(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】耐摩耗性能の試験方法、トレッドゴムの製造方法、タイヤの製造方法、及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
G01N 3/56 20060101AFI20220817BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20220817BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
G01N3/56 G
G01M17/02
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2018127023
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】中野 真也
(72)【発明者】
【氏名】多田 俊生
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-104735(JP,A)
【文献】特開2017-020851(JP,A)
【文献】特許第5542104(JP,B2)
【文献】特開平11-326144(JP,A)
【文献】特開2017-090407(JP,A)
【文献】特開2012-247301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00- 3/62
G01N 33/44
G01M 17/00-17/10
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム材料について、タイヤのトレッドゴムとして用いられたときの耐摩耗性能を評価するための方法であって、
円周方向に延びる接地面を有するゴム試験片を準備する工程と、
前記ゴム試験片を、摩耗試験機の走行面上を、スリップ率αが3.5%以下で転動させて前記接地面を摩耗させる工程と、
前記ゴム試験片の摩耗量を、予め定められた閾値と比較して、前記ゴム試験片の耐摩耗性能を評価する工程と
を含み、
前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m
2
)が、3.0×10
-5
×スリップ率(%)
1.4
で求められる第1の閾値以下の場合に、前記ゴム試験片の耐摩耗性能を良好と評価する、
耐摩耗性能の試験方法。
【請求項2】
ゴム材料について、タイヤのトレッドゴムとして用いられたときの耐摩耗性能を評価するための方法であって、
円周方向に延びる接地面を有するゴム試験片を準備する工程と、
前記ゴム試験片を、摩耗試験機の走行面上を、スリップ率αが3.5%以下で転動させて前記接地面を摩耗させる工程と、
前記ゴム試験片の摩耗量を、予め定められた閾値と比較して、前記ゴム試験片の耐摩耗性能を評価する工程とを含み、
前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m
2
)が、2.5×10
-5
×スリップ率(%)
1.4
で求められる第1の閾値以下の場合に、前記ゴム試験片の耐摩耗性能を良好と評価する、
耐摩耗性能の試験方法。
【請求項3】
前記摩耗試験機が、LAT100摩耗試験機である、請求項1又は2に記載の耐摩耗性能の試験方法。
【請求項4】
前記摩耗させる工程において、前記接地面の圧力が0.1~1MPaであり、転動速度が1~50km/hであり、転動距離が10~30km である、請求項1ないし3のいずれかに記載の耐摩耗性能の試験方法。
【請求項5】
前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m
2
)を、1.0×10
-6
×スリップ率(%)
1.4
で求められる第2の閾値と比較する段階を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の耐摩耗性能の試験方法。
【請求項6】
前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m
2
)を、3.0×10
-6
×スリップ率(%)
1.4
