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特許7124168階層型適応閉ループ輸液蘇生及び心血管薬投与システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】階層型適応閉ループ輸液蘇生及び心血管薬投与システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/172 20060101AFI20220816BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20220816BHJP
   A61B 5/028 20060101ALI20220816BHJP
   A61B 5/029 20060101ALI20220816BHJP
   A61B 5/0215 20060101ALI20220816BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20220816BHJP
   G16H 20/10 20180101ALI20220816BHJP
【FI】
A61M5/172 500
A61M5/142 530
A61B5/028
A61B5/029
A61B5/0215 B
A61B5/0245 100D
G16H20/10
【請求項の数】 31
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021082023
(22)【出願日】2021-05-14
(62)【分割の表示】P 2020513484の分割
【原出願日】2018-05-11
(65)【公開番号】P2021151485
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】62/505,232
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519401505
【氏名又は名称】オートノマス ヘルスケア,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ゴラーミー,ベヘヌード
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/210465(WO,A1)
【文献】米国特許第05116312(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0218126(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0276379(US,A1)
【文献】特表2010-535045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/172
A61M 5/142
A61B 5/028
A61B 5/029
A61B 5/0215
A61B 5/0245
G16H 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の血行動態測定値を調節するための臨床意思決定支援を提供するためのコンピュータにより実施される方法であって、
a)ユーザインターフェースを介して、少なくとも1つのユーザ指定の注入速度を受け取ること、
b)前記少なくとも1つのユーザ指定の注入速度を、直近のユーザ承認済み注入速度としてデータベースに記録すること、
c)階層型制御アーキテクチャシステムにより対象の血行動態測定値をセンサから受け取ることであって、
前記階層型制御アーキテクチャシステムが、
a.少なくとも1つの下位レベル制御器及び
b.上位レベル論理制御器
を含み、
前記対象の血行動態測定値が前記上位レベル論理制御器及び前記少なくとも1つの下位レベル制御器によって受け取られ、
前記少なくとも1つの下位レベル制御器と前記上位レベル論理制御器とが互いに通信しており、
前記少なくとも1つの下位レベル制御器が、
a.前記対象の生理学的パラメータの現在の値を推定するための一組の動的観測器状態を含む動的観測器及び
b.一組の基底関数及び一組の重みを含む関数近似器を使用して前記対象の未知のダイナミクスを近似するダイナミカルシステム
を含むこと、
d)前記少なくとも1つのユーザ指定の注入速度に少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みの値を初期化すること、
e)前記一組の重みの現在の値と、前記一組の動的観測器状態と、前記血行動態測定値の現在の値とに少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みを更新すること、
f)前記少なくとも1つの下位レベル制御器により、前記対象の血行動態測定値と、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みとに少なくとも部分的に基づいて、改変注入速度を生成すること、
g)前記上位レベル論理制御器により、前記改変注入速度が前記ユーザに通知するための必要条件を満たすかどうかを確認すること、
h)ステップg)において前記改変注入速度が前記必要条件を満たす場合には、前記少なくとも1つの下位レベル制御器からの前記改変注入速度を表示すること、
i)前記ユーザに、前記改変注入速度を承認するか、又は前記改変注入速度を別の値に変更するかのいずれかを行うよう要求すること、
j)前記上位レベル論理制御器により、前記データベース内の前記直近のユーザ承認済み注入速度の値を、前記ユーザによって承認された前記改変注入速度に、又はステップi)において前記ユーザにより変更された場合には前記改変注入速度の前記別の値に、置換すること、
k)前記上位レベル論理制御器により、ステップi)において前記ユーザにより変更された場合には前記改変注入速度の前記別の値に少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みの少なくとも1つの要素の前記値を新しい値にリセットし、それ以外の場合には前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みは同じままにしておくこと及び
l)前記輸液及び/又は心血管薬を前記データベース内の前記直近のユーザ承認済み注入速度で前記対象に投与することにより、前記対象の血行動態測定値を調節すること、
を含む、方法。
【請求項2】
前記関数近似器が、シグモイド基底関数によるニューラルネットワークである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ユーザは、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の少なくとも1つの性能基準に違反があるか否かを通知される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記少なくとも1つの性能基準の違反が、設定された時間間隔における前記対象の前記血行動態測定値と目標血行動態データとの差を設定閾値と比較することにより決定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記階層型制御アーキテクチャシステムが第2の下位レベル制御器を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の下位レベル制御器が、前記上位レベル論理制御器を介してエンゲージされ、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の少なくとも1つの性能基準に違反がある場合には、前記上位レベル論理制御器が前記第2の下位レベル制御器の更なるエンゲージを推奨する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記性能基準が、前記1つ又は複数の輸液及び/又は心血管薬の投与中における前記対象の前記血行動態測定値の改善を含む、請求項6に記載の方法
【請求項8】
前記直近のユーザ承認済み注入速度で前記輸液及び/又は薬を投与するために、前記直近のユーザ承認済み注入速度が注入ポンプに送られる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
輸液及び/又は心血管薬の、コンピュータにより実行される、投与方法であって、
a)ユーザインターフェースを介して、少なくとも1つのユーザ指定の注入速度を受け取ること、
b)前記少なくとも1つのユーザ指定の注入速度を、直近のユーザ承認済み注入速度としてデータベースに記録すること、
c)階層型制御アーキテクチャシステムにより対象の血行動態測定値をセンサから受け取ることであって、
前記階層型制御アーキテクチャシステムが、
a.少なくとも1つの下位レベル制御器及び
b.上位レベル論理制御器
を含み、
前記対象の血行動態測定値が前記上位レベル論理制御器及び前記少なくとも1つの下位レベル制御器によって受け取られ、
前記少なくとも1つの下位レベル制御器と前記上位レベル論理制御器とが互いに通信しており、
前記少なくとも1つの下位レベル制御器が、前記対象のダイナミカルシステムモデルに適合する内部ダイナミカルシステムモデルを有すること、
d)前記下位レベル制御器が前記少なくとも1つのユーザ指定の注入速度に等しい注入速度を生成するように、前記少なくとも1つのユーザ指定の注入速度に少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムモデルのパラメータを初期化すること、
e)前記血行動態測定値と、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムモデルのパラメータとに少なくとも部分的に基づいて、前記下位レベル制御器により、設定された時間間隔で新しい注入速度を生成すること、
f)前記新しい注入速度が生成され次第、前記上位レベル論理制御器により、前記新しい注入速度が前記ユーザに通知するための必要条件を満たすかどうかを確認すること;
g)ステップf)において前記新しい注入速度が前記必要条件を満たすか否かを前記ユーザに通知すること、
h)前記ユーザに前記新しい注入速度を承認するか、又は前記新しい注入速度を別の値に変更するかのいずれかを行うよう要求すること、
i)前記上位レベル論理制御器により、前記データベース内の前記直近のユーザ承認済み注入速度の値を、前記ユーザによって承認された前記改変注入速度に、又はステップh)において前記ユーザにより変更された場合には前記改変注入速度の前記別の値に、置換すること、
j)ステップh)において前記ユーザにより変更された場合には前記改変注入速度の前記別の値に少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムモデルの少なくとも1つのパラメータを新しい値にリセットし、それ以外の場合には前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みは同じままにすること及び
k)前記輸液及び/又は心血管薬を前記直近のユーザ承認済み注入速度で前記対象に投与すること、
を含む、方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムモデルが、一組の基底関数及び一組の重みを含む関数近似器を使用して、前記対象の体内の前記輸液及び/又は薬の分布を表す未知の関数を近似する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記関数近似器が、シグモイド基底関数によるニューラルネットワークである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記新しい注入速度が前記別の値に変更された場合には、前記直近のユーザ承認済み注入速度に少なくとも部分的に基づいて、前記一組の重みの少なくとも1つの要素が前記新しい値にリセットされる、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記階層型制御アーキテクチャシステムが第2の下位レベル制御器を更に含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の下位レベル制御器が、前記上位レベル論理制御器を介して最初にエンゲージされ、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の少なくとも1つの性能基準に違反がある場合には、前記上位レベル論理制御器が前記第2の下位レベル制御器の更なるエンゲージを推奨する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記性能基準が、1つ又は複数の輸液及び/又は心血管薬の投与中における前記対象の血行動態測定値の改善を含む、請求項14に記載の方法
【請求項16】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムの前記パラメータの現在の値と、前記対象の前記血行動態測定値とに少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムの前記パラメータを更新することにより、前記内部ダイナミカルシステムモデルが前記対象の前記ダイナミカルシステムモデルに適合する、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
対象の血行動態測定値を調節するための閉ループ制御を提供するためのコンピュータにより実施される方法であって、
a)ユーザインターフェースを介して、少なくとも1つのユーザ指定の注入速度を受け取ること、
b)階層型制御アーキテクチャシステムにより対象の血行動態測定値をセンサから受け取ることであって、
前記階層型制御アーキテクチャシステムが、
a.少なくとも1つの下位レベル制御器及び
b.上位レベル論理制御器
を含み、
前記対象の血行動態測定値が前記上位レベル論理制御器及び前記少なくとも1つの下位レベル制御器によって受け取られ、
前記少なくとも1つの下位レベル制御器と前記上位レベル論理制御器とが互いに通信しており、
前記少なくとも1つの下位レベル制御器が、
a.前記対象の生理学的パラメータの現在の値を推定するための一組の動的観測器状態を含む動的観測器及び
b.一組の基底関数及び一組の重みを含む関数近似器を使用して前記対象の未知のダイナミクスを近似するダイナミカルシステム
を含むこと、
c)前記少なくとも1つのユーザ指定の注入速度に少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みの値を初期化すること、
d)前記一組の重みの現在の値と、前記一組の動的観測器状態と、前記血行動態測定値の現在の値とに少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みを更新すること、
e)前記少なくとも1つの下位レベル制御器により、前記対象の血行動態測定値と、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みとに少なくとも部分的に基づいて、改変注入速度を生成すること、
f)前記少なくとも1つの下位レベル制御器の少なくとも1つの性能基準に違反がある場合には、前記ユーザに通知し、前記少なくとも1つの下位レベル制御器を切り離すこと、
g)注入ポンプに送り、前記改変注入速度で前記輸液及び/又は薬を投与することにより、前記対象の血行動態測定値を調節すること、
を含む、方法。
【請求項18】
前記関数近似器が、シグモイド基底関数によるニューラルネットワークである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記少なくとも1つの性能基準の違反が、設定された時間間隔における前記対象の前記血行動態測定値と目標血行動態データとの差を設定閾値と比較することにより決定される、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器が、前記上位レベル論理制御器により最初にエンゲージされる第1の下位レベル制御器を含み、少なくとも1つの患者に関する性能基準に違反がある場合に、前記上位レベル論理制御器が自動的に第2の下位レベル制御器をエンゲージする、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記患者に関する性能基準が、前記1つ又は複数の輸液及び/又は心血管薬の投与中における前記対象の前記血行動態測定値の改善を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記上位レベル論理制御器が、前記改変注入速度が前記ユーザによって指定された安全範囲内にあることを確認し、前記安全範囲内にない場合には、前記上位レベル論理制御器が、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記一組の重みの少なくとも1つの値を変更する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
輸液及び/又は心血管薬の、コンピュータにより実行される、投与方法であって、
a)ユーザインターフェースを介して、少なくとも1つのユーザ指定の注入速度を受け取ること、
b)階層型制御アーキテクチャシステムにより対象の血行動態測定値をセンサから受け取ることであって、
前記階層型制御アーキテクチャシステムが、
a.少なくとも1つの下位レベル制御器及び
b.上位レベル論理制御器
を含み、
前記対象の血行動態測定値が前記上位レベル論理制御器及び前記少なくとも1つの下位レベル制御器によって受け取られ、
前記少なくとも1つの下位レベル制御器と前記上位レベル論理制御器とが互いに通信しており、
前記少なくとも1つの下位レベル制御器が、前記対象のダイナミカルシステムモデルに適合する内部ダイナミカルシステムモデルを有すること、
c)前記下位レベル制御器が前記少なくとも1つのユーザ指定の注入速度に等しい注入速度を生成するように、前記少なくとも1つのユーザ指定の注入速度に少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムモデルのパラメータを初期化すること、
d)前記血行動態測定値と、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムモデルの前記パラメータとに少なくとも部分的に基づいて、前記下位レベル制御器により、設定された時間間隔で新しい注入速度を生成すること、
e)前記少なくとも1つの下位レベル制御器の少なくとも1つの性能基準に違反がある場合には、前記ユーザに通知し、前記少なくとも1つの下位レベル制御器を切り離すこと、
f)前記新しい注入速度で前記対象に前記輸液及び/又は心血管薬を投与すること、
を含む、方法。
【請求項24】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記少なくとも1つの性能基準の違反が、設定された時間間隔における前記対象の前記血行動態測定値と目標血行動態データとの差を設定閾値と比較することにより決定される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムモデルが、一組の基底関数及び一組の重みを含む関数近似器を使用して、前記対象の体内の前記輸液及び/又は薬の分布を表す未知の関数を近似する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記関数近似器が、シグモイド基底関数によるニューラルネットワークである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記新しい注入速度が前記安全範囲外にある場合には、前記一組の重みの少なくとも1つの要素が新しい値にリセットされる、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器が、前記上位レベル論理制御器により最初にエンゲージされる第1の下位レベル制御器を含み、少なくとも1つの患者に関する性能基準に違反がある場合に、前記上位レベル論理制御器が自動的に第2の下位レベル制御器をエンゲージする、請求項23に記載の方法。
【請求項29】
前記患者に関する性能基準が、1つ又は複数の輸液及び/又は心血管薬の投与中における前記対象の血行動態測定値の改善を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムの前記パラメータの現在の値と、前記対象の前記血行動態測定値とに少なくとも部分的に基づいて、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムの前記パラメータを更新することにより、前記内部ダイナミカルシステムモデルが前記対象の前記ダイナミカルシステムモデルに適合する、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
前記上位レベル論理制御器が、前記新しい注入速度が前記ユーザによって指定された安全範囲内にあることを確認し、前記安全範囲内にない場合には、前記上位レベル論理制御器が、前記少なくとも1つの下位レベル制御器の前記内部ダイナミカルシステムモデルの少なくとも1つのパラメータ変更する、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
[001] 本願は、2017年5月12日に出願された米国仮特許出願第62/505,232号の利益を主張するものであり、この仮特許出願は全体として参照により本明細書に援用される。
【0002】
連邦政府の権利
[002] 本発明は、米国陸軍医学研究司令部(US Army Medical Research and Material Command)によるW81XWH-14-C-1385及び国立科学財団(National Science Foundation)によるIIP-1648292に基づく連邦政府の支援を受けて行われた。連邦政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
