(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-15
(45)【発行日】2022-08-23
(54)【発明の名称】漆製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B44C 3/00 20060101AFI20220816BHJP
【FI】
B44C3/00 E
(21)【出願番号】P 2022014548
(22)【出願日】2022-02-01
【審査請求日】2022-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522045202
【氏名又は名称】陳 博文
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】特許業務法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 博文
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-092092(JP,A)
【文献】特開2002-113994(JP,A)
【文献】特開2020-152604(JP,A)
【文献】登録実用新案第3194335(JP,U)
【文献】実開昭50-041183(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B44C 3/00
B21D 22/00-28/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め作業台に配置された鉛板の上に、貝殻薄板
を略水平に
載置して配置する配置工程と、
前記貝殻薄板の下に位置する前記鉛板を下敷きとして使用しつつ、前記配置工程で略水平に配置された前記貝殻薄板を、
装飾片の輪郭形状を与える刃先部を有する着脱型のパンチと複数種類の前記パンチを交換可能に選択的に装着する工具本体とを備えた打ち抜き工具を用いて打ち抜くことにより、所定形状の
前記装飾片を作成する打ち抜き工程
であって、種々の前記輪郭形状を形成可能な複数種類の前記パンチを前記工具本体に代わるがわる装着して用いることにより、多種多様な前記装飾片を作成する打ち抜き工程と、
前記打ち抜き工程で打ち抜き後の残余の前記貝殻薄板をハンマーで打ち砕くことにより、当該打ち抜き工程で作成した前記装飾片よりも細かい装飾片を得る打ち砕き工程と、
母材の表面に漆を塗布する塗布工程と、
前記打ち抜き工程で作成された前記装飾片
、及び、前記打ち砕き工程で得られた前記細かい装飾片、を、
前記塗布工程で塗布された漆が乾かないうちに、当該塗布された漆の表面に置くことで前記母材に貼り付け
て漆製品を製造する貼り付け工程と、
を有することを特徴とする漆製品の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の漆製品の製造方法において、
前記パンチは、金属製であり、
前記工具本体は、略円筒形を有しており、かつ、
前記略円筒形の外皮により構成される把持部と、
前記把持部の径方向内側に位置し、前記パンチのうち先端側の前記刃先部を露出させつつ根元側の基部を保持する凹部と、
前記凹部に収納された前記パンチの前記基部を磁力により吸着し、当該基部の前記凹部からの離脱を防ぐ磁石部と、
を有することを特徴とする漆製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆製品、特に、貝殻薄板からなる素材を用いて漆器の表面に螺鈿装飾を施す漆製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、小物入れや重箱、或いは、各種木製の食器類(以下、単に「容器」と総称する。)には、容器表面に漆を塗布したものや、金粉等を用いて装飾を施したものが周知である。
【0003】
また、このような容器には、さらなる高級感を得るために、貝殻薄板からなる素材を用いて漆器の表面に螺鈿装飾を施した螺鈿装飾漆器も知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
https://www.yamada-heiando.jp/?yclid=YSS.1000085831.EAIaIQobChMIpYLn_4vq9AIVUltgCh0Z-AWKEAAYASAAEgK26fD_BwE
