(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】荷重計測装置
(51)【国際特許分類】
G01B 7/00 20060101AFI20220817BHJP
G01B 7/28 20060101ALI20220817BHJP
G01L 1/20 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
G01B7/00 103R
G01B7/28 A
G01L1/20 B
(21)【出願番号】P 2019150372
(22)【出願日】2019-08-20
【審査請求日】2021-01-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】木佐貫 義勝
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-153668(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111058(WO,A1)
【文献】特開2003-275164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
G01B 7/28
G01L 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象物に接触させて前記計測対象物に加えられた荷重を荷重ベクトルとして計測する荷重計測装置であって、
3次元空間において位置が変化する計測端子と、各々一端が前記計測端子に接続されるとともに、変位に伴って電気的特性が変化する複数の弾性体と、前記複数の弾性体の各々の前記電気的特性を測定する測定部と、前記測定部で測定された前記電気的特性に基づいて前記計測端子の空間位置を演算する演算部と、を含む、複数
の3次元位置演算装置
と、
複数の前記3次元位置演算装置の前記複数の弾性体の他端に接続された前記計測対象物の形状に応じて位置が変化する複数の計測端子
と、
を含み、
前記複数の計測端子によって複数の前記3次元位置演算装置
が接続され、
前記複数の弾性体の変位量と印加された力との関係が予め定められた第2の特性となっており、
前記演算部は、前記計測対象物が接触した際に、前記測定部で測定された前記電気的特性に基づいて算出された前記変位量に対応する力、および演算された前記計測端子の空間位置と前記複数の
弾性体の各々の他端に対応する点の位置を用いて導出された前記力の方向を前記計測端子ごとに求め、前記計測端子に対応する前記力を合成し前記荷重をベクトルとして演算す
る、
荷重計測装置。
【請求項2】
前記複数の弾性体の各々は導電性を有するとともに前記電気的特性が抵抗値である導電性弾性体であり、かつ前記複数の弾性体の各々の長さと前記抵抗値との関係が予め定められた第1の特性となっており、
前記演算部は、前記測定部で測定された前記抵抗値から前記予め定められた第1の特性に従って求められた前記複数の弾性体の各々の長さを用いて前記計測端子の空間位置を演算する
請求項1に記載の荷重計測装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記複数の弾性体の他端に対応する点を中心とし、前記複数の弾性体の各々の長さを半径とする複数の球体の交点を前記計測端子の空間位置として演算する
請求項2に記載の荷重計測装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記交点が複数存在する場合に、複数の前記交点の中点を前記計測端子の空間位置として演算する
請求項3に記載の荷重計測装置。
【請求項5】
前記複数の弾性体の数が少なくとも3個である
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の荷重計測装置。
【請求項6】
前記計測対象物が弾性体である
請求項
1から請求項5のいずれか1項に記載の荷重計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷重計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷重計測装置とは、接触した対象物に応じて変形し、対象物から受ける荷重を計測する装置である。例えば、人間とロボットの共同作業では、ロボットと人体の多様な接触があり、接触の頻度も高くなる。また、接触時に人体に危険が及ばないように検討がなされ、例えば、センサの検出部に柔軟材料などが用いられている。さらに、詳細な接触状態を把握するため、2次元分布荷重を検出する方法も検討されている。しかしながら、接触体から受ける接触荷重は3軸力であるため、2次元センサでは荷重の大きさと方向を検出することが困難である。
【0003】
一方、接触体から物体表面に作用する接触荷重の大きさおよびその荷重方向を検出可能な荷重測定センサとして、力作用部に加えられた力を6つの軸力に分けて検出する6軸力覚センサや、歪み検出素子としてのピエゾ抵抗素子を有する多軸力覚センサなどが提案されている。その他、電磁誘導式力覚センサや静電容量式力覚センサなども検討されている。
【0004】
荷重計測装置に関連して、例えば特許文献1には、接触体側に配置される弾性体からなる層と、物体側に配置される荷重測定層とを具備し、該荷重測定層は、可撓性を有する弾性体側の基板と、それから間隔を隔てて対向配置した物体側の基板とからなり、接触体から物体に作用する接触荷重に応じてオン状態となるマイクロスイッチの位置に基づいて、接触荷重の大きさおよびその荷重方向を検出することを特徴とする柔軟接触型荷重測定センサが開示されている。
【0005】
一方、形状計測装置とは、対象物と接触することにより、対象物の3次元形状を計測する装置である。形状計測装置に関連して、例えば特許文献2には、物体の3次元形状を2個以上の弾性体で支持する接触式のプローブにて走査して形状を測定する三次元形状測定装置において、接触式プローブを支持する2個以上の弾性体の弾性率が異なっていることを特徴とする3次元形状測定装置が開示されている。
【0006】
さらに、3次元位置演算装置とは、計測対象点の3次元空間における位置(以下、「3次元座標位置」という場合がある)を演算する装置である。3次元位置演算装置に関連して、例えば特許文献3には、計測対象である移動体を撮影するとともに、ラインごとに露光タイミングが異なる撮像素子を含む複数のカメラと、移動体に向けて光を投光する投光手段と、移動体が複数のカメラによって計測される計測位置に到達したことを検知する検知手段と、複数のカメラの全ラインが露光状態となるように複数のカメラの露光を制御し、複数のカメラの全ラインが露光状態である期間に光を投光するように投光手段を制御する制御手段と、複数のカメラで撮影された画像に基づいて移動体の3次元距離を計算する3次元距離計算手段とを備えることを特徴とする3次元計測装置が開示されている。
【0007】
また、3次元位置演算装置に関連して、特許文献4には、測距用レーザ光を射出し、距離を測定するレーザ変位計を用いて、絶対3次元変位量の計測が行われる3次元変位検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-187502号公報
【文献】特開2003-156323号公報
【文献】特開2014-95631号公報
【文献】特開2000-205815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
荷重計測装置に関する従来技術では、接触体から物体表面に作用する接触荷重の大きさおよびその荷重方向が検出可能な荷重測定センサなどが開示されている。しかしながら、このようなセンサを、例えばシートにおける着座状況の把握に適用しようとした場合、正確な荷重計測を行うことができない。すなわち、従来技術に係る荷重測定センサでは荷重が作用した際の計測面の傾斜が考慮されておらず、例えば、シートなどに荷重が付加された際に、シート面(測定対象面)が変形する場合には、荷重測定センサがシート面の変形に応じて傾斜する。このため、センサの計測軸の向きが、シート面の変形状況に応じて変化する。
【0010】
変形の一例では、傾斜角度が30度から50度の場合があり、例えば、Z軸に付加された荷重は、計測軸の傾斜の影響により、測定値が40%程度変化し、その変化量はシート面の変形状況に応じて異なる。このため、測定対象面が変形する場合には変形状況を把握し、測定荷重を変形状況に応じて補正することによって、正確な荷重計測が行われる。すなわち、荷重の計測と同時に変形の計測が必要となるが、従来技術では、これらを同時に計測することが困難であり、荷重測定において大きな誤差が生じるといった課題があった。
