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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】圧縮着火式エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/04 20060101AFI20220817BHJP
   F02D 41/32 20060101ALI20220817BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20220817BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20220817BHJP
   F02B 11/00 20060101ALI20220817BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
F02D41/04
F02D41/32
F02D45/00 360E
F02D45/00 360A
F02D43/00 301E
F02D43/00 301B
F02D43/00 301H
F02D43/00 301K
F02B11/00 B
F02B23/10 320
F02B23/10 310E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018140635
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020016192
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松島 佑斗
(72)【発明者】
【氏名】東尾 理克
(72)【発明者】
【氏名】砂流 雄剛
(72)【発明者】
【氏名】高山 真二
(72)【発明者】
【氏名】氏原 健幸
(72)【発明者】
【氏名】増田 雄太
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087565(JP,A)
【文献】特開昭59-096452(JP,A)
【文献】特開2018-087566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00
F02D 43/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復するピストンによって容積が変化するように筒内に区画された複数の燃焼室と、
前記燃焼室の内部に供給する空気量を調整する空気調節部と、
前記燃焼室に臨むように配置された点火部と、
前記燃焼室の内部に燃料を噴射する燃料噴射部と、
を備え、
前記燃焼室の内部に燃料を噴射して形成される混合気に点火することにより、圧縮着火燃焼を開始させる圧縮着火式エンジンの制御装置であって、
大気圧を検知する大気圧検知手段とともに、前記燃焼室の内部に供給する空気の温度を検知する気温検知手段、又は、前記エンジンの冷却水の温度を検知する水温検知手段を含む複数の計測手段を有し、前記エンジンの運転に関係するパラメータを計測する計測部と、
前記空気調節部、前記燃料噴射部、前記点火部、及び前記計測部のそれぞれが接続されていると共に、前記計測部からの計測信号を受けて演算を行うと共に、前記空気調節部、前記燃料噴射部、及び前記点火部に信号を出力する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
空燃比が理論空燃比よりも大きい所定のリーン空燃比で前記圧縮着火燃焼を行う、リーン圧縮着火燃焼制御と、
空燃比が前記リーン空燃比より小さい所定のリッチ空燃比で前記圧縮着火燃焼を行う、リッチ圧縮着火燃焼制御と、
を実行し、
前記大気圧検知手段から出力される信号により、大気圧が所定のしきい値より低いと判定された場合に、前記リーン圧縮着火燃焼制御の実行を制限して、前記リッチ圧縮着火燃焼制御を実行するとともに、前記気温検知手段又は前記水温検知手段から出力される信号により、前記空気の温度又は前記冷却水の温度が所定の基準値より低いと判定された場合に、前記リーン圧縮着火燃焼制御の実行を制限して、前記リッチ圧縮着火燃焼制御を実行する、圧縮着火式エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記リッチ空燃比は、理論空燃比又は略理論空燃比である、圧縮着火式エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記空気の温度又は前記冷却水の温度が低くなるほど、前記しきい値が低くなるように設定されている、圧縮着火式エンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記制御部は、更に、
前記リッチ圧縮着火燃焼制御を実行する第1モード部と、
前記リーン圧縮着火燃焼制御を実行する第2モード部と、
切替要求を受けて前記第1モード部と前記第2モード部との間の切り替えを行う切替部と、
を有し、
前記切替部は、前記第1モード部から前記第2モード部への切替要求を受けた場合に、
空気量を増加させる空気増量処理と、
空気量の増加に応じて燃料量を増加させる燃料増量処理と、
燃料量の増加に応じて点火時期を遅角させるリタード処理と、
を実行する、圧縮着火式エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、圧縮着火式エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火炎伝播を介さずに混合気が一気に燃焼する圧縮自己着火による燃焼は、燃焼期間が最小であるために、燃費効率を最大限に高めることが知られている。しかしながら、圧縮自己着火による燃焼は、自動車用エンジンにおいては、様々な課題を解決する必要がある。例えば、自動車用途では、運転状態及び環境条件が大きく変化するため、その中で安定して圧縮自己着火させることが大きな課題である。自動車用エンジンにおいて、圧縮自己着火による燃焼は未だ実用化されていない。
【0003】
この課題を解決するために、例えば特許文献1には、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)燃焼が提案されている。SI燃焼は、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行うことにより開始する火炎伝播を伴う燃焼である。CI燃焼は、燃焼室の中の混合気が圧縮自己着火することにより開始する燃焼である。SPCCI燃焼は、燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行って、火炎伝播による燃焼を開始させると、SI燃焼の発熱及び火炎伝播による圧力上昇によって、燃焼室の中の未燃混合気が圧縮着火により燃焼する形態である。SPCCI燃焼は、CI燃焼を含んでいるため、「圧縮着火による燃焼」の一形態である。
【0004】
SPCCI燃焼におけるCI燃焼は、筒内温度が、混合気の組成により定まる着火温度に到達したときに起こる。圧縮上死点付近で筒内温度が着火温度に到達してCI燃焼が起これば燃費効率を最大化することができる。筒内温度は、筒内圧力の上昇に応じて高くなる。SPCCI燃焼における筒内圧力は、圧縮行程でのピストンの圧縮仕事による圧力上昇と、SI燃焼の発熱から生じる圧力上昇との二つの圧力上昇の結果である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/096744号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SPCCI燃焼は、圧縮着火による燃焼の一形態であるため、特許文献1にも記載されているように、混合気の空燃比を理論空燃比よりリーンにしても安定した燃焼が可能である。従って、SPCCI燃焼を行うエンジンでは、燃焼時にRawNOxがほとんど発生することがないうえに、高い熱効率が得られる、例えば25以上の空燃比(リーン空燃比)で安定した運転が可能になる。
【0007】
ところが、エンジンは様々な環境の下で使用される。例えば、山越え走行や標高の高い高地での走行などにも用いられる。そのため、SPCCI燃焼を行うエンジンは、大気圧が通常よりも低い、偏った条件の下でも安定した燃焼性能が求められる。
【0008】
それに対し、上述したようなリーン空燃比でSPCCI燃焼を行っているときに、大気圧が大きく低下すると、空気が燃焼室に入り難くなる。特に、空気は、エアクリーナーやスロットル弁などの装置が設置された比較的長い吸気通路を通じて燃焼室に導入されるため、燃焼室に直接噴射される燃料と比べると、制御に対する応答性が低い。
【0009】
その結果、リーン空燃比となるように制御しても、空燃比がリッチ側に偏り易くなる。空燃比がリッチ側に偏ると、SI燃焼での燃焼速度が高くなって、CI燃焼の開始時期が進角し、燃焼騒音が増加する傾向がある。RawNOxが発生するおそれもある。
【0010】
燃焼騒音の増加を抑制するために、従来行われているように、点火時期を遅角することも考えられるが、そうすると、熱効率が低下するため、SPCCI燃焼本来の意義を損なうことになる。
【0011】
ここで開示する技術は、過酷な条件下でも、熱効率に優れた燃焼を安定して行えるようにすることを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示する技術は、往復するピストンによって容積が変化するように筒内に区画された複数の燃焼室と、前記燃焼室の内部に供給する空気量を調整する空気調節部と、前記燃焼室に臨むように配置された点火部と、前記燃焼室の内部に燃料を噴射する燃料噴射部と、を備え、前記燃焼室の内部に燃料を噴射して形成される混合気に点火することにより、圧縮着火燃焼を開始させる圧縮着火式エンジンの制御装置に関する。
【0013】
前記制御装置は、大気圧を検知する大気圧検知手段を含む複数の計測手段を有し、前記エンジンの運転に関係するパラメータを計測する計測部と、前記空気調節部、前記燃料噴射部、前記点火部、及び前記計測部のそれぞれが接続されていると共に、前記計測部からの計測信号を受けて演算を行うと共に、前記空気調節部、前記燃料噴射部、及び前記点火部に信号を出力する制御部と、を備える。
【0014】
前記制御部は、空燃比が理論空燃比よりも大きい所定のリーン空燃比で前記圧縮着火燃焼を行う、リーン圧縮着火燃焼制御を実行し、前記大気圧検知手段から出力される信号により、大気圧が所定のしきい値より低いと判定された場合に、前記リーン圧縮着火燃焼制御の実行を制限する。
【0015】
すなわち、この圧縮着火式エンジンの制御装置によれば、燃焼室の内部に燃料を噴射して形成される混合気に点火することにより、圧縮着火燃焼を開始させる。すなわちSPCCI燃焼を行う。そして、制御部は、空燃比が理論空燃比よりも大きい所定のリーン空燃比で圧縮着火燃焼を行うので、燃焼時にRawNOxをほとんど発生させることなく、高い熱効率を得ることができる。
【0016】
そして、大気圧が過度に低い状況下で、リーン空燃比による圧縮着火燃焼を行うと、上述したように、空燃比がリッチ側に偏って、RawNOxが発生したり燃焼騒音が増加したりするおそれがあるが、この制御装置では、大気圧を検知する大気圧検知手段を含む計測部を備えており、その大気圧検知手段から出力される信号により、大気圧が所定のしきい値より低いと判定された場合に、リーン圧縮着火燃焼制御の実行を制限する。
【0017】
従って、この制御装置によれば、RawNOxの発生や燃焼騒音の増加を未然に防止することができる。燃焼騒音を抑制するために、点火時期を遅角しなくてもよいので、熱効率の低下も回避でき、SPCCI燃焼による優れた燃費も維持できる。
【0018】
前記制御部は、空燃比が前記リーン空燃比より小さい所定のリッチ空燃比で前記圧縮着火燃焼を行う、リッチ圧縮着火燃焼制御を、更に実行し、前記大気圧検知手段から出力される信号により、大気圧が前記しきい値より低いと判定された場合に、前記リッチ圧縮着火燃焼制御を実行する、としてもよい。
【0019】
リーン空燃比より小さいリッチ空燃比で圧縮着火燃焼を行う場合、燃料量を、それだけ増加させることができる。それにより、高負荷な運転領域など、リーン空燃比では実行が困難な、広い運転領域において点火による圧着着火燃焼、すなわちSPCCI燃焼が可能になる。従って、燃費の向上が図れる。
【0020】
前記リッチ空燃比は、理論空燃比又は略理論空燃比である、としてもよい。
【0021】
そうすれば、三元触媒の利用により、排気ガス中のNOxの浄化が可能になるので、リッチ空燃比であっても、高度な排気エミッション性能を確保できる。
【0022】
前記計測部は、更に、前記燃焼室の内部に供給する空気の温度を検知する気温検知手段、又は、前記エンジンの冷却水の温度を検知する水温検知手段を有し、前記制御部が、前記気温検知手段又は前記水温検知手段から出力される信号により、前記空気の温度又は前記冷却水の温度が所定の基準値より低いと判定された場合に、前記リーン圧縮着火燃焼制御の実行を制限して、前記前記リッチ圧縮着火燃焼制御を実行する、としてもよい。
【0023】
燃焼室の内部に供給する空気(吸気)の温度、あるいはエンジンの冷却水の温度が低いと、燃焼室の壁温も低くなる。燃焼室の壁温が低くなると、主に燃焼室の周辺部位で生じるCI燃焼が不安定になり易い。特に、空燃比が大きいリーン空燃比で圧縮着火燃焼を行う場合、よりいっそうCI燃焼が不安定になり易い。
【0024】
従って、吸気又はエンジン冷却水の温度が所定の基準値より低いと判定された場合に、リーン圧縮着火燃焼制御の実行を制限して、リッチ圧縮着火燃焼制御を実行すると、そのような不具合を回避することができ、安定したSPCCI燃焼による運転が実現できる。
【0025】
