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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】接合体、及び、絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20220817BHJP
   B23K 20/10 20060101ALI20220817BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C04B37/02 B
B23K20/10
H01L23/36 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018199139
(22)【出願日】2018-10-23
(65)【公開番号】P2019081690
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2021-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2017208374
(32)【優先日】2017-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-58706(JP,A)
【文献】特開2015-224151(JP,A)
【文献】特許第5871081(JP,B2)
【文献】特開平6-32669(JP,A)
【文献】特開2000-16878(JP,A)
【文献】特開2010-215465(JP,A)
【文献】特開2004-311650(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122446(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00 - 37/04
B23K 20/10
H01L 23/36
H01L 23/13
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、
前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層においては、前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層の前記銅部材側の界面から前記銅部材に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲におけるAl濃度が0.15at%以下であることを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記セラミックス部材は、窒化アルミニウム、アルミナのいずれかで構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
前記活性金属化合物層は、活性金属の窒化物、又は、活性金属の酸化物のいずれかを含有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の接合体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の接合体を備えた絶縁回路基板であって、
前記セラミックス部材からなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に形成された前記銅部材からなる回路層と、を備えていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項6】
前記セラミックス基板の前記回路層とは反対側の面に、金属層が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の絶縁回路基板。
【請求項7】
前記金属層は銅又は銅合金からなることを特徴とする請求項6に記載の絶縁回路基板。
【請求項8】
前記金属層はアルミニウム又はアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項6に記載の絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックス部材と銅部材とが接合されてなる接合体、この接合体を備えた絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LEDやパワーモジュール等の半導体装置においては、導電材料からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造とされている。
風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子においては、発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、例えばAlN(窒化アルミ)、Al(アルミナ)などからなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。なお、パワージュール用基板としては、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して金属層が形成したものも提供されている。
【0003】
従来、セラミックス基板に対して銅板を接合する方法として、例えば、セラミックス基板に銅板を重ねた状態で、これらに荷重を加えつつ、N雰囲気中で1000℃以上に加熱する、いわゆるDBC法(Direct Bonding Copper法)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
ここで、特許文献1に示したDBC法によってセラミックス基板と銅板とを接合した場合、1000℃以上で加熱して接合するため、セラミックス基板に熱負荷がかかることによりセラミックス基板と銅板との接合信頼性が低下する懸念があった。
【0004】
そこで、特許文献2には、セラミックス部材と銅部材との間に形成された接合部のセラミックス部材側にTi等の活性金属の酸化物あるいは窒化物等の化合物からなる活性金属化合物領域が形成され、この活性金属化合物領域の銅部材側をなす一面から銅部材側に向かって0.5μm~3μmの厚み範囲における接合部のAl濃度が0.5at%以上15at%以下の範囲内とされた接合体(絶縁回路基板)が提案されている。
この接合体(絶縁回路基板)においては、接合部のAl濃度を所定の範囲内にすることによって、セラミックス部材と接合部との接合力を高く維持することができ、接合部における剥離率を低減させて、セラミックス部材と銅部材とを強固に接合する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平04-162756号公報
