(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】塗工紙とその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 19/46 20060101AFI20220817BHJP
C09D 5/32 20060101ALI20220817BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220817BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220817BHJP
C09D 153/02 20060101ALI20220817BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220817BHJP
D21H 19/66 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
D21H19/46
C09D5/32
C09D7/61
C09D7/63
C09D153/02
C09D201/00
D21H19/66
(21)【出願番号】P 2019104922
(22)【出願日】2019-06-05
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿野山 恵多
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-328295(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230513(WO,A1)
【文献】特開2016-088979(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106868927(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
C09D 1/00 - 201/10
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の少なくとも片面に、顔料およびバインダー樹脂を含有する塗工層を有する塗工紙であって、
波長380~500nmの可視光線領域に最大吸収ピークを有する有機化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする塗工紙。
【請求項2】
前記塗工層が前記有機化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記塗工層の塗工面における白色度が70~80%である請求項1または請求項2に記載の塗工紙。
【請求項4】
前記塗工層の塗工面におけるa
*値が0~-5.0である請求項1~3のいずれか1項に記載の塗工紙。
【請求項5】
前記塗工層の塗工面におけるb
*値が1.0~10.0である請求項1~4のいずれか1項に記載の塗工紙。
【請求項6】
前記有機化合物が、テトラセン誘導体、ポルフィリン誘導体、カロテン誘導体およびフコキサンチン誘導体から選ばれる少なくとも1つである請求項1~5のいずれか1項に記載の塗工紙。
【請求項7】
前記有機化合物がテトラセン誘導体であり、前記テトラセン誘導体が塗工層の固形分に対して0.01~2質量%の割合で含有される請求項1~6のいずれか1項に記載の塗工紙。
【請求項8】
前記塗工層の塗工量が固形分として片面あたり2~20g/m
2である請求項1~7のいずれか1項に記載の塗工紙。
【請求項9】
前記顔料に占める炭酸カルシウムの割合が60~100質量%である請求項1~8のいずれか1項に記載の塗工紙。
【請求項10】
前記バインダー樹脂がスチレン-ブタジエン系樹脂である請求項1~9のいずれか1項に記載の塗工紙。
【請求項11】
原紙の少なくとも片面に、ブレードコーターまたはロッドブレードコーターを用いて前記塗工層を塗工することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の塗工紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブルーライトの反射を抑制し得る塗工紙とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ブルーライト(青色光)が引き起こす健康上の障害が問題となってきている。ブルーライトとは、可視光線の中でも波長が380~500nmの短波長で高エネルギーの光を指し、青色LEDを使う照明装置等から多く発せられている。書籍等の印刷物を照明装置を用いて読む際に、肉眼がブルーライトに長時間さらされると、眼精疲労、ドライアイ、睡眠障害、肩こり、頭痛などの原因になる場合があると言われている。
【0003】
目に優しくて眼精疲労が少ない紙については、既に複数の先行技術が開示されている。例えば、特許文献1には、少なくとも古紙を含み、特定の数値範囲の白色度、L*a*b*色差表記におけるa*値およびb*値を有する用紙が開示されている。これは、複数の被験者による視覚疲労測定試験を行った結果を基に、使用者が長時間使用しても目が疲れにくい色相と白色度とを規定したものである。
