(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置用の直動軸、電動パワーステアリング装置、およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20220817BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220817BHJP
B23K 20/12 20060101ALI20220817BHJP
B21K 1/76 20060101ALI20220817BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20220817BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20220817BHJP
F16H 19/04 20060101ALI20220817BHJP
F16C 3/02 20060101ALI20220817BHJP
B21H 3/04 20060101ALI20220817BHJP
B21J 5/12 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
B62D3/12 503Z
B62D5/04
B23K20/12 G
B21K1/76 A
F16H25/24 A
F16H25/22 Z
F16H19/04 Z
F16C3/02
B21H3/04 B
B21J5/12 Z
(21)【出願番号】P 2020563045
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048491
(87)【国際公開番号】W WO2020137551
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2018244750
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 要
(72)【発明者】
【氏名】海野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】黛 隆典
(72)【発明者】
【氏名】寺門 寿史
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-247163(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0101437(KR,A)
【文献】特開2016-179475(JP,A)
【文献】特開2017-087819(JP,A)
【文献】特開2017-089688(JP,A)
【文献】特開2014-234882(JP,A)
【文献】特表2013-508158(JP,A)
【文献】特開2017-056479(JP,A)
【文献】特開2017-082811(JP,A)
【文献】特開平11-082666(JP,A)
【文献】特表2007-504408(JP,A)
【文献】特開2012-040606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 3/12
B62D 5/04
B23K 20/12
B21K 1/76
F16H 19/04
F16H 25/22
F16H 25/24
F16C 3/02
B21J 5/12
B21H 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部にラック歯部を有するラック軸部と、外周部にボールねじ部を有するねじ軸部と、前記ラック軸部と前記ねじ軸部との結合部とを備える、電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法であって、
前記ラック軸部を製造する工程と、
前記ねじ軸部を製造する工程と、
前記ラック軸部と前記ねじ軸部とを摩擦圧接により結合する工程と、を備え、
前記ラック軸部を製造する工程は、ラック軸部用素材に前記ラック歯部を塑性加工によって形成する工程を含み、
前記ねじ軸部を製造する工程は、ねじ軸部用素材に前記ボールねじ部を塑性加工によって形成する工程と、前記ボールねじ部を基準として、前記ねじ軸部のうちの前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部の外周部に芯出し用の把持部を形成する工程とを含み、
前記ラック軸部と前記ねじ軸部とを摩擦圧接により結合する工程は、前記ねじ軸部の前記把持部を芯出し用の第1把持具により把持した状態で、第1把持具を回転駆動することにより前記ねじ軸部を回転させると共に、前記ラック軸部を芯出し用の第2把持具により把持した状態で、前記ラック軸を非回転に保持しながら、前記ラック軸部の軸方向端部と前記ねじ軸部の前記軸方向端部とを突き合わせる工程を含む、
電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法。
【請求項2】
前記把持部を形成する工程において、前記ボールねじ部を構成する雄ねじ溝を基準として、前記把持部を形成する、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法。
【請求項3】
前記ラック軸部と前記ねじ軸部とを摩擦圧接により結合する工程において、前記ねじ軸部のうちの前記ラック軸部に結合される側とは軸方向反対側の部分の周囲にスリーブをがたつきなく外嵌する、請求項1または2のうちのいずれかに記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法。
【請求項4】
前記ボールねじ部を形成する前記塑性加工が、転造加工である、請求項1~3のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法。
【請求項5】
前記転造加工が、スルーフィード転造加工である、請求項4に記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法。
【請求項6】
前記ボールねじ部を塑性加工によって形成する工程において、前記ねじ軸部の外周部のうち、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部を含む所定の軸方向範囲に、前記ボールねじ部を形成し、および、
前記把持部を形成する工程において、前記ボールねじ部のうち、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部から軸方向に外れた部分を基準として、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部に削り加工を施すことにより、前記把持部を形成する、
請求項4または5に記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法。
【請求項7】
前記ボールねじ部を塑性加工によって形成する工程において、前記ねじ軸部の軸方向寸法の2倍の軸方向寸法を有するねじ軸部用素材の外周部に、前記ボールねじ部を前記転造加工により形成して、第1ねじ軸部中間素材を得た後、該第1ねじ軸部中間素材を軸方向中央位置で切断し、2つの第2ねじ軸部中間素材を得て、および、
前記把持部を形成する工程において、第2ねじ軸部中間素材のそれぞれのうちの切断部から遠い側の軸方向端部を、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部とする、
請求項4または5に記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法。
【請求項8】
前記ボールねじ部を塑性加工によって形成する工程において、前記ねじ軸部の軸方向寸法を超える所定の軸方向寸法を有するねじ軸部用素材の外周部に、前記ボールねじ部を前記転造加工により形成して、第1ねじ軸部中間素材を得た後、該第1ねじ軸部中間素材を、前記ねじ軸部の軸方向寸法に切断し、第2ねじ軸部中間素材を得て、および、
前記把持部を形成する工程において、第2ねじ軸部中間素材の軸方向一方側の端部を、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部とする、
請求項4または5に記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法。
【請求項9】
外周部にラック歯部を有するラック軸部と、外周部にボールねじ部を有するねじ軸部と、前記ラック軸部と前記ボールねじ部との結合部とを備える、直動軸と、
