(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】スイング解析装置
(51)【国際特許分類】
A63B 69/36 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
A63B69/36 541P
(21)【出願番号】P 2017188450
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】君塚 渉
(72)【発明者】
【氏名】大貫 正秀
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宏
【審査官】石原 豊
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-084952(JP,A)
【文献】特開2016-198296(JP,A)
【文献】特開2005-021329(JP,A)
【文献】特開2016-034468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B69/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打具のスイングを計測した計測データを取得するデータ取得部と、
前記計測データに基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分を、前記特定の方向成分に含まれる1又は複数の特定のスペック成分毎に分解された形で算出する指標算出部と、
を備え、
前記特定のスペック成分とは、前記打具の特定のスペックにより定まる成分である、
スイング解析装置。
【請求項2】
前記特定の方向成分に対する前記特定のスペック成分の影響度を算出する影響度算出部
をさらに備える、
請求項1に記載のスイング解析装置。
【請求項3】
前記打具は、ゴルフクラブである、
請求項1又は2に記載のスイング解析装置。
【請求項4】
前記指標算出部は、前記計測データに基づいて、前記ゴルフクラブの所定の部位の加速度、角加速度及び角速度の少なくとも1つを導出し、前記慣性指標として、前記加速度、前記角加速度及び前記角速度の少なくとも1つに由来する成分を含む、前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方を算出する、
請求項3に記載のスイング解析装置。
【請求項5】
前記所定の部位は、前記ゴルフクラブのヘッド、シャフト及びグリップのいずれかの一部である、
請求項4に記載のスイング解析装置。
【請求項6】
前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのヘッドに作用する前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である、
請求項3から5のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項7】
前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのシャフトの先端部分に固定された座標系における前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である、
請求項3から6のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項8】
前記特定のスペックには、前記ゴルフクラブのヘッド、シャフト及びグリップの少なくとも1つのスペックが含まれる、
請求項3から7のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項9】
前記特定のスペックには、前記ゴルフクラブのヘッドの重心位置、前記ヘッドの重心周りの慣性マトリクス、及び前記ヘッドの重量の少なくとも1つが含まれる、
請求項3から8のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項10】
前記データ取得部は、前記打具に取り付けられた慣性センサから前記計測データを取得する、
請求項1から9のいずれかに記載のスイング解析装置。
【請求項11】
打具のスイングを計測した計測データを取得するステップと、
前記計測データに基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分を、前記特定の方向成分に含まれる1又は複数の特定のスペック成分毎に分解された形で算出するステップと、
をコンピュータに実行させ、
前記特定のスペック成分とは、前記打具の特定のスペックにより定まる成分である、
スイング解析プログラム。
【請求項12】
コンピュータが、打具のスイングを計測した計測データを取得するステップと、
前記コンピュータが、前記計測データに基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分を、前記特定の方向成分に含まれる1又は複数の特定のスペック成分毎に分解された形で算出するステップと、
前記コンピュータが、前記特定の方向成分に対する前記特定のスペック成分の影響度を算出するステップと、
を含み、
前記特定のスペック成分とは、前記打具の特定のスペックにより定まる成分である、