【文献】特許第5871081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の絶縁回路基板の回路層においては、端子材が超音波接合されることがある。
ここで、特許文献2に記載されたように、Al濃度が0.5at%以上15at%以下の範囲内とされた接合部においては、比較的脆弱であるため、超音波を負荷した際にクラックが生じてしまうおそれがあった。
また、セラミックス部材側に形成される活性金属化合物領域が非晶質であった場合には、超音波を負荷した際に、非晶質の活性金属化合物層を起点としてクラックが発生し、回路層が剥離してしまうおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、超音波接合を行った場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離を抑制することが可能な接合体、及び、絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の接合体は、Al系セラミックスからなるセラミックス部材と、銅又は銅合金からなる銅部材とが接合されてなる接合体であって、前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層においては、前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層の前記銅部材側の界面から前記銅部材に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲におけるAl濃度が0.15at%以下であることを特徴としている。
【0009】
この構成の接合体においては、前記セラミックス部材と前記銅部材との間に形成された接合層の前記セラミックス部材側に、活性金属を含む化合物からなる結晶質の活性金属化合物層が形成されているので、超音波を負荷させた場合であっても、活性金属化合物層を起点としてクラックが発生することを抑制でき、セラミックス部材と銅部材との剥離を抑制することができる。
また、前記活性金属化合物層の前記銅部材の界面から前記銅部材に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲における前記接合層のAl濃度が0.15at%以下に抑えられているので、超音波を負荷させた場合であっても、接合層にクラックが生じることを抑制することができる。
【0010】
ここで、本発明の接合体においては、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
この構成の接合体によれば、前記活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされているので、接合界面に適度な厚さの活性金属化合物層が存在し、冷熱サイクルを負荷した際に割れが生じることを抑制でき、冷熱サイクル信頼性に優れている。
【0011】
また、本発明の接合体においては、前記セラミックス部材は、AlN、Alのいずれかで構成されることが好ましい。
この構成の接合体によれば、セラミックス部材としてAlN、Alのいずれかを選択することにより、絶縁性、および、耐熱性に優れた接合体を製造することができる。
【0012】
さらに、本発明の接合体においては、前記活性金属化合物層は、活性金属の窒化物、又は、活性金属の酸化物のいずれかを含有することが好ましい。
この構成の接合体によれば、前記活性金属化合物層が、活性金属の窒化物、又は、活性金属の酸化物のいずれかを含んでいるので、セラミックス部材と銅部材との接合性が向上し、超音波を負荷した際のセラミックス部材と銅部材との剥離をさらに抑制することができる。
【0013】
本発明の絶縁回路基板は、前述の接合体を備えた絶縁回路基板であって、前記セラミックス部材からなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に形成された前記銅部材からなる回路層と、を備えていることを特徴としている。
【0014】
この構成の絶縁回路基板によれば、前述の接合体として前記セラミックス部材からなるセラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に形成された前記銅部材からなる回路層と、を備えているので、回路層に対して超音波接合を適用した場合であっても、セラミックス基板と回路層との接合部においてクラックが生じることを抑制でき、回路層とセラミックス基板との剥離を抑制することができる。
【0015】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板の前記回路層とは反対側の面に、金属層が形成されていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板の前記回路層とは反対側の面に形成された金属層によって、回路層側の熱を効率良く放熱することが可能となる。また、セラミックス基板の反りの発生を抑制することができる。
【0016】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記金属層は銅又は銅合金からなる構成としてもよい。
この場合、セラミックス基板の回路層とは反対側の面に、銅又は銅合金からなる金属層が形成されているので、放熱性に優れた絶縁回路基板を実現できる。
【0017】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記金属層はアルミニウム又はアルミニウム合金からなる構成としてもよい。
この場合、セラミックス基板の回路層とは反対側の面に、変形抵抗が小さいアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層を接合することによって、セラミックス基板に熱応力が加わった際に、この熱応力をアルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層によって吸収でき、セラミックス基板の熱応力による破損を抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、超音波接合を行った場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離を抑制することが可能な接合体、及び、絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一の実施形態である絶縁回路基板(接合体)を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の第一の実施形態である絶縁回路基板(接合体)の回路層及び金属層(銅部材)とセラミックス基板(セラミックス部材)との接合界面の模式図である。