[003] 信頼性が高く、且つ一貫性のある輸液蘇生(即ち、輸液の静脈内投与)は、ヒト及び動物集団における周術期の及び集中治療室(ICU)での輸液管理に決定的に重要である。輸液蘇生の目標は、循環系の血液量を許容可能なレベルに回復させて十分な組織内灌流を確保することである。しかしながら、患者内及び患者間で生理学的パラメータのばらつきが大きく、且つ様々な病気及び薬物治療の効果があるため、患者の蘇生不足及び過剰蘇生が起こり得る。
【0004】
参照による援用
[004] 本願に引用される各特許、刊行物、及び非特許文献は、各々が個別に参照により援用されたものとして本明細書によって全体として参照により援用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
[005] 一部の実施形態において、本開示は、輸液蘇生及び/又は心血管薬投与方法を提供し、この方法は、a)対象への輸液及び/又は心血管薬の注入速度をある注入速度で開始すること;b)階層型制御アーキテクチャシステムにより対象に取り付けられた少なくとも1つの医用モニタリング装置から対象の血行動態センサデータを受け取ることであって、階層型制御アーキテクチャシステムが、少なくとも1つの適応制御器と;論理型制御器とを含み;対象の血行動態データが論理型制御器及び少なくとも1つの適応制御器によって受け取られ、少なくとも1つの適応制御器と論理型制御器とが互いに通信していること;c)少なくとも1つの適応制御器により、対象の血行動態データ、過去の注入速度、並びに少なくとも1つの適応制御器の内部パラメータ及び状態に基づき改変注入速度を生成すること;d)論理型制御器により、少なくとも1つの適応制御器の動作を支配する規則に対象の血行動態データ及び少なくとも1つの適応制御器状態が違反していないことを確認すること;e)改変注入速度を論理型制御器から少なくとも1つの注入ポンプに送ること;f)1つ又は複数の注入速度を受け取り次第、少なくとも1つの注入ポンプにより、輸液及び/又は心血管薬を1つ又は複数の改変注入速度で対象に自動的に投与すること;及びg)設定された時間間隔でステップb)~f)を繰り返すことを含む。
【0006】
[006] 一部の実施形態において、本開示は、輸液蘇生及び/又は心血管薬投与臨床意思決定支援方法を提供し、この方法は、a)ユーザに輸液及び/又は心血管薬の初期注入速度を提供するよう要求すること;b)階層型制御アーキテクチャシステムにより対象に取り付けられた少なくとも1つの医用モニタリング装置から対象の血行動態センサデータを受け取ることであって、階層型制御アーキテクチャシステムが、少なくとも1つの適応制御器と;論理型制御器とを含み;対象の血行動態データが論理型制御器及び少なくとも1つの適応制御器によって受け取られ、少なくとも1つの適応制御器と論理型制御器とが互いに通信していること;c)少なくとも1つの適応制御器により、対象の血行動態データ、過去の注入速度、並びに少なくとも1つの適応制御器の内部パラメータ及び状態に基づき改変注入速度を生成すること;d)論理型制御器により、少なくとも1つの適応制御器の動作を支配する規則に血行動態データ及び少なくとも1つの適応制御器状態が違反していないことを確認すること;e)論理型制御器により、改変注入速度がユーザに通知するための必要条件を満たすかどうかを確認し、満たさない場合には注入速度を前の値のままにしておくこと;f)ステップe)において改変注入速度が必要条件を満たす場合には少なくとも1つの適応制御器からの改変注入速度を表示すること;g)ユーザに改変注入速度を承認するか、又は新しい注入速度を1つ又は複数の別の値に変更するかのいずれかを行うよう要求すること;及びh)設定された時間間隔でステップb)~g)を繰り返すことを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図面の簡単な説明
図1】[007]パネルAは、非熱傷患者の体内における輸液交換の2コンパートメントモデルを示す。パネルBは、熱傷患者用の微小血管交換システムの3コンパートメントモデルを示す。パネルCは、体内の心血管薬交換の2コンパートメントモデルを示す。
図2】[008]パネルAは、完全に自動化された閉ループ輸液蘇生又は心血管薬投与システムの全体的なアーキテクチャを示す。パネルBは、完全に自動化された閉ループ輸液蘇生及び心血管薬投与システムの全体的なアーキテクチャを示す。
図3】[009]パネルAは、部分的に自動化された(臨床意思決定支援)輸液蘇生又は心血管薬投与システムの全体的なアーキテクチャを示す。パネルBは、部分的に自動化された(臨床意思決定支援)輸液蘇生及び心血管薬投与システムの全体的なアーキテクチャを示す。
図4】[010]パネルAは、完全に自動化された閉ループ輸液蘇生又は心血管薬投与システムの構成要素を示す。パネルBは、完全に自動化された閉ループ輸液蘇生及び心血管薬投与システムの構成要素を示す。
図5】[011]パネルAは、部分的に自動化された臨床意思決定支援輸液蘇生又は心血管薬投与システムの構成要素を示す。パネルBは、部分的に自動化された臨床意思決定支援輸液蘇生及び心血管薬投与システムの構成要素を示す。
図6】[012]下位レベル適応制御アーキテクチャのフローチャートを示す。
図7】[013]時間に対する一回拍出量変化量を示す。
図8】[014]適応制御フレームワークによって計算される輸液注入速度を示す。
図9】[015]時間に対する循環血漿量を示す。
図10】[016]止血可能な出血を起こしている2匹のイヌ対象におけるフィルタリング後SVV(%)の変化を示す。
図11】[017]止血可能な出血を起こしている2匹のイヌ対象における注入速度の変化を示す。
図12】[018]止血不能の出血を起こしている3匹のイヌ対象におけるフィルタリング後SVV(%)の変化を示す。
図13】[019]止血不能の出血を起こしている3匹のイヌ対象における注入速度の変化を示す。
図14】[020]ニトロプルシドナトリウムの投与(S4-1)及びイソフルランの増加(S5-1)の結果として低血圧であった2匹のイヌ対象におけるフィルタリング後SVV(%)の変化を示す。
図15】[021]ニトロプルシドナトリウムの投与(S4-1)及びイソフルランの増加(S5-1)の結果として低血圧であった2匹のイヌ対象における注入速度の変化を示す。
図16】[022]閉ループ輸液蘇生システム用の上位レベル制御器の構成要素を示す。
図17】[023]臨床意思決定支援ケース用の上位レベル制御器の構成要素を示す。
図18】[024]時間に対する平均動脈圧を示す。
図19】[025]適応制御フレームワークによって計算される心血管薬注入速度を示す。
図20】[026]時間に対する平均動脈圧を示す。
図21】[027]適応制御フレームワークによって計算される輸液注入速度を示す。
図22】[028]時間に対する一回拍出量変化量を示す。
図23】[029]輸液蘇生適応制御フレームワークによって計算される輸液注入速度を示す。
図24】[030]時間に対する平均動脈圧を示す。
図25】[031]心血管薬投与適応制御フレームワークによって計算される昇圧薬注入速度を示す。
図26】[032]ハードウェアに実装された輸液蘇生及び心血管薬投与システムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
[033] 信頼性が高く、且つ一貫性のある輸液蘇生(即ち、輸液の静脈内投与)は、ヒト及び動物集団における周術期の及び集中治療室(ICU)での輸液管理に決定的に重要である。輸液管理は、外科患者並びに循環血液量減少、敗血症、重症敗血症、敗血症性ショック、熱傷、及び他の病態に罹患している患者に必要である。輸液蘇生の目標は、十分な組織内灌流(即ち、組織への血液供給)を確保するため、循環系の血液量を許容可能なレベルに回復させることである。しかしながら、患者内及び患者間で生理学的パラメータのばらつきが大きく、且つ様々な病気及び薬物治療の効果があるため、患者の蘇生不足及び過剰蘇生が起こり得る。
【0009】
[034] 蘇生不足は循環血液量減少を招き、それが低灌流及び臓器不全につながり得る。過剰蘇生は輸液の過負荷を招き、それが肺水腫などの合併症につながり得る。輸液の過負荷は高い罹患率及び死亡率に関連する。制限的な輸液蘇生プロトコルは機械的換気日数及び入院期間を短縮する。
【0010】
[035] 臨床病態に対処するため、独立して心血管薬投与を使用することができる(例えば、血圧を臨床的に許容可能な値に上昇させるため昇圧薬が使用され、又は心臓の収縮性を変化させるため変力作用剤が使用される)。昇圧薬などの心血管薬は、低血圧患者の救命救急ケアにおいては輸液と独立に投与される。心血管薬はまた、輸液蘇生と併用して使用することもできる。例えば、敗血症及び外科手術時の低血圧症及び循環血液量減少に対処するため、昇圧薬及び輸液を同時に投与することができる。
【0011】
[036] 本開示は、信頼性が高く、且つ一貫性のある閉ループ輸液蘇生システム、臨床意思決定支援輸液蘇生システム、閉ループ心血管薬投与システム、臨床意思決定支援心血管薬投与システム、閉ループ輸液及び心血管薬投与システム、及び臨床意思決定支援輸液及び心血管薬投与システムについて記載する。本システムは標準的な手術室(OR)又はICU血行動態モニタリング装置若しくはセンサ又は内蔵若しくは増設モジュールからの連続測定値を使用してかかる連続尺度を測定し、持続注入を受けている患者に必要な輸液及び/又は心血管薬注入速度を計算する。限定はされないが、輸液蘇生モジュールについての輸液応答性の静的指標及び輸液応答性の動的指標、及び心血管薬投与モジュールについての血行動態尺度を含めた輸液又は薬物投与のエンドポイントを調節するために必要な注入速度の計算には、適応制御アーキテクチャが用いられる。一部の実施形態において、輸液応答性の静的指標には、患者の平均動脈圧、中心静脈圧、心拍数、心拍出量、一回拍出量、心係数、及び尿排出率が含まれる。一部の実施形態において、輸液応答性の動的指標には、患者の一回拍出量変化量、脈圧変化量、収縮期圧変化量、動的動脈エラスタンス、及び脈波変動指数が含まれる。一部の実施形態において、血行動態尺度には、平均動脈圧、中心静脈圧、収縮期圧、拡張期圧、心拍数、心拍出量、心係数、全身血管抵抗、一回拍出量、及び尿排出量が含まれる。本明細書に記載される閉ループ輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは、ニューラルネットワーク、フーリエ関数、又はウェーブレットなどの関数近似器を使用して患者の未知のダイナミクス及び生理学的パラメータを同定することにより、適切な注入速度を計算し、輸液蘇生又は心血管薬投与のエンドポイントを調節する適応制御器又は2つの適応制御器を含む。
【0012】
[037] 開発された輸液蘇生システムは、蘇生時にクリスタロイド又はコロイドのいずれも使用することができ、及び血管作動性心血管薬(例えば昇圧薬)又は変力作用剤を使用することができる。輸液注入速度(例えば、mL/h単位)は患者の必要性に大きく依存する。一部の実施形態において、輸液注入速度はヒトにおいて0~3,000mL/hr又はそれ以上の範囲、及び動物において0~40,000mL/h又はそれ以上の範囲であってもよい。心血管薬注入速度(例えば、mcg/kg/min単位)は患者の必要性に大きく依存する。一部の実施形態において、心血管薬注入速度(例えば、昇圧薬又は変力作用剤)は0mcg/kg/min~40mcg/kg/minの範囲であってもよく、又は40mcg/kg/minを超えてもよい。
【0013】
輸液分布を特徴付けるためのコンパートメントモデリング
[038] 本開示は、微小血管交換システムをモデル化して体内の輸液分布を特徴付ける。
【0014】
[039] 熱傷傷害を有する患者を除く全ての患者集団に2コンパートメント動的システムモデルを使用する。2コンパートメント動的システムモデルのコンパートメントには循環(血液)及び間質組織が含まれる。動的システムの4次非線形状態空間モデル表現が、非熱傷患者についての微小血管交換システムの簡略化されたモデルを提供することができる。2コンパートメント動的システムの状態には、各コンパートメントにおける輸液容積及びアルブミン質量が含まれる(合計4状態)。
【0015】
[040] 3コンパートメントモデルは、熱傷傷害を有する患者に使用される。3コンパートメント動的システムモデルの状態には、循環(血液)、傷害組織、及び非傷害組織が含まれる。動的システムの6次非線形状態空間モデル表現が、熱傷患者についての微小血管交換システムの簡略化されたモデルを提供することができる。3コンパートメント動的システムの状態には、各コンパートメントにおける輸液容積及びアルブミン質量が含まれる(合計6状態)。
【0016】
[041] 微小血管交換システムの2コンパートメント及び3コンパートメントモデルのパラメータが、異なるコンパートメント間の輸液及び質量交換を特徴付ける。これらのパラメータは概して未知であり、患者毎に異なる。
【0017】
[042] 図1パネルAは、非熱傷患者の体内における輸液交換の2コンパートメントモデルを示す。図1パネルBは、熱傷患者についての微小血管交換システムの3コンパートメントモデルを示す。
【0018】
[043] 一部の実施形態において、より大きい数のコンパートメントを使用して患者集団の微小血管交換システムがモデル化される。一部の実施形態において、モデル動的システムは、2、3、4、又は5コンパートメントからなる。一部の実施形態において、1、2、3、又は4コンパートメント動的システムモデルが患者集団に使用される。一部の実施形態において、2コンパートメント動的システムモデルが患者集団に使用される。一部の実施形態において、3コンパートメント動的システムモデルが患者集団に使用される。一部の実施形態において、4コンパートメント動的システムモデルが患者集団に使用される。
【0019】
心血管薬分布を特徴付けるためのコンパートメントモデリング
[044] 本開示は、コンパートメントモデルを用いて体内の心血管薬分布をモデル化する。
【0020】
[045] 心血管薬分布は、2コンパートメントモデルを使用してモデル化することができる。2コンパートメント動的システムモデルのコンパートメントには循環(血液)及び組織が含まれる。動的システムの2次非線形状態空間モデル表現が、患者についての心血管薬分布の簡略化されたモデルを提供することができる。2コンパートメント動的システムの状態には、各コンパートメントにおける心血管薬の濃度が含まれる。
【0021】
[046] 心血管薬分布の2コンパートメントモデルのパラメータが、異なるコンパートメント間の心血管薬質量交換を特徴付ける。これらのパラメータは概して未知であり、患者毎に異なる。図1パネルCは、体内の心血管薬分布の2コンパートメントモデルを示す。
【0022】
[047] 一部の実施形態において、より大きい数のコンパートメントを使用して患者の心血管薬分布がモデル化される。一部の実施形態において、モデル動的システムは、2、3、4、又は5コンパートメントからなる。一部の実施形態において、1、2、3、又は4コンパートメント動的システムモデルが患者集団に使用される。一部の実施形態において、2コンパートメント動的システムモデルが患者集団に使用される。一部の実施形態において、3コンパートメント動的システムモデルが患者集団に使用される。一部の実施形態において、4コンパートメント動的システムモデルが患者集団に使用される。
【0023】
閉ループシステム又は臨床意思決定支援システム用の輸液注入速度及び/又は心血管薬注入速度の計算方法
[048] 本開示は、閉ループ輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システム用の適応制御アーキテクチャフレームワークを提供する。本開示の輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは、1つのモニタリングシステム又は一組のモニタリングシステムからデータを受け取る。一部の実施形態において、輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは1つ又は複数の既存のモニタリングシステムからデータを受け取る。一部の実施形態において、輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは1つ又は複数の内蔵モニタリングシステムからデータを受け取る。一部の実施形態において、輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは1つ又は複数の増設モニタリングシステムからデータを受け取る。
【0024】
[049] 受け取られるデータは、血圧、心拍数、一回拍出量変化量、脈圧変化量、動的動脈エラスタンス、脈波変動指数、尿排出率、収縮期圧変化量、中心静脈圧、平均動脈圧、心拍出量、心係数、収縮期圧、拡張期圧、全身血管抵抗、又は一回拍出量のうちの1つを含む。一部の実施形態において、受け取られるデータは、血圧、心拍数、一回拍出量変化量、脈圧変化量、動的動脈エラスタンス、脈波変動指数、尿排出率又は尿排出量、収縮期圧変化量、中心静脈圧、平均動脈圧、心拍出量、心係数、収縮期圧、拡張期圧、全身血管抵抗、又は一回拍出量の組み合わせを含む。一部の実施形態において、1つ又は複数の内蔵又は増設モニタリングシステムが使用され、入力データには、血圧測定用カフを使用して患者の腕又は脚から収集された観血血圧信号又は非観血血圧信号のうちの一方又は組み合わせが含まれる。
【0025】
[050] 開示される輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは、データを1つの受信器又は一組の受信器に送信することができる。一部の実施形態において、開示される輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは、データを1つ又は複数の外部若しくは内蔵注入ポンプ、ユーザ、電子カルテ、又は遠隔地に送信することができる。一部の実施形態において、開示される輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは、データを受信器の組み合わせに送信することができる。一部の実施形態において、開示される輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムは、データを1つ又は複数の注入ポンプ及び1人又は複数のユーザに送信することができる。一部の実施形態において、開示される輸液蘇生システムは、データを1つ又は複数の注入ポンプ、1人又は複数のユーザ、及び電気的診療記録に送信することができる。一部の実施形態において、開示される輸液蘇生システムは、データを1つ又は複数の注入ポンプ、1人又は複数のユーザ、電子カルテ、及び遠隔地に送信することができる。
【0026】
[051] 本開示の適応アーキテクチャは、完全に自動化されたアーキテクチャ又は部分的に自動化されたアーキテクチャに実装されてもよい。
【0027】
[052] 完全自動化:一部の実施形態において、本開示の適応アーキテクチャは完全に自動化されたアーキテクチャに実装され、ここでは1つの注入ポンプの1つの注入速度又は複数の注入ポンプの複数の注入速度が1つ又は複数の注入速度の最新の値を使用して自動的に更新される。
【0028】
[053] 部分的自動化(臨床意思決定支援とも称される):一部の実施形態において、本開示の適応アーキテクチャは部分的に自動化されたアーキテクチャに実装される。一部の実施形態において、本開示のフレームワークは臨床意思決定支援のコンテクストの範囲内で使用され、ここでは推奨される注入速度がエンドユーザ(臨床医)に承認のため表示される。一部の実施形態において、本システムは、1つ又は複数のポンプの注入速度を変更する前に承認を求めることができる。一部の実施形態において、エンドユーザは推奨注入速度の変更を用いて、その臨床的判断及び臨床意思決定支援システムによって提供される推奨に基づき1つ又は複数のポンプ上の注入速度を手動で変更することができる。一部の実施形態において、エンドユーザは、推奨注入速度を承諾したか、それとも拒否したかを入力することができる。一部の実施形態において、エンドユーザは1つ又は複数の手動で変更される新しい注入速度を入力することができる。一部の実施形態において、本システムは、ユーザが1つ又は複数の推奨注入速度を承認又は修正した後に1つの注入ポンプの1つの注入速度又は1つの注入ポンプの複数の注入速度を自動的に変更することができる。
【0029】
本開示のアーキテクチャ
[054] 本開示は、患者モニタリング装置、内蔵モニタリング装置、増設モニタリングモジュール、又はセンサからの入力に基づき好適な注入速度を決定することが可能である。注入速度は、患者モニタリング装置、内蔵モニタリング装置、増設モニタリングモジュール、又はセンサからの入力に基づき調整され得る。本開示の適応制御フレームワークは、いかなる患者特異的情報(例えば、年齢、性別、体重、診断)も必要としない。更に、本フレームワークは患者ダイナミクス及び患者特異的生理学的パラメータの正確なモデルを必要としない。
【0030】
[055] 本開示は、階層型適応制御アーキテクチャに基礎を置く閉ループ又は臨床意思決定支援輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムについて記載する。一部の実施形態において、階層型制御アーキテクチャは1つ又は2つの下位レベル適応制御器と上位レベル論理型制御器とで構成される。一部の実施形態において、上位レベル論理型制御器はルールベースエキスパートシステムである。
【0031】
