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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】電線被覆材用樹脂組成物及び絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20220817BHJP
   C08L 75/06 20060101ALI20220817BHJP
   C08L 75/08 20060101ALI20220817BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20220817BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20220817BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L75/06
C08L75/08
H01B3/44 B
H01B3/30 B
H01B3/30 P
H01B7/02 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019053175
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020152835
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松本 和樹
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-092345(JP,A)
【文献】特開昭63-068654(JP,A)
【文献】特開平07-082448(JP,A)
【文献】特開2015-042730(JP,A)
【文献】特開2016-201220(JP,A)
【文献】特開平07-011125(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109585072(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
H01B 3/44
H01B 3/30
H01B 7/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用樹脂組成物において、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を10~100質量部、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを50~150質量部含有する電線被覆材用樹脂組成物であって、該熱可塑性ポリウレタンエラストマーが少なくとも下記成分(A)及び成分(B)のポリウレタンエラストマーを含む電線被覆材用樹脂組成物。
成分(A):ポリカーボネートポリオール(a)とポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(α)と、水酸基を有する化合物との反応生成物であるポリウレタンエラストマー
成分(B):ポリエーテルポリオール(b)とポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(β)と、水酸基を有する化合物との反応生成物であるポリウレタンエラストマー
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の前記成分(B)に対する前記成分(A)の割合が、0.5~40質量%である、請求項1に記載の電線被覆材用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電線被覆材用樹脂組成物を電線被覆材に用いた絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線被覆材用樹脂組成物及び絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリ塩化ビニルを含有するポリ塩化ビニル含有組成物を用いた電線被覆材料が知られている。この種の電線被覆材料には、柔軟性を付与するなどの目的で、通常可塑剤が配合されている。
また、ポリ塩化ビニル含有組成物に物理特性を付与するために熱可塑性ポリウレタンエラストマーを配合したものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、可塑剤のブルーミング、他の絶縁電線が有する絶縁体への可塑剤の移行を抑制しつつ、柔軟性を向上させた絶縁電線として、導体と該導体の外周を被覆する絶縁体とを有し、絶縁体が塩素含有樹脂とポリウレタン系熱可塑性エラストマーとを含有する絶縁電線が記載されている。
【0004】
特許文献2には、耐外傷性、低温屈曲性、耐引き裂き性に優れる電線被覆用組成物として、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を15~30質量部、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを0.01~10質量部含有する電線被覆用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-130240号公報
