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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】ホットメルト型接着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/35 20180101AFI20220817BHJP
   C09J 7/10 20180101ALI20220817BHJP
   D03D 15/37 20210101ALI20220817BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20220817BHJP
   D03D 15/587 20210101ALI20220817BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20220817BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20220817BHJP
   D01F 8/04 20060101ALI20220817BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C09J7/35
C09J7/10
D03D15/37
D03D15/47
D03D15/587
D04B1/16
D04B21/16
D01F8/04 B
D02G3/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018139708
(22)【出願日】2018-07-25
(65)【公開番号】P2020015820
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】神谷 大介
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 勇也
(72)【発明者】
【氏名】亀井 雄希
(72)【発明者】
【氏名】早川 祐生
(72)【発明者】
【氏名】清水 達記
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和也
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-008694(JP,A)
【文献】特開2017-179195(JP,A)
【文献】特開平07-070872(JP,A)
【文献】特開昭55-116771(JP,A)
【文献】特開2016-204775(JP,A)
【文献】特開2007-262601(JP,A)
【文献】特開2003-342836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
D03D 15/587
D03D 15/47
D03D 15/37
D04B 1/16
D04B 21/16
D01F 8/04
D02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非極性材料を含有する接着糸(A)と、極性材料を含有する接着糸(B)とを用いた織物形態又は編物形態のホットメルト型接着シートであって、
前記非極性材料及び前記極性材料の融点がともに50~180℃であり、且つ各々の融点の差が20℃以内であり、
前記非極性材料及び前記極性材料のいずれもが接着時に熱溶融することを特徴とするホットメルト型接着シート。
【請求項2】
前記非極性材料の周波数1kHzにおいて測定した誘電率が3.0未満であり、前記極性材料の周波数1kHzにおいて測定した誘電率が3.0以上である請求項1に記載のホットメルト型接着シート。
【請求項3】
前記接着糸(A)及び前記接着糸(B)のうちの少なくとも一方が多重構造の接着糸となっており、
前記多重構造の接着糸は芯鞘繊維であり、鞘部が接着成分となる一方の材料により構成され、芯部が他方の材料により構成されており、
前記多重構造の接着糸においては、前記非極性材料及び前記極性材料のうち、前記鞘部の接着成分となる前記一方の材料の融点が50~180℃であり、前記他方の材料の融点が前記一方の材料の融点より30℃以上高い請求項1又は2に記載のホットメルト型接着シート。
【請求項4】
前記接着糸(A)と前記接着糸(B)とが撚られた糸を用いる請求項1又は2に記載のホットメルト型接着シート。
【請求項5】