【0011】
一方、形状計測装置に関する従来技術では、三次元形状を計測するためのセンサとして、プローブ、ディジタルカメラおよび慣性センサなどが必要とされる場合もあり、計測対象物の配置や動作などが制限されたり、弾性特性に少なからず影響を与える場合がある。つまり、センサの大きさや剛性等によって、計測対象物の配置や動作などの動作状況が制限される場合がある。例えば、プローブで計測対象物の表面を走査して3次元形状を取得するためは、所定の大きさと剛性を有するプローブが必要であり、プローブを走査させるための走査装置も必要となる。このため、一定の広さの計測空間も必要となり、計測対象物の配置や動作を制限しないと計測が困難となる。このため、計測対象物の形状変化を適切に評価することができなくなるという問題を生ずる可能性もある。この点、特許文献2に開示された3次元形状測定装置でも、計測時にプローブが計測対象物と接触するため、操作時に接触力が変動したり、計測対象物を損傷するなどの問題がある。また、複数の計測対象物が接触している接触面の形状などは計測が困難である。要するに、従来技術に係る形状計測装置では、計測対象物の多様な動作状況において、高精度な形状計測が行えないという問題があった。
【0012】
さらに、3次元計測装置に関する従来技術においては、3次元形状を計測するためのセンサとして、ディジタルカメラや投光器あるいは無線機器などを用いているため、測定対象物の配置や動作などが制限される。このため、例えば、測定対象物が相互に密接しているような動作状況においては、3次元位置計測が行えないという問題があった。
【0013】
従来技術に係る3次元計測装置が、測定対象物の配置や動作などが制限される理由として、センサの大きさや配設空間などの問題がある。つまり、ディジタルカメラでの画像情報や投光器などによる反射光を用いる際には、測定範囲や画素数あるいは光の照射範囲を考慮する必要がある。このため、所定の計測範囲を得るためには、ディジタルカメラを所定距離だけ計測対象物から離す必要がある。同様に投光器やレーザ変位計においても所定距離だけ測定対象物から離す必要がある。さらに、計測対象物が相互に密接している面に対しては計測が困難であるといった問題もある。一方、無線機器は、計測対象物に密接させて計測が可能であるが、機器の剛性が高いことや一定の大きさを有していることから、計測対象物の外観や構造に少なからず影響を与えるため、計測対象物の特性を阻害するという問題がある。
【0014】
本発明は、上記諸問題に鑑みてなされたものであり、計測対象物の性質を問わず、より簡易な構成で、より正確に計測することが可能な荷重計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の荷重計測装置は、計測対象物に接触させて前記計測対象物に加えられた荷重を荷重ベクトルとして計測する荷重計測装置であって、3次元空間において位置が変化する計測端子と、各々一端が前記計測端子に接続されるとともに、変位に伴って電気的特性が変化する複数の弾性体と、前記複数の弾性体の各々の前記電気的特性を測定する測定部と、前記測定部で測定された前記電気的特性に基づいて前記計測端子の空間位置を演算する演算部と、を含む、複数の3次元位置演算装置と、複数の前記3次元位置演算装置の前記複数の弾性体の他端に接続された前記計測対象物の形状に応じて位置が変化する複数の計測端子と、を含み、前記複数の計測端子によって複数の前記3次元位置演算装置が接続され、前記複数の弾性体の変位量と印加された力との関係が予め定められた第2の特性となっており、前記演算部は、前記計測対象物が接触した際に、前記測定部で測定された前記電気的特性に基づいて算出された前記変位量に対応する力、および演算された前記計測端子の空間位置と前記複数の弾性体の各々の他端に対応する点の位置を用いて導出された前記力の方向を前記計測端子ごとに求め、前記計測端子に対応する前記力を合成し前記荷重をベクトルとして演算する。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記複数の弾性体の各々は導電性を有するとともに前記電気的特性が抵抗値である導電性弾性体であり、かつ前記複数の弾性体の各々の長さと前記抵抗値との関係が予め定められた第1の特性となっており、前記演算部は、前記測定部で測定された前記抵抗値から前記予め定められた第1の特性に従って求められた前記複数の弾性体の各々の長さを用いて前記計測端子の空間位置を演算する。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記演算部は、前記複数の弾性体の他端に対応する点を中心とし、前記複数の弾性体の各々の長さを半径とする複数の球体の交点を前記計測端子の空間位置として演算する。
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記演算部は、前記交点が複数存在する場合に、複数の前記交点の中点を前記計測端子の空間位置として演算する。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記複数の弾性体の数が少なくとも3個である。
【0025】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記計測対象物が弾性体であるものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、計測対象物の性質を問わず、より簡易な構成で、より正確に計測することが可能な荷重計測装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1の実施の形態に係る、(a)は計測対象物の一例としてのシートを示す斜視図、(b)は着座者が着座した際のシートクッション面の変形状況を示す断面図、(c)はシートクッションの有限要素法を用いたモデルの例を示す斜視図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る、(a)は荷重計測装置の平面図および荷重計測装置のシートクッションへの配設を示す斜視図、(b)は導電性弾性体の荷重と電気抵抗の関係の一例を示すグラフ、(c)は荷重計測装置の電気的等価回路を説明する平面図である。
【
図3】実施の形態に係る、(a)は導電性弾性体の電気的接続を示すブロック図、(b)は単位センサの等価回路を示す回路図である。
【
図4】第1の実施の形態に係る荷重計測装置の構成の一例を示す平面図である。
【
図5】第1の実施の形態に係る荷重計測装置の、(a)、(b)は単位センサにおける導電性弾性体の長さと荷重の関係を説明する図、(c)は球体モデルを用いた座標の算出を説明する図である。
【
図6】第1の実施の形態に係る荷重計測装置の、(a)は座標算出処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、(b)は荷重ベクトル算出処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】第2の実施の形態に係る形状計測装置の構成の一例を示す平面図である。
【
図8】第2の実施の形態に係る形状計測装置の、(a)、(b)は単位センサにおける導電性弾性体の長さと3次元座標位置の関係を説明する図、(c)は球体モデルを用いた座標の算出を説明する図である。
【
図9】第2の実施の形態に係る形状計測装置の、形状計測処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】(a)、(b)は、様々な形態の人の姿勢を示す図である。
【
図11】第2の実施の形態に係る形状計測装置の、(a)は第1の応用例を示す図、(b)は第1の応用例の変形例を示す図である。
【
図12】第2の実施の形態に係る形状計測装置の、(a)は第2の応用例を示す図、(b)は第2の応用例における形状計測の原理を説明する図である。
【
図13】第3の実施の形態に係る3次元位置演算装置の、(a)は単位センサにおける導電性弾性体の長さと3次元座標位置の関係を説明する図、(b)は球体モデルを用いた座標の算出を説明する図である。
【
図14】第3の実施の形態に係る3次元位置演算装置の、(a)は構成の一例を示す平面図、(b)は電気的等価回路を示す図である。
【
図15】3次元位置演算装置において発生する可能性のある誤差について説明する図である。
【
図16】第3の実施の形態に係る3次元位置演算装置の位置演算処理の原理について説明する図である。