【0004】
また、特許文献2には、基材の少なくとも一方の面に、顔料及び接着剤を主成分とする下塗り塗工層と、上塗り塗工層との2層の塗工層を有する印刷用の塗工紙が開示されている。当該塗工紙の塗工剤には、顔料として脱墨フロスを主原料とした再生顔料凝集体が含有されている。この塗工紙における白紙光沢度は30~50%であり、白紙光沢度と印刷光沢度との差は30%以上であり、写像性試験機による写像性数値は10~35%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3896762号公報
【文献】特許第4027957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の発明では、用紙の白色度と色相を規定しているが、染料や顔料の種類や含有量を規定している訳ではないので、染料や顔料の種類によっては、課題の解消が困難となる可能性を有するものであった。また、特許文献2に記載の発明は、下塗り塗工層と上塗り塗工層の2層の塗工層を有するものである。そして、脱墨フロスを主原料とし、多くの工程を経て製造された再生顔料凝集体を塗工剤の顔料として用いるものであり、生産性や製造コストの面において改善の余地を有するものであった。
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、ブルーライトの反射を抑制し、眼の疲労を軽減することが可能な塗工紙とその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解消するために検討を重ねた。その結果、ブルーライトの波長領域に最大吸収ピークを有する特定の有機化合物を塗工紙に含有させることによって、塗工紙からのブルーライトの反射が抑制され、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下のような構成を有している。
【0009】
(1)原紙の少なくとも片面に、顔料およびバインダー樹脂を含有する塗工層を有する塗工紙であって、波長380~500nmの可視光線領域に最大吸収ピークを有する有機化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする塗工紙。
【0010】
(2)前記塗工層が前記有機化合物を含有することを特徴とする前記(1)に記載の塗工紙。
【0011】
(3)前記塗工層の塗工面における白色度が70~80%である前記(1)または前記(2)に記載の塗工紙。
【0012】
(4)前記塗工層の塗工面におけるa*値が0~-5.0である前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の塗工紙。
【0013】
(5)前記塗工層の塗工面におけるb*値が1.0~10.0である前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の塗工紙。
【0014】
(6)前記有機化合物が、テトラセン誘導体、ポルフィリン誘導体、カロテン誘導体およびフコキサンチン誘導体から選ばれる少なくとも1つである前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の塗工紙。
【0015】
(7)前記有機化合物がテトラセン誘導体であり、前記テトラセン誘導体が塗工層の固形分に対して0.01~2質量%の割合で含有される前記(1)~(6)のいずれか1項に記載の塗工紙。
【0016】
(8)前記塗工層の塗工量が固形分として片面あたり2~20g/m2である前記(1)~(7)のいずれか1項に記載の塗工紙。
【0017】
(9)前記顔料に占める炭酸カルシウムの割合が60~100質量%である前記(1)~(8)のいずれか1項に記載の塗工紙。
【0018】
(10)前記バインダー樹脂がスチレン-ブタジエン系樹脂である前記(1)~(9)のいずれか1項に記載の塗工紙。
【0019】
(11)原紙の少なくとも片面に、ブレードコーターまたはロッドブレードコーターを用いて前記塗工層を塗工することを特徴とする前記(1)~(10)のいずれか1項に記載の塗工紙の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の塗工紙は、ブルーライトの反射を抑制し、眼の疲労を軽減することができる。また、本発明の塗工紙の製造方法は、前記塗工紙を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、具体的な実施形態例を挙げつつ説明する。但し、本発明の実施形態は、以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0022】
[塗工紙]
本実施形態の塗工紙は、原紙の少なくとも片面に塗工層を有している。本実施形態の塗工紙は、当該塗工層側に印刷を施して、印刷用紙として使用され得るものである。印刷方法は、オフセット印刷、活版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等、特に限定されない。