スイング解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフスイング等の打具のスイングを解析するスイング解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴルフスイング等の打具のスイングを計測機器により計測し、これを解析する様々な手法が提案されている。打具のスイング時には、プレイヤーから打具に力が与えられ、打具に遠心力を含む慣性力が作用し、打具が並進及び回転運動する。よって、打具に作用する慣性力や慣性力によるモーメントを求めることは、スイングを解析する上で重要である。特許文献1は、打具であるゴルフクラブのヘッドに作用する慣性力を算出する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スイングは、プレイヤーの技量のみならず、打具の重量や重心位置、慣性モーメントといった打具のスペックの影響を受けることは明らかである。従って、本発明者らは、スイングを解析する上で、従来のように単に打具に作用する慣性力を評価するだけでなく、打具の特定のスペックが慣性力に与える影響を評価することが重要であると考えた。同じことは、慣性力だけでなく、慣性力によるモーメントについても言える。そして、このような影響を評価することが可能になれば、例えば、所望の性能を有する打具の設計開発や、プレイヤーに適したスペックの打具をプレイヤーにフィッティングすること等が可能になる。
【0005】
本発明は、打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方に対する、打具の特定のスペックの影響を評価することを支援するスイング解析装置、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係るスイング解析装置は、データ取得部と、指標算出部とを備える。前記データ取得部は、打具のスイングを計測した計測データを取得する。前記指標算出部は、前記計測データに基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分を、前記特定の方向成分に含まれる1又は複数の特定のスペック成分とともに算出する。前記特定のスペック成分とは、前記打具の特定のスペックにより定まる成分である。
【0007】
第2観点に係るスイング解析装置は、第1観点に係るスイング解析装置であって、前記特定の方向成分に対する前記特定のスペック成分の影響度を算出する影響度算出部をさらに備える。
【0008】
第3観点に係るスイング解析装置は、第1観点又は第2観点に係るスイング解析装置であって、前記打具は、ゴルフクラブである。
【0009】
第4観点に係るスイング解析装置は、第3観点に係るスイング解析装置であって、前記指標算出部は、前記計測データに基づいて、前記ゴルフクラブの所定の部位の加速度、角加速度及び角速度の少なくとも1つを導出し、前記慣性指標として、前記加速度、前記角加速度及び前記角速度の少なくとも1つに由来する成分を含む、前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方を算出する。
【0010】
第5観点に係るスイング解析装置は、第4観点に係るスイング解析装置であって、前記所定の部位は、前記ゴルフクラブのヘッド、シャフト及びグリップのいずれかの一部である。
【0011】
第6観点に係るスイング解析装置は、第3観点から第5観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのヘッドに作用する前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である。
【0012】
第7観点に係るスイング解析装置は、第3観点から第6観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記慣性指標は、前記ゴルフクラブのシャフトの先端部分に固定された座標系における前記慣性力及び前記慣性力によるモーメントの少なくとも一方である。
【0013】
第8観点に係るスイング解析装置は、第3観点から第7観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記特定のスペックには、前記ゴルフクラブのヘッド、シャフト及びグリップの少なくとも1つのスペックが含まれる。
【0014】
第9観点に係るスイング解析装置は、第3観点から第8観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記特定のスペックには、前記ゴルフクラブのヘッドの重心位置、前記ヘッドの重心周りの慣性マトリクス、及び前記ヘッドの重量の少なくとも1つが含まれる。
【0015】
第10観点に係るスイング解析装置は、第1観点から第9観点のいずれかに係るスイング解析装置であって、前記データ取得部は、前記打具に取り付けられた慣性センサから前記計測データを取得する。
【0016】
第11観点に係るスイング解析プログラムは、以下のステップをコンピュータに実行させる。
(1)打具のスイングを計測した計測データを取得するステップ。
