(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-16
(45)【発行日】2022-08-24
(54)【発明の名称】多重周回飛行時間型質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/40 20060101AFI20220817BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20220817BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20220817BHJP
【FI】
H01J49/40 800
H01J49/42 200
H01J49/06 700
(21)【出願番号】P 2021566802
(86)(22)【出願日】2020-08-11
(86)【国際出願番号】 JP2020030593
(87)【国際公開番号】W WO2021131140
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2021-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2019232339
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 良弘
(72)【発明者】
【氏名】前田 竜五
(72)【発明者】
【氏名】立石 勇介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 宏之
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/038260(WO,A1)
【文献】特表2008-535164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象であるイオンを一時的に保持し、該イオンを一方向に細長い形状のイオン射出開口を通して射出するリニアイオントラップと、
イオンを繰り返し飛行させることが可能な周回軌道を形成する周回飛行部と、
前記リニアイオントラップから射出されたイオンが前記周回軌道に導入されるまでの間のイオン経路に配設され、前記イオン射出開口の長手方向における一部のイオンを遮蔽するスリット部と、
を備える多重周回飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
前記周回軌道は平面上に形成され、前記スリット部におけるイオン通過開口は該平面上の一方向に細長い形状である、請求項1に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
前記イオン射出開口の長手方向の中央から発したイオンが前記周回軌道の中心軸に入射するように前記リニアイオントラップと前記周回飛行部とが互いに配置され、前記スリット部のイオン通過開口は、前記イオン射出開口の長手方向の中央から発したイオンが通過する位置を中心に長手方向に非対称形状である、請求項2に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛行時間型質量分析装置に関し、さらに詳しくは、多重周回飛行時間型質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析装置(Time of Flight Mass Spectrometer:以下「TOFMS」と略すことがある)では、試料に含まれる成分に由来するイオンに一定のエネルギーを付与して飛行空間に投入し、そのイオンを一定の距離を飛行させたあとに検出して飛行時間を計測する。飛行空間内でのイオンの飛行速度はそのイオンの質量電荷比(厳密には斜体字の「m/z」であるが、ここでは慣用的に使用されている「質量電荷比」と記す))に応じたものとなるため、計測された飛行時間からイオンの質量電荷比を求めることができる。TOFMSでは、イオンの飛行距離が長いほど質量分解能が高くなるものの、一般に飛行距離を延ばそうとすると装置が大形になる。
【0003】
これに対し、TOFMSの一つとして多重周回(マルチターン)方式のTOFMS(Multi Turn - Time of Flight Mass Spectrometer:以下「MT-TOFMS」と略すことがある)が知られている(特許文献1など参照)。MT-TOFMSでは、略円形状、略楕円形状、8の字形状などの閉じた周回軌道、或いは、螺旋軌道等の周回軌道に準じた軌道(以下、こうした軌道を含めて周回軌道という)に沿ってイオンを多数回周回させることにより、比較的狭い空間で格段に長い飛行距離を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MT-TOFMSにおいて高い検出感度を実現するには、できるだけ多くの量のイオンを周回軌道に投入することが望ましい。そのための一つの方法として、3次元四重極型イオントラップに比較して、より多くの量のイオンを蓄積可能であるリニアイオントラップとMT-TOFMSとを組み合わせる試みがなされている。しかしながら、本発明者らの実験によれば、リニアイオントラップから射出したイオンをMT-TOFMSの周回軌道に導入して質量分析を実施した場合、同一質量電荷比を有するイオンの飛行時間のばらつきが大きくなり(つまりは時間収束性が低下し)、マススペクトル上でのピークの幅が広くなってしまうという問題が生じることが判明した。
