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7124123排気ガス酸化用触媒、その製造方法及びそれを用いた排気ガス酸化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】排気ガス酸化用触媒、その製造方法及びそれを用いた排気ガス酸化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/74 20060101AFI20220816BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20220816BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20220816BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20220816BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20220816BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20220816BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
B01J29/74 A
B01J35/04 301L
B01J37/08
B01J37/04 102
F01N3/10 A ZAB
F01N3/28 301P
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020562896
(86)(22)【出願日】2019-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2019044193
(87)【国際公開番号】W WO2020137201
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2018247139
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】312016218
【氏名又は名称】ユミコア日本触媒株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】久門 起也
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ドルンハウス,フランツ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-314894(JP,A)
【文献】特開2017-217646(JP,A)
【文献】特開2006-110485(JP,A)
【文献】特開2005-021818(JP,A)
【文献】特開2017-185465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
F01N 3/10,3/28
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元構造体上に、下触媒層と、上触媒層と、の少なくとも2層が積層された排気ガス酸化用触媒であって、
前記下触媒層は、貴金属、アルミナおよびゼオライトを含み、この際、前記貴金属は白金およびパラジウムであり、
前記上触媒層は、貴金属およびアルミナを含み、この際、前記貴金属は白金およびパラジウムであり、前記上触媒層におけるゼオライトの含有量は0~5質量%であり、
前記上触媒層の少なくとも一部は、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質由来の細孔を有する、排気ガス酸化用触媒。
【請求項2】
ディーゼルエンジンから排出される排気ガスを酸化するための触媒である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
白金源と、パラジウム源と、アルミナと、ゼオライトと、を混合して下触媒層形成用スラリーを調製し、前記下触媒層形成用スラリーを三次元構造体に塗布し、白金、パラジウム、アルミナおよびゼオライトを含む下触媒層を前記三次元構造体に形成した後、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質と、白金源と、パラジウム源と、アルミナと、を混合して上触媒層形成用スラリーを調製し、前記上触媒層形成用スラリーを前記下触媒層の上に塗布した後、前記燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-30℃以下の温度で酸素含有ガス中で保持して、白金、パラジウムおよびアルミナを含む上触媒層を前記下触媒層の上に形成することを有する、請求項1または2に記載の排気ガス酸化用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記空孔連結物質の平均粒子径が0.4μm超15μm未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記空孔連結物質を、上触媒層中の全固形分に対して、1質量%以上15質量%以下の割合になるように混合する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒がディーゼルエンジンから排出される排気ガスを酸化するための触媒である、請求項3~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1もしくは2に記載の触媒、または請求項3~のいずれか1項に記載の方法に従って製造される触媒を用いて排気ガスを処理することを有する、排気ガスの酸化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気ガスを酸化するための触媒、当該触媒の製造方法、及び当該触媒を用いて内燃機関から排出される排気ガスを酸化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から生じる排気ガスの浄化技術については、従来から多くの技術が提案されている。特に、ディーゼルエンジンからの排気ガス浄化に関しては、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)やNOxの低減を目的として、様々な技術が提案されている。例えば、排気ガスを浄化するための触媒として、一酸化炭素(以下、「CO」とも称する)および炭化水素(以下、「HC」とも称する)を二酸化炭素(CO)や水(HO)に酸化する酸化触媒、酸化雰囲気で窒素酸化物(以下、「NOx」とも称する)を吸蔵し、還元雰囲気で吸蔵されたNOxを還元浄化するNOx吸蔵還元型触媒などが提案されている。
【0003】
近年、PM低減対策として、PMと同様の平均気孔径を有する造孔剤を用いて多孔質触媒を製造すること(特開2009-72693号公報)や、多孔質基材の表面に触媒粒子を保持する際に造孔材を使用することが開示されている(特開2015-199066号公報)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開2009-72693号公報や特開2015-199066号公報に記載される従来の触媒は、PMの除去に対しては有効であるが、排気ガス(例えば、CO、HC、NO)などに対しては、十分な酸化性能を発揮できない。詳細には、特開2009-72693号公報や特開2015-199066号公報に記載される従来の触媒は、比較的大きな(例えば、1μm以上の)細孔を有し、粒子径の大きなPMに対しては有効である。しかし、分子径が造孔剤(造孔材)の大きさと比較して著しく小さい気体であるNOなどは、形成された大きな細孔により、触媒層内へ拡散することなく、速やかに通過して排出されやすいと考えられる。このため、貴金属等への接触が充分ではなく、排気ガス酸化性能を効率よく発揮できずに、不利に働く場合がある。
【0005】
したがって、本発明は、上記事情を考えてなされたものであり、排気ガスを効果的に酸化できる触媒、その製造方法およびそれを用いた排気ガス酸化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、三次元構造体に近い側の層(下触媒層)と三次元構造体と離れた側の層(上触媒層)の少なくとも2層を含む積層形態の触媒層において、上触媒層を特定の空孔連結物質を用いて形成することによって上記課題を解決し得ることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1は、三次元構造体上に、下触媒層と、上触媒層と、の少なくとも2層が積層された排気ガス酸化用触媒であって、前記下触媒層および前記上触媒層は、それぞれ独立して、貴金属、ならびにアルミナおよび/またはゼオライトを含み、前記上触媒層の少なくとも一部は、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質由来の細孔を有する、排気ガス酸化用触媒に関する。
【0008】
本発明の第2は、貴金属源と、アルミナおよび/またはゼオライトと、を混合して下触媒層形成用スラリーを調製し、前記下触媒層形成用スラリーを三次元構造体に塗布し、貴金属ならびに、アルミナおよび/またはゼオライトを含む下触媒層を前記三次元構造体に形成した後、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質と、貴金属源と、アルミナおよび/またはゼオライトと、を混合して上触媒層形成用スラリーを調製し、前記上触媒層形成用スラリーを前記下触媒層の上に塗布した後、前記燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-20℃以下の温度で酸素含有ガス中で保持して、貴金属ならびに、アルミナおよび/またはゼオライトとを含む上触媒層を前記下触媒層の上に形成することを有する、排気ガス酸化用触媒の製造方法に関する。
【0009】
本発明の第3は、前記触媒または前記方法に従って製造される触媒を用いて排気ガスを処理することを有する、排気ガスの酸化方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の触媒による排気ガス酸化メカニズムを説明するための図面である。図1中、1は細孔径の小さな細孔を;2は細孔径の中間な細孔を;3は細孔径の大きな細孔を;10、10’、10”は触媒を;12は排気ガスを;13は細孔径の大きな細孔を;13’は細孔径の小さな細孔を;14、14’、14”は上触媒層を;15、15’、15”は下触媒層を;16、16’、16”は下触媒層内の細孔を;17、17’、17”は三次元構造体を、それぞれ、示す。
図2図2は、実施例1の触媒A及び比較例1の触媒Bの細孔径分布を示すグラフである。
図3図3は、実施例および比較例の触媒のCO及びHC酸化性能(CO酸化率、HC酸化率)を示すグラフである。
図4図4は、実施例および比較例の触媒のNO酸化性能(NO生成率)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の側面は、三次元構造体上に、下触媒層と、上触媒層と、の少なくとも2層が積層された排気ガス酸化用触媒であって、前記下触媒層および前記上触媒層は、それぞれ独立して、貴金属、ならびにアルミナおよび/またはゼオライトを含み、前記上触媒層の少なくとも一部は、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質由来の細孔を有する、排気ガス酸化用触媒に関する。本発明の触媒を用いることにより、排気ガスを効果的に酸化できる。このため、本発明の第1の側面は、排気ガスの酸化における排気ガス酸化用触媒の使用であって、前記触媒は、三次元構造体上に、下触媒層と、上触媒層と、の少なくとも2層が積層された排気ガス酸化用触媒であって、前記下触媒層および前記上触媒層は、それぞれ独立して、貴金属、ならびにアルミナおよび/またはゼオライトを含み、前記上触媒層の少なくとも一部は、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質由来の細孔を有する。
