(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/06 20060101AFI20220817BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20220817BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220817BHJP
H01M 50/466 20210101ALI20220817BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
H01M10/06 Z
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
H01M50/466
H01M10/12 K
(21)【出願番号】P 2019532440
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2018023257
(87)【国際公開番号】W WO2019021692
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2017142684
(32)【優先日】2017-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立川 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 絵里子
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154131(JP,A)
【文献】特開2013-041848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06
H01M 4/14
H01M 4/62
H01M 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、袋状セパレータと、電解液と、を備え、
前記負極板は、第1炭素材料と、第2炭素材料と、を含む負極電極材料を含み、
前記第1炭素材料は、32μm以上の粒子径を有し、
前記第2炭素材料は、32μm未満の粒子径を有し、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が、15以上、420以下であり、
前記負極電極材料中の前記第1炭素材料の含有量は、0.05質量%以上3.0質量%以下であり、
前記負極電極材料中の前記第2炭素材料の含有量は、0.03質量%以上1.0質量%以下であり、
前記正極板が、前記袋状セパレータで包装されている、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記第1炭素材料の比表面積s1に対する前記第2炭素材料の比表面積s2の比:s2/s1が、10以上、500以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含み、前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含む、請求項1
または2に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、電解液とを含む。負極板と正極板との間にはセパレータが配置される。例えば、特許文献1が提案する鉛蓄電池では、負極板がポリエチレン製の袋状セパレータで包まれている。負極材には、添加剤として、スルホン基等を有する樹脂、硫酸バリウム、炭素質導電材などが添加されている。
【0003】
鉛蓄電池は、部分充電状態(PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用されることがある。例えばアイドリングストップ・スタート(ISS)の際には、鉛蓄電池がPSOCで使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PSOC条件下での鉛蓄電池の寿命性能を評価する試験の中でも、ハイレート放電が繰り返される試験(ハイレートPSOCサイクル試験)では、表面積が正極板よりも相対的に小さい負極板によって寿命が規制される。また、PSOC条件下では電解液が成層化しやすく、負極板近傍が成層化すると、負極板下部に硫酸鉛が多く蓄積し、負極板の反応可能面積が更に低下する。従って、PSOCで使用される鉛蓄電池の寿命性能を向上させるには、負極板近傍の成層化を抑制することが重要であると考えられている。
【0006】
袋状セパレータを用いる場合、正極板を袋状セパレータで包装すると、負極板近傍の成層化が進行しやすく、負極板下部に硫酸鉛が蓄積されて寿命が短くなる。従って、特許文献1のように、袋状セパレータでは負極板を包装することが一般的である。
【0007】
しかし、負極板を袋状セパレータで包装する場合、深い放電を繰り返すサイクル試験(深放電サイクル試験)では、かえって寿命が短くなることが新たに見出された。すなわち、ハイレートPSOCサイクル試験と深放電サイクル試験の双方において優れた寿命性能を有する鉛蓄電池を得ることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、袋状セパレータと、電解液と、を備え、前記負極板は、第1炭素材料と、第2炭素材料と、を含む負極電極材料を含み、前記第1炭素材料は、32μm以上の粒子径を有し、前記第2炭素材料は、32μm未満の粒子径を有し、前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が、15以上、420以下であり、前記正極板が、前記袋状セパレータで包装されている、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0009】
ハイレートPSOCサイクル試験と深放電サイクル試験の双方において優れた寿命性能を有する鉛蓄電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【
