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特許7124227ポリフェニレンエーテル樹脂組成物、プリプレグ、及び金属張積層板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル樹脂組成物、プリプレグ、及び金属張積層板
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20220816BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20220816BHJP
   C08F 297/04 20060101ALI20220816BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20220816BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220816BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220816BHJP
【FI】
C08L71/12
C08L53/02
C08F297/04
C08J5/24 CEZ
B32B15/08 105
H05K1/03 610H
H05K1/03 630H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021537630
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2020026565
(87)【国際公開番号】W WO2021024679
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2019144191
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020031772
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】大隅 祥太
(72)【発明者】
【氏名】丹藤 泉
(72)【発明者】
【氏名】上田 宙輝
(72)【発明者】
【氏名】早川 佳男
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139122(WO,A1)
【文献】特表2018-526476(JP,A)
【文献】国際公開第2019/103048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテルと、(B)1,2結合構造と1,4結合構造のモル比が、80:20~100:0であるブタジエンブロックと、スチレンブロックと、を含むブロック共重合体を含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリフェニレンエーテルと、(B)ブタジエンブロック中の1,2結合構造と1,4結合構造のモル比が、80:20~100:0であるスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)を含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)の数平均分子量(Mn)が1,000~7,000である、請求項1または2に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項4】
成分(B)中のスチレンブロックとブタジエンブロックの重量比が、10:90~80:20である請求項1~3いずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項5】
成分(B)の重量平均分子量(Mw)が、2,000~100,000である請求項1~4いずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項6】
成分(B)の分子量分布(Mw/Mn)が、1.00~3.00である請求項1~5いずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項7】
成分(A)と成分(B)の含有比が重量比で、成分(A):成分(B)=5:95~95:5である請求項1~6いずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、架橋剤を含有する請求項1~7いずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項9】
架橋剤の含有量が、成分(A)と成分(B)の合計重量に対して1~50重量%である請求項8に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、難燃剤を含有する、請求項1~9いずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項11】
難燃剤の含有量が、成分(A)と成分(B)の合計重量に対して1~20重量%である請求項10に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1~11いずれか1項に記載の樹脂組成物が基材に含浸されたプリプレグ。
【請求項13】
請求項12に記載のプリプレグと金属箔とを加熱加圧成形することにより積層して製造される金属張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物、プリプレグ、金属張積層板に関する。本願は、2019年8月6日に出願された日本国特許出願第2019-144191号及び2020年2月27日に出願された日本国特許出願第2020-031772号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル(PPE)は、誘電率や誘電正接等の誘電特性が優れ、MHz帯からGHz帯という高周波数帯(高周波領域)においても誘電特性が優れている。このため、ポリフェニレンエーテルを含む樹脂組成物は、例えば、高周波用成形材料として用いられることが検討されている。前記の樹脂組成物を、基板材料等の成形材料として利用する際には、誘電特性に優れるだけではなく、耐熱性や成形性や耐水性等に優れていることも求められる。また、加工性の観点から、熱硬化性に優れた樹脂組成物が求められている。
【0003】
特許文献1では、特定のポリフェニレンエーテルと架橋型硬化剤を含むポリフェニレンエーテル樹脂組成物が提案されている。特許文献1に記載された樹脂組成物は、誘電特性を低下させることなく、プリプレグ製造時の利便性を高めるべく分子量の小さいPPEを用いても、耐熱性や成形性などの高い積層板を得ることができるようである。
【0004】