(2)前記計測データに基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分を、前記特定の方向成分に含まれる1又は複数の特定のスペック成分とともに算出するステップ。なお、前記特定のスペック成分とは、前記打具の特定のスペックにより定まる成分である。
【0017】
第12観点に係るスイング解析方法は、以下のステップを含む。
(1)打具のスイングを計測した計測データを取得するステップ。
(2)前記計測データに基づいて、前記スイング中に前記打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方である慣性指標の特定の方向成分を、前記特定の方向成分に含まれる1又は複数の特定のスペック成分とともに算出するステップ。なお、前記特定のスペック成分とは、前記打具の特定のスペックにより定まる成分である。
(3)前記特定の方向成分に対する前記特定のスペック成分の影響度を算出するステップ。
【0018】
第13観点に係るスイング解析方法は、第12観点に係るスイング解析方法であって、以下のステップをさらに含む。
(4)前記特定の方向成分に対する前記影響度の大きい前記特定のスペック成分を特定するステップ。
(5)前記特定された特定のスペック成分に対応する前記特定のスペックを、前記打具の設計項目として選択するステップ。
(6)前記打具が所望の性能を発揮するように、前記特定のスペックの設計値を決定するステップ。
【発明の効果】
【0019】
以上の観点によれば、スイング中に打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方の特定の方向成分が、この特定の方向成分に含まれる1又は複数の特定のスペック成分とともに算出される。なお、特定のスペック成分とは、打具の特定のスペックにより定まる成分である。よって、この特定のスペック成分を評価することにより、打具に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントの少なくとも一方に対する、打具の特定のスペックの影響を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係るスイング解析装置を含むスイング解析システムの全体構成を示す図。
【
図4】スペックの評価方法の流れを示すフローチャート。
【
図5】モーメントのy方向成分の合計値及びこれに含まれるスペック成分のグラフ。
【
図6】モーメントのz方向成分の合計値及びこれに含まれるスペック成分のグラフ。
【
図7】慣性力のx方向成分の合計値及びこれに含まれるスペック成分のグラフ。
【
図8】慣性力のy方向成分の合計値及びこれに含まれるスペック成分のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係るスイング解析装置、方法及びプログラムについて説明する。
【0022】
<1.スイング解析システムの概要>
図1及び
図2に、本実施形態に係るスイング解析装置1を含むスイング解析システム100の全体構成図を示す。スイング解析システム100は、ゴルフクラブ5のスイングを解析することにより、ゴルフクラブ5の特定のスペックがスイングに及ぼす影響を評価するのを支援するように構成されている。より具体的には、スイング中にゴルフクラブ5に作用する慣性力及び慣性力によるモーメント(以下、これらを総称して「慣性指標」ということがある)に対する特定のスペック成分の影響度が評価される。なお、特定のスペック成分とは、ゴルフクラブ5の特定のスペックにより定まる成分である。また、詳細は後述されるが、本実施形態でいう特定のスペックとは、ゴルフクラブ5のヘッド53のスペックであり、より具体的には、ヘッド53の重心位置及び重心周りの慣性マトリクスの成分である。本実施形態では、以上の影響度は、開発者によるゴルフクラブ5の設計に利用され、所望の性能を実現するようなゴルフクラブ5のスペックの値が決定される。
【0023】
スイング解析装置1は、ゴルファー7によるゴルフクラブ5のスイングを計測した計測データに基づいて、以上の特定のスペック成分を算出する。このスイングの計測は、計測機器2により行われ、計測機器2は、スイング解析装置1とともにスイング解析システム100を構成する。以下、スイング解析システム100の各部の構成を説明した後、スイング解析システム100を用いたゴルフクラブ5のスペックの評価方法について説明する。
【0024】
<2.各部の詳細>
<2-1.計測機器>
本実施形態に係る計測機器2は、慣性センサから構成される(以下、慣性センサにも、参照符号2を付す)。慣性センサ2は、
図1に示すとおり、ゴルフクラブ5のグリップ51に取り付けられており、グリップ51の挙動を計測する。
図3に示すとおり、ゴルフクラブ5は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト52と、シャフト52の先端に設けられたヘッド53と、シャフト52の後端に設けられたグリップ51とから構成される。シャフト52の先端部分には、シャフト52をヘッド53に固定するための連結器具として、フェラル(ソケット)54が装着されている。慣性センサ2は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されており、特にグリップ51におけるヘッド53と反対側の端部であるグリップエンド51aに取り付けられている。
【0025】
