(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20220817BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20220817BHJP
F16H 61/02 20060101ALI20220817BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20220817BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20220817BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B60W10/00 102
F16H61/02
F16D48/02 640H
B60W10/02
B60W10/06
F02D29/06 E
(21)【出願番号】P 2019016542
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/068724(WO,A1)
【文献】特開2018-8584(JP,A)
【文献】国際公開第2013/136417(WO,A1)
【文献】特開2007-23929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
F16D 48/02
B60W 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源から駆動輪への動力伝達を断接可能なクラッチ装置を有すると共に、前記クラッチ装置よりも入力側の動力伝達系から伝達される前記駆動力源の動力で発電駆動するオルタネータ、前記オルタネータで発電される電力を蓄電可能なバッテリ装置及び、前記オルタネータから電力が供給される電装品を搭載した車両の制御装置であって、
前記電装品の消費電力を取得する消費電力取得手段と、
所定の惰行制御開始条件が満たされると、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を低下させる惰行制御を実行する惰行制御実行手段と、
前記消費電力が所定の上限閾値以上の場合に、前記惰行制御の実行を禁止する惰行制御禁止手段と、
前記惰行制御の実行が禁止される場合に、前記駆動力源の出力回転数が前記消費電力を賄うのに必要な発電量で前記オルタネータを発電駆動させられる所定の閾値回転数以上であれば、前記クラッチ装置を接状態とし、前記駆動力源の出力回転数が前記閾値回転数未満であれば、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を上昇させる禁止時制御手段と、を備える
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記禁止時制御手段は、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を上昇させる場合には、該出力回転数を前記閾値回転数まで上昇させる
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記バッテリ装置の残存容量を取得する残存容量取得手段をさらに備え、
前記惰行制御禁止手段は、前記消費電力が所定の上限閾値以上の場合、及び、又は、前記残存容量が所定の下限閾値以下の場合に、前記惰行制御の実行を禁止する
請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
駆動力源から駆動輪への動力伝達を断接可能なクラッチ装置を有すると共に、前記クラッチ装置よりも入力側の動力伝達系から伝達される前記駆動力源の動力で発電駆動するオルタネータ、前記オルタネータで発電される電力を蓄電可能なバッテリ装置及び、前記オルタネータから電力が供給される電装品を搭載した車両の制御方法であって、
所定の惰行制御開始条件が満たされると、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を低下させる惰行制御の実行を、前記電装品の消費電力が所定の上限閾値以上の場合に禁止すると共に、前記駆動力源の出力回転数が前記消費電力を賄うのに必要な発電量で前記オルタネータを発電駆動させられる所定の閾値回転数以上であれば、前記クラッチ装置を接状態とし、前記駆動力源の出力回転数が前記閾値回転数未満であれば、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を上昇させる
