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特許7124063流体内の成分の量または濃度を測定および追跡するための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】流体内の成分の量または濃度を測定および追跡するための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/61 20060101AFI20220816BHJP
【FI】
G01N21/61
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020512092
(86)(22)【出願日】2018-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 FR2018051001
(87)【国際公開番号】W WO2018202974
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】1753938
(32)【優先日】2017-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519392797
【氏名又は名称】エリシャン
【氏名又は名称原語表記】ELICHENS
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(72)【発明者】
【氏名】タン、チュン、ル
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-002757(JP,A)
【文献】特開2012-026830(JP,A)
【文献】特開2011-153980(JP,A)
【文献】特開2010-164413(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0125967(US,A1)
【文献】米国特許第04863265(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/17 - G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体(F)内の成分(C)の量または濃度を、経時的に測定および追跡するための装置であって、
- 前記流体(F)内の成分(C)の量または濃度を測定し、この量または濃度を経時的に追跡するための定量追跡信号を供給することが可能なセンサ(10)と、
- 定量追跡信号のローパスフィルタ(30)を備えた信号処理モジュール(12)と、
- フィルタリングされた前記定量追跡信号を供給するための出力インターフェイス(36)と、を備えた装置において、
前記信号処理モジュール(12)は、
- 所定のスライディングタイムウィンドウ内の前記定量追跡信号の変動の瞬間的傾向の値(V)の推定器(32)と、
- 変動の瞬間的傾向の推定値(V)に応じた前記ローパスフィルタ(30)の高カットオフ周波数を、経時的に調整するための調整手段(34)と、
を備える、ことを特徴とする測定および追跡装置。
【請求項2】
前記推定器(32)は、前記定量追跡信号の変動の瞬間的傾向の前記値(V)を、線形回帰を介して、前記所定のスライディングタイムウィンドウ内のこの信号の傾斜の値を供給することにより、推定するように設計されている、ことを特徴とする請求項1に記載の測定および追跡装置。
【請求項3】
前記調整手段(34)は、
- 変動の瞬間的傾向の前記推定値(V)の絶対値が減少した場合、前記ローパスフィルタ(30)の高カットオフ周波数を減少させ、
- 変動の瞬間的傾向の前記推定値(V)の絶対値が増加した場合、前記ローパスフィルタ(30)の高カットオフ周波数を増加させる、
ように設計されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の測定および追跡装置。
【請求項4】
【請求項5】
前記調整手段(34)は、
- 変動の瞬間的傾向のN個の状態を区別し、N≧2であり、これらN個の状態のそれぞれは、前記ローパスフィルタ(30)の高カットオフ周波数の所定の対応する値、および、変動の瞬間的傾向の可能な値の範囲内で定義される間隔[0;1]内の値とのメンバーシップ関数、に関連付けられており、