【0023】
(原紙)
原紙は、木材パルプを主成分とすることが好ましい。ここで、「木材パルプを主成分とする」とは、原紙を構成する材料として、木材パルプを50質量%以上含有することを意味している。原紙を構成するパルプとしては、木材パルプであれば特に限定されず、通常製紙用として使用される木材パルプが使用できる。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプ、ストーングランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の未晒、半晒、あるいは晒パルプ、亜硫酸パルプ、脱墨古紙パルプ(DIP)等が挙げられる。
【0024】
原紙のパルプとしては、広葉樹クラフトパルプおよび針葉樹クラフトパルプを含有することが好ましい。広葉樹クラフトパルプは、地合と寸法安定性に優れているため、多量に含有させることが好ましい。一方、針葉樹クラフトパルプは、繊維が太くて長いため、針葉樹クラフトパルプを含有させると、引張強度を増大させて紙を破れにくくさせる。しかし、針葉樹クラフトパルプは、フェザリングが発生する原因となり、細線再現性を低下させるため、多量に含有させることは好ましくない。そこで、広葉樹クラフトパルプと針葉樹クラフトパルプとの質量比は、98:2~60:40とすることが好ましく、95:5~70:30であることがより好ましい。
【0025】
原紙のパルプのJIS P 8121:1995に準じて測定したカナダ標準パルプ濾水度(フリーネス、叩解度)は、原紙の強度、印刷時のインク裏抜け防止等の観点から、400~600mlとすることが好ましく、520~580mlとすることがより好ましい。400ml以上であるとパルプ繊維がつぶれ難いため、原紙の厚みが低下することなく、印刷時のインク裏抜けが発生するのを効果的に抑えることができる。一方、600ml以下であると原紙の強度を向上できる。原紙のパルプの濾水度の調整方法は、公知の各種方法が用いられる。
【0026】
(填料)
原紙には填料を添加することが好ましい。填料を原紙に添加することにより、印刷用インクを原紙内に定着させることができる。填料の種類は特に限定されない。填料としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、ホワイトカーボン、二酸化チタン、カオリン、亜硫酸カルシウム、石膏、非晶質シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられる。また、古紙や損紙等に含まれる填料も再使用できる。填料の含有量は、原紙に対して7~30質量%が好ましく、13~20質量%がより好ましい。
【0027】
(サイズ剤)
原紙にはサイズ剤を添加することが好ましい。サイズ剤を原紙に添加することにより、印刷用インクの裏抜けを抑制することができる。サイズ剤の添加方法は、内添法であっても外添法であってもよい。サイズ剤としては、例えば、ロジン系、アルキルケテンダイマー系、アルケニル無水コハク酸系、スチレン-アクリル系、高級脂肪酸系、石油樹脂系等のサイズ剤が挙げられる。サイズ剤の含有量は、原紙に対して0.01~0.20質量%が好ましく、0.05~0.10質量%より好ましい。
【0028】
原紙にはさらに、他の添加剤を含有させてもよい。他の添加剤としては、硫酸アルミニウム、カチオン化澱粉、カチオン性高分子電解質等に代表される定着剤、ポリアクリルアミド系ポリマー、澱粉等に代表される紙力増強剤、メラミン樹脂、尿素樹脂等の湿潤紙力増強剤、歩留り向上剤、pH調整剤等を挙げることができる。
【0029】
(塗工層)
本実施形態の塗工紙は、原紙の少なくとも片面に、顔料およびバインダー樹脂を含有する塗工層を有している。
【0030】
(顔料)
塗工層には顔料として、炭酸カルシウム、タルク、ホワイトカーボン等が添加される。これらの顔料は、インクの吸収性の向上、インクの裏抜け防止等の目的で添加され、いわゆる着色顔料とは区別される。顔料として、これらの中では、オフセット印刷適性と白紙光沢度の両方の品質に優れるとの理由から、炭酸カルシウムが好ましい。顔料に占める炭酸カルシウムの割合は、60~100質量%が好ましく、70~90質量%がより好ましい。
【0031】
顔料として、さらに、他の種類の顔料を必要に応じて添加してもよい。他の種類の顔料としては、例えば、二酸化チタン、カオリン、亜硫酸カルシウム、石膏、非晶質シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられる。
【0032】
顔料は、合計の含有量として、塗工層の固形分に対して30~95質量%が好ましく、50~80質量%がより好ましい。
