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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/29 20060101AFI20220817BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20220817BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20220817BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20220817BHJP
   H01F 41/10 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
H01F27/29 123
H01F17/04 A
H01F27/29 H
H01F27/28 156
H01F27/29 X
H01F41/04 B
H01F41/10 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019028494
(22)【出願日】2019-02-20
(65)【公開番号】P2020136508
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2020-10-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】北島 佑樹
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-146476(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135058(WO,A1)
【文献】特開2013-183052(JP,A)
【文献】特開2014-175437(JP,A)
【文献】特開2016-225480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/29
H01F 17/04
H01F 27/28
H01F 41/04
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜を有する導線を巻回してなる巻回部および前記巻回部から引き出される引き出し部を含むコイルと、
磁性粉および樹脂を含む磁性体からなり、前記コイルを内包する素体と、
前記素体の表面に配置される外部端子と、を備え、
前記素体は、実装面と、前記実装面に対向する上面と、前記実装面および上面に隣接して互いに対向して配置される1対の端面と、前記実装面、上面および端面に隣接して互いに対向して配置される1対の側面とを有し、
前記引き出し部の端部は、前記素体の表面から露出する平坦部および平坦部に隣接し、前記磁性体に被覆される被覆部を有し、
前記平坦部は前記導線の幅方向に延在し、前記被覆部は前記導線の幅方向の少なくとも一端側に配置され、
前記導線の幅方向の少なくとも一端側に配置される前記被覆部の少なくとも一部は、前記平坦部よりも前記素体の内側に配置され、
前記平坦部は、前記素体の表面よりも前記素体の内側に配置され、
前記平坦部が、前記外部端子に電気的に接続され、
前記外部端子は、前記平坦部に沿って凹部を有するインダクタ。
【請求項2】
前記平坦部が露出する素体の表面に前記平坦部と接続するめっき層が形成され、
前記磁性粉は金属磁性体を含み、前記めっき層が形成される素体の表面の前記被覆部の前記金属磁性体の少なくとも一部は、互いに融着している請求項1に記載のインダクタ。
【請求項3】
前記巻回部の巻回軸を実装面と交差し、前記引き出し部の両端の平坦部をそれぞれ、前記素体の対向する端面から露出させた請求項1または請求項2に記載のインダクタ。
【請求項4】
前記巻回部の巻回軸を実装面と略平行に配置し、前記引き出し部の両端の平坦部はそれぞれ、前記実装面から露出する請求項1または請求項2に記載のインダクタ。
【請求項5】
