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特許7124761調整支援装置、サーボドライバ、複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】調整支援装置、サーボドライバ、複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 5/747 20060101AFI20220817BHJP
【FI】
H02P5/747
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019033110
(22)【出願日】2019-02-26
(65)【公開番号】P2020141437
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 健治
(72)【発明者】
【氏名】大野 悌
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/099032(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/052844(WO,A1)
【文献】特開2001-352773(JP,A)
【文献】特開2010-178510(JP,A)
【文献】特開平06-319284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/747
G05D 3/12
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサーボモータの制御パラメータの調整を支援する調整支援装置であって、
前記サーボモータによって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含むパラメータを取得するパラメータ取得部と、
前記サーボモータを制御する際のイナーシャ比を含むパラメータを設定させるパラメータ設定制御部と、
を備え、
前記パラメータ設定制御部は、前記パラメータ取得部が、前記イナーシャ比の推定値を複数の前記サーボモータの全てについて取得した後に、複数の前記サーボモータの全てについて、取得された該イナーシャ比を設定させることを特徴とする調整支援装置。
【請求項2】
複数の前記サーボモータのうちのいずれかについて前記イナーシャ比を推定する場合には、前記パラメータ設定制御部は、他の前記サーボモータについては、ゲイン及びイナーシャ比を同じ値に設定させることを特徴とする請求項1に記載の調整支援装置。
【請求項3】
前記パラメータ取得部が取得した前記イナーシャ比の推定値の妥当性を判断する妥当性判断部を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の調整支援装置。
【請求項4】
前記複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の調整支援装置。
【請求項5】
複数のサーボモータをそれぞれ制御するサーボドライバであって、
前記サーボモータを制御する制御部と、
前記サーボモータによって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含むパラメータを推定するパラメータ推定部と、
複数の前記サーボモータのそれぞれにおける前記パラメータの推定値の前記制御部への設定を同期させる設定同期部を備えたことを特徴とするサーボドライバ。
【請求項6】
前記複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動することを特徴とする
請求項5に記載のサーボドライバ。
【請求項7】
複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法であって、
複数の前記サーボモータのそれぞれによって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含む制御パラメータを、複数の前記サーボモータの全てについて取得するステップと、
取得した前記制御パラメータを、複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして設定するステップ、
を含む複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法。
【請求項8】
複数の前記サーボモータのそれぞれについてのイナーシャ比が推定される際に、他の前記サーボモータについては、ゲイン及びイナーシャ比を同じ値に設定させるステップ、
をさらに含む請求項7に記載の複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法。
【請求項9】
複数の前記サーボモータから取得された前記制御パラメータが妥当であるか否かを判断するステップ、
をさらに含み、
妥当であると判断された前記制御パラメータを、複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして設定することを特徴とする請求項7または8に記載の複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法。
【請求項10】
前記複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動することを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法。
【請求項11】
複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法であって、