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に螺鈿は、主に漆器などの伝統工芸に用いられる装飾技法のひとつとされており、貝殻の内面側の虹色光沢を持った真珠層の部分を切り出した板状の素材を漆地や木地の彫刻された表面に嵌め込む技法である。
【0006】
しかしながら、このような技法では、細密な装飾を施すことが困難であるうえに、素材を嵌め込む技法であるために、容器側と素材側との双方に緻密な加工技術を要するという問題が生じていた。
【0007】
本発明の目的は、緻密な加工技術を要することなく、打ち抜き工具を用いた打ち抜きによって、熟練した職人でなくても簡単に細密素材として所定形状の装飾片を作成することができ、漆製品の表面を美しく装飾することができる漆製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本願発明は、貝殻薄板を作業台の上側に略水平に配置する配置工程と、前記配置工程で略水平に配置された前記貝殻薄板を、打ち抜き工具を用いて打ち抜くことにより、所定形状の装飾片を作成する打ち抜き工程と、前記打ち抜き工程で作成された前記装飾片を、漆を塗った母材に貼り付けることで漆製品を製造する貼り付け工程と、を有する。
【0009】
本発明では、所定の打ち抜き工具を用いて貝殻薄板から装飾片を打ち抜き、その装飾片を漆器表面に適宜貼り付けるだけで螺鈿装飾を施した漆製品とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、緻密な加工技術を要することなく、打ち抜き工具を用いた打ち抜きによって、熟練した職人でなくても簡単に細密素材として所定形状の装飾片を作成することができ、漆製品の表面を美しく装飾することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】打ち抜き工具の一例を示し、(A)は打ち抜き工具の断面図、(B)は打ち抜き工具の底面図、(C)は工具本体とパンチとを分離させた断面図である。
【
図2】貝殻薄板を作業台の上側に略水平に配置した配置工程及び打ち抜き工具を用いた打ち抜き工程の説明図である。
【
図4】母材に装飾片を貼り付ける貼り付け工程の説明図である。
【
図5】装飾片により螺鈿装飾を施した母材の説明図である。
【
図6】装飾片により螺鈿装飾を施した漆器の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態に用いられる打ち抜き工具の一例を示す。
図1(A)において、打ち抜き工具1は、工具本体2と、工具本体2に着脱可能なパンチ3と、を備える。
【0014】
工具本体2は、略中実円筒形状の把持部2aと、把持部2aの一端側において端面に開放する凹部2bと、凹部2bに嵌め込まれた磁石部4と、を備える。
【0015】
パンチ3は、凹部2bに挿入されて磁石部4の磁力によってに磁着される金属製の基部3aと、基部3aに固定され、
図1(B)に示すように、端面が所定の図柄形状とされた刃先部3bと、を一体に備えている。
【0016】
なお、この刃先部3bの端面形状は、後述する装飾片の輪郭形状と一致し、一つの図柄を模したもの、一つの図柄の一部を模したもの、特定の図柄とは認識できないもの、等の特に限定されるものではない。
【0017】
したがって、パンチ3は、複数種類の図柄等を模した刃先部3bを用意することによって、
図1(C)に示すように、工具本体2に対して複数種類のパンチ3を交換可能に選択的に装着することができるようになっている。
【0018】
このように、打ち抜き工具1は、装飾片の輪郭形状を与える刃先部3bを有する着脱型のパンチ3と、複数種類のパンチ3を交換可能に選択的に装着する工具本体2と、を有している。
【0019】
これにより、種々の輪郭形状を形成可能な複数種類のパンチ3を予め用意しておき、工具本体2に、代わるがわる装着して用いることにより、多種多様な装飾片を容易に作成することができる。これにより、漆製品の表面を細密及び多彩に装飾することができる。
【0020】
また、パンチ3の基部3aを金属製とするとともに、工具本体2は、中実の略円筒形を有しており、かつ、略円筒形の外皮により構成される把持部2aと、把持部2aの径方向内側に位置してパンチ3のうち先端側の刃先部3bを露出させつつ根元側の基部3aを保持する凹部2bと、凹部2bに収納されたパンチ3の基部3aを磁力により吸着して基部3aの凹部2bからの離脱を防ぐ磁石部4と、を有している。