【
図17】第3の実施の形態に係る3次元位置演算装置の位置演算処理の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0029】
[第1の実施の形態]
図1から
図6を参照して、本実施の形態に係る荷重計測装置について説明する。本実施の形態に係る荷重計測装置は、上述した課題を解決するために、センサの形状を小さくするとともに、従来技術に係る荷重計測装置と比較して剛性を低くすることによって、計測対象物の弾性特性への影響を小さくしている。その上で、計測対象物の形状変化と作用する荷重を同時に計測し、荷重ベクトルの高精度な計測を可能としている。
【0030】
まず、
図1(a)から
図1(c)を参照し、荷重計測装置による荷重ベクトルの計測についてより具体的に説明する。
図1(a)は、計測対象物の一例としてのシート100を示している。着座者がシートに着座した際には、シートクッション101やシートバック102に荷重が作用する。
【0031】
図1(b)は、着座者103の臀部、および着座者103が着座した際のシートクッション101の断面を示している。
図1(b)に示す符号Wは着座による下方向の荷重の全体を示し、符号P1、P2、P3、P4、P5、P6、P7は各々荷重の計測点を示している。
図1(b)に示すように、着座者103の着座に伴い、シートクッション101は傾斜や伸長して変形する。
図1(b)は、計測点P1~P7の各々の位置、および計測点P1~P7の計測座標軸の変化を示している。例えば、計測点P2は荷重Wの成分Fz’が印加された結果、計測座標軸(X1、Y1、Z1)が
図1(b)に示すように傾く。つまり、
図1(b)に示すように、シートクッション101の表面に設定した計測点P1~P7での計測座標軸の傾斜角度や3次元座標位置が変化し、計測点の間隔も変化する。このため、計測点(P1~P7)に作用した荷重を計測するためには、各計測座標軸の荷重成分に加えて、計測点の計測座標軸の傾斜角度を計測する必要がある。つまり、各計測点P1~P7における荷重を荷重ベクトルとして算出する必要がある。
【0032】
シートクッション101に作用する荷重ベクトルを算出する方法のひとつとして、有限要素法を用いて算出する方法がある。有限要素法を用いて荷重ベクトルを算出する(つまり、着座状態を解析する)ためには、シートクッション101のシート面を
図1(c)に示すような格子でモデル化する。
図1(c)に示すシート面計算モデル120では、格子が、複数の結合点121と、各結合点を連結する複数の線状弾性体122とで構成されている。
図1(c)には、シート面の変形の源である着座者接触部123(臀部)も併せて示している。
図1(c)に示す<1>はシート面を上方から見た図、<2>は下方から見た図である。
図1(c)に示すシート面計算モデル120によれば、各計測点における3次元座標軸上の荷重が演算されると同時に傾斜角度などの形状情報も演算されるので、シート面に作用する荷重ベクトルを求めることができる。
【0033】
本実施の形態に係る荷重計測装置においては、
図1(c)に示すシート面計算モデル120と同様に、計測対象物であるシート100に複数の計測端子を配設し、各々の計測端子を弾性体で結合する。着座によってシート面に荷重が作用した際には、計測端子の3次元座標位置が変化するとともに、計測端子同士を結合する弾性体が伸長する。弾性体の伸長はシート100に作用した荷重によるものであり、作用した荷重と伸長の間には所定の関係がある。
【0034】
ここで、荷重に伴う伸長と電気的特性の変化が既知であるとすると、電気的特性を計測手段によって測定することにより、弾性体の伸長量と荷重を求めることができる。弾性体の伸長量は計測端子間の距離に対応することから、特定の計測端子の3次元座標位置は、その周辺の複数の計測端子の3次元座標位置を基に解析的に求めることができる。すなわち、特定の計測端子の3次元座標位置は、3次元座標位置が既知の複数の計測端子と弾性体の伸長量を基に算出することができる。また、伸長量は荷重に対応することから、伸長量を荷重に置き換えれば、計測端子に作用する荷重ベクトルを取得することができる。
【0035】
ここで、本実施の形態で用いる弾性体には剛体部分が含まれない点、該弾性体の弾性特性をシート(計測対象物)の弾性特性に比べて小さくすることができる点を勘案すると、本実施の形態に係る荷重計測装置によれば、シートの弾性特性を阻害することなく荷重ベクトルの計測が可能となる。また、弾性体をシート面に密接させて配設することができることから、シート面の外観や構造および機能を損なうこともない。
【0036】
以下、本実施の形態に係る荷重計測装置の構成、作用についてより詳細に説明する。本実施の形態では、荷重計測装置を
図1(c)で示したシート面の荷重ベクトル計測に適用した形態を例示して説明する。
【0037】
図2(a)<1>は本実施の形態に係る荷重計測装置10を示している。
図2(a)<1>に示すように、荷重計測装置10は、計測端子11、固定端子12、導電性弾性体13を含んで構成されている。そして、荷重計測装置10は、
図2(a)<2>に示すように、シートクッション101に、計測端子11と導電性弾性体13を一体としたセンサシートとして配設されている。ここで、固定端子12は、計測端子11のうち荷重計測装置10の最外周に配置され、固定されている端子である。
【0038】
つまり、荷重計測装置10では、
図1(c)に示す線状弾性体122として導電性弾性体13を用いている。
図2(b)は、導電性弾性体13に作用する荷重と、導電性弾性体13の示す電気抵抗の関係を示している。
図2(b)に示すように、本実施の形態に係る導電性弾性体13は、印加される荷重に対してほぼ比例して電気抵抗が変化する(曲線X1)。ここで、曲線X2、X3に示すように、荷重(弾性体長さ)に対して抵抗値が非線形変化する場合は、線形変化するように補正して使用することも可能である。
【0039】
従って、
図2(c)<1>に示す荷重計測装置10(センサシート)は、
図2(c)<2>に示すように抵抗網としてモデル化することができる。すなわち、
図2(c)<2>では、計測端子11はそのままに、
図2(c)<1>に示す導電性弾性体13が、等価抵抗Rcに置き換えられている。
図2(c)<2>に示すモデルでは、各計測端子11の間隔が変化した際に、導電性弾性体13(等価抵抗Rc)の抵抗値が変化する。なお、
図2(c)<1>の破線で示す、5個の計測端子11と、該5個の計測端子11を接続する導電性弾性体13とを含む構成を、「単位センサ20」と称する場合がある。例えば、
図2(a)<1>に示す荷重計測装置10は、接続の中継となる計測端子11を共通にして、25個の単位センサを含んで構成されている。むろん荷重計測装置10に配置させる単位センサ20は25個に限られず、計測対象物の大きさに応じて適宜な数としてもよい。
【0040】
次に、単位センサ20の電気的な接続について説明する。
図3(a)は、一つの導電性弾性体13に対する電源の接続と、導電性弾性体13に接続される回路を示している。
図3(a)では、導電性弾性体13を可変抵抗としての等価抵抗Riで示し、等価抵抗Riに固定抵抗riが接続されている。等価抵抗Riと固定抵抗riとの直列回路の一端には電圧Eが印加され、他端は例えばGND(グランド)に接続される。
【0041】
等価抵抗Riと固定抵抗riの直列回路に電圧Eが印加されると、等価抵抗Riには分圧ei(=(E×Ri)/(Ri+ri))が発生する。導電性弾性体13の長さの変化に伴って等価抵抗Riの抵抗値が変化すると、分圧eiが変化する。分圧eiはアナログ-ディジタル変換器21によってディジタル信号に変換された後コンピュータ等の演算処理装置22に入力される。演算処理装置22は、入力された信号に対し、
図2(b)に示すグラフ等を用いて所定の演算を実行する。以上の処理により、導電性弾性体13に印加される荷重をディジタル値として取得することができる。
【0042】
上記のコンピュータは、例えば図示を省略するCPU、ROM、およびRAM等を含んで構成されている。CPUは荷重計測装置10の全体を統括制御する制御部であり、ROMは、荷重計測装置10の制御プログラムや、後述する荷重計測装置10の荷重計測処理プログラム等のプログラムを記憶する記憶手段であり、CPUが該ROMから必要なプログラムを読み出し、RAMに展開して実行する。RAMには、導電性弾性体13の長さ等を一時記憶させる場合もある。また、導電性弾性体13、アナログ-ディジタル変換器21、および演算処理装置22等は信号線で接続されており、必要な情報は電気信号として伝送される。なお、高速な演算処理のために高速な通信が必要な場合は、光ケーブルなどで信号を伝送してもよい。