前記ラック歯部に噛合するピニオン歯部を有する、ピニオン軸と、
電動モータと、
前記ボールねじ部に複数個のボールを介して螺合し、かつ、前記電動モータによって回転駆動されるボールナットと、
を備える、電動パワーステアリング装置の製造方法であって、
前記直動軸を製造する工程を備え、該工程において、前記直動軸を、請求項1~8のうちのいずれかに記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法により製造する、
電動パワーステアリング装置の製造方法。
【請求項10】
外周部にラック歯部を有するラック軸部と、外周部にボールねじ部を有するねじ軸部と、前記ラック軸部と前記ねじ軸部との結合部と、前記ねじ軸部のうちの前記結合部側の軸方向端部の外周部に設けられた芯出し用の把持部とを備える、電動パワーステアリング装置用の直動軸。
【請求項11】
前記ねじ軸部は、前記把持部から軸方向に外れた部分の軸方向全長にわたり前記ボールねじ部を有する、請求項10に記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸。
【請求項12】
前記ボールねじ部は、前記ラック軸部から遠い側の軸方向端部に、転造不完全部を有し、かつ、該転造不完全部から軸方向に外れた残部に転造完全部を有する、請求項11に記載の電動パワーステアリング装置用の直動軸。
【請求項13】
外周部にラック歯部を有するラック軸部と、外周部にボールねじ部を有するねじ軸部と、前記ラック軸部と前記ねじ軸部との結合部と、前記ねじ軸部のうちの前記結合部側の軸方向端部の外周部に設けられた芯出し用の把持部とを備える、直動軸と、
前記ラック歯部に噛合させたピニオン歯部を有するピニオン軸と、
電動モータと、
前記ボールねじ部に複数個のボールを介して螺合し、かつ、前記電動モータによって回転駆動されるボールナットと、
を備える、電動パワーステアリング装置。
【請求項14】
前記ボールねじ部は、前記ラック軸部から遠い側の軸方向端部に、転造不完全部を有し、かつ、該転造不完全部から軸方向に外れた残部に転造完全部を有し、前記ボールねじ部のうちの前記転造完全部のみが、前記複数個のボールと係合する、請求項13に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両用の電動パワーステアリング装置を構成する直動軸、該直動軸を含む電動パワーステアリング装置、およびこれらの製造方法に関する。
【0002】
自動車などの車両用のステアリング装置では、ステアリングホイールの回転は、ステアリングギヤユニットの入力軸に伝達され、該入力軸の回転は、車体の幅方向に配置された直動軸(ラック軸)の軸方向の直線運動に変換される。これにより、直動軸の軸方向両側の端部に支持されたタイロッドが押し引きされて、操舵輪に舵角が付与される。
【0003】
運転者がステアリングホイールを操作するために要する力を低減するための電動アシスト装置を含む、電動パワーステアリング装置からなる、ステアリング装置が広く実施されている。電動パワーステアリング装置は、電動モータの補助動力を、ステアリングホイールの回転に伴って回転または直線運動する部材に付与する。電動パワーステアリング装置としては、補助動力をステアリングシャフトに付与するコラムアシストタイプと、補助動力をステアリングギヤユニットの入力軸(ピニオン軸)に付与するピニオンアシストタイプと、補助動力をステアリングギヤユニットの直動軸に付与するラックアシストタイプとの3種類が知られている。これらのうち、ラックアシストタイプの電動パワーステアリング装置は、補助動力を高出力化しやすいという利点がある。
【0004】
ラックアシストタイプの電動パワーステアリング装置では、電動モータの回転トルクを、ボールねじ機構により、直動軸の軸方向の直線運動に変換して、該直動軸に付与する。この直動軸は、軸方向一方側部分に、ステアリングホイールの回転に伴い回転する入力軸のピニオン歯部と噛合するラック歯部を備え、かつ、軸方向他方側部分に、略半円弧形の断面形状を有する雌ねじ溝がらせん状に形成されている、ボールねじ部を備える。この直動軸を1つの素材から製造しようとすると、ラック歯部とボールねじ部とのいずれか一方の部位の形状精度や寸法精度が不十分であった場合に、不良品として廃棄しなければならず、コスト低減の面から不利である。
【0005】
特開2005-247163号公報には、外周部にラック歯を有するラック軸と、外周部にねじ溝を有するねじ軸とを摩擦圧接により結合する、直動軸の製造方法が記載されている。特開2005-247163号公報に記載の方法では、ラック軸を製造する工程において、精度良く仕上げられた軸素材の軸方向一部の外周部に加工を施すことによって、ラック歯を形成し、かつ、前記軸素材の残部の外周部を支持部として未加工のまま残す。また、ねじ軸を製造する工程において、精度良く仕上げられた軸素材の軸方向一部の外周部に加工を施すことによって、ねじ溝を形成し、かつ、前記軸素材の残部の外周部を支持部として未加工のまま残す。そして、ラック軸の支持部と、ねじ軸の支持部とをチャックすることにより、ラック軸とねじ軸との芯出しを行った状態で、ラック軸とねじ軸を摩擦圧接により結合する。これにより、直動軸のうちのラック歯を有する部分とねじ溝を有する部分との同軸度が許容範囲内に収まるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開2005-247163号公報に記載の方法は、次のような点で改良の余地がある。
【0008】
すなわち、ねじ軸を製造する工程において、軸素材の軸方向一部に加工を施すことによって、ねじ溝を形成すると、該加工に伴ってねじ軸に曲がり変形などが生じ、加工部であるねじ溝を有する部分と未加工部である支持部との同軸度が低下する可能性がある。この結果、完成後の直動軸に関して、ラック歯を有する部分とねじ溝を有する部分との同軸度が、許容範囲内において低くなる可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、ラック歯部を有する部分とボールねじ部を有する部分との同軸度の向上を図ることができる、直動軸の構造およびその製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の製造対象となる電動パワーステアリング装置用の直動軸は、外周部にラック歯部を有するラック軸部と、外周部にボールねじ部を有するねじ軸部と、前記ラック軸部と前記ねじ軸部との結合部とを備える。具体的には、前記ラック軸部と前記ねじ軸部は、摩擦圧接により結合される。
【0011】
本発明の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法は、前記ラック軸部を製造する工程と、前記ねじ軸部を製造する工程と、前記ラック軸部と前記ねじ軸部とを摩擦圧接により結合する工程とを備える。
【0012】
前記ラック軸部を製造する工程は、ラック軸部用素材に前記ラック歯部を塑性加工によって形成する工程を含む。前記ねじ軸部を製造する工程は、ねじ軸部用素材に前記ボールねじ部を塑性加工によって形成する工程を含む。
【0013】
特に、本発明の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法では、前記ねじ軸部を製造する工程は、前記ボールねじ部を基準として、前記ねじ軸部のうちの前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部の外周部に芯出し用の把持部を形成する工程を含む。
【0014】
前記ラック軸部と前記ねじ軸部とを摩擦圧接により結合する工程は、前記ねじ軸部の前記把持部を芯出し用の第1把持具により把持した状態で、第1把持具を回転駆動することにより前記ねじ軸部を回転させると共に、前記ラック軸部を芯出し用の第2把持具により把持した状態で、前記ラック軸を非回転に保持しながら、前記ラック軸部の軸方向端部と前記ねじ軸部の前記軸方向端部とを突き合わせる工程を含む。
【0015】
前記把持部を形成する工程において、前記ボールねじ部を構成する雄ねじ溝を基準として、前記把持部を形成することが好ましい。
【0016】
前記ラック軸部と前記ねじ軸部とを摩擦圧接により結合する工程において、前記ねじ軸部のうちの前記ラック軸部に結合される側とは軸方向反対側の部分の周囲にスリーブをがたつきなく外嵌することが好ましい。
【0017】
前記ボールねじ部を形成する前記塑性加工は、転造加工であることが好ましく、スルーフィード転造加工であることがより好ましい。
【0018】
