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特許7124191木造建築物用斜材の固定構造及び斜材用金物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】木造建築物用斜材の固定構造及び斜材用金物
(51)【国際特許分類】
   E04B 7/02 20060101AFI20220816BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
E04B7/02 521F
E04B1/58 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021150551
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】595118892
【氏名又は名称】株式会社ポラス暮し科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】上廣 太
(72)【発明者】
【氏名】早坂 恵美
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-197432(JP,A)
【文献】特開2001-295506(JP,A)
【文献】特開2019-85779(JP,A)
【文献】特開2020-193456(JP,A)
【文献】特開平10-131296(JP,A)
【文献】特開2004-124691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 7/02
E04B 1/38-1/61
E04B 1/18,1/26
E04B 2/56-2/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の縦材と上下の上横架材及び下横架材とで囲まれた四角形空間における1つの対角線上に位置する2つの入隅の間に、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する2本の斜材が厚み方向で重ねられて組み入れられ、前記2本の斜材の各一方の端と各他方の端とのそれぞれが同一形状の斜材用金物により前記入隅に固定される木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記斜材用金物は、
前記一方の斜材に固定される縦材側金具本体部に、前記一方の斜材の固定される面とは反対の方向へ前記縦材側金具本体部から垂直に曲げられて前記縦材に固定される垂直片部を有する縦材側金具と、
前記他方の斜材に固定される横架材側金具本体部に、前記他方の斜材の固定される面とは反対の方向であって前記横架材側金具本体部から前記垂直片部と反対側に曲げられて前記上横架材または前記下横架材に固定される水平片部を有する横架材側金具と、
前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部とが前記垂直片部と前記水平片部とを互いに逆向きとして、前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部とを前記斜材の厚み方向で貫通して前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部とを回転自在に連結する軸と、
を備えることを特徴とする木造建築物用斜材の固定構造。
【請求項2】
請求項1に記載の木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記軸により連結されて平行に重ねられた前記縦材側金具本体部と前記横架材側金具本体部とは、交差する直線状の縦材側傾斜辺部と横架材側縦辺部との間に、前記入隅に対向する入隅対向凹部が形成されることを特徴とする木造建築物用斜材の固定構造。
【請求項3】
請求項2に記載の木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記垂直片部と前記縦材側傾斜辺部との交わる第1角部が、一方の斜材の幅方向の中央を通る中心線上に位置し、
前記水平片部と前記横架材側縦辺部との交わる第2角部が、他方の斜材の幅方向の中央を通る中心線上に位置することを特徴とする木造建築物用斜材の固定構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記軸は、前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部との相対回転角度を規制する締結構造を有することを特徴とする木造建築物用斜材の固定構造。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部とに穿設され前記軸が貫通される各貫通穴の少なくともいずれか一方が、スリット状の長穴よりなることを特徴とする木造建築物用斜材の固定構造。
【請求項6】
左右一対の縦材と上下の上横架材及び下横架材とで囲まれた四角形空間における1つの対角線上に位置する2つの入隅の間に、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する2本の斜材が厚み方向で重ねられて組み入れられる木造建築物用斜材の固定構造に用いられ、前記2本の斜材の一方の端と他方の端とのそれぞれを、前記入隅に固定する同一形状の斜材用金物であって、
前記一方の斜材に固定される縦材側金具本体部に、前記一方の斜材の固定される面とは反対の方向へ前記縦材側金具本体部から垂直に曲げられて前記縦材に固定される垂直片部を有する縦材側金具と、
前記他方の斜材に固定される横架材側金具本体部に、前記他方の斜材の固定される面とは反対の方向であって前記横架材側金具本体部から前記垂直片部と反対側に曲げられて前記上横架材または前記下横架材に固定される水平片部を有する横架材側金具と、
前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部とが前記垂直片部と前記水平片部とを互いに逆向きとして、前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部とを前記斜材の厚み方向で貫通して前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部とを回転自在に連結する軸と、
を備えることを特徴とする斜材用金物。
【請求項7】
請求項6記載の斜材用金物であって、
前記横架材側金具本体部と前記縦材側金具本体部とに穿設され前記軸が貫通される各貫通穴の少なくともいずれか一方が、スリット状の長穴よりなることを特徴とする斜材用金物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物用斜材の固定構造及び斜材用金物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に筋交いの施工は、1本使う片筋交い、2本使うたすき筋交い(例えば特許文献1参照)となっている。たすき筋交いは、壁倍率として、片筋交いよりも2倍になり、耐震性などが向上する。また、たすき筋交いとせずに、片筋交いであっても、筋交いを同一方向に左右に二本略密着して配置する木造建築物における筋交い構造も知られている(特許文献2参照)。この場合、2本の筋交いの両端部は、下部構造材及び上部構造材に対し接合金具を介して接合される。従って、4個の接合金具が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-336219号公報