前記ホットメルト型接着シートの表裏面のいずれかにおいて、前記接着糸(A)により構成される面積と、前記接着糸(B)により構成される面積との合計を100%としたときに、前記接着糸(A)により構成される面積が60%以上である請求項1乃至のうちのいずれか1項に記載のホットメルト型接着シート。
【請求項6】
リバーシブル構造を有する請求項に記載のホットメルト型接着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非極性材料を含有する接着糸と、極性材料を含有する接着糸とを用いた織物形態又は編物形態のホットメルト型接着シートであって、非極性材料及び極性材料のいずれもが接着時に熱溶融するホットメルト型接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂は、優れた物性を有するとともに、成形も容易であり、フィルム、シート等の成形品が、車両、建材、家電、電子部品、日用雑貨等の広範な製品分野で用いられている。また、これらの成形品は、異なる樹脂を用いてなる成形体を複合化することにより、性能を向上させたり、機能を多様化することもなされている。
【0003】
例えば、車両用内装材、住宅用内装材、家電機器等の製品分野において、強度、耐久性などに優れ、成形も容易であるポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンなどの非極性樹脂を用いてなる成形体を基材とし、その外表面に耐候性、装飾性などに優れるポリアミド、ポリエステル等を用いてなるフィルム、シートなどを表皮層、加飾層などとして積層した積層成形体が広範な用途で用いられている。
【0004】
上述のような積層成形体は、基材と表皮材、加飾材等とを積層させることで形成される。しかし、非極性樹脂を用いてなる基材に、ポリアミド、ポリエステル等からなるフィルム、シートなどを意匠性を損なうことなく接合させることは容易ではない。ポリオレフィンなどの非極性樹脂は、ポリアミド、ポリエステルなどの極性樹脂との相溶性に劣るため、通常、接合には接着剤、特に溶剤型の接着剤が用いられることが多いが、均一に塗布することが容易ではなく、溶剤を用いることは環境及び衛生面での問題もある。そのため、溶剤を用いることなく、且つ強固に接合させることができるホットメルト型接着性フィルムを用いることが検討されている。
【0005】
上述のようなホットメルト型接着性フィルムとしては、スチレン系ブロック共重合体及びエチレン系重合体等のオレフィン系(共)重合体からなる群から選ばれる1種以上のベースポリマーと粘着付与樹脂、結晶性極性基含有化合物を含有する組成物を用いてなる接着性フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、エチレン系共重合体と酸価が200~300mgKOH/gの粘着付与樹脂からなる組成物を用いてなる接着性フィルムも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
更に、非極性部位と極性部位とを有する重合体を用いてなる接着性シートも知られており、非極性オレフィン系重合体を含むセグメントと極性ビニル系重合体セグメントとからなるグラフト共重合体からなる加熱溶融型接着剤組成物を用いてなる接着性シートが知られている(例えば、特許文献3参照)。また、特定のポリオレフィン系樹脂を、極性基を有する単量体を用いてグラフト変性した変性樹脂を用いた接着性シートも提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
一方、非極性材料からなる糸と極性材料からなる糸とが織り込まれて形成された熱溶着可能な織編物であって、非極性材料と極性材料とが少なくとも20℃以上の融点差を有する織編物も知られている(例えば、特許文献5参照)。具体的には、非極性材料としてはポリプロピレンが、極性材料としてはポリエステルが例示されており、接着に際して、相対的に融点が低い非極性材料のみが熱溶融し、熱溶着する織編物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-168417号公報
【文献】特開2008-094869号公報
【文献】特開平08-225778号公報
【文献】国際公開第2014/097964号