【0021】
このように、パンチ3の基部3aを磁石部4の磁力で吸着して工具本体2の凹部2bに保持する構造とすることにより、工具本体2に対する複数種類のパンチ3の選択的な装着及び離脱を容易化することができる。
【0022】
次に、このような打ち抜き工具1を用いた漆製品の製造方法を
図2乃至
図6を用いて説明する。
【0023】
先ず、
図2に示すように、予め作業台(作業テーブル等<図示せず>)の上側(上面)に略水平に配置された鉛板5の上に、貝殻薄板6を略水平に載置し(配置工程)、上記打ち抜き工具1(
図2において矢印で省略)を用いて貝殻薄板6の一部を打ち抜くことにより、所定形状の装飾片7(
図2では説明の便宜上星型で示す)を作成する(打ち抜き工程)。
【0024】
次に、
図3に示すように、このような装飾片7を複数種類で多数用い、刷毛8で漆を塗った母材(例えば、容器蓋)9に漆が乾ききる前に貼り付ける(貼り付け工程)。
【0025】
そして、
図4に示すように、適宜の図柄等を作成しつつ、母材9の形状や大きさ、或いは装飾範囲等に応じて適宜これら漆塗りと貼り付けを繰り返す。
【0026】
これにより、
図5に示すように、母材9の装飾が完成し、
図6に示すように、漆製品10を製造することができる。
【0027】
これにより、打ち抜き工具1を用いた打ち抜きによって、熟練した職人でなくても簡単に所定形状の細かい装飾片7を多数作成することができ、漆製品10の表面を美しく装飾することができる。
【0028】
また、
図3に示した母材9の表面に漆を塗布(塗布工程)した後の貼り付け工程では、塗布された漆が乾かないうち(乾ききる前)に、打ち抜き工程で作成された装飾片7を当該塗布された漆の表面に置くことにより、特に接着剤等を用いなくても、簡単に装飾片7を母材9の表面に貼り付けることができる。
【0029】
しかも、予め作業台に配置された鉛板5の上に、貝殻薄板6を略水平に載置して、当該貝殻薄板6の下に位置する鉛板5を下敷きとして使用しつつ、装飾片7を打ち抜き工具1で打ち抜くことから、適度に柔らかい鉛板5を打ち抜きの下敷きに用いることができ、打ち抜き時の押圧力により打ち抜かれた装飾片7が部分的に破損したり変形不良になるのを防止し、良好かつ安定的に打ち抜き加工を行うことができる。
【0030】
同様に、打ち抜き後の貝殻薄板6においても、亀裂や破損が発生し難いため、歩留まり良く多数の細かい装飾片7を取得することができる。
【0031】
なお、以上の説明において、外観上の寸法や大きさが「同一」「等しい」「異なる」「水平」等の記載がある場合は、当該記載は厳密な意味ではない。すなわち、それら「同一」「等しい」「異なる」「水平」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に同一」「実質的に等しい」「実質的に異なる」「実質的に水平」という意味である。
【0032】
なお、上記実施の形態では、打ち抜きによって得られた装飾片7を用いて図柄等を作成する場合で説明したが、例えば、打ち抜き後の残余の貝殻薄板6にあっては、例えば、ハンマー等で打ち砕くことにより、より細かい装飾片7として利用することができる。
【0033】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0034】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0035】
1 打ち抜き工具
2 工具本体体
2a 把持部
2b 凹部
3 パンチ
3a 基部
3b 刃先部4
4 磁石部
5 鉛板
6 貝殻薄板
7 装飾片
8 刷毛
9 母材
10 漆製品
【要約】
【課題】緻密な加工技術を要することなく、打ち抜き工具を用いた打ち抜きによって、熟練した職人でなくても簡単に細密素材として所定形状の装飾片を作成することができ、漆製品の表面を美しく装飾することができる。
【解決手段】貝殻薄板6を作業台の上側に略水平に配置する配置工程と、配置工程で略水平に配置された貝殻薄板6を、打ち抜き工具1を用いて打ち抜くことにより、所定形状の装飾片7を作成する打ち抜き工程と、打ち抜き工程で作成された装飾片7を、漆を塗った母材に貼り付けることで漆製品を製造する貼り付け工程と、を有する。
【選択図】
図2