特許文献2では、(A)炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基により末端変性された変性ポリフェニレンエーテル、(B)炭素-炭素不飽和二重結合を有する架橋剤を含有し、成分(B)である架橋剤が、(B-1)ジビニルベンゼン及び(B-2)ポリブタジエンを50~100質量%含み、成分(A)と成分(B)の含有比が質量比で、成分(A):成分(B)=65:35~95:5であり、かつ成分(B-1)と成分(B-2)の含有比が質量比で、成分(B-1):成分(B-2)=1:100~1.5:1であることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物が提案されている。特許文献2に記載された樹脂組成物は、優れた誘電特性を維持したまま、優れた耐熱性、密着性、Tg等の特性を兼ね備えるようである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2006-516297号公報
【文献】WO2014/203511号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から知られているポリフェニレンエーテル樹脂組成物から製造された金属張積層板は、耐熱性や耐水性が十分ではない場合があった。本発明の課題は、耐熱性や耐水性などに優れる金属張積層板を製造することができる新規のポリフェニレンエーテル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)ポリフェニレンエーテルと、(B)1,2結合構造と1,4結合構造のモル比が、80:20~100:0であるブタジエンブロックと、スチレンブロックと、を含むブロック共重合体を含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物や、(A)ポリフェニレンエーテルと、(B)ブタジエンブロック中の1,2結合構造と1,4結合構造のモル比が、80:20~100:0であるスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)を含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物を見出した。また、本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物が基材に含浸されたプリプレグや、該プリプレグと金属箔とを加熱加圧成形することにより積層して製造される金属張積層板を見出した。
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
(1)(A)ポリフェニレンエーテルと、(B)1,2結合構造と1,4結合構造のモル比が、80:20~100:0であるブタジエンブロックと、スチレンブロックと、を含むブロック共重合体を含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(2)(A)ポリフェニレンエーテルと、(B)ブタジエンブロック中の1,2結合構造と1,4結合構造のモル比が、80:20~100:0であるスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)を含有するポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(3)成分(A)の数平均分子量(Mn)が1,000~7,000である、(1)または(2)に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(4)成分(B)中のスチレンブロックとブタジエンブロックの重量比が、10:90~80:20である(1)~(3)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(5)成分(B)の重量平均分子量(Mw)が、2,000~100,000である(1)~(4)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(6)成分(B)の分子量分布(Mw/Mn)が、1.00~3.00である(1)~(5)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(7)成分(A)と成分(B)の含有比が重量比で、成分(A):成分(B)=5:95~95:5である(1)~(6)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(8)さらに、架橋剤を含有する(1)~(7)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(9)架橋剤の含有量が、成分(A)と成分(B)の合計重量に対して1~50重量%である(8)に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(10)さらに、難燃剤を含有する、(1)~(9)のいずれかに記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(11)難燃剤の含有量が、成分(A)と成分(B)の合計重量に対して1~20重量%である(10)に記載のポリフェニレンエーテル樹脂組成物。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載の樹脂組成物が基材に含浸されたプリプレグ。
(13)(12)に記載のプリプレグと金属箔とを加熱加圧成形することにより積層して製造される金属張積層板。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いると耐熱性や耐水性に優れる金属張積層板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ポリフェニレンエーテル)
本発明で使用される成分(A)は、ポリフェニレンエーテルである。ポリフェニレンエーテルは、下記(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーである限り特に限定されない。
【化1】
式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルカルボニル基、又はアルケニルカルボニル基を示す。
~Rのアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができる。
~Rのアルケニル基としては、ビニル基、アリル基などを挙げることができる。
~Rのアルキニル基としては、エチニル、2-プロピニルなどを挙げることができる。
~Rのアルキルカルボニル基としては、アセチル基などを挙げることができる。
~Rのアルケニルカルボニル基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基などを挙げることができる。
【0010】
本発明で使用されるポリフェニレンエーテルは、その末端が変性されていてもよい。末端が変性されたポリフェニレンエーテルとしては、末端が水酸基で変性されたポリフェニレンエーテルや、炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基で変性されたポリフェニレンエーテルや、(メタ)アクリロイル基で変性されたポリフェニレンエーテルを挙げることができる。