【文献】特開2016-91975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~2に記載の電線被覆材用樹脂組成物は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの配合で、物理特性は改善されているものの、引張強度や低温特性については、用いる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの種類や配合量によっては、熱可塑性ポリウレタンエラストマー由来の柔軟化作用が働くことで、結果として低下してしまうことがあった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、引張強度および低温特性に優れ、特に脆化温度が低減された電線被覆材用樹脂組成物と、この電線被覆材用樹脂組成物を用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとしてポリカーボネートポリオールを構成単位として含むポリウレタンエラストマーとポリエーテルポリオールを構成単位として含むポリウレタンエラストマーとを併用することで、引張強度および低温特性を共に改善することができることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] ポリ塩化ビニルを含有する電線被覆材用樹脂組成物において、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を10~100質量部、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを50~150質量部含有する電線被覆材用樹脂組成物であって、該熱可塑性ポリウレタンエラストマーが少なくとも下記成分(A)及び成分(B)のポリウレタンエラストマーを含む電線被覆材用樹脂組成物。
成分(A):ポリカーボネートポリオール(a)とポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(α)と、水酸基を有する化合物との反応生成物であるポリウレタンエラストマー
成分(B):ポリエーテルポリオール(b)とポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(β)と、水酸基を有する化合物との反応生成物であるポリウレタンエラストマー
【0010】
[2] 前記熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の前記成分(B)に対する前記成分(A)の割合が、0.5~40質量%である、[1]に記載の電線被覆材用樹脂組成物。
【0011】
[3] [1]又は[2]に記載の電線被覆材用樹脂組成物を電線被覆材に用いた絶縁電線。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、引張強度が高く、低温特性に優れ、脆化温度が低いため低温地域での使用に特に好ましい電線被覆材用樹脂組成物及び絶縁電線が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0014】
[電線被覆材用樹脂組成物]
本発明の電線被覆材用樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル100質量部に対し、可塑剤を10~100質量部、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを50~150質量部含有する電線被覆材用樹脂組成物であって、該熱可塑性ポリウレタンエラストマーが少なくとも下記成分(A)及び成分(B)のポリウレタンエラストマーを含むことを特徴とする。
成分(A):ポリカーボネートポリオール(a)とポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(α)と、水酸基を有する化合物との反応生成物であるポリウレタンエラストマー
成分(B):ポリエーテルポリオール(b)とポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(β)と、水酸基を有する化合物との反応生成物であるポリウレタンエラストマー
【0015】
本発明では、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、上記成分(A)及び成分(B)の異なる構造を有するポリウレタンエラストマーを併用することにより、引張強度と低温特性、特に脆化温度が改善される。このような効果が奏される理由としては、ポリエーテルポリオール(b)に含まれるエーテル基のみでは熱可塑性ポリウレタンエラストマーの極性が低く、ポリ塩化ビニルや可塑剤との相溶性が低い傾向あるが、ポリカーボネートポリオール(a)に含まれるカーボネート基によって、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの極性が上がり、極性を持つポリ塩化ビニルとの相溶性が増すことによると推定される。
【0016】
<ポリ塩化ビニル>
本発明で用いるポリ塩化ビニル(以下、PVCと略記することがある。)は、塩化ビニルモノマーの単独重合体又は塩化ビニルモノマー及び塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体であれば、その種類は限定されない。
【0017】
塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類;ジブチルマレエート、ジエチルマレエート等のマレイン酸エステル類;ジブチルフマレート、ジエチルフマレート等のフマール酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルブチルエーテル、ビニルオクチルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;エチレン、プロピレン、スチレン等のα-オレフィン類;塩化ビニリデン、臭化ビニル等の塩化ビニル以外のハロゲン化ビニリデン又はハロゲン化ビニル類;ジアリルフタレート、エチレングリコールジメタクリレート等の多官能性モノマーが挙げられるが、使用されるモノマーは、上述のものに限定されるものではない。これらのモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
ポリ塩化ビニルの製造に、上記の塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーを用いる場合、該モノマーはポリ塩化ビニルの構成成分中、30質量%以下の範囲となるように用いることが好ましく、20質量%以下の範囲となるように用いることがより好ましい。
【0019】
