(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】温度センサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01K 7/22 20060101AFI20220817BHJP
G01K 1/16 20060101ALI20220817BHJP
H01C 7/04 20060101ALI20220817BHJP
H01C 1/012 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
G01K7/22 J
G01K1/16
H01C7/04
H01C1/012
(21)【出願番号】P 2019007486
(22)【出願日】2019-01-21
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昂平
(72)【発明者】
【氏名】稲場 均
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138872(JP,A)
【文献】特開2018-124125(JP,A)
【文献】特開平5-264367(JP,A)
【文献】特開平8-68699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/14,1/16,7/00-7/42
H01C 1/012,7/02,7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、
前記金属板の上面に設置されたセンサ部とを備え、
前記センサ部が、前記金属板の上面に接合された絶縁性フィルムと、
前記絶縁性フィルムの上面に設けられた感熱素子と、
前記絶縁性フィルムの上面に形成され前記感熱素子に接続された一対のパターン配線とを備え、
前記絶縁性フィルムの下面に金属膜が形成され、
前記金属膜と前記金属板とが、前記感熱素子及び前記パターン配線の直下を避けた領域で直接接合されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の温度センサにおいて、
前記金属膜が、少なくとも前記絶縁性フィルムの周縁部全周にわたって形成され、
前記金属膜と前記金属板とが、前記絶縁性フィルムの周縁部全周で接合されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の温度センサにおいて、
前記金属膜が、前記感熱素子の直下に形成された素子直下部を有し、
前記素子直下部が、前記金属膜と前記金属板との接合部と接続されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の温度センサにおいて、
前記金属膜が、前記絶縁性フィルムの下面全面に形成されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の温度センサにおいて、
前記金属膜と前記金属板とが、同じ金属で形成されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の温度センサの製造方法であって、
金属板の上面にセンサ部を設置する設置工程を有し、
前記センサ部が、絶縁性フィルムと、
前記絶縁性フィルムの上面にサーミスタ材料で形成された感熱素子と、
前記絶縁性フィルムの上面に形成され前記感熱素子に接続された一対のパターン配線とを備え、
前記絶縁性フィルムの下面に金属膜が形成され、
前記設置工程で、前記金属膜と前記金属板とを、前記感熱素子及び前記パターン配線の直下を避けた領域で超音波接合により接合することを特徴とする温度センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタの加熱ローラ等の温度を測定することに好適な温度センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複写機やプリンタに使用されている加熱ローラには、その温度を測定するために温度センサが設置されている。例えば特許文献1に、絶縁性フィルムと、絶縁性フィルム上に形成された薄膜サーミスタ部と、絶縁性フィルム上に形成され薄膜サーミスタ部に接続された一対の電極とを備えたセンサ部が、高剛性の金属板(支持基板)上に接着された温度センサが記載されている。
【0003】
この温度センサは、加熱ローラ等に押し当てて温度を検出する際に、高い剛性を有して押し当てることができるように高剛性の金属板が絶縁性フィルムの裏面に樹脂接着剤で接着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記従来の技術では、金属板の表面にエポキシ系接着剤等の樹脂接着剤を塗布して絶縁性フィルムの裏面に金属板を接着しているが、接着剤が絶縁性フィルムと金属板との間に介在するために、接着剤の断熱性により熱応答性が低下してしまう不都合があった。また、介在する接着剤の厚さ制御が難しく、厚さにばらつきが生じ易いために、熱応答性にばらつきが生じるおそれがあった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、熱応答性に優れていると共に熱応答性のばらつきが少ない金属板を備えた温度センサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る温度センサは、金属板と、前記金属板の上面に設置されたセンサ部とを備え、前記センサ部が、前記金属板の上面に接合された絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルムの上面に設けられた感熱素子と、前記絶縁性フィルムの上面に形成され前記感熱素子に接続された一対のパターン配線とを備え、前記絶縁性フィルムの下面に金属膜が形成され、前記金属膜と前記金属板とが、前記感熱素子及び前記パターン配線の直下を避けた領域で直接接合されていることを特徴とする。
【0008】