で求められる第2の閾値と比較する段階を含む、請求項1ないし4のいずれかに記載の耐摩耗性能の試験方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載された耐摩耗性能の試験方法において、前記耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片のゴム配合に基づいてトレッドゴムを製造する、トレッドゴムの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載された耐摩耗性能の試験方法において、前記耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片のゴム配合に基づいてトレッドゴムを製造する工程を含む、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料がタイヤのトレッドゴムとして用いられたときの耐摩耗性能を評価するための試験方法、この試験方法において耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片のゴム配合を用いたトレッドゴムの製造方法、及びトレッドゴムを製造する工程を含むタイヤの製造方法、並びに試験方法において耐摩耗性能が良好と評価されたトレッドゴムを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加硫ゴム材料の耐摩耗性能を評価する方法として、例えば、LAT100摩耗試験機(Laboratory Abrasion Tester)等の室内摩耗試験機によって、ゴム材料を摩耗させて評価する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このLAT100摩耗試験機では、軸心周りで回転する円盤状の摩耗材(砥石)を具え、この摩耗材の表面上を転がるように円筒状のゴム試験片の外周面を摩耗材に接触させる。そのため、実車走行時のタイヤに近い接触状態でゴム試験片を摩耗材に接触させることが可能である。
【0004】
しかしながら、LAT100摩耗試験機を用いた場合にも、予測した耐摩耗性能の結果と、そのゴム材料をトレッドゴムに使用したタイヤを実際に車両に装着して走行させた実車走行での耐摩耗性能の結果とが一致しない場合があり、精度上の問題があった。
【0005】
このような状況に鑑み本発明者が研究した結果、シビアリティ(過酷性)が低い条件にて行った室内摩耗試験の結果と、実車走行の結果との相関が強いことが判明した。これは、ゴムの耐摩耗性能は、シビアリティが低い条件では、疲労により摩耗の関与が大きく、逆にシビアリティが高い条件では亀裂成長による摩耗の関与が大きいためと推測される。そして、実車走行では、主にシビアリティが低い条件にて、走行が行われているためと考えられる。
【0006】
従って、実車走行におけるタイヤの摩耗性能を精度良く評価するためには、シビアリティが低い条件にて、室内摩耗試験を行うことが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、実車走行時のタイヤの摩耗性能と相関性の高い試験結果を得ることができる耐摩耗性能の試験方法、トレッドゴムの製造方法、タイヤの製造方法、及びタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、ゴム材料について、タイヤのトレッドゴムとして用いられたときの耐摩耗性能を評価するための試験方法であって、
円周方向に延びる接地面を有するゴム試験片を準備する工程と、
前記ゴム試験片を、摩耗試験機の走行面上を、スリップ率αが3.5%以下で転動させて前記接地面を摩耗させる工程と、
前記ゴム試験片の摩耗量を、予め定められた閾値と比較して、前記ゴム試験片の耐摩耗性能を評価する工程とを含む。
【0010】
本発明に係る耐摩耗性能の試験方法では、前記摩耗試験機が、LAT100摩耗試験機であるのが好ましい。
【0011】
本発明に係る耐摩耗性能の試験方法では、前記摩耗させる工程において、前記接地面の圧力が0.1~1MPaであり、転動速度が1~50km/hであり、転動距離が10~30km であるのが好ましい。
【0012】
本発明に係る耐摩耗性能の試験方法では、前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m2)が、3.0×10-5×スリップ率(%)1.4で求められる第1の閾値以下の場合に、前記ゴム試験片の耐摩耗性能を良好と評価するのが好ましい。
【0013】
本発明に係る耐摩耗性能の試験方法では、前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m2)が、2.5×10-5×スリップ率(%)1.4で求められる第1の閾値以下の場合に、前記ゴム試験片の耐摩耗性能を良好と評価するのが好ましい。
【0014】
本発明に係る耐摩耗性能の試験方法では、前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m2)を、1.0×10-6×スリップ率(%)1.4で求められる第2の閾値と比較する段階を含むのが好ましい。
【0015】
本発明に係る耐摩耗性能の試験方法では、前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m2)を、3.0×10-6×スリップ率(%)1.4で求められる第2の閾値と比較する段階を含むのが好ましい。