前記ボールねじ部を塑性加工によって形成する工程において、前記ねじ軸部の外周部のうち、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部を含む所定の軸方向範囲に、前記ボールねじ部を形成し、および、前記把持部を形成する工程において、前記ボールねじ部のうち、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部から軸方向に外れた部分を基準として、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部に削り加工を施すことにより、前記把持部を形成する、ことができる。
【0019】
あるいは、前記ボールねじ部を塑性加工によって形成する工程において、前記ねじ軸部の軸方向寸法の2倍の軸方向寸法を有するねじ軸部用素材の外周部に、前記ボールねじ部を前記転造加工により形成して、第1ねじ軸部中間素材を得た後、該第1ねじ軸部中間素材を軸方向中央位置で切断し、2つの第2ねじ軸部中間素材を得て、および、前記把持部を形成する工程において、第2ねじ軸部中間素材のそれぞれのうちの切断部から遠い側の軸方向端部を、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部とする、ことができる。
【0020】
あるいは、前記ボールねじ部を塑性加工によって形成する工程において、前記ねじ軸部の軸方向寸法を超える所定の軸方向寸法を有するねじ軸部用素材の外周部に、前記ボールねじ部を前記転造加工により形成して、第1ねじ軸部中間素材を得た後、該第1ねじ軸部中間素材を、前記ねじ軸部の軸方向寸法に切断し、第2ねじ軸部中間素材を得て、および、前記把持部を形成する工程において、第2ねじ軸部中間素材の軸方向一方側の端部を、前記ラック軸部に結合される側の軸方向端部とする、ことができる。
【0021】
本発明の製造対象となる電動パワーステアリング装置は、
外周部にラック歯部を有するラック軸部と、外周部にボールねじ部を有するねじ軸部と、前記ラック軸部と前記ボールねじ部との結合部とを備える、直動軸と、
前記ラック歯部に噛合するピニオン歯部を有する、ピニオン軸と、
電動モータと、
前記ボールねじ部に複数個のボールを介して螺合し、かつ、前記電動モータによって回転駆動されるボールナットと、
を備える。
本発明の電動パワーステアリング装置の製造方法は、前記直動軸を製造する工程を備える。特に、本発明の電動パワーステアリング装置の製造方法では、前記直動軸を、本発明の電動パワーステアリング装置用の直動軸の製造方法により製造する。なお、直動軸以外の部材の製造方法および各部材の組み付け工程に関しては、公知の任意の製造工程を採用することができる。
【0022】
本発明の電動パワーステアリング用の直動軸は、外周部にラック歯部を有するラック軸部と、外周部にボールねじ部を有するねじ軸部と、前記ラック軸部と前記ねじ軸部との結合部と、前記ねじ軸部のうちの前記結合部側の軸方向端部の外周部に設けられた芯出し用の把持部とを備える。
【0023】
前記ねじ軸部は、前記把持部から軸方向に外れた部分の軸方向全長にわたり前記ボールねじ部を有することができる。
【0024】
前記ボールねじ部は、前記ラック軸部から遠い側の軸方向端部に、転造不完全部を有し、かつ、該転造不完全部から軸方向に外れた残部に転造完全部を有することができる。
【0025】
本発明の電動パワーステアリング装置は、
外周部にラック歯部を有するラック軸部と、外周部にボールねじ部を有するねじ軸部と、前記ラック軸部と前記ねじ軸部との結合部と、前記ねじ軸部のうちの前記結合部側の軸方向端部の外周部に設けられた芯出し用の把持部とを備える、直動軸と、
前記ラック歯部に噛合させたピニオン歯部を有する、ピニオン軸と、
電動モータと、
前記ボールねじ部に複数個のボールを介して螺合し、かつ、前記電動モータによって回転駆動されるボールナットと、
を備える。
【0026】
本発明の電動パワーステアリング装置において、前記ボールねじ部は、前記ラック軸部から遠い側の軸方向端部に、転造不完全部を有し、かつ、該転造不完全部から軸方向に外れた残部に転造完全部を有することができ、この場合、前記ボールねじ部のうちの前記転造完全部のみを、前記複数個のボールと係合させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電動パワーステアリング装置用の直動軸において、ラック歯部を有する部分とボールねじ部を有する部分との同軸度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例の電動パワーステアリング装置の模式図である。
【
図2】
図2は、第1例の電動パワーステアリング装置のうちのステアリングギヤユニットおよび電動アシスト装置を示す部分切断斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、第1例の直動軸の平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の直動軸を下方から見た図である。
【
図4】
図4(a)は、第1例の直動軸を構成するラック軸部を形成するためのラック軸部用素材を示す端面図であり、
図4(b)は、
図4(a)の右方から見たラック軸部用素材の側面図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(d)は、第1例のラック軸部のラック歯部を形成する作業を工程順に示す断面図である。
【
図6】
図6(a)は、第1例のラック軸部の平面図であり、
図6(b)は、
図6(a)のラック軸部を下方から見た図である。
【
図7】
図7(a)は、第1例の直動軸を構成するねじ軸部を形成するためのねじ軸部用素材を示す端面図であり、
図7(b)は、
図7(a)の右方から見たねじ軸部用素材の側面図である。
【
図8】
図8(a)は、第1例のねじ軸部を形成するためのねじ軸部中間素材の平面図であり、
図8(b)は、第1例のねじ軸部の平面図であり、
図8(c)は、
図8(b)のA部拡大図である。
【
図9】
図9は、第1例のラック軸部とねじ軸部との結合部(摩擦圧接部)の断面図である。
【
図10】
図10(a)は、本発明の実施の形態の第3例の直動軸を構成するねじ軸部を形成するための第1ねじ軸部中間素材の平面図であり、
図10(b)は、第3例のねじ軸部を形成するための第2ねじ軸部中間素材の平面図であり、
図10(c)は、第3例のねじ軸部の部分切断平面図である。
【
図11】
図11(a)は、本発明の実施の形態の第4例の直動軸を構成するねじ軸部を形成するための第1ねじ軸部中間素材の平面図であり、
図11(b)は、第4例のねじ軸部を形成するための第2ねじ軸部中間素材の平面図であり、
図11(c)は、第4例のねじ軸部の平面図である。
【
図12】
図12(a)~
図12(c)は、ラック軸部とねじ軸部との結合部の3つの別例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図9を用いて説明する。なお、以下の説明において、前後方向とは、車両の前後方向を意味する。
【0030】
(電動パワーステアリング装置およびその製造方法)
本例の電動パワーステアリング装置は、タイロッドを押し引きして、左右の操舵輪12に、運転者によるステアリングホイール1の操作量に応じた舵角を付与する機能と、運転者がステアリングホイール1を操作するために要する力を低減する機能とを有する。本例の電動パワーステアリング装置は、少なくとも、直動軸9と、ピニオン軸8と、電動モータ19と、ボールナット23とを備える。直動軸9は、外周部にラック歯部15を有するラック軸部28と、外周部にボールねじ部16を有するねじ軸部29と、ラック軸部28とねじ軸部29との摩擦圧接による結合部である摩擦圧接部44とを備える。ピニオン軸8は、ラック歯部15に噛合するピニオン歯部14を有する。ピニオン軸8は、ステアリングホイール1の回転に伴って回転する。ボールナット23は、ボールねじ部16に複数個のボール24を介して螺合し、かつ、電動モータ19によって回転駆動される。
【0031】
本例の電動パワーステアリング装置が組み込まれたステアリング装置では、運転者によって、ステアリングホイール1が回転されると、ステアリングホイール1の回転が、ステアリングシャフト2と、後側の自在継手3aと、中間シャフト4と、前側の自在継手3bとを介して、ステアリングギヤユニット5の入力軸7に伝達される。すなわち、ステアリングホイール1は、車体に対して回転可能に支持されたステアリングシャフト2の後側の端部に支持固定される。ステアリングシャフト2の前側の端部は、後側の自在継手3aと、中間シャフト4と、前側の自在継手3bとを介して、ステアリングギヤユニット5の入力軸7に接続される。