複数の前記サーボモータのそれぞれによって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含む制御パラメータを推定するステップと、
複数の前記サーボモータのうち他の全てのサーボモータに対する前記制御パラメータの推定が完了するのを待って、前記複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして、前記推定された制御パラメータを設定するステップを含む複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法。
【請求項12】
前記複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動することを特徴とする請求項11に記載の複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法。
【請求項13】
複数のサーボモータの制御パラメータを調整するためのプログラムであって、
複数の前記サーボモータのそれぞれによって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含む制御パラメータを、複数の前記サーボモータの全てについて取得するステップと、
取得した前記制御パラメータを、複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして設定するステップ、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項14】
複数のサーボモータの制御パラメータ調整するためのプログラムであって、
複数の前記サーボモータのそれぞれによって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含む制御パラメータを推定するステップと、
複数の前記サーボモータのうち他の全てのサーボモータに対する前記制御パラメータの推定が完了するのを待って、前記複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして、前記推定された制御パラメータを設定するステップ、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調整支援装置、サーボドライバ、複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のサーボモータを制御する制御装置の制御パラメータは、制御装置の設計段階で予め算出し設定するか、経験やノウハウを有する作業者が調整していた。
【0003】
特に、制御装置が複数のモータを制御する場合には、各軸に対して、上述の制御パラメータの調整が行われていた(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
そのため、上述のような従来の方法では、制御パラメータの調整に時間がかかる場合があった。とりわけ、複数のモータを制御する制御装置における制御パラメータの調整において、制御パラメータのひとつであるイナーシャ比については、ガントリ機構やタンデム機構のように複数軸間の干渉が生じ得るために、正確なイナーシャ比を推定することが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-22676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、複数のサーボモータに対して、より正確な推定イナーシャ比による制御パラメータの調整が可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明は、
複数のサーボモータの制御パラメータの調整を支援する調整支援装置であって、
前記サーボモータによって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含むパラメータを取得するパラメータ取得部と、
前記サーボモータを制御する際のイナーシャ比を含むパラメータを設定させるパラメータ設定制御部と、
を備え、
前記パラメータ設定制御部は、前記パラメータ取得部が、前記イナーシャ比の推定値を複数の前記サーボモータの全てについて取得した後に、複数の前記サーボモータの全てについて、取得された該イナーシャ比を設定させることを特徴とする。
【0008】
このようにすれば、複数のサーボモータにおける推定イナーシャ比をパラメータ取得部が取得するのを待ってパラメータ設定制御部によって複数のサーボモータにイナーシャ比を設定することになるので、複数のサーボモータ間で、イナーシャ比の設定・更新のタイミングを揃えることができる。このため、より正確な推定イナーシャ比による制御パラメータの調整が可能となる。
【0009】
また、本発明は、
複数の前記サーボモータのうちのいずれかについて前記イナーシャ比を推定する場合には、前記パラメータ設定制御部は、他の前記サーボモータについては、ゲイン及びイナーシャ比を同じ値に設定させるようにしてもよい。
【0010】
このようにすれば、各サーボモータに対する制御側での応答性のばらつきをなくすことができるので、より正確なイナーシャ比の推定が可能なる。
【0011】
また、本発明は、
前記パラメータ取得部が取得した前記イナーシャ比の推定値の妥当性を判断する妥当性判断部を備えるようにしてもよい。
【0012】
このようにすれば、イナーシャ比に影響を与える要因を考慮した妥当性条件を設定することにより、この妥当性条件を満足するイナーシャ比推定値によって制御パラメータの調整が行われるので、より正確な推定イナーシャ比による調整が可能となる。
【0013】
また、本発明は、
