(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】スイング解析装置
(51)【国際特許分類】
A63B 69/36 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
A63B69/36 541P
(21)【出願番号】P 2017187740
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】君塚 渉
(72)【発明者】
【氏名】大貫 正秀
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宏
【審査官】石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-090862(JP,A)
【文献】特開2016-198296(JP,A)
【文献】特開2016-034468(JP,A)
【文献】特開2015-084952(JP,A)
【文献】特開2005-110850(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B69/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打具のスイングを計測した計測データを取得するデータ取得部と、
前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出する要因算出部と、
前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する成分である少なくとも2つの要因成分を個別に算出し、かつ該慣性指標の特定の方向成分を算出する成分算出部と
、
前記特定の方向成分に対する、前記少なくとも2つの要因成分の影響度を個別に算出する影響度算出部と
を備え、
前記慣性指標の特定の方向成分は、前記少なくとも2つの要因成分により定義される、
スイング解析装置。
【請求項2】
打具のスイングを計測した計測データを取得するデータ取得部と、
前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出する要因算出部と、
前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する成分である少なくとも2つの要因成分を個別に算出し、かつ該慣性指標の特定の方向成分を算出する成分算出部と
を備え、
前記慣性指標の特定の方向成分は、前記少なくとも2つの要因成分により定義され、
前記打具は、ゴルフクラブであり、
前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのヘッドに作用する前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である、
スイング解析装置。
【請求項3】
前記成分算出部は、少なくとも1つの前記要因成分を、前記要素の1つ又は複数の方向成分により定まる複数の項成分に分解する、
請求項1
又は2に記載のスイング解析装置。
【請求項4】
前記少なくとも2つの要因成分を個別に表示画面上に表示させる表示制御部
をさらに備える、
請求項1から3のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項5】
前記打具は、ゴルフクラブである、
請求項
1に記載のスイング解析装置。
【請求項6】
前記所定の部位は、前記ゴルフクラブのグリップである、
請求項
2又は5に記載のスイング解析装置。
【請求項7】
前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのヘッドに作用する前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である、
請求項
5に記載のスイング解析装置。
【請求項8】
前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのシャフトの先端部分に固定された座標系における前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である、
請求項
2及び5から7のいずれか
1項に記載のスイング解析装置。
【請求項9】
前記データ取得部は、前記打具に取り付けられた慣性センサから前記計測データを取得する、
請求項1から8のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項10】
打具のスイングを計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出するステップと、
前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する少なくとも2つの要因成分を個別に算出し、かつ該慣性指標の特定の方向成分を算出するステップと
、
前記特定の方向成分に対する、前記少なくとも2つの要因成分の影響度を個別に算出するステップと
をコンピュータに実行させ、
前記慣性指標の特定の方向成分は、前記少なくとも2つの要因成分により定義される、
スイング解析プログラム。
【請求項11】
打具のスイングを計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出するステップと、
前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する少なくとも2つの要因成分を個別に算出し、かつ該慣性指標の特定の方向成分を算出するステップと
をコンピュータに実行させ、
前記慣性指標の特定の方向成分は、前記少なくとも2つの要因成分により定義され、
前記打具は、ゴルフクラブであり、
