(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂分解剤およびエポキシ樹脂の分解方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/18 20060101AFI20220817BHJP
C08J 11/22 20060101ALI20220817BHJP
C08J 11/16 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
C08J11/18 CFC
C08J11/22 ZAB
C08J11/16
(21)【出願番号】P 2020059526
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 謙一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 一夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 久人
(72)【発明者】
【氏名】菊澤 良弘
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-025312(JP,A)
【文献】特開2005-255902(JP,A)
【文献】特開2018-177970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B17/00-17/04
C08J11/00-11/28
C07B31/00-63/04
C07C1/00-409/44
B09B1/00-5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧、室温下でエポキシ樹脂の架橋点以外の結合を切断できるエポキシ樹脂分解化合物と、有機溶媒と、を含
み、
前記エポキシ樹脂分解化合物は、トリメチルシリルハロゲン、ハロゲン化水素、ハロゲン化ホウ素、アゾ化合物、有機過酸化物、トリアルキルボラン、ジアルキル亜鉛、white触媒、フェントン試薬、および、ニトロキシド化合物のうちの少なくとも1つであることを特徴とするエポキシ樹脂分解剤。
【請求項2】
請求項
1に記載のエポキシ樹脂分解剤であって、
前記
エポキシ樹脂分解化合物は、トリメチルシリルハロゲン、ハロゲン化水素、または、ハロゲン化ホウ素のうちの少なくとも1つであることを特徴とするエポキシ樹脂分解剤。
【請求項3】
請求項2に記載のエポキシ樹脂分解剤であって、
前記
エポキシ樹脂分解化合物は、
トリメチルシリルハロゲンであることを特徴とするエポキシ樹脂分解剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂分解剤であって、
前記有機溶媒は、前記エポキシ樹脂分解化合物を失活させる作用のない溶媒、または、前記エポキシ樹脂分解化合物と反応しない溶媒であることを特徴とするエポキシ樹脂分解剤。
【請求項5】
請求項
4に記載のエポキシ樹脂分解剤であって、
前記有機溶媒は、塩素系有機溶媒、脂肪族炭化水素、または、芳香族炭化水素のうちの少なくとも1つであることを特徴とするエポキシ樹脂分解剤。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂分解剤であって、
前記エポキシ樹脂は、アミノ基を有するアミノ基含有化合物とエポキシ基を有するエポキシ基含有化合物との反応により得られるエポキシ樹脂、または、無水カルボン酸とエポキシ基を有するエポキシ基含有化合物との反応により得られるエポキシ樹脂のうちの少なくとも1つであることを特徴とするエポキシ樹脂分解剤。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂分解剤を用いてエポキシ樹脂を分解することを特徴とするエポキシ樹脂の分解方法。
【請求項8】
請求項
7に記載のエポキシ樹脂の分解方法であって、
前記エポキシ樹脂分解剤と前記有機溶媒との合計質量に対して前記有機溶媒を10質量%以上含ませることを特徴とするエポキシ樹脂の分解方法。
【請求項9】
請求項
8に記載のエポキシ樹脂の分解方法であって、
前記エポキシ樹脂分解剤と前記有機溶媒との合計質量に対して前記有機溶媒を40質量%以上含ませることを特徴とするエポキシ樹脂の分解方法。
【請求項10】
請求項
8または
9に記載のエポキシ樹脂の分解方法であって、
さらに水を含ませ、前記水の含有量は、前記エポキシ樹脂分解剤と前記エポキシ樹脂と前記有機溶媒と前記水との合計質量に対して0.4質量%以上であることを特徴とするエポキシ樹脂の分解方法。
【請求項11】
請求項
10に記載のエポキシ樹脂の分解方法であって、
