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特許7124086非対称の放出パターンを有するヘッドレストスピーカ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】非対称の放出パターンを有するヘッドレストスピーカ
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/879 20180101AFI20220816BHJP
   A47C 7/62 20060101ALI20220816BHJP
   A47C 7/72 20060101ALI20220816BHJP
   H04R 1/02 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B60N2/879
A47C7/62 Z
A47C7/72
H04R1/02 102B
H04R1/02 103D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020533593
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 US2018065986
(87)【国際公開番号】W WO2019126026
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-06-18
(31)【優先権主張番号】15/850,670
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・オズワルド
(72)【発明者】
【氏名】ムハンマド・ハリス・ウスマニ
(72)【発明者】
【氏名】トーブ・ゼット・バークスデイル
【審査官】杉▲崎▼ 覚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/160578(WO,A1)
【文献】実開昭61-199275(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0273724(US,A1)
【文献】特表2019-516268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/879
A47C 7/62
A47C 7/72
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに隣接して配置された車両シートのために一対で用いられるように構成されたヘッドレストであって、前記一対のヘッドレストの各々は、
第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサと、前記第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサと前記ヘッドレストの第1の部分との間に配置された第1の音響チャネルと、を含む第1の音響アセンブリであって、前記ヘッドレストの前記第1の部分から第1の放出パターンで音響エネルギーを放出するように構成されている、第1の音響アセンブリと、
第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサと、前記第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサと前記ヘッドレストの第2の部分との間に配置された第2の音響チャネルと、を含む第2の音響アセンブリであって、前記ヘッドレストの前記第2の部分から第2の放出パターンで音響エネルギーを放出するように構成されている、第2の音響アセンブリと、を含み、
前記第2の音響チャネルが、前記第1の放出パターンとは実質的に異なる前記第2の放出パターンに従って前記第2の音響チャネルから音響エネルギーを方向付けるように構成された音響ガイドを含み、前記ヘッドレストに対して非対称の放出パターンを生成し、
前記第1の音響アセンブリの前記1つ以上の音響トランスデューサと、前記第2の音響アセンブリの前記1つ以上の音響トランスデューサとは、前記ヘッドレストの中心線に対して対称に配向されており、
前記ヘッドレストの前記第1の部分が、前記ヘッドレストの第1の側部を含み、前記ヘッドレストの前記第2の部分が、前記ヘッドレストの別の実質的に反対側の第2の側部を含み、
前記第1の側部および前記第2の側部の放出パターンの角度は異なるように構成され、よって非対称な放出パターンがもたらされる
ヘッドレスト。
【請求項2】
前記ヘッドレストの前記第2の部分が、前記ヘッドレストの前記第1の部分と比較して、車両乗員の隣接位置に近い、請求項に記載のヘッドレスト。
【請求項3】
前記第1の音響アセンブリの前記1つ以上の音響トランスデューサが、前記第2の音響アセンブリの前記1つ以上の音響トランスデューサとは異なって配向されて、前記非対称の放出パターンを生成する、請求項に記載のヘッドレスト。
【請求項4】
