(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】左右輪駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20220817BHJP
F16H 48/36 20120101ALI20220817BHJP
F16H 48/38 20120101ALI20220817BHJP
F16H 1/08 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
F16H57/04 E
F16H57/04 B
F16H48/36
F16H48/38
F16H1/08
(21)【出願番号】P 2021508762
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050666
(87)【国際公開番号】W WO2020194950
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2019063552
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 元晴
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 公伸
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直樹
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-240349(JP,A)
【文献】実開平1-65978(JP,U)
【文献】特開2018-34713(JP,A)
【文献】特開2017-133564(JP,A)
【文献】特開2018-54053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 48/36
F16H 48/38
F16H 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルを貯留する貯留部を有するケーシングと、
前記貯留部に配置され、前記貯留部内の前記オイルを吸い出すための吸引口と、
弦巻線状の歯筋を有し、回転軸まわりの少なくとも一方向に回転可能に支承され、車両の左右輪に動力を伝達する動力伝達経路上に介装されるとともに互いに離隔した二つの歯車と、を備え、
前記吸引口は、前記二つの歯車の間に位置し、
各々の前記歯車は、前記貯留部内の前記オイルに一部が浸かった状態で前記回転軸の軸方向において前記吸引口とずれて配置されるとともに、前記歯筋が前記一方向かつ前記吸引口から離隔する方向に延びている
ことを特徴とする、左右輪駆動装置。
【請求項2】
前記二つの歯車は、前記左右輪を駆動する第一モータ及び第二モータのうち、前記第一モータの動力伝達経路上に介装された第一歯車と、前記第二モータの動力伝達経路上に介装された第二歯車とである
ことを特徴とする、請求項1記載の左右輪駆動装置。
【請求項3】
前記第一モータ及び前記第二モータのトルク差を増幅して前記左右輪の各々に分配する歯車機構を備え、
前記第一歯車及び前記第二歯車は、相互間に前記歯車機構を挟んで配置されている
ことを特徴とする、請求項2記載の左右輪駆動装置。
【請求項4】
前記一方向は、前記車両が前進する場合の回転方向である
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の左右輪駆動装置。
【請求項5】
動力が最初に入力される第一軸に介装された上流歯車と、
前記第一軸と平行に配置された第二軸に介装され、前記上流歯車と噛合する第一中間歯車と、
前記第二軸に介装され、前記第一中間歯車と異なる直径を持つ第二中間歯車と、を備え、
前記回転軸は、前記第一軸と平行に配置され、
前記二つの歯車の少なくとも一方は、前記回転軸に介装されるとともに前記第二中間歯車と噛合し、
前記第一中間歯車及び前記第二中間歯車の夫々は、前記第二中間歯車と噛合する前記歯車の前記歯筋と反対方向に延びる弦巻線状の歯筋を有する