前記巻回部は、巻回軸を実装面と交差して配置され、前記引き出し部の両端の平坦部はそれぞれ、前記実装面から露出する請求項1または請求項2に記載のインダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導線を巻回して形成したコイルと、金属磁性体粉末と樹脂を含有する封止材でコイルを封止した成形体を備えた表面実装インダクタが記載されている。成形体の表面にはコイルの引き出し部の端部が露出し、引き出し部の端部およびその周辺に外部端子を構成する導電材料からなるめっき層が形成されている。このめっき層が、コイルの引き出し部の端部と接続された外部端子を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-201718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般にコイルを形成する導線には絶縁被膜が設けられている。そのため、外部端子とコイルの引き出し部の端部を接続するために、絶縁被膜を除去した後に、コイルの引き出し部の端部に接続する外部端子を形成する必要がある。しかし、絶縁被膜をレーザー等で除去する際には、絶縁被膜の残渣が生じたり、必要以上に絶縁被膜が除去されて溝が生じたりする場合がある。その場合、引き出し部の端部と成形体表面の金属磁性体粉との間の電気的に不連続な部分が大きくなる。この不連続な部分があっても、引き出し部の端部と成形体表面の金属磁性体粉とが接続された外部端子を形成するために、必要以上にめっき層を厚くしなければならない場合が生じる。本発明は、めっき層が薄くてもコイルと外部端子との接続不良の発生が抑制されるインダクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
絶縁被膜を有する導線を巻回してなる巻回部および巻回部から引き出される引き出し部を含むコイルと、磁性粉および樹脂を含む磁性体からなり、コイルを内包する素体と、素体の表面に配置される外部端子と、を備えるインダクタである。素体は、実装面と、実装面に対向する上面と、実装面および上面に隣接して互いに対向して配置される1対の端面と、実装面、上面および端面に隣接して互いに対向して配置される1対の側面とを有する。引き出し部の端部は、素体の表面から露出する平坦部、および、平坦部に隣接し、磁性体に被覆される被覆部を有し、平坦部が、外部端子に電気的に接続される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、めっき層が薄くてもコイルと外部端子との接続不良の発生が抑制されるインダクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1のインダクタを実装面側から見た斜視図である。
図2】実施例1のインダクタを上面側から見た部分透過平面図である。
図3図2のA-A断面の部分拡大図である。
図4】実施例1のインダクタの外部端子の形成方法を説明する概略断面図である。
図5】比較例1のインダクタの外部端子の形成方法を説明する概略断面図である。
図6】比較例1のインダクタの外部端子の形成方法の別例を説明する概略断面図である。
図7】実施例2のインダクタの外部端子の形成方法を説明する概略断面図である。
図8】実施例2のインダクタの変形例における外部端子の形成方法を説明する概略断面図である。
図9】実施例3のインダクタの外部端子の形成方法を説明する概略断面図である。
図10】実施例4のインダクタを実装面側から見た部分透過斜視図である。
図11】実施例5のインダクタを実装面側から見た部分透過斜視図である。
図12】実施例6のインダクタを実装面側から見た部分透過斜視図である。
図13】実施例7のインダクタを上面側から見た部分透過平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
インダクタは、絶縁被膜を有する導線を巻回してなる巻回部および巻回部から引き出される引き出し部を含むコイルと、磁性粉および樹脂を含む磁性体からなり、コイルを内包する素体と、素体の表面に配置される外部端子と、を備える。素体は、実装面と、実装面に対向する上面と、前記実装面および上面に隣接して互いに対向して配置される1対の端面と、前記実装面、上面および端面に隣接して互いに対向して配置される1対の側面とを有する。引き出し部の端部は、素体の表面から露出する平坦部と、平坦部に隣接し、磁性体に被覆される被覆部を有する。そして引き出し部の端部の平坦部が、外部端子に電気的に接続されている。