【0012】
本発明の第2の側面は、貴金属源と、アルミナおよび/またはゼオライトと、を混合して下触媒層形成用スラリーを調製し、前記下触媒層形成用スラリーを三次元構造体に塗布し、貴金属ならびに、アルミナおよび/またはゼオライトを含む下触媒層を前記三次元構造体に形成した後、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質と、貴金属源と、アルミナおよび/またはゼオライトと、を混合して上触媒層形成用スラリーを調製し、前記上触媒層形成用スラリーを前記下触媒層の上に塗布した後、前記燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-20℃以下の温度で酸素含有ガス中で保持して、貴金属ならびに、アルミナおよび/またはゼオライトとを含む上触媒層を前記下触媒層の上に形成することを有する、上記第1の側面に係る排気ガス酸化用触媒の製造方法に関する。
【0013】
本発明の第3の側面は、上記第1の側面に係る触媒、または上記第2の側面に係る方法に従って製造される触媒を用いて排気ガスを処理することを有する、排気ガスの酸化方法に関する。
【0014】
本発明に係る触媒は、下触媒層と、上触媒層と、の少なくとも2層が積層された排気ガス酸化用触媒であって、前記下触媒層および前記上触媒層は、それぞれ独立して、貴金属、ならびにアルミナおよびゼオライトの少なくとも一方を含み、前記上触媒層の少なくとも一部が、特定の空孔連結物質由来の細孔を有することを主な特徴とする。特に、上触媒層の少なくとも一部が、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質、貴金属源、ならびにアルミナおよび/またはゼオライトを含む上触媒層形成用スラリーの塗膜を、前記燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-20℃以下の温度で酸素含有ガス中で保持することにより形成される細孔を有する。このような上触媒層を有する触媒を用いることにより、排気ガス(例えば、CO、HC、NO)、特に排気ガス中のNOを効果的に酸化できる。上記効果を奏するメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は、下記推測によって限定されない。本明細書において、「燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質」を単に「空孔連結物質」とも称する。「貴金属源と、アルミナおよび/またはゼオライトと、を含む下触媒層形成用スラリー」を単に「下触媒層形成用スラリー」と称する。同様にして、「空孔連結物質と、貴金属源と、アルミナおよび/またはゼオライトと、を含む上触媒層形成用スラリー」を単に「上触媒層形成用スラリー」と称する。また、本明細書において、「Xおよび/またはY」とは、XおよびYの少なくとも一方を含むことを意味し、「X単独」、「Y単独」および「XおよびYの組み合わせ」を包含する。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。
【0015】
上触媒層が大部分が細孔径の大きな細孔13を有する触媒10に排気ガス12を流すと、図1Aに示されるように、排気ガス12は上触媒層14の細孔13中を非常にスムーズに拡散・通過してしまう。このため、上触媒層14内の触媒成分との接触が短期間である(不足する)。ここで、「拡散」とは、ある一定期間ガスが触媒層内で触媒成分に接触しながら広がることを意味する。また、「通過」とは、ガスが触媒層内で触媒成分に接触することなく通り過ぎることを意味する。また、下触媒層15が上触媒層14と三次元構造体17との間に配置されかつ下触媒層15が細孔径の小さな細孔16を有する場合には、排気ガス12の大部分はより流れ易い大きな細孔13を通過し、下触媒層15側の触媒成分との接触が少ない、またはない。このため、このような触媒では、排気ガスを効果的に酸化できない。一方、上触媒層が大部分が細孔径の小さな細孔13’を有する触媒10’では、細孔13’はアルミナやゼオライトが有する細孔であり、触媒調製の過程で形成された孔ではない。このため細孔13’同士が互いに連結しているものは少ない。このため、このような触媒10’に排気ガス12を流すと、図1Bに示されるように、排気ガス12が効率よく上触媒層14’を拡散・通過できない。特に、排気ガス12は、上触媒層14’の表面近傍(気相側)を通過できるが、上触媒層14’の内部(三次元構造体17’側)には拡散できずに通過する。このため、このような触媒でも同様に、排気ガスを効果的に酸化できない。これに対して、本発明に係る触媒10”は、図1Cに示されるように、細孔径の大きな細孔3および細孔径の小さな細孔1に加えて、上記細孔径の中間の細孔径を有する空孔連結物質由来の細孔2を有する。また、本発明に係る触媒10”は、図1Cに示されるように、細孔1、2、3が上触媒層14”内で互いに連通する。このため、排気ガス12が上触媒層14”の細孔1、2、3中にまで侵入し、各細孔の連通部分を介してほとんどの細孔内に拡散する。また、細孔径の異なる細孔1、2、3で排気ガスの流れ易さが異なるため、排気ガス12は適切な期間、上触媒層14”内に拡散する。ゆえに、このような触媒であれば、排気ガス12は、上触媒層14”内部(三次元構造体17”側)の触媒成分とも効率よくかつ適切な期間接触できる。結果として、排気ガス12と触媒成分との接触効率を高め、排気ガス12を効果的に酸化できる。上述したように、排気ガス12が上触媒層14”に適切に拡散・通過するために、排気ガス12は三次元構造体17”側の下触媒層15”の細孔16”にまで容易に進入し、下触媒層15”中の触媒成分とも十分接触する。したがって、本発明の触媒を用いることにより、排気ガスを効果的に酸化できる。特に本発明に係る方法によると、空孔連結物質由来の細孔(図1C中の細孔2、3)がより適切な細孔容積(全細孔容積に対して特定の割合)でかつ各細孔1,2,3がそれぞれさらに連通した状態で存在する上触媒層を有する触媒が得られる。このため、上記効果がさらに効果的に達成できる。
【0016】
特に、酸化触媒の排気流れに対して後側にディーゼル微粒子捕集フィルター(Diesel particulate filter、DPF)などが配置される排気システムにおいてはPM浄化を向上することを目的として、またCu担持ゼオライトなどを含むSCR(選択触媒還元(Selective Catalytic Reduction))触媒などが配置される排気システムにおいてはNOx浄化率を向上することを目的として、適切な温度やタイミングで酸化触媒からNOを生成することが重要な課題である。この課題に対して、酸化触媒においてHCが上触媒層14”で滞留することなく拡散・通過することで、上触媒層14”中で生成したNOとHCの接触確率が下がり、HCによるNOのNOやNへの還元が抑制される。また、排気ガス12に含まれるNOとOは、上触媒層14”内の触媒成分との接触確率が向上することで上触媒層14”内でNOへと酸化される。ここで滞留とは、ガスが触媒層内に留まることとする。
【0017】
本発明の触媒は、生成したNOが、上触媒層14”内をHCと反応すること無く、速やかに通過し、酸化触媒から排出させる方法が有効であることを見出したものである。また、本発明の触媒によれば、より多くのNOを後段のDPFやSCR触媒へ供給することができる。
【0018】
上記効果は、排気ガスの温度によらず、同様に発揮できる。このため、本発明の触媒を用いる場合には、50~600℃の低温の排気ガスに対しても、または内燃機関からの650~900℃の高温の排気ガスに長時間曝された後の50~600℃の低温の排気ガスに対しても、優れた排気ガス酸化性能(特にNO酸化性能)を発揮できる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0020】
<排気ガス酸化用触媒>
本発明の排気ガス酸化用触媒は、排気ガス中のCO、HC、NO(特にCO、NO)を効率よく酸化できる。このため、本発明の触媒は、ガソリンおよびディーゼルエンジン双方から排出される排気ガスを酸化することを目的として使用できる。好ましくは、本発明の触媒は、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスを酸化することを目的として使用される。
【0021】
本発明の触媒では、上述したように、上触媒層の少なくとも一部が、空孔連結物質由来の細孔、特に、空孔連結物質を含む塗膜を特定の温度条件で熱処理することにより形成される細孔を有する。本発明に係る触媒は、上触媒層の少なくとも一部が、後述の製造方法により得られる限りにおいては、上触媒層の他の部分や下触媒層の製造方法は特に制限されない。下触媒層、上触媒層、さらに他の層を含む触媒全体に含まれる細孔の細孔径や細孔分布は、水銀圧入法などの公知の手法により測定することが可能である。しかしながら、触媒に含まれる一部の触媒層のみについて、当該触媒層に含まれる細孔径や細孔分布を測定することは、出願時に知られている分析手法を以てしても不可能・非実際的である。上触媒層のみを三次元構造体から剥がしとることは可能であるが、剥がしとった瞬間に、三次元構造体上にコートされていた時の細孔構造は失われてしまう。また、各触媒層を剥がし取らずに水銀圧入法などの公知の手法により測定する場合においても、触媒に含まれる一部の触媒層のみの細孔分布は得られない。例えば、上触媒層のみに水銀を圧入することは不可能であり、上触媒層、下触媒層ともに圧入される。このため、水銀圧入法などの公知の手法を用いても、上触媒層に存在する細孔と下触媒層に存在する細孔とを区別することはできない(下記実施例参照)。
【0022】
なお、「触媒が空孔連結物質由来の細孔を有する」ことは、元素分析などの公知の方法によって炭素含有量を測定することによって決定できる。より詳細には、触媒中の元素分析を行い、炭素含有量を調べることで空孔連結物質使用の有無を調べることができる。空孔連結物質を用いたスラリーをコートした上触媒層および空孔連結物質を含まないスラリーをコートした下触媒層の炭素(C)量の元素分析を行うことができ、上触媒層のC量が下触媒層のC量よりも多い場合には、触媒(上触媒層)が空孔連結物質由来の細孔を有すると判断する。または、例えば、空孔連結物質が炭素原子を含む場合には、元素分析などの公知の方法によって上触媒層中の炭素含有量を測定することによって空孔連結物質使用の有無を調べることができる。より詳細には、上触媒層の炭素(C)量(C1量(質量%))を元素分析により測定する。この炭素量が0.04質量%以上である場合には、上触媒層は空孔連結物質由来の細孔を有すると判断する。なお、本明細書において、上触媒層の炭素量は下記方法に従って、測定される。触媒を裁断し、触媒中心付近で触媒端面から50~70mmの中央付近を採取し、採取したものをマイクロスコープを用いながら、上触媒層を剥がしとることによって、元素分析用のサンプルを調製する。元素分析は、全自動元素分析装置 vario EL cube(エレメンター・ジャパン株式会社製)を用いて、製造社の指示に従って行う。
【0023】
また、SEM-EDSにて、各触媒層のC量を調べることでも空孔連結物質使用の有無を確認することができる。空孔連結物質を用いたスラリーをコートした上触媒層および空孔連結物質を含まないスラリーをコートした下触媒層の炭素(C)量のEDS分析を行うことができ、上触媒層のC量が下触媒層のC量よりも多い場合には、触媒(上触媒層)が空孔連結物質由来の細孔を有すると判断する。
【0024】
以下、本発明に係る触媒の各構成要件について順に説明する。
【0025】
[三次元構造体]
本発明の触媒は、貴金属、ならびにアルミナおよび/またはゼオライトが三次元構造体(耐火性三次元構造体)に担持されてなる。
【0026】
