(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】表面改質剤
(51)【国際特許分類】
C09B 67/20 20060101AFI20220817BHJP
C08F 2/38 20060101ALI20220817BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20220817BHJP
C08F 8/48 20060101ALI20220817BHJP
C08F 20/02 20060101ALI20220817BHJP
C09K 23/00 20220101ALI20220817BHJP
【FI】
C09B67/20 L
C08F2/38
C08F8/46
C08F8/48
C08F20/02
C09K23/00
(21)【出願番号】P 2018102134
(22)【出願日】2018-05-29
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大庭 一敏
(72)【発明者】
【氏名】松田 雪恵
(72)【発明者】
【氏名】水野 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】三上 譲司
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-204231(JP,A)
【文献】特開2012-021070(JP,A)
【文献】特開2018-028059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 67/20
C08F 2/38
C08F 8/46
C08F 8/48
C08F 20/02
C09K 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物の存在下、エチレン性不飽和単量体を重合して片末端領域に2つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A1)を得る、次いで前記(メタ)アクリル系重合体(A1)が有する2つのカルボキシル基を酸無水物基に変性する、片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2-1)である表面改質剤の製造方法。
【請求項2】
前記分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物が、下記一般式(1)で表される化合物(D)である、請求項1記載の表面改質剤
の製造方法。
一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、R
1はメチレン基またはエチレン基である。)
【請求項3】
分子内に1つ以上の水酸基と1つ以上のチオール基とを有する化合物の存在下、エチレン性不飽和単量体を重合して片末端領域に1つ以上の水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A1’)を得る、次いで前記(メタ)アクリル系重合体(A1’)が有する1つ以上の水酸基と、無水トリカルボン酸クロリド(E)中の酸クロライド基、またはテトラカルボン酸無水物(F)の分子内中の1つの酸無水物基を反応させる、片末端領域に1つ以上の酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2-2)である表面改質剤の製造方法。
【請求項4】
前記分子内に1つ以上の水酸基と1つ以上のチオール基とを有する化合物が、下記一般式(2)で表される化合物(G)であり、
前記無水トリカルボン酸クロリド(E)が、下記化学式(3)で表される化合物(H1)である、請求項3記載の表面改質剤
の製造方法。
一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、R
2は、ヘテロ原子を有していてもよい二~四価の炭化水素基であり、n
1は1~3の整数である。)
化学式(3)
【化3】
【請求項5】
下記一般式(5)で表される(メタ)アクリル系重合体(A2-3)である表面改質剤。
一般式(5)
【化5】
(一般式(5)中、(A)は(メタ)アクリル系重合体残基であり、
R
5は直接結合又は、アルキレン基、アリーレン基、及びアルキレンオキサイド基からなる群より選ばれる二価の基であり、
L
1は直接結合又は-O-C(=O)-であり、
X
1は下記一般式(6)、または一般式(7)で示される四価の基であり、
Y
1は水素原子である。)
一般式(6)
【化6】
(一般式(6)中、R
6はメチン基またはエチン基である。)
一般式(7)
【化7】
(一般式(7)中、k
2は1又は2である。)
【請求項6】
コーティング用であることを特徴とする請求項1~
4いずれか1項に記載の表面改質剤
の製造方法。
【請求項7】
顔料分散用であることを特徴とする請求項1~
4いずれか1項に記載の表面改質剤
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片末端領域に酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体を用いた、表面改質剤、当該共重合体を含有する、顔料分散体や各種基材表面の高機能化(親水性、防汚性、低摩擦性、刺激応答性、生体適合性などの付与)に関する。
【背景技術】
【0002】
各種材料の分散安定性や基材表面へ親水性や撥水性といった機能を付与するために、高分子材料を溶剤に溶解して塗料化し基材表面に塗布する方法が、一般的な表面処理法として幅広く利用されている。また、カラーフィルタ用途などの顔料分散剤では、本来の色味とは異なる顔料誘導体を用いることで、顔料成分と分散剤を相互作用させ、高い分散性を付与している。しかし、高分子と基材(顔料等)が直接結合していないため、高分子が剥離しやすく安定性に欠けることや、色味に悪影響な顔料誘導体を使用することによる明度低下などの課題がある。
