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特許7124685ジルコニウムの精製方法およびジルコニウム精製装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】ジルコニウムの精製方法およびジルコニウム精製装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 34/14 20060101AFI20220817BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20220817BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20220817BHJP
   B01J 45/00 20060101ALI20220817BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20220817BHJP
   B01J 49/05 20170101ALI20220817BHJP
【FI】
C22B34/14
C22B3/06
C22B3/24 101
B01J45/00
C02F1/42 H
B01J49/05
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018234490
(22)【出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2020094255
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井村 亮太
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-123372(JP,A)
【文献】特開平04-055317(JP,A)
【文献】特開2015-181993(JP,A)
【文献】無機分析のための固相抽出分離剤とその応用,分析化学,2008年,Vol.57, No.12,P.969-989
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00- 61/00
C02F 1/42
B01J 39/00- 49/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム、およびイットリウムを溶解用酸性溶液に溶解して溶解液を調製する溶解工程と、
前記溶解液をイミノ二酢酸樹脂に接触させて、ジルコニウムイオン(Zr4+)を前記イミノ二酢酸樹脂に選択的に吸着させる吸着工程と、
前記吸着工程後、前記イミノ二酢酸樹脂に洗浄用酸性溶液を通液して洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程後、前記イミノ二酢酸樹脂に回収酸性溶液である塩酸を通液して、前記ジルコニウムイオン(Zr4+)を含む精製液を得る回収工程と、
を含むことを特徴とするジルコニウムの精製方法。
【請求項2】
前記溶解用酸性溶液は、水素イオン濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下であることを特徴とする請求項1に記載のジルコニウムの精製方法。
【請求項3】
前記回収酸性溶液は、水素イオン濃度が3mol/L以上8mol/L以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のジルコニウムの精製方法。
【請求項4】
ジルコニウム、およびイットリウムを溶解用酸性溶液に溶解させて溶解液を得る溶解槽と、
前記溶解用酸性溶液を貯留する溶解用酸性溶液貯留槽と、
洗浄用酸性溶液を貯留する洗浄用酸性溶液貯留槽と、
回収酸性溶液である塩酸を貯留する回収酸性溶液貯留槽と、
イミノ二酢酸樹脂が充填されているキレート樹脂容器と、
前記溶解槽に、前記溶解用酸性溶液を供給、および前記キレート樹脂容器に、前記溶解液、前記洗浄用酸性溶液、または前記回収酸性溶液を選択的に供給可能とし、前記キレート樹脂容器から排出された前記溶解液、前記洗浄用酸性溶液、または前記回収酸性溶液を排出可能とする配管系と、
を備えることを特徴とするジルコニウム精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イットリウム中に生成された放射性ジルコニウムをイットリウムから分離精製するジルコニウムの精製方法およびジルコニウム精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射性ジルコニウムは、医用イメージングに有効な放射性同位元素であることが知られている。そのため、放射性ジルコニウムの製造方法および精製方法の確立が求められている。製造方法としては、イットリウム(Y)ターゲットに対して陽子線を照射する方法が知られている。陽子線を用いた製造方法においては、数百ミリグラム単位のイットリウム中に、数十~数百ナノグラム単位の微量の放射性ジルコニウムが生成される。微量の放射性ジルコニウムが生成されたイットリウムから、放射性ジルコニウムを精製する精製方法としては、キレート樹脂を用いる方法が知られている。例えば、非特許文献1には、機能基としてヒドロキサム酸基を有するキレート樹脂(以下、ヒドロキサム酸樹脂)を使用して、イットリウムから放射性ジルコニウムを精製する方法が記載されている。
【0003】
非特許文献1に記載されたヒドロキサム酸樹脂を用いた放射性ジルコニウムの精製方法においては、ヒドロキサム酸樹脂が有する、4価以上の金属イオンと強いキレート結合を形成する性質を利用する。すなわち、ヒドロキサム酸樹脂は、4価のジルコニウムイオンを捕集する一方、3価のイットリウムイオンをほとんど捕集しない。そこで、放射性ジルコニウムが生成されたイットリウムターゲットを塩酸によって溶解した後、得られた溶解液をヒドロキサム酸樹脂に通液すると、溶解液中のジルコニウムイオンがヒドロキサム酸樹脂に吸着される。ジルコニウムイオンを吸着して捕集したヒドロキサム酸樹脂に対して、洗浄用酸性溶液を通液した後にシュウ酸水溶液((COOH)2)を通液すると、シュウ酸水溶液中にジルコニウムが溶出しジルコニウムを回収できる。また、陰イオン交換樹脂を用いてジルコニウムが溶解したシュウ酸溶液からシュウ酸を除去することも可能である。さらに、特許文献1には、ジルコニウム(Zr4+)等の原子価3以上の高原子価金属イオンを、酸性下であっても選択的に捕集できる、ヒドロキサム酸基を有する化合物を担体に導入してなる捕集剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5439691号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Jason P.Holland et al. “Standardized methods for the production of high specific-activity zirconium-89”, Nucl. Med. Biol., 2009, Oct, 36, 729-739.