【文献】特開平07-70872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1、特許文献2に記載された接着性フィルムに用いられる組成物では、保存時及び加熱溶融時に非極性材料と極性材料とが目視で確認することができるほどに分離してしまい、接着性能にばらつきが生じることが有り得る。また、特許文献3に記載された接着性シートに用いられる組成物、及び特許文献4に記載された接着性シートに用いられる変性樹脂では、異種材料に対する接着性が十分ではないことがある。更に、特許文献5に記載の熱溶着する織編物では、被着体が極性材料及び非極性材料という異種材料であるときに、いずれの被着体に対しても十分な強度で接着させることができない場合があり得る。
【0010】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、被着体が極性材料及び非極性材料という異種材料の場合でであっても、十分な接着性を有するホットメルト型接着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下のとおりである。
1.非極性材料を含有する接着糸(A)と、極性材料を含有する接着糸(B)とを用いた織物形態又は編物形態のホットメルト型接着シートであって、
前記非極性材料及び前記極性材料のいずれもが接着時に熱溶融することを特徴とするホットメルト型接着シート。
2.前記非極性材料の周波数1kHzにおいて測定した誘電率が3.0未満であり、前記極性材料の周波数1kHzにおいて測定した誘電率が3.0以上である前記1.に記載のホットメルト型接着シート。
3.前記非極性材料及び前記極性材料の融点がともに50~180℃であり、且つ各々の融点の差が20℃以内である請求項1又は2に記載のホットメルト型接着シート。
4.前記接着糸(A)及び前記接着糸(B)のうちの少なくとも一方が多重構造の接着糸となっており、前記非極性材料及び前記極性材料のうち、接着成分となる一方の材料の融点が50~180℃であり、他方の材料の融点が前記一方の材料の融点より30℃以上高い前記1.又は2.に記載のホットメルト型接着シート。
5.前記多重構造の接着糸が芯鞘繊維であり、鞘部が接着成分となる前記一方の材料により構成され、芯部が前記他方の材料により構成される前記4.に記載のホットメルト型接着シート。
6.前記接着糸(A)と前記接着糸(B)とが撚られた糸を用いる前記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載のホットメルト型接着シート。
7.前記ホットメルト型接着シートの表裏面のいずれかにおいて、前記接着糸(A)により構成される面積と、前記接着糸(B)により構成される面積との合計を100%としたときに、前記接着糸(A)により構成される面積が60%以上である前記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載のホットメルト型接着シート。
8.リバーシブル構造を有する前記7.に記載のホットメルト型接着シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホットメルト型接着シートでは、非極性材料及び極性材料のいずれもが接着時に熱溶融する。これにより、被着体が、例えば、アルミニウム等の極性材料であっても、ポリプロピレン等の非極性材料であっても、十分な接着性が発現される
また、非極性材料の周波数1kHzにおいて測定した誘電率が3.0未満であり、極性材料の周波数1kHzにおいて測定した誘電率が3.0以上である場合は、非極性材料及び極性材料の各々が有する特性が十分に発現される。
更に、非極性材料及び極性材料の融点がともに50~180℃であり、且つ各々の融点の差が20℃以内である場合は、広範な温度範囲において、容易に熱溶融させることができ、被着体が極性材料か、非極性材料かを問わず、各種の被着体を容易、且つ確実に接着させることができる。
また、接着糸(A)及び接着糸(B)のうちの少なくとも一方が多重構造の接着糸となっており、非極性材料及び極性材料のうち、接着成分となる一方の材料の融点が50~180℃であり、他方の材料の融点が一方の材料の融点より30℃以上高い場合は、非極性材料と極性材料との融点差に応じて熱溶融させる温度を設定することで、各種の被着体を容易、且つ確実に接着させることができるとともに、融点が高く、溶融しない他方の材料に支持されることによって、皺、変形等を生じることなく接着させることができる。
更に、多重構造の接着糸が芯鞘繊維であり、鞘部が接着成分となる一方の材料により構成され、芯部が他方の材料により構成される場合は、各種の被着体に皺、変形等を生じることなく、容易、且つ確実に接着させることができるとともに、接着糸(A)と接着糸(B)とを用いた製織、製編も容易である。