前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのヘッドに作用する前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である、
スイング解析プログラム。
【請求項12】
コンピュータが、打具のスイングを計測した計測データを取得するステップと、
前記コンピュータが、前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出するステップと、
前記コンピュータが、前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する少なくとも2つの要因成分を個別に算出し、かつ該慣性指標の特定の方向成分を算出するステップと
、
前記コンピュータが、前記特定の方向成分に対する、前記少なくとも2つの要因成分の影響度を個別に算出するステップと
を含み、
前記慣性指標の特定の方向成分は、前記少なくとも2つの要因成分により定義される、
スイング解析方法。
【請求項13】
コンピュータが、打具のスイングを計測した計測データを取得するステップと、
前記コンピュータが、前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出するステップと、
前記コンピュータが、前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する少なくとも2つの要因成分を個別に算出し、かつ該慣性指標の特定の方向成分を算出するステップと
を含み、
前記慣性指標の特定の方向成分は、前記少なくとも2つの要因成分により定義され、
前記打具は、ゴルフクラブであり、
前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのヘッドに作用する前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である、
スイング解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフスイング等の打具のスイングを解析するスイング解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴルフスイング等の打具のスイングを計測機器により計測し、これを解析する様々な手法が提案されている。打具のスイング時には、プレイヤーから打具に力が与えられ、打具に遠心力を含む慣性力が作用し、打具が並進及び回転運動する。よって、打具に作用する慣性力や慣性力によるモーメントを求めることは、スイングを解析する上で重要である。特許文献1は、打具であるゴルフクラブのヘッドに作用する慣性力を算出する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、慣性力は、加速度、角加速度及び角速度のそれぞれに由来する成分の合計により定まる。そして、これらの各成分は、スイング中の打具の所定の運動に関連付けら得る。例えば、加速度由来の成分が大きいということは、打具の並進運動が大きいということを意味し得るし、角加速度由来の成分が大きいということは、打具の回転運動が大きいということを意味し得る。従って、本発明者らは、スイングを解析する上で、従来のように単に慣性力を評価するだけでなく、慣性力に含まれる以上のような複数の成分を個別に評価することが重要であると考えた。同じことは、慣性力だけでなく、慣性力によるモーメントについても言える。そして、このような複数の成分を個別に評価できれば、例えば、各成分に関連付けられている打具の運動を評価することができ、ひいては打具のスイングを適切に評価することが可能になる。
【0005】
本発明は、打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方に基づいて、打具のスイングを適切に評価することを支援するスイング解析装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係るスイング解析装置は、データ取得部と、要因算出部と、成分算出部とを備える。前記データ取得部は、打具のスイングを計測した計測データを取得する。前記要因算出部は、前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出する。前記成分算出部は、前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する成分である少なくとも2つの要因成分を個別に算出する。前記慣性指標は、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である。
【0007】
第2観点に係るスイング解析装置は、第1観点に係るスイング解析装置であって、前記成分算出部は、少なくとも1つの前記要因成分を、前記要素の1つ又は複数の方向成分により定まる複数の項成分に分解する。
【0008】
第3観点に係るスイング解析装置は、第1観点又は第2観点に係るスイング解析装置であって、前記特定の方向成分に対する、前記少なくとも2つの要因成分の影響度を個別に算出する影響度算出部をさらに備える。
【0009】
第4観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第3観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記少なくとも2つの要因成分を個別に表示画面上に表示させる表示制御部をさらに備える。
【0010】
第5観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第4観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記打具は、ゴルフクラブである。
【0011】
第6観点に係るスイング解析装置は、第5観点に係るスイング解析装置であって、前記所定の部位は、前記ゴルフクラブのグリップである。