【0006】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、検出感度を向上させながら、高い質量精度及び質量分解能を実現することができる多重周回飛行時間型質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る多重周回飛行時間型質量分析装置の一態様は、
分析対象であるイオンを一時的に保持し、該イオンを一方向に細長い形状のイオン射出開口を通して射出するリニアイオントラップと、
イオンを繰り返し飛行させることが可能な周回軌道を形成する周回飛行部と、
前記リニアイオントラップから射出されたイオンが前記周回軌道に導入されるまでの間のイオン経路に配設され、前記イオン射出開口の長手方向における一部のイオンを遮蔽するスリット部と、
を備えるものである。
【0008】
上記周回軌道とは、軌道上の或る1点から飛行したイオンが周回軌道を1周したあとに同じ点に戻ってくるような完全に閉じた軌道でもよいが、上述したように、完全には閉じた軌道ではなく、例えば螺旋状のように、イオンが周回する毎にその軌道が徐々にずれるものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る上記態様のMT-TOFMSにおいて、リニアイオントラップからイオンが射出される際に、その進行方向に直交する面内において棒状又は細長い矩形状の広がりを有してパケット状にイオンは射出されるが、その長手方向の一部のイオンはスリット部で遮断される。
【0010】
MT-TOFMSでは、イオンが加速されて周回軌道に投入される際の、加速時のイオンの初期位置のばらつき、イオンが付与される初期エネルギーのばらつき、或いは、イオンの初期的な運動方向のばらつきなどに対し、時間収束性ができるだけ確保されるように、つまりは同一の質量電荷比を有するイオンができるだけ同時に検出器に到達するように、周回軌道を形成する電極の形状や配置、或いは該電極に印加される電圧などが設計される。しかしながら、一般にMT-TOFMSでは、周回軌道上でその中心軸に直交する断面においてイオンが良好に、つまり高い時間収束性を有して通過し得る範囲が比較的狭い。これに対し本発明に係る上記態様のMT-TOFMSでは、イオンの進行方向に直交する面内におけるイオンの広がり形状が、スリット部によって適宜に整形される。そのため、そのイオンの広がりが、周回軌道において時間収束性を有してイオンが通過し得る範囲に収まる。
【0011】
また、周回軌道に導入されるイオンの量が多すぎると、集団となったイオンの空間電荷効果によって、周回を重ねるほど同一質量電荷比を有するイオンが進行方向の前後に広がり易い。これに対し本発明に係る上記態様のMT-TOFMSでは、スリット部でイオンの一部が遮断されることでイオンの量が適当に制限されるため、イオンによる過度な空間電荷効果が生じにくく、飛行中のイオンの進行方向の前後の広がりも起こりにくい。
【0012】
したがって、本発明に係る上記態様のMT-TOFMSによれば、或る程度多くの量のイオンを周回軌道に導入することで検出感度を高めながら、同一質量電荷比を有するイオンの飛行時の時間収束性も確保し、高い質量精度及び質量分解能を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態であるMT-TOFMSの概略構成図。
【
図2】本実施形態のMT-TOFMSにおける、スリットでのイオンの遮断状態を示す模式図。
【
図3】本実施形態のMT-TOFMSにおいて、スリットを設けた場合と設けない場合との実測のマススペクトルの比較を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るMT-TOFMSの一実施形態について、添付図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態のMT-TOFMSの概略構成図である。
【0015】
本実施形態のMT-TOFMSは、試料に由来するイオンを生成するイオン源1と、生成されたイオンを高周波電場の作用で捕捉して蓄積するリニアイオントラップ2と、リニアイオントラップ2から射出されたイオンを適宜の回数だけ周回飛行させる周回軌道を形成する周回飛行部3と、周回軌道を飛行して該軌道を離脱したあとのイオンを検出する検出器4と、リニアイオントラップ2と周回飛行部3との間に配置された、所定の大きさのイオン通過開口を有するスリット部5と、を含む。
【0016】
リニアイオントラップ2は、直線状の中心軸20を囲んで該中心軸20に平行に配置される4枚の平板状電極21~24(
図1では平板状電極24は中心軸20の手前側に位置する)と、その4枚の平板状電極21~24の両端部の外側にそれぞれ配置されている一対のエンドキャップ電極25、26と、を含む。イオン源1側に位置するエンドキャップ電極25には、中心軸20を中心とする所定の大きさのイオン入射孔251が形成されている。また、周回飛行部3側に位置する1枚の平板状電極21には、中心軸20に平行な方向に延伸する細長い矩形状のイオン射出開口211が形成されている。また、これら電極21~24、25、26にそれぞれ所定の電圧を印加するための図示しない電圧発生部が設けられている。
【0017】