図3】本発明の第一の実施形態である絶縁回路基板(接合体)の製造方法及びパワーモジュールの製造方法を示すフロー図である。
図4】本発明の第一の実施形態である絶縁回路基板(接合体)の製造方法を示す説明図である。
図5】本発明の第二の実施形態である絶縁回路基板(接合体)を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
図6】本発明の第二の実施形態である絶縁回路基板(接合体)の回路層(銅部材)とセラミックス基板(セラミックス部材)との接合界面の模式図である。
図7】本発明の第二の実施形態である絶縁回路基板(接合体)の製造方法及びパワーモジュールの製造方法を示すフロー図である。
図8】本発明の第二の実施形態である絶縁回路基板(接合体)の製造方法を示す説明図である。
図9】実施例における本発明例3のセラミックス基板近傍の観察結果である。
図10】実施例におけるセラミックス基板近傍のライン分析結果である。(a)が本発明例3、(b)が比較例1である。
図11】実施例における本発明例4のセラミックス基板近傍の元素マッピング図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態である接合体、絶縁回路基板について、添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0021】
(第一の実施形態)
以下に、本発明の第一の実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
本発明の第一の実施形態である接合体は、Al系セラミックスからなるセラミックス部材としてのセラミックス基板11と、銅または銅合金からなる銅部材としての銅板22(回路層12)とが接合されることによって構成された絶縁回路基板10とされている。なお、Al系セラミックスとは、アルミニウム酸化物やアルミニウム窒化物等のAl元素を含む化合物で構成されたセラミックスのことを指す。
図1に、本発明の実施形態である絶縁回路基板10及びこの絶縁回路基板を用いたパワーモジュール1を示す。
【0022】
このパワーモジュール1は、絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方側(図1において上側)に第1はんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の他方側(図1において下側)に第2はんだ層8を介して配置されたヒートシンク51と、を備えている。
ここで、第1はんだ層2及び第2はんだ層8は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材とされている。
【0023】
絶縁回路基板10は、図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0024】
セラミックス基板11は、Al系セラミックス、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al)等から構成されている。なお、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al)等は、ZrO等によって強化されたものであってもよい。
本実施形態では、セラミックス基板11は、放熱性の優れた窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。セラミックス基板11の厚さは、例えば0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmのものを用いている。
【0025】
回路層12は、図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12を構成する銅板22として、無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層12には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層12(銅板22)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面に銅又は銅合金からなる銅板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13を構成する銅板23として、無酸素銅の圧延板が用いられている。ここで、金属層13(銅板23)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0027】
ヒートシンク51は、前述の絶縁回路基板10を冷却するためのものであり、本実施形態では放熱板とされている。このヒートシンク51は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
このヒートシンク51は、本実施形態においては、絶縁回路基板10の金属層13に第2はんだ層8を介して接合されている。
【0028】
ここで、回路層12(銅板22)とセラミックス基板11、及び、金属層13(銅板23)とセラミックス基板11の接合界面の拡大図を、図2に示す。
図2に示すように、セラミックス基板11と回路層12(銅板22)及び金属層13(銅板23)との接合界面には、接合層30が形成されている。
この接合層30は、図2に示すように、セラミックス基板11側に形成された活性金属を含む化合物からなる活性金属化合物層31と、活性金属化合物層31と回路層12(銅板22)及び金属層13(銅板23)との間に形成された合金層32と、を備えている。
【0029】
本実施形態においては、後述するように、Cu-P系ろう材24と活性金属としてTiを用いて、回路層12(銅板22)及び金属層13(銅板23)とセラミックス基板11を接合していることから、活性金属化合物層31は、チタン化合物によって構成される。
【0030】
そして、活性金属化合物層31は、結晶質のチタン化合物(チタン酸化物又はチタン窒化物)とされている。なお、活性金属化合物層31の結晶性については、透過型電子顕微鏡によって電子回折図形を観察することで確認することができる。本実施形態では、活性金属化合物層31がチタン酸化物で構成されており、ルチル型の電子回折図形が観察されることになる。
ここで、本実施形態においては、活性金属化合物層31の厚さは、1.5nm以上150nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、接合層30においては、活性金属化合物層31の回路層12(銅板22)側及び金属層13(銅板23)側の界面から回路層12(銅板22)及び金属層13(銅板23)に向かって、0.5μmから3μmの厚み範囲EにおけるAl濃度が0.15at%以下とされている。すなわち、活性金属化合物層31の回路層12(銅板22)側及び金属層13(銅板23)側の界面から、回路層12(銅板22)及び金属層13(銅板23)に向けて0.5μm(Δt1)の位置で広がる面と、回路層12(銅板22)及び金属層13(銅板23)に向けて3μm(Δt2)の位置で広がる面との間の、2.5μmの厚み範囲Eに広がる領域内においては、Al濃度が0.15at%以下とされている。なお、Al濃度は厚み範囲Eにおける平均値とされている。