【0012】
第7観点に係るスイング解析装置は、第5観点又は第6観点に係るスイング解析装置であって、前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのヘッドに作用する前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である。
【0013】
第8観点に係るスイング解析装置は、第5観点から第7観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのシャフトの先端部分に固定された座標系における前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である。
【0014】
第9観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第8観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記データ取得部は、前記打具に取り付けられた慣性センサから前記計測データを取得する。
【0015】
第10観点に係るスイング解析プログラムは、以下のステップをコンピュータに実行させる。
(1)打具のスイングを計測した計測データを取得するステップ。
(2)前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出するステップ。
(3)前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する少なくとも2つの要因成分を個別に算出するステップ。前記慣性指標は、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である。
【0016】
第11観点に係るスイング解析方法は、以下のステップを含む。
(1)打具のスイングを計測した計測データを取得するステップ。
(2)前記計測データに基づいて、前記打具の所定の部位に作用する加速度、角加速度及び角速度からなる群から選択される少なくとも2つの要素を算出するステップ。
(3)前記算出された少なくとも2つの要素に基づいて、慣性指標の特定の方向成分に含まれる、前記少なくとも2つの要素にそれぞれ由来する少なくとも2つの要因成分を個別に算出するステップ。前記慣性指標は、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である。
【0017】
第12観点に係るスイング解析方法は、第11観点に係るスイング解析方法であって、以下のステップをさらに含む。
(4)前記少なくとも2つの要因成分を比較することにより、前記スイングの問題の原因を判断するステップ。
【発明の効果】
【0018】
以上の観点によれば、スイング中に打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方の特定の方向成分に含まれる、加速度、角加速度及び角速度のうちの少なくとも2つにそれぞれ由来する複数の成分が個別に算出される。よって、このような複数の成分を個別に評価することにより、打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方に基づいて、打具のスイングを適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスイング解析装置を含むスイング解析システムの全体構成を示す図。
【
図4】スイングの評価方法の流れを示すフローチャート。
【
図5B】
図5Aの1つの方向成分を要因成分に分解したグラフ。
【
図6B】
図6Aの2つの方向成分をそれぞれ要因成分に分解したグラフ。
【
図6C】
図6Bの2つの要因成分をそれぞれ項成分に分解したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るスイング解析装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0021】
<1.スイング解析システムの概要>
図1及び
図2に、本実施形態に係るスイング解析装置1を含むスイング解析システム100の全体構成図を示す。スイング解析システム100は、ゴルフクラブ5のスイングを解析することにより、スイング中にゴルフクラブ5に作用する慣性力及び慣性力によるモーメント(以下、これらを総称して「慣性指標」ということがある)を評価し、これに基づいてスイングを評価するのを支援するように構成されている。より具体的には、慣性指標に含まれる、加速度、角加速度及び角速度のそれぞれに由来する複数の成分が個別に算出され、これらの成分を個別に評価することにより、スイングが評価される。本実施形態では、以上のスイングの評価は、ゴルフのレッスン等の場面において、ゴルファー7の抱える問題を解決するのに利用される。
【0022】
スイング解析装置1は、ゴルファー7によるゴルフクラブ5のスイングを計測した計測データに基づいて、慣性指標に含まれる以上の各種成分を算出する。このスイングの計測は、計測機器2により行われ、計測機器2は、スイング解析装置1とともにスイング解析システム100を構成する。以下、スイング解析システム100の各部の構成を説明した後、スイング解析システム100を用いたスイングの評価方法について説明する。
【0023】
<2.各部の詳細>
<2-1.計測機器>
本実施形態に係る計測機器2は、慣性センサから構成される(以下、慣性センサにも、参照符号2を付す)。慣性センサ2は、
図1に示すとおり、ゴルフクラブ5のグリップ51に取り付けられており、グリップ51の挙動を計測する。