【文献】特許第3691493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、筋交いを2本使うたすき筋交いは、最近の高断熱性能が求められる中では、断熱材の厚さが100mmに達し、断熱材のカット個所が増えるなど断熱材の施工性が悪く、筋交い部分をカットして断熱材を挿入した場合には、隙間が発生し断熱性能が損なわれる問題がある。
また、壁面の施工を終えた後に、エアコンを設置しようとするとき、冷媒配管等の貫通穴が必要となるが、たすき筋交いでは、左右の柱間における左右上側の各入隅に筋交い端部や筋交い金物が位置していることから、貫通穴を設けることができないこともある。
一方、片筋交いは、断熱材を斜めにカットして入れることができ、容易に隙間なく施工ができる。この場合、90mm角とした角材の筋交いを片筋交いとして入れる仕様も存在するが、取り付けに適した有効な接合金物がない。また、筋交いの断面が片筋交いと比べ2倍あるにも関わらず性能は1.5倍しか認められない不利がある。
また、特許文献2に開示される同一方向に二本の筋交いを左右に配置する構造は、断熱材を斜めにカットして、容易に隙間なく施工ができるが、2本の筋交い材の上下を固定するためには各筋交い材の各両端にそれぞれ接合金具を用いることから4個の接合金具が必要となった。
これに加え、例えば屋根部分にトラス構造を構成したい際、スパンの大きな構造では梁と垂木との間にトラス構造を設けたい。そのようなときに、梁と垂木との間にたて込まれるトラス柱の対角入隅に筋交い構造となる斜材を入れるが、その両端は角度が一定ではないことから金物としては従来品の板材構造のものしか使えない。このため、角度が90°以外となる入隅においても、梁などの幅内に斜材を納めて、その両面に突出部分のないトラス構造を実現したい要請がある。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、角度が90°以外の入隅に斜材を設けたトラス構造においても、一般的な片筋交い構造に比べ、壁倍率を大きくでき、しかも、金物使用数を抑制できる木造建築物用斜材の固定構造及び斜材用金物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
次に、上記の課題を解決するための手段を、実施の形態に対応する図面を参照して説明する。
本発明の請求項1記載の木造建築物用斜材の固定構造は、左右一対の縦材17と上下の上横架材15及び下横架材13とで囲まれた四角形空間19における1つの対角線上に位置する2つの入隅(上側の入隅21,下側の入隅23)の間に、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する2本の斜材(奥側斜材25,手前側斜材27)が厚み方向で重ねられて組み入れられ、前記2本の斜材の各一方の端25a,27aと各他方の端25b,27bとのそれぞれが同一形状の斜材用金物37により前記入隅21,23に固定される木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記斜材用金物37は、
前記一方の斜材25に固定される縦材側金具本体部45に、前記一方の斜材25の固定される面とは反対の方向へ前記縦材側金具本体部45から垂直に曲げられて前記縦材17に固定される垂直片部47を有する縦材側金具41と、
前記他方の斜材27に固定される横架材側金具本体部51に、前記他方の斜材27の固定される面とは反対の方向であって前記横架材側金具本体部51から前記垂直片部47と反対側に曲げられて前記上横架材15または前記下横架材13に固定される水平片部53を有する横架材側金具43と、
前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45とが前記垂直片部47と前記水平片部53とを互いに逆向きとして、前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45とを前記斜材25,27の厚み方向で貫通して前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45とを回転自在に連結する軸55と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
この木造建築物用斜材の固定構造では、左右一対の縦材17と上下の上横架材15及び下横架材13とで囲まれた四角形空間19における1つの対角線上に位置する2つの入隅21,23の間に、2本の斜材25,27が厚み方向で重ねられて組み入れられる。2本の斜材25,27は、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する。従って、この木造建築物用斜材の固定構造では、一般的な1本の筋交いによる片筋交いが、2本の斜材25,27により、筋交い強度を増強した改良構造の片筋交いとなる。
この木造建築物用斜材の固定構造は、片筋交いとなることにより、たすき筋交いに比べ、断熱材の施工性を良好にできる。また、たすき筋交いに比べ、隙間が発生しにくく、断熱性能の損失を抑制できる。これに加え、片筋交いとなるので、左右の縦材間における左右両方の上側の入隅21は、いずれか一方を斜材用金物不在にでき、エアコン冷媒配管等の貫通穴を施工しやすくすることができる。
また、木造建築物用斜材の固定構造は、斜材用金物37を使用することにより、一般的な断面45×90mmの斜材2本を、軸を少しずらして施工することで、一対の対角線の片側に2本配置が可能となる。これにより、90mm角1本の斜材を片筋交いとして入れる場合、壁倍率が1.5倍しか認められないのに対し、2本使いとなることにより、壁倍率をたすき筋交いとほぼ同等程度まで大きくすることが可能となる。
さらに、木造建築物用斜材の固定構造では、2本の斜材25,27の一方の端25a,27aと、他方の端25b,27bとのそれぞれが同一形状の斜材用金物37により入隅21,23に固定されるので、2本の筋交い材の上下を固定するために4個の接合金具が必要であった従来構造に比べ、金物を2個のみと半減させることができる。
これに加え、例えば屋根部分にトラス構造を構成したいなど、スパンの大きな構造で梁と垂木との間にトラス構造を設けたい場合であっても、一定でない対角線方向両端の角度に応じて、軸55を中心に縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを回転させて対応が可能となる。すなわち、角度が90°以外となる入隅においても、同一の斜材用金物37を使用して、梁(横架材)や柱(縦材)などの幅内に斜材を納め、その両面に突出部分のないトラス構造を実現できる。
【0008】