ポリ塩化ビニルの製造方法は特に制限されず、例えば、懸濁重合法、塊状重合法、微細懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合等の通常の方法を用いることができる。この中で特に好ましくは懸濁重合法を用いたものであり、なおかつグレイン構造(懸濁重合したポリ塩化ビニルに見られる特徴的な構造であり、内部にポロシティが存在する。混練を行うと、この構造は破壊されて消失する。)を維持した状態にある粉末状のものである。この状態にあるポリ塩化ビニルは、特に液体状の化学物質を混和しやすいため、本発明の電線被覆材用樹脂組成物に適している。
【0020】
ポリ塩化ビニルの平均重合度は、その加工性、成形性、物理特性から、JIS K6721に基づいた平均重合度が700~6,500であることが好ましく、より好ましくは1,100~4,000である。平均重合度が上記下限値以上であれば、得られる電線被覆材用樹脂組成物の物理特性がより良好となる傾向にあり、また上記上限値以下であると加工性、成形性がより良好となる傾向にある。
【0021】
ポリ塩化ビニルは市販のものを使用することができる。
【0022】
本発明において、ポリ塩化ビニルは、1種のみを用いてもよく、共重合組成や共重合モノマーの種類、平均重合度等の異なるポリ塩化ビニルの2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
<可塑剤>
可塑剤としては、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)、又は炭素原子数10~13程度の高級アルコール又は混合アルコールのフタル酸エステル等のフタル酸エステル系可塑剤;ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジ-n-オクチルアジペート、ジ-n-デシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等の脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤;トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ-n-オクチル-n-デシルトリメリレート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;トリブチルホスフェート、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリフェニルホスフェート、トリキシリルホスフェート、トリオクチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクロロエチルホスフェート、トリス(2-クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)-2,3-ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸テトラヘプチルエステル等のビフェニルテトラカルボン酸テトラアルキルエステル系可塑剤;ポリエステル系高分子可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化綿実油、液状エポキシ樹脂等のエポキシ系可塑剤;塩素化パラフィン;五塩化ステアリン酸アルキルエステル等の塩素化脂肪酸エステル等を挙げることができる。
【0024】
これらの中でも、ポリ塩化ビニルとの相溶性が良好であるという観点から極性基を有する可塑剤を用いることが好ましく、中でも、フタル酸エステル系可塑剤が好ましく、より好ましくは、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、ジウンデシルフタレート(DUP)であり、特に好ましくは、ジイソノニルフタレート(DINP)である。
【0025】
可塑剤は市販のものを使用することができる。
【0026】
これらの可塑剤は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明の電線被覆材用樹脂組成物の可塑剤の含有量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対し10~100質量部であるが、好ましくは20~90質量部であり、より好ましくは30~70質量部である。可塑剤の含有量が上記下限以上であれば、可塑剤を含有することによる柔軟性付与効果を十分に発揮させることができ、上記上限以下であれば成形体にする際の加工成形性が高くなる傾向にある。
【0028】
<熱可塑性ポリウレタンエラストマー>
本発明における熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、下記成分(A)及び成分(B)のポリウレタンエラストマーを必須成分として含む。
成分(A):ポリカーボネートポリオール(a)とポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(α)と、水酸基を有する化合物との反応生成物であるポリウレタンエラストマー
成分(B):ポリエーテルポリオール(b)とポリイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(β)と、水酸基を有する化合物との反応生成物であるポリウレタンエラストマー
【0029】
成分(A)のウレタンプレポリマー(α)に用いられるポリカーボネートポリオール(a)としては、例えば、炭酸エステル及び/又はホスゲンと、2個以上の活性水素を有する化合物とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0030】
炭酸エステルとしては、例えば、メチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルカーボネート、ジエチルカーボネート、シクロカーボネート、ジフェニルカーボネート等を用いることができる。これらの炭酸エステルは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