ことを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置及び、制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたエンジンが車両の走行に寄与しない運転状態になると、エンジンと駆動輪との間の動力伝達を遮断すると共に、エンジン回転数をアイドリング回転数又は相当する回転数まで低下させることにより、燃料消費を抑えるようにする惰行制御が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-063024号公報
【文献】特開2017-025816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、車両に搭載された各種電装品に電力を供給するオルタネータは、エンジンの動力で駆動され、エンジン回転数が低くなるほどその発電量も減少する。このため、車載バッテリの残存容量(State Of Charge;以下、SOC)が低位の状態、或は、各種電装品の消費電力が大きい状態で、エンジン回転数を大きく低下させる惰行制御を実行すると、オルタネータの発電量では必要な電力を賄うことができず、バッテリ上がりやバッテリ劣化等を引き起こす可能性がある。一方、SOCが低位の状態、或は、各種電装品の消費電力が大きい状態で惰行制御を禁止すべく、クラッチを単に接状態にするのみでは、その時のエンジン回転数に応じたオルタネータの発電量では、必要な消費電力を十分に賄うことができない場合もある。
【0005】
本開示の技術は、バッテリのSOCを高位に保つことにより、バッテリ上がりやバッテリ劣化の発生を効果的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の装置は、駆動力源から駆動輪への動力伝達を断接可能なクラッチ装置を有すると共に、前記クラッチ装置よりも入力側の動力伝達系から伝達される前記駆動力源の動力で発電駆動するオルタネータ、前記オルタネータで発電される電力を蓄電可能なバッテリ装置及び、前記オルタネータから電力が供給される電装品を搭載した車両の制御装置であって、前記電装品の消費電力を取得する消費電力取得手段と、所定の惰行制御開始条件が満たされると、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を低下させる惰行制御を実行する惰行制御実行手段と、前記消費電力が所定の上限閾値以上の場合に、前記惰行制御の実行を禁止する惰行制御禁止手段と、前記惰行制御の実行が禁止される場合に、前記駆動力源の出力回転数が前記消費電力を賄うのに必要な発電量で前記オルタネータを発電駆動させられる所定の閾値回転数以上であれば、前記クラッチ装置を接状態とし、前記駆動力源の出力回転数が前記閾値回転数未満であれば、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を上昇させる禁止時制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、前記禁止時制御手段は、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を上昇させる場合には、該出力回転数を前記閾値回転数まで上昇させることが好ましい。
【0008】
また、前記バッテリ装置の残存容量を取得する残存容量取得手段をさらに備え、前記惰行制御禁止手段は、前記消費電力が所定の上限閾値以上の場合、及び、又は、前記残存容量が所定の下限閾値以下の場合に、前記惰行制御の実行を禁止することが好ましい。
【0009】
本開示の方法は、駆動力源から駆動輪への動力伝達を断接可能なクラッチ装置を有すると共に、前記クラッチ装置よりも入力側の動力伝達系から伝達される前記駆動力源の動力で発電駆動するオルタネータ、前記オルタネータで発電される電力を蓄電可能なバッテリ装置及び、前記オルタネータから電力が供給される電装品を搭載した車両の制御方法であって、所定の惰行制御開始条件が満たされると、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を低下させる惰行制御の実行を、前記電装品の消費電力が所定の上限閾値以上の場合に禁止すると共に、前記駆動力源の出力回転数が前記消費電力を賄うのに必要な発電量で前記オルタネータを発電駆動させられる所定の閾値回転数以上であれば、前記クラッチ装置を接状態とし、前記駆動力源の出力回転数が前記閾値回転数未満であれば、前記クラッチ装置を断状態、且つ、前記駆動力源の出力