- 前記ローパスフィルタ(30)の高カットオフ周波数を、変動の瞬間的傾向のN個の状態のそれぞれにおける、変動の瞬間的傾向の前記推定値のN度のメンバーシップによりそれぞれ重み付けされた、高カットオフ周波数のN個の所定の値の合計として調整し、これらの度数のメンバーシップは、前記N個のメンバーシップ関数を用いて計算される、
ようにしてファジィ理論を用いて構成されている、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の測定および追跡装置。
【請求項6】
N≧3であり、
- 第1の安定状態は、0.9~1の間の指数関数的重み付け係数αの値にリンクされる、高カットオフ周波数に関連し、
- 遅い変動の第2の状態は、0.7~0.9の間の指数関数的重み付け係数αの値にリンクされる、高カットオフ周波数に関連し、
- 速い変動の第3の状態は、0.1~0.3の間の指数関数的重み付け係数αの値にリンクされる、高カットオフ周波数に関連する、ことを特徴とする請求項4または5に記載の測定および追跡装置。
【請求項7】
各メンバーシップ関数は、ガウスまたは区分線形関数である、ことを特徴とする請求項5または6に記載の測定および追跡装置。
【請求項8】
前記センサ(10)は、非分散型赤外線エミッタ(16)と、サーモパイル検出器(18)とを有するガスセンサである、ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の測定および追跡装置。
【請求項9】
流体(F)内の成分(C)の量または濃度を、経時的に測定および追跡するための方法であって、
- センサ(10)を用いて、前記流体(F)内の成分(C)の量または濃度を測定し(100)、この量または濃度を経時的に追跡するための定量追跡信号を供給するステップ(102)と、
- ローパスフィルタ(30)を用いて、定量追跡信号を処理するステップ(104,106,108)と、
- フィルタリングされた前記定量追跡信号を、出力(36)にて供給するステップ(110)と、を備えた方法において、
前記定量追跡信号を処理する前記ステップ(104,106,108)は、
- 所定のスライディングタイムウィンドウ内の前記定量追跡信号の変動の瞬間的傾向(V)の、経時的な推定(104)と、
- 変動の推定された前記瞬間的傾向(V)に応じた前記ローパスフィルタ(30)の高カットオフ周波数の、経時的な調整(106)と、
を含む、ことを特徴とする方法。
【請求項10】
通信ネットワークからダウンロード可能であり、および/またはコンピュータにより読み取り可能な媒体に記録され、および/またはプロセッサにより実行可能であるコンピュータプログラムであって、
- 流体(F)内の成分(C)の量または濃度を、経時的に追跡するための定量追跡信号を受信するステップ(102)と、
- ローパスフィルタリングによって前記定量追跡信号を処理するステップ(104,106,108)と、
を実行するための命令を備えた、コンピュータプログラムにおいて、
- 所定のスライディングタイムウィンドウ内の前記定量追跡信号の変動の瞬間的傾向(V)を、経時的に推定するステップ(104)と、
- 変動の推定された前記瞬間的傾向(V)に応じた前記ローパスフィルタリングの高カットオフ周波数を、経時的に調整するステップ(106)と、
を実行するための命令を用いて、前記ローパスフィルタリングは実行される、ことを特徴とするコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体内の成分の量または濃度を、経時的に測定および追跡するための装置に関する。本発明は、また、対応する方法およびコンピュータプログラムに関する。
【0002】
本発明は、より具体的には、
- 流体内の成分の量または濃度を測定し、この量または濃度を経時的に追跡するための定量信号を供給することが可能なセンサと、
- 定量追跡信号のローパスフィルタを備えた信号処理モジュールと、
- フィルタリングされた定量追跡信号を供給するための出力インターフェイスと、
を備えた装置に適用される。
【背景技術】
【0003】
工業的な用途は、任意の気体または液体流体内の、気体、液体、または個体成分の検出用に、多数ある。使用することができるセンサも、多数あり、用途に応じる。非限定の例は、気体を構成することができる様々な種のスペクトル吸収特性と、ベール-ランベルトの法則とに基づく光学的検出方法を用いて、識別された汚染物質および/または温室効果ガスなどの特定の気体種を、空気中で探すことである。センサは、この場合、NDIR型(“Non-Dispersive InfraRed(非分散型赤外線)”)とすることができ、すなわち、非分散型赤外線エミッタと、一般的には、サーモパイル検出器と、を有する。
