(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】ハンズオンオフ検出装置、電動パワーステアリング装置、外部トルク推定方法およびハンズオンオフ検出装置制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220817BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220817BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220817BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20220817BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2018101834
(22)【出願日】2018-05-28
【審査請求日】2021-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】皆木 亮
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 有紀恵
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114324(JP,A)
【文献】特開2009-096265(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00-6/10
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンドルが連結されたインプットシャフトと、前記インプットシャフトと連結されたアウトプットシャフトとに取り付けられたトルクセンサと、
前記アウトプットシャフトと連結され、ロータ回転角を検出する角度センサとモータ電流値を検出する電流センサとに接続された電動モータと、
前記トルクセンサと前記電動モータとに接続された制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記トルクセンサから操舵トルクを取得し、
前記制御部は、前記電動モータから前記ロータ回転角と前記モータ電流値を取得し、
前記制御部は、前記モータ電流値にトルク定数を乗じたモータトルクを算出し、
前記制御部は、前記操舵トルクと、前記ロータ回転角と、前記モータトルクとから、前記インプットシャフトと前記アウトプットシャフトに作用するトルクのうち前記モータトルク以外のトルクである外乱トルクを推定し、
前記制御部は、
前記外乱トルクと前記操舵トルクとにローパスフィルタ処理を実施し、
前記ローパスフィルタ処理後の前記外乱トルクと前記操舵トルクとの位相比較をし、
前記外乱トルクと前記操舵トルクとが同位相であると判定した場合、前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定し、
前記外乱トルクと前記操舵トルクとが逆位相であると判定した場合、前記外乱トルクが前記アウトプットシャフト側から入力されたトルクであると判定する、
ハンズオンオフ検出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
カウンタを有し、
前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定した場合、前記カウンタのカウンタ値を所定の加算値だけ加算し、
前記カウンタ値を加算する条件を満たさない場合は、前記カウンタ値を所定の減算値だけ減算し、
前記カウンタ値が、所定のハンズオン判定閾値以上となった場合、ドライバがステアリングを把持しているハンズオン状態であると判定し、
前記カウンタ値が、所定のハンズオフ判定閾値未満となった場合、ドライバがステアリングを把持していないハンズオフ状態であると判定する
請求項1に記載のハンズオンオフ検出装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定した場合、かつ、前記ローパスフィルタ処理後の前記外乱トルクが所定のトルク閾値より大きい場合に、前記カウンタ値を所定の加算値だけ加算する、
請求項2に記載のハンズオンオフ検出装置。
【請求項4】
前記制御部は、所定の動作フラグが有効化されている期間において、
前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定した場合、かつ、前記ローパスフィルタ処理後にさらにバンドパスフィルタ処理を施した前記外乱トルクが所定のトルク閾値より大きい場合に、前記カウンタ値を所定の加算値だけ加算する、
請求項2に記載のハンズオンオフ検出装置。
【請求項5】
前記モータトルクを、前記電動モータの動作誤差を考慮した補正モータトルクに変換して使用する、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のハンズオンオフ検出装置。
【請求項6】
前記加算値は前記減算値よりも大きい、
請求項2から請求項4のいずれか一項に記載のハンズオンオフ検出装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のハンズオンオフ検出装置を搭載した電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
ハンドルが連結されたインプットシャフトと、前記インプットシャフトと連結されたアウトプットシャフトとから操舵トルクを検出する操舵トルク検出工程と、
前記アウトプットシャフトと連結された電動モータからロータ回転角を検出するロータ回転角検出工程と、
前記電動モータからモータ電流値を検出するモータ電流値検出工程と、
前記モータ電流値にトルク定数を乗じたモータトルクを算出するモータトルク算出工程と、
前記モータトルクと前記電動モータに連結された減速機構の変形特性から補正モータトルクを算出する補正モータトルク算出工程と、
前記操舵トルクと、前記ロータ回転角と、前記モータトルクと
、前記補正モータトルクとから、前記インプットシャフトと前記アウトプットシャフトに作用するトルクのうち前記モータトルク以外のトルクである外乱トルクを推定する外部トルク推定工程と、を備える、
外部トルク推定方法。
【請求項9】
ハンドルが連結されたインプットシャフトと、前記インプットシャフトと連結されたアウトプットシャフトとに取り付けられたトルクセンサと、
前記アウトプットシャフトと連結され、ロータ回転角を検出する角度センサとモータ電流値を検出する電流センサと接続された電動モータと、
前記トルクセンサと前記電動モータとに接続された制御部と、
を備えるハンズオンオフ検出装置において、
前記制御部に、前記トルクセンサから操舵トルクを取得させ、
前記制御部に、前記電動モータから前記ロータ回転角と前記モータ電流値を取得させ、
前記制御部に、前記モータ電流値にトルク定数を乗じたモータトルクを算出させ、
前記制御部に、前記操舵トルクと、前記ロータ回転角と、前記モータトルクとから、前記インプットシャフトと前記アウトプットシャフトに作用するトルクのうち前記モータトルク以外のトルクである外乱トルクを推定させ、
前記制御部に、
前記外乱トルクと前記操舵トルクとにローパスフィルタ処理を実施させ、