回転数を上昇させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の技術によれば、バッテリのSOCを高位に保つことにより、バッテリ上がりやバッテリ劣化の発生を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の車両を示す模式的な全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係る電子制御ユニット及び関連する構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】オルタネータ特性マップの一例を示す模式図である。
【
図4】本実施形態に係る禁止時制御部による制御処理の具体例を説明するタイミングチャート図である。
【
図5】本実施形態に係る禁止時制御部による制御処理の具体例を説明するタイミングチャート図である。
【
図6】本実施形態に係る制御処理を説明するフローチャート図である。
【
図7】他の実施形態に係る制御処理を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る車両の制御装置及び、制御方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0013】
図1は、本実施形態の車両1を示す模式的な全体構成図である。車両1には、駆動力源の一例としてエンジン10が搭載されている。エンジン10のクランクシャフト11は、クラッチ装置12を介して変速機13の入力軸14に接続されている。変速機13の出力軸15は、プロペラシャフト16、差動装置17、駆動軸18L,18Rを介して駆動輪(左右後輪)20L,20Rにそれぞれ接続されている。
【0014】
なお、符号21L,21Rは車両1の左右前輪、符号30はオルタネータ、符号31はバッテリ装置、符号32は空調システム等の各種電装品、符号100は電子制御ユニット(Electric Control Unit;以下、ECU)をそれぞれ示している。
【0015】
クラッチ装置12は、エンジン10のクランクシャフト11と、変速機13の入力軸14との間の動力伝達経路を断接する。本実施形態では、クラッチ装置12は、クラッチ作動装置22により断接作動される。クラッチ作動装置22の作動は、ECU100からの指令に応じて制御される。
【0016】
変速機13は、例えば、機械式自動変速機(Automatic Manual Transmission;AMT)又は、自動変速機(Automated Transmission;AT)である。なお、変速機13は、後述する惰行制御時に、クラッチ装置12をクラッチ作動装置22により強制的に断にできる構成であれば、手動変速機(Manual Transmission;MT)であってもよい。
【0017】
オルタネータ30は、クランクシャフト11(クラッチ装置12よりも入力側の動力伝達系)にベルト、プーリ等を介して接続されており、エンジン10の回転動力で発電駆動する。オルタネータ30で発電される電力は、各種電装品32に供給されると共に、電気的に接続されたバッテリ装置31に蓄電(充電)される場合がある。
【0018】
車両1は、エンジン回転数センサ40、車速センサ41、アクセル開度センサ42及び、ブレーキペダルセンサ43等を備えている。
【0019】
エンジン回転数センサ40は、クランクシャフト11からエンジン回転数Neを取得する。車速センサ41は、変速機13の出力軸15又は、プロペラシャフト16から車速Vを取得する。アクセル開度センサ42は、不図示のアクセルペダルの踏み込み量に応じたアクセル開度(エンジン10の燃料噴射指示値)Qを取得する。ブレーキペダルセンサ43は、不図示のブレーキペダルの踏み込みから運転者によるブレーキ操作の有無を取得する。これら各種センサ類40~43のセンサ値は、電気的に接続されたECU100に出力される。
【0020】
ECU100は、エンジン10、クラッチ装置12、変速機13、クラッチ作動装置22、電装品32等の各種制御を行うもので、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。
【0021】
図2は、本実施形態に係るECU100及び関連する構成を示す機能ブロック図である。ECU100は、バッテリ残存容量演算部110(残存容量取得手段)と、電装品消費電力演算部120(消費電力取得部)と、惰行制御実行部130(惰行制御実行手段)と、必要回転数演算部140と、惰行制御禁止部150(惰行制御禁止手段)と、禁止時制御部160(禁止時制御手段)とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるECU100に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0022】
