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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】シートベルトリトラクタ
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/28 20060101AFI20220817BHJP
   B60R 22/34 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B60R22/28 107
B60R22/34
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018168081
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020040462
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】318002149
【氏名又は名称】Joyson Safety Systems Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】市田 敦
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-214844(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1492900(KR,B1)
【文献】特開2000-043677(JP,A)
【文献】特開2012-030636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/28
B60R 22/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプール及びロッキングベースを支持するフレームと、
ウェビングを巻き取る、第1内孔を有した筒状の該スプールと、
該スプールと同軸に隣接配置され、第2内孔を有し、トーションバーによってスプールと連結された該ロッキングベースと、
該スプールの第1内孔及びロッキングベースの第2内孔に挿通され、該スプールに対し一端側が回転不能に連結され、該ロッキングベースに対し他端側が回転不能に連結された該トーションバーと、
該ロッキングベースをウェビング巻き取り方向に回転させるプリテンショナと
を備え、
該ロッキングベースがロックされた状態においてウェビングに所定値以上の引張力が加えられると該トーションバーがねじり変形するシートベルトリトラクタであって、
前記ロッキングベースの外周面に雄ネジが設けられており、
該雄ネジにストップギア及び位置決めギアの内周面の雌ネジがそれぞれ螺合しており、
車両衝突前の状態にあっては、該ストップギアと該位置決めギアとは所定距離離隔しており、
プリテンショナ駆動によって該ロッキングベース及び該スプールが回転している時に、該ストップギア及び位置決めギアが前記ロッキングベースと一体に回転し、
EA動作によって該スプールが回転し、かつ該ロッキングベースが回転を停止している時に、前記ストップギアが該ロッキングベースに沿って前記位置決めギアに向って螺進するシートベルトリトラクタ。
【請求項2】
前記ロッキングベースの前記雄ネジと前記位置決めギアとの摺動部に摺動抵抗を持つことを特徴とする請求項1のシートベルトリトラクタ。
【請求項3】
前記ロッキングベースは、フランジ部と、該フランジ部の中央部から突設された、前記第2内孔を有した筒状のシャフト部と、該シャフト部の突出方向先端側の外周面に設けられた前記雄ネジと、該シャフト部に設けられた、前記プリテンショナからの力を受ける受承部とを有しており、
該雄ネジに前記ストップギア及び位置決めギアの内周面の前記雌ネジがそれぞれ螺合していることを特徴とする請求項1又は2に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項4】
前記ストップギアは、車両衝突前の状態にあっては、前記シャフト部外周面の前記雄ネジのうち該シャフト部の先端側に位置しており、
前記位置決めギアは該ストップギアよりも該シャフト部の基端側に位置しており、
EA動作によって、前記トーションバーがねじれながら前記スプールが回転し、かつロッキングベースが回転を停止している時に、該ストップギアが該位置決めギアに向って螺進して位置決めギアに当接することを特徴とする請求項3に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項5】