図3に示すとおり、ゴルフクラブ5は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト52と、シャフト52の先端に設けられたヘッド53と、シャフト52の後端に設けられたグリップ51とから構成される。シャフト52の先端部分には、シャフト52をヘッド53に固定するための連結器具として、フェラル(ソケット)54が装着されている。慣性センサ2は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されており、特にグリップ51におけるヘッド53と反対側の端部であるグリップエンド51aに取り付けられている。
【0024】
図2に示すように、慣性センサ2には、加速度センサ41及び角速度センサ42が搭載されている。また、慣性センサ2には、これらのセンサ41,42から出力される計測データを、通信線17を介してスイング解析装置1等の外部のデバイスに送信するための通信装置40も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置40は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式にスイング解析装置1に接続するようにしてもよい。
【0025】
加速度センサ41及び角速度センサ42はそれぞれ、グリップエンド51aを原点とするxyz局所座標系における加速度及び角速度を計測する。より具体的には、加速度センサ41は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップ51の加速度(以下、グリップ加速度ということがある)ax,ay,azを計測する。角速度センサ42は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップ51の角速度(以下、グリップ角速度ということがある)ωx,ωy,ωzを計測する。これらの加速度及び角速度に関する計測データは、所定の短いサンプリング周期の時系列データとして取得される。
【0026】
xyz局所座標系は、
図3に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト52の延びる方向に一致し、ヘッド53からグリップ51に向かう方向が、z軸正方向である。y軸は、ゴルフクラブ5のアドレス時の飛球方向にできる限り沿うように、すなわち、フェース-バック方向に概ね沿うように配向され、バック側からフェース側に向かう方向がy軸正方向である。x軸は、y軸及びz軸に直交するように、すなわち、トゥ-ヒール方向に概ね沿うように配向され、ヒール側からトゥ側に向かう方向がx軸正方向である。
【0027】
本実施形態では、加速度センサ41及び角速度センサ42からの計測データは、通信装置40を介してリアルタイムにスイング解析装置1に送信される。しかしながら、例えば、慣性センサ2内の記憶装置に計測データを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置から計測データを取り出して、スイング解析装置1に受け渡すようにしてもよい。
【0028】
<2-2.スイング解析装置>
スイング解析装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォンとして実現される。
図2に示すとおり、スイング解析装置1は、コンピュータで読み取り可能なCD-ROM等の記録媒体30から、或いはインターネット等の通信回線を介して、スイング解析プログラム6を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。スイング解析プログラム6は、計測機器2から送られてくる計測データに基づいてスイングを解析し、これを評価するのを支援するためのソフトウェアであり、スイング解析装置1に後述する動作を実行させる。
【0029】
スイング解析装置1は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成することができ、スイングの解析結果等をユーザに対し表示する。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、スイング解析装置1に対するユーザからの操作を受け付ける。
【0030】
記憶部13は、ハードディスク等で構成することができる。記憶部13内には、スイング解析プログラム6が格納されている他、計測機器2から送られてくる計測データが保存される。制御部14は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部14は、記憶部13内のスイング解析プログラム6を読み出して実行することにより、仮想的にデータ取得部14a、要因算出部14b、成分算出部14c、影響度算出部14d及び表示制御部14eとして動作する。各部14a~14eの動作の詳細については、後述する。通信部15は、計測機器2等の外部のデバイスとの間でデータを送受信する通信インターフェースとして機能する。
【0031】
<3.スイングの評価方法>
以下、スイング解析システム100を用いたスイングの評価方法について説明する。本方法では、ゴルファー7によるスイングが、スイングを表す指標である慣性指標、すなわち、スイング中にゴルフクラブ5に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントに基づいて評価される。本実施形態では、本方法は、ゴルフのレッスン等の場面において、ゴルファー7の抱える問題を解決するべく、その原因を特定するのに利用される。以下、詳細に説明する。
【0032】
図4は、本実施形態に係るスイングの評価方法の流れを示すフローチャートである。同図に示すように、最初のステップS1では、テストクラブとしてのゴルフクラブ5が用意され、このテストクラブ(以下、テストクラブにも、参照符号5を付す)をゴルファー7にスイングさせる。このとき、テストクラブ5に取り付けられている慣性センサ2により、テストクラブ5のスイングを計測した計測データが収集される。ここでいう計測データとは、上記のとおり、グリップ加速度a
x,a
y,a
z及びグリップ角速度ω
x,ω
y,ω