一方、顔料や無機フィラー等の固体表面や基材表面から高分子がブラシのように伸長したポリマーブラシは、高分子と基材が直接結合するため、耐久性や安定性に優れていると考えられる。具体的には、遷移金属触媒や有機テルル触媒、ヨウ素化合物を用いたリビングラジカル重合などによる研究開発が進められている(特許文献1)。また、顔料分散剤に関しても、顔料誘導体を使用せずに、色素化合物のハロゲン置換によってリビングラジカル重合を用いた色素ポリマーの研究開発も近年盛んに進められている(特許文献2)。
しかしながら、このような遷移金属触媒や有機テルル系触媒、ヨウ素化合物触媒を用いるリビングラジカル重合系の場合には、反応後に大量の触媒を製品から完全に除去することが容易でないことや工業的に触媒を除去することが難しい欠点がある(特許文献3)。
また、不要となった触媒を廃棄する際に環境上の問題が発生し得るという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3422463号
【文献】特許第5344259号
【文献】特開2011-202169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、リビングラジカル重合以外の汎用的なラジカル重合法で簡便且つ、安価で容易に工業生産可能な手法で、ポリマーの末端に酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体を直接基材表面の官能基と化学結合させることで、様々な基材表面の表面改質剤(コーティング剤、顔料分散剤)として各種基材表面の高機能化(親水性、防汚性、低摩擦性、刺激応答性、生体適合性、ガスバリア性などの付与)を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の諸問題を解決するために鋭意研究を重ねた結果として、本発明を完成させた。すなわち、本発明によれば、以下に説明する片末端領域に酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体を表面改質剤として直接基材表面の官能基と化学結合させることで上記課題が解決される。
【0006】
すなわち、本発明は、分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物の存在下にエチレン性不飽和単量体を重合してなる、片末端領域に2つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A1)が有する2つのカルボキシル基を、酸無水物基に変性してなる、片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2-1)である表面改質剤に関する。
【0007】
本発明は、前記分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物が、下記一般式(1)で表される化合物(D)である、前記表面改質剤に関する。
一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、R
1はメチレン基またはエチレン基である。)
【0008】
本発明は、分子内に1つ以上の水酸基と1つ以上のチオール基とを有する化合物の存在下にエチレン性不飽和単量体を重合してなる、片末端領域に1つ以上の水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A1’)が有する1つ以上の水酸基と、
無水トリカルボン酸クロリド(E)中の酸クロライド基、または
テトラカルボン酸無水物(F)の分子内中の1つの酸無水物基を反応させてなる、片末端領域に1つ以上の酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2-2)である表面改質剤に関する。
【0009】
本発明は、前記分子内に1つ以上の水酸基と1つ以上のチオール基とを有する化合物が、下記一般式(2)で表される化合物(G)であり、
前記無水トリカルボン酸クロリド(E)が、下記化学式(3)で表される化合物(H1)であり、
前記テトラカルボン酸無水物(F)が下記一般式(4)で表される化合物(H2)である、前記表面改質剤に関する。
一般式(2)
【化2】
(一般式(2)中、R
2は、ヘテロ原子を有していてもよい二~四価の炭化水素基であり、n
1は1~3の整数である。)
化学式(3)
【化3】
一般式(4)
【化4】
(一般式(4)中、k
1は1又は2である。)
【0010】
本発明は、下記一般式(5)で表される(メタ)アクリル系重合体(A2-3)である表面改質剤に関する。
一般式(5)
【化5】
(一般式(5)中、(A)は(メタ)アクリル系重合体残基であり、
R
5は直接結合又は、アルキレン基、アリーレン基、及びアルキレンオキサイド基からなる群より選ばれる二価の基であり、
L
1は直接結合又は-O-C(=O)-であり、
X
1は下記一般式(6)、一般式(7)、又は一般式(8)で示される四価の基であり、
Y
1は水素原子又は-COOHである。)
一般式(6)
【化6】
(一般式(6)中、R
6はメチン基またはエチン基である。)
一般式(7)
【化7】
(一般式(7)中、k
2は1又は2である。)
一般式(8)
【化8】
(一般式(8)中、Q
1は、直接結合又は炭素数が1~20である二価の基である。)
【0011】
本発明は、コーティング用であることを特徴とする前記表面改質剤に関する。