また、接着糸(A)と接着糸(B)とが撚られた糸を用いる場合は、非極性材料を含有する接着糸(A)と、極性材料を含有する接着糸(B)とからなる撚糸であるため、極性材料からなる被着体、非極性材料からなる被着体のいずれであっても、より強度の大きな強度で接着させることができるホットメルト型接着シートとすることができる。
更に、ホットメルト型接着シートの表裏面のいずれかにおいて、接着糸(A)により構成される面積と、接着糸(B)により構成される面積との合計を100%としたときに、接着糸(A)により構成される面積が60%以上である場合は、被着体が非極性材料であるか、極性材料であるかに合わせて、表裏面のいずれを接着面とするか選択することによって、被着体の極性に拘わらず、所要の強度で接着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、非極性材料を含有する接着糸(A)と、極性材料を含有する接着糸(B)とを用いた織物形態又は編物形態のホットメルト型接着シートであって、非極性材料及び極性材料のいずれもが接着時に熱溶融することを特徴とする。
【0014】
本発明のホットメルト型接着シートでは、接着時に、非極性材料及び極性材料のいずれもが熱溶融する。そして、極性材料が有する極性により、極性を有する樹脂、及び金属等の被着体に十分な強度で接着させることができる。一方、非極性材料では、化学構造によりもたらされる接着強度は大きくないかもしれないが、被着体が有する微小な凹凸等への非極性材料の侵入によるアンカー効果により接着性が十分に発現される。
【0015】
上述のような接着形態では、接着時に、非極性材料及び極性材料のいずれもが本発明のように熱溶融する必要がある。そのためには、非極性材料及び極性材料のいずれの融点も過度に高くないことが好ましく、非極性材料及び極性材料のいずれの融点も50~180℃、特に50~150℃であることが好ましい。また、非極性材料及び極性材料の各々の融点差が過大であると、高融点側の材料が溶融する温度では、低融点側の材料の流動性が高くなり過ぎ、接着部から流出してしまうことも有り得る。そのため、融点差は20℃以内、特に15℃以内であることが好ましい。
【0016】
非極性材料であるか極性材料であるかは、誘電率により表すことができる。誘電率については、工業調査会が発刊した「ユーザーのための高分子材料の物性評価技術」の191~192頁に記載されている。接着糸(A)に含有される非極性材料としては、周波数1kHzにおいて誘電率が3.0未満の材料を用いることができ、2.5以下が好ましい(通常、2.0以上であり、2.1以上が好ましい)。接着糸(B)に含有される極性材料としては、周波数1kHzにおいて誘電率が3.0以上の材料を用いることができ、3.5以上が好ましく、4.0以上がより好ましい(通常、15.0以下であり、13.0以下が好ましい)。
【0017】
更に、非極性材料の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィ
ン、ポリスチレン類などが挙げられる。また、極性材料の具体例としては、ポリアミド、ポリエステル等が挙げられる。
【0018】
接着糸(A)及び接着糸(B)を構成する繊維の形態は、特定の繊維長を有する短繊維であってもよく、極めて長尺の長繊維(連続繊維)であってもよい。長繊維である場合、織編物の織製又は編製に用いる糸としては、マルチフィラメント糸であっても、モノフィラメント糸であってもよい。更に、フラットヤーンと称されるフィルムを短冊状にカット(スリット)し、延伸することにより強度を付与した平坦な形状の糸であってもよい。
【0019】
また、接着糸(A)及び接着糸(B)としては多重構造の糸を用いることもできる。例えば、非極性材料及び極性材料のうち、接着成分となる一方の材料の融点が50~180℃であり、他方の材料の融点が一方の材料の融点より30℃以上高い多重構造の接着糸を用いることができる。このような融点差があることで、接着時、他方の材料の強度が維持され、被着体に接着されたホットメルト型接着シートに、皺、変形等を生じることがない。
【0020】
上述の多重構造の接着糸としては、例えば、鞘部が接着成分となる一方の材料により構成され、芯部が他方の材料により構成される芯鞘繊維が挙げられる。このような芯鞘繊維であれば、非極性材料と極性材料との融点差に応じて熱溶融させることで、各種の被着体を容易、且つ確実に接着させることができる。更に、接着時、融点が高く、溶融しない他方の材料によりホットメルト型接着シートの形状が十分に保持され、被着体に接着されたホットメルト型接着シートに、皺、変形等を生じることがない。