前記複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動するようにしてもよい。
【0014】
このように、複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動する場合には、あるサーボモータが駆動する軸が他のサーボモータに対して負荷として作用し、イナーシャ比の正確な推定が難しいことがあるが、そのような場合にも、正確なイナーシャ比による制御パラメータの調整が可能となる。
【0015】
また、本発明は、
複数のサーボモータをそれぞれ制御するサーボドライバであって、
前記サーボモータを制御する制御部と、
前記サーボモータによって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含むパラメータを推定するパラメータ推定部と、
複数の前記サーボモータのそれぞれにおける前記パラメータの推定値の前記制御部への設定を同期させる設定同期を備えたことを特徴とする。
【0016】
このように、サーボドライバ間で、イナーシャ比の設定タイミングを同期させることにより、それぞれのサーボモータに対して、より正確な推定イナーシャ比による制御パラメータの調整が可能となる。
【0017】
また、本発明は、
前記複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動するようにしてもよい。
【0018】
このように、複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動する場合には、あるサーボモータが駆動する軸が他のサーボモータに対して負荷として作用し、イナーシャ比の正確な推定が難しいことがある。しかし、そのような場合にも、サーボドライバ間で推定イナーシャ比の設定タイミングを揃えることにより、正確なイナーシャ比による制御パラメータの調整が可能となる。
【0019】
また、本発明は、
複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法であって、
複数の前記サーボモータのそれぞれによって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含む制御パラメータを、複数の前記サーボモータの全てについて取得するステップ
と、
取得した前記制御パラメータを、複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして設定するステップ、
を含む。
【0020】
また、本発明は、
複数の前記サーボモータのそれぞれについてのイナーシャ比が推定される際に、他の前記サーボモータについては、ゲイン及びイナーシャ比を同じ値に設定させるステップ、
をさらに含むようにしてもよい。
【0021】
また、本発明は、
複数の前記サーボモータから取得された前記制御パラメータが妥当であるか否かを判断するステップ、
をさらに含み、
妥当であると判断された前記制御パラメータを、複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして設定するようにしてもよい。
【0022】
また、本発明は、
前記複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動するようにしてもよい。
【0023】
また、本発明は、
複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法であって、
複数の前記サーボモータのそれぞれが、該サーボモータによって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含む制御パラメータを推定するステップと、
複数の前記サーボモータのうち他の全てのサーボモータに対する前記制御パラメータの推定が完了するのを待って、前記複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして、前記推定された制御パラメータを設定するステップを含む。
【0024】
また、本発明は、
前記複数のサーボモータは、互いに軸干渉を生じ得る負荷を駆動するようにしてもよい。
【0025】
また、本発明は、
複数のサーボモータの制御パラメータを調整するためのプログラムであって、
複数の前記サーボモータのそれぞれによって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含む制御パラメータを、複数の前記サーボモータの全てについて取得するステップと、
取得した前記制御パラメータを、複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして設定するステップ、
をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0026】
複数のサーボモータの制御パラメータ調整するためのプログラムであって、
複数の前記サーボモータのそれぞれが、該サーボモータによって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含む制御パラメータを推定するステップと、
複数の前記サーボモータのうち他の全てのサーボモータに対する前記制御パラメータの推定が完了するのを待って、前記複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして、前記推定された制御パラメータを設定するステップ、