前記空気の温度又は前記冷却水の温度が低くなるほど、前記しきい値が低くなるように設定されている、としてもよい。
【0026】
吸気やエンジン冷却水の温度が低くなると、それに伴って燃焼時の混合気の温度も低くなる。それにより、CI燃焼が抑制されて燃焼騒音が小さくなる。従って、空燃比がリッチ側に偏って、燃焼騒音が増加し易くなったとしても、燃焼騒音が小さくなることとの相殺により、許容できるようになる。従って、しきい値を低くすることが可能になる。しきい値を低くすれば、それだけ燃費を確保できる。
【0027】
前記制御部は、更に、前記リッチ圧縮着火燃焼制御を実行する第1モード部と、前記リーン圧縮着火燃焼制御を実行する第2モード部と、切替要求を受けて前記第1モード部と前記第2モード部との間の切り替えを行う切替部と、を有し、前記切替部は、前記第1モード部から前記第2モード部への切替要求を受けた場合に、空気量を増加させる空気増量処理と、空気量の増加に応じて燃料量を増加させる燃料増量処理と、燃料量の増加に応じて点火時期を遅角させるリタード処理と、を実行する、としてもよい。
【0028】
すなわち、このような切替時には、切替前後の空気量と燃料量との差に起因して、RawNOxの発生や燃焼の安定性の低下といった課題がある。それに対し、このような空気増量処理、燃料増量処理、及びリタード処理を実行することで、詳細は後述するが、RawNOxの発生を抑制しながら安定した燃焼を確保しながら円滑な切り替えが実現できる。
【発明の効果】
【0029】
開示する技術によれば、過酷な条件下でも、熱効率に優れた燃焼を安定して行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、エンジンの構成を例示する図である。
図2図2は、燃焼室の構成を例示する図であり、上図は燃焼室の平面視相当図、下図はII-II線断面図である。
図3図3は、燃焼室及び吸気系の構成を例示する平面図である。
図4図4は、エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
図5図5は、SPCCI燃焼の波形を例示する図である。
図6図6は、エンジンのマップを例示する図であり、上図は温間時のマップ、中図は半暖機時のマップ、下図は冷間時のマップである。
図7図7は、温間時のマップの詳細を例示する図である。
図8図8は、エンジンのマップのレイヤ構造を説明する図である。
図9A図9Aは、マップのレイヤ選択に係る制御プロセスを例示するフローチャートである。
図9B】大気圧しきい値と、エンジン水温又は吸気温との関係を例示する図である。
図10図10は、図9Aとは異なる、マップのレイヤ選択に係る制御プロセスを例示するフローチャートである。
図11図11の上図は、大気圧とエンジン水温しきい値との関係を例示する図、図11の下図は、大気圧と吸気温しきい値との関係を例示する図である。
図12図12は、エンジンの基本制御を例示するフローチャートである。
図13図13は、レイヤ2とレイヤ3との間の切り替えに係る、ECUの機能ブロックの構成例を例示する図である。
図14図14は、レイヤ2からレイヤ3への切り替えに係る制御を例示するフローチャートである。
図15図15は、リタード限界トルクの算出手順を説明する図である。
図16図16は、リッチ限界トルクの算出手順を説明する図である。
図17図17は、レイヤ3からレイヤ2への切り替えに係る制御を例示するフローチャートである。
図18図18は、レイヤ2からレイヤ3への切り替え時における各パラメータの変化を例示するタイムチャートである。
図19図19は、レイヤ2からレイヤ3への切り替え時における各パラメータの変化を例示するタイムチャートである。
図20図20は、レイヤ3からレイヤ2への切り替え時における各パラメータの変化を例示するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、圧縮着火式エンジンの制御装置に関する実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明は、エンジン、及び、エンジンの制御装置の一例である。
【0032】
図1は、圧縮着火式のエンジンの構成を例示する図である。図2は、エンジンの燃焼室の構成を例示する図である。図3は、燃焼室及び吸気系の構成を例示する図である。尚、図1における吸気側は紙面左側であり、排気側は紙面右側である。図2及び図3における吸気側は紙面右側であり、排気側は紙面左側である。図4は、エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
【0033】
エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。燃料は、少なくともガソリンを含む液体燃料であればよい。燃料は、例えばバイオエタノール等を含むガソリンであってもよい。
【0034】
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
【0035】
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
【0036】
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から、後述するインジェクタ6の噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
【0037】
ピストン3の上面は燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、この構成例では、浅皿形状を有している。キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側にずれている。
【0038】
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。しかし、このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(つまり、圧縮端温度)を高くする必要がない。エンジン1は、幾何学的圧縮比を、比較的低く設定することが可能である。幾何学的圧縮比を低くすると、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度の低オクタン価燃料)においては、14~17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度の高オクタン価燃料)においては、15~18としてもよい。
【0039】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、図3に示すように、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182を有している。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
【0040】
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
【0041】
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、図3に示すように、第1排気ポート191及び第2排気ポート192を有している。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
【0042】
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図4に示すように、可変動弁機構は、排気電動S-VT24を有している。排気電動S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
【0043】
吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを長くすると、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することができる。また、オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入することができる。内部EGRシステムは、吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24によって構成されている。尚、内部EGRシステムは、S-VTによって構成されるとは限らない。
【0044】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃料噴射部の一例である。インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。図2に示すように、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に位置している。インジェクタ6の噴射軸心X2は、中心軸X1に平行である。インジェクタ6の噴射軸心X2とキャビティ31の中心とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。尚、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その構成の場合に、インジェクタ6の噴射軸心X2と、キャビティ31の中心とは一致していてもよい。
【0045】
インジェクタ6(燃料噴射部を構成)は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、本構成例においては、十個の噴孔を有しており、噴孔は、周方向に等角度に配置されている。
【0046】
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能である。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
【0047】
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25(点火部を構成)が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、この構成例では、シリンダ11の中心軸X1よりも吸気側に配設されている。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、図2に示すように、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。尚、点火プラグ25を、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に配置してもよい。また、点火プラグ25をシリンダ11の中心軸X1上に配置してもよい。
【0048】
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入するガスは、吸気通路40を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、新気を濾過する。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
【0049】
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43(空気調整部を構成)は、弁の開度を調節することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。
【0050】
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入するガスを過給する。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
【0051】
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。
【0052】
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却する。インタークーラー46は、例えば水冷式又は油冷式に構成してもよい。
【0053】
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
【0054】
ECU10は、過給機44をオフにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
【0055】
過給機44をオンにすると、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44をオンにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を接続したとき)に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入するガスの過給圧が変わる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
【0056】
この構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。
【0057】