[056] 本システムが輸液蘇生に使用される場合、階層型制御アーキテクチャは適応制御器輸液モジュールと上位レベル論理型制御器とで構成される。本システムが心血管薬投与のみに使用される場合、階層型制御アーキテクチャは適応制御器心血管薬モジュールと上位レベル論理型制御器とで構成される。本システムが輸液蘇生及び心血管薬投与に使用される場合、階層型制御アーキテクチャは適応制御器輸液モジュールと適応制御器心血管薬モジュールと上位レベル論理型制御器とで構成される。
【0032】
[057] 輸液蘇生に焦点を置く下位レベル制御器は、適応制御フレームワークを使用して輸液注入速度を調整することにより輸液応答性の尺度を所望の値に調節する。一部の実施形態において、下位レベル制御器は、平均動脈圧、収縮期圧、拡張期圧又は輸液応答性の尺度、例えば、一回拍出量変化量、脈波変動指数、脈圧変化量、動的動脈エラスタンス、中心静脈圧、尿排出率又は尿排出量(urinte output)、又は収縮期圧変化量を含めたものを調節することができる。この下位レベル制御器の目標は輸液応答性の尺度を所望の値に調節することであるが、制御器は、所望の値に近い測定値を(幾らかの誤差を伴い)実現し得る。この誤差の値を調整するように下位レベル制御器設計パラメータを変更することができる。
【0033】
[058] 心血管薬投与に焦点を置く下位レベル制御器は、適応制御フレームワークを使用して心血管薬注入速度を調整することにより血行動態尺度を所望の値に調節する。一部の実施形態において、下位レベル制御器は、平均動脈圧、収縮期圧、拡張期圧、心拍数、心拍出量、一回拍出量、全身血管抵抗、又は心係数を調節することができる。一部の実施形態において、投与される心血管薬は昇圧薬であり、下位レベル制御器は、平均動脈圧、収縮期圧、全身血管抵抗、又は拡張期圧を調節することができる。一部の実施形態において、投与される心血管薬は変力作用剤であり、下位レベル制御器は、心拍出量、心係数、平均動脈圧、全身血管抵抗、又は心拍数を調節することができる。一部の実施形態において、投与される心血管薬は変周期作用剤であり、下位レベル制御器は心拍数又は心拍出量を調節することができる。この下位レベル制御器の目標は血行動態尺度を所望の値に調節することであるが、制御器は、所望の値に近い測定値を(幾らかの誤差を伴い)実現し得る。この誤差の値を調整するように下位レベル制御器設計パラメータを変更することができる。
【0034】
[059] 上位レベル論理型制御器の役割は、システムが輸液蘇生及び/又は心血管薬投与の完全自動化に使用されるか、それとも部分的自動化に使用されるかに応じて異なる。上位レベル論理型制御器は、1つ又は複数の下位レベル適応制御器の性能及び療法に対する患者の応答をモニタする。輸液管理の場合、輸液応答性又は組織内灌流の尺度(例えば、平均動脈圧、一回拍出量変化量、脈圧変化量、収縮期圧変化量、動的動脈エラスタンス、脈波変動指数等)がモニタされ、心血管薬投与の場合、血行動態機能の尺度(例えば、平均動脈圧、心拍数等)がモニタされる。特定の性能基準に違反があった場合、上位レベル制御器は1つ又は複数の下位レベル制御器を「切り離す」ことができ(システムが輸液蘇生の完全自動化に使用される場合)、又は上位レベル制御器が提案される注入速度の提供を停止することになり、エンドユーザに警告することになる(システムが輸液蘇生の部分的自動化に使用される場合)。アーカイブのため、上位レベル制御器によってタイムスタンプ、注入速度及び測定データが内部又は外部データベースに送られてもよい。
【0035】
[060] 上位レベル制御器はまた、各下位レベル制御器をエンゲージするタイミングも決定することができる。一部の実施形態において、上位レベル制御器は初めに輸液蘇生モジュールをエンゲージし、所定期間後に何らかの性能基準が満たされない場合、薬物投与モジュールもまたエンゲージする。上位レベル制御器は(臨床意思決定支援において)また、いつユーザに通知すべきかも決定することができる。一部の実施形態において、上位レベル制御器は、下位レベル制御器によって新しく計算された注入速度と直近のユーザ承認済み注入速度との差が何らかの閾値よりも高い場合に限りユーザに通知する。
【0036】
[061] 一部の実施形態において、部分的自動化適用では、上位レベル制御器は、エンドユーザ応答(提案された注入速度を承諾又は拒否する)を使用して下位レベル制御器の内部状態を更新することができる。加えて、完全自動化及び部分的自動化の両方で、上位レベル制御器は、計算された注入速度がエンドユーザによって定義された「安全」範囲外にある場合、1つ又は複数の下位レベル制御器の内部状態を変更することができる。一部の実施形態において、下位レベル制御器によって計算された注入速度が最大許容注入速度を超える場合、上位レベル制御器は制御器の内部パラメータ及び変数をプリセットデフォルト値にリセットする。
【0037】
[062] 上位レベル制御器はまた、輸液蘇生後特定の期間が経った後に患者の目的の血行動態変数が改善されない場合、ユーザに心血管薬投与モジュールをエンゲージするよう推奨を提供することもできる。一部の実施形態において、上位レベル制御器はユーザに初めに輸液蘇生モジュールをエンゲージするよう要求し、所定期間後に何らかの性能基準が満たされない場合、ユーザに薬物投与モジュールをエンゲージするよう要求する。一部の実施形態において、上位レベル制御器はユーザに初めに心血管薬投与モジュールをエンゲージするよう要求し、所定期間後に何らかの性能基準が満たされない場合、ユーザに輸液蘇生モジュールをエンゲージするよう要求する。
【0038】
[063] 図2パネルAは、本開示の完全に自動化された閉ループ輸液蘇生システム又は完全に自動化された閉ループ心血管薬投与システムの全体的なアーキテクチャを示す。センサ(例えば、血行動態モニタ)が下位レベル制御器及び上位レベル制御器にデータを送る。上位レベル制御器が、センサからの測定値、下位レベル制御器の内部状態、及び下位レベル制御器によって計算された注入速度(これは上位レベル制御器によって注入ポンプに送られる)をモニタすることにより、下位レベル制御器の性能及び輸液又は心血管薬に対する患者の応答をモニタする。下位レベル制御器は上位レベル論理制御器とデータを送受することができる。
【0039】
[064] 上位レベル制御器は下位レベル制御器とデータを送受することができる。ヒトユーザ(臨床医)はユーザインターフェースを介して閉ループシステムと対話することにより、測定値の目標値を設定し(例えば、13%の目標一回拍出量変化量を設定する、又は65mmHgの平均動脈圧を設定する)、「安全」注入速度範囲(例えば、輸液について0~3,000mL/hr又は昇圧薬について0~0.5mcg/kg/min)を設定し、システムを開始及び停止し、又はセンサ信号が失われた場合にバックアップ注入速度(例えば、輸液について1,000mL/hr又は昇圧薬について0.2mcg/kg/min)を設定することができる。下位レベル制御器は、センサ又は血行動態モニタリング装置(外部又は内蔵)から受け取った患者のデータを処理し、計算された注入速度を上位レベル制御器に送る。上位レベル制御器は、注入速度が全ての必要条件を満たしている(例えば、それが安全範囲内にある)ことを確かめ、満たしている場合、注入ポンプ(外部又は内蔵)に命令を送り、注入ポンプが輸液又は心血管薬を患者に投与する。
【0040】
[065] 図2パネルBは、本開示の完全に自動化された閉ループ輸液蘇生システム及び心血管薬投与システムの全体的なアーキテクチャを示す。このシステムでは、閉ループシステムが輸液及び心血管薬の両方を同時に提供する。1つ又は2つのセンサ(例えば、血行動態モニタ及びバイタルサインモニタ)が下位レベル制御器輸液モジュール及び下位レベル制御器心血管薬モジュール及び上位レベル制御器にデータを送る。上位レベル制御器が、センサからの測定値、下位レベル制御器の内部状態、及び下位レベル制御器によって計算された注入速度(これは上位レベル制御器によって2つの異なる注入ポンプ:輸液注入ポンプ及び心血管薬注入ポンプに送られる)をモニタすることにより、下位レベル制御器の性能並びに輸液及び心血管薬に対する患者の応答をモニタする。下位レベル制御器は上位レベル論理制御器とデータを送受することができる。
【0041】
[066] 上位レベル制御器は下位レベル制御器とデータを送受することができる。ヒトユーザ(臨床医)はユーザインターフェースを介して閉ループシステムと対話することにより、1つ又は複数の測定値の目標値を設定し(例えば、13%の目標一回拍出量変化量及び65mmHgの平均動脈圧を設定する)、「安全」注入速度範囲(例えば、輸液について0~3,000mL/hr及び昇圧薬について0~0.5mcg/kg/min)を設定し、システムを開始及び停止し、又はセンサ信号が失われた場合にバックアップ注入速度(例えば、輸液について1,000mL/hr及び昇圧薬について0.2mcg/kg/min)を設定することができる。下位レベル制御器は、1つ以上のセンサ又は血行動態モニタリング装置(外部又は内蔵)から受け取った患者のデータを処理し、計算された注入速度を上位レベル制御器に送る。上位レベル制御器は、注入速度が全ての必要条件を満たしている(例えば、それが安全範囲内にある)ことを確かめ、満たしている場合、注入ポンプ(外部又は内蔵)に命令を送り、注入ポンプが輸液及び心血管薬を患者に投与する。下位レベル輸液モジュール及び下位レベル心血管薬投与モジュールによって使用されるセンサからの測定データは同じであってもよく(例えば、両方のモジュールについて平均動脈圧)、又は異なってもよい(例えば、輸液モジュールについて一回拍出量変化量及び心血管薬モジュールについて平均動脈圧)。
【0042】
[067] 図3パネルAは、本開示の部分的に自動化された(臨床意思決定支援)輸液蘇生又は心血管薬投与システムの全体的なアーキテクチャを示す。モニタリング装置又はセンサ(例えば、血行動態モニタ、バイタルサインモニタ、尿比重計等)が下位レベル制御器及び上位レベル制御器にデータを送る。上位レベル制御器が、センサからの測定値、下位レベル制御器の内部状態、及び下位レベル制御器によって計算された注入速度及びヒトユーザ(臨床医)が行うアクションをモニタすることにより、下位レベル制御器の性能及び輸液又は心血管薬に対する患者の応答をモニタする。下位レベル制御器は上位レベル論理制御器とデータを送受することができる。上位レベル制御器は下位レベル論理制御器とデータを送受することができる。
【0043】
[068] ヒトユーザはユーザインターフェースを介して部分的に自動化された(臨床意思決定支援)システムと対話することにより、測定値の目標値を設定し(例えば、13%の目標一回拍出量変化量を設定する、又は65mmHgの目標平均動脈圧を設定する)、「安全」注入速度範囲(例えば、輸液について0~3,000mL/hr又は昇圧薬について0~0.5mcg/kg/min)を設定し、及びシステムを開始及び停止することができる。下位レベル制御器は、センサ又は血行動態モニタリング装置(外部又は内蔵)から受け取った患者のデータを処理し、推奨注入速度をユーザインターフェースに送って表示させることができる。次にヒトユーザは、推奨速度を承諾するか、又は許容可能な値に変更するかのいずれかを行うことができる。次にヒトユーザはポンプ上の注入速度を手動で変更するか(ポンプが内蔵でないか、又はシステムに有線若しくは無線接続によって接続されていないポンプの場合)、又は注入速度を変更するようシステムに命令することができる(内蔵又はシステムに有線若しくは無線接続で接続されているポンプについて)。
【0044】
[069] 図3パネルBは、本開示の部分的に自動化された(臨床意思決定支援)輸液蘇生及び心血管薬投与システムの全体的なアーキテクチャを示す。このアーキテクチャでは、輸液と心血管薬とは同時に投与される。1つのモニタリング装置若しくはセンサ又は2つモニタリング装置及びセンサ(例えば、血行動態モニタ、バイタルサインモニタ、尿比重計)が下位レベル制御器輸液モジュール及び下位レベル制御器心血管薬モジュール及び上位レベル制御器にデータを送る。上位レベル制御器が、1つ又は複数のセンサからの測定値、下位レベル制御器の内部状態、及び下位レベル制御器によって計算された注入速度及びヒトユーザ(臨床医)が行うアクションをモニタすることにより、下位レベル制御器の性能並びに輸液及び心血管薬に対する患者の応答をモニタする。下位レベル制御器は上位レベル論理制御器とデータを送受することができる。上位レベル制御器は下位レベル論理制御器とデータを送受することができる。
【0045】
[070] ヒトユーザはユーザインターフェースを介して部分的に自動化された(臨床意思決定支援)システムと対話することにより、1つ又は複数の測定値の目標値を設定し(例えば、13%の目標一回拍出量変化量を設定する、及び65mmHgの目標平均動脈圧を設定する)、「安全」注入速度範囲(例えば、輸液について0~3,000mL/hr及び昇圧薬について0~0.5mcg/kg/min)を設定し、並びにシステムを開始及び停止することができる。下位レベル制御器は、1つ以上のセンサ又は血行動態モニタリング装置(外部又は内蔵)から受け取った患者のデータを処理し、推奨注入速度をユーザインターフェースに送って表示させることができる。次にヒトユーザは、推奨速度を承諾するか、又は許容可能な値に変更するかのいずれかを行うことができる。次にヒトユーザは、ポンプが内蔵でないか、又はポンプがシステムに有線若しくは無線接続によって接続されていない場合、ポンプ上の注入速度を手動で変更することができる。ヒトユーザはまた、内蔵ポンプ又は有線若しくは無線接続によって接続されているポンプの注入速度を変更するようシステムに手動で命令することもできる。
【0046】
[071] 図4パネルAは、本開示の完全に自動化された閉ループ輸液蘇生又は心血管薬投与システムの構成要素を示す。血行動態モニタ又はセンサが患者のデータをセンサ測定値データベースに送る。下位レベル制御器に埋め込まれている注入速度計算エンジンがセンサ測定値を取得し、注入速度を計算する。注入速度(及び対応するセンサ測定値)は注入速度データベースと通信する。注入速度計算エンジンは注入速度データベース及び注入速度確認システムにデータを送ることができる。上位レベル論理型制御器に埋め込まれている注入速度確認システムは、計算された速度が必要条件を満たすことを確かめ、許容可能な場合、新しく計算された注入速度を注入ポンプ制御器に送る。次に注入ポンプ制御器が注入ポンプの注入速度を自動的に変更して、注入ポンプ制御器が受け取った命令に基づき所定量の輸液又は心血管薬を投与する。
【0047】
[072] 図4パネルBは、本開示の完全に自動化された閉ループ輸液蘇生及び心血管薬投与システムの構成要素を示す。システム全体は、2つのサブシステム:輸液管理用サブシステム及び心血管薬管理用サブシステムで構成される。各サブシステムにおいて、血行動態モニタ又はセンサが患者のデータをセンサ測定値データベースに送る。下位レベル制御器に埋め込まれている注入速度計算エンジンがセンサ測定値を取得し、注入速度を計算する。注入速度及び対応するセンサ測定値は注入速度データベースと通信する。注入速度計算エンジンは注入速度データベース及び注入速度確認システムにデータを送ることができる。上位レベル論理型制御器に埋め込まれている注入速度確認システムは、計算された速度が必要条件を満たすことを確かめ、許容可能な場合、新しく計算された注入速度を注入ポンプ制御器に送る。次に注入ポンプ制御器が注入ポンプの注入速度を自動的に変更して、注入ポンプ制御器が受け取った命令に基づき所定量の輸液又は心血管薬を投与する。
【0048】
[073] 図5パネルAは、本開示の部分的に自動化された臨床意思決定支援輸液蘇生又は心血管薬投与システムの構成要素を示す。血行動態モニタ又はセンサが患者のデータをセンサ測定値データベースに送る。下位レベル制御器に埋め込まれている注入速度計算エンジンがセンサ測定値を取得し、注入速度を計算する。注入速度及び対応するセンサ測定値は注入速度データベースと通信する。注入速度計算エンジンは、上位レベル論理型制御器に埋め込まれている注入速度確認システムにデータを送る。注入速度確認システムは、ユーザに注入速度の大幅な変更を通知するための必要条件を含め、計算された速度が必要条件を満たすことを確かめ、許容可能な場合、ユーザインターフェースを用いて臨床医に通知する。推奨される新しい注入速度が臨床医に提示され、臨床医はその推奨注入速度を承認するか、又は臨床医の定性的判断に基づき速度の修正を依頼するかのいずれかを行う。承認又は修正された注入速度は、臨床医が承認した注入速度をアーカイブするデータベースに送られる。臨床医は、ポンプが内蔵でないか、又はポンプがシステムに有線若しくは無線接続によって接続されていない場合、注入速度を手動で変更することのいずれかにより、承認又は修正された輸液又は心血管薬を投与する。臨床医はまた、ポンプが内蔵であるか、又はポンプがシステムに有線若しくは無線接続によって接続されている場合、注入速度を承認された値に変更するようシステムに命令することもできる。
【0049】
[074] 図5パネルBは、本開示の部分的に自動化された臨床意思決定支援輸液蘇生及び心血管薬投与システムの構成要素を示す。システム全体は、2つのサブシステム:輸液管理用サブシステム及び心血管薬管理用サブシステムで構成される。各サブシステムにおいて、血行動態モニタ又はセンサが患者のデータをセンサ測定値データベースに送る。注入速度計算エンジンがセンサ測定値を取得し、注入速度を計算する。注入速度及び対応するセンサ測定値は注入速度データベースと通信する。下位レベル制御器に埋め込まれている注入速度計算エンジンが注入速度確認システムにデータを送ることができる。上位レベル論理型制御器に埋め込まれている注入速度確認システムは、ユーザに注入速度の大幅な変更を通知するための必要条件を含め、計算された速度が必要条件を満たすことを確かめ、許容可能な場合、ユーザインターフェースを用いて臨床医に通知する。推奨される新しい注入速度が臨床医に提示され、臨床医はその推奨注入速度を承認するか、又は臨床医の定性的判断に基づき速度の修正を依頼するかのいずれかを行う。承認又は修正された注入速度は、臨床医が承認した注入速度をアーカイブするデータベースに送られる。臨床医は、ポンプが内蔵でないか、又は有線若しくは無線接続によってシステムに接続されていないポンプの場合、注入速度を手動で変更することにより、承認又は修正された輸液及び心血管薬を投与する。臨床医はまた、ポンプが内蔵であるか、又はポンプがシステムに有線若しくは無線接続によって接続されている場合、注入速度を承認された値に変更するようシステムに命令することにより、承認又は修正された輸液及び心血管薬を投与することもできる。
【実施例
【0050】
実施例
実施例1:下位レベル適応制御アーキテクチャを用いて輸液又は薬物注入速度を計算する
[075] 本開示は、下位レベル適応制御アーキテクチャを用いて輸液又は心血管薬注入速度を計算する方法について記載する。下位レベル適応制御アーキテクチャは、輸液投与のみ、心血管投与のみ、又は輸液及び心血管薬投与が関わる問題に適用される。組み合わされた輸液及び心血管薬投与の場合、並列で動く2つの下位レベル適応制御器が実装され、輸液及び心血管薬の注入速度を計算する。輸液又は心血管薬注入速度は下位レベル適応制御アーキテクチャを用いて以下のステップで計算される:
1)輸液又は心血管薬投与のエンドポイントを測定することのできるセンサを選択する。輸液投与について、エンドポイントには、一回拍出量変化量、脈圧変化量、平均動脈圧、動的動脈エラスタンス、尿排出率、脈波変動指数、動的動脈エラスタンス、中心静脈圧、収縮期圧、拡張期圧、又は収縮期圧変化量などの変数が含まれる。心血管薬投与について、エンドポイントには、平均動脈圧、心拍出量、心係数、心拍数、収縮期圧、拡張期圧、全身血管抵抗、又は中心静脈圧などの変数が含まれる。センサの値は記録され、ウィンドウ平均法又は他の雑音低減技法を用いて平滑化される。測定は観血的又は非観血的に実施することが可能である。
2)制御器アーキテクチャは、2コンパートメント、3コンパートメント、又はnコンパートメントモデル(輸液又は心血管薬分布を特徴付ける)、並びに仮想状態からなる拡張ダイナミカルシステムモデルによって患者がモデル化されると仮定する。仮想状態は、循環中の輸液容積(輸液管理の場合)又は循環中の心血管薬質量(心血管薬管理の場合)と幾らかの時間差を伴い同じトレンドに従う。
3)動的観測器(推定器)を使用して定常状態(平衡)値からの仮想状態及び循環中の輸液容積(輸液管理の場合)又は循環中の心血管薬質量(心血管薬管理の場合)の偏差を推定する。
4)関数近似器(例えば、ニューラルネットワーク又はウェーブレット等)を使用して、拡張ダイナミカルシステムによってモデル化される患者の未知のダイナミクス及び患者のパラメータを近似する。
5)関数近似器の重み(又は係数)、センサ測定値、及び時間t-Δtにおける適応制御器によって計算された注入速度を用いて新しい注入速度が計算される。或いは、関数近似器の重み(又は係数)、センサ測定値、及び時間t-Δt及びt-2Δtにおける適応制御器によって計算された注入速度を用いて新しい注入速度が計算される。
6)新しい注入速度が更なる処理のため上位レベル制御器に送られる。
7)動的観測器、センサ測定値、及び時間t-Δtにおける適応制御器によって計算された注入速度によって提供される推定値を用いて関数近似器の重み(又は係数)が更新される。或いは、関数近似器の重みは、動的観測器、センサ測定値、及び時間t-Δt及びt-2Δtにおける適応制御器によって計算された注入速度によって提供される推定値を用いて更新される。
8)T秒/分(例えば、1秒、10秒、1分、2分等)の遅延が導入される。
9)ステップ3)が繰り返され、ループが閉じられる。
【0051】
[076] 図6は、ステップ1)~9)を概説する本開示の下位レベル適応制御アーキテクチャのフローチャートを詳述する。
【0052】
実施例2:輸液分布に関して未知のダイナミクス及び患者パラメータをモデル化するための関数近似
[077] 2コンパートメントモデルを用いて閉ループ輸液蘇生アーキテクチャを構築する。3コンパートメント以上のコンパートメントモデルについても同じ手法が適用される。
【0053】
[078] 2コンパートメントダイナミカルシステムモデルの物質収支式は以下によって与えられる:
【数1】