をコンピュータに実行させるプログラムである。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、複数のサーボモータに対して、より正確なイナーシャ比による制御パラメータの調整が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例1における制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】イナーシャ比を正確に推定できない場合の一例を示すグラフである。
図3】イナーシャ比を正確に推定できない現象の原理を説明する図である。
図4】実施例1におけるサーボドライバと調整支援装置の概略構成を示すブロック図である。
図5】実施例1におけるイナーシャ比更新までの流れを示すフローチャートである。
図6】実施例2におけるイナーシャ比更新までの流れを示すフローチャートである。
図7】実施例3におけるサーボドライバと調整支援装置の概略構成を示すブロック図である。
図8】実施例3におけるイナーシャ比更新までの流れを示すフローチャートである。
図9】実施例4における制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図10】実施例4におけるサーボドライバの概略構成を示すブロック図である。
図11】実施例4における推定イナーシャ比の設定同期処理の流れを示すフローチャートである。
図12】実施例1の変形例における制御システムの概略構成を示すブロック図である。
図13】実施例4の変形例における制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔適用例〕
以下、本発明の適用例について、図面を参照しつつ説明する。本発明は例えば、図1に示すような調整支援装置9に適用される。図1に示す制御システム1は、負荷機械2を駆動するサーボモータ3,4を制御するシステムであり、調整支援装置9、コントローラ7、サーボドライバ5,6、サーボモータ3,4及び負荷機械2を含む。負荷機械2は、複数のサーボモータ3,4によって駆動されるいわゆる多軸構成を有する。
【0030】
多軸構成を有する負荷機械を含む制御システムにおいて制御パラメータを調整する際に、各軸のイナーシャ比の推定が行われる。このようなイナーシャ比の推定は、サーボドライバが備えるイナーシャ比推定部によって軸ごとに行われていた。しかし、多軸構成として、ガントリ機構やタンデム機構を含む負荷機械においては、複数のサーボモータによってそれぞれ駆動される軸間で干渉が生じ得る。とりわけ、複数のサーボモータによって駆動される要素の間の機械的連結の剛性が高い場合には、負荷機械を動作させるときに一方の軸が他方の軸に対して負荷として働き、一方の軸のイナーシャ比が大きく推定されることがある。図2は、このようにイナーシャ比が正確に推定できない場合の例を示す。図2の上段は、イナーシャ比推定のために負荷機械2を試行的に動作させるサーボモータ3,4の回転速度を示す(負荷機械2の概略構成については図3(B)参照)。図2の下段は、上段の負荷機械2に動作によって推定された第1軸21と第2軸22のイナーシャ比を示す。実線で示す第1軸21が主となり、破線で示す第2軸22が引っ張られる状態となっており、第2軸22が第1軸21に対して負荷のように作用している状態である。このため、第1軸21の推定イナーシャ比は増加する一方で、第2軸22の推定イナーシャ比は減少し、0になってしまい、第1軸21及び第2軸22のイナーシャ比を正確に推定す
ることができない。
【0031】
図3(A)及び図3(B)によって、上述の現象が生じる原理について説明する。図3(A)において、(a),(b)はそれぞれ第1軸21と第2軸22の推定イナーシャ比と制御帯域を模式的に示す。図3(B)は、負荷機械2のガントリ機構を模式的に示している。ここでは、平行に配置された第1軸21と第2軸22とに直交するように機械的に接続された機械要素23が配置されている。また、図3(B)では、第1軸21と第2軸の動作時のトルクの大きさを矢印の長さによって示している。図3(A)に示すように、丸囲み数字「1」で示す状態では第1軸21と第2軸の推定イナーシャ比は等しい。このとき、負荷機械の剛性が高い場合(各軸の負荷が同等の場合も同様)には、速度比例ゲインも第1軸21と第2軸について等しく設定されていると、第1軸21と第2軸に対する制御帯域も等しくなるので、図3(B)に示すように、第1軸21と第2軸には同じトルクが発生する。丸囲み数字「1」から丸囲み数字「2」、丸囲み数字「2」から丸囲み数字「3」の状態へと移るに従って、第1軸21の推定イナーシャ比は増加する(図3(A)の第1軸21と交差する斜線の位置が第1軸21の推定イナーシャ比を示す。)。一方で、第2軸の推定イナーシャ比は減少する(図3(A)の第2軸と交差する斜線の位置が第2軸の推定イナーシャ比を示す。)。このとき、第1軸21のイナーシャ比が高くなる一方で第2軸のイナーシャ比が低くなると、見かけの制御帯域は第2軸の方が第1軸21よりも低くなる。このため、図3(B)において、丸囲み数字「2」及び丸囲み数字「3」で示すように、より速度が増加するように第1軸21に発生するトルクは増加するのに対し、第2軸に発生するトルクは減少し、丸囲み数字「3」ではほとんどトルクが発生していない状態となる。
【0032】
軸干渉が生じ得る複数の軸ごとにサーボドライバ内でイナーシャ比を推定・更新するために、イナーシャ比を正確に推定できないことに鑑み、制御システム1は、軸干渉が生じ得る複数の軸に対するイナーシャ比の調整を支援する調整支援装置9を備えている。この調整支援装置9は、図4に示すように、コントローラ7の信号中継部71を介して、サーボドライバ5,6と信号の送受信を行う。ここでは、調整支援装置9は、軸干渉が生じ得る軸に対するサーボドライバ5,6から、それぞれイナーシャ比の推定値を、ドライバ通信部54,64を介して取得する。そして、イナーシャ比設定制御部92から、イナーシャ比の推定値を各サーボドライバ5,6に送信して、同じタイミングで更新させる。サーボドライバ5,6は、イナーシャ比設定制御部92からドライバ通信部54,64を介して受信したイナーシャ比の推定値を記憶部53,63に記憶し、この記憶された推定イナーシャ比に基づいて制御部51,61がイナーシャ比の設定値を更新する。