前記ストップギアは、常に前記スプールと一体的に回転するよう構成されており、
前記位置決めギアは、所定値以上の減速度をもたらす重衝突時には、スプールとの連繋が解除され、それ以外のときには、位置決めギアは、スプールと連繋され、スプールと一体的に回転するように構成されている請求項3又は4に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項6】
前記スプールの第1内孔の内周面に、軸心線方向に延在する係止部が設けられており、
前記ストップギアは、該係止部に係合した係合部を有することを特徴とする請求項3~5のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項7】
前記係止部は溝状であり、前記係合部は、前記ストップギアの外周面から突出した凸部であることを特徴とする請求項6に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項8】
前記位置決めギアは、その外周面に、放射方向に向って弾性変形可能なスプリングが設けられており、
該スプリングは、該スプリングに作用する遠心力が所定値よりも小さいときには、前記係止部に係合しており、
前記遠心力が所定値よりも大きくなったときには、前記スプリングが前記放射方向に弾性変形し、その後、該遠心力が所定値よりも小さくなると、該スプリングの復元力により前記位置決めギアの外周面に接近し、該スプリングが前記係止部から離脱し、該位置決めギアと前記スプールとの連繋が解除される請求項6又は7に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項9】
前記スプリングは、前記位置決めギアの軸に沿う方向に延在する主板部を有しており、
該主板部の一端側が前記位置決めギアに保持されており、
該主板部の他端側が遠心力により位置決めギアの放射方向に弾性変形可能である請求項8に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項10】
前記スプリングの前記主板部の他端側に、該主板部に重なるように折り返された形状の折り返し部が設けられており、
車両衝突前の状態にあっては、該折り返し部が該主板部から前記位置決めギアの外周面に向う方向に起立し、該折り返し部の先端が該位置決めギアの外周面に係止されて起立状態が保持されていることを特徴とする請求項9に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項11】
前記スプリングに所定値以上の遠心力が作用すると、該主板部が前記位置決めギアから放射方向に弾性変形して該折り返し部と該位置決めギアの外周面との係止が解除されると共に、前記折り返し部が前記主板部に沿う元形状に復帰し、
その後、該スプリングに作用する遠心力が前記所定値よりも小さくなると、該主板部が前記位置決めギアの外周面に沿う形状となり、該スプリングが前記係止部から離脱することを特徴とする請求項10に記載のシートベルトリトラクタ。
【請求項12】
前記主板部の前記他端側にウェイト部が設けられていることを特徴とする請求項9~11のいずれか1項に記載のシートベルトリトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両に用いられるプリテンショナ付きのシートベルトリトラクタに関するものであり、特にスプールにトーションバーが組み込まれたシートベルトリトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
プリテンショナ付きのシートベルトリトラクタとして、トーションバーをスプールの内孔に挿通し、該トーションバーの一端をスプールに固定可能とし、トーションバーの他端をシートベルトリトラクタのフレームに係止可能としたシートベルトリトラクタが公知である(特許文献1,2)。車両の衝突時等の緊急時には、スプールがプリテンショナによって回転駆動されてウェビングが巻き取られる。その後、該スプールに対しウェビング巻出し方向の力が加えられることによりトーションバーがねじられ、スプールが徐々に回転し、ウェビングが徐々に引き出される。これにより、乗員の身体に加えられる運動エネルギーの一部がトーションバーのねじりによって吸収され、衝撃が緩和される。
【0003】
特許文献1には、トーションバーのねじり量を該トーションバーに螺合したストッパの移動によって制限することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-222100号公報