【0009】
コイルの引き出し部の端部は、素体の表面から露出する平坦部と、平坦部に隣接し、磁性体に被覆される被覆部とを有する。これにより、導線の絶縁被膜を除去する際に残渣が生じたり、絶縁被膜が過度に除去されて溝が発生したりすることが抑制される。この結果、例えば、めっき処理によって外部端子を形成する際に、めっき層が薄くてもコイルと外部端子との接続不良の発生が抑制される。また、めっき処理をバレルめっきで行う場合、めっき時間を短縮することが可能となり、素体上に設けられる外装樹脂膜への影響を低減することができる。また、導線の絶縁被膜を除去するための条件の許容範囲を広くすることができ、さらに生産性が向上する。
【0010】
被覆部の少なくとも一部は、平坦部よりも素体の内側に配置されてよい。引き出し部の端部において、導線の幅方向の少なくとも一方の縁部に位置する被覆部を、平坦部よりも素体の内側に配置する。これにより、被覆部がより容易に形成可能になる。また、導線の絶縁被膜の除去するための条件の許容範囲を広くすることができ、さらに生産性が向上する。
【0011】
磁性粉は金属磁性体を含み、めっき層が形成される素体の表面の金属磁性体の少なくとも一部は、溶融して互いに融着していてよい。導線の絶縁被膜の除去を、例えば、レーザー照射で行う場合、素体の表面に配置される金属磁性体の少なくとも一部が溶融して互いに融着することになる。これにより、素体の表面におけるめっき層の密着性が向上する。また、めっき層の成長速度が向上する。
【0012】
巻回部の巻回軸を実装面と交差して配置し、引き出し部の両端の平坦部をそれぞれ、素体の互いに対向する端面から露出させてもよい。引き出し部の端部が素体の端面から露出するようにコイルが配置されることで、引き出し部を素体から容易に露出させることができ、さらに生産性が向上する。
【0013】
巻回部の巻回軸が実装面と略平行に配置され、引き出し部の両端の平坦部がそれぞれ、実装面から露出してよい。これにより、引き出し部を実装面から直接露出することが可能になるので、直流抵抗が小さく、大電流に対応可能なインダクタとすることができる。
【0014】
巻回部は、巻回軸を実装面と交差して配置され、引き出し部の両端の平坦部はそれぞれ、実装面から露出してよい。これにより、外部端子を実装面だけに形成することが可能になるので、直流抵抗が小さく、高密度な実装に対応可能なインダクタとすることができる。
【0015】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、インダクタを例示するものであって、本発明は、以下に示すインダクタに限定されない。なお特許請求の範囲に示される部材を、実施形態の部材に限定するものでは決してない。特に実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。実施例2以降では実施例1と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【実施例
【0016】
(実施例1)
実施例1のインダクタ100を図1から図3を参照して説明する。図1は、インダクタ100を実装面側から見た概略斜視図を示す。図2は、インダクタ100を実装面とは反対側の上面側から見た概略部分透過平面図である。
【0017】
図1および図2に示すように、インダクタ100は、コイル30と、磁性粉および樹脂を含む磁性体12からなり、コイル30を内包する素体10と、素体10の表面に配置され、コイル30と電気的に接続する1対の外部端子20とを備える。素体10は、実装面15と、実装面15に対向する上面16と、実装面15および上面16に隣接して互いに対向して配置される1対の端面17と、実装面15、上面16および端面17に隣接して互いに対向して配置される1対の側面18とを有する。
【0018】
磁性体12を構成する磁性粉としては、Fe、Fe-Si-Cr、Fe-Ni-Al、Fe-Cr-Al、Fe-Si、Fe-Si-A、Fe-Ni、Fe-Ni-Mo等の鉄系の金属磁性粉、他の組成系の金属磁性粉、アモルファス等の金属磁性粉、表面がガラス等の絶縁体で被覆された金属磁性粉、表面を改質した金属磁性粉、ナノレベルの微小な金属磁性粉末が用いられる。また、樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0019】