前記ローパスフィルタ処理後の前記外乱トルクと前記操舵トルクとの位相比較をさせ、
前記外乱トルクと前記操舵トルクとが同位相であると判定した場合、前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定させ、
前記外乱トルクと前記操舵トルクとが逆位相であると判定した場合、前記外乱トルクが前記アウトプットシャフト側から入力されたトルクであると判定させる、
ハンズオンオフ検出装置制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流指令値によりモータを駆動制御し、モータの駆動制御により車両の操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置に搭載するハンズオンオフ検出装置、同ハンズオンオフ検出装置を搭載した電動パワーステアリング装置、外部トルク推定方法およびハンズオンオフ検出装置制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵系をモータの回転力でアシスト制御する電動パワーステアリング装置(EPS)では、モータの駆動力が操舵補助力(アシスト力)としてステアリングシャフトまたはラック軸に付与される。
【0003】
先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)は、自動車のドライバの運転操作を支援するシステムであり、見通しの悪い状況や、わき見運転などによって事故が起こる危険性を検知し、事故を未然に防止もしくは軽減することを目的としている。ADASにおいて、ドライバがステアリングを把持している状態(ハンズオン状態)であるか、ドライバがステアリングを把持していない状態(ハンズオフ状態)であるかの判断を行う「ハンズオン/ハンズオフ検出」が用いられている。近年、ハンズオン/ハンズオフ検出における検出精度の向上が益々重要になってきている。
【0004】
特許文献1に記載のハンドル操作状態判定装置は、ドライバのステアリング操舵によって生じるドライバトルクを推定することでハンズオン/ハンズオフ検出を行っている。ドライバトルクは、EPSのモータに設置された回転角センサが検出した回転角度と、ステアリングシャフトに設置されたトルクセンサが検出したステアリングトルク(トーションバートルク)と、を入力とするトルク推定オブザーバによって推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ステアリングシャフトは、ハンドルの回転を操向車輪に伝えるものであるため、ステアリングシャフトには、ドライバトルクのみならず、操向車輪が路面から受ける反力によって生じる路面反力トルクも作用する。
しかしながら、特許文献1に記載のハンドル操作状態判定装置は、トルク推定オブザーバにより、ステアリングトルク(トーションバートルク)から直接ドライバトルクを推定している。そのため、推定されたドライバトルクが、ドライバのステアリング操舵により発生した真のドライバトルクであるのか、それとも路面反力等が要因により発生した路面反力トルクであるのか、を判定することは困難であった。
【0007】
上記事情を踏まえ、本発明は、路面反力トルク等に対してロバストなハンズオン/ハンズオフ検出を行うことができるハンズオンオフ検出装置、同ハンズオンオフ検出装置を搭載した電動パワーステアリング装置、外部トルク推定方法およびハンズオンオフ検出装置制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明のハンズオンオフ検出装置は、ハンドルが連結されたインプットシャフトと、前記インプットシャフトと連結されたアウトプットシャフトとに取り付けられたトルクセンサと、前記アウトプットシャフトと連結され、ロータ回転角を検出する角度センサとモータ電流値を検出する電流センサとに接続された電動モータと、前記トルクセンサと前記電動モータとに接続された制御部と、を備え、前記制御部は、前記トルクセンサから操舵トルクを取得し、前記制御部は、前記電動モータから前記ロータ回転角と前記モータ電流値を取得し、前記制御部は、前記モータ電流値にトルク定数を乗じたモータトルクを算出し、前記制御部は、前記操舵トルクと、前記ロータ回転角と、前記モータトルクとから、前記インプットシャフトと前記アウトプットシャフトに作用するトルクのうち前記モータトルク以外のトルクである外乱トルクを推定し、前記制御部は、前記外乱トルクと前記操舵トルクとにローパスフィルタ処理を実施し、前記ローパスフィルタ処理後の前記外乱トルクと前記操舵トルクとの位相比較をし、前記外乱トルクと前記操舵トルクとが同位相であると判定した場合、前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定し、前記外乱トルクと前記操舵トルクとが逆位相であると判定した場合、前記外乱トルクが前記アウトプットシャフト側から入力されたトルクであると判定する。
【0009】
本発明のハンズオンオフ検出装置は、前記制御部は、カウンタを有し、前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定した場合、前記カウンタのカウンタ値を所定の加算値だけ加算し、前記カウンタ値を加算する条件を満たさない場合は、前記カウンタ値を所定の減算値だけ減算し、前記カウンタ値が、所定のハンズオン判定閾値以上となった場合、ドライバがステアリングを把持しているハンズオン状態であると判定し、前記カウンタ値が、所定のハンズオフ判定閾値未満となった場合、ドライバがステアリングを把持していないハンズオフ状態であると判定してもよい。
【0010】
本発明のハンズオンオフ検出装置は、前記制御部は、前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定した場合、かつ、前記ローパスフィルタ処理後の前記外乱トルクが所定のトルク閾値より大きい場合に、前記カウンタ値を所定の加算値だけ加算してもよい。
【0011】
本発明のハンズオンオフ検出装置は、前記制御部は、所定の動作フラグが有効化されている期間において、前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定した場合、かつ、前記ローパスフィルタ処理後にさらにバンドパスフィルタ処理を施した前記外乱トルクが所定のトルク閾値より大きい場合に、前記カウンタ値を所定の加算値だけ加算してもよい。
【0012】
本発明のハンズオンオフ検出装置は前記モータトルクを、前記電動モータの動作誤差を考慮した補正モータトルクに変換して使用してもよい。
【0013】
本発明のハンズオンオフ検出装置は、前記加算値は前記減算値よりも大きくてもよい。
【0014】
本発明の電動パワーステアリング装置は、上記のハンズオンオフ検出装置を搭載している。
【0015】