【0004】
この種の装置は、例えば、米国特許出願第US2003/0058439A1号、または特許出願第WO2007/064370A2号に述べられている。同じ光学的方法を用いるが、さらに最適化された製造コストおよび大きさを有する他の装置も、本出願者によって、MEMS技術(“MicroElectroMechanical Systems”)と共に市販されている。これらの装置は、タブレットコンピュータ、携帯電話、カメラその他の携帯型電子システムに統合することができる。これらの装置は、また、家庭用オートメーションの定常的なシステム、空気の質の工業的検出または分析に統合することもできる。これらの装置が供給する信号は、好適には、識別された危険がある場合の情報の表示、または、警告のトリガリングに、好適に用いることができる。
【0005】
しかし、この種の装置によって供給される信号の、より良い使用のために、前記信号がセンサから直接来ることは、ほとんどない。これら信号は、通常、信号からの特定の雑音またはアーチファクトの除去を目的とする、軽度のローパスフィルタリングを少なくとも含む処理を経る。このフィルタリングは、さらに、情報の読み出しまたは検出の解釈を促進する平滑化を生じる。一方で、平滑化は、成分の推定量または濃度と、各時点の実際の量または濃度との間に、待ち時間を導入する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この待ち時間は、特定の使用において、流体内の危険または極めて重要と判定される成分の急速な増加または減少が、正確な検出および高い反応性を要求(警告またはアクションプランのトリガリング)するという問題を生じる場合がある。よって、ローパスフィルタリングの有効性と待ち時間との間で、常に不十分な妥協を、見出さなければならない。
【0007】
よって、前述の妥協を少なくとも部分的には克服することを可能とする装置を提供することが、望まれる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、流体内の成分の量または濃度を、経時的に測定および追跡するための装置が提案され、この装置は、
- 流体内の成分の量または濃度を測定し、この量または濃度を経時的に追跡するための定量信号を供給することが可能なセンサと、
- 定量追跡信号のローパスフィルタを備えた信号処理モジュールと、
- フィルタリングされた定量追跡信号を供給するための出力インターフェイスと、を備え、
信号処理モジュールは、
- 所定のスライディングタイムウィンドウ内の定量追跡信号の変動の瞬間的傾向の値の推定器と、
- 変動の瞬間的傾向の推定値に応じたローパスフィルタの高カットオフ周波数を、経時的に調整するための手段と、
を備える。
【0009】
ローパスフィルタリングの高カットオフ周波数に直接行うことで、処置は、通常、待ち時間に対して直接とられ、高カットオフ周波数が低いほど、定量追跡信号は、解釈がより平滑かつ容易であるが、導入される待ち時間はより増加し、逆に、高カットオフ周波数が高いほど、待ち時間はより低下するが、定量追跡信号は、より雑音が多くなり、解釈が困難となる。よって、本発明は、上述したように不十分な妥協からそのパラメータが得られる、ローパスフィルタの待ち時間よりも、ずっと短くすることが可能な、所定のスライディングタイムウィンドウ内の量的追跡信号の変動の推定に応じて、この高カットオフ周波数を動的に適合することを可能にする。そうすることにより、ローパスフィルタリングは、信号の変動性に対してリアルタイムで適合され、妥協は、動的となり、よって満足の得られるものとなる。
【0010】
さらに、ローパスフィルタの概念は、バンドパスフィルタの概念を含むことが留意される。実際に、バンドパスフィルタは、ローパスフィルタの特定のケース、すなわち、その高カットオフ周波数よりも低い低カットオフ周波数をさらに有する、ローパスフィルタとみなすべきである
任意で、推定器は、定量追跡信号の変動の瞬間的傾向の値を、特に線形回帰を介して、所定のスライディングタイムウィンドウ内のこの信号の傾斜の値を供給することにより、推定するように設計されている。この特定の簡素な推定は、非常に短い時間で、実行することができる。
