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  • 特許-圧粉磁心の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20220816BHJP
   H01F 1/22 20060101ALI20220816BHJP
   H01F 3/08 20060101ALI20220816BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20220816BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20220816BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/22
H01F3/08
B22F3/24 B
B22F3/00 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020528774
(86)(22)【出願日】2019-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2019024139
(87)【国際公開番号】W WO2020008866
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2018127889
(32)【優先日】2018-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 聖
(72)【発明者】
【氏名】上野 友之
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/158336(WO,A1)
【文献】特開2012-186255(JP,A)
【文献】特開2013-98384(JP,A)
【文献】国際公開第2013/154146(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/161747(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/22
H01F 3/08
B22F 3/24
B22F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料粉末を加圧成形して成形体とする工程と、
前記成形体に第一の熱処理を施して第一熱処理体とする工程と、
前記第一熱処理体に第二の熱処理を施して第二熱処理体とする工程とを備え、
前記原料粉末は、軟磁性粉末と、融点がTmである潤滑剤とを含み、
前記第一の熱処理は、Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で10分超行い、
前記第二の熱処理は、前記第一の熱処理における温度域よりも高く、かつ400℃以上900℃以下の温度域で3分以上90分以下行う、
圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記軟磁性粉末の平均粒径D50が220μm以下である請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
前記潤滑剤の融点Tmが80℃以上230℃以下である請求項1又は請求項2に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項4】
前記原料粉末に占める前記潤滑剤の含有量が0.1質量%以上1.0質量%未満である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記成形体の相対密度を97%未満とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
前記第一の熱処理は、非酸化性雰囲気で行う請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
前記加圧成形は、成形金型を(Tm-100℃)以上(Tm-20℃)以下の温度に加熱した状態で行う請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
原料粉末を加圧成形して成形体とする工程と、
前記成形体に第一の熱処理を施して第一熱処理体とする工程と、
前記第一熱処理体に第二の熱処理を施して第二熱処理体とする工程とを備え、
前記原料粉末は、軟磁性粉末と、融点Tmが80℃以上230℃以下である潤滑剤とを含み、
前記軟磁性粉末の平均粒径D50が220μm以下であり、
前記第一の熱処理は、Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で10分超行い、
前記第二の熱処理は、前記第一の熱処理における温度域よりも高く、かつ400℃以上900℃以下の温度域で3分以上90分以下行う、
圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧粉磁心の製造方法に関する。