外部端子20は断面がL字形状で、実装面15および端面17に跨がって配置される。図2に示すようにコイル30は、巻回部32と、巻回部32の外周部からそれぞれ引き出される1対の引き出し部34とを有する。引き出し部34の端部は、外部端子20と電気的に接続される。図示はしないが、外部端子20が設けられた部分を除く素体の表面は、外装樹脂膜で被覆されている。
【0020】
コイル30の巻回部32は、絶縁皮膜を有し、例えば、断面が略矩形状の導線(いわゆる、平角線)をその両端が外周部に位置し、内周部で互いに繋がった状態で上下2段に巻回(いわゆる、アルファ巻)して形成される。巻回部32は、その巻回軸を実装面15と略直角に交差して配置され、素体10に内包される。引き出し部34は、巻回部32のそれぞれの段の最外周から素体10の端面17に向けて引き出され、引き出し部34の端部が端面17に沿って配置される。引き出し部34の端部の端面17側には導線部分に平坦部34aが設けられ、平坦部34aの少なくとも一部が端面17から露出し、外部端子20と電気的に接続される。導線の長さ方向に直交する断面は、例えば長方形であり、長方形の長辺に対応する幅と、長方形の短辺に対応する厚みで規定される。
【0021】
導線は、その幅が、例えば120μm以上350μm以下、厚みが、例えば10μm以上150μm以下である。また、導線の絶縁被膜は、厚みが、例えば2μm以上10μm以下、好ましくは6μm程度のポリアミドイミド等の絶縁性樹脂で形成される。絶縁被膜の表面には、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂等の自己融着成分を含む自己融着層がさらに設けられ、その厚みが1μm以上3μm以下に形成されていてよい。
【0022】
図3は、図2のA-A断面における概略断面の外部端子付近の部分拡大図である。図3に示すように、引き出し部34の端部が、素体の端面17に沿って磁性体12に埋設される。引き出し部34の端部の端面17側は、絶縁皮膜が剥離されて導線40が露出する平坦部34aと、絶縁皮膜が磁性体12に被覆された被覆部34bとを有する。被覆部34bは、平坦部34aの導線の幅方向の両縁部にそれぞれに平坦部34aと連続して設けられる。外部端子20は、平坦部34aと平坦部34aの周辺の素体の表面14とに渡ってめっきにより形成された外部端子20が設けられ、外部端子を除く素体の表面は外装樹脂膜50で被覆されている。導線の幅に対する平坦部34aの長さの比は、例えば、0.5以上0.9以下であり、導線の幅に対する被覆部34bの長さの和の比は、例えば、0.1以上0.5以下である。なお、平坦部34aは、端面17より素体の内側に埋め込まれており、被覆部34bは、端面17に直交する方向からインダクタを見た場合に、磁性体12に被覆されている。
【0023】
次に、図4(a)から図4(d)を参照しながら、インダクタ100の製造方法の一例について説明する。インダクタの製造方法は、例えば、コイル準備工程、素体成形工程、外装樹脂膜形成工程、剥離工程、および外部端子形成工程を含む。図4(a)から図4(d)は、図2のA-A断面における概略断面の外部端子付近の部分拡大図であり、それぞれの工程を説明する図である。
【0024】
[コイル準備工程]
コイル準備工程では、表面に絶縁被膜を有し、長さ方向に直交する断面が矩形状の導線を、引き出し部が巻回部の最外周から引き出され、内周部で互いに繋がるように2段に巻回されたコイルを準備する。巻回部の最外周面と連続する面上の引き出し部の端部に平坦部が設けられる。
【0025】
[素体成形工程]
素体成形工程では、磁性粉と熱硬化性樹脂とを混練して得られる磁性体材料に、準備したコイルを埋め込んで、加圧とともに加温して、略直方体形状に成形する。これにより、磁性体12に巻回部の巻回軸が素体の実装面と略垂直に交差して配置され、引き出し部の端部が実装面に隣接する端面に沿って配置された素体を得る。このとき、図4(a)に示すように、端面17では、導線40の線幅方向の中央部分に設けられる平坦部34a上の絶縁被膜42が端面17から露出し、線幅方向の縁部34bが端面17を構成する磁性体12に被覆されるように素体に埋設されている。
