(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】二層構造を有する焼き芋およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/10 20160101AFI20220817BHJP
【FI】
A23L19/10
(21)【出願番号】P 2018125137
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390020189
【氏名又は名称】ユーハ味覚糖株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】塚本 慎平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 潔
(72)【発明者】
【氏名】滝島 康之
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰正
(72)【発明者】
【氏名】山田 一郎
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-275558(JP,A)
【文献】特開2001-095523(JP,A)
【文献】登録実用新案第3186601(JP,U)
【文献】特開2005-304419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00-19/20
A23B 7/00-9/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料である生のさつまいもが乾燥され、次いで焼成及び殺菌された焼き芋であって、
前記生のさつまいもが、厚み10~30mmの切断片であり、
外表面を含む表層領域である外層部と、前記外層部以外の内部領域であり、かつ前記外層部よりも水分値が高い内層部と、からなり、前記外層部の前記外表面から所定の厚さまでの厚さ領域の水分値と前記内層部の水分値との差が5~28重量%、および全体の水分値が30~60重量%であることを特徴とする、二層構造の焼き芋。
【請求項2】
直径2mmの円柱形プランジャーを、20℃の温度下にて貫入距離200%、貫入速度 2mm/secで、前記焼き芋の前記外表面から内部に貫入させて測定した硬さが、前記外層部が100~2000g、前記内層部が20~200gである、請求項
1に記載の二層構造の焼き芋。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の二層構造の焼き芋の製造方法であって、
生さつまいもを1~70℃の温度下で流体乾燥または減圧乾燥し、表面が乾燥したさつまいも乾燥体を得る乾燥工程と、
前記さつまいも乾燥体を焼成し、さつまいも焼成体を得る焼成工程と、
前記さつまいも焼成体を殺菌する殺菌工程と、
を備えることを特徴とする、二重構造の焼き芋の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程の前に、生さつまいもを所定の形状に切断し、さつまいも切断体を得る切断工程をさらに備える、請求項
3に記載の二重構造の焼き芋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手に持ってもべたつかず、手を汚さずに喫食出来る二層構造の焼き芋およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品においては、「素材・健康」を訴求したラインナップの商品が増加している。多種多様なドライフルーツや栗製品、芋製品など、素材そのものを活かした商品が開発され市場が拡大している。その中でも特にさつまいも(甘藷)は食物繊維やビタミンCを豊富に含み、栄養価値が高いことから、健康感のある素材として消費者の関心が高まっている。さつまいもの素材を活かした商品として、干し芋やさつまいものスナック菓子、焼き芋などがあるが、その中でも一番人気があるのは焼き芋である。
【0003】