本発明の請求項2記載の木造建築物用斜材の固定構造は、請求項1に記載の木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記軸55により連結されて平行に重ねられた前記縦材側金具本体部45と前記横架材側金具本体部51とは、交差する直線状の縦材側傾斜辺部59と横架材側縦辺部61との間に、前記入隅21,23に対向する入隅対向凹部63が形成されることを特徴とする。
【0009】
この木造建築物用斜材の固定構造では、斜材用金物37が、縦材側金具本体部45の縦材側傾斜辺部59と、横架材側金具本体部51の横架材側縦辺部61とで挟まれる入隅対向凹部63を有する。斜材用金物37は、垂直片部47と水平片部53とを有し、これらが入隅対向凹部63となって交わるので、垂直片部47と水平片部53とによる出隅部分が入隅に嵌り込むことがない。出隅部分が存在する場合、入隅の縦材17と、上横架材15または下横架材13とに挟まれる直角(90°)が少しでも大きくなる(鈍角側になる)と、垂直片部47と水平片部53とが交わる出隅部分が入隅に先に当たり、垂直片部47や水平片部53が、縦材17や、上横架材15または下横架材13に密着しにくくなる。斜材用金物37は、入隅対向凹部63を設けることにより、入隅に出隅部分が先に当たることを回避できる。
【0010】
本発明の請求項3記載の木造建築物用斜材の固定構造は、請求項2に記載の木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記垂直片部47と前記縦材側傾斜辺部59との交わる第1角部65が、一方の斜材25の幅方向の中央を通る中心線上に位置し、
前記水平片部53と前記横架材側縦辺部61との交わる第2角部67が、他方の斜材27の幅方向の中央を通る中心線上に位置することを特徴とする。
【0011】
この木造建築物用斜材の固定構造では、斜材用金物37に、縦材側金具本体部45の縦材側傾斜辺部59と、横架材側金具本体部51の横架材側縦辺部61とで挟まれる入隅対向凹部63が設けられる。入隅対向凹部63は、垂直片部47と縦材側傾斜辺部59との交わる角部が第1角部65となり、水平片部53と横架材側縦辺部61との交わる角部が第2角部67となる。さらに、第1角部65は、一方の斜材(奥側斜材)25の幅方向の中央を通る中心線上に位置する。また、第2角部67は、他方の斜材(手前側斜材)27の板幅方向の中央を通る中心線上に位置する。
従って、例えば上側の入隅21では、奥側斜材25の一方の端25aにおいて第1角部65を通る中心線47が、手前側斜材27の一方の端27aにおいて第2角部67を通る中心線71からずれて、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とに表裏の斜材を固定するのに必要な面が表出する。
対角線上の他方側となる下側の入隅23では、斜材用金物37が180°回転して固定されるので、奥側斜材25の中心線69と手前側斜材27の中心線71は、斜材の長手方向略中央部分で一旦交差した後、第2角部67と第1角部65とを通る位置となってずれる。
このため、下側の入隅23においても、中心線69と中心線71のずれ量だけ奥側斜材25と手前側斜材27とがずれて、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とに表裏となる各斜材25,27を固定するのに必要な面が表出することになる。
【0012】
本発明の請求項4記載の木造建築物用斜材の固定構造は、請求項1~3のいずれか1つに記載の木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記軸55は、前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45との相対回転角度を規制する締結構造を有することを特徴とする。
【0013】
この木造建築物用斜材の固定構造では、斜材用金物37が、別体の縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを有する。別体の縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とは、軸55により回転自在となって一体に連結される。斜材用金物37は、縦材側金具本体部45に、縦材17へ固定するための垂直片部47が形成される。一方、斜材用金物37は、横架材側金具本体部51に、上横架材15または下横架材13へ固定するための水平片部53が形成される。斜材用金物37は、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とが、軸55を中心に回転されることにより、それぞれに設けられている垂直片部47と水平片部53との成す角度が可変する。すなわち、斜材用金物37は、垂直片部47と水平片部53とが、縦材17と、上横架材15または下横架材13との成す角度に合わせて配置が可能となる。
斜材用金物37は、垂直片部47と水平片部53とが、縦材17と、上横架材15または下横架材13との成す角度に合わせて配置された後、軸55の回転が締結構造により締結されることにより、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とが一体に固定され、調整した角度に対応した専用の斜材用金物37として使用が可能となる。
【0014】
本発明の請求項5記載の木造建築物用斜材の固定構造は、請求項1~4のいずれか1つに記載の木造建築物用斜材の固定構造であって、
前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45とに穿設され前記軸55が貫通される各貫通穴50の少なくともいずれか一方が、スリット状の長穴50aよりなることを特徴とする。
【0015】
この木造建築物用斜材の固定構造では、軸55を中心に縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを回転させて対応が可能となるとともに、長穴50aの長手方向に沿って軸55の位置を変えられ、斜材用金物37が、取付対象である縦材17と横架材15,17、垂直片部47、水平片部53、縦材側金具本体部45、横架材側金具本体部51のそれぞれが、角度設定に互いに干渉しないように、また入隅21,23との位置や斜材25,27の固定の際に互いが干渉しない位置となるように、回転中心の軸55の位置をずらすことが可能となる。
【0016】
本発明の請求項6記載の斜材用金物37は、左右一対の縦材17と上下の上横架材15及び下横架材13とで囲まれた四角形空間19における1つの対角線上に位置する2つの入隅21,23の間に、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する2本の斜材25,27が厚み方向で重ねられて組み入れられる木造建築物用斜材の固定構造に用いられ、前記2本の斜材25,27の一方の端25a,27aと他方の端25b,27bとのそれぞれを、前記入隅21,23に固定する同一形状の斜材用金物37であって、
前記一方の斜材25に固定される縦材側金具本体部45に、前記一方の斜材25の固定される面とは反対の方向へ前記縦材側金具本体部45から垂直に曲げられて前記縦材17に固定される垂直片部47を有する縦材側金具41と、