前記音響ガイドが、前記第2の音響チャネルに取り外し可能に取り付けられるように構成されている、請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項5】
前記第2の音響チャネルは、前記第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサによって放出される音響エネルギーが、前記ヘッドレストの前方に向かって優先的に方向付けられるように構成されている、請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項6】
前記第1の音響チャネルは、前記第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサによって放出される音響エネルギーが、前記ヘッドレストの前記側部に向かって優先的に方向付けられるように構成されている、請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項7】
前記第2の放出パターンが、目標シート間分布特性を表す、請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項8】
前記第2の放出パターンが、目標両耳間分布特性を表す、請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項9】
互いに隣接して配置され、一対で用いられるように構成された車両シートであって、前記一対の車両シートの各々の車両シートは、
前記車両シートの乗員の頭部を支持するように構成されているシートヘッドレストと、
第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサと、前記第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサと前記ヘッドレストの第1の部分との間に配置された第1の音響チャネルと、を含む第1の音響アセンブリであって、前記ヘッドレストの第1の部分から第1の放出パターンで音響エネルギーを放出するように構成されるように、前記シートヘッドレスト内に配置された第1の音響アセンブリと、
第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサと、前記第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサと前記ヘッドレストの第2の部分との間に配置された第2の音響チャネルと、を含む第2の音響アセンブリであって、前記ヘッドレストの第2の部分から第2の放出パターンで音響エネルギーを放出するように構成されるように、前記シートヘッドレスト内に配置された第2の音響アセンブリと、を含み
前記第2の音響チャネルが、前記第1の放出パターンとは実質的に異なる前記第2の放出パターンに従って前記第2の音響チャネルから音響エネルギーを方向付けるように構成された音響ガイドを含み、非対称の放出パターンを生成し、
前記第1の音響アセンブリの前記1つ以上の音響トランスデューサと、前記第2の音響アセンブリの前記1つ以上の音響トランスデューサとは、前記ヘッドレストの中心線に対して対称に配向されており、
前記ヘッドレストの前記第1の部分が、前記ヘッドレストの第1の側部を含み、前記ヘッドレストの前記第2の部分が、前記ヘッドレストの別の実質的に反対側の第2の側部を含み、
前記第1の側部および前記第2の側部の放出パターンの角度は異なるように構成され、よって非対称な放出パターンがもたらされる
車両シート。
【請求項10】
前記ヘッドレストの前記第2の部分が、前記ヘッドレストの前記第1の部分と比較して、車両乗員の隣接位置に近い、請求項に記載の車両シート。
【請求項11】
前記第1の音響アセンブリの前記1つ以上の音響トランスデューサが、前記第2の音響アセンブリの前記1つ以上の音響トランスデューサとは異なって配向されて、前記非対称の放出パターンを生成する、請求項10に記載の車両シート。
【請求項12】
前記音響ガイドが、前記第2の音響チャネルに取り外し可能に取り付けられるように構成されている、請求項に記載の車両シート。
【請求項13】
前記第2の音響チャネルは、前記第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサによって放出される音響エネルギーが、前記シートヘッドレストの前方に向かって優先的に方向付けられるように構成されている、請求項に記載の車両シート。
【請求項14】
前記第1の音響チャネルは、前記第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサによって放出される音響エネルギーが、前記シートヘッドレストの前記側部に向かって優先的に方向付けられるように構成されている、請求項に記載の車両シート。
【請求項15】
前記第2の放出パターンが、目標シート間分布特性を表す、請求項に記載の車両シート。
【請求項16】