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の左右輪駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の歯筋によりオイルを誘導する左右輪駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動源(エンジンやモータ)からの動力を伝達する機構として、多数の歯車を介して動力を分配又は変速する装置が存在する。例えば、デフ装置(ディファレンシャル装置)に遊星歯車機構を内蔵させ、左右輪の駆動トルクの配分を変更できるようにしたものが知られる。一般に、このような装置では、歯車や回転軸や軸受といった各種部品を冷却及び潤滑するために、これらの部品を収容するケーシング内にオイルが供給される。
【0003】
例えば特許文献1には、オイルが注入されるギヤケース(ケーシング)に複数の油路(油溝,油孔,オイル溜り等)を形成し、ギヤ(歯車)の回転でかき上げられたオイルを、これらの油路を通じて軸受に供給するようにした構造が記載されている。この構造によれば、ギヤでかき上げられたオイルが車両の差動装置に供給されることで、差動装置を良好に潤滑できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、歯車や軸受等の部品を収容するケーシング内にオイルが供給される場合、このケーシングにはオイルが溜まる貯留部が設けられる。また、この貯留部には、オイルを吸い出すための吸引口が配置される。吸引口全体が浸かるほど十分なオイルが貯留部に溜まっている場合には、吸引口を通じてオイルが適切に吸い出される。一方、貯留部内のオイルが減少したり油面が傾いたりすることで、吸引口全体がオイルに浸からなくなった場合には、吸引口に空気が入り込み、オイルが適切に吸い出されなくなる虞がある。このため、貯留部内のオイルを吸い出しやすくする(吸出し性を向上させる)技術が求められている。
【0006】
本件の左右輪駆動装置は、このような課題に鑑み案出されたものであり、ケーシングにおけるオイルの吸出し性を向上させることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示する左右輪駆動装置は、オイルを貯留する貯留部を有するケーシングと、前記貯留部に配置され、前記貯留部内の前記オイルを吸い出すための吸引口と、弦巻線状の歯筋を有し、回転軸まわりの少なくとも一方向に回転可能に支承され、車両の左右輪に動力を伝達する動力伝達経路上に介装されるとともに互いに離隔した二つの歯車と、を備えている。前記吸引口は、前記二つの歯車の間に位置する。また、各々の前記歯車は、前記貯留部内の前記オイルに一部が浸かった状態で前記回転軸の軸方向において前記吸引口とずれて配置されるとともに、前記歯筋が前記一方向かつ前記吸引口から離隔する方向に延びている。なお、前記歯車は、はすば(斜歯)歯車やヘリカルギヤとも呼ばれる。
【0008】
(2)前記二つの歯車は、前記左右輪を駆動する第一モータ及び第二モータのうち、前記第一モータの動力伝達経路上に介装された第一歯車と、前記第二モータの動力伝達経路上に介装された第二歯車とであることが好ましい。
【0009】
(3)前記左右輪駆動装置は、前記第一モータ及び前記第二モータのトルク差を増幅して前記左右輪の各々に分配する歯車機構を備え、前記第一歯車及び前記第二歯車は、相互間に前記歯車機構を挟んで配置されていることが好ましい。
(4)前記一方向は、前記車両が前進する場合の回転方向であることが好ましい。
【0010】
(5)前記左右輪駆動装置は、動力が最初に入力される第一軸に介装された上流歯車と、前記第一軸と平行に配置された第二軸に介装され、前記上流歯車と噛合する第一中間歯車と、前記第二軸に介装され、前記第一中間歯車と異なる直径を持つ第二中間歯車と、を備え、前記回転軸は、前記第一軸と平行に配置され、前記二つの歯車の少なくとも一方は、前記回転軸に介装されるとともに前記第二中間歯車と噛合し、前記第一中間歯車及び前記第二中間歯車の夫々は、前記第二中間歯車と噛合する前記歯車の前記歯筋と反対方向に延びる弦巻線状の歯筋を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