図2】実施例に係る鉛蓄電池A3と比較例に係る鉛蓄電池B3の深放電サイクル試験の結果を示す図である。
【
図3】R2/R1比とハイレートPSOCサイクル試験における寿命との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一側面は、負極板と、正極板と、袋状セパレータと、電解液とを備える鉛蓄電池に関する。負極板は、第1炭素材料と、第2炭素材料とを含む負極電極材料を含む。第1炭素材料は、32μm以上の粒子径を有する。第2炭素材料は、32μm未満の粒子径を有する。第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する第2炭素材料の粉体抵抗R2の比(R2/R1比)は、15以上、420以下である。正極板は、袋状セパレータで包装されている。
【0012】
袋状セパレータで正極板を包装することで、深放電サイクル試験での寿命性能(以下、深放電サイクル寿命とも称する。)が顕著に向上する。その理由は明らかではないが、袋状セパレータで正極板を包装すると、充電時に正極板近傍で生成する高濃度硫酸が袋状セパレータの外に移動しにくくなる。また、正極板で発生するガスによって、正極板近傍の電解液が上下方向に攪拌されやすくなる。これらの現象が相乗的に作用することで、正極板近傍の成層化が顕著に抑制され、深放電サイクル寿命を向上させるものと考えられる。
【0013】
一方、負極板の近傍では、電解液の拡散領域が広がるため、高濃度硫酸が沈降しやすくなり、成層化が進行する傾向がある。成層化が進行すると、負極板下部で充電反応が進行しにくくなり、硫酸鉛が蓄積されやすくなる。
【0014】
ただし、R2/R1比が15~420を満たす第1炭素材料と第2炭素材料とを負極電極材料に含ませる場合、負極板の導電性が顕著に向上する。R2/R1比を上記範囲に制御すると、負極電極材料中に良好な導電ネットワークが形成され、かつ形成された導電ネットワークが劣化しにくくなるものと考えられる。このような良好な導電ネットワークの構築により、負極電極材料中に相当量の不導体である硫酸鉛が存在する場合でも、充電受入性が向上する。よって、負極板下部で硫酸鉛の蓄積が進行しやすいような場合でも、R2/R1比が15~420を満たす第1炭素材料と第2炭素材料を負極電極材料が含まない場合に比べると、ハイレートPSOCサイクル試験での寿命性能(以下、ハイレートPSOCサイクル寿命とも称する。)は良好に維持される。
【0015】
次に、第1炭素材料の比表面積s1に対する第2炭素材料の比表面積s2の比(s2/s1比)は、10以上、500以下であることが好ましい。この場合、充電受入性が負極板の全領域でより均一になるものと考えられる。負極板の充電受入性のばらつきが低減することで、硫酸鉛の還元反応が進行しやすくなるとともに、副反応の進行が抑制される。よって、ハイレートPSOCサイクル寿命が更に良好になる。
【0016】
更に、s2/s1比を上記範囲に制御することで、負極板と対向している正極板の充放電反応もより均一になる。その結果、充放電が集中しやすい正極板上部における正極電極材料の軟化および脱落が抑制される。正極電極材料の脱落量が低減することで、電解液を浮遊する正極電極材料の量が減少し、それが負極板に堆積し、成長して正極板と接触することによる短絡(モス短絡)も抑制される。
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
(負極板)
負極板は、通常、負極集電体(負極格子など)と、負極電極材料とで構成される。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いた部位である。
なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。負極板がこのような部材(貼付部材)を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、電極板の厚みはマットを含む厚みとする。セパレータにマットが貼りつけられている場合は、マットの厚みはセパレータの厚みに含まれる。
【0019】
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含む。充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0020】
負極電極材料は、第1炭素材料と第2炭素材料とを含む。第1炭素材料は32μm以上の粒子径を有し、第2炭素材料は32μm未満の粒子径を有する。第1炭素材料と第2炭素材料とは、後述する手順で分離され、区別することができる。
【0021】
負極電極材料は、更に、有機防縮剤、硫酸バリウムなどを含んでもよく、必要に応じて、更に他の添加剤を含んでもよい。
【0022】
(炭素材料)
第1炭素材料および第2炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0023】
第1炭素材料および第2炭素材料は、第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する第2炭素材料の粉体抵抗R2の比(R2/R1比)が15~420となるように、例えば、それぞれの炭素材料の種類、平均粒子径D50、比表面積などを調節すればよい。
【0024】
第1炭素材料としては、例えば、黒鉛、ハードカーボンおよびソフトカーボンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。中でも第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含むことが好ましい。第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。第1炭素材料および第2炭素材料として上記材料の組み合わせを選択することで、R2/R1比を調節しやすくなり、負極電極材料中に、より良好な導電ネットワークが形成されやすく、導電ネットワークの劣化もより生じにくくなる。