【0043】
図3(a)に示す等価抵抗Riと固定抵抗riとの直列回路を用いて、単位センサ20を書き換えると
図3(b)のように表される。
図3(b)に示すように、単位センサ20では、等価抵抗Riと固定抵抗riとの直列回路が4個、電圧Eが印加される計測端子11を共通にして接続される。荷重計測装置10は、
図3(b)に示す単位センサ20を、計測対象物の大きさ等に応じて必要な個数連結して構成されている。
図4は、このように構成された荷重計測装置10を示している。
【0044】
荷重計測装置10は
図2(c)<2>に示すような抵抗網であるが、抵抗網の抵抗値が荷重と対応していることから、
図4に示すように、荷重計測装置10を計測端子11と計測端子11との間の荷重Wとして標記することができる。
図4において、例えば符号「W1121」は、計測端子C11と計測端子C21との間の荷重を示している。荷重計測装置10の各方向は、
図4に示す座標軸によって、X方向およびY方向などと標記できる。従って、例えば、計測端子C21に作用する荷重は、荷重W1121,W3121,W2112およびW2132であり、これらの荷重をベクトル合成することによって、計測端子C21に作用する荷重ベクトルを得ることができる。以上の演算により、荷重計測装置10の各計測点の荷重ベクトルを求め、さらに共通の座標面に統合することによって、荷重計測装置10の全体の荷重ベクトル分布を得ることができる。
【0045】
次に、各計測点に作用する荷重ベクトルを求める詳細手順を以下に示す。
図5(a)は、単位センサ20の隣接する計測端子11の関係を示し、符号「O」、「C1」、「C2」、「C3」、「C4」は計測端子11を示している。以下、これらの計測端子を、「計測端子O」、「計測端子C1」、「計測端子C2」、「計測端子C3」、「計測端子C4」という場合がある。計測端子11は3次元空間に配置されていることから、計測端子11の間の長さは3次元座標での距離であり、荷重Wの大きさにも対応している。計測端子Oの3次元座標値は、計測端子C1と計測端子Oとの間の長さL1と、計測端子C2と計測端子Oとの間の長さL2と、計測端子C3と計測端子Oとの間の長さL3、計測端子C4と計測端子Oとの間の長さL4によって規定される。
【0046】
また、計測端子C1と計測端子Oとの間の荷重W1と、計測端子C2と計測端子Oとの間の荷重W2と、計測端子C3と計測端子Oとの間の荷重W3と、計測端子C4と計測端子Oとの間の荷重W4の4つの荷重はつり合い状態(平衡状態)となる。よって、長さLと荷重Wの関係は
図5(b)に示すようになり、また、計測端子Oの座標値によらずこれらの関係は変わらない。従って、計測端子Oの3次元座標値を算出し、計測端子C1~C4の3次元座標値と組み合わせて荷重Wの各成分の方向を得ることによって、荷重ベクトルを求めることができる。
【0047】
一方、計測端子Oの3次元座標値は、
図5(c)に示すように計測端子C1、C2、およびC3を原点とする半径L1、L2、およびL3の球体モデルM1、M2、M3の交点となる。従って、計測端子Oの3次元座標値は、以下のように求めることができる。
【0048】
すなわち、計測端子Oの3次元座標値O=(X、Y、Z)は、計測端子C1、C2、およびC3の各々の座標値Ci=(Xi、Yi、Zi)(i=1、2、3)を中心とする半径Li(i=1、2、3)の球体モデルM1、M2、M3の交点として求めることができる。具体的には、(式1)、(式2)、および(式3)で示す球の方程式を連立方程式として解くことにより求めることができる。
(X-X1)2+(Y-Y1)2+(Z-Z1)2=L12 ・・・ (式1)
(X-X2)2+(Y-Y2)2+(Z-Z2)2=L22 ・・・ (式2)
(X-X3)2+(Y-Y3)2+(Z-Z3)2=L32 ・・・ (式3)
なお、固定端子である計測端子C1、C2、C3の座標値は、荷重計測装置10のシートクッション101への取り付け条件から一義的に決まる。
【0049】
上述した単位センサ20ごとの計測端子11の3次元座標値の算出処理を繰り返すことにより、荷重計測装置10の全体の計測端子11の3次元座標値が求まる。その結果、荷重計測装置10を配設したシートクッション101に、着座者103が着座した状態における荷重ベクトルを取得することができる。
【0050】
図4に示す荷重計測装置10を例にとり、上記の繰り返し処理の内容を説明する。ここで、センサシート外周の計測端子、つまり固定端子12である計測端子C11、C12、C13、C14、C31、C51、C71、C72、C73、C74、C54、およびC34の座標値は既知であるとする。これらの座標値は、例えば、これらの計測端子11を荷重計測装置10等に固定することによって座標値を規定することができる。従って、シートクッション101に荷重が作用してもこれらの固定端子12の座標値は変化しない。また、これらの固定端子12を接続するW1112、W1213、およびW1314等の間隔が変化しないことから荷重も変化しない。従って、
図4に示す荷重計測装置10において、荷重ベクトルが計測可能な計測端子は、C21、C22、C23、C41、C42、C43、C61、C62、C63となる。
【0051】
計測端子11の座標値を求める手順としては、座標値が既知である計測端子から順次処理を行う必要がある。以下では、荷重計測装置10のX方向左端(計測端子C11、C12、C13、C14)でY方向下端(計測端子C11、C31、C51、C71)から処理を展開する例を示す。
【0052】
まず、計測端子C11、C12、C31、C21の座標値を求める。求めた計測端子C21と計測端子C12およびC31の座標値から計測端子C32の座標値を求める。以上から、単位センサ20の5個の計測端子11の座標値を求めることができる。
【0053】
次にX方向に単位センサ20の1個分だけ移動し、計測端子C32、C31、C51の座標値から計測端子C41の座標値を求め、計測端子C32、C41、C51の座標値から計測端子C52の座標値を求めことができる。さらに単位センサ20の1個分移動し、計測端子C51、C52、C71の座標値から計測端子C61の座標値を求めことができる。
【0054】
計測端子C71、およびC72の座標値は既知であることから、以上によりX方向の端部から端部までの座標値が求まったことになる。なお、計測端子C52、C61、およびC71から求めたC72の座標値と、既知であるC72の座標値とを比較することによって、演算精度を確認することができる。このような、演算精度確認に加え、複数の固定点と弾性体長さの組み合わせ演算が可能であることから、複数の条件での演算結果を比較することにより、演算精度の確認を行うことが可能である。
【0055】
次に、Y方向に単位センサ20の1個分だけ移動して、上記と同様の処理をX方向の一端部から他端部まで単位センサ20の1個分ずつ移動して繰り返す。Y方向端部の計測端子C14、C34、C54、およびC74は座標値が既知であることから、座標値を求める必要はないが、上記のように演算精度の確認のために求めてもよい。以上の処理によって、荷重計測装置10全体の計測端子11の3次元座標値を求めることができる。
【0056】
一方、荷重計測装置10に設定したXYZ座標系に対する、2つの計測端子11の間を結んだ導電性弾性体13の傾斜角度は、2つの計測端子11の3次元座標値を用いて得られる。得られた角度を基に荷重W1、W2、W3、およびW4を荷重ベクトルとして合成することによって、計測点に作用した荷重ベクトルを求めることができる。
【0057】
以上の処理によって、本実施の形態に係る荷重計測装置10では、シートクッション101の弾性特性に影響を与えることなく、着座時の荷重ベクトルを高精度に計測することができる。なお、測定対象物であるシートクッション101の荷重に対する弾性特性と、導電性弾性体13の弾性特性に関しては、荷重値が計測項目に含まれる場合は、計測前に両者の対応をとっておく必要がある。
【0058】
<応用例>
本実施の形態に係る荷重計測装置10の具体的応用例について説明する。具体的に荷重ベクトルの計測が重要となる例として、例えばベッドでの寝心地評価がある。この場合の荷重計測装置も、基本的な構成および作用は上記荷重計測装置10と同様なので、詳細な説明は省略する。
【0059】