ここで、三次元構造体は、特に制限されず、当該分野で通常使用される耐火性三次元構造体を同様にして使用することができる。三次元構造体としては、例えば、貫通口(ガス通過口、セル形状)が三角形、四角形、六角形を有するハニカム担体等の耐熱性担体が使用できる。三次元構造体は一体成形型のものが好ましく、例えば、モノリス担体、メタルハニカム担体、ディーゼルパティキュレートフィルター等のフィルタ機能を有するプラグドハニカム担体、パンチングメタル等が好ましく用いられる。
【0027】
三次元構造体の材質としては、コージェライト、ムライト、アルミナ、α-アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素等を材料とするものが好ましく、中でもコージェライト質のもの(コージェライト担体)が特に好ましい。その他、ステンレス鋼、Fe-Cr-Al合金等を含む酸化抵抗性の耐熱性金属を用いて一体構造体としたもの等が用いられる。
【0028】
これらモノリス担体は、押出成型法やシート状素子を巻き固める方法等によって製造される。セル密度(セル数/単位断面積)は、100~1200セル/平方インチ(1インチ=25.4mm)であれば十分に使用可能であり、好ましくは200~900セル/平方インチ、より好ましくは200~600セル/平方インチ、さらに好ましくは250~500セル/平方インチである。
【0029】
[触媒層(下触媒層、上触媒層)]
下触媒層は、三次元構造体上に位置する。なお、本発明に係る触媒は、下触媒層と三次元構造体との間に他の触媒層を有しても構わないが、好ましくは、下触媒層は三次元構造体の直上に位置する。
【0030】
下触媒層は、貴金属ならびに、アルミナおよび/またはゼオライトと、を必須に含み、任意に他の成分を含みうる。
【0031】
下触媒層は、空孔連結物質由来の細孔を持たない(下触媒層は、貴金属、アルミナおよび/またはゼオライト、ならびに必要であれば任意に他の成分から構成される)。すなわち、下記に詳述するように、下触媒層は、空孔連結物質を含まない下触媒層形成用スラリー(スラリーA)(即ち、空孔連結物質の含有量=0~5質量%、好ましくは約0質量%)を用いて、形成する。
【0032】
また、上触媒層は、下触媒層の上に位置する。なお、本発明に係る触媒は、上触媒層と下触媒層との間に他の触媒層を有していても構わないが、好ましくは上触媒層は下触媒層の直上に位置する。また、本発明に係る触媒は、上触媒層の上に他の触媒層が配置されていてもよいが、好ましくは、上触媒層は、触媒の最表層(排気ガスと直接接する側)に配置される。当該形態であると、排気ガスが上触媒層(さらには下触媒層)中により効率よく拡散・通過するため、本発明による効果(排気ガスとの接触効率の向上効果)がより顕著に発揮できる。また、上触媒層は、1層の形態であってもまたは2層以上の積層形態であってもよい。
【0033】
上触媒層の少なくとも一部は、空孔連結物質由来の細孔を有し、上触媒層全体が空孔連結物質由来の細孔を有することが好ましい。このような細孔の形成方法は、特に制限されないが、空孔連結物質を含む上触媒層形成用スラリーを下触媒層の上に塗布して塗膜を形成し、この膜を特定の温度条件にて熱処理する方法が好ましく使用される。すなわち、本発明の好ましい形態では、三次元構造体上に、下触媒層と、上触媒層と、の少なくとも2層が積層された排気ガス酸化用触媒であって、前記下触媒層および前記上触媒層は、それぞれ独立して、貴金属、ならびにアルミナおよびゼオライトの少なくとも一方を含み、前記上触媒層の少なくとも一部は、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質と、貴金属源と、アルミナおよびゼオライトの少なくとも一方と、を混合して上触媒層形成用スラリーを調製し、前記上触媒層形成用スラリーを前記下触媒層上に塗布した後、前記燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-20℃以下の温度で酸素含有ガス中で保持することにより形成される。本発明のより好ましい形態では、上触媒層は、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質と、貴金属源と、アルミナおよびゼオライトの少なくとも一方と、を混合して上触媒層形成用スラリーを調製し、前記上触媒層形成用スラリーを前記下触媒層全面に塗布した後、前記燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-20℃以下の温度で酸素含有ガス中で保持することにより形成される。
【0034】
下触媒層および上触媒層は、貴金属ならびに、アルミナおよび/またはゼオライトと、を必須に含み、任意に他の成分を含みうる。ここで、上述したように、上触媒層の少なくとも一部(好ましくは全部)が、空孔連結物質由来の細孔、特に、空孔連結物質を含む塗膜を特定の温度条件で熱処理することにより形成される細孔を有する。当該構成により、本発明の触媒は、優れた排気ガス処理効果(特にCO,NO酸化能)を発揮できる。
【0035】
なお、下触媒層および上触媒層に含まれる貴金属、アルミナ及びゼオライトの種類並びに含有量は、それぞれ、同じであっても、異なっても構わない。
【0036】
(貴金属)
下触媒層および上触媒層は、貴金属を含む。貴金属は、排気ガス中のHC若しくはCOの酸化反応触媒として機能する。ここで、貴金属の種類は特に制限されないが、具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)などが挙げられる。これらの貴金属は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用されてもよい。これらのうち、貴金属は、好ましくは白金および/またはパラジウムであり、より好ましくは白金およびパラジウムを共に用いる。すなわち、本発明の好ましい形態によると、貴金属は、白金およびパラジウムの少なくとも一方である。また、本発明のより好ましい形態によると、貴金属は、白金およびパラジウムである。
【0037】
ここで、白金(Pt)の使用量は、特に制限されない。排気ガス酸化性能を考慮すると、本発明の下触媒層および上触媒層、さらに他の層を含む触媒全体での、白金(Pt)の使用量は、三次元構造体1リットル当たり、金属換算で、0.02~20gが好ましく、0.1~10gがより好ましく、0.2gを超えて6g未満が最も好ましい。また、下触媒層中の白金(Pt)の使用量は、特に制限されないが、排気ガス酸化性能を考慮すると、三次元構造体1リットル当たり、金属換算で、0.01~10gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.1gを超えて3g未満が最も好ましい。上触媒層中の白金(Pt)の使用量は、特に制限されないが、排気ガス(特にCO、NO)酸化能を考慮すると、三次元構造体1リットル当たり、金属換算で、0.01~10gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.1gを超えて3g未満が最も好ましい。
【0038】
パラジウム(Pd)の使用量は、特に制限されない。排気ガス酸化性能を考慮すると、本発明の下触媒層および上触媒層、さらに他の層を含む触媒全体での、パラジウム(Pd)の使用量は、三次元構造体1リットル当たり、金属換算で、0.02~20gが好ましく、0.1~10gがより好ましく、0.2gを超えて6g未満が最も好ましい。また、下触媒層中のパラジウム(Pd)の使用量は、特に制限されないが、排気ガス酸化性能を考慮すると、三次元構造体1リットル当たり、金属換算で、0.01~10gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.1gを超えて3g未満が最も好ましい。上触媒層中のパラジウム(Pd)の使用量もまた、特に制限されないが、排気ガス(特にCO、NO)酸化能を考慮すると、三次元構造体1リットル当たり、金属換算で、0.01~10gが好ましく、0.05~5gがより好ましく、0.1gを超えて3g未満が最も好ましい。
【0039】
また、貴金属が白金およびパラジウムである際の、白金とパラジウムの混合比(白金:パラジウム(質量比))は、特に制限されない。排気ガス酸化性能を考慮すると、本発明の下触媒層および上触媒層、さらに他の層を含む触媒全体での、白金とパラジウムの混合比(白金:パラジウム(質量比))は、50:1~1:1、40:1~1:1、30:1~1.1:1、20:1~1.3:1、5:1~1.5:1の順で好ましい。また、下触媒層中の白金とパラジウムの混合比(白金:パラジウム(質量比))は、特に制限されないが、排気ガス酸化性能を考慮すると、50:1~1:1、40:1~1:1、30:1~1.1:1、20:1~1.3:1、10:1~1.5:1の順で好ましい。白金とパラジウムの混合比の範囲が上記好ましい範囲になるにつれて、COやNO酸化効率を向上できる。上触媒層中の白金とパラジウムの混合比(白金:パラジウム(質量比))は、特に制限されないが、排気ガス(特にCO、NO)酸化能を考慮すると、50:1~1:1、40:1~1:1、30:1~1.1:1、20:1~1.3:1、10:1~1.5:1の順で好ましい。白金とパラジウムの混合比の範囲が上記好ましい範囲になるにつれて、COやNO酸化能を向上できる。
【0040】
貴金属源(貴金属の出発原料)は、特に制限されることなく、水溶性貴金属塩、貴金属錯体等、当該分野で用いられている原料を用いることができ、これらは触媒を調製する方法に応じて変更して使用することができる。
【0041】
具体的には、白金(Pt)の出発原料(白金源)としては、塩化白金等のハロゲン化物;白金の、硝酸塩、ジニトロジアンミン塩、テトラアンミン塩、ヘキサアンミン塩、アンモニウム塩、アミン塩、ビスエタノールアミン塩、ビスアセチルアセトナート塩、炭酸塩;および水酸化物、酸化物などが挙げられる。これらのうち、硝酸塩(硝酸白金)、ジニトロジアンミン塩(ジニトロジアンミン白金)、塩化物(塩化白金)、テトラアンミン塩(テトラアンミン白金)、ヘキサアンミン塩(ヘキサアンミン白金)、ヘキサヒドロキソ酸塩が好ましい。なお、本発明では、上記白金源は、単独であってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。
【0042】
パラジウム(Pd)の出発原料(パラジウム源)としては、塩化パラジウム等のハロゲン化物;パラジウムの、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、アミン塩、テトラアンミン塩、ヘキサアンミン塩;および水酸化物、酸化物などが挙げられる。これらのうち、硝酸塩(硝酸パラジウム)、テトラアンミン塩(テトラアンミンパラジウム)、ヘキサアンミン塩(ヘキサアンミンパラジウム)、水酸化物が好ましい。なお、本発明では、上記パラジウム源は、単独であってもあるいは2種以上の混合物であってもよい。
【0043】
なお、貴金属源を2種以上組み合わせて使用する場合には、貴金属源の合計量が上記貴金属の含有量(担持量)となるような量であることが好ましい。
【0044】
(アルミナ)
本発明に係る下触媒層および上触媒層は、アルミナを含むことが好ましい。本発明の触媒に用いられるアルミナは、アルミニウムの酸化物が含まれるものであれば特に制限されず、γ、δ、η、θ-アルミナなどの活性アルミナ、ランタナ含有アルミナ、シリカ含有アルミナ、シリカ-チタニア含有アルミナ、シリカ-チタニア-ジルコニア含有アルミナなどが挙げられる。これらのアルミナは、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用しても構わない。これらのうち、高温耐久性の観点から、ランタナ含有アルミナまたはシリカ含有アルミナが好ましく、耐硫黄被毒の観点から、シリカ含有アルミナが特に好ましい。なお、本明細書において、X含有アルミナとは、アルミニウムを全体の半分を超える割合(金属換算でのモル比)で含み、X成分を残りの割合で含むことを意味する。例えば、シリカ-チタニア含有アルミナは、シリカ-チタニア含有アルミナを構成するケイ素(Si)、チタン(Ti)及びアルミニウム(Al)の合計モルに対するアルミニウム(Al)のモルの割合[=Al/(Si+Ti+Al)]が0.5を超える。