【0033】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、原紙上に塗工層を形成するために用いられる。バインダー樹脂は、紙用の塗工層に用いられるものであれば、特に限定されない。バインダー樹脂としては、例えば、水溶性セルロース類、天然水溶性高分子誘導体類、水溶性高分子、樹脂水分散液(ラテックス)等を挙げることができる。ここで、水溶性セルロース類には、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等がある。天然水溶性高分子誘導体類には、アルギン酸、グアーガム、キサンタンガム、プルラン、カゼイン等がある。水溶性高分子には、澱粉、澱粉誘導体、ポリビニルアルコール、カチオン化ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド等がある。澱粉誘導体には、アルキル変性澱粉、カチオン化澱粉、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉等がある。樹脂水分散液の樹脂としては、スチレン-ブタジエン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等がある。これらの中では、オフセット印刷適性と塗工層強度ともに良好という観点から、スチレン-ブタジエン系樹脂の樹脂水分散液(ラテックス)が好ましい。バインダー樹脂としてスチレン-ブタジエン系樹脂を用いる場合、顔料100質量%に対して、スチレン-ブタジエン系樹脂7~26質量%が好ましい。
【0034】
バインダー樹脂の含有量は、塗工層の固形分に対して4~25質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましく、10~15質量%であることがさらに好ましい。バインダー樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、表面強度の低下を抑制でき、印刷部のこすれ汚れの発生を防ぐことができる。
【0035】
(ブルーライト)
ブルーライト(青色光)とは、可視光線の中でも波長が380~500nmの高エネルギーの光を指す。肉眼がブルーライトに長時間さらされると、眼精疲労、ドライアイ、睡眠障害、肩こり、頭痛などの原因になる可能性があり、近年、健康上の問題となってきているものである。
【0036】
(有機化合物)
本発明者は、塗工紙からのブルーライトの反射を抑制するために、波長380~500nmの可視光線領域に吸収ピークを有する有機化合物を塗工紙に含有させることを検討した。中でも特に、波長380~500nmの可視光線領域に最大吸収ピークを有する有機化合物(以下、単に「有機化合物」と記載することがある。)を検討した。
【0037】
塗工紙に有機化合物を含有させることにより、ブルーライトを含む可視光が吸収されるため、照明装置等から発せられる可視光のうち、ブルーライトの反射が抑制され、眼の疲労を軽減させることが可能となる。塗工紙は、有機化合物を少なくとも1種類含有すればよい。
【0038】
塗工紙に有機化合物を含有させる方法には、塗工層に含有させる方法と、原紙に含有させる方法とがある。有機化合物を塗工層に含有させる方法の方が、有機化合物にブルーライトを吸収させる効率がより大きくなるため好ましい。
【0039】
有機化合物としては、テトラセン誘導体、ポルフィリン誘導体、カロテン誘導体、フコキサンチン誘導体等の有機化合物が知られている。有機化合物としては、これらの誘導体から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。これらは、染料や顔料として市販されている。
【0040】
テトラセン誘導体としては、具体的に、ルブレン、2,8-ジ-tert-ブチル-5,11-ビス(4-tert-ブチルフェニル)-6,12-ジフェニルテトラセン(略称:TBRb)、5,12-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-6,11-ジフェニルテトラセン(略称:BPT)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)テトラセン-5,11-ジアミン(略称:p-mPhTD)、テトラセンなどが挙げられる。ポルフィリン誘導体としては、具体的に、ポルフィリン誘導体、テトラフェニルポルフィリン誘導体、テトラベンゾポルフィリン誘導体などが挙げられる。カロテン誘導体としては、具体的に、α-カロテン、β-カロテン、リコペンなどが挙げられる。
【0041】
これらの有機化合物の中でも、ブルーライト波長の吸収の観点から、テトラセン誘導体およびポルフィリン誘導体が好ましく、テトラセン誘導体がより好ましい。これらの有機化合物は、1種類単独で、又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
塗工層における有機化合物の含有量は、有機化合物の種類にも依るが、通常、塗工層の固形分に対して0.01~2質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましく、1~2質量%がさらに好ましい。
【0043】