2個以上の活性水素を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパン、イソソルバイド、ペンタエリスリトール等の脂肪族ポリオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環式ポリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールS、ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、柔軟性及び強度を維持し、低粘度性及び耐水性をより一層向上できる点から、脂肪族ポリオールを用いることが好ましく、1,6-ヘキサンジオールを用いることがより好ましい。
【0032】
ポリカーボネートポリオール(a)の数平均分子量としては、柔軟性、強度及び耐水性の点から、500~5,000の範囲であることが好ましく、800~4,000の範囲がより好ましい。
【0033】
なお、ポリカーボネートポリオール(a)の数平均分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定することができる。
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:標準ポリスチレン
【0034】
成分(B)のウレタンプレポリマー(β)に用いられるポリエーテルポリオール(b)としては、例えば、ポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンポリオール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール等が挙げられる。これらのポリエーテルポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、柔軟性、強度及び耐水性の点から、ポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール、ポリテトラメチレンポリオールを用いることが好ましい。
【0035】
ポリエーテルポリオール(b)の数平均分子量としては、柔軟性、強度及び耐水性の点から、500~5,000の範囲であることが好ましく、800~4,000の範囲がより好ましい。
【0036】
なお、ポリエーテルポリオール(b)の数平均分子量は、ポリカーボネートポリオール(a)の数平均分子量と同様に測定した値を示す。
【0037】
本発明に係るウレタンプレポリマー(α),ウレタンプレポリマー(β)の製造には、必要に応じてポリカーボネートポリオール(a)及び前記ポリエーテルポリオール(b)以外にその他のポリオールを併用してもよい。
前記その他のポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ダイマージオール、前記2個以上の活性水素を有する化合物等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
ただし、これらのその他のポリオ-ルを併用する場合、ポリカーボネートポリオール(a)又はポリエーテルポリオール(b)を用いることによる本発明の効果をより有効に得る上で、ポリカーボネートポリオール(a)又はポリエーテルポリオール(b)とその他のポリオールとの合計に対するその他のポリオールの割合が5%以下、特に3%以下であることが好ましい。
【0038】
ウレタンプレポリマー(α),(β)の製造に用いるポリイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-体、2,4’-体、又は2,2’-体、若しくはそれらの混合物)、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体、ヌレート変性体、ビュレット変性体、ウレタンイミン変性体、ジエチレングリコールやジプロピレングリコール等の数平均分子量1,000以下のポリオールで変性したポリオール変性体等のジフェニルメタンジイソシアネート変性体、トルレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートなどが挙げられる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐水性をより一層向上できる点から、芳香族ポリイソシアネートを用いることが好ましく、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを用いることがより好ましい。
【0039】
ポリカーボネートポリオール(a)又はポリエーテルポリオール(b)とポリイソシアネートとの反応は、柔軟性、強度及び耐水性の点から、ポリカーボネートポリオール(a)又はポリエーテルポリオール(b)が有する水酸基の合計(その他のポリオールを用いる場合は、その他のポリオールの水酸基との合計)と、ポリイソシアネートが有するイソシアネート基とのモル比(NCO/OH)が、1.5~30の範囲となるように行うことが好ましく、2~20の範囲がより好ましく、4~15の範囲が更に好ましい。
【0040】
ポリカーボネートポリオール(a)又はポリエーテルポリオール(b)とポリイソシアネートとの反応により得られるウレタンプレポリマー(α)又はウレタンプレポリマー(β)は、いずれもイソシアネート基を有するものであり、そのイソシアネート基当量としては、耐水性をより一層向上できる点から、150~1,000g/eq.の範囲であることが好ましく、200~500g/eq.の範囲がより好ましい。
【0041】
ウレタンプレポリマー(α)又はウレタンプレポリマー(β)と反応させる水酸基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用することができる。これらの中でも、耐水性をより一層向上できる点から、1,4-ブタンジオールを用いることが好ましい。
【0042】
成分(A),(B)のポリウレタンエラストマーとしては、市販のポリウレタンエラストマーを用いることができる。例えば、成分(A)のポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエラストマーとしては、具体的には、DICコベストロポリマー社製のパンデックスT9280、T9290があり、成分(B)のポリエーテルポリオール系ポリウレタンエラストマーとしては、同T8175、T8180、T8185、T8190、T8195、T8198などを用いることができる。
【0043】