【0016】
本発明に係る耐摩耗性能の試験方法では、前記評価する工程は、前記ゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量(cc/m2)が、3.0×10-6×スリップ率(%)1.4で求められる第2の閾値以上である場合に、前記ゴム試験片の耐摩耗性能を良好と評価するのが好ましい。
【0017】
第2の発明は、トレッドゴムの製造方法であって、第1の発明の耐摩耗性能の試験方法において、前記耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片のゴム配合に基づいてトレッドゴムを製造する。
【0018】
第3の発明は、タイヤの製造方法であって、第1の発明の耐摩耗性能の試験方法において、前記耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片のゴム配合に基づいてトレッドゴムを製造する工程を含む。
【0019】
第4の発明は、トレッドゴムを含むタイヤであって、
前記トレッドゴムは、前記トレッドゴムから切り出されたゴム試験片を、摩耗試験機の走行面上で、スリップ率が3.5%以下で転動させたときの単位面積当たりの摩耗量(cc/m2)が、3.0×10-5×スリップ率(%)1.4で求められる第1の閾値以下である。
【発明の効果】
【0020】
第1の発明では、叙上の如く、スリップ率αが3.5%以下にて、ゴム試験片を摩耗試験機の走行面上で転動させて摩耗させる。このように、スリップ率αを3.5%以下としたシビアリティの低い条件にて摩耗させる工程を行うため、実車走行時のタイヤの耐摩耗性能を精度良く予測することができる。そのため、タイヤの開発期間の短縮や高性能タイヤの開発に大きく貢献することが可能となる。
【0021】
第2~4の発明では、耐摩耗性能が良好なトレッドゴム及び前記トレッドゴムを有するタイヤを、少ない開発期間で提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の耐摩耗性能の試験方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の耐摩耗性能の試験方法(以下、単に「試験方法」ということがある)は、ゴム材料が、タイヤのトレッドゴムとして用いられたときの耐摩耗性能を評価するための方法である。
【0024】
図1は、試験方法の手順を示すフローチャートであって、ゴム試験片を準備する工程S1(準備工程S1という場合がある。)と、摩耗させる工程S2(摩耗工程S2という場合がある。)と、評価する工程S3(評価工程S3という場合がある。)とを含む。
【0025】
図2に示すように、準備工程S1では、円周方向に延びる接地面1sを有するゴム試験片1を準備する。本例では、ゴム試験片1は、円筒状の支持体2と、支持体2の外周面に貼り付けられるシート状のゴム材料3とから形成される。支持体2の中心には、支持軸4(
図3に示す)を装着するための中心孔2Hが形成される。又ゴム材料3の外周面が前記接地面1sを構成する。
【0026】
シート状のゴム材料3の厚さTは、0.5~4.0mm に設定されるのが好ましい。支持体2の巾W2は、15~22mm に設定されるのが好ましい。支持体2の外径D2は、50~120mm に設定されるのが好ましい。
【0027】
図3に示すように、摩耗工程S2では、摩耗試験機5の走行面5s上で、ゴム試験片1を、スリップ率αが3.5%以下で転動させて接地面1sを摩耗させる。このように、スリップ率αを3.5%以下としたシビアリティの低い条件にて摩耗工程S2を行うため、実車走行時のタイヤの耐摩耗性能を精度良く予測することが可能となる。なおスリップ率αの下限値は0%より大であるが、摩耗工程S2の工程時間の短縮のために、1%以上さらには2%以上が好ましい。
【0028】
摩耗試験機5は、本例では、LAT100摩耗試験機であって、回転する円盤状の摩耗材7、ゴム試験片1を支持する試験片支持部8、及び摩耗材7と試験片支持部8とを支持するベース9を含む。これらの摩耗材7、試験片支持部8、及びベース9は、例えば、摩耗試験機5の運転及び停止させるスイッチ等が設けられる筐体(図示省略)に収納される。
【0029】
摩耗材7として、本例では、回転テーブル11の上に載置される円盤状の砥石盤が使用される。回転テーブル11は、ベース9から突出する支持軸12に、一体回転可能に支持される。本例では、支持軸12は、ベース9に内蔵される電動機(図示省略)等に連結される。従って、摩耗材7は、電動機等の駆動によって、支持軸12の軸心j周りで回転しうる。
【0030】
摩耗材7の表面により前記走行面5sが形成されている。本例の走行面5sは、砥石面であって、その粒度としては、例えば、60メッシュ~240メッシュに設定されるのが好ましい。なお摩耗材7としては、砥石に限定されるものではなく、例えばアスファルト、コンクリート等を用いた円盤状の擬似路面であっても良い。走行面5sの直径は、150~1500mm に設定されるのが好ましい。