【0032】
ステアリング装置を構成するラックアンドピニオン式のステアリングギヤユニット5は、車体に固定されたハウジング13と、入力軸7と、図示しないトーションバーと、ピニオン軸8と、直動軸9と、図示しない押圧機構とを備える。
【0033】
ステアリングギヤユニット5において、入力軸7の回転は、図示しないトーションバーを介して、本例の電動パワーステアリング装置を構成するピニオン軸8に伝達され、ピニオン軸8の回転運動は、ピニオン歯部14とラック歯部15との噛合部により、本例の電動パワーステアリング装置を構成する直動軸9の軸方向の直線運動に変換される。直動軸9が軸方向に直線運動すると、直動軸9の軸方向両側の端部にボールジョイント10を介して接続されたタイロッドが押し引きされて、左右の操舵輪12にステアリングホイール1の操作量に応じた舵角が付与される。
【0034】
ピニオン軸8は、先端部にピニオン歯部14を有する。ピニオン軸8は、入力軸7の先端部に、入力軸7と同軸に配置され、かつ、入力軸7に対し、トーションバーを介してトルク伝達を可能に接続される。ピニオン軸8は、ハウジング13の内側に、図示しない転がり軸受によって回転のみを可能に支持される。
【0035】
直動軸9は、軸方向一方側部分(
図1~
図3(b)の左側部分)に配置され、外周部にラック歯部15を有するラック軸部28と、軸方向他方側部分(
図1~
図3(b)の右側部分)に配置され、外周部にボールねじ部16を有するねじ軸部29と、ラック軸部28とねじ軸部29との結合部である摩擦圧接部44とを備える。すなわち、直動軸9は、それぞれが別々に製造された、ラック軸部28の軸方向他方側の端部と、ねじ軸部29の軸方向一方側の端部とを摩擦圧接により結合することにより形成される。
【0036】
ボールねじ部16は、直動軸9の軸方向中間部から軸方向他方側の端部までの範囲に、らせん状に形成され、かつ、略半円形の断面形状を有する雄ねじ溝55を備える。
【0037】
ラック歯部15およびボールねじ部16は、いずれも塑性加工によって形成される。具体的には、ラック歯部15は、鍛造加工によって形成される。ボールねじ部16は、転造加工によって形成される。
【0038】
本例では、ラック軸部28およびねじ軸部29は、いずれも中実の軸部により構成されている。ただし、本発明を実施する場合、ラック軸部28とねじ軸部29とのうちの一方または両方を、中空の軸部により構成することもできる。
【0039】
直動軸9は、ボールねじ機構20を構成するボールねじ部16が、ボールねじ機構20を構成する複数個のボール24と螺合することにより、ハウジング13に対して、軸方向の直線運動を可能に支持される。直動軸9のラック歯部15は、ピニオン軸8のピニオン歯部14に噛合する。これにより、ピニオン軸8の回転運動が、直動軸9の直線運動に変換される。ハウジング13に対する直動軸9の回転は、ラック歯部15とピニオン歯部14との噛合によって阻止される。
【0040】
本例のステアリングギヤユニット5は、ピニオン軸8の回転角度当たりの直動軸9の軸方向移動量に相当する比ストローク(直動軸9の軸方向移動量/ピニオン軸8の回転角度)が、ピニオン軸8の回転角度に応じて変化する、VGR(バリアブルギヤレシオ)構造を有する。具体的には、ステアリングギヤユニット5は、ストロークの中央部付近、すなわち自動車が直進している状態でのステアリングホイール1の回転位置である中立回転位置付近において比ストロークが一定の低い値に設定され、ストロークの両側の端部付近、すなわちステアリングホイール1を操舵限界まで操舵した状態(いわゆる端当て状態)でのステアリングホイール1の回転位置付近において比ストロークが一定の高い値に設定される。比ストロークは、ストロークの中央部付近とストロークの両側の端部付近との間部分では、連続的または段階的に変化する。このために、ラック歯部15に関する、歯のピッチや歯の形状、歯筋の傾斜角などの諸元を、軸方向位置に応じて変化させている。
【0041】
本例の電動パワーステアリング装置では、ステアリングギヤユニット5がVGR構造を有するため、ストロークの中央部付近において、ステアリングホイール1の操作量に対する操舵輪12の切れ角が小さくなり、直進走行時の走行安定性が高められる。
【0042】
押圧機構は、ハウジング13の内側で、直動軸9を挟んでピニオン軸8の径方向反対側に収容されており、ばねの弾力などに基づいて、直動軸9をピニオン軸8に向け付勢する。これにより、ピニオン歯部14とラック歯部15との噛合状態を適正に保って、ピニオン歯部14とラック歯部15との噛合部での異音の発生を抑え、かつ、ステアリングホイール1の操作感を向上させている。
【0043】
本例のステアリング装置は、電動アシスト装置6を備える。電動アシスト装置6は、ハウジング13の内側に配置され、トルクセンサ18と、電動モータ19と、ボールねじ機構20と、図示しない制御部とを備える。電動アシスト装置6では、本例のパワーステアリング装置を構成する電動モータ19の補助動力を直動軸9に対して付与して、運転者がステアリングホイール1を操作するために要する力を軽減することを可能としている。ステアリングホイール1が回転されると、ステアリングホイール1から入力軸7に伝達されたトルクの方向および大きさが、トルクセンサ18により検出され、図示しない制御部に送信される。制御部は、トルクセンサ18により検出したトルクの方向および大きさや車速などに応じて、電動モータ19への通電量を制御し、電動モータ19の出力軸21を回転駆動する。出力軸21の回転は、駆動プーリ25と、無端ベルト26と、従動プーリ27とを介して、本例の電動パワーステアリング装置を構成するボールナット23に伝達される。ボールナット23の回転運動は、ボールねじ機構20により、直動軸9の軸方向の直線運動に変換される。
【0044】
ボールねじ機構20は、ボールナット23の内周面に備えられた、らせん状の雌ねじ溝22と、ボールねじ部16の雄ねじ溝55と、雌ねじ溝22と雄ねじ溝55との間に転動自在に配置された複数個のボール24とにより構成される。ボールナット23は、複数個のボール24を介して、ボールねじ部16に螺合される。ボールナット23は、ハウジング13に対して転がり軸受54(
図2参照)などにより回転のみを自在に支持される。
【0045】
本例の直動軸9では、ボールねじ部16は、
図3(a)および
図3(b)に示すように、軸方向中間部に転造完全部42を有し、かつ、軸方向両側の端部に転造不完全部43を有する。転造完全部42は、リード溝形状精度などが安定し、所定のねじ山高さを有する部分である。転造不完全部43は、転造完全部42に比べて、リード溝形状精度などが安定せず、ねじ山高さが不足した部分である。本例では、ボールねじ部16のうちの転造完全部42のみが、複数個のボール24との係合部として用いられる。すなわち、本例では、複数個のボール24が転造完全部42のみと係合し、複数個のボール24が転造不完全部43とは係合しないように、ボールねじ機構20の軸方向の動作範囲が規制される。
【0046】
電動アシスト装置6は、前記制御部により、トルクセンサ18により検出されたトルクの方向および大きさと車速信号とに応じて、電動モータ19への通電量を制御しながら、電動モータ19の出力軸21を回転駆動する。出力軸21の回転運動が、駆動プーリ25と、無端ベルト26と、従動プーリ27とを介して、ボールナット23に伝達され、ボールナット23の回転運動が、複数個のボール24を介して、直動軸9の軸方向の直線運動に変換される。これにより、直動軸9を、運転者によるステアリングホイール1の操作力よりも大きな力で直線運動させる。この結果、運転者がステアリングホイール1を操作するために要する力が低減される。
【0047】
本例の電動パワーステアリング装置の製造方法は、本例の電動パワーステアリング装置の構成部材である、直動軸9と、ピニオン軸8と、電動モータ19と、ボールナット23とをそれぞれ製造する工程と、各部材を組み付けて、電動パワーステアリング装置を構成する工程を含む。特に、本例の電動パワーステアリング装置の製造方法は、直動軸9の製造方法を備え、該直動軸9の製造方法に特徴を有する。
【0048】
(直動軸およびその製造方法)
本例の電動パワーステアリング装置を構成する、電動パワーステアリング装置用の直動軸9、およびその製造方法について、
図3(a)~
図8(c)を参照しつつ説明する。
【0049】
本例の直動軸9の製造方法は、
図6(a)および
図6(b)に示すラック軸部28を製造する工程と、
図8(b)および
