(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
A63B37/00 212
A63B37/00 214
(21)【出願番号】P 2018143747
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】神野 一也
(72)【発明者】
【氏名】井上 英高
(72)【発明者】
【氏名】堀内 邦康
【審査官】槙 俊秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-30251(JP,A)
【文献】特開2013-173939(JP,A)
【文献】特表2018-517007(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0344991(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0093137(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0328782(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0235588(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0088048(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有し、
前記塗膜が、基材樹脂と多孔質フィラーを含有し、
前記多孔質フィラーが、構成成分としてSiO
2を50質量%以上含有
し、
前記多孔質フィラーの含有量が、前記基材樹脂100質量部に対して、30質量部以上、200質量部以下であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
前記多孔質フィラーは、体積平均粒子径が0.5μm~30μmであり、嵩密度が0.2g/cm
3
~1.0g/cm
3
である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記多孔質フィラーが、構成成分としてSiO
2を60質量%以上含有する請求項1または2に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記ゴルフボールの塗膜表面の水接触角が70°以上である請求項1~3のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記ゴルフボールの塗膜表面の水滑落角が50°未満である請求項1~4のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項6】
前記ゴルフボールの塗膜表面の付着エネルギーが10mJ/m
2未満である請求項1~5のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボールに関し、特にゴルフボールの塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴルフボールは、ゴルフボール本体の表面に塗膜が形成されている。この塗膜はゴルフボールの性能、品質、外観等に寄与している。これらの中で、ゴルフボールの性能については、一般的に塗膜はその厚さが非常に薄いため、主にアプローチショットなどの弱い打撃での性能に寄与すると考えられている。
【0003】
この塗膜の組成を変更することで、ゴルフボールの性能を改良することが検討されている。例えば、特許文献1には、コアと、前記コアを実質的に囲むカバー層と、を備えたゴルフボールであって、前記カバー層が、少なくとも1つのディンプルと、前記少なくとも1つのディンプルに隣接する少なくとも1つのランド領域とを含み、該ゴルフボールの表面の一部が疎水性であり、前記ゴルフボールの表面の一部が親水性であるゴルフボールが記載されている(特許文献1(請求項1)参照)。
【0004】
特許文献2には、複数のディンプルが形成された外側表面を有するゴルフボール本体、およびゴルフボール本体の外側表面に塗布された、疎水性熱可塑性ポリウレタンを含む保護コーティングを含む、ゴルフボールが記載されている(特許文献2(請求項1、2)参照)。また、特許文献3には、有機珪素化合物を含有することを特徴とするゴルフボール用クリヤーペイントが記載されている(特許文献3(請求項1、3)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2015-503400号公報
【文献】特表2013-521870号公報
【文献】特開2001-214131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、ゴルフボール塗膜について検討されている。しかし、塗膜の役割は、打撃時のスピン量に関わる性能、汚れなどの品質改善、また、外観に寄与するものだけと考えられていた。そのため、雨天時等の水に濡れた状況におけるスピン性能、特にウェッジショットでのスピン性能に対する塗膜の影響については検討されていなかった。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、塗膜組成を制御することで、雨天時等の水に濡れた状況におけるウェッジショットでのスピン性能を改善したゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することができた本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有し、前記塗膜が基材樹脂と多孔質フィラーを含有し、前記多孔質フィラーが、構成成分としてSiO2を50質量%以上含有することを特徴とする。
【0008】
塗膜がSiO2含有率の高い多孔質フィラーを含有することで、打撃時の撥水性が向上する。そのため、雨天時等の水に濡れた状況時での打撃において、スピン性能が向上する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、雨天時等の水に濡れた状況での打撃におけるスピン性能に優れたゴルフボールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図。
【
図2】
図1のゴルフボールの一部が示された模式的拡大図。
【
図3】塗膜の膜厚の測定箇所を説明する模式断面図。
【
図4】塗膜の膜厚の測定箇所を説明する模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(塗膜)
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体を被覆する塗膜とを有する。そして、前記塗膜が、基材樹脂と多孔質フィラーを含有し、前記多孔質フィラーが、構成成分としてSiO2を50質量%以上含有することを特徴とする。塗膜が多層構造の場合は、少なくとも一層が前記多孔質フィラーを含有する。なお、塗膜が多層構造の場合、多孔質フィラーを配合する層は特に限定されないが、少なくとも最も外側に位置する塗膜が前記多孔質フィラーを含有することが好ましい。前記多孔質フィラーは、粒子の全体が塗膜内部に存在していてもよいし、粒子の一部が塗膜表面に露出していてもよい。なお、多孔質フィラーは、粒子の全体が塗膜内部に存在する、すなわち、塗膜表面に露出していないことが好ましい。
【0012】
(多孔質フィラー)
前記塗膜は、多孔質フィラーを含有する。多孔質フィラーは、多数の細孔を有する。前記多孔質フィラーが有する細孔の形状は特に限定されない。前記多孔質フィラーが有する細孔の孔径は特に限定されないが、0.1nm~500nmが好ましい。前記多孔質フィラーは、その種類によって細孔の孔径が異なるが、例えば、ゼオライト系は0.1nm~2nm、ラヂオライトは約300nmである。
【0013】
前記多孔質フィラーは構成成分としてSiO2を50質量%以上含有する。多孔質フィラーのSiO2の含有率が50質量%以上であれば、塗膜の撥水性が向上し、水に濡れた状況での打撃におけるスピン性能が向上する。前記多孔質フィラーの構成成分中のSiO2の含有率は、55質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上であり、100質量%以下、95質量%以下が好ましく、より好ましくは90質量%以下である。
【0014】
前記多孔質フィラーとしては、ラヂオライト(珪藻土)、ゼオライト、パーライトなどが挙げられる。前記多孔質フィラーは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記多孔質フィラーの体積平均粒子径は、0.5μm以上が好ましく、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは2.0μm以上であり、30μm以下が好ましく、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。前記多孔質フィラーの体積平均粒子径が0.5μm以上であれば排水効果が高く、ウェット条件におけるスピン性がより向上し、30μm以下であれば外観が良好となり、かつ、汚れの付着を低減することができる。