バッテリ残存容量演算部110は、バッテリ装置31から得られる電圧などからSOCを演算する。バッテリ残存容量演算部110により演算されるSOCは、惰行制御禁止部150に送信される。
【0023】
電装品消費電力演算部120は、各種電装品32による消費電力を演算する。電装品消費電力演算部120により演算される消費電力は、必要回転数演算部140に送信される。
【0024】
惰行制御実行部130は、入力されるセンサ値に基づいて、所定の惰行制御開始条件を満たすか否かを判定する。惰行制御開始条件としては、例えば、アクセル開度Qが所定量以上低下した場合としてもよい。なお、惰行制御開始条件としては、これに限られず、種々の条件とすることができ、例えば、1以上のセンサ値についてのエンジン10が駆動輪20L,20R(
図1参照)に対して正の仕事をしない運転状態に対応する条件としてもよい。
【0025】
惰行制御実行部130は、惰行制御開始条件を満たすと判定した場合には、エンジン回転数Neを所定の低回転数Ne_id(例えば、アイドル回転数又は相当する回転数)に低下させる制御を行うとともに、クラッチ作動装置22にクラッチ装置12を断状態にするように制御する。
【0026】
また、惰行制御実行部130は、入力されるセンサ値に基づいて、所定の惰行制御終了条件を満たすか否かを判定する。惰行制御終了条件としては、例えば、アクセル開度Qが所定量以上増加した場合としてもよい。なお、惰行制御終了条件としては、これに限られず、種々の条件とすることができ、例えば、1以上のセンサ値についてのエンジン10が駆動輪20L,20R(
図1参照)に対して正の仕事をしない運転状態が解消されたことを示す条件としてもよい。
【0027】
さらに、惰行制御実行部130は、惰行制御終了条件を満たすと判定した場合には、エンジン回転数Neを、例えば、変速機13の入力軸14(何れも
図1参照)の回転数に合わせるように上昇させる制御を行うとともに、クラッチ作動装置22にクラッチ装置12を接状態にするように制御する。
【0028】
必要回転数演算部140は、惰行制御実行部130が惰行制御開始条件を満たすと判定すると、各種電装品32の消費電力を賄うのに必要なオルタネータ30の発電量、言い換えれば、各種電装品32の消費電力を賄うのに必要なエンジン10の必要回転数Ne
_rqを演算する。具体的には、ECU100のメモリには、横軸にエンジン回転数Ne、縦軸にオルタネータ30の発電量を規定した
図3に示すオルタネータ特性マップMが格納されている。オルタネータ特性マップMは、エンジン回転数Neが低下するに従い、オルタネータ30の発電量も減少するように設定されている。必要回転数演算部140は、惰行制御開始条件が満たされた際に、電装品消費電力演算部120から入力される消費電力(縦軸)に基づいてオルタネータ特性マップMを参照することにより、必要回転数Ne
_rq(横軸)を演算する。必要回転数演算部140により演算される必要回転数Ne
_rqは、惰行制御禁止部150及び、禁止時制御部160に送信される。
【0029】
惰行制御禁止部150は、惰行制御開始条件が満たされた際に、惰行制御の実行を禁止する以下の禁止条件(1)、(2)の少なくとも何れか一方が成立する場合には、惰行制御実行部130による惰行制御の実行処理を禁止する。
【0030】
(1)バッテリ残存容量演算部110から入力されるバッテリ装置31のSOCが低位であることを示す所定の下限閾値以下の場合(SOC≦下限閾値)。
【0031】
(2)惰行制御時の目標回転数である低回転数Ne_id(アイドル回転数又は相当する回転数)に応じたオルタネータ30の発電量では、各種電装品32の消費電力を賄いきれず、バッテリ装置31のSOCが所定の下限閾値以下に低下すると見込まれる場合。具体的には、必要回転数演算部140から入力される必要回転数Ne_rqが低回転数Ne_idよりも高い場合(Ne_rq>Ne_id)。
【0032】
禁止条件(1)については、バッテリ装置31のSOCが低位の状態で、オルタネータ30の発電量が大幅に減少する惰行制御を実行すると、SOCのさらなる低下によりバッテリ上がり等を引き起こす可能性があるためである。所定の下限閾値については、車両1の具体的な構成、オルタネータ30やバッテリ装置31の容量、性能等に応じて適宜に設定すればよい。また、下限閾値は、固定値に限定されず、不図示の外気温センサにより取得される外気温度が低いほど、下限閾値を低くするように設定してもよい。或は、バッテリ装置31の経年等に応じて下限閾値を低くするように設定してもよい。