【0011】
また、任意で、調整手段は、
- 変動の瞬間的傾向の推定値の絶対値が減少した場合、ローパスフィルタの高カットオフ周波数を減少させ、
- 変動の瞬間的傾向の推定値の絶対値が増加した場合、ローパスフィルタの高カットオフ周波数を増加させる、
ように設計されている。
【0012】
また、任意で、ローパスフィルタは、定量追跡信号の時間的なサンプリング後に、次の時間回帰関係に従って、指数関数的に重み付けされた移動平均によるデジタルフィルタリングを行うように設計され、
また、任意で、調整手段は、
- 変動の瞬間的傾向のN個の状態を区別し、N≧2であり、これらN個の状態のそれぞれは、ローパスフィルタの高カットオフ周波数の所定の対応する値、および、変動の瞬間的傾向の可能な値の範囲内で定義される間隔[0;1]内の値とのメンバーシップ関数、に関連付けられており、
- ローパスフィルタの高カットオフ周波数を、変動の瞬間的傾向のN個の状態のそれぞれにおける、変動の瞬間的傾向の推定値のN度のメンバーシップによりそれぞれ重み付けされた、高カットオフ周波数のN個の所定の値の合計として調整し、これらの度数のメンバーシップは、N個のメンバーシップ関数を用いて計算される、
ようにしてファジィ理論を用いて構成されている。
【0013】
ファジィ論理を用いた構成は、反応的だがローパスフィルタリングの断絶がない調整を提供する。
【0014】
また、任意で、N≧3であり、
- 第1の安定状態は、0.9~1の間の指数関数的重み付け係数αの値にリンクされる、高カットオフ周波数に関連し、
- 遅い変動の第2の状態は、0.7~0.9の間の指数関数的重み付け係数αの値にリンクされる、高カットオフ周波数に関連し、
- 速い変動の第3の状態は、0.1~0.3の間の指数関数的重み付け係数αの値にリンクされる、高カットオフ周波数に関連する。
【0015】
また、任意で、各メンバーシップ関数は、ガウスまたは区分線形関数である。これらの関数は、ファジィ論理を用いて簡潔に実施される。
【0016】
また、任意で、センサは、非分散型赤外線エミッタと、サーモパイル検出器とを有するガスセンサである。この場合、本発明は、気体媒体内の気体の検出における使用を可能にする。
【0017】
また、流体内の成分の量または濃度を、経時的に測定および追跡するための方法が提案され、この方法は、
- センサを用いて、流体内の成分の量または濃度を測定し、この量または濃度を経時的に追跡するための定量信号を供給するステップと、
- ローパスフィルタを用いて、定量追跡信号を処理するステップと、
- フィルタリングされた定量信号を、出力にて供給するステップと、を備え、
定量追跡信号を処理するステップは、
- 所定のスライディングタイムウィンドウ内の定量信号の変動の瞬間的傾向の、経時的な推定と、
- 変動の推定された瞬間的傾向に応じたローパスフィルタの高カットオフ周波数の、経時的な調整と、を含む。
【0018】
また、通信ネットワークからダウンロード可能であり、および/またはコンピュータにより読み取り可能な媒体に記録され、および/またはプロセッサにより実行可能であるコンピュータプログラムが、提案され、このコンピュータプログラムは、
- 流体内の成分の量または濃度を、経時的に追跡するための定量デジタル信号を受信するステップと、
- ローパスフィルタリングによって定量追跡信号を処理するステップと、
を実行するための命令を備えており、
- 所定のスライディングタイムウィンドウ内の定量信号の変動の瞬間的傾向を、経時的に推定するステップと、
- 変動の推定された瞬間的傾向に応じたローパスフィルタリングの高カットオフ周波数を、経時的に調整するステップと、
を実行するための命令を用いて、ローパスフィルタリングは実行される。
【0019】
本発明は、単なる例として与えられ、添付の図面を参照して行われる、以下の説明を利用して、より良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る、流体内の成分の量または濃度を測定および追跡するための装置の全体的構造を、模式的に示す図。
図2図1の装置によって実行される、流体内の成分の量または濃度を測定および追跡するための方法の、連続するステップを示す図。
図3図2の方法により用いられる、ファジィ論理モデルのメンバーシップ関数の図表を示す図。
図4図2の方法を実行した中間結果を、図表を用いて示す図。