しかしながら、一般家庭で焼き芋をつくることは現在では殆ど行われていない。その要因としては、適した加熱調理器具が少ないことや、電子レンジで調理すると、調理作業に比較的長時間を要して煩雑であることなどが挙げられる。そのため、消費者はスーパーのような小売店や専門店で店頭販売されている焼き芋を購入し喫食することが多い。店頭販売されている焼き芋は利便性に優れるものの、通常、賞味期限が短いことが多いため、購入するタイミングが限定される。
【0004】
一方で、賞味期間を長くしたものに冷凍商品やレトルト食品加工したものがある。冷凍食品は喫食する際に解凍し常温に戻す必要があり、喫食したいときに手軽に喫食することができないことや、持ち歩きには不向きであること、さらに、保存には冷凍設備を必要とすることなど、手軽さに欠ける。また、レトルト食品は喫食したいときに喫食できることや常温保存ができるため持ち歩きも可能で、手軽さはある。しかしながら、高温高圧で殺菌処理を施すため、焼き芋から離水が発生し易く、表面がべたつく課題がある。この状況を鑑み、常温で保存ができ、表面がべたつかず、手軽に喫食できる焼き芋の研究が盛んに行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、皮付き原料いもを蒸す、茹でる、フライする、焼成するなどの方法で加熱し(段落[0020])、加熱後の皮付き原料いもを、皮で覆われた部分(皮部)と切断面からなる部分(切断面部)の表面積比が1:1~2になるように切断し、得られた切断片を1~45℃で流体乾燥し、得られた乾燥片を耐熱性容器に収容して熱水レトルト殺菌した皮付き調理いもが記載されている。
【0006】
特許文献2には、皮付き原料いもを水洗および殺菌する工程と、100~130℃での1次焼成および200~230℃での2次焼成を施す工程と、得られた焼成芋をその外形を若干上回り余端部が生じる程度の熱可塑性包材に入れて該余端部をシールする工程と、焼成芋を該包材に収納したまま蒸気殺菌した後、急速冷却により該包材内の水分を結露させ、遠心分離により該包材の余端部に結露を集中させる工程と、余端部の基部を加熱シールし、余端部を切り離す工程とを含む、常温で長期保存できる焼芋の製造方法が記載されている。この方法は、工程数が多く、専用の包材や遠心分離機を必要とすることから、比較的多くのコストが掛かり、食品の加工には適していない。
【0007】
特許文献3には、焼き芋を除湿乾燥して得られた、圧縮力5~15Nを負荷した状態での表面硬さと内部硬さとがほぼ等しく、糖度がほぼ60%以上である芋菓子が記載されている。特許文献3の芋菓子は、干し芋に近いものであり、焼き芋ではない。
【0008】
特許文献4には、焼成した皮つき焼き芋をバリアー性耐熱包材に入れ、不活性ガス置換密封し、100~105℃に昇温後、123~130℃に急昇温させる2段階加圧加熱殺菌処理する、常温で長期保存可能な焼き芋の製造方法が記載されている。この方法で得られた焼き芋の表面は製造直後は乾燥しているものの、水分が経時的に表面に浸みだし、表面にべたつきを生じる傾向がある
【0009】
特許文献5には、切断面を有する原料さつまいもに減圧処理を行い、さつまいもに由来しない糖類を切断面から内部に含浸させた後、オーブンなどで加熱処理を施した、焼き芋様の加工さつまいもが記載されている。焼き芋様の加工さつまいもは、その内部にさつまいもに由来しない糖類を比較的多く含むことから、その食感は焼き芋の実際の食感とは異なる傾向にある。
【0010】
特許文献6~11には、マッシュ状またはパウダー状のさつまいもを主原料として含有する生地を所定の形状に成形した後、焼成または凍結した、焼き芋様加工食品やさつまいも加工食品が記載されている。しかしながら、これらの加工食品は、さつまいもの組織を破壊したマッシュ状またはパウダー状のさつまいもを用いることから、焼き芋本来の食感を有するものではない。
【0011】
特許文献12、13には、さつまいもを焼成し焼き芋を製造する装置が記載されている。これらの焼き芋の製造装置は、一般家庭に容易に設置できるものでもなく、低コストで焼き芋を製造できるものでもなく、また、表面のべたつきを抑制した焼き芋を得るための装置でもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第4175448号公報