【0025】
なお、第1炭素材料のうち、ラマンスペクトルの1300cm-1以上1350cm-1以下の範囲に現れるピーク(Dバンド)と、1550cm-1以上1600cm-1以下の範囲に現れるピーク(Gバンド)との強度比ID/IGが、0以上、0.9以下であるものを黒鉛とする。
【0026】
R2/R1比は、15以上であればよいが、20以上が好ましく、25以上がより好ましく、50以上としてもよい。また、R2/R1比は、420以下であればよいが、155以下が好ましく、130以下がより好ましく、70以下が特に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせてよい。R2/R1比の好ましい範囲は、25~420、25~155、25~70、50~420、50~155、50~130、50~70などであってもよい。R2/R1比がこのような範囲である場合、優れたハイレートPSOCサイクル寿命を確保しやすくなる。
【0027】
s2/s1比は、例えば10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上もしくは40以上であってもよい。また、s2/s1は、500以下が好ましく、240以下がより好ましく、120以下が更に好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせてよい。s2/s1比は、20~500、20~400、20~240、20~120、30~500、30~400、30~240、30~120、10~240、10~120、20~120などであってもよい。s2/s1比がこのような範囲である場合、より優れたハイレートPSOCサイクル寿命を確保しやすくなる。
【0028】
負極電極材料中の第1炭素材料の含有量は、例えば0.05質量%以上、3.0質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上である。また、好ましくは2.0質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以下である。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。第1炭素材料の含有量が0.05質量%以上の場合、ハイレートPSOCサイクル寿命を向上させやすくなる。第1炭素材料の含有量が3.0質量%以下の場合、活物質粒子同士の密着性を確保し易くなるため、負極板の亀裂の発生が抑制され、ハイレートPSOCサイクル寿命を更に向上させやすくなる。
【0029】
負極電極材料中の第2炭素材料の含有量は、例えば0.03質量%以上、1.0質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以上である。また、好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以下である。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。第2炭素材料の含有量が0.03質量%以上の場合、ハイレートPSOCサイクル寿命を向上させやすくなる。第2炭素材料の含有量が1.0質量%以下の場合、例えばハイレート性能を高めやすくなる。
【0030】
炭素材料の物性の決定方法または分析方法について、以下に説明する。
(A)炭素材料の分離
既化成の満充電状態の鉛蓄電池を分解し、負極板を取り出し、水洗により硫酸を除去し、真空乾燥(大気圧より低い圧力下で乾燥)する。乾燥した負極板から負極電極材料を採取し、粉砕する。5gの粉砕試料に、60質量%濃度の硝酸水溶液30mLを加えて、70℃で加熱する。さらに、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10g、28質量%濃度のアンモニア水30mLおよび水100mLを加えて、加熱を続け、可溶分を溶解させる。このようにして前処理を行なった試料をろ過により回収する。回収した試料を、目開き500μmのふるいにかけて、補強材などのサイズが大きな成分を除去し、ふるいを通過した成分を炭素材料として回収する。
【0031】
回収された炭素材料を目開き32μmのふるいを用いて湿式にて篩ったときに、ふるいの目を通過せずに、ふるい上に残るものを第1炭素材料とし、ふるいの目を通過するものを第2炭素材料とする。つまり、各炭素材料の粒子径は、ふるいの目開きのサイズを基準とする。湿式のふるい分けについては、JIS Z8815:1994を参照すればよい。
【0032】
具体的には、炭素材料を目開き32μmのふるい上に載せ、イオン交換水を散水しながら5分間ふるいを軽く揺らして篩い分けする。ふるい上に残った第1炭素材料は、イオン交換水を流しかけて、ふるいから回収し、ろ過によりイオン交換水から分離する。ふるいを通過した第2炭素材料は、ニトロセルロース製のメンブランフィルタ(目開き0.1μm)を用いて、ろ過により回収する。回収された第1炭素材料および第2炭素材料は、それぞれ100℃の温度で2時間乾燥させる。目開き32μmのふるいとしては、JIS Z 8801-1:2006に規定される公称目開きが32μmのふるい網を備えるものを使用する。
【0033】
なお、負極電極材料中の各炭素材料の含有量は、上記の手順で分離した各炭素材料の質量を測り、その質量の5gの粉砕試料中に占める比率(質量%)を算出することにより求めればよい。
【0034】
(B)炭素材料の粉体抵抗
第1炭素材料の粉体抵抗R1および第2炭素材料の粉体抵抗R2は、上記(A)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれについて、粉体抵抗測定システム(例えば株式会社三菱化学アナリテック製、MCP-PD51型)に、試料を0.5g投入し、圧力3.18MPa下で、JIS K 7194:1994に準拠した低抵抗-抵抗率計(例えば株式会社三菱化学アナリテック製、ロレスタ-GX MCP-T700)を用いて、四探針法により測定される値である。