式中、u(t)は輸液注入速度であり、J(t)は間質組織から循環への容積移動速度であり、J(t)は循環から間質組織への容積移動速度であり、Jurine(t)、Jblood(t)、及びJevaporation(t)は、それぞれ尿産生、出血、又は蒸発(及び他のタイプの不感水分損失)に起因した輸液容積の損失を表す。更に、ablood(t)は出血からのタンパク質(アルブミン)質量損失速度を表し、Q(t)は循環から間質組織へのアルブミン質量移動速度であり、及びQ(t)は間質組織から循環へのアルブミン質量移動速度である。
【0054】
[079] 上記の式は状態空間形式に書き換えることができ、即ち、
【数2】

式中、t≧0について、v(t)=[v(t),a(t),v(t),a(t)]であり、v(t)、a(t)、v(t)、及びa(t)は、それぞれ、循環中の輸液容積、循環中のアルブミン質量、間質組織中の輸液容積、及び間質組織中のアルブミン質量を表す。加えて、f(v)及びf(v)は、それぞれ循環中及び組織コンパートメント中の輸液交換速度を特徴付ける関数を表し、f(v)及びf(v)は、それぞれ循環中及び組織コンパートメント中のアルブミン交換速度を特徴付ける関数を表し、g(v(t))は輸液注入がコンパートメントモデルに及ぼす効果を特徴付ける。関数f(v)、f(v)、及びf(v)には、Jurine(t)、Jblood(t)、Jevaporation(t)、及びablood(t)を含め、外部環境との容積又は質量の交換を示す変数が組み込まれていることに留意されたい。vc,0、ac,0、vt,0、及びac,0は、それぞれt=0における循環中及び間質組織中の容積及びアルブミン質量を表すことに留意されたい。また、関数f(v)、f(v)、f(v)、f(v)、及びg(v)は、概して各個別の患者について未知であることにも留意されたい。
【0055】
[080] 次に元の2コンパートメントモデルを修正して、ダイナミクスに特定の構造を導入する。循環中の輸液容積v(t)と幾らかの時間差を伴い同じトレンドに従うように、仮想状態x(t)を加える。仮想状態のダイナミクスは、以下の線形微分方程式によって与えられる
【数3】