本出願は、2018年7月4日付の日本国出願の特願2018-127889に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軟磁性粉末を潤滑剤と共に加圧成形して成形体を形成する工程と、成形体を熱処理する工程とを備える成形体の熱処理方法が開示されている。この成形体の熱処理方法では、第1の熱処理及び第2の熱処理の二段階の熱処理を行っている。第1の熱処理では、潤滑剤が分解・蒸発する分解温度域内の温度で成形体を加熱する。第2の熱処理では、第1の熱処理の後に分解温度域よりも高温の歪取り温度で成形体を加熱する。第1の熱処理は、熱処理された成形体の表面に潤滑剤が炭化した残渣物が付着することを抑制するために行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/158336号
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る圧粉磁心の製造方法は、
原料粉末を加圧成形して成形体とする工程と、
前記成形体に第一の熱処理を施して第一熱処理体とする工程と、
前記第一熱処理体に第二の熱処理を施して第二熱処理体とする工程とを備え、
前記原料粉末は、軟磁性粉末と、融点がTmである潤滑剤とを含み、
前記第一の熱処理は、Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で10分超行い、
前記第二の熱処理は、前記第一の熱処理における温度域よりも高く、かつ400℃以上900℃以下の温度域で3分以上90分以下行う。
【0005】
本開示に係る圧粉磁心の製造方法は、
原料粉末を加圧成形して成形体とする工程と、
前記成形体に第一の熱処理を施して第一熱処理体とする工程と、
前記第一熱処理体に第二の熱処理を施して第二熱処理体とする工程とを備え、
前記原料粉末は、軟磁性粉末と、融点Tmが80℃以上230℃以下である潤滑剤とを含み、
前記軟磁性粉末の平均粒径D50が220μm以下であり、
前記第一の熱処理は、Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で10分超行い、
前記第二の熱処理は、前記第一の熱処理における温度域よりも高く、かつ400℃以上900℃以下の温度域で3分以上90分以下行う。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る圧粉磁心の製造方法における熱処理温度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[本開示が解決しようとする課題]
軟磁性粉末を潤滑剤と共に加圧成形した成形体は、軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子間や、軟磁性粒子と潤滑剤との間に空気を内包している。そのため、軟磁性粉末と潤滑剤とを含む成形体は、比較的高い温度まで直線的に昇温すると、成形体に内包された空気が急激に膨張し、成形体の表面を隆起させることがある。その結果、熱処理後に得られる熱処理体(圧粉磁心)の平面度が悪化するおそれがある。
【0008】
そこで、本開示は、平面度に優れる圧粉磁心が得られる圧粉磁心の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示の圧粉磁心の製造方法は、平面度に優れる圧粉磁心が得られる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
【0011】
(1)本開示の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法は、
原料粉末を加圧成形して成形体とする工程と、
前記成形体に第一の熱処理を施して第一熱処理体とする工程と、
前記第一熱処理体に第二の熱処理を施して第二熱処理体とする工程とを備え、
前記原料粉末は、軟磁性粉末と、融点がTmである潤滑剤とを含み、
前記第一の熱処理は、Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で10分超行い、
前記第二の熱処理は、前記第一の熱処理における温度域よりも高く、かつ400℃以上900℃以下の温度域で3分以上90分以下行う。
【0012】
圧粉磁心の製造方法では、軟磁性粉末に潤滑剤が混合された原料粉末を用いる。加圧成形する際に成形体と成形金型との間に生じる摩擦を低減したり、軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子同士が強く擦れ合うことを抑制したりするためである。軟磁性粉末と潤滑剤とを含む原料粉末を加圧成形した成形体は、空気を内包している。本開示の圧粉磁心の製造方法では、成形体に第一の熱処理を施すことで、成形体に内包される空気を外部に除去できる。第一の熱処理は、潤滑剤の融点Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で行う。そのため、第一の熱処理によって、潤滑剤を融解でき、その融解した潤滑剤を軟磁性粒子間に伝わせて成形体の外部に除去できることで、成形体の内部から外部に通じる空気の流路を確保できるからである。なお、第一の熱処理における温度は、(Tm+50℃)以下であり、過度に高温でないため、成形体に内包される空気が急激に膨張することを抑制できる。更に、(Tm+50℃)は、通常は潤滑剤が分解する温度より低いため、潤滑剤の分解に伴う生成ガスの発生も抑制できる。