【0016】
前記多孔質フィラーの嵩密度は、特に限定されないが、0.2g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.3g/cm3以上であり、1.0g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.9g/cm3以下、さらに好ましくは0.8g/cm3以下である。
【0017】
前記塗膜中の前記多孔質フィラーの含有量は、前記基材樹脂100質量部に対して、30質量部以上が好ましく、より好ましくは40質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上であり、200質量部以下が好ましく、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは120質量部以下である。前記多孔質フィラーの含有量が、30質量部以上であれば排水効果が高く、ウェット条件におけるスピン性がより向上し、200質量部以下であれば外観が良好となり、かつ、汚れの付着を低減することができる。
【0018】
(基材樹脂)
前記塗膜を構成する基材樹脂としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらの中でもウレタン樹脂が好ましい。塗膜を構成する基材樹脂がウレタン樹脂の場合、塗膜の物性は、ポリオール組成物やポリイソシアネート組成物の配合や、これらの混合比によって調整できる。なお、前記塗膜が多層構造の場合は、各層が異なる樹脂から構成されていてもよいが、全ての層を構成する基材樹脂がウレタン樹脂であることが好ましい。
【0019】
(ポリウレタン塗料)
前記塗膜は、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを含有する塗料から形成されることが好ましい。前記塗料としては、ポリオールを主剤とし、ポリイソシアネートを硬化剤とするいわゆる二液硬化型ウレタン塗料を例示することができる。
【0020】
(ポリオール組成物)
前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物を含有する。前記ポリオール化合物としては、分子中にヒドロキシ基を2つ以上有する化合物が挙げられる。前記ポリオール化合物としては、分子の末端にヒドロキシ基を有する化合物、分子の末端以外にヒドロキシ基を有する化合物が挙げられる。前記ポリオール化合物は、単独で、あるいは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0021】
前記分子の末端にヒドロキシ基を有する化合物としては、分子量が500未満の低分子量ポリオールや数平均分子量が500以上の高分子量ポリオールを挙げることができる。前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記高分子量のポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール、アクリルポリオールなどが挙げられる。前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などが挙げられる。前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)などが挙げられる。前記ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0022】
前記ウレタンポリオールとは、分子内にウレタン結合を複数有し、一分子中にヒドロキシ基を2以上有する化合物である。ウレタンポリオールとしては、例えば、第一ポリオール成分と第一ポリイソシアネート成分とを、第一ポリオール成分のヒドロキシ基が第一ポリイソシアネート成分のイソシアネート基に対して過剰になるような条件で反応させて得られるウレタンプレポリマーを挙げることができる。
【0023】
前記ウレタンポリオールの第一ポリオール成分としては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられ、ポリエーテルジオールが好ましい。前記ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどが挙げられ、これらの中でもポリオキシテトラメチレングリコールが好ましい。
【0024】
前記ポリエーテルジオールの数平均分子量は、500以上が好ましく、より好ましくは600以上であり、4,000以下が好ましく、より好ましくは3,500以下、さらに好ましくは3,000以下である。ポリエーテルジオールの数平均分子量が500以上であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなり、塗膜が柔らかくなるため、スピン性能が向上する。前記数平均分子量が4,000以下であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなりすぎず、塗膜の耐汚染性が良好となる。なお、ポリオール成分の数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準物質としてポリスチレン、溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして有機溶媒系GPC用カラム(例えば、昭和電工社製「Shodex(登録商標) KFシリーズ」など)を用いて測定すればよい。
【0025】
前記第一ポリオール成分には分子量が500未満の低分子量ポリオールを含有してもよい。前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記低分子量ポリオールは、単独で、あるいは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0026】
前記ウレタンポリオールは、第一ポリオール成分として、トリオール成分とジオール成分とを含有するものが好ましい。前記トリオール成分としては、トリメチロールプロパンが好ましい。前記トリオール成分とジオール成分の混合比率(トリオール成分/ジオール成分)は、質量比で、0.2以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、6.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましい。
【0027】
前記ウレタンポリオールを構成し得る第一ポリイソシアネート成分としては、イソシアネート基を2以上有するものであれば特に限定されず、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの脂環式ポリイソシアネートまたは脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記ウレタンポリオールは、前記ポリエーテルジオールの含有率が、70質量%以上が好ましく、より好ましくは72質量%以上、さらに好ましくは75質量%以上である。前記ポリエーテルジオールは、塗膜においてソフトセグメントを形成する。よって、前記ポリエーテルジオールの含有率が、70質量%以上であれば、得られるゴルフボールのスピン性能がより向上する。
【0029】
前記ウレタンポリオールは、重量平均分子量が、5,000以上が好ましく、より好ましくは5,300以上、さらに好ましくは5,500以上であり、20,000以下が好ましく、より好ましくは18,000以下、さらに好ましくは16,000以下である。ウレタンポリオールの重量平均分子量が5,000以上であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなり、塗膜が柔らかくなるため、スピン性能が向上する。前記重量平均分子量が20,000以下であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなりすぎず、塗膜の耐汚染性が良好となる。
【0030】
前記ウレタンポリオールの水酸基価は、10mgKOH/g以上が好ましく、より好ましくは15mgKOH/g以上、さらに好ましくは20mgKOH/g以上であり、200mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは190mgKOH/g以下、さらに好ましくは180mgKOH/g以下である。水酸基価は、JIS K 1557-1に準じて、例えば、アセチル化法によって測定することができる。