【文献】特開2017-154525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のプリテンショナ付きシートベルトリトラクタは、プリテンショナ作動時にトーションバーがねじられ、ストッパの位置がずれてしまい、トーションバーのねじれ量が制約されるおそれがあった。
【0006】
本発明は、EA作動時のトーションバーのねじれ量が確保されるプリテンショナ付きシートベルトリトラクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシートベルトリトラクタは、スプール及びロッキングベースを支持するフレームと、ウェビングを巻き取る、第1内孔を有した筒状の該スプールと、該スプールと同軸に隣接配置され、第2内孔を有し、トーションバーによってスプールと連結された該ロッキングベースと、該スプールの第1内孔及びロッキングベースの第2内孔に挿通され、該スプールに対し一端側が回転不能に連結され、該ロッキングベースに対し他端側が回転不能に連結された該トーションバーと、該ロッキングベースをウェビング巻き取り方向に回転させるプリテンショナとを備え、該ロッキングベースがロックされた状態においてウェビングに所定値以上の引張力が加えられると該トーションバーがねじり変形するシートベルトリトラクタであって、前記ロッキングベースの外周面に雄ネジが設けられており、該雄ネジにストップギア及び位置決めギアの内周面の雌ネジがそれぞれ螺合しており、車両衝突前の状態にあっては、該ストップギアと該位置決めギアとは所定距離離隔しており、プリテンショナ駆動によって該ロッキングベース及び該スプールが回転している時に、該ストップギア及び位置決めギアが前記ロッキングベースと一体に回転し、EA動作によって該スプールが回転し、かつ該ロッキングベースが回転を停止している時に、前記ストップギアが該ロッキングベースに沿って前記位置決めギアに向って螺進する。
【0008】
本発明の一態様では、前記ロッキングベースの前記雄ネジと前記位置決めギアとの摺動部に摺動抵抗剤が存在する。
本発明の一態様では、前記ロッキングベースは、フランジ部と、該フランジ部の中央部から突設された、前記第2内孔を有した筒状のシャフト部と、該シャフト部の突出方向先端側の外周面に設けられた前記雄ネジと、該シャフト部に設けられた、前記プリテンショナからの力を受ける受承部とを有しており、該雄ネジに前記ストップギア及び位置決めギアの内周面の前記雌ネジがそれぞれ螺合している。
【0009】
本発明の一態様では、前記ストップギアは、車両衝突前の状態にあっては、前記シャフト部外周面の前記雄ネジのうち該シャフト部の先端側に位置しており、前記位置決めギアは該ストップギアよりも該シャフト部の基端側に位置しており、EA動作によって、前記トーションバーがねじれながら前記スプールが回転し、かつロッキングベースが回転を停止している時に、該ストップギアが該位置決めギアに向って螺進して位置決めギアに当接する。
【0010】
本発明の一態様では、前記ストップギアは、常に前記スプールと一体的に回転するよう構成されており、前記位置決めギアは、所定値以上の減速度をもたらす重衝突時には、スプールとの連繋が解除され、それ以外のときには、位置決めギアは、スプールと連繋され、スプールと一体的に回転するように構成されている。
【0011】
本発明の一態様では、前記スプールの第1内孔の内周面に、軸心線方向に延在する係止部が設けられており、前記ストップギアは、該係止部に係合した係合部を有する。この態様の一形態にあっては、前記係止部は溝状であり、前記係合部は、前記ストップギアの外周面から突出した凸部である。
【0012】
本発明の一態様では、前記位置決めギアは、ネジ部側に摺動抵抗を持つと共に、その外周面に、放射方向に向って弾性変形可能なスプリングが設けられており、該スプリングは、該スプリングに作用する遠心力が所定値よりも小さいときには、前記係止部に係合しており、前記遠心力が所定値よりも大きくなったときには、前記スプリングが前記放射方向に弾性変形し、その後、該遠心力が所定値よりも小さくなると、該スプリングの復元力により前記位置決めギアの外周面に接近し、該スプリングが前記係止部から離脱し、該位置決めギアと前記スプールとの連繋が解除される。
【0013】
本発明の一態様では、前記スプリングは、前記位置決めギアの軸に沿う方向に延在する主板部を有しており、該主板部の一端側が前記位置決めギアに保持されており、該主板部の他端側が遠心力により位置決めギアの放射方向に弾性変形可能である。