【0013】
第二の熱処理は、成形体に導入された歪を除去するために行われる。従って、第二の熱処理の温度域は、第一の熱処理における温度域よりも高い。第二の熱処理は、第一の熱処理を施して得られた成形体(第一熱処理体)に対して行う。よって、第二の熱処理は、成形体の内部に空気が少ない又は実質的に存在しない状態で行うことができる。そのため、歪を除去するような比較的高い温度域で第二の熱処理を施しても、成形体(第二熱処理体)の表面が隆起することを抑制できる。第一の熱処理体の内部に残存する空気が膨張しても、急激な膨張は抑制できるからである。以上より、本開示の圧粉磁心の製造方法では、潤滑剤が融解する温度域で第一の熱処理を行った後に、歪を除去できる比較的高い温度域で第二の熱処理を行うことで、成形体に導入された歪を除去でき、かつ平面度に優れる圧粉磁心が得られる。
【0014】
(2)本開示の圧粉磁心の製造方法の一例として、
前記軟磁性粉末の平均粒径D50が220μm以下であることが挙げられる。
【0015】
軟磁性粉末の平均粒径が220μm以下であることで、軟磁性粉末自体の渦電流損失を低減し易く、より低損失な圧粉磁心が得られる。しかし、軟磁性粉末の平均粒径は220μm以下であると、その平均粒径が大きい場合に比較して成形体の強度が低くなり易い。成形体の強度が低いと、成形体に内包される空気が急激に膨張した際に、その空気の内圧に耐えられずに成形体が破裂し易い。本開示の圧粉磁心の製造方法では、上述したように、第一の熱処理によって成形体に内包される空気を外部に除去し、その後に第二の熱処理によって歪取りを行う。よって、本開示の圧粉磁心の製造方法では、成形体(第一熱処理体)の内部に残存した空気が膨張しても、その空気の膨張圧力自体が小さく、成形体(第一熱処理体)が破裂したり表面が隆起したりすることを抑制できる。そのため、本開示の圧粉磁心では、成形体の強度が低い場合であっても、成形体に導入された歪を除去でき、かつ平面度に優れる圧粉磁心が得られる。
【0016】
(3)本開示の圧粉磁心の製造方法の一例として、
前記潤滑剤の融点Tmが80℃以上230℃以下であることが挙げられる。
【0017】
潤滑剤の融点Tmが80℃以上であることで、連続的な成形に伴う成形金型と成形体との摩擦で成形金型の温度が上昇した場合でも、潤滑剤の機能を維持できる。一方、潤滑剤の融点Tmが230℃以下であることで、第一の熱処理における熱処理温度を過度に高くしなくても潤滑剤を融解できる。
【0018】
(4)本開示の圧粉磁心の製造方法の一例として、
前記原料粉末に占める前記潤滑剤の含有量が0.1質量%以上1.0質量%未満であることが挙げられる。
【0019】
潤滑剤の含有量が0.1質量%以上であることで、加圧成形する際に成形体と成形金型との間に生じる摩擦を低減したり、軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子同士が強く擦れ合うことを抑制したりし易い。一方、潤滑剤の含有量が1.0質量%未満であることで、第一の熱処理によって潤滑剤を成形体の外部に除去し易く、成形体の内部に潤滑剤が残存する量が少ない又は実質的に残存しない状態とし易い。
【0020】
(5)本開示の圧粉磁心の製造方法の一例として、
前記成形体の相対密度を97%未満とすることが挙げられる。
【0021】
成形体の相対密度が97%未満であることで、第一の熱処理によって潤滑剤を成形体の外部に除去したときに、軟磁性粒子間に隙間が形成され易く、成形体の内部から外部に通じる空気の流路を確保し易い。
【0022】
(6)本開示の圧粉磁心の製造方法の一例として、
前記第一の熱処理は、非酸化性雰囲気で行うことが挙げられる。
【0023】
第一の熱処理を非酸化性雰囲気で行うことで、成形体の表面に酸化膜が形成されることを防止でき、成形体に内包される空気を外部に除去し易い。
【0024】
(7)本開示の圧粉磁心の製造方法の一例として、
前記加圧成形は、成形金型を(Tm-100℃)以上(Tm-20℃)以下の温度に加熱した状態で行うことが挙げられる。
【0025】
成形金型を(Tm-100℃)以上に加熱することで、成形体に含まれる潤滑剤を軟化させることによって成形体と成形金型との間に生じる摩擦を低減し易い。一方、成形金型を(Tm-20℃)以下に加熱することで、加圧成形時に潤滑剤が融解することを抑制でき、潤滑剤の機能を維持できる。
【0026】
(8)本開示の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法は、
原料粉末を加圧成形して成形体とする工程と、
前記成形体に第一の熱処理を施して第一熱処理体とする工程と、
前記第一熱処理体に第二の熱処理を施して第二熱処理体とする工程とを備え、
前記原料粉末は、軟磁性粉末と、融点Tmが80℃以上230℃以下である潤滑剤とを含み、