【0012】
本発明は、顔料分散用であることを特徴とする前記表面改質剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、リビングラジカル重合以外の汎用的なラジカル重合法で簡便且つ、安価で容易に工業生産可能な手法で、ポリマーの末端官能基に酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体を合成し、改質させたい基材表面の官能基と直接化学結合させることで、様々な基材表面の表面改質剤(コーティング剤、顔料分散剤)として各種基材表面の高機能化(親水性、防汚性、低摩擦性、刺激応答性、生体適合性、ガスバリア性などの付与)が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、片末端領域に酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)を用いた表面改質剤である。本明細書において、(A2)は(A2-1)、(A2-2)、および(A2-3)の総称である。
【0015】
本発明の表面改質剤とは、前述する片末端領域に酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)の酸無水物基が、改質させる材料(基材)の表面の官能基と化学結合することで表面を改質(親水性、防汚性、低摩擦性、刺激応答性、生体適合性などの付与)できるものを意味し、基材は化学結合できる材料であれば特に限定されない。
【0016】
片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)の製造方法は、下記の工程(1-1)または(1-2)を含む。これらの工程は、チオール基の連鎖移動反応を利用して(メタ)アクリル系重合体(A1)又は(A1’)を生成する工程を含む。
(1-1):分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物の存在下に、エチレン性不飽和単量体を重合し、片末端領域に2つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A1)を得た後、前記2つのカルボキシル基を酸無水物基に変性し、片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)を得る。
【0017】
(1-2):分子内に1つ以上の水酸基と1つ以上のチオール基とを有する化合物の存在下にエチレン性不飽和単量体を重合し、片末端領域に1つ以上の水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A1’)を得た後、前記1つ以上の水酸基と、無水トリカルボン酸クロリド(E)中の酸クロライド基またはテトラカルボン酸無水物(F)の分子内中の1つの酸無水物基を反応させ、片末端領域に1つ以上の酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)を得る。
【0018】
(メタ)アクリル系重合体(A1)もしくは(A1’)は、一種類のエチレン性不飽和単量体から構成されていてもよいし、複数種類のエチレン性不飽和単量体から構成されていてもよい。
【0019】
本発明の共重合体(A2)を得るための上記の工程について、その合成方法の具体例を下記に示して説明する。但し、これらの具体例に限定されるものではない。
【0020】
下記具体例(I)は、前記工程(1-1)を得る具体例である。
[具体例(I)]
<工程(1-1):片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)の合成>
分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物である一般式(1)で表される化合物(D)の存在下に、エチレン性不飽和単量体を重合し、片末端領域に2つのカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系重合体(A1)を得る(下記スキーム(1))。
【0021】
一般式(1)(化合物(D))
【化9】
(一般式(1)中、R
1はメチレン基またはエチレン基である。)
【0022】
スキーム(1)
【化10】
(スキーム(1)中、(A)は任意のエチレン性不飽和単量体を重合した(メタ)アクリル系重合部であり、(メタ)アクリル系重合体(A1)残基である。R
1は、前記一般式(1)と同様である。)
【0023】
前記重合体(A1)中の2つのカルボキシル基を酸無水物基に変性し、片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)を得る(下記スキーム(2))。
【0024】
スキーム(2)
【化11】
(スキーム(2)中の各符号は、スキーム(1)と同様である。)
【0025】
分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物は、連鎖移動剤として機能するものであれば特に限定されない。好ましくは一般式(1)で示される化合物(D)が挙げられる。一般式(1)で示される化合物(D)としては、例えば、2-メルカプトコハク酸、2-メルカプトグルタル酸などが挙げられる。好ましくは2-メルカプトコハク酸である。
【0026】
また、分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物の他の例としては、2,2-メチレンビス(チオグリコール酸)、2,3-ジメルカプトコハク酸、4,5-ジメルカプトフタル酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