【0031】
前記分子の末端以外にヒドロキシ基を有する化合物としては、例えば、ヒドロキシ基を有する修飾ポリロタキサン、ヒドロキシ基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0032】
前記ヒドロキシ基を有する修飾ポリロタキサンは、シクロデキストリンと、このシクロデキストリンの環状構造に挿通された直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され、前記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有する。ポリロタキサンは、直鎖状分子に串刺し状に貫通されているシクロデキストリン分子が直鎖状分子に沿って移動可能(滑車効果)なために粘弾性を有し、張力が加わっても、この滑車効果によって当該張力を均一に分散させることができるので、従来の架橋ポリマーとは異なり、クラックや傷が極めて生じ難いという優れた性質を有している。
【0033】
前記シクロデキストリンは、環状構造を有するオリゴ糖の総称である。シクロデキストリンは、例えば、6~8個のD-グルコピラノース残基がα―1,4-グルコシド結合により環状に結合したものである。シクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β-シクロデキストリン(グルコース数:7個)、γ―シクロデキストリン(グルコース数:8個)などが挙げられ、α-シクロデキストリンが好ましい。前記シクロデキストリンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記直鎖状分子としては、シクロデキストリンの環状構造を串刺し状に、滑動可能および回動可能に保持する直鎖状の分子であれば特に限定されない。前記直鎖状分子としては、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリルなどが挙げられ、これらのなかでもポリエーテルが好ましく、ポリエチレングリコールが特に好ましい。ポリエチレングリコールは、立体障害が小さく、シクロデキストリンの環状構造を串刺し状に保持することができる。
【0035】
前記直鎖状分子の重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、6,000以上がより好ましく、100,000以下が好ましく、80,000以下がより好ましい。
【0036】
前記直鎖状分子は、その両末端に官能基を有することが好ましい。官能基を有することで、前記封鎖基と容易に反応させることができる。前記官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、チオール基などが挙げられる。
【0037】
前記封鎖基は、直鎖状分子の両末端に配置され、シクロデキストリンが直鎖状分子から脱離することを防止できるものであれば特に限定されない。脱離を防止する方法としては、嵩高い封鎖基を用いて物理的に脱離を防止する方法、イオン性の封鎖基を用いて静電気的に脱離を防止する方法が挙げられる。前記嵩高い封鎖基としては、シクロデキストリン、アダマンチル基などが挙げられる。直鎖上分子に保持されるシクロデキストリンの個数(保持量)は、その最大保持量を1とすると、0.06~0.61が好ましく、0.11~0.48がより好ましく、0.24~0.41がさらに好ましい。0.06未満では滑車効果が発現しないことがあり、0.61を超えると、シクロデキストリンが密に配置されすぎてシクロデキストリンの可動性が低下することがある。
【0038】
前記ポリロタキサンとしては、シクロデキストリンが有するヒドロキシ基の少なくとも一部が、カプロラクトン鎖によって変性されているものが好ましい。カプラクトン変性することにより、ポリロタキサンとポリイソシアネートとの立体障害が緩和され、ポリイソシアネートに対する反応効率が高まる。
【0039】
前記変性としては、例えば、シクロデキストリンのヒドロキシ基をプロピレンオキシドで処理して、ヒドロキシプロピル化する。続いて、ε-カプロラクトンを加えて開環重合を行う。この変性により、シクロデキストリンの環状構造の外側に、カプロラクトン鎖-(CO(CH2)5O)nH(nは、1~100の自然数)が、-O-C3H6-O-基を介して、結合する。nは、重合度を表し、1~100の自然数であることが好ましく、2~70の自然数であることがより好ましく、3~40の自然数であることがさらに好ましい。カプロラクトン鎖の他方の末端には、開環重合によりヒドロキシ基が形成される。カプロラクトン鎖の末端ヒドロキシ基は、ポリイソシアネートと反応することができる。
【0040】
変性前のシクロデキストリンが有する全ヒドロキシ基(100モル%)に対して、カプロラクトン鎖で変性されるヒドロキシ基の割合は、2モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がさらに好ましい。カプロラクトン鎖で変性されるヒドロキシ基の割合が、前記範囲であれば、ポリロタキサンの疎水性が高くなり、ポリイソシアネートとの反応性が高くなる。
【0041】
前記ポリロタキサンの水酸基価は、10mgKOH/g以上が好ましく、より好ましくは15mgKOH/g以上、さらに好ましくは20mgKOH/g以上であり、400mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは300mgKOH/g以下、さらに好ましくは220mgKOH/g以下、特に好ましくは180mgKOH/g以下である。ポリロタキサンの水酸基価が上記範囲内であれば、ポリイソシアネートとの反応性が高くなり、塗膜の耐久性が良好となる。
【0042】
前記ポリロタキサンの全体分子量は、重量平均分子量で、30,000以上が好ましく、より好ましくは40,000以上、さらに好ましくは50,000以上であり、3,000,000以下が好ましく、より好ましくは2,500,000以下、さらに好ましくは2,000,000以下である。重量平均分子量が30,000以上であれば塗膜が十分な強度をもつものとなり、3,000,000以下であれば塗膜が十分な軟らかさを有し、ゴルフボールのアプローチ性能が向上する。なお、ポリロタキサンの重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準物質としてポリスチレン、溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして有機溶媒系GPC用カラム(例えば、昭和電工社製「Shodex(登録商標) KFシリーズ」など)を用いて測定すればよい。
【0043】
ポリカプロラクトンで変性されたポリロタキサンの具体例としては、アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製のセルムスーパーポリマーSH3400P、SH2400P、SH1310Pなどを挙げることができる。
【0044】
前記ヒドロキシ基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体は、塗膜の耐傷付き性を維持しつつ粘着性を調整できる。前記ヒドロキシ基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体は、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニルおよびヒドロキシ基を有する単量体(例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシアルキルアクリレート)を共重合する方法、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体を部分ケン化あるいは完全ケン化する方法により得られる。
【0045】
前記ヒドロキシ基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体において、塩化ビニル成分の含有率は、1質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましい。ヒドロキシ基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の具体例としては、日信化学工業社製のソルバイン(登録商標)A、ソルバインAL、ソルバインTA3などが挙げられる。
【0046】