【文献】特公平7-2076号公報
【文献】特許第5622888号公報
【文献】特開平8-214769号公報
【文献】特開2005-168394号公報
【文献】特開2001-346539号公報
【文献】特許第3275086号公報
【文献】特開2004-16174号公報
【文献】特開2002-360209号公報
【文献】特開2002-360210号公報
【文献】特公平2-43466号公報
【文献】特許第5693777公報
【文献】特開2016-171940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1には、皮付き調理いもの、厚さ5mmの表皮部分(外層部)の水分値がそれぞれ43、43、41、46または35重量%であり、径5mmの中心部分(内層部)の水分値がそれぞれ47、47、46、47または46重量%であることが記載されている(実施例1~5)。また、表皮部分と中心部分との水分値差(以下単に「水分値差」とも言う)の好ましい範囲として、2~5重量%という範囲が記載されるものの(段落[0027])、実施例5のように水分値差が11重量%であるものも記載されている。しかしながら、特許文献1には、皮付き調理いもの全体の水分値についての記載はない。
【0014】
本発明者らの研究によれば、水分値の異なる表皮部分と中心部分とから構成される皮付き調理いもは、製造当初は表面のべたつきが抑制されるものの、製造後長時間を経過すると、表面のべたつきを十分に抑制できない傾向にあることが判明した。これは、皮付き調理いもの全体の水分値が所定範囲になるように調整されていないことが、一因になっているものと推測される。
【0015】
本発明の目的は、生のさつまいもを原料とし、常温で保存ができ、表面がべたつかず、手軽に喫食でき、焼き芋本来の風味や食感を有する焼き芋を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、生のさつまいもを焼成して得られた焼き芋において、水分値の異なる外層部と内層部とを設け、外層部の外表面から所定の厚さまでの厚さ領域の水分値と内層部の水分値との差を5~28重量%、かつ全体の水分値を30~60重量%に調整することにより、常温で保存ができ、長期間保存しても表面がべたつかず、手軽に喫食できる二層構造の焼き芋が得られること、および生のさつまいもを所定の条件で乾燥した後に焼成することにより、前述の各水分値を有する二重構造の焼き芋を容易に製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明は、下記(1)~(3)の二層構造の焼き芋、および下記(4)~(5)の二層構造の焼き芋の製造方法を提供する。
【0018】
(1)原料である生のさつまいもが乾燥され、次いで焼成及び殺菌された焼き芋であって、前記生のさつまいもが、厚み10~30mmの切断片であり、外表面を含む表層領域である外層部と、外層部以外の内部領域であり、かつ外層部よりも水分値が高い内層部と、からなり、外層部の外表面から所定の厚さまでの厚さ領域の水分値と内層部の水分値との差が5~28重量%、および全体の水分値が30~60重量%であることを特徴とする、二層構造の焼き芋。
(2)直径2mmの円柱形プランジャーを、20℃の温度下にて貫入距離200%、貫入速度 2mm/secで、前記焼き芋の前記外表面から内部に貫入させて測定した硬さが、前記外層部が100~2000g、前記内層部が20~200gである、上記(1)の二層構造の焼き芋。
(3)上記(1)又は(2)の二層構造の焼き芋の製造方法であって、生さつまいもを1~70℃の温度下で流体乾燥または減圧乾燥し、表面が乾燥したさつまいも乾燥体を得る乾燥工程と、さつまいも乾燥体を焼成し、さつまいも焼成体を得る焼成工程と、さつまいも焼成体を殺菌する殺菌工程と、を備えることを特徴とする、二重構造の焼き芋の製造方法。