【0033】
禁止条件(2)については、各種電装品32の消費電力が大きい状態で、オルタネータ30の発電量が大幅に減少する惰行制御を実行すると、SOCの大幅な低下を招き、バッテリ上がり等を引き起こす可能性があるためである。
【0034】
惰行制御禁止部150は、惰行制御開始条件が満たされた際に、これら禁止条件(1),(2)の少なくとも何れか一方が成立する場合には、惰行制御実行部130による惰行制御の実行を禁止する。一方、惰行制御禁止部150は、惰行制御開始条件が満たされた際に、これら禁止条件(1),(2)の何れもが不成立の場合には、惰行制御実行部130による惰行制御の実行を許可する。
【0035】
禁止時制御部160は、禁止条件(1)及び、又は禁止条件(2)の成立により惰行制御の実行が禁止されると、当該禁止条件の成立時に必要回転数演算部140から入力される必要回転数Ne_rqと、エンジン回転数センサ40から入力される現在のエンジン回転数Ne_actとを比較することにより、クラッチ装置12を接状態にして現在のエンジン回転数Ne_actを継続(オルタネータ30の現在の発電量を継続)させるか、或は、クラッチ装置12を断状態、且つ、燃料噴射量を増加させてエンジン回転数Neを上昇(オルタネータ30の発電量を増加)させるかを選択する回転数制御を実行する。
【0036】
具体的には、禁止時制御部160は、禁止条件(1)及び、又は禁止条件(2)の成立時に、現在のエンジン回転数Ne_actが要求回転数Ne_rq以上の状態にある場合(Ne_act≧Ne_rq)には、クラッチ装置12を接状態に制御する。すなわち、現在のエンジン回転数Ne_actに応じたオルタネータ30の発電量で各種電装品32の消費電力を賄える場合には、燃料噴射量を無駄に増加させることなくクラッチ装置12を接状態にすることにより、バッテリ上がりやバッテリ劣化の発生を効果的に抑制するように構成されている。
【0037】
一方、禁止時制御部160は、禁止条件(1)及び、又は禁止条件(2)の成立時に、現在のエンジン回転数Ne_actが必要回転数Ne_rqに対して低い場合(Ne_act<Ne_rq)には、クラッチ装置12を断状態にすると共に、エンジン10の燃料噴射量を増加させすることにより、エンジン回転数Neを少なくとも必要回転数Ne_rqまで上昇させる。すなわち、惰行制御の禁止に伴いクラッチ装置12を単に接状態にしても、現在のエンジン回転数Ne_actに応じたオルタネータ30の発電量では各種電装品32の消費電力を賄えない場合には、クラッチ装置12を接状態にすることなく、エンジン回転数Neを上昇させ、オルタネータ30の発電量を増加させることにより、バッテリ上がりやバッテリ劣化の発生を効果的に抑制するように構成されている。燃料噴射の増加量は、例えば、エンジン回転数センサ40のセンサ値と必要回転数Ne_rqとの偏差に基づいてフィードバック制御すればよい。
【0038】
以下、本実施形態に係る禁止時制御部160による制御処理の具体例を、
図4及び、
図5のタイミングチャート図に基づいて説明する。
図4は、禁止条件(1),(2)の成立時にエンジン回転数Ne
_actが必要回転数Ne
_rq以上の状態にあるときの回転数制御を説明するタイミングチャート図である。
図5は、禁止条件(1),(2)の成立時に、エンジン回転数Ne
_actが必要回転数Ne
_rqよりも低い状態にあるときの回転数制御を説明するタイミングチャート図である。これら
図4及び、
図5において、時刻t0~t1は、車両1の加速走行により変速機13が順次シフトアップされている期間、時刻t1は、惰行制御開始条件は満たされるが、禁止条件(1)又は(2)の何れかが成立すると判定された時、時刻t2は、惰行制御終了条件が満たされた時、時刻t2~t3は、車両1の減速走行により変速機13が順次シフトダウンされている期間を示している。
【0039】
図4の時刻t1にて、エンジン回転数Ne
_actが必要回転数Ne
_rqよりも高い状態にある場合には、クラッチ装置12を接状態にしてオルタネータ30を発電駆動させれば、各種電装品32の消費電力を賄うことができる。この場合、禁止時制御部160は、惰行制御の禁止期間である時刻t1~t2に亘ってクラッチ装置12を接状態に維持する。このように、エンジン回転数Ne
_actが必要回転数Ne