【0014】
本発明の一態様では、前記スプリングの前記主板部の他端側に、該主板部に重なるように折り返された形状の折り返し部が設けられており、車両衝突前の状態にあっては、該折り返し部が該主板部から前記位置決めギアの外周面に向う方向に起立し、該折り返し部の先端が該位置決めギアの外周面に係止されて起立状態が保持されている。
【0015】
本発明の一態様では、前記スプリングに所定値以上の遠心力が作用すると、該主板部が前記位置決めギアから放射方向に弾性変形して該折り返し部と該位置決めギアの外周面との係止が解除されると共に、前記折り返し部が前記主板部に沿う元形状に復帰し、その後、該スプリングに作用する遠心力が前記所定値よりも小さくなると、該主板部が前記位置決めギアの外周面に沿う形状となり、該スプリングが前記係止部から離脱する。
【0016】
本発明の一態様では、前記主板部の前記他端側にウェイト部が設けられている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシートベルトリトラクタでは、車両衝突等の緊急時(以下、車両衝突という。)前の状態においては、スプール、トーションバー及びロッキングベース並びにストップギア及び位置決めギアが一体となって回転し、ウェビングの引き出し及び巻き取りが行われる。
【0018】
車両衝突時には、プリテンショナが作動し、ロッキングベース、トーションバー及びスプールがウェビング巻き取り方向に回転し、ウェビングのたるみが解消される。ウェビングのたるみが解消するにつれてウェビングの張力は増加するが、プリテンショナはトーションバーに対しさらに巻き取り方向の力を加えるので、トーションバーが巻き取り方向に若干さらにねじれる。ストップギア及び位置決めギアはスプールに係合しており、ともにロッキングベースに対して相対的に回転し、螺進するため、ストップギアと位置決めギアの離反距離は変化しない。
【0019】
その後、乗員身体からウェビングに加えられる引き出し方向の力がプリテンショナから加えられる巻き取り方向の力以上になると、ロッキングベースはプリテンショナの保圧作用によって回転停止状態に保たれ、スプールがトーションバーをねじりながら回転し、ウェビングが引き出され、乗員のEA(エネルギー吸収)が行われる。なお、このようにスプールが回転停止したときに、スプールと位置決めギアとの連繋が解除される。
【0020】
その後、スプールの回転に伴って、ストップギアがスプールと共に回転して螺進するが、位置決めギアは回転せず、停止している。螺進したストップギアが位置決めギアに当接してスプールが停止する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態に係るシートベルトリトラクタの正面側からの分解斜視図である。
図2】実施の形態に係るシートベルトリトラクタの背面側からの分解斜視図である。
図3】実施の形態に係るシートベルトリトラクタの正面図である。
図4】実施の形態に係るシートベルトリトラクタの左側面図である。
図5】実施の形態に係るシートベルトリトラクタの右側面図である。
図6】スプールを左側から見たスプール及びロッキングプレートの分解斜視図である。
図7】スプールを右側から見たスプール及びロッキングプレートの分解斜視図である。
図8】パドルを取り外した状態におけるスプール及びロッキングプレートの正面図である。
図9図8の軸心線方向の断面図である。
図10図9のX部分の拡大図である。
図11】位置決めギアに設けられたスプリングの作動を説明する断面図である。
図12】実施の形態に係るシートベルトリトラクタの断面図である。
図13】位置決めギアに設けられたスプリングの作動を説明する断面図である。
図14】実施の形態に係るシートベルトリトラクタの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図面を参照して実施の形態について説明する。
【0023】
シートベルトリトラクタ1は、フレーム10と、該フレーム10に回転可能に保持されたスプール20と、スプール20をウェビング巻き取り方向に付勢するリターンスプリングユニット(ゼンマイバネユニット)30と、スプール20に同軸状に隣接配置され、トーションバー70によってスプール20に連結されたロッキングベース40と、スプール20のロックを起動させるロック起動ユニット50と、プリテンショナ60と、スプール20とロッキングベース40とを連結するようにスプール20及びロッキングベース40内に挿入されたトーションバー70等を備えている。