zに関する時系列データである。本実施形態では、計測データは、少なくともダウンスイング中盤からインパクトまでの期間、収集される。慣性センサ2により収集された計測データは、通信装置40からスイング解析装置1に送信される。スイング解析装置1側では、データ取得部14aが通信部15を介してこの計測データを取得し、記憶部13内に格納する。
【0033】
続くステップS2では、ユーザが、ゴルファー7からゴルファー7の抱えるスイングの悩みをヒアリングする。なお、ここでいうユーザとは、典型的にはゴルファー7への指導を行うインストラクターである。そして、ユーザは、ゴルファー7から聞き出した悩みに従って、当該悩みに対応する慣性指標の方向成分を判断する。
【0034】
本実施形態でいう慣性指標とは、上記のとおり、慣性力FI及び慣性力FIによるモーメントMIであり、慣性指標の方向成分とは、慣性力FIの3方向成分Fx,Fy,Fz及びモーメントMIの3方向成分Mx,My,Mzである。Fx,Fy,Fzは、それぞれx、y及びz軸方向の慣性力であり、Mx,My,Mzは、x、y及びz軸周りのモーメントである。つまり、FI=(Fx,Fy,Fz)、MI=(Mx,My,Mz)と表記することができる。
【0035】
また、本実施形態でいう慣性力F
I及びモーメントM
Iは、グリップエンド51aを原点とするxyz局所座標系におけるグリップ51の加速度(以下、グリップ加速度ということがある)a
g、グリップ51の角加速度(以下、グリップ角加速度ということがある)ω
g´及びグリップ51の角速度(以下、グリップ角速度ということがある)ω
gを用いて計算される、フェラル54に固定された座標系(フェラル54を原点とするxyz局所座標系)におけるヘッド53の重心に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントである。よって、慣性力F
I及びモーメントM
Iは、下式に従って定義される。
【数1】
【数2】
【0036】
上式中、rghは、グリップ51からヘッド53の重心に向かうベクトルを意味しており、rfhは、フェラル54からヘッド53の重心に向かうベクトルを意味している。また、mは、ヘッド53の重量を示しており、Iは、ヘッド53の重心周りの慣性マトリクスを示している。なお、数1,2に含まれる一部のベクトルを表す記号には、ベクトルであることを強調するべく矢印を付している。
【0037】
また、上式中、FIに含まれるFI1は、グリップ加速度agに由来する慣性力の成分であり、FI2は、グリップ角加速度ωg´に由来する慣性力の成分であり、FI3は、グリップ角速度ωgに由来する慣性力の成分である。また、MIに含まれるMI1は、グリップ加速度agに由来するモーメントの成分であり、MI2は、グリップ角加速度ωg´に由来するモーメントの成分であり、MI3は、グリップ角速度ωgに由来するモーメントの成分である。つまり、本実施形態では、最終的にゴルフスイングを適切に評価できるように、慣性力FI及びモーメントMIを、ゴルフスイングを的確に表すグリップ51の挙動(グリップ加速度ag、グリップ角加速度ωg´、グリップ角速度ωg)に由来する成分により定義している。なお、上式は、シャフト52を剛体として考えた場合に導かれる式である。
【0038】
慣性指標の方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzは、それぞれスイング時のゴルフクラブ5の何らかの挙動に関連けられ得る。例えば、x方向の慣性力Fxは、シャフト52をトゥダウン方向に撓ませる力であり、この撓みが大きい程、スライスし易くなる。y方向の慣性力Fyは、シャフト52をフェースバック方向に撓ませる力であり、この撓みが大きい程、フックし易く、ボールが高く飛び易く、ヘッドスピードが大きくなり易い。z方向の慣性力Fzは、シャフト52をシャフト軸方向に伸ばす力である。x軸周りのモーメントMxは、シャフト52の特に先端部分をx軸周りに回転させるモーメントであり、この回転が大きい程、ロフトが後方へ倒れ、ボールが高く飛び易くなる。y軸周りのモーメントMyは、シャフト52の特に先端部分をy軸周りに回転させるモーメントであり、この回転が大きい程、ヘッド53のトゥが下がり、スライスし易くなる。z軸周りのモーメントMzは、シャフト52の特に先端部分をz軸周りに回転させるモーメントであり、この回転が大きい程、フェースが閉じて、フックし易くなる。
【0039】
ステップS2では、ユーザは、慣性指標の方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzと、スイング時のゴルフクラブ5の挙動との以上のような関係に基づいて、全ての方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzのうち、ゴルファー7の悩みを解決するために注目すべき方向成分(以下、対象方向成分ということがある)を少なくとも1つ選択する。説明を分かり易くするために、今、ゴルファー7がスイング時にフェースが閉じることに悩んでいる例(以下、例1という)と、ロフトが立ち、ボールが高く上がらないことに悩んでいる例(以下、例2という)とを考える。例1の悩みに関連する対象方向成分とは、慣性力Fx,FyとモーメントMy,Mzである。例2の悩みに関連する対象方向成分とは、慣性力FyとモーメントMxである。ユーザは、対象方向成分を選択した後、入力部12を介してこれをスイング解析装置1に入力する。
【0040】
続くステップS3では、要因算出部14bが、記憶部13内に格納されている計測データに基づいて、テストクラブ5のグリップ51に作用する加速度ag、角加速度ωg´及び角速度ωgを算出する。なお、本実施形態では、計測機器2によりグリップ加速度ax,ay,az及びグリップ角速度ωx,ωy,ωzが計測されるため、ag=(ax,ay,az)であり、ωg=(ωx,ωy,ωz)である。また、角加速度ωg´は、ω´g=(ωx´,ωy´,ωz´)として算出される。