(4)乾燥工程の前に、生さつまいもを所定の形状に切断し、さつまいも切断体を得る切断工程をさらに備える、上記(3)の二重構造の焼き芋の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の二層構造の焼き芋は、常温で保存ができ、長期間保存しても表面がべたつかず、手軽に喫食でき、焼き芋本来の風味や食感を有する。また、本発明の二重構造の焼き芋は、食物繊維やビタミンCが豊富に含まれるため、ヘルシー・健康志向の高い消費者へ訴求することができ、焼き芋の新たな市場の開拓が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の二重構造を有する焼き芋の一実施形態を模式的に示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の二層構造を有する焼き芋(以下単に「本発明の焼き芋」とも言う)は、生のさつまいもを原料とし、水分値の異なる外層部と内層部とからなり、外層部と内層部との水分値差が5~28重量%であり、全体の水分値が30~60重量%である。本明細書において、水分値(重量%)は減圧乾燥法により測定した値である。
【0022】
ここで、外層部の水分値は、外層部の外表面から所定厚さまで、好ましくは外表面から1~5mmまで、より好ましくは外表面から2.5~3.5mmまでの厚さ領域の水分値である。水分値を測定する外層部の外表面からの厚さが変化する理由としては、原料とするさつまいもの品種や産地、乾燥工程や焼成工程での加熱条件などにより外層部の厚さが変化する場合があることなどが挙げられる。外層部と内層部とは、色、硬度などが異なり、断面を目視観察することにより明確に区別することができる。内層部は例えば透き通った黄色領域と乳白色領域とが混じった一般的な焼き芋内部の色を有し、外層部は例えば内層部の乳白色領域よりもやや白みがかった色であり、これらの境界は明瞭である。また、焼き芋の組織が壊れないように気を付けて少し力を加えることにより、外層部と内層部とは容易に分離できる。表皮の少なくとも一部が外層部からの離れている場合は、該表皮を外層部に軽く押し付けた状態での、表皮の外表面から所定厚みまでの領域の水分値を測定し、外層部の水分値とする。なお、外層部の外表面に表皮がある場合、およびない場合のいずれにおいても、外層部の水分値は後述する所定の範囲になる。
【0023】
本発明の焼き芋は、前述のように、外層部と、外層部よりも水分値の高い内層部と、からなる。外層部は、本発明の焼き芋の外表面を含む表層領域であり、内層部は外層部を除いた内部領域全体である。本発明の焼き芋は、外表面の全体が表皮(さつまいもの焼成後の皮、以下同じ)で覆われた形態、外表面の一部が表皮で覆われた形態および外表面全体で表皮が除かれた形態を包含する。外表面に表皮(さつまいもの焼成後の皮)が存在する場合は、表皮の外表面を含む表層領域が外層部になる。例えば、
図1は、輪切りの生さつまいもを用いて製造された、二重構造を有する焼き芋1を模式的に示す斜視図である。焼き芋1は、ここでは半切りにして断面を示しているが、全体としては、ほぼ円柱板状の内層部11の表面全体がほぼ同じ厚みの外層部10により覆われた構造になっている。
【0024】
本発明では、焼き芋の表面のべたつきを抑制するために、外層部と内層部の水分値及び全体の水分値を調整している。べたつきを抑制する正確な作用機序は現状では十分明らかになっていないが、次のように推察される。
【0025】
本発明では、後述するように生のさつまいもの乾燥および焼成をこの順序で実施し、さらに乾燥条件および焼成条件の調整を行い、外層部の水分値を内層部よりも減少させることで、外層部中の澱粉はα化やβ-アミラーゼによる酵素分解反応が起こらず、生澱粉の状態で固化し、皮膜を形成する。また、水分値を維持している内層部では、β-アミラーゼによる酵素分解反応が起こり、通常の焼き芋と同様に糖化が起きていると考えられる。以上により、内層部の組織と外層部の組織とに差異を生じ、二層構造の焼き芋ができると考えられる。それにより、外層部に澱粉の皮膜が形成されているため、内層から水分が表面に染み出てくることを抑制する。更に、焼成温度や焼成時間をコントロールし、全体の水分値を30~55重量%の範囲内に収めることで表面のべたつきが抑制されるものと推察される。