この温度センサでは、金属膜と金属板とが、感熱素子及びパターン配線の直下を避けた領域で直接接合されているので、樹脂接着剤のような断熱性が高いと共に厚さにばらつきが生じ易い材料を介在させないことで、金属同士の直接接合により高い熱応答性が得られると共に、熱応答性にばらつきを抑制することができる。また、感熱素子及びパターン配線の直下を避けて接合されていることで、接合時の感熱素子及びパターン配線へのダメージを回避できると共に、接合による応力が感熱素子及びパターン配線に直接加わることを抑制することができる。
【0009】
第2の発明に係る温度センサは、第1の発明において、前記金属膜が、少なくとも前記絶縁性フィルムの周縁部全周に形成され、前記金属膜と前記金属板とが、前記絶縁性フィルムの周縁部全周で接合されていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、金属膜が、少なくとも絶縁性フィルムの周縁部全周にわたって形成され、金属膜と金属板とが、絶縁性フィルムの周縁部全周で接合されているので、絶縁性フィルムの周縁部全周において金属板からの熱伝導性が高くなり、感熱素子に対して周囲から熱を伝えることができる。また、絶縁性フィルムの周縁部全周が接合されていることで、全周にわたって高い接着強度を得ることができる。
【0010】
第3の発明に係る温度センサは、第1又は第2の発明において、前記金属膜が、前記感熱素子の直下に形成された素子直下部を有し、前記素子直下部が、前記金属膜と前記金属板との接合部と接続されていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、金属膜が、感熱素子の直下に形成された素子直下部を有し、素子直下部が、金属膜と金属板との接合部と接続されているので、素子直下部と金属板とが接触していることで、最短距離で金属板からの熱を感熱素子で受けることが可能になると共に、接続された接合部から素子直下部に熱が伝わることで、より熱応答性が向上する。
【0011】
第4の発明に係る温度センサは、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記金属膜が、前記絶縁性フィルムの下面全面に形成されていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、金属膜が、絶縁性フィルムの下面全面に形成されているので、接合されている領域以外の他の領域の金属膜も金属板に接触することで、さらに高い熱応答性を得ることができる。
【0012】
第5の発明に係る温度センサは、第1から第4の発明のいずれかにおいて、前記金属膜と前記金属板とが、同じ金属で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、金属膜と金属板とが、同じ金属で形成されているので、高い接合強度及び熱伝導性を得ることができる。
【0013】
第6の発明に係る温度センサの製造方法は、第1から第5の発明のいずれかの温度センサの製造方法であって、金属板の上面にセンサ部を設置する設置工程を有し、前記センサ部が、絶縁性フィルムと、前記絶縁性フィルムの上面にサーミスタ材料で形成された感熱素子と、前記絶縁性フィルムの上面に形成され前記感熱素子に接続された一対のパターン配線とを備え、前記絶縁性フィルムの下面に金属膜が形成され、前記設置工程で、前記金属膜と前記金属板とを、前記感熱素子及び前記パターン配線の直下を避けた領域で超音波接合により接合することを特徴とする。
すなわち、この温度センサの製造方法では、設置工程で、金属膜と金属板とを、感熱素子及びパターン配線の直下を避けた領域で超音波接合により接合するので、間に接着剤等を介在させずに、金属膜と金属板とを高い接合強度で直接接合することができる。また、金属膜と金属板とを、感熱素子及びパターン配線の直下を避けた領域で超音波接合させるので、感熱素子,パターン配線及びこれらの直下の絶縁性フィルムに対して超音波接合によるダメージを避けることができる。なお、感熱素子及びパターン配線の直下の絶縁性フィルムに超音波接合によるダメージが生じた場合、その絶縁性が劣化して金属板と導通するおそれがある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る温度センサ及びその製造方法によれば、金属膜と金属板とが、感熱素子及びパターン配線の直下を避けた領域で直接接合されるので、樹脂接着剤のような断熱性が高いと共に厚さにばらつきが生じ易い材料を介在させないことで、金属同士の直接接合により高い熱応答性が得られると共に、熱応答性にばらつきを抑制することができる。
したがって、本発明の温度センサでは、熱応答性が高く熱応答性のばらつきも少ないことから、高精度な温度測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る温度センサ及びその製造方法の第1実施形態を示す平面図(a)及びA-A線断面図(b)である。
【
図2】第1実施形態において、センサ部を示す平面図(a)及び下面図(b)である。
【
図3】第1実施形態において、超音波接合のホーン端面を示す図である。
【
図4】本発明に係る温度センサ及びその製造方法の第2実施形態を示す平面図である。
【
図5】本発明に係る温度センサ及びその製造方法の第3実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る温度センサ及びその製造方法における第1実施形態を、
図1から
図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面の一部では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0017】
本実施形態の温度センサ1は、
図1及び
図2に示すように、金属板2と、金属板2の上面に設置されたセンサ部3とを備えている。
上記センサ部3は、金属板2の上面に接合された絶縁性フィルム4と、絶縁性フィルム4の上面に設けられた感熱素子5と、絶縁性フィルム4の上面に形成され感熱素子5に接続された一対のパターン配線6とを備えている。
【0018】
上記絶縁性フィルム4の下面には、金属膜7が形成されている。
上記金属膜7と金属板2とは、感熱素子5及びパターン配線6の直下を避けた領域で直接接合されている。
本実施形態では、金属膜7が、絶縁性フィルム4の周縁部全周にわたって形成され、金属膜7と金属板2とが、絶縁性フィルム4の周縁部全周で接合されている。