【0041】
続くステップS4では、成分算出部14cが、ステップS1のスイング中に作用した慣性力FI及びモーメントMIの方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzのうち、ステップS2で入力された1又は複数の対象方向成分を算出する。具体的には、成分算出部14cは、ステップS3で算出されたグリップ加速度ag、グリップ角加速度ωg´及びグリップ角速度ωgを、数1,2の式に代入することにより、対象方向成分を算出する。このとき、m,I,rgh,rfhの値も、適宜、数1,2の式に代入される。なお、rghは、シャフト52の長さL(より正確には、グリップエンド51aからフェラル54までの長さ)及びヘッド53の重心位置rhに基づいて算出され、rfhは、ヘッド53の重心位置rhに基づいて算出される。テストクラブ5のスペックであるm,I,rh,Lは、スイング解析装置1の記憶部13内に予め格納されているものとする。
【0042】
数1,2の式に示すとおり、慣性力FIは、加速度agに由来する成分FI1と、角加速度ωg´に由来する成分FI2と、角速度ωgに由来する成分FI3との合計値として表される。同様に、モーメントMIは、加速度agに由来する成分MI1と、角加速度ωg´に由来する成分MI2と、角速度ωgに由来する成分MI3との合計値として表される。ステップS4では、成分算出部14cは、数1,2の式に従って、対象方向成分の合計値とともに、これに含まれる複数の要因成分を個別に算出する。要因成分とは、加速度ag、角加速度ωg´及び角速度ωgという慣性力FI及びモーメントMIを生じさせる要因毎に区別される、方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzに含まれる成分である。言い換えると、要因成分とは、FI1,FI2,FI3,MI1,MI2,MI3に含まれるx、y及びz方向成分である。以上より、ステップS4では、対象方向成分は、それぞれを構成する要因成分に分解された形で導出される。
【0043】
続くステップS5では、影響度算出部14dは、ステップS4で導出された各対象方向成分の合計値に対する、そこに含まれる複数の要因成分の影響度を個別に算出する。本実施形態では、影響度は、各対象方向成分の合計値に対する個々の要因成分の割合として算出される。
【0044】
続くステップS6では、ステップS4で算出された1又は複数の対象方向成分の合計値が出力される。表示制御部14eは、この合計値を表示する表示画面を作成し、これを表示部11上に表示させる。
図5A及び
図6Aは、このときの表示画面例を示しており、
図5Aは、上述した例1の場合の例であり、
図6Aは、例2の場合の例である。なお、これらの図中のグラフは、発明者らが実際に行った実験により取得した計測データに基づくものである。グラフ中の横軸の0.0秒は、インパクトの時刻を表しており、その-0.2秒前とは、概ねダウンスイング中盤に相当する。
【0045】
図5Aの例では、例1の対象方向成分である慣性力F
x,F
y及びモーメントM
y,M
zのグラフが表示される。同図のとおり、本実施形態では、ステップS4で算出された対象方向成分の合計値のグラフだけでなく、一般的又は理想的な対象方向成分のグラフ(図中、「理想データ」として示される)が、同じグラフ領域内に表示される。そのため、ユーザは、この表示画面を見ながら両グラフを比較することにより、ゴルファー7のスイングが一般的又は理想的なスイングから乖離する原因、すなわち、ゴルファー7のスイングに問題を生じさせる原因となり得る対象方向成分を発見することができる。また、対象方向成分が複数ある場合に、特に注目すべき対象方向成分を絞り込むことができる。なお、一般的又は理想的な対象方向成分のデータ、すなわち理想データは、予め実施された実験により取得され、記憶部13内に格納されているものとする。理想データは、多数の及び/又は上級者のゴルファーが試打したときのデータの平均値として算出することができる。なお、
図5A~
図6Cに示される理想データも、発明者らが実際に行った実験により取得した計測データに基づくものである。そして、
図5Aをさらに観察すると、4つの対象方向成分F
x,F
y,M
y,M
zのうち、モーメントM
yは、インパクトの直前(-0.05秒以降)において理想データよりも顕著に小さい値を示していることが分かる。よって、例1では、モーメントM
yが特に注目すべき対象方向成分であると判断される。
【0046】
一方、
図6Aの例では、例2の対象方向成分である慣性力F
y及びモーメントM
xのグラフと、それぞれの理想データのグラフとが表示される。そして、
図6Aをさらに観察すると、2つの対象方向成分F
y,M
xは、いずれも理想データよりも顕著に小さい値を示している。よって、例2では、慣性力F
y及びモーメントM
xの両方が注目すべき対象方向成分であると判断される。
【0047】
続くステップS7では、ユーザは、ステップS6の出力結果から注目すべきと判断した1又は複数の対象方向成分(以下、注目方向成分ということがある)を、入力部12を介して指定する。
【0048】
続くステップS8では、ステップS7で指定された各注目方向成分に含まれる、ステップS4で算出された複数の要因成分が出力される。表示制御部14eは、これらの要因成分を個別に表示する表示画面を作成し、これを表示部11上に表示させる。
図5B及び
図6Bは、このときの表示画面例を示しており、
図5Bは、例1の場合の例であり、
図6Bは、例2の場合の例である。なお、
図5B及び
図6Bに示されるグラフは、それぞれ
図5A及び
図6Aで用いられたものと同じ計測データに基づくものである。
【0049】
図5Bの例では、例1の注目方向成分であるモーメントM