前記水の含有量は、前記エポキシ樹脂分解剤と前記エポキシ樹脂と前記有機溶媒と前記水との合計質量に対して4質量%以上であることを特徴とするエポキシ樹脂の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂を分解するためのエポキシ樹脂分解剤、およびそのエポキシ樹脂分解剤を用いるエポキシ樹脂の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、優れた電気絶縁性、耐熱性、機械的強度等を有する熱硬化性樹脂であり、各種の電気部品、電子部品、自動車部品等の材料として広く用いられている。エポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの共重合体等のプレポリマーと、ポリアミンや酸無水物等の硬化剤とを混合して熱硬化処理を行うことにより得られる。しかし、一度硬化したエポキシ樹脂は、熱による軟化、融解はされにくく、溶剤への溶解性も低いため、分解は困難である。このため、硬化したエポキシ樹脂の処分は、埋立てせざるを得ず、環境への負荷等の問題がある。また、溶剤への溶解性が低く、分解が困難であるため、硬化したエポキシ樹脂の構造解析等の分析も困難である。
【0003】
例えば、特許文献1には、有機溶媒とアルカリ金属またはアルカリ金属化合物とを含む100℃未満の処理液中に半硬化状態の未硬化エポキシ樹脂複合材料を浸漬させる第1の工程、100℃以上で、有機溶媒の沸点温度以下の処理液中に、未硬化エポキシ樹脂複合材料を浸漬させる第2の工程を得ることで半硬化状態の未硬化エポキシ樹脂を溶解させることができると提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、アルカリ金属塩またはアルカリ金属の水酸化物を共存させた亜臨界水(260~350℃、4.7MPa~16.53MPa)にエポキシ樹脂硬化物を接触させることによって分解するエポキシ樹脂硬化物の分解方法が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1,2に記載の分解方法では、エポキシ樹脂の架橋点まで分解が進行し、多種多様の分解物が生成してしまい、架橋点等を解析することは困難である。また、特許文献2に記載の分解方法では、エポキシ樹脂の分解に高温、高圧が必要であるため、大量のエポキシ樹脂の処分には多大なエネルギーが必要である。また、そのような高温、高圧条件に耐えうる専用の機器を用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-052865号公報
【文献】特開2012-188466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、大気圧、室温下等の温和な条件でもエポキシ樹脂を分解することができるエポキシ樹脂分解剤、およびそのエポキシ樹脂分解剤を用いるエポキシ樹脂の分解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、大気圧、室温下でエポキシ樹脂の架橋点以外の結合を切断できるエポキシ樹脂分解化合物と、有機溶媒と、を含み、前記エポキシ樹脂分解化合物は、トリメチルシリルハロゲン、ハロゲン化水素、ハロゲン化ホウ素、アゾ化合物、有機過酸化物、トリアルキルボラン、ジアルキル亜鉛、white触媒、フェントン試薬、および、ニトロキシド化合物のうちの少なくとも1つである、エポキシ樹脂分解剤である。
【0010】
前記エポキシ樹脂分解剤において、前記エポキシ樹脂分解化合物は、トリメチルシリルハロゲン、ハロゲン化水素、または、ハロゲン化ホウ素のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
前記エポキシ樹脂分解剤において、前記エポキシ樹脂分解化合物は、トリメチルシリルハロゲンであることが好ましい。
【0012】
前記エポキシ樹脂分解剤において、前記有機溶媒は、前記エポキシ樹脂分解化合物を失活させる作用のない溶媒、または、前記エポキシ樹脂分解化合物と反応しない溶媒であることが好ましい。
【0013】
前記エポキシ樹脂分解剤において、前記有機溶媒は、塩素系有機溶媒、脂肪族炭化水素、または、芳香族炭化水素のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
前記エポキシ樹脂分解剤において、前記エポキシ樹脂は、アミノ基を有するアミノ基含有化合物とエポキシ基を有するエポキシ基含有化合物との反応により得られるエポキシ樹脂、または、無水カルボン酸とエポキシ基を有するエポキシ基含有化合物との反応により得られるエポキシ樹脂のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0015】
本発明は、前記エポキシ樹脂分解剤を用いてエポキシ樹脂を分解する、エポキシ樹脂の分解方法である。
【0016】
前記エポキシ樹脂の分解方法において、前記エポキシ樹脂分解剤と前記有機溶媒との合計質量に対して前記有機溶媒を10質量%以上含ませることが好ましい。