【0026】
外層部の水分値、すなわち外層部の外表面から所定厚さまでの厚さ領域の水分値は、通常20~50重量%、好ましくは25~50重量%、より好ましくは28~48重量%である。内層部の水分値は、通常40~60重量%、好ましくは42~59重量%、より好ましくは45~58重量%)である。外層部と内層部との水分値差は、通常5~28重量%、好ましくは5~25重量%、より好ましくは8~25重量%、さらに好ましくは10~25重量%である。水分値差が、5重量%未満の場合は、内層から焼き芋由来の水分が経時的に染み出し、表面をべたつかせる傾向がある。水分値差が25重量%より大きい場合は、外層部に表皮が存在する場合に、該表皮が硬くなりすぎ、食感や風味が損なわれる傾向がある。。
【0027】
全体の水分値とは、本発明の焼き芋の水分値である。全体の水分値は、通常30~60重量%、好ましくは33~58重量%、より好ましくは35~58重量%である。全体の水分値が30重量%未満の場合、焼き芋の食感が硬くなって、しっとりとした舌ざわりが無くなり、焼き芋本来の食感や風味から離れる傾向がある。全体の水分値が55重量%より多い場合は、外層部と内層部との水分値差が上記所定の範囲内でも、表面にべたつきが発生する傾向がある。
【0028】
本発明において、水分値の異なる外層と内層を有し、外層と内層の水分値差異が5~25重量%であり、全体の水分値30~55重量%であれば、焼き芋の厚みに制限はないが、好ましくは10~30mmが食べやすい大きさであり、風味も良い。
【0029】
本発明において、外層部、および内層部の水分値を測定する際には、本発明の焼き芋から外層部全体を取り除き、そのまま水分値の測定に供してもよい。また、残りの内層部も、そのまま測定に供することができる。外層部および内層部は、水分値の違いに起因する硬さの違いなどから、比較的容易に分離できる。また、本発明の焼き芋から、外層部および内層部を含む所定寸法の試料(断片)を複数個採取し、これらの試料を外層部と内層部とに分離し、それぞれ水分値を測定し、測定値の平均値として外層部および内層部の各水分値を求めてもよい。本発明の焼き芋は、外層部および内層部がいずれもほぼ均一な水分値を有しているので、外層部および内層部のそれぞれ一部の水分値を、外層部および内層部全体の水分値として代用しても、ほぼ正確である。
【0030】
本発明の焼き芋では、外層部の硬さの値は内層部の硬さの値よりも大きくなっている。外層部および内層部の硬さは、例えば、テクスチャー・アナライザー(商品名:Texture Analyzer TA.XT.plus、Stable Micro Systems社製)を用いて測定することができる。すなわち、直径2mmの円柱形プランジャ―を焼き芋の外表面に当接させ、20℃の温度下にて貫入距離200% 、測定速度2mm/sで焼き芋に貫入させ、該円柱形プランジャ―が焼き芋の外表面から貫入したときの最大値(g)を外層部の硬さとし、該円柱形プランジャ―が外層部を貫通した後、引き続いて内層部に貫入したときの最大値(g)を内層部の硬さとする。こうして測定される内層部の硬さは100~2000gであり、内層部の硬さは20~200gである。外層部および内層部の硬さがそれぞれ前記範囲内であることにより、焼き芋特有の外が硬くて中がほくほくして適度に柔らかい食感を十分に保持することができる。
【0031】
円柱形プランジャ―が外層部および内層部に順に貫入する際に、測定値が徐々に大きくなって所定の最大値(外層部の硬さ)に達した後、一旦低下して徐々に大きくなり再度所定の最大値(内層部の硬さ)に達する。したがって、1度目の最大値に達した時点で外層部への貫入がほぼ終了し、測定値が低下した時点で内層部への貫入が始まる。このように、測定値の大きさの変化によっても、本発明の焼き芋が外層部と内層部とからなる二重構造であることがわかる。
【0032】