図2に示すように、慣性センサ2には、加速度センサ41及び角速度センサ42が搭載されている。また、慣性センサ2には、これらのセンサ41,42から出力される計測データを、通信線17を介してスイング解析装置1等の外部のデバイスに送信するための通信装置40も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置40は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式にスイング解析装置1に接続するようにしてもよい。
【0026】
加速度センサ41及び角速度センサ42はそれぞれ、グリップエンド51aを原点とするxyz局所座標系における加速度及び角速度を計測する。より具体的には、加速度センサ41は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップ51の加速度(以下、グリップ加速度ということがある)ax,ay,azを計測する。角速度センサ42は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップ51の角速度(以下、グリップ角速度ということがある)ωx,ωy,ωzを計測する。これらの加速度及び角速度に関する計測データは、所定の短いサンプリング周期の時系列データとして取得される。
【0027】
xyz局所座標系は、
図3に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト52の延びる方向に一致し、ヘッド53からグリップ51に向かう方向が、z軸正方向である。y軸は、ゴルフクラブ5のアドレス時の飛球方向にできる限り沿うように、すなわち、フェース-バック方向に概ね沿うように配向され、バック側からフェース側に向かう方向がy軸正方向である。x軸は、y軸及びz軸に直交するように、すなわち、トゥ-ヒール方向に概ね沿うように配向され、ヒール側からトゥ側に向かう方向がx軸正方向である。
【0028】
本実施形態では、加速度センサ41及び角速度センサ42からの計測データは、通信装置40を介してリアルタイムにスイング解析装置1に送信される。しかしながら、例えば、慣性センサ2内の記憶装置に計測データを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置から計測データを取り出して、スイング解析装置1に受け渡すようにしてもよい。
【0029】
<2-2.スイング解析装置>
スイング解析装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォンとして実現される。
図2に示すとおり、スイング解析装置1は、コンピュータで読み取り可能なCD-ROM等の記録媒体30から、或いはインターネット等の通信回線を介して、スイング解析プログラム6を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。スイング解析プログラム6は、計測機器2から送られてくる計測データに基づいて、ゴルフクラブ5の特定のスペックがゴルフスイングに及ぼす影響を評価するのを支援するためのソフトウェアであり、スイング解析装置1に後述する動作を実行させる。
【0030】
スイング解析装置1は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11~15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成することができ、ゴルフスイングの解析結果等をユーザに対し表示する。ユーザとは、本実施形態では、ゴルフクラブの開発者である。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、スイング解析装置1に対するユーザからの操作を受け付ける。
【0031】
記憶部13は、ハードディスク等で構成することができる。記憶部13内には、スイング解析プログラム6が格納されている他、計測機器2から送られてくる計測データが保存される。制御部14は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部14は、記憶部13内のスイング解析プログラム6を読み出して実行することにより、仮想的にデータ取得部14a、指標算出部14b、影響度算出部14c及び表示制御部14dとして動作する。各部14a~14dの動作の詳細については、後述する。通信部15は、計測機器2等の外部のデバイスとの間でデータを送受信する通信インターフェースとして機能する。
【0032】
<3.スペックの評価方法>
以下、スイング解析システム100を用いたゴルフクラブ5のスペックの評価方法について説明する。本方法では、ゴルフクラブ5の特定のスペックが、ゴルフスイングを表す指標である慣性指標、すなわち、スイング中にゴルフクラブ5に作用する慣性力及び慣性力によるモーメントに及ぼす影響が評価される。そして、本実施形態では、この評価結果は、ゴルフクラブ5の設計に利用される。より具体的には、この評価結果に基づいて、所望の性能を実現するようなゴルフクラブ5のスペックの値、本実施形態では、ヘッド53のスペックの値が決定される。以下、詳細に説明する。
【0033】