図8(c)に示すねじ軸部29を製造する工程と、ラック軸部28とねじ軸部29とを摩擦圧接により結合する工程とを備える。
【0050】
ラック軸部28を製造する工程では、
図4(a)および図(b)に示すような、ラック軸部用素材30を用意する。本例では、ラック軸部用素材30は、金属製であり、円柱形状を有する中実の丸棒である。ラック軸部用素材30の材質である金属としては、例えば、S48C、S53Cなどの機械構造用炭素鋼や合金鋼といった各種の鋼を採用することができる。ラック軸部28は、ラック軸部用素材30の軸方向中間部の外周部の周方向一部に、塑性加工である冷間鍛造加工によってラック歯部15を形成することにより製造される。
【0051】
具体的には、ラック軸部用素材30を、
図5(a)に示すように、受型31の上面に形成された断面円弧形の凹溝部32内にセットする。次に、
図5(b)に示すように、凹溝部32の形成方向(
図5(b)の表裏方向)に沿って伸長する押圧パンチ33の先端面により、ラック軸部用素材30を凹溝部32の底面に押し付ける方向に強く押圧する、据え込み加工を行う。この据え込み加工では、ラック軸部用素材30の軸方向中間部でラック歯部15を形成すべき部分を押し潰し、かつ、幅寸法を拡げて、ラック軸部中間素材34を得る。
【0052】
次に、ラック軸部中間素材34を、
図5(c)に示すように、ダイス35に設けた断面U字形の保持孔36の底部37にセットする。次に、
図5(c)から
図5(d)に示すように、保持孔36内に挿入した歯成形用パンチ38により、ラック軸部中間素材34を底部37に向けて強く押し込む。歯成形用パンチ38の先端面である加工面は、得るべきラック歯部15に見合う形状、すなわち、得るべきラック歯部15の形状に対して凹凸が反転した形状を有する。このため、歯成形用パンチ38によりラック軸部中間素材34を底部37に向けて強く押し込むことで、ラック軸部中間素材34の軸方向中間部のうち、加工面により押圧された被加工面が、歯成形用パンチ38の加工面に倣って塑性変形し、
図5(d)に示すようなラック歯部15を有する、ラック軸部28に加工される。必要に応じて、ラック軸部28の形状精度および寸法精度をより良好にするために、
図5(d)の工程の後に、サイジング加工を施すことが行われる。
【0053】
ラック軸部28のうち、少なくともラック歯部15に対し、高周波加熱などによる適宜の熱処理を施すことにより、ラック歯部15の硬度などの機械的性質を向上させる。
【0054】
得られたラック軸部28の外周面のうち、ラック歯部15の背面部分の曲率半径Rrhは、ラック歯部15の形成に伴う塑性変形によって、ラック軸部用素材30の外周面の曲率半径Rrs(=ラック軸部用素材30の外径寸法Drsの1/2)よりも大きくなっている(Rrh>Rrs)。これに対し、ラック軸部28の軸方向両側の端部には、ラック軸部用素材30の軸方向両側の端部が未加工のまま残っている。すなわち、ラック軸部28は、軸方向両側の端部に、ラック軸部用素材30と同じ外径寸法Drsを有する円筒状の外周面を有する小径軸部39a、39bを備える。
【0055】
ねじ軸部29を製造する工程では、
図7(a)および
図7(b)に示すような、ねじ軸部用素材40を用意する。本例では、ねじ軸部用素材40は、金属製であり、円柱形状を有する中実の丸棒である。ねじ軸部用素材40の材質である金属としては、例えば、S48C、S53Cなどの機械構造用炭素鋼や合金鋼といった各種の鋼を採用することができる。ねじ軸部用素材40の材質は、ラック軸部28のラック軸部用素材30の材質と同じにすることもでき、あるいは、異ならせることもできる。本例では、ねじ軸部用素材40の外径寸法Dbsは、ラック軸部用素材30の外径寸法Drsと同じ(Dbs=Drs)である。ただし、本発明を実施する場合には、ねじ軸部用素材40の外径寸法Dbsとラック軸部用素材30の外径寸法Drsとを異ならせる(Dbs≠Drs)こともできる。
【0056】
本例では、ねじ軸部用素材40の外周部に、塑性加工である冷間転造加工によってボールねじ部16を形成する。特に、本例では、該冷間転造加工として、スルーフィード転造加工を採用する。
【0057】
スルーフィード転造加工では、互いの中心軸同士を傾斜させた1対の転造ダイス(丸ダイス)を用いる。そして、1対の転造ダイスの間隔を一定に保ちつつ、1対の転造ダイスを互いに同方向に同速度で回転させながら、1対の転造ダイス同士の間に、ねじ軸部用素材40を軸方向に供給する。そして、1対の転造ダイス同士の間でねじ軸部用素材40が軸方向に移動する歩み現象を生じさせながら、ねじ軸部用素材40の外周部に転造加工を施すことにより、ねじ軸部用素材40の外周部にボールねじ部16を形成する。これにより、
図8(a)に示すような、外周部の軸方向全長にわたってボールねじ部16が形成された、ねじ軸部中間素材17を得る。本例では、スルーフィード転造加工を行う際に、ねじ軸部用素材40の軸方向他方側を先頭側として、1対の転造ダイス同士の間にねじ軸部用素材40を供給し、1対の転造ダイス同士の間でねじ軸部用素材40に歩みによる軸方向移動を生じさせるようにしている。このため、スルーフィード転造加工を行う際に、ねじ軸部用素材40の外周部には、ボールねじ部16が、軸方向他方側から軸方向一方側に向けて徐々に形成される。本発明を実施する場合に、ねじ軸部用素材40の軸方向一方側を先頭側として、1対の転造ダイス同士の間に供給することもできる。
【0058】
本例では、スルーフィード転造加工の際、ねじ軸部用素材40が1対の転造ダイス同士の間を軸方向に通過している途中で、該1対の転造ダイスを径方向に関して互いに離れる方向に逃がす。すなわち、1対の転造ダイスを径方向に関して互いに離れる方向に逃がす時点で、スルーフィード転造加工が終了する。ボールねじ部16のうち、1対の転造ダイス同士の間に最初に供給された軸方向他方側の端部に相当する軸方向範囲と、おおよそ最終段階で1対の転造ダイスと接触していた軸方向一方側の端部に相当する軸方向範囲とが、転造不完全部43となり、ボールねじ部16のうちの軸方向中間部に相当する残りの軸方向範囲が、転造完全部42となる。本例では、所定の長さ寸法を有するボールねじ部16が形成された時点で、1対の転造ダイスを径方向に関して互いに離れる方向に逃がす。具体的には、当該所定の長さ寸法は、ねじ軸部中間素材17全体の長さ寸法である。すなわち、本例では、ボールねじ部16が形成される、ねじ軸部29の外周部のうち、ラック軸部28に結合される側の軸方向端部を含む所定の軸方向範囲は、ねじ軸部29の軸方向全体である。
【0059】
本例では、ねじ軸部用素材40が1対の転造ダイス同士の間を完全に通過し終わる前にスルーフィード転造加工を終了するため、サイクルタイムの低減、および、1対の転造ダイスの寿命の向上を図ることができる。
【0060】
ボールねじ部16を転造加工によって形成する場合、スルーフィード転造加工に代えて、インフィード転造加工、板転造加工などの、他の種類の転造加工を採用することもできる。
【0061】
ねじ軸部中間素材17のボールねじ部16のうち、少なくとも転造完全部42に対し、高周波加熱などによる適宜の熱処理を施すことにより、転造完全部42の硬度などの機械的性質を向上させる。
【0062】
本例では、次に、ねじ軸部中間素材17の転造完全部42の雄ねじ溝55を基準として、ねじ軸部中間素材17の軸方向一方側に位置する転造不完全部43の軸方向一方側の端部の外周部に、切削加工である旋削加工や研削加工、研磨加工などの削り加工を施す。これにより、ねじ軸部中間素材17の軸方向一方側の端部の外周部に、転造完全部42の雄ねじ溝55と同軸の円筒面である、芯出し用の把持部56を形成する。換言すれば、ねじ軸部中間素材17の軸方向一方側の端部に、外周部を把持部56とした小径軸部41を形成する。これにより、
図8(b)に示すような、ねじ軸部29を得る。本例のねじ軸部29では、雄ねじ溝55を基準として、把持部56を形成しているため、把持部56の軸がボールねじ部16の軸からずれることがなく、把持部56はボールねじ部16と同軸である。
【0063】
把持部56は、図示のような完全な円筒面により構成されることができ、あるいは、ボールねじ部16の溝底部が残った円筒面により構成されることもできる。本例では、ねじ軸部中間素材17の軸方向一方側の転造不完全部43の軸方向一方側の端部のみを削って把持部56としているが、該転造不完全部43の軸方向全範囲を削って把持部56とすることもできる。
【0064】
代替的に、ねじ軸部用素材40が1対の転造ダイス同士の間を完全に通過し終わる前にスルーフィード転造加工を終了する際に、早期に転造加工を終了することによって、ねじ軸部用素材40の軸方向一方側の端部に、転造加工が施されていない非転造部を設けた後、転造完全部42の雄ねじ溝55を基準として、非転造部の外周部を削ることにより、当該削った部分を、転造完全部42の雄ねじ溝55と同軸の把持部56として用いることもできる。