このように調整支援装置9によって、イナーシャ比の設定タイミングを揃えることにより、軸干渉を生じ得る負荷機械2に対しても、イナーシャ比を正確に推定することができる。
【0033】
調整支援装置9は、例えば、所定のプログラムを実行するパーソナルコンピュータやPLCによって実現することができる。また、調整支援装置9は、サーボドライバ5,6及びコントローラ7とは別に構成される場合に限られない。軸干渉を生じ得る複数の軸に対するサーボドライバ5,6を共通して制御するコントローラが調整支援装置9を含んでもよい。また、軸干渉を生じ得る軸に対するサーボドライバ5,6が、調整支援装置9の機能を分担するようにしてもよい。この場合には、サーボドライバ5,6間で通信することにより、イナーシャ比の更新タイミングを揃えるようにすればよい。
【0034】
〔実施例1〕
以下では、本発明の実施例に係る調整支援装置9について、図面を用いて、より詳細に説明する。
【0035】
<装置構成>
図1は、本実施例に係る調整支援装置9を含む制御システム1の概略構成を示すブロック図である。負荷機械2は、ガントリ機構やタンデム機構のように軸干渉を生じ得る複数の軸を有する多軸構成の機械である。サーボモータ3,4はそれぞれ互いに軸干渉を生じ得る軸を駆動する。負荷機械2は、例えば、図3(B)に模式的に示すように構成され、サーボモータ3が第1軸21を駆動し、サーボモータ4が第2軸を駆動する。サーボモータ3,4には、指令信号に従ってサーボモータ3,4の駆動信号を出力するサーボドライバ5,6がそれぞれ接続され、サーボドライバ5,6には、ユーザ又は外部装置からの入力に応じて指令信号を出力するコントローラ78が接続されている。また、サーボドライバ5,6によるイナーシャ比の調整を支援する調整支援装置9が設けられている。図1では、軸干渉を生じ得る軸を二軸として構成を示しているが、軸干渉を生じ得る軸が三以上である負荷機械についても、各軸に対してサーボモータ、サーボドライバ、コントローラが設けられ、各サーボドライバに調整支援装置9が接続される。
【0036】
図4は、サーボドライバ5,6とコントローラ7と調整支援装置9の概略構成を示すブロック図である。
サーボドライバ5,6は、コントローラ7から入力される指令に基づいてサーボモータ3,4に駆動電流を出力する制御部51,61を含む。制御部51,61は、位置制御器、速度制御器、トルク制御器等を含むが、これらは公知の構成を適宜採用することができるので詳細な説明は省略する。サーボドライバ5は、イナーシャ比を推定するためのイナーシャ比推定部52を含む。コントローラ7は、サーボドライバ5,6と調整支援装置9との間での信号の送受信を中継する信号中継部71を含む。コントローラ7は、数値制御プログラム等を実行するCPUからなるプロセッサ、メモリ、通信部等を有するが、これらは公知の構成を適宜採用することができるので詳細な説明は省略する。調整支援装置9は、例えば、後述するイナーシャ比を調整するためのプログラムを実行するCPUや当該プログラムやデータを記憶する記憶装置を有するコンピュータにより構成される。また、サーボドライバ5は、サーボモータ3を制御するために必要なイナーシャ比を含む種々の制御パラメータ等のデータや制御プログラムを記憶する記憶部53を有する。さらに、サーボドライバ5は、外部と通信するためのドライバ通信部54を有する。サーボドライバ6も同様に、制御部61、イナーシャ比推定部62、記憶部63及びドライバ通信部64を含むが、各部の構成はサーボドライバと同様であるので説明を省略する。
【0037】
調整支援装置9は、イナーシャ比推定部52,62において推定されたイナーシャ比を、ドライバ通信部54,64及び信号中継部71を介して、サーボドライバ5,6から取得するイナーシャ比取得部91と、取得したイナーシャ比を、信号中継部71を介して、それぞれのサーボドライバ5,6に送信するイナーシャ比設定制御部92を有する。ここでは、イナーシャ比取得部91がパラメータ取得部に、イナーシャ比設定制御部がパラメータ設定制御部にそれぞれ相当する。
サーボドライバ5,6において、信号中継部71及びドライバ通信部54,64を介して、イナーシャ比設定制御部92から受信したイナーシャ比は、記憶部53,63に記憶され、制御部51,61におけるイナーシャ比の更新の際に用いられる。
【0038】
<イナーシャ比調整方法>
図5は、イナーシャ比調整方法としての、サーボドライバ5,6及び調整支援装置9によるイナーシャ比の更新までの流れを示すフローチャートである。
まず、イナーシャ比推定を行う軸を特定する変数iに対して、i=1とおく(ステップS1)。ここでは、イナーシャ比の推定を行うべき軸、すなわち、互いに軸干渉が生じ得る複数の軸には、当該軸を特定するために1から順に一意に番号が付されており、このように特定される軸を第i軸として説明する。
【0039】
次に、負荷機械2によって、軸干渉を生じ得る複数の軸を含む位置決め動作を試行する(ステップS2)。そして、第1軸21のイナーシャ比の推定を行う(ステップS3)。推定された第1軸21のイナーシャ比は、ドライバ通信部54,64を介して、調整支援装置9に送信され、イナーシャ比取得部91に設けられた所定の記憶領域に記録される(ステップS4)。
【0040】
次に、調整支援装置9では、イナーシャ比設定部が、関連軸、すなわち互いに軸干渉を生じ得る複数の軸の全て(図3(B)の例では第1軸21及び第2軸22に対応する)についてイナーシャ比が記憶されているかを判断する(ステップS5)。