【0017】
前記エポキシ樹脂の分解方法において、前記エポキシ樹脂分解剤と前記有機溶媒との合計質量に対して前記有機溶媒を40質量%以上含ませることが好ましい。
【0018】
前記エポキシ樹脂の分解方法において、さらに水を含ませ、前記水の含有量は、前記エポキシ樹脂分解剤と前記エポキシ樹脂と前記有機溶媒と前記水との合計質量に対して0.4質量%以上であることが好ましい。
【0019】
前記エポキシ樹脂の分解方法において、前記水の含有量は、前記エポキシ樹脂分解剤と前記エポキシ樹脂と前記有機溶媒と前記水との合計質量に対して4質量%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、大気圧、室温下等の温和な条件でもエポキシ樹脂を分解することができるエポキシ樹脂分解剤、およびそのエポキシ樹脂分解剤を用いるエポキシ樹脂の分解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1における、エポキシ樹脂の分解前後の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図2】実施例1における、エポキシ樹脂の分解物のMALDIマススペクトルを示す図である。
【
図3】実施例2における、エポキシ樹脂の分解物の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図4】実施例2における、エポキシ樹脂の分解物のMALDIマススペクトルを示す図である。
【
図5】実施例3における、反応系への水添加による効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0023】
<エポキシ樹脂分解剤>
本実施形態に係るエポキシ樹脂分解剤は、大気圧、室温下でエポキシ樹脂の架橋点以外の結合を切断できるエポキシ樹脂分解化合物と、有機溶媒と、を含む。
【0024】
従来のエポキシ樹脂の分解方法は、高温、高圧が必要であり、多種多様の分解物が生成する。一方、本実施形態に係るエポキシ樹脂分解剤を用いると、温和な条件(例えば、大気圧、室温)下で、エポキシ樹脂の架橋点以外の分子鎖を切断することができ、エポキシ樹脂を低分子化合物へと変換することができる。エポキシ樹脂の架橋点を温存した分子鎖切断が可能であり、分解物を分析することにより、エポキシ樹脂の硬さ等に影響する架橋点の量と質等を解析することができる。また、高温、高圧に耐えうる専用の機器を用意しなくてもよく、優位性がある。大量のエポキシ樹脂を処分する場合であっても、多大なエネルギーを用いなくてもよい。本実施形態に係るエポキシ樹脂分解剤を用いて分解したエポキシ樹脂の分解物は有機溶媒に可溶であり、可溶分と不溶分とに分離することによって、エポキシ樹脂と充填剤とを含む複合材料から充填剤を回収するリサイクル法等としても利用することができる。
【0025】
エポキシ樹脂分解化合物は、大気圧(950~1030hPa)、室温(10~35℃)下でエポキシ樹脂の架橋点以外の結合を切断できる化合物であればよく、特に制限はない。エポキシ樹脂分解化合物としては、例えば、求核置換反応(SN1、SN2)または脱離反応(E1、E2)によってエーテル結合を切断できるエーテル結合切断化合物、または、ラジカルを発生させるラジカル発生化合物等が挙げられる。
【0026】
エーテル結合を切断できるエーテル結合切断化合物としては、低分子有機化合物中のエーテル結合を切断できる化合物であればよく、特に制限はない。エーテル結合切断化合物としては、例えば、トリメチルシリルヨージド、トリメチルシリルクロリド、トリメチルシリルブロミド等のトリメチルシリルハロゲン、臭化水素(HBr)等のハロゲン化水素、三臭化ホウ素(BBr3)等のハロゲン化ホウ素等が挙げられ、安全性や操作性等の点でトリメチルシリルヨージドが好ましい。
【0027】
ラジカルを発生させるラジカル発生化合物としては、ラジカル反応を進めるために温和な反応条件(例えば、大気圧、室温)でラジカルを発生させる化合物であればよく、特に制限はない。ラジカル発生化合物としては、ラジカル開始剤や重合開始剤等が挙げられ、例えば、F2、Cl2、Br2、I2等のジハロゲン化合物、アゾイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンペルオキシド等の有機過酸化物、トリエチルボラン等のトリアルキルボラン、ジエチル亜鉛等のジアルキル亜鉛、white触媒(1,2-ビス(フェニルスルフィニル)エタンパラジウム(II)ジアセタート)、フェントン試薬(過酸化水素と2価鉄(Fe2+))、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(TEMPO)等のニトロキシド化合物等が挙げられ、安全性等の点でアゾイソブチロニトリルが好ましい。
【0028】