本発明の焼き芋は、例えば、乾燥工程、焼成工程、および殺菌工程を備え、この順序で各工程が実施される第1の製造方法、切断工程、乾燥工程、焼成工程、および殺菌工程を備え、この順序で各工程が実施される第2の製造方法などにより製造される。第1、第2の製造方法において、乾燥工程、焼成工程、および殺菌工程は同じ工程である。なお、第1、第2の製造方法では、特に、生のさつまいもを流体乾燥または減圧乾燥により乾燥した後に、焼成することにより、最終製品である焼き芋の各水分値(外層部の水分値、内層部の水分値、および全体の水分値)および水分値差をそれぞれ所定範囲内に調整することができる。以下、各工程の詳細について説明する。
【0033】
切断工程は、最終製品である本発明の焼き芋の食べ易さ、持ち運びのし易さなどの観点から、必要に応じて、乾燥工程の前に実施される工程であり、生さつまいもを所定の形状、寸法に切断し、生さつまいもの切断片を得る。
【0034】
本発明において、原料になる生のさつまいもとは、焼く、蒸す、茹でる、マイクロ波調理などといった加熱処理や、パウダー状やペースト状やマッシュ状などにするための均質化処理を行なっていないさつまいもである。なお、生のさつまいもは、その寸法や形状をそのまま生かしたものでもよいが、食べやすさや携帯性の観点から、切断片としたものでもよい。
【0035】
原料となる生のさつまいもの品種としては特に制限されず、従来から知られている品種をいずれも使用でき、例えば、紅赤、太白、花魁、源氏、富の川越芋、農林一号、高系14号、クリマサリ、紅さつま、紅あずま、紅はるか、宮崎紅、紅こまち、パープルスイートロード(紫芋)、クイックスイート、ひめあやか、シルクスウイート、あやこまち(オレンジ芋)、玉豊、いずみ、玉乙女、あいこまち、人参芋、安納芋、あやむらさき(紫芋)、金時芋、ほしきらり、紅まさり、大栄愛娘、種子島芋(紫芋)、紅隼人、小金千貫、鳴門金時、五郎島金時などが挙げられる。中でも、焼き芋に適した、農林一号、高系14号、紅さつま、紅あずま、紅あさり、安納芋、紅こまち、紅はるかなどが好ましい。本発明の焼き芋は、1種または2種以上の品種を用いて製造することができる。
【0036】
生のさつまいもの切断方法としては、さつまいもの組織を壊さないような切断方法であれば特に制限されないが、例えば、輪切り、半月切り、いちょう切り、乱切り、四つ切、さいの目切りなどが挙げられる。食べ易さ、持ち運び易さなどの観点から、輪切り、半月切りなどの切断方法が好ましく、得られる切断片は厚みが10mm~30mmのものが好ましい。また、生のさつまいもは、表皮の少なくとも一部が切除されたものでも、表皮が残されたものでもよい。
【0037】
乾燥工程では、未切断の生のさつまいもまたはその切断片に、必要に応じて所望の調味液を含浸させた後に乾燥し、さつまいもの乾燥体を得る。乾燥は、1~70℃の温度下にて、流体乾燥または減圧乾燥により実施される。乾燥方法により最適な乾燥温度は異なる。流体乾燥は、例えば、30~70℃程度の温風を未切断の生のさつまいもまたはその切断片に0.5~20時間程度吹き付けて行なうことが好ましい。また、減圧乾燥は、例えば1~60℃程度の温度下および-1MPa~-0.5MPa程度の減圧下に0.5~10時間程度行なうことが好ましい。
【0038】
必要に応じて未切断の生のさつまいもまたはその切断片に含浸される調味液は、焼き芋の各水分値(外層部の水分値、内層部の水分値、および全体の水分値)、焼き芋にしたときの表面のべとつきを抑制する効果や、焼き芋としての風味や食感などに影響を及ぼさない範囲で使用してもよい。該調味液としては、例えば、砂糖や黒糖、ソルビトールなどの糖質、甘味料、有機酸、アミノ酸、香料、塩、香辛料、醤油、酒、みりん、果汁、野菜、味噌などを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用い、所望の風味に調整した調味液が挙げられる。また、品質、作業性などの向上を目的として穀類、動物性タンパク質や植物性タンパク質、ゼラチンや多糖類のようなゲル化剤、発色剤、pH調整剤、乳化剤、着色料、保存料、キレート剤、酵素類など目的に合わせて様々な原料を組み合わせて調味液を調製することができる。未切断の生のさつまいもまたはその切断片の調味液による風味づけは、例えば、調味液への浸漬、調味液の塗布などにより行なわれる。
【0039】