開示の左右輪駆動装置によれば、二つの歯車が一方向に回転する場合に、各々の歯車の歯筋に入り込んだオイルが吸引口側へかき上げられるため、オイルを吸引口に集めることができる。よって、オイルの吸出し性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係る左右輪駆動装置の模式的な断面図である。
【
図2】
図1の左右輪駆動装置の内部構造を示す模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、実施形態としての左右輪駆動装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。以下の説明では、左右輪駆動装置が適用される車両の進行方向を前方(車両前方)とし、前方を向いた状態を基準にして左右を定め、左右方向を「車幅方向」ともいう。また、重力の作用方向を下方とし、この反対方向を上方とする。
【0014】
[1.構成]
[1-1.全体構成]
図1に示すように、本実施形態の左右輪駆動装置10(以下、単に「駆動装置10」という)は、AYC(アクティブヨーコントロール)機能を持ったディファレンシャル装置であり、車両の左右輪の間に介装される。AYC機能とは、左右駆動輪における駆動力(駆動トルク)の分担割合を主体的に制御することでヨーモーメントの大きさを調節し、これを以て車両のヨー方向の姿勢を安定させる機能である。本実施形態の駆動装置10は、AYC機能だけでなく、回転力を左右輪に伝達して車両を走行させる機能と、車両旋回時に発生する左右輪の回転数差を受動的に吸収する機能とを併せ持つ。
【0015】
駆動装置10は、左右輪を駆動する第一モータ1及び第二モータ2と、第一モータ1及び第二モータ2の回転速度を減速しながら伝達する減速ギヤ列と、第一モータ1及び第二モータ2のトルク差を増幅して左右輪の各々に分配(伝達)する歯車機構3とを備える。第一モータ1は車両の左側に配置され、第二モータ2は右側に配置される。これらの第一モータ1及び第二モータ2は、図示しないバッテリの電力で駆動される交流モータであり、好ましくは出力特性がほぼ同一とされる。左右駆動輪のトルクは可変であり、第一モータ1と第二モータ2とのトルク差が、歯車機構3において増幅されて左右輪の各々に伝達される。
【0016】
第一モータ1には、軸部1Aと一体で回転するロータ1Bと、モータハウジング1Dに固定されたステータ1Cとが設けられる。同様に、第二モータ2には、軸部2Aと一体で回転するロータ2Bと、モータハウジング2Dに固定されたステータ2Cとが設けられる。ロータ1Bにはマグネット(図示略)が設けられ、ステータ1Cにはコイル(図示略)が設けられる。同様に、ロータ2Bにはマグネット(図示略)が設けられ、ステータ2Cにはコイル(図示略)が設けられる。
【0017】
第一モータ1及び第二モータ2は、二つの軸部1A,2Aがいずれも車幅方向に延びる姿勢で、互いに離隔して対向配置される。各軸部1A,2Aは回転中心C1が一致するように同軸上に配置される。また、各軸部1A,2Aには、その内部空間4aと連通するように孔部4bが穿設される。各孔部4bは、軸部1A,2Aの回転に伴う遠心力を利用して、内部空間4a内のオイル(後述)を放射状に散らす機能を持つ。なお、孔部4bの個数,配置,形状は特に限られないが、オイルが径方向外側に向かって散りやすいものであることが好ましい。
【0018】
本実施形態の駆動装置10には、いずれも平行に配置された三つの軸11~13が二組設けられ、これら三つの軸11~13に二段階で減速する減速ギヤ列が設けられる。以下、三つの軸11~13を、各モータ1,2から左右輪への動力伝達経路の上流側から順に、モータ軸(第一軸)11,カウンタ軸(第二軸)12,出力軸(回転軸)13と呼ぶ。これらの軸11~13は二つずつ設けられる。左右に位置する二つのモータ軸11,二つのカウンタ軸12,二つの出力軸13は、それぞれが同様に(左右対称に)構成される。また、これらの軸11~13に設けられる減速ギヤ列も左右で同様に(左右対称に)構成される。
【0019】