【0031】
試験片支持部8は、ゴム試験片1を軸心jと直角な軸心n周りで回転可能に支持する支持軸部13、及びゴム試験片1を移動させるシリンダ機構14を含む。
【0032】
支持軸部13は、一端側がゴム試験片1の中心孔2H(
図2に示す)に挿入される支持軸4と、支持軸4の他端側を支持する固定部16とを含む。
【0033】
シリンダ機構14は、長手方向に伸縮するロッド18と、該ロッド18を出し入れ可能に支持するシリンダ19と、ロッド18を伸縮させる電動機(図示省略)とを含む。ロッド18の先端には、連結部材20の一端側が固着される。この連結部材20の他端側には、固定部16が固着される。これにより、シリンダ機構14は、ロッド18の伸張により、ゴム試験片1を、走行面5sから離間させることができる。また、本実施形態のシリンダ19は、ベース9の上に、軸心m周りに回転可能に支持される。これにより、試験片支持部8は、ゴム試験片1に、走行面5sに対するスリップ角θ(
図4に示す)を設定しうる。
【0034】
図4に示すように、スリップ角θは、周知の如く、ゴム試験片1の進行方向A1と、ゴム試験片1の回転方向(即ち、ゴム試験片1の赤道面の方向)とのずれ角を意味する。ゴム試験片1の進行方向A1は、走行面5sとゴム試験片1とが接地する接地部の中心(接地中心)Fjと、走行面5sの中心(軸心j)とを結ぶ直線Xに直交する方向である。
【0035】
摩耗工程S2では、スリップ率αを3.5%以下に抑えるために、スリップ角θを2°以下、より好ましくは1°以下、最も好ましくは0°に設定される。
【0036】
図5に示すように、スリップ角θが0°のとき、スリップ率αは、下記式(1)にて求まる。
α=(W/2R)×100(%) ---(1)
"W"は、接地部Fの巾であり、ゴム材料3の巾に相当する。"R"は、走行面5sの中心(軸心j)から接地中心Fjまでの距離であり、ゴム試験片1の旋回半径に相当する。ここで、軸心jを中心とした円周のうちで、接地中心Fjを通る円周の周長は2πRである。又接地部Fの最外点を通る円周の周長は、2π(R+W/2)である。ゴム試験片1が、接地中心Fjで滑ることなく転動する場合、ゴム試験片1には、周長の差である 2π(R+W/2)-2πR=πW に相当する滑りが発生する。即ち、πW/2πR=W/2R に相当するスリップ率が発生する。
【0037】
従って、スリップ率αを3.5%以下に抑えるためには、ゴム材料3の巾Wを小さく、及び又は、旋回半径Rを大きく設定することが必要である。そのために、旋回半径Rは100mm 以上が好ましい。一例として、例えば、旋回半径Rを150mm とした場合、ゴム材料3の巾Wを10.5mm 以下に設定する必要がある。なおスリップ角θが2°以下の範囲においては、スリップ角θによる滑りへの影響は低く、実質的に式(1)が採用しうる。
【0038】
又、摩耗工程S2では、より低いシビアリティの条件で摩耗を行うために、ゴム試験片1の転動速度Vは、1~50km/hの範囲が好ましい。又荷重については接地部F内の平均圧力が0.1~1MPaの範囲になるように、特には0.2~0.8MPaの範囲になるように設定されるのが好ましい。又、摩耗工程S2では、スリップ率αが低い条件で摩耗させることから、ゴム試験片1の摩耗量Gを充分に確保するために、ゴム試験片1の転動距離Lは、10~30km 、特には20~30km と、従来よりも長いことが好ましい。
【0039】
なお摩耗工程S2では、ゴム試験片1と走行面5sとの間に砂状の粒体を介在させながら摩耗させるのが好ましい。これにより、摩耗粉(削りかす)がゴム試験片1に再付着するのを抑制でき、ゴム試験片1の摩耗量の測定精度を高めるのに役立つ。
【0040】
次に、評価工程S3では、摩耗工程S2で生じたゴム試験片1の摩耗量を、予め定められた閾値Kと比較して、ゴム試験片1の耐摩耗性能を評価する。
【0041】
具体的には、ゴム試験片1の単位面積当たりの摩耗量G0(cc/m2)が、次式(2)で求められる第1の閾値K1以下の場合に、ゴム試験片1の耐摩耗性能を良好と評価する。
K1=3.0×10-5×スリップ率(%)1.4 ---(2)
単位面積当たりの摩耗量G0とは、摩耗工程S2で生じた摩耗量G(単位cc)を、接地面1sの巾Wと転動距離Lとの積である全面積W×L(単位m2)で割った値、即ちG0=G/(W×L)で表される。
【0042】
又摩耗量G(単位cc)は、例えば、摩耗工程S2の前後におけるゴム試験片1の重量差を測定し、この重量差から換算して摩耗量G(単位cc)を求めることができる。
【0043】