【0032】
接合層30におけるAl成分は、セラミックス基板11の構成材料、すなわち、Al系セラミックスの一部が、セラミックス基板11と銅板22、23との接合時に分解され、Al成分が接合層30に向かって拡散することにより生じたものである。例えば、本実施形態では、セラミックス基板11を構成するAlNが分解して、Alが拡散したものである。
接合層30の厚み範囲EにおけるAl濃度は、セラミックス基板11と銅板22,23との接合時における接合工程S02での加熱温度、保持時間、ろう材量、活性金属量によってセラミックス基板11の分解状態を調整することにより、制御することができる。
【0033】
また、合金層32は、接合時に用いたろう材の成分のいずれかを含む合金あるいは金属間化合物を含有するものとされている。本実施形態では、後述するように、Cu-P系ろう材24、具体的には、Cu-P-Sn-Niろう材を用いているので、合金層32は、Cu,P,Sn,Niのいずれかを含む合金あるいは金属間化合物を有している。
【0034】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、図3及び図4を参照して説明する。
【0035】
まず、図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図4において上面)に、Cu-P系ろう材24、チタン材25、及び回路層12となる銅板22を順に積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面(図4において下面)に、Cu-P系ろう材24、チタン材25、及び金属層13となる銅板23を順に積層する(積層工程S01)。
【0036】
本実施形態では、Cu-P系ろう材24として、Pを3mass%以上10mass%以下の範囲で含み、かつ、低融点元素であるSnを7mass%以上50mass%以下の範囲で含み、さらに、Niを2mass%以上15mass%以下の範囲で含むCu-P-Sn-Niろう材を用いている。
ここで、Cu-P系ろう材24の厚さは、10μm以上50μm以下の範囲とされている。
【0037】
また、本実施形態では、活性金属元素であるTiを含むチタン材25の厚さは、0.05μm以上2μm以下の範囲内とされている。なお、チタン材25は、厚さが0.1μm以上1.0μm以下の場合には蒸着やスパッタによって成膜することが好ましく、厚さが1.0μm以上の場合には箔材を用いることが好ましい。
【0038】
次に、セラミックス基板11、Cu-P系ろう材24、チタン材25、銅板22及び銅板23を、積層方向に加圧(圧力1~35kgf/cm(0.1MPa~3.5MPa))した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱して接合する(接合工程S02)。
本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内としている。
また、加熱温度は770℃以上950℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を5分以上120分以下の範囲内に設定している。さらに、600℃から700℃までの昇温速度を5℃/min以上20℃/min以下の範囲内に設定している。
【0039】
ここで、活性金属元素であるTiを含むチタン材25の厚さが0.05μm未満の場合には、セラミックス基板11と銅板22,23との接合が不十分となるおそれがある。一方、チタン材25の厚さが2μmを超える場合には、セラミックス基板11の分解が促進され、接合層30の厚み範囲EにおけるAl濃度が0.15at%を超えてしまい、超音波接合時にクラックが生じるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、チタン材25の厚さを0.05μm以上2μm以下の範囲内に設定している。
なお、セラミックス基板11と銅板22,23とを確実に接合するためには、チタン材25の厚さの下限を0.1μm以上とすることが好ましく、0.15μm以上とすることがさらに好ましい。一方、セラミックス基板11の分解を抑制するためには、チタン材25の厚さの上限を1.5μm以下とすることが好ましく、1.0μm以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
Cu-P系ろう材24の厚さが10μm未満の場合には、セラミックス基板11と銅板22,23との接合が不十分となるおそれがある。一方、Cu-P系ろう材24の厚さが50μmを超える場合には、セラミックス基板11の分解が促進され、接合層30の厚み範囲EにおけるAl濃度が0.15at%を超えてしまい、超音波接合時にクラックが生じるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Cu-P系ろう材24の厚さを10μm以上50μm以下の範囲内に設定している。
なお、セラミックス基板11と銅板22,23とを確実に接合するためには、Cu-P系ろう材24の厚さの下限を15μm以上とすることが好ましく、20μm以上とすることがさらに好ましい。一方、セラミックス基板11の分解を抑制するためには、Cu-P系ろう材24の厚さの上限を40μm以下とすることが好ましく、35μm以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
接合工程S02における加熱温度が770℃未満の場合には、セラミックス基板11と銅板22,23との接合が不十分となるおそれがある。一方、接合工程S02における加熱温度が950℃を超える場合には、セラミックス基板11の熱劣化によってマイクロクラックが発生し、超音波接合時にセラミックス基板11に割れが生じるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、接合工程S02における加熱温度を770℃以上950℃以下の範囲内に設定している。
なお、セラミックス基板11と銅板22,23とを確実に接合するためには、接合工程S02における加熱温度の下限を800℃以上とすることが好ましく、830℃以上とすることがさらに好ましい。一方、セラミックス基板11の熱劣化を抑制するためには、接合工程S02における加熱温度の上限を940℃以下とすることが好ましく、930℃以下とすることがさらに好ましい。