【0021】
また、非極性材料を含有する接着糸(A)の具体例としては、ポリエチレンとポリプロピレンとの剥離性複合繊維、結晶性ポリプロピレンからなる第1成分と、ポリエチレン或はエチレン酢酸ビニルコポリマー又はその鹸化物とポリエチレンとのポリマー混合物からなる第2成分からなる並列型、又は前述のような芯鞘型の熱融着性複合繊維、及び熱溶融性無水ポリビニルアルコールと疎水性熱可塑性樹脂とを混合し、溶融紡糸してなる熱可塑性繊維をバインダーとして用いた繊維などが挙げられる。
【0022】
非極性材料を含有する接着糸(A)としては、上述の各種の繊維の他、結晶性ポリプロピレンと線状低密度ポリエチレンとの混合物を芯部とし、線状低密度ポリエチレンを鞘部とした芯鞘型複合繊維、ポリプロピレンからなる芯部とポリプロピレンよりも融点の低い重合体からなる鞘部とを溶融紡糸して得られた未延伸糸を延伸してなる同心鞘芯型の熱接着性複合繊維、及び熱溶融成分がポリオレフィンからなり、少なくともこの熱溶融成分が表面に露出するように、他のポリオレフィンと複合化されたポリオレフィン系熱接着性複合繊維などを用いることもできる。
【0023】
更に、極性材料を含有する接着糸(B)の具体例としては、例えば、高軟化点熱可塑性ポリエステルと低軟化点熱可塑性ポリエステルとが多層となった自己融着性ポリエステル複合繊維、鞘部が融点140~180℃の共重合ポリエステル、芯部が鞘部より高融点であるポリアミドで構成された芯鞘繊維からなる熱接着性複合繊維、芯部が鞘部より高融点であるポリエステルにより構成された芯鞘繊維からなる熱接着性複合繊維などを用いることができる。
【0024】
また、ホットメルト型接着シートは、接着糸(A)と接着糸(B)とが撚られた糸を用いた織物形態又は編物形態とすることもできる。このように、撚糸を用いた織物形態又は編物形態とし、且つ非極性材料及び極性材料のいずれもが接着時に熱溶融する、更には非極性材料及び極性材料の融点がともに50~180℃であり、且つ各々の融点の差が20℃以内であるときは、強度が大きく、且つ被着体に接着されたホットメルト型接着シートに、皺、変形等を生じることがない。
【0025】
更に、本発明のホットメルト型接着シートでは、表裏面のいずれかにおいて、接着糸(A)により構成される面積と、接着糸(B)により構成される面積との合計を100%としたときに、接着糸(A)により構成される面積が60%以上であるホットメルト型接着シートとすることができる。この面積は60~80%とすることができ、80%を超えるときは、表裏面が非極性であるか極性であるかの差が過大となることがあり、この場合、非極性材料からなる被着体と、極性材料からなる被着体のうちの一方の被着体への接着性が低下してしまう恐れがあるため好ましくない。
【0026】
上述のような表裏面における極性が異なるホットメルト型接着シートは、被着体の極性に応じて、ホットメルト型接着シートの表裏面のうちのいずれの面を接着面とするか選択することができる。言い換えれば、リバーシブル構造を有するホットメルト型接着シートとすることができ、被着体の種類によらず十分な強度で接着させることができる。また、表裏面における極性が異なるホットメルト型接着シートとするために用いる接着糸(A)、接着糸(B)は特に限定されず、二重織、二重編とすることにより、接着糸(A)及び接着糸(B)のうちのいずれの接着糸を表面に多く表出させるか、裏面に多く表出させるかを、任意に設定することができ、接着糸(A)、接着糸(B)の種類によらず、リバーシブル構造を有するホットメルト型接着シートとすることができる。
【0027】
接着糸(A)及び接着糸(B)の各々の繊度は特に限定されず、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸、又は多重構造の糸であるか、ホットメルト型接着シートが織物であるか編物であるか、及びホットメルト型接着シートの用途などによって適宜の繊度の糸を用いればよい。
【0028】
尚、非極性材料及び極性材料が融点を有さない非晶性材料であるときは、融点に替えてガラス転移点の観点でホットメルト型接着シートを特定することもできる。即ち、非極性材料及び極性材料のいずれもが接着時に軟化、特に軟化し、流動し、接着することになる。この場合、非極性材料及び極性材料の各々のガラス転移点が所定の温度範囲内であり、且つガラス転移点の差が20℃以内であれば、被着体が極性材料であるか、非極性材料であるかを問わず、ホットメルト型接着シートを容易に接着させることができる。
