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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】除塵装置
(51)【国際特許分類】
   E02B 5/08 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
E02B5/08 104E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018221801
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020084613
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長井 謙一
(72)【発明者】
【氏名】松永 隆昌
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】実公昭35-032991(JP,Y1)
【文献】特開平05-311628(JP,A)
【文献】実開平07-042378(JP,U)
【文献】特開2018-131830(JP,A)
【文献】特開平06-167012(JP,A)
【文献】特開昭55-042960(JP,A)
【文献】特開2014-194128(JP,A)
【文献】特開昭61-049012(JP,A)
【文献】実開平01-039957(JP,U)
【文献】特開2005-344738(JP,A)
【文献】特公昭50-023466(JP,B2)
【文献】実開昭60-191751(JP,U)
【文献】特開平10-238603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の無端状のキャリングチェーンに、水路を幅方向に横切るように塵芥捕集用スクリーンを備えた網枠を接合し、前記キャリングチェーンが上下部スプロケットホイールを介して回動する除塵装置において、
上部スプロケットホイールの歯先と、前記歯先間の中間が前記上部スプロケットホイールの軸心を通る水平線を跨ぐときに生じる衝撃力又は振動を減衰する衝撃力緩衝装置を備え、
前記衝撃力緩衝装置は、水流方向からキャリングチェーンに加わる衝撃力に対向するように、左右一対のキャリングチェーンに突き当てる左右一対の剛体と、前記剛体を支持する各2つのガイド体と、
前記2つのガイド体のうち少なくとも1つは水平方向へ往復運動が可能な緩衝機構を備えたことを特徴とする除塵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の除塵装置において、
前記キャリングチェーンに囲われた水面上と上部スプロケットホイールの間に前記衝撃力緩衝装置を備えたことを特徴とする除塵装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の除塵装置において、
剛体は、金属又はキャリングチェーンと接触する表面に耐摩耗性を有する樹脂製ライナーを装着した前記金属であることを特徴とする除塵装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の除塵装置において、
衝撃力緩衝装置の緩衝機構は、弾性機構と減衰機構のうち少なくとも1つを用いて形成したことを特徴とする除塵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や海などから取水する水路に、流水から塵芥を捕捉するスクリーンを水流方向に対して備えた除塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所などの発電プラントにおいては、河川や海などからの冷却水として使用するために取水設備が配置されている。この取水設備には、流水中に浮遊する塵芥等の異物を捕捉して除去するための除塵装置が設置されている。
【0003】
図3、4は、一般的な除塵装置の斜視図である。図示のように除塵装置100は、無端状に左右一対のキャリングチェーン102に、水路を左右(幅方向)に横切るようにリンク毎にスクリーン104を備えた網枠を、水流に対して垂直もしくは傾斜させて取り付けた構造をとっている。また、キャリングチェーン102は上下部のスプロケットホイール103A、103Bを介して、スクリーン104を水路の深さ方向に対して上下に回動させて、流水中の塵芥等を捕捉する働きをする。