分子内に2つのカルボキシル基と1つ以上のチオール基とを有する化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
以下に、スキーム(1)、(2)の好ましい具体例であるスキーム(1-1)、(2-1)を示す。但し、これらに限定されるものではない。
【0028】
スキーム(1-1)
【化12】
スキーム(2-1)
【化13】
(スキーム(1-1)(2-1)中の各符号は、スキーム(1)と同様である。)
【0029】
末端カルボキシル基を前記スキーム(2)のように環化させる方法としては、例えば、無水酢酸や2,6-ビス[(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニル)メチル]フェニルボロン酸などの分子内縮合触媒を使用し、分子内脱水縮合して酸無水物を得てもよい。また、触媒を使用せず、高温加熱条件で分子内脱水縮合させる方法であってもよい。
その中でも、生産上やコストなどの観点から、無水酢酸を触媒に使用する系がより好ましい。また、これらの方法に限定されるものではない。
【0030】
[具体例(II)]
<工程(1-2):片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)>
分子内に1つ以上の水酸基と1つ以上のチオール基とを有する化合物である下記一般式(2)で表される化合物(G)の存在下に、エチレン性不飽和単量体を重合してなる、片末端領域に1つ以上の水酸基を有する(メタ)アクリル系重合体(A1’)を得る(下記スキーム(6))。
【0031】
一般式(2)(化合物(G))
【化14】
(一般式(2)中、R
2は、ヘテロ原子を有していてもよい二~四価の炭化水素基であり、n
1は1~3の整数である。)
【0032】
R2における二~四価の炭化水素基は、前記一般式(6)におけるR4と同様のものとすることができる。
【0033】
スキーム(6)
【化15】
(スキーム(6)中、(A)は任意のエチレン性不飽和単量体を重合した(メタ)アクリル系重合部であり、(メタ)アクリル系重合体(A1’)残基である。R
2は、前記一般式(2)と同様である。)
【0034】
以下に、スキーム(6)の好ましい具体例であるスキーム(6-1)を示す。但し、これらに限定されるものではない。
【0035】
スキーム(6-1)
【化16】
(スキーム(6-1)中の(A)は、スキーム(6)と同様である。)
【0036】
前記重合体(A1’)中の1つ以上の水酸基と、無水トリカルボン酸クロリド(E)中の酸クロライド基またはテトラカルボン酸無水物(F)の分子内中の1つの酸無水物基を反応させてなる、片末端領域に1つ以上の酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)を得る(下記スキーム(7)又はスキーム(8))。
【0037】
スキーム(7)
【化17】
(スキーム(7)中、Pは1~3の整数であり、その他の各符号は、前記スキーム(6)と同様である。)
【0038】
以下に、スキーム(7)の好ましい具体例であるスキーム(7-1)を示す。但し、これらに限定されるものではない。
【0039】
スキーム(7-1)
【化18】
(スキーム(7-1)中の各符号は、前記スキーム(7)と同様である。)
【0040】
スキーム(8)
【化19】
(スキーム(8)中の各符号は、前記スキーム(7)と同様である。)
【0041】
以下に、スキーム(8)の好ましい具体例であるスキーム(8-1)を示す。但し、これらに限定されるものではない。
【0042】
スキーム(8-1)
【化20】
(スキーム(8-1)中の各符号は、前記スキーム(8)と同様である。)
【0043】
無水トリカルボン酸クロリド(E)、テトラカルボン酸無水物(F)は重合体(A1’)中の1つ以上の水酸基と等モル数で反応させることが好ましく、より具体的には、無水トリカルボン酸クロリド(E)を使用する場合は、一つの酸クロリド基のみと、テトラカルボン酸無水物(F)を使用する場合は、2つの酸無水物基中の1つの酸無水物基のみを反応させることが好ましい。
【0044】
分子内に1つ以上の水酸基と1つ以上のチオール基とを有する化合物は、連鎖移動剤として機能するものであれば特に限定されない。好ましくは一般式(2)で示される化合物(G)である。
【0045】
一般式(2)で示される化合物(G)としては、例えば、2-メルカプトエタノール、2-メルカプトヘキサノール、6-メルカプト-1-ヘキサノール、3-メルカプト-1-プロパノール、7-メルカプト-1-ヘプタノール、チオグリセロール、1,3-ジメルカプト-2-プロパノール、ジメルカプトペンタエリスリトール、トリメルカプトペンタエリスリトール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
化合物(G)の他の例としては、2-(2-メルカプトエトキシ)エタノール、2-[2-(2-メルカプトエトキシ)エチルチオ]エタノール、8-メルカプト-3,6-ジオキサオクタン-1-オール、11-メルカプト-3,6,9-トリオキサウンデカン-1-オール、17-メルカプト-3,6,9,12,15-ペンタオキサヘプタデカン-1-オール、2-(メルカプトメチル)-3-メルカプト-1-プロパノール、ジメルカプロール、2,2-ジメチル-3-メルカプト-1-プロパノール、2,2-ビス(メルカプトメチル)-1-プロパノール、8-メルカプト-1-オクタノール、10-メルカプト-1-デカノール、11-メルカプト-1-ウンデカノール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。分子内に1つ以上の水酸基と1つ以上のチオール基とを有する化合物は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