焼成工程では、さつまいもの乾燥体を、好ましくは150℃以上、より好ましくは150℃~250℃の温度下で0.5~5時間程度(好ましくは0.5~2時間程度)焼成することにより、さつまいもの焼成体を得る。さつまいもの焼成体は、実質的には焼き芋である。このとき、各水分値(外層部の水分値、内層部の水分値、および全体の水分値)がそれぞれ所定の範囲になるように、焼成温度および焼成時間を適宜調整する。なお、焼成温度および焼成時間の調整は、品種毎に寸法の異なる切断片などを用いて予備実験を実施することにより、容易に実施することができる。さつまいもの乾燥体を焼成する加熱設備に制限はないが、風味の観点から、ダッチオーブン、デッキオーブン、ラックオーブン、トンネルオーブンなどの150℃以上の温度域で加熱できる設備が好ましい。
【0040】
殺菌工程は、さつまいもの焼成体を焼き芋として常温で流通させるために、さつまいもの焼成体を加熱殺菌する工程である。加熱殺菌方法としては特に限定されず、例えば、ボイル殺菌、レトルト殺菌、超高圧殺菌などが挙げられる。また、加熱殺菌条件は、さつまいもの品種、大きさ、設備の能力、殺菌方法などによって適宜設定すればよい。
【実施例】
【0041】
次に、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。下記実施例及び比較例において、特に断らない限り、部及び %は、それぞれ、重量部及び重量%を示す。また、下記実施例及び比較例において、水分値(%)の測定方法及び官能評価方法は次の通りである。
【0042】
<水分値(水分含有量)>
水分値(重量%)は、減圧乾燥法により測定した。
【0043】
<水分値の測定箇所>
外層部の水分値(A)は、外層部の焼き芋外表面(表皮外表面および切断面の外表面)からの厚さが本実施例では約3mmであることから、焼き芋の外表面から3mmの厚み領域の水分値である。
内層部の水分値(B)は、焼き芋から外層部を除いた内部領域の水分値(B)である。
水分値差(C)は、内層部の水分値(B)から外層部の水分値(A)を減じた値である。
全体の水分値(D)は、焼き芋全体の水分値である。
【0044】
テクスチャー・アナライザー(商品名:Te xture Analyzer TA.XT.plus、Stable Micro Syste ms社製)を使用し、貫入距離200% 、測定速度2mm/s、測定温度20℃で直径2mmの円柱形プランジャ―を用いて測定を行った。具体的な測定方法は、テクスチャー・アナライザーに添付のマニュアルに準じた。外層部の硬さは、円柱形プランジャ―が外表面から貫入したときの最大値(g)とした。内層部の硬さは、円柱形プランジャ―が外層部を貫通した後、内層部に貫入したときの最大値(g)とした。
【0045】
<官能評価>
焼き芋の官能評価は、得られた焼き芋を手でつまんだときの表面のべとつきを以下の基準に従って、5名のパネラーが評価し、5名のパネラーの各評点の平均値を小数点第一位で四捨五入し、評点とした。
(表面のべとつき)
5:全くべとつかず、1年の常温保存後もべとつきはなかった。
4:殆どべとつかず、1年の常温保存後もべとつきはほとんどなかった。
3:製造直後から僅かにべたつく
2:製造直後からべたつく
1:製造直後からかなりべたつく
【0046】
また、本発明では、得られた焼き芋の風味・食感を下記の基準で評価し、10名のパネラーの平均値(平均値の小数点第1位を四捨五入)が「5」または「4」となるものを合格品とし、それ以外のものを不合格品と判定した。
5:風味的にはさつまいも特有の甘みが大変強く、食感的には組織およびその硬さが均一で、焼き芋独特の強いほくほく感を有している。
4:風味的はさつまいも特有の甘みが強く、食感的には組織およびその硬さがほぼ均一で、焼き芋特有のほくほく感を有している。
3:風味的にはさつまいも特有の甘みが強いものの、食感的には組織およびその硬さがやや不均一で、焼き芋特有のほくほく感を有する領域と、そうではない領域とがそれぞれ部分的に存在する。
2:風味的にはさつまいも特有の甘みを感じられるものの、食感的には組織およびその硬さが不均一で、焼き芋特有のほくほく感を有する領域が少ない。
1:風味的にはさつまいも特有の甘みが弱く、食感的には組織およびその硬さが不均一で、焼き芋特有のほくほく感を有する領域がほとんどない。