前記他方の斜材27に固定される横架材側金具本体部51に、前記他方の斜材27の固定される面とは反対の方向であって前記横架材側金具本体部51から前記垂直片部47と反対側に曲げられて前記上横架材15または前記下横架材13に固定される水平片部53を有する横架材側金具43と、
前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45とが前記垂直片部47と前記水平片部53とを互いに逆向きとして、前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45とを前記斜材25,27の厚み方向で貫通して前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45とを回転自在に連結する軸55と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
この斜材用金物37では、一方の斜材(奥側斜材)25と他方の斜材(手前側斜材)27とに、縦材側金具本体部45及び横架材側金具本体部51が挟まれるような位置関係で固定される。縦材側金具本体部45は垂直片部47を有し、横架材側金具本体部51は水平片部53を有する。垂直片部27は、縦材側金具本体部45から垂直に曲げられて縦材17に固定される。水平片部53は、横架材側金具本体部51から垂直片部47と反対側に曲げられて上横架材15または下横架材13に固定される。つまり、1つの斜材用金物37は、一箇所の入隅17において、縦材側金具本体部45及び横架材側金具本体部51の表裏面に奥側斜材25、手前側斜材27の一方の端25a,27a、または、他方の端25b,27bを同時に固定することができる。
これにより、左右一対の縦材17と上下一対の上横架材15及び下横架材13とで囲まれた四角形空間19における1つの対角線上に位置する2つの入隅21,23の間に、2本の斜材(奥側斜材25、手前側斜材27)が厚み方向で重ねられて組み込み固定可能となる。2本の斜材25,27は、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する。従って、斜材用金物37は、一般的な1本の斜材による片筋交いと異なり、2本の斜材となった改良構造の片筋交いを実現できる。
また、斜材用金物37は、2本の斜材の一方(奥側斜材25)と他方(手前側斜材27)とのそれぞれの端(一方の端25a,27a、及び他方の端25b,27b)を、同一形状の金物でそれぞれの入隅1721,23に固定できるので、2本の斜材25,27の上下を固定するために4個の接合金具が必要であった従来構造に比べ、使用数を2個のみに半減させることができる。
【0018】
本発明の請求項7記載の斜材用金物37は、請求項6記載の斜材用金物37であって、
前記横架材側金具本体部51と前記縦材側金具本体部45とに穿設され前記軸55が貫通される各貫通穴50の少なくともいずれか一方が、スリット状の長穴50aよりなることを特徴とする。
【0019】
この斜材用金物37では、軸55を中心に縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを回転させて対応が可能となるとともに、長穴50aの長手方向に沿って軸55の位置を変えられ、斜材用金物37が、取付対象である縦材17と横架材15,17、垂直片部47、水平片部53、縦材側金具本体部45、横架材側金具本体部51のそれぞれが、角度設定に互いに干渉しないように、また入隅21,23との位置や斜材25,27の固定の際に互いが干渉しない位置となるように、回転中心の軸55の位置をずらすことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る請求項1記載の木造建築物用斜材の固定構造によれば、角度が90°以外の入隅に斜材を設けたトラス構造においても、一般的な片筋交い構造に比べ、壁倍率を大きくでき、しかも、金物使用数を抑制できる。
【0021】
本発明に係る請求項2記載の木造建築物用斜材の固定構造によれば、斜材用金物の入隅に対向する部分に、垂直片部と水平片部とが交わる出隅部分の代わりに入隅対向凹部が形成され、この出隅部分によって入隅に干渉しなくなり、斜材用金物の収まりが良好となる。
【0022】
本発明に係る請求項3記載の木造建築物用斜材の固定構造によれば、厚み方向前後に重ねて配置される2本の奥側斜材と手前側斜材とにおける中心線、中心線を、入隅対向凹部の第1角部と第2角部にそれぞれに一致させることにより、2本の奥側斜材と手前側斜材をずらして(換言すれば、第1角部と第2角部をずらすガイドとして)、斜材用金物の表裏に、奥側斜材と手前側斜材とを表裏方向から固定可能とする面を表出させることができる。
【0023】
本発明に係る請求項4記載の木造建築物用斜材の固定構造によれば、縦材と、上横架材または下横架材との成す角度に合わせて縦材側金具本体部と横架材側金具本体部との相対位置を固定でき、縦材と、上横架材または下横架材との成す任意な角度に、斜材用金物を容易に対応させることができる。
【0024】
本発明に係る請求項5記載の木造建築物用斜材の固定構造によれば、軸を中心に縦材側金具本体部と横架材側金具本体部とを回転させて対応が可能となるとともに、長穴の長手方向に沿って軸の位置を変えられ、斜材用金物が、取付対象となる縦材と上横架材または下横架材、垂直片部や水平片部、縦材側金具本体部や横架材側金具本体部のそれぞれが、角度設定に互いに干渉しないように、また入隅との位置や斜材の固定の際に互いが干渉しない位置となるように、回転中心の軸の位置をずらすことが可能となる。
【0025】
本発明に係る請求項6記載の斜材用金物によれば、片筋交いとして片寄せられた2本の斜材を、壁倍率を高めながら、金物自体の表裏面を利用して一度に固定でき、しかも、金物自体の使用数も従来金物の4個から2個に減らすことができる。
【0026】
本発明に係る請求項7記載の斜材用金物によれば、軸を中心に縦材側金具本体部と横架材側金具本体部とを回転させて対応が可能となるとともに、長穴の長手方向に沿って軸の位置を変えられ、斜材用金物が、取付対象となる縦材と上横架材または下横架材、垂直片部や水平片部、縦材側金具本体部や横架材側金具本体部のそれぞれが、角度設定に互いに干渉しないように、また入隅との位置や斜材の固定の際に互いが干渉しない位置となるように、回転中心の軸の位置をずらすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態に係る木造建築物用斜材の固定構造が採用される洋小屋組みの概略を表す正面図である。
図2図1に示した洋小屋組みの要部拡大図である。
図3】上側の入隅における斜材用金物と、奥側斜材及び手前側斜材との分解斜視図である。
図4】斜材用金物の分解斜視図である。
図5】軸により一体に組み立てられた斜材用金物の斜視図である。
図6】斜材用金物と2本の斜材の位置関係を説明する分解正面図である。
図7図6のX-X断面図である。
図8】斜材用金物の角度合わせ工程の説明図である。
図9】斜材用金物の取付工程の説明図である。
図10】入隅が90°の場合に用いることができる斜材用金物の説明図である。