【0041】
ステップS5においてYesと判断された場合には、イナーシャ比設定部は、各軸に対するイナーシャ―比の推定値をイナーシャ比取得部91から読み出して、各軸に対応するサーボドライバ5,6に送信する。サーボドライバ5,6は、ドライバ通信部54,64を介して受信したイナーシャ比の推定値を記憶部53,63に記憶し、制御部51,61が更新に用いるイナーシャ比として設定し、一連の処理を終了する。
【0042】
ステップS5においてNoと判断された場合には、iをインクリメントし(ステップS7)、次の軸(ここでは第2軸)について、ステップS2~ステップS4の処理を繰り返す。そして、軸干渉が生じ得る複数の軸が二軸である場合には、ステップS5においてYesと判断されるので、ステップS6に進む。
【0043】
このように、軸干渉を生じ得る負荷機械2を駆動・制御する制御システム1において、制御パラメータを調整する際に、各軸の状況に応じたイナーシャ比を正確に推定することができる。
【0044】
〔実施例2〕
本実施例に係る調整支援装置9を含む制御システム1の構成は実施例1と同じであるので、実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
図6は、本実施例に係るサーボドライバ5,6及び調整支援装置9によるイナーシャ比の更新までの流れを示すフローチャートである。本実施例では、軸干渉を生じ得る複数軸のそれぞれについてイナーシャ比を推定する際に、関連軸についてゲイン及びイナーシャ比を同じ値に設定する(ステップS11)。このように設定した後に、負荷機械2によって、軸干渉を生じ得る複数の軸を含む位置決め動作(ステップS2)以降の処理を行う。ステップS2以降の処理は実施例1と同じであるため、説明は繰り返さない。イナーシャ比の推定の対象となっている軸以外の関連軸については、対象となっている軸のイナーシャ比の推定が完了するまで、ステップS11において設定されたゲイン及びイナーシャ比に固定される。
【0045】
関連軸の軸制御の応答性が異なる状態でイナーシャ比の推定を行うと、ある軸の応答性が高くなり、その軸が大きなトルクを出力して動作することになり、イナーシャ比を正確に推定できない場合がある。しかし、上述のように、イナーシャ推定時に関連軸のゲイン及びイナーシャ比を同じ値に設定することにより、関連軸の軸制御の制御側の応答性を等しくすることができるので、イナーシャ比を正解に推定することができる。
なお、本実施例のように、軸制御の制御側の応答性を関連軸について同等となるように設定しても、各自によって駆動される実負荷が異なる場合には、負荷機械2における応答は異なるものとなる。しかし、関連軸の制御を位置制御で行う場合には、負荷が大きい分だけトルクを出力することとなるため、関連軸間で実負荷の配分が異なっていても正確なイナーシャ比を推定することができる。
【0046】
〔実施例3〕
図7は、本実施例に係る調整支援装置及びサーボドライバの概略構成を示すブロック図である。実施例1及び実施例2と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。
本実施例では、調整支援装置19が、イナーシャ比取得部91及びイナーシャ比設定制御部92に加えて、妥当性判断部93を有する。この妥当性判断部93は、サーボドライバ5,6から取得したイナーシャ比が妥当であるか否かを判断する。これは、負荷機械2においてイナーシャ比の推定のために位置決め動作を試行する際に、この動作が加速度の低い動作である場合には、動作時のトルクがイナーシャ比によるものではなく、摩擦によるものと推定されるからである。
【0047】
このようなイナーシャ比の推定値が妥当であるか否かの判断方法の例について説明する。イナーシャ比が推定される際には、動摩擦、粘性摩擦及び偏荷重も併せて推定されることが多いため、これらのパラメータによって(偏荷重+動摩擦+粘性摩擦)/イナーシャ比を判定値とする。負荷機械2の位置決め動作の加速度が小さい領域では、イナーシャ比が摩擦として推定されるために、イナーシャ比が小さく判定値が大きく表れる。一方で、負荷機械2の位置決め動作の加速度が大きい領域では、イナーシャ比の推定値はほぼ一定値となり、判定値は減少する。このような判定値の特定から、イナーシャ比の妥当性の判断条件として、判定値が1以上である場合に妥当でないと判断し、判定値が1未満である場合に妥当であると判断するようにする。これはイナーシャ比の推定値の妥当性条件の一例であるから、他の条件によってイナーシャ比の推定値の妥当性を判断してもよい。
【0048】
<イナーシャ比調整方法>
図8は、本実施例に係るイナーシャ比調整方法としての、サーボドライバ5,6及び調整支援装置19によるイナーシャ比の更新までの流れを示すフローチャートである。本実施例では、位置決め動作を試行し(ステップS2)、第i軸のイナーシャ比の推定に加えて、偏荷重、動摩擦、粘性摩擦を推定する(ステップS21)。そして、ステップS21において、これらの推定値を、イナーシャ比取得部91がサーボドライバ5,6からドライバ通信部54,64を介して取得し、妥当性判断部93が、これらの推定値から判定値を算出し、妥当性条件を満たすか否かを判断する(ステップS22)。
【0049】
ステップS22において、妥当性条件を満たすと判断した場合、すなわち判定値が1未満である場合はステップS4に進む。
ステップS22において、妥当性条件を満たさないと判断した場合、すなわち判定値が1以上である場合は、ステップS11に戻る。ステップS11以降の処理を行う際には、イナーシャ設定制御部は、サーボドライバ5,6に位置決め動作の加速度を上げてイナーシャ比等の推定を行わせる。このとき、イナーシャ設定制御部は、メッセージを表示する等により、ユーザに位置決め動作の加速度を上げるように促してもよい。
