。先端硬質部30の基端部は、湾曲部32の先端部と連結している。湾曲部32の基端部は、可撓管部34の先端部と連結している。
【0020】
先端硬質部30は、挿入部14の先端部であって、かつ内視鏡10の先端部である。先端硬質部30は、硬く、ここに撮像素子、照明光学系、観察光学系等が内蔵されている。光源装置22からの照明光が、前記ライトガイドを介して先端硬質部30の先端面の照明光学系から観察対象物に照射される。
【0021】
湾曲部32は、図示しない節輪が挿入部14の長手軸方向に沿って連結されることにより構成されている。湾曲部32は、操作部16に設けられた湾曲操作部36に入力される操作に応じて、所望の方向に湾曲する。例えば操作者である医師等の作業者が操作部16を操作することにより湾曲部32が湾曲されて、先端硬質部30の位置及び向きが変えられる。これにより、内視鏡10は、観察対象物を観察視野内に捉える。
【0022】
可撓管部34は、所望の可撓性を有しており、外力によって曲がる。可撓管部34は、操作部16の本体部38から延出した管状部材である。
【0023】
内視鏡10では、操作者が湾曲部32を湾曲操作したり可撓管部34を捻ったりしながら、被検体である患者の消化器、気管支、泌尿器等の管空へ挿入部14を挿入していくことが可能である。
【0024】
なお、挿入部14は先端硬質部30及び湾曲部32を含むが、先端硬質部30は極短い部分であること、及び、湾曲部32は湾曲可能な構成であることから、本明細書中における可撓性部材12との用語は、概ね挿入部14を指すものとして用いられる。
【0025】
図3は、挿入部14の操作方向として、挿抜方向、湾曲方向及び回転方向を概略的に示す図である。挿入部14の操作方向として、
図3に双方向矢印A1で示されるような、管空内に挿入された挿入部14の挿抜方向と、双方向矢印A2で示されるような、挿入部14の捻り方向、すなわち回転方向とがある。また、挿入部14の操作方向として、双方向矢印A3で示されるような、湾曲操作部36の操作による湾曲部32の上下方向と、双方向矢印A4で示されるような、湾曲操作部36の操作による湾曲部32の左右方向とがある。
【0026】
操作部16は、可撓管部34が延出している本体部38と、本体部38の基端部と連結している把持部40とを有している。把持部40は、内視鏡10を操作する操作者によって把持される。把持部40には、湾曲操作部36が配置されている。また、操作部16からユニバーサルコード42が延びている。ユニバーサルコード42は、挿入部14内から延びた撮像用電気ケーブル、ライトガイド等を含む。内視鏡10は、ユニバーサルコード42を介して、画像処理装置18、光源装置22、光出射検出装置24、内視鏡制御装置26、制御装置100などの各種装置に接続されている。
【0027】
(センサ)
力覚評価システム1は、センサ46を含む。本実施形態におけるセンサ46は、位置センサ48と形状センサ50の少なくとも一方である。位置センサ48は、挿入部14の位置を検出するセンサである。形状センサ50は、挿入部14の形状を検出するセンサである。例えば、
図2には、センサ46として、挿入部14の長手方向に沿って配置された形状センサ50が示されている。例えば、
図4には、センサ46として、挿入部14の長手方向に沿って互いに離間して配置された複数の位置センサ48が示されている。例えば、
図5には、形状センサ50と複数の位置センサ48とを含むセンサ46が示されている。
【0028】
センサ46は、制御装置100の後述する形状及び配置情報演算部102とともに、形状及び配置情報検出部52を構成している。
【0029】
図4及び
図5に示される位置センサ48は、例えば、磁気式である。このような位置センサ48では、
図6に示されるように、挿入部14に磁気コイル54が設けられている。また、受信機となる磁気アンテナ70が室内に固定して設置されている。磁気コイル54は、不図示の信号生成部から出力される磁界発生信号としての電流を受けて磁界を発生させる。磁気アンテナ70は、発生した磁界を検出する。検出した磁界に基づいて、形状及び配置情報演算部102は、磁気コイル54が配置された挿入部14の位置を算出する。なお、磁気アンテナ70を被検体200に取り付ければ、被検体200に対する挿入部14の相対位置が検出可能である。磁気アンテナ70を送信アンテナとし、挿入部14に受信コイルを設けて、送受信を逆にしても構わない。
【0030】
また、磁気式の位置センサ48を含む形状及び配置情報検出部52は、向きも検出可能である。挿入部14の長手方向に関して同じ位置で周方向に関して異なる位置に複数の磁気コイル54を配置することにより、形状及び配置情報検出部52は、位置だけでなく挿入部14の配置及び姿勢も検出可能となる。
【0031】
位置センサ48は、磁気式に限定されるものではなく、超音波方式、光学式、加速度センサを用いた方式などであってよい。位置センサ48を含む形状及び配置情報検出部52は、被検体200に対する、あるいは、被検体200が置かれた室内などの場所に対する挿入部14の位置又は相対位置を検出できるものであればよい。また、被検体200に対する挿入部14の相対位置を検出するための位置センサとして挿入部14の挿入量と回転量とを検出する挿入部センサを用いてもよい。例えば、被検体200の入口に配置した挿入部センサと位置センサ48とを組み合わせることで、被検体200に対する挿入部14の相対位置が検出可能である。
【0032】
例えば、
図4及び
図5に示されるように、複数の位置センサ48を含む形状及び配置情報検出部52において、位置センサ48が挿入部14の長手方向に沿って互いに離間して配置されている場合には、検出位置間が補間されることにより、挿入部14の形状が検出可能である。
【0033】
図2及び
図5に示される形状センサ50は、例えば、光ファイバを用いて特定箇所の曲率から曲げ形状を検出するように構成されたファイバセンサである。ファイバセンサは、細径で挿入部14に組み込みやすく、また、他の構成の影響を受けにくいため、形状センサ50として好適である。ファイバセンサである形状センサ50は、例えば、挿入部14の長手方向に沿って配置された光ファイバを有している。光ファイバには、長手方向に沿って互いに離間して配置された複数の被検出部が設けられている。ファイバセンサでは、上述の光出射検出装置24から光ファイバに検出用の光が供給される。供給された光が光ファイバを伝達したときの各被検出部における光の変化量に基づいて、形状及び配置情報演算部102が挿入部14の形状を算出する。なお、形状及び配置情報演算部102は、光出射検出装置24に含まれてもよい。
【0034】
形状センサ50は、ファイバセンサに限定されるものではなく、機能、サイズ等を満足するものであれば、どのようなセンサであってもよい。例えば、1つ以上のカメラ画像から、挿入部14の形状を算出してもよい。
【0035】
このように、センサ46と形状及び配置情報演算部102とを含む形状及び配置情報検出部52は、機能面で十分な性能、サイズ等の仕様を有するものであれば、具体的な検出方法、組込み方法等は特に限定されない。
【0036】
(制御装置)
制御装置100は、上述の形状及び配置情報演算部102と、第1の力覚情報算出部104と、第2の力覚情報算出部108と、被検体情報推定部110と、接触状態推定部112と、被検体影響判断部114と、情報出力部116と、を有している。これら各部は、CPUなどの1又は複数の集積回路を含むプロセッサにより構成されている。例えば、プロセッサをこれら各部として機能させるためのソフトウェアプログラムを図示しないメモリ内に準備しておき、そのプログラムをプロセッサが実行することで、各部としての機能をプロセッサが実施してよい。制御装置100はまた、機械特性記憶部106と、出力情報記憶部118とを有している。各記憶部106、118は、不揮発性の半導体メモリ等のストレージである。
【0037】
制御装置100の上述の各部は、例えば、
図2に示される1つの筐体80内に収容されている。制御装置100は、他の装置18、20、22、24、26と同様にラック76に搭載されてよい。
【0038】
制御装置100の上述の各部は、制御装置100とは別の制御装置に含まれてもよい。例えば、上述の各部は、画像処理装置18又は内視鏡制御装置26に含まれてよい。あるいは、上述の各部の各々が画像処理装置18及び内視鏡制御装置26とは異なる制御装置に含まれてもよい。すなわち、制御装置100の上述の各部として機能するプロセッサあるいはFPGAなどのハードウェア回路は、各部としての機能を実施可能である限り、1つの筐体に含まれてもよいし、複数の筐体に含まれてもよい。例えば、上述の各部が挿入部14内に配置されてもよいし、通信で接続された遠隔地にあってもよい。各記憶部106、118も同様に、1又は複数の記憶部であってよいし、制御装置100とは別体の外部記憶装置であって通信で接続されるものであってよい。
【0039】
(形状及び配置情報演算部)
形状及び配置情報演算部102は、上述したように、センサ46による検出結果に基づいて、挿入部14の形状情報及び被検体200に対する配置情報を含む形状及び配置情報を演算する。形状及び配置情報演算部102は、センサ46から直接得られる情報が座標又は形状の形式になっていない場合、得られた情報を所望の形式に加工する処理を行う。形状情報は曲率を含むこと、また、配置情報は慣性座標系の座標に基づくものであることが望ましい。しかしながら、被検体200に生じる力又は応力に関する力覚情報を最終的に得られるものであればどのような表現方法でも構わない。