【文献】古庄 義明等、「無機分析のための固相抽出分離剤とその応用」、分析化学、Vol.57, No.12, pp.969-989(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ジルコニウムを回収するシュウ酸水溶液は、溶質であるシュウ酸の水への溶解度が低いため、温度やpHの変動によりシュウ酸が析出し、精製装置のチューブやバルブ内が閉塞するおそれがあるが、シュウ酸以外の酸ではヒドロキサム酸からシルコニウムを解離させ、溶出させることはできないため、シュウ酸の濃度管理を厳密に行う必要がある。
【0007】
一方、ヒドロキサム酸樹脂以外のキレート樹脂を使用したジルコニウムの抽出方法として、イミノ二酢酸樹脂を使用する方法が知られているが(例えば、非特許文献2参照)、非特許文献2では、pH1~9の範囲でイミノ二酢酸樹脂がジルコニウムと錯体を形成することは示されているものの、ジルコニウムの回収方法、すなわちイミノ二酢酸樹脂からジルコニウムを溶出させる方法について何ら検討されていなかった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ジルコニウムをイットリウムから分離精製する場合に、回収酸性溶液に起因する固体の析出を防止するための厳密な濃度管理を行う必要がなく、高純度のジルコニウムを含有した精製液を回収できるジルコニウムの精製方法および精製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るジルコニウムの精製方法は、ジルコニウム、およびイットリウムを溶解用酸性溶液に溶解して溶解液を調製する溶解工程と、前記溶解液をイミノ二酢酸樹脂に接触させて、ジルコニウムイオン(Zr4+)を前記イミノ二酢酸樹脂に選択的に吸着させる吸着工程と、前記吸着工程後、前記イミノ二酢酸樹脂に洗浄用酸性溶液を通液して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程後、前記イミノ二酢酸樹脂に回収酸性溶液を通液して、前記ジルコニウムイオン(Zr4+)を含む精製液を得る回収工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係るジルコニウムの精製方法は、上記の発明において、前記溶解用酸性溶液は、水素イオン濃度が0.1mol/L以上1mol/L以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るジルコニウムの精製方法は、上記の発明において、前記回収酸性溶液は、水素イオン濃度が3mol/L以上8mol/L以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るジルコニウムの精製方法は、上記の発明において、ジルコニウム、およびイットリウムを溶解用酸性溶液に溶解させて溶解液を得る溶解槽と、前記溶解用酸性溶液を貯留する溶解用酸性溶液貯留槽と、洗浄用酸性溶液を貯留する洗浄用酸性溶液貯留槽と、回収酸性溶液を貯留する回収酸性溶液貯留槽と、イミノ二酢酸樹脂が充填されているキレート樹脂容器と、前記溶解槽に、前記溶解用酸性溶液を供給、および前記キレート樹脂容器に、前記溶解液、前記洗浄用酸性溶液、または前記回収酸性溶液を選択的に供給可能とし、前記キレート樹脂容器から排出された前記溶解液、前記洗浄用酸性溶液、または前記回収酸性溶液を排出可能とする配管系と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るジルコニウムの精製方法および精製装置によれば、ジルコニウムをイットリウムから分離精製する場合に、回収酸性溶液に起因する固体の析出を防止することができるとともに、高純度のジルコニウムを含有した精製液を回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施の形態にかかるイミノ二酢酸樹脂へのジルコニウムの分配係数と塩酸濃度の関係を示す図である。
図2図2は、本発明の実施の形態にかかるジルコニウムの精製方法を説明するための模式図である。