前記の炭素-炭素不飽和二重結合を有する置換基としては、式(2)で表される置換基を挙げることが出来る。
【化2】
式(2)中、nは0~10の整数を示し、Zはアリーレン基を示し、R10~R12は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基を示し、*は結合位置を示す。
10~R12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができる。
Zのアリーレン基としては、フェニレン基などを挙げることができる。
式(2)で表される基として、具体的には、式(2a)や式(2b)で表される構造を挙げることができる。
【化3】
式(2a)、式(2b)中、*は結合位置を示す。
【0011】
本発明で使用されるポリフェニレンエーテルの数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、1,000~100,000、1,000~50,000、1,000~30,000、1,000~7,000、1,000~5,000、1,000~3,000などを挙げることができる。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した値である。
【0012】
また、本発明で用いるポリフェニレンエーテルの固有粘度は、0.03~0.12dl/g、0.04~0.11dl/g、0.06~0.095dl/gなどを挙げることができる。固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度である。より具体的には、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値である。
【0013】
本発明で用いるポリフェニレンエーテルは、公知のものや、市販品を用いることができる。合成する場合は、WO2014/203511号などに記載された方法およびそれに準ずる方法により合成することができる。
【0014】
(ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体)
本発明で使用される成分(B)は、ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体である。スチレンブロックは、スチレンを重合したブロックであり、ブタジエンブロックはブタジエンを重合したブロックである。ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SB)や、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)や、ブタジエン-スチレン-ブタジエンブロック共重合体(BSB)などを挙げることができる。これらのうち、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)が好ましい。
ブタジエンブロックは、式(3)で表される1,2結合構造のみ、又は、式(3)で表される1,2結合構造と式(4)で表される1,4結合構造からなる。
【化4】
本発明で使用するブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体中のブタジエンブロックに含まれる、式(3)で表される1,2結合構造と、式(4)で表される1,4結合構造のモル比は、80:20~100:0であるのが好ましい。
【0015】
ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体中のスチレンブロックとブタジエンブロックの重量比は、特に限定されないが、10:90~80:20、10:90~70:30、10:90~60:40、20:80~80:20、30:70~80:20、40:60~80:20などを挙げることができる。これらのうち、10:90~80:20、10:90~70:30、10:90~60:40であるのが好ましい。
【0016】
ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、2,000~100,000、2,000~80,000、2,000~60,000、2,000~50,000、2,000~40,000などを挙げることができる。ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、1.00~3.00、1.00~2.00などを挙げることができる。前記重量平均分子量(Mw)や分子量分布(Mw/Mn)は、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)で測定したものである。その測定条件は、移動相THF(テトラヒドロフラン)、移動相流量1mL/分、カラム温度40℃、試料注入量40μL、試料濃度2重量%である。
【0017】
本発明で用いるブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体は、特開平6-192502号公報、特表2000-514122号公報、特開2007-302901号公報などに記載された方法およびそれに準ずる方法により製造することができる。
【0018】
(ポリフェニレンエーテル樹脂組成物)
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル(PPE)(成分(A))と、ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体(成分(B))を含有する組成物である。
【0019】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物中の成分(A)と成分(B)の含有量は、特に限定されないが、成分(A)と成分(B)の重量比が、5:95~95:5、10:90~95:5、15:85:95:5、20:80~95:5、25:75~95:5、30:70~95:5、35:65~95:5、40:60~95:5、45:55~95:5、50:50~95:5、55:65~95:5、60:40~95:5、65:35~95:5、70:30~95:5、70:30~90:10となる量などを挙げることができる。
【0020】
(その他の添加剤)
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で適宜その他の添加剤を加えることができる。その他の添加剤としては、例えば、開始剤、架橋剤、難燃剤、無機充填材などを挙げることができる。
【0021】
開始剤としては、特に限定されない。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、α,α'-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)オクタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイドなどを挙げることができる。