本発明の外部トルク推定方法は、ハンドルが連結されたインプットシャフトと、前記インプットシャフトと連結されたアウトプットシャフトとから操舵トルクを検出する操舵トルク検出工程と、前記アウトプットシャフトと連結された電動モータからロータ回転角を検出するロータ回転角検出工程と、前記電動モータからモータ電流値を検出するモータ電流値検出工程と、前記モータ電流値にトルク定数を乗じたモータトルクを算出するモータトルク算出工程と、前記モータトルクと前記電動モータに連結された減速機構の変形特性から補正モータトルクを算出する補正モータトルク算出工程と、前記操舵トルクと、前記ロータ回転角と、前記モータトルクと、前記補正モータトルクとから、前記インプットシャフトと前記アウトプットシャフトに作用するトルクのうち前記モータトルク以外のトルクである外乱トルクを推定する外部トルク推定工程と、を備える。
【0016】
本発明のハンズオンオフ検出装置制御プログラムは、ハンドルが連結されたインプットシャフトと、前記インプットシャフトと連結されたアウトプットシャフトとに取り付けられたトルクセンサと、前記アウトプットシャフトと連結され、ロータ回転角を検出する角度センサとモータ電流値を検出する電流センサと接続された電動モータと、前記トルクセンサと前記電動モータとに接続された制御部と、を備えるハンズオンオフ検出装置において、前記制御部に、前記トルクセンサから操舵トルクを取得させ、前記制御部に、前記電動モータから前記ロータ回転角と前記モータ電流値を取得させ、前記制御部に、前記モータ電流値にトルク定数を乗じたモータトルクを算出させ、前記制御部に、前記操舵トルクと、前記ロータ回転角と、前記モータトルクとから、前記インプットシャフトと前記アウトプットシャフトに作用するトルクのうち前記モータトルク以外のトルクである外乱トルクを推定させ、前記制御部に、前記外乱トルクと前記操舵トルクとにローパスフィルタ処理を実施させ、前記ローパスフィルタ処理後の前記外乱トルクと前記操舵トルクとの位相比較をさせ、前記外乱トルクと前記操舵トルクとが同位相であると判定した場合、前記外乱トルクが前記インプットシャフト側から入力されたトルクであると判定させ、前記外乱トルクと前記操舵トルクとが逆位相であると判定した場合、前記外乱トルクが前記アウトプットシャフト側から入力されたトルクであると判定させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のハンズオンオフ検出装置、同ハンズオンオフ検出装置を搭載した電動パワーステアリング装置、外部トルク推定方法およびハンズオンオフ検出装置制御プログラムによれば、路面反力トルク等に対してロバストなハンズオン/ハンズオフ検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成を示す模式図である。
【
図2】同電動パワーステアリング装置のステアリングシャフトの構成図である。
【
図3】同電動パワーステアリング装置のECUの構成を示すブロック図である。
【
図4】同EUCの制御部の構成を示すブロック図である。
【
図5】同ECUがドライバの操舵を補助する場合における機能ブロック図である。
【
図6】同ECUがハンズオン/ハンズオフ検出する場合における機能ブロック図である。
【
図7】モータ電流値から動作誤差を考慮した補正モータトルクを求めるグラフである。
【
図8】本発明の第一実施形態に係る電動パワーステアリング装置の状態変数線図である。
【
図10】操舵トルク、操舵トルク推定値と外乱トルク推定値の測定結果である。
【
図11】ハンズオフ状態において、アウトプットシャフト側から路面反力を模擬した外乱トルクを入力した場合の測定結果である。
【
図12】ハンズオフ状態における外乱トルク推定値と操舵トルク推定値の測定結果である。
【
図13】ハンズオン状態における外乱トルク推定値と操舵トルク推定値の測定結果である。
【
図14】ハンズオンオフカウンタの動作を示すグラフである。
【
図15】本発明の第二実施形態に係る電動パワーステアリング装置のECUがハンズオン/ハンズオフ検出する場合における機能ブロック図である。
【
図16】同電動パワーステアリング装置のバンドパスフィルタのボード線図である。
【
図17】同電動パワーステアリング装置のLDWバンドパスフィルタの効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態について、
図1から
図14を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るハンズオンオフ検出装置200を搭載する電動パワーステアリング装置100の構成を示す模式図である。電動パワーステアリング装置100は、コラム部(ステアリングシャフト)に電動モータと減速機構とが配置されるコラムアシスト式電動パワーステアリング装置である。
【0020】
電動パワーステアリング装置100は、
図1に示すように、車両を操向するための操舵部材であるハンドル1と、ハンドル1の回転に連動して操向車輪を転舵する転舵機構2と、ドライバの操舵を補助する操舵補助機構3と、を備えている。
【0021】
転舵機構2は、ハンドル1に連結されたステアリングシャフト(コラム軸、ハンドル軸)20と、ハンドル1の舵角θISを検出する舵角センサ20aと、ユニバーサルジョイント24と、中間軸25と、ピニオンラック機構26と、タイロッド27a,27bと、ハブユニット28a,28bと、を有している。
ステアリングシャフト20は、ユニバーサルジョイント24、中間軸25、ピニオンラック機構26、タイロッド27a,27bを経て、さらにハブユニット28a,28bを介して操向車輪に連結される。
ステアリングシャフト20には、トルクセンサ29が設けられている。トルクセンサ29は操舵トルク(ステアリングトルク)Tsの算出に用いられる。
【0022】
操舵補助機構3は、
図1に示すように、電動モータ30と、減速機構31と、車速を検出する車速センサ32と、ECU(コントロールユニット)33と、を有する。
【0023】
図2は、ステアリングシャフト20の構成図である。
ステアリングシャフト20は、ハンドル1に連結されたインプットシャフト21と、ユニバーサルジョイント24に連結されたアウトプットシャフト22と、インプットシャフト21とアウトプットシャフト22とを連結するトーションバー23と、を有している。インプットシャフト21とアウトプットシャフト22とは、トーションバー23を介して、同一軸線上において相対回転可能に連結されている。
なお、ステアリングシャフト20はトーションバー23を用いず、インプットシャフト21とアウトプットシャフト22とが連結(一体化)されているものであってもよい。
【0024】
トルクセンサ29は、
図2に示すように、インプットシャフト21とアウトプットシャフト22とに取り付けられている。トルクセンサ29は、例えば、アウトプットシャフト22に対するインプットシャフト21の位相回転変位量を電気的に検知(磁束密度の増減を検知)して、位相回転変位量から操舵トルクTsを算出する(操舵トルク検出工程)。トルクセンサ29は回転パルス数を検出するものであって、インプットシャフト21とアウトプットシャフト22とから検出した回転パルス数の差から操舵トルクTsを検出するものであってもよい。また、トルクセンサ29は、歪ゲージや光センサにより操舵トルクTsを検出するものであってもよい。トルクセンサ29は、検出した操舵トルクTsをEUC33に出力する。
なお、トルクセンサ29がインプットシャフト21の角度(ハンドル1の舵角)θ
ISを検出可能なものである場合は、舵角センサ20aは必ずしも必要ではない。
【0025】