エンジン1は、燃焼室17内にスワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール発生部は、図3に示すように、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、第1吸気ポート181につながるプライマリ通路401と、第2吸気ポート182につながるセカンダリ通路402との内の、セカンダリ通路402に配設されている。スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路402の断面を絞ることができる開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、第1吸気ポート181から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に多くかつ、第2吸気ポート182から燃焼室17に流入する吸気流量が相対的に少ないから、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、第1吸気ポート181及び第2吸気ポート182のそれぞれから燃焼室17に流入する吸気流量が、略均等になるから、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流が発生しない。尚、スワール流は、白抜きの矢印で示すように、図3における反時計回り方向に周回する(図2の白抜きの矢印も参照)。
【0058】
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。
【0059】
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
【0060】
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流部に接続されている。EGR通路52を流れるEGRガスは、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40における過給機44の上流部に入る。
【0061】
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGR弁54の開度を調節することによって、冷却した排気ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調節することができる。
【0062】
この構成例において、EGRシステム55は、外部EGRシステムと、内部EGRシステムとによって構成されている。外部EGRシステムは、内部EGRシステムよりも低温の排気ガスを、燃焼室17に供給することができる。
【0063】
図1及び図4において、符号57は、クランクシャフト15に連結されたオルタネータ57である。オルタネータ57は、エンジン1によって駆動される。後述するECU10は、オルタネータ57の負荷を高くすることによって、エンジン1の出力するトルクを調節することができる。
【0064】
圧縮着火式エンジンの制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図4に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU10は、制御部の一例である。
【0065】
ECU10には、図1及び図4に示すように、各種のセンサSW1~SW17が接続されている。センサSW1~SW17は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。センサSW1~SW1の各々は計測手段の一例である。これら計測手段によってエンジン1の運転状態に関係するパラメータを計測する計測部が構成されている。
【0066】
エアフローセンサSW1:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する
第1吸気温度センサSW2:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する
第1圧力センサSW3:吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を計測する
第2吸気温度センサSW4:吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の接続位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を計測する
第2圧力センサSW5:サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を計測する
指圧センサSW6:各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力を計測する
排気温度センサSW7:排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を計測する
リニアOセンサSW8:排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を計測する
ラムダOセンサSW9:上流の触媒コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を計測する
水温センサSW10:エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を計測する
クランク角センサSW11:エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を計測する
アクセル開度センサSW12:アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する
吸気カム角センサSW13:エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を計測する
排気カム角センサSW14:エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を計測する
EGR差圧センサSW15:EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧を計測する
燃圧センサSW16:燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を計測する
第3吸気温度センサSW17:サージタンク42に取り付けられかつ、サージタンク42内のガスの温度、換言すると燃焼室17に導入される吸気の温度を計測する。
【0067】
尚、第1圧力センサSW3は「大気圧検知手段」を構成し、第3吸気温度センサSW17は「気温検知手段」を構成し、水温センサSW10は「水温検知手段」を構成する。
【0068】
ECU10は、これらのセンサSW1~SW17の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。制御ロジックは、メモリ102に記憶しているマップを用いて、目標量及び/又は制御量を演算することを含む。
【0069】
ECU10は、演算をした制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、スワールコントロール弁56、及び、オルタネータ57に出力する。
【0070】
例えば、ECU10は、アクセル開度センサSW12の信号とマップとに基づいて、エンジン1の目標トルクを設定すると共に、目標過給圧を決定する。そして、ECU10は、目標過給圧と、第1圧力センサSW3及び第2圧力センサSW5の信号から得られる過給機44の前後差圧とに基づいて、エアバイパス弁48の開度を調節するフィードバック制御を行うことにより、過給圧が目標過給圧となるようにする。
【0071】
また、ECU10は、エンジン1の運転状態とマップとに基づいて目標EGR率(つまり、燃焼室17の中の全ガスに対するEGRガスの比率)を設定する。そして、ECU10は、目標EGR率とアクセル開度センサSW12の信号に基づく吸入空気量とに基づき目標EGRガス量を決定すると共に、EGR差圧センサSW15の信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調節するフィードバック制御を行うことにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量が目標EGRガス量となるようにする。
【0072】
さらに、ECU10は、所定の制御条件が成立しているときに空燃比フィードバック制御を実行する。具体的にECU10は、リニアOセンサSW8、及び、ラムダOセンサSW9が計測した排気中の酸素濃度に基づいて、混合気の空燃比が所望の値となるように、インジェクタ6の燃料噴射量を調節する。
【0073】
尚、その他のECU10によるエンジン1の制御の詳細は、後述する。
【0074】
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、所定の運転状態のときに、圧縮自己着火による燃焼を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
【0075】
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする形態である。
【0076】
SI燃焼の発熱量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、混合気を目標のタイミングで自己着火させることができる。
【0077】
SPCCI燃焼において、SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、図5に例示するように、立ち上がりの傾きが、CI燃焼の波形における立ち上がりの傾きよりも小さくなる。また、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
【0078】
SI燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火すると、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化する場合がある。熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングθciで、変曲点Xを有する場合がある。
【0079】
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。しかし、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時の圧力変動(dp/dθ)も、比較的穏やかになる。
【0080】
圧力変動(dp/dθ)は、燃焼騒音を表す指標として用いることができる。前述の通りSPCCI燃焼は、圧力変動(dp/dθ)を小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。エンジン1の燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えられる。
【0081】
CI燃焼が終了することによって、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。
【0082】
SPCCI燃焼の熱発生率波形は、SI燃焼によって形成された第1熱発生率部QSIと、CI燃焼によって形成された第2熱発生部QCIと、が、この順番に連続するように形成されている。
【0083】
ここで、SPCCI燃焼の特性を示すパラメータとして、SI率を定義する。SI率は、SPCCI燃焼により発生した全熱量に対し、SI燃焼により発生した熱量の割合に関係する指標と定義する。SI率は、燃焼形態の相違する二つの燃焼によって発生する熱量比率である。SI率が高いと、SI燃焼の割合が高く、SI率が低いと、CI燃焼の割合が高い。SI率は、CI燃焼により発生した熱量に対するSI燃焼により発生した熱量の比率と定義してもよい。つまり、SPCCI燃焼において、CI燃焼が開始するクランク角をCI燃焼開始時期θciとして、図5に示す波形801において、θciよりも進角側であるSI燃焼の面積QSIと、θciを含む遅角側であるCI燃焼の面積QCIとから、SI率=QSI/QCIとしてもよい。
【0084】
エンジン1は、SPCCI燃焼を行うときに、燃焼室17内に強いスワール流を発生させる場合がある。より詳細に、エンジン1は、理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させるときに、燃焼室17内に強いスワール流を発生させる。強いスワール流とは、例えば4以上のスワール比を有する流れと定義してもよい。スワール比は、吸気流横方向角速度をバルブリフト毎に測定して積分した値を、エンジン角速度で除した値と定義することができる。吸気流横方向角速度は、図示を省略するが、公知のリグ試験装置を用いた測定に基づいて、求めることができる。
【0085】
燃焼室17内に強いスワール流を発生させると、燃焼室17の外周部は強いスワール流れとなる一方、中央部のスワール流は相対的に弱くなる。強いスワール流が形成された燃焼室17内にインジェクタ6が燃料を噴射することにより、燃焼室17の中央部の混合気は燃料が相対的に濃く、外周部の混合気は燃料が相対的に薄くなって、混合気を成層化することができる。
【0086】
(エンジンの運転領域)
図6及び図7は、エンジン1の制御に係るマップを例示している。マップは、ECU10のメモリ102に記憶されている。マップは、三種類のマップ501、マップ502、マップ503を含んでいる。ECU10は、燃焼室17の壁温(又はエンジン水温)及び吸気の温度それぞれの高低、並びに、大気圧に応じて、三種類のマップ501、502、503の中から選択したマップを、エンジン1の制御に用いる。尚、三種類のマップ501、502、503の選択についての詳細は、後述する。
【0087】
第一マップ501は、エンジン1の、いわば温間時のマップである。第二マップ502は、エンジン1の、いわば半暖機時のマップである。第三マップ503は、エンジン1の、いわば冷間時のマップである。