無水トリカルボン酸クロリド(E)の例としては、無水トリメリット酸クロリド、4-(クロロカルボニル)シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、N,N’-1,4-フェニレンビス[オクタヒドロ-1,3-ジオキソ-5-イソベンゾフランカルボキサミド]、5-[4-(クロロカルボニル)ベンゾイル]イソベンゾフラン-1,3-ジオン、3,4-ジフェニル-5-(クロロホルミル)フタル酸無水物、1,3-ジオキソ-6-(クロロホルミル)イソベンゾフラン-5-カルボン酸ベンジル、1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-4-カルボン酸クロリド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。無水トリカルボン酸クロリド(E)は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
テトラカルボン酸無水物(F)の例としては、ピロメリット酸無水物、1H,3H-ナフト[2,3-c:6,7-c‘]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、2,3,6,7-ビフェニレンテトラカルボン酸2,3:6,7-二無水物、3,4,8,9-ピレンテトラカルボン酸3,4:8,9-二無水物、5,5’-ビ[イソベンゾフラン]-1,1‘,3,3’-テトラオン、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸2,3:6,7-二無水物、4-メチル-1H,3H-ベンゾ[1,2-c:4,5-c‘]ジフラン-1,3,5,7-テトラオン、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸1,8:4,5-二無水物、5,5’-(1,4-フェニレン)ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、5,5‘-(2,6-ナフタレンジイル)ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、5,5’-(2,7-ナフタレンジイル)ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、5,5‘-(ビフェニル-4,4’-ジイル)ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、5,5‘-(1,1’:4‘,1’‘-テルベンゼン-4,4’‘-ジイル)ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、ベンゾ[1,2-c:3,4-c‘]ジフラン-1,3,6,8-テトラオン、5,5’-メチレンビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、5,5‘-(5-フェニル-1,3-フェニレン)ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)、4-フェニル-1H,3H-ベンゾ[1,2-c:4,5-c’]ジフラン-1,3,5,7-テトラオン、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸1,2:5,6-二無水物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。テトラカルボン酸無水物(F)は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
前記具体例(I)(II)により得られる、片末端に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)の好ましい構造は、下記一般式(5)で示すことができる。
一般式(5)
【化21】
(一般式(5)中、(A)は(メタ)アクリル系重合体残基であり、
R
5は直接結合又は、アルキレン基、アリーレン基、及びアルキレンオキサイド基からなる群より選ばれる二価の基であり、
L
1は直接結合又は-O-C(=O)-であり、
X
1は下記一般式(6)、一般式(7)、又は一般式(8)で示される四価の基であり、
Y
1は水素原子又は-COOHである。)
【0050】
一般式(6)
【化22】
(一般式(6)中、R
6はメチン基またはエチン基である。)
【0051】
一般式(7)
【化23】
(一般式(7)中、k
2は1又は2である。)
【0052】
一般式(8)
【化24】
(一般式(8)中、Q
1は、直接結合又は炭素数が1~20である二価の基である。)
好ましくは、X
1が一般式(7)で示される四価の基であり、k
2が1である。
【0053】
<エチレン性不飽和単量体>
エチレン性不飽和単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート類;
テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート等の複素環式(メタ)アクリレート類;
メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレ―ト類;
(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン等のN置換型(メタ)アクリルアミド類;
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレ-ト、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有(メタ)アクリレート類;