前記軟磁性粉末の平均粒径D50が220μm以下であり、
前記第一の熱処理は、Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で10分超行い、
前記第二の熱処理は、前記第一の熱処理における温度域よりも高く、かつ400℃以上900℃以下の温度域で3分以上90分以下行う。
【0027】
上記(8)に記載の圧粉磁心の製造方法は、上記(1)から(3)に記載の圧粉磁心の製造方法の効果を奏する。
【0028】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法の具体例を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
<圧粉磁心の製造方法>
実施形態に係る圧粉磁心の製造方法は、軟磁性粉末と潤滑剤とを含む原料粉末を加圧成形して成形体を形成する成形工程と、成形体を熱処理する熱処理工程とを備える。実施形態に係る圧粉磁心の製造方法は、熱処理工程が、潤滑剤が融解する温度域で熱処理を行う第一の熱処理工程と、歪を除去可能な温度域で熱処理を行う第二の熱処理工程とを備える点を特徴の一つとする。第二の熱処理工程は、第一の熱処理工程の後に行う。以下、各工程について詳しく説明する。
【0030】
〔成形工程〕
成形工程は、軟磁性粉末と潤滑剤とを含む原料粉末を加圧成形して成形体を形成する工程である。具体的には、原料粉末を成形金型に充填し、プレス装置を用いて加圧成形する。以下、まず原料粉末について説明し、その後に加圧成形の条件について説明する。
【0031】
(軟磁性粉末)
軟磁性粉末は、軟磁性粒子の集合体で構成される。軟磁性粒子は、鉄を50質量%以上含有するものが挙げられる。具体的には、軟磁性粒子は、純鉄又は鉄基合金からなる。ここでの純鉄とは、純度が99%以上、即ち鉄(Fe)の含有量が99質量%以上のものである。純鉄からなる成形体は、透磁率及び磁束密度が高い圧粉磁心が得られ、成形性に優れる。ここでの鉄基合金は、添加元素を含み、残部がFe及び不可避不純物からなるものである。鉄基合金は、一種又は二種以上の添加元素を含む。添加元素は、例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などが挙げられる。鉄基合金の具体例として、Fe-Si系合金、Fe-Al系合金、Fe-N系合金、Fe-Ni系合金、Fe-C系合金、Fe-B系合金、Fe-Co系合金、Fe-P系合金、Fe-Ni-Co系合金、及びFe-Al-Si系合金などが挙げられる。鉄基合金からなる成形体は、渦電流損を低減し易く、より低損失な圧粉磁心が得られる。
【0032】
軟磁性粉末の平均粒径は、220μm以下であることが挙げられる。軟磁性粉末の平均粒径が220μm以下であることで、軟磁性粉末自体の渦電流損失を低減し易く、より低損失な圧粉磁心が得られる。しかし、軟磁性粉末の平均粒径が220μm以下であると、成形体の強度が低くなり易い。成形体の強度が低いと、成形体に内包される空気が急激に膨張した際に、その空気の内圧に耐えられずに成形体が破裂するおそれがある。本実施形態に係る圧粉磁心の製造方法では、後述する第一の熱処理を行うため、成形体に内包される空気の少なくとも一部を外部に除去できる。そのため、成形体の強度が低い場合であっても、成形体に残存する空気が膨張してもその空気の膨張圧力自体が小さく、成形体が破裂したり表面が隆起したりすることを抑制できる。一方、軟磁性粉末の平均粒径は、10μm以上であることが挙げられる。軟磁性粉末の平均粒径が10μm以上であることで、軟磁性粉末を扱い易い上に、ヒステリシス損が低い圧粉磁心が得られる。軟磁性粉末の平均粒径は、10μm以上220μm以下、更に20μm以上180μm以下、特に30μm以上120μm以下であることが挙げられる。軟磁性粉末の平均粒径は、市販のレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて体積基準の粒度分布を求め、小径側からの累積が50%となる粒径値(D50粒径)である
【0033】
軟磁性粉末を構成する各軟磁性粒子は、表面に絶縁被覆を備えることが挙げられる。軟磁性粒子の表面に絶縁被覆を備えることで、軟磁性粉末自体の渦電流損失を低減し易く、より低損失な圧粉磁心が得られる。絶縁被覆は、金属元素を1種以上含む酸化物、窒化物、炭化物などの金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などで構成することができる。金属元素としては、例えば、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)バナジウム(V)、クロム(Cr)、イットリウム(Y)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及び希土類元素(Yを除く)などが挙げられる。また、絶縁被覆は、例えば、リン化合物、ケイ素化合物(シリコーン樹脂など)、ジルコニウム化合物及びアルミニウム化合物から選択される1種以上の化合物で構成しても良い。その他、絶縁被覆は、金属塩化合物、例えば、リン酸金属塩化合物(代表的には、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなど)、ホウ酸金属塩化合物、ケイ酸金属塩化合物、チタン酸金属塩化合物などで構成しても良い。