【0026】
[外装樹脂膜形成工程]
図4(b)に示すように、成形された素体の表面の絶縁被膜42が露出していない他の領域に、絶縁性の外装樹脂膜50が形成される。外装樹脂膜50は、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、またはポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂等の熱可塑性樹脂を表面に塗布、ディップ等の手段により付与し、必要に応じて、付与された樹脂を硬化することにより形成される。
【0027】
[剥離工程]
剥離工程では、図4(c)に示すように、外装樹脂膜50および導線の絶縁被膜42を除去して、素体の端面17に導線40の平坦部34aを露出させる。外装樹脂を剥離する範囲は、実装面15および端面17に跨がった断面がL字形状であり、図1の外部端子20に相当する範囲である。外装樹脂膜50および導線の絶縁被膜42の除去には、例えば、レーザー照射が適用される。レーザー照射により、導線40の平坦部34a上の絶縁被膜42および隣接する外装樹脂膜50の一部が除去されて、導線40の平坦部34aが端面17から露出する。導線の被覆部34b上の絶縁被膜42は、磁性体12によって被覆されているために除去されずに残存している。
【0028】
素体を被覆する外装樹脂膜50の除去に伴って、磁性体12中の樹脂成分が除去されて磁性体12中の磁性粉が素体の表面に露出する磁性体露出部12aが形成される。また、磁性体露出部12aの表面には、磁性粉が溶融して互いに融着することで、磁性粉からなるネットワーク構造が形成される。実装面15および端面17に跨がった、断面がL字形状の素体の表面に、比較的広いネットワーク構造を有する磁性体露出部12aが形成されることで、例えば、バレルめっきの際、めっき層とメディアとの接触機会が増え、めっき層の成長速度が向上する。また、導線の幅方向の両縁部が、磁性体に被覆されていることで、導線の絶縁被膜の除去に伴う絶縁被膜の残渣の発生、および絶縁被膜の過度の除去による溝部の発生が抑制される。
【0029】
[外部端子形成工程]
外部端子形成工程では、図4(d)に示すように、例えば、めっき処理により、磁性体露出部12aと導線40の平坦部34aとにそれぞれめっき層を形成する。それぞれのめっき層は、めっきが成長することにより、一体化して電気的に接続されて外部端子20となる。めっき処理は、例えば、銅めっきにより、素体10の表面のする工程と、その後のニッケルめっき工程、およびスズめっき工程等を含んでいてよい。
【0030】
外部端子形成工程では、導線の平坦部と素体の表面の磁性体露出部との間に、絶縁被膜の残渣の発生、および溝部の発生が抑制されている。これにより、平坦部と磁性体露出部上に形成されるめっき層の不連続性が最小限になり、めっき層が薄くてもコイルと外部端子との接続不良の発生が抑制される。また、コイルの引き出し部の端部と外部端子とを接合するために必要以上にめっき厚を厚くする必要がなくなるので、生産性が向上する。さらに、めっき処理をバレルめっきで行う場合、めっき処理の時間が短くなるので、外装樹脂膜へのダメージを減らすことができる。さらに残渣、溝の発生を抑制して導線の絶縁被膜の除去するためのレーザー照射の条件の許容範囲を広くすることができ、さらに生産性が向上する。
【0031】
(比較例1)
比較例1のインダクタを、図5(a)から図5(c)および図6(a)から図6(c)を参照して説明する。図5(a)から図5(c)および図6(a)から図6(c)は、外部端子の形成方法を拡大図として説明する図2のA-A線における概略断面図の外部端子付近の部分拡大図である。比較例1のインダクタは、引き出し部の端部に被覆部が設けられないこと以外は実施例1のインダクタと同様に構成される。
【0032】
図5(a)および図6(a)は、外装樹脂膜形成工程後の状態を示す。図5(a)および図6(a)に示すように、引き出し部34は、導線40の幅広面40a上の絶縁被膜42が素体の端面から露出し、素体の表面の絶縁被膜が露出していない他の領域は外装樹脂膜50に被覆されている。
【0033】