【0029】
ホットメルト型接着シートは大別して織物又は編物により構成される。織物は、通常、経糸と緯糸とを相互に一定の角度で直線状に交錯させて織製し、布地としたものである。一方、編物は、1本又は2本以上の編糸で輪奈(ループ)を形成し、この輪奈に編糸を連続的にループさせて編製し、布地としたものであり、編糸を直線状に交錯させることなく、編目(ループ)を形成する。この基本動作を連続的に繰り返し、布地を編製した編物はニットと称される。織物形態又は編物形態のホットメルト型接着シートにおける織製方法及び編製方法は特に制限されず、一般的な方法をそのまま用いることができる。
【0030】
代表的な織物形態としては、平織、綾織、繻子織(朱子織)等があるが、この織物形態は特に限定されず、いずれの織物形態であってもよい。また、編物には鹿の子(かのこ)、天竺、所謂、メリヤス編等があるが、この編物形態は特に限定されず、いずれの編物形態であってもよい。
【0031】
更に、編物には、横編機、丸編機、縦編機で編製したものがあり、組織が平編、ゴム編、パール編からなる基本組織、タック編、浮き編、レース編、ペレリン編、添え糸編、パイル編、挿入編、インターシャ編等からなる変化組織、メッシュ柄、ヘーマン柄、亀甲柄、ジャカード柄等からなる柄編組織、リブ編組織とした編物があるが、この編物は特に限定されず、いずれを用いてもよい。
【0032】
また、従来、経糸と緯糸とを織製して織物とする織機としては、レピア織機、エアー織機、シャトル織機、ニードル織機及びドビー織機等の織機が知られている。これらの織機を用いて、織ネーム、マーク、ワッペン、テープ等の商品、表生地、裏生地等の和洋生地、帯、レース等の各種織物が生産されている。また、リバーシブル織物又はリバーシブル編物のように多層リバーシブルに織ったり編んだりする手段についても、特に限定されることはない。
【0033】
本発明のホットメルト型接着シートの用途は特に限定されず、各種の用途において用いることができる。例えば、ドアトリム、ルーフトリム等の車両用内装材、扉、壁、天井等の表皮材などの住宅用内装材、及び特に優れた意匠性等を要する家電機器用の表皮材などの製品分野において用いることができる。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、この実施例に何ら限定されるものではない。
(1)接着糸
接着糸(A)としては、ポリプロピレンを含有する接着糸(芯部に融点が167℃のホモポリプロピレン、鞘部に融点が127℃の低融点ポリプロピレンを用いた熱融着性芯鞘繊維(三菱ケミカル製、商品名「パイレン」、繊度;760dtex)を用いた。また、接着糸(B)としては、ポリアミドを含有する接着糸(融点が110℃の熱融着ナイロン繊維(東レ製、商品名「エルダー」、繊度;330dtex)を用いた。
【0035】
(2)接着糸の誘電率
接着糸(A)を、テフロン(登録商標)製の離型シートの上に載せて200℃の通風乾燥機で5分間加熱し、それを直ちに熱プレス機にセットし、温度140℃、圧力0.15MPaで30秒間加熱、加圧し、その後、冷却のために温度15℃、圧力0.15KPaで30秒間冷却、加圧して、円形のフィルム状の測定サンプル(直径が約5cm、厚さが1mm)を作製した。
次いで、接着糸(B)については、通風乾燥機の温度を150℃とし、熱プレス温度を130℃とした他は同様にして測定サンプルを作製した。
それぞれの誘電率を以下の条件で測定した結果、接着糸(A)は2.3、接着糸(B)は9.8であった。
・誘電率の測定方法:容量法
・測定装置:Agilegnt社製 インピーダンスアナライザー 4394A
・治具:誘電体テストフィクスチャー 16451B
・測定周波数:1kHz
・測定温度:23℃
【0036】
(3)ホットメルト型接着シートの接着性評価
実施例1~6及び比較例1~3のホットメルト型接着シートについて、接着性を下記の方法によって評価した。
極性被着体として、幅30mm、長さ150mm、厚さ2mmのアルミニウム板、非極性被着体として、アルミニウム板と同寸法のポリプロピレンシート(コロナ放電による表面処理を施した)を準備した。また、これらの被着体のそれぞれに対して、幅方向の中央部に、幅25mm、長さ250mmの寸法に切り出したホットメルト型接着シートの長さ方向の中央部の150mmの長さ部分を重ね合わせ、熱プレス機にセットし、温度160℃、圧力0.15MPaで30秒間加熱、加圧し、その後、冷却のために温度15℃、圧力0.15KPaで30秒間冷却、加圧して接着性評価用試片を作製した。