【0047】
(実施例1)
未加熱の皮付きさつまいも(直径4cm程度)を厚み20mmに輪切りし、重さ約25gの切断片を得た。次いで、このさつまいもの切断片を50℃の温風機で2時間流体乾燥した。乾燥後、得られたさつまいもの乾燥片を、コンベクションオーブンを用いて200℃で1時間焼成した。放冷後、得られたさつまいも焼成片(焼き芋)をレトルトパウチに充填し、ヒートシール後、85℃30分間熱水にて加熱処理し、焼き芋を得た。
【0048】
(実施例2)
未加熱の皮付きさつまいも(直径4cm程度)を厚み20mmに乱切りし、重さ約25gの切断片を得た。次いで、このさつまいもの切断片を60℃の温風機で3時間流体乾燥した。乾燥後、得られたさつまいもの乾燥片を、コンベクションオーブンを用いて200℃で1時間焼成した。放冷後、得られたさつまいもの焼成片(焼き芋)を、レトルトパウチに充填し、ヒートシール後、600MPa、17℃で5分間加圧殺菌処理し、焼き芋製品を得た。
【0049】
(実施例3)
未加熱の皮付きさつまいも(直径4cm程度)を厚み20mmに輪切りし、重さ約25gの切断片を得た。次いで、このさつまいもの切断片を40℃、-0.1MPa、1時間の条件下で減圧乾燥した。乾燥後、得られたさつまいもの乾燥片を、コンベクションオーブンを用いて200℃で4時間焼成した。放冷後、得られたさつまいもの焼成片(焼き芋)をレトルトパウチに充填し、ヒートシール後、121℃で25分間熱水レトルトにて加熱処理し、焼き芋製品を得た。
【0050】
(比較例1)
未加熱の皮付きさつまいも(直径4cm程度)を、コンベクションオーブンを用いて200℃で1時間焼成した。放冷後、この焼き芋を厚み20mmに輪切りし、重さ約25gの焼き芋片を得た。これをレトルトパウチに充填し、ヒートシール後、85℃で30分間熱水にて加熱処理し、焼き芋製品を得た。
【0051】
(比較例2)
未加熱の皮付きさつまいも(直径4cm程度)を厚み20mmに輪切りし、重さ約25gの切断片を得た。次いで、このさつまいもの切断片を60℃の温風機で30分流体乾燥した。乾燥後、得られたさつまいもの乾燥片を、コンベクションオーブンを用いて200℃で1時間焼成した。放冷後、得られたさつまいもの焼成片(焼き芋)をレトルトパウチに充填し、ヒートシール後、600MPa、17℃で5分間加圧殺菌処理し、焼き芋製品を得た。
【0052】
(比較例3)
未加熱の皮付きさつまいも(直径4cm程度)を厚み20mmに輪切し、重さ約25gの切断片を得た。次いで、このさつまいもの切断片を70℃の温風機で6時間流体乾燥した。乾燥後、得られたさつまいもの乾燥片を、コンベクションオーブンを用いて200℃で1時間焼成した。放冷後、得られたさつまいもの焼成片(焼き芋)をレトルトパウチに充填し、ヒートシール後、85℃で30分間熱水にて加熱処理し、焼き芋製品を得た。
【0054】
実施例1~3と比較例1~3で得られた焼き芋の各水分値、硬さ、製造直後の表面のべたつきの評価、および風味・食感評価を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1の結果より、実施例1~3で得られた焼き芋は、表面のべたつきがなく、焼き芋らしい風味、食感があることが分る。
【0057】
一方、比較例1は、焼き芋にしてから切断したものであり、外層部と内層部との水分値差が小さいこと及び全体の水分値が高いことにより、表面のべたつきが発生することが分かった。
比較例2は、生のさつまいもを切断した後、流体乾燥を行い焼成したものであり、実施例1と比較して流体乾燥の時間を短くしたことから、外層部と内層部の水分値差が小さくなり、表面のべたつきが発生することが分かった。
比較例3は、生のさつまいもを切断した後、流体乾燥を行い焼成したものであるが、実施例1と比較して流体乾燥の時間を長くしたことから、外層部と内層部の水分値差が大きくなり、かつ全体の水分値が小さいことから、表面のべたつきは発生しないものの、風味。食感が悪くなることが分かった。
【符号の説明】
【0058】
1 二重構造を有する焼き芋
10 外層部
11 内層部