図5(b)および図6(b)は、剥離工程後の状態を示す。図5(b)に示すように、レーザー照射により、導線40の幅広面40a上に配置された絶縁被膜42が除去されて、導線40の幅広面40aが端面17から露出する。一方、導線40の側面を被覆する絶縁被膜42は、絶縁被膜42の下に導線40が存在しないため、レーザー照射による絶縁被膜42の除去効率が低くなり、絶縁被膜42の残渣44が生じる。また、外装樹脂膜50の少なくとも一部が除去されて、素体の表面に磁性体露出部12aが形成される。幅広面40aと磁性体露出部12aの間には、残渣44が存在している。
【0034】
図5(c)は、外部端子形成工程中の状態を示す。図5(c)に示すように、めっき処理によって、導線の幅広面40a上にはめっき層22aが形成され、素体10の表面の磁性体露出部12a上にはめっき層22bが形成される。それぞれのめっき層は横方向にも成長するので、ある程度のめっき厚によって、幅広面40aと磁性体露出部12aが一体化する。ここで、幅広面40a上のめっき層22aと、磁性体露出部12a上のめっき層22bとが残渣44によって離間しているため、めっき層22aの厚みを厚くないと、コイルと外部端子との間の接続不良が発生する。
【0035】
また、図6(b)に示すように、レーザー照射により、引き出し部の幅広面40a上の絶縁被膜42が除去されて、導線40の幅広面40aが端面17から露出する。ここでレーザー照射の条件によっては、導線40の側面における絶縁被膜42が過剰に除去され、溝46が発生する。さらに、外装樹脂膜50の少なくとも一部が除去されて、素体の表面に磁性体露出部12aが形成される。幅広面40aと磁性体露出部12aの間には、溝46が存在している。
【0036】
図6(c)は、外部端子形成工程中の状態を示す。図6(c)に示すように、めっき処理によって、導線の幅広面40aと側面上にはめっき層22aが形成され、素体10の表面の磁性体露出部12a上にはめっき層22bが形成される。それぞれのめっき層は横方向にも成長するので、ある程度のめっき厚によって、幅広面40aに形成されるめっき層22aと磁性体露出部12aに形成されるめっき層22bが一体化する。ここで、幅広面40a上のめっき層22aと、磁性体露出部12a上のめっき層22bとの間の溝46にはめっきが成長し辛いので、めっき層の厚みを厚くしないと、コイルと外部端子との間の接続不良が発生する。
【0037】
(実施例2)
実施例2のインダクタを、図7(a)から図7(c)を参照して説明する。図7(a)から図7(c)は、図2のA-A線における概略断面図の外部端子付近の部分拡大図であり、図7(a)は、外装樹脂膜形成工程後の状態を示し、図7(b)は、剥離工程後の状態を示し、図7(c)は、外部端子形成工程後の状態を示す。実施例2のインダクタは、引き出し部の端部における被覆部の少なくとも一部が、平坦部よりも素体の内側に配置されること以外は実施例1のインダクタと同様に構成される。
【0038】
図7(a)に示すように、被覆部34cは、平坦部34aの導線40の幅方向の両縁部に形成され、導線40の幅方向の縁部が素体の内側方向に曲げられて磁性体12に埋設されている。つまり、平坦部34aよりも素体の内側、すなわち、端面17からの距離が平坦部34aよりも遠い位置に、被覆部34cが配置されている。
【0039】
図7(b)に示すように、レーザー照射により、導線40の平坦部34a上の絶縁被膜42が除去されて導線40の平坦部34aが端面から露出する。また、平坦部34aに隣接する外装樹脂膜50の一部も除去される。また、磁性体12上の磁性体中の樹脂成分が除去されて磁性体中の磁性粉が素体の表面に露出する磁性体露出部12aが形成される。磁性体露出部12aと、被覆部34cとは、絶縁被膜42を介して段違いに隣接している。
【0040】
図7(c)に示すように、めっき処理によって、素体10の表面の磁性体露出部12aと、導線40の被覆部34cおよび平坦部34aとに跨がってめっき層が形成されて、コイルと外部端子20とが電気的に接続される。
【0041】
実施例2のインダクタでは、例えば、引き出し部の端部において、平坦部34aの両縁部を素体の内側方向に曲げた形のコイルを磁性体12に埋設している。これにより、平坦部34aが素体の端面から露出し、被覆部34cが磁性体12に被覆される構造を容易に実現できる。また、被覆部34cは曲面をなしているが、少なくとも一部に平面部を有していてもよい。