すなわち、長方形状の絶縁性フィルム4の周縁部全周にわたって矩形環状の金属膜7がパターン形成され、この部分が接合部8となる。
【0019】
上記金属膜7と金属板2とは、同じ金属で形成されている。
本実施形態では、例えば金属膜7と金属板2とが銅で形成されている。すなわち、金属膜7は、銅箔であり、金属板2は銅板である。
なお、
図1及び
図2では、金属膜7の部分にハッチングを施している。
【0020】
上記絶縁性フィルム4は、例えば厚さ7.5~125μmのポリイミド樹脂シートで帯状に形成されている。なお、絶縁性フィルム4としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも作製できるが、加熱ローラの温度測定用としては、最高使用温度が230℃と高いためポリイミドフィルムが望ましい。
【0021】
上記感熱素子5は、例えばサーミスタ材料で形成され両端部に端子電極が形成されたチップサーミスタである。このサーミスタとしては、NTC型、PTC型、CTR型等のサーミスタがあるが、本実施形態では、感熱素子5として、例えばNTC型サーミスタを採用している。このサーミスタは、Mn-Co-Cu系材料、Mn-Co-Fe系材料等のサーミスタ材料で形成されている。
【0022】
上記パターン配線6は、銅箔でパターン形成されている。
一対のパターン配線6の一端部は、感熱素子5の対応する端子電極にそれぞれ接続されている。また、パターン配線6の他端部には、外部のリード線等と接続するためのパッド部6aが設けられている。
【0023】
本実施形態の温度センサ1の製造方法は、金属板2の上面にセンサ部3を設置する設置工程を有している。
上記設置工程では、金属膜7と金属板2とを、感熱素子5及びパターン配線6の直下を避けた領域で超音波接合により接合する。すなわち、本実施形態では、矩形環状の金属膜7の部分が矩形環状の接合部8となる。
上記超音波接合のホーン(共振体)Hは、
図3に示すように、その端面が、接合部8の形状に対応して矩形環状とされた凸部H1と、凸部H1の内側に形成された矩形状の凹部H2とを有している。なお、
図3では、凸部H1にハッチングを施して図示している。
【0024】
このように本実施形態の温度センサ1では、金属膜7と金属板2とが、感熱素子5及びパターン配線6の直下を避けた領域で直接接合されているので、樹脂接着剤のような断熱性が高いと共に厚さにばらつきが生じ易い材料を介在させないことで、金属同士の直接接合により高い熱応答性が得られると共に、熱応答性にばらつきを抑制することができる。また、感熱素子5及びパターン配線6の直下を避けて接合されていることで、接合時の感熱素子5及びパターン配線6へのダメージを回避できると共に、接合による応力が感熱素子5及びパターン配線6に直接加わることを抑制することができる。
【0025】
また、金属膜7が、少なくとも絶縁性フィルム4の周縁部全周にわたって形成され、金属膜7と金属板2とが、絶縁性フィルム4の周縁部全周で接合されているので、絶縁性フィルム4の周縁部全周において金属板2からの熱伝導性が高くなり、感熱素子5に対して周囲から熱を伝えることができる。また、絶縁性フィルム4の周縁部全周が接合されていることで、全周にわたって高い接着強度を得ることができる。
さらに、金属膜7と金属板2とが、同じ金属で形成されているので、高い接合強度及び熱伝導性を得ることができる。
【0026】
また、本実施形態の温度センサ1の製造方法では、設置工程で、金属膜7と金属板2とを、感熱素子5及びパターン配線6の直下を避けた領域で超音波接合により接合するので、間に接着剤等を介在させずに、金属膜7と金属板2とを高い接合強度で直接接合することができる。また、金属膜7と金属板2とを、感熱素子5及びパターン配線6の直下を避けた領域で超音波接合させるので、感熱素子5,パターン配線6及びこれらの直下の絶縁性フィルム4に対して超音波接合によるダメージを避けることができる。
【0027】
次に、本発明に係る温度センサ及びその製造方法の第2及び第3実施形態について、
図4及び
図5を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0028】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、金属膜7が絶縁性フィルム4の周縁部全周のみにパターン形成されているのに対し、第2実施形態の温度センサ21では、
図4に示すように、感熱素子5の直下にも金属膜27が形成されている点である。
【0029】
すなわち、第2実施形態では、金属膜27が、感熱素子5の直下に形成された素子直下部27aを有し、素子直下部27aが、金属膜27と金属板2との接合部8と接続されている。
上記素子直下部27aは、感熱素子5の平面視よりも大きな矩形状に形成され、その一辺が矩形環状の接合部8の内周部に接続されている。
【0030】
このように第2実施形態の温度センサ21では、金属膜27が、感熱素子5の直下に形成された素子直下部27aを有し、素子直下部27aが、金属膜27と金属板2との接合部8と接続されているので、素子直下部27aと金属板2とが接触していることで、最短距離で金属板2からの熱を感熱素子5で受けることが可能になると共に、接続された接合部8から素子直下部27aに熱が伝わることで、より熱応答性が向上する。
【0031】
また、第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、金属膜7が絶縁性フィルム4の周縁部全周のみにパターン形成されているのに対し、第3実施形態の温度センサ31では、
図5に示すように、金属膜37が、絶縁性フィルム4の下面全面に形成されているので、接合されている領域(接合部8)以外の他の領域の金属膜37も金属板2に接触することで、さらに高い熱応答性を得ることができる。
【0032】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記各実施形態では、感熱素子としてチップサーミスタを採用しているが、薄膜サーミスタや焦電素子などを採用しても構わない。
【符号の説明】
【0033】
1,21,31…温度センサ、2…金属板、3…センサ部、4…絶縁性フィルム、5…感熱素子、6…パターン配線、7,27,37…金属膜、8…接合部、27a…素子直下部