前記ポリオール組成物としては、数平均分子量が600~3000のポリエーテルジオールを構成成分として含有するウレタンポリオールを含有する態様(態様1);シクロデキストリンと前記シクロデキストリンの環状構造に挿通された直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され、前記シクロデキストリンの脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサンであり、当該シクロデキストリンのヒドロキシ基の少なくとも一部が、-O-C3H6-O-基を介して、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサンを含有する態様(態様2)が好ましい。
【0047】
前記態様1のポリオール組成物は、前記ポリオール組成物が含有するポリオール化合物中の前記ウレタンポリオールの含有率は、60質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。前記態様1のポリオール組成物は、ポリオール化合物として、前記ウレタンポリオールのみを含有することも好ましい。
【0048】
前記態様2のポリオール組成物は、前記ポリオール組成物が含有するポリオール化合物中のポリロタキサンの含有率は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、100質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
前記態様2のポリオール組成物は、ポリカプロラクトンポリオールを含有することが好ましい。前記ポリロタキサンとポリカプロラクトンポリオールとの質量比(ポリカプロラクトンポリオール/ポリロタキサン)は、0/100以上が好ましく、より好ましくは5/95以上、さらに好ましくは10/90以上であり、90/10以下が好ましく、より好ましくは85/15以下、さらに好ましくは80/20以下である。
【0050】
前記態様2のポリオール組成物は、前記ヒドロキシ基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体を含有することが好ましい。前記ポリオール組成物が含有するポリオール化合物中のヒドロキシ基変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の含有率は、4質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましく、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0051】
(ポリイソシアネート組成物)
次に、ポリイソシアネート組成物について説明する。前記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート化合物を含有する。前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、イソシアネート基を2つ以上有する化合物が挙げられる。
【0052】
前記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネートと2,6-トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ビトリレン-4,4’-ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)などの芳香族ジイソシアネート;4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)などの脂環式ジイソシアネートまたは脂肪族ジイソシアネート;およびこれらのジイソシアネートのアロハネート体、ビュレット体、イソシアヌレート体、アダクト体などのトリイソシアネート;が挙げられる。前記ポリイソシアネートは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
前記アロハネート体とは、例えば、ジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて形成されるウレタン結合にさらにジイソシアネートが反応して得られるトリイソシアネートである。アダクト体とは、ジイソシアネートとトリメチロールプロパンあるいはグリセリンなどの低分子量トリオールとを反応させて得られるトリイソシアネートである。前記ビュレット体とは、例えば、下記式(1)で表わされるビュレット結合を有するトリイソシアネートである。ジイソシアネートのイソシアヌレート体とは、例えば、下記式(2)で表わされるトリイソシアネートである。
【0054】
【化1】
式(1)、(2)中、Rは、ジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基を表わす。
【0055】
前記トリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体が好ましい。
【0056】
本発明では、ポリイソシアネート組成物が、トリイソシアネート化合物を含有することが好ましい。前記ポリイソシアネート組成物が含有するポリイソシアネート中のトリイソシアネート化合物の含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。前記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート化合物としてトリイソシアネート化合物のみを含有することが最も好ましい。
【0057】
前記ポリイソシアネート組成物が含有するポリイソシアネートのイソシアネート基量(NCO%)は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。なお、ポリイソシアネートのイソシアネート基量(NCO%)は、100×[ポリイソシアネート中のイソシアネート基のモル数×42(NCOの分子量)]/ポリイソシアネートの総質量(g)で表わすことができる。
【0058】
前記ポリイソシアネートの具体例としては、DIC社製バーノックD-800、バーノックDN-950、バーノックDN-955、住化バイエルウレタン社製デスモジュールN75MPA/X、デスモジュールN3300、デスモジュールL75(C)、スミジュールE21-1、日本ポリウレタン工業社製コロネートHX、コロネートHK、旭化成ケミカルズ社製デュラネート24A-100、デュラネート21S-75E、デュラネートTPA-100、デュラネートTKA-100、デグサ社製VESTANAT T1890などを挙げることができる。
【0059】
前記硬化型塗料組成物における硬化反応において、主剤が有するヒドロキシ基(OH基)と硬化剤が有するイソシアネート基(NCO基)のモル比(NCO基/OH基)は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。前記モル比(NCO基/OH基)が、0.1未満では、硬化反応が不十分となる。また、前記モル比(NCO基/OH基)が大きくなりすぎると、イソシアネート基量が過剰となり、得られる塗膜が硬く脆くなる上に、外観も悪くなる。そのため、前記モル比(NCO基/OH基)は、1.5以下が好ましく、1.4以下がより好ましく、1.3以下がさらに好ましい。なお、塗料中のイソシアネート基量が過剰になると得られる塗膜の外観が悪くなる理由は、イソシアネート基量が過剰になると、空気中の水分とイソシアネート基との反応が多くなり、炭酸ガスが多量に発生するためと考えられる。
【0060】
前記ポリオール組成物として態様1のポリオール組成物を使用する場合、ポリイソシアヌレート組成物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体およびイソホロンジイソシアヌレートのイソシアヌレート変性体を含有することが好ましい。ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体とイソシアヌレート変性体とを併用する場合、これらの混合比率(ビュレット変性体/イソシアヌレート変性体)は、質量比で、20/40~40/20が好ましく、25/35~35/25がより好ましい。
【0061】
前記ポリオール組成物として態様2のポリオール組成物を使用する場合、ポリイソシアヌレート組成物は、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体および/またはビュレット変性体を含有することが好ましい。
【0062】
前記塗料としては、水を主たる分散媒とする水系塗料、有機溶剤を分散媒とする溶剤系塗料のいずれであってもよいが、溶剤系塗料が好ましい。溶剤系塗料の場合、好ましい溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、メチルエチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブチルアルコール、酢酸エチルなどを挙げることができる。なお、溶剤は、ポリオール組成物およびポリイソシアネート組成物のいずれに配合してもよいが、均一に硬化反応をさせる観点から、ポリオール組成物およびポリイソシアネート組成物のそれぞれに配合することが好ましい。