_rq以上の高回転状態にあるときは、惰行制御の禁止期間に亘ってクラッチ装置12を接状態にすることにより、エンジン回転数Neは高回転側で維持され、オルタネータ30の発電量も効果的に維持されるようになる。これより、
図4中に破線で示す惰行制御を実行した場合に比べ、オルタネータ30の発電量やバッテリ装置31のSOCを高位に保つことが可能となり、バッテリ上がりやバッテリ劣化の発生が効果的に抑制されるようになる。
【0040】
図5の時刻t1にて、エンジン回転数Ne
_actが必要回転数Ne
_rqよりも低い状態にある場合には、クラッチ装置12を接状態にしてオルタネータ30を発電駆動させても、各種電装品32の消費電力を賄うことができない。この場合、禁止時制御部160は、惰行制御の禁止期間である時刻t1~t2に亘ってクラッチ装置12を断状態にすると共に、エンジン10の燃料噴射量を増加させすることにより、エンジン回転数Neを必要回転数Ne
_rqまで上昇させる。すなわち、エンジン回転数Ne
_actが必要回転数Ne
_rqよりも低い低回転状態にあるときは、惰行制御の禁止期間に亘ってクラッチ装置12を断状態、且つ、燃料噴射量を増加させることにより、エンジン回転数Neは上昇され、オルタネータ30の発電量も効果的に増加されるようになる。これより、
図5中に破線で示すクラッチ装置12を単に接状態にする場合に比べ、オルタネータ30の発電量やバッテリ装置31のSOCを高位に保つことが可能となり、バッテリ上がりやバッテリ劣化の発生が効果的に抑制されるようになる。
【0041】
次に、
図6に基づいて、本実施形態に係る制御処理のフローを説明する。本制御処理は、例えば、エンジン10の始動(イグニッションスイッチのキースイッチON)と同時に開始される。
【0042】
ステップS100では、車両1の走行状態が惰行制御開始条件を満たすか否かを判定する。車両1の走行状態が惰行制御開始条件を満たさない場合(No)には、ステップS100の処理を繰り返す。一方、車両1の走行状態が惰行制御開始条件を満たす場合(Yes)、本制御はステップS110の処理に進む。
【0043】
ステップS110では、各種電装品32の消費電力を賄うのに必要なオルタネータ30の発電量、言い換えれば、各種電装品32の消費電力を賄うのに必要なエンジン10の必要回転数Ne_rqを演算する。
【0044】
ステップS120では、上述の禁止条件(1),(2)の何れかが成立するか否かを判定する。具体的には、(1)バッテリ装置31のSOCが所定の下限閾値以下の場合、或は、(2)ステップS110で演算した必要回転数Ne_rqが、惰行制御時の目標回転数である低回転数Ne_id(アイドル回転数又は相当する回転数)よりも高い場合の少なくとも何れか一方が成立すると(Yes)、本制御は惰行制御の実行を禁止すべく、ステップS200の処理に進む。一方、禁止条件(1),(2)の何れもが成立しない場合(No)、本制御はステップS130の処理に進む。
【0045】
ステップS130では、惰行制御を実行する。具体的には、エンジン回転数Neを低回転数Ne_id(アイドル回転数又は相当する回転数)に低下させる制御を行うとともに、クラッチ装置12を断状態となるように制御する。惰行制御が開始されると、エンジン回転数Neが低くなるので、エンジン10における燃料消費を適切に低減することができる。
【0046】
ステップS140では、車両1の走行状態が惰行制御終了条件を満たすか否かを判定する。車両1の走行状態が惰行制御終了条件を満たさない場合(No)には、惰行制御の状態を維持し、ステップS130及び、ステップS140の処理を繰り返す。一方、車両1の走行状態が惰行制御終了条件を満たす場合(Yes)には、ステップS150に進み、惰行制御終了処理を行う。
【0047】
ステップS150では、エンジン回転数Neを、例えば、変速機13の入力軸14の回転数に合わせるように上昇させる制御を開始するとともに、クラッチ装置12を接状態にする惰行制御終了処理を実行し、その後、本制御はリターンされる。
【0048】
ステップS120の判定から、ステップS200の処理に進んだ場合は、禁止条件(1),(2)の成立時のエンジン回転数Ne_actが必要回転数Ne_rq以上の状態にあるか否かを判定する。ステップS200の判定にて、エンジン回転数Ne_actが必要回転数Ne_rq以上の場合(Yes)、本制御は、ステップS210の処理に進み、クラッチ装置12を接状態にする。すなわち、禁止条件(1),(2)の成立時のエンジン回転数Ne_actが高回転の状態にあれば、惰行制御の禁止期間に亘ってクラッチ装置12を接状態にすることにより、エンジン回転数Neは高回転側で維持され、オルタネータ30の発電量も効果的に維持されるようになる。