yに含まれる3つの要因成分のグラフが、同じグラフ領域内に表示される。また、本実施形態では、同図のとおり、ステップS4で算出された要因成分のグラフだけでなく、理想データに基づく注目方向成分の複数の要因成分のグラフも、同じグラフ領域内に表示される。ユーザは、この表示画面を見ながらこれらのグラフを比較することにより、3つの要因成分のうち、ゴルファー7のスイングに問題を生じさせる原因となり得る1又は複数の要因成分を発見することができる。例えば、
図5Bをさらに観察すると、3つの要因成分のうち、角速度ω
g由来の成分が、ステップS6において確認されたものと同じ傾向、すなわち、インパクトの直前(-0.05秒以降)において理想データよりも顕著に小さい値を示していることが分かる。よって、例1では、モーメントM
yの角速度ω
g由来の成分が、特に注目すべき要因成分であると判断される。
【0050】
図6Bの例では、例2の注目方向成分である慣性力F
y及びモーメントM
xのそれぞれに含まれる3つの要因成分のグラフが、同じグラフ領域内に表示される。また、理想データに基づく複数の要因成分のグラフも表示される。そして、
図6Bをさらに観察すると、注目方向成分F
yについては、角加速度ω
g´由来の成分が、ステップS6において確認されたものと同じ傾向、すなわち、理想データよりも顕著に小さい値を示していることが分かる。また、注目方向成分M
xについても、角加速度ω
g´由来の成分が、ステップS6において合計値に対し確認されたのと同じ傾向を示していることが分かる。よって、例2では、慣性力F
y及びモーメントM
xの角加速度ω
g´由来の成分が、特に注目すべき要因成分であると判断される。
【0051】
以上のとおり、ステップS8では、注目方向成分が、注目方向成分を構成する複数の要因成分に分解された形式で表示される。従って、ユーザは、注目方向成分に対する各要因成分の影響度を判断することができる。すなわち、
図5B及び
図6Bのようなグラフを見れば、また、必要に応じてさらに
図5A及び
図6Aのグラフを再度参照すれば、注目方向成分の合計値に対する個々の要因成分の影響度を理解することができる。ところで、このような影響度をより正確に判断するために、本実施形態では、ステップS5で算出された注目方向成分に対する各要因成分の影響度が、表示画面上にさらに出力される。特に図示しないが、例えば、同じ注目方向成分に対する複数の要因成分の影響度のグラフを、同じグラフ領域内に表示することができる。つまり、
図5B及び
図6Bの例では、縦軸が要因成分の値であるが、これを要因成分の影響度(割合)に変更した表示画面を作成することができる。
【0052】
続くステップS9では、ユーザは、ステップS8の出力結果から注目すべきと判断した1又は複数の要因成分(以下、注目要因成分ということがある)を、入力部12を介して指定する。
【0053】
続くステップS10では、成分算出部14cが、ステップS9で指定された各注目要因成分を、当該注目要因成分に含まれる複数の項成分に分解する。ここでいう項成分とは、加速度a
g、角加速度ω
g´及び角速度ω
gに含まれるx,y及びz方向成分の1つ又は複数の成分により定まる項の成分である。より具体的に説明すると、例えば、モーメントM
yに含まれる角速度ω
g由来の要因成分は、数1,2の式から明らかなとおり、角速度ω
gの3方向成分ω
x,ω
y,ω
zの1つ又は複数の組み合わせについて整理することができ、以下のように表すことができる。ただし、c
1~c
6は係数であり、m,I,r
h,Lに基づいて算出される値である。
【数3】
【0054】
この例では、数3の右辺に含まれる各項が項成分である。つまり、ステップS10では、成分算出部14cは、注目要因成分について、数3の右辺の各項のような項成分を個別に算出する。なお、数3は、角速度ωg由来の要因成分を分解した例であるため、その項成分は角速度ωgの方向成分ωx,ωy,ωzにより定まるが、加速度ag由来の要因成分は、ax,ay,azにより定まり、角加速度ωg´由来の要因成分は、ωx´,ωy´,ωz´により定まる。
【0055】
続くステップS11では、各注目要因成分に含まれる、ステップS10で算出された複数の項成分が出力される。表示制御部14eは、これらの項成分を個別に表示する表示画面を作成し、これを表示部11上に表示させる。
図5C及び
図6Cは、このときの表示画面例を示しており、
図5Cは、例1の場合の例であり、
図6Cは、例2の場合の例である。なお、
図5C及び
図6Cに示されるグラフは、それぞれ
図5A及び
図6Aで用いられたものと同じ計測データに基づくものである。
【0056】
図5Cの例では、例1の注目要因成分であるモーメントM
yの角速度ω
g由来の成分に含まれる6つの項成分のグラフが、同じグラフ領域内に表示される。また、本実施形態では、同図のとおり、理想データに基づく6つの項成分のグラフも、同じグラフ領域内に表示される。ユーザは、この表示画面を見ながらこれらのグラフを比較することにより、6つの項成分のうち、ゴルファー7のスイングに問題を生じさせる原因となり得る1又は複数の項成分を発見することができる。例えば、
図5Cをさらに観察すると、6つの項成分のうち、ω
xω
zの項成分が、ステップS6及びS8において確認されたものと同じ傾向、すなわち、インパクトの直前(-0.05秒以降)において理想データよりも顕著に小さい値を示していることが分かる。よって、例1では、ω
xω
zの項成分が、特に注目すべき項成分であると判断される。
【0057】
図6Cの例では、例2の注目要因成分である慣性力F
y及びモーメントM
xの角加速度ω
g´由来の成分に含まれる3つの項成分のグラフが、同じグラフ領域内に表示される。また、理想データに基づく3つの項成分のグラフも、同じグラフ領域内に表示される。そして、
図6Cをさらに観察すると、慣性力F
yの角加速度ω
g´由来の成分については、ω
x´の項成分が、ステップS6及びS8において確認されたものと同じ傾向、すなわち、理想データよりも顕著に小さい値を示していることが分かる。また、モーメントM
xの角加速度ω
g´由来の成分についても、ω