なお、リニアイオントラップ2は、平板状電極21~24に代えて、断面円筒状(若しくは円柱状)、又は、中心軸20に向かう面が断面双曲線状であるロッド電極を使用した構成とすることもできる。
【0018】
周回飛行部3は、略扇形状である又は平行平板状である内側電極311と外側電極312とを一組とする複数組の周回電極31と、入射側ゲート電極32と、出射側ゲート電極33と、を含む。また、これら電極31、32、33にそれぞれ所定の電圧を印加するための図示しない電圧発生部が設けられている。なお、この例では、完全に閉じた略楕円状の周回軌道Pが形成されるが、周回軌道の形状はこれに限らないのは当然である。また、上述したように、周回軌道は完全に閉じたものでなくてもよいことも当然である。
【0019】
図1に示すように、周回軌道Pは互いに直交するX軸、Y軸を含む平面上に形成されており、入射側ゲート電極32を通した周回軌道Pへのイオンの入射方向をX軸方向と定める。つまり、ここで、周回軌道Pへのイオン入射位置におけるイオン進行方向に直交する面はY-Z平面である。
【0020】
スリット部5は、リニアイオントラップ2のイオン射出開口211に近接してY-Z平面に平行に配置され、Y軸方向に細長い矩形状のイオン通過開口51を有する。
図2に示すように、イオン通過開口51の長手方向の長さL
2は、リニアイオントラップ2のイオン射出開口211の長手方向の長さL
1よりも短く定められている。
【0021】
本実施形態のMT-TOFMSにおける分析動作を説明する。
イオン源1は試料由来のイオンを生成し、生成されたイオンはイオン入射孔251を通してリニアイオントラップ2の内部空間に導入され、高周波電場の作用によってその内部空間に蓄積される。なお、リニアイオントラップ2では、衝突誘起解離などによるイオンの解離を行うこともできる。十分な量のイオンがリニアイオントラップ2の内部空間に蓄積されたあと、対向する平板状電極21、23に高周波電圧に代えてそれぞれ所定の直流電圧が印加され、それによる加速電場によって、その直前まで蓄積されていたイオンは運動エネルギーを付与される。その結果、イオンは一斉にイオン射出開口211を通して射出される。
【0022】
リニアイオントラップ2でのイオンの蓄積時に、そのリニアイオントラップ2の内部空間には中心軸20の方向(Y軸方向)に広がってイオンが蓄積される。そのため、イオン射出時には、イオン射出開口211のほぼ全体から、概ねY軸方向に延伸するパケット状のイオンが射出する。したがって、イオンの進行方向に直交する面(Y-Z平面)上においてイオンが存在する範囲は、
図2に示すように、Y軸方向に細長い矩形状の範囲となる。このパケット状のイオンがスリット部5に達すると、イオン通過開口51のY軸方向の長さL
2はイオン射出開口211の長さL
1よりも短いため、パケット状のイオンのうちの両端付近に存在するイオンはイオン通過開口51を通過し得ずに遮断される。そのため、イオン通過開口51を通過して周回飛行部3へと向かうパケット状イオンの、その進行方向に直交する面上でのイオンが存在する範囲は、Y軸方向において、先のパケット状のイオンが存在する範囲に比べて、より短い矩形状の範囲に整形される。また、このときイオンの量も減少する。
【0023】
周回飛行部3には、複数組の周回電極31により形成される扇形状電場及び直線状電場によって、イオンが多数回繰り返し周回可能な周回軌道Pが形成される。上述したスリット部5のイオン通過開口51を通過したパケット状のイオンは入射側ゲート電極32により周回軌道Pに乗るように導かれる。リニアイオントラップ2から射出される際に各イオンに付与される運動エネルギーは理想的には同一であり、各イオンはその質量電荷比に応じた飛行速度、即ち、質量電荷比が小さいほど大きな飛行速度を有する。イオンは周回軌道Pに沿って飛行し、飛行する間にそれぞれの飛行速度つまりは質量電荷比に応じて進行方向の前後に差がつく。
【0024】
周回軌道Pの中心軸に直交する面内においてイオンが理想的に通過する、つまりは高い時間収束性を有して通過し得る範囲は或る程度限られ、その範囲から外れた位置にイオンが入射すると、イオンの時間収束性が保てなくなる。それに対し、このMT-TOFMSでは、スリット部5において特にY軸方向のイオンの広がりが制限されているので、周回軌道Pに導入されるイオンの殆どが、上述した、イオンが高い時間収束性を有して通過し得る範囲に入射し得る。
【0025】
また、周回軌道Pに導入されるイオンの量が過剰であると、同じ極性の電荷を有するイオン同士は反発し合うため、同一の質量電荷比を有するイオンであっても前後方向にその位置がばらつく。それに対し、スリット部5において全体的にイオンの量も減少しているので、イオンの空間電荷効果による位置のばらつきも生じにくい。これによって、同一の質量電荷比を有するイオンは高い時間収束性を有しつつ飛行する。
【0026】
そうして周回軌道Pに沿って所定回数周回したイオンは、周回軌道Pから離脱し、出射側ゲート電極33を経て検出器4へ向かって進行する。検出器4は、入射したイオンの量に応じた検出信号を生成する。上述したように、周回飛行部3において周回軌道Pに沿って飛行する際に同一質量電荷比を有するイオンは高い時間収束性を保つので、試料に由来する同一質量電荷比を有するイオンはほぼ同時に検出器4に到達する。したがって、検出器4から出力される検出信号において、試料に由来する同一質量電荷比を有するイオンの強度信号は狭い幅のピークとして現れる。
【0027】