図11】奥側斜材の中心線と手前側斜材の中心線との交差状況を表す説明図である。
図12】他の実施形態の斜材用金物の分解斜視図である。
図13】他の実施形態の斜材用金物の上側入隅への取付工程の説明図である。
図14】上側の入隅における斜材用金物と奥側斜材及び手前側斜材との分解斜視図である。
図15】(a),(b)は、上横架材の角度が異なる場合の斜材用金物の取付状態を示す正面図である。
図16】上横架材が水平の場合の斜材用金物の取付状態を示す正面図である。
図17】斜材用金物の縦材側金具と横架材側金具とを回転して重ね合わせた図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る木造建築物用斜材の固定構造が採用される洋小屋組みの概略を表す正面図である。
本実施形態に係る木造建築物用斜材の固定構造は、例えば洋小屋組みを有する木造建築物11に好適に用いることができる。例えば図1に示す木造建築物11では、小屋ばり、ろくばり(以下、下横架材13と称す)の上方に、垂木(以下、上横架材15と称す)が合掌で設けられる。上横架材15と下横架材13との間には、垂直方向の釣りづか(以下、縦材17と称す)が、下横架材13の延在方向に離間して配置される。トラス構造とした洋小屋組みでは、隣接する左右の縦材17の間に、斜材が設けられる。
【0029】
なお、釣りづかなどの縦材17は、例えば105mm×105mmや120mm×120mm、垂木などの上横架材15は、例えば105mm×105mmや120mm×120mm、梁などの下横架材13は、例えば幅120mm×高さ180、210、240mmなどの材が用いられる。
【0030】
図2は、図1に示した洋小屋組みの要部拡大図である。
木造建築物用斜材の固定構造は、左右一対の縦材17と上下の上横架材15及び下横架材13とで囲まれた四角形空間19における1つの対角線上に位置する2つの入隅である一方の入隅(上側の入隅21)、他方の入隅(下側の入隅23)の間に、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する長尺平板で形成した2本の斜材、本実施形態では一方の斜材として奥側斜材25、他方の斜材として手前側斜材27が厚み方向で重ねられて組み入れられる。2本の斜材である奥側斜材25と手前側斜材27の一方の端25a,27aと、他方の端25b,27bとのそれぞれは、同一形状の斜材用金物37によりそれぞれの入隅21,23に固定される。
【0031】
斜材25,27は、例えば45mm×90mmの断面形状で形成され、これを2本、厚さ方向に重ねて合計90mmとして用いられる。
【0032】
なお、本明細書中、入隅は、上側の入隅21、下側の入隅23の総称として用いる。また、斜材は、奥側斜材25、手前側斜材27の総称として用いる。
【0033】
図3は、上側の入隅21における斜材用金物37と、奥側斜材25及び手前側斜材27との分解斜視図である。
例えば図3に示す上側の入隅21に固定される斜材用金物37は、ビス39により、縦材17と上横架材15に固定される。この場合、斜材用金物37は、縦材17と、90°以外の角度でこの縦材17に上横架材15が交わる上側の入隅21に、奥側斜材25の一方の端25aと、手前側斜材27の一方の端27aとを同時に固定可能とする。
【0034】
なお、斜材用金物37は、図2に示すように、縦材17と、90°の角度でこの縦材17に下横架材13が交わる下側の入隅23においても、同一形状のものが奥側斜材25の他方の端25bと、手前側斜材27の他方の端25bとを同時に固定可能とする。
【0035】
図4は、斜材用金物37の分解斜視図である。
斜材用金物37は、縦材側金具41と、横架材側金具43と、軸55と、を有する。
【0036】
縦材側金具41は、2本の斜材である奥側斜材25と手前側斜材27とに挟まれるような位置となって固定される縦材側金具本体部45を有する。縦材側金具本体部45は、この縦材側金具本体部45から垂直に曲げられて縦材17に固定される垂直片部47を有する。これら縦材側金具本体部45及び垂直片部47には、複数のビス穴49が穿設されている。
【0037】
横架材側金具43は、2本の斜材である奥側斜材25と手前側斜材27とに挟まれるような位置となって固定される横架材側金具本体部51を有する。横架材側金具本体部51は、この横架材側金具本体部51から垂直片部47と反対側に曲げられて上横架材15または下横架材13に固定される水平片部53を有する。これら横架材側金具本体部51及び水平片部53には、複数のビス穴49が穿設されている。
【0038】
軸55は、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを斜材の厚み方向で貫通する。軸55は、例えばボルトやビスと、抜け止めとなる固定具57、例えばボルトに螺合するナットとから構成される締結構造を備える。軸55は、ビス穴49とは別の貫通穴である専用の軸穴50を貫通し、この軸穴50は、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とに穿設されている。本実施形態では、専用の軸穴50として、横架材側縦辺部61に近接し、且つ縦材側傾斜辺部59に近接する縁部分にそれぞれ設けられる。なお、軸55は、例えばビス穴49を利用して貫通するようにしてもよい。
【0039】
図5は、軸55により一体に組み立てられた斜材用金物37の斜視図である。
軸55は、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを回転自在に連結する。締結構造は、例えばボルト55にナット57を締め付けることにより、軸回りの縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51との相対回転を規制する。つまり、締結構造により固定された縦材側金具41と横架材側金具43とは、1つの斜材用金物37となる。
【0040】
斜材用金物37において、軸55により連結された縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とは、交差する直線状の縦材側傾斜辺部59と横架材側縦辺部61との間に、上側の入隅21、または下側の入隅23に対向する入隅対向凹部63が形成される。
【0041】
ここで、斜材用金物37は、入隅対向凹部63において、垂直片部47と縦材側傾斜辺部59との交わる角が第1角部65となる。また、斜材用金物37は、入隅対向凹部63において、水平片部53と横架材側縦辺部61との交わる角が第2角部67となる。
【0042】
図6は、斜材用金物37と2本の斜材25,27の位置関係を説明する分解正面図である。
木造建築物用斜材の固定構造では、斜材用金物37の第1角部65に、奥側斜材25の板幅方向の中央を通る中心線69(軸線とも称すことができる)が正面視で重なる。また、斜材用金物37の第2角部67に、手前側斜材27の板幅方向の中央を通る中心線71が正面視で重なる。すなわち、第1角部65は、奥側斜材25の板幅方向の中央を通る中心線69の上に位置する。また、第2角部67は、手前側斜材27の板幅方向の中央を通る中心線71の上に位置する。
【0043】