開始剤の添加量は特に限定されないが、成分(A)と成分(B)を合わせた量に対して0.1~10重量%となる量を挙げることができる。
【0022】
架橋剤としては、特に限定されない。具体的には、ジベニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、1,4-ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、末端アクリレート変性ポリブタジエン、末端ウレタンメタクリレート変性ポリブタジエンなどを挙げることができる。これらのうち、トリアリルイソシアヌレート、数平均分子量(Mn)100~4,000程度のポリブタジエンを使用することがより好ましい。
架橋剤を添加する場合、その添加量は特に限定されないが、成分(A)と成分(B)の合計重量に対して1~50重量%となる量を挙げることができる。
【0023】
難燃剤としては、特に限定されない。具体的には、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤などを挙げることができる。
ハロゲン系難燃剤としては、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカンなどの臭素系難燃剤や、塩素化パラフィンなどの塩素系難燃剤などを挙げることができる。
リン系難燃剤としては、縮合リン酸エステル、環状リン酸エステル等のリン酸エステル、環状ホスファゼン化合物などのホスファゼン化合物、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩などのホスフィン酸塩系難燃剤、リン酸メラミン、及びポリリン酸メラミンなどのメラミン系難燃剤などを挙げることができる。
難燃剤を添加する場合、その添加量は特に限定されないが、成分(A)と成分(B)の合計重量に対して1~20重量%となる量を挙げることができる。
【0024】
無機充填材としては、シリカ、アルミナ、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、マイカ、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウムなどを挙げることができる。
無機充填材を添加する場合、その添加量は特に限定されないが、成分(A)と成分(B)の合計重量に対して、10~150重量%となる量を挙げることができる。
【0025】
本発明の熱硬化性組成物を製造する方法としては特に限定されない。例えば、ポリフェニレンエーテル(A)に、ブタジエンブロックとスチレンブロックとを含むブロック共重合体(B)とその他の成分を添加した後、混練機で混練する方法を挙げることができる。
【0026】
(プリプレグ)
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂組成物は、プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材(繊維質基材)に含浸する目的でワニス状に調製して用いられることが多い。このような樹脂ワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
【0027】
まず、有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて用いられ、有機溶媒に溶解しない成分、例えば、無機充填材等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミルなどを用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、樹脂ワニスが調製される。
【0028】
得られた樹脂ワニスを用いてプリプレグを製造する方法としては、例えば、得られた樹脂ワニスを繊維質基材に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
【0029】
プリプレグを製造する際に用いられる繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙等が挙げられる。
【0030】
樹脂ワニスが含浸された繊維質基材を、所望の加熱条件、例えば、80~170℃で1~10分間加熱して溶媒を除去することにより半硬化状態(Bステージ)のプリプレグを得ることができる。
【0031】
(金属張積層板)
得られたプリプレグを一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができる。
加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みやプリプレグの樹脂組成物の種類等により適宜設定することができる。例えば、温度を170~210℃、圧力を1.5~4.0MPa、時間を60~150分間とすることができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例の範囲に限定されない。
【0033】
成分(B):スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)の製造
製造例1
500mLフラスコにテトラヒドロフラン(以下、THFと略す)151.95g、ヘキサン19.65gを加えた。-40℃まで冷却後、n-ブチルリチウム2.28g(15.1重量%濃度ヘキサン溶液)を加え、10分間撹拌後、スチレン11.99gを滴下し、30分間反応を継続した。ガスクロマトグラフィー(以下GCと略す)を測定し、モノマー消失を確認した。次いで、1,3-ブタジエン21.44g、THF23.43g、ヘキサン7.80gの混合液を滴下し、反応を継続した。GCを測定し、モノマー消失を確認した後、スチレン12.05gを滴下し、30分後メタノール0.51gを加えて反応を停止した。
得られた共重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(移動相THF、ポリスチレンスタンダード)により分析したところ、重量平均分子量(Mw)は24,300、分子量分布(Mw/Mn)は1.28であることを確認した。また、組成比がPS/PB/PS=25/50/25重量%の共重合体であった。なお、PSは、スチレンブロックの意味であり、PBはブタジエンブロックの意味である。以下同様。
反応液を二回水洗後、溶媒を留去した。メタノールに再沈殿、ろ別し真空乾燥することで白色粉末を得た。H-NMRにて算出したブタジエンブロック中の1,2結合構造は、93モル%であった。
【0034】
製造例2
500mLフラスコにTHF149.37g、ヘキサン17.53gを加えた。-40℃まで冷却後、n-ブチルリチウム5.21g(15.1重量%濃度ヘキサン溶液)を加え、10分間撹拌後、スチレン10.47gを滴下し、30分間反応を継続した。ガスクロマトグラフィー(以下GCと略す)を測定し、モノマー消失を確認した。次いで、1,3-ブタジエン49.28g、THF49.28gの混合液を滴下し、反応を継続した。GCを測定し、モノマー消失を確認した後、スチレン10.66gを滴下し、30分後メタノール1.12gを加えて反応を停止した。