ベッドでの寝心地評価において、特に病気等で長期間ベッドに横たわった状態では褥瘡が生じることがある。褥瘡は、身体に加わった外力が骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下あるいは停止させ、不可逆的な阻血性障害になることとされている。本実施の形態に係る荷重計測装置10による荷重ベクトルの計測によれば、このような状況下においても身体に加わる外力を詳細に把握することができる。すなわち、荷重計測装置10は、従来計測が困難であった荷重ベクトルの計測が可能となることに加えて、計測端子11や導電性弾性体13の剛性を小さくできることから、身体とベッド面の間に配設しても身体に及ぼす影響が小さく、ベッドでの寝心地評価で好適な計測状態を提供できる。
【0060】
なお、本実施の形態に係る荷重計測装置10における計測端子11は、導電性弾性体13同士を結合した部位をそのまま用いたものでもよい。また、導電性弾性体13も例えば、バネ特性を有する部材と変位計測機能を有する部材、および荷重計測機能を有する部材を組み合わせて構成してもよい。
【0061】
次に、
図6を参照して、荷重計測装置10において実行される、荷重計測処理について説明する。
図6は荷重計測装置10において実行される荷重計測処理プログラムのフローチャートを示しており、本荷重計測処理プログラムは、図示を省略するCPUが、ROMから読み出し、RAMに展開して実行する。
【0062】
図6(a)は、荷重計測装置10において実行される、計測端子11(O)の3次元座標値を算出する座標算出処理プログラムを示しており、
図6(b)は、荷重ベクトルを算出する荷重ベクトル算出処理プログラムを示している。
【0063】
計測端子11の3次元座標値を算出する場合は、
図6(a)に示すように、まずステップS100で、導電性弾性体13に発生する電圧、すなわち分圧eiを測定する。
【0064】
ステップS101で、すべての分圧eiの計測を終了したか否か判定し、当該判定が否定判定となった場合はステップS100に戻って分圧eiの計測を継続し、肯定判定となった場合はステップS102に移行する。
【0065】
ステップS102で、分圧eiを計測端子11間の長さに変換する。当該変換は、分圧eiおよび等価抵抗Riに流れる電流から等価抵抗Riを算出し、
図2(b)を参照して、等価抵抗Riを導電性弾性体13の長さに変換して行う。なお、
図2(b)に示す荷重と電気抵抗の関係は、予めROM等の記憶手段に記憶させておいてもよい。また、その際、曲線の形式ではなく、テーブルとして記憶させておいてもよい。
【0066】
ステップS103では、(式1)から(式3)で示す球の連立方程式を解いて、交点の座標(X、Y、Z)を求める。具体的には、にステップS102で算出した計測端子11間の長さ(導電性弾性体13の長さ)をL1、L2、L3とし、既知である3個の計測端子11の座標値(Xi、Yi、Zi)(i=1、2、3)とともに(式1)から(式3)に代入して、(X、Y、Z)を求める。
【0067】
ステップS104では、センサシート(荷重計測装置10)の取り付け条件から、上記の座標を規定する。その後、本座標算出処理プログラムを終了する。
【0068】
一方、荷重ベクトルの算出処理では、
図6(b)に示すように、まずステップS200で、上述したようにX方向の一端から他端までの単位センサ20における計測端子11の座標を求める。
【0069】
ステップS201で、ステップS200の処理が終了したか否か判定し、当該判定が否定判定となった場合はステップS200に戻って座標の算出を継続し、当該判定が肯定判定となった場合はステップS202に移行する。
【0070】
ステップS202で、上述したようにY方向の一端から他端までの単位センサ20における計測端子11の座標を求める。
【0071】
ステップS203で、ステップS202の処理が終了したか否か判定し、当該判定が否定判定となった場合はステップS202に戻って座標の算出を継続し、当該判定が肯定判定となった場合はステップS204に移行する。
【0072】
ステップS204で、センサシート(荷重計測装置10)の全体の形状を演算する。すなわち、ステップS203までのステップで求めた座標を、荷重計測装置10上に規定した座標軸上の座標に変換する。
【0073】
ステップS205で、計測端子11に対する導電性弾性体13の傾斜角度を求める(
図5(b)参照)。
【0074】
ステップS206で、導電性弾性体13に対して取得した荷重(
図5(b)に示すW1~W4)と、ステップS205で求めた傾斜角度から、計測端子11ごとの荷重ベクトルを求める。
【0075】
ステップS207で、ステップS206で求めた計測端子11ごとの荷重ベクトルを荷重計測装置10上に規定した座標軸上に統合し、センサシート(荷重計測装置10)の全体の荷重ベクトルを求める。その後、本荷重ベクトル算出処理プログラムを終了する。
【0076】
以上詳述したように、本実施の形態に係る荷重計測装置10によれば、計測対象物の弾性特性に対して十分に小さな弾性特性を有し、作用する荷重に従って電気的特性が変化する複数の弾性体を配設することによって、計測対象物の弾性特性を阻害することなく、計測対象物に作用する荷重ベクトルが計測可能となる。さらに、弾性特性を有する弾性体によって計測対象物に作用する荷重ベクトルを計測することから、荷重計測装置を計測対象物に配設した際の外観や構造への影響が小さく、計測対象物の本来の機能を阻害することがない等の優れた効果が得られる。
【0077】
[第2の実施の形態]
図7から
図12を参照して、本実施の形態に係る形状計測装置について説明する。本実施の形態に係る形状計測装置は、上記の問題を解決するために、センサの形状を小さくするとともに、従来技術に係る形状計測装置と比較して、剛性を低くしている。このことによって、計測対象物の弾性特性への影響を小さくし、かつ計測対象物の弾性特性を変化させることなく形状変化を適切に計測評価することが可能となっている。さらに、本実施の形態に係る形状計測装置は装置自体の剛性が低くされているので、剛体のような弾性の低い計測対象物に対しても密着させることができ、高精度の形状計測が可能となっている。
【0078】
本実施の形態に係る形状計測装置を用いて3次元形状計測を行う場合の、形状計測装置と計測対象物との関係、形状計測装置のモデル化等については、基本的に
図1と同様である。
【0079】
すなわち、本実施の形態に係る形状計測装置においては、
図1(c)に示すシート面計算モデル120と同様に計測対象物であるシート100の結合点121に複数の計測端子11を配設し、線状弾性体122として導電性弾性体13を配設する。つまり、各々の計測端子11を導電性弾性体13で結合する。着座者の着座によってシートクッション101の面形状が変化した際には、計測端子11の3次元座標値が変化すると共にそれらを結合した導電性弾性体13の長さが変化する。ここで、導電性弾性体13の伸長に伴う電気的特性の変化が既知とすると、電気的特性を計測部で測定することにより、弾性体の伸長量を取得することができる。一方、導電性弾性体13の伸長量は計測端子11間の距離に対応することから、特定の計測端子11の3次元座標位置は、その周辺の複数の計測端子11の3次元座標位置と、計測端子11間の距離を基に解析的に求めることができる。すなわち、特定の計測端子11の3次元座標位置は、3次元座標位置が既知の複数の計測端子11と導電性弾性体13の伸長量を基に算出することができる。
【0080】
計測端子11を結合する導電性弾性体13には剛体部分が含まれないこと、また導電性弾性体13の弾性特性をシートの弾性特性に比べて小さくすることができることから、シートクッション101の弾性特性を阻害することなく形状計測が可能となる。また、導電性弾性体13をシートクッション101に密接配設することができることから、シートクッション101の外観や構造を損なうこともない。
【0081】
本実施の形態に係る形状計測装置は、例えば、
図2(a)に示すシート100に適用することができる。すなわち、
図2(a)における荷重計測装置10を形状計測装置30にそのまま適用し、シートクッション101の形状変化を計測する装置とすることができる。
図2(a)<2>において、荷重計測装置10の代わりに形状計測装置30をシートクッション101に配設する。形状計測装置30に含まれる導電性弾性体13の荷重と電気抵抗との関係は、例えば、
図2(b)に示す特性となっており、導電性弾性体13の長さが変化すると電気的特性である抵抗値が変化する。従って、形状計測装置30は、等価的に
図2(c)に示すような抵抗網として表現できる。計測端子11の間隔が変化した際には導電性弾性体13の抵抗値が変化する。なお、形状計測装置30でも、
図2(c)の破線内の5個の計測端子11と、これらの計測端子11を接続する導電性弾性体13を含む構成を、単位センサ20と称する。