【0045】
アルミナの性状は特に制限されないが、排気ガスの温度での劣化抑制、耐熱性などの観点から、700℃以上、好ましくは1000℃以上において比表面積の変化が少ないことが好ましい。上記観点から、アルミナの融点は、好ましくは1000℃以上であり、より好ましくは1000~3000℃であり、さらに好ましくは1500~3000℃である。
【0046】
また、アルミナのBET比表面積もまた、特に制限されないが、貴金属を担持させる観点から、好ましくは50~750m/g、より好ましくは90~420m/gである。このような比表面積であれば、十分量の貴金属をアルミナに担持させることができ、貴金属と排気ガスとの接触面積を増加させたり、反応物を吸着させたりすることができる。その結果、一酸化窒素の酸化性能をさらに高めることが可能となる。
【0047】
アルミナの形状は、特に制限されず、例えば、粒状、微粒子状、粉末状、円筒状、円錐状、角柱状、立方体状、角錐状、不定形状など、いずれの形状であってもよいが、好ましくは、粒状、微粒子状、粉末状であり、より好ましくは粉末状である。アルミナが粒状、微粒子状、粉末状である場合の、アルミナの平均二次粒径は、好ましくは5~155μmであり、より好ましくは21~89μmである。このような範囲であれば、貴金属をアルミナ表面に効率よく担持することができる。なお、上記アルミナの大きさは、原料アルミナの大きさとする。このため、例えば、実施例に記載されるように、上記範囲の大きさのアルミナを含むスラリーを湿式粉砕する場合には、湿式粉砕後のアルミナの大きさは湿式粉砕前の大きさより小さくなる(即ち、触媒層中のアルミナの大きさが小さくなり、場合によっては上記範囲から外れる)場合がある。本明細書において、アルミナおよびゼオライトの平均二次粒径は、LA-920(株式会社堀場製作所製)などのレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置によって測定することができる。
【0048】
アルミナの含有量(担持量)は、特に制限されない。本発明の下触媒層および上触媒層、さらに他の層を含む触媒全体での、アルミナの含有量(担持量)は、三次元構造体1L当たり、好ましくは10~300gであり、より好ましくは30~200gである。また、下触媒層中のアルミナの含有量は、特に制限されないが、三次元構造体1L当たり、好ましくは5~150gであり、より好ましくは15~100gである。上触媒層中のアルミナの含有量は、特に制限されないが、三次元構造体1L当たり、好ましくは5~150gであり、より好ましくは15~100gである。三次元構造体1L当たりのアルミナの含有量が上記下限以上であると、貴金属を十分にアルミナに分散でき、より十分な耐久性を有する触媒が得られる。一方、アルミナの含有量が上記上限以下であると、貴金属と排気ガスとの接触状態が良好となり、排気ガスの酸化能がより十分に発揮され得る。
【0049】
(ゼオライト)
本発明に係る下触媒層は、ゼオライトを含むことが好ましい。すなわち、本発明の特に好ましい形態では、本発明に係る下触媒層は、アルミナおよびゼオライトを含む。また、本発明に係る上触媒層は、ゼオライトを含むことができるが、含まなくても良く、ゼオライトを含まないことが好ましい。すなわち、本発明の特に好ましい形態では、本発明に係る上触媒層は、アルミナを含みかつゼオライトを実質的に含まない(特にゼオライトの含有量=0~5質量%、好ましくは約0質量%)。
【0050】
本発明の触媒に用いられるゼオライト(含水アルミノケイ酸塩)は、排気ガス中の炭化水素(HC)を吸着できる。ゼオライトの種類は、特に制限されず、天然物、合成物のいずれのものであっても使用することができる。具体的には、A型、X型、Y型、L型、ベータ型(BEA型)、ZSM型、CHA型、フェリエライト型、リンデ型、フォージャサイト型、MCM-22型、モルデナイト型などを用いることができる。
【0051】
また、ゼオライトのBET比表面積は、特に制限されないが、排気ガス中の炭化水素(HC)の吸着性の観点から、好ましくは320~830m/g、より好ましくは390~830m/gである。このような比表面積であれば、排気ガス中のHCを十分吸着できる。
【0052】
ゼオライトの形状は、特に制限されず、例えば、粒状、微粒子状、粉末状、円筒状、円錐状、角柱状、立方体状、角錐状、不定形状など、いずれの形状であってもよいが、好ましくは、粒状、微粒子状、粉末状であり、より好ましくは粉末状である。ゼオライトが粒状、微粒子状、粉末状である場合の、ゼオライトの平均一次粒径は、好ましくは5~20nmであり、より好ましくは5~10nmである。また、ゼオライトの平均二次粒径は、好ましくは0.3~8.1μmであり、より好ましくは0.4~3.7μmである。なお、上記アルミナと同様であるが、ゼオライトの大きさは、原料ゼオライトの大きさとする。このため、例えば、実施例に記載されるように、上記範囲の大きさのゼオライトを含むスラリーを湿式粉砕する場合には、湿式粉砕後のゼオライトの大きさは湿式粉砕前の大きさより小さくなる(即ち、触媒層中のゼオライトの大きさが小さくなり、場合によっては上記範囲から外れる)場合がある。このような範囲であれば、排気ガス中のHCを十分吸着できる。なお、本明細書において、ゼオライトの形状及び平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定することができる。
【0053】
ゼオライトの含有量(担持量)は、特に制限されない。本発明の下触媒層および上触媒層、さらに他の層を含む触媒全体での、ゼオライトの含有量(担持量)は、三次元構造体1リットル当たり、好ましくは0~300g、より好ましくは0~100g、さらに好ましくは0g以上60g未満である。また、下触媒層中のゼオライトの含有量は、特に制限されないが、三次元構造体1L当たり、好ましくは0~300g、より好ましくは0~100g、さらに好ましくは0g以上60g未満であり、特に好ましくは5gを超えて50g未満である。上触媒層がゼオライトを含む場合に、上触媒層中のゼオライトの含有量は、特に制限されないが、三次元構造体1L当たり、好ましくは0~300g、より好ましくは0g以上100g未満、さらに好ましくは0~60gである。上記範囲であれば、排気ガス中のHCを十分吸着できる。
【0054】
本発明による触媒がアルミナおよびゼオライトを含む場合のアルミナとゼオライトとの混合比は特に制限されない。具体的には、本発明の下触媒層および上触媒層、さらに他の層を含む触媒全体での、アルミナとゼオライトとの混合比(質量比)は、好ましくは10:0.5~1:10、より好ましくは10:1~10:20、最も好ましくは10:1~10:10である。また、下触媒層中のアルミナとゼオライトとの混合比(質量比)は、特に制限されないが、好ましくは10:0.5~1:10、より好ましくは10:1~10:20、最も好ましくは10:1~10:10である。上触媒層がゼオライトを含む場合に、上触媒層中のアルミナとゼオライトとの混合比(質量比)は、特に制限されないが、好ましくは10:0.5~1:10、より好ましくは10:1~10:20、最も好ましくは10:1~10:10である。このような比であれば、アルミナおよびゼオライトを三次元構造体上にウォッシュコートできる。このため、触媒成分と排気ガスとの接触面積を増加させると共に、ゼオライトが排気ガス中のHCを十分吸着できる。その結果、HCとNOは分離され、NOおよびHCの酸化性能をさらに高めることが可能となる。
【0055】
(他の添加成分)
本発明に係る触媒は、貴金属、ならびにアルミナおよび/またはゼオライトに加えて、本発明の触媒の効果を低下させないものであれば、他の添加成分をさらに含んでもよい。ここで、他の添加成分としては、特に制限されず、当該分野において通常使用できる成分を同様にして使用できる。具体的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、またはそれらの酸化物、硫化物などが挙げられる。
【0056】
アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられ、好ましくはカリウムである。また、アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムが挙げられ、好ましくはバリウムである。ここで、アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、それぞれ、単独で配合されてももしくは2種以上の混合物の形態で配合されても、または少なくとも一種のアルカリ金属および少なくとも一種のアルカリ土類金属を組み合わせて配合してもよい。アルカリ金属の含有量(担持量)は、特に制限されないが、酸化物換算で、三次元構造体1L当り、好ましくは0.5~40g、より好ましくは1~25g、特に好ましくは3~18gである。また、アルカリ土類金属の含有量(担持量)もまた、特に制限されないが、酸化物換算で、三次元構造体1L当り、好ましくは0.5~40g、より好ましくは1~25g、特に好ましくは3~18gである。
【0057】
希土類金属としては、特に制限されないが、ランタン(La)、ネオジム(Nd)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)およびプラセオジム(Pr)などが挙げられる。これらのうち、ランタン、ネオジム、イットリウムおよびプラセオジムが好ましく、ランタンおよびプラセオジムがより好ましい。これらの希土類金属は、単独で含有されていてもよいし、2種以上が組み合わされて含有されていてもよい。また、希土類金属は、金属そのままの形態であってもよいし、酸化物の形態であってもよい。
【0058】
希土類金属の含有量(担持量)は、特に制限されない。本発明の下触媒層および上触媒層、さらに他の層を含む触媒全体での、希土類金属の含有量(担持量)は、酸化物換算で、三次元構造体1L当り、好ましくは0.5~40g、より好ましくは1~25g、特に好ましくは2~12gである。また、下触媒層中の希土類金属の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で、三次元構造体1L当り、好ましくは0.25~20g、より好ましくは0.5~12.5g、特に好ましくは1~6gである。また、上触媒層中の希土類金属の含有量は、特に制限されないが、酸化物換算で、三次元構造体1L当り、好ましくは0.25~20g、より好ましくは0.5~12.5g、特に好ましくは1~6gである。
【0059】
(空孔連結物質)
空孔連結物質によって、上触媒層中に空孔連結物質由来の細孔を形成することができる。また、空孔連結物質の種類および空孔連結条件(特に燃焼分解温度及び空孔連結温度)によって、上触媒層の細孔径分布を適切に制御することができる。上触媒層において、細孔径が小さい細孔(以下、細孔1とも称する)の大部分は、通常、アルミナおよび/またはゼオライトに存在する細孔であると推測される。一方、空孔連結物質を含むスラリーの塗膜を後述する空孔連結工程において熱処理を施すと、空孔連結物質が燃焼してガス塊を発生して、アルミナおよび/またはゼオライトに存在する細孔より大きな細孔(以下、細孔2とも称する)及び細孔2より大きい細孔(以下、細孔3とも称する)を上触媒層中に形成する。次に、空孔連結工程後の塗膜に、後述する焼成工程を施すと、空孔連結物質が一気に燃焼してガス塊を発生して、大きな細孔(細孔3)をさらに上触媒層中に形成する。このようにスラリーに空孔連結物質を配合することによって、後述の(h)空孔連結工程や(i)焼成工程で、アルミナやゼオライトが有する細孔(細孔1)より大きな細孔(細孔2、3)が効率よく形成できる。また、細孔2、3は空孔連結物質の燃焼により形成されるため、細孔2、3は相互に連通した状態で、さらに細孔1とも連通した状態で、上触媒層中に存在する。なお、上記は推測であり、本発明は上記推測によって限定されない。
【0060】