及び、(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類があげられる。
なお、本実施形態において、(メタ)アクリレートとはメタクリレート及びアクリレートの各々を示し、(メタ)アクリルアミドとはメタクリルアミド及びアクリルアミドの各々を示す。
【0054】
又、上記アクリル単量体と併用できる単量体として、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン類、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類があげられる。
【0055】
<重合方法・条件>
(メタ)アクリル系重合体(A1)または(A1’)を重合する方法は特に限定されず、従来公知の方法で重合することができる。また、任意に重合開始剤を併用することもできる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0056】
(メタ)アクリル系重合体(A1)または(A1’)の重量平均分子量は、1000~500000が好ましく、より好ましくは2000~50000、更に好ましくは2000~12000、特に好ましくは3000~8000である。
【0057】
<表面改質剤>
本発明の(メタ)アクリル系重合体(A2)は酸無水物基の反応性を利用して、様々な材料に対する表面改質剤として利用することができる。
【0058】
本発明の表面改質剤は、包装材料やパッケージ等の基材表面の官能基と反応させ、複合化させることで、バリア性や耐摩耗性などの新たな機能性を付与できるコーティング剤としても使用することができる。基材としては、プラスチックフィルム(ポリオレフィン系、ポリイミド、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系、ポリウレタン系、ポリカーボネート、塩化ビニル、酢酸ビニル他)、無機物(ガラス、シリコン、金属他)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの基材表面に表面改質剤を反応させることで、コーティング基材を得ることができる。
【0059】
具体的には、高分子鎖の表面グラフト化手法として、「Grafting-to法」を利用した表面改質剤もしくはコーティング剤としての利用が可能である。例えば、水酸基等を有するガラス等の表面に本発明の(メタ)アクリル系重合体(A2)をプライマーとして塗工することで、容易に表面改質剤として利用できる。
【0060】
本発明の表面改質剤は、顔料や染料の水酸基やアミノ基等の反応性官能基と複合化させることで、顔料分散剤としても使用することができる。基材としては、有機・無機顔料、有機染料、微粒子(有機/無機)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの顔料表面に表面改質剤を反応させることで、顔料分散体を得ることができる。
【0061】
例えば、アゾ顔料であればPigment Red57.1やPigment Red48、49などの顔料の構造中に水酸基を有しており、本発明の(メタ)アクリル系重合体(A2)の酸無水物基と化学反応させることで、表面改質剤(顔料分散剤)としての利用が可能である。また、印刷インキ用途だけなく、カラーフィルタ用レジストに用いられる有機顔料においても同様のことが可能である。本発明の片末端領域に酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)を用いた顔料分散剤を使用する利点としては、樹脂処理による分散工程の簡略化や、顔料誘導体等を使用しなくてもよい観点から、高明度化等においても有用性が高いと考えられる。その他、セルロースナノファーバーやコロイダルシリカをはじめとしたケイ素化合物等においても水酸基を有しており、適用が可能である。但し、これら材料に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
また、樹脂の重量平均分子量(Mw)、アミン価、酸無水物価の測定方法は以下の通りである。
【0063】
<酸無水物価測定>
酸無水物価は、以下のようにして求められる。具体的には、酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)をa(g)秤量した後にキシレン中に溶解させ、酸無水物基の当量以上のオクチルアミンをb(mmol)添加することで酸無水物基と1級アミノ基を反応させた。その後、室温まで冷却し、残存するオクチルアミン量を、0.1Mエタノール性過塩素酸を用いて滴定することにより定量した。滴定量をc(ml)とすると、以下の式から(メタ)アクリル系重合体(A2)の酸無水物価Xが求められる。
X=(b-0.1×c)/a
【0064】
以下の表面改質剤溶液に使用する原料の略称は、次の通りである。
AIBN:2,2-アゾビスイソブチロニトリル
MMA:メチルメタクリレート
nBMA:ノルマルブチルメタクリレート
MAA:メタクリル酸
【0065】
<表面改質剤用重合体(A2)の製造>
(実施例1;表面改質剤溶液(T-1))
(工程(1-1))
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、トルエン330部、および共重合成分としてMMA150部、nBMA150部、MAA20部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器を80℃に加熱して、メルカプタン系連鎖移動剤として2-メルカプトコハク酸14.4部、AIBN3.2部を添加し、12時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認した。