モータ軸11は、動力が最初に入力される軸であり、回転中心C1を持つ中空円筒形状に形成され、左右のモータ1,2の各軸部1A,2Aと同軸上に位置する。本実施形態のモータ軸11は軸部1A,2Aとそれぞれ一体で設けられており、各モータ軸11の内部空間が各軸部1A,2Aの内部空間4aと連通して設けられる。なお、各モータ軸11と各軸部1A,2Aとが別体で設けられて接合,連結されたものであってもよい。モータ軸11には、モータ歯車(上流歯車)31が固定(介装)される。各モータ軸11は、第一モータ1及び第二モータ2の間に位置し、互いに離隔する二つの軸受(図示略)により回転自在に支持される。
【0020】
カウンタ軸12は、回転中心C2を持つ中空円筒状に形成され、モータ軸11と平行に配置される。カウンタ軸12には、モータ歯車31と噛合する第一中間歯車32と、第一中間歯車32よりも小径の(第一中間歯車32と異なる直径を持つ)第二中間歯車33とが固定(介装)される。左側の第二中間歯車33は、左側の第一中間歯車32よりも第一モータ1側(左側)に配置され、右側の第二中間歯車33は、右側の第一中間歯車32よりも第二モータ2側(右側)に配置される。すなわち、大径の第一中間歯車32の方が小径の第二中間歯車33よりも車幅方向内側に配置される。なお、これらの中間歯車32,33は互いに近接配置されることが好ましい。また、モータ歯車31と第一中間歯車32とで、一段目の減速ギヤ列が構成される。
【0021】
各カウンタ軸12は、第一モータ1及び第二モータ2の間に位置し、互いに離隔する二つの軸受(図示略)により回転自在に支持される。なお、カウンタ軸12は側面視で、第一中間歯車32が第一モータ1及び第二モータ2の外周面1f,2fよりも径方向内側に位置するように配置されることが好ましい。つまり、カウンタ軸12上の歯車32,33が、車両側方から見たときに、モータ1,2と完全に重なっていることが好ましい。
【0022】
出力軸13は、回転中心C3を持つ中空円筒状に形成され、モータ軸11と平行に配置される。出力軸13には、第二中間歯車33と噛合する出力歯車34が介装される。第二中間歯車33と出力歯車34とで、二段目の減速ギヤ列が構成される。これらの各歯車31~34は、左右のモータ1,2から左右輪への動力伝達経路上に位置する。具体的には、二組の軸11~13のうち、左側の三つの軸11~13に設けられた各歯車31~34が第一モータ1の動力伝達経路上に介装されており、右側の三つの軸11~13に設けられた各歯車31~34が第二モータ2の動力伝達経路上に介装されている。
【0023】
このように、本実施形態の出力歯車34は、第一モータ1及び第二モータ2と左右輪との間で動力を伝達するものであって、第一モータ1の動力伝達経路上に介装された左側の出力歯車(第一歯車)34Lと、第二モータ2の動力伝達経路上に介装された右側の出力歯車(第二歯車)34Rとを有する。以下、二つの出力歯車34L,34Rを互いに区別する場合は、前者を左出力歯車34Lともいい、後者を右出力歯車34Rともいう。左出力歯車34Lと右出力歯車34Rとは、車幅方向に互いに離隔して配置される。
【0024】
本実施形態の出力歯車34は、外歯が形成された歯部34aと一体で設けられた円筒部34bを有し、円筒部34bが出力軸13の外周面の一部に摺動可能に外嵌されることで出力軸13に介装される。出力歯車34は、駆動装置10に内装される最大径のギヤである。なお、後述する歯筋は歯部34aに形成される。
【0025】
本実施形態の出力歯車34は、出力軸13まわりの二方向に回転可能に支承されている。以下、車両が前進する場合の出力軸13及び出力歯車34の回転方向(一方向)Dを「正転方向D」ともいう。なお、出力軸13及び出力歯車34は、車両が後退する場合には、正転方向Dと反対方向に回転する。軸11~13の軸方向(回転中心C1,C2,C3に沿う方向)から見た場合、モータ軸11の回転方向及び出力軸13の回転方向は互いに同一であり、いずれもカウンタ軸12の回転方向とは反対である。したがって、モータ歯車31の回転方向及び出力歯車34の回転方向と、中間歯車32,33の回転方向とは互いに反対となる。
【0026】
出力軸13の一端側(車幅方向内側)には歯車機構3が配置され、出力軸13の他端側(車幅方向外側)には左右輪の一方が配置される。つまり、駆動装置10では、左右のモータ1,2が、左右輪が設けられる出力軸13上に配置されず、出力軸13からオフセットして配置される。なお、