図3図3は、本発明の実施の形態かかるジルコニウムの精製装置を説明するためのブロック図である。
図4図4は、従来技術によるヒドロキサム酸樹脂を用いたジルコニウムの精製方法を説明するための模式図である。
図5図5は、従来技術であるヒドロキサム酸樹脂へのジルコニウムの分配係数と塩酸濃度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0016】
まず、本発明の実施の形態を説明するにあたり、本発明の理解を容易にするために、本発明者が上記課題を解決するために行った実験および鋭意検討について説明する。
【0017】
最初に、本発明者の鋭意検討の対象となった、従来のジルコニウムの精製方法(非特許文献1参照)について説明する。図4は、従来技術によるヒドロキサム酸樹脂を用いたジルコニウムの精製方法を説明するための模式図である。図4に示すように、従来のジルコニウムの精製方法においては、ターゲット溶解工程、吸着工程、洗浄工程、および回収工程を順次行う。
【0018】
まず、陽子線照射により内部に放射性ジルコニウム(89Zr:以下、ジルコニウムまたはZr)(図示せず)が生成された89Yのイットリウムターゲット100を準備する。次に、ターゲット溶解工程において、イットリウムターゲット100を、溶解槽101内において酸性溶液102を用いて溶解させる。ここで、イットリウムターゲット100の質量は例えば0.33g(330mg)であり、酸性溶液102としては、濃度が6mol/Lで容量が2mLの塩酸(HCl)を用いる。
【0019】
次に、従来の吸着工程において、Zrが生成されたイットリウムターゲット100が溶解された溶解液を、機能基としてヒドロキサム酸基を有するキレート樹脂(以下、ヒドロキサム酸樹脂)103が充填された樹脂カラム104に通液する。従来の吸着工程においては、溶解液がヒドロキサム酸樹脂103に接触して、溶解液中のジルコニウムがヒドロキサム酸樹脂103に吸着する。ジルコニウムがヒドロキサム酸樹脂103に吸着された後の溶解液は、排液口104aから通過液として排出される。
【0020】
次に、従来の洗浄工程において、樹脂カラム104内に、洗浄用酸性溶液としての酸性溶液と純水とを順次通液する。これにより、樹脂カラム104内の内壁やヒドロキサム酸樹脂103に付着したイットリウムや酸性溶液などの不純物が洗浄されて排出口104aから通過液として排出される。ここで、酸性溶液としては、例えば濃度が2mol/Lで容量が10mLの塩酸を用い、純水の容量は例えば10mLとする。
【0021】
次に、従来の回収工程において、樹脂カラム104内に回収酸性溶液として用いられる回収酸性溶液を通液する。これにより、ヒドロキサム酸樹脂103に吸着したジルコニウムが脱離して、回収酸性溶液に溶出する。ジルコニウムが溶出した回収酸性溶液は、排液口104aから回収通過液として排出されて回収される。ここで、回収酸性溶液としては、例えば濃度が1mol/Lで容量が3mLのシュウ酸水溶液((COOH)2)を用いる。
【0022】
上記の回収工程において、回収酸性溶液として使用するシュウ酸の水への溶解度は、20℃において10.2g/100cm(102g/L)であり、シュウ酸のモル質量は90gである。回収工程で使用する1mol/Lのシュウ酸水溶液は、温度や濃度の変化によりシュウ酸が析出し、精製装置内のチューブやバルブを閉塞させるおそれがあるため、装置内でのシュウ酸水溶液の温度および濃度の厳密な管理が必要となる。回収酸性溶液として、シュウ酸以外の酸を使用することも考えられるが、ヒドロキサム酸樹脂とジルコニウムの結合は非常に強いため、塩酸等の他の酸では、図5に示すように、低濃度(0.01mol/L)から高濃度(10mol/L)において分配係数Kが10より非常に大きいため、ジルコニウムをヒドロキサム酸樹脂からほとんど溶出することはできない。
【0023】
そこで、本発明者は、一般的な金属の分離に使用されているイミノ二酢酸樹脂を使用して、イットリウムとジルコニウムとの分離が可能か検討した。非特許文献2では、イミノ二酢酸樹脂は、pH1~9の範囲でジルコニウムと錯体を形成すること、イットリウムはpH2~9の範囲で錯体を形成するが、pH1では錯体は形成されにくいことが開示されている。