前記第2の放出パターンが、目標両耳間分布特性を表す、請求項に記載の車両シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、スピーカなどの音響出力デバイスを含むシートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両シート内で使用されるヘッドレストは、近方場音響経験を供給するためのスピーカを含み得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一態様では、本文書は、車両シートのためのヘッドレストを含むシステムを特徴とし、ヘッドレストは、第1の音響アセンブリ及び第2の音響アセンブリを含む。第1の音響アセンブリは、第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサを含み、ヘッドレストの第1の部分から第1の放出パターンで音響エネルギーを放出するように構成されている。第2の音響アセンブリは、第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサを含み、ヘッドレストの第2の部分から第2の放出パターンで音響エネルギーを放出するように構成されている。第1の音響アセンブリ及び第2の音響アセンブリは、第1の放出パターン及び第2の放出パターンが互いに実質的に異なるように構成され、ヘッドレストに対して非対称の放出パターンを生成する。
【0004】
別の態様では、本文書は、シートヘッドレストと、第1の音響アセンブリと、第2の音響アセンブリと、を含む車両シートを特徴とする。シートヘッドレストは、車両シートの乗員の頭部を支持するように構成されている。第1の音響アセンブリは、第1の音響アセンブリの第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサが、ヘッドレストの第1の部分から第1の放出パターンで音響エネルギーを放出するように構成されるように、シートヘッドレスト内に配置される。第2の音響アセンブリは、第2の音響アセンブリの第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサが、ヘッドレストの第2の部分から第2の放出パターンで音響エネルギーを放出するように構成されるように、シートヘッドレスト内に配置される。第1の音響アセンブリ及び第2の音響アセンブリは、第1の放出パターン及び第2の放出パターンが互いに実質的に異なるように構成され、非対称の放出パターンを生成する。
【0005】
上記の態様の実装は、以下の特徴のうちの1つ以上を含むことができる。
【0006】
ヘッドレストの第1の部分が、ヘッドレストの第1の側部を含むことができ、ヘッドレストの第2の部分が、ヘッドレストの別の実質的に反対側の第2の側部を含み得る。ヘッドレストの第2の部分が、ヘッドレストの第1の部分と比較して、車両乗員の隣接位置の近くであり得る。第1の音響アセンブリの1つ以上の音響トランスデューサが、第2の音響アセンブリの1つ以上の音響トランスデューサと異なって配向されて、非対称の放出パターンを生成することができる。音響チャネルは、第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサと、ヘッドレストの第2の部分に配置された外側開口との間に配置され得る。音響チャネルは、第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサが、第2の放出パターンに従って音響チャネルを通して音響エネルギーを放出するように構成され得る。音響チャネルは、第2の放出パターンに従って音響チャネルから音響エネルギーを方向付けるように構成された音響ガイドを含むことができ、音響ガイドが、音響チャネルに取り外し可能に取り付けられるように構成されている。音響チャネルは、第2のセットの1つ以上の音響トランスデューサによって放出される音響エネルギーが、ヘッドレストの前方に向かって優先的に方向付けられるように構成され得る。第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサと、ヘッドレストの第1の部分に配置された対応する外側開口との間に配置された音響チャネルは、第1のセットの1つ以上の音響トランスデューサによって放出される音響エネルギーが、ヘッドレストの側部に向かって優先的に方向付けられるように構成され得る。第2の放出パターンが、目標シート間分布特性を表し得る。第2の放出パターンが、目標両耳間分布特性を表し得る。
【0007】
本明細書に記載される様々な実装は、以下の利点のうちの1つ以上を提供し得る。ヘッドレストの2つの側部に音響チャネルを構成して非対称的に放出するように構成するにより、シート間分離を改善することができる。例えば、車両内の別のシートにより近い音響チャネルは、その別のシートから離れる方向に、車室内の周辺部により近い音響チャネルとは異なって放出するように構成され得る。これにより、シート間音響分離を改善することができる。いくつかの場合において、このような非対称の放出は、例えば、音響信号が典型的に指向性になる周波数(例えば、4KHz以上)を超える周波数に対して、ユーザ体験を改善することができる。ヘッドレストの音響チャネルに挿入されて音響チャネルの放出パターンに影響を及ぼし得る取り外し可能な構成要素を提供することによって、この技法は、予め製造されたヘッドレストと互換性があるようにすることができる。いくつかの場合では、非対称の放出パターンが、両耳間レベル差、両耳間位相差などの両耳間特性におけるあらゆる実質的な劣化なしに得られる。