【0082】
さらに、形状計測装置30における電気的接続も、
図3に示す荷重計測装置10における電気的接続と同様である。すなわち、
図3(a)に示すように固定抵抗riと導電性弾性体13としての等価抵抗Riを接続し、その両端に電圧Eを印加する。この際の導電性弾性体13の両端の分圧eiは、導電性弾性体13の抵抗値に対応して変化する。この分圧eiをアナログ-ディジタル変換器21でディジタル信号に変換し、コンピュータなどで構成した演算処理装置22で処理することによって導電性弾性体13の長さをディジタル値として得ることができる。
【0083】
単位センサ20の等価回路も
図3(b)のように表現できるので、形状計測装置30は、この単位センサ20を組み合わせることによって、
図7に示すように任意の大きさに設定することができる。演算処理装置22は、導電性弾性体13の抵抗から求めた長さLを用いて、
図7に示すように、形状計測装置30を計測端子11と計測端子11間の間隔Lの分布として把握する。
図7において、例えば符号「L1121」は、計測端子C11と計測端子C21との間の間隔を示している。形状計測装置30の各方向は、
図7に示すようにX方向およびY方向などと標記することができる。
【0084】
次に、
図8を参照して、形状計測装置30の計測原理について説明する。
【0085】
図8(a)<1>は単位センサ20を示し、
図8(a)<2>は単位センサ20を組みわせた形状計測装置30を示している。
図8(a)<2>に示すように、形状計測装置30も荷重計測装置10と同様に、複数の計測端子11の間を導電性弾性体13で接続して構成されており、形状計測装置30の外周の計測端子11は固定端子12となっている。計測端子11は3次元空間に配設されていることから、計測端子11間の長さは、3次元座標での距離となる。
図8(a)<1>において、計測端子Oの3次元座標値は、計測端子C1と計測端子O間の長さL1と、計測端子C2と計測端子O間の長さL2と、計測端子C3と計測端子O間の長さL3によって規定される。
図8(b)に示すように、計測端子Oの位置によらずこの規定は変わらない。
【0086】
従って、
図8(c)に示すように、計測端子Oの3次元座標値(X、Y、Z)は、計測端子C1を原点とする半径L1の球体モデルM1と、計測端子C2を原点とする半径L2の球体モデルM2と、計測端子C3を原点とする半径L3の球体モデルM3の交点として求めることができる。具体的な算出方法は、上述した(式1)、(式2)、(式3)を用いた算出方法と同様である。なお、固定端子である計測端子C1、C2、C3の座標値は、形状計測装置30のシートクッション101への取り付け条件から一義的に決まる。
【0087】
以上の単位センサ20による計測端子11の3次元座標値を求める方法を繰り返すことにより、形状計測装置30の全体における計測端子11の3次元座標値が求まり、形状計測装置30を配設したシートクッション101における着座状態における形状変化を把握することができる。つまり、形状計測装置30の全体の形状の変化も、
図4で説明した単位センサ20における計測端子11の座標値を繰り返し求める方法と同様の方法で把握することができる。
【0088】
以上詳述したように、本実施の形態に係る形状計測装置30(センサシート)によれば、形状計測装置30の弾性特性がシートクッション101の弾性特性に対して柔軟であり、着座時には、形状計測装置30がシートクッション101の弾性変形特性に影響を与えることなく密接して変形することから、シートクッション101の形状変形を高精度に計測することができる。
【0089】
次に、
図9を参照して、形状計測装置30において実行される、形状計測処理について説明する。
図9は、形状計測装置30が形状を計測する際に実行する形状計測処理プログラムの処理の流れを示している。本形状計測処理プログラムは、図示を省略するCPUが、ROMから読み出し、RAMに展開して実行する。本形状計測処理プログラムにおいては、上述の荷重計測処理と同様に、形状計測処理に先立ち、計測端子11(O)の3次元座標値を算出する座標算出処理プログラムが実行されるが、本座標算出処理プログラムは
図6(a)に示す処理と同様の流れなので、図示および説明を省略する。
【0090】
本形状計測処理プログラムでは、まずステップS300で、上述した方法でX方向の一端から他端までの単位センサ20における計測端子11の座標を求める。
【0091】
ステップS301で、すべての単位センサ20について終了したか否か判定し、当該判定が否定判定となった場合はステップS300に戻って座標算出を継続し、肯定判定となった場合はステップS302に移行する。
【0092】
ステップS302で、上述した方法でY方向の一端から他端までの単位センサ20における計測端子11の座標を求める。
【0093】
ステップS303で、すべての単位センサ20について終了したか否か判定し、当該判定が否定判定となった場合はステップS302に戻って座標算出を継続し、肯定判定となった場合はステップS304に移行する。
【0094】
ステップS304では、形状計測装置30(センサシート)の全体の形状を演算する。その後、本形状計測処理プログラムを終了する。
【0095】
次に、
図10から
図12を参照して、本実施の形態に係る形状計測装置の他の応用例について説明する。以下の応用例は、本実施の形態に係る形状計測装置を人体の姿勢計測に適用した形態である。
【0096】
<第1の応用例>
図10(a)は人の姿勢変化の一例を示している。
図10(a)に示すような人の姿勢変化では、体表面に変形が生じる。例えば、屈曲においては脊柱体表面の変形が見られるが、このような変形は
図10(b)に示すような運転時のシートへの着座時においても生じる。このような着座時の脊柱の屈曲状態を、体表面の変形から推定する際に本実施の形態に係る形状計測装置を適用することができる。
【0097】
図11(a)<2>は、脊柱体表面に密接配置する形状計測装置30Aを示している。
図11(a)<2>に示すように、形状計測装置30Aは脊柱体表面密接部31、腰部密接部32、および信号線33を備えている。形状計測装置30Aは、腰部に密接配置する計測端子C1、C2およびC3と脊柱体表面に密接配置する10個の計測端子O1、O2、O3、O4、O5、O6、O7、O8、O9、O10、および各計測端子11の間に接続された導電性弾性体13を含んで構成されている。また、各計測端子11には信号線33が接続されており、導電性弾性体13が変形した際の電気特性の変化を、電圧Eを印加した際の分圧eiの変化として計測する(
図3参照)。また、信号線33は、演算処理装置22に接続されたアナログ-ディジタル変換器21に接続されており、分圧eiはディジタル信号として演算処理装置22で処理される。
【0098】
演算処理装置22に計測開始信号が入力されると、導電性弾性体13の長さに対応した分圧eiがアナログ-ディジタル変換器21で変換されて順次入力される。例えば、計測端子C1と計測端子O1との間の導電性弾性体13の分圧e1は、当該導電性弾性体13の長さLC1O1に対応し、計測端子C2と計測端子O1との間の導電性弾性体13の分圧e2は、当該導電性弾性体13の長さLC2O1に対応し、計測端子C3と計測端子O1との間の導電性弾性体13の分圧e3は、当該導電性弾性体13の長さLC3O1に対応している。従って、計測端子O1の3次元座標値は、
図11(a)<1>に示すように、計測端子C1、C2、およびC3の各々の3次元座標値を中心とし、各々半径LC1O1、LC2O1、およびLC3O1とする3つの球体モデルM1、M2、M3の交点CPの座標値となる。
【0099】
計測端子O2からO10についても、導電性弾性体13の長さを半径Lとした3つの球体モデルM1、M2、M3の交点から、各々の3次元座標値を求めることができる。その結果、計測端子O1からO10の3次元座標値を基に脊柱体表面の変形形状が得られる。なお、以上の処理によって取得される変形形状は、計測端子O1からO10の3次元座標を線状に結んだものなので、捩じれのような変形状態を得ることは出来ない。形状計測装置30A(センサシート)は導電性弾性体13を中心に構成されていることから、形状計測装置30Aによれば、脊柱の変形に伴う体表面の形状変化を阻害することなく計測が可能であるとともに、体表面の伸びに対しても追従することから、高精度な形状計測が可能となる。
【0100】
<第1の応用例の変形例>
図11(b)を参照して、本変形例に係る形状計測装置30Bについて説明する。