【0042】
接合工程S02における加熱温度での保持時間が5分未満の場合には、セラミックス基板11と銅板22,23との接合が不十分となるおそれがある。一方、接合工程S02における加熱温度での保持時間が120分を超える場合には、セラミックス基板11の分解が促進され、接合層30の厚み範囲EにおけるAl濃度が0.15at%を超えてしまい、超音波接合時にクラックが生じるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、加熱温度での保持時間を5分以上120分以下の範囲内に設定している。
なお、セラミックス基板11と銅板22,23とを確実に接合するためには、接合工程S02における加熱温度での保持時間の下限を15分以上とすることが好ましく、30 分以上とすることがさらに好ましい。一方、セラミックス基板11の分解を抑制するためには、接合工程S02における加熱温度での保持時間の上限を100分以下とすることが好ましく、90分以下とすることがさらに好ましい。
【0043】
接合工程S02における600℃から700℃までの昇温速度が5℃/min未満の場合には、セラミックス基板11の分解が促進され、接合層30の厚み範囲EにおけるAl濃度が0.15at%を超えてしまい、超音波接合時にクラックが生じるおそれがある。一方、接合工程S02における600℃から700℃までの昇温速度が20℃/minを超える場合には、熱衝撃によってセラミックス基板11にマイクロクラックが発生し、超音波接合時にセラミックス基板11に割れが生じるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、接合工程S02における600℃から700℃までの昇温速度を5℃/min以上20℃/min以下の範囲内に設定している。
なお、セラミックス基板11の分解を抑制するためには、接合工程S02における600℃から700℃までの昇温速度の下限を7℃/min以上とすることが好ましく、10℃/min以上とすることがさらに好ましい。一方、熱衝撃によるマイクロクラックの発生を抑制するためには、接合工程S02における600℃から700℃までの昇温速度の上限を15℃/min以下とすることが好ましく、13℃/min以下とすることがさらに好ましい。
【0044】
以上の積層工程S01及び接合工程S02により、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0045】
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側に、ヒートシンク51をはんだ接合する(ヒートシンク接合工程S03)。
さらに、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する(半導体素子接合工程S04)。
以上の工程により、図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(接合体)によれば、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との間に形成された接合層30のセラミックス基板11側に、結晶質のチタン酸化物からなる活性金属化合物層31が形成されているので、超音波を負荷させた場合であっても、活性金属化合物層31を起点としてクラックが発生することを抑制でき、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との剥離を抑制することができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、活性金属化合物層31の回路層12及び金属層13側の界面から、回路層12及び金属層13に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲Eにおける接合層30のAl濃度が0.15at%以下に抑えられているので、超音波を負荷させた場合であっても、接合層30にクラックが生じることを抑制することができる。
なお、厚み範囲Eにおける接合層30のAl濃度は、0.10at%以下であることが好ましく、0.07at%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
また、本実施形態においては、活性金属化合物層31の厚さが1.5nm以上とされているので、活性金属化合物層31によってセラミックス基板11の接合界面近傍の強度が適度に向上し、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。一方、性金属化合物層31の厚さが150nm以下とされているので、硬い活性金属化合物層31が過剰に形成されておらず、冷熱サイクル負荷時においてセラミックス基板11に生じる熱歪を抑えることができ、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
なお、活性金属化合物層31の厚さの下限は3nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。一方、活性金属化合物層31の厚さの上限は60nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
また、本実施形態においては、セラミックス基板11が窒化アルミニウム(AlN)で構成されているので、絶縁性、および、耐熱性に優れた絶縁回路基板10を製造することができる。
さらに、活性金属化合物層31がチタン酸化物で構成されているので、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との接合性が向上し、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13との剥離をさらに抑制することができる。
【0050】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板11の回路層12とは反対側の面に、金属層13が形成されているので、半導体素子3で発生した熱を効率良く放熱することが可能となる。また、セラミックス基板11の反りの発生を抑制することができる。
また、金属層13が銅又は銅合金で構成されているので、放熱性に優れた絶縁回路基板10を実現できる。
【0051】
(第二の実施形態)
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。なお、第一の実施形態と同一の構成のものについては、同一の符号を付して記載し、詳細な説明を省略する。
図5に、本発明の第二の実施形態に係る絶縁回路基板110を備えたパワーモジュール101を示す。
【0052】