【0063】
前記塗料は、さらに変性シリコーンを含有することが好ましい。レベリング剤として、変性シリコーンを含有することにより、塗布面の凹凸を軽減し、ゴルフボール表面に平滑な塗布面を形成することができる。前記変性シリコーンとしては、ポリシロキサン骨格の側鎖又は末端に有機基を導入したもの、ポリシロキサンブロックにポリエーテルブロックおよび/またはポリカプロラクトンブロックなどを共重合したポリシロキサンブロック共重合体、または、前記ポリシロキサンブロック共重合体の側鎖又は末端に有機基を導入したものなどを挙げることができる。前記ポリシロキサン骨格またはポリシロキサンブロックとしては、直鎖状であることが好ましく、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどを挙げることができる。前記有機基としては、例えば、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルビノール基などを挙げることができる。本発明では、変性シリコーンオイルとして、ポリジメチルシロキサン-ポリカプロラクトンブロック共重合体を使用することが好ましく、末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサン-ポリカプロラクトンブロック共重合体を使用することがより好ましい。カプロラクトン変性ポリロタキサン、ポリカプロラクトンポリオールとの相溶性に優れるからである。本発明で使用する変性シリコーンの具体例としては、Gelest社製のDBL-C31、DBE-224、DCE-7521などが挙げられる。
【0064】
硬化反応には、公知の触媒を使用することができる。前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミンなどのモノアミン類;N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミンなどのポリアミン類;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミンなどの環状ジアミン類;ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒などが挙げられる。これらの触媒は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジブチルチンジラウリレート、ジブチルチンジアセテートなどの錫系触媒が好ましく、特に、ジブチルチンジラウリレートが好適に使用される。
【0065】
前記塗膜は、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、ブロッキング防止剤、レベリング剤、スリップ剤、粘度調整剤などの、一般にゴルフボール用塗料に含有され得る添加剤を含有してもよい。
【0066】
(塗膜の形成)
次に、塗料の塗布方法について説明する。塗料の塗布方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができ、例えば、スプレー塗装、静電塗装などを挙げることができる。
【0067】
エアーガンを用いたスプレー塗装の場合には、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とをそれぞれのポンプで供給して、エアーガン直前に配置されたラインミキサーで連続的に混合し、得られた混合物をスプレー塗装してもよいし、混合比制御機構を備えたエアースプレーシステムを用いて、ポリオールとポリイソシアネートとを別々にスプレー塗装してもよい。塗装は、1回でスプレー塗布しても良いし、複数回重ね塗りをしても良い。
【0068】
ゴルフボール本体に塗布された塗料は、例えば、30℃~70℃の温度で1時間~24時間乾燥することにより塗膜を形成することができる。
【0069】
前記塗膜の厚さは、5μm以上が好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは9μm以上であり、50μm以下が好ましく、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下である。前記厚さが5μm以上であればアプローチショットでのスピン量が増加し、50μm以下であればドライバーショットでのスピン量を抑えることができる。なお、塗膜が多層構造を有する場合は、全層の合計の厚さを上記範囲内とすることが好ましい。塗膜の厚さの測定方法は、後述する。
【0070】
前記多孔質フィラーを含有する塗膜の厚さ(T)と前記多孔質フィラーの体積平均粒子径(d)との比(d/T)は、0.01以上が好ましく、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上であり、2.0以下が好ましく、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0以下である。比(d/T)が0.01以上であれば排水効果が高く、ウェット条件におけるスピン性がより向上し、2.0以下であれば外観が良好となり、かつ、汚れの付着を低減することができる。
【0071】
(ゴルフボール)
本発明のゴルフボールは、ゴルフボール本体と、前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであれば、特に限定されない。ゴルフボール本体の構造は、特に限定されず、ワンピースゴルフボール、ツーピースゴルフボール、スリーピースゴルフボール、フォーピースゴルフボール、ファイブピースゴルフボール以上のマルチピースゴルフボール、あるいは、糸巻きゴルフボールであってもよい。いずれの場合であっても、本発明を好適に適用できる。
【0072】
前記ゴルフボールの塗膜表面の水接触角は70°以上が好ましく、より好ましくは75°以上、さらに好ましくは80°以上であり、90°以下が好ましい。前記水接触角が70°以上であれば雨天時飛行中の排水効果が高くなる。接触角とは、静止液体の自由表面が、固体壁に接する場所で、液体と固体面とのなす角(液の内部にある角)である。
【0073】
前記ゴルフボールの塗膜表面の水滑落角は50°未満が好ましく、より好ましくは45°以下が好ましく、さらに好ましくは40°以下が好ましい。水滑落角が50°未満であれば雨天時飛行中の排水効果が高くなる。水滑落角の下限は特に限定されないが、通常10°以上である。滑落角とは、水平な固体表面上に静止液体が存在する際に、この固体試料を徐々に傾けたとき、液体が下方に滑り出す傾斜角である。
【0074】
前記ゴルフボールの塗膜表面の付着エネルギーは10mJ/m2未満が好ましく、より好ましくは9mJ/m2以下、さらに好ましくは8mJ/m2以下である。前記付着エネルギーが10mJ/m2未満であれば雨天時飛行中の排水効果が高くなる。前記付着エネルギーの下限は特に限定されないが、通常4mJ/m2である。
【0075】
前記塗膜のナノインデンターを用いて測定した押し込み深さは、300nm以上が好ましく、より好ましくは400nm以上、さらに好ましくは500nm以上であり、4000nm以下が好ましく、より好ましくは3900nm以下、さらに好ましくは3800nm以下である。ナノインデンターを用いて測定した押し込み深さは、ゴルフボール本体に設けられた塗膜の物性を直接指標する。ナノインデンターを用いて測定した塗膜の押し込み深さが、300nm以上であればアプローチショットでのスピン量が増加し、4000nm以下であれば耐汚染性が良好となる。
【0076】
前記水接触角、水滑落角、付着エネルギー、押し込み深さは、塗膜の樹脂成分、多孔質フィラー等の種類、配合量によって制御できる。
【0077】
(コア)
前記ワンピースゴルフボール本体、ならびに、糸巻きゴルフボール、ツーピースゴルフボールおよびマルチピースゴルフボールに用いられるコアについて説明する。
【0078】
前記ワンピースゴルフボール本体およびコアには、公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)を用いることができ、例えば、基材ゴム、共架橋剤および架橋開始剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
【0079】