【0034】
絶縁被覆の厚さは、10nm以上1μm以下であることが挙げられる。絶縁被覆の厚さが10nm以上であることで、軟磁性粒子間の絶縁を確保し易い。一方、絶縁被覆の厚さが1μm以下であることで、絶縁被覆の存在により、圧粉磁心における軟磁性粉末の含有割合の低下を抑制できる。
【0035】
(潤滑剤)
潤滑剤は、潤滑剤粉末からなる固体潤滑剤であることが挙げられる。固体潤滑剤は、常温(JIS Z 8703で定義される温度(20℃±15℃))において固体である。潤滑剤が固体潤滑剤であることで、軟磁性粉末と混合し易い。潤滑剤は、軟磁性粉末に均一的に混合し易く、成形体の加圧成形時に、軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子間で十分に変形可能であり、かつ後述する第一の熱処理によって融解されて成形体の外部に除去可能なものが挙げられる。
【0036】
潤滑剤は、融点Tmが80℃以上230℃以下であることが挙げられる。潤滑剤の融点Tmが80℃以上であることで、連続的な成形に伴う成形金型と成形体との摩擦で成形金型の温度が上昇した場合でも、潤滑剤の機能を維持できる。一方、潤滑剤の融点Tmが230℃以下であることで、潤滑剤を融解するための加熱温度がある程度低くてもよいため、後述する第一の熱処理における熱処理温度を過度に高くしなくても潤滑剤を融解できる。また、潤滑剤の融点Tmが230℃以下であることで、加熱に要するエネルギーを低減できる。潤滑剤としては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの高級脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸が挙げられる。
【0037】
原料粉末に占める潤滑剤の含有量は、0.1質量%以上1.0質量%未満であることが挙げられる。ここでの潤滑剤の含有量は、原料粉末の含有量を100質量%としたときの潤滑剤の合計含有量である。潤滑剤の含有量が0.1質量%以上であることで、加圧成形する際に成形体と成形金型との間に生じる摩擦を低減したり、軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子同士が強く擦れ合うことを抑制したりし易い。潤滑剤の含有量が多いほど、得られる成形体に内包される空気が外部に除去され難く、成形体に内包される空気が急激に膨張した際に、成形体の表面が隆起し易い。本実施形態に係る圧粉磁心の製造方法では、後述する第一の熱処理を行うため、成形体に内包される空気の少なくとも一部を外部に除去できる。潤滑剤の含有量が1.0質量%未満であることで、後述する第一の熱処理によって潤滑剤を成形体の外部に除去し易く、成形体の内部に潤滑剤が残存する量が少ない又は実質的に残存しない状態とし易い。成形体の内部に潤滑剤が残存する量が少ないと、磁気特性に優れた高密度の圧粉磁心が得られる。原料粉末に占める潤滑剤の含有量は、更に0.15質量%以上0.80質量%以下、特に0.20質量%以上0.60質量%以下であることが挙げられる。
【0038】
潤滑剤が潤滑剤粉末からなる固体潤滑剤である場合、潤滑剤粉末の平均粒径(D50粒径)は、1μm以上40μm以下であることが挙げられる。潤滑剤粉末の平均粒径が1μm以上であることで、加圧成形する際に成形体と成形金型との間に生じる摩擦を低減したり、軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子同士が強く擦れ合うことを抑制したりし易い。一方、潤滑剤粉末の平均粒径が40μm以下であることで、軟磁性粉末に潤滑剤粉末を混合し易い上に、後述する第一の熱処理によって潤滑剤粉末を成形体の外部に除去し易い。潤滑剤粉末の平均粒径は、更に2μm以上35μm以下、特に3μm以上30μm以下であることが挙げられる。
【0039】
軟磁性粉末と潤滑剤との混合は、ダブルコーン型混合機やV型混合機を利用すると良い。
【0040】
(加圧成形)
加圧成形の成形圧力は、500MPa以上2000MPa以下とすることが挙げられる。成形圧力を500MPa以上とすることで、軟磁性粉末を十分に圧縮することができ、成形体の相対密度を高められる。一方、成形圧力を2000MPa以下とすることで、潤滑剤を除去した際に軟磁性粒子間に隙間を形成し易い相対密度の成形体とできる。成形圧力は、更に600MPa以上1800MPa以下、特に700MPa以上1500MPa以下とすることが挙げられる。この成形圧力で加圧成形すると、相対密度が85%以上97%未満、更に88%以上96%以下、特に90%以上95%以下の成形体が得られる。「相対密度」とは、真密度に対する実際の密度([成形体の実測密度/成形体の真密度]の百分率)のことである。真密度は、成形体に含まれる軟磁性粉末の組成から算出可能な密度とする。
【0041】