【0024】
したがって、イットリウムとジルコニウムをpH1の溶解用酸性液に溶解し、この溶解液をイミノ二酢酸樹脂に通液することにより、ジルコニウムをイミノ二酢酸樹脂に選択的に吸着できるものと推測される。
【0025】
しかしながら、非特許文献2には、イミノ二酢酸樹脂とジルコニウムとの錯体を分解させる条件等については何ら開示されていない。そこで、本発明者は、イミノ二酢酸樹脂に吸着されたジルコニウムの脱着方法について鋭意検討した結果、回収酸性溶液として水素イオン濃度が3~7mol/Lの酸性溶液を使用することにより、効率よくジルコニウムを回収できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0026】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかるイミノ二酢酸樹脂へのジルコニウムの分配係数と塩酸濃度の関係を示す図である。図2は、本発明の実施の形態にかかるジルコニウムの精製方法を説明するための模式図である。
図1の分配係数Kの測定方法を説明する。15mLプラスチックチューブにイミノ二酢酸樹脂(GLサイエンス製、ME-1)を0.1g入れ、さらに89Zrを含有する所定濃度の塩酸溶液10mLを加えた。1時間以上チューブ振盪器で撹拌し、液相と樹脂相で吸着平衡に達した段階で、液相中に溶解している89Zrと樹脂相に吸着した89Zrのそれぞれの放射能を測定した。そしてその放射能の比率から分配係数Kを測定した。この実験を異なる塩酸濃度でそれぞれ実施し、まとめたものが図1である。
【0027】
本発明の実施の態様に係るジルコニウムの精製方法は、ジルコニウム、およびイットリウムを溶解用酸性溶液に溶解して溶解液を調製する溶解工程と、前記溶解液をイミノ二酢酸樹脂に接触させて、ジルコニウムイオン(Zr4+)を前記イミノ二酢酸樹脂に選択的に吸着させる吸着工程と、前記吸着工程後、前記イミノ二酢酸樹脂に洗浄用酸性溶液を通液して洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程後、前記イミノ二酢酸樹脂に回収酸性溶液を通液して、前記ジルコニウムイオン(Zr4+)を含む精製液を得る回収工程と、を含むことを特徴とする。
【0028】
まず、陽子線照射により内部に放射性ジルコニウム(89Zr:以下、ジルコニウムまたはZr)(図示せず)が生成された89Yのイットリウムターゲット1を準備する。溶解工程は、溶解槽2内の溶解用酸性溶液3によってイットリウムターゲット1を溶解させ溶解液を調製する。ここで、溶解用酸性溶液3としては、例えば水素イオン濃度が0.1mol/L以上1.0mol/L以下の塩酸を用いる。また、イットリウムターゲット1を、例えば0.33g(330mg)使用する場合、2mL程度の溶解用酸性溶液3に溶解すればよい。また、塩酸以外に、硝酸、硫酸水溶液を用いることもできる。
【0029】
吸着工程は、溶解工程で得られた溶解液を、イミノ二酢酸樹脂4が充填されたキレート樹脂容器としての樹脂カラム5内に通液する。樹脂カラム5は、各種溶液を通液後に排液口5aから排出可能に構成される。溶解液は、イミノ二酢酸樹脂4に接触して、ジルコニウムイオン(Zr4+)がイミノ二酢酸樹脂4に吸着した後に、排液口5aから通過液として排出される。図1に示すように、塩酸濃度が0.1mol/L以上1.0mol/L以下における、ジルコニウムイオン(Zr4+)のイミノ二酢酸樹脂4に対する分配係数Kは10より大きく、イミノ二酢酸樹脂4にジルコニウムイオン(Zr4+)が選択的に吸着される。イミノ二酢酸樹脂4としては、例えば、ME-1(GLサイエンス)などを使用することができる。
【0030】
洗浄工程は、樹脂カラム5内に、洗浄用酸性溶液を通液する。これにより、樹脂カラム5内の内壁やイミノ二酢酸樹脂4に付着したイットリウムや溶解用酸性溶液などの不純物が洗浄されて排液口5aから通過液として排出される。ここで、洗浄用酸性溶液としては、例えば水素イオン濃度が0.1mol/L以上1.0mol/L以下の塩酸を用いる。洗浄工程は、用いる溶解用酸性溶液、洗浄用酸性溶液の濃度等により適宜変更すればよいが、溶解液の1~10倍量の洗浄用酸性溶液で洗浄することが好ましい。また、塩酸以外に、硝酸、硫酸水溶液を用いることもできる。