図3は、本実施形態のMT-TOFMSにおいて、スリット部5を設けた場合と設けない場合とでの実測のマススペクトルの比較を示す図である。スリット部5を設けずにリニアイオントラップ2から射出されたイオンを全て周回軌道Pに導入した場合には、
図3(a)に示すように、試料由来の特定イオンのピークにおいて顕著なテーリングが観測される。これは、種々の要因によって飛行中にイオンの遅れが生じることを示している。これに対し、スリット部5を設けてイオンの広がりを制限した場合には、
図3(b)に示すように、テーリングが殆どなくなり、狭い幅の鋭いピークを観測することができる。
【0028】
このことから、リニアイオントラップ2のイオン射出開口211と周回飛行部3の入射側ゲート電極32との間のイオン経路にスリット部5を配置してイオンの一部を遮断することによる質量分解能及び質量精度の改善の効果は、明らかである。また、
図3(b)を見ると、
図3(a)に比べてピークの高さは低下しているものの、その低下度合は30%程度である。このように、スリット部5を設けたことによるイオン強度の低下の度合いはそれほど大きくなく、本実施形態のMT-TOFMSでは、多くの量のイオンを蓄積可能であるリニアイオントラップ2を用いた利点を活かして、高い検出感度を達成することができる。
【0029】
なお、上記実施形態のMT-TOFMSでは、X-Y面上において、リニアイオントラップ2のイオン射出開口211の長手方向の中央と入射側ゲート電極32を経たイオンの入射点における周回軌道Pの中心軸とを結ぶ線に対し、スリット部5のイオン通過開口51の開口形状を対称形状としているが、その開口形状を非対称形状としてもよい。即ち、厳密には、周回電極31により形成される扇形電場の内周側と外周側とではイオンが通過する条件が相違するため、周回軌道Pの中心軸に直交する面内におけるイオンの通過条件は対称にはならない。そのため、そのイオン通過条件に合わせて、スリット部5のイオン通過開口51の開口形状を非対称形状にしたほうが、イオンの損失をより少なく抑えながら高い時間収束性を達成することができる。
【0030】
また、上記実施形態は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正、変更、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0031】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0032】
(第1項)本発明の一態様による多重周回飛行時間型質量分析装置は、
分析対象であるイオンを一時的に保持し、該イオンを一方向に細長い形状のイオン射出開口を通して射出するリニアイオントラップと、
イオンを繰り返し飛行させることが可能な周回軌道を形成する周回飛行部と、
前記リニアイオントラップから射出されたイオンが前記周回軌道に導入されるまでの間のイオン経路に配設され、前記イオン射出開口の長手方向における一部のイオンを遮蔽するスリット部と、
を備えるものである。
【0033】
第1項に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置によれば、或る程度多くの量のイオンを周回軌道に導入することで検出感度を高めながら、同一質量電荷比を有するイオンの飛行時の時間収束性も確保することができる。それによって、マススペクトルにおいて、同一質量電荷比を有するイオン由来のピークのピーク幅を狭くすることができ、高い質量精度及び質量分解能を達成することができる。
【0034】
(第2項)第1項に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置において、前記周回軌道は平面上に形成され、前記スリット部におけるイオン通過開口は該平面上の一方向に細長い形状であるものとすることができる。
【0035】
第2項に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置によれば、特に、イオンの進行方向を曲げるための扇形電場の影響による同一質量電荷比を有するイオンの飛行時間ずれを抑えることができ、質量精度及び質量分解能の向上に有効である。
【0036】
(第3項)第2項に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置では、前記イオン射出開口の長手方向の中央から発したイオンが前記周回軌道の中心軸に入射するように前記リニアイオントラップと前記周回飛行部とが互いに配置され、前記スリット部の通過開口は、前記イオン射出開口の長手方向の中央から発したイオンが通過する位置を中心に長手方向に非対称形状とすることができる。
【0037】
第3項に記載の多重周回飛行時間型質量分析装置によれば、周回軌道を形成するための扇形電場などの影響によるイオン通過条件に合わせて、効果的に、イオンを遮断することができる。それにより、イオンの損失を抑えてできるだけ高い検出感度を確保しつつ、高い質量精度及び質量分解能を実現することができる。
【符号の説明】
【0038】
1…イオン源
2…リニアイオントラップ
20…中心軸
21~24…平板状電極
211…イオン射出開口
25、26…エンドキャップ電極
251…イオン入射孔
3…周回飛行部
31…周回電極
32…入射側ゲート電極
33…出射側ゲート電極
4…検出器
5…スリット部
51…イオン通過開口
P…周回軌道