図4は、本実施形態に係るスペックの評価方法の流れを示すフローチャートである。同図に示すように、最初のステップS1では、テストクラブとしてのゴルフクラブ5が用意され、このテストクラブ(以下、テストクラブにも、参照符号5を付す)をゴルファー7にスイングさせる。このとき、テストクラブ5に取り付けられている慣性センサ2により、テストクラブ5のスイングを計測した計測データが収集される。ここでいう計測データとは、上記のとおり、グリップ加速度a
x,a
y,a
z及びグリップ角速度ω
x,ω
y,ω
zに関する時系列データである。本実施形態では、計測データは、少なくともダウンスイング中盤からインパクトまでの期間、収集される。慣性センサ2により収集された計測データは、通信装置40からスイング解析装置1に送信される。スイング解析装置1側では、データ取得部14aが通信部15を介してこの計測データを取得し、記憶部13内に格納する。
【0034】
続くステップS2では、指標算出部14bが、記憶部13内に格納されている計測データに基づいて、テストクラブ5のグリップ51のxyz局所座標系における加速度ag、角加速度ωg´及び角速度ωgを導出する。なお、本実施形態では、計測機器2によりグリップ加速度ax,ay,az及びグリップ角速度ωx,ωy,ωzが計測されるため、ag=(ax,ay,az)であり、ωg=(ωx,ωy,ωz)である。また、角加速度ωg´は、ω´g=(ωx´,ωy´,ωz´)として算出される。なお、記号に付される「´」は、当該記号が表す変数の微分を表す。以下、agをグリップ加速度、ωg´をグリップ角加速度、ωgをグリップ角速度と呼ぶ。
【0035】
続くステップS3では、指標算出部14bが、ステップS1のスイング中にテストクラブ5に作用した慣性力F
I及び慣性力F
IによるモーメントM
Iを算出する。本実施形態で算出される慣性力F
I及びモーメントM
Iは、フェラル54のxyz局所座標系における加速度a
f(以下、フェラル加速度ということがある)、角加速度ω
f´(以下、フェラル角加速度ということがある)及び角速度(以下、フェラル角速度ということがある)ω
fを用いて計算される、フェラル54に固定された座標系(フェラル54を原点とする座標系)におけるヘッド53の重心に作用した慣性力及び慣性力によるモーメントである。慣性力F
I及びモーメントM
Iは、下式に従って算出される。
【数1】
【数2】
【0036】
ここで、フェラル加速度a
f、フェラル角加速度ω
f´及びフェラル角速度ω
fは、グリップ加速度a
g、グリップ角加速度ω
g´及びグリップ角速度ω
gを用いて、以下のとおり算出される。
【数3】
【0037】
上式中、rgfは、グリップ51からフェラル54に向かうベクトルを意味しており、rfhは、フェラル54からヘッド53の重心に向かうベクトルを意味している。また、mは、ヘッド53の重量を示しており、Iは、ヘッド53の重心周りの慣性マトリクスを示している。なお、数1~3に含まれる一部のベクトルを表す記号には、ベクトルであることを強調するべく矢印を付している。
【0038】
また、上式中、FIに含まれるFI1は、フェラル加速度afに由来する慣性力の成分であり、FI2は、フェラル角加速度ωf´に由来する慣性力の成分であり、FI3は、フェラル角速度ωfに由来する慣性力の成分である。また、MIに含まれるMI1は、フェラル加速度afに由来するモーメントの成分であり、MI2は、フェラル角加速度ωf´に由来するモーメントの成分であり、MI3は、フェラル角速度ωfに由来するモーメントの成分である。なお、上式は、シャフト52を剛体として考えた場合に導かれる式である。
【0039】
指標算出部14bは、ステップS2で導出されたグリップ加速度ag、グリップ角加速度ωg´及びグリップ角速度ωgを数1~3の式に代入し、慣性力FI及びモーメントMIを導出する。このとき、指標算出部14bは、m,I,rgf,rfhの値も、数1~3の式に代入する。なお、rgfは、シャフト52の長さL(より正確には、グリップエンド51aからフェラル54までの長さ)に基づいて算出され、rfhは、ヘッド53の重心位置rhに基づいて算出される。テストクラブ5のスペックであるm,I,rh,Lは、スイング解析装置1の記憶部13内に予め格納されているものとする。
【0040】
数1~3の式を見れば明らかであるが、数1~3の式により算出される慣性力FI及びモーメントMIは各々、x方向、y方向及びz方向の成分を有するベクトルである。よって、ステップS3では、指標算出部14bは、慣性力FIのx、y及びz方向成分であるFx,Fy,Fzと、モーメントMIのx、y及びz方向成分(すなわち、それぞれx、y及びz軸周りの成分)であるMx,My,Mzとを算出する。
【0041】
また、ステップS3では、指標算出部14bは、慣性力FIの3方向成分Fx,Fy,Fzを、それぞれに含まれるスペック成分毎に算出する。つまり、各方向成分Fx,Fy,Fzの合計値を算出するとともに、各方向成分Fx,Fy,Fzに含まれる複数のスペック成分を算出する。言い換えると、3方向成分Fx,Fy,Fzは、それぞれを構成するスペック成分に分解された形で導出される。
【0042】
このことをより具体的に説明する。本実施形態では、スペック成分とは、ヘッド53のスペックである重心位置r
h及び慣性マトリクスIの各成分により定まる成分である。今、重心位置r
h及び慣性マトリクスIの各成分を下式のとおり表す。
【数4】
【数5】
【0043】