塗工層の塗工量は、塗工層の被覆性および生産性の観点から、固形分として片面あたり2~20g/m2であることが好ましく、3~10g/m2であることがより好ましい。塗工層の厚さは、5~40μmであることが好ましく、10~20μmであることがより好ましい。
【0044】
塗工層は、波長380~500nmの可視光線領域に最大吸収ピークを有する有機化合物を含有させることによって着色される。また、書籍等の印刷物を長時間読む際に、眼の疲労を軽減させることができる色に染料や顔料を用いて着色されていることが好ましい。そのような観点から、塗工層の塗工面における白色度、a*値およびb*値は以下のように規定される。
【0045】
塗工層の塗工面における白色度は、70~80%であることが好ましく、75~80%であることがより好ましい。ここで、白色度とは、JIS P 8148(ISO 2470)に規定されているISO白色度(拡散青色光反射率)のことである。
【0046】
塗工層の塗工面におけるa*値は、0~-5.0であることが好ましく、-2.0~-3.5であることがより好ましい。ここで、a*値とは、L*a*b*表色系の色度図(CIELAB座標)における数値であり、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定される。
【0047】
塗工層の塗工面におけるb*値は、1.0~10.0であることが好ましく、1.5~3.0であることがより好ましく、1.5~2.5であることがさらに好ましい。ここで、b*値とは、L*a*b*表色系の色度図(CIELAB座標)における数値であり、JIS Z 8781-4:2013に準拠して測定される。
【0048】
[塗工紙の製造方法]
(原紙の製造方法)
原紙は、常法により各種抄紙機により抄紙され、湿紙を形成した後、乾燥させることにより得ることができる。抄紙時に、必要に応じて、有機化合物が添加される。その後、表面サイズプレス処理、カレンダー等による平滑化処理等の常法による処理工程を経て製造される。
【0049】
抄紙機としては、例えば、エアクッションヘッドボックスまたはハイドロリックヘッドボックスを有する長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、オントップ型ツインワイヤー抄紙機、ヤンキー抄紙機等を挙げることができる。
【0050】
(塗工層用塗工液)
塗工層用塗工液は、顔料およびバインダー樹脂に、必要に応じて、前記した有機化合物および各種助剤を適宜添加して調製される。各種助剤としては、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、カチオン性樹脂、サイズ剤、粘度調節剤、光沢付与剤、ワックス類、安定化剤、帯電防止剤、架橋剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤等が挙げられる。塗工液の溶剤としては、通常、水が使用される。
【0051】
塗工層の形成のための塗工液の塗工方法としては、一般に公知の塗工装置を用いることができる。塗工装置としては、例えば、ブレードコーター、ロッドブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、リップコーター、ダイコーター、カーテンコーター、印刷機等を用いた方法を挙げることができる。これらの中では、塗工層表面の平滑性の観点から、ブレードコーターまたはロッドブレードコーターを用いて塗工する方法が好ましい。
【実施例】
【0052】
本実施形態を下記の実施例によって、さらに具体的に説明する。尚、以下の記載において、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0053】
実施例、比較例に用いた原材料は以下の通りである。
カチオン化澱粉:王子コーンスター社製、エースK-100
無水アルケニルコハク酸系中性サイズ剤:荒川化学工業社製、サイズパインSA-864
酸化澱粉:王子コーンスターチ社製、エースA
分散剤:東亜合成社製、アロンA-9
炭酸カルシウム:奥多摩工業社製、TP123CS
カオリン:エンゲルハード社製、ミラグロス
スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス:JSR社製、OJ-3000H
澱粉:王子コーンスターチ社製
テトラセン誘導体:関東化学社製テトラセン、909B4037、最大吸収ピークの波長477nm
バイオレット染料:日本化薬社製、カヤフェクト バイオレット BCリキッド
ブルー着色顔料:大日精化社製、TB520 Blue 2B
イエロー着色顔料:大日精化社製、TB910 Yellow FR
【0054】
(実施例1)
<原紙の作成>
軽質炭酸カルシウム20質量%を、広葉樹晒クラフトパルプ(ろ水度400mlCSF)100質量%のスラリー中に添加し、カチオン化澱粉1質量%、無水アルケニルコハク酸系中性サイズ剤0.2質量%を添加し、十分に混合して抄紙原料とした。その後、長網多筒式抄紙機を用いて水分を10%まで乾燥させ、サイズプレスで酸化澱粉の7質量%溶液を両面で4g/m2塗布した。その後、乾燥し、水分7%まで乾燥させて坪量50g/m2の原紙を作成した。