有機溶媒は、エポキシ樹脂分解化合物を溶解することができる溶媒であればよく、特に制限はない。有機溶媒としては、例えば、エポキシ樹脂分解化合物を失活させる作用のない溶媒、エポキシ樹脂分解化合物と反応しない溶媒等が挙げられる。
【0029】
有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素等の塩素系有機溶媒、ヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、テトラリン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、反応速度が速い等の点でジクロロメタンが好ましい。
【0030】
分解対象であるエポキシ樹脂は、硬化剤とエポキシ基を有するエポキシ基含有化合物(プレポリマー)との熱硬化処理により得られる熱硬化性樹脂であればよく、特に制限はない。エポキシ樹脂としては、例えば、アミノ基を有するアミノ基含有化合物とエポキシ基を有するエポキシ基含有化合物との反応により得られるエポキシ樹脂、無水カルボン酸とエポキシ基を有するエポキシ基含有化合物との反応により得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0031】
硬化剤であるアミノ基含有化合物としては、例えば、4,4-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
【0032】
硬化剤である無水カルボン酸としては、例えば、無水マレイン酸、無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0033】
エポキシ基含有化合物(プレポリマー)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ、ビスフェノールF型エポキシ、フェノールノボラック型エポキシ等が挙げられる。
【0034】
<エポキシ樹脂の分解方法>
本実施形態に係るエポキシ樹脂の分解方法は、上記エポキシ樹脂分解剤を用いてエポキシ樹脂を分解する方法である。
【0035】
例えば、分解対象であるエポキシ樹脂を反応容器に入れ、有機溶媒を添加して得られるエポキシ樹脂溶液またはエポキシ樹脂分散液にエポキシ樹脂分解剤を加え、例えば、大気圧(950~1030hPa)、室温(10~35℃)下で所定の時間反応させて、分解を進行させる。分解反応において、加圧(例えば、1~2atm)または加温(例えば、35℃超~60℃)のうちのいずれか1つを行ってもよい。分解対象であるエポキシ樹脂は、有機溶媒に溶解していても、溶解していなくてもよい。
【0036】
本実施形態に係るエポキシ樹脂の分解方法において、エポキシ樹脂分解剤とエポキシ樹脂と有機溶媒とを含む反応系の中に、エポキシ樹脂分解剤と有機溶媒との合計質量に対して有機溶媒を10質量%以上含ませることが好ましく、40質量%以上含ませることがより好ましい。有機溶媒の含有量の上限は、例えば、エポキシ樹脂分解剤と有機溶媒との合計質量に対して95質量%である。有機溶媒の含有量がエポキシ樹脂分解剤と有機溶媒との合計質量に対して10質量%未満であると、エポキシ樹脂の分解反応が進行しない場合があり、95質量%を超えると、エポキシ樹脂の分解反応が遅くなる場合がある。
【0037】
本実施形態に係るエポキシ樹脂の分解方法において、分解対象であるエポキシ樹脂に対するエポキシ樹脂分解剤の量は、例えば、エポキシ樹脂の質量を1としたとき0.4~20の範囲であり、0.5~10の範囲であることが好ましい。エポキシ樹脂分解剤の量がエポキシ樹脂の質量を1としたとき0.4未満であると、エポキシ樹脂の分解反応が進行しにくい場合があり、20を超えると、副反応が起こる場合がある。
【0038】
本実施形態に係るエポキシ樹脂の分解方法において、エポキシ樹脂分解剤とエポキシ樹脂と有機溶媒とを含む反応系の中に、さらに水を含ませることが好ましい。エポキシ樹脂分解剤とエポキシ樹脂と有機溶媒と水との合計質量に対して水を0.4質量%以上含ませることが好ましく、4質量%以上含ませることがより好ましい。水の含有量の上限は、例えば、エポキシ樹脂分解剤とエポキシ樹脂と有機溶媒と水との合計質量に対して14質量%である。水の含有量がエポキシ樹脂分解剤とエポキシ樹脂と有機溶媒と水との合計質量に対して0.4質量%未満であると、エポキシ樹脂の分解反応が進行しにくい場合があり、14質量%を超えると、エポキシ樹脂の分解反応が進行しない場合がある。
【0039】
本実施形態に係るエポキシ樹脂の分解方法によって、大気圧、室温下等の温和な条件でもエポキシ樹脂を分解することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
[エポキシ樹脂の作製]