加圧成形は、成形金型を(Tm-100℃)以上(Tm-20℃)以下の温度に加熱した状態で行うことが挙げられる。成形金型を(Tm-100℃)以上に加熱することで、成形体に含まれる潤滑剤を軟化させることによって成形体と成形金型との間に生じる摩擦を低減し易い。一方、成形金型を(Tm-20℃)以下に加熱することで、加圧成形時に潤滑剤が融解することを抑制でき、潤滑剤の機能を維持できる。
【0042】
〔熱処理工程〕
熱処理工程は、第一の熱処理工程及び第二の熱処理工程の二段階の熱処理を行う。第一の熱処理工程では、成形体に含まれる潤滑剤が融解する温度域で成形体を加熱して第一熱処理体を形成する。第二の熱処理工程では、成形体に導入された歪を除去できる温度域で第一熱処理体を加熱して第二熱処理体(圧粉磁心)を形成する。図1に、この二段階の熱処理における熱処理温度の推移を示す。図1は、横軸が時間、縦軸が熱処理温度である。
【0043】
(第一の熱処理工程)
第一の熱処理工程は、成形工程で得られた成形体に、Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で10分超の第一の熱処理を施して第一熱処理体を形成する工程である。Tmは、潤滑剤の融点である。第一の熱処理を行うことで、成形体に含まれる潤滑剤を融解して成形体の外部に除去し、成形体の内部から外部に通じる空気の流路を確保し、成形体に内包される空気を外部に除去する。
【0044】
第一の熱処理温度(図1に示すT1)は、Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域である。第一の熱処理温度がTm以上であることで、潤滑剤を融解でき、その融解した潤滑剤を軟磁性粒子間に伝わせて成形体の外部に除去し、成形体の内部から外部に通じる空気の流路を確保できる。一方、第一の熱処理温度が(Tm+50℃)以下であることで、過度に高温でないため、成形体に内包される空気が急激に膨張することを抑制できる。更に、(Tm+50℃)は、通常は潤滑剤が分解する温度より低いため、潤滑剤の分解に伴う生成ガスの発生も抑制できる。
【0045】
第一の熱処理は、上記第一の熱処理温度域にて熱処理を行えばよく、第一の熱処理時間内(図1に示すt1からt2までの間)で熱処理温度を一定に保持してもよいし、熱処理温度を変化させてもよい。例えば、第一の熱処理は、第一の熱処理時間内において、第一の熱処理温度の範囲内であれば、昇温しながら行ったり、降温しながら行ったり、昇降温させたりする場合も含む。第一の熱処理で温度変化させる場合、昇温速度は、5℃/分未満、更に4℃/分以下、特に3℃/分以下であることが挙げられる。
【0046】
第一の熱処理時間(図1に示すt1からt2までの間)は、10分超である。第一の熱処理時間が10分超であることで、潤滑剤を融解でき、その融解した潤滑剤を軟磁性粒子間に伝わせて成形体の外部に除去し、成形体の内部から外部に通じる空気の流路を確保できる。第一の熱処理時間は、長いほど潤滑剤を十分に融解できるため、更に15分以上、特に20分以上であることが挙げられる。一方、第一の熱処理時間が120分以下であることで、熱処理時間の長時間化を抑制でき、第一の熱処理工程を効率的に行える。第一の熱処理時間は、10分超120分以下、更に15分以上90分以下、特に20分以上60分以下であることが挙げられる。
【0047】
潤滑剤の融点Tmは、潤滑剤の種類によって異なる。そのため、潤滑剤を含む成形体を用いた予備試験によって、潤滑剤が融解する温度域、及びこの温度域にて成形体をどのくらいの時間保持すれば潤滑剤が成形体の外部に除去されるかを調べておく。その結果に基づいて、成形体に第一の熱処理を行う。例えば、後述する試験例で示すように、潤滑剤がステアリン酸アミドからなる場合、第一の熱処理温度は、99℃以上149℃以下、第一の熱処理時間は、10分超120分以下であることが挙げられる。また、潤滑剤がエチレンビスステアリン酸アミドからなる場合、第一の熱処理温度は、147℃以上197℃以下、第一の熱処理時間は、10分超120分以下であることが挙げられる。
【0048】
第一の熱処理は、非酸化性雰囲気で行うことが挙げられる。第一の熱処理を非酸化性雰囲気で行うことで、成形体の表面に酸化膜が形成されることを防止でき、成形体に内包される空気を外部に除去し易い。非酸化性雰囲気は、酸素濃度が体積割合で10000ppm以下であることが挙げられる。
【0049】
成形体の加熱開始から第一の熱処理の温度域に達するまで(図1に示すt0からt1まで)の昇温速度は、5℃/分以上であることが挙げられる。昇温速度が5℃/分以上であることで、成形体を早く昇温でき、生産性を向上できる。昇温速度によって、第一の熱処理温度域に達する時間(t1)が変化する。この昇温速度は、更に10℃/分以上であることが挙げられる。
【0050】
(第二の熱処理工程)
第二の熱処理工程は、第一の熱処理工程で得られた第一熱処理体に、400℃以上900℃以下の温度域で3分以上90分以下の第二の熱処理を施して第二熱処理体を形成する工程である。第二の熱処理を行うことで、第一熱処理体(成形体)に導入された歪を除去できる。成形体の歪を除去することで、ヒステリシス損が低い圧粉磁心が得られる。
【0051】