【0088】
各マップ501、502、503は、エンジン1の負荷及び回転数によって規定されている。第一マップ501は、負荷の高低及び回転数の高低に対し、大別して三つの領域に分かれる。具体的に、三つの領域は、アイドル運転を含みかつ、低回転及び中回転の領域に広がる低負荷領域A1、低負荷領域A1よりも負荷が高い中高負荷領域A2、A3、A4、及び、低負荷領域A1、中高負荷領域A2、A3、A4よりも回転数の高い高回転領域A5である。中高負荷領域A2、A3、A4はまた、中負荷領域A2と、中負荷領域A2よりも負荷が高い高負荷中回転領域A3と、高負荷中回転領域A3よりも回転数の低い高負荷低回転領域A4とに分かれる。
【0089】
第二マップ502は、大別して二つの領域に分かれる。具体的に、二つの領域は、低中回転領域B1、B2、B3、及び、低中回転領域B1、B2、B3よりも回転数の高い高回転領域B4である。低中回転領域B1、B2、B3はまた、前記低負荷領域A1及び中負荷領域A2に相当する低中負荷領域B1と、高負荷中回転領域B2と、高負荷低回転領域B3とに分かれる。
【0090】
第三マップ503は、複数の領域に分かれておらず、一つの領域C1のみを有している。
【0091】
ここで、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の略三等分にしたときの、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域としてもよい。図6の例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上N2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm程度、回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。
【0092】
また、低負荷領域は、軽負荷の運転状態を含む領域、高負荷領域は、全開負荷の運転状態を含む領域、中負荷は、低負荷領域と高負荷領域との間の領域としてもよい。また、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を負荷方向に、低負荷領域、中負荷領域及び高負荷領域の略三等分にしたときの、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域としてもよい。
【0093】
図6のマップ501、502、503はそれぞれ、各領域における混合気の状態及び燃焼形態を示している。図7のマップ504は、第一マップ501に相当し、当該マップにおける、各領域における混合気の状態及び燃焼形態と、各領域におけるスワールコントロール弁56の開度と、過給機44の駆動領域及び非駆動領域と、を示している。エンジン1は、低負荷領域A1、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、及び、高負荷低回転領域A4、並びに、低中負荷領域B1、高負荷中回転領域B2、及び、高負荷低回転領域B3において、SPCCI燃焼を行う。エンジン1はまた、それ以外の領域、具体的には、高回転領域A5、高回転領域B4、及び、領域C1においては、SI燃焼を行う。
【0094】
(各領域におけるエンジンの運転)
以下、図7のマップ504の各領域におけるエンジン1の運転について詳細に説明をする。
【0095】
(低負荷領域)
エンジン1が低負荷領域A1において運転しているときに、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
【0096】
エンジン1の燃費性能を向上させるために、EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。具体的に、吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。燃焼室17から吸気ポート18及び排気ポート19に排出した排気ガスの一部は、燃焼室17の中に再導入される。燃焼室17の中に熱い排気ガスを導入するため、燃焼室17の中の温度が高くなる。SPCCI燃焼の安定化に有利になる。尚、吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、吸気弁21及び排気弁22の両方を閉弁するネガティブオーバーラップ期間を設けてもよい。
【0097】
また、スワール発生部は、燃焼室17の中に、強いスワール流を形成する。スワール比は、例えば4以上である。スワールコントロール弁56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。前述したように、吸気ポート18はタンブルポートであるため、燃焼室17の中には、タンブル成分とスワール成分とを有する斜めスワール流が形成される。
【0098】
インジェクタ6は、吸気行程中に、燃料を複数回、燃焼室17の中に噴射する。複数回の燃料噴射と、燃焼室17の中のスワール流とによって、混合気は成層化する。
【0099】
燃焼室17の中央部における混合気の燃料濃度は、外周部の燃料濃度よりも濃い。具体的に、中央部の混合気のA/Fは、20以上30以下であり、外周部の混合気のA/Fは、35以上である。尚、空燃比の値は、点火時における空燃比の値であり、以下の説明においても同じである。点火プラグ25に近い混合気のA/Fを20以上30以下にすることにより、SI燃焼時のRawNOxの発生を抑制することができる。また、外周部の混合気のA/Fを35以上にすることで、CI燃焼が安定化する。
【0100】
混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比よりもリーンである(つまり、空気過剰率λ>1、「リーン空燃比」)。より詳細に、燃焼室17の全体において混合気のA/Fは25以上31以下である。すなわち、ECU10は、低負荷領域A1において、リーン空燃比でSPCCI燃焼を行うように制御する(リーン圧縮着火燃焼制御)。こうすることで、RawNOxの発生を抑制することができ、排出ガス性能を向上させることができる。
【0101】
燃料噴射の終了後、圧縮上死点前の所定のタイミングで、点火プラグ25は、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする。点火タイミングは、圧縮行程の終期としてもよい。圧縮行程の終期は、圧縮行程を、初期、中期、及び終期に三等分したときの終期としてもよい。
【0102】
前述したように、中央部の混合気は燃料濃度が相対的に高いため、着火性が向上すると共に、火炎伝播によるSI燃焼が安定化する。SI燃焼が安定化することによって、適切なタイミングで、CI燃焼が開始する。SPCCI燃焼において、CI燃焼のコントロール性が向上する。燃焼騒音の発生が抑制される。また、混合気のA/Fを理論空燃比よりもリーンにしてSPCCI燃焼を行うことによって、エンジン1の燃費性能を、大幅に向上させることができる。尚、低負荷領域A1は、後述するレイヤ3に対応する。レイヤ3は、軽負荷運転領域まで広がっていると共に、最低負荷運転状態を含んでいる。
【0103】
(中高負荷領域)
エンジン1が中高負荷領域A2~A4において運転しているときも、エンジン1は、低負荷領域A1と同様に、SPCCI燃焼を行う。
【0104】
EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。具体的に、吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。内部EGRガスが、燃焼室17の中に導入される。また、EGRシステム55は、EGR通路52を通じて、EGRクーラー53によって冷却した排気ガスを、燃焼室17の中に導入する。つまり、内部EGRガスに比べて温度が低い外部EGRガスを、燃焼室17の中に導入する。外部EGRガスは、燃焼室17の中の温度を、適切な温度に調節する。EGRシステム55は、エンジン1の負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。EGRシステム55は、全開負荷において、内部EGRガス及び外部EGRガスを含むEGRガスを、ゼロにしてもよい。
【0105】
また、中高負荷領域A2及び高負荷中回転領域A3において、スワールコントロール弁56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。一方、高負荷低回転領域A4において、スワールコントロール弁56は開である。
【0106】
エンジン1が中高負荷領域A2及び高負荷中回転領域A3において運転するときの混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比又は略理論空燃比(A/F≒14.7、「リッチ空燃比」)である。すなわち、ECU10は、中高負荷領域A2及び高負荷中回転領域A3において、リッチ空燃比でSPCCI燃焼を行うように制御する(リッチ圧縮着火燃焼制御)。三元触媒511、513が、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することによって、エンジン1の排出ガス性能は良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2としてもよい。尚、エンジン1が、全開負荷(つまり、最高負荷)を含む高負荷中回転領域A3において運転しているときには、混合気のA/Fは、燃焼室17の全体において理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチにしてもよい(つまり、混合気の空気過剰率λは、λ≦1)。
【0107】
燃焼室17内にEGRガスを導入しているため、燃焼室17の中の全ガスと燃料との重量比であるG/Fは理論空燃比よりもリーンになる。混合気のG/Fは18以上にしてもよい。こうすることで、いわゆるノッキングの発生を回避することができる。G/Fは18以上30以下において設定してもよい。また、G/Fは18以上50以下において設定してもよい。
【0108】
エンジン1の負荷が中負荷であるときに、インジェクタ6は、吸気行程中に、複数回の燃料噴射を行う。インジェクタ6は、第一噴射を吸気行程の前半に行い、第二噴射を吸気行程の後半に行ってもよい。
【0109】
また、エンジン1の負荷が高負荷であるときに、インジェクタ6は、吸気行程において燃料を噴射する。
【0110】
点火プラグ25は、燃料の噴射後、圧縮上死点付近の所定のタイミングで混合気に点火をする。エンジン1の負荷が中負荷であるときに、点火プラグ25は、圧縮上死点前に点火を行ってもよい。エンジン1の負荷が高負荷であるときに、点火プラグ25は、圧縮上死点後に点火を行ってもよい。
【0111】
混合気のA/Fを理論空燃比にしてSPCCI燃焼を行うことによって、三元触媒511、513を利用して、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することができる。また、EGRガスを燃焼室17に導入して混合気を希釈化することによって、エンジン1の燃費性能が向上する。尚、中高負荷領域A2、A3、A4は、後述するレイヤ2に対応する。レイヤ2は、高負荷領域まで広がっていると共に、最高負荷運転状態を含んでいる。
【0112】
(過給機の動作)
ここで、図7のマップ504に示すように、低負荷領域A1の一部、及び、中高負荷領域A2の一部においては、過給機44はオフである(S/C OFF参照)。詳細には、低負荷領域A1における低回転側の領域において、過給機44はオフである。低負荷領域A1における高回転側の領域においては、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44はオンである。また、中高負荷領域A2における低負荷低回転側の一部の領域において、過給機44はオフである。中高負荷領域A2における高負荷側の領域においては、燃料噴射量が増えることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44はオンである。また、中高負荷領域A2における高回転側の領域においても過給機44はオンである。
【0113】
尚、高負荷中回転領域A3、高負荷低回転領域A4、及び、高回転領域A5の各領域においては、その全域において過給機44がオンである(S/C ON参照)。
【0114】
(高回転領域)
エンジン1の回転数が高いと、クランク角が1°変化するのに要する時間が短くなる。燃焼室17内において混合気を成層化することが困難になる。エンジン1の回転数が高くなると、SPCCI燃焼を行うことが困難になる。
【0115】
そこで、エンジン1が高回転領域A5において運転しているときに、エンジン1は、SPCCI燃焼ではなく、SI燃焼を行う。尚、高回転領域A5は、低負荷から高負荷まで負荷方向の全域に広がっている。
【0116】
EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。EGRシステム55は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。EGRシステム55は、全開負荷では、EGRガスをゼロにしてもよい。
【0117】
スワールコントロール弁56は、全開である。燃焼室17内にはスワール流が発生せず、タンブル流のみが発生する。スワールコントロール弁56を全開にすることによって、充填効率を高めることができると共に、ポンプ損失を低減することが可能になる。
【0118】