【0042】
実施例2のインダクタの変形例を、図8(a)から図8(c)を参照して説明する。図8(a)から図8(c)は、図2のA-A線における概略断面図の外部端子付近の部分拡大図であり、図8(a)は、外装樹脂膜形成工程後の状態を示し、図8(b)は、剥離工程後の状態を示し、図8(c)は、外部端子形成工程後の状態を示す。実施例2のインダクタの変形例では、被覆部が導線の幅方向の一方の縁部にのみ形成されていること以外は実施例2のインダクタと同様に構成される。
【0043】
図8(a)に示すように、被覆部34cが、平坦部34aの導線40の幅方向の一方の縁部に形成され、平坦部34aよりも素体の内側に配置されている。また、他方の縁部には被覆部が形成されていない。
【0044】
図8(b)に示すように、レーザー照射により、導線40の平坦部34a上の絶縁被膜42が除去されて導線40の平坦部34aが端面から露出する。また、平坦部34aに隣接する外装樹脂膜50の一部も除去される。このとき、平坦部34aの導線40の幅方向の他方の縁部では、レーザー照射の条件によっては、残渣44が生じる。また素体の端面17では、外装樹脂膜50の少なくとも一部が除去されて、素体の表面に磁性体露出部12aが形成される。図8(b)では、残渣44が生じた場合を示しているが、レーザー照射により、溝部が形成されることもある。
【0045】
図8(c)に示すように、めっき処理によって、平坦部34aの一方の縁部では、素体10の表面の磁性体露出部12aと導線40の被覆部34cおよび平坦部34aとに跨がってめっき層が形成される。また、平坦部34aの他方の縁部では、磁性体露出部12a上のめっき層22と、平坦部34a上に形成されるめっき層24とが残渣44により隔離されている。このように平坦部の両縁部のうち片側だけを曲げて被覆部を形成する場合、一方の縁部に残渣が生じる虞や、溝が生じる虞があるが、他方の縁部には残渣や溝が生じる虞がないので、めっき処理によってコイルと外部端子20とが確実に接続される。
【0046】
(実施例3)
実施例3のインダクタを、図9(a)から図9(c)を参照して説明する。図9(a)から図9(c)は、図2のA-A線における概略断面図であり、図8(a)は、外装樹脂膜形成工程後の状態を示し、図8(b)は、剥離工程後の状態を示し、図8(c)は、外部端子形成工程後の状態を示す。実施例3のインダクタは、導線40の長さ方向に直交する断面が長円形状を有していること以外は実施例1のインダクタと同様に構成される。
【0047】
図9(a)に示すように、被覆部34dは、平坦部34aの両縁部から連続する円弧状に形成され、磁性体12に被覆されている。断面が長円形状を有する引き出し部の端部は、例えば、断面が円形状の導線を用いてコイルの巻回部を形成し、引き出し部の端部では導線を押しつぶすことで形成できる。また、図9(a)では、平坦部34aが引き出し部の端部が露出する側と、それに対向する側の両方に形成されているが、引き出し部の端部が露出する側にのみ形成されていてもよい。
【0048】
図9(b)に示すように、レーザー照射により、導線40の平坦部34a上の絶縁被膜42が除去されて導線40の平坦部34aが端面から露出する。また、平坦部34aに隣接する被覆部34d上の外装樹脂膜50、磁性体12および絶縁被膜42の一部も除去され、被覆部34dの一部が端面から露出する。磁性体上の外装樹脂膜50の少なくとも一部が除去されて、素体の表面に磁性体露出部12aが形成され、磁性体露出部12aと被覆部34cとは、絶縁被膜42を介して隣接している。
【0049】
図9(c)に示すように、めっき処理によって、素体の表面の磁性体露出部12a、導線40の被覆部34dの絶縁被膜42および平坦部34aに跨がってめっき層が形成され、コイルと外部端子20とが接続される。
【0050】
実施例3のインダクタでは、例えば、引き出し部の端部において、断面が円形状の丸線を押しつぶして平坦部34aを形成することで、断面が円弧状の被覆部34dが形成されるため、平坦部34aが素体の端面から露出し、被覆部34cが磁性体12に被覆される構造をより容易に形成できる。
【0051】
(実施例4)