第二の熱処理温度(図1に示すT2)は、400℃以上900℃以下の温度域である。第二の熱処理温度は、第一熱処理体(成形体)に導入された歪を除去する温度域である。従って、第二の熱処理温度は、第一の熱処理温度よりも高い。第二の熱処理温度、及びその保持時間(図1に示すt3からt4までの間)は、軟磁性粉末の種類によって異なる。そのため、軟磁性粉末の種類に応じて、歪を除去できる温度及びその保持時間を予め把握しておき、その把握している温度及び保持時間に基づいて、第二の熱処理を行う。第二の熱処理温度が上記範囲であれば、いずれの軟磁性粉末であっても、成形体に導入された歪を除去できる。第二の熱処理温度は、更に450℃以上850℃以下、450℃以上800℃以下、450℃以上750℃以下、特に500℃以上700℃以下であることが挙げられる。また、その保持時間は、3分以上90分以下、更に4分以上60分以下、特に5分以上30分以下であることが挙げられる。第二の熱処理の雰囲気は特に問わない。
【0052】
第一の熱処理の終了時から第二の熱処理の歪を除去可能な温度に達するまで(図1に示すt2からt3まで)の昇温速度は、5℃/分以上であることが挙げられる。昇温速度が5℃/分以上であることで、第一熱処理体(成形体)を早く昇温することができ、生産性を向上できる。昇温速度によって、歪を除去可能な温度に達する時間(t3)が変化する。この昇温速度は、更に10℃/分以上であることが挙げられる。
【0053】
第二の熱処理の終了時(図1に示すt4)からの第二熱処理体(圧粉磁心)の冷却速度は、適宜選択できる。例えば、冷却速度を2℃/分以上、更に10℃/分以上とすることが挙げられる。第二熱処理体の冷却は、空冷で行うことが挙げられる。
【0054】
(その他の熱処理工程)
熱処理工程では、第一の熱処理工程と第二の熱処理工程との間に、第三の熱処理工程を行ってもよい。第三の熱処理工程では、第一の熱処理で成形体の外部に除去された潤滑剤を分解・蒸発させる分解温度域で第三の熱処理を行う。第三の熱処理温度は、第一の熱処理温度よりも高く、第二の熱処理温度よりも低い。第一の熱処理工程で得られた第一熱処理体を、歪を除去可能な温度域まで直線的に昇温すると、潤滑剤が分解したり蒸発したりするなどして消失する前に、第一熱処理体(成形体)の表面で炭化するおそれがある。この潤滑剤の炭化物は、第二の熱処理工程で得られた第二熱処理体(圧粉磁心)の表面や内部の空孔を形成する面に付着した状態となる。そこで、第一の熱処理工程と第二の熱処理工程との間に、潤滑剤を分解・蒸発させる第三の熱処理を行う。この第三の熱処理によって、第一熱処理体(成形体)の表面に除去された潤滑剤を分解・蒸発させて消失してから歪を除去可能な温度域で熱処理を行える。そのため、得られた第二熱処理体(圧粉磁心)の表面に残渣物が付着することを抑制できる。
【0055】
潤滑剤の分解温度域は、潤滑剤の種類によって異なる。そのため、潤滑剤を含む成形体を用いた予備試験によって、潤滑剤が分解・蒸発する温度域、及びこの温度域にて成形体をどのくらいの時間保持すれば潤滑剤が分解・蒸発するかを調べておく。その結果に基づいて、第一熱処理体(成形体)に上記分解温度域で熱処理を行う。例えば、潤滑剤がステアリン酸アミドからなる場合、分解温度域は、171℃以上265℃以下、その温度域での保持時間は、30分以上120分以下であることが挙げられる。また、潤滑剤がエチレンビスステアリン酸アミドからなる場合、216℃以上390℃以下、その温度域での保持時間は、30分以上120分以下であることが挙げられる。
【0056】
〔効果〕
上述した圧粉磁心の製造方法では、潤滑剤が融解する温度域で第一の熱処理を行った後に、歪を除去できる比較的高い温度域で第二の熱処理を行っている。そのため、熱処理時に成形体に内包される空気が膨張しても、その空気の膨張圧力が小さく、成形体が破裂したり表面が隆起したりすることを抑制できる。よって、上述した圧粉磁心の製造方法で得られた第二熱処理体(圧粉磁心)は、歪が小さい又は実質的に存在せず、かつ平面度に優れる。
【0057】
<圧粉磁心>
上述した圧粉磁心の製造方法によって得られた圧粉磁心は、軟磁性粉末を加圧成形した成形体で構成され、表面の平面度が0.03mm以下であることが挙げられる。平面度とは、平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさである(JIS B 0621(1984))。平面度は、最大ふれ式平面度を用いた方法で算出できる。最大ふれ式平面度は、対象の平面において、できるだけ離れた3点を通過する平面をそれぞれ設定し、それらの偏差の最大値を平面度として算出する方法である。圧粉磁心の平面度が0.03mm以下であることで、設計に忠実な圧粉磁心を用いた部品を構成することができる。圧粉磁心の平面度は、更に0.02mm以下、0.015mm以下、特に0.01mm以下であることが挙げられる。
【0058】
[試験例]
軟磁性粉末と潤滑剤とを含む原料粉末を用いて圧粉磁心を製造し、その圧粉磁心の平面度を調べた。
【0059】