トルクセンサ29は、インプットシャフト21とアウトプットシャフト22の回転角度を検出し、検出した回転角度をEUC33に出力し、EUC33が回転角度に基づき操舵トルクTsを算出してもよい。
【0026】
ピニオンラック機構26は、図示しないピニオンとラックとを有している。
ピニオンは、中間軸25に連結しており、中間軸25の回転に連動して回転する。
ラックは、自動車の左右方向(直進方向に直交する方向)に沿って直線状に延びている。ラックは、ラックの軸方向の中間部付近において、ピニオンと噛み合う。ピニオンおよびラックは、ピニオンの回転をラックの軸方向移動に変換する。ラックを軸方向に移動させることにより、操向車輪が転舵される。
【0027】
ドライバによってハンドル1が操舵(回転)されると、ハンドル1の回転が、ステアリングシャフト20および中間軸25を介して、ピニオンに伝達される。そして、ピニオンの回転は、ラックの軸方向移動に変換される。ピニオンラック機構26の両端部に連結されたタイロッド27a,27bおよびハブユニット28a,28bがラックの軸方向に移動し、ハブユニット28a,28bに連結された操向車輪が転舵される。
【0028】
電動モータ30は、ハンドル1の操舵力を補助する、例えば三相ブラシレスモータである。電動モータ30は、減速機構31を介してアウトプットシャフト22に連結されている。電動モータ30には、レゾルバやTMRセンサ等の回転角センサが接続されており、回転角センサによって電動モータ30のロータの回転角(ロータ回転角)θOSが検出される(ロータ回転角検出工程)。回転角センサは、検出したロータ回転角θOSをECU33に出力する。電動モータ30には電流センサが接続されており、電流センサによって電動モータ30に流れるモータ電流値Imが測定される。電流センサは、測定したモータ電流値ImをEUC33に出力する(モータ電流値検出工程)。
【0029】
減速機構31は、ウォームギヤ31aと、ウォームギヤ31aと噛み合うウォームホイール31bと、を有するウォームギヤ機構からなる。ウォームギヤ31aは、電動モータ30によって回転駆動される。また、ウォームホイール31bは、アウトプットシャフト22に一体回転可能に連結されている。ウォームホイール31bは、ウォームギヤ31aによって回転駆動される。
【0030】
車速センサ32は、車速Velを検出するセンサである。車速センサ32は、検出した車速VelをECU33に出力する。
【0031】
図3は、ECU33の構成を示すブロック図である。
ECU(コントロールユニット)33は、
図3に示すように、制御部34と、制御部34によって制御され、電動モータ30に電力を供給するモータ駆動回路35と、を有する。
【0032】
図4は、制御部34の構成を示すブロック図である。
制御部34は、
図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)36と、メモリ37と、記憶部38と、入出力制御部39と、を備えるプログラム実行可能な装置(コンピュータ)である。所定のプログラムを実行することにより、後述する電流指令値演算部41等の複数の機能ブロックとして機能する。なお、制御部34の少なくとも一部の機能を、専用の論理回路等によって構成してもよい。
【0033】
記憶部38は、上述したプログラムや必要なデータを記憶する不揮発性の記録媒体である。記憶部38は、例えばROMやハードディスク等で構成される。記憶部38に記録されたプログラムは、メモリ37に読み込まれ、CPU36によって実行される。
【0034】
入出力制御部39は、車速センサ32および電動モータ30の回転角センサ等からの入力データを受け取る。また、入出力制御部39は、CPU36が車速センサ32や電動モータ30を制御する際に、CPU36の指示に基づき、車速センサ32や電動モータ30に対する制御信号等を生成する。
【0035】
モータ駆動回路35は、電動モータ30をPWM駆動するインバータである。モータ駆動回路35は、例えば駆動素子としてFET(電界効果トランジスタ)が用いられ、FETのブリッジ回路で構成されている。
【0036】
ECU33は、トルクセンサ29で検出された操舵トルクTsと、車速センサ32で検出された車速Velと、に基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値Vrefによって、電動モータ30に供給する電流を制御する。
【0037】
図5は、ECU33がドライバの操舵を補助する場合におけるECU33の機能ブロック図である。
トルクセンサ29によって検出された操舵トルクTsと、車速センサ32によって検出された車速Velとは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部41に入力される。電流指令値演算部41は、入力された操舵トルクTsと車速Velに基づいてアシストマップ等を用いて、電動モータ30に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。
【0038】
電流指令値Iref1は加算部42Aを経て電流制限部43に入力され、最大電流を制限された電流指令値Irefmが減算部42Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差I(Irefm-Im)が演算される。偏差Iは操舵動作の特性改善のため、PI(比例積分)制御部45に入力される。
【0039】
PI制御部45でPI制御された電圧制御値Vrefが、変調信号(キャリア)CFと共にPWM制御部46に入力される。PWM制御部46はデューティを演算し、PWM信号によりモータ駆動回路35を介して電動モータ30をPWM駆動する。
【0040】
モータ電流値はモータ電流検出手段で検出され、減算部42Bに入力されてフィードバックされる。3相ブラシレスモータの場合、PWM制御部46は、電圧制御値を所定の式に従って3相分のPWMデューティ値Dを演算するデューティ演算部と、PWMデューティ値Dで駆動素子としてのFETのゲートを駆動すると共に、デッドタイムの補償をしてON/OFFするゲート駆動部とで構成されている。モータ駆動回路35は、例えばU相の上段FET及び下段FETで成る上下アームとで成る3相ブリッジで構成されており、各FETがPWMデューティ値DでON/OFFされることによって電動モータ30を駆動される。
【0041】
加算部42Aには補償信号生成部44からの補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によって操舵システム系の特性補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようになっている。補償信号生成部44は、セルフアライニングトルク(SAT)443と慣性442を加算部444で加算し、その加算結果に収れん性441を加算部445で加算し、加算部445の加算結果を補償信号CMとしている。
【0042】