前記基材ゴムとしては、特に、反発に有利なシス結合が40質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上のハイシスポリブタジエンを用いることが好ましい。前記共架橋剤としては、炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸またはその金属塩が好ましく、アクリル酸の金属塩またはメタクリル酸の金属塩がより好ましい。金属塩の金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛である。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上50質量部以下が好ましい。前記共架橋剤として炭素数が3~8個のα,β-不飽和カルボン酸を使用する場合、金属化合物(例えば、酸化マグネシウム)を配合することが好ましい。架橋開始剤としては、有機過酸化物が好ましく用いられる。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられ、これらのうちジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下である。
【0080】
また、前記コア用ゴム組成物は、さらに、有機硫黄化合物を含有してもよい。前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類(例えば、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド)、チオフェノール類、チオナフトール類(例えば、2-チオナフトール)を好適に使用することができる。有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。前記コア用ゴム組成物は、さらにカルボン酸および/またはその塩を含有してもよい。カルボン酸および/またはその塩としては、炭素数が1~30のカルボン酸および/またはその塩が好ましい。前記カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸(安息香酸など)のいずれも使用できる。カルボン酸および/またはその塩の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上、40質量部以下である。
【0081】
前記コア用ゴム組成物には、基材ゴム、共架橋剤、架橋開始剤、有機硫黄化合物に加えて、さらに、酸化亜鉛や硫酸バリウムなどの重量調整剤、老化防止剤、色粉などを適宜配合することができる。前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成型条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130℃~200℃で10分間~60分間加熱するか、あるいは130℃~150℃で20分間~40分間加熱した後、160℃~180℃で5分間~15分間と2段階加熱することが好ましい。
【0082】
(カバー)
前記ゴルフボール本体は、コアと前記コアを被覆するカバーとを有するものが好ましい。この場合、前記カバーの硬度は、ショアD硬度で、60以下が好ましく、55以下がより好ましく、50以下がさらに好ましく、45以下が特に好ましい。カバーの硬度がショアD硬度で60以下であれば、スピン量が一層高くなるからである。前記カバー硬度の下限は、特に限定されないが、ショアD硬度で、10が好ましく、15がより好ましく、20がさらに好ましい。カバー硬度は、カバーを形成するカバー用組成物をシート状に成形して測定したスラブ硬度である。
【0083】
前記カバーの厚さは、0.1mm以上が好ましく、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上であり、1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.9mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。前記カバーの厚さが0.1mm以上であれば、ゴルフボールの打球感がより良好となり、1.0mm以下であればゴルフボールの反発性を維持することができる。
【0084】
前記カバーを構成する樹脂成分としては、特に限定されるものではなく、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂などの各種樹脂、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)(例えば、「ペバックス2533」)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)(例えば、「ハイトレル3548」、「ハイトレル4047」)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)(例えば、「エラストランXNY97A」)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーまたは商品名「プリマロイ」で市販されている熱可塑性ポリエステル系エラストマーなどを挙げることができる。前記カバー材料は、単独であるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0085】
これらの中でもカバーを構成する樹脂成分としては、ポリウレタン樹脂、アイオノマー樹脂が好ましく、特にポリウレタン樹脂が好ましい。前記カバーを構成する樹脂成分にポリウレタン樹脂を使用する場合、樹脂成分中のポリウレタン樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。前記カバーを構成する樹脂成分にアイオノマー樹脂を使用する場合、樹脂成分中のアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0086】
前記ポリウレタンは、いわゆる熱可塑性ポリウレタンや熱硬化性ポリウレタンのいずれの態様であってもよい。熱可塑性ポリウレタンとは、加熱により可塑性を示すポリウレタンであり、一般に、ある程度高分子量化された直鎖構造を有するポリウレタンを意味する。一方、熱硬化性ポリウレタン(二液硬化型ポリウレタン)は、カバーを成形する際に、低分子量のウレタンプレポリマーと硬化剤(鎖長延長剤)とを反応させて高分子量化することにより得られるポリウレタンである。熱硬化性ポリウレタンには、使用するプレポリマーや硬化剤(鎖長延長剤)の官能基の数を制御することによって、直鎖構造のポリウレタンや3次元架橋構造を有するポリウレタンが含まれる。前記ポリウレタンとしては、熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0087】
前記カバーは、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの比重調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0088】
カバー用組成物を用いてカバーを成形する態様は、特に限定されないが、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する態様、あるいは、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する態様(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)を挙げることができる。カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、マークを形成することもできる。
【0089】
カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0090】
前記ゴルフボールが、スリーピース、フォーピースゴルフボール、ファイブピースゴルフボール以上のマルチピースゴルフボールである場合には、コアと最外層カバーとの間に設ける中間層としては、例えば、ポリウレタン樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂;スチレンエラストマー、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ゴム組成物の硬化物などが挙げられる。ここで、アイオノマー樹脂としては、例えば、エチレンとα,β-不飽和カルボン酸との共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、またはエチレンとα,β-不飽和カルボン酸とα,β-不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したものが挙げられる。前記中間層には、さらに、硫酸バリウム、タングステンなどの比重調整剤、老化防止剤、顔料などが配合されていてもよい。なお、中間層は、ゴルフボールの構成に応じて、内側カバー層や、外層コアと称される場合がある。
【0091】