まず、原料粉末として、表1に示すD50粒径の軟磁性粉末と、表1に示す潤滑剤とが混合されたものを準備した。軟磁性粉末は純鉄からなり、軟磁性粉末を構成する各軟磁性粒子は、表面に厚さ0.1μmの絶縁被覆を備える。潤滑剤は、ステアリン酸アミド(表1ではSAと表記)又はエチレンビスステアリン酸アミド(表1ではEBSと表記)からなる。潤滑剤の含有量は、質量基準で、原料粉末全体に対する潤滑剤の含有量である。準備した原料粉末を成形金型に充填し、成形金型を60℃に加熱した状態で加圧成形し、30mm×30mm×20mmの大きさの成形体を作製した。加圧成形の成形圧力は、得られる成形体の相対密度が表1に示す相対密度となるように適宜選択した。
【0060】
次に、試料No.1-1~1-11,1-21~1-25では、得られた成形体に、非酸化性雰囲気中(酸素濃度が体積割合で10000ppm以下)、表1に示す温度で、表1に示す時間保持する第一の熱処理を施し、第一熱処理体を作製した。このとき、常温から第一の熱処理温度までの昇温速度を5℃/分とした。試料No.1-26~1-28では、得られた成形体に第一の熱処理を施していない。
【0061】
最後に、試料No.1-1~1-11,1-21~1-25では、得られた第一熱処理体に、試料No.1-26~1-28では、得られた成形体に、非酸化性雰囲気中(酸素濃度が体積割合で1000ppm以下)、600℃×15分の第二の熱処理を施し、それぞれ圧粉磁心を作製した。このとき、第一の熱処理温度から第二の熱処理温度までの昇温速度を5℃/分とした。第二の熱処理の終了後は、自然冷却で室温まで冷却した。
【0062】
得られた各試料の圧粉磁心について、平面度を測定した。まず、圧粉磁心の30mm×30mmの面の角4点の高さを合わせた状態で、ハイトゲージにより、縁から5mm内側の20mm×20mmの平面において、5×5=25点の高さを測定する。それら25点の点群と平面との距離の二乗和を求め、その二乗和が最小となる平面を近似平面とする。そして、25点の各点とその近似平面との距離の最大値を求め、その最大値を平面度とした。その結果を、表1に併せて示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果から、成形体に潤滑剤の融点Tm以上(Tm+50℃)以下の温度域で10分超の第一の熱処理を施してから歪を除去可能な温度で熱処理した試料No.1-1~1-11の圧粉磁心は、平面度が0.03mm以下であり、平面度に優れることがわかる。これは、成形体に特定の温度かつ時間の第一の熱処理を施すことで、潤滑剤が融解され、この融解した潤滑剤が軟磁性粒子間を伝って成形体の外部に除去されたことで、成形体の内部から外部に通じる空気の流路が確保されたからと考えられる。空気の流路が形成されると、その流路によって成形体に内包される空気が外部に除去される。そのため、歪が除去可能な温度域で成形体(第一熱処理体)を加熱した際でも、空気の急激な膨張が抑制され、成形体の表面が隆起することを抑制できたと考えられる。
【0065】
特に、成形体に含まれる潤滑剤の含有量が1.0質量%未満で、かつ成形体の相対密度が97%未満である試料No.1-1~1-9の圧粉磁心は、平面度が0.02mm以下であり、更に平面度に優れることがわかる。これは、潤滑剤の含有量が少ないことで、第一の熱処理によって潤滑剤を成形体の外部に除去し易いからと考えられる。また、成形体の相対密度が小さいことで、潤滑剤が成形体の外部に除去された状態で、軟磁性粒子間に隙間が形成され易く、成形体の外部に空気を除去し易いからと考えられる。成形体に含まれる潤滑剤の含有量が比較的少なく、かつ第一の熱処理時間が長い試料No.1-1,1-2の圧粉磁心は、平面度が0.01mm以下と非常に平面度に優れることがわかる。これは、第一の熱処理によって成形体に含まれる潤滑剤の大部分が成形体の外部に除去されたことで、成形体の内部に潤滑剤が実質的に残存しない状態とできたことによると考えられる。
【0066】
一方、第一の熱処理を施さずに歪を除去可能な高い温度で熱処理した試料No.1-26~1-28の圧粉磁心は、平面度に劣ることがわかる。これは、第一の熱処理を行っておらず、成形体に空気が内包された状態で歪を除去可能な高い温度で熱処理したため、成形体に内包された空気が急激に膨張したからと考えられる。なお、試料No.1-28の圧粉磁心は、第一の熱処理を行っていない他の試料No.1-26,1-27と比較して平面度に優れることがわかる。これは、成形体に含まれる軟磁性粉末の平均粒径が比較的大きいため、試料No.1-26,1-27に比較して成形体の強度が高くなり、成形体に内包される空気が膨張した際の内圧に耐えることができたからと考えられる。
【0067】
また、第一の熱処理の熱処理温度が低い試料No.1-22,1-23の圧粉磁心、及び熱処理時間が短い試料No.1-21の圧粉磁心は、平面度に劣ることがわかる。これは、第一の熱処理によって潤滑剤が十分に成形体の外部に除去できず、成形体の内部に潤滑剤が多く残存したからと考えられる。一方、第一の熱処理の熱処理温度が高い試料No.1-24,1-25の圧粉磁心も、平面度に劣ることがわかる。これは、潤滑剤を成形体の外部に除去する過程で、第一の熱処理の熱処理温度によって成形体に内包される空気が膨張したからと考えられる。
図1