なお、「触媒が空孔連結物質由来の細孔(空孔連結細孔)を有する」ことは、元素分析などの公知の方法によって決定できる。例えば、空孔連結物質が炭素原子を含む場合には、元素分析などの公知の方法によって触媒中の炭素含有量を測定することによって空孔連結物質使用の有無を調べることができる。より詳細には、触媒の炭素(C)量(C1量(質量%))を元素分析により測定する。この炭素量が0.04質量%以上である場合には、触媒は空孔連結物質由来の細孔を有すると判断する。なお、本明細書において、触媒の炭素量は下記方法に従って、測定される。触媒を裁断し、触媒中心付近で触媒端面から50~70mmの中央付近を採取し、採取したものをマイクロスコープを用いながら、上触媒層を剥がしとることによって、元素分析用のサンプルを調製する。元素分析は、全自動元素分析装置 vario EL cube(エレメンター・ジャパン株式会社製)を用いて、製造社の指示に従って行う。
【0061】
上記において、細孔1は、特に制限されないが、水銀圧入法によって測定した細孔径分布において、通常0.001μm以上0.1μm以下(好ましくは0.007μmを超えて0.017μm未満)での細孔径にピークを有する。また、細孔2は、特に制限されないが、水銀圧入法によって測定した細孔径分布において、通常0.2μm以上1.8μm未満(好ましくは0.4μmを超えて1.4μm未満、より好ましくは0.5μmを超えて1.3μm未満、さらに好ましくは0.6μm以上1.2μm未満、特に好ましくは0.80μm以上1.15μm未満)の細孔径にピークを有する。また、細孔3は、特に制限されないが、水銀圧入法によって測定した細孔径分布において、通常1.5μm以上5.0μm以下(好ましくは1.7μmを超えて4.5μm未満、より好ましくは2.1μmを超えて3.5μm未満)の細孔径にピークを有する。本明細書において、「ピーク」は、差分細孔容量(dV)を細孔径(D)の対数扱いの差分値(d(logD))で割った値(dV/d(logD))をDに対してプロットして得られる細孔径分布(微分細孔径分布)曲線中のピークであり、かつ、このピークでのlog微分細孔容積が全細孔容積の2.5%を超えるものである。このため、log微分細孔容積が全細孔容積の2.5%以下であるものは「ピーク」には含まれないものとする。また、本明細書において、「水銀圧入法によって測定した細孔径分布における細孔径」とは、下記実施例-細孔径分布測定-に記載の方法により求められる細孔径分布において上記ピークに対応する細孔径を意味する。
【0062】
空孔連結物質は、300℃以上450℃未満の燃焼分解温度を有する。ここで、空孔連結物質の燃焼分解温度が300℃未満であると、後述する(g)乾燥工程で除去できなかった水の蒸発と空孔連結物質の燃焼が同時に起こるため、細孔2、3が適切に形成されない。また、空孔連結物質の燃焼分解温度が450℃以上であると、空孔連結物質の燃焼分解温度と(i)焼成工程における焼成温度とが近くなるため硝酸塩の分解と有機成分の燃焼が同時並行で進む。このため、やはり細孔2、3が適切に形成されない。細孔2、3のより適切な形成(制御しやすさ)、操作性などを考慮すると、空孔連結物質の燃焼分解温度は、好ましくは310~430℃、より好ましくは320℃以上400℃未満、特に好ましくは350℃を超えて390℃以下である。燃焼分解温度が前記範囲であれば、スラリー中の他の有機成分の燃焼分解温度と近く、細孔(空孔)の連結がより効率良く進行する。このような燃焼分解温度を有する空孔連結物質としては、以下に制限されないが、ポリメタクリル酸メチル(燃焼分解温度:373℃)、ライススターチ(燃焼分解温度:320℃)、メラミンシアヌレートなどが挙げられる。これらのうち、ポリメタクリル酸メチル、ライススターチが好ましく、ポリメタクリル酸メチルがより好ましい。ここで、燃焼分解温度は公知の方法によって測定できるが、TG-DTA(Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis:熱重量示差熱分析)を用いて測定することが好ましい。本明細書では、燃焼分解温度は下記実施例に記載の方法によって測定される。
【0063】
空孔連結物質の平均粒子径は、特に制限されないが、上触媒層の好適な細孔2、3の形成(細孔径分布)を得るための重要な因子の一つである。空孔連結物質の平均粒子径は、好ましくは0.4μm超、より好ましくは1μm超、さらに好ましくは2μm以上、特に好ましくは3μm以上である。また、空孔連結物質の平均粒子径の上限は、本発明に係る好適な細孔径分布を得るためには、好ましくは15μm未満、より好ましくは10μm未満、さらに好ましくは6μm以下、特に好ましくは5μm以下である。すなわち、本発明の好ましい形態では、空孔連結物質の平均粒子径が0.4μm超15μm未満である。本発明のより好ましい形態では、空孔連結物質の平均粒子径が1μm超10μm未満である。本発明のさらにより好ましい形態では、空孔連結物質の平均粒子径が2μm以上6μm以下(特に3μm以上5μm以下)である。なお、上記空孔連結物質の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡像から、任意の粒子を無作為に選んで100個の直径を測定し、その数平均値を算出することによって求められる。
【0064】
空孔連結物質の使用量(投入量)は、特に制限されないが、上触媒層の好適な細孔2、3の形成(細孔径分布)を得るための重要な因子の一つである。空孔連結物質の量は、上触媒層中の全固形分に対して、固形物換算で、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。なお、上記「上触媒層中の全固形分」とは、上触媒層形成用スラリーの塗膜を1000℃で加熱した際の全固形分を意図し、貴金属(金属状態)、アルミナおよび/またはゼオライト、ならびに必要に応じて添加される他の成分が含まれる。他の成分の1000℃加熱時における存在状態は、各成分により異なるが、通常は酸化物または硫酸化物の状態で存在する。なお、加熱は空気雰囲気下で行われる。スラリー中の空孔連結物質の含有量の下限は、特に制限されないが、通常、上触媒層中の全固形分に対して、固形物換算で、1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上である。すなわち、本発明の好ましい形態では、空孔連結物質を、上触媒層中の全固形分に対して、1質量%以上15質量%以下の割合(固形分換算)になるように混合する。本発明のより好ましい形態では、空孔連結物質を、上触媒層中の全固形分に対して、2質量%以上10質量%以下(固形分換算)の割合になるように混合する。または、空孔連結物質の使用量(投入量)は、上触媒層形成用スラリー中の空孔連結物質の含有量が、固形物換算で、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。なお、スラリー中の空孔連結物質の含有量の下限は、特に制限されないが、通常、1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上である。すなわち、本発明の好ましい形態では、空孔連結物質を、スラリー中の空孔連結物質の含有量が固形分換算で1質量%以上15質量%以下の割合になるように混合する。本発明のより好ましい形態では、空孔連結物質を、スラリー中の空孔連結物質の含有量が固形分換算で2質量%以上10質量%以下の割合になるように混合する。このような量であれば、空孔連結物質により、適度な大きさの細孔2、3をより容易にかつ適切な細孔容積で形成できる。また、細孔1、2、3をより容易に相互に連通できる。なお、このような細孔1、2、3の存在は、例えば、下記「細孔径分布測定」により触媒の細孔径分布を求めることにより確認できる。
【0065】
-細孔径分布測定-
200℃で1時間減圧処理した後、1~60,000psia(測定細孔径0.001~1000μmに相当)の測定圧力で水銀圧入曲線を測定することにより、各触媒の細孔径分布(微分細孔径分布)を求める。ここで、水銀圧入法は、毛細管現象の法則に基づき、例えば、水銀および円筒細孔の場合には、この法則は式:D=-(1/P)4γcosθで表される(Dは細孔径(μm)を表わし;Pは測定圧力(psia)を表わし;γは表面張力(dyn/cm)を表わし;θは接触角(°)を表わす)。すなわち、水銀圧入法は、測定圧力Pの関数としての細孔への進入水銀体積を測定するものである。細孔径分布は、P(測定圧力)を関数として算出されたD(細孔径)の分布である。全細孔容積は、測定時の最大圧力までに水銀が圧入された細孔容積の積算値(cc(mL))を触媒質量(g)で割った値である。また、平均細孔径(直径)は、Pの関数として算出されたDの平均値である。なお、水銀の表面張力は484dyn/cm、接触角は130°とする。
【0066】
上触媒層および下触媒層の平均厚みは、走査型電子顕微鏡やマイクロスコープなどで耐火性三次元構造を含む触媒の断面観察により測定できる。空孔連結物質を含むスラリーを三次元構造体にコートした場合の触媒層の平均厚みは、同じ材料を同じ量担持した触媒において空孔連結物質を含まないスラリーをコートした場合の触媒層の平均厚みよりも、触媒担持量が同等であっても、厚くなることが好ましい。上触媒層および下触媒層を含む触媒層全体の厚みは、好ましくは50μm~600μmであり、より好ましくは、は110μm~350μmであり、さらに好ましくは170μm~320μmである。上触媒層の平均厚みは、好ましくは25μm~300μmであり、より好ましくは、は30μm~100μmであり、さらに好ましくは40μm~80μmである。また、下触媒層の平均厚みは、好ましくは25μm~300μmであり、より好ましくは、は80μm~250μmであり、さらに好ましくは130μm~240μmである。
【0067】
また、触媒中の元素分析を行い、炭素含有量(C量)を調べることで空孔連結物質使用の有無を調べることができる。空孔連結物質を用いた上触媒層形成用スラリーをコートした上触媒層と空孔連結物質を含まない下触媒層形成用スラリーをコートした下触媒層の炭素(C)量の元素分析を行うことができる。また、触媒成分がコートされたコージェライト担体をコートされた面が見える方向で裁断し、担体成分を含まないようにコートされた触媒成分を針等でコージェライト担体から剥がしとることができる。この時、マイクロスコープなどを用いることで、上層と下層の色の違いから上層のみ、または、下層のみを剥がしとることが可能である。剥がしとった粉体をメノウ鉢で粉砕することで、分析サンプルとする。上触媒層のC量が下触媒層のC量よりも多いことが好ましい。また、例えば、空孔連結物質が炭素原子を含む場合には、元素分析などの公知の方法によって上触媒層中の炭素含有量を測定することによって空孔連結物質使用の有無を調べることができる。より詳細には、上記したように調製した分析サンプルについて、上触媒層の炭素(C)量(C1量(質量%))を元素分析により測定する。この炭素量が0.04質量%以上である場合には、上触媒層は空孔連結物質由来の細孔を有すると判断する。元素分析は、全自動元素分析装置 vario EL cube(エレメンター・ジャパン株式会社製)を用いて、製造社の指示に従って行う。
【0068】
また、SEM-EDSにて、各触媒層のC量を調べることでも空孔連結物質使用の有無を検出することができる。空孔連結物質を用いた上触媒層形成用スラリーをコートした上触媒層と空孔連結物質を含まない下触媒層形成用スラリーをコートした下触媒層の炭素(C)量のEDS分析を行うことができ、上触媒層のC量が下触媒層のC量よりも多いことが好ましい。
【0069】
<排気ガス酸化用触媒の製造方法>
本発明の排気ガス酸化用触媒は、公知の手法を適宜参照することにより製造することができるが、上述したように、本発明の触媒の上触媒層は、空孔連結物質由来の細孔を有する。このような構造を得るためには、触媒成分に加えて特定の燃焼分解温度(300℃以上450℃未満)を有する空孔連結物質を含むスラリーを下触媒層に塗布した後、上記燃焼分解温度に対して特定の温度差で保持(熱処理)することが重要である。