図5図2の方法を実行した最終結果を、図表を用いて示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
流体F内の成分Cの量または濃度を、経時的に測定および追跡することに適した、図1に示される装置は、センサ10と、信号処理モジュール12と、モジュール12により供給されるデータを使用するためのモジュール14と、を備える。
【0022】
センサ10は、流体F内の成分Cの量または濃度を測定し、この量または濃度を、経時的に追跡するための定量信号を供給することが可能である。図1に、非限定だが正確に示される例によれば、センサ10は、NDIR型の気体媒体内の気体種のセンサであり、すなわち、赤外線エミッタ16と、サーモパイル検出器18と、を有する。この特定のケースでは、流体Fは、気体であり、成分Cは、特定の気体種であり、F内の成分Cの量または濃度の検出が望まれる。より正確には、センサ10は、分析されるべき気体Fが入る、第1の開口22と、この同じ気体Fが出る、第2の開口24とが設けられたチャンバ20を備える。気体の入力および/または出力は、圧力差を維持することにより強制すること、または単純な拡散効果により自発的にすることができる。赤外線エミッタ16は、所定のスペクトルバンド内でチャンバ内の気体Fを照明し、サーモパイル検出器18は、気体Fにより伝達される光放射を受信する。この光放射は、気体F内の成分Cの量または濃度に直接リンクされる、特定の吸収を経ている。次いで、センサ10の変換器26は、サーモパイル検出器18により受信されたアナログ光放射を、サンプリングされたデジタル信号に変換し、このデジタル信号は、気体F内の成分Cによる光放射の吸収に、直接リンクされ、各サンプリング時間に測定された成分Cの量または濃度を最終的に表す。この定量追跡信号は、以下の残りの説明において、y,...,y...として表記される。
【0023】
好適な実施形態において、瞬間的変動の推定器32は、定量追跡信号y,...,y,...の変動の瞬間的傾向の値Vを、特に線形回帰を介して、所定のスライディングタイムウィンドウ内のこの信号の傾斜の値を供給することにより、推定するように設計されている。このような線形回帰は、定量追跡信号が、考察されるウィンドウ内でほぼ線形であると想定可能な場合に、関係があり、これは、多くの場合、短い時間間隔のケースで当てはまる。例えば、値Vの推定が望まれる時間xにおける、スライディングタイムウィンドウのT個のサンプリング時間を、xi-T,...,xと表記することにより、線形回帰は、対応する追跡信号yi-T,...,yを、
と表記することにより、平均二次誤差の最小化による最小二乗解決策である、
また、好適な実施形態において、調整手段34は、
- 推定器32により計算された変動の瞬間的傾向の値Vの絶対値が、減少した場合、ローパスフィルタ30の高カットオフ周波数fを減少させ、
- 推定器32により計算された変動の瞬間的傾向の値Vの絶対値が、増加した場合、ローパスフィルタ30の高カットオフ周波数fを増加させる、ように設計されている。
【0024】
この場合、Vとfの間の直接の関係を、調整手段において、例えば増加関数の形態で事前に定義しておき、Vに応じて高カットオフ周波数fを調整することができる。値Vは、定量追跡信号の新たなサンプルの受信毎に、修正することができるため、高カットオフ周波数fを、同レートで調整することもできる。
【0025】
また、好適な実施形態において、ローパスフィルタ30は、デジタルであり、サンプリングされた定量追跡信号y,...,y,...に対し、次の時間回帰関係に従って、指数関数的に重み付けされた移動平均によるデジタルフィルタリングを行うように設計され、
ただし、αは、0~1の間の移動平均によるデジタルフィルタリングの指数関数的重み付け係数であり、このデジタルフィルタリングの高カットオフ周波数fに、数学的に関係する。これは、例えば、上記の時間回帰関係に基づき証明することができ、この数学的関係は、-3dBの高カットオフ周波数の推定値に関する次の形態を取る。
【0026】
ただし、Fは、サンプリング周波数であり、COS-1は、コサイン関数の逆数であり、max(;)は、2つの値の間の最大値を返す関数である。
【0027】