混合気の空燃比(A/F)は、基本的には、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F≒14.7)である。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。尚、エンジン1が全開負荷の付近において運転しているときには、混合気の空気過剰率λは1未満であってもよい。
【0119】
インジェクタ6は、吸気行程中に燃料噴射を開始する。インジェクタ6は、燃料を一括で噴射する。吸気行程中に燃料噴射を開始することによって、燃焼室17の中に、均質又は略均質な混合気が形成される。また、燃料の気化時間を長く確保することができるため、未燃損失の低減を図ることもできる。
【0120】
点火プラグ25は、燃料の噴射終了後、圧縮上死点前の適宜のタイミングで、混合気に点火を行う。
【0121】
(マップのレイヤ構造)
図6に示すエンジン1のマップ501、502、503は、図8に示すように、レイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3の三つのレイヤの組み合わせによって構成されている。
【0122】
レイヤ1は、ベースとなるレイヤである。レイヤ1は、エンジン1の運転領域の全体に広がる。レイヤ1は、第三マップ503の全体に相当する。
【0123】
レイヤ2は、レイヤ1の上に重なるレイヤである。レイヤ2は、エンジン1の運転領域の一部に相当する。具体的にレイヤ2は、第二マップ502の低中回転領域B1、B2、B3に相当する。
【0124】
レイヤ3は、レイヤ2の上に重なるレイヤである。レイヤ3は、第一マップ501の低負荷領域A1に相当する。
【0125】
レイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3は、燃焼室17の壁温(又はエンジン水温)及び吸気の温度それぞれの高低と、大気圧とに応じて選択される。
【0126】
大気圧が所定の大気圧しきい値(例えば95kPa)以上であって、燃焼室17の壁温が第1所定壁温(例えば80℃)以上でかつ、吸気温が第1所定吸気温(例えば50℃)以上のときには、レイヤ1とレイヤ2とレイヤ3とが選択され、これらレイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3を重ねることにより第一マップ501が構成される。第一マップ501における低負荷領域A1は、そこにおいて最上位のレイヤ3が有効になり、中高負荷領域A2、A3、A4は、そこにおいて最上位のレイヤ2が有効になり、高回転領域A5は、レイヤ1が有効になる。
【0127】
燃焼室17の壁温が第1所定壁温未満、第2所定壁温(例えば30℃)以上でかつ、吸気温が第1所定吸気温未満、第2所定吸気温(例えば25℃)以上のときには、レイヤ1とレイヤ2とが選択される。これらレイヤ1及びレイヤ2を重ねることにより第二マップ502が構成される。第二マップ502における低中回転領域B1、B2、B3は、そこにおいて最上位のレイヤ2が有効になり、高回転領域B4は、レイヤ1が有効になる。
【0128】
燃焼室17の壁温が第2所定壁温未満でかつ、吸気温が第2所定吸気温未満のときには、レイヤ1のみが選択されて、第三マップ503が構成される。
【0129】
尚、燃焼室17の壁温は、例えば,水温センサSW10によって計測されるエンジン1の冷却水の温度によって代用してもよい。また、冷却水の温度や、その他の計測信号に基づいて、燃焼室17の壁温を推定してもよい。また、吸気温は、例えば、サージタンク42内の温度を計測する第3吸気温度センサSW17によって計測することができる。また、各種の計測信号に基づいて、燃焼室17の中に導入される吸気温を推定してもよい。
【0130】
前述したようにSPCCI燃焼は、燃焼室17内に強いスワール流を発生させて行う。SI燃焼は、燃焼室17の壁に沿って火炎が伝播するため、SI燃焼の火炎伝播は、壁温の影響を受ける。壁温が低いと、SI燃焼の火炎が冷やされてしまい、圧縮着火のタイミングが遅れてしまう。
【0131】
SPCCI燃焼におけるCI燃焼は、燃焼室17の外周部から中央部において行われるため、燃焼室17の中央部の温度の影響を受ける。中央部の温度が低いと、CI燃焼が不安定になってしまう。燃焼室17の中央部の温度は、燃焼室17に導入される吸気の温度に依存する。つまり、吸気温度が高いときに、燃焼室17の中央部の温度は高くなり、吸気温度が低いときに、中央部の温度は低くなる。
【0132】
燃焼室17の壁温が第2所定壁温未満でかつ、吸気温度が第2所定吸気温未満のときには、SPCCI燃焼を安定して行うことができない。そこで、SI燃焼を実行するレイヤ1のみが選択され、ECU10は、第三マップ503に基づいて、エンジン1を運転する。全ての運転領域において、エンジン1がSI燃焼を行うことにより、燃焼安定性を確保することができる。
【0133】
燃焼室17の壁温が第2所定壁温以上及び吸気温度が第2所定吸気温以上のときには、略理論空燃比(つまり、λ≒1)の混合気を、安定してSPCCI燃焼させることができる。そこで、レイヤ1に加えて、レイヤ2が選択され、ECU10は、第二マップ502に基づいて、エンジン1を運転する。エンジン1が、一部の運転領域においてSPCCI燃焼を行うことにより、エンジン1の燃費性能が向上する。
【0134】
燃焼室17の壁温が第1所定壁温以上及び吸気温度が第1所定吸気温以上のときには、理論空燃比よりもリーンな混合気を、安定してSPCCI燃焼させることができる。そこで、レイヤ1及びレイヤ2に加えて、レイヤ3が選択され、ECU10は、第一マップ501に基づいて、エンジン1を運転する。エンジン1が、一部の運転領域においてリーン混合気をSPCCI燃焼させることにより、エンジン1の燃費性能が、さらに向上する。
【0135】
但し、大気圧が低いと、燃焼室17に充填される空気量が少なくなる。混合気を、所定の燃料リーンな空燃比にすることが難しくなる。そこで、レイヤ3は、大気圧が所定の大気圧しきい値以上のときに選択される。
【0136】
(大気圧に関係した選択制御)
次に、図9Aのフローチャートを参照しながら、ECU10が実行するマップのレイヤ選択に関係する制御例について説明をする。先ず、スタート後のステップS91において、ECU10は、各センサSW1~SW17の信号を読み込む。ECU10は、続くステップS92において、燃焼室17の壁温が30℃以上でかつ、吸気温が25℃以上か否かを判断する。ステップS92の判定がYESのときには、プロセスはステップS93に進み、NOのときには、プロセスはステップS95に進む。ECU10は、ステップS95においてレイヤ1のみを選択する。ECU10は、第三マップ503に基づいてエンジン1を運転する。プロセスはその後、リターンする。
【0137】
ステップS93において、ECU10は、燃焼室17の壁温が80℃以上でかつ、吸気温が50℃以上か否かを判断する。ステップS93の判定がYESのときには、プロセスはステップS94に進み、NOのときには、プロセスはステップS96に進む。
【0138】
ECU10は、ステップS96においてレイヤ1とレイヤ2とを選択する。ECU10は、第二マップ502に基づいて、エンジン1を運転する。プロセスはその後、リターンする。
【0139】
ステップS94において、ECU10は、第1圧力センサSW3から入力される信号に基づいて、大気圧が大気圧しきい値以上であるか否かを判断する。
【0140】
ここで、大気圧しきい値は、図9Bに示すマップに基づいて設定される。このマップは、大気圧しきい値と、エンジン水温又は吸気温との関係を定めている。エンジン水温又は吸気温が高いと大気圧しきい値が高くなり、エンジン水温又は吸気温が低いと大気圧しきい値が低くなる。
【0141】
吸気やエンジン冷却水の温度が低くなると、それに伴って燃焼時の混合気の温度も低くなる。それにより、CI燃焼が抑制されて燃焼騒音が小さくなる。従って、空燃比がリッチ側に偏って、燃焼騒音が増加し易くなったとしても、燃焼騒音が小さくなることとの相殺により、許容できるようになる。従って、しきい値を低くすることが可能になる。しきい値を低くすれば、それだけ燃費を確保できる。
【0142】
そこで、このエンジン1では、吸気温又はエンジン水温が低くなるほど、大気圧しきい値が低くなるように設定されている。
【0143】
図9Aのフローチャートに戻り、ステップS94の判定がYESのときには、プロセスはステップS97に進み、NOのときには、プロセスはステップS96に進む。
【0144】
すなわち、ECU10は、大気圧が大気圧しきい値より低いと判定した場合には、レイヤ1とレイヤ2とを選択する。そして、第二マップ502に基づいて、エンジン1を運転する。それにより、ECU10は、低負荷領域A1において運転しているときには、リーン圧縮着火燃焼制御の実行を制限する。そうして、レイヤ2(第二マップ502)の、リッチ圧縮着火燃焼制御を実行する。プロセスはその後、リターンする。尚、リッチ圧縮着火燃焼制御を実行するのに代えて、レイヤ1の、SI燃焼を行う点火燃焼制御を実行してもよい。
【0145】
一方、大気圧が大気圧しきい値以上と判定した場合には、ECU10は、レイヤ1とレイヤ2とレイヤ3とを選択する。そして、第一マップ501に基づいて、エンジン1を運転する。それにより、ECU10は、低負荷領域A1において運転しているときには、レイヤ3(第一マップ501)の、リーン圧縮着火燃焼制御の実行を選択する。プロセスはその後、リターンする。
【0146】
(吸気温又はエンジン水温に関係した選択)
図10は、図9Aとは異なるレイヤ選択に関係するフローチャートを示している。先ず、スタート後のステップS101において、ECU10は、各センサSW1~SW17の信号を読み込む。ECU10は、第3吸気温度センサSW17又は水温センサSW10から入力される信号に基づいて、続くステップS102において、燃焼室17の壁温が30℃以上でかつ、吸気温が25℃以上か否かを判断する。ステップS102の判定がYESのときには、プロセスはステップS103に進み、NOのときには、プロセスはステップS105に進む。ECU10は、ステップS105においてレイヤ1のみを選択する。プロセスはその後、リターンする。
【0147】
ステップS103において、ECU10は、エンジン水温が所定のエンジン水温しきい値以上でかつ、吸気温が所定の吸気温しきい値以上であるか否かを判断する。
【0148】
ここで、エンジン水温しきい値は、図11の上図に示すマップ11aに基づいて設定される。マップ11aは、大気圧とエンジン水温しきい値との関係を定めている。大気圧が低いとエンジン水温しきい値が高くなり、大気圧が高いとエンジン水温しきい値が低くなる。大気圧が高いと、燃焼室17に充填される空気量が増え、筒内ガスの圧縮により筒内温度が高くなる。エンジン水温が相対的に低くても、リーン混合気をSPCCI燃焼させることが可能になる。そこで、大気圧が高いとエンジン水温しきい値を低くする。
【0149】
また、図11の下図は、吸気温しきい値を定めるマップ11bを例示している。マップ11bは、マップ11aと同様に、大気圧と吸気温しきい値との関係を定めている。大気圧が低いと吸気温しきい値が高くなり、大気圧が高いと吸気温しきい値が低くなる。前述の通り、大気圧が高いと筒内温度が高くなるから、吸気温が相対的に低くても、リーン混合気をSPCCI燃焼させることが可能になる。そこで、大気圧が高いと吸気温しきい値を低くする。
【0150】
図10のフローチャートに戻り、ステップS103の判定がYESのときには、プロセスはステップS104に進み、NOのときには、プロセスはステップS106に進む。
【0151】
すなわち、ECU10は、エンジン水温が所定のエンジン水温しきい値以上でなく、かつ、吸気温が所定の吸気温しきい値以上でない、と判定した場合には、レイヤ1とレイヤ2とを選択する。そして、第二マップ502に基づいて、エンジン1を運転する。それにより、ECU10は、低負荷領域A1において運転しているときには、リーン圧縮着火燃焼制御の実行を制限する。そうして、レイヤ2(第二マップ502)の、リッチ圧縮着火燃焼制御を実行する。プロセスはその後、リターンする。尚、リッチ圧縮着火燃焼制御を実行するのに代えて、レイヤ1の、SI燃焼を行う点火燃焼制御を実行してもよい。
【0152】
一方、エンジン水温が所定のエンジン水温しきい値以上であり、かつ、吸気温が所定の吸気温しきい値以上である、と判定した場合には、ECU10は、レイヤ1とレイヤ2とレイヤ3とを選択する。そして、第一マップ501に基づいて、エンジン1を運転する。それにより、ECU10は、低負荷領域A1において運転しているときには、レイヤ3(第一マップ501)の、リーン圧縮着火燃焼制御の実行を選択する。プロセスはその後、リターンする。
【0153】
(エンジンの基本制御)
図12は、ECU10が実行をするエンジン1の基本制御のフローを示している。ECU10は、メモリ102に記憶している制御ロジックに従いエンジン1を運転する。具体的にECU10は、各センサSW1~SW17の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、目標トルクを設定し、エンジン1が目標トルクを出力するように、燃焼室17の中の状態量の調節、噴射量の調節、噴射タイミングの調節、及び、点火タイミングの調節を行うための演算を行う。
【0154】
ECU10はまた、SPCCI燃焼を行うときには、SI率とθciとの二つのパラメータを用いてSPCCI燃焼をコントロールする。具体的にECU10は、エンジン1の運転状態に対応する目標SI率及び目標θciを定め、実際のSI率が目標SI率に一致しかつ、実際のθciが目標θciとなるように、燃焼室17内の温度の調節と、点火時期の調節とを行う。ECU10は、エンジン1の負荷が低いときには、目標SI率を低く設定し、エンジン1の負荷が高いときには、目標SI率を高く設定する。エンジン1の負荷が低いときには、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制と燃費性能の向上とが両立する。エンジン1の負荷が高いときには、SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制に有利になる。