【0065】
なお、把持部56を形成する工程においては、転造完全部42のうち、雄ねじ溝55から外れたねじ山を基準として、ねじ軸部中間素材17の軸方向一方側に位置する転造不完全部43の軸方向一方側の端部の外周部に、削り加工を施すことにより、把持部56を形成することもできる。ただし、削り加工の基準となる部分の形状精度を良好に確保する面からは、雄ねじ溝55を基準として、転造不完全部43の軸方向一方側の端部の外周部に、削り加工を施すことが好ましい。
【0066】
さらに、本発明の技術的範囲からは外れるが、ねじ軸部29のボールねじ部16をスルーフィード転造加工により形成する限りにおいて、ねじ軸部用素材40が1対の転造ダイス同士の間を完全に通過し終わる前にスルーフィード転造加工を終了する際に、早期に転造加工を終了することによって、ねじ軸部用素材40の軸方向一方側の端部を非転造部とし、該非転造部の外周部をそのまま把持部として用いることもできる。
【0067】
このように製造したねじ軸部29のうち、ボールねじ部16が形成された軸方向範囲の外径寸法(転造完全部42の外径寸法Dbg)は、転造加工に伴う塑性変形によって、ねじ軸部用素材40の外径寸法Dbsよりも大きくなっている(Dbg>Dbs)。これに対し、小径軸部41の外径寸法は、ねじ軸部用素材40の外径寸法Dbsと同程度(すなわち、Dbsと同じか、または、Dbsよりも僅かに小さいもしくは僅かに大きい値)であり、換言すれば、Dbsと同等である。
【0068】
次に、ラック軸部28とねじ軸部29とを摩擦圧接により結合する工程について説明する。摩擦圧接は、2つの金属部材を互いに突き合わせて加圧しながら相対回転させることにより、突き合わせ部に発生する摩擦熱を利用して、2つの金属部材を接合する方法である。
【0069】
ラック軸部28とねじ軸部29とを摩擦圧接により結合する際には、まず、ラック軸部28とねじ軸部29との芯出しを行うことにより、ラック軸部28とねじ軸部29とを同軸に配置し、ラック軸部28の軸方向他方側端部の端面と、ねじ軸部29の軸方向一方側端部である小径軸部41の端面とを突き合わせて加圧する。この状態で、ラック軸部28とねじ軸部29とを相対回転させることにより、突き合わせ部に摩擦熱を発生させる。これにより、突き合わせ部を高温かつ高加圧状態とした後、相対回転を停止させる。この結果、突き合わせ部が冷却されることに伴って摩擦圧接部44となった、直動軸9が得られる。
【0070】
特に、本例では、摩擦圧接を行う際には、ねじ軸部29の把持部56を芯出し用の第1把持具57(
図3(a)および
図8(b)参照)により把持し、かつ、ラック軸部28の小径軸部39bの外周面を芯出し用の第2把持具58(
図3(a)および
図6(a)参照)により把持することによって、ラック軸部28とねじ軸部29との芯出しを行う。この状態で、第1把持具57を回転駆動することにより、ねじ軸部29を回転させ、かつ、ラック軸部28を非回転に保持しながら、ラック軸部28とねじ軸部29との互いに近い側の軸方向端部同士、すなわちラック軸部28の軸方向他方側の端部とねじ軸部29の軸方向一方側の端部とを突き合わせることで摩擦圧接を行う。
【0071】
第1把持具57および第2把持具58としては、コレットチャック、油圧式の三爪チャックなどの各種の把持具を採用することができる。ラック軸部28に関して、ラック歯部15が位置する軸方向部分を、第2把持具58により把持するための芯出し用の把持部として用いることもできる。また、本発明の技術的範囲からは外れるが、ねじ軸部29に関して、転造完全部42が位置する軸方向部分を、第1把持具57により把持するための芯出し用の把持部として用いることもできる。
【0072】
ラック軸部28とねじ軸部29とを摩擦圧接により結合する際には、
図3(a)に二点鎖線で示すように、ねじ軸部29の軸方向他方側部分の周囲にスリーブ59を配置することができる。具体的には、ねじ軸部29の軸方向他方側部分に、スリーブ59を径方向のがたつきなく外嵌した状態で、ねじ軸部29を回転させ、かつ、ラック軸部28の軸方向他方側の端部とねじ軸部29の軸方向一方側の端部とを突き合わせることで、摩擦圧接を行うことができる。
【0073】
摩擦圧接の際に、回転するねじ軸部29の軸方向他方側部分に、スリーブ59をがたつきなく外嵌することにより、ねじ軸部29の振れ回りを防止することができる。
【0074】
スリーブ59は、ねじ軸部29のうち、ラック軸部28に結合される側とは軸方向反対側の部分の周囲に配置することが好ましく、転造完全部42の一部を含む軸方向範囲の周囲に配置することがより好ましい。スリーブ59の軸方向長さは、ねじ軸部29の軸方向長さの1/3以下であることが好ましい。スリーブ59の軸方向長さを、ねじ軸部29の軸方向長さの1/3よりも長くしても、それ以上の効果を期待できず、スリーブ59をねじ軸部29に外嵌する作業が面倒になる。スリーブ59の軸方向長さの下限については、特に限定されないが、ねじ軸部29の振れ回りを防止する面からはできる限り長いことが好ましい。要するに、スリーブ59の軸方向長さは、ねじ軸部29の軸方向長さの1/3であることが最も好ましい。
【0075】
本例の直動軸9の製造方法では、ラック歯部15を有するラック軸部28と、ボールねじ部16を有するねじ軸部29とを、互いに別体の軸部として製造した後、ラック軸部28とねじ軸部29との軸方向端部同士を摩擦圧接により結合することによって、直動軸9を得ている。このため、ラック軸部28の製造工程において、ラック歯部15の加工に不具合が生じた場合には、ラック軸部28のみを廃棄すれば良く、ねじ軸部29の製造工程において、ボールねじ部16の加工に不具合が生じた場合には、ねじ軸部29のみを廃棄すればよい。すなわち、ラック歯部15とボールねじ部16とのうちのいずれか一方の加工にのみ不具合が生じた場合に、直動軸9全体を廃棄しなければならないといった不都合が生じることを回避できる。
【0076】
本例の直動軸9の製造方法では、ラック歯部15を、冷間鍛造加工によって形成する。このため、ラック歯部15を切削加工などの削り加工によって形成する場合に比べて、材料の歩留まりを良くすることができ、かつ、加工時間を短くすることができる。特に、本例では、ラック歯部15は、歯のピッチや歯の形状、歯筋の傾斜角などの諸元が、軸方向位置に応じて変化した構造(VGR構造)を有しているが、VGR構造を有するラック歯部15を、削り加工により短時間で精度良く形成することが困難である。これに対し、本例では、冷間鍛造加工によってラック歯部15を形成するため、歯成形用パンチ38(
図5)の加工面を、得るべきラック歯部15に見合う形状とすることによって、ラック歯部15を短時間で精度良く形成することが容易である。
【0077】
本例の直動軸9の製造方法では、ボールねじ部16を、塑性加工である冷間転造加工によって形成する。このため、ボールねじ部16を切削加工などの削り加工によって形成する場合に比べて、材料の歩留まりを良くすることができ、かつ、加工時間を短くすることができる。特に、本例では、冷間転造加工としてスルーフィード転造加工を採用するため、ねじ軸部29の軸方向中間部の広い軸方向範囲にボールねじ部16の転造完全部42を短時間で形成することができる。そして、完成後の直動軸9の軸方向他方側の端部の広い軸方向範囲にボールねじ部16の転造完全部42を設けることができる。このため、直動軸9に対するボールねじ機構20のボール24の係合可能範囲を軸方向に関して広くすることができる。この結果、製品設計レイアウトの柔軟性、より具体的には、ハウジング13に対するボールナット23などの軸方向に関する設置位置の自由度を高めることができる。
【0078】
スルーフィード転造加工によりボールねじ部16を形成すると、ボールねじ部16の軸方向両側の端部には、転造不完全部43が形成される。転造不完全部43は、転造完全部42に比べてリード溝形状精度などが安定せず、ねじ山高さが不足しているため、ボールねじ機構20を構成するボール24の転走部として利用することができない。しかしながら、本例では、ねじ軸部中間素材17を構成する軸方向一方側の転造不完全部43の少なくとも軸方向一方側の端部の外周部を削って小径軸部41を形成し、該小径軸部41の外周部を、摩擦圧接を行う際の芯出し用の把持部56として有効に利用している。したがって、本例によれば、材料の無駄を十分に抑えつつ、ねじ軸部29を短時間で製造することができる。
【0079】