この数学的関係は、“デジタル信号処理を理解する(Understanding Digital Signal Processing)”と題された、リック・ライオンズ(Rick Lyons)による研究、第3版、Prentice Hall Publishing,2011,p.613~614の教示から、特にもたらされる。これは、fが、Fと比べて小さいままの場合、特にf≦0.1Fである限りにおいて、以下のやり方で簡素化することができる。
【0028】
この場合、Vとfの間の直接関係は、Vとαの間の直接関係による合計の均等により、事前定義することができる。
【0029】
好適な実施形態において、この直接関係は、調整手段34内で、
- 変動の瞬間的傾向のN個の分離した状態が、定義および区別され、N≧2であり、これらN個の状態のそれぞれは、ローパスフィルタ30の高カットオフ周波数fの所定の対応する値f(n)、または同等のやり方で、重み付け係数αの所定の対応する値α(n)、および、Vに関する可能な値の範囲内で定義される間隔[0;1]内(例えば[0;+∞[に含まれる)の値とのメンバーシップ関数FMS,n、に関連付けられており、
- ローパスフィルタ30の高カットオフ周波数fを、あるいは同等のやり方で、重み付け係数αを、変動の瞬間的傾向のN個の状態のそれぞれにおける、推定値VのN度のメンバーシップによりそれぞれ重み付けされた、高カットオフ周波数のN個の所定の値の合計として、あるいは同等のやり方で、重み付け係数のN個の所定値の合計として調整し、これらの度数のメンバーシップは、N個のメンバーシップ関数を用いて計算される、ようにして、ファジィ論理を用いて構成される。
【0030】
各メンバーシップ関数は、例えば、ガウスまたは区分線形関数である。ファジィ理論で良く知られている、任意の他のファミリーのメンバーシップ関数を、意図される用途および状況の必要性に応じて適合することができる。
【0031】
信号処理モジュール12の要素30,32,34は、図1に示され、かつ機能的に詳細に上述されているように、例えば、データおよびコンピュータプログラムのファイルを保存するための1つまたは複数のメモリに関連する、プロセッサを備えた従来のコンピュータなどの、少なくとも1つのコンピュータ装置で実現することができ、あるいはさらに、1つまたは複数のメモリに関連する、1つまたは複数のプロセッサで直接実現することができる。
【0032】
これらの機能モジュールは、よって、複数のコンピュータプログラム、または同じコンピュータプログラムの複数の機能、を備え、これらのプログラムまたは機能は、任意の可能な組合せに応じて、互いにグループ化し、1つまたは複数のソフトウェアとすることが可能である。これらは、また、少なくとも部分的には、マイクロプログラミングまたはマイクロワイヤリングして、専用の集積回路とすることができる。よって、代替案として、上述した1つまたは複数の機能モジュールを実現する各コンピュータ装置は、同じ動作を実行するために、デジタル回路のみで(コンピュータプログラムなしで)構成される電子装置で置換することもできる。
【0033】
センサ10と、信号処理モジュール12と、データを使用するためのモジュール14とは、構造的に分離できることが留意される。よって、図1に示される装置は、単体、あるいは、有線または無線のデータ送信手段により互いに接続された、複数の個別の物理的要素として設計することができる。様々な可能な構成が、意図される用途により導かれる。
【0034】
図1の装置の動作を、これより、図2に示される方法の様々なステップを参照して、詳細に説明する。
【0035】
センサ10により連続的に実行されるステップ100の間、サーモパイル検出器18は、赤外線エミッタ16により放出され、気体Fにより伝達された光放射の、成分Cによる光吸収の測定の、連続するアナログ信号を供給する。
【0036】
センサ10の変換器26により連続的に実行されるステップ102の間、ステップ100の実行によってサーモパイル検出器18により供給される連続アナログ信号を、デジタル変換し、定量追跡信号y,...,y,...の連続するタイムサンプルを供給する。
【0037】
タイムサンプリングの各時点で、推定器32により実行されるステップ104の間、所定の長さNを有するスライディングタイムウィンドウ内の、定量追跡信号y,...,y...の変動の瞬間的傾向の値Vが、計算される。
【0038】
タイムサンプリングの各時点で、調整手段34により実行されるステップ106の間、ローパスフィルタ30の高カットオフ周波数f、または同等のやり方で、指数関数的に重み付けされた移動平均によるデジタルフィルタリングの場合の、前述の重み付け係数αが、ステップ104において推定された値Vに従って調整される。