【0024】
フレーム10は、正面壁11と、該正面壁11の左側辺から前方に延出する左側壁12と、右側辺から前方へ延出する右側壁13と、各側壁12,13にそれぞれ設けられたスプール挿通穴15,16等を有する。スプール挿通穴16の内周面には、鋸歯16aが設けられている。
【0025】
リターンバネユニット30は、ケース31内にゼンマイバネを収容したものであり、該ゼンマイバネの一端はスプール20の左端側の突軸20tに連結されている。
【0026】
ロック起動ユニット50は、フレーム第1右側壁13に保持された振り子51(図2)が外周面に係合するロックアッシー52を有する。ロックアッシー52の回転角加速度が所定値以上となったり、振り子51がロックアッシー52の外周面に係合したときにロックアッシー52がロッキングベース40の外周面からパウル43(図2)を突出させて鋸歯16aに係合させる。
【0027】
ロックアッシー52及び振り子51はカバー55によって覆われている。
【0028】
このロック起動ユニット50は、周知構造のものである。
【0029】
プリテンショナ60は、車両衝突時にスプール20をウェビング巻取り方向に大トルクにて巻取り、ウェビングの緩みを除去するためのものである。このプリテンショナ60は、車両衝突時にガスを発生させるガス発生器61と、ダクト62と、ダクト62内に装填された合成樹脂等よりなる動力伝達部材等を備えている。ガス発生器61からのガス圧によって動力伝達部材が後述のパドルホイール80の外周に周回方向に送り込まれ、スプール20がウェビング巻き取り方向に回転する。この構成は、例えば特許文献2に記載のものとすることができる。
【0030】
次に、スプール20及びロッキングベース40の構造について詳細に説明する。
【0031】
図6~10に明示の通り、スプール20は、ウェビングが巻き掛けられる筒部21と、筒部21の左端側の左フランジ22と、右端側の右フランジ23とを有する。
【0032】
スプール20の左フランジ22の外周面22eは、スプール挿通孔15の内周面に対面している。左フランジ22の筒部21側の外周縁には、放射方向に張り出す外向きの鍔部22fが周設されている。鍔部22fは、スプール挿通穴15の周縁部に沿う側壁12内面に摺動自在に接している。
【0033】
スプール20の筒部21には、右端側から左端側に向って第1内孔29が設けられている。該内孔29の最奥部すなわち左端側にセレーション部29a(図9)が設けられており、トーションバー70(図9では図示略)の歯車形状部71が該セレーション部29aに係合している。
【0034】
図9に明示の通り、スプール20の第1内孔29には、該第1内孔29の入口側から、段差面108までの範囲が大径となっている。この大径部分の内周面に、スプール20の軸心線と平行方向に延在する係止部としての溝110が設けられている。この溝110にストップギア82の外周面の係合部としての凸部82bが該軸心線と平行方向に摺動自在に係合している。
【0035】
スプール20の右側に隣接して、ロッキングベース40が配置されている。ロッキングベース40は、フランジ部41と、該フランジ部41の中央部に連なる筒状のシャフト部42と、フランジ部41に設けられたパウル43等を有する。シャフト部42の先端側がスプール20の内孔29内に同軸状に差し込まれている。
【0036】
シャフト部42の内孔(第2内孔)の先端側の内周面にセレーション部42a(図9)が設けられており、トーションバー70の右端の歯車形状部72(図6)が該セレーション部42aに係合している。
【0037】
ロッキングベース40のシャフト部42の基端側(フランジ41側)外周に非円形部としての六角部42bが設けられている。六角部42b以外のシャフト部42の外周面に雄ネジ42cが設けられている。
【0038】
図6の通り、六角部42bにパドルホイール80(図7では図示略)の六角形の内孔80aが係合しており、パドルホイール80がシャフト部42に周方向回転不能に装着されている。
【0039】
このパドルホイール80の外周囲に、プリテンショナ60のダクト62から合成樹脂等よりなる動力伝達部材が供給されることにより、パドルホイール80が回転し、ロッキングベース40が回転する。
【0040】
雄ネジ42cにストップギア82及び位置決めギア86の内周面の雌ネジ82a,86aが螺合している。ストップギア82及び位置決めギア86は、該雄ネジ42cに沿って螺進可能となっている。ストップギア82の外周面には、前述の通り、凸部82bが設けられている。
【0041】