【0040】
形状及び配置情報演算部102は、センサ46から得られる情報から挿入部14全体の形状及び配置情報を直接求められなくても、センサ46が検出した位置の情報又は形状の情報に対して挿入部14の位置又は形状を補間するなどして、被検体200に生じる力又は応力に関する力覚情報の算出に必要な情報を適宜算出する。具体的には、形状及び配置情報演算部102は、後述する第1の力覚情報及び第2の力覚情報の演算等に用いることを目的に、挿入部14を仮想的にセグメント分けし、セグメントごとの位置、向き、湾曲量等を求める。
【0041】
形状及び配置情報演算部102で算出された形状及び配置情報は、第1の力覚情報算出部104及び第2の力覚情報算出部108に出力される。
【0042】
(機械特性記憶部)
機械特性記憶部106は、挿入部14の機械特性を表す機械特性情報を記憶している。機械特性記憶部106は、例えば、挿入部14をセグメント分けした各セグメントの機械特性に関する値を記憶している。言い換えれば、機械特性記憶部106は、可撓性部材12の長手方向の複数の位置における機械特性を表す機械特性情報を記憶している。機械特性は、挿入部14の各セグメントの機械的な特性を示す指標である。機械特性として、例えば、各セグメントのヤング率、質量、一定のねじり量を生じさせるのに必要なねじりモーメントの大きさ、一定の伸縮に必要な圧縮力/引っ張り力の大きさ、曲げ剛性等が挙げられる。曲げ剛性は、挿入部14の各セグメントの曲げにくさを示す指標である。機械特性は、後述する処理を行って第1の力覚情報を得ることができれば、他の量的表現に置き換えられてもよい。
【0043】
力覚の検出精度によるが、各セグメントの機械特性を厳密に記憶させておく必要は必ずしもない。挿入部14全体のある機械特性の値を1つの値で代表したり、セグメント数よりも少ない数の値を用いたりしてもよい。また、機械特性の値は、セグメントごとの値ではなく、挿入部14の先端又は基端からの距離に応じた値の配列、関数などであっても構わない。また、機械特性の値は、第1の力覚情報算出部104での定数として、例えばプログラムの一部として、又は、第1の力覚情報算出部104に一緒に記憶されてもよい。
【0044】
例えば、挿入部14の個体ごとに機械特性の値を設定できると力覚の検出精度の向上が図れる。また、機械特性の値を変更可能にしておくことで、挿入部14の経時変化等に対応した最新の値を第1の力覚情報算出部104で使用することができる。
【0045】
(第1の力覚情報算出部)
第1の力覚情報算出部104は、形状及び配置情報演算部102から挿入部14の形状及び配置情報を取得する。第1の力覚情報算出部104は、機械特性記憶部106から挿入部14の機械特性情報を取得する。第1の力覚情報算出部104は、形状及び配置情報と機械特性情報とに基づいて、挿入部14の長手方向の1つ以上の位置にかかる力についての力覚情報である第1の力覚情報を算出する。なお、第1の力覚情報の算出に用いる情報は、挿入部14の形状及び配置情報は、形状及び配置情報演算部102から取得される挿入部14の形状及び配置情報に限定されない。第1の力覚情報算出部104は、挿入部14にかかる力を取得することが可能な他のセンサあるいは演算部を用いて第1の力覚情報を算出してよい。
【0046】
力覚情報は、上述したように、力のかかる位置、力の向き、大きさの少なくとも1つ以上を含む、力の情報である。位置、向き、大きさのうち既知のものは、ここで演算する第1の力覚情報から除外して構わない。また、不要な情報、例えば、操作者らへの呈示情報としない情報、も除外して構わない。
【0047】
第1の力覚情報の算出は、例えば、力学的な原理に基づいて行われる。第1の力覚情報の算出の一例が以下に示される。
(検出原理1)各セグメントにおいて、「変形状態から推定される第1の内力Fs」と「外部から印加される力から推定される第2の内力Ff」とがほぼ等しい。
(検出原理2)各セグメントにおいて、「形状情報から推定される第1の曲げモーメントMb」と「外部から印加される力から推定される第2の曲げモーメントMf」とがほぼ等しい。
【0048】
これらは、静的なつり合いに基づくもので、挿入部14及び被検体200の動きが緩やかであることを前提とする。内視鏡10などの挿入機器による挿入、診断、治療等では、挿入部14及び被検体200は概ね緩やかに動くから、当該前提に当てはまる。それ故、精度の高い結果が想定される。
【0049】
第1の力覚情報の算出には、こうした静的な力のつり合い以外の力学的な原理、例えば、動的な運動方程式、を用いてもよいし、静的な力のつり合いと他の力学的な原理の組合せを用いてもよい。また、物理的な表現の仕方を変えた式を用いてもよい。
【0050】
以下、検出原理1の具体例である、検出原理2についての第1の力覚情報の算出の概略を説明する。
【0051】
図7は、内視鏡10の挿入部14をセグメント分けした様子を示している。
図7では、挿入部14の先端側のセグメント1から手元側のセグメントNまでのN個のセグメントがあるものとする。これらのうち、セグメントSG
sからセグメントSG
eまでのN
s個のセグメントが算出対象である。
【0052】
静的なつり合いに基づく第1の力覚情報の算出では、第1の力覚情報算出部104は、セグメントごとに、形状情報から推定される第1の曲げモーメントMbと、外部から印加される力から推定される第2の曲げモーメントMfとを算出する。これによって、第1の曲げモーメントMbと第2の曲げモーメントMfとがほぼ等しいという条件式が計算を行った挿入部14のセグメントの数Nsだけできる。
【0053】
一方、算出する第1の力覚情報では、力の数Nfと求める情報内容の数Ncの積、つまりNf×Ncだけ変数がある。
【0054】
以下が成立するとき、変数の値は一意的に求めることができる。
条件式の数(Ns)=変数の数(Nf×Nc)
【0055】
また、以下が成立するとき、変数の値は一意的に求めることができず、適切と思われる変数の解の組合せを求める。通常、特定の評価式を最小、又は、最大とする最適化手法によって解の組合せを求める。
条件式の数(Ns)>変数の数(Nf×Nc)
【0056】
第1の力覚情報算出部104は、挿入部14の各セグメントにおける、機械特性情報、例えば曲げ剛性値、と、形状情報とから、第1の曲げモーメントMbを求める、言い換えれば、推定する。機械特性情報は、機械特性記憶部106から取得される。形状情報は、形状及び配置情報演算部102から取得される。
【0057】
単純化のために2次元の場合における算出方法について説明する。
各セグメントは、曲げモーメントが加わらない場合、真っ直ぐであるとする。ただし、湾曲部32の部分は、湾曲操作によって湾曲可能であり、外力による曲げモーメントがない場合の形状が真っ直ぐではないことがある。したがって、この部分については、外力が加わっていない状態を基準とし、この状態からの変化によって第1の曲げモーメントMbが求められる。なお、単純化のためには、湾曲部32は演算対象のセグメントから除外してもよい。
【0058】
i番目のセグメントであるセグメントSG
iの湾曲形状が
図8に示される。ここでは、セグメントSG
iの形状を円弧に近似している。
【0059】
ここで、以下のように定義を行う。なお、以下で「i」はセグメントSGiに対応する添え字である。
形状から推定される曲げモーメント: Mbi
ヤング率: Ei
断面2次モーメント: Ii
セグメントSGiの方向ベクトル: ei
ここで、方向ベクトルeiは、セグメントSGi+1とセグメントSGiとの接続部での方向ベクトルであり、セグメントSGi-1側に向く。
紙面に垂直な方向ベクトル: Vi
曲率: χi(=1/ρi)
ここで、ρiは曲率半径である。
曲げ剛性: Gi(=Ei・Ii)
【0060】
このとき、任意のセグメントSGiについて、材料力学から以下の関係が成り立つ。
Mbi=Ei/ρi・Ii ・・・式1
αi=Li/ρi ・・・式2
ここで、αiは角度[rad]である。
【0061】
式1及び式2から、以下の関係が導かれる。
Mbi=(αi/Li)・(Ei・Ii)=χi・Gi ・・・式3
ここで、「Ei・Li=Gi」が曲げ剛性と呼ばれる。
【0062】
式3から、湾曲形状又は形状情報から推定される、セグメントSGiでの第1の曲げモーメントMbが求められる。
【0063】
Giは曲率χiの大きさに伴って若干変化しうる。そのため、Giを定数とみなして扱ってもよいし、厳密さを求めるのであれば、曲率χiの変数とみなして扱ってもよい。
【0064】
2次元では、挿入部14の先端に近いセグメントSGi-1側が左回りに曲がるとき、曲げモーメントMbi>0及び角度αi>0とする。
【0065】
また、第1の力覚情報算出部104では、挿入部14の各セグメントに生じる、外部から印加される力による第2の曲げモーメントMfを求める又は推定する。
【0066】
具体的な算出について、単純化のために挿入部14に1つの力が働く場合から説明する。
図9において、外力によってセグメントSG
iに印加される第2の曲げモーメントMf
iは、力学的に以下のようになる。
【0067】