このパワーモジュール101は、絶縁回路基板110と、この絶縁回路基板110の一方の面(図5において上面)にはんだ層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板110の下側に接合されたヒートシンク51と、を備えている。
【0053】
セラミックス基板111は、Al系セラミックス、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al)等から構成されている。本実施形態では、セラミックス基板111は、放熱性の優れたアルミナ(Al)で構成されている。なお、本実施形態のセラミックス基板111を構成するアルミナ(Al)は、焼結助剤としてSiOを含んでいる。
また、セラミックス基板111の厚さは、例えば0.2~1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmのものを用いている。
【0054】
回路層112は、図8に示すように、セラミックス基板111の一方の面に銅又は銅合金からなる銅板122が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層112を構成する銅板122として、無酸素銅の圧延板が用いられている。この回路層112には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図5において上面)が、半導体素子3が搭載される搭載面とされている。ここで、回路層112(銅板122)の厚さは0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では0.6mmに設定されている。
【0055】
金属層113は、図8に示すように、セラミックス基板111の他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113を構成するアルミニウム板123として、純度99.99mass%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板が用いられている。ここで、金属層113(アルミニウム板123)の厚さは0.2mm以上6mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。
【0056】
ヒートシンク51は、本実施形態においては、絶縁回路基板110の金属層113にAl-Si系ろう材等を用いて接合されている。
【0057】
ここで、回路層112(銅板122)とセラミックス基板111の接合界面の拡大図を、図6に示す。
図6に示すように、セラミックス基板111と回路層112(銅板122)との接合界面には、接合層130が形成されている。
この接合層130は、図6に示すように、セラミックス基板111側に形成された活性金属を含む化合物からなる活性金属化合物層131と、活性金属化合物層131と回路層112(銅板122)との間に形成された合金層132と、を備えている。
さらに、本実施形態においては、活性金属化合物層131とセラミックス基板111との間に、Si濃化層135が形成されている。
【0058】
本実施形態においては、後述するように、Cu-P系ろう材24と活性金属としてTiを含むチタン材25を用いて、回路層112(銅板122)とセラミックス基板111を接合していることから、活性金属化合物層131は、チタン化合物によって構成される。
なお、Si濃化層135は、アルミナ(Al)からなるセラミックス基板111に焼結助剤として含まれるSiOによって形成されたものであると推測される。
【0059】
そして、活性金属化合物層131は、結晶質のチタン化合物(チタン酸化物又はチタン窒化物)とされている。なお、活性金属化合物層131の結晶性については、透過型電子顕微鏡によって電子回折図形を観察することで確認することができる。本実施形態では、活性金属化合物層131がチタン酸化物で構成されており、ルチル型の電子回折図形が観察されることになる。
ここで、本実施形態においては、活性金属化合物層131の厚さは、1.5nm以上150nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0060】
また、接合層130においては、活性金属化合物層131の回路層112(銅板122)側の界面から回路層112(銅板122)に向かって、0.5μmから3μmの厚み範囲EにおけるAl濃度が0.15at%以下とされている。
【0061】
また、合金層132は、接合時に用いたろう材の成分のいずれかを含む合金あるいは金属間化合物を含有するものとされている。本実施形態では、Cu-P系ろう材24、具体的には、Cu-P-Sn-Niろう材を用いているので、合金層32は、Cu,P,Sn,Niのいずれかを含む合金あるいは金属間化合物を有している。
【0062】
次に、上述した本実施形態である絶縁回路基板110の製造方法について、図7及び図8を参照して説明する。
【0063】
まず、図8に示すように、セラミックス基板111の一方の面(図8において上面)に、Cu-P系ろう材24、チタン材25、及び回路層112となる銅板122を順に積層する(銅板積層工程S101)。
なお、Cu-P系ろう材24及びチタン材25の厚さ等は、第一の実施形態と同等の条件とした。
【0064】
次に、セラミックス基板111、Cu-P系ろう材24、チタン材25、銅板122を、積層方向に加圧(圧力1~35kgf/cm(0.1MPa~3.5MPa))した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱して接合する(銅板接合工程S102)。
本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内としている。
また、加熱温度は770℃以上950℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間を5分以上120分以下の範囲内に設定している。さらに、600℃から700℃までの昇温速度を5℃/min以上20℃/min以下の範囲内に設定している。
【0065】
次に、図8に示すように、セラミックス基板111の他方の面(図8において下面)に、Al-Si系ろう材27、及び金属層113となるアルミニウム板123を順に積層する(アルミニウム板積層工程S103)。
ここで、本実施形態では、Al-Si系ろう材27として、Siを7mass%以上12mass%以下の範囲内で含有するアルミニウム合金からなるろう材箔を用いており、Al-Si系ろう材27の厚さが5μm以上30μm以下の範囲内とされている。
【0066】
次に、セラミックス基板111、Al-Si系ろう材27、アルミニウム板123を、積層方向に加圧(圧力1~35kgf/cm(0.1MPa~3.5MPa))した状態で、真空加熱炉内に装入して加熱して接合する(アルミニウム板接合工程S104)。