上側の入隅21に対応する奥側斜材25の一方の端25aには、中心線69が第1角部65を通る位置で、縦材17と上横架材15とに当接する上奥当接面29a,29bが、上奥切断箇所31a,31bを除去することにより形成される。
【0044】
下側の入隅23に対応する奥側斜材25の他方の端25bには、中心線69が第1角部65を通る位置で、縦材17と下横架材13とに当接する下奥当接面30a,30bが、下奥切断箇所32a,32bを除去することにより形成される。
【0045】
上側の入隅21に対応する手前側斜材27の一方の端27aには、中心線71が第2角部67を通る位置で、縦材17と上横架材15とに当接する上前当接面33a,33bが、上前切断箇所35a,35bを除去することにより形成される。
【0046】
下側の入隅23に対応する手前側斜材27の他方の端27bには、中心線71が第2角部67を通る位置で、縦材17と下横架材13とに当接する下前当接面34a,34bが、下前切断箇所36a,36bを除去することにより形成される。
なお、これらの切断箇所31a,31b,32a,32b,35a,35b,36a,36bは、工場内でのプレカットで切り落とされる。プレカットは、斜材用金物37の第1角部65、第2角部67の角度に合わせて予め行われる。つまり、木造建築物用斜材の固定構造において、現場でのカット作業は無い。
【0047】
図7は、図6のX-X断面図である。
例えば上側の入隅21に固定された斜材用金物37は、他方の斜材である手前側斜材27が、横架材側金具本体部51の表面側に固定される。また、一方の斜材である奥側斜材25は、縦材側金具本体部45の裏面側に固定される。軸55は、これら手前側斜材27と奥側斜材25との間に配置される。
【0048】
次に、洋小屋組みに対して木造建築物用斜材の固定構造を適用する際の手順を説明する。
【0049】
図8は、斜材用金物37の角度合わせ工程の説明図である。
斜材用金物37は、例えば釣りづかである縦材17と、垂木である上横架材15とに挟まれる上側の入隅21と、釣りづかである縦材17と、梁である下横架材13とに挟まれる下側の入隅23との双方に、同一のものがそれぞれ取り付けられる。
【0050】
角度合わせ工程において、それぞれの斜材用金物37は、上側の入隅21の角度、下側の入隅23の角度に合わせて、軸55が締結構造により固定される。上側の入隅21に取り付けられる斜材用金物37は、水平片部53が上横架材15と平行となり、垂直片部47が縦材17と平行になる。下側の入隅23に取り付けられる斜材用金物37は、垂直片部47が縦材17と平行となり、水平片部53が下横架材13と平行となる。
【0051】
図9は、斜材用金物37の取付工程の説明図である。
取付工程において、上側の入隅21に取り付けられる斜材用金物37は、水平片部53が上横架材15にビス39により固定され、垂直片部47が縦材17にビス39により固定される。また、下側の入隅23に取り付けられる斜材用金物37は、垂直片部47が縦材17にビス39により固定され、水平片部53が下横架材13にビス39により固定される。
【0052】
ここで、斜材用金物37は、90°となる下側の入隅23に固定される場合、第1角部65から下横架材13までの距離Aと、第2角部67から縦材17までの距離Bとの比率が、例えばA:B=4:3で設定される。なお、この比率は、一例であり、これに限定されない。
【0053】
このようにして上側の入隅21と下側の入隅23とに固定されたそれぞれの斜材用金物37には、図3に示したように、例えば縦材側金具本体部45に奥側から奥側斜材25がビス39により固定され、横架材側金具本体部51に手前側から手前側斜材27がビス39により固定される。なお、奥側斜材25と手前側斜材27の取付順序は、この逆であっても勿論よい。これにより、木造建築物用斜材の固定構造を適用した洋小屋組みの1つの四角形空間19における施工が完了する。他の四角形空間19における施工も同様に行われる。
【0054】
図10は、入隅が90°の場合に用いることができる斜材用金物101の説明図である。
なお、木造建築物用斜材の固定構造は、縦材17と下横架材13との成す角度が90°である場合、90°専用の斜材用金物101を用いることができる。この斜材用金物101は、上述した縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とが一体となった1枚の金具本体部103で形成される。金具本体部103には、上記同様の形状とされる水平片部53と垂直片部47とが表裏逆方向に垂直に折り曲げられて設けられている。この斜材用金物101によれば、角度は可変できないが、図2のような下入隅23が90°の入隅の場合には、斜材25,27の固定強度を高めることができるとともに、1枚板から製作できることから構造を簡素にして安価にできる。
【0055】
次に、上記した構成の作用を説明する。
【0056】
本実施形態に係る木造建築物用斜材の固定構造では、左右一対の縦材17と上下の上横架材15及び下横架材13とで囲まれた四角形空間19における1つの対角線上に位置する2つの入隅21,23の間に、2本の斜材25,27が厚み方向で重ねられて組み入れられる。2本の斜材25,27は、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する。従って、この木造建築物用斜材の固定構造では、一般的な1本の筋交いによる片筋交いが、2本の斜材により、筋交い強度を増強した改良構造の片筋交いとなる。
【0057】
この木造建築物用斜材の固定構造は、片筋交いとなることにより、たすき筋交いに比べ、断熱材の施工性を良好にできる。また、たすき筋交いに比べ、隙間が発生しにくく、断熱性能の損失を抑制できる。これに加え、片筋交いとなるので、左右の斜材間における左右両方の上側の入隅21は、いずれか一方を斜材用金物不在にでき、エアコン冷媒配管等の貫通穴を施工しやすくすることができる。
【0058】
また、木造建築物用斜材の固定構造は、斜材用金物37を使用することにより、一般的な断面45×90mmの斜材2本を、軸を少しずらして施工することで、一対の対角線の片側に2本配置が可能となる。これにより、90mm角1本の斜材を片筋交いとして入れる場合、壁倍率が1.5倍しか認められないのに対し、2本使いとなることにより、壁倍率をたすき筋交いとほぼ同等程度まで大きくすることが可能となる。
【0059】
すなわち、斜材が1本であると壁倍率は2倍となるので、2本使いのたすき筋交いでは、2+2の4倍となる。本発明の木造建築物用斜材の固定構造では、たすき筋交いと異なり2本の斜材(奥側斜材25,手前側斜材27)を重ねて使用し、かつ、それぞれの両端で縦材17と、上横架材15または下横架材13とに固定される構成となる。このことから、単に断面積が増えるのではない構造となるため、実際の壁倍率は、2本使い(2+2の4倍)となると想定され、4倍相当と推測される。
【0060】
さらに、木造建築物用斜材の固定構造では、2本の斜材25,27の一方の端25a,27aと、他方の端25b,27bとのそれぞれが同一形状の斜材用金物37により入隅21,23に固定されるので、2本の筋交い材の上下を固定するために4個の接合金具が必要であった従来構造に比べ、金物を2個に半減させることができる。
【0061】