式中、c、c∈Rは設計パラメータである。次に、各変数のその平衡状態(定常状態値)からの偏差を定量化する誤差変数を定義する。誤差変数は式(6)~(10)によって定義される:
(t)=x(t)-xf,e (6)
v,c(t)=v(t)-Vc,e (7)
a,c(t)=a(t)-ac,e (8)
v,t(t)=a(t)-ac,e (9)
a,t(t)=a(t)-at,e (10)
式中、e(t)は仮想状態平衡値xf,eからの仮想状態の偏差を表し、ev,c(t)は循環中の輸液容積のその平衡値vc,eからの偏差を表し、ea,c(t)はアルブミン質量のその平衡値ac,eからの偏差を表し、ev,t(t)は組織中の輸液容積のその平衡値vt,eからの偏差を表し、及びea,t(t)はアルブミン質量のその平衡値at,eからの偏差を表す。
【0056】
[081] (5)から、以下となる
【数4】
【0057】
[082] 故に、(1)~(5)は以下のとおり書き換えることができる
【数5】

式中、t≧0について、e(t)=[ev,c(t),ea,c(t),ev,t(t),ea,t(t)]であり、及びf(v(t))、f(v(t))、f(v(t))、f(v(t))、g(v(t))は、式(6)~(10)を用いて変数変換を行った後、それぞれ、
【数6】

と書き換えられる。次にパラメータα及びα(式中α、α∈R)を導入し、式(12)は以下のとおり書き換えられる
【数7】

式中、
【数8】

及び
【数9】
【0058】
[083] 次に、ニューラルネットワーク基底関数(例えば、放射基底関数又はシグモイド)、ウェーブレット、又はフーリエ関数などの一連の基底関数を使用して、
【数10】

及び
【数11】

を近似する。具体的には、
【数12】

式中
【数13】

は2組の基底関数であり、
【数14】

は、基底関数に対応する時変重み(又は係数)であり、ε及びεは近似誤差である。
【0059】
[084] 提示されるフレームワークは一般的である;しかしながら、例示を目的として、形式
【数15】

のシグモイドニューラルネットワーク基底関数を使用することができる。α、α、c、及びcは、
【数16】

が漸近的に安定している(即ち、Aの全ての固有値の実部が負である)ように選択することができる。これらのパラメータの一つの具体的な選択は、c=100、c=-100、α=0、及びα=-100である。
【0060】
実施例3:心血管薬分布に関して未知のダイナミクス及び患者パラメータをモデル化するための関数近似
[085] 2コンパートメントモデルを用いて、本明細書に開示される閉ループ心血管投与アーキテクチャを構築する。3コンパートメント以上のコンパートメントモデルについても同じ手法が適用される。
【0061】
[086] 2コンパートメントダイナミカルシステムモデルの薬物質量物質収支式は以下によって与えられる:
【数17】

式中、u(t)は薬物注入速度であり、J(t)は代謝の結果としての循環からの薬物質量排出速度であり、J(t)は循環から組織への薬物質量移動速度であり、J(t)は組織から循環への薬物質量移動速度であり、Jother(t)は代謝以外の循環からの(例えば、出血の結果としての)薬物排出速度である。
【0062】
[087] 上記の式は状態空間形式に書き換えることができ、即ち、
【数18】

式中、t≧0について、d(t)=[d(t)、d(t)]であり、d(t)及びd(t)は、それぞれ循環中及び組織中の心血管薬質量を表す。加えて、f(d)及びf(d)は、それぞれ循環中及び組織コンパートメント中の薬物質量交換速度を特徴付ける関数を表し、g(d(t))は心血管薬注入がコンパートメントモデルに及ぼす効果を特徴付ける。関数f(d)、及びf(v)には、外部環境との質量の交換を示す変数、即ち、Jother(t)、及びJ(t)が組み込まれていることに留意されたい。dc,0、及びdt,0は、それぞれt=0における循環中及び組織中の薬物質量を表すことに留意されたい。また、関数f(d)、f(d)、及びg(d)は、概して各個別の患者について未知であることにも留意されたい。
【0063】
[088] 次に元の2コンパートメントモデルを修正して、ダイナミクスに特定の構造を導入する。循環中の心血管薬質量d(t)と幾らかの時間差を伴い同じトレンドに従うように、仮想状態x(t)を加える。仮想状態のダイナミクスは、以下の線形微分方程式によって与えられる
【数19】

式中、c、c∈Rは設計パラメータである。次に、各変数のその平衡状態(定常状態値)からの偏差を定量化する誤差変数を定義する。誤差変数は式(23)~(26)によって定義される:
(t)=x(t)-xf,e (23)
d,c(t)=d(t)-dc,e (24)
d,t(t)=d(t)-dt,e (25)
式中、e(t)は仮想状態平衡値xf,eからの仮想状態の偏差を表し、ed,c(t)は循環中の心血管薬質量のその平衡値dc,eからの偏差を表し、及びed,t(t)は組織中の心血管薬質量のその平衡値dt,eからの偏差を表す。
【0064】
[089] (22)から、以下となる
【数20】