【0004】
多くの除塵装置の上下部のスプロケットホイールの歯数は6枚の正六角形が使用されている。この正六角形の頂点とキャリングチェーンのリンクを接続するリンクピン部のローラが噛み合うことで、水路上流側の網枠が持ち上がり、スプロケットホイールが回転することによって、キャリングチェーンの進行方向に対して垂直に水平方向へ変動が生じる。そのためスプロケットホイールの回転中心と上下移動するキャリングチェーン中心間の距離が変動して、キャリングチェーンの周回転速度が変動する。この速度変動による衝撃力がスプロケットホイールやキャリングチェーンに働き、振動騒音の発生、装置摺動部の早期摩耗や疲労破損の原因になっていた。
【0005】
従来、特許文献1に開示のように、スプロケットホイールの歯数を増やしてキャリングチェーンの速度変動と水平変動を低減する装置が提案されている。具体的には、スプロケットホイールの歯数を6枚から12枚に増やし、キャリングチェーンのリンクの長さを半分にして速度変動を低減し衝撃力の発生を少なくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-311628
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、キャリングチェーンのリンクの長さを半分にするような構成は、リンクとローラ数が増えることになる。通常、チェーンの回動によって、ローラ内のブッシュが摩耗し、ローラとその軸の間に隙間が生じる。またキャリングチェーンのリンクピンとブッシュも摩耗して、隙間が大きくなるとチェーンの伸びが生じる。リンクとローラ数が増えた分、摩耗する箇所が増えるため、メンテナンス時に交換する部品が多くなり好ましくない。
【0008】
そこで、上記従来技術の問題点に鑑み、本発明は、スプロケットホイールなどの設計を変更することなく、キャリングチェーンが回動する際の水平変動による衝撃を緩衝する衝撃力緩衝装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための第1の手段として、本発明は、左右一対の無端状のキャリングチェーンに、水路を幅方向に横切るように塵芥捕集用スクリーンを備えた網枠を接合し、前記キャリングチェーンが上下部スプロケットホイールを介して回動する除塵装置において、
上部スプロケットホイールの歯先と、前記歯先間の中間が前記上部スプロケットホイールの軸心を通る水平線を跨ぐときに生じる衝撃力又は振動を減衰する衝撃力緩衝装置を備え、
前記衝撃力緩衝装置は、水流方向からキャリングチェーンに加わる衝撃力に対向するように、左右一対のキャリングチェーンに突き当てる左右一対の剛体と、 前記剛体を支持する各2つのガイド体と、
前記2つのガイド体のうち少なくとも1つは水平方向へ往復運動が可能な緩衝機構を備えたことを特徴とする除塵装置を提供することにある。
上記第1の手段によれば、キャリングチェーンの水平変動を抑えて、衝撃力を低減することができる。これにより、装置全体の延命化、メンテナンス回数を減らすことにつながる。
【0010】
上記課題を解決するための第2の手段として、本発明は、第1の手段において、前記キャリングチェーンに囲われた水面上と上部スプロケットホイールの間に前記衝撃力緩衝装置を備えたことを特徴とする除塵装置を提供することにある。
上記第2の手段によれば、キャリングチェーンの水平変動を抑えて、衝撃力を低減することができる。これにより、装置全体の延命化、メンテナンス回数を減らすことにつながる。
【0011】
上記課題を解決するための第3の手段として、本発明は、第1又は第2の手段において、剛体は、金属又はキャリングチェーンと接触する表面に耐摩耗性を有する樹脂製ライナーを装着した前記金属であることを特徴とする除塵装置を提供することにある。
上記第3の手段によれば、キャリングチェーンの水平変動を抑えて、キャリングチェーンへの衝撃力を緩衝しようとする剛体の表面の摩耗を抑制できるため、装置全体の延命化、メンテナンス回数を減らすことにつながる。
また、キャリングチェーンと接触する表面に耐摩耗性を有する樹脂製ライナーを装着した金属を用いた場合は、樹脂によって滑り性が向上するため、摩擦力が小さくなる上に、振動騒音の抑制につながる。
【0012】
上記課題を解決するための第4の手段として、本発明は、第1ないし第3のいずれか1の手段において、衝撃力緩衝装置の緩衝機構は、弾性機構と減衰機構のうち少なくとも1つを用いて形成したことを特徴とする除塵装置を提供することにある。