<<2次元(XY座標)の場合>>
ここではベクトルである押圧力Fのかかる位置がセグメントSGiの位置よりも先端側にある場合には、第2の曲げモーメントMfiは、以下の通りである。なお、第2の曲げモーメントMfiはスカラーであり、左回りの曲げモーメントのとき値+とする。
Mfi=(di×F)のz成分 ・・・式4a
ここで、
「×」: 外積
di: セグメントSGiの中心から押圧力Fのかかった位置までのベクトル
である。
Mfi=|di×F|(絶対値)
としてもよい。
【0068】
また、押圧力Fのかかる位置がセグメントSGiの位置よりも手元側にある場合には、第2の曲げモーメントMfiは、以下の通りである。
Mfi=0 ・・・式4b
これはスカラーである。
【0069】
<<3次元の場合>>
ここではベクトルである押圧力Fのかかる位置がセグメントSGiの位置よりも先端側にある場合には、第2の曲げモーメントMfiは、以下の通りである。なお、第2の曲げモーメントMfiはベクトルである。
Mfi=di×F ・・・式4c
【0070】
また、押圧力Fのかかる位置がセグメントSGiの位置よりも手元側にある場合には、第2の曲げモーメントMfiは、以下の通りである。
Mfi=0 ・・・式4d
これは0ベクトルである。0ベクトルとは、大きさ0のベクトルのことである。
【0071】
複数の力が働く場合には、力のかかる位置がセグメントSGiの位置よりも先端側にある押圧力Fjについて、複数の力の合力を計算すればよい。力が分布荷重の場合、後述するように、特定の複数点に集中しているものとみなせばよい。
【0072】
<<2次元(XY座標)の場合>>
この場合、第2の曲げモーメントMfiは、以下の通りである。
Mfi=[Σ(dij×Fj)]のz成分 ・・・式5a
ただし、セグメントSGiの位置よりも先端側にある力のみ計算する。
ここで、
Fj: 外力(ベクトル)
「×」: 外積
である。
Mfi=|Σ(dij×Fj)|(絶対値)
としてもよい。
【0073】
<<3次元の場合>>
この場合、第2の曲げモーメントMfiは、以下の通りである。
Mfi=Σ(dij×Fj) ・・・式5b
ただし、セグメントSGiの位置よりも先端側にある力のみ計算する。
【0074】
第1の力覚情報算出部104では、第1の力覚情報として、力の位置と向きと大きさとのうち、少なくとも必要なものを、第1の曲げモーメントMbiと第2の曲げモーメントMfiとの関係Mfi≒Mbiに基づいて算出する。例えば、押圧力F又はFjのかかる位置と、向きと、大きさとの少なくとも1つが算出される。
【0075】
以上のような手法を用いて、第1の力覚情報算出部104は、可撓性部材12である挿入部14にかかる力に関する第1の力覚情報を算出する。第1の力覚情報は、第2の力覚情報算出部108に出力される。
【0076】
(被検体情報推定部)
被検体情報推定部110は、被検体情報を推定する。被検体情報は、被検体200の形状及び配置、解剖学的配置、引っ張り強度、固定部の領域又は位置等を含む。ここで、固定部とは、被検体200が被検体200の外部の構造物に固定されている部分である。
【0077】
被検体情報は、内視鏡挿入中にリアルタイムで取得した被検体200の情報、被検体200に対してCT(Computed Tomography)等の他の機器で事前に測定した情報、その被検体200に対する前回の内視鏡挿入時の測定情報、前回使用した情報などであってよい。しかしながら、被検体情報は、必ずしも事前、又はリアルタイムに得ることはできない。そのため、被検体200の管空の形状及び配置、引っ張り強度、固定位置等の情報について、予め決められた値を一般的な値として用いたり、身長、体重、腹囲、年齢、性別等の身体的特徴に応じて予め決められた値として用いたりしてもよい。すなわち、被検体情報は、被検体200のパーソナルデータを含む入力情報から推定された推定情報、一般的な人体モデル情報などであってよい。また、被検体200への内視鏡挿入中に、被検体情報を適宜更新することも有効である。被検体200が人体及び動物以外の機器、構造物などである場合には、被検体情報は、当該機器、構造物などの構造的配置等の情報である。
【0078】
例えば、可撓性部材12である挿入部14の形状及び配置から、被検体200の管空である腸管の形状及び配置、固定位置の情報を推定したり測定したりすることで、腸管に働く力の向き、大きさを推定することが可能となる。
【0079】
挿入部14が挿入されている腸管の部分では、挿入部14の形状及び配置情報を得ることで、その部分における腸管の形状及び配置情報を得ることができる。また、挿入部14の先端よりも先の腸管の部分についても、挿入部14の先端付近の形状及び配置情報から、ある程度推定を行うことが可能である。その際には、腸管の配置に関する情報を適宜得て推定の精度向上につなげてよい。例えば、前回の内視鏡挿入履歴があれば、その履歴に基づく挿入経路から、腸管の形状及び配置、固定位置を推定できる可能性がある。腸管の固定部の情報は、推定、測定などにより与えるものとする。腸管の厚みに関しても同様である。
【0080】
(第2の力覚情報算出部)
第2の力覚情報算出部108は、第1の力覚情報算出部104から、挿入部14にかかる力に関する第1の力覚情報を取得する。すなわち、第2の力覚情報算出部108は、力情報取得部として、可撓性部材12にかかる力に関する力情報を取得する。第2の力覚情報算出部108は、被検体情報取得部として、被検体情報推定部110から被検体情報を取得する。第2の力覚情報算出部108は、接触状態推定部112から、挿入部14と被検体200との接触状態情報を取得する。第2の力覚情報算出部108は、取得したこれらの情報に基づいて、被検体200の管空に生じる力又は応力に関する第2の力覚情報を算出する。例えば、第2の力覚情報算出部は、応力推定部として、被検体200に生じる応力を算出する。
【0081】
第2の力覚情報を算出するにあたっては、特に、被検体情報が必要である。被検体200の管空の形状及び配置、固定位置等に依存して、被検体200に発生する力が変わるためである。また、被検体200へのダメージを考える際には、被検体200の管空の引っ張り強度等の情報も重要となる。
【0082】
被検体200の管空内にある挿入部14が被検体200に力を与える場合には2通りある。1つは、挿入部14が管空を介して、主に臓器を押す場合である。もう1つは、挿入部14が主に腸管を押したり、押し当てた部分の周囲を引っ張ったりする場合である。
【0083】
図10には、挿入部先端14aが腸管202を介して主に臓器204を押している状態が示されている。臓器204は、例えば横隔膜である。
図11には、S字結腸の屈曲部の1つであるS-top212付近において、挿入部先端14aが腸管202を押す力Fと、押したときに腸管202が引っ張られる力F1、F2とが示されている。
【0084】
もし腸管202が弛んだ状態であれば、腸管202を引っ張る力はほとんど発生しない。つまり、そのような状態において被検体200に影響を及ぼす力は、腸管202又はこれを介して臓器204にかかる力である。この力が、患者の痛みの原因となっている可能性がある。
【0085】
挿入部14が管空を介して臓器204を押す場合について、断面積Sの範囲を力Fで押すとすると、生じる圧力pは以下のように表される。
p=F/S ・・・式6
この圧力pが、挿入部14との接触箇所において腸管202、及び、腸管202を介した臓器204に発生し、被検体200へのダメージ、痛み等の由来となりうる。
【0086】
例えば、
図10では、内視鏡10の可撓性部材12である挿入部14の半径をrとすると、接触箇所において挿入部先端14aが臓器204を押す面積SはS=πr
2となる。ここで臓器204に単位面積当たりに働く圧力pは、以下のように表される。
p=F/S=F/πr
2 ・・・式
7
【0087】
なお、この圧力の値pは平均値であり、挿入部先端14aの角又はエッジの部分が押し当てられると、この値よりも大きな圧力が局所的に発生しうる。
【0088】
挿入部14の中間部、言い換えれば、挿入部14の先端と基端との間の、挿入部14の長手方向の中間部における所定の長さ部分、が被検体200を押す場合には、第2の力覚情報算出部108は、当該中間部と被検体200との接触状態を示す接触状態情報を接触状態推定部112から取得する。第2の力覚情報算出部108は、例えば、取得した接触状態情報を参照して当該中間部と被検体200との接触面積を求め、式7と同様にして圧力を算出する。
【0089】
内視鏡10の挿入部14が腸管202を押したり、押し当てられた部分の周辺が引っ張られたりする場合、被検体200への影響が特に大きく生じうるいくつかのパターン、言い換えれば、いくつかの箇所、が考えられる。例えば、以下の通りである。
i)挿入部14が押し当てられた部分
ii)腸管202の力又は応力が集中する部分
iii)腸管固定部208、210、216周辺部分 ・・・
図11に矢印で示される力F3、F4参照
上記i)からiii)の箇所がつぶされたり、伸ばされたり、引っ張られたりすることで、被検体200にダメージが与えられたり患者が痛みを感じたりする。
【0090】
本実施形態では、第2の力覚情報算出部108は、これら箇所における力又は応力に関する第2の力覚情報を算出する。以下、これら箇所における力及び応力の算出について説明する。