【0008】
本概要の項に記載される特徴を含む、本開示に記載される特徴のうちの2つ以上を組み合わせて、特に本明細書に記載されない実装を形成することができる。
【0009】
1つ以上の実装の詳細が、添付図面及び以下の説明において述べられる。他の特徴、目的、及び利点は、本説明及び図面から、並びに「特許請求の範囲」から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ヘッドレストの2つの側部から放出する音響チャネルを有するヘッドレストの斜視図である。
図2】ヘッドレストスピーカをそれぞれ有する2つの隣接する車両シートの平面図である。
図3】車両ヘッドレスト内に配置されたスピーカの応答を示すプロットである。
図4A】それぞれ、本明細書に記載される技法によるヘッドレストの音響チャネルの外側開口の外側斜視図及び内側斜視図である。
図4B】それぞれ、本明細書に記載される技法によるヘッドレストの音響チャネルの外側開口の外側斜視図及び内側斜視図である。
図4C】非対称の放出パターンを有するヘッドレストスピーカを有する2つの隣接する車両シートの平面図である。
図5A】本明細書に記載される技法を使用する利点を示すスピーカ応答の実施例を示す。
図5B】本明細書に記載される技法を使用する利点を示すスピーカ応答の実施例を示す。
図6A】本明細書に記載される非対称の放出パターンを使用する利点を例示する実施例を示す。
図6B】本明細書に記載される非対称の放出パターンを使用する利点を例示する実施例を示す。
図6C】本明細書に記載される非対称の放出パターンを使用する利点を例示する実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本文書は、車両シート内に配置されたトランスデューサに関連付けられた音響放出パターンを構成する技法を記載している。例えば、本明細書に記載される技法は、放出パターンが隣接するシートの乗員の音響体験を実質的に妨害しないように、シート内に配置されたトランスデューサから発せられた放出パターンを調整するために使用され得る。したがって、いくつかの場合では、本技法は、2つの異なるシート内のスピーカの音響出力間のシート間音響分離を改善することができる。これにより、車両シートの一部分に配置された近方場音響トランスデューサによって提供される近方場音響体験の改善をもたらすことができる。本文書は、技法を例示するために、車両シートヘッドレストの例を主に使用する。しかしながら、本技法は、本明細書に記載される様式で取り付けられたスピーカを有し得る他の種類の音響的に使用可能なシート又は家具に適用可能であり得る。例えば、本技法は、スピーカを付設したマッサージ椅子、ソファー、リクライナ、テーブル、ゲーム椅子、劇場シート、又はベッドで使用され得る。
【0012】
車両シート(例えば、車、トラック、バス、電車、航空機、ボート、又は他の車両で使用されるシート)は、近方場音響経験を供給するための音響トランスデューサ又はスピーカを付設し得る。いくつかの場合では、スピーカがシートの乗員の耳に近接して、没入型かつ潜在的に個人化された音響経験を提供するように、スピーカは、シート内に付設される。いくつかの場合では、複数のスピーカが配置され得る。いくつかの場合では、1つ以上のスピーカは、スピーカがヘッドレストの2つの側部から音響エネルギーを放出するように、シートのヘッドレスト内に配置される。図1は、音響トランスデューサ又はスピーカを組み込むヘッドレスト100の例を例示する。スピーカは、ヘッドレストのハウジング内に配置されて、スピーカが直接使用者の頭部の後ろにあるように位置付けられて、ヘッドレスト100の両側の拡散方向で外方に発散させることができる。ヘッドレスト100は、1つ以上の接続ロッド104を介してシート背もたれ106に接続され得る。いくつかの場合では、スピーカからの音響出力は、ヘッドレスト(又はヘッドレストウィング)の外面に配置された開口102を有する音響チャネルを通してヘッドレスト100から放出され得る。
【0013】
互いに隣接して配置された2つの車両シート(例えば、車の2つの前方シート)の場合、シートのヘッドレストの第1の側部は、第2の側部と比較して他方のシートに近い。図2は、シート202aが別のシート202bに隣接している、そのような構成200の実施例を示す。シート202a及び202b(一般に202)は、ヘッドレスト200a及び200bをそれぞれ含み、各々がヘッドレスト200a及び200bのそれぞれの側部を通って音響エネルギーを放出する音響トランスデューサを有する。例えば、ヘッドレスト200aは、ヘッドレスト200aのそれぞれの側部から音響エネルギーを放出するための音響トランスデューサ205a及び205bを含み、ヘッドレスト200bは、ヘッドレスト200bのそれぞれの側部から音響エネルギーを放出するための音響トランスデューサ205c及び205dを含む。音響トランスデューサ205a及び205bは、ヘッドレスト200aのそれぞれアウトボードトランスデューサ及びインボードトランスデューサと呼ばれることがあり、トランスデューサ205c及び205dは、ヘッドレスト200bのそれぞれインボードトランスデューサ及びアウトボードトランスデューサと呼ばれることがある。