上記第4の手段によれば、衝撃力緩衝装置に備えられた緩衝機構によって、キャリングチェーンへかかる衝撃力を低減することができる。これにより、装置全体の延命化、メンテナンス回数を減らすことにつながる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スプロケットホイールの歯数などの設計を変更することなく、キャリングチェーンが回動する際の水平変動による衝撃力を緩衝し低減することができる。これにより、装置全体の延命化、メンテナンス回数の低減が図れる。また、キャリングチェーンの周回転速度を高速にした場合においては、通常の速度より大きくなる衝撃力を緩衝して、装置への負荷を低減する対応ができるため、除塵の回収能力は高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の衝撃力緩衝装置例1を備えた除塵装置の側面図である。
図2】本発明の衝撃力緩衝装置例2を備えた除塵装置の側面図である。
図3】従来の除塵装置の側面図である。
図4】従来の除塵装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の除塵装置の衝撃力緩衝装置を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
[衝撃力緩衝装置例1を備えた除塵装置10]
図1は本発明の衝撃力緩衝装置例1を備えた除塵装置10の側面図である。図示のように、リンクピン部のローラ19によってリンク18を繰り返し設けて無端状に構成されたキャリングチェーン12が、歯数6枚の上部スプロケットホイール13を介して保持されている。前記衝撃力緩衝装置例1はキャリングチェーン12に囲われた水面上と上部スプロケットホイール13の間に備えられ、水流方向からキャリングチェーン12に加わる衝撃力に対向するようにキャリングチェーン12に突き当てる剛体16と、前記剛体16を支持する上下部に設置された2つのガイド体17A、17Bのうち下部のガイド体17Bに、緩衝機構となる弾性機構15を組み合わせた構成を採用している。
弾性機構15は、衝突力のエネルギーを吸収できる弾性体、例えば、バネ又はゴムを用いて形成したことを特徴とする。
【0016】
[衝撃力緩衝装置例2を備えた除塵装置20]
図2は本発明の衝撃力緩衝装置例2を備えた除塵装置20の側面図である。図示のように、リンクピン部のローラ19によってリンク18を繰り返し設けて無端状に構成されたキャリングチェーン12が、歯数6枚の上部スプロケットホイール13を介して保持されている。前記衝撃力緩衝装置例2はキャリングチェーン12に囲われた水面上と上部スプロケットホイール13の間に備えられ、水流方向からキャリングチェーン12に加わる衝撃力に対向するようにキャリングチェーン12に突き当てる剛体16と、前記剛体16を支持する上下部に設置された2つのガイド体17A、17Bのうち下部のガイド体17Bに、緩衝機構となる減衰機構25を組み合わせた構成を採用している。
減衰機構25は、衝突による振動のエネルギーを減衰させるために、ダンパを用いて形成したことを特徴としており、空気式又は油圧式のダンパが好ましい。
【0017】
緩衝力緩衝装置例1、例2のように剛体16を支持する2つのガイド体17A、17Bのうち少なくとも1つは水平方向へ往復移動が可能な緩衝機構となるものを組み合わせた構成を採用している。つまり、2つのガイド体17A、17Bの両方に緩衝機構が備えられた構成でも良い。
また、衝撃力緩衝装置の取り付け場所は水中ではなく、水面より上に設置することが求められる。水中に設置された場合、衝撃力緩衝装置が取水時の流水抵抗となるのに加えて、水によって腐食されてしまうため、メンテナンス回数が増えることにつながる。そのため、衝撃力緩衝装置は水面上と上部スプロケットホイール13の間に設置されるのが望ましい。
【0018】
[ガイド体17A、17B]
衝撃力緩衝装置のガイド体17A、17Bの中央部は係合ピンと係合部から構成されるリンク機構を有している。衝撃力に応じて、キャリングチェーン12が突き当てられた剛体16を上下部に設置された2つのガイド体17A、17Bのリンク機構が回転自在に支持している。
【0019】
図1、2に示すように、剛体16を支持する上下部に設置された2つのガイド体17A、17Bのうち、上部のガイド体17Aはリンク機構を介して固定され、下部のガイド体17Bは緩衝機構を備えリンク機構を介して固定されている。