前記ゴルフボールの直径は、40mm~45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は、42.67mm以上が好ましい。空気抵抗の観点から、直径は44mm以下が好ましく、42.80mm以下がより好ましい。ゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上が好ましく、45.00g以上がより好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が好ましい。
【0092】
前記ゴルフボールは、直径40mm~45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.2mm以上であり、4.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
【0093】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。
図2は、
図1のゴルフボールの一部が示された模式的拡大図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、球状コア2を被覆するカバー3と、このカバー3の表面に設けられた塗膜4を有する。前記カバー3の表面には、多数のディンプル31が形成されている。このカバー3の表面のうち、ディンプル31以外の部分は、ランド32である。前記塗膜4は、単層構造である。この塗膜4は、基材樹脂と構成成分としてSiO
2を50質量%以上含有する多孔質フィラー5を含有する。
図2では、前記多孔質フィラー5は、塗膜4の内部に存在し、塗膜表面には露出していないが、これらの多孔質フィラー5は塗膜表面に露出していてもよい。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0095】
[評価方法]
(1)コア硬度(ショアC硬度)
コアの表面部において測定した硬度をコア表面硬度とした。また、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定した硬度をコア中心硬度とした。硬度は、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて測定した。検出器は、「Shore C」を用いた。
【0096】
(2)スラブ硬度(ショアD硬度)
中間層用組成物、カバー用組成物を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように3枚以上重ねた状態で、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて硬度を測定した。検出器は、「Shore D」を用いた。
【0097】
(3)圧縮変形量(mm)
コアまたはゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にコアまたはゴルフボールが縮む量)を測定した。
【0098】
(4)塗膜の膜厚(μm)
ゴルフボールを半球状に切断し、半球上の塗膜断面をマイクロスコープ(キーエンス社製、VHX-1000)を用いて観察し、塗膜の膜厚を求めた。
膜厚の測定箇所について
図3、4を参照して説明する。
図3はゴルフボールの断面の模式図である。
図3に示すように、ゴルフボール断面において、ボール中心といずれかのディンプルの底とを通る直線A、この直線Aと直交する直線B、直線Aとのなす角が45°である直線Cを作成し、これらの直線と塗膜表面との交点をそれぞれポールP、赤道部E、肩部Sとする。
図4はディンプル31の底Deおよびゴルフボール1の中心を通過する断面の模式図である。ディンプルの底Deとは、ディンプル31の最も深い箇所である。エッジEdは、ディンプル31の両側に共通の接線Tが画かれたときの、ディンプル31と接線Tとの接点である。斜面における測定箇所Yは、ディンプルの底DeとエッジEdとを結ぶ直線の中点から、ディンプル31に向けて垂線を下ろした際、該垂線とディンプルの斜面とが交わる点である。ランドにおける測定箇所Xは、隣接するディンプルのエッジ間の中点である。なお、隣接ディンプル同士が接している等ランド部が存在しないものや、ランド部が極めて狭く膜厚を測定することが困難な場合は、ディンプルの底、エッジ、斜面を測定点とする。
測定では、まず6個のボールについて、ポールPの存在するディンプルと、赤道部Eおよび肩部Sの近傍のディンプルの3カ所から試験片を作製する。次に、各試験片(ディンプル)において、ディンプルの底De、エッジEd、斜面Y、ランドXにおける塗膜の厚みを測定する。最後に、ボール6個についての測定値から平均値を求め、その平均値を塗膜の膜厚とした。
【0099】
(5)接触角、滑落角
ゴルフボール表面、および、塗膜を形成したシートについて、接触角、滑落角を測定した。
測定試料用のシートは、カバー用組成物から形成したスラブ上に、塗膜を形成して作製した。具体的には、カバー用組成物のペレットを、厚さ2mmの金型内へ十分に充填し、170℃、5分間圧縮成型し、冷却後金型からスラブを取り出した。このスラブ表面をサンドブラストによる表面処理を行なった。その後、エアーガン方式によるスプレー塗装にて、乾燥後の塗膜が所望の厚さになる様に塗料を塗布した。
【0100】
(5-1)接触角
接触角は、接触角計(協和界面科学社製、DropMaster DM501、解析ソフトウェア(FAMAS))を用いて測定した。液滴するガラス製注射筒として、協和界面科学社製の注射筒セット22Gを用いた。
測定では、まずソフトウェアを起動し、注射筒を接触角計にセットした。続いて、モニタ上で水を滴下する部分が、水平になるように測定試料をサンプル台にセットした。そして、注射筒から水を2μL滴下し、滴下後、30秒後の接触角を測定した。なお、接触角は、θ/2法を用いて計測した。ゴルフボールの測定では、最も直径が大きいディンプルの中心に水を滴下した。
【0101】
(5-2)滑落角
滑落角は、滑落接触角計(協和界面科学社製、DMo-501SA)を用いて測定した。測定条件は下記の通りとした。ゴルフボールの測定では、最も直径が大きいディンプルの中心に水を滴下した。
測定方法 : 滑落法
解析方法 : 真円フィッティング法(区間60dot)
視野 : WIDE1
水液量 : 19±1μL(使用針 ステンレス製針15G)
滑落条件 : 0~90°(毎秒2.0°連続傾斜)
滑落、移動判定距離 : 3dot以上移動した時の傾斜角度
また、下記式を用いて、ゴルフボールの測定値から付着エネルギー(mJ/m2)を算出した。なお、rは接触半径、wは液滴質量、gは重力加速度、αは滑落角である。
付着エネルギー=(w×g×sinα)/(2×π×r)
【0102】
(6)スピン性能
ゴルフラボラトリー社のスイングロボットに、サンドウェッジ(クリーブランドゴルフ社製、CG15フォージドウェッジ、ロフト角52°、58°)を装着し、ヘッドスピード16m/sでゴルフボールを打撃し、打撃されたゴルフボールを連続写真撮影することによってスピン速度(rpm)を測定した。測定は、各ゴルフボールについて10回ずつ行い、その平均値をスピン速度とした。ラフ条件では、クラブフェースとゴルフボールとの間に野芝(2本)が介在する状態で試験を行った。ウェット条件では、クラブフェースとゴルフボールを水で濡らした状態で試験を行った時のスピン速度である。
【0103】
(7)塗膜の押し込み深さ
押し込み深さの測定では、ゴルフボールを切断して、半球が得られる。この半球には、ゴルフボールの中心を通過する断面が露出する。この断面は、塗膜の断面を含んでいる。クライオミクロトームにより、この半球の断面が水平とされる。この塗膜断面に、ナノインデンターの圧子が当てられ、断面に対して垂直な方向に押圧される。押圧により、圧子は進行する。圧子の荷重と進行距離とが計測される。測定時の条件は、以下の通りである。
・ナノインデンター:株式会社エリオニクスの「ENT-2100」
・温度:30℃
・圧子:バーコビッチ圧子(65.03° As(h)=26.43h2)
・分割数:500ステップ ステップインターバル:20msec(100mgf)
圧子の荷重は、50mgfに到達するまで、徐々に高められる。荷重が30mgfであるときの圧子の進行距離(nm)が、押し込み深さとして計測される。
【0104】
1.球状コアの作製
表1に示す配合のゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で150℃、19分間加熱プレスすることにより直径39.7mmの球状コアを得た。なお、ボール質量が45.6gとなるように、硫酸バリウムの量を調整した。
【0105】
【表1】
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日本蒸溜工業社製、「ZN-DA90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド:川口化学工業社製
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