得られた共重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(移動相THF、ポリスチレンスタンダード)により分析したところ、分子量(Mw)は14,200、分子量分布(Mw/Mn)は1.18であることを確認した。また、組成比がPS/PB/PS=15/70/15重量%の共重合体であった。
反応液を二回水洗後、溶媒を留去した。メタノールに再沈殿、ろ別し真空乾燥することで無色透明な粘性液体を得た。H-NMRにて算出したブタジエンブロック中の1,2結合構造は、94モル%であった。
【0035】
製造例3
500mLフラスコにシクロヘキサン155.90g、THF20.10gを加えた。30℃に加温し、n-ブチルリチウム1.95g(15.1重量%濃度ヘキサン溶液)を加え、10分間撹拌後、スチレン7.64gを滴下し、30分間反応を継続した。ガスクロマトグラフィー(以下GCと略す)を測定し、モノマー消失を確認した。次いで、1,3-ブタジエン35.07g、シクロヘキサン35.07gの混合液を滴下し、反応を継続した。GCを測定し、モノマー消失を確認した後、スチレン7.78gを滴下し、30分後メタノール0.40gを加えて反応を停止した。
得られた共重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(移動相THF、ポリスチレンスタンダード)により分析したところ、分子量(Mw)は17,400、分子量分布(Mw/Mn)は1.07であることを確認した。また、組成比がPS/PB/PS=15/70/15重量%の共重合体であった。
反応液を二回水洗後、溶媒を留去した。メタノールに再沈殿、ろ別し真空乾燥することで無色透明な粘性液体を得た。H-NMRにて算出したブタジエンブロック中の1,2結合構造は、89モル%であった。
【0036】
製造例4
5000mLフラスコにTHF1212g、ヘキサン132gを加えた。-40℃まで冷却後、n-ブチルリチウム98.58g(15.1重量%濃度ヘキサン溶液)を加え、10分間撹拌後、スチレン60.50gを滴下し、15分間反応を継続した。ガスクロマトグラフィー(以下GCと略す)を測定し、モノマー消失を確認した。次いで、ブタジエン481.88g、THF432.12g、ヘキサン48.08gの混合液を滴下し、反応を継続した。GCを測定し、モノマー消失を確認した後、スチレン61.13gを滴下し、30分後メタノール16.02gを加えて反応を停止した。
得られた共重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(移動相THF、ポリスチレンスタンダード)により分析したところ、重量平均分子量(Mw)は4742、分子量分布(Mw/Mn)は1.12であることを確認した。また、組成比はPS/PB/PS=10/80/10重量%の共重合体であった。
反応液を二回水洗後、溶媒を留去し白色の粘性液体を得た。H-NMRにて算出したブタジエンユニットの1,2結合構造は、91%であった。
【0037】
実施例1
メタクリル変性ポリフェニレンエーテル(SA9000、SABIC社製、Mn=1700)と、製造例1で得られたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体と、トリアリルイソシアヌレート(富士フィルム和光純薬(株)社製)と、ジクミルパーオキサイド(アルドリッチ社製)を表1に示す配合量で配合してメチルエチルケトン(以下、MEK、富士フィルム和光純薬(株)社製)で溶解させ、ワニスを得た。
【0038】
実施例2
製造例1で得られたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の代わりに、製造例4で得られたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にワニスを得た。
【0039】
比較例1
製造例1で得られたスチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の代わりに、Ricon181(Cray Valley社製、スチレン-ブタジエンランダム共重合体)を用いたこと以外は、実施例1と同様にワニスを得た。
【0040】
(はんだ耐熱性試験用サンプルの作製方法)
3cm四方に切り出したガラスクロス4枚にワニスを十分に含浸し、150℃のオーブンにて10分間加熱してプリプレグを作製した。得られたプリプレグの両面に厚さ18μmの銅箔の粗面を張り付けた。その後、ポリテトラフルオロエチレン板に挟んでプレス機を用いて、230℃、3-4MPaの条件で2時間加熱加圧することにより評価基板(銅張積層板)を得た。
【0041】
(はんだ耐熱性試験)
はんだ耐熱性試験は、JIS C 6481に従って測定した、260℃のはんだ中に銅張積層板を2分間浸漬し、銅箔の剥がれを観察することによりはんだ耐熱性を評価した。剥がれがなかったものを「○」、剥がれが生じたものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0042】
(ガラス転移温度Tgおよび電気特性測定用サンプルの作製方法)
10cm四方の正方形に切り出したガラスクロス10枚にワニスを十分に含侵し、150℃のオーブンにて10分間加熱してプリプレグを作製した。得られたプリプレグを10枚積層し、ポリテトラフルオロエチレン板に挟んでプレス機を用いて、230℃、3-4MPaの条件で2時間加熱加圧することにより評価基板(積層板)を得た。
【0043】
(ガラス転移温度Tgの測定)
TAインスツルメント社製の動的粘弾性装置「RSA-G2」を用いて、積層板のTgを測定した。このとき、30mmのDual cantileverを治具に用いた曲げモジュールで周波数を1Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分で-50℃から270℃まで昇温した際のtanδが極大を示す温度をTgとした。結果を表1に示す。
【0044】
(耐熱性評価)
TAインスツルメント社製の動的粘弾性装置「RSA-G2」にて30mmのDual cantileverを治具に用いた曲げモジュールで周波数を1Hzとして動的粘弾性測定(DMA)を行い、昇温速度5℃/分で-50℃から270℃までの測定を2サイクル行った際の1サイクル目と2サイクル目のTgの差ΔTgを評価した。tanδが極大を示す温度をTgとした。結果を表1に示す。
【0045】
(誘電特性)
10GHzにおけるそれぞれの評価基板の比誘電率(Dk)および誘電正接(Df)を、空洞共振器摂動法で測定した。具体的には、ネットワーク・アナライザ(Anritsu社製のMS46122B)を用い、10GHzにおける評価基板の比誘電率及び誘電正接を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
この試験結果から、本発明の組成物を使用して製造した積層板が、ΔTgが低い、耐熱性に優れるものであることが示された。