本例では、ラック軸部28とねじ軸部29との軸方向端部同士を結合する方法として、摩擦圧接を採用している。摩擦圧接は、結合に要する時間を短くできるため、直動軸9の製造効率を高めることができ、かつ、異種材料同士の結合性を高くできるため、ラック軸部28とねじ軸部29とを異なる材質とする場合でも、ラック軸部28とねじ軸部29との結合性を高くできる。
【0080】
本例では、摩擦圧接を行う際に、第1把持具57により把持されるねじ軸部29の把持部56が、ねじ軸部29のうちでラック軸部28に結合される側の軸方向一方側の端部に位置し、かつ、第2把持具58により把持されるラック軸部28の小径軸部39bの外周面が、ラック軸部28のうちでねじ軸部29に結合される側の軸方向他方側の端部に位置する。このため、摩擦圧接を行う際に、ラック軸部28とねじ軸部29との互いに近い側の端部同士の径方向の振れ回りを十分に抑えることができる。
【0081】
第1把持具57により把持されるねじ軸部29の把持部56は、ボールねじ部16の形成および熱処理を行った後に、ボールねじ部16の雄ねじ溝55を基準とする削り加工によって、ボールねじ部16と同軸に形成されている。このため、ねじ軸部29のうち、ボールねじ部16と、第1把持具57により把持される把持部56との同軸度を良好に確保することができる。したがって、特開2005-247163号公報に記載の方法のように、軸素材のうちでねじ溝を形成しない、未加工の支持部をチャックして、摩擦圧接を行う場合に比べて、ボールねじ部16の芯出し精度を高くすることができる。この結果、本例によれば、直動軸9に関して、ラック歯部15を有する部分とボールねじ部16を有する部分との同軸度を良好に確保することができる。換言すれば、直動軸9の真直度を向上させることができる。
【0082】
ラック軸部28に関しては、ラック軸部用素材30の軸方向中間部に冷間鍛造加工を施すことにより、ラック歯部15を形成すると同時に、ラック軸部用素材30のうち、未加工の軸方向両側の端部を小径軸部39a、39bとしている。ここで、ラック軸部用素材30に冷間鍛造加工を施して、ラック軸部28を造る際には、
図5(a)~
図5(d)に示すように、ラック軸部用素材30またはラック軸部中間素材34の外周面のうちの周方向に関する一部を、受型31またはダイス35により拘束した状態で、ラック軸部用素材30またはラック軸部中間素材34に加工を施す。
【0083】
ラック歯部15を形成することに伴って、ラック軸部28の加工部と未加工部との同軸度が低下した場合、ラック軸部28とねじ軸部29とを摩擦圧接により結合する前に、加工部および/または未加工部に曲げ加工や削り加工を施す。これにより、ラック軸部28のうち、ラック歯部15を有する部分とラック歯部15から軸方向に外れた部分との同軸度を向上させる。すなわち、ラック軸部28の真直度を向上させる。このようにして、ラック軸部28の真直度を十分に確保してからラック軸部28をねじ軸部29と摩擦圧接により結合することで、完成後の直動軸9に関して、ラック歯部15を有する部分とボールねじ部16を有する部分との同軸度を良好に確保する。
【0084】
なお、ラック歯部15の形成に伴う、ラック軸部28の加工部と未加工部との同軸度の低下がほとんどない場合には、ラック歯部15を形成後のラック軸部28をそのまま、ねじ軸部29を摩擦圧接により結合することもできる。
【0085】
本例の直動軸9は、ラック軸部用素材30の外径寸法と同じ外径寸法を有する小径軸部39bの軸方向他方側の端部と、ねじ軸部用素材40の外径寸法と同程度の外径寸法を有する小径軸部41の軸方向一方側の端部とを摩擦圧接により結合して構成される。このため、例えば、凹凸嵌合する部分同士を摩擦圧接する場合と比較して、摩擦圧接される部分の面積を小さくすることができて、摩擦圧接を行う際の加圧力の低減による設備の小型化やサイクルタイムの短縮によるコスト低減を図ることができる。なお、本発明を実施する場合には、摩擦圧接される部分の面積をより小さくするために、ラック軸部28とねじ軸部29との互いに近い側の軸方向端部に、
図9に示すような、互いに近い側の軸方向端面に開口する有底の凹孔45a、45bを形成しておくこともできる。
【0086】
本発明の直動軸の製造方法を実施する場合、ラック歯部やボールねじ部を形成するための塑性加工(鍛造加工、転造加工など)は、冷間に限らず、温間や熱間で行うこともできる。前記塑性加工を温間または熱間で行った場合であっても、ラック歯部やボールねじ部を削り加工により形成する場合に比べて、材料の歩留まりを良くしたり、加工時間を短くしたりするなどの有利な効果を得られる。
【0087】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図8(a)~
図8(c)を参照しながら説明する。本例では、ねじ軸部29を製造する工程において、ボールねじ部16を形成するためのスルーフィード転造加工の具体的な方法が、第1例と異なる。本例では、ねじ軸部用素材40の全体が、1対の転造ダイス同士の間を軸方向に完全に通過した時点で、スルーフィード転造加工が終了する。このため、本例では、ボールねじ部16のうち、1対の転造ダイス同士の間に最初に供給された軸方向他方側の端部に相当する軸方向範囲と、1対の転造ダイス同士の間を最後に通過した軸方向一方側の端部に相当する軸方向範囲とが、ボールねじ部16のうちの転造不完全部43となり、ボールねじ部16の軸方向中間部に相当する残りの軸方向範囲が、転造完全部42となる。
【0088】
本例によれば、スルーフィード転造加工によって形成されるボールねじ部16のうち、軸方向一方側の転造不完全部43の軸方向長さを、第1例の場合よりも十分に短くすることができる。換言すれば、ねじ軸部29が備えるボールねじ部16の転造完全部42の軸方向長さを、第1例の場合よりも長くすることができる。したがって、直動軸9に対するボールねじ機構20のボール24の係合可能範囲を、軸方向に関してより広くすることができる。
【0089】
本例において、軸方向一方側の転造不完全部43の軸方向長さが、第1把持具57により把持する把持部56として必要な軸方向長さ未満になる場合には、軸方向一方側の転造不完全部43だけでなく、該転造不完全部43に隣接する転造完全部42の一部にも削り加工を施して、把持部56として必要な軸方向長さを確保すればよい。ただし、転造完全部42の軸方向長さを十分に確保する観点から、転造完全部42を削る軸方向長さは、必要最小限にとどめることが望ましい。その他の構成および作用は、第1例と同様である。
【0090】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図10(a)~
図10(c)を参照しながら説明する。本例では、ねじ軸部29aを製造する工程において、まず、得るべきねじ軸部29aの軸方向寸法の2倍の軸方向寸法を有し、かつ、円柱形状を有するねじ軸部用素材の外周部に、スルーフィード転造加工を施して、ボールねじ部16zを形成する。これにより、
図10(a)に示すような、外周部の軸方向全長にわたってボールねじ部16zを有する第1ねじ軸部中間素材60を得る。ボールねじ部16zは、軸方向中間部に転造完全部42zを有し、かつ、軸方向両側の端部に転造不完全部43を有する。
【0091】
次に、第1ねじ軸部中間素材60を軸方向中央位置で切断し、
図10(b)に示すような、外周部にボールねじ部16aを有する、第2ねじ軸部中間素材61を2つ得る。第2ねじ軸部中間素材61のそれぞれのボールねじ部16aは、それぞれの軸方向一方側(
図10(b)の左側の第2ねじ軸部中間素材61に関する左側、
図10(b)の右側の第2ねじ軸部中間素材61に関する右側)の端部に転造不完全部43を有し、かつ、残りの軸方向範囲の軸方向全長にわたり転造完全部42を有する。
【0092】
次いで、第2ねじ軸部中間素材61の転造完全部42の雄ねじ溝55を基準として、転造不完全部43の外周部に削り加工を施して、転造完全部42を構成する雄ねじ溝55と同軸の円筒面である、芯出し用の把持部56を形成する。換言すれば、第2ねじ軸部中間素材61の軸方向一方側の端部に、外周部をボールねじ部16aと同軸である把持部56とした小径軸部41を形成する。さらに、第2ねじ軸部中間素材61のうち、転造不完全部43(小径軸部41)が備えられた軸方向一方側の端部とは反対側の軸方向他方側(
図10(b)の左側の第2ねじ軸部中間素材61に関する右側、
図10(b)の右側の第2ねじ軸部中間素材61に関する左側)の端部に、有底のねじ孔62を形成する。これにより、
図10(c)に示すような、ねじ軸部29aを得る。ねじ孔62には、タイロッド11の基端部に備えられた雄ねじ部が螺合される。
【0093】