このとき、慣性力F
Iの3方向成分F
x,F
y,F
zを、重心位置r
h及び慣性マトリクスIの各成分について整理すると、以下のように表すことができる。c
x1~c
x4,c
y1~c
y4,c
z1~c
z4は係数であり、a
g,ω
g´,ω
g,m,Lに基づいて算出される値である。数6の右辺に含まれる各項は、スペック成分を表している。つまり、ステップS3では、指標算出部14bは、数6の右辺の各項の値を別々に算出する。
【数6】
【0044】
同様に、指標算出部14bは、モーメントMIの3方向成分Mx,My,Mzを、それぞれに含まれるスペック成分毎に算出する。つまり、各方向成分Mx,My,Mzの合計値を算出するとともに、各方向成分Mx,My,Mzに含まれる複数のスペック成分を算出する。言い換えると、3方向成分Mx,My,Mzは、それぞれを構成するスペック成分に分解された形で導出される。
【0045】
モーメントM
Iの3方向成分M
x,M
y,M
zも、重心位置r
h及び慣性マトリクスIの各成分並びにその組み合わせについて整理すると、以下のように表すことができる。d
x1~d
x15,d
y1~d
y15,d
z1~d
z15は係数であり、a
g,ω
g´,ω
g,m,Lに基づいて算出される値である。数7の右辺に含まれる各項は、スペック成分を表している。つまり、ステップS3では、指標算出部14bは、数7の右辺の各項の値を別々に算出する。
【数7】
【0046】
続くステップS4では、影響度算出部14cが、慣性力FI及びモーメントMIの各方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzについて、その方向成分に対する、その方向成分に含まれる個々のスペック成分の影響度を算出する。本実施形態でいう影響度は、慣性指標の方向成分の全体の値(合計値)に対する個々のスペック成分の割合として評価される。例えば、慣性力FIのx方向成分Fxに対する、スペックrxに対応するスペック成分cx1rxの割合(cx1rx/Fx)や、モーメントMIのy方向成分Myに対する、スペックIxxに対応するスペック成分dy10Ixxの割合(dy10Ixx/My)が算出される。本実施形態では、この影響度が、慣性力については、スペック成分の種類数3×方向数3=9通り算出され、モーメントについては、スペック成分の種類数15×方向数3=45通り算出される。
【0047】
続くステップS5では、以上の解析結果が出力される。ここでいう解析結果には、慣性指標の各方向成分F
x,F
y,F
z,M
x,M
y,M
zの合計値及び各スペック成分の値が含まれる。本実施形態では、表示制御部14dにより、解析結果はグラフの形式で表示部11上に表示される。
図5~
図8は、表示例を示している。なお、これらの図中のグラフは、発明者らが実際に行った実験により取得した計測データに基づくものである。グラフ中の横軸の0.0秒は、インパクトの時刻を表しており、その-0.2秒前とは、概ねダウンスイング中盤に相当する。
【0048】
本実施形態では、
図5~
図8に示すとおり、慣性指標の各方向成分について、その方向成分の合計値と、その方向成分に含まれる特定のスペック成分とが、両者が比較されるようにグラフの形式で同時に同じ画面上(図の例では、同じグラフエリア内)に表示される。なお、合計値のグラフとともに、その合計値に含まれる全てのスペック成分のグラフが同時に表示される(
図5~
図8参照)ことが好ましいが、グラフが重なる等して視にくくなる場合には、一部のスペック成分のグラフのみを表示することができる。このとき、合計値に対する影響度の大きいスペック成分のグラフを優先的に表示させることができる。また、
図5~
図8の例では、個々のスペック成分及びその合計値のグラフが表示されるが、これに代えて又は加えて、ステップS4で算出された個々のスペック成分の影響度を表すグラフが表示されてもよい。また、個々のスペック成分、並びにその合計値及びその影響度は、グラフの形式ではなく、表の形式で表示されてもよいし、文字及び/又は数値データとして表示されてもよく、その表示形式は特に問わない。
【0049】
続くステップS6~S8では、ゴルフクラブの開発者が、ステップS5で出力された解析結果を参考にして、ゴルフクラブの設計を行う。ところで、慣性指標の方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzは、それぞれゴルフクラブの何らかの設計目標に関連付けられ得る。例えば、x方向の慣性力Fxは、シャフト52をトゥダウン方向に撓ませる力であり、この撓みが大きい程、スライスし易くなる。y方向の慣性力Fyは、シャフト52をフェースバック方向に撓ませる力であり、この撓みが大きい程、フックし易く、ボールが高く飛び易く、ヘッドスピードが大きくなり易い。z方向の慣性力Fzは、シャフト52をシャフト軸方向に伸ばす力である。x軸周りのモーメントMxは、シャフト52の特に先端部分をx軸周りに回転させるモーメントであり、この回転が大きい程、ロフトが後方へ倒れ、ボールが高く飛び易くなる。y軸周りのモーメントMyは、シャフト52の特に先端部分をy軸周りに回転させるモーメントであり、この回転が大きい程、ヘッド53のトゥが下がり、スライスし易くなる。z軸周りのモーメントMzは、シャフト52の特に先端部分をz軸周りに回転させるモーメントであり、この回転が大きい程、フェースが閉じて、フックし易くなる。