【0031】
回収工程は、樹脂カラム5内に、回収酸性溶液を通液する。これにより、イミノ二酢酸樹脂4に吸着したジルコニウムイオンが溶出して、回収酸性溶液に溶出される。ジルコニウムを含む回収酸性溶液は、排液口5aから排出される。ここで、回収酸性溶液は、酸性水溶液、例えば、塩酸、硝酸、硫酸水溶液を使用することができる。回収酸性溶液は、例えば、濃度が3mol/L以上8mol/Lの塩酸水溶液を用いることが好ましい。図1に示すように、塩酸濃度が3mol/L以上8mol/L以下における、ジルコニウムイオン(Zr4+)のイミノ二酢酸樹脂4に対する分配係数Kは10より小さいか、または略同程度である。したがって、回収酸性溶液として水素イオン濃度が3mol/L以上8mol/Lの酸性溶液を使用することにより、イミノ二酢酸樹脂4からジルコニウムイオンを脱着可能となる。
【0032】
イミノ二酢酸樹脂4とジルコニウムイオンは、下記の式(1)に示すように錯体を形成する。式(1)の右辺に示すように、ジルコニウムイオンがイミノ二酢酸に吸着されると水素イオンが放出されるため、水素イオン濃度が高くなるほど平衡は左に傾く。これは、図1の水素イオン濃度の低濃度側(4mol/L以下)の分配係数Kの傾向と合致する。
【0033】
【化1】
【0034】
しかしながら、図1では、水素イオン濃度が4mol/Lを境にして分配係数Kが上昇する。これは、下記の式(2)に示すように、ジルコニウムの塩化物イオンが生成し、イミノ二酢酸とイオン交換作用により吸着するためと考えられる。
【0035】
【化2】
【0036】
水素イオン濃度が3mol/Lより低い場合には、イミノ二酢酸樹脂とジルコニウムイオンとの錯体を分解することができず、また水素イオン濃度が8mol/Lより大きい場合にも、ジルコニウムのアニオン付加物とイミノ二酢酸樹脂とのイオン結合体が生成し、ジルコニウムイオンの回収率が低くなることは、本発明により初めて見出されたものである。
【0037】
次に、上述した実施の形態によるジルコニウムの精製方法における溶解工程、吸着工程、洗浄工程、および回収工程について、本発明者が行った実験について説明する。
【0038】
イットリウム箔(約0.33g)に陽子線を照射し、ジルコニウム89(89Zr)を生成させた。これを10mLの0.5mol/Lの塩酸に溶解させた。これをイミノ二酢酸樹脂(ME-1(GLサイエンス))に通液した。さらに10mLの0.5mol/L塩酸で洗浄した。その後、3mLの4mol/L塩酸を通液しジルコニウム89を溶出させた。ジルコニウムの回収率は91%であり、99.94%のイットリウムを除去することができた。
【0039】
続いて、本発明の実施の形態に係るジルコニウム精製装置について、図を参照して説明する。図3は、本発明の実施の形態に係るジルコニウム精製装置を説明するためのブロック図である。
【0040】
図3に示すように、ジルコニウム精製装置10は、溶解槽2、イミノ二酢酸樹脂4が充填された樹脂カラム5、回収通過液バイアル11、廃液バイアル12、リザーバタンク群13、ならびにバルブ群14およびバルブ群15を有する配管系を備える。リザーバタンク群13は、それぞれが各種溶媒や各種溶液を貯留可能な貯留槽を構成するリザーバタンク13a、13b、13cから構成される。
【0041】
溶解槽2は、陽子線の照射により微量の89Zrが生成されたイットリウムターゲットを溶解させるための槽である。溶解槽2には、リザーバタンク13aから溶解用酸性溶液が供給される。リザーバタンク13aには、溶解用酸性溶液として、例えば0.5mol/Lの濃度の塩酸水溶液が貯留されている。リザーバタンク13aから溶解槽2に溶解酸性溶液が供給されることによって、イットリウムターゲットが溶解される。これにより、溶解工程が実行されて、溶解液が生成される。リザーバタンク13aから溶解槽2への溶解用酸性溶液の供給は、バルブ15aの開閉により制御される。