本発明において、成分(A)のポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエラストマーは、1種のみを用いてもよく、構成単位のポリカーボネートポリオール(a)の種類や数平均分子量等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。また、成分(B)のポリエーテルポリオール系ポリウレタンエラストマーについても、1種のみを用いてもよく、構成単位のポリエーテルポリオール(b)の種類や数平均分子量等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
本発明で用いる熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、上記成分(A)と成分(B)とを含むものであるが、熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の成分(B)に対する成分(A)の割合は0.5~40質量%、特に5~30質量%、とりわけ10~20質量%であることが好ましい。この割合が上記範囲内であれば、成)と成分(B)とを併用することによる本発明の効果を有効に得ることができる。
【0045】
なお、本発明で用いる熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、成分(A)及び成分(B)以外の他の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含有するものであってもよいが、成分(A)と成分(B)とを併用することによる本発明の効果をより有効に得る観点から、熱可塑性ポリウレタンエラストマー中の成分(A)及び成分(B)以外の熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量は5質量%以下、特に0~1質量%であることが好ましい。
【0046】
本発明の電線被覆材用樹脂組成物の熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して、50~150質量部であるが、好ましくは80~140質量部、より好ましくは120~130質量部である。
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量が上記下限以上であれば、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含有することによる柔軟性や耐熱性等の物性向上効果を有効に得ることができ、上記上限以下であれば引張強度や耐寒性等の物性向上効果を有効に得ることができる。
【0047】
<その他の成分>
本発明の電線被覆材用樹脂組成物は、上記ポリ塩化ビニル、可塑剤及び熱可塑性ポリウレタンエラストマー以外に、その他の成分として、熱安定剤、可塑剤、滑材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、発泡剤、衝撃改良剤等の各種添加剤や充填材等を、本発明の効果を著しく阻害しない限り、必要に応じて含有することができる。
【0048】
例えば、本発明の電線被覆材用樹脂組成物は、必要に応じて安定剤を含むことが好ましい。安定剤としては三塩基性硫酸鉛、ケイ酸鉛、塩基性炭酸鉛等の無機塩類、鉛、カドミウム、バリウム、カルシウム、亜鉛等の金属の有機酸塩を主体とする金属石ケン、前述金属を少なくとも2種含むもの、例えばBa-Zn、Ca-Zn、Cd-Ba等の脂肪酸コンプレックス又は脂肪酸(ホスファイト)系、カルボキシレート(ホスファイト)系の複合金属石ケン又は複合液状金属石ケン、有機スズ系化合物等の1種又は2種以上が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明の電線被覆材用樹脂組成物が安定剤を含有する場合、安定剤の含有量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して0.1~30質量部、特に1~15質量部とすることが好ましい。
【0050】
本発明の電線被覆材用樹脂組成物はまた、必要に応じて充填材を含有することが好ましい。充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどを挙げることができる。これらは1種または2種以上を併用することができる。
【0051】
充填材の平均粒径は、好ましくは0.01~20μm、より好ましくは0.02~10μm、さらに好ましくは0.03~8μmの範囲内である。充填材の平均粒径を0.01μm以上とすることにより、充填材の二次凝集による機械物性の低下を抑制しやすくなる。また、充填材の平均粒径を20μm以下とすることにより、得られる絶縁電線の外観不良が生じにくくなる。
なお、充填材の平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径(直径)d50である。
【0052】
上記充填材は市販品を用いることができ、炭酸カルシウムとしては、具体的には備北粉化工社製のソフトン1200、ソフトン2200などを用いることができる。
【0053】
本発明の電線被覆材用樹脂組成物が充填材を含有する場合、その含有量は、ポリ塩化ビニル100質量部に対して1~100質量部、特に5~50質量部とすることが好ましい。充填材の含有量が少な過ぎると充填材の添加効果を十分に得ることができなくなる傾向にあり、多過ぎると機械的物性や成形性が損なわれる傾向にある。
【0054】
上記の成分の他にも、本発明の電線被覆材用樹脂組成物には、可塑化を制御する目的でポリエチレンワックス等を配合することもできる。
【0055】
<電線被覆材用樹脂組成物の製造方法>
本発明の電線被覆材用樹脂組成物は、例えば、ベース樹脂となるポリ塩化ビニルに、可
塑剤、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、および、必要に応じて添加される各種添加成