これに加え、例えば屋根部分にトラス構造を構成したいなど、スパンの大きな構造で梁と垂木との間にトラス構造を設けたい場合であっても、一定でない対角線方向両端の角度に応じて、軸55を中心に縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを回転させて対応が可能となる。すなわち、角度が90°以外となる入隅においても、同一の斜材用金物37を使用して、梁(横架材)や柱(縦材)などの幅内に斜材25,27を納め、その両面に突出部分のないトラス構造を実現できる。
【0062】
また、この木造建築物用斜材の固定構造では、斜材用金物37が、縦材側金具本体部45の縦材側傾斜辺部59と、横架材側金具本体部51の横架材側縦辺部61とで挟まれる入隅対向凹部63を有する。斜材用金物37は、垂直片部47と水平片部53とを有し、これらが入隅対向凹部63となって交わるので、垂直片部47と水平片部53との出隅部分が入隅に嵌り込むことがない。出隅部分が存在する場合、入隅の縦材17と、上横架材15または下横架材13とに挟まれる直角(90°)が少しでも大きくなると、垂直片部47と水平片部53とが交わる出隅部分が入隅に先に当たり、垂直片部47や水平片部53が、縦材17や、上横架材15または下横架材13に密着しにくくなる。斜材用金物37は、入隅対向凹部63を設けることにより、入隅に出隅部分が先に当たることを回避できる。その結果、入隅対向凹部63によって入隅への干渉を防止し、斜材用金物37の収まりを良好にできる。
【0063】
図11は、奥側斜材25の中心線69と手前側斜材27の中心線71との交差状況を表す説明図である。
また、この木造建築物用斜材の固定構造において、入隅対向凹部63は、垂直片部47と縦材側傾斜辺部59との交わる角部が第1角部65となり、水平片部53と横架材側縦辺部61との交わる角部が第2角部67となる。さらに、第1角部65は、一方の斜材(奥側斜材)25の板幅方向の中央を通る中心線69の上に位置する。また、第2角部67は、他方の斜材(手前側斜材)27の板幅方向の中央を通る中心線71の上に位置する。
【0064】
従って、例えば上側の入隅21では、奥側斜材25の一方の端25aにおいて第1角部65を通る中心線69が、手前側斜材27の一方の端27aにおいて第2角部67を通る中心線71からずれて、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とに表裏の斜材を固定するのに必要な面が表出する。
【0065】
また、対角線上の他方側となる下側の入隅23では、斜材用金物37が180°回転して固定されるので、奥側斜材25の中心線69と手前側斜材27の中心線71は、斜材の長手方向略中央部分で一旦交差した後、第2角部67と第1角部65とを通る位置となってずれる。
【0066】
このため、下側の入隅23においても、中心線69と中心線71のずれ量だけ奥側斜材25と手前側斜材27とがずれて、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とに表裏の斜材を固定するのに必要な面が表出することになる。その結果、厚み方向前後に重ねて配置される2本の奥側斜材25と手前側斜材27とにおける中心線69,71を、入隅対向凹部63の第1角部65と第2角部67にそれぞれに一致させることにより、2本の奥側斜材25と手前側斜材27をずらして(換言すれば、第1角部65と第2角部67を、ずらし位置のガイドとして)、奥側斜材25と手前側斜材27とを表裏方向から固定可能とする面を、斜材用金物37の表裏に表出させることができる。
【0067】
さらに、この木造建築物用斜材の固定構造では、斜材用金物37が、別体の縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを有する。別体の縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とは、軸55により回転自在となって一体に連結される。斜材用金物37は、縦材側金具本体部45に、縦材17へ固定するための垂直片部47が形成される。一方、斜材用金物37は、横架材側金具本体部51に、上横架材15または下横架材13へ固定するための水平片部53が形成される。斜材用金物37は、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とが、軸55を中心に回転されることにより、それぞれに設けられている垂直片部47と水平片部53との成す角度が可変する。すなわち、斜材用金物37は、垂直片部47と水平片部53とが、縦材17と、上横架材15または下横架材13との成す角度に合わせて配置が可能となる。
【0068】
これに加え、軸55及び締結構造を備えた斜材用金物37は、垂直片部47と水平片部53とが重なる位置に、縦材側金具41と横架材側金具43とを回転して重ね合わせ、固定することができる。この際、軸55は、任意の位置のビス穴49を利用してもよい。これにより、斜材用金物37は、折り曲げ部が少なくなるように重ねて畳むことができ、コンパクトになり、可搬性を向上させることができる。
【0069】
斜材用金物37は、垂直片部47と水平片部53とが、縦材17と、上横架材15または下横架材13との成す角度に合わせて配置された後、軸55の回転が締結構造により締結されることにより、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とが一体に固定され、調整した角度に対応した専用の斜材用金物37として使用が可能となる。その結果、縦材17と、上横架材15または下横架材13との成す任意な角度に、斜材用金物37を容易に対応させることができる。
【0070】
そして、本実施形態に係る斜材用金物37では、奥側斜材25と手前側斜材27とに、縦材側金具本体部45及び横架材側金具本体部51が挟まれるような位置関係で固定される。縦材側金具本体部45は垂直片部47を有し、横架材側金具本体部51は水平片部53を有する。垂直片部47は、縦材側金具本体部45から垂直に曲げられて縦材17に固定される。水平片部53は、横架材側金具本体部51から垂直片部47と反対側に曲げられて上横架材15または下横架材13に固定される。つまり、1つの斜材用金物37は、一箇所の入隅において、縦材側金具本体部45及び横架材側金具本体部51の表裏面に奥側斜材25、手前側斜材27の一方の端25a,27a、または他方の端25b,27bを同時に固定することができる。
【0071】
これにより、左右一対の縦材17と上下一対の上横架材15及び下横架材13とで囲まれた四角形空間19における1つの対角線上に位置する2つの入隅21,23の間に、2本の斜材25,27が厚み方向で重ねられて組み込み固定可能となる。2本の斜材25,27は、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する。従って、斜材用金物37は、一般的な1本の斜材による片筋交いと異なり、2本の斜材となった改良構造の片筋交いを実現できる。
【0072】