【0070】
すなわち、本発明は、貴金属源と、アルミナおよび/またはゼオライトと、を混合して下触媒層形成用スラリーを調製し、前記下触媒層形成用スラリーを三次元構造体に塗布し、貴金属ならびに、アルミナおよび/またはゼオライトとを含む下触媒層を前記三次元構造体に形成した後、燃焼分解温度が300℃以上450℃未満である空孔連結物質と、貴金属源と、アルミナおよび/またはゼオライトと、を混合して上触媒層形成用スラリーを調製し、前記上触媒層形成用スラリーを前記下触媒層の上に塗布した後、前記燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-20℃以下の温度で酸素含有ガス中で保持して、貴金属ならびに、アルミナおよび/またはゼオライトを含む上触媒層を前記下触媒層の上に形成することを有する、排気ガス酸化用触媒の製造方法をも提供する(本発明の第2)。このように特定の空孔連結物質を用いて特定の温度条件で熱処理を行うことにより、本発明に係る上触媒層を好適に形成できる。
【0071】
以下では、本発明の好ましい形態として、(a)下触媒層形成用スラリー調製工程、(b)下触媒層形成用スラリー塗布工程、(c)乾燥工程、(d)焼成工程、(e)上触媒層形成用スラリー調製工程、(f)上触媒層形成用スラリー塗布工程、(g)乾燥工程、(h)空孔連結工程、および(i)焼成工程を含む本発明の排気ガス酸化用触媒の製造方法を説明する。なお、上記本発明の特徴部分((h)空孔連結工程))以外の形態については、下記以外の公知の方法を同様にしてまたは適宜修飾して適用でき、下記好ましい形態によってのみに本発明は限定されない。
【0072】
(a)下触媒層形成用スラリー調製工程
本工程では、貴金属源、アルミナおよび/またはゼオライトならびに必要であれば他の添加成分を混合して下触媒層形成用スラリーを調製する[最終的に各触媒成分(貴金属、アルミナ、ゼオライト等)となる原料を含む下触媒層形成用スラリーを調製する]。下触媒層形成用スラリーは、各触媒成分の原料を水性媒体中で混合し、湿式粉砕することにより調製される。なお、各触媒成分の原料は、当該分野において使用される通常材料を適宜採用することができる。例えば、アルミナやゼオライトは上記(種類、担持量など)と同様であるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の触媒が他の添加成分を含む場合も、各添加成分は上記(種類、担持量など)と同様であるため、ここでは説明を省略する。なお、貴金属源、アルミナ、ゼオライトおよび他の添加成分の説明は、上記したのと同様であるため、ここでは説明を省略する。また、下触媒層形成用スラリーには空孔連結物質を添加しない。
【0073】
水性媒体としては、水(純水、超純水、脱イオン水、蒸留水等)、エタノール、2-プロパノールなどの低級アルコール、有機系のアルカリ水溶液などを使用することができる。中でも、水、低級アルコールを使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。水性媒体の量は、特に制限されないが、下触媒層形成用スラリー中の固形分の割合(固形分質量濃度)が5~60質量%、より好ましくは10~50質量%となるような量であることが好ましい。
【0074】
ここで、貴金属源、アルミナおよび/またはゼオライト、他の添加成分などの添加順序は、特に制限されず、一括して水性媒体中に投入してもまたは適切な順番で別々に添加してもよい。例えば、水性媒体にアルミナを添加し、5分間~24時間攪拌した後、貴金属源を添加し、5分間~24時間攪拌した後、ゼオライトや他の添加成分を添加することもできる。または、水性媒体にゼオライトを添加し、5分間~24時間攪拌した後、貴金属源を添加し、5分間~24時間攪拌した後、アルミナや他の添加成分を添加することもできる(方法B)。または、水性媒体に貴金属源、アルミナおよび/またはゼオライトならびに他の添加成分を添加し、5分間~24時間攪拌してもよい(方法C)。上記において、各原料を添加した後の混合物(スラリー)のpHを6以上、好ましく7以上8未満に調整することが好ましい。このため、各添加工程後の混合物(スラリー)のpHが8以上である場合は、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸などの酸を用いて、pHを8未満に調整することが好ましい。また、各添加工程後の混合物(スラリー)のpHが6未満である場合には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの塩基を用いて、pHを6以上、好ましくは7以上に調整することが好ましい。
【0075】
次に、このようにして得られたスラリーを湿式粉砕する。ここで、湿式粉砕は、例えば、ボールミル、ビーズミルなどを用いた公知の手法により行うことができる。また、湿式粉砕条件は、特に制限されない。例えば、50~5000回転/分の回転速度で5分間~5時間湿式粉砕することが好ましい。このような条件で湿式粉砕することにより、固形分の平均粒子径が5μm程度(またはこれ以下)となる。なお、上記攪拌を湿式粉砕によって行ってもよい。
【0076】
(b)下触媒層形成用スラリー塗布工程
本工程では、上記(a)下触媒層形成用スラリー調製工程において得られた下触媒層形成用スラリーを三次元構造体に塗布する。下触媒層形成用スラリーを三次元構造体上に塗布する方法は、ウォッシュコートなどの公知の方法を適宜採用することができる。また、スラリーの塗布量は、スラリー中の固体物の量、及び形成する触媒層の厚さに応じて当業者が適宜設定することができる。スラリーの塗布量は、好ましくは、貴金属およびアルミナおよび/またはゼオライト、ならびに(含む場合には)任意の他の添加成分が上記したような含有量(担持量)となるような量である。
【0077】
(c)乾燥工程
乾燥工程は、上記(b)下触媒層形成用スラリー塗布工程において塗布された三次元構造体上の下触媒層形成用スラリーの塗膜を乾燥する工程である。
【0078】
乾燥工程では、空気中で、好ましくは50~170℃、より好ましくは70~150℃の温度で、5分間~10時間、好ましくは15分間~3時間、三次元構造体に塗布された下触媒層形成用スラリーの塗膜を乾燥する。
【0079】
(d)焼成工程
本工程では、上記(c)後に、塗膜を焼成する。これにより、触媒成分(貴金属、アルミナ、ゼオライト等)が三次元構造体に付着する。また、触媒層中に残存している窒素含有成分、水素含有成分、炭素含有成分が除去される。
【0080】
ここで、焼成条件は、特に制限されない。例えば、焼成を、空気中で、440℃~800℃、好ましくは450℃~610℃、より好ましくは450℃~555℃の温度で、10分間~3時間、好ましくは15分間~1時間、行う。このような条件であれば、触媒成分(貴金属、アルミナ、ゼオライト等)を効率よく三次元構造体に付着できる。
【0081】
また、焼成は、空気等のガスを流しながら行うことが好ましい。当該操作によっても、有機成分をより効率よく除去できる。ここで、ガスを流す速度(ガス流速)は、特に制限されないが、好ましくは0.1m/秒以上、より好ましくは0.2~1.2m/秒である。
【0082】
本工程により、下触媒層が三次元構造体上に形成される。
【0083】
(e)上触媒層形成用スラリー調製工程
本工程では、空孔連結物質、貴金属源、アルミナおよび/またはゼオライトならびに必要であれば他の添加成分を混合して上触媒層形成用スラリーを調製する[最終的に各触媒成分(貴金属、アルミナ、ゼオライト等)となる原料および空孔連結物質を含む上触媒層形成用スラリーを調製する]。上触媒層形成用スラリーは、各触媒成分の原料および空孔連結物質を水性媒体中で混合し、湿式粉砕することにより調製される。なお、各触媒成分の原料は、当該分野において使用される通常材料を適宜採用することができる。例えば、アルミナやゼオライトは上記(種類、担持量など)と同様であるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の触媒が他の添加成分を含む場合も、各添加成分は上記(種類、担持量など)と同様であるため、ここでは説明を省略する。なお、空孔連結物質、貴金属源、アルミナ、ゼオライトおよび他の添加成分の説明は、上記したのと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0084】
水性媒体としては、水(純水、超純水、脱イオン水、蒸留水等)、エタノール、2-プロパノールなどの低級アルコール、有機系のアルカリ水溶液などを使用することができる。中でも、水、低級アルコールを使用することが好ましく、水を使用することがより好ましい。水性媒体の量は、特に制限されないが、上触媒層形成用スラリー中の固形分の割合(固形分質量濃度)が5~60質量%、より好ましくは10~50質量%となるような量であることが好ましい。固形分の割合は、上述のスラリーをるつぼに入れ、550℃で30分間空気中にて焼成を行う前のスラリーの質量に対する、550℃で30分間空気中にて焼成した後に残存している固形分の質量の割合から算出することができる。
【0085】
ここで、貴金属源、アルミナおよび/またはゼオライト、空孔連結物質、他の添加成分などの添加順序は、特に制限されず、一括して水性媒体中に投入してもまたは適切な順番で別々に添加してもよい。例えば、水性媒体に、アルミナおよび/またはゼオライトならびに空孔連結物質を添加し、5分間~24時間攪拌した後、貴金属源を添加し、5分間~24時間攪拌した後、ゼオライト等のその他の添加成分を添加することもできる。または、水性媒体にアルミナまたはゼオライトを添加し、5分間~24時間攪拌した後、空孔連結物質を添加し、5分間~24時間攪拌した後、貴金属源を添加し、5分間~24時間攪拌した後、ゼオライトまたはアルミナや他の添加成分を添加することもできる。または、水性媒体にアルミナまたはゼオライトを添加し、5分間~24時間攪拌した後、貴金属源を添加し、5分間~24時間攪拌した後、空孔連結物質を添加し、5分間~24時間攪拌した後、ゼオライトまたはアルミナや他の添加成分を添加することもできる。または、水性媒体に貴金属源、アルミナまたはゼオライト、他の添加成分、および空孔連結物質を添加し、5分間~24時間攪拌することもできる。上記において、各原料を添加した後の混合物(スラリー)のpHを6以上、好ましくは7以上8未満に調整することが好ましい。このため、各添加工程後の混合物(スラリー)のpHが8以上である場合は、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸などの酸を用いて、pHを8未満に調整することが好ましい。また、各添加工程後の混合物(スラリー)のpHが6未満である場合には、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの塩基を用いて、pHを6以上、好ましくは7以上に調整することが好ましい。
【0086】
次に、このようにして得られたスラリーを湿式粉砕する。ここで、湿式粉砕は、例えば、ボールミル、ビーズミルなどを用いた公知の手法により行うことができる。また、湿式粉砕条件は、特に制限されない。例えば、50~5000回転/分の回転速度で5分間~5時間湿式粉砕することが好ましい。このような条件で湿式粉砕することにより、固形分の平均粒子径が5μm程度(またはこれ以下)となる。なお、上記攪拌を湿式粉砕によって行ってもよい。
【0087】
(f)上触媒層形成用スラリー塗布工程
本工程では、上記(e)上触媒層形成用スラリー調製工程において得られた上触媒層形成用スラリーを、上記(d)焼成工程で形成された下触媒層に塗布する。上触媒層形成用スラリーを下触媒層の上に塗布する方法は、ウォッシュコートなどの公知の方法を適宜採用することができる。また、スラリーの塗布量は、スラリー中の固体物の量、及び形成する触媒層の厚さに応じて当業者が適宜設定することができる。スラリーの塗布量は、好ましくは、貴金属およびアルミナおよび/またはゼオライト、ならびに(含む場合には)任意の他の添加成分が上記したような含有量(担持量)となるような量である。