故に、(20)~(22)は以下のとおり書き換えることができる
【数21】

式中、t≧0について、e(t)=[ed,c(t),ed,t(t)]であり、及びf(d(t))、f(d(t))、g(d(t))は、式(23)~(26)を用いて変数変換を行った後、それぞれ、
【数22】

と書き換えられる。次にパラメータα及びα(式中α、α∈R)を導入し、式(12)は以下のとおり書き換えられる
【数23】

式中
【数24】

及び
【数25】
【0065】
[090] 次に、ニューラルネットワーク基底関数(例えば、放射基底関数又はシグモイド)、ウェーブレット、又はフーリエ関数などの一連の基底関数を使用して、
【数26】

及び
【数27】

を近似する。具体的には、
【数28】

式中、
【数29】

は2組の基底関数であり、
【数30】

は、基底関数に対応する時変重み(又は係数)であり、ε及びεは近似誤差である。
【0066】
[091] 提示されるフレームワークは一般的である;しかしながら、例示を目的として、形式
【数31】

のシグモイドニューラルネットワーク基底関数を使用することができる。α、α、c、及びcは、
【数32】

が漸近的に安定している(即ち、Aの全ての固有値の実部が負である)ように選択することができる。これらのパラメータの一つの具体的な選択は、c=0.2、c=0.013、α=0、及びα=-0.2である。
【0067】
実施例3:持続注入の値を計算する
[092] 各時刻tにおいて、制御器(輸液又は心血管薬用)の注入速度は以下によって与えられる
【数33】

式中
【数34】

及び
【数35】

σ,...,σnodeはシグモイドパラメータ(例えば-100~100の範囲をとる)であり、nnodeはニューラルネットワークのノードの数を表し(例えば、nnode=8)、及びm(t)は、時間tにおける輸液又は薬物投与のエンドポイントとして使用される平滑化後の(雑音除去後の)センサ測定値を表す(例えば、輸液蘇生について一回拍出量変化量、尿排出率、平均動脈圧、中心静脈圧、収縮期圧変化量等;及び心血管薬投与について平均動脈圧、心拍数、収縮期圧、拡張期圧、全身血管抵抗、中心静脈圧等)。u(t)は、時間tにおける計算された注入速度を表す。例えば、平滑化後の(雑音除去後の)センサ測定値は、ウィンドウ平均を移動させることにより求めることができ、ここでは時間ウィンドウ内(例えば2分)のセンサ測定値の平均値が計算され、m(t)に割り当てられる。センサ値を前処理すると、雑音の多い又は無効と見られる測定値を落とすことができ、ウィンドウ平均法に許容可能な値のみが含まれる。
【0068】
[093] 或いは、
【数36】
【0069】
[094] 重みの更新法則は、一組の常微分方程式によって与えられる
【数37】

式中、x(t)=[xc,1(t),xc,2(t)]は、e(t)及びev,c(t)(輸液蘇生の場合)又はe(t)及びed,c(t)(心血管薬投与の場合)の推定値を表し、β、β>0は設計パラメータを表し(例えば、β=0.02及びβ=0.04)、及び他のパラメータの代表値はL=[-1,0]、B=[0,1]、及びC=[-1,0]によって与えられる。加えて、mtargetは、輸液蘇生又は心血管薬投与のエンドポイントの所望の値であり(例えば、輸液蘇生について目標が13%の一回拍出量変化量を維持することである場合、mtarget=13;同様に、心血管薬投与について目標が65mmHgの平均動脈圧を維持することである場合、mtarget=65)、及び
【数38】