【0155】
図12のフローのステップS121において、ECU10は、各センサSW1~SW17の信号を読み込み、続くステップS122において、ECU10は、アクセル開度に基づいて目標加速度を設定する。ステップS123において、ECU10は、設定した目標加速度を実現するために必要な目標トルクを設定する。
【0156】
ステップS124において、ECU10はエンジン1の運転状態を判断し、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比であるか(つまり、空気過剰率λ=1)であるか否かを判定する。ECU10は、ステップS124において、エンジン1が、レイヤ1又はレイヤ2において運転するか(λ=1)、レイヤ3において運転するか(λ≠1)を判断する。λ=1であるときには、プロセスは、ステップS125に進み、λ≠1であるときには、プロセスは、ステップS129に進む。
【0157】
ステップS125~ステップS128は、エンジン1がレイヤ1又はレイヤ2において運転するときに、各デバイスの制御目標値を設定するステップに相当する。ステップS125において、ECU10は、設定した目標トルクに基づいて、点火プラグ25の目標点火時期を設定する。続くステップS126において、ECU10は、設定した目標トルクに基づいて、燃焼室17内に充填する目標空気量を設定する。ステップS127において、ECU10は、設定した目標空気量に基づいて、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比になるよう、燃料の目標噴射量を設定する。そして、ステップS128において、ECU10は、設定した目標空気量に基づいて、スロットル弁43の目標スロットル開度、スワールコントロール弁56の目標SCV開度、EGR弁54の目標EGR弁開度、並びに、吸気電動S-VT23の目標S-VT位相及び排気電動S-VT24の目標S-VT位相を設定する。
【0158】
ステップS129~ステップS1212は、エンジン1がレイヤ3において運転するときに、各デバイスの制御目標値を設定するステップに相当する。ステップS129において、ECU10は、設定した目標トルクに基づいて、点火プラグ25の目標点火時期を設定する。続くステップS1210において、ECU10は、設定した目標トルクに基づいて、燃料の目標噴射量を設定する。ステップS1211において、ECU10は、設定した目標噴射量に基づいて、混合気の空燃比が所定のリーン空燃比になるよう、燃焼室17内に充填する目標空気量を設定する。混合気の空燃比は、前述したように、25~31の間である。そして、ステップS1212において、ECU10は、設定した目標空気量に基づいて、スロットル弁43の目標スロットル開度、スワールコントロール弁56の目標SCV開度、EGR弁54の目標EGR弁開度、並びに、吸気電動S-VT23の目標S-VT位相及び排気電動S-VT24の目標S-VT位相を設定する。
【0159】
ステップS1213においてECU10は、ステップS128又はステップS1212において設定した目標値となるように、スロットル弁43のスロットル開度、スワールコントロール弁56のSCV開度、EGR弁54のEGR弁開度、並びに、吸気電動S-VT23のS-VT位相及び排気電動S-VT24のS-VT位相を調節する。
【0160】
ステップS1214において、ECU10は、設定した目標噴射量に従い、インジェクタ6に所定のタイミングで燃料を噴射させ、続くステップS1215において、ECU10は、設定した目標点火時期に点火プラグ25に点火を実行させる。
【0161】
(レイヤ2とレイヤ3との間の切り替え)
前述したように、エンジン1は、燃焼室17の壁温(又はエンジン水温)及び吸気の温度の高低、並びに、大気圧に応じて、レイヤ1、レイヤ2及びレイヤ3の選択を行いながら運転をする。そのため、エンジン1の負荷及び回転数が一定であっても、マップが変わることにより、エンジン1の運転がレイヤ2とレイヤ3との間で切り替わる場合がある。また、エンジン1が第一マップ501に従って運転をしているときに、エンジン1の負荷が高低することに伴い、エンジン1の運転が中高負荷領域A2~A4(つまりレイヤ2)と低負荷領域A1(つまりレイヤ3)との間で切り替わる場合がある。
【0162】
ここで、レイヤ2は、混合気の空燃比を理論空燃比又は略理論空燃比にし、レイヤ3は、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーン空燃比(つまり、空燃比の値を大)にする。このため、エンジン1の運転が、レイヤ2からレイヤ3へ切り替わるとき、及び、レイヤ3からレイヤ2へ切り替わるときには、燃焼室17内に充填する空気量を変更しなければならない。具体的に、エンジン1の運転が、レイヤ2からレイヤ3へ切り替わるとき、ECU10は、スロットル弁43の開度を小から大へ変更することによって、燃焼室17内に充填する空気量を増やす。逆に、エンジン1の運転が、レイヤ3からレイヤ2へ切り替わるとき、ECU10は、スロットル弁43の開度を大から小へ変更することによって、燃焼室17内に充填する空気量を減らす。
【0163】
レイヤ2からレイヤ3への切り替わり時に燃焼室17内に充填する空気量が増えるに従って、混合気の空燃比は理論空燃比から、ずれる。一方で、燃焼室17内に充填する空気量は、瞬時に増減しないため、混合気の空燃比は、RawNOxの生成が抑制される空燃比(つまり、レイヤ3における混合気の空燃比(A/F≧25)よりも低くなる。混合気の空燃比は三元触媒の浄化ウインドウからずれていると共に、RawNOxの生成も抑制されない。エンジン1の運転状態がレイヤ2からレイヤ3へ切り替わる過渡時に、排気エミッション性能が低下してしまう。
【0164】
同様に、レイヤ3からレイヤ2へ切り替わり時に、燃焼室17内に充填する空気量が減るに従って、混合気の空燃比は、RawNOxの生成が抑制される空燃比(つまり、レイヤ3における混合気の空燃比(A/F≧25)よりも大になると共に、理論空燃比からもずれる。混合気の空燃比は三元触媒の浄化ウインドウからずれると共に、RawNOxの生成も抑制されないため、エンジン1の運転状態がレイヤ3からレイヤ2へ切り替わる過渡時に、排気エミッション性能が低下してしまう。
【0165】
排気エミッション性能の低下を抑制するために、レイヤ2とレイヤ3との間でエンジン1の運転が切り替わる過渡時には、混合気の空燃比を理論空燃比又は略理論空燃比に維持することが考えられる。しかしながら、実際の空気量に基づいて、混合気の空燃比を理論空燃比又は略理論空燃比に維持しようとすると、目標トルクのために要求される燃料量よりも増量しなければならないため、エンジン1のトルクが増大してしまうという不都合がある。
【0166】
そこで、このエンジン1では、燃料量を増量することに対して、エンジン1のトルクを低減させるトルク調節を行う。
【0167】
図13は、ECU10の機能ブロックの構成を示している。図13に示す機能ブロックは主に、レイヤ2とレイヤ3との間の切り替えに関係する。機能ブロックは、目標トルク設定部10a、第1モード部10b、第2モード部10c、判定部10d、及び、切替部10eを含んでいる。
【0168】
目標トルク設定部10aは、前述の通り、各センサSW1~SW17の信号に基づいて、エンジン1の目標トルクを設定する。
【0169】
第1モード部10bは、目標トルク設定部10aが設定した目標トルクに基づいて、少なくとも、インジェクタ6、点火プラグ25、スロットル弁43、EGR弁54、及びスワールコントロール弁56に信号を出力し、理論空燃比又は略理論空燃比の混合気をSPCCI燃焼させることによりエンジン1を運転する。つまり、第1モード部10bは、リッチ圧縮着火燃焼制御を実行し、エンジン1をレイヤ2において運転する。
【0170】
第2モード部10cは、目標トルク設定部10aが設定した目標トルクに基づいて、少なくとも、インジェクタ6、点火プラグ25、スロットル弁43、EGR弁54、及びスワールコントロール弁56に信号を出力し、理論空燃比よりもリーンな混合気をSPCCI燃焼させることによりエンジン1を運転する。つまり、第2モード部10cは、リーン圧縮着火燃焼制御を実行し、エンジン1をレイヤ3において運転する。
【0171】
判定部10dは、レイヤ2とレイヤ3との間でエンジン1の運転状態を切り替えが必要であることを判定する。判定部10dは、壁温(エンジン水温)、吸気温、大気圧、及び、エンジン1の負荷に基づいて、レイヤ2とレイヤ3との間の切り替えの要否を判定する。判定部10dは、切り替えが必要なときには、判定結果を切替部10eに出力する。
【0172】
切替部10eは、判定部10dからの信号を受けて、レイヤ2とレイヤ3との間の切り替えが必要なときには、切り替え期間において、少なくともインジェクタ6、点火プラグ25、スロットル弁43、EGR弁54、スワールコントロール弁56、及びオルタネータ57に信号を出力し、エンジン1を運転する。
【0173】
図14は、レイヤ2からレイヤ3への切り替えに係るフローを示している。先ず、ステップS141において、ECU10は、各センサSW1~SW17の信号を読み込み、続くステップS142において、ECU10は、レイヤ2からレイヤ3への切り替えが必要であるか否かを判定する。
【0174】
具体的に、ECU10の判定部10dは、壁温(又はエンジン水温)、吸気温、及び、大気圧に基づいて、レイヤ2からレイヤ3への切り替えが必要であるか、又は、エンジン1の負荷が低くなって、レイヤ2からレイヤ3への切り替えが必要であるか否かを判定する。判定の結果、レイヤ2からレイヤ3への切り替えが必要であるときには、判定部10dはレイヤ3切替フラグを1にする。ステップS132においてECU10は、レイヤ3切替フラグが1であるか否かを判定し、フラグが1であるとき(レイヤ2からレイヤ3への切り替えが必要であるとき)には、プロセスはステップS143に進み、フラグが1ではない(つまり、フラグが0であり、レイヤ2からレイヤ3への切り替えが必要でない)ときには、プロセスはリターンする。
【0175】
レイヤ2からレイヤ3への切り替えを行うときには、図8に示すように、混合気の空燃比は、理論空燃比又は略理論空燃比から、理論空燃比よりもリーンになり、EGR率は、高EGR率から低EGR率になり、スワール流は、弱スワールから強スワールになる。
【0176】
ステップS143において、ECU10は、EGR弁54の開度を目標開度となるように調節する。具体的にECU10は、EGR弁54の開度を大から、小又はゼロにする。EGR率は、高EGR率から低EGR率へと変化する。また、ECU10は、スワールコントロール弁56の開度を目標開度となるように調節する。具体的にECU10は、スワールコントロール弁56の開度を大から、小又はゼロにする。スワール流は、弱スワールから強スワールへと変化する。
【0177】
続くステップS144において、ECU10は、EGR率が目標値に略一致しかつ、SCV開度が目標値に略一致したか否かを判定する。判定がNOのときには、プロセスは、ステップS143に戻り、判定がYESのときには、プロセスは、ステップS145及びステップS148に進む。
【0178】
ここで、ECU10は、例えばリニアO2センサSW8の検出信号から得られる排気ガスのEGR濃度と、EGR差圧センサSW15の検出結果及びEGR弁54の開度から算出されるEGRガス流量と、エアフローセンサSW1の検出結果から得られる新気量とに基づいて、インテークマニホールドにおけるEGR率を判定してもよい。
【0179】
後述するように、レイヤ2からレイヤ3への切り替えを行うときには、スロットル弁43の開度を小から大へと変更するが、燃焼室17内に充填する空気量の調節を行う前に、燃焼室17内に導入するEGRガス量を少なくすることにより、レイヤ2からレイヤ3への切り替え過渡時に、燃焼安定性が高まる。また、燃焼室17内に充填する空気量の調節を行う前に、スワール流を強めておくことにより、レイヤ2からレイヤ3への切り替え過渡時に、燃焼安定性が高まる。後述するように点火時期を遅角しても、失火等を抑制することができる。
【0180】
また、空気量の調節前に、スワールコントロール弁56の開度を大から小へと変更しておくことにより、レイヤ3への切り替えが完了したときには、燃焼室17内に強いスワール流が既に、形成されている。これにより、レイヤ3への切り替え後に、リーン混合気のSPCCI燃焼を安定して行うことができる。尚、ECU10は、EGR弁54、スワールコントロール弁56及びスロットル弁43の開度調整を、並列に実行してもよい。
【0181】
ステップS145からステップS147までのプロセスと、ステップS148からステップS1418までのプロセスとは、並列に進行する。これらのプロセスは、ECU10の切替部10eが実行する。
【0182】
ステップS145においてECU10は、レイヤ3における目標空気量を設定し、続くステップS146において、ECU10は、設定した目標空気量に基づいて、目標スロットル開度を設定する。そして、ステップS147において、ECU10は、設定した目標スロットル開度となるように、スロットル弁43の開度を調節する。具体的に、レイヤ2からレイヤ3への切り替え時には、目標空気量は相対的に多くなり、スロットル弁43の開度は小から大へと変化する。
【0183】
すなわち、ECU10(切替部10e)は、空気量を増量させる処理(空気量増量処理)を実行する。但し、燃焼室17内に充填される空気量は、瞬時には多くならず、空気量が目標空気量に到達するまでには時間遅れが生じる。
【0184】