【0091】
挿入部14が腸管202に押し当てられたことによる影響の1つとして、腸管202の穿孔が挙げられる。上記i)で挙げた接触箇所で腸管202の穿孔が起こりうる。また、それ以外の箇所であっても例えば上記ii)のような箇所で腸管202が破れてしまうことがしばしばある。特に、上記ii)のような箇所の破れには、操作者がすぐには気付かないことがある。
【0092】
挿入部14が腸管202に押し当てられた場合に、例えば、厚さtの腸管202の、挿入部14が腸管202に接触する部分の外周の長さである周囲長Cの範囲を力Fで押す場合に、被検体200に生じる応力σについて、
図12A乃至
図12Cを参照して説明する。
【0093】
図12Aに示されるような、挿入部14が腸管202と接触していて腸管202を押している面を考える。挿入部14が腸管202を押す力Fに対して、腸管202を肛門側に引っ張る力F1と盲腸側に引っ張る力F2とが発生する。力F1、F2は外力Fの反力であるから、これら3つの力F、F1、F2はつり合う。
【0094】
単純な例を想定して、力F1の大きさと力F2の大きさとが等しく、FとF1とのなす角度がθ1、FとF2とのなす角度がθ2である場合、3つの力F、F1、F2がつり合うためには、以下の2式が成り立つ。
F1cosθ1+F2cosθ2+F=0 ・・・式8
F1sinθ1=F2sinθ2 ・・・式9
【0095】
例えば、腸管202が腸管固定部208、210、216から引っ張られる程度の力が働く場合、被検体情報推定部110から取得した被検体200の体内の構造に基づく被検体情報から、あるいは、接触状態推定部112から取得した接触状態情報から、角度θ1、θ2の値が推定される。式8及び式9から、力F1、F2が、力F及び角度θ1、θ2を用いて表されることができる。
【0096】
図12A乃至
図12Cに示される力F1、F2が腸管202を引っ張る力として働くが、挿入部14が腸管202に接触する部分の周囲長Cに力F1、F2が働く。腸管202の厚みをtとして、周囲長Cに対して平均的な力が働くとすると、断面積t・Cの面で腸管202が引っ張られる力F1、F2を受ける。このとき、腸管202の周囲長Cに働く応力σは、以下のように表される。
σ=(F1+F2)/(t・C) ・・・式
10
【0097】
図12Aには、腸管202に働く応力σの分布が矢印で概略的に示されている。腸管202に対する応力は、力Fに近い側と力F1、F2に近い側とにかかり、両方の側にかかる力がつり合う。式
10の応力σは、これらの応力分布が腸管202に対して均一にかかったと想定した場合の平均的な値である。
【0098】
例えば挿入部先端14aの周囲が被検体200に押し当てられているとき、腸管202の上記周囲長Cは、挿入部先端14aの外周の長さに等しい。挿入部14の断面が半径rの円形である場合には、以下の式が成り立つ。
C≒2πr ・・・式11
よって、式10及び式11から、応力σが算出される。
【0099】
以下、上記iii)で挙げた、腸管固定部208、210、216周辺で被検体200に生じる力及び応力について説明する。腸管202が固定されている部分としては、肛門、下行結腸、上行結腸などがある。
図11では、腸管固定部208、210は、肛門206付近に位置している。腸管固定部216は、下行結腸に位置している。挿入部14が腸管202を押圧して腸管202が引っ張られることで腸管固定部208に、及び、S状結腸と下行結腸との境界部であるSD-J(SD-Junction)214付近の腸管固定部216に力が働く際の状況が
図11に示される。
【0100】
例えば、
図11において、挿入部14によって腸管202が引っ張られる力がF1である。このとき、腸管の部分213に力Fがかかることで、腸管202にたるみがある場合にはその部分213は移動し、
図11に斜め上向きの矢印で示されるような腸管202の動きにより腸管202のたるみが点線に示すように減少する。途中での引っかかりがなければこの力F1に相当する力F3が腸管固定部208にかかる。また、途中で抵抗があれば、力F1よりも減少した力Faが腸管固定部208にかかる(Fa<F3)。この様子を表したのが、
図14である。
【0101】
腸管固定部208を力Faで
図14Aに示される矢印の方向、すなわちおおよそ肛門から結腸へと向かう方向に引っ張っているとする。このとき、
図12Aを参照して説明したのと同様に、腸管固定部208での腸管202の厚さをta、力がかかる範囲の長さをCaとすると、腸管固定部208における応力σaは、以下のように表される。
σa=Fa/(ta・Ca) ・・・式
12
【0102】
図14Bには、肛門206付近の腸管固定部208の手前の部分に働く応力σaの分布の一例が示されている。腸管202に対する応力は、肛門206周辺で挿入部先端14aに近い側と腸管固定部208に近い側とにかかり、両方の側にかかる力がつり合う。式
12の応力σaは、これらの応力分布が腸管202に対して均一にかかったと想定した場合の平均的な値である。応力σaは、腸管202に接触する挿入部先端14aと、腸管202が被検体200に固定される肛門付近の腸管固定部208との2方向を向く。
【0103】
なお、肛門付近の腸管固定部208が比較的大きい範囲に及ぶとき、応力は、腸管202の肛門付近の小さな部分について、その部分に近い腸管固定部208と挿入部先端14aとを結ぶ向きに働く。そのため、
図14Cに示されるように、応力σaの向きが、
図14Bに示される向きとは若干異なる。
【0104】
応力σaは、後述する被検体影響判断部114で、肛門周辺で起きる又は起こりうるダメージ、例えば、腸管の断裂、を判断するために用いられる。
【0105】
以下、第2の力覚情報算出部108における、応力最大値算出について説明する。
腸管の周囲に働く応力σは、目安としては上式のようにして算出されてよいが、安全性の観点から、ある値を超えない、というように大きめに見積もることが望ましい。以下に、応力最大値算出をする3つの理由を挙げる。
【0106】
第1の理由は、応力が集中する部分があることである。例えば、
図12Aの囲み領域C11、C12、及び、
図13Aに示される領域C13、C14の応力が大きくなる。
【0107】
第2の理由は、例えば、
図12Aに示す、挿入部先端12aで腸管202を押す場合のように、腸管202の特定の部分に応力が集中している場合、力が加えられた部分により近いところでは、同じ力を受ける応力の範囲が狭まる、すなわち、周囲長Cの値が小さくなることで、応力σの値が式
10で示したものよりも大きくなるからである。
【0108】
例えば、
図13Aに示されるように、腸管202の一部、例えば、挿入部先端14aに近い側と腸管202の肛門及び下行結腸入口であるSD-J付近の固定部側を結んだ途中にある領域C13、C14に応力が集中する場合、応力の値は式
10によるσの値よりも大きくなる。例えば、腸管202の領域C13において力F1が集中する範囲の長さをC1としたとすると、そこに働く応力σ1の平均値は、以下のように表される。
σ1=F1/(t・C1) ・・・式
13
【0109】
同様に、腸管202の領域C14において力F2が集中する範囲の長さをC2としたとすると、そこに働く応力σ2の平均値は、以下のように表される。
σ2=F2/(t・C2) ・・・式14
【0110】
図13Bには、腸管202に働く応力σ1、σ2の分布の一例が示されている。
【0111】
第3の理由は、外力F又はその反力F1、F2が時間的に変動し、ある瞬間に大きな値を取る可能性があるからである。
【0112】
このような応力が増大する可能性から、管空の穿孔等の被検体200へのダメージを考えた場合、応力の最大値を見積もるためには、安全係数をかけるなどすることが有効である。この際の安全率は、実験統計的に導き出してもよいし、理論的に導いてもよいし、これらを組み合わせてもよい。この結果が下式で表される。
σ=α・(F1+F2)/(t・C) ・・・式15
ここで、α:安全率≧1である。このように、式15は、式10の右辺に安全率αを乗じたものである。
【0113】
再三述べているように、腸管に加わる力又は応力が大きくなると、患者は痛みを感じたり、腸管にダメージを受けたりする可能性がある。例えば、宇野良治らによる論文「Colonic perforation and serosal tears associated with colonoscopy」、Lancet、1997年6月28日、第349巻、第9069号、p.1888には、3kgf/cm2以上が穿孔危険領域とされている。また、宇野良治、外5名、「大腸内視鏡における偶発症を起こさないための注意点、起きてしまったときの対処法」、消化器内視鏡、2000年、第12巻、第2号、p201~206では、内視鏡等の管状湾曲機構を挿入する際に機械的に痛み、穿孔を生じる場合としては、挿入部先端によるものと、スティック現象の頂部で起こるものと、ループ又は鋭角部によるものとの3つが挙げられている。すなわち、上記論文によると、挿入部先端あるいはそれ以外の中間部の鋭角な部分による腸管への加圧により、腸管の応力が一定以上になることで穿孔が生じる。また、山田博、「人体の強度と老化-生物強弱学による測定結果」、日本放送出版協会、1979年9月、90~117頁には、動物及び人の消化管の、部位ごとの一部を横方向に帯状に切り出した試験片を用いて、引っ張り強度、圧裂強さなどを測定、評価した結果が記載されている。応力の最大値は、このような論文等を参考にして設定されてよい。