図11(b)に示すように、形状計測装置30Bは、腰部密接部32に加えて頸部密接部34を備えている。形状計測装置30Bによれば、計測端子11の配設密度を高めることができるので、計測端子11の空間分解能が高くなり、より高精度な形状計測が可能となる。
【0101】
<第2の応用例>
図12を参照して、本応用例に係る形状計測装置30Cについて説明する。人体の姿勢変化においては、
図10(a)に示す回旋などのように捩じりを伴う姿勢変化がある。上記第1の応用例で説明した形状計測装置30A(センサシート)では、屈曲などの姿勢変化の計測は可能であるが、捩じれを伴う姿勢の計測への適用は制限される。これに対し、本応用例に係る形状計測装置30Cは、捩じれを伴う姿勢計測に適用可能な形状計測装置となっている。
【0102】
形状計測装置30Cは、腰部密接部32に密接配置される計測端子C1、C2、およびC3と、脊柱体表面に密接配置される計測端子C4~C15(以下、総称する場合は「計測端子11」)を含み、各計測端子11は、導電性弾性体13で接続されている。導電性弾性体13(等価抵抗Ri)には図示しない信号線が固定抵抗riを介して接続されており(
図3(a)参照)、導電性弾性体13と固定抵抗riの直列回路の両端の信号線には電圧Eが印加されている。導電性弾性体13が変形した際には導電性弾性体13の抵抗が変化し、該抵抗の変化に応じた分圧eiが発生する。分圧eiは信号線によって伝送される。電圧eiはアナログ値であることから、信号線が接続されているアナログ-ディジタル変換器21によってディジタル値に変換され、同様に信号線によって接続されている演算処理装置22によって、導電性弾性体13の長さLに変換された後、図示しないRAM等の記憶手段に記憶される。
【0103】
RAM等の記憶手段に記憶された導電性弾性体13の長さLを基に、計測端子C4以降の3次元座標値が演算によって求められる。
図12(b)は、計測端子C4以降の計測端子11の3次元座標値を求める手順を示している。
図12(b)<1>において、計測端子C1、C2、およびC3の3次元座標値は既知であり、計測端子C4、C5、およびC6の3次元座標値が未知である。例えば、計測端子C2の位置を相対座標系の原点とした場合、計測端子C1とC3の座標値は計測端子C1とC3の配設位置から規定できる。
【0104】
計測端子C1、C2、C3の各々と計測端子C5を接続している導電性弾性体13の長さLC1C5、LC2C5、LC3C5が、等価抵抗Riの抵抗値変化に基づく分圧eiの計測結果から既知であるので、計測端子C1、C2、C3の3次元座標値を原点とし、半径がLC1C5、LC2C5、LC3C5である3つの球体モデルM1、M2、M3を考える。計測端子C5の3次元座標値は、この3つの球体モデルM1、M2、M3の交点の座標値として求めることができる(
図12(b)<2>)。
【0105】
次に、
図12(c)<3>に示すように、計測端子C4の3次元座標値を求める。計測端子C4の3次元座標値は、半径がLC5C4、LC1C4、LC2C4の3つの球体モデルM1、M2、M3の交点として求めることができる。同様に
図12(c)<4>に示すように、計測端子C6の3次元座標値は、半径がLC5C6、LC2C6、LC3C6の3つの球体モデルM1、M2、M3の交点として求めることができる。
【0106】
以上の処理をY方向の上方端まで行い、形状計測装置30C(センサシート)の全体の計測端子11の3次元座標値を求める。求めた3次元座標値から、形状計測装置30Cの形状を取得する。本応用例においては、X方向に3つの計測端子11が配設されていることから、これらの計測端子の3次元座標値から捻じれ状態を把握することが可能となる。
【0107】
以上詳述したように、本実施の形態に係る形状計測装置(30、30A、30B、30C)によれば、計測対象物の弾性特性に対して十分に小さな弾性特性を有し、変形に従って電気的特性が変化する複数の導電性弾性体13を配設することによって、計測対象物の弾性特性に影響することなく、計測対象物の3次元形状が計測可能となる。さらに、本実施の形態に係る形状計測装置によれば、弾性特性を有する導電性弾性体13によって計測対象物の変形を計測することから、形状計測装置を計測対象物に配設した際の外観や構造への影響が小さく、計測対象物の本来の機能を阻害することがない、等の優れた効果が得られる。また、本実施の形態に係る形状計測装置は、計測対象物が弾性体である場合のみならず、剛体の場合にも適用可能である。
【0108】
なお、本実施の形態に係る形状計測装置(30、30A、30B、30C)における計測端子11は、導電性弾性体13同士を結合した部位をそのまま用いたものでもよく、また、導電性弾性体13も例えば、バネ特性を有する部材と変位計測機能を有する部材、および形状計測機能を有する部材を組み合わせて構成してもよいことは、上記実施の形態と同様である。
【0109】
[第3の実施の形態]
図13から
図17を参照して、本実施の形態に係る3次元位置演算装置について説明する。本実施の形態に係る3次元位置演算装置は、上記各実施の形態で説明した単位センサ20において、3つの球体モデルM1、M2、M3を用いて計測端子11の3次元座標値を求める構成を有する装置である。
【0110】
本実施の形態に係る3次元座標値を演算する3次元位置演算装置を、上記各実施の形態の荷重計測装置、形状計測装置に適用した場合における、当該装置と計測対象物との関係、当該装置のモデル化等については、基本的に
図1と同様である。
【0111】
すなわち、本実施の形態に係る3次元位置演算装置においては、
図1(c)と同様に計測対象物であるシートクッション101の結合点121に複数の計測端子11を配設し、各々の計測端子11を線状弾性体122である導電性弾性体13で結合する。着座によってシートクッションのシート面の形状が変化した際には、計測端子11の3次元座標値が変化するとともに、計測端子11同士を結合した導電性弾性体13の長さが変化する。ここで、導電性弾性体13の伸長に伴う電気的特性の変化が既知とすると、電気的特性を計測部で測定することにより、導電性弾性体13の伸長量を得ることができる。
【0112】
一方、導電性弾性体13の伸長量は計測端子11間の距離に対応することから、特定の計測端子11の3次元座標位置は、その周辺の複数の計測端子11の3次元座標位置を基に解析的に求めることができる。例えば、
図13(a)に示すように、特定の計測端子Oの3次元座標値(x、y、z)は、3次元座標値が既知である計測端子C1、C2、C3の各々の3次元座標値と導電性弾性体13の伸長量を基に算出することができる。
【0113】
すなわち、
図13(b)に示すように。計測端子Oの3次元座標値は、中心が各々C1、C2、C3であり、半径が各々L1、L2、L3である3つの球体モデルM1、M2、M3の交点として求めることができる。しかしながら、計測される導電性弾性体13の伸長量は、導電性弾性体13の特性や取り付け状態、あるいは計測機器の計測精度などの影響により誤差が含まれる。このため、3つの球の交点が解析解として得られない場合がある。
【0114】
上記問題点に対応するため、本実施の形態に係る3次元位置演算装置では、3つの球体モデルM1、M2、M3のうちの2つの球体モデルを組み合わせ、組み合わせごとに交点を求めることとした。すなわち、本実施の形態では、まず球体モデルM1と球体モデルM2の交点CP1、球体モデルM1と球体モデルM3の交点CP2、球体モデルM2と球体モデルM3の交点CP3を取得する。取得した3つの交点CP1、CP2、CP3に対して中心座標値を求め、求めた中心座標値を計測端子11(O)の3次元座標値とする。これにより、種々の誤差に対してロバスト性が高まり、解析解が得られない場合でも3次元位置を取得することができる。
【0115】
図14を参照して、本実施の形態に係る3次元位置演算装置50について説明する。
図14(a)に示すように、3次元位置演算装置50は、計測端子11(O)と、各々一端が共通の計測端子11(O)と接続された3つの導電性弾性体13-1、13-2、13-3を含んで構成されている。
図14に示す例では、導電性弾性体13-1、13-2、13-3の他端は、各々計測端子11(C1)、計測端子11(C2)、計測端子11(C3)に接続されている。なお、計測端子11(C1)、計測端子11(C2)、計測端子11(C3)の少なくともひとつが固定端子12である場合もある。
【0116】
図14(b)は、3次元位置演算装置50の電気的等価回路を示している。
図14(b)に示すように、導電性弾性体13-1、13-2、13-3は、各々上述の等価抵抗R1、R2、R3に置き換えることができる。すなわち、3次元位置演算装置50は、