【0055】
<塗工層用水性塗工液Aの調製>
分散剤0.2質量%を添加した水溶液に、炭酸カルシウム50質量%、カオリン50質量%を添加して、コーレス分散機にて分散し、顔料スラリーを調製した。この顔料にバインダー樹脂としてスチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスを15質量%、澱粉を10質量%、テトラセン誘導体1質量%を添加し、固形分濃度65質量%の塗工層用水性塗工液Aを得た。尚、テトラセン誘導体1質量%を添加するとは、塗工層の固形分に対して1質量%となるように添加することを意味する。
【0056】
<塗工紙の作製>
坪量50g/m2の原紙の上に、塗工層用水性塗工液Aを、乾燥質量(固形分)が片面で5g/m2となるようにブレードコーターで両面塗被し、乾燥した後、スーパーカレンダー仕上げを行い、坪量70g/m2の塗工紙を得た。
【0057】
(実施例2)
実施例1の塗工層用水性塗工液Aの調製において、テトラセン誘導体1質量%を2質量%に変更して塗工層用水性塗工液Bとした以外は、実施例1と同様にして塗工紙を作製した。
【0058】
(実施例3)
実施例1の塗工層用水性塗工液Aの調製において、テトラセン誘導体1質量%を0.5質量%に変更して塗工層用水性塗工液Cとした以外は、実施例1と同様にして塗工紙を作製した。
【0059】
(実施例4)
実施例1の塗工層用水性塗工液Aの調製において、テトラセン誘導体1質量%を0.01質量%に変更して塗工層用水性塗工液Dとした以外は、実施例1と同様にして塗工紙を作製した。
【0060】
(比較例1)
実施例1の塗工層用水性塗工液Aの調製において、テトラセン誘導体1質量%を添加しない塗工層用水性塗工液Fとした以外は、実施例1と同様にして塗工紙を作製した。
【0061】
(比較例2)
実施例1の塗工層用水性塗工液Aの調製において、澱粉10質量%を70質量%およびテトラセン誘導体1質量%をバイオレット染料0.0015質量%とブルー着色顔料0.0030質量%に変更した塗工層用水性塗工液Gとした以外は、実施例1と同様にして塗工紙を作製した。
【0062】
(比較例3)
実施例1の塗工層用水性塗工液Aの調製において、テトラセン誘導体1質量%をイエロー着色顔料0.1質量%に変更して塗工層用水性塗工液Hとした以外は、実施例1と同様にして塗工紙を作製した。
【0063】
上記の実施例、比較例で得られた塗工紙は、以下に記載する方法で、各種性能の測定および評価を行った。その結果を表1に示した。
【0064】
<塗工面における白紙光沢度>
塗工紙の塗工面を、JIS P 8142:2005に準拠して測定した。光沢度計:村上色彩技術研究所社製、GM-26D
白色光沢度は、30~50%が好ましいと判定した。
【0065】
<塗工面における白色度>
JIS P 8148:2005(ISO 2470)に基づいて測定を行った。
測定装置:スガ試験株式会社製反射率計、品番SC-10WP
【0066】
<塗工面におけるa*値およびb*値>
JIS Z 8781-4:2013で規定されるL*a*b*表色系におけるa*値およびb*値を測定した。
測定装置:スガ試験株式会社社製分光光度計、品番SC-10WP、光源:D65
【0067】
<ブルーライト低減率評価)>
日本分光株式会社製の分光高度計(V-770)を用いて、波長範囲250nm~800nmで透過率スペクトルを測定し、波長380nmにおける透過率を読み取り、原紙との対比からブルーライトカット低減率を算出した。さらに下記の基準で評価した。
(評価基準)
◎:25%以上
〇:15%以上25%未満
△:5%以上15%未満
×:5%未満
【0068】
<目の疲労度(官能評価)>
塗工紙に印字し、男女各20人ずつ(合計40人)の被験者に10分間読書をしてもらった後に、目の疲労度について下記の5段階に分けて回答してもらった。
5:読み易い
4:やや読み易い
3:普通
2:やや疲れる
1:とても疲れる
40人の回答の平均値について、下記の基準に基づいて、4段階で評価した。
(評価基準)
◎:4.5以上
〇:4.3以上4.5未満
△:3.8以上4.3未満
×:3.8未満
【0069】
【0070】
表1において、実施例1~3の塗工紙は、塗工面の白紙光沢度、白色度および色調に優れており、ブルーライト低減率および目の疲労度において優れた性能を有していた。実施例4の塗工紙は、有機化合物の含有量がやや少ないため、塗工面のb*値が1未満であったものの、目の疲労度において良好な性能を有していた。
【0071】
一方、比較例1の塗工紙は、有機化合物を含有しないため、塗工面の白紙光沢度、白色度および色調に劣り、ブルーライト低減率および目の疲労度の各性能において劣っていた。比較例2の塗工紙は、塗工層にバイオレット染料とブルー着色顔料とを含有するものの、最大吸収ピークの波長が380~500nmにないため、塗工面の白紙光沢度、白色度および色調に劣り、ブルーライト低減率および目の疲労度において劣っていた。比較例3の塗工紙は、塗工層にイエロー着色顔料を含有しているが、ブルーライト波長の吸収性が劣るため、目の疲労度にやや劣っていた。