【0114】
具体的な応力の発生の例としては、大きく2つに分けられる。
図15及び
図16に示される、挿入部先端14aで腸管202を押す場合と、
図17及び
図18Aに示される、挿入部14の中間部で腸管202を押す場合とである。
図15では、挿入部先端14aの周囲が腸管202と接触しており、挿入部先端14aは腸管202の内壁から力F5を受けている。
図16では、挿入部先端14aの先端面全体が腸管202と接触しており、挿入部先端14aは腸管202の内壁から矢印F5で示される力を受けており、さらに、矢印F6、F7で示される方向に腸管202が引っ張られている。
図17及び
図18Aでは、挿入部14の中間部が腸管202とさまざまな接触具合で接触しており、挿入部14は接触箇所において腸管202の内壁から矢印F8、F9、F10で示される力を受けている。
図18Aでは、さらに、矢印F11、F12で示される方向に腸管202が引っ張られている。
【0115】
挿入部先端14aで腸管202を押す場合と、挿入部14の中間部で腸管202を押す場合との大きな違いは、挿入部14と腸管202との接触具合である。以下、これら2つの場合の応力σの算出について説明する。
【0116】
(先端部による応力算出)
挿入部先端14aで腸管202を押す場合について説明する。被検体の内部又は表面から挿入部14にかかる力が挿入部先端14aにかかる場合には、挿入部先端14aの形状と挿入部先端14aの向く方向と力のかかる方向とのなす角度θとを含む接触状態を用いて、応力が求められる。
【0117】
図12Aにおいてθ1=θ2とすると、応力σは、
図12Aに示されるように分布する。式
10と同様の設定において、応力σを計算する腸管202の周囲長Cは、挿入部先端14aの断面が半径rの円形として、2πrとなる。応力が働く方向に垂直な長さは2rとなるため、2rの幅に
図12A乃至
図12Cを参照して説明したような力F1、F2が働くと考えることができる。このとき、応力σは、以下のように表される。
σ=α・F/(t・2r・|cosθ|) ・・・式
16
ここで、tは式
10と同様に腸管202の厚みであり、αは式
15と同様に安全率であり、θは上述の角度であり、Fは挿入部14が腸管202を押す力である。
【0118】
ここで、式
10と式
16との関係について補足する。
図12Aに示される腸管202のような腸管の特定の範囲にかかる力は、外向きの力F1と力F2とであり、さらにこれとつりあう力がFから生じている。逆に力Fを基準に考えると、力F1、F2は、力Fとなす角をθ1、θ2として、
F1=α・F/|cosθ1|
F2=(1-α)F/|cosθ2|
となる。θ1=θ2=θのとき、以下のようになる。
F1+F2=F/|cosθ|
これらを用いて、式
10から式
16が導ける。
【0119】
腸管202の引っ張られる2つの力の向きと大きさが不揃いの場合には、それぞれの力が計算されてもよい。特に、2つのうち大きいほうを考慮することで被検体200へのダメージを想定し、対策等を実施することができる。
【0120】
(中間部による応力算出)
挿入部14の中間部で腸管202を押す場合について説明する。挿入部14にかかる力が挿入部14の長手方向の中間部にかかる場合には、力がかかる位置周辺での挿入部14の断面形状と挿入部14の中心軸方向とかかる力の方向とのなす角度θとを含む接触状態を用いて、応力が求められる。
【0121】
挿入部14の中間部で腸管202を押す場合、腸管202の周囲長Cの部分に働く応力σは、周囲長さCの部分に均等にかかるものとして、以下のように表される。
σ=α・F/(t・C・|cosθ|) ・・・式17
ここで、tは式10と同様に腸管202の厚みであり、αは式15と同様に安全率であり、θは上述の角度であり、Fは挿入部14が腸管202を押す力である。
【0122】
応力σを計算する腸管202の周囲長Cは、挿入部14の断面形状や湾曲形状と腸管202が引っ張られる方向により、様々な形を取り得る。そのため、詳細な検討を行うには、個々の状況に応じた検討が必要である。ここでは、形状の一例について、単純化して検討を行うこととする。
【0123】
図18Bに示されるように、挿入部14の断面形状を半径rの円形状とし、腸管202の周囲長Cの部分の短手方向の長さを2rとする。例えば、周囲長Cの形状を楕円だとする。腸管202の周囲長Cの長手方向の長さをLとし、周囲長Cの部分は短軸2r、長軸Lの楕円形状とする。このとき、周囲長Cは、rとLを用いて、以下のようになる。
【0124】
【0125】
挿入部先端14aによる応力算出の場合と同様に、腸管202の引っ張られる2つの力の向きと大きさが不揃いの場合には、それぞれの力が計算されてもよい。特に、2つのうち大きいほうを考慮することで被検体200へのダメージを想定し、対策等を実施することができる。
【0126】
以上のようにして、第2の力覚情報算出部108は、被検体200の管空に生じる力又は応力に関する第2の力覚情報として、挿入部先端14a又は挿入部14の中間部が押し当てられたことにより被検体200の内部又は表面に生じる応力を算出する。
【0127】
(接触状態推定部)
接触状態推定部112は、挿入部14と被検体200との接触状態を推定する。上述したように、第2の力覚情報の算出、特に応力情報の算出、にあたっては、挿入部14が被検体200の管空にどのように接触しているかに関する情報、例えば、応力を計算する際に用いる腸管の周囲長C、が必要である。接触状態推定部112は、例えば、周囲長Cを想定/算出するために、挿入部14が被検体200の管空にどう接触しているのか推定する。言い換えれば、接触状態推定部112は、接触領域推定部として、可撓性部材12と被検体200との接触が生じている領域である接触領域の外周の長さを推定し、さらに、接触領域を応力推定領域、すなわち、応力を推定する対象領域として設定する。
【0128】
接触状態としては、
図19及び
図20に示すような例が挙げられる。
図19は、挿入部先端14aが腸管202に接触している状態の一例を内視鏡上方から見た断面の一例を示す図である。腸管202に働く、盲腸側に引っ張られる力F13と、肛門側に引っ張られる力F14とが概念的に示されている。
図20は、挿入部14の中間部が腸管202に接触している状態の一例を内視鏡上方から見た断面の一例を示す図である。腸管202に働く、盲腸側に引っ張られる力F15と、肛門側に引っ張られる力F16とが概念的に示されている。各図に示される挿入部先端14a及び挿入部14が、腸管202の腸壁に接触している。
【0129】
接触状態推定部112は、このような接触状態を挿入部14の被検体200の管空内での配置及び形状に基づいて推定する。第2の力覚情報算出部108で第2の力覚情報にかかる応力を計算するのが最終的な目的であるから、接触状態推定部112は、接触部分での管空の厚みも含めて接触状態を推定する。
【0130】
接触状態の推定には、予め決められた又はパターン化された接触状態を用いてもよいし、身長、体重、腹囲、年齢、性別等の身体的特徴に応じて予め決められた値を用いてもよいし、その都度計算を行ってもよい。例えば、被検体情報推定部110で用いるのと同様の、挿入部14の被検体200の管空内での配置及び形状を用いて、挿入部14と被検体200との接触状態を推定することができる。中間部の接触状態は、湾曲状態、すなわち、曲率によって異なるため、曲率ごとに値を決めておいてもよいし、曲率を1つの変数とする関数としておいてもよい。
【0131】
(被検体影響判断部)
被検体影響判断部114は、第2の力覚情報算出部108から、第2の力覚情報を取得する。被検体影響判断部114は、第2の力覚情報と判断基準とに基づいて、被検体200への影響を判断する。被検体影響判断部114での具体的な判断内容として、例えば、被検体200に与える痛み、断裂、破損、穿孔などのダメージの有無、ダメージの内容の程度が挙げられる。
【0132】
例えば、腸管固定部208を力Faでθaの方向に引っ張っているとする。このとき、例えば、腸管202が断裂する、腸管固定部208が断裂する、腸管202と腸管固定部208との間が剥離するなどのダメージのうち2つ以上のダメージが同時に発生することが考えられる。被検体影響判断部114では、肛門206周辺の腸管固定部208、210での上述のダメージ又は起こりうる他のダメージ、例えば、腸管-固定部間の剥離、を(Fa,θa)の組合せを入力として判断する。
【0133】
また、単位面積当たりの応力σaからダメージを判断する場合には、被検体影響判断部114は、肛門206周辺で起こる又は起こりうるダメージ、例えば、腸管202の断裂を、上記式12で表される応力σaを入力として判断する。
【0134】
被検体影響判断部114での判断基準は、経験、実験結果、シミュレーション結果等に基づき、入力と判断結果の関係をまとめたものとする。
【0135】
肛門での被検体への影響の判断の仕方を説明したが、肛門以外にも同様の判断の仕方が適用できる。
【0136】
腸管は、肛門周辺、下行結腸、上行結腸周辺で体に対して固定されているため、挿入部が腸管を押す部分によって、例えば