は、
【数39】

式中
【数40】

によって与えられるリャプノフ方程式を満たす。
【0070】
[095] 例えば、
【数41】

且つ上記のパラメータ値が使用される場合、心血管薬投与について
【数42】

及び輸液蘇生について
【数43】

である。加えて、関数Γ(θ,y)を用いて制御器パラメータが有界なままであることが確実にされる。この関数は、以下として定義される:
【数44】

式中、f:R→Rは、以下として定義される
【数45】

θmax>0、εθ>0、∇(・)は勾配演算子を表し、及び││・││はユークリッドノルムを表す。例えば、θmax=1e6及びεθ=1e-5である。
【0071】
実施例4:輸液蘇生のコンピュータシミュレーション
[096] 適応制御フレームワークを使用して、t=0において2ml/kg/minの速度で失血している70kg患者の輸液蘇生をシミュレートする。目標は、一回拍出量変化量測定値を15%に維持することである。シミュレーションには0.001時間(3.6秒)のΔtを使用し、β=2、β=4、及びnnode=8である。患者モデルにコンパートメントモデルを含めて輸液分布をモデル化し、及び循環中の容積とSVVとの間の関係は、イヌでの実験結果に基づき非線形関係に基づいた。
【0072】
[097] 図7は、時間に対する一回拍出量変化量(SVV(%))を示す。目標一回拍出量変化量は15%である。SVV(%)は約9%から始まり、輸液蘇生の導入に伴い変化する。SVV(%)は15%の目標値まで増加する。t=1時間において失血が3mL/kg/minに増加し、制御器は注入速度を増加させて一回拍出量変化量測定値を15%の目標値に誘導する。
【0073】
[098] 図8は、適応制御フレームワークによって計算される注入速度を示す。注入速度はt=0(シミュレーション開始)において約700mL/hである。注入速度を約1500mL/hまで急速に増加させて15%のSVV(%)を維持する。t=1時間において、失血が3mL/kg/minに増加し、制御器は注入速度を約2250mL/hに増加させて15%の目標SVV(%)を維持する。
【0074】
[099] 図9は、時間に対する循環血漿量を示す。輸液蘇生にも関わらず、失血に起因して循環血漿量は急速に低下し、最終的に約450mLの平衡値に達する。t=1時間において、失血が3mL/kg/minに増加し、制御器は注入速度を増加させて一回拍出量変化量測定値を15%の目標値に誘導する。循環血漿量は失血の増加後であってもほぼ同じままである。
【0075】
実施例5:輸液蘇生の動物試験
[0100] 種々の出血/循環血液量減少シナリオで本開示の適応制御フレームワークを使用して5匹のイヌに自動化及び半自動化(臨床意思決定支援)輸液蘇生を提供した。
【0076】
[0101] 実験には、理学的検査及び血液像に基づき健常と決定された5匹のインタクトな成体ビーグル犬を組み入れた。イヌは個別に飼育し、市販のドライドッグフード及び水を自由給餌とした。各イヌ及び実験を識別した(表1)。例えば、S1-2は、対象S1に関して実施した2回目の実験を表す。対象らに対する試験は異なる日に実施した。同じ対象に対する個別のトライアルは同じ日に実施し、トライアル間には安定化期間を用いた。イヌは全て、実験完了時にナトリウムペントバルビタール(100mg/kg、IV)で安楽死させた。
【0077】
【表1】
【0078】
[0102] 動物の調製:各実験前6時間は水を除く飼料を与えなかった。ヒドロモルホン、0.15mg/kg IVの投与のため、静脈内カテーテルを橈側皮静脈に経皮的に留置した。10分後に3.5~6mg/kg IVプロポフォールを投与することにより麻酔をかけて経口気管内挿管を促進し、初めは気化器の設定を酸素中1.5~2%イソフルランに維持した。イヌに右側臥位をとらせ、10~12呼吸/分及び10~14ml/kg一回換気量で機械的に換気することにより、呼気終末二酸化炭素分圧(ETCO2)を38~48mmHgに維持した。SVVが変化する可能性を回避するため、試験中、各対象の一回換気量設定は変更しなかった。温度制御式温風ブランケットで食道温度を維持した(37℃)。
【0079】
[0103] 0.5~1.0ml 2%リドカインの血管周囲投与後、左頸静脈及び右頸動脈及び大腿動脈に血管カテーテルを外科的に置いた。頸動脈又は大腿動脈カテーテルは低コンプライアンス輸液充填チューブでFloTracセンサに接続した。SVVの決定及び連続モニタリングのため、FloTracセンサをVigileoモニタに接続した。FloTracセンサは胸骨レベルに位置決めし、これをゼロとした。FloTracセンサの圧力ラインを4ml/hrの乳酸加リンゲル溶液(LRS)でフラッシュした。心拍数は第II誘導心電図(ECG)から決定した。機械的換気中に正確なSVV記録を入手するための基準を利用した。
【0080】
[0104] 熱希釈による心拍出量の測定のため、蛍光透視鏡の誘導下で5FrのSwan-Ganzカテーテルを右頸静脈から肺動脈へと経皮的に進めた(2匹のイヌ)。或いは、心拍出量は、心拍出量の連続記録のため腕頭動脈の近位にある上行大動脈周囲に留置された、予め植え込んだフロープローブによって決定した(3匹のイヌ)。
【0081】
[0105] 実験手順:5匹のイヌを9実験に供した。輸液蘇生として乳酸加リンゲル溶液(LRS)を投与した。様々な臨床病態を模擬するため、種々の実験的循環血液量減少状態を作り出した(表1)。右頸動脈又は右大腿動脈のいずれかから15ml/kg/15分を抜き取ることにより、1.5最小肺胞内濃度(MAC:全体を通して1.27%使用)のイソフルラン麻酔の間に絶対的止血可能循環血液量減少(2トライアル)を生じさせた(S1-1)。閉ループ輸液蘇生の終了(S1-1)と2回目の出血、40ml/kg/30分の開始(S1-2)との間には30分間の安定化期間があった。閉ループ輸液投与は各血液抜き取りの完了から10分以内に開始し、SVVが13±3%以下の所定の目標範囲に達するまで継続した。
【0082】
[0106] 右頸動脈又は右大腿動脈からイヌの推定血液量(80ml/kg)の約50%(40ml/kg)を1時間かけて抜き取ることにより、切断された動脈からの失血をシミュレートするように設計された絶対的止血不能循環血液量減少(S3-1、S4-2、S5-2;3試験)を生じさせた。血液を5連続で8.0ml/kgずつ連続的に徐々に抜き取り、これは出血開始後約7~8、18~20、30~32、43~45、及び60分で完了した。絶対的止血不能循環血液量減少の開始後(即ち、ステージ2の血液抜き取りの開始後)10分で閉ループ輸液蘇生を開始し、SVVが13±3%以下の所定の目標範囲に達するまで継続した。
【0083】
[0107] 平均動脈圧が≦50mmHgになるまで吸入イソフルラン濃度を2.0~2.5MACに増加させるか(S5-1、1トライアル)、又はニトロプルシドナトリウムを投与するか(5~10mcg/kg/min;S4-1、1トライアル)のいずれかにより、相対的循環血液量減少(2トライアル)を生じさせた。目標範囲SVVはS4-1について13±3%及びS5-1について5±3%に設定した。MAPを≧30%低下させるためイソフルラン濃度を増加させるか(0.25~0.5%、1.5~2.0MAC倍数)(S2-1、1トライアル)又はニトロプルシドナトリウムを投与し(1~15mcg/kg/min;S2-2、1トライアル)、続いて15ml/kg/minの血液を抜き取ることにより、相対的及び止血可能絶対的循環血液量減少を生じさせた。目標範囲SVVはS2-1及びS2-2について13±3%に設定した。S2-1では対象を目標SVV値に蘇生し、2回目の試験の開始前に安定化させた(S2-1)。相対的及び止血可能絶対的循環血液量減少の実現後15分で輸液蘇生を開始した。
【0084】
[0108] 2つの実験的トライアル、1つは絶対的な止血不能の出血が関わるもの(S4-2)及び1つはニトロプルシドナトリウム投与による相対的循環血液量減少が関わるもの(S4-1)において、閉ループ輸液蘇生システムを「部分的自動化」モード(臨床意思決定支援)で用い、ここではシステムが推奨注入速度を毎分表示し、ユーザが注入速度を手動で変更した。部分的自動化モードでは、Horizon NXTモジュラー注入システムポンプを使用した。このシステムは注入速度推奨値を更に高頻度で提供可能であったが、臨床スタッフがポンプ設定を手動で調整するのに十分な時間を持たせるため1分の更新間隔が選ばれた。雑音を除去するため、自動化モード及び部分的自動化モードを含めた全ての試験で、測定されたSVV値は1分間移動ウィンドウ平均法を用いてフィルタリングした。適応制御器は、関数近似器として使用するためシグモイド基底関数によるニューラルネットワークを用いて実装した。
【0085】
[0109] 対象は持続的な輸液注入を受け、制御システムがSVVの変化に応じて数秒毎に注入速度を変更した。Vigileoがシリアル通信を用いて2秒毎に最新のSVV測定値を送信した。適応制御フレームワークはラップトップ機に実装した。ラップトップ機は、シリアル-USB変換ケーブルを使用してVigileoに接続した。閉ループ輸液蘇生システムでは、1分間移動ウィンドウ平均法を用いて雑音が除去された。制御アルゴリズムは、Linuxオペレーティングシステムのラップトップ機上で動くPythonプログラミング言語で実装した。Vigileoからの測定値はシリアル通信を用いてラップトップ機に記録した。閉ループ輸液蘇生アルゴリズムは過去1分間の平均SVV値を用いて11秒毎に注入速度を計算した。注入速度はラップトップ機によりUSB接続を用いて注入ポンプ(サポート流量0.06~4200ml/hr)に送られた。
【0086】
[0110] 性能メトリクス:閉ループ輸液蘇生システムの性能を評価するため、臨床的関連性のある性能メトリクスを定義した。具体的には、輸液投与の開始から許容可能なSVV目標範囲の回復までの所要期間としてTtargetを定義した。
【0087】
[0111] 本発明者らは許容可能なSVV目標範囲を13±3%に定義し、但し2実験、即ちS5-2(止血不能循環血液量減少)及びS5-1(相対的循環血液量減少)は例外とし、ここでは許容可能なSVV目標範囲はそれぞれ10±3%及び5±3%とした。Rin rangeは、SVV目標値が許容範囲内に留まっていた時間の割合(即ち、SVVが許容範囲内に留まっていた時間の長さを総蘇生時間の長さで除したもの)として定義された。他の性能メトリクスには、それぞれumin及びumaxで表される最低及び最高注入速度、Vtargetで表される許容可能なSVV目標範囲に達するまでの総注入容積、及び、絶対的循環血液量減少実験では、Vratioで表される総失血量に対する総輸液注入容積の比が含まれた。対象を許容可能なSVV目標範囲に維持できることを確実にするため、許容可能なSVV目標範囲に達した後も蘇生を継続しており、従ってVtargetと総注入容積とは等しくない。Vtargetに達した後に継続した蘇生は平均して約15分続いた。同じ対象に対する異なるトライアルの間の安定化期間は、前のトライアルの輸液蘇生の完了後に開始した。
【0088】
[0112] 止血可能循環血液量減少:それぞれ15ml/kg及び次に40ml/kgの血液の抜き取り後、1.5MACイソフルラン麻酔中の絶対的循環血液量減少によりMAPが100から86mmHgに(イヌS-1)及び109から54mmHgに(S1-2)低下した(表2)。15ml/kg及び40ml/kgの血液の抜き取り後、心拍数が増加し、心拍出量が低下した(表2)。加えて、15ml/kg及び40ml/kgの血液の抜き取り後、SVVが増加した。それぞれ7ml/kg及び66ml/kgのLRSの投与後、SVVは目標範囲(13%±3)に戻った(表2)。総注入容積はそれぞれ189ml(S1-1:Vratio=1.1)及び925ml(S1-2:Vratio=2)であった。
【0089】
【表2】
【0090】
[0113] 止血不能循環血液量減少:第2ステージの血液抜き取りの間に閉ループ輸液投与を開始し、出血全体を通じて継続した(S3-1、S4-2、S5-2)。最終(第5)ステージの出血の終了後約30分で、それが間質液コンパートメントとの輸液平衡化のための平均時間を超えることに伴い閉ループ輸液投与を停止した。止血不能循環血液量減少の最初の3~4ステージの間は平均動脈圧及び心拍出量が低下し、心拍数が増加した(表3)。出血全体を通じて心拍数が増加し、出血及び輸液投与の間は全体を通じて高いままであった(表3)。SVVは止血不能循環血液量減少の最初のステージの間に増加し、その後ベースライン値寄りに戻った(表3)。S3、S4、及びS5の総注入容積は、それぞれ1,092ml(Vratio=2.5)、1,243ml(Vratio=2.8)、及び548ml(Vratio=1.4)であった。輸液投与システムは、S4については部分的自動化(人間参加(human-in-the-loop))モードで使用し、ここでは推奨注入速度が毎分ユーザに向けて表示され、ユーザが注入速度を推奨値に手動で変更した。
【0091】
【表3】
【0092】
[0114] 血管拡張による相対的循環血液量減少:平均動脈圧が50mmHg以下になるまで吸入イソフルラン濃度を増加させることによるか(S5-1イヌ)、又はニトロプルシドナトリウムを投与することにより(S4-1)、イヌを低血圧にした。目標範囲SVVはS4-1について13±3%及びS5-1について5±3%に設定した。イソフルラン又はニトロプルシドナトリウムの投与により平均動脈圧が低下し、心拍数が増加し、及びいずれによっても心拍出量はそれぞれ変化又は増加しなかった(表4)。両方のイヌでSVVが増加した(表4)。両方のイヌで閉ループ輸液蘇生により心拍出量が増加し、SVVが低下した。ニトロプルシドナトリウムを投与したイヌ(S4-1)において輸液投与中に動脈圧が増加したが、イソフルランを投与したイヌ(S5-1)では増加しなかった(表4)。総注入容積は187ml(ニトロプルシド:15ml/kg)及び265ml(イソフルラン:28ml/kg)であった。
【0093】
【表4】
【0094】
[0115] 相対的循環血液量減少及び止血可能循環血液量減少:イソフルラン濃度の1.5から2.5MACへの増加(S2-1)又はニトロプルシドナトリウムの投与(S2-2)に続き、血液を抜き取った(15ml/kg/15分)。ニトロプルシドナトリウム注入速度は1mcg/kg/minから開始し、15mcg/kg/minに増加させた。目標範囲SVVは13±3%に設定した。2.5MACイソフルラン麻酔中の絶対的循環血液量減少(15ml/kg/15分)により、MAPが血液抜き取り前の60mmHgから血液抜き取り後の39mmHgに低下した(S2-1)。加えて、MAPは15分間の安定化期間後に39mmHgから46mmHgに増加した。相対的循環血液量減少を止血可能循環血液量減少(15ml/kg/15分)と組み合わせて生じさせた後の心拍数の変化は最小限であり(110対112bpm)、心拍出量は20%低下した(1.0対0.8L/min)。SVVは1.5MACでの13%から2.5MACでの21%に増加し、次に15ml/kgの血液の抜き取り後に41%に増加した。SVVは15分間の安定化期間後に26%に低下した。SVVは、78ml/kgのLRSの投与後43分(Ttarget)で目標範囲(13%±3)に戻った。総注入容積は573ml(Vratio=5.4)であった。最高輸液投与速度(umax)は113ml/kg/hrであった。LRS投与後に心拍数は低下し(112から99に)、心拍出量はベースライン値を上回るまで増加し(1.0対1.2)、しかしMAPはイソフルラン濃度が低下するまで比較的変化がないままであった(43mmHg)。
【0095】
[0116] 血液抜き取り前、1.5MAC及びニトロプルシドナトリウム投与の間の絶対的循環血液量減少(15ml/kg/15分)によりMAPが113から92mmHgに低下した(S2-2)。血液抜き取り後のMAPは101mmHgであった。相対的循環血液量減少を止血可能循環血液量減少(15ml/kg/15分)と組み合わせて生じさせた後の心拍数の変化は最小限であり、心拍出量は25%低下した(1.3対1.0L/min)。SVVはニトロプルシドナトリウム投与後に10%から15%に増加し、次に15ml/kgの血液の抜き取り後に22%に増加した。SVVは、46ml/kgのLRSの投与後26分(Ttarget)で目標範囲(13%±3)に戻った。最高輸液投与速度(umax)は108ml/kg/hrであった。LRS投与後に心拍出量はベースライン値を上回るまで増加し(1.3対2.1)、MAPはベースライン値近くまで増加した(表5)。総注入容積は400mlであった(Vratio=3.7)。
【0096】
【表5】
【0097】
[0117] 閉ループ輸液蘇生システムはコンパートメントモデリングフレームワークを使用して輸液注入速度を計算した。微小血管交換システムの2コンパートメントモデルには、概して未知の、患者毎に異なるパラメータが関わった。加えて、2コンパートメントモデルは体内の輸液分布の近似に過ぎなかったため、モデリング誤差が生じた。
【0098】
[0118] 適応制御輸液蘇生アルゴリズムは、体内の輸液分布のコンパートメント特徴を用いる。輸液分布を支配するコンパートメントモデルのモデリング誤差及び未知のパラメータに対処するため、適応アルゴリズムは「関数近似器」を使用した。関数近似器は、閉ループシステムによってリアルタイムで連続的に推定される一組のパラメータによって特徴付けられた。閉ループ輸液蘇生システムは輸液注入速度を周期的に再計算する。関数近似器は注入速度値及びSVV測定値を使用して輸液分布のダイナミクスを推定した。動物試験を行う前に、2コンパートメントモデルに対するコンピュータシミュレーションによって制御器性能を判定した。提示される結果は、本開示を生存対象に使用する初めての試みである。
【0099】
[0119] この試験からのデータにより、輸液分布のコンパートメントモデルに基づく適応閉ループ輸液投与システムが、絶対的(止血可能、止血不能)、相対的循環血液量減少、又は相対的循環血液量減少と絶対的止血可能循環血液量減少との組み合わせの臨床シナリオを模擬した実験条件に供したイヌにおいて、標的化された目標指向の輸液療法を提供したことが確認された。一回拍出量変化量は、輸液投与の開始後1時間未満で予め選択された正常目標範囲内に回復し、維持された。失血容積が大きくなると(40対15ml/kg)、SVVを目標範囲に回復させるのに必要なVratioが増加したが、乳酸加リンゲル溶液(LRS)分布に基づく量を下回ったままであった。
【0100】
[0120] 適応制御アルゴリズムは生理学に基づき、モデルのパラメータがリアルタイムで推定された。本フレームワークは、輸液蘇生過程における患者間及び患者内のばらつきを考慮する機構を提供した。
【0101】
[0121] 図10及び図11は、止血可能な出血を起こしている2匹のイヌ対象S1及びS2(合計4試験)の結果を示す。図10は、時間に対するフィルタリング後SVV(%)の変化を示し、図11は、時間に対する注入速度(mL/hr)の変化を示す。目標SVVは13%であった。試験S1-1では、注入速度が750mL/hrから約400mL/hrに下がり、13%のSVVが維持された。目標SVV(%)に達すると、注入速度は300~400mL/hrの間で変動して13%のSVVを維持した。試験S1-2では、注入速度は約800mL/hrから始まって約1000ml/hrに増加し、約850ml/hrに低下した。試験S2-1では、注入速度は約800mL/hrから始まり、最終的には約650ml/hrに達した。試験S2-2では、注入速度は約750mL/hrから始まり、約30分で約500ml/hrに達したが、750ml/hrに増加した。
【0102】
[0122] 図12及び13は、止血不能の出血を起こしている3匹のイヌ対象S3、S4、及びS5の結果を示す。図12は、時間に対するフィルタリング後SVV(%)の変化を示し、図13は、時間に対する注入速度の変化を示す。目標SVVは試験S3-1及びS4-2で13%であり、試験S5-2で10%であった。試験S4-2では、部分的自動化(臨床意思決定支援)が使用され、ここでは1分毎に臨床医がシステムの推奨輸液速度を用いてポンプ上の注入速度を手動で変更した。他の2つの試験S3-1及びS5-2では、完全に自動化された閉ループシステムが使用された。試験S3-1では、注入速度は約600mL/hrから始まって約1200mL/hrに増加することによりSVVが13%に誘導され、次に750mL/hrに下がった。試験S4-2では、注入速度は約750mL/hrから始まって999mL/hrに増加し、次に約600mL/hrに低下することにより、SVVが13%に誘導された。試験S5-2では、注入速度は約500mL/hrから始まって400~600mL/hrの間を変動することにより、SVVが10%の目標値に誘導された。
【0103】
[0123] 図14及び図15は、ニトロプルシドナトリウムの投与(S4-1において)及び吸入麻酔イソフルランの増加(S5-1において)の結果として低血圧であった2匹のイヌ対象S4及びS5の輸液蘇生を示す。試験S5-1では、完全に自動化された閉ループシステムが使用された一方、試験S4-1では部分的に自動化された(臨床意思決定支援)システムが使用され、ここでは推奨注入速度が1分毎にユーザに表示され、ユーザがポンプ上の注入速度を手動で変更した。図14は、時間に対するフィルタリング後SVV(%)の変化を示し、図15は、時間に対する注入速度の変化を示す。目標SVVはS4-1では13%及びS5-1では5%であった。S4-1では、注入速度は約650mL/hrから開始し、目標13%に達したところで150~350mL/hrの間に低下した。S5-1では、注入速度は約700mL/hrから始まり、試験が始まって25分までこの値の近くに保たれ、試験終了時にSVVは5%の所望のSVVに近付いた。
【0104】
実施例6:上位レベル制御器
[0124] 上位レベル制御器はルールベースエキスパートシステムとして設計し、以下の働きをした:
i)下位レベル制御器(輸液蘇生モジュール及び/又は心血管薬投与モジュール)関数を起こり得る異常に関してモニタする;
ii)患者の全身状態並びに輸液療法及び/又は心血管薬投与に対する応答をモニタする;
iii)閉ループモードの場合に輸液蘇生モジュール、心血管薬投与モジュール、又は両方をエンゲージすることを決め、及びこれらのモジュールのエンゲージタイミングを決める;
iv)センサ不良又は最大安全限界を超える注入速度に関連するシナリオを取り扱う;
v)臨床意思決定支援のケースでユーザが計算された注入速度に同意しない場合、下位レベル制御器(輸液蘇生モジュール又は心血管薬投与モジュール)状態を修正する;
vi)潜在的な問題に対処するための臨床意思決定支援を提供する;及び
vii)臨床意思決定支援モードにおいて、注入速度を更新する必要があるときユーザに新しい注入速度を通知する。
【0105】
[0125] 注入速度の安全範囲内での維持。下位レベル制御器(輸液蘇生モジュール及び/又は心血管薬投与モジュール)によって計算された注入速度がユーザ指定による最大安全速度よりも大きかった場合、上位レベル制御器が、許容できない注入速度に関連する下位レベル制御器をリセットし、即ち関数近似器の重み(又は係数)を含む下位レベル制御器の内部状態をデフォルト値に再初期化した(即ち、w、w、及びxをt=0におけるその値に変更した)。
【0106】
[0126] ユーザへの警告。患者に送達される総容積が設定閾値(例えば、2000mL又は10,000mcg)を超えた場合、上位レベル制御器がユーザに合併症のリスクを警告した。
【0107】
[0127] 下位レベル制御器のモニタリング。閉ループシステムにおける性能低下が検出された場合、上位レベル制御器がユーザに視聴覚アラームで通知し、及び上位レベル制御器が下位レベル制御器を停止させた。性能低下は以下として定義した:i)関数近似器の重み(又は係数)の急激な変化、即ち、
【数46】