【0088】
(g)乾燥工程
本工程では、上記(f)下触媒層形成用スラリー塗布工程において塗布された下触媒層上の上触媒層形成用スラリーの塗膜を乾燥する工程である。乾燥工程では、空気中で、好ましくは50~170℃、より好ましくは70~150℃の温度で、5分間~10時間、好ましくは15分間~3時間、三次元構造体に塗布された触媒層形成用スラリーの塗膜を乾燥する。
【0089】
(h)空孔連結工程
本工程では、上記(g)にて得られた上触媒層形成用スラリーの塗膜(上触媒前駆層)を、燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-20℃以下の温度で空気中で熱処理(保持)する。上述したように、本工程により、空孔連結物質を燃焼分解させて、上触媒層形成用スラリーの塗膜(上触媒前駆層)中の空孔連結物質をガス塊として除去し、細孔2、3を形成すると共に細孔1、2、3を相互に連結させる。これに対して、空孔連結工程を経ずに、乾燥工程後焼成工程を行う場合には、空孔連結物質由来の細孔を有する上触媒層が得られないため、所望の排気ガスの酸化性能が発揮されない。
【0090】
本工程での熱処理温度は、燃焼分解温度に対して-170℃を超えて-20℃以下である。なお、空孔連結物質は、燃焼分解温度の約-50℃付近から燃焼・分解が開始する。しかし、熱処理温度が燃焼分解温度に対して-170℃以下であると、空孔連結物質が十分燃焼せずに十分量のガス塊を発生できず、次工程の(i)焼成工程で空孔連結物質が一気に燃焼してしまう。このため、細孔3が優先して形成され、細孔2が十分に形成できない。また、熱処理温度が燃焼分解温度に対して-20℃を超えると、空孔連結物質が一気に燃焼してしまうため、過度に大きな細孔が形成されてしまう(細孔2が形成されにくいまたは形成されない)。このため、排気ガスの拡散性が良くなりすぎ、触媒成分と接触せずに通過する排気ガスが増え、結果、排気ガスの酸化性能(特にCO、NOの酸化性能)が低下してしまう。熱処理温度は、燃焼分解温度に対して、好ましくは-150℃以上-30℃以下、より好ましくは-120℃以上-40℃以下、特に好ましくは-100℃以上-50℃以下である。また、熱処理温度としては、好ましくは180~400℃、より好ましくは200~350℃、特に好ましくは220~320℃である。このような熱処理温度で空孔連結物質を燃焼させることにより、細孔2、3が適切に上触媒層中に形成できる。また、熱処理時間は、特に制限されないが、好ましくは10分間~3時間、好ましくは15分間~1時間である。このような熱処理時間で空孔連結物質を燃焼させることにより、細孔2、3が適切に上触媒層中に形成できる。
【0091】
空孔連結工程での熱処理は、酸素含有ガス中で行われ、酸素含有ガスを流しながら行うことが好ましい。酸素含有ガスは、特に制限されず、空気、酸素ガス、酸素ガスと不活性ガス(例えば、窒素ガス、アルゴンガス)との混合ガスなどが用いられる。当該操作により、有機成分(特に空孔連結物質)をより効率よく除去できる。ここで、酸素含有ガスを流す速度(ガス流速)は、特に制限されないが、好ましくは0.1m/秒以上、より好ましくは0.2~1.2m/秒である。
【0092】
(i)焼成工程
本工程では、上記(h)空孔連結工程を経た後の塗膜を焼成する。これにより、触媒成分(貴金属、アルミナ、ゼオライト等)が下触媒層の上に付着する。また、触媒層中に残存している窒素含有成分、水素含有成分、炭素含有成分が除去される。
【0093】
ここで、焼成条件は、特に制限されない。例えば、焼成を、空気中で、440℃~800℃、好ましくは450℃~610℃、より好ましくは450℃~555℃の温度で、10分間~3時間、好ましくは15分間~1時間、行う。このような条件であれば、触媒成分(貴金属、アルミナ、ゼオライト等)を効率よく下触媒層の上に付着できる。
【0094】
また、焼成は、空気等のガスを流しながら行うことが好ましい。当該操作によっても、有機成分(特に空孔連結物質)をより効率よく除去できる。ここで、ガスを流す速度(ガス流速)は、特に制限されないが、好ましくは0.1m/秒以上、より好ましくは0.2~1.2m/秒である。
【0095】
本工程により、上触媒層が下触媒層の上に形成されて、本発明の触媒が製造できる。
【0096】
以上で説明した本発明に係る排気ガス酸化用触媒は、内燃機関、特にディーゼルエンジンから排出される排気ガス(炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、特にCO、NO)に対して高い酸化性能を発揮できる。したがって、本発明の排気ガス酸化用触媒は、ディーゼルエンジンから排出された排気ガスを酸化するための触媒として好適に使用される。
【0097】
<排気ガスの酸化方法>
本発明の第3は、上記排気ガス酸化用触媒、または、上記製造方法により製造された排気ガス酸化用触媒を用いて排気ガスを処理することを有する、排気ガスの酸化方法に関する。本発明の触媒は、ガソリンおよびディーゼルエンジン双方から排出される排気ガスを酸化することを目的として使用できるが、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスを酸化することを目的として特に好適に使用できる。ゆえに、以下では、本発明に係る触媒を用いてディーゼルエンジンから排出される排気ガスを酸化する方法について説明する。なお、本発明は、下記に限定されない。
【0098】
本発明の触媒は、ディーゼルエンジンから排出される排気ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)、好ましくは、CO、NO、特にNOに対して高い酸化性能を発揮できる。ゆえに、本発明は、本発明の排気ガス酸化用触媒を用いてディーゼルエンジンから排出される排気ガスを処理する(特に排気ガス中の一酸化窒素(NO)を酸化する)ことを有する、ディーゼルエンジン排気ガスの酸化方法をも提供する。ディーゼルエンジンを用いて排気ガスの酸化率を測定するには、NEDCモード、JC08モード、WLTC、FTP75、FTP1199、NRTC、NRSCモードなど、排気ガス規制に対する評価モードを用いることが好ましい。例えば、NEDCモードで評価を行う場合は、United Nations Economic Commission for Europe、Addendum 82:Regulation No.83に従う。また、CO及びHC酸化率、およびNO生成率(%)は、下式(I)に従って計算する。
【0099】
【数1】
【0100】
ここで、排気ガス中のCO濃度は、特に制限されないが、好ましくは10~50,000体積ppm、より好ましくは50~15,000体積ppm、さらに好ましくは50~5,000体積ppmである。また、CO以外に排気ガス中にHC、NOが含まれていても処理することができる。
【0101】
上記形態において、排気ガス中のHC濃度は、特に制限されないが、好ましくは1~50000体積ppm、より好ましくは10~10000体積ppm、さらに好ましくは50~1000体積ppmである。また、排気ガス中のNO濃度もまた、特に制限されないが、好ましくは1~10000体積ppm、より好ましくは10~5000体積ppm、さらに好ましくは20~1000体積ppmである。
【0102】
また、ディーゼルエンジンから排出される排気ガスには、パティキュレート成分(粒子状物質、PM)が含まれる。このため、PMを除去するために、フィルタ機能を有する三次元構造体を用いることが好ましい。または、PMを除去するためのフィルタを別途設けてもよい。
【0103】
排気ガスの空間速度(SV)は、通常の速度であってもよいが、好ましくは1,000~500,000hr-1、より好ましくは5,000~200,000hr-1であり。また、ガス線速もまた、通常の速度であってもよいが、好ましくは0.1~8.5m/秒、より好ましくは0.2~6.7m/秒で接触させる。
【0104】
また、本発明の触媒は低温の排気ガスに対して優れた酸化の性能(特にCO、NO)を維持、発揮できる。具体的には、本発明の触媒は、好ましくは50~600℃、より好ましくは80~500℃、最も好ましくは100~450℃の低温の排気ガスに対して優れた排気ガス酸化性能を発揮できる。同様にして、本発明の触媒は、長時間、高温の排気ガスに曝された時においても優れた酸化性能を維持、発揮できる。具体的には、本発明の触媒は、内燃機関からの650~900℃の高温の排気ガス(特に、HC、CO、NO、水蒸気等が含まれる)に長時間曝された後の50~600℃の低温の排気ガスに対しても、優れた排気ガス処理効果(特にCO、NO酸化性能)を発揮できる。このため、例えば、排気ガス酸化用触媒を内燃機関(ディーゼルエンジン)の排気ポートの排気流路中に設置し、高温の排気ガスを排気流路に長時間流入させた場合であっても、排気ガス(特にCO及びNO)を効率よく酸化できる。
【0105】
このため、上記したような本発明の触媒または上記したような方法によって製造される触媒は、温度が650~900℃、好ましくは700℃~850℃である排気ガスに曝されていてもよい。また、本発明の触媒を高温の排気ガスに曝す時間(排気ガスを流入させる時間)も、特に限定されるものではなく、例えば、10~800時間、好ましくは16~500時間、より好ましくは40~100時間である。このような高温の排気ガスに曝された後にも本発明の触媒は、高い性能を有する。このように高温の排気ガスに曝された後の触媒の排気ガス酸化性能を調べるために、熱処理として、650~900℃の排気ガスに、10~300時間曝す処理を触媒に施した後に、排気ガス酸化性能(触媒の劣化に対する耐性)を評価することが有効である。
【0106】
なお、本明細書において「排気ガスの温度」とは、触媒入口部における排気ガスの温度を意味する。ここで、「触媒入口部」とは、排気ガス酸化用触媒が設置された排気管における排気ガス流入側の触媒端面から内燃機関側に向かって10cmまでの部分を指し、かつ、排気管の長手方向(軸方向)の中心部分の箇所を指す。また、本明細書において「触媒床部」とは、上記排気管における排気ガス流入側の触媒端面から排気ガス流出側の触媒端面までの間の中央部分であり、かつ、排気管の横断面の中心部分の箇所(排気管の横断面が円形でない場合は、排気管の横断面の重心部分の箇所)を指す。
【実施例
【0107】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0108】
実施例1
Pt源としてジニトロジアンミン白金、Pd源として硝酸パラジウム、アルミナ原料として粉末状シリカ含有アルミナ(BET比表面積:180m/g、平均二次粒子径:45μm)、ゼオライト原料として粉末状ベータゼオライト(シリカ/アルミナ比(モル比):35~40、BET比表面積:582m/g、平均二次粒子径:0.4~0.6μm)、および酸化ランタン原料として酸化ランタン(La)を用いて、Pt:Pd:シリカ含有アルミナ(Al):ベータゼオライト:Laの質量比が0.83:0.42:50:27:2となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を脱イオン水に加え、30分間攪拌した後、硝酸を加えることでpHを7以上8未満に調整し、混合分散液a1を作製した。次に、混合分散液a1をボールミルにて200回転/分の回転速度で30分間湿式粉砕することによって、スラリーA1(固形分質量濃度=35質量%)を作製した。なお、スラリーA1中の固形分の平均二次粒子径は、5.0μmであった。
【0109】
次に、このスラリーA1を、直径118.4mm、長さ118mmの円柱状で1.3Lのコージェライト担体(セルの数:断面積1平方インチ当たりセル400個)に、焼成後の担持量がコージェライト担体1リットルあたり80.25gとなるようにウォッシュコートした。次に150℃で20分乾燥した後、500℃で1時間の空気中で焼成を行い、コージェライト担体上に下触媒層を形成した前駆体Aを得た。
【0110】