位置決めギア86には、環形状のスプリングホルダ88が外嵌保持されており、該スプリングホルダ88に板バネよりなるスプリング90が取り付けられている。図7の通り、位置決めギア86の外周に設けられた小突起86bがスプリングホルダ88のスリット88aに係合することにより、スプリングホルダ88が位置決めギア86に対し周方向回転不能に保持されている。
【0042】
スプリング90は、長板状の主板部93と、該主板部93の一端側及び他端側から主板部93と平行に折り返された形状の折り返し片91,92とを有する。主板部93は、位置決めギア86の軸に沿う方向に延在する板バネである。主板部93には、折り返し部92の近傍にウェイト部(重り)94(図10~12)が設けられている。
【0043】
スプリングホルダ88のスプリング取付部88bに折り返し部91が差し込まれて保持されている。スプリング90の他端側の折り返し部92は、弾性的に約90°回動され、その先端が位置決めギア86の外周面の凸部86cに当接している。
【0044】
図10のように、折り返し部92を凸部86cに当接させて起立させた状態では、主板部93は他端側が位置決めギア86の外周面から離反するように弾性変形した状態となっている。主板部93の弾性復元力により、折り返し部92が凸部86cに押し付けられ、折り返し部92が位置決めギア86の放射方向を指向した状態に保持されている。
【0045】
図10に示すように、折り返し部92の起立状態では、主板部93のうち折り返し部92近傍はスプール20の内孔の溝110に入り込んでいる。そのため、図10の状態では、位置決めギア86はスプール20と一体的に回転する。
【0046】
上記のシートベルトリトラクタにおいて、通常時にはストップギア82はロッキングベース40の雄ネジ42cの先端側(左側)付近に螺合している。通常時には、スプリング90は図10に示す状態となっており、スプリング90と溝110との係合により、前述の通り、位置決めギア86およびスプール20は一体的に回転可能である。また、ストップギア82は、凸部82bと溝110とが係合していることにより、常にスプール20と一体的に回転する。
【0047】
車両衝突前の通常状態では、ストップギア82は、雄ネジ42cの左端側に位置している。また、この通常状態では、ストップギア82と位置決めギア86とは所定距離だけ離反している。ウェビングの引出し及び巻取りに伴ってスプール20が回転する場合、スプール20、トーションバー70、ロッキングベース40、ストップギア82及び位置決めギア86がすべて一体的に回転するので、ストップギア82と位置決めギア86との間の距離は変化しない。
【0048】
通常時におけるウェビングの引き巻き時の慣性力で位置決めギアが動かないよう、位置決めギア86とロッキングベース42のネジ摺動部に摺動抵抗剤が塗られている。
【0049】
なお、この通常時におけるウェビングの引出し及び巻取り時のスプール20の回転速度は小さく、スプール20等の回転時にスプリング90のウェイト部94に加えられる遠心力は小さい。そのため、スプリング90は主板部93の弾性復元力により図10に示す状態に保たれている。
【0050】
車両衝突時には、振り子51がロックアッシー52の外周面に係合し、ロック起動ユニット50がパウル43をロッキングベース40の外周面から突出させる。突出したパウル43が右側壁13の鋸歯16aに係合する。
【0051】
衝突時の車両減速度が小さい軽衝突時には、プリテンショナ60は作動しない。バウル43と鋸歯16aとの係合によりスプール20の回転が阻止され、乗員がウェビングによって拘束される。また、この軽衝突時には、上記の通り、スプール20が回転しない。そして、プリテンショナ60が作動しないからロッキングベース40も回転しない。この結果、ストップギア82及び位置決めギア86も回転せず、ストップギア82及び位置決めギア86は元位置に停止している。
軽衝突でトーションバー70に捻れが発生してスプール20が回転するケースがある。この場合、ストップギア82及び位置決めギア86はスプール20と共に回転するので、両者間の距離は変わらない。
【0052】
車両減速度が所定値以上となる規模の車両衝突時には、プリテンショナ60のガス発生器61が作動し、パドルホイール80を介してロッキングベース40にウェビング巻き取り方向の強力なトルクが加えられ、ロッキングベース40、トーションバー70及びスプール20が一体となってウェビング巻き取り方向に回転する。これにより、ウェビングがスプール20に巻き取られ、ウェビングのたるみが除去される。
【0053】