本実施形態では、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内としている。
また、加熱温度は580℃以上650℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間は1分以上180分以下の範囲内とされている。
【0067】
以上の銅板積層工程S101、銅板接合工程S102、アルミニウム板積層工程S103、アルミニウム板接合工程S104により、本実施形態である絶縁回路基板110が製造される。
【0068】
次に、絶縁回路基板110の金属層113の他方の面側に、ヒートシンク51をAl-Si系ろう材を用いて接合する(ヒートシンク接合工程S105)。
さらに、絶縁回路基板110の回路層112の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する(半導体素子接合工程S106)。
以上の工程により、図5に示すパワーモジュール101が製出される。
【0069】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板110(接合体)によれば、セラミックス基板111と回路層112との間に形成された接合層130のセラミックス基板111側に、結晶質のチタン酸化物からなる活性金属化合物層131が形成されているので、超音波を負荷させた場合であっても、活性金属化合物層131を起点としてクラックが発生することを抑制でき、セラミックス基板111と回路層112との剥離を抑制することができる。
【0070】
さらに、本実施形態では、活性金属化合物層131の回路層112側の界面から、回路層112に向かって0.5μmから3μmの厚み範囲Eにおける接合層130のAl濃度が0.15at%以下に抑えられているので、超音波を負荷させた場合であっても、接合層130にクラックが生じることを抑制することができる。
なお、厚み範囲Eにおける接合層130のAl濃度は、0.10at%以下であることが好ましく、0.07at%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
また、本実施形態においては、活性金属化合物層131の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされているので、冷熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板11の割れの発生を抑制することができる。
なお、活性金属化合物層131の厚さの下限は3nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがさらに好ましい。一方、活性金属化合物層131の厚さの上限は60nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。
【0072】
また、本実施形態においては、セラミックス基板111がアルミナ(Al)で構成されているので、絶縁性、および、耐熱性に優れた絶縁回路基板110を製造することができる。
さらに、活性金属化合物層131がチタン酸化物で構成されているので、セラミックス基板111と回路層112との接合性が向上し、セラミックス基板111と回路層112との剥離をさらに抑制することができる。
【0073】
さらに、本実施形態においては、セラミックス基板111の回路層112とは反対側の面に、金属層113が形成されているので、半導体素子3で発生した熱を効率良く放熱することが可能となる。また、セラミックス基板111の反りの発生を抑制することができる。
また、金属層113がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されているので、熱応力を金属層113で吸収することができ、冷熱サイクル時におけるセラミックス基板111への負荷を抑制することができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、セラミックス基板の回路層とは反対側の面に金属層を形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、金属層を設けなくてもよい。
【0075】
また、ヒートシンクは、本実施形態で例示してものに限定されることはなく、ヒートシンクの構造に特に限定はない。
さらに、ヒートシンクと金属層との間に、アルミニウム又はアルミニウム合金若しくはアルミニウムを含む複合材(例えばAlSiC等)からなる緩衝層を設けてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0077】
さらに、本実施形態においては、活性金属としてTiを用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、Ti,Nb,Hf,Zrから選択される一種又は二種以上の活性金属を用いてもよい。
また、セラミックス基板と銅板とを接合する際に用いるろう材として、Cu-P-Sn-Niろう材を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他のろう材を用いてもよい。
【0078】
さらに、本実施形態では、合金層がCu,P,Sn,Niのいずれかを含む合金あるいは金属間化合物を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、接合時に用いたろう材の成分のいずれかを含む合金あるいは金属間化合物を含有するものであればよい。例えばろう材がZnを含有する場合には、Znを含む合金あるいは金属間化合物を含有していてもよい。
【実施例
【0079】
<実施例1>
表1記載の材質からなるセラミックス基板(26mm×26mm×0.635mm厚)の一方の面に、表1記載のろう材及び活性金属材を用いて、無酸素銅からなる銅板(6mm×6mm×0.3mm厚)を順に積層し、積層体を形成する。
そして、積層体を表2に示す荷重で加圧した状態で真空加熱炉に投入し、加熱することによってセラミックス基板の一方の面に銅板を接合した。加熱温度及び時間は表2記載の通りとした。
【0080】
以上のようにして、本発明例、比較例の接合体を得た。得られた接合体について、「活性金属化合物層の材質及び結晶性」、「接合層の領域EのAl濃度」、「超音波接合性」について評価した。
【0081】
(活性金属化合物層の材質及び結晶性)
透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM、加速電圧200kV)を用いて倍率80000倍で測定し、エネルギー分散型X線分析法(サーモサイエンティフィック社製NSS7)により、N、O及び活性金属元素の元素マッピングを取得した。活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する場合に活性金属化合物層が有ると判断した。