【0050】
ステップS6では、開発者は、設計目標と慣性指標の方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzとの以上の関係に基づいて、全ての方向成分Fx,Fy,Fz,Mx,My,Mzのうち、所望の設計目標を達成するために注目すべき方向成分(以下、対象方向成分ということがある)を少なくとも1つ選択する。そして、開発者は、ステップS5で出力された解析結果を参照して、対象方向成分に対する影響度の大きい特定のスペック成分(以下、対象スペック成分ということがある)を特定する。なお、影響度が大きいかどうかは、例えば、影響度どうしを比較することにより相対的に判断することができる。続くステップS7では、開発者は、ステップS6で特定された対象スペック成分に対応する特定のスペック(以下、対象スペックということがある)を、ゴルフクラブの設計項目として選択する。
【0051】
続くステップS8では、開発者は、所望の設計目標を達成し、ゴルフクラブが所望の性能を発揮するような、対象方向成分の変化方向を判断する。そして、この変化方向に基づいて、対象スペックの設計値を決定する。このとき、対象スペックの設計値として、テストクラブ5の対象スペックの値から判断された変化方向に変更した値が選択される。以上のステップS6~S8が実施されるときの具体例を、以下に4つ挙げる。
【0052】
(例1)トゥダウン量が大きく(又は小さく)なるようなゴルフクラブを設計することが設計目標である場合を考える。この場合、開発者は、トゥダウン量に比較的大きな影響を及ぼし得る慣性指標の方向成分として、y軸周りのモーメントM
y(対象方向成分)を選択する(ステップS6)。そして、ステップS5の出力結果を参照して、モーメントM
yに対し影響度の大きなスペック成分、すなわち、モーメントM
yを決定するのに支配的なスペック成分(対象スペック成分)を判断する(ステップS6)。
図5の例からは、モーメントM
yの合計値に対して支配的なスペック成分は、x方向の重心位置r
x(対象スペック)の項の成分であり、r
xが大きい、すなわちトゥ側に重心がある程、トゥダウンする方向であるy軸周り正方向に大きなモーメントM
yがかかることが分かる。よって、開発者は、トゥダウン量を大きく(又は小さく)したければ、設計項目となるスペックとして重心位置r
x(対象スペック)を選択し(ステップS7)、トゥ側(又はヒール側)に重心を移動させるように、すなわち、r
xの設計値が大きく(又は小さく)なる方向に、これを設計変更する(ステップS8)。
【0053】
(例2)フェースが閉じ易い(又は開き易い)ゴルフクラブを設計することが設計目標である場合を考える。この場合、開発者は、フェースの開きに比較的大きな影響を及ぼし得る慣性指標の方向成分として、z軸周りのモーメントM
z(対象方向成分)を選択する(ステップS6)。そして、ステップS5の出力結果を参照して、モーメントM
zに対し影響度の大きなスペック成分、すなわち、モーメントM
zを決定するのに支配的なスペック成分(対象スペック成分)を判断する(ステップS6)。
図6の例からは、モーメントM
zの合計値に対して支配的なスペック成分は、y方向の重心位置r
y(対象スペック)の項の成分であり、r
yが大きい、すなわちバック側に重心がある程、フェースを開く方向であるz軸周り負方向に大きなモーメントM
zがかかることが分かる。よって、開発者は、フェースを閉じる(又は開く)ようにしたければ、設計項目となるスペックとして重心位置r
y(対象スペック)を選択し(ステップS7)、フェース側(又はバック側)に重心を移動させるように、すなわちr
yの設計値が小さく(又は大きく)なる方向に、これを設計変更する(ステップS8)。
【0054】
(例3)シャフト52がx軸方向に撓み易い(又は撓みにくい)ゴルフクラブを設計することが設計目標である場合を考える。この場合、開発者は、x軸方向のシャフトの撓み易さに比較的大きな影響を及ぼし得る慣性指標の方向成分として、x方向の慣性力F
x(対象方向成分)を選択する(ステップS6)。そして、ステップS5の出力結果を参照して、慣性力F
xに対し影響度の大きなスペック成分、すなわち、慣性力F
xを決定するのに支配的なスペック成分(対象スペック成分)を判断する(ステップS6)。
図7の例からは、慣性力F
xの合計値に対して支配的であるのは、スペックに依存しない加速度項の成分(数6の定数項c
x4,c
y4,c
z4)であり、慣性力F
xの合計値に対して支配的なスペック成分が存在しないということが分かる。このような場合には、ヘッド53のスペックr
h及びIをどのように設計しても、x軸方向のシャフト52の撓み易さを変化させることは難しいことが分かり、ステップS7,S8は省略される。
【0055】
(例4)ヘッドスピードの大きいゴルフクラブを設計することが設計目標である場合を考える。この場合、開発者は、ヘッドスピードに比較的大きな影響を及ぼし得る慣性指標の方向成分として、y方向の慣性力F
y(対象方向成分)を選択する(ステップS6)。そして、ステップS5の出力結果を参照して、慣性力F
yに対し影響度の大きなスペック成分、すなわち、慣性力F
yを決定するのに支配的なスペック成分(対象スペック成分)を判断する(ステップS6)。
図8の例からは、慣性力F