この状態にあっては、ロッキングベース40は鋸歯16aに拘束されることなくウェビング巻き取り方向に回転する。また、スプール20とロッキングベース40とが一体となって同方向に同一回転速度で回転し、ストップギア82及び位置決めギア86もロッキングベース40と一体に同方向に同一回転速度で回転するので、ストップギア82及び位置決めギア86は、ロッキングベース40の元の位置にそれぞれ位置している。
【0054】
このプリテンショナ60が作動したときのロッキングベース40及びスプール20の回転速度が大きいので、スプリング90は、図11に示すように遠心力によって折り返し片92側が位置決めギア86から離反する方向に弾性変形する。この図11の状態でも、スプリング90がスプール20の溝110に係合しているので、位置決めギア86はスプール20に連繋された状態となっている。そのため、上記の通り、位置決めギア86はストップギア82と共に、スプール20及びロッキングベース40と一体となって回転する。なお、図11の状態では、折り返し片92は主板部93に沿った形状に復元している。
【0055】
上記のように、ウェビングのたるみが除去されるにつれてウェビングの張力が増加する。一方、トーションバー70に対してはプリテンショナ60からウェビング巻き取り方向に力が加えられ、これにより、ウェビング巻き取り中に徐々にトーションバー70がねじれる。トーションバー70がねじれることにより、スプール20に対しロッキングベース40が相対的に回転し、図12のように位置決めギア86及びストップギア82が図12の右方に若干平行移動する。
【0056】
ウェビングの巻き取りが進行し、ウェビングのたるみが除去されると、スプール20が一旦停止し、スプール20によるウェビングの巻き取りは停止する。このようにスプール20が停止すると、スプリング90に加えられていた遠心力が消失するので、スプリング90は主板部93の復元力により、図13に示す倒伏姿勢をとり、スプリング90が位置決めギア86の外周面に重なった状態となる。これにより、スプリング90が溝110から離脱し、スプール20と位置決めギア86との連繋が解除される。
【0057】
その後、スプール20に対しウェビングから加えられるウェビング引き出し方向の力によって、スプール20がトーションバー70をねじりながらウェビング引き出し方向に回転し始める(EA動作)。スプール20にトーションバー70を介して連結されたロッキングベース40は、プリテンショナ60の保圧作用によって、ウェビング引き出し方向への回転が阻止される。この結果、トーションバー70をねじりながらスプール20が回転し、ウェビングが引き出される。トーションバー70がねじれ変形することにより、乗員の前方移動の運転エネルギーが吸収される。
【0058】
また、このようにロッキングベース40が停止した状態で、スプール20がウェビング引き出し方向に回転すると、ストップギア82はスプール20と一体的に回転し、位置決めギア86に向って螺進する。位置決めギア86は、スプリング90が図13の状態となっており、スプール20との連繋が解除されている。そのため、スプール20がEA回転しても位置決めギア86は回転せず、停止している。この結果、ストップギア82と位置決めギア86との距離が次第に小さくなる。
【0059】
やがてストップギア82が所定回数回転すると、図14の通り、ストップギア82が位置決めギア86に当接し、それ以上の螺進が不能となる。これにより、スプール20はストップギア82及び位置決めギア86を介してロッキングベース40に回転阻止された状態となる。このように、スプール20の回転が阻止されることにより、それ以上のウェビング引き出しが停止する。
【0060】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の態様とされてもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 シートベルトリトラクタ
10 フレーム
16a 鋸歯
20 スプール
22 左フランジ
23 右フランジ
29 内孔
30 リターンスプリングユニット
40 ロッキングベース
41 フランジ部
42 シャフト部
42c 雄ネジ
43 パウル
50 ロック起動ユニット
52 ロックアッシー
60 プリテンショナ
70 トーションバー
80 パドルホイール
82 ストップギア
86 位置決めギア
90 スプリング
91,92 折り返し片
93 主板部
110 溝
図1
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