図3(b)に示す単位センサ20の一部とみなすことができる。ただし、
図14(b)では、固定抵抗r1、r2、r3を省略して示している。
【0117】
本実施の形態に係る3次元位置演算装置50は、上記実施の形態に係る荷重計測装置10、あるいは形状計測装置30(30A、30B、30C)に適用することができるが、ここでは、
図2(a)と同様の図で示される形状計測装置30に適用した形態を例示して説明する。この場合、3次元位置演算装置50は、
図2(a)<1>と同様の図で示される形状計測装置30に含まれる単位センサ20(
図2(c)参照)の各々を構成する要素となっている。そして、
図2(a)<2>と同様の図で示される、複数の3次元位置演算装置50を含む形状計測装置30は、センサシートとしてシートクッション101のシート面に配設される。
【0118】
3次元位置演算装置50に含まれる導電性弾性体13の荷重-電気抵抗特性は
図2(b)と同様であり、複数の3次元位置演算装置50を含む形状計測装置30が抵抗網でモデル化されること、および3次元位置演算装置50を含んで単位センサ20が構成されることは
図2(c)と同様である。さらに、3次元位置演算装置50に含まれる導電性弾性体13の電気的接続は
図3(a)と同様であり、形状計測装置30が、3次元位置演算装置50を含む単位センサ20の組み合わせでモデル化されることは
図3(b)、
図7と同様である。
【0119】
また、3次元位置演算装置50を含む単位センサ20における計測端子Oの3次元座標値は、基本的に3つの球体モデルM1、M2、M3の交点として求めることができることは
図8と同様であり、形状計測装置30(センサシート)全体の計測端子11の3次元座標値の求め方は
図7についての説明と同様であり、複数の3次元位置演算装置50を含む形状計測装置30の形状計測処理プログラムは
図9と同様である。
【0120】
次に、
図15から
図17を参照して、本実施の形態に係る3次元位置演算装置50において実行される位置演算処理について説明する。本実施の形態に係る位置演算処理は、球体モデルを用いた3次元座標位置の導出において、解が一意に定まらない場合に補正を採用する形態である。
【0121】
ここで、3次元位置演算装置50を用いた上述の演算処理によって、3次元位置演算装置50に含まれる計測端子11の3次元座標値を求めることができる。しかしながら、導電性弾性体13の特性は、例えば、
図2(b)に示すように非線形である場合があり、また、個々に特性のばらつきなどもあることから均一でない。また、計測時の電気ノイズや演算などによる計測誤差の影響もある。このため、上記の(式1)~式(3)を連立して解いた場合に単一解が得られない場合がある。
【0122】
図15(a)は、上記誤差のない場合の位置演算処理を示している。
図15(a)において、球体モデルM1は計測端子C1を中心とし半径L1の球であり、球体モデルM2は計測端子C2を中心とし半径L2の球であり、球体モデルM3は計測端子C3を中心とし半径L3の球である。この場合は、(式1)~(式3)の連立方程式を解くことにより、単一の交点CP1が求まり、この交点CP1を計測端子Oの位置とみなすことができる。
【0123】
これに対し、
図15(b)は上記誤差がある場合の一例を示している。
図15(b)に示す例では、球体モデルM1が誤差を含み、半径がL1ではなくL1’(<L1)となっている。
図15(c)は、球体モデルM1とM2を抜き出して示した図である。球体モデルM1の誤差に起因して、球体モデルM1と球体モデルM2の交点は、
図15(c)に示すようにCP1からCP2に移動する。
図15(c)では、交点CP2に対応する球体モデルM2の半径をL2’(=L2)として示している。
【0124】
図15(d)は、球体モデルM2とM3を抜き出して示した図である。
図15(d)に示すように、球体モデルM2とM3の交点は交点CP1である。従って、球体モデルM1とM2の交点CP2と、球体モデルM2とM3の交点CP1とが異なる点となり、球体モデルを用いた解析が困難となる。以上のような理由から、球体モデルによって交点の座標が得られない場合が発生する。また、
図15(e)に示すように、球体モデルM1の半径L1が計測誤差を含んで、L1’と大きくなった場合も同様に、交点CP1が交点CP2に移動する。従って、この場合も、球体モデルによって交点の座標が解析的に得られない。なお、複数の球体モデル間の交点は、
図15(d)に示すような相互の球体モデルの交差円から、計測端子間の距離によって規定する。つまり、球体モデルM2と球体モデルM3の交点としてはCP1とCP1’が考えられるが、このうち交点CP1を採用する。
【0125】
図16は、本実施の形態に係る3次元位置演算装置50を用いた位置演算処理の基本的な考え方を示している。
図16(a)は、3次元位置演算装置50のある平衡状態における、3つの球体モデルである、球体モデルM1(
図16(a)では、「球体モデル1」と表記)、球体モデルM2(
図16(a)では、「球体モデル2」と表記)、球体モデルM3(
図16(a)では、「球体モデル3」と表記)を示している。
図16(b)は、
図16(a)から、球体モデルM2、M3を抜き出して示した図であり、
図16(c)は、
図16(a)から、球体モデルM1、M2を抜き出して示した図であり、
図16(d)は、
図16(a)から、球体モデルM1、M3を抜き出して示した図である。
【0126】
一般に、球と球が重なると、重複部分は円を形成する。ここでは、この円を「交差円」と称し、例えば球体モデルM1とM2の交差円を、「球体モデル1-2交差円」と称する。本定義に従って、
図16(b)には球体モデルM2、M3の他に、球体モデル1-2交差円と、球体モデル1-3交差円が示されている。円と円が重畳されると、一般に2つの交点が発生するが、
図16(b)にはこの2つの交点も描いている。同様の考え方で、
図16(c)に示すように、球体モデル3-2交差円と球体モデル3-1交差円とによって2つの交点が発生し、
図16(c)に示すように、球体モデル2-1交差円と球体モデル2-3交差円とによって2つの交点が発生する。本実施の形態に係る位置演算処理では、
図16(b)、(c)、(d)の各々に示す2つの球体モデルごとに交点を求める。2つの交点のどちらを採用するかは、例えば過去の計測端子11の位置からの距離に基づいて決定する。すなわち、過去の計測端子11の位置により近い方の交点を採用してもよい。
【0127】
図17は、本位置演算処理による交点の求め方の一例を示している。3次元位置演算装置50において計測誤差が含まれる場合、2つの球体モデルから求めた交点は、
図17に示すように、交点が一意に定まらない。例えば、
図17(a)に示す例では、球体モデルM2とM3の交点が交点CP1となり、球体モデルM1とM2の交点がCP2となっている。この場合は、交点CP1とCP2の中点を補正交点CPsとし、本補正交点CPsを球体モデルM1、M2、M3の交点、すなわち、計測端子11(O)の3次元座標値とする。また、
図17(b)に示す例では、球体モデルM2とM3の交点が交点CP3となり、球体モデルM1とM2の交点がCP4となっている。この場合も、交点CP3とCP4の中点を補正交点CPsとし、本補正交点CPsを球体モデルM1、M2、M3の交点、すなわち、計測端子11(O)の3次元座標値とする。以上のような補正処理によれば、解析が困難となる状況が発生せず、計測端子11(O)の3次元座標位置を一意的に取得することができる。また、このような方法に限らず、計測誤差に応じて補正方法や補正の程度を変更することも可能であり、より高精度な座標位置を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0128】
10 荷重計測装置
11、O、C1~C4 計測端子
12 固定端子
13、13-1、13-2、13-3 導電性弾性体
20 単位センサ
21 アナログ-ディジタル変換器
22 演算処理装置
30、30A、30B、30C 形状計測装置
31 脊柱体表面密接部
32 腰部密接部
33 信号線
34 頸部密接部
50 3次元位置演算装置
100 シート
101 シートクッション
102 シートバック
103 着座者
120 シート面計算モデル
121 結合点
122 線状弾性体
123 着座者接触部
CP、CP1~CP4 交点
L1~L4 長さ
X1~X3 曲線
W、W1~W4 荷重
M1~M3 球体モデル
P1~P7 計測点
Rc 等価抵抗
R1~R4、Ri 等価抵抗
r1~r4、ri 固定抵抗
e1~e4、ei 分圧
E 電圧