【0035】
(C)炭素材料の比表面積
第1炭素材料の比表面積s1および第2炭素材料の比表面積s2は、第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれのBET比表面積である。BET比表面積は、上記(A)の手順で分離された第1炭素材料および第2炭素材料のそれぞれを用いて、ガス吸着法によりBET式を用いて求められる。各炭素材料は、窒素フロー中、150℃の温度で、1時間加熱することにより前処理される。前処理した炭素材料を用いて、例えば下記装置を用いて、下記条件により、各炭素材料のBET比表面積を求めればよい。
【0036】
測定装置:マイクロメリティックス社製 TriStar3000
吸着ガス:純度99.99%以上の窒素ガス
吸着温度:液体窒素沸点温度(77K)
BET比表面積の計算方法:JIS Z 8830:2013の7.2に準拠
【0037】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、液式の電池の場合、25℃の水槽中で、5時間率電流で2.5V/セルに達するまで定電流充電を行った後、さらに5時間率電流で2時間、定電流充電を行った状態である。また、制御弁式の電池の場合、満充電状態とは、25℃の気槽中で、5時間率電流で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が1mCA以下になった時点で充電を終了した状態である。
【0038】
なお、本明細書中、1CAとは、電池の公称容量(Ah)と同じ数値の電流値(A)である。例えば、公称容量が30Ahの電池であれば、1CAは30Aであり、1mCAは30mAである。
【0039】
(有機防縮剤)
負極電極材料には有機防縮剤を含ませることができる。有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に1つ以上、好ましくは複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0040】
有機防縮剤としては、例えば、リグニン類を用いてもよく、硫黄含有基を有する芳香族化合物のホルムアルデヒドによる縮合物を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体とは、リグニンスルホン酸、リグニンスルホン酸の塩(例えばナトリウム塩などのアルカリ金属塩)などである。有機防縮剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、リグニン類と、硫黄含有基を有する芳香族化合物のホルムアルデヒドによる縮合物とを併用してもよい。
【0041】
芳香族化合物としては、ビスフェノール類、ビフェニル類、ナフタレン類などを用いることが好ましい。ビスフェノール類、ビフェニル類およびナフタレン類とは、それぞれビスフェノール骨格、ビフェニル骨格およびナフタレン骨格を有する化合物の総称であり、それぞれが置換基を有してもよい。これらは、有機防縮剤中に単独で含まれてもよく、複数種が含まれてもよい。ビスフェノールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。硫黄含有基は、芳香族化合物の芳香環に直接結合していてもよく、例えば硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。N,N’-(スルホニルジ-4,1-フェニレン)ビス(1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メチル-2,4-ジオキソピリミジン-5-スルホンアミド)の縮合物などを有機防縮剤として用いてもよい。
【0042】
有機防縮剤中の硫黄元素含有量は、例えば400μmol/g以上、10000μmol/g以下である。リグニン類の硫黄元素含有量は、例えば400μmol/g以上、1000μmol/g以下である。硫黄含有基を有する芳香族化合物のホルムアルデヒドによる縮合物の硫黄元素含有量は、例えば2000μmol/g以上、10000μmol/g以下であり、3000μmol/g以上、9000μmol/g以下が好ましい。
【0043】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば0.01質量%以上、1.0質量%以下であり、0.02質量%以上が好ましく、また、0.8質量%以下が好ましい。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。
【0044】
以下、負極電極材料に含まれる有機防縮剤の定量方法について記載する。定量分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板に水洗と乾燥とを施して負極板中の電解液を除く。次に、負極板から負極電極材料を分離して未粉砕の初期試料を入手する。
【0045】
[有機防縮剤]
未粉砕の初期試料を粉砕し、粉砕された初期試料を1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除く。得られた濾液(以下、分析対象濾液とも称する。)を脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、分析対象粉末とも称する。)が得られる。脱塩は、濾液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸して行えばよい。
【0046】
分析対象粉末の赤外分光スペクトル、分析対象粉末を蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、分析対象粉末を重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、有機防縮剤を特定する。