ドライバがハンドル1を操舵すると、インプットシャフト21が回転し、トーションバー23がねじれることで、インプットシャフト21とアウトプットシャフト22とに位相回転変位が生じる。トルクセンサ29は、アウトプットシャフト22に対するインプットシャフト21の位相回転変位量(θIS-θOS)から操舵トルクTsを検出する。ECU23は、操舵トルクTsと車速センサ32が検出した車速Velとに基づいて、操舵トルクTsが小さくなるように電動モータ30の駆動を制御する。これにより、ECU33によって制御された電動モータ30によってウォームギヤ31aが回転駆動される。これにより、ウォームホイール31bが回転駆動され、アウトプットシャフト22にモータトルクが付与されるとともにアウトプットシャフト22が回転する。そして、アウトプットシャフト22の回転は、中間軸25を介してピニオンラック機構26に伝達される。さらに、ピニオンラック機構26のピニオンの回転は、ラックの軸方向移動に変換され、操向車輪が転舵される。このように、電動モータ30は、ウォームギヤ31aを回転駆動することによって、ドライバの操舵を補助することができる。
【0043】
次に、電動パワーステアリング装置100によるハンズオン/ハンズオフ検出について詳しく説明する。ハンズオン/ハンズオフ検出は、トルクセンサ29、電動モータ30、ECU23とによって構成されたハンズオンオフ検出装置200によって実施される。
【0044】
図6は、ECU33がハンズオン/ハンズオフ検出する場合におけるECU33の機能ブロック図である。ECU33がハンズオン/ハンズオフ検出を実施する際の機能ブロックは、モータトルク算出部50と、ステアリング状態オブザーバ51と、ローパスフィルタ52と、ローパスフィルタ53と、位相比較部54と、第一閾値比較部55と、判定部56とで構成される。
【0045】
モータトルク算出部50、ステアリング状態オブザーバ51、ローパスフィルタ52、ローパスフィルタ53、位相比較部54、第一閾値比較部55、判定部56は、ECU33の制御部34が所定のプログラムを実行することにより実現される機能ブロックである。
【0046】
<モータトルク算出部>
電動モータ30の電流センサによって検出されたモータ電流値Imが取得され、モータトルク算出部50に入力される。モータトルク算出部50は、モータ電流値Imに電動モータ30のトルク定数を乗じて算出したモータトルクTmを、ステアリング状態オブザーバ51に出力する。
【0047】
<ステアリング状態オブザーバ>
トルクセンサ29によって検出された操舵トルクTsと、電動モータ30の回転角センサによって検出されたロータ回転角θOSと、モータトルクTmとが取得され、ステアリング状態オブザーバ51に入力される。ステアリング状態オブザーバ(オブザーバ)51は、操舵トルクTs、ロータ回転角θOS、及びモータトルクTmに基づいて、アウトプットシャフト22に作用するトルクのうちモータトルクTm以外のトルクである外乱トルクTdisを推定する(外部トルク推定工程)。
【0048】
電動パワーステアリング装置100のステアリング機構に基づき、インプットシャフト21の角度であるインプットシャフト角度θISと、インプットシャフト角速度・θIS(点付きのθIS)とを要素に持つベクトルを状態変数ベクトルxとし、ロータ回転角θOS、ドライバトルクTd、モータトルクTmとを要素に持つベクトルを入力変数ベクトルuとした状態方程式は式1のように表すことができる。ここで、Ktはトーションバー23のバネ定数であり、Jsはステアリング系のハンドル慣性である。
【0049】
【0050】
操舵トルクTsは、アウトプットシャフト22に対するインプットシャフト21の位相回転変位量(θIS-θOS)にバネ定数Ktを乗じたトルクに、電動モータ30のモータトルクTmを加えたものであり、操舵トルクTsの推定値である操舵トルク推定値^Tsは、状態変数ベクトルxと入力変数ベクトルuとを用いて式2のように表現することができる。
【0051】
【0052】
ここで、式2におけるF(Tm)は、モータトルクTmによって変化するウォームギヤ変形等の動作誤差を考慮した補正モータトルクを求める関数である。
図7に示すグラフは、F(Tm)の一例である。
図7の横軸はモータ電流値Im(モータトルクTmをトルク定数で割った値)であり、縦軸が対応する補正モータトルクである。
図7に示すF(Tm)の例においては、モータ電流値がゼロ付近において発生するバックラッシュを考慮した補正モータトルクを出力することができる。
【0053】
図8は、式1および式2に基づく状態変数線図である。また
図9は、操舵トルクTsを用いて、状態変数ベクトルx(インプットシャフト角度θ
ISと、インプットシャフト角速度・θ
IS)を推定するオブザーバの状態変数線図である。Lはオブザーバゲインである。
図9に示すオブザーバの状態方程式は式3のように表現される。
【0054】
【0055】
次に、
図9および式3に示すオブザーバのオブザーバゲインLを求める。オブザーバの入力変数ベクトルuの一つであるドライバトルクTdは未知の数値であるため、ドライバトルクTdをゼロとして、オブザーバゲインLを求める。式4は、ドライバトルクTdをゼロとした、オブザーバの状態方程式である。また、式5は、ドライバトルクTdをゼロとした操舵トルク推定値^Tsを算出する式(式2)である。
【0056】
【0057】
【0058】
ドライバがステアリングを把持していない状態(ハンズオフ状態)において、電動モータ30を任意に動作させて、状態変数ベクトルx(インプットシャフト角度θISと、インプットシャフト角速度・θIS)を推定できるようにオブザーバゲインLを調整する。
実際のインプットシャフト角度θISとオブザーバによって推定されるインプットシャフト角度θISとの推定誤差をゼロにできるようオブザーバゲインLを調整する。
【0059】
オブザーバゲインLの調整後、オブザーバによって推定される状態変数ベクトルxから、式5により操舵トルク推定値^Tsを得ることができる。
【0060】
オブザーバゲインLの調整後、電動モータ30からのモータトルク以外のトルクがインプットシャフト21とアウトプットシャフト22に作用しない状態において、操舵トルク推定値^Tsは、操舵トルクTsとほぼ一致する。ここで、操舵トルク推定値^Tsは操舵トルクTsと完全に一致する必要はなく、例えばオフセット誤差等の誤差を有していてもよい。
【0061】
ここで、車体に取り付けられたインプットシャフト21とアウトプットシャフト22には、ベアリングなどとの摩擦や車体から伝達される振動などの外乱が作用する。このような外乱を考慮して、上記オフセット誤差を設定することが望ましい。
【0062】
次に、電動モータ30によるモータトルク以外のトルク(外乱トルクTdis)がインプットシャフト21とアウトプットシャフト22に作用する状態を検討する。外乱トルクTdisがインプットシャフト21やアウトプットシャフト22に作用する場合、トルクセンサ29が検出した操舵トルクTsと、ステアリング状態オブザーバ51が推定した操舵トルク推定値^Tsとには、外乱トルクTdisに起因する差が生じる。そこで、式5に示すように、操舵トルクTsと、操舵トルク推定値^Tsとの差分(Ts-^Ts)に所定の係数を乗じたものを、外乱トルク推定値^Tdis(ハット付きのTdis)とする。
【0063】
【0064】
式6において、Mは外乱トルクゲインである。外乱トルクゲインMは、式7を満たす範囲において、外乱トルク推定値^Tdisのノイズ成分を強調しすぎない範囲で可能な限り大きい値に設定される。ここで、外乱トルクゲインMが式6を満たす場合、外乱トルクゲインMの方が、オブザーバゲインLよりも応答が遅くなる。
【0065】
【0066】