【0050】
このようにすれば、推定されたイナーシャ比の妥当性が判断されるので、より正確なイナーシャ比の推定が可能となる。
【0051】
〔実施例4〕
<装置構成>
図9は、本実施例に係る制御システム11の概略構成を示すブロック図である。本実施例は、実施例1に係る制御システム1における調整制御装置を備えておらず、実施例1とはサーボドライバの構成が異なる。実施例1と同じ構成については同じ符号を付して説明を省略する。図10は、本実施例に係るサーボドライバ15,16の概略構成を示すブロック図である。図11は、サーボドライバ15,16における推定イナーシャ比の設定同期処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、サーボドライバが、イナーシャ比を調整するためのプログラムを実行するコンピュータに対応する。
【0052】
サーボドライバ15,16は、それぞれ制御部51,61、イナーシャ推定部、記憶部53,63、ドライバ通信部54,64に加えて、設定同期部55,65を有する。互いに軸干渉を生じ得る複数の軸、すなわち関連軸に含まれる複数の軸は、関連軸に含まれる軸を識別する識別情報と当該軸のイナーシャ比推定に関する情報であるイナーシャ比推定フラグを関連付けたイナーシャ比推定テーブルを保有している。関連軸に含まれるいずれの軸もイナーシャ比推定を行っていない状態では、イナーシャ比推定フラグの値は0に設定されている。関連軸に含まれる複数の軸がイナーシャ比を推定する順序は予め定めておく。
【0053】
図11を参照して、本実施例に係るイナーシャ比調整方法としての、サーボドライバ15,16における推定イナーシャ比の設定同期処理の流れを説明する。
まず、設定同期部55,65では、イナーシャ比推定が許可されているか否かを判断する(ステップS31)。すなわち、自らの軸にイナーシャ比推定の順番が巡ってきているかを判断する。第1軸21が関連軸に含まれる軸のうち最初にイナーシャ比推定を行うべき軸であれば、関連軸に含まれる他の軸の状況にかかわらず、ステップS31でYesと判断される。このときは、負荷機械2によって、関連軸を含む位置決め動作を試行し(ステップS32)、第1軸21のサーボドライバ15,16のイナーシャ推定部がイナーシャ比推定を行う(ステップS33)。
【0054】
第1軸21のイナーシャ比の推定が完了すると、設定同期部55は、自らが保有するイナーシャ比推定テーブルにおける第1軸21のイナーシャ比推定フラグの値を1に更新する(ステップS34)。そして、設定同期部55は、ドライバ通信部54を介して、関連軸に含まれる他の軸、例えば第2軸のサーボドライバ16に対して、第1軸21の識別情報とイナーシャ比推定フラグの値1を送信する(ステップS35)。
【0055】
第2軸のサーバドライバ16の設定同期部65は、第1軸21からこの情報を受信すると、第1軸21についてイナーシャ比推定フラグを1に更新する。関連軸に含まれる複数の軸のうち次にイナーシャ比推定を行うべき軸、ここでは第2軸のサーボドライバ16の設定同期部65では、予め定めれた順序で直前にイナーシャ比推定を行うこととされている軸についてのイナーシャ比推定フラグが0となっている場合には、イナーシャ比推定を行わない。すなわち、第2軸では、イナーシャ比推定が許可されていないので、ステップS31においてNoと判断され、イナーシャ比推定が許可されるのを待機する。ここでは、第2軸のサーボドライバ16が保有するイナーシャ比推定テーブルでは、直前にイナーシャ比推定を行うこととされている第1軸21についてのイナーシャ比推定フラグが1に更新されており、ステップS31においてYesと判断される。従って、第2軸のサーボドライバ16の設定同期部65は、イナーシャ比推定部62にイナーシャ比の推定を行わせる(ステップS32)。第2軸のイナーシャ比の推定が完了すると、同様に、イナーシャ比推定テーブルのイナーシャ比推定フラグを1に更新する(ステップS34)とともに、関連軸に含まれる他の軸に対して、第2軸の識別情報とイナーシャ比推定フラグの値1を送信する(ステップS35)。
【0056】
第1軸21に関する処理に戻ると、第1軸21では、設定同期部55がドライバ通信部54を介して、関連軸に含まれる他の軸である第2軸からの識別情報とイナーシャ比推定フラグを受信する(ステップS36)。そして、イナーシャ比推定テーブルにおける第2軸のイナーシャ比推定フラグを1に更新する(ステップS37)。このように、関連軸に含まれる複数の軸で、順番にイナーシャ比推定が行われる。
【0057】
そして、予め定められた順序において最後にイナーシャ比推定を行うこととされている軸についてのイナーシャ比推定が完了し、イナーシャ比推定テーブルにおいて関連軸に含まれる全ての軸についてイナーシャ比推定フラグが1に更新されるのを待機する(ステッ
プS38)。そして、関連軸に含まれる全ての軸についてイナーシャ比推定フラグが1タイミングで、各軸のサーボドライバ15,16の設定同期部55,56は、自らの軸のイナーシャ比推定値を記憶部53,63に記憶させて、イナーシャ比を更新する(ステップS39)。
【0058】
このようにすれば、軸干渉を生じ得る複数の軸についてイナーシャ比推定のタイミングが揃えられるので、正確なイナーシャ比の推定が可能となる。
【0059】
ここでは、軸干渉を生じ得る軸が二つである場合を示しているが、軸干渉を生じ得る軸が三つ以上ある場合には同様に、ドライバ通信部を介して、各サーボドライバ間で行う。
本実施例においても、イナーシャ比を推定する際に、関連軸に含まれる他の軸においてゲイン及びイナーシャ比を同じ値に設定するようにしてもよい。また、イナーシャ比を推定する際に妥当性を判断するようにしてもよい。
また、図4と同様に、ドライバ通信部54,64が、コントローラ7の信号中継部71を介して通信するようにしてもよい。