次に、Pt源としてジニトロジアンミン白金、Pd源として硝酸パラジウム、アルミナ原料として粉末状シリカ含有アルミナ(BET比表面積:180m/g、平均二次粒子径:45μm)、および酸化ランタン原料として酸化ランタン(La)、空孔連結物質としてポリメタクリル酸メチル(平均粒子径:4μm)を用いて、Pt:Pd:シリカ含有アルミナ(Al):La:ポリメタクリル酸メチルの質量比が1.5:0.25:65:2:6.8となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を脱イオン水に加え、30分間攪拌した後、硝酸を加えてpHを7以上8未満に調整し、混合分散液a2を作製した。次に、混合分散液a2をボールミルにて200回転/分の回転速度で30分間湿式粉砕することによって、スラリーA2(固形分質量濃度=26質量%)を作製した。なお、スラリーA2中の固形分の平均二次粒子径は、5.0μmであり、空孔連結物質の含有量(固形分換算)は、上触媒層中の全固形分(1000℃で加熱した際の上触媒層中の全固形分、68.75質量部)に対して9.9質量%(6.8質量部)に相当する。
【0111】
次に、このスラリーA2を、焼成後の担持量がコージェライト担体1リットルあたり68.75gとなるように前駆体Aにウォッシュコートし、続いて150℃で20分間乾燥を行った。次に、280℃で20分間空気中で保持し(空孔連結工程)、空孔連結物質を燃焼分解させた。次に、空気中で500℃で1時間焼成を行い、コージェライト担体上に下触媒層および上触媒層を形成した触媒Aを得た。なお、触媒Aは、コージェライト担体1リットル、Pt(金属換算)=0.83g/L、Pd(金属換算)=0.42g/L、シリカ含有アルミナ(Al)(酸化物換算)=50g/L、ベータゼオライト(酸化物換算)=27g/Lおよび酸化ランタン(La)(酸化物換算)=2g/Lを含む下触媒層、ならびにPt(金属換算)=1.5g/L、Pd(金属換算)=0.25g/L、シリカ含有アルミナ(Al)(酸化物換算)=65g/Lおよび酸化ランタン(La)(酸化物換算)=2g/Lを含む上触媒層が、コージェライト担体上に下触媒層、上触媒層の順に二層の触媒層として担持されていた。
【0112】
また、ポリメタクリル酸メチル(空孔連結物質)の燃焼分解温度を以下の方法にて示差熱・熱重量分析装置(TG-DTA)を用いて測定したところ、373℃であった。このため、空孔連結工程における熱処理温度は、燃焼分解温度に対して-93℃(=280-373)であった。なお、ポリメタクリル酸メチル(空孔連結物質)は、321℃付近で燃焼を開始した。
【0113】
-空孔連結物質の燃焼分解温度の測定方法-
30mgの空孔連結物質(試料)を、キャリヤーガス(空気)を流通させたTG-DTA(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TG-DTA2020SR)の天秤にセットし、ベースラインが安定した後、100ml/分で空気流通下、25℃から800℃まで10℃/分の速度で昇温する条件下で、試料が燃焼分解するときの示差熱を測定する。ここで、燃焼分解とは、TG-DTA測定データのDTAプロファイルにおいて、試料30mgあたり100μV以上の示差熱を発生し、その後、それ以上の示唆熱を発生しない状態を意味し、上記状態(示唆熱が最大の状態)を示す温度を「空孔連結物質の燃焼分解温度(℃)」とする。
【0114】
比較例1
実施例1と同様の原料を用いて、Pt:Pd:シリカ含有アルミナ(Al):ベータゼオライト:La:ポリメタクリル酸メチルの質量比が0.83:0.42:50:27:2:8となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を脱イオン水に加え、30分間攪拌した後、硝酸を加えてpHを7以上8未満に調整し、混合分散液b1を作製した。次に、混合分散液b1をボールミルにて200回転/分の回転速度で30分間湿式粉砕することによって、スラリーB1を作製した。なお、スラリーB1中の固形分の平均二次粒子径は、5.0μmであり、空孔連結物質の含有量(固形分換算)は、上触媒層中の全固形分(1000℃で加熱した際の上触媒層中の全固形分、80.25質量部)に対して10.0質量%(8質量部)に相当する。
【0115】
次に、このスラリーB1を、実施例1と同様のコージェライト担体に焼成後の担持量がコージェライト担体1リットルあたり80.25gとなるようにウォッシュコートし、続いて150℃で20分間乾燥を行った。次に、280℃で20分間空気中で保持し(空孔連結工程)、空孔連結物質を燃焼分解させた。次に、空気中で500℃で1時間焼成を行い、コージェライト担体上に下触媒層を形成した前駆体Bを得た。
【0116】
次に、実施例1と同様の原料を用いて、Pt:Pd:シリカ含有アルミナ(Al):Laの質量比が1.5:0.25:65:2となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を脱イオン水に加え、30分間攪拌した後、硝酸を加えてpHを7以上8未満に調整し、混合分散液b2を作製した。次に、混合分散液b2をボールミルにて200回転/分の回転速度で30分間湿式粉砕することによって、スラリーB2を作製した。なお、スラリーB2中の固形分の平均二次粒子径は、5.0μmである。次に、このスラリーB2を、前駆体Bに、焼成後の担持量がコージェライト担体1リットルあたり68.75gとなるようにウォッシュコートした。次に150℃で20分乾燥した後、500℃で1時間の空気中で焼成を行い、コージェライト担体上に下触媒層および上触媒層に形成した触媒Bを得た。
【0117】
比較例2
実施例1と同様の原料を用いて、同様の方法で前駆体Aを作製した。
【0118】
スラリーB2を前駆体Aに、焼成後の担持量がコージェライト担体1リットルあたり68.75gとなるようにウォッシュコートした。次に150℃で20分乾燥した後、500℃で1時間の空気中で焼成を行い、コージェライト担体上に下触媒層および上触媒層に形成した触媒Cを得た。
【0119】
比較例3
実施例1と同様の原料を用いて、同様の方法で前駆体Aを作製した。
【0120】
比較例1と同様の原料を用いて、Pt:Pd:シリカ含有アルミナ(Al):Laの質量比が1.5:0.25:75:2となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を脱イオン水に加え、30分間攪拌した後、硝酸を加えてpHを7以上8未満に調整し、混合分散液d2を作製した。次に、混合分散液d2をボールミルにて200回転/分の回転速度で30分間湿式粉砕することによって、スラリーD2を作製した。次に、このスラリーD2を、前駆体Aに、焼成後の担持量がコージェライト担体1リットルあたり78.75gとなるようにウォッシュコートした。次に150℃で20分乾燥した後、500℃で1時間の空気中で焼成を行い、コージェライト担体上に下触媒層および上触媒層に形成した触媒Dを得た。
【0121】
下記表1に各触媒の組成を示す。なお、下記表1において、下触媒層および上触媒層における「層形成時の空孔連結物質」は、コージェライト担体上に形成された下触媒層および上触媒層を形成する際の空孔連結物質(ポリメタクリル酸メチル)の使用の有無を示す。
【0122】
また、各触媒の下触媒層および上触媒層の平均厚みをマイクロスコープを用いて測定した。各触媒の排気ガス流入側端面から1cmの排気ガス流れ方向に対して垂直な断面で切断し、切断面の中心付近の5セル内に存在する下触媒層と上触媒層の平均厚みを測定した。境界部分は、下触媒層と上触媒層の色の変化から読み取った。該5セルにおいて、4つの角部の厚みを測定し、計20箇所の厚みの平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
-細孔径分布測定-
触媒AおよびBの細孔径分布を水銀圧入法により測定した。詳細には、600mgの試料を、ポロシメーター(株式会社島津製作所社製、商品名:オートポアIII9420)を用いた。結果を図2に示す。図2から、空孔連結物質を用いて調製した触媒Aおよび触媒Bは、3つの異なる細孔径をピークとする空孔連結細孔1、2、3を有することが確認された。触媒AおよびBはほぼ同様の細孔径分布を示すことから、上触媒層に存在する細孔と下触媒層に存在する細孔とを区別できないことが考察される。
【0125】
[排気ガス酸化能評価試験1]
実施例1の触媒Aおよび比較例1~3の比較触媒B~Dについて、以下により、排気ガス酸化性能(CO酸化率、HC酸化率、NO生成率)を評価した。詳細には、各触媒(1.3L)を、電気炉を用いて、空気雰囲気下で800℃で16時間、耐熱処理(耐久処理)した。耐熱処理後、各触媒を室温(25℃)まで冷却した後、3.0Lターボ付きディーゼルエンジンの排気口から後方100cmの位置に設置して、NEDCモード評価を行い、各触媒のCO酸化率(%)及びHC酸化率(%)を測定した。また、触媒の排気ガス温度は、25~380℃の範囲であった。
【0126】
結果(各触媒のCO酸化率及びHC酸化率)を下記表2及び図3に示す。下記表2及び図3から、実施例1の触媒Aは、比較例1~3の比較触媒B~Dに比して、有意に高いCO酸化率及びHC酸化率を示すことが分かる。
【0127】
[排気ガス酸化能評価試験2]
実施例1の触媒Aおよび比較例1~3の比較触媒B~Dについて、以下により、NO酸化性能(NO生成率)を評価した。詳細には、各触媒(1.3L)を、電気炉を用いて、空気雰囲気下で800℃で16時間、耐熱処理(耐久処理)した。耐熱処理後、各触媒を室温(25℃)まで冷却した後、3.0Lターボ付きディーゼルエンジンの排気口から後方100cmの位置に設置して、触媒の入口温度110℃から400℃まで1分間あたり25℃の速度で昇温させ、300℃における各触媒のNO生成率(%)を測定した。
【0128】
結果(各触媒のNO生成率)を下記表2及び図4に示す。下記表2及び図4から、実施例1の触媒Aは、比較例1~3の比較触媒B~Dに比して、有意に高いNO生成率を示すことが分かる。
【0129】
【表2】
【0130】
参考例1:空孔連結物質由来の細孔の確認
実施例1で作製した触媒A及び比較例3で作製した触媒Dについて、元素分析を行い、触媒中の炭素量を測定した。なお、触媒A及び触媒Dを裁断し、触媒中心付近で触端面から50~70mmの中央付近を採取した。採取したものをマイクロスコープを用いながら、上触媒層のみを剥がしとることによって、サンプルA’(上層)及びD’(上層)をそれぞれ調製した。また、上触媒層を剥がした後、マイクロスコープを用いながら、下触媒層のみを剥がしとることによって、サンプルA’(下層)及びD’(下層)をそれぞれ調製した。これらのサンプルについて元素分析を行った。元素分析は、全自動元素分析装置
vario EL cube(エレメンター・ジャパン株式会社製)を用いて、製造社の指示に従って行った。結果を下記表3に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
表3の結果から、空孔連結物質を用いて作製した触媒A中の炭素量は、空孔連結物質を用いなかった触媒Dの炭素量よりも多いことが確認された。ここで、触媒Aの上触媒層の形成においてのみ空孔連結物質の使用している以外は同じ操作を行っていることから、上記サンプルA’(上層)での炭素量の増加は空孔連結物質によるものであることが考察される。このため、炭素量(またはその増加)を測定することによって、触媒層が空孔連結物質由来の細孔を有するか否かを判定できると考察される。
【0133】
本出願は、2018年12月28日に出願された日本特許出願番号2018-247139号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。
【符号の説明】
【0134】
10,10’,10”…触媒、
12…排気ガス、
13…細孔径の大きな細孔、
13’…細孔径の小さな細孔、
1…細孔径の小さな細孔、
2…細孔径の中間な細孔、
3…細孔径の大きな細孔、
14,14’,14”…上触媒層
15,15’,15”…下触媒層、
16,16’,16”…下触媒層内の細孔、
17,17’,17”…三次元構造体。
図1
図2
図3
図4