【0047】
上記分析対象濾液の紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
【0048】
(その他)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えばエキスパンド加工、打ち抜き(パンチング)加工などが挙げられる。
【0049】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金およびPb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。
【0050】
負極板は、負極集電体に負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉、炭素材料、有機防縮剤、必要に応じて使用される各種添加剤などに、水と硫酸を加えて混練することで調製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0051】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により海綿状鉛が生成する。
【0052】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板には、ペースト式とクラッド式がある。
ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極集電体は、負極集電体と同様に形成すればよく、鉛または鉛合金の鋳造、鉛または鉛合金シートの加工などにより形成することができる。
【0053】
クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。
【0054】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金またはPb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は複数でもよい。芯金には、Pb-Sb系合金を用いることが好ましい。
【0055】
正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0056】
未化成のペースト式正極板は、負極板の場合に準じて、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。その後、未化成の正極板を化成する。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、硫酸などを練合することで調製される。
【0057】
クラッド式正極板は、芯金が挿入されたチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。
【0058】
(袋状セパレータ)
正極板を包装する袋状セパレータは、多孔質シートを袋状に成形することにより得られる。袋状セパレータは、例えば、一枚の矩形の多孔質シートを二つ折りにして、重なり部の二辺の端部同士を接合することにより形成される。端部同士が接合される二辺は、折り目と交差する二辺であることが好ましいが、これに限定されない。また、2枚のシートを準備して、これらを重ね、重なり部の三辺の端部同士を接合してもよい。正極板を挿入するための開口部以外の三辺は、全体的に接合されていてもよく、部分的に非接合部を有してもよい。多孔質シートとしては、織布、不織布、微多孔膜などを用いることができる。
【0059】
織布および不織布は、繊維を主体とすればよく、例えば60質量%以上が繊維で形成されている。織布は、繊維の織物または編み物を主体とすればよく、不織布は、絡み合わせた繊維を主体とすればよい。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維、パルプ繊維などを用いることができる。中でもポリマー繊維とガラス繊維とを含む織布もしくは不織布が好ましい。織布および不織布は、繊維以外の成分を含むマットでもよい。繊維以外の成分としては、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどが挙げられる。
【0060】
微多孔膜は、繊維成分以外を主体とすればよく、例えば、造孔剤(ポリマー粉末、オイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより形成される。微多孔膜は、耐酸性を有するポリマーを主体とすることが好ましい。
【0061】
繊維、結着剤、微多孔膜などを構成するポリマーとしては、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート)などが挙げられる。中でも微多孔膜を構成するポリマーには、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンを用いることが好ましい。多孔質シートが熱可塑性ポリマーを含む場合、袋状セパレータを形成する際の端部同士の接合は、熱溶着により行うことができる。
【0062】
袋状セパレータは、織布または不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。袋状セパレータは、必要に応じて、織布または不織布と微多孔膜との積層物で構成してもよい。また、袋状セパレータは、異種または同種の素材を貼り合わせた物、凹凸を有する異種または同種の素材の凹凸を咬み合わせた物などで構成してもよい。
【0063】
袋状セパレータと、袋状ではないセパレータとを併用してもよい。例えば、微多孔膜で形成された袋状セパレータ内に正極板を収容するとともに、袋状ではない不織布を主体とするマットを正極板または負極板の表面に貼り付けてもよい。