図2には左右輪の図示を省略し、左右輪に連結されるジョイント部14を図示している。
【0027】
本実施形態の歯車機構3は、所定の増幅率でトルク差を増幅する機能を持ち、例えば差動機構や遊星歯車機構等で構成される。歯車機構3の入力要素には、第一モータ1及び第二モータ2からの各トルクが入力され、歯車機構3の出力要素は出力軸13と一体回転するように設けられる。なお、歯車機構3には、図示しない複数の軸受が含まれる。
【0028】
本実施形態の歯車機構3は、第一モータ1及び第二モータ2の下方に位置し、左出力歯車34Lと右出力歯車34Rとの間に配置される。各出力軸13は、出力軸13に外嵌された円筒部34bが、互いに離隔する二つの軸受(図示略)により軸支されることでケーシング15に対して回転可能に軸支される。ジョイント部14は、出力軸13の車幅方向外側の端部であって、第一モータ1及び第二モータ2の車幅方向外側の各端面1e,2eよりも車幅方向外側に配置される。言い換えると、ジョイント部14が各モータ1,2の端面1e,2eよりも車幅方向外側に位置するように、出力軸13の長さが設定される。
【0029】
本実施形態のケーシング15は、各モータハウジング1D,2Dにそれぞれ連結され、各軸11~13や歯車機構3等を収容するものである。ケーシング15は一体ものであってもよいし、複数のパーツが組み合わされて構成されたものであってもよい。ケーシング15の上面は、各モータハウジング1D,2Dの外周面1f,2fの上面よりも回転中心C1側に位置する。これにより、駆動装置10には、第一モータ1及び第二モータ2の間であってケーシング15の上部に位置する凹部16が設けられる。凹部16は、左右のモータ1,2の間であってモータ軸11の上方に空間を形成する部位であり、ケーシング15の内方向へ凹設された部位ともいえる。
【0030】
[1-2.要部構成]
本実施形態の駆動装置10には、冷却用及び潤滑用のオイルが循環する循環路20が接続されている。この循環路20上には、少なくとも、オイルを圧送するオイルポンプ23と、オイルを冷却するオイルクーラ24とが介装される。オイルポンプ23で圧送されたオイルは、オイルクーラ24で冷却されたのち駆動装置10へと供給される。
【0031】
本実施形態の循環路20には、各モータ1,2の軸部1A,2Aから放射状に噴霧されるオイルの通路である軸心油路22が少なくとも含まれる。軸心油路22は、左右のモータ1,2のそれぞれに設けられる。
【0032】
本実施形態の駆動装置10には、循環路20内のオイルをモータハウジング1D,2D及びケーシング15内に注入するための注入口17と、オイルを貯留する貯留部18と、貯留部18内のオイルを吸い出すための吸引口19とが設けられる。すなわち、循環路20の一端部(軸心油路22の一端部)は注入口17に接続され、他端部は吸引口19に接続される。
【0033】
左右の軸心油路22が接続される注入口17はいずれも、二つのモータハウジング1D,2Dの間の空間(凹部16内)に配置されており、凹部16に形成された突起部に設けられる。二つの注入口17のうちの一方から注入されたオイルは第一モータ1側(左側)へ導かれ、他方から注入されたオイルは第二モータ2側(右側)へ導かれる。なお、
図1では、二つの注入口17が紙面に直交する方向に二つ並設されている場合を例示しているが、二つの注入口17が車幅方向に並設されていてもよい。
【0034】
本実施形態の駆動装置10において、注入口17から注入されたオイルは、左右のモータ軸11の内部空間及び各軸部1A,2Aの内部空間4aを通じて、各モータ1,2の端面1e,2e側に向かって流れる。このとき、軸部1A,2Aが回転していれば、この回転に伴う遠心力により、内部空間4a内のオイルは孔部4bを通じて放射状に散り、コイルやマグネットを冷却する。また、注入口17から注入されたオイルの残りはそのまま下方へ落下し、各軸11~13を支持する軸受や歯車機構3内の軸受等の潤滑に寄与する。
【0035】
貯留部18は、ケーシング15の下部に設けられ、下方に落下してきたオイルを貯留する容器形状の部位である。上述した吸引口19は、貯留部18に設けられる。貯留部18内のオイルは、オイルポンプ23の作用により、吸引口19から貯留部18の外部(循環路20)へ吸い出される。そして、このオイルは、オイルポンプ23によりオイルクーラ24へと圧送され、オイルクーラ24を通過した後、再び注入口17からモータハウジング1D,2D及びケーシング15内に注入される。