図12を参照して説明したθ1、θ2の値がそれぞれ変化する。ここで、腸管の配置は体型、例えば、身長、腹囲、肥満度、腸の長さ等に依存するため、体型に基づいた推定、算出が必要となる。また、厚さtの値、影響の度合いについては、年齢、性別も関係してくるため、こうした条件も被検体情報として考慮して被検体への影響を判断する必要がある。つまり、被検体影響判断部114での判断でも、被検体情報推定部110による被検体情報を用いることが有用である。
【0137】
例えば、上記式6、式7を参照して説明した圧力pがどの臓器に影響を与えているか、言い換えれば、どの臓器を押しているか、は、被検体内における挿入部14の形状及び配置、被検体の解剖学的配置、これらの組合せ、力の変化等から判断可能である。例えば、式6の断面積Sは、挿入部14又は挿入部先端14aが押し当てられた部分の形状に主に依存する。押し当て方が類型化又はパターン化されていれば、断面積Sはパターンごとに一定と見なされることができ、圧力pの代わりに力Fで、押し当て方ごとにダメージ、痛み等の被検体への影響が判断されることができる。
【0138】
被検体影響判断部114は、判断基準に基づく被検体へのダメージの有無、内容、程度の判断に関する影響判断情報を情報出力部116に伝達する。
【0139】
(情報出力部)
情報出力部116は、第2の力覚情報と影響判断情報とを含む出力情報を制御装置100の外部に出力する。また、情報出力部116は、出力情報記憶部118に出力情報を伝達する。
【0140】
(出力情報記憶部)
出力情報記憶部118は、情報出力部116からの出力情報を記憶する。出力情報は、情報呈示装置140にも出力される情報である。出力情報記憶部118は、形状及び配置情報演算部102で演算された形状及び配置情報、時刻、経過時間等も記録してよい。このような記録により、応力の発生箇所、応力発生時の挿入部14の発生箇所での状況が確認可能となる。
【0141】
(情報呈示装置)
情報呈示装置140は、情報出力部116を介して、第2の力覚情報算出部108から得られた第2の力覚情報と被検体影響判断部114から得られた影響判断情報との少なくとも一方の情報を取得する。情報呈示装置140は、第2の力覚情報と影響判断情報との少なくとも一方の情報、若しくは、これらに基づいて、適宜、術者等への呈示に適するように加工された情報を呈示する。
【0142】
情報呈示装置140は、例えば、液晶ディスプレイ等のモニタ画面を含む表示装置、音声デバイス、内視鏡10の操作部16に設けた振動デバイス及び電気刺激デバイスなどの少なくとも1つであってよい。すなわち、情報呈示装置140は、視覚的な呈示装置、聴覚的な呈示装置、触覚的な呈示装置のいずれか、又はこれらの組合せであってよい。出力方法としては、表示装置を例に取ると、文字、記号、図形、画像などが考えられる。これらの装置又は方法は、2以上のものを同時に用いてもよいし、力覚情報、影響判断結果の程度に応じて切り替えて用いてもよい。
【0143】
図21は、第1の実施形態に係る力覚評価システム1aの主要な構成の他の例を概略的に示す図である。以下、力覚評価システム1aについて、力覚評価システム1aと力覚評価システム1との相違点のみを説明する。
【0144】
力覚評価システム1aは、内視鏡システム2aと、制御装置100aとを含む。内視鏡システム2aは、内視鏡10aを含む。内視鏡10aは、駆動機構44を含む。制御装置100aは、力覚評価システム1の情報出力部116、出力情報記憶部118及び情報呈示装置140に代わって、フィードバック回路120と、フィードバック情報記憶部122と、駆動回路124とを含む。内視鏡システム2aでは、挿入部14の駆動系の一部が電動化/自動化されていることが前提である。
【0145】
なお、力覚評価システム1aが情報出力部116、出力情報記憶部118及び情報呈示装置140を備えてもよい。
【0146】
(駆動機構)
内視鏡10aの操作部16は、駆動機構44の少なくとも一部を含んでよい。駆動機構44は、例えばモータなどの駆動系を含む。駆動機構44は、挿入部14に動力を与えることにより挿入部14の湾曲形状と位置との少なくとも一方の変化を生じさせる。このように、内視鏡10aは、駆動系の少なくとも一部が電動化された電動内視鏡又は自動挿入内視鏡である。
【0147】
(フィードバック回路及び駆動回路)
フィードバック回路120は、第2の力覚情報算出部108から得られた第2の力覚情報と被検体影響判断部114から得られた影響判断情報との少なくとも一方に基づいて、適宜、挿入部14の駆動機構44へのフィードバックに適したように加工された駆動制御情報を駆動回路124に提供する。駆動回路124は、フィードバック情報等に基づいて、駆動機構44を動作させる。
【0148】
(フィードバック情報記憶部)
フィードバック情報記憶部122は、フィードバックされる第2の力覚情報と影響判断情報と駆動制御情報との少なくとも1つを記憶する。これら情報は、フィードバック回路120にも出力される情報である。フィードバック情報記憶部122は、形状及び配置情報演算部102で演算された形状及び配置情報、時刻、経過時間等も記録してよい。このような記録により、応力の発生箇所、応力発生時の挿入部14の発生箇所などでの状況が確認可能となる。
【0149】
(力覚評価フロー)
図22は、力覚評価システム1又は1aによる処理フローの一例を示す図である。力覚評価システム1又は1aは、例えば、制御装置100又は100aのプロセッサを上述の各部の全部又は一部として機能させるためのソフトウェアプログラムをメモリ内に用意しておき、そのプログラムをプロセッサが実行することで、上述の各部の少なくとも一部の機能をプロセッサが実施するものであってよい。以下、このようなプロセッサによる処理の一例について説明する。
【0150】
ステップS11において、力覚評価システム1又は1aは、挿入部14又は可撓性部材12の形状及び配置情報を演算する。ステップS12において、力覚評価システム1又は1aは、ステップS11で取得した形状及び配置情報に基づいて、挿入部14にかかる力に関する第1の力覚情報を算出する。ステップS13において、力覚評価システム1又は1aは、被検体200の管空に生じる力又は応力に関する第2の力覚情報を算出する。ステップS14において、力覚評価システム1又は1aは、被検体が受けている/受けうる影響を判断する。ステップS15において、力覚評価システム1は、情報を出力する。あるいは、力覚評価システム1aは、駆動機構44に第2の力覚情報/影響判断情報に基づく情報をフィードバックする。
【0151】
ステップS16において、力覚評価システム1又は1aは、処理を終了するか否かを判定する。終了しないと判定された場合には(ステップS16-No)、ステップS11に戻り、ステップS11以下の処理が繰り返される。終了すると判定された場合には(ステップS16-Yes)、処理は終了する。
【0152】
このような処理によって、可撓性部材12である挿入部14の配置又は変形のみを検出することで、被検体の管空に生じる力覚情報を、力又は応力を直接測定しなくても効率よく評価することができる。
【0153】
例えば、内視鏡が被検体に与える影響として、力、圧力を直接測定する試みもある。圧力を検出するには、圧力センサ等のデバイスを用いる方法がある。しかしながら、管状湾曲機構の表面に働く圧力を広い範囲で検出しようとすると多くのセンサを表面付近に配置する必要がある。そうすると、センサ又は配線の設置スペースで確保するために管状湾曲機構の外径が大きくなったり、部材費用又は実装費用がかさんだりする可能性が高い。また、力を検出する触覚センサ、ひずみゲージ、感圧抵抗体、電動ゴムといった電気式センサ、光ファイバ等の光電式センサなどのデバイスを用いて力を検出したり、検出された力と力のかかる面積から単位面積当たりにかかる力、すなわち圧力を検出したりする方法が考えられる。しかしながら、センサが接触している部分に働く力がわかっても、対象となる被検体内部に生じる力が求められなかったり、力から圧力を求めるのに必要な情報、例えば、管状湾曲機構の形状が得られなかったり、特定の条件での圧力が計算できても管状湾曲機構の形状が変化したり、力のかかる位置が変化したときに圧力を計算できなかったり、精度が極端に低下する可能性がある。
【0154】
これに対して、本実施形態によれば、被検体の体内又は体外の表面に加わる力によって生じる力又は応力に関する第2の力覚情報を、特に、応力推定領域の外周における応力の情報を、直接測定しなくても算出することができる。本実施形態では、被検体を直接測定する力センサ及び応力センサが不要で省スペース化が実現される。例えば、可撓性部材12である挿入部14の細径化が可能である。
【0155】
また、力覚評価システム1は、被検体情報から被検体に加わる力の情報を推定、算出し、被検体の体内、又は、体外の表面に加わる応力を推定することで、力及び応力の検出精度を高めることができる。
【0156】
また、力覚評価システム1では、力及び応力の最大値、又は、最大値の取り得る上限を算出することが可能である。これにより、被検体の体内、又は、体外の表面に生じるダメージを推測することが容易となる。
【0157】
また、力覚評価システム1は、可撓性部材12と被検体200との接触状態、例えば接触領域を推定する接触領域推定部としての接触状態推定部112を含む。被検体に加わる力の情報から被検体の管空に加わる応力を推定するためには、可撓性部材と被検体の体内、又は、体外の表面との接触状態を仮定したり、推定したりする必要がある。その時々の接触状態を推定することで、応力の検出精度を高めることができる。