安息香酸:Emerald Kalama Chemical 社製
【0106】
2.中間層用組成物およびカバー用組成物の調製
表2、表3に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物およびカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160~230℃に加熱された。
【0107】
【表2】
ハイミラン(登録商標)AM7329:三井・デュポン・ポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミラン1555:三井・デュポン・ポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
【0108】
【表3】
エラストランXNY80A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー
【0109】
3.中間層の成形
上記で得た中間層用組成物を、前述のようにして得た球状コア上に直接射出成形することにより、前記球状コアを被覆する中間層(厚さ:1.0mm)を形成した。
【0110】
4.補強層の作製
二液硬化型エポキシ樹脂を基材樹脂とする補強層用組成物(神東塗料社製、商品名「ポリン(登録商標)750LE」)を調製した。主剤は、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂を30質量部と、溶剤を70質量部含有する。硬化剤は、変性ポリアミドアミンを40質量部、二酸化チタンを5質量部、溶剤を55質量部含有する。主剤と硬化剤との質量比は、1/1とした。この補強層用組成物を中間層の表面にエアガンで塗布し、23℃雰囲気下で12時間保持して、補強層を形成した。補強層の厚みは、7μmであった。
【0111】
5.カバーの成形
ペレット状のカバー用組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。補強層を形成した球体を2枚のハーフシェルで同心円状に被覆した。この球体およびハーフシェルを、キャビティ面に多数のピンプルを備えたファイナル金型に投入した。圧縮成形によりカバー(厚さ:0.5mm)を成形し、ゴルフボール本体を得た。カバーには、ピンプルの形状が反転した形状のディンプルが多数形成された。
【0112】
6.ポリオール組成物の調製
6-1.ポリオール組成物No.1(ポリロタキサン組成物)
ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル社製、「セルム(登録商標)スーパーポリマー SH3400P(シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、-O-C3H6-O-基を介して、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサン、直鎖状分子:ポリエチレングリコール、封鎖基:アダマンチル基、直鎖状分子の分子量:35,000、水酸基価:72mgKOH/g、全体分子量:重量平均分子量700,000)」)50質量部、ポリカプロラクトンポリオール(ダイセル社製、「Placcel(登録商標) 308」、水酸基価:190~200mgKOH/g)28質量部、塩化ビニル・酢酸ビニル・ビニルアルコール共重合体(日信化学工業社製、「ソルバイン(登録商標)AL」、水酸基価:63.4mgKOH/g)22質量部、変性シリコーン(Gelest社製、DBL-C31)0.1質量部、ジブチル錫ジラウレート0.01質量部、溶剤(キシレン/メチルエチルケトン=70/30(質量比)の混合溶剤)100質量部を混合し、ポリオール組成物No.1を調製した。
【0113】
6-2.ポリオール組成物No.2(ウレタンポリオール)
第一ポリオール成分として、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量650)、トリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン、メチルエチルケトン)に溶解した。なお、モル比(PTMG:TMP)は1.8:1.0とした。ここに、触媒としてジブチル錫ジラウレートを主剤全体に対して0.1質量%となるように添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら第一ポリイソシアネート成分としてのイソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。なお、ポリイソシアネート成分のNCO基とポリオール成分のOH基のモル比(NCO/OH)は0.6とした。滴下後は、イソシアネートがなくなるまで撹拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール(固形分:30質量%)を調製した。得られたポリオール組成物No.2のPTMG含有率は67質量%、固形分の水酸基価は67.4mgKOH/g、ウレタンポリオールの重量平均分子量は4867であった。
【0114】
7.ポリイソシアネート組成物の調製
7-1.ポリイソシアネート組成物No.1
ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート21S-75E(NCO含有率:15.5質量%))100質量部と、メチルエチルケトン100質量部を混合した。
【0115】
7-2.ポリイソシアネート組成物No.2
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート(登録商標)TKA-100(NCO含有率:21.7質量%))30質量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート21S-75E(NCO含有率:15.5質量%))30質量部、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(BAYER社製、デスモジュール(登録商標) Z 4470(NCO含有率:11.9質量%))40質量部を混合した。ここに、溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸n-ブチル、トルエンの混合溶媒を追加し、ポリイソシアネート成分の濃度が60質量%になるように調整した。
【0116】
8.塗料
塗料の配合を表4に示した。なお、ポリオール組成物を主剤、ポリイソシアネート組成物を硬化剤とした。
【0117】
9.塗膜の形成
上記で得たゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、スプレーガンで塗料を塗布し、40℃のオーブンで24時間塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.6gのゴルフボールを得た。塗装は、プロングを備えた回転体にゴルフボール本体を載置し、回転体を300rpmで回転させ、ゴルフボール本体からエアーガンを吹き付け距離(7cm)だけ離間させて上下方向に移動させながら行った。重ね塗りの各回のインターバルを1.0秒とした。エアーガンの吹付条件は、重ね塗り;2回、吹付エアー圧;0.15MPa、圧送タンクエアー圧;0.10MPa、1回の塗布時間;1秒、雰囲気温度;20℃~27℃、雰囲気湿度;65%以下の条件で塗装とした。得られた塗膜の平均厚さは18μmであった。得られたゴルフボールの評価結果を表4に示した。
【0118】
【表4】
ラヂオライト:昭和化学社製、「ラヂオライトF」(体積平均粒子径:7μm、嵩密度:0.40g/cm
3)
ゼオライト:ユニオン昭和社製、「モレキュラーシーブ 13X POWDER」(体積中位径:8.7μm、嵩密度:0.5g/cm
3)
タルク:日本タルク社製、「P8」(体積平均粒子径:3.3μm、嵩密度:0.12g/cm
3)
【0119】
ゴルフボールNo.1、2は、塗膜が、構成成分としてSiO2を50質量%以上含有する多孔質フィラーを含有している。これらのゴルフボールNo.1、2は、ドライ条件、ウェット条件およびラフ条件のいずれにおいてもスピン性能が優れている。
ゴルフボールNo.3は、塗膜がタルクを含有する場合であるが、ウェット条件およびラフ条件におけるスピン性能が劣る。
ゴルフボールNo.4~6は、塗膜が充填剤を含有しない場合である。これらの中で、塗膜が比較的軟質であるゴルフボールNo.4は、ウェット条件およびラフ条件におけるスピン性能が劣る。塗膜が比較的硬質であるゴルフボールNo.5、6は、ウェット条件のスピン性能は優れるものの、ラフ条件のスピン性能が劣る。
【符号の説明】
【0120】
1:ゴルフボール、2:球状コア、3:カバー、4:塗膜、31:ディンプル、32:ランド、5:多孔質フィラー