【0036】
貯留部18に貯留されるオイルの油面(液面)の高さ位置は、オイルが循環していないとき(オイルポンプ23の非作動時)に最も高くなり、オイルの循環中(オイルポンプ23の作動中)に最も低くなる。以下、油面の高さが最も高い位置を「最高油面H1」といい、油面の高さが最も低い位置を「最低油面H2」という。
図2に示すように、本実施形態では、最高油面H1が出力軸13の回転中心C3以上に設定され、最低油面H2が少なくとも吸引口19よりも上方であって出力歯車34が部分的に浸かる位置に設定される。すなわち、出力歯車34は、その一部(歯部34aの下部)が貯留部18内のオイルに浸かった状態で配置される。
【0037】
出力歯車34は、出力軸13の軸方向(回転中心C3が延びる方向)において、吸引口19とずれて配置される。本実施形態の左出力歯車34Lと右出力歯車34Rとは、相互間に吸引口19及び歯車機構3の各々を挟んで配置されている。言い換えると、吸引口19及び歯車機構3は、左出力歯車34Lと右出力歯車34Rとの間(車幅方向の内側)に位置する。本実施形態では、出力軸13の軸方向において、左出力歯車34Lと右出力歯車34Rとの間の略中間位置に吸引口19が設けられている場合を例示する。
【0038】
歯車31~34はいずれも、弦巻線状の歯筋を有する斜歯歯車(ヘリカルギヤ)である。したがって、歯車31~34の歯筋はいずれも、回転中心C1,C2,C3と平行ではなく、回転中心C1,C2,C3に対して傾斜している。出力歯車34の歯筋のねじれ方向は、正転方向Dと吸引口19の配置とに基づいて設定される。また、入力歯車31及び中間歯車32,33の各歯筋のねじれ方向は、出力歯車34の歯筋のねじれ方向に応じて設定される。
【0039】
具体的には、出力歯車34の歯筋は、正転方向Dかつ吸引口19から離隔する方向に延びている。左出力歯車34Lに着目すると、吸引口19は左出力歯車34Lの右側に位置することから、左出力歯車34Lの歯筋は正転方向Dかつ左方へ延びている。また、右出力歯車34Rに着目すると、吸引口19は右出力歯車34Rの左側に位置することから、右出力歯車34Rの歯筋は正転方向Dかつ右方へ延びている。
【0040】
図2に示す例では、左出力歯車34Lがいわゆる右ねじれ(回転軸を天地に向けた場合、歯筋が右上がりとなる歯車)であり、右出力歯車34Rがいわゆる左ねじれ(回転軸を天地に向けた場合、歯筋が左上がりとなる歯車)である。このように、左出力歯車34Lと右出力歯車34Rとは、歯筋のねじれ方向が互いに反対とされる。なお、本実施形態の駆動装置10では、減速ギヤ列が左右対称に構成されることから、左出力歯車34Lのねじれ角の大きさと右出力歯車34Rのねじれ角の大きさとが同一に設定される。
【0041】
第二中間歯車33は、この第二中間歯車33が噛合する出力歯車34に対して、歯筋のねじれ方向が反対とされる。具体的には、左側の第二中間歯車33の歯筋は、左出力歯車34Lの歯筋に対して反対方向に延びており、右側の第二中間歯車33の歯筋は、右出力歯車34Rの歯筋に対して反対方向に延びている。なお、ここでいう「反対方向」とは、歯筋同士が噛合可能となるねじれ方向を意味する。詳細には、左側の第二中間歯車33は、右ねじれの左出力歯車34Lと噛合可能になるように左ねじれとされ、右側の第二中間歯車33は、左ねじれの右出力歯車34Rと噛合可能になるように右ねじれとされる。
【0042】
また、同一のカウンタ軸12上に設けられる第一中間歯車32と第二中間歯車33とは、歯筋のねじれ方向が互いに等しくされる。左側のカウンタ軸12に着目すると、このカウンタ軸12に介装される第一中間歯車32及び第二中間歯車33の各歯筋は、左出力歯車34Lの歯筋に対して反対方向に延びている。すなわち、これら(左側)の第一中間歯車32及び第二中間歯車33はいずれも左ねじれとされる。また、右側のカウンタ軸12に着目すると、このカウンタ軸12に介装される第一中間歯車32及び第二中間歯車33の各歯筋は、右出力歯車34Rの歯筋に対して反対方向に延びている。すなわち、これら(右側)の第一中間歯車32及び第二中間歯車33はいずれも右ねじれとされる。