次いで、接着性評価用試片を23℃の雰囲気中に3時間放置し、その後、JIS K6854-2に準拠して、引張速度30mm/分で180度剥離試験をし、接着性を評価した。
【0037】
実施例1
接着糸(A)と接着糸(B)とを用いて二重織りにより市松模様となるように織製した織物形態のホットメルト型接着シートを製作した。格子の一辺の寸法は4mmであった。このホットメルト型接着シートの接着性を評価したところ、ポリプロピレンシートへの接着力は98N/m、アルミニウム板への接着力は270N/mであった。
【0038】
実施例2
格子の一辺の寸法が2mmであること以外は、実施例1と同様の織物形態のホットメルト型接着シートを製作して接着性を評価したところ、ポリプロピレンシートへの接着力は61N/m、アルミニウム板への接着力は250N/mであった。
【0039】
実施例3
接着糸(A)と接着糸(B)を用いて二重織りにより縞模様となるように織製した織物形態のホットメルト型接着シートを製作した。隣り合う縞の間隔は2mmであった。このホットメルト型接着シートの接着性を評価したところ、ポリプロピレンシートへの接着力は29N/m、アルミニウム板への接着力は160N/mであった。
【0040】
実施例4
織物形態のホットメルト型接着シートの接着面が、接着糸(A)が占める面積と接着糸(B)が占める面積との比率が2:1となるように、接着糸(A)からなる縞の幅が4mm、接着糸(B)の縞の幅が2mmとなるようにした他は、実施例3と同様にして織物形態のホットメルト型接着シートを製作した。この織物形態のホットメルト型接着シートの接着性を評価したところ、ポリプロピレンシートへの接着力は50N/m、アルミニウム板への接着力は130N/mであった。
【0041】
実施例5
接着糸(A)2本と接着糸(B)2本とを撚って一本の糸とし、この撚糸を用いて二重織りにより織物形態のホットメルト型接着シートを製作した。この織物形態のホットメルト型接着シートの接着性を評価したところ、ポリプロピレンシートへの接着力は48N/m、アルミニウム板への接着力は130N/mであった。
【0042】
実施例6
接着糸(A)と接着糸(B)とを用いて、表面と裏面との織物形態が異なる、即ち、リバーシブル構造となるように、昼夜織りによりホットメルト型接着シートを製作した。このホットメルト型接着性シートを、接着糸(A)が主体となる面をポリプロピレンシートと積層させて接着性を評価したところ、接着力は183N/mであった。また、接着糸(B)が主体となる面をアルミニウム板と積層させて接着性を評価したところ、接着力は515N/mであった。
【0043】
比較例1
接着糸(A)のみを用いて、実施例1と同様の織物形態のホットメルト型接着シートを製作した。この織物形態のホットメルト型接着シートの接着性を評価したところ、ポリプロピレンシートへの接着性は190N/mであったが、アルミニウムには接着しなかった。
【0044】
比較例2
接着糸(B)のみを使用して、実施例1と同様の織物形態のホットメルト型接着シートを製作した。この織物形態のホットメルト型接着シートの接着性を評価したところ、アルミニウム板への接着力は528N/mであったが、ポリプロピレンシートには接着しなかった。
【0045】
比較例3
接着糸(A)として、前記(1)接着糸に記載した熱融着性芯鞘繊維(三菱ケミカル製、商品名「パイレン」、繊度;760dtex)、接着糸(B)として、ポリエステルを含有する接着糸[融点が約255℃のポリエステル繊維(大貫繊維製、商品名「エースクラウン」、繊度333dtex]を用いて、実施例1と同様に、二重織りにより市松模様となるように織製した織物形態のホットメルト型接着シートを製作した。このホットメルト型接着シートの接着性を評価したところ、ポリプロピレンシートへの接着力は80N/mであったが、アルミニウム板には接着しなかった。即ち、非極性材料には接着させることができたものの、極性材料には接着させることができなかった。一方、熱プレス機にセットし、加熱温度を270℃にした他は実施例1と同様に加熱、加圧してホットメルト型接着シートを作製しようとしたが、溶融した接着糸(A)が過度に流動してしまうとともに、加熱温度が接着糸(B)の融点を超えているため、織物形態のホットメルト型接着シートが大きく変形してしまい、接着性の評価に供することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、車両用内装材、住宅用内装材、及び家電機器筐体等の、各種の基材と表皮材とが積層されてなる積層体の技術分野において利用することができる。