ステップS148においてECU10は、燃焼室17内に実際に充填される空気量を読み込み、続くステップS149においてECU10は、読み込んだ実空気量に基づいて、リタード限界トルク、及び、リッチ限界トルクを算出する。
【0185】
リタード限界トルクは、点火時期を可能な限り遅角した状態で、理論空燃比又は略理論空燃比の混合気をSPCCI燃焼することによって得られるエンジン1のトルクを意味する。点火時期を遅角させ過ぎると、SPCCI燃焼におけるCI燃焼が生じなかったり、SI燃焼の安定性が低下したりする。SPCCI燃焼を行うエンジン1は、点火時期の遅角限界を有している。リタード限界トルクは、実空気量に基づき空燃比を理論空燃比にした条件下で、点火時期の遅角化によって低下させることができるエンジンのトルクの下限に相当する。リタード限界トルクは、ECU10が演算する仮想的なトルクである。
【0186】
リッチ限界トルクは、実際の空気量に対して、RawNOxが発生しない限度まで燃料を増量して(尚、混合気の空燃比は理論空燃比よりもリーンである)、SPCCI燃焼したときのエンジン1のトルクを意味する。リッチ限界トルクは、実空気量に基づき空燃比を、レイヤ3の設定空燃比よりもRawNOxの生成限度までリッチにした条件下で、発生させることができるトルクの上限に相当する。リッチ限界トルクも、ECU10が演算する仮想的なトルクである。
【0187】
図15は、リタード限界トルクの算出手順を示すブロック図である。ECU10は、リタード限界時のエンジン1の熱効率から、リタード限界トルクを算出する。リタード限界時のエンジン1の熱効率は、MBT(Minimum Advance for Best Torque)におけるエンジン1の熱効率と、リタード限界のmfb50位置とから算出する。リタード限界のmfb50位置は、点火時期を可能な限り遅角したときの燃焼波形において、質量燃焼割合(Mass Fraction Burnt:mfb)が50%となるクランク角である。
【0188】
ECU10は、エンジン回転数と充填効率と予め定めたマップ151とから、リタード限界のmfb50位置を算出する。マップ151は、エンジンの運転状態(回転数、及び、充填効率(つまり、エンジン1の負荷に対応)と、リタード限界のmfb50位置との関係を定めている。エンジン1の回転数が低く負荷が高い(つまり、充填効率が高い)ほど、燃料量が多くて燃焼安定性が高い上に、点火時期を遅角させても、点火から燃焼までの時間が長いから、失火等を抑制することができる。エンジン1の回転数が低く負荷が高いほど、点火時期を大きく遅角することができる。リタード限界のmfb50位置は、エンジン1の回転数が低く負荷が高いほど遅角し、回転数が高く負荷が低い(つまり、充填効率が低い)ほど進角する。
【0189】
尚、ここではマップ151を用いてリタード限界のmfb50位置を決定しているが、LNV(Lowest Normalized Value)を考慮したモデルを用いて、リタード限界のmfb50位置を算出してもよい。
【0190】
ECU10は、リタード限界のmfb50位置と予め定めたマップ152とから、MBTに対する効率を設定する。マップ152は、リタード限界のmfb50位置とMBTに対する効率との関係を定めている。MBTに対する効率は、リタード限界のmfb50位置が進角側の所定クランク角であれば「1」となり、リタード限界のmfb50位置が遅角するほど、ゼロに近づく。
【0191】
マップ152は基準カーブ(実線参照)を定めており、このカーブは、エンジン1の運転状態に応じて補正される。マップ153は、マップ152の基準カーブを補正する効率傾きに係る。マップ153は、エンジン1の回転数と充填効率と効率傾きとの関係を定めている。効率傾きは、エンジン1の回転数が低く負荷が低いほど小さく、回転数が高く負荷が高いほど大きい。
【0192】
実線で示すマップ152の基準カーブは、マップ153に基づいて定めた効率傾きが大きいほど、破線で示すよう下に下がり、効率傾きが小さいほど上に上がる。ECU10は、効率傾きによって補正をしたマップ152に基づいて、リタード限界時の、MBTに対する効率を定める(一点鎖線の矢印参照)。
【0193】
ECU10は、MBTに対する効率と予め定めたマップ154とから、リタード限界時の熱効率を定める。マップ154は、エンジン1の回転数と充填効率とMBTでの熱効率との関係を定めている。MBTでの熱効率は、エンジン1の回転数が低く負荷が低いほど低く、回転数が高く負荷が高いほど高い。ECU10は、エンジン1の回転数と充填効率とマップ154とから、エンジン1の運転状態における、MBTでの熱効率を定めると共に、MBTでの熱効率と、マップ152において定めたMBTに対する効率とから、リタード限界時の熱効率を算出する。
【0194】
ECU10は、リタード限界時の熱効率を算出すれば、リタード限界時の熱効率と、1気筒当たりの体積と、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比になる噴射量における発熱量とに基づいて、当該熱効率に対応するトルク(つまり、リタード限界トルク)を算出する。
【0195】
図16は、リッチ限界トルクの算出手順を示すブロック図である。ECU10は、リッチ限界時のエンジン1の熱効率から、リッチ限界トルクを算出する。リッチ限界時のエンジン1の熱効率は、MBTにおけるエンジン1の熱効率と、リッチ限界のmfb50位置とから算出する。リッチ限界のmfb50位置は、RawNOxの生成が抑制される空燃比の混合気を燃焼したときの波形において、質量燃焼割合が50%となるクランク角を示している。
【0196】
ECU10は、エンジン回転数とリッチ限界噴射量と予め定めたマップ161とから、リッチ限界のmfb50位置を算出する。マップ161は、エンジン回転数と、リッチ限界噴射量と、mfb50位置との関係を定めている。リッチ限界噴射量は、RawNOxの生成が抑制される上限の噴射量である。リッチ限界のmfb50位置は、エンジン1の回転数が低く負荷が低いほど遅角し、回転数が高く負荷が高いほど進角する。
【0197】
図16のマップ162、マップ163及びマップ164はそれぞれ、図15のマップ152、マップ153及びマップ154と同じである。
【0198】
ECU10は、リッチ限界のmfb50位置と予め定めたマップ162とから、MBTに対する効率を設定する(一点鎖線の矢印参照)。
【0199】
マップ162の基準カーブ(実線)は、マップ163と、エンジン1の運転状態とから定まる効率傾きにより補正される。
【0200】
ECU10は、MBTに対する効率と予め定めたマップ164とから、リッチ限界時の熱効率を定める。マップ164は、エンジン1の回転数と充填効率とMBTでの熱効率との関係を定めている。
【0201】
リッチ限界時の熱効率を算出すれば、ECU10は、リッチ限界時の熱効率と、1気筒当たりの体積と、リッチ限界噴射量における発熱量とに基づいて、当該熱効率に対応するトルク(つまり、リッチ限界トルク)を算出する。
【0202】
図14のフローに戻り、ステップS1410においてECU10は、算出したリッチ限界トルクが、目標トルクに一致しないか否かを判定する。判定がYESのとき、つまり、算出したリッチ限界トルクが目標トルクに一致しないときは、プロセスはステップS1411に進む。判定がNOのとき、つまり、算出したリッチ限界トルクが、目標トルクに一致又は略一致するときには、プロセスはステップS1417に進む。
【0203】
ステップS1410の判定がYESのときには、燃焼室17に充填される空気量が少ないため、RawNOxが生じない限界まで混合気を燃料リッチにしても、目標トルクを実現することができない。そこで、ECU10は、NOxの排出を抑制するために、混合気の空燃比を理論空燃比又は略理論空燃比にする。つまり、ステップS1411において、ECU10は、実空気量に基づいて、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比になる目標燃料噴射量を設定する。ここで設定される目標燃料噴射量は、エンジン1が目標トルクを出力するために必要な噴射量よりも増量している。
【0204】
すなわち、ECU10(切替部10e)は、空気量の増加に応じて燃料量を増加させる処理(燃料増量処理)を実行する。
【0205】
続くステップS1412において、ステップS1411において設定した目標燃料噴射量と目標トルクとに基づいて、目標点火時期を設定する。ここで設定される目標点火時期は、燃料量の増加により高くなるトルク分が減少するよう、遅角される。
【0206】
すなわち、ECU10(切替部10e)は、燃料量の増加に応じて点火時期を遅角させる処理(リタード処理)を実行する。SPCCI燃焼において、点火時期を遅角することにより、SI燃焼の時期が遅角すると共に、CI燃焼が開始する時期も遅角する。エンジン1のトルクを効果的に低減させることができる。
【0207】
ステップS1413においてECU10は、ステップS149で算出したリタード限界トルクが、目標トルク以下であるか否かを判定する。リタード限界トルクが目標トルク以下であれば、点火時期を遅角させることにより、エンジン1のトルクを目標トルクまで低減することができる。ステップS1413の判定がYESのときには、プロセスはステップS1414に進む。ステップS1414においてECU10は、目標噴射量に従って、インジェクタ6に燃料を噴射させ、続くステップS1415においてECU10は、設定した目標点火時期に従って、点火プラグ25に点火を実行させる。
【0208】
一方、ステップS1413の判定がNOのとき、つまり、リタード限界トルクが目標トルクを超えるときは、点火時期をリタード限界まで遅角させても、エンジン1のトルクが目標トルクを超えてしまう。レイヤ2からレイヤ3への切り替え時に点火時期を遅角することだけでは、エンジン1のトルクを低減することができず、トルクショックが発生してしまう。
【0209】
そこで、ステップS1413の判定がNOのときに、プロセスはステップS1416に進み、ECU10は、ステップS1416においてオルタネータの負荷を増大する。これにより、エンジン1のトルクが低減してトルクショックの発生が抑制される。
【0210】
プロセスは、ステップS1410の判定がNOになるまでステップS1411からステップS1416までを繰り返す。燃焼室17内に充填される空気量が増えて、算出したリッチ限界トルクが、目標トルクに一致又は略一致するようになれば、ステップS1410の判定がNOとなって、プロセスはステップS1417に進む。
【0211】
ステップS1417においてECU10は、レイヤ3への移行を行う。具体的には、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンになるように、ECU10は、増量していた噴射量を減らす。噴射量は、目標トルクに対応する噴射量になる。また、ECU10は、遅角していた点火時期を進角させる。
【0212】
続くステップS1418においてECU10は、レイヤ3切替フラグを0にし、レイヤ2からレイヤ3への切り替えが完了する。
【0213】
図17は、レイヤ3からレイヤ2への切り替えに係るフローを示している。先ず、ステップS171において、ECU10は、各センサSW1~SW17の信号を読み込み、続くステップS172において、ECU10は、レイヤ3からレイヤ2への切り替えが必要であるか否かを判定する。
【0214】
具体的に、ECU10の判定部10dは、壁温(又はエンジン水温)、吸気温、及び、大気圧に基づいて、レイヤ3からレイヤ2への切り替えが必要であるか、又は、エンジン1の負荷が高くなって、レイヤ3からレイヤ2への切り替えが必要であるか否かを判定する。判定の結果、レイヤ3からレイヤ2への切り替えが必要であるときには、判定部10dはレイヤ2切替フラグを1にする。ステップS172においてECU10は、レイヤ2切替フラグが1であるか否かを判定し、フラグが1であるとき(レイヤ3からレイヤ2への切り替えが必要であるとき)には、プロセスはステップS173、S175及びS178に進み、フラグが1ではない(つまり、フラグが0であり、レイヤ3からレイヤ2への切り替えが必要でない)ときには、プロセスはリターンする。
【0215】
レイヤ3からレイヤ2への切り替えを行うときには、図8に示すように、混合気の空燃比は、理論空燃比よりもリーンな空燃比から、理論空燃比又は略理論空燃比になり、EGR率は、低EGR率から高EGR率になり、スワール流は、強スワールから弱スワールになる。
【0216】
ステップS173及びS174は、EGR弁54及びスワールコントロール弁56の開度調節に係るプロセスであり、ステップS175からステップS177までは、スロットル弁43の開度調節に係るプロセスであり、ステップS178からステップS1720は、レイヤ3からレイヤ2への切り替え判定に係るプロセスである。これらの三つのプロセスは、並列に進行する。これらのプロセスは、切替部10eが実行する。
【0217】
ステップS173において、ECU10は、EGR弁54の開度を目標開度となるように調節する。具体的にECU10は、EGR弁54の開度を小から大にする。EGR率は、低EGR率から高EGR率へと変化する。また、ECU10は、スワールコントロール弁56の開度を目標開度となるように調節する。具体的にECU10は、スワールコントロール弁56の開度を小から大にする。スワール流は、強スワールから弱スワールへと変化する。レイヤ2は、理論空燃比又は略理論空燃比の混合気をSPCCI燃焼させるため、レイヤ3と比較して燃焼安定性を確保しやすい。そのため、レイヤ2からレイヤ3への切り替え時とは異なり、EGR弁54の開度調節やスワールコントロール弁56の開度調節は、後述するスロットル弁43の開度調節と同時に行うことが許容される。
【0218】
尚、レイヤ2からレイヤ3への切り替え時と同様に、EGR弁54及びスワールコントロール弁56の開度調節を先に実行し、その後、スロットル弁43の開度調節を実行するようにしてもよい。