【0060】
〔変形例〕
実施例1の制御システム1においては、サーボドライバ5,6を制御するコントローラ7を介して、調整支援装置9が接続されていたが、制御システムの構成はこれに限られない。図12には、実施例1の変形例に係る制御システム31の構成を示す。制御システム31では、サーボドライバ5,6はそれぞれコントローラ7,8によって制御される。そして、調整支援装置9は、コントローラ7,8を介することなく、サーボドライバ5,6と接続されている。サーボドライバ5,6及び調整支援装置9の構成及び動作については、図4に示した制御システム1におけるものとコントローラ7の信号中継部71による信号の中継が省略されている点を除いて同一であるため、詳細な説明は省略する。
また、実施例4の制御システム11においては、サーボドライバ5,6を制御するコントローラ7を介して、調整支援装置9が接続されていたが、制御システムの構成はこれに限られない。図13には、実施例4の変形例に係る制御システム41の構成を示す。制御システム41では、サーボドライバ5,6はそれぞれコントローラ7,8によって制御される。サーボドライバ5,6の構成及び動作については、図10に示した制御システム11におけるものと同一であるため、詳細な説明は省略する。
【0061】
なお、以下には本発明の構成要件と実施例の構成とを対比可能とするために、本発明の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<発明1>
複数のサーボモータ(3,4)の制御パラメータの調整を支援する調整支援装置(9)であって、
前記サーボモータ(3,4)によって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含むパラメータを取得するパラメータ取得部(91)と、
前記サーボモータを制御する際のイナーシャ比を含むパラメータを設定させるパラメータ設定制御部(92)と、
を備え、
前記パラメータ設定制御部(92)は、前記パラメータ取得部(91)が、前記イナーシャ比の推定値を複数の前記サーボモータの全て(3,4)について取得した後に、複数の前記サーボモータの全て(3,4)について、取得された該イナーシャ比を設定させることを特徴とする調整支援装置(9)。
<発明2>
複数のサーボモータ(3,4)をそれぞれ制御するサーボドライバ(15,16)であって、
前記サーボモータ(3,4)を制御する制御部(51,61)と、
前記サーボモータ(3,4)によって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含むパラメータを推定するパラメータ推定部(52,62)と、
複数の前記サーボモータ(3,4)のそれぞれにおける前記パラメータの推定値の前記制御部(51,61)への設定を同期させる設定同期を備えたことを特徴とするサーボドライバ。
<発明3>
複数のサーボモータ(3,4)の制御パラメータ調整方法であって、
複数の前記サーボモータ(3,4)のそれぞれによって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含む制御パラメータを、複数の前記サーボモータの全てについて取得するステップと、
取得した前記制御パラメータを、複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして設定するステップ、
を含む複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法。
<発明4>
複数のサーボモータ(3,4)の制御パラメータ調整方法であって、
複数の前記サーボモータ(3,4)のそれぞれが、該サーボモータ(3,4)によって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含む制御パラメータを推定するステップと、
複数の前記サーボモータ(3,4)のうち他の全てのサーボモータに対する前記制御パラメータの推定が完了するのを待って、前記複数の前記サーボモータのそれぞれを制御する際の制御パラメータとして、前記推定された制御パラメータを設定するステップを含む複数のサーボモータの制御パラメータ調整方法。
<発明5>
複数のサーボモータ(3,4)の制御パラメータを調整するためのプログラムであって、
複数の前記サーボモータ(3,4)のそれぞれによって駆動される負荷に対するイナーシャ比の推定値を含む制御パラメータを、複数の前記サーボモータ(3,4)の全てについて取得するステップと、
取得した前記パラメータを、複数の前記サーボモータ(3,4)のそれぞれを制御する際の制御パラメータとして設定するステップ、
をコンピュータに実行させるプログラム
<発明6>
複数のサーボモータ(3,4)の制御パラメータ調整するためのプログラムであって、
複数の前記サーボモータ(3,4)のそれぞれが、該サーボモータ(3,4)によって駆動される負荷に対するイナーシャ比を含む制御パラメータを推定するステップと、
複数の前記サーボモータ(3,4)のうち他の全てのサーボモータに対する前記制御パラメータの推定が完了するのを待って、前記複数の前記サーボモータ(3,4)のそれぞれを制御する際の制御パラメータとして、前記推定された制御パラメータを設定するステップ、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0062】
3,4 サーボモータ、9 調整支援装置、15,16 サーボドライバ、21 第1軸、22 第2軸、23 機械要素、55,56 設定同期部、91 イナーシャ比取得部、92 イナーシャ比設定制御部、93 妥当性判断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13