yの合計値に対して大きく影響を与えているのは、スペックに依存しない加速度項の成分(数6の定数項c
x4,c
y4,c
z4)であるが、x及びy方向の重心位置r
x,r
y(対象スペック)の項の成分も、慣性力F
yの合計値に対して少なからず影響を与えている。また、r
x,r
yが大きい、すなわちそれぞれトゥ側、バック側に重心が近づく程、y軸負方向に大きな慣性力F
yがかかることが分かる。よって、開発者は、ヘッドスピードを大きくしたければ、設計項目となるスペックとして重心位置r
x,r
y(対象スペック)を選択する(ステップS7)。
図8を見ると、r
x,r
yは共に負方向(ヘッド53をバック側に戻す方向)の値を持っており、ヘッドスピードを減少させる方向に作用している。よって、r
x,r
yを小さくすれば、慣性力F
yの合計が正方向にシフトし、ヘッドスピードを増やす方向に働くと考えられる。従って、それぞれヒール側、フェース側に重心を移動させるように、すなわち、r
x,r
yの設計値が小さくなる方向に、これらを設計変更する(ステップS8)。これにより、ヘッドスピードの大きいゴルフクラブを得ることができる。
【0056】
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0057】
<4-1>
上記実施形態に係るスイング解析システムを用いたスペックの評価方法は、ゴルフクラブ以外の打具のスペックの評価にも適用可能である。また、その用途も、打具の設計開発に限らず、例えば、プレイヤーにより適した打具をフィッティングすることにも適用可能である。
【0058】
<4-2>
計測機器2の構成は、慣性センサに限られず、例えば、様々な方向からゴルフスイングを撮影するための様々な位置に配置された複数台のカメラを備える撮影システムであってもよいし、慣性センサと撮影システムを組み合わせたものであってもよい。
【0059】
<4-3>
上記実施形態では、慣性力FI及びモーメントMIの両方に基づいてスペックの評価を行ったが、慣性力FI及びモーメントMIの一方に基づいて、スペックの評価を行ってもよい。また、これに代えて又は加えて、慣性力FI及びモーメントMIを、数1~3の式のように加速度、角加速度及び角速度に由来する成分の合計値として定義する必要はなく、これらの中から選択される1つ成分又は複数の成分の合計値として定義してもよいし、慣性力FI及びモーメントMIを、コリオリ力を含むように定義してもよい。
【0060】
<4-4>
上記実施形態では、フェラル54の加速度、角加速度及び角速度を用いて、フェラル54に固定された座標系においてヘッド53の重心に作用する慣性指標を算出した。しかしながら、ゴルフクラブ5の別の部位、例えば、グリップ51、シャフト52におけるフェラル54以外の部位、及ヘッド53のいずれかの一部の加速度、角加速度及び角速度を用いて、特定の部位に作用する慣性指標を算出してもよい。これに代えて又は加えて、ゴルフクラブ5の別の部位、例えば、グリップ51、シャフト52におけるフェラル54以外の部位、及びヘッド53に固定された座標系において特定の部位に作用する慣性指標を算出してもよい。これに代えて又は加えて、ゴルフクラブ5の別の部位、例えば、フェラル54、シャフト52、及びグリップ51のいずれかに作用する慣性指標を算出してもよい。また、慣性指標を整理するときの基準となるスペックも、ヘッド53のスペックに限られず、例えば、ヘッド53のスペックに代えて又は加えて、シャフト52及びグリップ51の少なくとも一方のスペックについて慣性指標を整理してもよい。このとき、例えば、シャフト52の重量、グリップ51の重量、シャフト52の重心位置等のスペックについて慣性指標を整理することができる。また、ヘッド53のスペックについて慣性指標を整理する場合にも、基準となるスペックは、ヘッド53の重心位置や重心周りの慣性マトリクスに限られず、例えば、ヘッド53の重量等とすることができる。
【0061】
<4-5>
上記実施形態では、慣性指標の合計値、及びこれに含まれるスペック成分が数値として算出されたが、例えば、数6,7の係数cx1~cx4,cy1~cy4,cz1~cz4,dx1~dx15,dy1~dy15,dz1~dz15のみを数値として算出するようにしてもよい。この場合も、これらの係数の値を見れば、これらの係数にそれぞれ対応するスペック成分の合計値に対する影響度を判断することができる。なお、慣性指標の特定の方向成分を算出することには、特定の方向成分の合計値を数値として算出せずに、これに含まれるスペック成分(又はそれらの係数)のみを数値として算出することが含まれるものとする。また、慣性指標の特定の方向成分に含まれる全てのスペック成分を分離して算出する必要はなく、注目しているスペックに対応するスペック成分のみを分離して算出してもよい。
【0062】
<4-6>
上記ステップS6~S8は、ステップS5の出力結果に基づいて人が行ったが、これらの処理の一部又は全部をコンピュータで自動化することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1 スイング解析装置(コンピュータ)
14a データ取得部
14b 指標算出部
14c 影響度算出部
2 慣性センサ
5 ゴルフクラブ(打具)
51 グリップ
52 シャフト
53 ヘッド
54 フェラル(シャフトの先端部分)
6 スイング解析プログラム