さらに活性金属化合物層の高分解能像に格子縞が観察されており、かつ高分解能像を高速フーリエ変換することで得られる回折像に回折斑点が確認された場合に結晶質であると判断した。
評価結果を表2に示す。
【0082】
(接合層の領域EのAl濃度)
接合部におけるAl濃度の測定方法としては、接合部の断面をEPMA(電子線マイクロアナライザー、日本電子株式会社製JXA-8530F)により分析し、活性金属化合物領域の一面から0.5μm以上3μm以下の範囲を定量分析しAl濃度を測定した。具体的には上記範囲内の任意の個所10点を分析し、その平均値をAl濃度とした。
評価結果を表2に示す。
【0083】
また、本発明例3のセラミックス基板と銅板との接合界面の透過電子顕微鏡観察を図9に示す。
さらに、本発明例3及び比較例1の接合界面のライン分析結果を図10に示す。
また、本発明例4のセラミックス基板と銅板との接合界面の元素マッピングを図11に示す。
【0084】
(超音波接合後の剥離の有無)
得られた接合体に対して、超音波金属接合機(超音波工業株式会社製:60C-904)を用いて、銅端子(10mm×5mm×1mm厚)をコプラス量0.3mmの条件で超音波接合した。
接合後に、銅板とセラミックス基板の接合界面の剥離が生じたものを「××」と評価した。また、剥離が確認されなかったものについては、さらに超音波探傷装置(株式会社日立ソリューションズ製FineSAT200)を用いて、銅板とセラミックス基板の接合界面を検査し、剥離又はセラミックス割れが観察されたものを「×」、どちらも確認されなかったものを「○」と評価した。評価結果を表2に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
活性金属化合物層が非晶質である比較例1,2においては、超音波接合後に銅板とセラミックス基板の接合界面において剥離が生じた。
接合部の領域EのAl濃度が0.15at%を超える比較例3,4においては、超音波接合後に銅板とセラミックス基板の接合界面での剥離は認められなかったが、超音波探傷装置で検査した結果、剥離又はセラミックス割れが確認された。
【0088】
これに対して、活性金属化合物層が結晶質とされるとともに、接合部の領域EのAl濃度が0.15at%以下とされた本発明例1-9においては、超音波接合後に銅板とセラミックス基板の接合界面での剥離は認められず、超音波探傷装置で検査した結果、剥離又はセラミックス割れも確認されなかった。
【0089】
また、図9を参照すると、本発明例3においては、セラミックス基板の界面部分に結晶質の活性金属化合物層(ルチル型のTi-O層)が形成されていることが確認される。
さらに、図10を参照すると、本発明例3においては、比較例1に比べて、セラミックス基板の界面部分における活性金属濃度(Ti濃度)が高くなっていることが確認される。
また、図11を参照すると、本発明例4においては、アルミナからなるセラミックス基板と結晶質の活性金属化合物層との間に、Si濃化層が形成されているのが確認される。
【0090】
以上のことから、本発明例によれば、超音波接合を行った場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離を抑制することが可能な接合体、及び、絶縁回路基板を提供できることが確認された。
【0091】
<実施例2>
表3記載の材質からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.635mm厚)の両面に、表3記載のろう材及び活性金属材を用いて、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×0.3mm厚)を順に積層し、積層体を形成する。
そして、積層体を表4に示す荷重で加圧した状態で真空加熱炉に投入し、加熱することによってセラミックス基板の両面にそれぞれ銅板を接合した。加熱温度及び時間は表4記載の通りとした。
【0092】
以上のようにして、本発明例の接合体を得た。得られた接合体について、「活性金属化合物層の材質及び結晶性」、「接合層の領域EのAl濃度」、「活性金属化合物層の厚さ」、「冷熱サイクル信頼性」について評価した。なお、「活性金属化合物層の材質及び結晶性」、「接合層の領域EのAl濃度」については、実施例1と同様に評価した。
【0093】
(活性金属化合物層の厚さ)
透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM、加速電圧200kV)を用いて倍率80000倍で測定し、エネルギー分散型X線分析法(サーモサイエンティフィック社製NSS7)により、N、O及び活性金属元素の元素マッピングを取得した。活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する場合に活性金属化合物層が有ると判断した。
5視野で観察を行い、活性金属元素とNまたはOが同一領域に存在する範囲の面積を測定した幅で割ったものの平均値を「活性金属化合物層の厚さ」とした。
【0094】
(冷熱サイクル信頼性)
冷熱衝撃試験機(エスベック株式会社製TSA-72ES)を用いて、気相で-50℃×10min←→175℃×10minの冷熱サイクルを250サイクルまで実施した。
10サイクル毎にセラミックス基板の割れの有無を、超音波探傷装置(日立パワーソリューションズ製FineSAT200)による界面検査によって判定した。
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内とされた本発明例11-19においては、セラミックス割れが発生した冷熱サイクルが160回以上であり、冷熱サイクル信頼性に優れていることが確認された。特に、活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上15nm以下の範囲内とされた本発明例11,17,18,19においては、冷熱サイクルを250サイクル負荷後においてもセラミックス基板の割れが確認されておらず、冷熱サイクル信頼性に特に優れていることが確認された。
以上のことから、さらに冷熱サイクル信頼性が必要な場合には、活性金属化合物層の厚さが1.5nm以上150nm以下の範囲内、さらには1.5nm以上15nm以下の範囲内、とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0098】
1、101 パワーモジュール
3 半導体素子(電子部品)
10、110 絶縁回路基板(接合体)
11、111 セラミックス基板(セラミックス部材)
12、112 回路層
13、113 金属層
22、23、122 銅板(銅部材)
30、130 接合層
31、131 活性金属化合物層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11