>閾値(例えば、0.1、又は1、10等);又はii)閾値(例えば、1、2、3、4回等)を超える上位レベル制御器による下位レベル制御器のリセット回数、又はiii)注入が継続的に増加している間に、ユーザ設定による期間内に測定値(例えば、SVV又は平均動脈圧)と目標値との間の絶対差が減少しなかった。センサ不良又は測定値が入手不可能な場合、上位レベル制御器が下位レベル制御器を無効にし、注入速度をユーザ設定によるバックアップ注入速度に設定した。
【0108】
[0128] 輸液蘇生及び心血管薬投与モジュールをいつエンゲージするかの決定。敗血症などの特定のシナリオでは、初めに輸液蘇生を提供し、許容可能な状態の実現が不成功に終わった場合、昇圧薬などの心血管薬を投与することが好ましい。上位レベル制御器は、初めに輸液蘇生モジュールをエンゲージし、患者をモニタした。所定期間後、輸液蘇生にも関わらず臨床的に関連性のある血行動態変数(例えば平均動脈圧)が改善しなかったとき(例えば、30分後に平均動脈圧が65~80mmHgの許容範囲内になかったとき)、上位レベル制御器は心血管薬投与モジュールをエンゲージして昇圧薬を投与した。一部の実施形態では、輸液蘇生モジュールが既に動いている間に、臨床医が心血管薬投与モジュールをエンゲージするよう上位レベル制御器に命令した。一部の実施形態では、心血管投与モジュールが既に動いている間に、臨床医が上位レベル制御器に輸液蘇生モジュールをエンゲージするよう命令した。このシナリオでは、心血管薬(例えば昇圧薬)の投与によるだけでは一回拍出量変化量は改善せず、上位レベル制御器が輸液蘇生モジュールをエンゲージした。
【0109】
[0129] 図16は、閉ループ輸液蘇生及び/又は心血管薬投与システムの上位レベル制御器の構成要素を示す。上位レベル制御器は、システムが輸液蘇生のみに使用されるか、心血管薬投与のみに使用されるか、それとも組み合わせた輸液蘇生及び心血管薬投与に使用されるかに応じて輸液蘇生モジュール及び/又は心血管薬投与をモニタすることができる。
【0110】
[0130] 臨床意思決定支援システムのケースでは、下位レベル制御器(輸液蘇生モジュール又は心血管薬投与モジュール又は両方)が新しく計算された注入速度を上位レベル制御器に送った。具体的には、本発明者らは3つのシナリオ:i)輸液蘇生モジュールのみ;ii)心血管薬投与モジュールのみ;及びiii)輸液蘇生モジュールと心血管薬投与モジュールとの同時稼働を考察した。各シナリオにおいて、下位レベル制御器が新しく計算された注入速度を上位レベル制御器に送った。上位レベル制御器は新しい速度を直近のユーザ承認済み速度と比較した(即ち、輸液蘇生について、新しく計算された輸液注入速度が直近のユーザ承認済み輸液注入速度と比較され、及び心血管薬投与について、薬物注入速度が直近のユーザ承認済み薬物注入速度と比較された)。
【0111】
[0131] 新しい注入速度と直近のユーザ承認済み速度との差が閾値(例えば、直近の承認済み速度の25%)よりも小さかった場合、注入速度は変更されず、ユーザは通知を受けず、下位レベル制御器はその動作を継続した。新しい注入速度と直近のユーザ承認済み速度との差が何らかの閾値(例えば、直近の承認済み速度の25%)よりも高かった場合、グラフィカルユーザインターフェースを介してユーザに推奨注入速度が表示された。ユーザがその注入速度を承諾した場合、上位レベル制御器によって下位レベル制御器がその動作を継続することが許可され、注入速度が新しい速度に更新された。しかしながら、ユーザが推奨注入速度を別の値に変更した場合、上位レベル制御器は制御器をリセットし、下位レベル制御器によって計算される注入速度がユーザ入力による注入速度と一致するように関数近似器の重みを設定した。また注入速度も、ユーザによって提供された速度に更新された。ユーザ指定の注入速度を所与として、関数近似器の重みは以下のように選択された
【数47】
【0112】
[0132] 図17は、臨床意思決定支援ケースの上位レベル制御器の構成要素を示す。
【0113】
実施例7:昇圧薬投与のコンピュータシミュレーション
[0133] 適応制御フレームワークを使用して、敗血症及び関連する低血圧症を起こしている70kg患者の心血管薬(昇圧薬)投与をシミュレートした。目標は、平均動脈圧を65に維持することであった。シミュレーションには0.1分(6秒)のΔtを使用し、β=6e-5、β=13e-6、及びnnode=8であった。昇圧薬のみを投与して75mmHgの平均動脈圧を維持した。患者モデルは、血行動態のモデル化に心血管モデルを含み、輸液分布のモデル化にコンパートメントモデルを含んだ。
【0114】
[0134] 図18は、時間に対する平均動脈圧(MAP)を示す。目標MAPは75mmHgであった。グラフ上では65~75mmHg領域が強調表示される。MAPは60mmHg未満で始まり、昇圧薬エピネフリンの導入に伴い変化した。MAPは75mmHgの目標値に増加した。
【0115】
[0135] 図19は、適応制御フレームワークによって計算される注入速度を示す。初期注入速度はユーザによりt=8(昇圧薬投与の開始)において0.12mcg/kg/minと選択された。注入速度は徐々に増加し、次にMAPが75mmHgの目標MAPに近付き始めると低下し始め、0.85mcg/kg/minの低い注入速度に達した。次に注入速度は徐々に増加し始め、75mmHgのMAPを維持した。
【0116】
実施例8:平均動脈圧を用いた輸液投与のコンピュータシミュレーション
[0136] 適応制御フレームワークを使用して、敗血症の結果として低血圧症を有する70kg患者の輸液蘇生をシミュレートした。目標は、平均動脈圧を75mmHgに維持することであった。シミュレーションには0.1分(6秒)のΔtを使用し、β=0.02、β=0.04、及びnnode=8であった。患者モデルは、血行動態のモデル化に心血管モデリングを含み、輸液分布のモデル化にコンパートメントモデルを含んだ。
【0117】
[0137] 図20は、時間に対する平均動脈圧(MAP)を示す。目標MAPは75mmHgであり、グラフ上では65~75mmHg領域が強調表示される。MAPは約45mmHgで始まり、クリスタロイド輸液の導入に伴い変化する。MAPは75mmHgの目標値に増加する。
【0118】
[0138] 図21は、適応制御フレームワークによって計算される注入速度を示す。初期注入速度が選択され、約140mL/minであった。注入速度は160mL/minまで徐々に増加し、次に約80ml/minに低下した。
【0119】
実施例9:輸液投与及び心血管薬投与のコンピュータシミュレーション
[0139] 適応制御フレームワークを使用して、敗血症の結果として低血圧症を有する70kg患者の輸液蘇生及び心血管薬(昇圧薬エピネフリン)投与をシミュレートした。目標は、75mmHgの平均動脈圧及び12%の一回拍出量変化量(SVV)を維持することであった。シミュレーションには0.1分(6秒)のΔtを使用し、輸液蘇生モジュールについてβ=0.02、β=0.04、及びnnode=8、及び心血管薬投与モジュールについてβ=6e-5、β=13e-6、及びnnode=8であった。シミュレーションにはクリスタロイド輸液及びエピネフリン(昇圧薬)が含まれた。輸液蘇生モジュールがSVVデータを使用して輸液注入速度を計算し、心血管薬投与モジュールが平均動脈圧(MAP)を使用して昇圧薬注入速度を計算した。上位レベル制御器は初めに輸液蘇生モジュールをエンゲージして輸液注入を提供した。30分後、輸液注入後に平均動脈圧が改善しなかったことに伴い上位レベル制御器は心血管投与モジュールをエンゲージした。患者モデルは、血行動態のモデル化に心血管モデリングを含み、輸液分布のモデル化にコンパートメントモデルを含んだ。シミュレーションの開始は、患者の状態が急激に悪化するときである。
【0120】
[0140] 図22は、時間に対する一回拍出量変化量(SVV(%))を示す。目標一回拍出量変化量は12%であった。SVV(%)は約18%で始まり、輸液蘇生後に10%に低下した。SVVはエピネフリンの投与(一過性の血管拡張効果)に起因して瞬間的に増加した。シミュレーションの終了時、SVVは約11%であり、12%の目標SVV値に近いままであった。
【0121】
[0141] 図23は、輸液蘇生適応制御フレームワークによって計算される輸液注入速度を示す。注入速度は約130mL/minで始まり、SVVが許容範囲になった後、40mL/minに低下した。t=30分においてSVVが急上昇した結果、注入速度が増加し、これは次にSVVが低下した後、再び40mL/minに低下した。
【0122】
[0142] 図24は、時間に対する平均動脈圧(MAP)を示す。目標MAPは75mmHgであった。グラフ上では65~75mmHg領域が強調表示される。MAPは患者の状態の悪化に伴い50mmHgに下がった。30分後、上位レベル制御器によって心血管薬投与モジュールがエンゲージされると、MAPが増加し始め、75mmHgの設定値に近付いた。シミュレーションの終了時、MAPは約70mmHgであり、75mmHgの目標MAP値に近いままであった。
【0123】
[0143] 図25は、心血管投与適応制御フレームワークによって計算される昇圧薬注入速度を示す。初期注入速度は約0.12mcg/kg/minと選択された。速度は、やや増加した後、約0.9mcg/kg/minに低下し、次にMAPが70mmHg近くに維持されることに伴い約0.12mcg/kg/minで安定化した。
【0124】
実施例10:ハードウェアに実装された輸液蘇生及び心血管薬投与システム
[0144] ハードウェアプラットフォームを開発して輸液蘇生システム及び心血管薬投与システムを実装した。このシステムは、処理モジュールと関連タッチスクリーンとで構成される。処理モジュールは、血行動態モニタ(観血的又は非観血的測定)又は血圧モジュール(動脈ラインに接続された圧力トランスデューサーによる観血的測定又は非観血的測定のいずれか)から有線接続を介してデータを受け取ることが可能である。加えて、処理モジュールは、有線接続を介して注入ポンプにリアルタイム注入速度データを送ることが可能である。受け取った経時的測定値及び経時的注入速度などのグラフの表示には、タッチスクリーンが使用される。メインダッシュボードもまた、現在の測定値、現在の注入速度、及び輸液/薬物の総注入容積を表示する。タッチスクリーンにより、ユーザは、システムが要求する種々のパラメータを指定することが可能になる。例えば、ユーザが、目標測定値、初期注入速度、バックアップ注入速度(センサデータが欠測している場合、閉ループシステムが切り離され、ユーザが引き継ぐまでバックアップ注入速度に移行する)、最高注入速度及び他の変数を設定する。臨床意思決定支援のケースでは、タッチスクリーンを使用して新しい注入速度値を通信することによりユーザの承認を依頼するか、又はユーザが速度を修正できるようにする。ユーザが注入速度を承認すると、処理モジュールは注入ポンプの注入速度をユーザが承認した注入速度に更新する。
【0125】
[0145] 図26はハードウェアプラットフォームの写真を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図26