ねじ軸部29aを、ラック軸部28(
図6(a)および
図6(b)参照)と摩擦圧接により結合し、直動軸9(
図1~
図3(b))を得る。摩擦圧接を行う際には、ねじ軸部29aの把持部56を芯出し用の第1把持具57により把持する。
【0094】
本例のねじ軸部29aは、外周部のうち、把持部56が備えられた軸方向一方側の端部を除く、軸方向中間部から軸方向他方側の端部にかけて転造完全部42を有する。このため、本例のねじ軸部29aによれば、第1例のねじ軸部29よりも、転造完全部42の軸方向長さを長く確保しやすい。すなわち、本例によれば、第1例よりも、直動軸9に対するボールねじ機構20のボール24の係合可能範囲を軸方向に関して長く確保しやすい。その他の構成および作用は、第1例と同様である。
【0095】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、
図11(a)~
図11(c)を参照しながら説明する。本例では、ねじ軸部29bを製造する工程において、得るべきねじ軸部29bの軸方向寸法を超える所定の軸方向寸法、具体的には、得るべきねじ軸部29bの軸方向寸法の数倍以上、好ましくは3倍以上の軸方向寸法を有し、かつ、円柱形状を有する、長尺のねじ軸部用素材の外周部に、スルーフィード転造加工を施して、ボールねじ部16zを形成する。これにより、
図11(a)に示すような、外周部にボールねじ部16zを有する、長尺な第1ねじ軸部中間素材60aを得る。ねじ軸部用素材に関する前記所定の軸方向寸法の上限は任意であり、入手可能な長尺のねじ軸部用素材の長さに応じて定まる。
【0096】
次に、長尺の第1ねじ軸部中間素材60aの一部を、得るべきねじ軸部29の軸方向寸法に切断し、
図11(b)に示すような、外周部に、軸方向全長にわたってボールねじ部16bを有する第2ねじ軸部中間素材61aを得る。最終的には、1本の第1ねじ軸部中間素材60aから、複数本、好ましくは3本以上の第2ねじ軸部中間素材61aが得られる。第2ねじ軸部中間素材61aのボールねじ部16bは、転造完全部42のみからなる。すなわち、本例によれば、ボールねじ部16bを、全長にわたって転造完全部42とすることができる。
【0097】
さらに、第2ねじ軸部中間素材61aのそれぞれの軸方向一方側の端部に、削り加工により、芯出し用の把持部56を形成する。本例では、第2ねじ軸部中間素材61aは、外周部に、全長にわたって転造完全部42を有する。そこで、第2ねじ軸部中間素材61aの軸方向一方側の端部を、第1把持具57により把持するために最低限必要な長さ分だけ削って、把持部56を形成する。これにより、
図11(c)に示すような、ねじ軸部29bを得る。
【0098】
本例のように、長軸のねじ軸部用素材にスルーフィード転造加工を施して、長尺な第1ねじ軸部中間素材60aを得た後、該第1ねじ軸部中間素材60aを切断することにより得られた、第2ねじ軸部中間素材61aにおいては、転造完全部42のうち、雄ねじ溝55の形状精度は良好であるが、ねじ山の外周面の形状精度は良好であるとは限らない。そこで、本例では、ボールねじ部のうち、芯出し用の把持部56を形成すべき軸方向一方側の端部から外れた軸方向範囲に存在する部分の雄ねじ溝55を基準として、ボールねじ部16bのうち、把持部56を形成すべき軸方向一方側の端部を削り加工を施すことにより、把持部56を形成する。
【0099】
ねじ軸部29bを、ラック軸部28(
図6(a)および
図6(b)参照)と摩擦圧接により結合し、直動軸9(
図1~
図3(b))を得る。摩擦圧接を行う際には、ねじ軸部29の把持部56を芯出し用の第1把持具57により把持する。
【0100】
本例では、外周部に、全長にわたって転造完全部42を有する第2ねじ軸部中間素材61aの軸方向一方側の端部を、第1把持具57により把持するために最低限必要な長さ分だけ削って、把持部56を形成することにより、ねじ軸部29bを得る。このため、本例のねじ軸部29bによれば、第3例のねじ軸部29aよりも、転造完全部42の軸方向長さを長く確保しやすい。すなわち、本例によれば、第2例よりも、直動軸9に対するボールねじ機構20のボール24の係合可能範囲を軸方向に関して長く確保しやすい。
【0101】
本例のねじ軸部29bは、軸方向他方側の端部まで、転造完全部42を有するため、摩擦圧接の際に、ねじ軸部29bの転造完全部42の一部を含む軸方向範囲の周囲に、スリーブ59(
図3(a)参照)を配置しやすい。その他の構成および作用は、第1例および第2例と同様である。
【0102】
[第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、
図6(a)および
図6(b)を参照しながら説明する。本例では、ラック軸部28を製造する工程において、ラック歯部15の形成および熱処理を行った後に、ラック軸部28のうち、ねじ軸部29(
図1~
図3(b)参照)に結合される側の端部である軸方向他方側の端部の外周部に、ラック歯部15を基準として、削り加工により芯出し用の把持部である小径軸部39bを形成する。これにより、小径軸部39bを、ラック歯部15が位置する部分と同軸に仕上げる。そして、摩擦圧接する工程においては、小径軸部39bを第2把持具58により把持する。
【0103】
本例によれば、ラック軸部28のうち、ラック歯部15と、第2把持具58により把持される把持部である小径軸部39bの同軸度を、第1例と比較してより良好に確保することができる。この結果、本例によれば、直動軸9(
図1~
図3(b)参照)に関して、直動軸9のうちのラック歯部15を有する部分とボールねじ部16を有する部分との同軸度を、第1例と比較して、より良好に確保することができる。その他の構成および作用は、第1例と同様である。
【0104】
本発明の技術的範囲からは外れるが、ラック軸部とねじ軸部とを結合方法として、例えば、
図12(a)~
図12(c)に示すような結合方法部を採用することができる。
【0105】
図12(a)に示す結合方法では、ラック軸部とねじ軸部とのうちの一方の軸部S1の端部に形成された筒部46の内径側に、ラック軸部とねじ軸部とのうちの他方の軸部S2の端部に形成された小径軸部47を、例えば圧入内嵌などによりがたつきなく内嵌する。次いで、筒部46および小径軸部47を径方向に貫通するように形成された圧入孔48a、48bにピン49を圧入することによって、ラック軸部とねじ軸部とを結合する。
【0106】
図12(b)に示す結合方法では、ラック軸部とねじ軸部とのうちの一方の軸部S1の端部に形成されたねじ孔50に、ラック軸部とねじ軸部とのうちの他方の軸部S2の端部に形成されたねじ軸部51を螺合することによって、ラック軸部とねじ軸部とを結合する。
【0107】
図12(c)に示す結合方法では、ラック軸部とねじ軸部とのうちの一方の軸部S1の端部に形成された筒部46aの内径側に、ラック軸部とねじ軸部とのうちの他方の軸部S2の端部に形成された小径軸部47aを、例えば圧入内嵌などによりがたつきなく内嵌する。次いで、小径軸部47aの外周部に周方向に形成された周方向溝52に対し、筒部46aに形成されたかしめ部53を係合させることによって、ラック軸部とねじ軸部とを結合する。
【符号の説明】
【0108】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3a、3b 自在継手
4 中間シャフト
5 ステアリングギヤユニット
6 電動アシスト装置
7 入力軸
8 ピニオン軸
9 直動軸
10 ボールジョイント
11 タイロッド
12 操舵輪
13 ハウジング
14 ピニオン歯部
15 ラック歯部
16、16a、16b、16z ボールねじ部
17 ねじ軸部中間素材
18 トルクセンサ
19 電動モータ
20 ボールねじ機構
21 出力軸
22 雌ねじ溝
23 ボールナット
24 ボール
25 駆動プーリ
26 無端ベルト
27 従動プーリ
28 ラック軸部
29、29a、29b ねじ軸部
30 ラック軸部用素材
31 受型
32 凹溝部
33 押圧パンチ
34 ラック軸部中間素材
35 ダイス
36 保持孔
37 底部
38 歯成形用パンチ
39a、39b 小径軸部
40 ねじ軸部用素材
41 小径軸部
42、42z 転造完全部
43 転造不完全部
44 摩擦圧接部
45a、45b 凹孔
46、46a 筒部
47、47a 小径軸部
48a、48b 圧入孔
49 ピン
50 ねじ孔
51 ねじ軸部
52 周方向溝
53 かしめ部
54 転がり軸受
55 雄ねじ溝
56 把持部
57 第1把持具
58 第2把持具
59 スリーブ
60、60a 第1ねじ軸部中間素材
61、61a 第2ねじ軸部中間素材
62 ねじ孔