【0043】
入力歯車31は、この入力歯車31が噛合する第一中間歯車32に対して、歯筋のねじれ方向が反対とされる。具体的には、左側の入力歯車31の歯筋は、左側の第一中間歯車32の歯筋に対して反対方向に延びており、右側の入力歯車31の歯筋は、右側の第一中間歯車32の歯筋に対して反対方向に延びている。
図2に示す例では、左側の入力歯車31が右ねじれであり、右側の入力歯車31が左ねじれである。
【0044】
[2.作用]
車両が前進する場合、第一モータ1及び第二モータ2の動力により入力軸11のそれぞれが回転する。これに伴い、各々の入力歯車31が回転し、入力歯車31から第一中間歯車32へと動力が伝達されて各カウンタ軸12が回転する。また、カウンタ軸12の回転に伴い、第二中間歯車33から出力歯車34へと動力が伝達され、各々の出力歯車34が正転方向Dに回転する。
【0045】
上述したように、出力歯車34は貯留部18内のオイルに部分的に浸かった状態で配置されているため、出力歯車34の歯筋の一部にはオイルが入り込む。このオイルは、出力歯車34の回転に伴ってかき上げられる。出力歯車34が正転方向Dに回転する場合、出力歯車34の歯筋が上述した方向に延びていることにより、歯筋に入り込んだオイルは吸引口19側へかき上げられる(
図2中の破線矢印参照)。本実施形態では、左出力歯車34Lが右方へオイルをかき上げ、右出力歯車34Rが左方へオイルをかき上げる。
【0046】
したがって、貯留部18では、各々の出力歯車34から吸引口19及び歯車機構3へ向けてオイルが誘導される。このようにオイルが吸引口19に集められることで、吸引口19からオイルが吸い出されやすくなる。このため、循環路20におけるオイルの循環性が向上し、貯留部18における油面が最低油面H2よりも高く維持されやすくなる。また、歯車機構3にオイルが誘導されることで、歯車機構3の冷却及び潤滑が促進される。
【0047】
なお、歯車31~34はいずれも斜歯歯車であるため、通常の平歯車(スパーギヤ)と比較して、滑らかに力を伝達できる反面、歯筋のねじれ角によって生じる軸方向力(スラスト力)が大きくなる可能性がある。これに対し、カウンタ軸12では、モータ歯車31から動力を伝達される第一中間歯車32の歯筋のねじれ方向と、出力歯車34に動力を伝達する第二中間歯車33の歯筋のねじれ方向とが互いに等しいため、第一中間歯車32の軸方向力F1と第二中間歯車33の軸方向力F2との作用方向が互いに反対となる。例えば
図2に示すように、車両が第一モータ1及び第二モータ2の動力で前進する場合は、第一中間歯車32の軸方向力F1が車幅方向の内側に向かって作用するのに対し、第二中間歯車33の軸方向力F2が車幅方向の外側に向かって作用する。これにより、カウンタ軸12における総合的な軸方向力が低減される。
【0048】
[3.効果]
(1)上述した駆動装置10によれば、出力歯車34が正転方向Dに回転する場合に、貯留部18内のオイルが出力歯車34の歯筋によって吸引口19側へかき上げられるため、オイルを吸引口19に集めることができる。これにより、貯留部18内の油面が変動したり傾いたりしたとしても、吸引口19への空気の混入が抑制されることから、ケーシング15におけるオイルの吸出し性を高めることができる。
【0049】
特に、吸引口19から吸い出されたオイルが再びケーシング15内に供給される(オイルが循環する)場合は、上述したように吸出し性が向上することで、オイルの循環性を高めることができる。よって、オイルによる部品の潤滑性能及び冷却性能を向上させることができるとともに、貯留部18における油面の低下を抑制できる。
【0050】
また、駆動装置10に設けられる二つの出力歯車34の間に吸引口19を位置させることで、二つの出力歯車34の夫々から吸引口19側へオイルをかき上げることができる。したがって、より多くのオイルを吸引口19に集めることができる。これにより、駆動装置10の性能向上を図ることができる。
【0051】