つまり、水流方向からの衝撃力によってキャリングチェーン12が剛体16に突き当てられると、下部のガイド体17Bの緩衝機構が圧縮されて下流側へ水平移動するのに伴って、上部のガイド体17Aのリンク機構が回転自在に支持している。
【0020】
衝撃力緩衝装置のガイド体17A、17Bに備えられた緩衝機構は、弾性機構15と減衰機構25のうち少なくとも1つを用いて構成されている。弾性機構15と減衰機構25の両方を組み合わせて構成しても良い。
【0021】
[剛体16]
図1、2に示すように、剛体16の長手方向の長さは、キャリングチェーン12を構成するリンク18の1枚分の長手方向の長さとほぼ等しい。また剛体16の側面の形状は、水流方向へ凸に湾曲した形状である。このとき、好ましくは、剛体16の凸部がキャリングチェーン12を構成するリンク18同士を接続するリンクピン部のローラ19に接触するように取り付けられる。
また、剛体16の側面の形状は、矩形であっても良い。
【0022】
剛体16に使用する金属としては、鉄、鋼鉄、ステンレスなどがある。これら金属製の剛体16は作動時間の経過とともに、キャリングチェーン12と接触する表面が摩耗する。そのため、耐摩耗鋼、合金又は表面処理(焼き入れや窒化など)を施した金属などの耐摩耗性を有する金属が好ましい。
【0023】
さらに、キャリングチェーン12と接触する剛体16の表面に耐摩耗性を有する樹脂製ライナーを装着することで、耐摩耗性は向上する。例えば、耐摩耗性を有する樹脂として、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、モノマーキャスティングナイロン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアセテール、ポリアクリロニトリルのうちいずれか1つを剛体16の表面に装着して適用することができる。
つまり、耐摩耗性を有する金属の表面に、耐摩耗性を有する樹脂製ライナーを装着することが、最も好ましい組み合わせである。
【0024】
剛体16のキャリングチェーン12と接触する表面に耐摩耗性を有する樹脂製ライナーを装着することで、キャリングチェーン12の水平変動を抑えて、衝撃力を低減しようと接触する剛体16の表面の摩耗を抑制できるため、装置全体の延命化とメンテナンス回数を減らすことにつながる。
また、キャリングチェーン12と接触する剛体16の表面に耐摩耗性を有する樹脂製ライナーを装着した場合は、樹脂によって滑り性が向上するため、摩擦力が小さくなる上に、振動騒音の抑制につながる。
【0025】
上部スプロケットホイール13に連動して、下部スプロケットホイールが共に回転するのに伴ってキャリングチェーン12が周回転しているとき、6枚の歯先を持つスプロケットホイール13の歯先間の中間が最上部にある状態を状態iとし、スプロケットホイール13の歯先が最上部にある状態を状態iiとする。図1、2の状態は、状態iを示している。
除塵装置10、20の稼動時に流水の力が作用する状況下において、状態iから状態iiに変化する場合に比べて、状態iiから状態iに変化する場合の方が、水流方向に対向して変動するため、キャリングチェーン12に大きな張力がかかり、キャリングチェーン12の寿命を縮めかねない。
そこで、本発明の衝撃力緩衝装置は、状態iから状態iiに変化する場合において、キャリングチェーン12の水流方向の水平変動を抑制し、状態iiから状態iに変化する場合において、キャリングチェーン12の水流方向に対向する水平変動を補助する役割を果たす。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明はプラントなどの取水設備において塵芥を捕捉するためのスクリーン回動式の除塵装置で特に有用である。
【符号の説明】
【0027】
10 本発明の衝撃力緩衝装置例1を備えた除塵装置
12、102 キャリングチェーン
13、103A 上部スプロケットホイール
15 弾性機構
16 剛体
17A 上部ガイド体
17B 下部ガイド体
18 キャリングチェーンのリンク
19 キャリングチェーンのリンクピン部のローラ
20 本発明の衝撃力緩衝装置例2を備えた除塵装置
25 減衰機構
100 従来の除塵装置
101 ハウジング
103B 下部スプロケットホイール
104 スクリーン
図1
図2
図3
図4