x´の項成分が、ステップS6及びS8において確認されたものと同じ傾向を示していることが分かる。よって、例2では、ω
x´の項成分が、特に注目すべき項成分であると判断される。
【0058】
以上のとおり、ステップS11では、注目要因成分が、注目要因成分を構成する複数の項成分に分解された形式で表示される。従って、注目要因成分に対する各項成分の影響度を判断することができる。なお、ここで出力される情報は、グラフの形式ではなく、表の形式で表示されてもよいし、文字及び/又は数値データとして表示されてもよく、その表示形式は特に問わない。ステップS6及びS8においても同様である。
【0059】
続くステップS12では、ユーザは、以上のステップS6,S8及びS11における出力結果に基づいて、ゴルファー7のスイングの問題の原因を判断し、これを解決する方法をゴルファー7に指導及び提案する。ところで、加速度、角加速度及び角速度由来の成分といった要因成分は、それぞれスイング中のゴルフクラブ5の所定の運動に関連付けられ得る。例えば、慣性力FI及びモーメントMI全体に対する加速度由来の成分の影響が大きいと、打具の並進運動が大きいことが窺え、角加速度由来の成分の影響が大きいと、打具の回転運動が大きいことが窺え、角速度由来の成分の影響が大きいと、手首のローテーション(インパクト直前のヘッド53のフェースのローテーション)の開始のタイミングが早いことが窺える。ステップS12では、ユーザは、ステップS6,S8及びS11における出力結果から選択された注目すべき要因成分及び項成分を、以上の要因成分とスイングの特徴(問題)との関係に照らし合わせ、スイングの問題の原因を特定する。
【0060】
例えば、例1では、注目すべき成分は、角速度ωgの要因成分であり、そのうち特にωxωzの項成分であると判断されている。よって、スイングの問題の原因は、角速度ωgにあり、特にωxとωzにあることが分かる。つまり、x軸及びz軸周りの手首のローテーションの開始のタイミングが早すぎることが原因で、モーメントMyが小さくなり、フェースが閉じてしまうという問題が生じていることが分かる。よって、フェースが閉じてしまうという問題を改善するためには、x軸及びz軸周りの手首のローテーションの開始のタイミングを遅らせることを解決方法として提案することができる。
【0061】
例2では、注目すべき成分は、角加速度ωg´の要因成分であり、そのうち特にωx´の項成分であると判断されている。よって、スイングの問題の原因は、角加速度ωg´にあり、特にωx´にあることが分かる。つまり、x軸周りのローテーションが激しすぎることが原因で、慣性力Fy及びモーメントMxが小さくなり、ロフトが立ち、ボールが高く上がらないという問題が生じていることが分かる。よって、ロフトが立ち、ボールが高く上がらないという問題を改善するためには、x軸周りのローテーションを抑えることを解決方法として提案することができる。
【0062】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0063】
<4-1>
上記実施形態に係るスイング解析システムを用いたスイングの評価方法は、ゴルフクラブ以外の打具のスイングの評価にも適用可能である。また、その用途も、上述したようなスイングの改善に限らず、例えば、打具の設計開発や、プレイヤーにより適した打具をフィッティングすることにも適用可能である。上記スイングの評価方法により、ある個人又はある集団(初心者、中級者、上級者等)のスイングの特性が分かれば、その一般的な知見を基に、その個人や集団に適した打具を設計やフィッティングすることが可能となる。
【0064】
<4-2>
計測機器2の構成は、慣性センサに限られず、例えば、様々な方向からゴルフスイングを撮影するための様々な位置に配置された複数台のカメラを備える撮影システムであってもよいし、慣性センサと撮影システムを組み合わせたものであってもよい。
【0065】
<4-3>
上記実施形態では、慣性力FI及びモーメントMIの両方に基づいてスイングの評価を行ったが、慣性力FI及びモーメントMIの一方に基づいて、スイングの評価を行ってもよい。また、これに代えて又は加えて、慣性力FI及びモーメントMIを、数1,2の式のように加速度、角加速度及び角速度に由来する成分の合計値として定義する必要はなく、これらの中から選択される少なくとも2つの成分の合計値として定義することができる。また、慣性力FI及びモーメントMIの角速度に由来する成分を、コリオリ力を含むように定義してもよい。
【0066】
<4-4>
上記実施形態では、フェラル54(シャフト52の先端部分)に固定された座標系におけるヘッド53に作用する慣性指標を算出したが、ゴルフクラブ5の別の部位、例えば、グリップ51、シャフト52におけるフェラル54以外の部位、及びヘッド53のいずれかの一部に固定された座標系における慣性指標を算出してもよい。これに代えて又は加えて、ゴルフクラブ5の別の部位、例えば、フェラル54、シャフト52におけるフェラル54以外の部位、及びグリップ51のいずれかに作用する慣性指標を算出してもよい。
【0067】
<4-5>
上記実施形態では、グリップ加速度ag、グリップ角加速度ωg´及びグリップ角速度ωgに基づいて慣性指標を算出したが、ゴルフクラブ5の別の部位、例えば、フェラル54(シャフト52の先端部分)、シャフト52におけるフェラル54以外の部位、及びヘッド53のいずれかの加速度、角加速度及び角速度に基づいて慣性指標を算出してもよい。
【0068】
<4-6>
上記ステップS2,S6~S9,S11,S12の処理の一部は人が行ったが、これらの処理の一部又は全部をコンピュータで自動化することもできる。
【符号の説明】
【0069】
1 スイング解析装置(コンピュータ)
14a データ取得部
14b 要因算出部
14c 成分算出部
14d 影響度算出部
14e 表示制御部
2 慣性センサ
5 ゴルフクラブ(打具)
51 グリップ
52 シャフト
53 ヘッド
54 フェラル(シャフトの先端部分)
6 スイング解析プログラム