【0219】
ステップS174において、ECU10は、EGR率が目標値に略一致しかつ、SCV開度が目標値に略一致したか否かを判定する。判定がNOのときには、プロセスは、ステップS173に戻る。判定がYESのときには、EGR弁54の開度調節及びスワールコントロール弁56の開度調節は完了する。
【0220】
ステップS175においてECU10は、レイヤ2における目標空気量を設定し、続くステップS176において、ECU10は、設定した目標空気量に基づいて、目標スロットル開度を設定する。そして、ステップS177において、ECU10は、設定した目標スロットル開度となるように、スロットル弁43の開度を調節する。具体的に、レイヤ3からレイヤ2への切り替え時には、目標空気量は相対的に少なくなり、スロットル弁43の開度は大から小へと変化する。但し、燃焼室17内に充填される空気量は、瞬時には少なくならず、空気量が目標空気量まで減少するには時間遅れが生じる。
【0221】
ステップS178においてECU10は、燃焼室17内に実際に充填される空気量を読み込み、続くステップS179においてECU10は、読み込んだ実空気量に基づいて、リタード限界トルク、及び、リッチ限界トルクを算出する。リタード限界トルク、及び、リッチ限界トルクの算出は、前記と同じである。
【0222】
ステップS1710においてECU10は、算出したリッチ限界トルクが、目標トルクに一致するか否かを判定する。判定がNOのとき、つまり、算出したリッチ限界トルクが目標トルクに一致しないときは、プロセスはステップS1711に進む。
【0223】
ステップS1711においてECU10は、レイヤ3を継続する。燃焼室17内に実際に充填される空気量が減少していることに対し、噴射量を維持する。混合気の空燃比は小さくなる。リッチ限界となるまでレイヤ3を継続することにより、RawNOxの生成を抑制しながら、噴射量の増量及び点火時期の遅角を抑制することができるため、燃費性能の向上に有利になる。
【0224】
ステップS1710の判定がYESのとき、つまり、算出したリッチ限界トルクが、目標トルクに一致又は略一致するときには、燃焼室17に充填される空気量が、それ以上に減少すると、混合気の空燃比が小さくなってRawNOxが生成されてしまう。混合気の空燃比を理論空燃比又は略理論空燃比にするために、プロセスは、ステップS1712に進む。
【0225】
ステップS1712においてECU10は、実空気量に基づいて、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比になる目標燃料噴射量を設定する。ここで設定される目標燃料噴射量は、エンジンが目標トルクを出力するために必要な噴射量よりも増量している。
【0226】
続くステップS1713において、ステップS1712において設定した目標燃料噴射量と目標トルクとに基づいて、目標点火時期を設定する。ここで設定される目標点火時期は、燃料量の増加により高くなるトルク分が減少するよう、遅角される。
【0227】
ステップS1714においてECU10は、ステップS179で算出したリタード限界トルクが、目標トルク以下であるか否かを判定する。リタード限界トルクが目標トルク以下であれば、点火時期を遅角させることにより、エンジン1のトルクを目標トルクまで低減することができる。ステップS1714の判定がYESのときには、プロセスはステップS1715に進む。ステップS1715においてECU10は、目標噴射量に従って、インジェクタ6に燃料を噴射させ、続くステップS1716においてECU10は、設定した点火時期に従って、点火プラグ25に点火を実行させる。ステップS1714の判定がNOのときには、点火時期を遅角させることだけではエンジン1のトルクを目標トルクまで低減することができない。ステップS1714の判定がNOのときには、プロセスはステップS1717に進む。ステップS1717においてECU10は、オルタネータ57の負荷を高めて、エンジン1のトルクを低減する。トルクショックの発生を抑制することができる。プロセスは、ステップS1717からステップS1715に進む。
【0228】
ステップS1716の後のステップS1718において、ECU10は、燃焼室17内に充填される空気量が減って、実空気量が目標空気量に到達したか否かを判定する。ステップS1718の判定がNOのときには、プロセスはリターンする。レイヤ3からレイヤ2への切り替え制御を継続する。ステップS1718の判定がYESのときには、プロセスは、ステップS1719に進む。ステップS1719において、ECU10はレイヤ2に移行する。つまり、ECU10は、噴射量の増量と点火時期の遅角とを終了する。続くステップS1720においてECU10は、レイヤ2切替フラグを0にし、レイヤ3からレイヤ2への切り替えが完了する。
【0229】
次に、図18図20に示すタイムチャートを参照しながら、レイヤ2とレイヤ3との間の切り替えについて説明をする。これらのタイムチャートは、紙面左から右に時間が進む。また、レイヤ2とレイヤ3との間の切り替えにおいて、エンジン1の目標トルクは変化せずに一定又は略一定であると仮定する。
【0230】
図18は、レイヤ2からレイヤ3への切り替えを行うときの、各パラメータの変化を例示している。時刻t11においてレイヤ3切替フラグが1に切り替わると(18a参照)、スワールコントロール弁56及びEGR弁54の開度がそれぞれ、大から小へと変わる(18b,18c参照)。燃焼室17内のスワール流は、弱スワールから強スワールへと変わると共に、インテークマニホールド内のEGR率は、高EGR率から低EGR率へと変わる(18d参照)。
【0231】
時刻t12においてEGR率が所定の目標値に到達すると、スロットル弁43の開度が小から大へと変化する(18e参照)。前述したように、EGR弁54及びスワールコントロール弁56の開度調節を、スロットル弁43の開度調節よりも先に行うことにより、レイヤ3へ切り替わったときに、リーン混合気のSPCCI燃焼を安定して行うことが可能になる。
【0232】
スロットル弁43の開度が大きくなると、燃焼室17に充填される空気量が次第に増える(18f参照)。空気量が増えることに対応して、燃料の噴射量が増える(18g参照)。これにより、混合気の空燃比は、理論空燃比又は略理論空燃比に維持される。(18i参照)。ここで、燃料の噴射量を、エンジン1の目標トルクに対応した一定の噴射量にしたと仮定すると、そのときの空燃比(つまり、仮想空燃比)は、18iに一点鎖線で示すように、空気量の増加に伴い、次第に大きくなってしまう。RawNOxが生成されてしまう。
【0233】
燃料の噴射量を増やしているため、エンジン1のトルクが目標トルクよりも大きくならないよう、点火時期を遅角する(18h参照)。点火時期は、空気量及び燃料量が増えることに伴い、遅角量が大きくなる。エンジン1のトルクが低減するように、トルク調節を行うことによって、エンジン1のトルクを一定にすることが可能になる(18j参照)。
【0234】
図18に示す例では、リタード限界トルクは目標トルクよりも低く、点火時期をリタード限界まで遅角させなくても、エンジン1のトルクを、目標トルクとなるまで下げることができる(18hの一点鎖線、及び、18jの一点鎖線参照)。
【0235】
そして、時刻t13において、リッチ限界トルクが目標トルクとなれば、燃料の増量及び点火時期の遅角を終了する。エンジン1は、実質的にレイヤ3において運転するが、空気量は目標空気量まで到達していないため、混合気の空燃比は、レイヤ3において設定されている空燃比よりもリッチである。但し、RawNOxの生成は抑制される。
【0236】
尚、リッチ限界トルクと目標トルクとの比較に代えて、ECU10は、仮想空燃比に基づき、燃料の増量及び点火時期の遅角を終了してもよい。つまり、ECU10は、仮想空燃比が所定のしきい値(リッチ限界のしきい値)に到達したことを判定したときに、燃料の増量及び点火時期の遅角を終了してもよい。
【0237】
RawNOxが生成しない限度で混合気の空燃比を燃料リッチにすることを許容することにより、燃料の増量及び点火時期の遅角を、早期に終了することができる。エンジン1の燃費性能の向上に有利になる。
【0238】
その後、時刻t14において、空気量が目標空気量に到達し、レイヤ3への切り替えが完了する。尚、空気量が目標空気量に到達するまで燃料の増量及び点火時期の遅角を継続し、空気量が目標空気量に到達することにより、燃料の増量及び点火時期の遅角を終了してもよい。
【0239】
図19も、レイヤ2からレイヤ3への切り替えを行うときの、各パラメータの変化を例示している。時刻t21においてレイヤ3切替フラグが1に切り替わると(19a参照)、スワールコントロール弁56及びEGR弁54の開度がそれぞれ、大から小へと変わる(19b,19c参照)。燃焼室17内のスワール流は、弱スワールから強スワールへと変わると共に、インテークマニホールド内のEGR率は、高EGR率から低EGR率へと変わる(19d参照)。
【0240】
時刻t22においてEGR率が所定の目標値に到達すると、スロットル弁43の開度が小から大へと変化する(19e参照)。
【0241】
スロットル弁43の開度が大きくなると、燃焼室17に充填される空気量が次第に増える(19f参照)。空気量が増えることに対応して、燃料の噴射量が増える(19g参照)。混合気の空燃比は、理論空燃比又は略理論空燃比に維持される。(19i参照)。空気量及び燃料量が増えることに伴い、点火時期は遅角する(19h参照)。エンジン1のトルクは一定になる(19j参照)。
【0242】
時刻t23において、リタード限界トルクは目標トルクを超えてしまう。つまり、点火時期の遅角量が、リタード限界に到達してしまう(19hの一点鎖線参照)。点火時期をこれ以上に遅角させることができないため、ECU10は、点火時期の遅角量を維持する。つまり、点火時期の遅角を抑制する。これにより、エンジン1は、燃焼安定性を確保することができる。ECU10は、点火時期の遅角を抑制すると共に、オルタネータ57の負荷を高める(19k参照)。エンジン1のトルクが低減し、トルクが一定になる。
【0243】
時刻t24において、リッチ限界トルクが目標トルクになれば(又は、仮想空燃比が所定しきい値になれば)、燃料の増量及び点火時期の遅角を終了する。その後、時刻t25において、空気量が目標空気量に到達し、レイヤ3への切り替えが完了する。
【0244】
尚、レイヤ2からレイヤ3への切替時に、空気量が目標空気量に到達するまで(時刻t14又はt25まで)、燃料量の増量と点火時期の遅角とを継続し、空気量が目標空気量に到達したときに、燃料量の増量と点火時期の遅角とを終了してもよい。
【0245】
尚、リタード限界トルクが目標トルクに到達したタイミングで燃料の増量と点火時期の遅角とを終了し、レイヤ3へ切り替えてもよい。
【0246】
図20は、レイヤ3からレイヤ2への切り替えを行うときの、各パラメータの変化を例示している。時刻t31においてレイヤ2切替フラグが1に切り替わると(20a参照)、スワールコントロール弁56及びEGR弁54の開度がそれぞれ、小から大へと変わる20b,20c参照)。燃焼室17内のスワール流は、強スワールから弱スワールへと変わると共に、インテークマニホールド内のEGR率は、低EGR率から高EGR率へと変わる(20d参照)。
【0247】
レイヤ3からレイヤ2への切り替え時には、EGR率が所定の目標値に到達することを待たずに、スロットル弁43の開度が大から小へと変化する(20e参照)。レイヤ3からレイヤ2への切り替え期間を短くすることができる。
【0248】
スロットル弁43の開度が小さくなると、燃焼室17に充填される空気量が、次第に減る。(20f参照)。燃料の噴射量は、リッチ限界トルクが目標トルクに到達するまで、言い換えると、空燃比が、RawNOxの生成を抑制することが可能なリッチ限界に到達するまで維持される(20g、20i、20j参照)。燃料の噴射量の増量を遅らせることによって、燃費性能の向上に有利になる。
【0249】
時刻t32において、リッチ限界トルクが目標トルクに到達すると、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比になるように、燃料の噴射量を増やす(20g、20i参照)。三元触媒を利用して、排気ガスの浄化を行うことができる。
【0250】
燃料量が増えることに伴い、点火時期は遅角される(20h参照)。その結果、エンジン1のトルクは一定になる(20j参照)。
【0251】
時刻t33において、空気量が目標空気量に到達すれば、燃料の増量及び点火時期の遅角が終了し、レイヤ2への切り替えが完了する。
【0252】
尚、レイヤ3からレイヤ2への切替時に、リッチ限界トルクが目標トルクに到達することを待たずに、スロットル弁43の開度調整の開始と共に(時刻t31から)、燃料量の増量と点火時期の遅角とを開始してもよい。
【0253】
(他の実施形態)
尚、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。エンジン1の構成は、様々な構成を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0254】
1 エンジン
10 ECU(制御部)
10a 目標トルク設定部
10b 第1モード部
10c 第2モード部
10d 判定部
10e 切替部
11 シリンダ
13 シリンダヘッド
17 燃焼室
25 点火プラグ(点火部)
3 ピストン
43 スロットル弁(空気調節部)
57 オルタネータ
6 インジェクタ(燃料噴射部)
SW3 第1圧力センサ(計測部)
SW10 水温センサ(計測部)
SW17 第3吸気温度センサ(計測部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19
図20