【0064】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。化成後で満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば1.10~1.35g/cm3であり、1.20~1.35g/cm3であることが好ましい。
【0065】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、正極端子16および負極端子17を具備する蓋15で密閉されている。蓋15には、セル室毎に液口が設けられ、液口には液口栓18が挿入されている。補水の際には、液口栓18を外して液口から補水液が補給される。
【0066】
極板群11は、それぞれ袋状セパレータ4で包装された複数枚の正極板2と負極板3とを積層することにより構成されている。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の正極板2の耳部2aを並列接続する正極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の負極板3の耳部3aを並列接続する負極棚部5が負極柱7に接続されている。負極柱7は蓋15の外部の負極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、正極棚6に正極柱9が接続され、負極棚5に貫通接続体8が接続される。正極柱9は蓋15の外部の正極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0067】
本発明に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、負極板と、正極板と、袋状セパレータと、電解液と、を備え、
前記負極板は、第1炭素材料と、第2炭素材料と、を含む負極電極材料を含み、
前記第1炭素材料は、32μm以上の粒子径を有し、
前記第2炭素材料は、32μm未満の粒子径を有し、
前記第1炭素材料の粉体抵抗R1に対する前記第2炭素材料の粉体抵抗R2の比:R2/R1が、15以上、420以下であり、
前記正極板が、前記袋状セパレータで包装されている。
【0068】
(2)上記(1)において、前記第1炭素材料の比表面積s1に対する前記第2炭素材料の比表面積s2の比:s2/s1は、例えば、10以上、500以下である。
【0069】
(3)上記(1)または(2)において、R2/R1比は、例えば、20以上でもよく、25以上でもよく、50以上でもよい。また、R2/R1比は、155以下でもよく、130以下でもよく、70以下でもよい。
【0070】
(4)上記(1)~(3)において、R2/R1比の範囲は、例えば、25~420でもよく、25~155でもよく、25~70でもよく、50~420でもよく、50~155でもよく、50~130でもよく、50~70でもよい。
【0071】
(5)上記(1)~(4)において、s2/s1比は、例えば、20以上でもよく、30以上もしくは40以上でもよい。また、s2/s1は、240以下でもよく、120以下でもよい。
【0072】
(6)上記(1)~(5)において、s2/s1比の範囲は、例えば、20~500でもよく、20~400でもよく、20~240でもよく、20~120でもよく、30~500でもよく、30~400でもよく、30~240でもよく、30~120でもよく、10~240でもよく、10~120でもよく、20~120でもよい。
【0073】
(7)上記(1)~(6)において、負極電極材料中の第1炭素材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上、3.0質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上である。また、2.0質量%以下が好ましく、さらに好ましくは1.5質量%以下である。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。
【0074】
(8)上記(1)~(7)において、負極電極材料中の第2炭素材料の含有量は、例えば、0.03質量%以上、1.0質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以上である。また、好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以下である。これらの上限、下限は任意に組み合わせることができる。
【0075】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記第1炭素材料は、少なくとも黒鉛を含み、前記第2炭素材料は、少なくともカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0076】
以下に、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
《鉛蓄電池A1》
(1)負極板の作製
鉛粉、水、希硫酸、炭素材料および有機防縮剤を混合して、負極ペーストを得る。負極ペーストを、負極集電体としてのPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の負極板を得る。炭素材料としては、カーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標)、平均粒子径D50:40nm)および黒鉛(平均粒子径D50:110μm)を用いる。有機防縮剤としては、リグニンを用い、負極電極材料100質量%に含まれる含有量が0.05質量%となるように、添加量を調整して負極ペーストに配合する。
【0078】
(2)正極板の作製
鉛粉と、水と、硫酸とを混練させて、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0079】
(3)鉛蓄電池の作製
未化成の正極板を、ポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板5枚と未化成の正極板4枚とで極板群を形成する。