【0158】
挿入部先端14aなど、可撓性部材の先端は、腸管等に穿孔を生じさせるといったように、被検体の体内、又は、体外にダメージを与える部位の1つである。挿入部14が挿入経路から外れたり、腸管等の被検体の体内、又は、体外の表面に引っかかったりする場合に、可撓性部材の先端の挿入状態、例えば、形状、体内配置、力情報、さらには、被検体の体内、又は、体外の表面の形状、配置情報、に基づいて、接触状態を推定することで、力及び応力の検出精度を高めることができる。
【0159】
また、本実施形態では、機械特性記憶部106に記憶された可撓性部材12の機械特性の値が、第1の力覚情報算出部104で取得される。これにより、可撓性部材12に作用する力の検出を簡便な方法で行うことができ、センサを設けて可撓性部材12の径を太くする必要もなく、リアルタイム検出可能な実用的な力及び応力検出機能を有する力覚評価システムとなる。
【0160】
また、本実施形態では、被検体情報推定部110で推定された被検体情報が第2の力覚情報算出部108で取得される。これにより、被検体の機能への影響の程度が分かることから、操作の中断又は操作解除、すなわち、操作を戻すことをすべきか、操作を継続してもよいかの判断が可能となる。また、生じたと推定される力及び応力に基づいて、被検体への所定の処置を行うべきかの判断などを行うことも可能である。
【0161】
また、情報呈示装置140により、操作者へ、力及び応力の情報、又は、被検体に与える影響の程度を示す情報の少なくとも一方を提供することで、操作者が適宜対応を検討して判断した上で、操作者による安全な操作の継続、問題のある操作の中断又は問題のある状態からの復帰が可能となる。
【0162】
また、フィードバック回路120により、駆動機構44へ、力及び応力の情報、又は、被検体に与える影響の程度を示す情報の少なくとも一方を提供し、力及び応力が一定値以下となるように駆動することで、駆動機構44による安全な駆動又は操作の継続、問題のある駆動又は操作の中断又は問題のある状態からの復帰が可能となる。
【0163】
<第1の実施形態:変形例>
図23は、第1の実施形態の変形例に係る力覚評価システム1bの主要な構成の一例を概略的に示す図である。
図24は、第1の実施形態の変形例に係る力覚評価システム1cの主要な構成の一例を概略的に示す図である。以下、力覚評価システム1bについて、力覚評価システム1bと力覚評価システム1との相違点のみを説明する。力覚評価システム1cについて、力覚評価システム1cと力覚評価システム1aとの相違点のみを説明する。
【0164】
力覚評価システム1bと力覚評価システム1との相違点は、力覚発生判断部126の有無である。力覚評価システム1bは、制御装置100bに力覚発生判断部126を含む。同様に、力覚評価システム1cと力覚評価システム1aとの相違点は、力覚発生判断部126の有無である。力覚評価システム1cは、制御装置100cに力覚発生判断部126を含む。以下、力覚発生判断部126について説明する。
【0165】
(力覚発生判断部)
力覚発生判断部126は、形状及び配置情報演算部102から挿入部14の形状及び配置情報を取得する。力覚発生判断部126は、挿入部14の形状及び配置情報に基づいて、被検体200の管空に力が生じているか否かを判断する。
【0166】
例えば、挿入部14が被検体への挿入前の段階だったり、位置検出又は力覚検出における誤検出が生じている状態だったりする場合には、力覚発生判断部126は、力覚は発生してない状態と判断する。挿入前段階であることは、被検体、特に挿入の入口となる肛門や腸管と挿入部14先端の空間的な位置関係から判断が可能である。また、位置検出又は力覚検出においては、挿入操作スピードが平均で数cm/秒程度であることから、突然大きな力覚の値が発生することは考えられず、こうした位置検出誤差又は力覚検出誤差によって生じる場合には、ある程度誤検出として判断可能である。同様に力覚発生時にも、力覚の値が短時間に大きく変動する場合には、誤検出の可能性も考えられる。
【0167】
力覚発生判断部126による判断結果は、接触状態推定部112に伝達される。
【0168】
本変形例によれば、力覚発生判断部126による判断により、接触状態又は力覚情報の検出精度を向上させた、被検体の管空に生じる力又は応力に関する力覚情報を検出する力覚評価システム1b、1cを提供することができる。
【0169】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態について、
図25乃至
図28を参照して説明する。第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の構成要素については第1の実施形態と同様の参照符号を付してその説明を省略し、主として第1の実施形態との相違点について説明する。
【0170】
第2の実施形態では、力覚評価システム1dは、挿入機器として作業用マニピュレータ300を含む。力覚評価システム1dは、作業システム2dを含む。作業システム2dは、作業用マニピュレータ300と、本体302とを含む。作業用マニピュレータ300は、複数の可撓性部材として、第1の作業用アーム304と、第2の作業用アーム306と、観察用アーム308を含む。アーム304、306、308は、被検体200に挿入される。本体302は、制御装置100dを含む。
【0171】
作業用マニピュレータの具体例としては、医療用マニピュレータや産業用マニピュレータが挙げられる。ただし、用途はこれらに限定されるものではない。
【0172】
医療用マニピュレータは、所定の部位を観察アームで観察しながら、治療用アームで把持・切開・切除・機器等の埋め込み・縫合・投薬・消毒・洗浄等を行うこと想定する。被検体は人や動植物等を想定する。所定の部位は、体腔や切開した体内が主たる用途であるが、使用か所を限定するものではなく、体表面に用いても構わない。観察系を別途有していれば、観察アームは必ずしも必要ではない。また、複数カ所を同時に観察したり、視野確保を確実にしたり、3D画像を生成したりするためなどに、複数の観察アームを有していてもよい。観察アームや治療用アームは、内視鏡挿入部のような弾性体と湾曲部を組み合わせたものや、1つ以上の関節によって屈曲可能なマニピュレータでも、これらの組み合わせや硬性アームをアームの1つとして含むものでもよい。
【0173】
産業用マニピュレータは、主に機器・配管・構造物等の点検・メンテナンス等に用いること想定する。サイズや環境の点で人が入れない部分や建物・エリアの作業に用いたり、人では出来ない作業を行うことを目的とする。被検体は、機器・配管・構造物・エリア等であり、これらが作業対象である。1つ以上の作業アームを有し、適宜、1つ以上の観察アームを有する。
【0174】
力覚評価システム1dの用途としては、人の手ではできない精密な作業、多くの操作を同時に行う作業、人の手の長さが足りなかったり人の手では大きすぎたりして、作業部位まで手が届かない作業、人が作業を行うことが困難だったり、危険を伴う環境での作業等が挙げられる。
【0175】
作業用マニピュレータ300において、第1の作業用アーム304、第2の作業用アーム306及び観察用アーム308は、本体302から延びている。第1の作業用アーム304及び第2の作業用アーム306は、例えば、薄い平板状である。例えば、第1の作業用アーム304及び第2の作業用アーム306は、その断面の辺の長さa、bがa<<bとなる長方形であり、第1の作業用アーム304及び第2の作業用アーム306の長手方向の長さcはa<<b<<cである。第1の作業用アーム304及び第2の作業用アーム306は、幅bの側面に略垂直な方向に主に湾曲する、すなわち、湾曲方向が1方向に制限されているような動きをする。
図25には、第1の作業用アーム304及び第2の作業用アーム306の動く方向が限定されているので、可動方向への操作に集中することができ、安定した作業、精密な作業が可能となる。
【0176】
第1の作業用アーム304及び第2の作業用アーム306は、物を把持したり、加工、組立等の作業を行ったりする。各アーム304、306の先端には、用途に応じた作業工具を適宜装着してよい。作業工具は、必ずしも装着しなくてもよいし、交換可能なものであってもよい。
【0177】
観察用アーム308は、円形状に近い横断面を有する細長いアームである。観察用アーム308は、その先端に内蔵された照明光学系、観察光学系、撮像素子等を含む。観察用アーム308は、第1の作業用アーム304及び第2の作業用アーム306の先端が対象物に作業を行う際に、湾曲形状を変えることでさまざまな方向から対象物を観察可能となっている。
【0178】
第1の作業用アーム304、第2の作業用アーム306及び観察用アーム308には、それぞれ、形状センサ310、312、314と、4本の操作ワイヤ316、318、320とが組み込まれている。なお、これらアーム304、306、308には、表面及び裏面に2本ずつ操作ワイヤが設けられているため、
図25には、それぞれ、2本の操作ワイヤのみが示されている。
【0179】