エポキシ基含有化合物(プレポリマー)としてビスフェノールA型エポキシ(三菱ケミカル、エポキシ当量176g/eq)と、硬化剤として4,4-methylenebis(2,6-diethylaniline)(東京化成)とを2:1(モル比)の割合で混合し、160℃のホットプレートで30分間加熱した。その後、加熱物をアセトニトリルで洗浄し、未反応原料を取り除いて、エポキシ樹脂を作製した。
【0042】
[エポキシ樹脂の分解]
作製したエポキシ樹脂50mgをセーフロックチューブに入れ、有機溶媒としてモレキュラシーブにて脱水したジクロロメタン1mLを添加してエポキシ樹脂が溶解したエポキシ樹脂溶液を得た。このエポキシ樹脂溶液にエポキシ樹脂分解化合物としてトリメチルシリルヨージド100μLを滴下した。セーフロックチューブのふたを閉め、大気圧(1013hPa)下、室温(25℃)で48時間分解を進行させた。なお、ジクロロメタンの量は、トリメチルシリルヨージドとジクロロメタンとの合計質量に対して、90質量%である。
【0043】
分解後の溶液を過剰量のメタノール中に滴下し、未反応のトリメチルシリルヨージドを失活させた後、室温(25℃)で72時間放置し、揮発性成分を除去した。分解物を測定溶媒(重アセトン)に溶解し、NMR測定装置(日本電子製、JNM-ECA500)を用いたNMR法および質量分析装置(Bruker Japan製、autoflex max)を用いたマトリックスレーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)法で分析した。
【0044】
分解前および分解物の
1H-NMRスペクトルを
図1に示す。分解前後を比較すると、スペクトルの形状が全く異なることがわかる。このことは、エポキシ樹脂の分解が進行していることを示す。分解物のMALDIマススペクトルを
図2に示す。分解物からはフェノール基を末端に有する化合物が検出され、想定したエポキシ樹脂のエーテル結合の分解が起きていることがわかった。推定される分解物の化学構造の一例を以下に示す。
【0045】
【化1】
(1)
【化2】
(2)
【化3】
(3)
【化4】
(4)
【0046】
<実施例2>
[エポキシ樹脂の作製]
エポキシ基含有化合物(プレポリマー)としてビスフェノールA型エポキシ(三菱ケミカル、エポキシ当量176g/eq)と、硬化剤として4,4-methylenebis(2,6-diethylaniline)(東京化成)とを2:1(モル比)の割合で混合し、160℃の恒温槽内で2時間加熱した。その後、加熱物を冷凍粉砕機(日本分析工業)で処理して、エポキシ樹脂を作製した。
【0047】
[エポキシ樹脂の分解]
作製したエポキシ樹脂100mgをセーフロックチューブに入れ、有機溶媒としてモレキュラシーブにて脱水したジクロロメタン350μLを添加してエポキシ樹脂分散液を得た。このエポキシ樹脂分散液に、水5μLと、エポキシ樹脂分解化合物としてトリメチルシリルヨージド400μLを滴下した。セーフロックチューブのふたを閉め、大気圧(1013hPa)下、室温(25℃)で72時間分解を進行させた。なお、ジクロロメタンの量は、トリメチルシリルヨージドとジクロロメタンとの合計質量に対して、82質量%である。
【0048】
分解後の溶液を過剰量のメタノール中に滴下し、未反応のトリメチルシリルヨージドを失活させた後、溶液部のみを回収した。室温(25℃)で72時間放置し、揮発性成分を除去した。分解物を測定溶媒(重アセトン)に溶解し、実施例1と同様にしてNMR法およびマトリックスレーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)法で分析した。
【0049】
分解物の
1H-NMRスペクトルを
図3に示す。NMR分析より、分解物はアミンの構造を保持していること、イソプロピル基を有していることがわかった。分解物のMALDIマススペクトルを
図4に示す。NMRの結果を加味し、解析した結果、分解物はビスフェノールAのC-C結合が切断された構造であることがわかった。本分解物は架橋構造を維持しており、エポキシ樹脂の架橋度の推定が可能であると考えられる。推定される分解物の化学構造の一例を以下に示す。
【0050】
【化5】
B
0
【化6】
B
3
【化7】
C
0
【化8】
C
4
【0051】
<実施例3>
[水の添加効果確認]
水を反応系に添加し、実施例2と同じ操作で9時間分解を行った。水の添加量は、添加なし、エポキシ樹脂とトリメチルシリルヨージドとジクロロメタンと水との合計質量に対して、0.4質量%添加、0.9質量%添加、4質量%添加の各条件で行った。分解後の溶液を過剰量のメタノール中に滴下し、未反応のトリメチルシリルヨージドを失活させた後、溶液と残渣とに分け、残渣の重量を調べた。水を添加しない系の残渣量を1としたときの水を添加した系の残渣量を
図5に示す。水の添加量と共に残渣量は減っていくことから、反応系への水の添加が分解の促進に効果的であることがわかった。
【0052】
以上の通り、実施例の方法によって、大気圧、室温下等の温和な条件でもエポキシ樹脂を分解することができた。