【0049】
一方、ステップS200の判定にて、エンジン回転数Ne_actが必要回転数Ne_rq未満の場合(No)、本制御は、ステップS220の処理に進み、クラッチ装置12を断状態にすると共に、エンジン10の燃料噴射量を増加させすることにより、エンジン回転数Neを必要回転数Ne_rqまで上昇させる。すなわち、エンジン回転数Ne_actが低回転の状態にあるときは、惰行制御の禁止期間に亘ってクラッチ装置12を断状態、且つ、燃料噴射量を増加させることにより、エンジン回転数Neは上昇され、オルタネータ30の発電量も効果的に増加されるようになる。
【0050】
ステップS230では、運転者により車両1の加速又は減速操作がなされたか否か、すなわち、車両1の走行状態がステップS100の惰行制御開始条件を満たす状態から変化したか否かを判定する。加速操作は、アクセル開度センサ42等のセンサ値に基づいて判定すればよく、減速操作は、不図示のブレーキペダルセンサ等のセンサ値に基づいて判定すればよい。加速又は減速操作がなされていない場合(No)、本制御はステップS200の処理に戻される。すなわち、車両1の走行状態が変化するまでの間、ステップS210及び、ステップS220の処理が繰り返される。一方、加速又は減速操作がなされた場合(Yes)、本制御はステップS240の処理に進み、車両1の走行を運転者のアクセル操作やブレーキ操作等に応じて制御する通常制御に切り替え、その後リターンされる。
【0051】
以上詳述した本実施形態によれば、惰行制御開始条件が満たされる際に、バッテリ装置31のSOCが低位の状態、或は、各種電装品32の消費電力が大きい状態にある場合には、オルタネータ30の発電量を大きく低下させる惰行制御の実行を禁止するように構成されている。さらに、惰行制御を禁止する場合において、その時のエンジン回転数Ne_actに応じて、エンジン回転数Ne_actが各種電装品32の消費電力を賄うのに必要な発電量でオルタネータ30を駆動させられる高回転の状態にあれば、クラッチ装置12を接状態とし、エンジン回転数Ne_actが各種電装品32の消費電力を賄うのに必要な発電量でオルタネータ30を駆動させられない低回転の状態にあれば、クラッチ装置12を断状態、且つ、燃料噴射量を増加させて、エンジン回転数を必要回転数まで上昇させるように構成されている。
【0052】
すなわち、惰行制御を禁止する場合には、その時のエンジン回転数と各種電装品32の消費電力とに応じて、エンジン回転数を適宜に制御することにより、オルタネータ30の発電量が効果的に維持又は増加されるように構成されている。これにより、バッテリ装置31のSOCを惰行制御の禁止期間に亘って常に高位に保つことが可能となり、バッテリ上がりやバッテリ劣化等を確実に防止することができる。
【0053】
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0054】
例えば、
図6のフローでは、ステップS140の判定で惰行制御終了条件を満たさない場合(No)には、ステップS130の処理に戻され、ステップS230の判定で加速又は減速操作がなされていない場合(No)には、ステップS200の処理に戻されるものとして説明したが、
図7に示すように、ステップS140の判定で惰行制御終了条件を満たさない場合(No)及び、ステップS230の判定で加速又は減速操作がなされていない場合(No)には、何れもステップS120の判定処理に戻すように構成してもよい。このように構成すれば、惰行制御開始条件が満たされている状態で、上記禁止条件(1),(2)が解消した場合には、惰行制御を適宜に開始し、惰行制御の実行中に上記禁止条件(1),(2)が成立した場合には、惰行制御を適宜に禁止することが可能になる。
【0055】
また、車両1は、駆動力源としてエンジン10を備えるものとして説明したが、駆動力源としてエンジン10及び走行用モータを併用するハイブリッド車両等であってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
10 エンジン(駆動力源)
12 クラッチ装置
13 変速機
20L,20R 駆動輪
30 オルタネータ
31 バッテリ装置
32 電装品
100 ECU
110 バッテリ残存容量演算部(残存容量取得手段)
120 電装品消費電力演算部(消費電力取得部)
130 惰行制御実行部(惰行制御実行手段)
140 必要回転数演算部
150 惰行制御禁止部(惰行制御禁止手段)
160 禁止時制御部(禁止時制御手段)