【0014】
いくつかの場合では、一方のシートのインボード音響トランスデューサの音響出力が、他方のシートの乗員の近方場音響体験に干渉することがある。これは、例えば、外側音響トランスデューサ205aに関連付けられた音響放出パターン220aが、インボード音響トランスデューサ205bに関連付けられた音響放出パターン220bと実質的に同様であるときに起こり得る。そのような場合、ヘッドレストの全体的な放出パターンは、ヘッドレスト200aの中心線225に対して対称であると呼ぶことができる。図2に示される対称な放出パターンの場合、シート202aの乗員に向けて望ましい方向210に音響エネルギーを放出することに加えて、インボード音響トランスデューサ205bはまた、シート202bの乗員に向けて望ましくない方向215に音響エネルギーを放出することがある。方向215に沿って放出される音響エネルギーは、漏れと呼ばれることがあり、これは、シート202bの乗員に対して音響トランスデューサ205c及び205dによって生成される近方場音響体験と干渉することがある。望ましい信号(例えば、方向210に沿ったインボードトランスデューサ205bからの信号)の大きさが、典型的にはトランスデューサによって出力される周波数範囲(例えば、約10KHzまでの)において、望ましくない信号(例えば、この実施例においては他方のシートのインボードトランスデューサ205cからの信号)よりも大きい場合に許容され得る。しかしながら、シートヘッドレスト内に配置されたトランスデューサが側部に向けて角度付けされている(例えば、それぞれのシートの乗員に関連付けられたピンナ陰影の課題に対処するために)いくつかの場合では、いくつかの周波数での漏れの大きさは、対応する周波数における所望の信号よりも大きいことがある。これは、そのような周波数における信号の固有の指向性により、より高い周波数(例えば、4KHz以上)でより顕著であり得る。漏れを低減する1つの方法は、例えば、4~10KHz範囲の阻止帯域を有する帯域通過フィルタを使用して、高周波範囲(例えば、4~10KHz)の信号を抑制することである。しかしながら、そのような帯域通過は、トランスデューサ出力の音響品質に干渉することがある。本文書に記載される技法は、トランスデューサが高周波で指向性信号を出力するように構成されているときであっても、隣接するシート内に配置された近方場音響トランスデューサからの漏れを低減することを可能にし得る。
【0015】
図3は、車両ヘッドレストの一方側に配置されたスピーカに対する正規化された応答を示すプロットである。図3は、隣接するシートのヘッドレストのインボード側のスピーカからの望ましくない(インボード側のユーザの耳の位置での)応答又は漏れ310の存在下での、スピーカの望ましい応答(すなわち、インボード側のユーザの耳の位置でのデシベル音圧レベル(decibel sound pressure level、dBSPL)として測定された出力)305を含む。応答305及び310を比較すると、望ましくない応答310は、最大約2KHzまでの周波数に対して望ましい応答305よりも低く、前者は、より高い周波数で増加し始め、約3.5~6.5KHzの周波数で後者を超えることが観察され得る。
【0016】
いくつかの実装では、シート間分離は、インボード側の音響チャネルが隣接するシートの乗員の方向から離れるように音響エネルギーを放出するように構成することによって改善され得る。例えば、インボード音響チャネルは、チャネルから発せられる音響エネルギーが、他方のシートの乗員に向かってではなく、車室内の前方に向かって優先的に放出される放出パターンを生成するように構成され得る。いくつかの場合では、これは、より高い周波数のシート間分離を改善することができ、そうでなければ、隣接するシートの乗員の近方場音響体験を低下させることがある。
【0017】
図4A及び図4Bは、ヘッドレスト400の外側開口の外側斜視図及び内側斜視図である。具体的には、図4Aはヘッドレストの外側から見たヘッドレスト400の一部分を示し、図4Bはヘッドレストの内側から見た実質的に同じ部分を示す。ヘッドレスト400の一方側のみが、図4A及び図4Bの各々において示されているが、ヘッドレストの反対側が、他方側の音響チャネルに対応する別の外側開口を含み得る。ヘッドレスト400は、2つの側部から音響エネルギーを放出するための別個の音響アセンブリを含むことができる。例えば、ヘッドレストは、第1の音響アセンブリ及び第2の音響アセンブリを含むことができ、これらの各々は、図3に示されるプロットを生成するために使用されるスピーカなどの1つ以上の音響トランスデューサの第1のセットを含む。各側部の音響アセンブリはまた、対応する音響トランスデューサによって生成された音響エネルギーを、対応する外側開口を通してヘッドレストから放出するように配置された音響チャネルを含むことができる。