【0042】
イミノ二酢酸樹脂4が充填された樹脂カラム5には、溶解槽2から排出された溶解液が供給可能に構成される。溶解槽2から樹脂カラム5への溶解液の供給は、バルブ2aにより制御される。溶解槽2から樹脂カラム5に溶解液が供給されることにより、吸着工程が実行され、内部に充填されたイミノ二酢酸樹脂4にジルコニウムイオンが吸着する。樹脂カラム5には、リザーバタンク13b、13cからそれぞれ、洗浄用酸性溶液、および回収酸性溶液が供給可能に構成される。
【0043】
リザーバタンク13bには、濃度が例えば0.5mol/Lの塩酸水溶液が貯留されている。リザーバタンク13bから樹脂カラム5に洗浄用酸性溶液が供給されることによって、洗浄工程が実行される。リザーバタンク13bから樹脂カラム5への洗浄用酸性溶液の供給は、バルブ15bの開閉により制御される。
【0044】
吸着工程、および洗浄工程において、樹脂カラム5の排液口5aから排出される通過液は、三方弁16bの切り換えに応じて、廃液バイアル12に供給される。
【0045】
リザーバタンク13cには、回収酸性溶液として濃度が例えば4mol/Lの塩酸水溶液が貯留されている。リザーバタンク13cから樹脂カラム5に回収酸性溶液が供給されることによって、回収工程が実行される。リザーバタンク13cから樹脂カラム5への回収酸性溶液の供給は、バルブ15cの開閉により制御される。回収工程において、樹脂カラム5の排液口5aから排出される回収通過液は、三方弁16bの切り換えに応じて、回収酸性溶液バイアル11に供給される。
【0046】
ジルコニウム精製装置10は、不活性ガス供給源から溶解槽2およびリザーバタンク群13に不活性ガスを供給するために、供給量制御部としてのマスフローコントローラ(MFC)17を備える。不活性ガスは、MFC17を通じて溶解槽2およびリザーバタンク13a~13cにそれぞれ、選択的に供給される。溶解槽2、それぞれのリザーバタンク13a~13cへの不活性ガスの供給はそれぞれ、バルブ2b、バルブ14a、14b、14cの開閉により制御される。供給された不活性ガスの圧力によって各種溶液を移動できる。なお、各種溶液の移動に用いられる不活性ガスは、例えばヘリウム(He)や窒素(N2)などが好適に用いられるが、必ずしもこれらのガスに限定されるものではない。また、回収酸性溶液バイアル11および廃液バイアル12の内部は、バルブ18を介して真空ポンプに連通している。バルブ18の開閉によって、回収酸性溶液バイアル11および廃液バイアル12の内部を減圧して、各種溶液の流入を容易にすることが可能である。
【0047】
以上のように構成されたジルコニウム精製装置10において、溶解工程、吸着工程、洗浄工程、および回収工程を実行することによって、回収酸性溶液に起因する物質が析出することなく、ジルコニウムを高純度で含む回収酸性溶液を得ることができる。また、ジルコニウム精製装置10において、それぞれのバルブ2a、2b、14a~14c、15a~15c、18、三方弁16b、それぞれのリザーバタンク13a~13c、およびMFC17などの各構成部を制御する制御部を備えてもよい。この場合、制御部が各構成部を制御することによって、上述した銅の精製方法を実行可能となる。さらに、溶解用酸性溶液および洗浄用酸性溶液として、同一種かつ同じ濃度の酸性溶液を使用する場合、溶解用酸性溶液のリザーバタンク13aおよび洗浄用酸性溶液のリザーバタンク13bを共通とし、一つのリザーバタンクから溶解用酸性溶液および洗浄用酸性溶液としての酸性溶液を供給してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 イットリウムターゲット
2 溶解槽
2a、2b、14a、14b、14c、15a、15b、15c、18 バルブ
3 溶解用酸性溶液
4 イミノ二酢酸樹脂
5 樹脂カラム
5a 排液口
10 ジルコニウム精製装置
11 回収酸性溶液バイアル
12 廃液バイアル
13 リザーバタンク群
13a、13b、13c リザーバタンク
16b 三方弁
17 マスフローコントローラ(MFC)
図1
図2
図3
図4
図5