また、外乱トルク推定値^Tdisは、式6に示すように、入力変数ベクトルuの一つであるドライバトルク推定値^Tdとして、ステアリング状態オブザーバ51にフィードバックされる。ドライバトルク推定値^TdをドライバトルクTdとしてステアリング状態オブザーバ51にフィードバックすることで、ステアリング状態オブザーバ51の動作がドライバトルクTdを考慮したものとなるように補正される。
【0067】
<ローパスフィルタ>
ステアリング状態オブザーバ51が推定した外乱トルク推定値^Tdisは、ローパスフィルタ52に入力される。ローパスフィルタ52は外乱トルク推定値^Tdisから所定のカットオフ周波数より高い周波数成分を減衰させる。本実施形態において、カットオフ周波数は、15Hz程度に設定されている。ローパスフィルタ52により、外乱トルク推定値^Tdisに含まれる高周波のノイズ成分を減衰させ、ハンズオン/ハンズオフ検出の精度を高めることができる。
【0068】
ステアリング状態オブザーバ51に入力されるトルクセンサ29が検出した操舵トルクTsは、別途ローパスフィルタ53に入力される。ローパスフィルタ53の構成は、ローパスフィルタ52と同じである。ローパスフィルタ53は、操舵トルクTsから所定のカットオフ周波数より高い周波数成分を減衰させる。本実施形態において、カットオフ周波数は、15Hz程度に設定されている。ローパスフィルタ52のカットオフ周波数とローパスフィルタ53のカットオフ周波数を同じに設定することで、両ローパスフィルタから出力される信号の比較を実施しやすい。
【0069】
<位相比較部>
ローパスフィルタ52を通過した外乱トルク推定値^Tdisと、ローパスフィルタ53を通過した操舵トルクTsは、位相比較部54に入力される。
外乱トルクが、ハンドル側(インプットシャフト側)からの入力、すなわちドライバトルクである場合、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsとは同位相となる。最も簡単な位相比較は、式8のように、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsの符号で判別する方法である。2つの信号の相互相関や位相関係を演算して、同位相であるかをより正確に求めてもよい。
操舵トルクTsは位相回転変位量(θIS-θOS)から算出しているため、インプットシャフト側に作用した外乱は操舵トルクTsと比較して同位相となる。
【0070】
【0071】
一方、外乱トルクが、ピニオン側(アウトプットシャフト側)からの入力、すなわち路面反力トルクである場合、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsとは逆位相となる。最も簡単な位相比較は、式9のように、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsの符号で判別する方法である。2つの信号の相互相関や位相関係を演算して、逆位相であるかをより正確に求めてもよい。
操舵トルクTsは位相回転変位量(θIS-θOS)から算出しているため、アウトプットシャフト側に作用した外乱は操舵トルクTsと比較して逆位相となる。
【0072】
【0073】
図10は、電動パワーステアリング装置100における操舵トルクTs、操舵トルク推定値^Tsと外乱トルク推定値^Tdisの測定結果である。
図10中のActual Angleとはハンドル1の実際の回転角度[deg]を示している。
図10に示すように、ドライバがハンドルを操舵している時(ハンズオン状態)、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsとは同位相となっているが、ドライバがハンドルから手を放した状態(ハンズオフ状態)において、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsとは逆位相となる。
【0074】
図11は、ドライバがハンドルから手を放した状態(ハンズオフ状態)において、ピニオン側(アウトプットシャフト側)から路面反力を模擬した路面反力トルクを入力した場合の測定結果である。外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルク推定値^Tsの位相関係は逆位相となっている。このように、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsの位相関係を確認することにより、外乱トルクが、ドライバのステアリング操舵により発生したインプットシャフト側からの入力されたドライバトルクであるのか、それとも路面反力等が要因により発生したアウトプットシャフト側から入力された路面反力トルクであるのか、を判定できる。これにより、路面反力トルクが発生した場合であってもロバストなハンズオン/ハンズオフ検出が可能となる。
【0075】
位相比較部54は、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsとが同位相であるか、逆位相であるかを示す結果フラグを出力する。
【0076】
<第一閾値比較部>
ローパスフィルタ52を通過した外乱トルク推定値^Tdisと、ローパスフィルタ53を通過した操舵トルクTsは、第一閾値比較部55にも入力される。
第一閾値比較部55は、式10や式11の示すように、外乱トルク推定値^Tdisの絶対値と操舵トルクTsの絶対値がトルク閾値(たとえば0.1[Nm])より大きいかを判別する。
【0077】
【0078】
【0079】
図12は、ドライバがハンドルに触れない状態(ハンズオフ状態)で、電動モータ30を+90degから-90deg/secまで繰り返し自動操舵させた場合における外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルク推定値^Tsを示している。Target Angleは目標角度であり、Actual Angleは舵角センサ20aが検出したハンドル1の舵角θ
ISである。自動操舵では舵角θ
ISが目標角度に追従するように電動モータ30が制御される。
図12に示すように、外乱トルク推定値^Tdisの絶対値と操舵トルクTsの絶対値は、両者とも小さい。
【0080】
図13は、ドライバがハンドルに触れた状態(ハンズオン状態)で、電動モータ30を-90degから+90deg/secまで繰り返し自動操舵させた場合における外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルク推定値^Tsを示している。外乱トルク推定値^Tdisの絶対値と操舵トルクTsの絶対値は、両者とも大きい。すなわち、ハンズオフ状態よりハンズオン状態の方が、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルク推定値^Tsの絶対値が大きくなる。このトルクの差を利用して、ハンズオン/ハンズオフ検出を補助し、ハンズオン/ハンズオフ検出の信頼性を向上させることができる。
【0081】
第一閾値比較部55は、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルク推定値^Tsがトルク閾値を超えているか、超えていないかを示す結果フラグを出力する。