アーム304、306、308は、それぞれ、形状センサ310、312、314により、その位置及び形状が検出されるようになっている。形状センサ310、312、314は、第1の実施形態で説明した形状センサ50のような構成であってよい。また、これらアーム304、306、308は、それぞれ、操作ワイヤ316、318、320により、能動的に湾曲操作が可能となっている。
図25には、第1の作業用アーム304の湾曲方向がA5で、湾曲操作可能範囲がA6で示されており、また、第2の作業用アーム306の湾曲方向がA7で、湾曲可能範囲がA8で示されている。さらに、観察用アーム308の湾曲方向がA9、A10で示されている。なお、形状センサ310、312、314以外の、アーム304、306、308の位置及び形状の検出が可能な検出機構を採用してよいし、操作ワイヤ316、318、320以外の、アーム304、306、308の湾曲操作が可能な操作機構を採用してよい。
【0180】
第1の作業用アーム304、第2の作業用アーム306及び観察用アーム308は、その所定の範囲における曲げ剛性が把握されているものとする。曲げ剛性が長手方向の位置、曲げ方向によって異なる場合には、長手方向の曲げ剛性の分布を、必要な曲げ方向ごとに把握されているものとする。
【0181】
第1の作業用アーム304、第2の作業用アーム306及び観察用アーム308を用いて、被検体200に対する作業をする際に、アーム304、306、308が被検体200に接触すると、被検体200に力が加わる一方で、被検体200からアーム304、306、308にも力が加わる。また、アーム同士が接触すると、アーム同士に力が加わる。どのアームとどのアームが接触しているかは、各アームの位置及び形状の関係から判断するものとする。
【0182】
このとき、被検体200から作業用アーム304、306、観察用アーム308に加わる力は、被検体200に加わる力の合力の反力として求めることができる。被検体200に加わる力の合力は、式3で表される曲げモーメントの式で、曲げ剛性と曲げ量を3次元で表現し、式5bの結果を評価式に代入することで、曲げ状態から計算される曲げモーメントと外力によって生じる曲げモーメントがつり合うことと、最適化手法を用いて求めることができる。ただし、湾曲方向と長手方向に垂直な方向に力が発生しない場合には、適宜、位置及び形状の計測、力の計算を単純化して求めてもよい。
【0183】
被検体200に加わる合力から被検体内で生じる個々の力は、被検体200の構造を把握することで、第1の実施の形態と同様に求めることができる。これによって得られる効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0184】
図26は、第2の実施形態に係る力覚評価システム1dの主要な構成の一例を概略的に示す図である。
図27は、第2の実施形態に係る力覚評価システム1eの主要な構成の一例を概略的に示す図である。以下、力覚評価システム1dについて、力覚評価システム1dと力覚評価システム1bとの相違点のみを説明する。力覚評価システム1eについて、力覚評価システム1eと力覚評価システム1cとの相違点のみを説明する。
【0185】
第2の実施形態に係る力覚評価システム1dと第1の実施形態の変形例に係る力覚評価システム1bとの相違点は、可撓性部材影響判断部128及び可撓性部材情報記憶部130の有無である。力覚評価システム1dは、制御装置100dに可撓性部材影響判断部128及び可撓性部材情報記憶部130を含む。同様に、力覚評価システム1eと力覚評価システム1cとの相違点は、可撓性部材影響判断部128及び可撓性部材情報記憶部130の有無である。力覚評価システム1eは、制御装置100eに可撓性部材影響判断部128及び可撓性部材情報記憶部130を含む。以下、可撓性部材影響判断部128及び可撓性部材情報記憶部130について説明する。
【0186】
(可撓性部材情報記憶部)
可撓性部材情報記憶部130は、可撓性部材である第1の作業用アーム304、第2の作業用アーム306及び観察用アーム308に関する情報である可撓性部材情報を記憶している。可撓性部材情報は、可撓性部材であるアーム304、306、308の機械特性や物理又は化学特性に関する値であってよく、例えば、上述したような、第1の作業用アーム304、第2の作業用アーム306及び観察用アーム308の曲げ剛性の値を含む。
【0187】
(可撓性部材影響判断部)
可撓性部材影響判断部128では、可撓性部材に加わった力又は応力についての力覚情報を、可撓性部材であるアーム304、306、308に基づく判断基準と照らし合わせることで、アーム304、306、308への影響を判断する。具体的な判断内容として、部材破損、剛性や操作性の劣化、製品寿命の短縮、といった可撓性部材に与えるダメージの有無や内容、程度、保守の必要性、緊急性等が挙げられる。
【0188】
なお、本実施形態では、3つのアームから構成される作業システム2dについて説明したが、アームの数は任意でよい。例えば、作業用アームが1つのみの作業システムで、観察は、肉眼、あるいは別途顕微鏡を介して行ってもよい。また、3つの作業用アーム及び3つの観察用アームとし、1つの部位を多方向から見ながら作業してもよいし、複数の部位の作業を同時に、又は、順次行ったりしてもよい。複数の作業用アーム及び複数の観察用アームがあることで、被検体を複数に分離して、それぞれを観察、作業をしたり、複数の被検体を一体化、例えば、組込み、注入等、をしたりすることも可能となる。作業用アームと観察用アームとは、機能を変更可能であったり、複数の機能を同時に有したりしてもよい。
【0189】
作業は、アームの動きや作業の操作を人がその場で、又は、離れた場所から、操作したり、内容の指示のみしたりしてもよい。
【0190】
第1の実施形態と同様に、変形例として、力覚評価システム1dは、
図26に示されるように、情報出力部116及び出力情報記憶部118を含む制御装置100dを有してよい。また、力覚評価システム1eは、
図27に示されるように、フィードバック回路120とフィードバック情報記憶部122と駆動回路124とを含む制御装置100eを有してよい。
【0191】
(力覚評価フロー)
図28は、力覚評価システム1d又は1eによる処理フローの一例を示す図である。力覚評価システム1d又は1eは、例えば、制御装置100d又は100eのプロセッサを上述の各部の全部又は一部として機能させるためのソフトウェアプログラムをメモリ内に用意しておき、そのプログラムをプロセッサが実行することで、上述の各部の少なくとも一部の機能をプロセッサが実施するものであってよい。以下、このようなプロセッサによる処理の一例について説明する。
【0192】
ステップS21において、力覚評価システム1d、1eは、可撓性部材であるアーム304、306、308の形状及び配置情報を演算する。ステップS22において、力覚評価システム1d、1eは、ステップS21で取得した形状及び配置情報に基づいて、アーム304、306、308にかかる力に関する第1の力覚情報を算出する。ステップS23において、力覚評価システム1d、1eは、被検体200の管空に生じる力又は応力に関する第2の力覚情報を算出する。ステップS24において、力覚評価システム1d、1eは、可撓性部材が受けている/受けうる影響や、被検体が受けている/受けうる影響を判断する。ステップS25において、力覚評価システム1dは、情報を出力する。あるいは、力覚評価システム1eは、駆動機構44に第2の力覚情報/影響判断に基づく情報をフィードバックする。
【0193】
ステップS26において、力覚評価システム1d、1eは、処理を終了するか否かを判定する。終了しないと判定された場合には(ステップS26-No)、ステップS21に戻り、ステップS21以下の処理が繰り返される。終了すると判定された場合には(ステップS26-Yes)、処理は終了する。
【0194】
第2の実施形態によれば、可撓性部材影響判断部128により、被検体、操作者、他の機器、設備、設置場所等の使用環境から受ける、可撓性部材であるアーム304、306、308の機能への影響の程度が分かる。これにより、操作の中断、操作解除、すなわち、操作を戻すことをすべきか、操作を継続してもよいかの判断が可能となる。また、アーム304、306、308に生じたと推定される力及び応力に基づいて、アーム304、306、308への修理、部品交換等の所定の処置を行うべきかの判断ができる。例えば、アーム304、306、308が被検体からの力により破損したり破壊されたりすることが防止される。
【0195】
以上説明したように、本発明による各実施形態によれば、被検体に生じる力又は応力に関する力覚情報を精度よく容易に取得することができる力覚評価システム1、1a、1b、1c、1d、1e及び力覚評価装置100、100a、100b、100c、100d、100eを提供することができる。このような力覚評価システム及び力覚評価装置によれば、可撓性部材の湾曲形状と可撓性部材が被検体を押す力の情報を取得し、力がかかる位置での挿入部の断面形状、湾曲形状といった情報から、被検体にかかる力又は応力を検出することができる。すなわち、被検体の中で働く種々の力を考慮して被検体にかかる力及び応力を推定することが可能である。
【0196】
なお、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出されうる。