前記式(2)は、本発明者が行った実験結果から導き出されたものである。詳しくは、実車走行において耐摩耗性能に優れると評価された配合の基準のゴム材料を用いて、円筒状の基準ゴム試験片1Aを作成する。そして、本発明に係る摩耗工程S2に従って、基準ゴム試験片1Aに摩耗試験を行った。このとき、スリップ率α(%)をそれぞれ変化させて複数の摩耗試験を行い、スリップ率α(%)毎の摩耗量Gのデータを求めた。スリップ率α(%)は、ゴム材料3の巾Wを違えることで変化させた。そして、前記データを回帰分析することにより、
図6に示す回帰式(乗冪回帰式)が得られた。
【0044】
従って、評価対称となるゴム試験片1に対して、摩耗工程S2に基づく摩耗試験を行い、得られた単位面積当たりの摩耗量G0が、式(2)で求められる第1の閾値K1以下の場合には、ゴム試験片1の耐摩耗性能が良好、即ち基準ゴム試験片1Aの耐摩耗性能と同等もしくはそれ以上に優れると評価することができる。
【0045】
より好ましくは、第1の閾値K1として、上記式(2)に代えて次式(3)で求まる値を採用するのが望ましい。
K1=2.5×10-5×スリップ率(%)1.4 ---(3)
これにより、耐摩耗性能が良好であるとの評価を、より確実に行うことができる。
【0046】
ここで、摩耗工程S2で得られた単位面積当たりの摩耗量G0が少なすぎる場合、例えば路面クリップ性などトレッドゴムとして必要な他の性能に悪影響を及ぼす恐れを招く。従って、評価工程S3では、単位面積当たりの摩耗量G0を、次式(4)で求められる第2の閾値K2と比較する段階を含むことが好ましい。
K2=1.0×10-6×スリップ率(%)1.4 ---(4)
【0047】
この比較において、単位面積当たりの摩耗量G0が、第2の閾値K2よりも小の場合、トレッドゴムとして必要な他の性能に劣る可能性がある。そのため、耐摩耗性能以外の性能に対する注意を促すことができる。
【0048】
より好ましくは、第2の閾値K2として、式(4)に代えて次式(5)で求まる値を採用するのが望ましい。
K2=3.0×10-6×スリップ率(%)1.4 ---(5)
【0049】
本発明の試験方法においては、ゴム試験片1を形成するために用いる前記シート状のゴム材料3は、評価対象となる配合のゴムをシート状に加硫成形して形成することができる。しかし、加硫成形されたタイヤのトレッド部から切り出してシート状のゴム材料3を形成することもできる。又、ゴム試験片1は、その全体をゴム材料3によって形成されても良い。
【0050】
又摩耗試験機5としては、市販のLAT100摩耗試験機を用いる以外に、LAT100摩耗試験機と同様の機能を有する装置が使用しうる。即ち、回転可能に支持された円盤状の摩耗材7の表面上で、ゴム試験片1の外周面(接地面1s)を接触させながら転動させて、前記接地面1sを摩耗させる機能を有する装置が使用しうる。
【0051】
第2の発明であるトレッドゴムの製造方法では、前記試験方法において、耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片1のゴム配合に基づいてトレッドゴムを製造することに特徴を有する。なおトレッドゴムとして、前記試験方法によって耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片1のゴム配合のゴムを用いる以外、従来的な種々の製造方法が適用しうる。
【0052】
第2の発明であるタイヤの製造方法では、前記試験方法において、耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片1のゴム配合に基づいてトレッドゴムを製造する工程を含むことに特徴を有する。なおトレッドゴムの製造工程として、前記試験方法によって耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片1のゴム配合のゴムを用いる以外、従来的な種々の製造方法が適用しうる。
【0053】
第3の発明であるタイヤは、トレッド部のうち少なくとも接地面をなすゴム層であるトレッドゴムが、前記試験方法において、耐摩耗性能が良好と評価されたゴム試験片1のゴム配合に基づいて形成されていることに特徴を有する。言い換えると、トレッドゴムは、このトレッドゴムから切り出されたゴム試験片を、摩耗試験機の走行面上で、スリップ率が3.5%以下で転動させたときの単位面積当たりの摩耗量(cc/m2)が、3.0×10-5×スリップ率(%)1.4で求められる第1の閾値以下である。なおタイヤとしては、トレッドゴム以外は、従来的な種々のタイヤ構造が適用しうる。
【0054】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0055】
図1の処理手順に基づき、配合の異なる3種類のゴム材料A~C(ゴム配合は表1に示される。)を用いたゴム試験片の耐摩耗性能が評価された(実施例)。準備工程S1、摩耗工程S2、評価工程S3の仕様は以下の通りである。
<準備工程S1>
ゴム材料
--厚さT :2.0mm
--巾W :9.0mm
支持体
--巾W2 :18.0mm