【0018】
いくつかの実装では、ヘッドレストの2つの側部の音響アセンブリは、一方側から音響エネルギーが放出される放出パターンが、他方側から音響エネルギーが放出される放出パターンと実質的に異なるように、異なって構成され得る。2つの放出パターンは共にヘッドレストのための非対称の放出パターンを生成してもよく、これはいくつかの場合において、シート間分離を改善し得る。例えば、インボード側の音響アセンブリは、車室内の前方に向かって(例えば、隣接するシートから離れる方向に)音響エネルギーを放出するように構成されてもよく、アウトボード側の音響アセンブリは、例えば、ヘッドレストのアウトボード側から放出された音響エネルギーが、シートの乗員に向かって車内の側部から反射されるように、音響エネルギーをその側部に向かって放出するように構成されている。本明細書に記載される技法を使用することにより、このような非対称の放出パターンは、両耳間レベル差(inter-aural level difference、ILD)及び/又は両耳間位相差(inter-aural phase difference、IPD)などの両耳間特性において実質的な劣化なしに得ることができる。例えば、いくつかの場合では、インボード側にのみ音響アセンブリを構成することにより、(インボード側及びアウトボード側の両方が実質的に同一の放出パターンを放出する場合と比較して)、両耳間特性における実質的な劣化なしに最も悪い場合のシート間分離の改善が達成され得る。
【0019】
いくつかの実装では、非対称の放出パターンは、インボード側の音響チャネルの一部分を構成することによって得ることができる。例えば、図に示されるように、インボード側音響チャネル405は、ヘッドレスト400の後部に向かって、音響チャネル405の一部分に配置された成形部分410を含むことができる。成形部分410は、音響エネルギーが隣接するシートの乗員の位置から離れる方向に放出されるように、対応する音響アセンブリから発する放出パターンを形成する。例えば、成形部分410が(図4A及び図4Bに示されるように)ヘッドレストの後部に向かって位置するとき、音響チャネル405を通って出る音響エネルギーは、(例えば、対応する座部の乗員、又は車室内の前方に向かって)ヘッドレスト400の前方に方向付けされ得る。成形部分410の形状及びサイズは、例えば実験的に、目標放出パターンに従って構成することができる。成形部分410は、望ましくない反射及び/又は音響エネルギーの吸収を防止するために、実質的に滑らかな表面を有するように構成することができる。
【0020】
非対称の放出パターンの例を図4Cに示す。この実施例では、アウトボード音響トランスデューサ205aに関連付けられた音響放出パターン405aは、インボード音響トランスデューサ205bに関連付けられた音響放出パターン405bと実質的に異なる。具体的には、この実施例では、放出パターン405bは、ヘッドレストの側方に向かって優先的に方向付けられる放出パターン405aと比較して、ヘッドレスト200aの前方に向かって優先的に方向付けられる。結果として、図4Cの実施例におけるヘッドレストの全体的な放出パターンは、ヘッドレスト200aの中心線225に対して非対称である。
【0021】
放出パターンの非対称性は、様々な方法で達成することができる。いくつかの実装では、非対称性は、図4Cの実施例に示されるように、2つの側部の放出パターンの角度を異なるように構成することによって達成され得る。いくつかの実装では、放出パターンの他の属性(例えば、対応する音響トランスデューサの電力及び/又は指向性、各側部の音響トランスデューサの数など)の違いはまた、2つの側部の放出パターンが互いに実質的に異なることにより、実質的に非対称な放出パターンをもたらすことができる。
【0022】
いくつかの実装では、成形部分410は音響チャネルの一体部分であってもよく、音響チャネルに使用される材料から構築されてもよい。例えば、成形部分410は、膨張(又は射出成形)樹脂などの剛性であるが軽量な材料を使用して構築することができる。成形部分410を構築するために使用され得る他の材料としては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)などの熱可塑性材料が挙げられる。いくつかの実装では、膨張ポリスチレン(EPS)などの剛性の独立気泡樹脂発泡体を、望ましい音響分離特性に起因して使用し得る。いくつかの場合では、EPSによって与えられる音響分離は、例えば、ヘッドレスト400の2つの音響アセンブリ間の音響分離を達成する際に有益とすることができる。
【0023】
いくつかの実装では、音響チャネルの放出パターンはまた、ヘッドレストの音響チャネルに挿入することができる音響ガイドを使用して構成され得る。いくつかの場合では、このような取り付け可能な音響ガイドを使用してシート間分離を改善することができる。例えば、音響ガイドは、音響エネルギーが放出され、及び/又は放出パターンを構成するように位置付けられる開口の断面積を低減するように構成することができる。いくつかの実装では、取り付け可能な音響ガイドはヘッドレストの後部に向かって位置付けられており、結果として生じる放出パターンはヘッドレストの前方に向かって優先的に傾いている。いくつかの実装では、音響ガイドのサイズ及び形状は、音響アセンブリ内の音響トランスデューサに対応する目標放出パターン(例えば、実験的)に基づいて構成され得る。