【0080】
極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、公称容量30Ah、公称電圧12Vの液式の自動車用鉛蓄電池A1を組み立てる。鉛蓄電池の端子電圧は2V/セルとする。
【0081】
本鉛蓄電池では、負極電極材料中に含まれる第1炭素材料の含有量は0.3質量%とし、第2炭素材料の含有量は1.5質量%とする。また、R2/R1比は、23.6とする。第2炭素材料の比表面積S2の、第1炭素材料の比表面積S1に対する比(=S2/S1)は、130とする。
【0082】
ただし、これらの値は、作製された鉛蓄電池の負極板を取り出し、既述の手順で、負極電極材料に含まれる炭素材料を第1炭素材料と第2炭素材料とに分離したときに、負極電極材料(100質量%)中に含まれる各炭素材料の含有量として求められる値である。各炭素材料の粉体抵抗R1およびR2およびR2/R1比も既述の手順で求められる。
【0083】
《鉛蓄電池A2~A6》
使用する各炭素材料の平均粒子径D50、比表面積、第1炭素材料の平均アスペクト比などを調整することにより、R2/R1比およびS2/S1比を表1に示すように変更する。これ以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池A2~A8を組み立てる。
【0084】
《鉛蓄電池AR》
炭素材料として、カーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標)、平均粒子径D50:40nm)のみを用いる。これ以外は、鉛蓄電池A1と同様にして負極板を作製し、得られる負極板を用いること以外は、鉛蓄電池A1と同様にして、鉛蓄電池ARを組み立てる。
【0085】
《鉛蓄電池B1~B8》
未化成の正極板ではなく、未化成の負極板を袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板5枚と未化成の正極板4枚とで極板群を形成する。これ以外は、鉛蓄電池A1~A8と同様にして、鉛蓄電池B1~B8を組み立てる。
【0086】
《鉛蓄電池BR》
未化成の正極板ではなく、未化成の負極板を袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板5枚と未化成の正極板4枚とで極板群を形成する。これ以外は、鉛蓄電池ARと同様にして、鉛蓄電池BRを組み立てる。
【0087】
[評価1:深放電サイクル試験]
以下の充放電条件で、40℃にて、50%の放電深度で、鉛蓄電池の深放電サイクル試験を行う。深度50%放電時の放電末期の電圧が1.67V/セルを下回るときのサイクル数を深放電サイクル寿命の指標とする。鉛蓄電池BRの結果を100%としたときの比率を各表に示す。
【0088】
<充放電条件>
放電:0.25CAの定電流で2時間放電する。
充電:2.6V/セルの一定電圧で、最大電流0.25CAで5時間充電する。
【0089】
[評価2:ハイレートPSOCサイクル試験]
表1に示すパターンで、40℃にて、鉛蓄電池のハイレートPSOCサイクル試験を行う。端子電圧が1.2V/セルに到達するまでのサイクル数をハイレートPSOCサイクル寿命の指標とする。鉛蓄電池BRの結果を100%としたときの比率を各表に示す。なお、表1において、「CC放電」とは「定電流放電」を意味し、「CV充電」とは「定電圧充電」を意味する。
【0090】
【0091】
[評価3:モス短絡加速試験]
以下の充放電条件で、40℃の水槽内で、充放電試験を行う。モス短絡が発生する場合は○、モス短絡は発生しない場合は×を表2、3に表示する。
【0092】
<充放電条件>
放電:0.25CAの定電流で2時間放電する。
充電:2.6V/セルの一定電圧で、最大電流0.25CAで5時間充電する。
上記充放電を270サイクル繰り返し、270サイクル到達前に、充電末期(5時間目)の電流が0.25CAに到達した場合には、モス短絡が発生していると判定する。
【0093】
【0094】
【0095】
表2、3に示すように、R2/R1比を15~420の範囲内に制御することで、深放電サイクル試験およびハイレートPSOCサイクル試験のいずれにおいても優れた寿命性能を有する鉛蓄電池が得られることが理解できる。中でも、R2/R1比を25以上とすることでハイレートPSOCサイクル寿命が顕著に向上しており、R2/R1比を50以上とすることでハイレートPSOCサイクル寿命が更に顕著に向上している。また、s2/s1比を10~500の範囲内に制御することで、モス短絡の発生が顕著に抑制されている。
【0096】
図2に、鉛蓄電池A3と鉛蓄電池B3の深放電サイクル試験の結果を棒グラフで対比して示す。この対比から、正極板を袋状セパレータで包装することにより、負極板を袋状セパレータで包装する場合に比べて、深放電サイクル寿命が顕著に向上することが理解できる。
【0097】
図3に、鉛蓄電池A1~A8および鉛蓄電池B1~B8のR2/R1比とハイレートPSOCサイクル寿命との関係を示す。
図3に示されるように、正極板を袋状セパレータで包装する場合、R2/R1比が15未満では、負極板を袋状セパレータで包装する場合よりもハイレートPSOCサイクル寿命が低くなる。すなわち、正極板を袋状セパレータで包装する場合、良好なハイレートPSOCサイクル寿命を得るには、R2/R1比を制御することが重要である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、制御弁式および液式の鉛蓄電池に適用可能であり、自動車もしくはバイクなどの始動用の電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0099】
1:鉛蓄電池、2:正極板、2a:正極板の耳部、3:負極板、3a:負極板の耳部、4:袋状セパレータ、5:負極棚部、6:正極棚部、7:負極柱、8:貫通接続体、9:正極柱、11:極板群、12:電槽、13:隔壁、14:セル室、15:蓋、16:正極端子、17:負極端子、18:液口栓