【0039】
- 第1の安定状態は、0.9~1の間の指数関数的重み付け係数αの値α(1)、例えばα(1)=0.99にリンクされる、高カットオフ周波数に関連し、
- 遅い変動の第2の状態は、0.7~0.9の間の指数関数的重み付け係数αの値α(2)、例えばα(2)=0.8にリンクされる、高カットオフ周波数に関連し、
- 速い変動の第3の状態は、0.1~0.3の間の指数関数的重み付け係数αの値α(3)、例えばα(3)=0.2にリンクされる、高カットオフ周波数に関連する。
【0040】
安定状態は、値の範囲[0;+∞[で定義される間隔[0;1]内の値を有する、第1のメンバーシップ関数FMS,1と関連する。簡潔に図示するために、この第1のメンバーシップ関数は、図3の例において区分線形である。この関数は、最初に、第1の間隔内で値1を連続して取り、次いで、第2の間隔内で、0に向けて線形に減少し、次いで、値の範囲の残りのうちで、値0を連続して取る。
【0041】
遅い変動の状態は、値の範囲[0;+∞[で定義される間隔[0;1]内の値を有する、第2のメンバーシップ関数FMS,2と関連する。簡潔に図示するために、この第2のメンバーシップ関数も、区分線形である。この関数は、最初に、第1の間隔内で値0を連続して取り、次いで、第2の間隔内で、1に向けて線形に増加し、次いで、第3の間隔内で、値1を連続して取り、次いで、第4の間隔内で、値0を連続して取り、次いで、値の範囲の残りのうちで、値0を連続して取る。
【0042】
速い変動の状態は、値の範囲[0;+∞[で定義される間隔[0;1]内の値を有する、第3のメンバーシップ関数FMS,3と関連する。簡素に図示するために、この第3のメンバーシップ関数も、区分線形である。この関数は、最初に、第1、第2および第3の間隔内で値0を連続して取り、次いで、第4の間隔内で、1に向けて線形に増加し、次いで、値の範囲の残りのうちで、値1を連続して取る。
【0043】
重み付け係数αは、よって、次の関係式によりサンプリングされる各時点で推定される値Vから決定される。
【0044】
または、例えば図3の正確な図示において、
α=0.8×0.99+0.2×0.8+0×0.2=0.952
となる。
【0045】
【0046】
上述したような、測定および追跡用の装置は、ノイズ除去されたやり方で、かつ面倒な待ち時間なしに、流体F内の成分Cの量または濃度の測定および追跡を可能にすることが明らかである。
【0047】
さらに、本発明は、図1および図2を参照して上述した実施形態に限定されないことが留意される。
【0048】
よって、例えば、ローパスフィルタは、サーモパイル検出器18から来る信号に関して、直接提案したが、サンプリングおよびデジタル化の後、特にベール-ランベルトの法則に従う変換の後に、処理チェーン内の他の位置で提案することも可能であった。いずれにしても、この代替案は、あまり好適ではなく、その理由は、ベール-ランベルトの法則の指数関数的表現は、ローパスフィルタリング前の雑音のある変動の、著しい増幅をもたらすからである。
【0049】
ここで当業者に開示された教示に鑑みて、上述した実施形態に対して様々な修正を行い得ることは、より一般的に、当業者に明らかとなるであろう。特に、定量追跡信号の瞬間的変動の推定を、この方法の簡潔さの理由から、線形回帰によって好適に推奨したが、信号の瞬間的変動の傾向を推定するための、当業者に知られた他の方法を、適用することができる。同様に、指数関数的に重み付けされた移動平均によるデジタルフィルタリングを、ローパスフィルタ30の動作に関して推奨したが、調整可能なカットオフ周波数を有する、他のローパスフィルタ、特に、無限インパルス応答を有する他のフィルタが、可能である。同様に、ファジィ論理を用いた構成は、特定の利点を有し賢明であるが、Vおよびfの間の複数の直接関係を、当業者により定義することもできる。
【0050】
一般的に、以下の特許請求の範囲において、使用される用語は、本明細書に開示された実施形態に対して、本発明を限定するものと解釈されるべきではなく、特許請求の範囲がその表現によりカバーすることを意図する全ての均等物を含むものと、解釈されるべきであり、これら均等物を提供することは、当業者に対して開示された教示の実施に対して、当業者の一般的な知識を適用することにより、当業者の手の届く範囲内にある。
図1
図2
図3
図4
図5