分を配合し、加熱混練することにより製造することができる。この際、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸押出機、ロールなどの通常の混練機を用いることができる。加熱混練する前に、タンブラーなどで予めドライブレンドしてもよい。加熱混練後は、混練機から取り出して組成物を得る。その際、ペレタイザーなどで当該組成物をペレット状に成形してもよい。
【0056】
<用途>
本発明の電線被覆材用樹脂組成物は、電線被覆材として用いられるものであるが、電線被覆材に限らず、電線保護管;チューブ;雑貨等の他の分野で用いることもできる。
【0057】
[絶縁電線]
本発明の絶縁電線は、本発明の電線被覆材用樹脂組成物を、導体の外周を被覆する電線被覆材に用いたものである。
【0058】
本発明の絶縁電線において、導体としては、例えば、絶縁電線の柔軟性向上等の観点から、複数本の金属素線が撚り合わされてなる金属撚り線などを用いることができる。金属撚り線は、複数本の金属素線が一括で撚り合わされていてもよいし、複数回に分けて撚り合わされていてもよい。上記金属撚り線は、具体的には、複数本の金属素線が撚り合わされてなる複金属撚り線がさらに複数本撚り合わされてなる構成とすることができる。この場合には、導体断面積が比較的大きくなった場合でも、導体中に隙間が多く形成されるため、絶縁電線の柔軟性向上に有利である。導体を構成する金属(合金含む)としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0059】
上記導体の長さ方向に直交する断面の断面積は、上記作用効果を十分に発揮できるなどの観点から、好ましくは3~50mm、より好ましくは5~50mmである。
【0060】
このような導体を被覆する本発明の電線被覆材用樹脂組成物よりなる電線被覆材の厚みは、絶縁電線の柔軟性向上と耐摩耗性等の電線特性の確保とのバランスなどの観点から、好ましくは0.1~3mm、より好ましくは0.2~2.5mmである。
【0061】
本発明の絶縁電線は、自動車等の車両、電子・電気機器等に使用することができる。より具体的には、本発明の絶縁電線は、ハイブリッド車や電気自動車等に用いられるパワーケーブル等に好適に適用することができるが、何らこれらの用途に限定されるものではない。
【実施例
【0062】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0063】
[使用原料]
以下の実施例及び比較例において用いた原料は以下の通りである。
【0064】
ポリ塩化ビニル:信越化学社製 PVC 平均重合度1300
【0065】
可塑剤:ジェイプラス社製 ジイソノニルフタレート(DINP)
【0066】
ポリウレタン系熱可塑性エラストマー:
成分(A):ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエラストマー
DICコベストロポリマー社製 T9280N
(ポリヘキサメチレンカーボネートジオール含有ポリウレタンエラストマー)
成分(B):ポリエーテルポリオール系ポリウレタンエラストマー
DICコベストロポリマー社製 T8185N
(ポリプロピレングリコール含有ポリウレタンエラストマー)
【0067】
熱安定剤1:ADEKA社製 Ca/Zn系 RUP106
熱安定剤2:ADEKA社製 過塩素酸バリウム CPS55R
酸化防止剤:ADEKA社製 フェノール系酸化防止剤 AO-60
ワックス:三井化学社製 ハイワックスNL100
充填材:備北粉化工業社製 ソフトン1200(炭酸カルシウム、平均粒径:1.8μm)
【0068】
[実施例1~5、比較例1,2]
表-1に示す各成分を表-1に示す割合で内容量1.0Lの加圧ニーダーへ挿入し、加圧ニーダーのジャケット設定温度10~50℃で混練し、せん断による自己発熱で樹脂温度が180℃になった時点で混練を終了した。得られた混練物をさらに表面温度150℃のオープンロールで厚み2~3mmのシートを成形した後、プレス成形(温度190℃、圧力10MPa)で1mm又は3mm厚みのシートを成形することでプレスシートを得た。得られたプレスシートについて、以下の引張試験及び耐寒性試験を行った。結果を表-1に示す。
【0069】
<引張試験>
プレスシート(厚み1mm)より打ち抜いた3号ダンベル片を23℃、50%RHの環境下に24時間保持した後、JIS C-3005に準拠して引張強度の測定を行った。引張速度は200mm/分とした。
【0070】
<耐寒性試験>
プレスシート(厚み3mm)について、JIS K7261に基づき、低温脆化試験機を用いて低温での50%衝撃脆化温度を測定した。
【0071】
【表1】
【0072】
[評価結果]
表-1に示す通り、熱可塑性ポリウレタン系エラストマーを含まない比較例1では、脆化温度が-21℃となっているが、成分(B)のポリエーテルポリオール系ポリウレタンエラストマー(T8185N)のみを含有する比較例2では脆化温度が-40℃と向上した。しかしながら、この比較例2は引張強度が11.7MPaと悪くなっている。
【0073】
これに対して、実施例1~5に示されるように、比較例2における成分(B)のポリエーテルポリオール系ポリウレタンエラストマー(T8185N)の一部を成分(A)のポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエラストマー(T9280N)に置換していくと、脆化温度だけでなく、引張強度についても向上する。例えば、成分(B)のポリエーテルポリオール系ポリウレタンエラストマー(T8185N)の1質量部を成分(A)のポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエラストマー(T9280N)に置換した実施例1では脆化温度は-40℃から-49℃へ、引張強度は11.7MPaから16.7MPaへいずれも向上している。さらにポリエーテルポリオール系ポリウレタンエラストマー(T8185N)の5質量部をポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエラストマー(T9280N)に置換した実施例2では、脆化温度が-49℃から-70℃へ、さらに引張強度が16.7MPaから23.2MPaへと大きく改善されている。
これらの結果より、本発明によれば、引張強度と低温特性に優れた電線被覆材用樹脂組成物及び絶縁電線が提供されることが分かる。