--外径D2:80mm
【0056】
<摩耗工程S2>
摩耗試験機:LAT100摩耗試験機(株式会社平泉洋行社製)
--荷重:20N
--転動速度V:20km/h
--転動距離L:80km
--スリップ角θ:0°
--旋回半径R:150mm
--スリップ率α:3%
【0057】
<評価工程S3>
ゴム材料Aを用いたゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量G0A:8.2×10-5(cc/m2)、
ゴム材料Bを用いたゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量G0B:7.8×10-5(cc/m2)、
ゴム材料Cを用いたゴム試験片の単位面積当たりの摩耗量G0C:7.1×10-5(cc/m2)。
式(2)で求まる第1の閾値K1:13.3×10-5
上記のように、ゴム材料A~Cの摩耗量G0A、G0B、G0Cは、何れも第1の閾値K1より小であり、耐摩耗性能が良好であると評価できる。
【0058】
又摩耗量G0A、G0B、G0Cに基づき、ゴム材料A~Cの耐摩耗性能を、ゴム材料Aを100とする指数に置き換えて表2に表示した。数値が大なほど耐摩耗性能に優れる。
【0059】
<比較例>
比較例として、スリップ率αを5.7%とした、シビアリティが高い条件で同様の摩耗工程S2を行った。実施例とは、スリップ率αのみ相違している。そして、比較例において得られた、ゴム材料Aの単位面積当たりの摩耗量G1A、ゴム材料Bの単位面積当たりの摩耗量G1B、及びゴム材料Cの単位面積当たりの摩耗量G1Cに基づき、ゴム材料A~Cの耐摩耗性能を、ゴム材料Aを100とする指数に置き換えて表2に表示した。数値が大なほど耐摩耗性能に優れる。
【0060】
<実車走行テスト>
ゴム材料A~Cと同配合のゴムにてトレッドゴムを形成した空気入りタイヤ(215/60R16)を試作した。各試作タイヤをリム(16x6.5J)、内圧(230kPa)の条件にて、車両(排気量2000ccの国産FR車)の全輪に装着し、テストコースを30000km 走行させた。走行後、クラウン部において測定したトレッドゴムの摩耗量に基づき、各タイヤの耐摩耗性能を、ゴム材料Aを用いたタイヤを100とする指数に置き換えて表2に表示した。数値が大なほど耐摩耗性能に優れる。
【0061】
【0062】
【0063】
テストの結果、本発明の試験方法(実施例)を採用することにより、実車走行時のタイヤの耐摩耗性能を、精度良く予測しうるのが確認できる。
【0064】
表1のゴム配合に用いられる薬品は、以下の通りである。
SBR:ランクセス社製 Buna SL4525-0(スチレン含量25質量%、非油展、非変性S-SBR)
BR:LANXESS社製のBuna CB21(ハイシスBR、Nd系触媒を用いて合成されたBR、シス含有量:98質量%、ML(1+4)100℃:73、Mw/Mn:2.4)
カーボンブラック1:東海カーボン(株)製のシースト9H(DBP吸油量115ml/g、BET比表面積110m2/g)
カーボンブラック2:デグッサ社製のPRINTEX XE2B(N2SA:1000m2/g、DBP:420ml/100g)
レジン:ルトガー社製 NOVARES C10レジン(液状クマロンインデン樹脂、軟化点10℃)
ワックス:大内新興化学工業(株)製 サンノックN
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製 ノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
老化防止剤2:大内新興化学工業(株)製 ノクラック224(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体)
ステアリン酸:日油(株)製 ステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製 亜鉛華2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製 粉末硫黄
架橋剤:ランクセス社製のVulcuren VP KA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン、硫黄配合量:20.6質量%)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製 ノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:住友化学(株)製 ソクシノールD(ジフェニルグアニジン)
【符号の説明】
【0065】
1 ゴム試験片
1s 接地面
3 ゴム材料
5 摩耗試験機
5s 走行面
G、G0摩耗量
K 閾値
K1 第1の閾値
K2 第2の閾値
S1 準備する工程
S2 摩耗させる工程
S3 評価する工程