得られた溶液を50℃まで冷却した後、無水酢酸9.8部を反応容器に仕込み、100℃で9時間反応させた。酸無水物価の測定で、95%以上の連鎖移動剤の末端ジカルボン酸が酸無水物化するまで反応させた。固形分が50重量%の片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)である表面改質剤溶液(T-1)を得た。
【0066】
(実施例2;表面改質剤溶液(T-2))
(工程(1-2))
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、トルエン330部、および共重合成分としてMMA150部、nBMA150部、MAA20部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器を80℃に加熱して、メルカプタン系連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール14.4部、AIBN3.2部を添加して、12時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認した。
得られた溶液を50℃まで冷却させた後、無水トリメリット酸クロリド38.8部を反応容器に仕込み、75℃で4時間反応させた。FT-IRの測定で、原料の無水トリメリット酸クロリドの酸クロリド部位の吸収ピークが消失するまで反応させた。固形分が50重量%の表面改質剤溶液(T-2)を得た。
【0067】
(実施例3;表面改質剤溶液(T-3))
(工程(1-2))
無水トリメリット酸クロリドをピロメリット酸無水物40.2部に変えた以外は、実施例2と同様にして片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)である表面改質剤溶液(T-3)を得た。なお、本明細書で実施例3は、参考例である。
【0068】
(比較例1;表面改質剤溶液(T-4))
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、トルエン330部、および共重合成分としてMMA150部、nBMA150部、MAA20部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器を80℃に加熱して、メルカプタン系連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール14.4部、AIBN3.2部を添加して、12時間反応した。固形分測定により95%が反応したことを確認した。固形分が50重量%の表面改質剤溶液(T-4)を得た。
【0069】
<顔料分散体の調整>
(顔料分散体(U-1))
顔料としてC.I.ピグメントレッド57:1を15部、表面改質剤溶液(T-1)12.5部(固形分40重量%)、溶剤としてトルエン72.5部を用いて、ビーズミルにより処理して、顔料分散体(U-1)を調整した。
【0070】
(顔料分散体(U-2~3)、比較用の顔料分散体(U-4))
表面改質剤の種類を表11に示すように変更した以外は顔料分散体(U-1)と同様にして、顔料分散体(U-2~3)、比較用の顔料分散体(U-4)を調整した。
【0071】
<顔料分散体の評価>
得られた顔料分散体の粘度を、E型粘度計(東京計器製)を用いて測定した。また、得られた顔料分散体を遮光ガラス容器に充填し、密閉状態で23℃にて14日間静置した後、E型粘度計を用いて再度粘度を測定した。そして、調整直後の粘度に対する14日間保存後の粘度の増加率を算出し、増加率が5%未満の場合をA、5%以上10%未満の場合をB、10%以上の場合をCとして評価した。
【0072】
初期粘度、保存安定性の評価結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
表1中、PR57:1とはC.I.ピグメントレッド57:1を意味する。
【0075】
表1に示すように、本発明の片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)を表面改質剤に使用した実施例1~3の顔料分散体(U-1~3)は全て良好な初期粘度と保存安定性を示した。それに対して、比較例1の顔料分散体(U-4)は悪い評価結果であった。
【0076】
本発明の片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)を表面改質剤に使用した実施例1~3の顔料分散体(U-1~3)は、顔料表面中の官能基(水酸基)と片末端領域に無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)が化学結合で反応することで、顔料表面を樹脂で改質したためと考えられる。
【0077】
本発明の片末端領域に酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合体(A2)の活用例としては、各種用途に使用可能である。例えば、すでに上述するようなカラーフィルタ等の顔料分散剤、各種印刷インキ用顔料分散剤、インクジェット用顔料分散剤、顔料表面処理染料造塩樹脂、レジスト、量子ドット、自己組織化単分子膜、粘接着剤、潤滑剤、塗料、インク、包装材、薬剤、農薬剤、パーソナルケア(整髪料・化粧品)、半導体、ディスプレイなどの生産に使用可能である。また、末端官能基を用いた複合ブロック共重合体、樹脂処理による表面改質剤、コーティング剤等の提供も可能である。非常に簡便かつ安価の手法で、各種基材表面の高機能化(親水性、防曇性、防汚性、低摩擦性、刺激応答性、生体適合性などの付与)に期待できる。