【0082】
なお、外乱トルク推定値^Tdisのみをトルク閾値と比較するか、外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルク推定値^Tsの両方をトルク閾値と比較するかは任意である。
【0083】
<判定部>
判定部56は、ハンズオン/ハンズオフ検出における最終的な判定を行う。トルクセンサ29やモータ角度センサのノイズ等の影響を緩和して検出の信頼性を向上させるため、カウンタ(「ハンズオンオフカウンタ」と称す)を用いた判定を行う。判定部56には、位相比較部54による位相比較の結果フラグと、第一閾値比較部55による閾値比較の結果フラグと、が入力される。
【0084】
ハンズオン/ハンズオフ検出に用いるハンズオンオフカウンタは、ゼロから所定の最大値までの範囲で動作するカウンタである。ハンズオンオフカウンタは、カウンタ値がゼロの場合にデクリメントされても、カウンタ値はクリップされゼロのままである。また、ハンズオンオフカウンタは、カウンタ値が所定の最大値の場合にインクリメントされても、カウンタ値はクリップされ所定の最大値のままである。
【0085】
ハンズオンオフカウンタは、所定の最大値に近づくほど「ハンズオン状態」の可能性が高いことを示す。一方、ハンズオンオフカウンタは、ゼロに近づくほど「ハンズオフ状態」の可能性が高いことを示す。
【0086】
図14はハンズオンオフカウンタの動作を示すグラフである。
ハンズオンオフカウンタは、(i)外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsとが同位相であり、かつ、(ii)外乱トルク推定値^Tdisの絶対値がトルク閾値を超えている場合に、所定のインクリメント量だけインクリメント(加算)される。この処理は所定の周期ごとに行われる。結果フラグを所定の周期で確認した際、上記の(i)かつ(ii)の条件を満たしていない場合、ハンズオンオフカウンタは所定のデクリメント量だけデクリメント(減算)される。
すなわち、ハンズオンオフカウンタに対するインクリメントとデクリメントのいずれか一方の処理が所定の周期で行われる。
【0087】
ハンズオンオフカウンタのカウンタ値は、ゼロから所定の最大値までの範囲で設定されたハンズオン判定閾値およびハンズオフ判定閾値と大小比較が実施される。
(a)カウンタ値がハンズオン判定閾値以上となった場合、「ハンズオフ状態」から「ハンズオン状態」への遷移を検出したと判定される。
(b)カウンタ値がハンズオフ判定閾値未満となった場合、「ハンズオン状態」から「ハンズオフ状態」への遷移を検出したと判定される。
【0088】
本実施形態において、ハンズオン判定閾値は、所定の最大値に設定されている。また、ハンズオフ判定閾値は「1」に設定されている。
図14に示すように、ハンズオンオフカウンタのカウンタ値のインクリメントが開始され、カウンタ値が、ハンズオン判定閾値以上となった場合、「ハンズオン状態」と判定される。
また、ハンズオンオフカウンタのカウンタ値のデクリメントが開始され、カウンタ値が、ハンズオフ判定閾値未満となった場合、「ハンズオフ状態」と判定される。
所定の条件を満たす期間が続かないとハンズオン/ハンズオフ検出を行わないため、ノイズに強いロバストなハンズオン/ハンズオフ検出が可能となる。
【0089】
なお、本実施形態ではハンズオン判定閾値とハンズオフ判定閾値とは異なる閾値であるが、同じ閾値でもあってもよい。
【0090】
なお、ハンズオンオフカウンタのインクリメント量とデクリメント量とは同じでなくてもよい。例えば、
図14に示すように、インクリメント量をデクリメント量より多くすることで、ハンズオフ状態からハンズオン状態への遷移の検出を短時間で迅速に行うことができる。また、ハンズオン状態からハンズオフ状態へ遷移の検出に時間をかけて行うこととなり、ロバストで信頼性の高いハンズオフ検出が可能となる。このような検出特性は、ハンズオン状態で自動運転が有効化され、ハンズオフ状態で自動運転が無効化される自動運転システムにおけるハンズオン/ハンズオフ検出に最適である。誤検出による誤動作等によるリクスを低減するため、ロバストで信頼性の高い「ハンズオフ検出」を行った後に自動運転を無効化することが望ましいからである。
【0091】
一方、ドライバの駐車支援を行うパーキングアシストシステムにおいては、逆にハンズオン状態でパーキングアシスト機能が無効化され、ハンズオフ状態でパーキングアシスト機能が有効化される。すなわちパーキングアシストシステムにおいては、ロバストで信頼性の高い「ハンズオン検出」を行った後にパーキングアシスト機能を無効化させる必要がある。そこで、パーキングアシストシステムにおいては、インクリメント量をデクリメント量より少なくし、ハンズオフ状態からハンズオン状態へ遷移の検出に時間をかける行うことで、ロバストで信頼性の高いハンズオン検出が可能となる。
【0092】
判定部56は、ハンズオン状態を検出すると、ハンズオンフラグ(HOD Flag)を出力する。
【0093】
本実施形態のハンズオンオフ検出装置200およびハンズオンオフ検出装置200を搭載した電動パワーステアリング装置100によれば、ステアリング状態オブザーバ51によって操舵トルク推定値^Tsが推定される。さらに、操舵トルクTsと、操舵トルク推定値^Tsとの差分に所定の係数を乗じたものを、外乱トルク推定値^Tdis(ハット付きのTdis)とする。外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsとが同位相であるか、逆位相であるかを比較することで、外乱トルクが、ドライバのステアリング操舵により発生したインプットシャフト側からの入力されたドライバトルクであるのか、それとも路面反力等が要因により発生したアウトプットシャフト側から入力された路面反力トルクであるのか、を判定できる。これにより、路面反力トルクが発生した場合であってもロバストなハンズオン/ハンズオフ検出が可能となる。
【0094】
また、本実施形態のハンズオンオフ検出装置200およびハンズオンオフ検出装置200を搭載した電動パワーステアリング装置100によれば、推定された操舵トルク推定値^Tsやトルクセンサ29が検出した操舵トルクTsに対してローパスフィルタ処理が行われる。これにより、ノイズ成分が取り除かれ、ハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを高精度に判定できるようになる。
【0095】
また、本実施形態のハンズオンオフ検出装置200およびハンズオンオフ検出装置200を搭載した電動パワーステアリング装置100によれば、ステアリング状態オブザーバ51は、電動モータ30のモータトルクTmを入力として用いている。さらに、ステアリング状態オブザーバ51は、モータトルクTmによって変化するウォームギヤ変形等の誤差を考慮した補正モータトルクに変換した上で使用している。ウォームギヤの誤差を補正し、より高精度に操舵トルク推定値^Tsを推定することができる。
【0096】
また、本実施形態のハンズオンオフ検出装置200およびハンズオンオフ検出装置200を搭載した電動パワーステアリング装置100によれば、ドライバが、両手でハンドルを把持した場合あっても、片手でハンドルを把持した場合あっても、ハンズオン状態を検出できる。
【0097】