【0024】
ヘッドレストの2つの対向する側部の音響アセンブリ間の非対称の放出パターンは、様々な他の方法で得ることができる。いくつかの実装では、非対称の放出パターンは、2つの対向する側部の音響アセンブリ内の音響トランスデューサの異なる配向を使用して得ることができる。例えば、インボード側の1つ以上の音響トランスデューサは、アウトボードの対応するトランスデューサと比較して、シートの乗員に向かって配向されてもよい。いくつかの実装では、非対称の放出パターンは、2つの対向する側部の音響アセンブリ内の異なる音響トランスデューサを使用して得ることができる。例えば、高周波(したがって、おそらくはより指向性の高い)音響トランスデューサ(例えば、4~10KHzの範囲内の周波数をサポートするスピーカ)が、アウトボード側の音響アセンブリ内に配置され得る一方で、より低い周波数の音響トランスデューサが、インボード側の音響アセンブリ内に配置され得る。いくつかの実装では、インボード側のスピーカの数は、アウトボードのスピーカの数と異なってもよい。いくつかの実装では、上記の組み合わせを使用して、目標非対称放出パターンを得ることもできる。
【0025】
図5A及び図5Bは、本明細書に記載される技法を使用する利点を示すスピーカ応答の例を示す。具体的には、図5Aは、図3と同一であり、比較を容易にするために再び示されている。図5Bは、3D印刷された音響ガイド(成形部分410と実質的に同様)がインボード音響チャネルに挿入されたことを除いて、同じスピーカの応答を示す。図5Bでは、プロット505は所望の応答を表し、プロット510は、望ましくない応答を表す。図5A図5Bを比較すると、望ましい応答505が応答305と実質的に同様であるが、望ましくない応答510は、音響ガイドの導入により、特に周波数2KHz以上の応答310と比較して低減されることが分かる。この実施例は、高周波範囲における望ましくない応答のレベルの低減の低減を示し、対象技法がシート間分離を改善するのにどのように使用され得るかを示す。
【0026】
シート間分離の改善は、図6Aに具体的に示されており、この図は、インボード側の音響チャネルに挿入された音響ガイドを有する状態、及び有さない状態のシート間分離レベル(dBSPL)を示す。シート間分離は、ここでは、(i)所望のリスナの耳におけるエネルギーと、(ii)他のシートにおけるリスナのインボード側の耳におけるエネルギーとの比として定義される。プロット605は、音響ガイドが挿入されていない状態の周波数の関数としてのシート間分離値を示し、プロット610は、音響ガイドが挿入されている状態のシート間分離値を示す。図6Aから分かるように、シート間分離は、3KHz以上の周波数範囲において著しく改善された。
【0027】
本明細書に記載される非対称的な放出パターンは、ヘッドレストの2つの側部から発する2つの異なる放出パターンによって影響され得る両耳間特性を実質的に劣化させることなく(又は、いくつかの場合では改善し)、シート間分離を改善することができる。図6B及び図6Cは、音響ガイドがインボード音響チャネル内に挿入されている状態及び挿入されていない状態の、右音響アセンブリ及び左音響アセンブリの周波数の関数としての最小ILDを示す。具体的には、図6Bは、右音響アセンブリを表し、プロット615は、音響ガイドなしの最小ILDを表し、プロット620は、音響ガイドありの最小ILDを表す。図6Cは、左音響アセンブリを表し、プロット625は、音響ガイドなしの最小ILDを表し、プロット630は、音響ガイドありの最小ILDを表す。図6B及び図6Cに示される特定の実施例から、インボード側音響アセンブリでの音響ガイドの使用は、任意の周波数範囲(図6B)において最小ILDを実質的に劣化させなかった一方で、アウトボード側音響アセンブリでの音響ガイドの使用は、約3KHz超の最小ILDを劣化させたことが観察され得る(図6C)。したがって、いくつかの場合では、音響ガイドが、非対称の放出パターンを生成するために、片側(例えば、インボード側)の音響アセンブリ内で使用され得る。
【0028】
本明細書に記載される異なる実装の要素は、特に上に記載されない他の実施形態を形成するために組み合わされ得る。要素は、それらの動作に悪影響を及ぼすことなく、本明細書に記載される構造から除かれ得る。更にまた、様々な別個の要素は、本明細書に記載される機能を実施するために、1つ以上の個々の要素と組み合わされ得る。
【符号の説明】
【0029】
100 ヘッドレスト
102 開口
104 接続ロッド
200 ヘッドレスト
202 シート
205a,205b 音響トランスデューサ
図1
図2
図3
図4a
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C