また、斜材用金物37は、2本の斜材の一方(奥側斜材25)と他方(手前側斜材27)とのそれぞれの端(一方の端25a,27a、及び他方の端25b,)を、同一形状の金物でそれぞれの入隅21,23に固定できるので、2本の斜材25,27の上下を固定するために4個の接合金具が必要であった従来構造に比べ、使用数を2個に半減させることができる。
【0073】
図12は、他の実施形態の斜材用金物の分解斜視図である。
なお、上述した実施形態では、斜材用金物37は、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とを回転自在とするように軸55が貫通する軸穴50がそれぞれに穿設されている例を示したが、軸55が貫通する各軸穴50のいずれか一方を長穴50aにて形成することとしてもよい。
斜材用金物37を構成する横架材側金具43の横架材側金具本体部51と縦材側金具41の縦材側金具本体部45とのいずれか一方、例えば縦材側金具本体部45の軸穴を、スリット状の長穴50aとして穿設形成する。図示の例では、縦材側金具41を水平方向にやや長く形成しており、その方向に沿って、すなわち略水平に長穴50aが形成される。横架材側金具43の貫通穴である軸穴50は、上述と同様に円形に貫通形成される。
【0074】
図13は、他の実施形態の斜材用金物の上側入隅への取付工程の説明図、図14は、上側の入隅における斜材用金物と奥側斜材及び手前側斜材との分解斜視図である。
このように形成された軸穴50と長穴50aとには、軸55が貫通され、前述同様に締結構造を備えることで、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とが回転自在に連結され、図13に示すように、縦材17と上横架材15との上側入隅21へ角度を合わせて固定される。その後、図14に示すように、上述同様に、2本の斜材25,27を厚み方向で重ねられて組み入れ、斜材用金物37にビス39にて固定される。
このとき、長穴50aによって、縦材側金具41と横架材側金具43とを互いに連結させるとともに、長穴50aの長手方向に沿って、つまり縦材側金具41に対して横架材側金具43をスライド移動させることが可能となる。
【0075】
図15(a),(b)は、上横架材の角度が異なる場合の斜材用金物の取付状態を示す正面図、図16は、上横架材が水平の場合の斜材用金物の取付状態を示す正面図である。
斜材用金物37は、上横架材15の角度が異なる場合であっても軸55を中心に縦材側金具41と横架材側金具43との回転角度を容易に設定変更か可能である。このとき、それぞれが干渉しないように、すなわち、取付対象である縦材17と横架材15、垂直片部47、水平片部53、縦材側金具本体部45、横架材側金具本体部51のそれぞれが角度設定に互いに干渉しないように、また入隅21(23)との位置や斜材25,27の固定の際に互いが干渉しない位置となるように、長穴50aにて回転中心の軸55の位置をずらすことが可能となる。このスリット状の長穴50aを備えることで、軸55を中心とする縦材側金具41と横架材側金具43との回転角度の許容範囲を増やすことが可能となる。
【0076】
特に、図16に示すように、縦材17と上横架材15との角度が直交する場合、すなわち上横架材15が所謂梁のように配置される場合に、斜材用金物37を取り付ける際、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とが厚み方向に重なる面積が多くなり、それぞれのビス穴49が干渉し合うことになって、斜材25,27を固定するためのビス39を打つことが不可能となる場合に、スリット状の長穴50aによりそれぞれの干渉を防ぐように縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とをずらし、設定することでビス39の位置の干渉を防ぐことが可能となる。
なお、長穴50aは、縦材側金具本体部45のみではなく、横架材側金具本体部51にも形成させることとしてもよい。
【0077】
図17は、斜材用金物37の縦材側金具41と横架材側金具43とを回転して重ね合わせた図である。
軸55にて回転可能とした斜材用金物37は、垂直片部47と水平片部53とが重なる位置に、縦材側金具41と横架材側金具43とを回転して重ね合わせることができる。この際、軸55は、任意の位置のビス穴49を利用してもよい。縦材側金具41と横架材側金具43とは、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51の外形状を略同一な形状とし、また、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51との重ね方を、垂直片部47及び水平片部53による折曲谷部に縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51の縁部がそれぞれ当接されるように軸55で連結する構成とすることで、互いの回転の規制が行われ、これにより、斜材用金物37は、縦材側金具本体部45と横架材側金具本体部51とが外形を揃えてコンパクトに重ね合わさり、扱いやすく可搬性を向上させることができる。
【0078】
従って、本実施形態に係る木造建築物用斜材の固定構造によれば、角度が90°以外の入隅に斜材を設けるトラス構造においても、一般的な片筋交い構造に比べ、壁倍率を大きくでき、しかも、金物使用数を抑制できる。
【0079】
また、本実施形態に係る斜材用金物37によれば、片筋交いとして片寄せられた2本の斜材を、壁倍率を高めながら、金物自体の表裏面を利用して一度に固定でき、しかも、金物自体の使用数も従来金物の4個から2個に減らすことができる。
【符号の説明】
【0080】
13…下横架材
15…上横架材
17…縦材
19…四角形空間
21…入隅(上側の入隅)
23…入隅(下側の入隅)
25…斜材(一方の斜材,奥側斜材)
27…斜材(他方の斜材,手前側斜材)
25a,27a…一方の端
25b,27b…他方の端
37…斜材用金物
41…縦材側金具
43…横架材側金具
45…縦材側金具本体部
47…垂直片部
50…貫通穴(軸穴)
50a…長穴
51…横架材側金具本体部
53…水平片部
55…軸(ボルト)
59…縦材側傾斜辺部
61…横架材側縦辺部
63…入隅対向凹部
65…第1角部
67…第2角部
【要約】
【課題】斜材を設けたトラス構造においても、壁倍率を大きくでき、金物使用数を抑制できる木造建築物用斜材の固定構造を提供する。
【解決手段】一対の縦材17と、上横架材15及び下横架材13とで囲まれた四角形空間19における1つの対角線上に位置する2つの入隅21,23の間に、異なる傾斜により長手方向略中央部で交差する2本の斜材25,27が厚み方向で重ねられて組み入れられ、2本の斜材の一方の端25a,27aと他方の端25b,27bとのそれぞれが斜材用金物37により入隅に固定される木造建築物用斜材の固定構造であって、斜材用金物37は、一方の斜材に固定される縦材側金具本体部と縦材に固定される垂直片部を有する縦材側金具と、他方の斜材に固定される横架材側金具本体部と横架材に固定される水平片部を有する横架材側金具と、横架材側金具本体部と縦材側金具本体部とに斜材の厚み方向で貫通して回転自在に連結する軸55と、を備える。
【選択図】 図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17