以上、本発明の第一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の第一実施形態および変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0098】
(変形例1)
例えば、上記実施形態に係る電動パワーステアリング装置100はコラムアシスト式電動パワーステアリング装置であったが、電動パワーステアリング装置の態様はこれに限定されない。電動パワーステアリング装置は下流式であってもよく、ステアバイワイヤ式であってもよい。いずれの方式でおいても、路面反力トルク等に対してロバストなハンズオン/ハンズオフ検出を行うことができる。
【0099】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態について、
図15から
図17を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0100】
LDW(Lane deputure Warning)は車両が車線レーンから逸脱しないようにハンドル1を振動させる機能である。LDWによる振動の振動周波数はおよそ10~20[Hz]であり、LDW機能が有効化されると、ステアリング機構の静止摩擦が減少するため、ドライバの操舵トルク推定値^Tsを推定することが難しくなる。その結果、ハンズオン/ハンズオフ検出が難しくなる。
【0101】
第二実施形態に係るハンズオンオフ検出装置200Bを搭載する電動パワーステアリング装置100Bは、LDW(Lane deputure Warning)が有効化され動作している際にも、ハンズオン/ハンズオフ検出を高精度に実施できる。
【0102】
図15は、第二実施形態に係るハンズオンオフ検出装置200BのECU33がハンズオン/ハンズオフ検出する場合におけるECU33の機能ブロック図である。第二実施形態に係るハンズオンオフ検出装置200Bは、ハンズオン/ハンズオフ検出する場合におけるECU33の機能ブロック図のみが、第一実施形態に係るハンズオンオフ検出装置200と異なっている。
【0103】
図15に示すように、ECU33がハンズオン/ハンズオフ検出を実施する際の機能ブロックは、ステアリング状態オブザーバ(オブザーバ)51と、ローパスフィルタ52と、ローパスフィルタ53と、位相比較部54と、第一閾値比較部55と、判定部56Bとに加えて、LDWバンドパスフィルタ57と、第二閾値比較部58とで構成される。判定部56Bは、第一実施形態の判定部56と判定方法の一部が異なる。
【0104】
LDWバンドパスフィルタ57は、LDWの周波数に合わせたバンドパスフィルタで、ローパスフィルタ52が出力する外乱トルク推定値^Tdis(ハット付きのTdis)をフィルタリングする。バンドパスフィルタ処理後の外乱トルク推定値Thは、第二閾値比較部58に出力される。
【0105】
LDWバンドパスフィルタ57は、LDW機能が有効化されていることを示す動作フラグであるLDW Active Flag(FLDW)を受け取る。LDW Active Flagが有意となり、LDW機能が有効化されているときのみ、LDWバンドパスフィルタ57は有効化される。
【0106】
図16は中心周波数を20Hzとしたバンドパスフィルタのボード線図である。低周波の影響を小さくするために、バンドパスフィルタのゲイン差を40bB以上に設定している。
【0107】
図17は、LDWバンドパスフィルタ処理の有無を比較するグラフである。
図17左側に示す、LDWバンドパスフィルタ処理無しの場合では、ドライバがハンドルを1degから100degまで操舵しているが、100deg近くまで操舵しないとハンズオン検出ができないことが分かる。一方、
図17右側に示す、LDWバンドパスフィルタ処理有りの場合は、ハンズオン状態とハンズオフ状態とで、外乱トルク推定値に差があるので、ハンズオン/ハンズオフ検出が容易となる。
【0108】
第二閾値比較部58は、第一実施形態の第一閾値比較部55と同様、LDWバンドパスフィルタ処理を行った外乱トルク推定値Thの絶対値がトルク閾値(たとえば0.1[Nm])より大きいかを判別している。
【0109】
判定部56Bは、LDW Active Flag(FLDW)を受け取る。LDW Active Flagが有意でなく、LDW機能が無効化されている場合、判定部56Bの動作は、第一実施形態の判定部56の動作と同じである。
【0110】
一方、LDW Active Flag(FLDW)が有意であり、LDW機能が有効化されている場合、判定部56Bは以下のように、ハンズオン/ハンズオフ検出を行う。
ハンズオンオフカウンタは、(i)ローパスフィルタ52経由で入力される外乱トルク推定値^Tdisと操舵トルクTsとが同位相であり、かつ、(ii)LDWバンドパスフィルタ57経由で入力される外乱トルク推定値Thがトルク閾値を超えている場合に、所定のインクリメント量だけインクリメント(加算)される。この処理は所定の周期ごとに行われる。結果フラグを所定の周期で確認した際、上記の(i)かつ(ii)の条件を満たしていない場合、ハンズオンオフカウンタは所定のデクリメント量だけデクリメント(減算)される。
【0111】
ハンズオンオフカウンタのカウンタ値は、ゼロから所定の最大値までの範囲で設定されたハンズオン判定閾値およびハンズオフ判定閾値と大小比較が実施される。
(a)カウンタ値がハンズオン判定閾値以上となった場合、「ハンズオフ状態」から「ハンズオン状態」への遷移を検出したと判定される。
(b)カウンタ値がハンズオフ判定閾値未満となった場合、「ハンズオン状態」から「ハンズオフ状態」への遷移を検出したと判定される。
【0112】
本実施形態のハンズオンオフ検出装置200Bおよびハンズオンオフ検出装置200Bを搭載した電動パワーステアリング装置100Bによれば、LDW機能が有効化されている際も、ハンズオン状態であるかハンズオフ状態であるかを高精度に判定できる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、電動パワーステアリング装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0114】
100,100B 電動パワーステアリング装置
200,200B ハンズオンオフ検出装置
1 ハンドル
2 転舵機構
20 ステアリングシャフト
21 インプットシャフト
22 アウトプットシャフト
23 トーションバー
24 ユニバーサルジョイント
25 中間軸
26 ピニオンラック機構
27a タイロッド
27b タイロッド
28a ハブユニット
28b ハブユニット
29 トルクセンサ
3 操舵補助機構
30 電動モータ
31 減速機構
31a ウォームギヤ
31b ウォームホイール
32 車速センサ
34 制御部
35 モータ駆動回路
36 CPU
37 メモリ
38 記憶部
39 入出力制御部
41 電流指令値演算部
42A 加算部
42B 減算部
43 電流制限部
44 補償信号生成部
45 PI(比例積分)制御部
46 PWM制御部
51 ステアリング状態オブザーバ(オブザーバ)
52 ローパスフィルタ
53 ローパスフィルタ
54 位相比較部
55 第一閾値比較部
56,56B 判定部
57 バンドパスフィルタ
58 第二閾値比較部