実施例4のインダクタ110を、図10を参照して説明する。図10はインダクタ110を実装面側からみた概略部分透過斜視図である。インダクタ110では、コイルの巻回部32が巻回軸Nを実装面15と交差せず、略平行にして素体に内包されること、およびコイルの引き出し部34の端部が実装面15から露出していること以外は実施例1のインダクタと同様に構成される。
【0052】
インダクタ110では、引き出し部34が、巻回部32の外周部からそれぞれ実装面15方向に引き出され、引き出し部34の端部が、実装面15と略平行で互いに反対方向になるように折り曲げられて、実装面15から露出している。図10のB―B線を通り端面17に平行な断面(B-B断面)における引き出し部34の端部は、実施例1から3に示したように、平坦部34aと被覆部が設けられている。外部端子20は、素体の実装面15と端面17とに渡って配置される。インダクタ110では、引き出し部の平坦部34aが実装面から直接露出するため、直流抵抗が低減される。
【0053】
(実施例5)
実施例5のインダクタ120を、図11を参照して説明する。図11はインダクタ120を実装面側からみた概略部分透過斜視図である。インダクタ120では、コイルの引き出し部34が、巻回軸N方向から見て、互いに交差して実装面15方向に引き出されること以外は実施例4のインダクタと同様に構成される。
【0054】
図11のC―C断面における引き出し部の端部には、実施例1から3に示したように、平坦部34aと被覆部が設けられている。インダクタ120では、引き出し部の先端を折り曲げる角度が小さくてすむので、引き出し部の変形を小さくてすむので引き出し部への信頼性が向上する。
【0055】
(実施例6)
実施例6のインダクタ130を、図12を参照して説明する。図12はインダクタ130を実装面側からみた概略部分透過斜視図である。インダクタ130では、コイルの巻回部が、断面が円形状の導線を巻回して形成されること、コイルの引き出し部34が、素体の一方の端面方向に引き出され、引き出し部の端部の平坦部34aが実装面から露出するように折り曲げられていること、および外部端子が実装面にのみ配置されること以外は実施例1のインダクタと同様に構成される。
【0056】
インダクタ130では、断面が円形状の導線を巻回してコイル30が形成され、引き出し部の端部においては、例えば導線を押しつぶして平坦部34aが形成される。これにより、図12のD―D断面における引き出し部の端部に、実施例3に示したように、平坦部と被覆部をより容易に形成できる。また、引き出し部34の平面部34aが実装面から直接露出するため、直流抵抗が小さく、高密度な実装に対応可能なインダクタとすることができる。
【0057】
(実施例7)
実施例7のインダクタ140を、図13を参照して説明する。図13はインダクタ140を実装面と対向する上面側からみた概略部分透過平面図である。インダクタ140では、コイルの引き出し部34が、素体の一方の側面方向に引き出され、引き出し部の端部の平坦部が実装面から露出するように折り曲げられていること以外は実施例1のインダクタと同様に構成される。
【0058】
インダクタ140では、コイルの引き出し部34が、素体の一方の側面方向に幅広面が実装面と平行になるように捻じられながら引き出され、略180°折り曲げられて平坦部が実装面から露出している。そして、図13のE―E断面における引き出し部の端部には、実施例1~3に示したように、平坦部と被覆部が設けられている。インダクタ140では、引き出し端部が実装面から直接露出するため、直流抵抗が低減される。
【0059】
上記の実施例では、素体は略直方体形状であるが、直方体を形成する各辺が面取りされていてもよい。
また、コイルの巻回部の巻回方向は、上面側から見て左巻きに巻回されていてもよい。
コイルの巻回部は、巻回軸方向から見て略円形状、略長円形状、略楕円形状、略多角形状等であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
100、110、120、130、140 インダクタ
20 外部端子
22、22a、22b、24 めっき層
30 コイル
34 引き出し部
34a 平坦部
34b、34c、34d 被覆部
50 外装樹脂膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13