(2)上述した左出力歯車34Lは、第一モータ1の動力伝達経路上に介装されており、上述した右出力歯車34Rは、第二モータ2の動力伝達経路上に介装されている。このように、車両の左右輪を駆動する二つのモータ1,2の各動力伝達経路上に出力歯車34を配置することで、各モータ1,2の動力を利用して、出力歯車34の夫々から吸引口19側へオイルをかき上げることができる。
【0052】
(3)また、上述した出力歯車34(左出力歯車34L及び右出力歯車34R)は、左右輪へのトルク分配用の歯車機構3を相互間に挟んで配置されているため、左右の出力歯車34の夫々から歯車機構3側へオイルをかき上げることもできる。したがって、駆動装置10に設けられる歯車機構3の冷却及び潤滑を促進することもできる。これにより、駆動装置10の更なる性能向上を図ることができる。
【0053】
(4)車両は後退よりも前進する頻度が高いため、車両が前進する場合に出力歯車34が吸引口19側へオイルをかき上げるように歯筋のねじれ方向を設定する(歯筋を正転方向Dかつ吸引口19から離隔する方向に延ばす)ことで、オイルを吸引口19に高頻度で集めることができる。
【0054】
(5)一つのカウンタ軸12に介装された第一中間歯車32及び第二中間歯車33の夫々が、この第二中間歯車33と噛合する出力歯車34の歯筋と反対方向に延びる弦巻線状の歯筋を有するため、第一中間歯車32の軸方向力F1と第二中間歯車33の軸方向力F2とを互いに反対方向に作用させることができる。これにより、カウンタ軸12における総合的な軸方向力を低減することができる。よって、第一中間歯車32及び第二中間歯車33の軸方向の位置精度を高めることができる。
【0055】
[4.変形例]
上述した実施形態で例示した出力歯車34の配置は一例である。出力歯車34は、少なくとも、出力軸13の軸方向において吸引口19とずれて配置されるとともに歯筋が上述した方向に延びていればよく、例えば相互間に歯車機構3を挟んで配置されなくてもよい。出力歯車34が相互間に歯車機構3を挟んで配置されない場合であっても、貯留部18内のオイルが出力歯車34により吸引口19側へかき上げられることで、上述したようにケーシング15におけるオイルの吸出し性を高めることができる。
【0056】
なお、出力歯車34は、歯筋のねじれ角が大きいほどオイルをかき上げやすくなることから、吸引口19にオイルを集めるという観点では、歯筋のねじれ角を大きく設定することが好ましい。ただし、一般に斜歯歯車は、ねじれ角が大きいほど軸方向力が大きくなりやすいため、上述した出力歯車34の歯筋の具体的なねじれ角は、出力軸13に許容される軸方向力の大きさとの兼ね合いを考慮して設定されることがより好ましい。
【0057】
出力歯車34は、出力軸13の少なくとも一方向に回転可能であればよく、例えば上述した正転方向Dのみに回転可能に構成されてもよい。また、駆動装置10において、上述したように吸引口19側へオイルをかき上げる歯車の構造は、出力歯車34以外の歯車に適用されてもよい。
【0058】
上述した駆動装置10の構成は一例である。カウンタ軸12に介装される二つの中間歯車32,33の直径は互いに異なっていればよく、例えば第一中間歯車32よりも大径の第二中間歯車が適用されることで増速ギヤ列が構成されてもよい。この場合も、カウンタ軸12に介装される二つの中間歯車の歯筋がいずれも出力歯車の歯筋と反対方向に延びるように各歯筋のねじれ方向を設定することで、上述したようにカウンタ軸における総合的な軸方向力を低減することができる。
【0059】
上述した循環路20の構成も一例である。循環路20には上述した軸心油路22以外に、各モータ1,2のコイルに直接的に供給(滴下)されるオイルの通路である直掛油路が更に設けられてもよい。また、上述した駆動装置10内においてオイルが流れる経路も一例である。オイルの経路は、少なくともケーシング15の貯留部18にオイルが溜まるように設定されればよい。
【符号の説明】
【0060】
1 第一モータ
1A 軸部
2 第二モータ
2A 軸部
3 歯車機構
10 駆動装置(左右輪駆動装置)
11 モータ軸(第一軸)
12 カウンタ軸(第二軸)
13 出力軸(回転軸)
15 ケーシング
18 貯留部
19 吸引口
31 モータ歯車(上流歯車)
32 第一中間歯車
33 第二中間歯車
34 出力歯車(歯車)
34L 左出力歯車(第一歯車)
34R 右出力歯車(第二歯車)
D 正転方向(一方向)